ヘッジファンド 国際政治経済学部 国際経済学科 4-F-14 16204062 小高寛雄 はじめに 近年、ヘッジファンドのことを取り上げている新聞が日本でも多くなった。それはヘッ ジファンドが、国際金融市場また国内市場において存在感を増してきている証拠でもある。 欧米に遅れる形で日本でも 1990 年代以降、ヘッジファンドの資産規模およびファンド数は 急激に拡大し、特に 2002 年以降は、機関投資家の投資規模拡大が顕著である。国内におい ても、年金基金、金融機関等を中心にヘッジファンドへの投資が拡大している。こうした ヘッジファンド投資の拡大は、近年の主要国における低金利環境の継続や、投資家の運用 多様化ニーズの強まりが主な背景と考えられる。運用実績のデータからみると、近年、株 式や債券市場の動向に関らず正の収益率を確保したこと、ボラティリティが株よりも低く 推移したこと、伝統的資産との相関が総じて小さく、ポ-トフォリオ分散のメリットがあ ったことなどが特徴として挙げられる。 そもそも日本でヘッジファンドが注目され始めたきっかけとなったのが、アジア通貨危 機直後のことであり、いくつかのアジアの新興市場国において、ヘッジファンド等の機関 投資家による投機的活動が各国経済に深刻な結果をもたらしているとの主張が盛んに行わ れるようになってからである。その後は 1998 年夏のロシアの通貨危機、それに続く米国の ヘッジファンドLTCM(Long Term Capital Management)の経営破綻などが相次いで 起こるに至り、ようやく国際経済社会が全体としてヘッジファンド等の投げかける問題を 真剣に検討し始めた。この問題は、アジアの新興市場国がメンバーとなっているAPEC (アジア太平洋経済協力)非公式首脳会議やASEM(アジア欧州会議)において 1998 年 秋以降活発な議論が行われているほか、IMF、7か国蔵相・中央銀行総裁会議、サミット 蔵相会合などグローバルな経済・金融問題を取り扱う場でも重要なテーマとなっている。 また、Hedge Fund Research 社(民間調査会社)の資産によれば 2007 年 3 月末時点で のヘッジファンド総運用資産残高は 1 兆 5,684 億ドル(約 188 兆円)に上っている。これ は 10 年前の水準から約 4.5 倍に膨れ上がっており、2003 年から見ても 1.9 倍の大きさとな っている。さらに 2002 年以降の資産伸び率は二桁となっており、2006 年はさらに増加基 調が強まっている。 近年ヘッジファンドの存在が目立っているものの、金融市場全体に対する比率は依然小 さい。1998 年時点で商業銀行の総資産が 4.1 兆ドル、ミューチュアルファンドが 5 兆ドル、 個人年金が 4.3 兆ドル、州・自治体年金が 2.3 兆ドル、そして生保が 3.7 兆ドルとヘッジフ ァンドは全体の 1.9%に過ぎず、金融市場全体も伸びていることを考慮すると現在はこの比 率が幾分増えたとしても大きく変わっていないと思われる。しかし、ヘッジファンドに対 しての関心はこれからも高まっていくと思われる中で、ヘッジファンドとはいかなるもの か、ヘッジファンドの歴史、ヘッジファンドが関わったとされる通貨危機、最近のヘッジ ファンドのパフォーマンス分析をこの論文で解き明かしていきたいと思う。 1. ヘッジファンドとは ヘッジファンドとは個人や法人から資金を集めプールし、それを運用する集合投資機関 の1つであり、ごく少数の投資家のパートナーシップにより組成され、規制や税の関係か らオフショアで登録されるケースが圧倒的である。その法的地位からポートフォリオや取 引について若干の規制はあるが、運用責任者(ファンドマネジャー)に、短期の売買デリバテ ィブ取引、リターンを上げリスクを軽減させるためレバレッジを効かすなどの自由を与え ている。 1.1.目標 まず第1の特色は、成果を比較する目標がベンチマーク(ニューヨーク株ダウ平均、 S&P500、MSCI 指数など)ではなく、絶対的なリターンを追及することである。アメリカ の投資信託や年金のファンドマネージャーは S&P500 のパフォーマンスに打ち勝ったかど うかが問われる。S&P500 が下がった場合は、それより低い値下がり率の範囲であること が問われる。日本の年金運用も同様で日経平均株価や TOPIX がベンチマークである。しか しヘッジファンドに投資家が期待するのは、相場が下がった時でも、値上がりすると言う 厳しいものである。 1.2. 運用 後に触れるヘッジファンドを始めて設立したとされる Alfred Winslow Jones がスタート したときの戦術が生きており、ロング(買い)とショート(売り)を組み合わせるのが一 般的である。株式は買いだけで、インデックスは売りと言うようなケースもあるが、この ような保険つなぎはコストがかかるので、むしろアメリカ株買い、日本株インデックス売 りといった国を超えた組み合わせが多い。 1.3. レバレッジ 集めた資産の何倍かの借り入れをして投資をするのがその本領である。現物の株式で運 用をしても指数平均以上の成果を上げるのは難しい。常に平均以上の絶対的な高成果を上 げるためには、レバレッジ(テコの原理)が必要である。平均的なレバレッジがどれぐら いかは、ヘッジファンドの性質によってまちまちであるが、株式投資に特化したヘッジフ ァンドでは、2~3 倍である。 為替や金利で勝負するマクロのファンドのレバレッジは数倍と言うのが普通であり、L TCM(Long Term Capital Management)のように 50 倍以上というのは 90 年代に入っ てからの特色である。 1.4. 成功報酬 ヘッジファンドと一般の投資信託を区別する大きな点である。ごくわずかな固定料を徴 収(0.5~1.5%)するほか、値上がりに応じて 15~25%の成功報酬(Performance fee)を 得る。これが、ヘッジファンドを運用するファンドマネジャーの大きな魅力である。 20%の成功報酬のケースの場合、仮に 20 億円のファンドを運用したとしよう。50%値上 がりすると 10 億円の利益。この 20%の 2 億円が運用者の懐に入る。能力のある人にとっ ては、ヘッジファンドの運用はまさに現代の錬金術である。 成功報酬には「年 6%を超える分」という水準指標(High Water Mark)を設定している ファンドもある。たとえば、さきの 20 億円の 6%に当たる利益の 1 億 2 千万円を差し引い た 8 億 8 千万円に対する成功報酬になる。1 億 7 千 6 百万円となる。また、損失が出ると、 それを消してしまうまで報酬を受け取ることができないと言うのが一般的である。 