2016.10 この授業のための準備 このプリントの内容は後々何度でも使うことばかりであり,それを使いこなせなけ れば今後の授業は全く理解できなくなる。よって,このプリントの内容をすべて完 全に理解し,覚えておくことが必要である。 この授業で使用する略記号 略記号 綴り 日本語訳 Def Definition お約束 Th Theorem 非常に重要な性質 Prop Proposition 定理ほどではないが,重要な性質 Cor Corollary 定理や命題から直ちに導かれる重要な性質 Lem Lemma 定理などの証明で使用される補助的な性質 Rem Remark 注 注意 Ex Example 例 例,例題 ex exercise 練習 練習,練習問題 e.g. exemplı̄ grātiā ラテン語[英語では “for example”] i.e. id est ラテン語[英語では “that is”] cf. confer ラテン語[英語では “compare”] ⇒ implies ならば “If ..., then ...” とも読む。 ⇔ is equivalent to 同値 “if and only if” とも読む。 ∴ therefore 故に ∵ because なぜならば Def 「もの」の集まりを 意味・注釈 「証明」という意味に使うこともある。 という。ただし,ある「もの」がその集合に入っているか 否かが明確に(客観的に)判断できなくてはならない。 「もの」x が集合 X に入っている場合, xはX の であるといい, Rem 「美人の集まり」は集合で あるいは と表す。 。 集合の表し方 • すべての元を “ , ” を挟んで列挙し, “ { ” と “ } ” で括る。 Ex. {1, 3, 4, 6, 8, 10, 12}, {1, 3, 5, 7, 9, . . .} • { x | P (x) } = 性質 P (x) を満たすような x をすべて集めて得られる集合 Ex. { x | x は実数で,かつ x2 ≤ 4 } 1 • { x ∈ X | P (x) } = { x | x ∈ X かつ P (x) } Ex. { x ∈ R | x2 ≤ 4 } • その他にもいろいろなバリエーションがある。 Rem { x | P (x) } という記号において,x という記号の名前自体に意味があるのではない。x というのは,ただ単に「他の物と区別するために便宜的につけた名前」に過ぎない。よって,例 えば, {x|x ≥ 5} = {y|y ≥ 5} = {に|に ≥ 5} = {☆|☆ ≥ 5} である。 Rem 「 y ∈ { x | P (x) } 」という主張は, 「 」ということと同 値である。x や y という記号の違いに惑わされてはいけない。例えば, 「 y ∈ { x | x2 = 4 } 」と いう主張は, 「 」という主張と同値である。 Rem 集合と元とを厳密に区別するように!例えば,5 は「5 という数そのもの」であるが, {5} は「5 という1つの数からなる集合」である。 Rem 「もの・集合」と「性質・主張」とを混同しないように! 例えば,“2” は「もの」であ るが,“2 > 1” は, 「2 は 1 より大きい」という「性質・主張」である。なお,“x ∈ X” という 記号は, 「X の元 x」という「もの」を表す場合もあるし, 「x は X の元である」という「性質・ 主張」を表す場合もあるので,その何れであるかということを文脈から判断する必要がある。 代表的な集合をあらわす記号 N= 全体 = {1, 2, 3, · · · } Z= 全体 = {· · · , −2, −1, 0, 1, 2, · · · } R= 全体 C= 全体 = {x + iy | x, y ∈ R} (但し,i2 = −1 : 虚数単位) 全称記号と存在記号 • ∀···「 」という意味。(英語では,“ for all ” or “ for any ”) e.g. 「 ∀x ∈ R : x2 ≥ 0 」という文は, 「 For all x ∈ R, x2 ≥ 0. 」,つまり, 「 • ∃···「 x ∈ R に対して,x2 ≥ 0 である。」という意味。 」という意味。(英語では,“ there exists ” ) 2 e.g. 「 ∃x ∈ R : x2 = 4 」という文は, 「 There exists x ∈ R such that x2 = 4.」, つまり, 「 x2 = 4 を満たすような x ∈ R が 。」