炎症性の病気と脂質栄養

Ⅳ章 増えているアレルギー、炎症性の病気と脂質栄養
増えているアレルギー、炎症性の病気と脂質栄養 詳細 ④
1 アレルギーがおこるしくみと脂肪酸の摂りかた
近年急増したアレルギー患者
過去半世紀の間にアレルギー症(Ⅰ型、Ⅳ型)の人が数倍に増えたといわれ、日本人の 3 人の
うち一人が、アトピー性疾患、喘息、花粉症など何らかのアレルギー症状を示しているようです。
アレルギー過敏症では遺伝因子の影響を無視できません。実際、国と日本アレルギー学会は、
アトピー性疾患を次のように定義しています。
【アトピー性皮膚炎】
「増悪・寛解を繰り返す、掻痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素
因を持つ」
このように定義しますと、
“体質なのだから仕方がないよ”、というあきらめの気持ちを求めて
いるようにもみえます。しかし、アトピー素因(先天性の遺伝因子)が半世紀の間に著変すると
は考えられません。半世紀前も今も、アトピー素因をもつヒトの割合は変わらないでしょう。し
かし発症率は数倍に増えたのです。半世紀という比較的、短期間に患者数が著増した原因は、主
に環境因子の変化によると考えられます。
アトピー性疾患の症状、特徴は図1のように、まとめることができます。皮膚の病気だけでは
なく、精神的な面も含んでいるようです。アトピッ子には集中力欠如―多動(ADHD)が多く見
られ、このような行動パターンの人は成人すると犯罪率が高いといわれています(Ⅱ章で説明し
ました)。
脂漏性湿疹
図1
(
(
アトピー体質
図1 アトピー体質の特徴
頭皮の皮疹
鼻詰り
●
●
口内炎・口角の皮疹(冬)
風邪を引きやすい、
低い寒暑適応能
蚊咬による痒み
冬季のカユミ
皮脂の減少
肛門周囲の湿疹・かゆみ
冷え症
アレルギー過敏症は過去
半世紀に著増した!
便通(便秘・下痢)
先進国に共通の因子がある!
半世紀という比較的短い期間にアトピー性疾患の患者が著増した原因は、一つではなさそうで
す。住環境や自然環境の変化にともない、アレルゲンが増加したことが一つの要因でしょう(図
2)。そこで、アレルゲンを除去する、あるいはアレルゲンから逃げるという対症療法が一般にと
られています。ダニを強力な真空掃除機で徹底的に取り除くとか、マスクで花粉を防ぎ花粉シー
ズンには外出を控える、などです。しかし、このような方法で根本的に解決するわけではありま
せん。
1
図2 アレルギー過敏症の増加は
先進国に共通して観察されている
図2
先天性の体質(遺伝因子)と後天
性のアレルギー過敏体質に分け
て考えることが重要(本文参照)。
住環境 (温度、湿度)
環境因子
花粉―
花粉―大気汚染
洗剤、可塑剤など
食事因子
アレルゲンの増加
食品添加物
食物アレルゲン
脂肪酸のバランス
脂肪酸のバランス
生活習慣因
子
(後天性の体質)
寒暑暴露、労作減少
身体のアレルギー
身体のアレルギー
反応性が
反応性が亢進
遺伝因子
(先天性の体質)
アレルゲンの増加のみでは説明できない現象も多くあります。たとえば東西ドイツの統一時に
東ドイツの大気汚染がひどかったのに、喘息・花粉症患者は西ドイツのほうが多かったのです。
そして統一後、東ドイツの大気汚染は改善されましたが、それに伴いその地域でのアレルギー患
者が増えています。すなわち過去半世紀に、アレルゲンの増加以外に、先進国に共通の環境因子
の変化が、身体のアレルギー反応性を亢進したと理解できます。それは“リノール酸摂取量の増
加”です。
過去半世紀の間に間違った栄養指導がおこなわれ、
“動物性脂肪の摂取をひかえ、高リノール酸
植物油の摂取を増やす”ことが勧められてきました。これが心疾患だけではなく(Ⅲ章)、アレル
ギー過敏症を増やした大きな原因だったのです。
アレルギー反応性を過敏にし、持続させるメディエーター
アレルギー反応は異物(アレルゲンや病原菌、がん細胞など)を排除するための生体防御機構