1.5. 自己資金も投入 ヘッジファンドをスタートしようという運用者は、いままで自分自身の資金を運用して きて自身のある人が普通である。過去に大成功したさまざまな有名なファンドマネージャ ーたちも、スタート時に自分の資金を投じている。まさに運命共同体であり、参加する顧 客にも安心感を与える。また、成功報酬で得た資金の大半は運用するヘッジファンドに投 入するシステムになっている。 1.6. オフショアに設立 これには 2 つの意味がある。1 つは税金が無税か、ほとんど課税されないこと。もう 1 つはアメリカや日本の投資信託のように、SEC や大蔵省によって運用面でいろいろな規制 を課せられないことである。運用の情報の透明性についても、年 1 回の年次報告書でポー トフォリオの内容を報告する程度で済まされている。 2. ヘッジファンドの略史 パートナーシップによる投資は、金融市場がある限り存在した。ヘッジファンドとして 知られるパートナーシップは、1950 年代に新語として名づけられ、創成期には 2 つの投資 手法――ショート・セールスとレバレッジ――を結びつけることにより投資家を魅了した。 ショート・セールスは証券を借り入れ、貸し手に返却する前もしくは返却時に、市場での 売値より安く買い戻すことが可能であるという予測に基づいてその証券を売却する。ショ ート・セールスおよびレバレッジ双方が別々に使われた場合はリスクが高いとみなされて いる。心理学者、金融ジャーナリストであった Alfred Winslow Jones が 1949 年に設立し たジョーンズ・ヘッジファンドはヘッジファンドの起源とされているが、魅力的なリター ンを得る一方、マーケット・リスクを限定するためには金融商品をどのように組み合わせ ることができるかを示すことによって信認を勝ちえた。 ジョーンズの洞察は、同一業種のある会社が発行する株式のショート・セールスと、同 一業種の別の会社のロング・エクスポージャーを組み合わせれば、マーケットの変動から ポートフォリオの収益を隔離(ヘッジ)出来るとするものであった。ヘッジされていれば、 成績はマーケットの方向性よりも株式の選択にかかってくる。レバレッジを効かせ、ジョ ーンズ・ファンドは、ロングにしている証券とショートにしている証券のパフォーマンス の違いの効果を拡大させた。その後、同じような戦略を採用したファンドと同様、ジョー ンズ・ファンドは、限定パートナーシップ(有限責任社員による共同経営)として(1952 年から)組織された。ジョーンズは、利益を生み出す機能としてマネージャーに対するイ ンセンティブ手数料方式を採用し(実現した収益の 20 パーセントとした)、マネージャー もファンドに自己の資金を投資することに合意(彼のインセンティブと彼に投資する人の インセンティブを同列に並べることを保障するため)した。限定パートナーシップとバラ エティーに富んだインセンティブ手数料方式は今日までヘッジファンドを特長づけるもの となっている。 ヘッジファンドは株式市場が高騰し、ジョーンズ・ファンドが好意的な評価を得た 1966 ~68 年の“ゴーゴー(go-go)・イヤー”に急増殖した。1968 年の SEC 調査では、パート ナーシップによる投資は 215 を数えており、そのうちの 140 がヘッジファンドと分類され ており、大多数のファンドは 68 年に組織された。これらのファンドは株式への投資に集中 した。マーケットが上昇トレンドにあるとき、ヘッジファンドのマネージャーはショート・ セールスよりはレバレッジにより重きを置いた。この結果、68 年末からのマーケットの下 落の拡大局面では、ヘッジファンドを非難にさらした。ある推定によると、大手ヘッジフ ァンド 28 社の運用下にある資産は、1970 年末には 70 パーセントもの減少を示した。28 ファンドのうち 5 つのファンドは閉鎖し、規模の小さなファンドはさらに早いペースで撤 退した。生き残ったヘッジファンドや新参のファンドは 80 年代に至って、再び評判を博す ることになったのである。 このようなヘッジファンドの復活は新しい投資機会に窓を開き、ファンドマネジャーが 国債や通貨、その他の資産で構成するポートフォリオを国際的な分散投資に向かわせるこ とを後押しすることになった金融の自由化と軌を一にしている。ヘッジファンドはタイガ ー・ファンド(Tiger Fund)及びそのオフショアのカウンターパーティーであるジャガー・ ファンド(Jaguar Fund)に対して、マスコミの好意的な論評のあった 86 年を機にとりわ け人気なものになった。タイガー・ファンドは 85 年に過去 4 年間急騰を続けたドルが、欧 州通貨及び円に対して下落するとの思惑により外貨のコール・オプション購入に巨額の投 資を行う“グローバル・マクロプレイ”において高収益を勝ち取った。それ以降、さまざ まな新しい投資戦略に従う 100 を超える新しいヘッジファンドが設立された。これらの大 部分は、ショート・セールス、レバレッジ、通貨のコール・オプションよりもさらに特殊 なデリバティブ商品を駆使するに至っている。 3. ヘッジファンドが関連したとされる危機 3.1. 1992 年の ERM 危機 1992 年の ERM 危機は、ヘッジファンドが重要な役割を演じたとしばしば引用される事 例である。その序幕は、コンバージェンシー・プレイ(一点への収斂劇)として知られる 1987 年から 91 年の ERM のハイ・イールド通貨への資本の流入である。これはヘッジファ ンドの参入により引き起こされたと見られている。鍵となった材料は、調達コストの安さ であった(ERM 通貨の中ではドイツ・マルク) 。ERM 諸国の中でイタリアのような魅力的 なイールドの国があり、為替レートは安定させられていたため、投資家が金利差を相殺す るに十分なほど動く可能性はないと見られていた。 しかし、1992 年が明けると事情は一変した。イタリアの労働コストは他国間比において 4 年間で 20 パーセントもの大幅な高騰を見せ、これが危機を導いた。リラが実体以上に評 価されすぎという心配は、悪化する一方のイタリア経常収支や企業の収益力の弱さにより 増幅された。90 年の英国の ERM への参加を直前に控えた期間、ポンドも価値を上げ、似 たような実体以上の評価への心配を生み出し、経常収支の赤字は 1992 年に拡大した。フィ ンランドとスウェーデンはソヴィエトとの通商が崩壊したことにより大きな対外的ショッ クを受けた。さらに 92 年 6 月の国民投票でデンマークがマーストリヒト条約を却下したこ とで、彼らを結び付ける通貨ペッグ制(通貨統合)に対して疑問が投げかけられた。 