階級の異なるボディビルダーの減量期における形態指標の変化 キーワード:体重,周径囲,皮下脂肪厚,体脂肪率,筋量 人間環境学府 行動システム専攻 健康行動学コース 明 昕 これらの被験者は 2 年以上のボディビルトレーニング経 背景と目的 体重階級制のあるスポーツ競技においては、競技者は 験があり、少なくとも 1 回の競技大会参加歴があった。 減量を行って競技会へ参加することが一般的である。ボ ディビル競技においても、選手は競技会の 2~4 ヶ月前か ら減量を行う場合が多い。ボディビルダーの減量につい て、欧米を中心に研究が散見される。減量に伴う形態変 化についても報告がある(表 1.)が、被験者数が 1~6 名 表 2.各階級の減量前の身体特徴の平均値 階級 60kg 級 65kg 級 70kg 級 年齢(歳) 28±3 29±4 28±4 身長(cm) 165±2 167±2 171±2 体重(kg) 67.9±1.0 71.0±0.9 77.5±0.8 で、対象人数が十分であるとは言い難い。また減量前の 体重も重量級が対象、あるいはひとつの階級のみしか扱 2)測定時期 っていない、というのが現状である。階級の違うボディ 測定は、2011 年 7 月~9 月の 2 か月間行った。試合開 ビルダーがどのような減量経過をとるかは明らかになっ 始の約 10 週間前(減量前) 、その後、2 週間目、4 週間 ていない。 目、6 週間目、8 週間目の計 5 回にわたって体重、5 カ所 の周径囲および 6 カ所の皮下脂肪厚を測定した、また体 表 1. 減量期における形態指標の変化に関する先行研究 脂肪率を 4 週間毎、すなわち減量前、4 週間目、8 週間 著 者 目 的 対 象 項 目 Sandoval 身体組成の 男 性 : 5 名 (82.2 ± 体重、体脂肪率、皮下 et.al. 男女差の検 9.7kg) 、女性:5 名 脂肪厚(5 ヵ所) (1989) 討 (52.5±3.1kg) Bamman 身体組成お エリート選手:6 名(91.0 体重、体脂肪率、皮下 et.al. よび体力の ±4.4kg) 脂肪厚(7 ヵ所)と周 (1993) 変化 Withers エリート選 エリート選手:3 名 体重、体脂肪率、皮下 et.al. 手の身体組 (99.70±8.36kg) 脂肪厚(8 ヵ所)と周 (1997) 成の変化 服 部 ら 摂取と身体 学生選手:4 名 体重、除脂肪体重、栄 (1993) 組成の変化 (77.8±5.2kg) 養摂取 Too et.al. 身体組成の 15 年経験者:1 名 体重、皮下脂肪厚(4 (1998) 変化の検討 (76.3kg) ヵ所) Van der 女性の選手 女性:5 名 体重、皮下脂肪厚(8 筋部、上腕二頭筋部、肩甲骨下角部、腹部、大腿部を、 Ploeg et . の身体組成 (66.38±6.30kg) カ所)、周径囲(8 カ 0.1cm 単位で 3 回測定し、平均値を算出した。 al(2001) の変化 径囲(6 ヵ所) 径囲(7 ヵ所) 所) 本研究では、アジア選手に多い軽量級の 3 つの階級の 選手を対象に、階級の違いによって減量の程度に差異が あるかどうか明らかにするとともに、減量に伴い形態指 標がどのように変化するかを検討することを目的とした。 方 法 1)被験者 2011 年の四川省ボディビル選手権大会の 60kg 級、 65kg 級、70kg 級に出場を予定している年齢が 23~36 歳の選手、それぞれ 6 名、計 18 名を対象とした(表 2.) 。 目の 3 回測定した。いずれも測定日のトレーニング開始 前に測定した。 3)測定項目と方法 a. 身長:スタンド型身長計を用い減量前に 1cm 単位で 測定した。 b. 体重:デジタル体重計を用い 0.1kg 単位で測定した。 c. 周径囲:スチール製巻尺を用い胸囲、ウェスト囲、上 腕囲、大腿囲、下腿囲を 0.1cm 単位で測定した。 d. 皮下脂肪厚:栄研式皮脂厚計を用い胸部、上腕三頭 e. 体脂肪率:体組成バランス計(パナソニック社、 EW-FA71 型)による生体電気抵抗法(BIA)で測定し た。また、上腕三頭筋部と肩甲骨下角部の皮下脂肪厚 から、Nagamine と Suzuki の推定式(1964)を用い た体脂肪率の推定も行った。 4)統計処理 全てのデータは表計算ソフト Microsoft 社の Excel に 入力し、処理した。各項目のデータについて、毎回測定 の変化率や平均値、標準偏差値、最大値、最小値などを 算出した。以下の値は、全て平均値±標準偏差で示した。 階級間および測定時間の値の差の検定には、統計解析ソ フト SPSS for Windows(19.0J)を用いて、二元配置分差 2)周径囲 3 つの階級ともウェスト囲が最も減少し(図 2.) 