灰じんからの再起:アイスランドの火山噴火に学ぶ事業継続管理

ITD-10-15
R. Witty, S. Stokes, J. Girard, S. Morrison,
S. Mingay, S. Bittinger, H. Huntley, J. Mann,
S. Prentice
(G00200441)
Research Note
July 5, 2010
灰じんからの再起:アイスランドの火山噴火に学ぶ事業継続管理
2010年4月、アイスランドのEyjafjallajokull (エイヤフィヤトラヨークトル) 火山の噴火により、9.11米
国同時多発テロ事件時さえも超える、平時としては史上最大の世界的な航空混乱が生じた。企業・機
関の組織は、事業継続管理プログラムの一環として、交通障害に備える必要がある。本リサーチノー
トでは、アイスランドの火山噴火が招いた危機から学ぶ、今後起こり得る大規模な交通障害に備える
事業継続管理について助言する。
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灰じんからの再起:アイスランドの火山噴火に学ぶ事業継続管理
要約
組織は空路閉鎖が招く危機に対し、自らを守る必要がある。ガートナーの運営継続の助言を生かし
て、次回の大規模な交通障害による影響を軽減されたい。
主要な所見
 2010年4月のアイスランドの火山噴火では、物理的損傷はアイスランド国内のみにとどまったが、
空運を大きく混乱させることになり、リモート勤務機能やサプライチェーン・ロジスティクスの
変更が必要とされた。
 火山灰による混乱に備える企業はわずかであるが、より広く、交通サービスの混乱によるリスク
に備える企業は多い。
 主に金融危機の結果として、発生する確率は低いが影響の大きいリスクに対する復旧計画を考慮
する傾向が広まっている。
 テレプレゼンスは、現在利用されている程度では、2010年4月の事態において大きな相違をもた
らさなかった。社員は、もともと出張するのではなくテレプレゼンスを使用する計画であったか、
あるいは最も近いテレプレゼンス・ルームまで出張する必要があり、本来的に対面ミーティング
の方がテレプレゼンスよりも実現しやすかったかのいずれかであった。
推奨事項
 立ち往生している出張者の安全と健康を確保する。
 重要なサプライチェーン・ロジスティクス、およびサービス・レベル合意や契約上の義務を確認
し、製品またはサービスの提供が途絶する不測の事態とそれに対する責任を、特に不可抗力の事
態や運営継続に関する条項に照らして判断する。
 リモート勤務とコラボレーションの機能を見直し、拡張およびアップグレードする。
 今回の危機における自社の対応の有効性を検証し、危機管理計画を更新する。
 重要な社員が休暇を取る場合、復帰の遅れに備えて、スイッチを切ったままであってもハード
ウェアを携行するよう要請する。
 ソーシャル・メディアの活用を見直す。ソーシャル・メディアは、危機下において、善意を育み、
ビジネスを創出するのに役立つ場合がある。

事業中断保険を検証し、適切な責任限度と期間が保証されているかを確認する。
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要旨
一般的に世界では常に20以上の火山が活動しており、Eyjafjallajokull火山の噴火は、火山学の基準に
よると比較的小規模なものである。火山噴火の頻度が将来的に高まると予想されているわけではない
が、グローバリゼーションと相互接続性の堅調な進展により、事業運営は火山災害やその他の同様の
災害により、さらに頻繁に影響を受けるようになると推測される。
噴煙の持続期間と影響は、極めて予測困難である。2010年4月のアイスランドの事態を取り巻く状況
では、火山学、地理的位置、火山を覆う氷河の存在、卓越風といった要素が複雑に組み合わさってい
る。噴煙柱は氷河が溶けるにつれて弱まるはずであるが、航空便が一定期間閉鎖されるシナリオや、
この噴火が近隣の関連する火山噴火の予兆になるというさらに悪いシナリオが想定される。過去2000年
においては、小規模なEyjafjallajokull火山の噴火後まもなく大規模なKatla火山の噴火が起きている。
通信が途絶しなかったため企業は建設的に対応できたと思われるが、多くの場合、社員への対応は
不十分であった。
米国に拠点を持つ企業は、交通麻痺によって特に不利益を被る。尐なくとも旅客に関して、米国に
は欧州のように広大な陸運網はない。
ガートナーが事業継続管理に見る変化の1つは、シナリオおよび復旧計画が拡張され、発生する可能
性が低い影響の大きなリスクを考慮するようになっていることである。例えば、この変化は特にエネ
ルギー産業に当てはまる。従来、エネルギー産業における大半のリスク軽減策 (市場および信用リス
ク) は、95~99%の確率を基準としていた。しかし、ガートナーは、主に金融危機の結果として、低確