の一部です。この反応が少量のアレルゲンに対して過剰に、持続的に働くと病的となります(ア
レルギー過敏症)。
身体の免疫系はアレルゲンを認識すると IgE という抗体を産生し、アレルギー反応にかかわる
マスト細胞や好塩基球に結合してアレルゲンの再侵入に備えます。そこにアレルゲンが入ってく
るとマスト細胞などが活性化されて、化学伝達物質(メディエーター)が放出されます。このメ
ディエーターが各種のアレルギー症状をひきおこすのです(図3)。
化学伝達物質(メディエーター)にはアミノ酸由来のヒスタミンのほか、アラキドン酸由来のロイ
コトリエン B4、や C4、D4、E4、プロスタグランジン E2や D2、あるいは血小板活性化因子(PAF)
などがあります。花粉など異種(種が異なる)タンパクが体内に入ると有害ですから、涙や鼻液、
咳で体外に排出しようとします。気管支を収縮して花粉を多く吸い込まないように自衛している
と考えられます。ダニそのものも、ダニ由来のタンパクも有害ですから、カユミを記憶すること
2
によってダニのいる場所に近づかないようにする防衛機構になっていると思われます。
図3 アレルギーの仕組み
(アトピー性皮膚炎、花粉症、
喘息などに共通のメカニズム)
図3
α‐リノレン酸
α‐リノレン酸
リノール酸
抑制
説明は本文参照。
食物
ヒスタミン
ロイコトリエンC
ロイコトリエン 4、D4
IgE (抗体)
アレルゲン
(抗原)
アラキドン酸
EPA
マスト細胞
(喘息症状など)
ロイコトリエンB
ロイコトリエン 4
(鼻づまり、湿疹など)
プロスタグランジンD
プロスタグランジン 2
(気道過敏性など)
トロンボキサンA
トロンボキサン 2
(気管支収縮など)
血小板活性化因子
(気道過敏性、咳など)
このように、アレルギー反応自体は身体の防御機構ですから、適度に働く必要があります。と
ころが少量のアレルゲンでメディエーターが過剰に産生されますとこの防衛機構が持続し、アレ
ルギー過敏症の状態になります。とくにロイコトリエン C、D、E はアナフィラキシーの遅反応
性物質(SRS-A)ともよばれ、作用が持続的なのです。すなわち、リノール酸・アラキドン酸由
来のメディエーターがアレルギー反応の主役なのです。
アレルギーの薬の作用メカニズム
それでは、アレルギーの治療に使われている薬を見てみましょう。上述のようなメディエータ
ーの産生を抑える物質、メディエーターが細胞から放出される過程や、受容体への結合を阻害す
る各種の物質が、抗アレルギー薬として使われています(表1)。
ヒスタミンとロイコトリエン C は作用が似ていますが、ロイコトリエンのほうが活性は強く作
用が持続的です。そのため、気管支が収縮して喘息状態を示しているようなときは、ロイコトリ
エンのほうがより強力な作用を発揮していると考えられます。この表1にまとめられている抗ア
レルギー薬の大部分が、食用油やマヨネーズ、ドレッシング、菓子類に多いリノール酸から作ら
れるメディエーターを抑えることによって、効果を発揮しています。そしてよく使われるステロ
イド性抗炎症薬も非ステロイド性抗炎症薬も、リノール酸からメディエーターが作られる段階を
抑えることによって、効果を発揮しているのです。
このように薬の作用からアレルギーをみますと、高リノール酸食用油やそれを素材とする食品
が、アレルギー反応と深く関わっていることが分かってきます。
3
表1 アレルギー過敏症に使われる薬とそれらの作用メカニズム
ステロイド性抗炎症薬や非ステロイド性抗炎症薬のほか、抗アレルギー薬に分類されているもの
の大部分(表の青地部分)が、広い意味でリノール酸―アラキドン酸カスケードを阻害することによ
って作用を発揮している。これらの薬を使うときは、リノール酸やアラキドン酸の多い食品を控
えるという服薬指導が必要。
AA, アラキドン酸; PG, プロスタグランジン; COX, シクロオキシゲナーゼ酵素; PLA,
ホスホリパーゼ酵素; LPX, リポキシゲナーゼ酵素