、減量 開始 8 週間目には 60kg 級が 4.6cm、65kg 級が 2.4cm、 分析を行った。有意水準は p<0.05 とした。 70kg 級が 1.5cm の減少となった (p<0.01) (p<0.001) 。 次いで上腕囲の減少が大きく、減量開始 8 週間後には 結 果 1)体重 60kg 級が 0.6cm、65kg 級が 0.3cm、70kg 級が 0.3cm 表 3 に示すように、各階級の平均体重は減量開始 2 週 間後には減量前に比べて有意に減少した(p<0.01) の減少となった(p<0.01~0.001)、胸囲、大腿囲、下腿 囲は有意な変化を示さなかった。 (p<0.001) 。減量開始 8 週間目には 60kg 階級が平均で 5.2±0.6kg、 65kg 級が 4.9±0.4kg、 70kg 級が 5.4±0.4kg の減少となった(いずれも p<0.001) 。また BIA 法と皮 下脂肪厚法による算出した除脂肪体重は、BIA 法では 60kg 級が 3.3kg(5.5%) 、65kg 級が 2.1kg(3.3%) 、70kg 級が 2.3kg(3.6%)の減少であった。皮下脂肪厚法での 減少は 60kg 級が 3.3kg (5.8%) 、 65kg 級が 2.9kg (4.8%) 、 70kg 級が 3.3kg(5.0%)であった。 表 3. ボディビルダーの減量中の体重(kg)の平均値±標準偏差 2wk 4wk 6wk 8wk 67.9±1.0 67.0±0.8** 65.9±0.7*** 64.7±0.5*** 62.7±0.6*** 71.0±0.9 70.0±0.9*** 68.8±0.8*** 67.6±0.6*** 66.1±0.4*** 77.5±0.8 76.4±0.6*** 75.2±0.5*** 73.8±0.3*** 72.1±0.4*** 階級 減量前 60kg 65kg 70kg 減量前と比較した有意差, **:p<0.01, ***p<0.001 各階級の相対値を比較すると、3 つの階級の平均減少 率は、減量の経過とともにほぼ直線的に増加していき、 最終的には、 60kg 級が 7.6±1.4%、 65kg 級が 6.8±1.2%、 70kg 級が 7.0±0.2%の減少率であった。各階級の減少 率は、どの測定時点でもほぼ同様であり、階級間の減 少率に差異は認められなかった(図 1.) 。 図 2. 8 週間目の周径囲の絶対値の変化 減量開始 8 週間目に減少率から階級を比較すると、ウ ェスト囲において、 60kg 級は他の階級より有意に大きか った(p<0.001) 。また上腕囲も、60kg 級が他の階級よ り有意に大きかった(p<0.01~p<0.001) 。別の部位には 階級間の差が認めらかった。 3)皮下脂肪厚 減量開始 8 週間目に各階級とも腹部の減少が一番大き く、60kg 級と 65kg 級は減量開始 2 週間後、70kg 級は 減少開始 4 週間後には減量前に比べ有意に減少し、減量 開始 8 週間目 (図 3.) には平均で 60kg 級が 3.2mm、 65kg 級が 3.0mm、70kg 級が 3.2mm の減少となった(いず れも p<0.001) 。次いで上腕三頭筋の減少が大きく減量開 始 8 週間目には 60kg 級が平均で 2.0mm、65kg 級が 2.2mm、70kg 級が 2.1mm の減少となった(いずれも p<0.001) 。 上腕二頭筋の減少が最小であり、減量開始 8 週間目に 図 1. 各階級の体重の減少率の推移 は平均で 60kg 級が 0.4mm、65kg 級が 0.6mm、70kg 。各階級 級が 0.3mm の減少であった(p<0.05~p<0.01) とも他の胸部、肩甲骨下角部と大腿部も有意に減少した (いずれも p<0.001)。 各階級間の相対値を比べると、BIA 法による減少率は 減量の経過とともにほぼ直線的に増加した。減量 8 週間 目には、60kg 級が 20.1±3.6%、65kg が 29.1±2.6%、 70kg が 31.0±0.2%の減少率であった。65kg 級と 70kg 級の減少率は、どの測定時点でもほぼ同様であり、有意 差が認められなかった。しかし、60kg 級は、他の階級と 比較して、4 週間目と 8 週間目で減少率が有意に小さか った(p<0.001) 。皮下脂肪厚法による減少率も減量の経 過に直線的に増加した。減量 8 週間目には、60kg 級が 11.0%、65kg が 11.5%、70kg が 11.7%の減少率であっ た。どの測定時点でもほぼ同様であり、階級間の減少率 に差異は認められなかった。BIA 法による体脂肪率の減 少および減少率は、皮下脂肪厚法による体脂肪率の減少 および減少率より大きかった。 図 3. 