率の事象が起きた際のリスクを評価するため、その変化を注視している。
テクノロジが重大な役割を果たすことは間違いないが、使用するツールよりもむしろ、人々が互い
に「どのように」作用するかという、テクノロジによって解決できない問題が多くある。標準的なリ
スク管理上の問題よりも、ビジネスにおける優先事項の方が重要視される可能性がある。新たな勤務
環境を模索しながら、人々は我慢し、こうした厳しい状況の中でこれらの環境をどのようにすれば最
適に利用できるのかを理解する必要がある。
事態が収束するとともに、この機会を生かして、今回の緊急事態や交通麻痺による広範な事業中断
の事態に、自社がどれほど有効に対処したのかを検証し、復旧計画を再考する必要がある。また、同
様の交通機能停止を招きかねない状況は、噴火以外の自然災害、パンデミック、テロリズム、テクノ
ロジ障害など数多くある。ベスト・プラクティスとして、尐なくとも年1回、復旧計画の演習を実施す
る。今回の事件、特に過去2000年間にEyjafjallajokull火山噴火の後には、より規模の大きなKatla火山が
常に噴火しているというリスクが広く認識されている点を生かし、交通麻痺に対する自社の脆弱性へ
の社内意識を高める。当面管理職は、より高度な緊急時対応策の必要性について前向きであろう。
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事例
事例概要
2010年4月14日、アイスランドの氷冠火山Eyjafjallajokullが爆発し、火山灰が大気中に噴出した。現
地は緊迫し、震撼する中、地元の住民は20分で自宅から退避した。噴火直後、スカンディナビア、英
国、西欧圏の空運が数日間停止し、9.11米国同時多発テロ事件時よりも長期にわたる、過去最大の世
界的な航空混乱となった。同火山は1821年以来、休火山であった。
分析
アイスランド経済が破綻した事実は周知であったが、同国の火山までもが爆発するとは誰も予想し
ていなかった。世界のビジネスと個人旅行が中断され、あらゆる種類の会合や会議が延期または中止
された。ガートナーは、プラハでのコンファレンスを延期され、世界中で多くの同僚が立ち往生した。
さらに、膨大な数の旅行者が出張や休暇から帰宅不能になり、近代的生活の機能は停止した。航空業
界への影響のみでも、2010年4月20日現在、17億ドルの損失と推定される。ただし、この損失は、2010年
4月20日現在1日当たり1億ドルと見積もられる燃料コストや、非就労時は支払う必要のない乗務員への
手当が節約されたことで相殺される。食品サービス業も、2010年4月20日現在1,200万ドルとされる多
大な損失を被った。しかし、代替交通機関や宿泊施設では収入が増加した。
以下に述べる助言は、次回の大規模な交通機能停止の影響を軽減し、状況を踏まえてより正常な形
でビジネスを継続するために、営利・非営利を問わず、すべての組織が検討すべきである。
危機管理
あらゆる危機において、緊急対応に続いて取るべき最初の行動は、自社の危機・事故管理チームに
よる会議を招集することである。尐なくとも自社にこうしたチームはあるか、また自社にとっての危
機的事象とは何であり、どのような場合にこのチームを発動するのかを規定する一連の基準はあるか。
この2010年4月の噴火の場合、大規模なビジネス危機が起こるかは、一両日中には明らかにならなかっ
た。この間、政府の航空管理局は、空運のリスク拡大を評価していた。空路が一定期間閉鎖されるこ
とが明らかになったとき、行動を起こすべき時が来た。危機の潜在的および現実的な影響を理解すれ
ば、既存の復旧計画と手順を活用して、事態に効果的に対処し、またこうした事態にありがちな例外
についても最善な形で管理できる。
今回の事態の影響について、社員やその他のビジネス関係者に最新情報を提供し続けているか。
緊急および集団向けの通知手段は、適切なタイミングで適切な関係者に的確なメッセージを配信する
上で有用になる (「MarketScope for Emergency and Mass Notification Services」参照)。危機に直接かかわ
りのない人々とコミュニケーションを取っていれば、さまざまな風評によって企業が不利な状況に立
たされることはない。企業コミュニケーションの一貫性を保つために、よくある質問 (FAQ) を作成され
たい。
従業員の継続性
最初に確認すべきは、従業員継続管理プログラムの有無である。危機下で従業員を管理し、情報を
伝達することは、企業にとって第1の任務である。従業員の安全と健康は、復旧を保証する鍵である
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(「Workforce Continuity Defined」および「Workforce Continuity: Best Practices for Workforce Management」