これにより、コンバージェンシー条項の達成を経常収支の赤字をファンディングするこ とに求めた国々は、対外ファイナンスを得ることがより困難であると気づき、コンバージ ェンシーの達成が当然意味するところの為替レートの安定は幻想であることが証明された のである。このような観点から見れば、ドルの下落(92 年の 3 月中旬から 9 月初めまで対 マルクで 17 パーセント下落し、欧州の競争力をさらに弱めた)と 7 月 16 日のドイツの公 定歩合の 75 ベーシスポイントの引き上げが最終的な破滅に近づけた。 ヘッジファンドは早い段階でこのような傾向の重要な意味を認め、それに従う行動をと った。彼らは単なるプレーヤーよりはよほど重要な位置を占めたが、コンバージェンシー・ プレイの最盛期にはロング・ポジションを積み上げることに参加した。その後、ヘッジフ ァンドは、このときもまた単なるプレーヤーよりはよほど重要な位置を占めるが、投資家 がロング・ポジションを解消したとき、いち早くヨーロッパ通貨をショートに持っていっ た。彼らは店頭市場で銀行と一緒にヨーロッパ通貨のフォワード(先物)を売ったが、こ れは再調整が行われた後、ヨーロッパ通貨をより安いところで買い戻せるとの思惑からで あった。銀行はスポット市場で同じ額の売りを出すことでポジションのカバーをとり、外 国為替取引の期間のミス・マッチのカバーを取るため、通貨スワップ市場でフォワード取 引と同じ期間のスワップをかけた。 ヘッジファンドの全資金の 15 パーセントを占めるといわれている著名なあるマクロ・フ ァンドは、ポンドで 100 億ドル相当のショート・ポジションを積み上げるために担保を差 し出し、また証拠金を積むことができた。しかし、他のマクロ・ファンドはポンドのショ ート・ポジション作りのために、先のファンドと同じ程度ほどには積極的にレバレッジを 使っていない。ヘッジファンド全体としてはリラについてもフォワード市場でショート・ ポジションを取り、利益をあげたとされている。 3.2. 1994 年の債券市場の大混乱 ヘッジファンド、銀行や証券会社の専門トレーダー、機関投資家は 1994 年の債券市場の 大混乱時でも再び重要な役割を演じたと見られている。高い利回りを指向する投資家が、 低金利環境が定着していた中でハイ・イールドの投資対象を物色していたため、ヘッジフ ァンドの資金は 93 年下半期に大幅に――ある推定によると 2 倍――増えた。彼らは単なる 投資家のレベルを超えるポジションを取る一方、ヨーロッパの債券市場――特にハイ・イ ールドの債券――に足を踏み入れた。この年の下半期には外国為替市場にも静寂が戻って いた。ERM のマージンが 93 年 8 月には 2 パーセントから 15 パーセントに拡大したことに より、経済活動を刺激したい政策当局者は金利引き下げに踏み切る余地が多分にあるとの 観測を呼び、欧州の金利は下がるとの見方を助長させることになった。マネジャーは低金 利であった円を調達し、円でヨーロッパ債券のポジションを積み上げた。金利差がドル建 て債券をより有利にすると見られたため、彼らはドル・ロングに向かい、円とマルクをシ ョートにした。 しかしながら、ヨーロッパの金利低下への期待は米国の 94 年 2 月、3 月の各 25 ベーシ スポイントの金利引き下げ(米国経済の強さを反映した)円レートの安定(日本の株式市 場の回復による)、2 月 17 日のブンデスバンク理事会の公定歩合を引き下げないとの決定で、 失望に変わった。債券のイールドはヘッジファンドや他の投資家がロング・ポジションを 閉じる行動に一斉に向かったため、94 年 2 月 3 日から 3 月 30 日の間に 50 ベーシスポイン トから 150 ベーシスポイントを上回る急騰となった。この間、ヘッジファンド全体として はこのマーケットの動きの中で大きな収益は実現できなかった。反対に、金利が下がると いうことに大きく賭けていたので、これが外れ、巨額の損失を被った。実際、93 年には 2 桁の収益率を実現したが、94 年にはヘッジファンドのカテゴリーに入るほとんどが損失を 記録した。 3.3. 1994~95 年のメキシコ危機 94~95 年のメキシコ危機ではヘッジファンドの役割は限られたものであった。これに関 する研究は、居住者ならびに非国際投資家がこの危機で主役を演じたと結論付けている。 グローバル化された金融市場では、国際的に分散したポートフォリオを運用している外国 の投資家は、無数の国の状況に遅滞なくついていくことは困難である。エマージング市場 が小さければ小さいほど、大手の投資家が投資するインセンティブに欠ける。結論的には 関連情報へのアクセスおよび処理加工で比較的優位に立つ居住者が、カレンシー・ペッグ に対して最初にポジションを取ったと見られる。国際金融取引や国内金融市場の規制緩和 が、長年にわたって禁止されていたポジションを取るというような居住者の投資をよりた やすくしている。発展途上国の金融市場の構造的な特徴は、ヘッジファンドや他の国際投 資家が 94 年~95 年の通貨危機において、大きな役割を演じることを妨げてきたことにある のかもしれない。他のエマージング市場と同様、メキシコではヘッジファンドおよび専門 トレーダーは同国の銀行からフォワード売りのためにわずかなマージンで当該国通貨を借 りることは禁止されていた。これは当局のモラル勧告を反映したものであり、資本流出制 限を反映したものである。当該国の通貨を借り入れることができるような市場であったと しても、彼らは当該国の取引相手が資本規制のため、フォワード取引の受け渡し能力に不 安があったし、取引相手の倒産の可能性にも不安があった。 3.4.1997 年のエマージング市場危機 この危機に到達する道のりは、その数年前にさかのぼる。エマージング国の債券、特に 東アジアの高成長国の債券市場の熱狂がその幕を開けた。それはマレーシアで始まり、イ ンドネシア、タイ、その他の国へ拡がった。ヘッジファンドは初期の段階では、これらの 市場でロングのポジションを取った。彼らのポジションはキャリー・トレードを積み上げ た商業銀行、投資銀行を含むほかの機関投資家のポジションと類似していた。国際投資家 は、主要な金融センターで金利が低かったことにより、債券市場に限ったわけではないが、 ポジションを構築し、維持することに自信を深めていた。彼らは先進国の市場から資金を 調達し、東アジアに投資した。彼らが利用した豊富なクレジットは、日本や米国の低水準 にあった金利を反映したものであった。低コストの調達で東アジア諸国の債券を買うこと は東アジアの為替レートが動かない限り魅力的なものであった。