表1
(青地の部分が,アラキドン酸カスケードを抑える薬)
分 類
ステロイド性
抗炎症薬
非ステロイド性
抗炎症薬
抗アレルギー薬
作 用 メカニズム
薬 品 名
商 品 名
AAの遊離抑制
PG類合成抑制
(COX2,PLA 発現抑制)
各種 ステロイド
多種
COX1,2阻害
〃
〃
〃
〃
〃
COX2阻害
サリチル酸系
アリール酢酸系
フェナム酸系
アリルプロピオン酸系
オキシカム系
ピラゾロン系
コキシブ系
アスピリン バファリン
ボルタレン インドメタシン ハイペン
ポンタール
イブプロフェン ブルフェン ロキソニン
フルカム チルコチル ロルカム
ケタゾン
セレコキシブ
ロイコトリエン(LT)抑制
リン脂質代謝阻害、LPX阻害
LPX阻害、LT遊離抑制、拮抗
拮抗
遊離抑制
LPX阻害、遊離抑制、拮抗
LT(C,D,E)受容体拮抗
遊離抑制
ペミロラスト
アゼラスチン
塩酸エピナスチン
フマル酸ケトチフェン
オキサトミド
プランルカスト
トラニラスト
アレギサール ペミラストン
アゼプチン
アレジオン
ザジデン
セルテクト アデコック オキサトミド
オノン
リザベン
トロンボキサン(TX)抑制
TXA2合成酵素阻害
TXA2受容体拮抗
TXA2受容体拮抗
塩酸オザグレル
セラトロダスト
ラマトロバン
ベガ ドメナン
ブロニカ
バイナス
血小板活性化因子遊離抑制
ペミロラスト
タザノラスト
アレギサール ペミラストン
タザノール タザレスト
抗ヒスタミン
多種抗ヒスタミン薬
多種
脱顆粒抑制
クロモグリク酸Na
インタール
リノール酸(ω6)摂取過剰によるアレルギー過敏症は、α-リノレン酸(ω3)群が抑制
摂取油脂のリノール酸(ω6)系が多くα-リノレン酸(ω3)系脂肪酸が少ないと、マスト細胞
や好酸球など免疫に関わる細胞のリン脂質がアラキドン酸で満たされます。するとアラキドン酸
4
由来のメディエーターが過剰に産生されてアレルギー過敏症となるのです。α-リノレン酸から作
られる EPA からもメディエーターは作られますが、一般にアラキドン酸より作られにくく、また
作られても活性が弱いのです(ロイコトリエンなど)。そして、リノール酸→アラキドン酸→化学
伝達物質(メディエーター)→受容体→アレルギー反応、という過程(リノール酸―アラキドン
酸カスケードと呼びます)を、α-リノレン酸系は競合的に抑えることができるのです。とくに
EPA はアラキドン酸代謝をよく抑えます(ω6 系とω3 系については、Ⅰ章で説明)
。したがって、
食品の油脂を選んで脂肪酸のω6/ω3 比を下げますと、免疫細胞のアラキドン酸/EPA の比が下が
り、身体のアレルギー反応性を抑えることができるのです。
一方、免疫反応にはアラキドン酸から作られるメディエーターのほかに、タンパク質(ペプチ
ド)性の炎症メディエーターが深く関わっています。これらが増えるとリノール酸系のメディエ
ーターが増えますが、逆にω6/ω3 比をさげますとペプチド性メディエーターの産生やそれらの受
容体の増加も抑えられます(論理的根拠)。
摂取脂肪酸のω6/ω3 比を下げることにより産生が抑えられるペプチド性メディエーターには、
IL-1, IL-2, IL-4, IL-6, TNF やその受容体(IL-2R)などがあります。
このような観点から、アレルギー過敏症の体質(後天的)を改善するためには、(1)EPA や
DHA の多い魚油(海産物)の摂取を増やすこと、魚嫌いの人は魚油サプリメントなどで補給する
こと、
(2)高リノール酸系食用油の代わりにα-リノレン酸の多いシソ(エゴマ)油、亜麻仁(フ
ラックス)油などの摂取を増やすこと、の両方が必要とされます。
ω6 系とω3 系の脂肪酸バランスが大切
ω6 系脂肪酸とω3 系脂肪酸の競合関係は、動物実験(ネズミやブタ)のみならず、臨床的にも示
されています。両者は多くの酵素や受容体の段階で競合的であるため、両者の摂取量とともにバ
