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アゲハの産卵
さん
らん
ひ
だか
日高
わたし
いえ
ちい
にわ
とし たか
敏隆
ほか
「私の家の小さな庭のすみに、他のいろ
き
たか
いろな木にまじって高さ1メートルそこそ
ちい
き
う
この小さなミカンの木が植わっているので
まい とし
なつ
すが、毎年、夏になるとちゃんとアゲハチ
たまご
う
ョウが卵を産みにくるのです。たいていは
よう ちゅう
ナミアゲハですが、幼虫になってみたらク
にわ
ぽん
ロアゲハのこともあります。こんな庭のすみにちょこっと1本だけ
き
ミカンの木があることを、アゲハチョウはどうしてわかるのですか?」
むかし
しつ もん
う
ぼくは昔からこんな質問をたびたび受けました。
こた
それに答えるのはとてもかんたんなことでした。「ミカンやユズ、
か
き
は
カラタチ、それからサンショウといったミカン科の木の葉には、
か しょく ぶつ
とく ゆう
にお
ぶっ しつ
ふく
ミカン科植物に特有の匂い物質が含まれているので、アゲハチョ
にお
き
ウはその匂いでミカンの木をみつけるのですよ」といえばよいと
おも
思っていたからです。
こた
ですからぼくは、いつもそのように答えていました。するとそ
にわ
の人は、「そうですか。でもあんな庭
は
のすみに生えているのによくわかるも
とお
にお
のですね。そんなに遠くから匂いがす
るのですか?」とやっぱりふしぎそう
かお
なん
な顔をしていました。それでぼくも何
しん ぱい
となく心配になってきました。
いま
さい せん たん
ねん
い じょう
まえ
とにかく今から20年以上も前のこと
がっ かい はっ ぴょう
ろん ぶん
しょく ぶつ
です。そのころ最先端の学会発表や論文では、どの植物にはどう
ぶっ しつ
ふく
まえ あし
さき
しょく ぶつ
は
いう物質が含まれていて、チョウは前肢の先でその植物の葉っぱ
たた
きゅう かく
あし
さき
ふ
み
を叩き、嗅覚というよりむしろ肢の先で触れてはじめてわかる味
かく
ちか
たまご
う
かん かく
せっ しょく か がく かく
ぶっ しつ
そん ざい
かく にん
覚に近い感覚(接触科学覚)でその物質の存在を確認し、そこに
卵を産むのだといわれていました。
ふ
にお
たしかにそのとおりなのですが、触れてはじめてわかる匂いが
とお
どうして遠くからわかるのでしょうか?
おも
しら
なに
ぼくはふしぎに思って、アゲハチョウたちが何をしているのか
たい へん
調べてみました。そうしたら、じつはそれまでが大変なのだとい
うことがよくわかってきました。
よく知られているとおり、
し
ちょう どう
アゲハチョウには「蝶道」
かれ
というものがあって、彼ら
みち
と
はその道を飛んでいます。
みち
よう
ひ
この「道」は要するに日の
き
つら
みち
あたる木の連なった道で、
ひ
あた
か
この
日当たりを好むミカン科の
き
は
か
のう せい
木の生えている可能性のあ
ば
とお
しょ
る場所を通っています。
たまご
う
卵を産もうとしているア
ゲハチョウのメスは、ひた
と
すらそういうところを飛んでまわります。
ば
しょ
き
は
そういう場所にはいろいろな木がいりまじって生えています。
か
き
は
ミカン科の木だけが生えているわけではありません。
き
そ
と
アゲハチョウはそういういろいろな木に沿って飛んでいきます。
しん
よう じゅ
は
ほそ
なが
は
き
かん しん
しめ
そして針葉樹のような葉や細長い葉の木にはほとんど関心を示さ
すこ
まる
み
は
き
と
ず、少し丸味のある葉の木があると、ちょっと飛びかたをゆるめ、
ちゅう い
は
み
注意してその葉を見ている
ようです。
き
そのときアゲハは、その
木のまわりにほんのりただ
よっているケミカル・ハロ
と
しょっ かく
か
ーを、飛びながら触角で嗅
いでいるのです。