ヘッジファンドは、商業 銀行、投資銀行、年金基金、ミューチュアル・ファンドや他の機関投資家全てが行ったキ ャリー・トレードに参加したが、有力なプレーヤーではなかった。 タイ・バーツの安定にも拘らず、投資参加者が増えるに従って金融の安定に幕がひか れるのではないかとの心配が始まった。バーツに対する最初の圧力はバンコク商業銀行が 崩壊し、中央銀行が金融システムを守るために流動性を供給した 96 年 7 月に始まった。2 番目の圧力は、失望を買うことになった財政および輸出実績のデータが発表された 97 年 1 月に訪れた。ショート売りよりもキャリー・トレードで重要な位置を占める国際投資家が ポジションを閉じ始めた。この段階においては、タイの国内会社、銀行、商業銀行や投資 銀行の専門トレーディング部門、主要なマネー・センターバンクの国際資金為替部門、ミ ューチュアル・ファンド、ヘッジファンドおよび個人投資家によるタイの証券のロング・ ポジションの清算によるものの方がタイ・バーツを弱めるのにショート売りより重要な役 割を果たした。 タイ・バーツにおけるドル及び円キャリー・トレードの利回り (マネー・マーケット利用¹) 日本円 円キャリー・ ドル ドル・キャリ 円の収 LIBOR トレードから ドルの LIBOR ー・トレード 益指数² (3 ヶ月) の収益 収益指数 (3 ヶ月) からの収益 1996 年 第 3・ 四半期 15.66 0.52 15.09 8.88 5.63 3.13 1996 年 第 4・ 四半期 23.42 0.49 22.85 6.03 5.56 0.45 1997 年 第 1・ 四半期 36.24 0.58 35.52 3.97 5.77 -1.73 1997 年 第 2・ 四半期 -1.33 0.66 -1.98 34.47 5.787 27.54 1997 年 第 3・ 四半期 -64.90 0.56 -65.15 -71.32 5.77 -73.47 [資料:IMF 国際金融統計、ブルーンバーグ、ペルグリン証券、IMF スタッフの推計] 1:年率ベース 2:タイ・マネー・マーケットの収益指数をドル及び円に変換して計算 キャリー・トレードはその後、グローバルな金融環境の変化によってさらに混乱させら れることになった。97 年の春に、英国、ドイツの金利が上昇した。日本の長期金利は日本 経済の先行きに明るさが見えた 3 月以降、2 パーセントから 2.5 パーセントに上昇し、日本 銀行が年度末には公定歩合を引き上げるかもしれないといううわさで短期金利も堅調とな った。たぶん最も重要だったのは、円に対するドルの上昇で、ペッグ制の中でドルのウェ ートが最も高いアジア諸国の競争力が徐々に損なわれた。このような理由で、米国、欧州、 日本で借り入れて、タイでポジションを持つことのうま味が薄れてきた。 しかしながら、国際投資家がそのポートフォリオの移し変えに関して理論的根拠として 指摘する主要因は、タイのファンダメンタルズ問題だった。通貨の切り下げを予想する者 は、バーツのフォワード売りにインセンティブを持った。彼らはバーツの切り下げを予想 したものの、その時期については正確にわからなかった。しかしながら、通貨の切り上げ の可能性は全くなかった。ポートフォリオ・マネジャーは、一方向への賭けが存在するこ とを感知した。これが彼らにポジションを維持させる原動力となった。 1997 年 7 月のタイ中央銀行の 280 億ドルのフォワード勘定のうち、およそ 70 億ドルを ヘッジファンドが直接行った取引と考えられる。ヘッジファンドはオフショアの取引相手、 タイ国内の外国銀行、タイの国内銀行を通じてもバーツのフォワード売りを行ったものと 見られる。そのため、そのポジションが中央銀行に移った。このような大掛かりな動きを 封じるような方法はない。 彼らは、明らかに 1997 年 2 月に何がしかのタイ・バーツの長期フォワード売りを行った ものの、ヘッジファンドの大掛かりなタイ中央銀行に対するバーツのフォワード売りは、 危機の過程の最終局面である 97 年 5 月に起こった。“群れ”の行動が危機を引き起こすも のとすれば、そのときヘッジファンドは前線にいたのではなくタイの国内会社、国内銀行、 国際商業銀行、国際投資銀行に導かれた最後尾であった。 97 年 7 月 2 日以降、外貨のエクスポージャーをヘッジしていない会社は、外貨のカバー に殺到し、バーツの切り下げに油を注いだ。外貨債務をヘッジしていないこれらの国内機 関がマーケットへ参加した期間がバーツの継続的な下落に対応した期間であり、ヘッジフ ァンド以上に大きな役割を演じたことは明らかである。マーケット参加者の見方によれば、 タイ・バーツはヘッジファンドがこぞってかなりのショート・ポジションを取ったアジア の唯一の通貨である。彼らがこの伝染の広がりに驚いたことは明らかで、他の国々のファ ンダメンタルズがタイに匹敵する問題があるとは見ていなかった。それゆえ、彼らの多く は他のアジア通貨の急激な動きに対し、油断をしていた。Van Hedge Fund Advisors は、 エマージング国の株式市場が広範に下落したことにより、97 年 8 月には 7 パーセントの損 失を記録したと推定している。市場参加者によれば、インドネシア、マレーシア、フィリ ピンでショート・ポジションを取った主な機関は、マネー・センターバンク、投資銀行、 国内投資家であると見ている。彼らは、ブローカー間市場への優れたアクセス力と信用供 与を国内で受ける能力によりショートにすることがよりうまく出来た。 タイ・バーツに加え、ヘッジファンドがポジションをかなり積み上げていた通貨はイン ドネシア・ルピアであった。実際のところ、ポジションの大部分は、通貨下落の初期段階 以降、ロング・ポジションであった。これは、ルピアがオーバーシュートしているという 見方、すぐ元に戻るという予想の反映であった。インドネシアの国内企業、銀行は巨額の 対外債務を抱えていただけではなく、収益の源泉となったプレミアムを獲得すべく、ルピ アの下落に対しオプションの売却も行った。国際銀行は、インドネシアの国内銀行や企業 のオプション売りの取引相手であったので、彼らのオフ・バランスシートのエクスポージ ャーを完全に把握していた。彼らはルピアの下落が始まれば、これらの機関がエクスポー ジャーをヘッジすることに殺到するだろうことを熟知していた。このような思惑が国際商 業銀行、国際投資銀行によって先導された外国投資家がインドネシアから資本を引き揚げ るのを必要以上に早めた。この動きは、ヘッジファンドの一部にそれがあったにせよ、そ れに追随したものではない。