ランス(ω6/ω3 比)が重要となります。リノール酸―アラキドン酸カスケードの抑制を期待してω
3 系脂肪酸の摂取を増やすとき、同時にω6 系脂肪酸の摂取を減らすことが重要なのです。そして、
リノール酸―アラキドン酸カスケードを抑える薬(動脈硬化の薬、EPA エステルなど)を使うと
きは、リノール酸やアラキドン酸(ω6)の多い食品は禁忌です。このことは医療の現場では服薬指
導として重要なことがらです。
2 食事を楽しみながら体質改善
食事を楽しみながら体質改善
アレルギーの先天的体質と後天的体質
アレルゲンが体内に入ってきて身体がアレルギー反応を示すまでには、多くの過程(タンパク
質そして遺伝子)が関わっています。この過程のどれかが過剰に反応する人は、アレルギー過敏
症の素因を持っていることになります。このような素因を先天的アレルギー体質とよびましょう。
実際、ロイコトリエン合成に関わる酵素(5-リポキシゲナーゼ)の遺伝子の数は人により異なり、
1 個の人から 5 個も持っている人もいます。しかし前述のように、このような先天的体質(遺伝子
DNA に組み込まれた情報)は半世紀という短期間では、著しく変化することはないでしょう。
一方、リノール酸の摂取が多くα-リノレン酸(ω6)系の摂取が少ない人では、免疫細胞のア
ラキドン酸/EPA の比が上がり、少量のアレルゲンで多量のメディエーターが産生されるようにな
ります。このような食事因子によるアレルギー反応性の亢進を、後天的アレルギー体質と呼んで
います。先天的体質を安全に変えることはできませんが、後天的体質は安全に変えられます。半
世紀前の食事油脂に戻すことなのです。てんぷらや揚げ物、油脂食品の多い現在の“てんぷら(偽
物)”日本食から、てんぷら、フライ、マヨネーズなど、リノール酸の多い食品、調味料を減らす
ことなのです。
半世紀前の食事では、脂質のエネルギー比率(総エネルギーの中で脂質由来のエネルギーの占
める割合)が 10%以下でした。現在では 25%を越えています。脂肪の多い食事に慣れさせられた
現在の若者たちにとっては、このような低脂肪食を楽しみながら続けることが難しいでしょう。
5
そこで、現在の食環境に合わせたアレルギー体質改善法の主点は、“高リノール酸(ω6)油食を高
α-リノレン酸(ω3)食に置き換える”ことなのです。これなら、食事を楽しみながら体質改善がで
きます。
動物実験の結果や薬の作用メカニズム、疫学的な考察に基づいて、摂取油脂のω6/ω3 比を下げ
ることによるアトピー性疾患の治療効果を調べることにしました。
【臨床研究】アトピーの伝統和食療法の効果
ω6/ω3 比を下げることを目的とした 1 年間の介入試験を行うことにしました。患者は下関
市立中央市民病院小児科(永田良隆部長)受診のアトピー患者でした。リノール酸の多い食用油、
マヨネーズ、菓子類を除去し、食用油としてはシソ(エゴマ)油のみを勧めました。魚介類の摂
取を推奨し、肉類を少なくする食事指導も行いました。
空腹時の血清脂肪酸を半年ごとに分析し(名市大・薬)
、それに基づいてω6/ω3 比を下げる食
事指導を行いました(病院)。ステロイド軟こうは、徐々に効力の弱いものに変え、試験開始 3 ヶ
月後を目処に中止するよう指導しました。アトピー性皮膚炎の重症度(ADASI、Atopic Dermatitis
Area and Severity Index)を文献に基づきスコア化しました。血清 IgE のレベル、好酸球数、そ
の他の血液指標などは、病院での常法により測定しました。1年間の追跡の間、血液指標(血液
凝固能、中性脂肪、コレステロール値など)で問題となる変化は認められませんでした。
図4 ω6/ω3 比を下げることによるアトピー性皮膚炎の治療―伝統和食療法 1 年の結果
(Kato M ら、J Health Sci 2000; 46:241)
対象は下関市立中央市民病院通院・入院患者。高リノール酸食品を除去し、シソ(エゴマ)油、魚