という意味。 Def X, Y を集合とする。 • X ⊂ Y (X は Y の )⇔「∀x ∈ X : x ∈ Y 」⇔「∀x : (x ∈ X ⇒ x ∈ Y )」 • X⊃Y ⇔ Y ⊂X • X = Y (X と Y とは同じ集合) ⇔「X ⊂ Y かつ Y ⊂ X 」⇔「∀x : (x ∈ X ⇔ x ∈ Y )」 • X ⊊ Y ⇔「X ⊂ Y かつ X ̸= Y 」 • X ∪ Y = { x | x ∈ X または x ∈ Y }(X と Y の ) • X ∩ Y = { x | x ∈ X かつ x ∈ Y }(X と Y の ) • X \ Y = { x | x ∈ X かつ x ∈ / Y }(X と Y の ) Rem • x ∈ X ∪ Y ⇔ (x ∈ X または x ∈ Y ) • x ∈ X ∩ Y ⇔ (x ∈ X かつ x ∈ Y ) Rem (我々の立場では)X ⊂ Y は,X = Y の場合も 含む。 Rem “ ∈ ” と “ ⊂ ” とを混同しないこと。同様に,“ ∋ ” と “ ⊃ ” とを混同しないこと。ま た,左右を間違えないように! ex X を2の倍数全体,Y を3の倍数全体,Z を6の倍数全体とするとき,X ∩ Y = Z であ ることを証明せよ。 写像 X, Y を集合とする。このとき,X から Y への写像を次のように定義する。 Def X の元に対して Y の元を対応させる「対応」が, 1. X の x に対して, 2. Y の元が(x に応じて) 対応する。 3 という条件を満たすとき,この対応のことを,X から Y への という。この対応を f と名付けるとき,f : X → Y のように表す。また,このとき,x ∈ X に対応する Y の元を f (x) と表す。以上の状況をまとめて, f : X ∋ x 7→ f (x) ∈ Y f: X → Y ∈ ∈ あるいは, x 7→ f (x) のように表すこともある。 Rem Y ⊂ R または Y ⊂ C のとき,写像 f : X → Y のことを「関数」と呼ぶ場合がある。 Rem 写像というのは, 「何処から,何処への,どんな対応か?」という「3点セット」である。 このうちの1つでも抜けていれば,写像を決めたことにはならない。例えば, 「写像 f (x) = x2 は. . . 」という記述は, 「どんな対応か?」を述べているだけであり, 「何処から,何処への」を指 定していなので,写像を指定したことにはならない。 ex X をこのクラスの♂全体とし,Y をこのクラスの♀全体とする。x ∈ X に対して, 「x の カノジョ」を対応させる対応を考える。 1. この対応は,写像であるか?否か? 2. 写像でない場合,どのように修正すれば,写像に出来るか? Def 写像 f : X → Y に対して, • X をf の という。 • A ⊂ X に対して, f (A) = {y ∈ Y | ∃x ∈ A s.t. f (x) = y} のことを,A の f による という。 • 特に,f (X) = {y ∈ Y | ∃x ∈ X s.t. f (x) = y} のことを,f の • B ⊂ Y に対して, f −1 (B) = {x ∈ X | f (x) ∈ B} のことを,B の f による という。 Rem 写像 f : X → Y と,A ⊂ X ,B ⊂ Y に対して, 4 という。 • y ∈ f (A) ⇔ • x ∈ f −1 (B) ⇔ Rem 写像 f : X → Y について,f (A) と書いてあれば,A が X の 部分集合であることを暗 黙のうちに仮定していることになる。また,f −1 (B) と書いてあれば,B が Y の 部分集合で あることを暗黙のうちに仮定していることになる。なお,方向(X から Y 方向なのか?それ とも,Y から X 方向なのか?)に注意すること。 ex 次は正しいか否か。 • f (x) ∈ f (A) ⇒ x ∈ A • x ∈ f −1 (B) ⇒ f (x) ∈ B Rem y ∈ Y について,教科書では f −1 ({y}) のことを f −1 (y) と略記しているが,この授業 では,逆写像(後述)との混同を避けるために,これらを 厳密に区別して用いる ことにする。 Def f : X → Y が次を満たす時,f は 単射, injective, 1対1の写像 であるという。 この条件は,次のいずれとも同値である。 • x ̸= y ⇒ f (x) ̸= f (y) • ∀y ∈ Y : f −1 ({y}) は1個 以下 の元からなる。 