インドネシアの銀行や企業は、対外債務やオプション・ポジ ションのヘッジを試みようとし、バンドの幅が拡がるのに従って立場を変えた。ルピアは オーバーシュートしているとの見方からヘッジファンドがポジションをロングに持ってい ったのはずっと後になってからだったと報告されている。 ごく一部のヘッジファンドがマレーシア・リンギに対してほどほどのポジションを取っ たが、対ドルで 2.5 から 3.5 リンギに下落する期間に、決定的な役割を演じた者はいない。 マレーシアの株式を保有していたことを反映して、ヘッジファンドは、リンギの下落から 損失を被った。初期のリンギへの圧力は、対外債務の重みや国内の銀行システムへの不安 で投機的なショート・ポジションが積み上げられて生じたというよりは機関投資家は株式 市場が実体より高くなりすぎているという考え方により株式に対するロング・ポジション を閉じたことによって生じた。 フィリピン・ペソに対し、ヘッジファンドがかなりのポジションを取っていたというこ とを示すものは何もない。ペソをショートにできるオンバランスショートの取引は限られ ており、これができるのは主としてフィリピンの国内銀行、国際商業銀行、国際投資銀行 であり、彼らがオンショア取引でペソ下落に相場を張ったようである。 ヘッジファンドを含むが、ヘッジファンドに限られない国際投資家は韓国ウォンのショ ート・ポジションをとっても怖くないファンダメンタルズを時々感じたと主張するものの、 オン・バランスもしくはオフ・バランスでそうする手段はほとんどなかった。ショート・ ポジションを積み上げるような兆候は、ウォンの急速な下落にいたる期間にほとんどなか った。危機の最中にあっても、外国の投資家にとり、株式のロング・ポジションを生産す るときのコストが高く、これが資本の韓国からの流出を抑制していた。韓国の場合、ウォ ンに対する圧力が国内機関によってかけられたことは明らかである。 4.ヘッジファンドが用いる戦略と最近のパフォーマンス パフォーマンス分析に用いるデータは全て Hedge Fund Research(HFR)社のデータベ ースの VAMI(Value Added Monthly Index):Growth of 1000 を用いる。HFRI(Hedge Fund Research Index)の方法体系や計算方法は以下のとおりである。 HFRI Monthly Index に含まれているファンドの必要事項: ・ 月次リターンを HFR に報告する。 ・ 全ての手数料の正味リターンを HFR に報告する。 ・ ドル建て資産を HFR に報告する。 ・ 少なくとも運用資金として 5000 万ドルあるか、または少なくとも 12 ヶ月間取 引を行っているか。 HFRI 情報: ・ 全ての HFRI Index は等加重平均である。 ・ ファンドは HFR データベースに参加した月の翌月に HFRI に算入する資格があ るとする。例えば、HFR データベースに 6 月から参加したファンドは 7 月のパ フォーマンスを報告することで、7 月から Index に算入される。 ・ HFRI は月に 3 回更新される:速報更新(その月の営業日で 5 日目)、中間更新 (その月の営業日で 15 日目)、最終更新(翌月の最初の営業日)。 ・ 今月と 3 ヶ月前までのパフォーマンスは見積もりとして残し、変えることがある。 それより以前のパフォーマンスは固定し、これ以上変えることは無い。 ・ もし、あるファンドが清算/終業する場合、そのファンドが最後に報告したパフ ォーマンスまでは HFRI に含まれる。 ・ HFRI Fund of Funds Index は HFRI Fund Weighted Composite Index に含ま れない。 ・ 国内とオフショアの両方のファンドが HFRI に含まれている。 ・ あるマネージャーが mirrored-performance funds をパフォーマンスとして記載 した場合、資産の規模が大きい方のファンドだけが HFRI に含まれる。 4.1. コンバーティブル・アービトラージ(Convertible Arbitrage) 転換証券をポートフォリオに組み込むファンドで、普通は転換社債、株式部分のリスク を原株式のショート売りでヘッジする。マネージャーの一部は、ある状況では金利のエク スポージャーのヘッジを指向する。大部分のマネージャーはある程度のレバレッジを使い、 その範囲は 0 倍から 6 倍となっている。株式のヘッジ率の範囲は、30%~100%。ポートフ ォリオ内の債券の平均的格付けは、BB で個々の格付けは AA から CCC までの範囲。しか し債券発行体の倒産リスクは、原株式をショートにすることでヘッジされているので、リ スクはヘッジされていない債券の格付けが示すものよりは小さい。 VAMI :Growth of 1000 12000 Dow Jones Industrial Average HFRI Fund Weighted Composite Index HFRI Convertible Arbitrage Index 10000 8000 6000 4000 2000 01-2007 01-2006 01-2005 01-2004 01-2003 01-2002 01-2001 01-2000 01-1999 01-1998 01-1997 01-1996 01-1995 01-1994 01-1993 01-1992 01-1991 01-1990 0 パフォーマンスとしては上のグラフが示している通りに HFRI インデックスよりも低く、 市場のインデックスと同等であるように見える。しかし、債券を用いた戦略を組んでいる ので、インデックスよりもパフォーマンスが安定しており急激な変動は見られないことか ら、投資家がリスクを低く、確実なリターンを望むのならば、良い戦略だと言えるだろう。 4.2. ディストレスド・セキュリティーズ(Distressed Securities) 投資戦略として、ある会社が困難な状態にあると見られている、または状態に落ち入り そうなため、株価がその影響を受けている、あるいは受けそうな株式に投資、普通はショ ート売りしようとするものである。これには、会社の再編、倒産、会社の売却、再建が含 まれる。マネージャーのスタイルにより、金融債、社債、トレード・クレーム、普通株式、 優先株式及びワラントに投資される。戦略は“ハイ・イールド”もしくは”オーファン株 式(孤児の株式) “として小分類化される。幾人かのマネージャーはレバレッジを使う。S&P のプット・オプションもしくはプット・オプションのスプレッドを使い市場のスプレッド を管理するかもしれない。 