介類の摂取増を勧める伝統和食療法の結果。どの年齢層でも顕著な皮膚炎の改善効果が認められ
たが、高年齢層での効果が弱かった。
図4
アトピ ー 性 皮 膚 炎 面 積 重 症 度 指 標
70
開始時;
6ヵ月後;
12ヵ月後
60
50
40
30
** **
20
10
**
**
** **
**
**
**
**
0
0-2歳
3-6歳
(n=39)
(n=11)
歳 女、 ≥16歳
歳
7-15歳 男、≥16歳
(n=11)
(n=7)
(n=9)
患者群別
6
6 ヵ月後、12 ヵ月後の皮膚炎面積重症度指標は、いずれの患者群でも有意に改善しましたが、
成人(16 歳以上)の場合は、指標は乳幼児ほど低下しませんでした。身体のリノール酸の貯蔵量が
大きいこと、食事管理が不十分であることなどが原因として考えられます(図4)。
ところが、もう一つの指標である血清 IgE のレベルには、有意な変化は認められませんでした。
IgE は一般にマスト細胞などへ結合している型(結合型 IgE)が重要視されていますが、遊離
型の IgE がアレルゲンの中和に働いている可能性があります。食事療法にもかかわらず血清 IgE
のレベルが高いままであることは、体内に侵入するアレルゲンが減少していないことを示してい
るのかもしれません。
血清脂肪酸組成は個体差が大きいのですが、平均値としてみますとリノール酸(ω6)系の顕著
な変化は認められませんでした。これに対し、ω3 系の EPA と DHA のレベルは有意に上がりま
した(表2)。
右端の参考値は、同様の食事療法を 10 年以上続けている成人のデータです。対象者 2 年目のデ
ータと比較して、この成人のリノール酸レベルは少し低く、EPA と DHA のレベルは高く、ω6/
ω3 比はかなり低い値(1.8)となっています。
現在の食環境で、食事を楽しみながら、このレベルにまでは下げられるのです。
表2 伝統和食療法―血清脂肪酸の変化
患者 38 名の血清脂肪酸組成(%)の平均値。記号 a,b は統計的な有意差を示し、異なる記号をつ
けたものは有意な差があることを示す。
表2
38名の平均
脂肪酸
飽和脂肪酸
一価不飽和脂肪酸
ω6 系
リノール酸
DGLA
アラキドン酸
ω3 系
α- リノレン酸
EPA
DHA
ω6 / ω3
開始時
1年目
年目
32.2
26.3
32.5
21.5
32.2
21.5
24.9
1.2
5.2
24.2
1.0
5.8 a
22.7
0.9
5.6
0.8
1.5
3.7
1.0
3.3
6.3 a
1.1
7.6
7.2
3.6 a
1.8
6.5 ±
5.0
参考
DGLA,ジホモγ-リノレン酸; EPA、エイコサペンタエン酸;DHA、ドコサヘキサエン酸
7
この臨床研究は、通常の治療の一環として行われたものですが、一つの短所があります。
一般的には、対象者をランダムに 2 群にわけ、一方には目的とする食事療法を勧め、対照群に
はリノール酸/α-リノレン酸比の高い通常の食事をしてもらう計画を立てます。薬の場合には偽薬
を作り、患者も医師も薬と偽薬のどちらを服用しているか分からないようにする二重盲検法が一
般的です。
しかし、このアトピー体質改善の食事療法では、コントロールを設定されませんでした。各種
の抗アレルギー薬の作用機構を考えるとき、臨床の場であらかじめ対照群を設定することは倫理
的にできなかったのです。とくに、一般の医療では完治しなかったアトピー患者が、遠くからこ
の病院に集まってきている現状にかんがみても、対照群を設定することはできませんでした。
各種の測定した指標の中で、皮膚炎面積重症度指数(ADASI)は評価の客観性に劣る面がある
ことは否めません。しかし好酸球数は客観的な指標であり、血清脂肪酸のω6/ω3 比の低下と平行
して好酸球数が減少することは、アレルギー炎症が抑えられていることを示しています。
3 喘息にも効果的なシソ(エゴマ)油食