8 週間目の皮下脂肪厚の絶対値の変化 考 察 相対値による階級間を比較すると、胸部皮下脂肪厚の 本研究の 3 つの階級で体重の減少は、ほぼ同程度であ 減少率は、60kg 級が 65kg 級と 70kg 級より有意に大き り、絶対値でみると、先行研究の範囲内にある。また減 かった(p<0.05~p<0.01) 。また 65kg 級の大腿部の減少 量前後の減少率も 7%程度で先行研究の報告値と近似し 率は他の 2 つの階級より有意に小さかった(p<0.001) 。 ていた。このことから、体重の減少は、階級制と関係な 他の部位には、各階級間は有意差が認められなかった。 いと考えられた。 ウェスト囲の減少が他の部位に比べて最も大きく、先 4)体脂肪率 行研究の結果と一致した。 またウェスト囲と上腕囲には、 体脂肪率の 2 つの算出方法の間には、減量前に体脂肪 減量 8 週間目に 60kg 級の減少が他の階級より有意に大 率が約 3.9~4.1%異なっていた(表 4 および表 5) 。2 つ きかった。被験地の四川省の人々は体格が小さく、軽量 の方法とも、各階級の平均体脂肪率は減量開始 4 週後に 級のボディビルダーは中量級と重量級のボディビルダー は減量前に比較して有意に減少し(p<0.01、p<0.001)、 より多く存在する。中国全土でみると、四川省の軽量級 減量開始 8 週間後には BIA 法で 60kg 級が絶対値で 2.2%、 のレベルは入賞者を出すなど一定のレベルにあるが、中 65kg 級が 3.3%、70kg 級が 3.5%の減少となった(いず 量級と重量級では入賞レベルにない。このような競技レ れも p<0.001) 。また皮下脂肪厚法では 60kg 級が絶対値 ベルの差が、軽量級の減量率が中流級より高かった理由 で 1.7%、65kg 級が 1.8%、70kg 級が 1.8%の減少となっ のひとつかもしれない。本研究では胸囲は有意な変化が た(p<0.01~p<0.001) 。 なく、Bamman ら(1993)の結果と一致する。身体の 筋やバランス美を競うボディビル競技において、ウェス 表 4. 生体電気法による体脂肪率の平均値 階級 減量前 60kg 級 11.1±0.5 65kg 級 11.5±0.6 70kg 級 11.5±0.6 減量前と比較した有意差, 4wk 10.1±0.3*** 10.1±0.4*** 10.0±0.4*** ***: p<0.001 8wk 8.9±0.4*** 8.2±0.5*** 8.0±0.3*** トが細くなり、 胸囲が変化しないまたは増加することは、 競技にとって有利であり、望ましい結果であると考えら れた。 皮下脂肪厚は、腹部の減少が最大であり、上腕二頭筋 部の減少が最小となり、 先行研究の結果と同様であった。 皮下脂肪厚の厚い部位(腹部、上腕三頭筋部、肩甲骨下 表 5. 皮下脂肪厚法による体脂肪率の平均値 階級 減量前 60kg 級 15.5±0.6 65kg 級 15.6±0.7 70kg 級 15.4±0.4 減量前と比較した有意差, 4wk 8wk 14.9±0.5** 13.8±0.4*** 14.8±0.7** 13.8±0.5*** 14.6±0.4** 13.6±0.3*** **: p<0.01, ***: p<0.001 角部) の減少率は各階級間に有意差が認められなかった。 したがって、皮下脂肪厚の厚い部位の減少は階級と関係 がなかったが、胸部と肩甲骨下角部などの部位は軽量階 が中流級よりやや大きかった。皮下脂肪厚を薄くして、 筋の形状を披露することはボディビル競技にとって有利 であることから、前述した競技レベルの差に基づくもの かもしれない。いずれにしろ、今回測定した形態指標の られた。 うち、皮下脂肪厚の減少率が最も大きかった。 Huygens ら(2002)は、減量期間中の体脂肪率の変 化についての推定には BIA 法は不向きであると報告し ている。本研究でも、BIA 法は皮下脂肪厚法に比べ、減 少率は大きい値を示し、BIA 法で得た結果は過大評価の 可能性が考えられる。両方法とも 60kg 級の減少率は他 の階級より小さく、このことから、体脂肪率において、 主要引用文献 1) 服部ら、 (1995) :ボディビルダーの長期減量が身体 組成に与える影響.日本体育学会大会号. 46. 286. 2) Withers et al.(1997) :Body composition changes in elite male bodybuilders during preparation for competition. The Australian Journal of Science and Medicine in Sports. 29. 11―16. 中流級のボディビルダーの減少は軽量級より大きかった ことを考えられた。 