VAMI :Growth of 1000 14000 Dow Jones Industrial Average HFRI Fund Weighted Composite Index HFRI Distressed Securities Index 12000 10000 8000 6000 4000 2000 05-2007 04-2006 03-2005 02-2004 01-2003 12-2001 11-2000 10-1999 09-1998 08-1997 07-1996 06-1995 05-1994 04-1993 03-1992 02-1991 01-1990 0 上のグラフを見ると、2003 年までは HFRI インデックスと同等ぐらいのパフォーマンス だったが、それ以降は急激に伸びていることがわかる。この戦略を用いるマネージャーは リスクを自ら進んで取りに行く姿勢である。その代わりに、倒産の危険がある企業の証券 は過小評価されていることが多く、魅力的である。 4.3. エマージング・マーケット一般(Emerging Market) 開発途上国もしくはエマージング国の会社の証券、国債に投資するファンド。投資は主 としてロングのポジションを取る。エマージング国には、ラテン・アメリカ、東ヨーロッ パ、旧ソ連邦圏、アフリカとアジアの一部が含まれる。 VAMI :Growth of 1000 2008 01-1990 01-1991 01-1992 01-1993 01-1994 01-1995 01-1996 01-1997 01-1998 01-1999 01-2000 01-2001 01-2002 01-2003 01-2004 01-2005 01-2006 01-2007 0 2006 2000 2004 4000 2002 6000 2000 8000 Emerging countries 1998 10000 18000 16000 14000 12000 10000 8000 6000 4000 2000 0 1996 12000 1994 14000 GDP:Emerging countries 1992 Dow Jones Industrial Average HFRI Fund Weighted Composite Index HFRI Emerging Markets (Total) 16000 1990 18000 左上のグラフを見ると、1998 年~1999 年に一時的に下落しているが、これは後述する連 続して続いたアジア通貨危機とロシア危機の影響である。右上のグラフが、発展途上国全 体の GDP をドル換算(1単位が 10 億ドル)で年ごとに表している。それを見ても、2 つ の危機の影響を受けているのがわかる。2003 年からはヘッジファンドのパフォーマンスも 発展途上国の GDP も同調するように上昇している。 4.4. エマージング・マーケット・アジア(Emerging Market Asia) アジアのエマージング国に投資するファンド。 VAMI :Growth of 1000 12000 5000 4000 4000 3000 2000 2000 1000 2008 2006 2004 2002 2000 1998 0 1996 01-1990 01-1991 01-1992 01-1993 01-1994 01-1995 01-1996 01-1997 01-1998 01-1999 01-2000 01-2001 01-2002 01-2003 01-2004 01-2005 01-2006 01-2007 0 1994 6000 アジア(発展途上国) 6000 1992 8000 Dow Jones Industrial Average HFRI Fund Weighted Composite Index HFRI Emerging Markets: Asia Index 1990 10000 GDP:アジア(発展途上国) 7000 左上のグラフを見ると、1998 年~1999 年にかけて一時的な下落が見られ、これはアジア 通貨危機の影響と思われる。前述したように、ヘッジファンドのアジアのエマージング市 場への参加は商業銀行、投資銀行、年金基金、ミューチュアル・ファンドや他の機関投資 家に遅れる形であり、マレーシアのマハティール元首相がヘッジファンドの投資行動によ って大きな被害を受けたと声高らかに主張した内容も根拠はないように思える。グラフを 見る限りでは、ヘッジファンドも多少なりとも被害を被っている。 右上のグラフが、アジアの発展途上国全体の GDP をドル換算(1単位が 10 億ドル)で 年ごとに表している。通貨危機の時期に全体としても一時的に GDP が下落しているが 2003 年から急上昇しているのがわかる。それに合わせて左上のグラフが表しているようにヘッ ジファンドのパフォーマンスも上昇している。 4.5. エマージング・マーケット・東ヨーロッパ/CIS(Emerging Market Eastern Europe / CIS) 東ヨーロッパ諸国及び CIS(旧ソ連邦)に投資を集中するファンド。 GDP:東ヨーロッパ/CIS VAMI :Growth of 1000 2008 2006 2004 2002 01-1990 01-1991 01-1992 01-1993 01-1994 01-1995 01-1996 01-1997 01-1998 01-1999 01-2000 01-2001 01-2002 01-2003 01-2004 01-2005 01-2006 01-2007 0 2000 5000 1998 HFRI Emerging Markets: Eastern Europe/CIS Index 1996 10000 HFRI Fund Weighted Composite Index 東ヨーロッパ/CIS 1994 15000 2000 1800 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 1992 20000 Dow Jones Industrial Average 1990 25000 左上のグラフを見ると、2003 年から急上昇しており、GDP(東ヨーロッパ/CIS )を表 している右上のグラフを見ても、2003 年から同様に上昇している。その他に 1996 年~1998 年にかけてヘッジファンドのパフォーマンスが上昇し、すぐに下降しているのがわかる。 これはアジア通貨危機後に起きたロシア危機の影響である。