喘息症状をおこす物質(メディエーター)はロイコトリエンやプロスタグランジン D2、血小板活
性化因子など、リノール酸―アラキドン酸カスケードの産物あるいは関連する物質です。そこで、
アトピーと同じような食事療法が有効だと考えられます。母親の喘息体質は子どもの喘息発症率
を上げますが、魚の摂取量が多いほど子の喘息発症が抑えられます(南カリフォルニアの調査、
Salam MT ら、J Asthma 2005; 42:513)。このとき、フライ魚を食べている母親では、子の喘息
が増えています。
【臨床研究】喘息治療におけるシソ(エゴマ)油の有効性
岡山大学三朝(ミササ)分院に入院中の重症の喘息患者(14 名、薬物治療中)が、コーン油かあ
るいはシソ(エゴマ)油で作ったマヨネーズ、ドレッシングを 4 週間摂取しました(10~20g/日)。
好酸球などの白血球分画を刺激したときに産生されるロイコトリエン B4 と C4 は、コーン油群で
(図 6)
。
上昇し、シソ(エゴマ)油群で低下する傾向が見られました(2 週時点では統計的に有意)
図 6 重症喘息患者に
対するコーン油(ω6
系)とシソ(エゴマ)油
(ω3 系)の効果
Okamoto A ら、Intern
Med 2000; 39:107)
説明は本文参照。
図5
経口 テオフィリン、吸入βアゴニスト、吸入ステロイド治療中
180
160
白血球産生能
肺換気能指標
140
変化量 、
120
*
*
100
80
コーン油群 (n=7)
シソ油群 (n=7)
%
マヨネーズ、ドレッシ
ングとして4週間摂
取 (10~20g/日)
60
40
20
1
最大呼気肺活量
( 秒間)
C4
最大肺活量
ロイ コトリ エン
B4
ピー ク呼 気 流 量
ロイ コトリ エン
0
8
肺換気能を比較しますと、最大肺活量も 1 秒間の最大呼気肺活量もともに、シソ(エゴマ)油
群のほうがコーン油群より上がっていました。コーン油群のこれらのパラメーターは 4 週後も変
化しませんでした。
比較的短期間の治療効果ですが、アトピー性皮膚炎患者と同様に喘息患者に対しても、シソ(エ
ゴマ)油が好ましい食用油であることが示されました。アラキドン酸由来のプロスタグランジン
やロイコトリエン、血小板活性化因子、トロンボキサンなどが喘息をひきおこすからです。
4 肺炎もアレルギー性―高まる死亡率を抑えるには
第二次大戦後、結核とともに肺炎による死亡率は急速に低下しました。ところが、結核死亡率
は現在に至るも本質的に低いままですが、肺炎による死亡率は 1970 年頃より増え始め、現在で
は死亡率の第 4 位となっています。この肺炎は病原菌や栄養不良が原因ではなく、アレルギー・
炎症性の肺炎が主であると思われます。慢性閉塞性肺疾患(COPD)という病気もアレルギー・
炎症性であると思われます。この病気に、シソ(エゴマ)油を加えてω6/ω3 比を 3 まで下げた医療
用流動食が有効であったと報告されました。
慢性閉塞性肺炎症状を示す患者にこの流動食を使いますと、従来の流動食に比べて血清脂質の
アラキドン酸が減り EPA が増えました。それにともなって、炎症メディエーターのレベルも下が
り、肺機能の改善が認められたのです。
肺の炎症にもリノール酸―アラキドン酸カスケードが関わっており、気道過敏症を起こす物質
(血小板活性化因子やロイコトリエン、プロスタグランジン D2 など)が多量に作られることが、そ
の原因になっていると思われます。炎症が続くと発癌が促進されますが、1970 年以降のわが国で
は、肺炎死亡率の増加にともなって喫煙と関係の低い肺腺癌が増えています。高リノール酸油が
肺腺癌の促進因子となっていることは、動物実験でも示されているのです。
以上のように、リノール酸(ω6)/α-リノレン酸(ω3)比が 1/4 以下のシソ(エゴマ)油やシ
ソ(エゴマ)油添加流動食が、アトピー性皮膚炎、喘息、炎症性腸疾患などの予防(治療)に有用であ
ることを示す臨床試験の結果が増えつつあります。
9