Def f : X → Y が次を満たす時,f は 全射, surjective, 上への写像 であるという。 この条件は,次のいずれとも同値である。 • f (X) = Y • ∀y ∈ Y : f −1 ({y}) は1個 以上 の元からなる。 ex 単射性と全射性とは全く無関係な性質である。次を満たすような例を各々作れ。特に, f : X → X を満たすような例を各々作れ。 1. 単射かつ全射の写像。 2. 単射だが,全射ではない写像。 5 3. 全射だが,単射ではない写像。 4. 単射でも全射でもない写像。 Def f : X → Y が単射かつ全射のとき,f は , であるという。こ の条件は,次のいずれとも同値である。 • ∀y ∈ Y : f −1 ({y}) はちょうど1個の元からなる。 • ∀y ∈ Y : y = f (x) をみたす x ∈ X がただ1つ存在する。 Def f : X → Y が の時, 1. Y の 任意の元 y に対して, 2. y = f (x) となる x ∈ X が ただ一つ 対応する。 すなわち,Y から X への写像が与えられたことになる。この写像を f の といい, f −1 と表す。 Rem • f の逆写像は,f が の場合にのみ 定義できる。 • 「逆像」と「逆写像」は,似てはいるが,別物である。どこが似ていて,どこが違うの か,すべての相似点・相違点を列挙してみよ。 • f : X → Y が全単射でない場合にも,f の定義域や Y を小さくとりなおすことにより, 「部分的な」逆写像を考えることは可能である。ただし,その場合には,どのようにとり なおしたかを明記しなくてはならない。 (cf. 解析学で,sin,cos,tan の逆関数をどのよ うに定義したかを思い出すこと。) Def f, g : X → Y について, 「∀x ∈ X : f (x) = g(x)」が成立するとき,f と g とは同一の写 像であるとみなし,f = g と表す。 Ex 写像 f, g : R → R を以下の様に定義する: x (x ≥ 0 のとき) √ f (x) = , g(x) = x2 −x (x < 0 のとき) このとき,f の定義と g の定義は全く別物であるが, 「∀x ∈ R : f (x) = g(x)」が成立するの で,写像としては f = g である。 Def 集合 X において, 「x ∈ X に対して,x 自身を対応させる」という,X から X への写像 と言い,idX : X → X と表す。(つまり, を考えることが出来る。これを X の idX : X ∋ x 7→ x ∈ X 。あるいは, 「任意の x ∈ X について,idX (x) = x」。) 6 Rem 文脈から明らかな場合は, X を省略して,単に id と書くこともある。 ex 写像 f : X → X に対し,次の3条件はすべて相異なる(同値でない)性質を表している。 その違いを具体的な例を挙げて説明せよ。 1. f : X → X は bijective である。 2. f : X → X は id である。 3. f (X) = X. Def 写像 f : X → Y, g : Y → Z に対して, 「 x ∈ X に対して g(f (x)) ∈ Z を対応させる」 という対応が考えられる。この対応は,X から Z への写像となる。この写像を,f と g の といい,g ◦ f : X → Z と記す。 Rem (g ◦ f )(x) = g(f (x)) for x ∈ X である。 Th 写像 f : X → Y, g : Y → Z に対して, • f, g が共に単射ならば,g ◦ f も単射である。 • f, g が共に全射ならば,g ◦ f も全射である。 • g ◦ f が単射ならば,f も単射である。 • g ◦ f が全射ならば,g も全射である。 Rem 上の定理の主張のバリエーションを多数考えることができる。たとえば, 「g ◦ f が全射で,かつ,g が単射ならば,f は全射である」という命題が正しいか 否かを判断せよ。(正しい場合はそれを証明し,間違っている場合は反例を示せ。) Th 写像 f : X → Y に対して,次は同値: 1. f は全単射である。 2. g ◦ f = idX かつ f ◦ g = idY を満たす写像 g : Y → X が存在する。 7
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