97 年 6 月のロシア株は RTS 指数が 400 ポイント、その後同年秋には 500 ポイントまで上昇するという人気相場の途上 にあり、外国人投資家の売買比率は全体の 80~90%でそのうちヘッジファンドが 3 分の 2 と言われていた。ロシア経済の崩壊の影響を、左上のグラフが表しているように、ヘッジ ファンドは受けている。ドリームチームと呼ばれていた LTCM は破綻まで追い込まれた。 しかし、そんな中、カンタム・ファンドのジョージ・ソロスはロシア危機を予測してい た。1998 年 8 月 13 日の「フィナンシャル・タイムズ」紙に載っている投稿記事の中に「編 集者への手紙」欄でジョージ・ソロスはこのような投稿をした。 「拝啓 ロシア金融市場の崩壊は最終局面に入った。証券を担保に資金調達をしてきた 銀行、証券会社は追い証を差し出すことができず、株式、債券は水びたしになって売り物 が殺到するだろう。政府の発行する債券や TB は絶壁から転げ落ちるように下落する。売り 物は一時的に吸収されるとしても、人々が再び預金を引き出すために銀行に殺到する危険 性をはらんでいる。今こそ、直ちに行動を起こすべきときである」 これはまだ始まりの部分であり、この後に通貨委員会の設置を提案、500 億ドルの資金の 準備の必要性を説いている。しかし、ソロスのこのような提案は IMF や G7 にはまったく 無視された。 4.6. エマージング・マーケット・グローバル(Emerging Market Global) 市場のコンディションやマネージャーの見方に基づいて、地域間にウェートを移すファ ンドである。あるマネージャーは、個々の地域のみに投資する。 VAMI :Growth of 1000 12000 Dow Jones Industrial Average HFRI Fund Weighted Composite Index HFRI Emerging Markets: Global Index 10000 8000 6000 4000 2000 01-2007 01-2006 01-2005 01-2004 01-2003 01-2002 01-2001 01-2000 01-1999 01-1998 01-1997 01-1996 01-1995 01-1994 01-1993 01-1992 01-1991 01-1990 0 前述したように、ロシア危機直前までのロシア株の売買比率は外国人投資家が 80~90% で、その中で 3 分の 2 をヘッジファンドが占めていた。それを象徴するかのようにグロー バルな戦略をとるこれらのヘッジファンドの多くもロシア株の売買を行っていたようで、 1998 年のロシア危機と同時期に大きくパフォーマンスが下落している。その後は、前述し たエマージング市場をターゲットとしている他のファンドのパフォーマンスと同じような 上昇の仕方をしている。 4.7. エクイティ・ヘッジ(Equity Hedge) 主要部分が株式のロング・ポジション保有を中核とし、常にショート売りまたは株式指 数オプションのショート売りでヘッジするファンド。マネージャーは資産の相当な部分を ヘッジし、レバレッジを使うことが共通している。ショート売りの場合、ヘッジされた資 産はロング・ポジション及び株式オプションと同じ額面となる。ロング・ポジション、S&P インデックスのプット、プット・スプレッドの保有とは関係なくショート売りを使う変形 もある。保守的な投資スタイルのファンドは、マーケット・エクスポージャーを 0 から 100% までを維持し、マーケット・リスクを軽減させる。強気のファンドは 100%を超えるエクス ポージャーにより、ある例ではショート・エクスポージャーでマーケット・リスクを拡大 させる。株式に加えて限定的にほかの証券に投資する。 VAMI :Growth of 1000 18000 Dow Jones Industrial Average HFRI Fund Weighted Composite Index HFRI Equity Hedge Index 16000 14000 12000 10000 8000 6000 4000 2000 05-2007 04-2006 03-2005 02-2004 01-2003 12-2001 11-2000 10-1999 09-1998 08-1997 07-1996 06-1995 05-1994 04-1993 03-1992 02-1991 01-1990 0 パフォーマンスを見る限りでは、常に市場インデックスと HFRI インデックスよりも良 いので、ヘッジファンドとしての役割、絶対リターンの追及をし、結果が出ていると思う。 1998 年の急上昇はインターネットバブルの影響で市場での利益の機会を逃さずに自分たち のファンドのリターンに生かせた結果だと思われる。 4.8. エクイティ・マーケット・ニュートラル(Equity Market Neutral) 関連を持つ株式間の価格の非効率性を追求することにより利益を上げようとするファン ドで、ショート及びロング・ポジションを組み合わせ、マーケット・エクスポージャーを 中立にする。その戦略は同じ額面のロング及びショートのポートフォリオを構成させよう とする株式を選択するための数量モデルが基礎になる。この戦略の一例は、数種類の産業 分野でもっとも強力な会社の株式についてロング・ポジションを作り、弱さの兆候を示す 株式にこれと対応するショート・ポジションをとるポートフォリオを組み立てる方法であ る。変形としては、株式をロングにし、株価指数先物をショートにする。 VAMI :Growth of 1000 12000 Dow Jones Industrial Average HFRI Fund Weighted Composite Index HFRI Equity Market Neutral Index 10000 8000 6000 4000 2000 01-2007 01-2006 01-2005 01-2004 01-2003 01-2002 01-2001 01-2000 01-1999 01-1998 01-1997 01-1996 01-1995 01-1994 01-1993 01-1992 01-1991 01-1990 0 マーケット・エクスポージャーを中立にする、つまり市場インデックスとの連動性を 0 にすることを目標に市場リスクを軽減する戦略の通りに、上のグラフを見ると、市場イン デックスを表すダウ・ジョーンズ工業平均とは連動していない。パフォーマンスは他の戦 略に比べると劣っているが、損失は被っておらず、確実なリターンを得ている。 4.9. エクイティ・ノンヘッジ(Equity Non-Hedge) 主として株式にロング・ポジションを取るファンドである。