参照)。
出張中の重要な社員の居場所は調査したか。彼らが代わりの宿泊施設および旅行手段を見つけられ
るよう、支援する必要がある。旅行会社には電話が殺到するため、緊急時以外の問い合わせは控える
べきである。また、すべての従業員一人一人に支援の手を差し伸べなかったために、従業員との関係
を悪化させるようなことになってはならない。人事部門が介入し、代わりの旅程を計画する仲介役を
果たす必要がある (例えば、バスをチャーターして、立ち往生している担当者を、宿泊施設、ワー
ク・スペースなどのリソースが比較的ありそうな別の場所へ移動させる)。一元的な出張サービスを利
用している場合、そこには出張中の従業員全員の記録があるはずであるから、所在確認のプロセスは
幾分容易になる。そうではない場合、この作業は比較的困難である。備考1に、サンプルとして、ある
企業における今回の事態の影響を伝えた案内を載せている。
足止めされている社員の不在によって、影響を受ける重要な業務を特定したか。さらに踏み込んで、
重要なプロジェクトの作業を委譲し、その旨を社内外の全関係者に通知する必要がある。ここでは、
ビジネス・プロセス管理 (BPM) ソリューションが役立つと考えられる。このソリューションにより、
どの作業が進行中であり、どのような進捗状況で、誰が担当者であったのかが分かる。また、ある担
当者の順番待ちの作業を別の担当者に移すこともできる。これは、イベント・トリガー方式の通知機
能やワークフローを利用して行うこともできる (「Use of Event Processing Increases Success of BPM
Projects」参照)。危機管理計画には、一連の指示、担当者引き継ぎ、バックアップ要員、といった従
業員の予期せぬ欠勤の際に、事業継続に必要な詳細情報を盛り込むべきである 。また、これらはすべ
てBPMリポジトリに保存することができ、このリポジトリには組織モデルや任務なども保存されてい
る。さらに、重要なアクセス情報 (パスワードなど) や主要幹部の詳細情報をこうした計画に記載する
ことで、本来の担当者が対応できない際に交代要員が重要な情報を使用できるようにする必要がある
ため、これは復旧計画にもかかわってくる。
サプライチェーンと顧客サービス
ビジネスへの最大の影響は、サプライチェーンに表れる。航空便を利用する商品 (特に特殊な部品)
やジャスト・イン・タイムの在庫管理の配送物が、欠航や動きの取れない状況のため、顧客が必要と
するタイミングでの到着は不可能となる。常時在庫を入手しなければならない合理的なサプライ
チェーンの脆弱性により、多くの業界から欠品、または持続的な欠品・生産ライン停止が報告された。
チェーン内のほんの細部の連結でさえ、圧力がかかったり、切れたりすると、チェーン全体の強度が
失われる。
わずか5営業日後、欧州の一部の自動車メーカーがサプライチェーン途絶により操業を停止した。2社
のメーカーが生産停止を、その他のメーカーは生産の大幅削減を発表した。また、今回の事件により、
FedExとUPSが初めて、欧州向け翌日配達のサービス・レベル合意を遵守しないことに言及した。サプ
ライチェーンの遅延から回復するには、最長1カ月を要すると報告されている。自社サプライチェーン
を評価し、契約上の義務履行への影響を判断する必要がある。事業運営とサプライチェーンの代替手
段を準備するか、さもなければ他社に介入を要請し、指揮を委ねる必要があると考えられる。
今回の危機を利用して、あるいは、実際の危機に先立ち、全般的調達プロセスとサプライチェーン
のリスク管理プログラムの一環として、契約を見直し、主要ベンダーと連絡を取り、サービス中断を
招きかねない潜在的影響を把握する。例えば、ベンダーの社員は出張不可能になっても、顧客のビジ
ネス・ニーズをサポートできるか。交通麻痺により現場スタッフが顧客施設に行けないことが、自社
の契約上の義務であるサポートの実施を左右しないか。また、作業をほかの地域に移行することは可
能か。不可抗力の事態への対処におけるベンダーの義務を把握しているか (備考2参照)。
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顧客に連絡し、納品およびサービス提供の遅延について伝えたか。また、自社が今回の危機により
直接のビジネス影響を被っていないのなら、顧客に何か支援できることはあるかと尋ねることも効果
的である。こうすることで、相互に有益な関係を育むことができる。
創造力を発揮して、こうした状況でチャンスを生かすことは可能か。世界では、数百万ドル相当の、
多くの生鮮物を含む商品が、欧州に出荷できずに倉庫内で腐ってしまった。例えば、現地で果物を冷
凍するか、果汁に加工する、あるいは地震被災者に商品を分配するなど、臨機応変に創造力や倫理観
をもって別の方策を探求した企業はあったのか。