今回測定した形態指標のうち、皮下脂肪厚の減量率が 最も大きく、体重の減少は皮下脂肪厚や体脂肪率の減少 に大きく依存し、ボディビル競技者にとって望ましい結 果となったと思われる。 ボディビルダーは減量期にエネルギー摂取量を減ら して減量することが報告されている(服部ら、1993)。 また、エネルギー摂取量を減らしても、筋量は一定に保 3) Bamman et. al. ( 1993 ): Changes in body composition, diet, and strength of bodybuilders during the 12 weeks prior to competition. The Journal of Sports Medicine and Physical Fitness. 33 (4) : 383―391. 4) Huygens et. al. ( 2002 ): Body composition estimations by BIA versus anthropometric equations in bodybuilders and other power athletes. Journal of Sports Medicine and Physical Fitness. 42(1) : 45 ―55. つようトレーニングを行っていることも明らかになって いる(Bamman et.al. ,1993, Too et.al. ,1998) 。本研究 は、摂取エネルギーの調査を予定していたが、被験者の 協力が得られず、エネルギー摂取量や摂取栄養素の割合 については明らかでない。体重は先行研究と同程度の減 少であった。皮下脂肪厚や体脂肪率も有意な減少であっ た。一方、胸囲、大腿囲、下腿囲などは有意な減少とは ならなかった。したがって、筋量は一定に確保されたと 考えられる。本研究の対象者も、摂取エネルギーの減少 によって、減量が行われた可能性が高いと考えるのが自 然であろう。 まとめ 本研究では、階級の違いによって減量の程度に差異、 減量に伴い形態指標がどのように変化することを検討し た。 ボディビルダーの体重の減少は、階級間で差が認めら れなかったこと、そして、体重の相対値で 7%以上の減 量を行って競技に参加することか明らかになった。減量 に伴い体重と体脂肪率が有意に減少し、ウェスト囲と腹 部皮下脂肪厚が最も減少することが明らかになった。一 方、本研究を通して、減量期に各階級間の減量差異も明 らかになった。例えば、体重、厚い皮下脂肪厚の部分、 体脂肪率などには、相対値による各階級間の変化は差が 認められなかったが、これらの形態指標の変化は階級と 関係がないことを明らかになった。また、ウェスト囲に は、軽量級選手の減少は中流級選手より有意に大きく、 これには、競技者のレベルか関与している可能性が考え 5) Sandoval et. al. ( 1989 ): Comparison of body composition, exercise and nutritional profiles of female and male bodybuilders at competition. The Journal of Sports Medicine and Physical Fitness. 29: 63―70. 6) Van der Ploeg et. al. (2001) :Body composition changes in female bodybuilders during preparation for competition. European Journal of Clinical Nutrition. 55.:268―277. 7) Huygens et. al. ( 2002 ): Body composition estimations by BIA versus anthropometric equations in bodybuilders and other power athletes. The Journal of Sports Medicine and Physical Fitness. 42 (1) : 45―55. 8) Bazzarre et. al.(1990) :Nutrient intake, body fat, and lipid profiles of competitive male and female bodybuilders. Journal of The American College of Nutrition. 9(2) : 136―142. 9) 刘敏,李建英,相建华(2010):我国男子健美运动 员体能特征分析. 成都体育学院学报. 1. 36: 67―70.
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