ここで1つ問題となるのは、どのような事態にも対処できる「決定的な/既知の」プロセスを設定す
ることは不可能なことである。理由は単に、あらゆる事態と、それらのあらゆる組み合わせをすべて
予測することはできないためである。したがって、場合によっては即席のビジネス・プロセスが必要
になる。これは動的BPMと呼ばれる (「Rule Engines and Event Processing」および「The Art and Science
of Rules vs. Process Flows」参照)。複合イベント処理エンジンでは、イベントの発生が把握されると、
動的なプロセス・フローが発動され、ビジネス・ルールに従って、その場で手順が決定される。
リモート・アクセス
この機会を利用して、リモート勤務プログラムを検証する。業務の中でリモート処理が可能なもの
はどの程度あるか。出張先で足止めされている社員は、休暇中に立ち往生している社員よりも状況は
良いであろう。休暇中の社員は、リモート作業に必要なツールや接続環境の利用が限定される可能性
がある。「スマートフォンは携帯し、パスワードはすべて記憶しているが、業務用PCは置いてきた」
といった具合である。大半の社員にとって、休暇中に職場環境から完全に解放されるのは名誉なこと
であるが、要職者については、復帰が遅れる場合に備えて、スイッチを切ったままであっても、ハー
ドウェアを携行するよう要請するとよい。
立ち往生している社員が、安全な、または企業から支給された端末がなければアクセスできないア
プリケーションやデータについて把握し、彼らがリモートで作業できるのかを判断する。こうした情
報を1カ所に保存しておくことで、ビジネスへの影響を把握でき、これにより企業は代替手段を用意し
ておくことができる。2009年に新型インフルエンザH1N1危機において作成されたパンデミック計画に
は、リモート・アクセスに関するニーズと機能が文書化されているはずであり、極めて有用であるに
違いない。また、立ち往生している社員が業務用ツールに不自由しないよう、Webインタフェース経
由でより多くのアプリケーション・アクセスの提供を検討する必要がある。
尐なくとも、旅行中の経営幹部は、最低でも何らかのリモート勤務機能 (例えば、スマートフォン
とワイヤレス・インターネットによって企業VPNへアクセスする) を装備すべきである (「Gartner's
Telework Action Plan Is Key to Successful Implementations」および「Critical Questions to Ask Your VPN
Provider About Rapid License Capability」参照)。
テレプレゼンスとコラボレーション
本来、ビデオ会議といったツールは出張の必要性を取り除く。基本的なビデオ会議機能でさえ、そ
れを使用すれば、以前は対面で行われていた臨時会議をその場ですぐに設けることができる。しかし、
テレプレゼンスといったハイファイ・ルームは、臨時の出張を大幅に減らせるほど、まだ十分に普及
してはいない。既に主要拠点間にテレプレゼンスを導入している企業は、これまでと同様にこれらを
利用できる。突発的な必要性に対処したくとも、まだ出張に代わる手段を持たない非主要拠点に関し
ては、自社所有のテレプレゼンス・スイートはなく、また、おそらくこうした組織が使用できる近隣
の時間貸し施設もないため、難題である。いわゆる「ハブ形成」(地域全体から関係者を同地域用の
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1カ所のテレプレゼンス・ルームに招集する) という一般的なやり方が取られるが、同地域の空路が非
常に混乱した場合には結果的に機能しないことになる。
現時点では、テレプレゼンスは、各所で動けなくなった社員に重大な影響を及ぼしたり、企業が出
張を回避したりできるほど、十分に普及してはいない。立ち往生している社員がいても、使用可能な
テレプレゼンス・ルームに彼らが行き着ける可能性はわずかである。したがって、テレプレゼンスは、
現在利用されている程度では、2010年4月の噴火で影響を受けた地域のユーザーに、大きな相違をもた
らすことはなかった。社員は、もともと出張するのではなく利用可能なテレプレゼンス・ルームを使
用する計画であったか、あるいは最も近いテレプレゼンス・ルームまで出張する必要があり、本来的
に対面ミーティングの方がテレプレゼンスよりも実現しやすかったかのいずれかであった。
しかし、一般的なビデオ会議は比較的普及しており、大半のマネージド・オフィス環境 (Regusや
Kinkosなど) において時間制でレンタルできる。また、万全な品質ではないものの、わずかな手間で大
半の拠点と通話が可能である。
将来、組織は次のように過去を振り返るかもしれない。「ビデオ会議の利用を命じてさえいれば、
飛行機が飛ばないからといって、社員を世界各地で放置するようなことにはならなかったのに」。
ガートナーの最近のテレプレゼンス調査では、テレプレゼンス会議の約15%が、会議参加者のうち
何人かの出張回避に直接つながっていることが分かっている。1日当たり3~4時間 (1日当たりおよそ2~
3件の会議に) 使用される平均的なテレプレゼンス・ルームの場合、控えめに算出して、現実的には
1週間当たり1拠点につき1人の出張が回避されることになる 。つまり、10~15件の会議があり、尐な
くとも2拠点がかかわるとして、そのうち15%は2件の会議に相当するため、出張を回避できたのは
1拠点当たりでは会議約1件である。さらに、今回の問題は2週間続いているため、1社につき2人が混
乱を回避できたことになり、どこかで足止めをされて帰宅できない、あるいはそもそも会議場所にた
どり着けないといった事態を免れたことになる。
Web会議、バーチャル・ワールド、リモート・コラボレーションのベンダーへの需要は、これまで
になく高まっているが、当然のことながら既存顧客が優先される。IT部門は、導入済み既存サービス
(例えばMicrosoft Office Communications Server またはCisco WebEx) のユーザーに再認識を促し、必要で
あれば利用を拡大すべきである。これら以外にも、コンシューマー・ベースのコミュニケーション・
システム (Skype、ooVoo、Huddle、さらにはFacebook) がほぼ一般に利用可能になり、広く使用されて
いる。これらのソリューションは、即座にダウンロード可能であり、拡張性に優れ、そうでなければ
困難であったはずの状況において有効な解決策になる。IT部門は、機密情報のダウンロード時には注
意が必要であることをユーザーに再認識させ、こうした環境においてウィルスやトロイの木馬の活動
が増加していることに警戒する必要がある。CIOは、こうしたチャンスを逃さず、没入型仮想環境と
いったリモート勤務とコラボレーション用ツールを提案しサポートする柔軟性と迅速性を示すことで、
真のリーダーシップを実証すべきである。無償で利用できるコンシューマー向けソリューションを軽
視してはならない。目下の危機が過ぎ去った後、この機会にさまざまな選択肢を検証し、より多くの
情報に基づく、安全かつ堅牢で、サポート可能なソリューションを構築されたい。一連のあらゆる従
業員コラボレーション・ツールについて、交通機能停止時における適用性を検証すべきである
(「Degrees of Separation: Strategies for Collaboration」「Emerging Technology Analysis: Unified Communications
and Collaboration」および「A Technology Framework for Enterprise Unified Communications」参照)。
ソーシャル・メディアの利用
顧客に最新情報を伝達する上で、TwitterやFacebookといったソーシャル・メディア・サイトの利用
を検証する。従来のサポートとコミュニケーション・チャネルが機能停止するか、または過負荷と
なった場合、人々は当然ソーシャル・メディアによって空白を埋めようとする。例えば、一部の航空
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会社はTwitterやFacebookを効果的に利用して、立ち往生している顧客とコミュニケーションをとり、
彼らを支援し、困難な時期にあって顧客の信用を獲得した。ほかの航空会社はこうしたチャネルを無
視し、過負荷によって、つながらないこともある電話回線とWebサイトのみに依存していたが、従業
員も同様にソーシャル・メディアを使用して、同僚や帰宅手段を探し出すであろう。また、自動車の
相乗りや宿泊に関する自発的な情報交換の場が、多くのソーシャル・メディア・サイトに登場した。
有効なものはみなそうであるが、ソーシャル・メディアには問題となる面もある。ソーシャル・メ
ディアは、有用な情報の発信だけでなく、風評を広め、間違った情報も同じ速さで広めかねない。一
時は、カメラが誤った方向に向けられていたことで、2つ目の火山噴火のニュースがTwitter経由で即座
に広がった。修正情報も、ほぼ同じ速さで広まった。オランダのKLM航空が、Facebook上で顧客のフ
ライト再予約を支援すると提案した際、多くの顧客が過剰な情報を投稿したため、誰でも個人情報に
アクセスできるようになり、予約に変更を加えることさえ可能となった。すべての従業員は、ソー
シャル・メディアの利用に関して、その影響と自社のポリシーを知り、十分に理解すべきである。
事業中断保険
今回の事態は不可抗力であったことを考慮すると、事業中断保険による補償は適用されないと考え
られる。こうした保険では通常、事業中断に先立ち、何らかの形で財物が損害を受けている必要があ
る。保険会社または代理店に確認し、保証されるシナリオや機能停止期間について、保険契約を理解
する必要がある。大半の事業中断保険契約には、責任限度や一定期間を保証する旨が記載されている。
この期間を過ぎると、事業復旧でかかった経費が補償されることはない。
推奨リサーチ
・ 「Toolkit: Requirements for Crisis Command and Emergency Operations Centers」
・ 「MarketScope for Emergency and Mass Notification Services」
・ 「Workforce Continuity Defined」
・ 「Workforce Continuity: Best Practices for Workforce Management」
・ 「Use of Event Processing Increases Success of BPM Projects」
・ 「Rule Engines and Event Processing」
・ 「The Art and Science of Rules vs. Process Flows」
・ 「Gartner's Telework Action Plan Is Key to Successful Implementations」
・ 「Critical Questions to Ask Your VPN Provider About Rapid License Capability」
・ 「Degrees of Separation: Strategies for Collaboration」
・ 「Emerging Technology Analysis: Unified Communications and Collaboration」
・ 「A Technology Framework for Enterprise Unified Communications」
・ 「Research Roundup: Business Continuity Management and IT Disaster Recovery Management, 3Q09」
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備考1 渡航情報のサンプル
欧州に火山灰が蔓延し、交通が途絶したことを受けて、GetMeOutOfHere Travelでは、関係者に次のように助言
しています。
・ GetMeOutOfHere Travelセンターへの電話は、緊急支援目的のみにしてください。需要増大のため、フライト
の空席はわずかと見られます。
・ 空港に向かう前に、現地空港のWebサイトを確かめるか、利用を予定していた航空会社に確認してください。
・ 事実上すべての旅行者に影響する前例のない事態であるため、我慢強くお待ちいただくようお願いします。
最新情報は次のとおりです。
・ 4月20日午後6時 (東部標準時):現時点における旅行上のアドバイスと今後の課題
・ 4月19日午後6時30分 (東部標準時):Help Me Now! 立ち往生している旅行者のためのヒント
・ 4月19日午前10時 (東部標準時):欠航により立ち往生している関係者向けの旅行保険延期
・ 4月19日午前9時30分 (東部標準時):GetMeOutOfHere Travel最新情報:英国旅行
・ 4月19日午前9時 (東部標準時):対顧客業務における渡航混乱の影響
・ 4月16日午後7時 (東部標準時):GetMeOutOfHere Travelへの非緊急電話対応の先送り
・ 4月16日午後6時 (東部標準時):年次セールス会議出席者へのメッセージ
すべてのニュース・メディアで伝えられているように、アイスランドの火山からの巨大な火山灰雲により、欧
州の広い地域で交通混乱が続いています。この雲によって何万ものフライトが欠航し、当社の関係者を含む、数
十万人の旅客が足止めされています。当社の出張を担当するGetMeOutOfHere Travelの情報によると、同社コール
センターにはかつてないほど多数の問い合わせが殺到しているため、待ち時間が長くなるか、または通話数に
よっては話し中になることがあります。GetMeOutOfHere Travelは、当社関係者の一部が足止めされ、帰宅できず
にいることを十分に理解しており、関係者ごとの具体的ニーズに対応するために最善を尽くしています。遅延は
今後も数日間続くと想定され、すべての交通が平常に戻るには尐なくとも1週間を要するとみられます。
備考2 「不可抗力」の定義
不可抗力とは、契約上の一方または両方の当事者による義務の履行を阻む、当事者の制御を超える、不測かつ
異例の事態または状況を意味する法律用語である。
(監訳:中野 長昌)
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