ただし、株式のショート売 り、または株価指数オプションのショート売りでヘッジする能力は持つ。これらのファン ドは、一般的には“ストック・ピッカー”として知られる。いくつかのファンドはリター ンを改善するためレバレッジを使う。マーケット・コンディションが不十分な根拠を与え る時には、ポートフォリオのヘッジを実行する。個々の株式についてショート・ポジショ ンを取るというご都合主義的なファンドでもある。エクイティ・ノンヘッジとエクイティ・ ヘッジファンドの重要な違いは、前者が常にヘッジを行わないところである。株式に加え て、他のタイプの証券に限定的に投資するかもしれない。 VAMI :Growth of 1000 18000 Dow Jones Industrial Average HFRI Fund Weighted Composite Index HFRI Equity NonHedge Index 16000 14000 12000 10000 8000 6000 4000 2000 01-2007 01-2006 01-2005 01-2004 01-2003 01-2002 01-2001 01-2000 01-1999 01-1998 01-1997 01-1996 01-1995 01-1994 01-1993 01-1992 01-1991 01-1990 0 上のグラフを見ると、インターネット・バブル時にリターンを得ているのは前述したエ クィティ・ヘッジ戦略と同じであるが、その後のパフォーマンスはエクィティ・ヘッジ戦 略とは少し違い、下降の傾向が見られる。これは常にヘッジしている戦略とそうでない戦 略との違いによって生まれたものだと思われる。2003 年からはパフォーマンスは好調であ る。 4.10. イベント・ドリブン(Event Driven) “会社のライフ・サイクル”への投資として知られる。これは、分離、合併、買収、倒 産による再建、再資本化(recapitalization)、株式の買い戻しというような議事録に掲載さ れる重要事象によって生まれる機会に対して投資する。ポートフォリオを”マージャー・ アービトラージ”と”ディストレスド・セキュリティーズ”との間で、力点を移動させる マネージャーがおり、もっと広い範囲にポートフォリオを置くマネージャーもいる。金融 商品としては、普通株式、優先株式のショート及びロング、債券、オプションなどである。 一部のマネージャーはレバレッジを使う。ファンドマネージャーは S&P プット・オプショ ンもしくはプット・オプション・スプレッドの購入によりマーケット・リスクをヘッジす る。 VAMI: Growth of 1000 14000 Dow Jones Industrial Average HFRI Fund Weighted Composite Index HFRI Event-Driven Index 12000 10000 8000 6000 4000 2000 01-2007 01-2006 01-2005 01-2004 01-2003 01-2002 01-2001 01-2000 01-1999 01-1998 01-1997 01-1996 01-1995 01-1994 01-1993 01-1992 01-1991 01-1990 0 上のグラフを見ると、パフォーマンスとしては HFRI インデックスと同等だと言えるだ ろう。また、来年度の予測をする上での情報として、2007 年 12 月 7 日のロイターにこの ような記事が載っていた。 米調査会社のヘッジファンド・リサーチ(HFR)のケニス・ハインツ社長は6日、投 資対象を日本に特化するヘッジファンドについて、2008 年はイベント・ドリブン戦略が有 望との見方を示した。同社長はロイターとのインタビューで「日本企業は大きな流れとし ては構造的改革を進める方向で動いており、イベント・ドリブン戦略に有望な機会が訪れ るだろう」と述べた。 4.11. フィクスド・インカム(全体)(Fixed Income(Total)) 各種のフィクスド・インカム・ファンドの総合目録である。すなわち、フィクスド・イ ンカム・アービトラージ、フィクスド・インカム・コンバーティブル・ボンド、フィクス ド・インカム・ハイ・イールド、ミスレーニアス・フィクスド・インカム、モーゲージ・ バックドがある。 VAMI: Growth of 1000 12000 Dow Jones Industrial Average HFRI Fund Weighted Composite Index HFRI Fixed Income (Total) 10000 8000 6000 4000 2000 01-2007 01-2006 01-2005 01-2004 01-2003 01-2002 01-2001 01-2000 01-1999 01-1998 01-1997 01-1996 01-1995 01-1994 01-1993 01-1992 01-1991 01-1990 0 フィクスド・インカムの全体としては、リスクが少なく、損失も抑えられていることが 上のグラフでわかる。市場インデックスとの連動性は見られず、相関はほとんどないと思 われる。 4.12. フィクスド・インカム・アービトラージ(Fixed Income Arbitrage) マーケット中立のヘッジ戦略を取る。関連のある債券間の価格差を追及することにより 利益を得ようとするもので、金利リスクのエクスポージャーを中立にする。フィクスド・ インカム・アービトラージは、様々な戦略の総括的な記述であり、債券に投資し、イール ド・カーブの変化に対し、エクスポージャーを排除もしくは削減することに重点を置く。 マネージャーは関連のある債券間の比較的ミスプライスであるものを捜そうとする。一般 的なタイプへの債券ヘッジ取引が含まれる。すなわち、イールド・カーブのアービトラー ジ、社債と国債のイールド・スプレッド、現物と先物のアービトラージである。 VAMI: Growth of 1000 12000 Dow Jones Industrial Average HFRI Fund Weighted Composite Index HFRI Fixed Income: Arbitrage Index 10000 8000 6000 4000 2000 01-2007 01-2006 01-2005 01-2004 01-2003 01-2002 01-2001 01-2000 01-1999 01-1998 01-1997 01-1996 01-1995 01-1994 01-1993 01-1992 01-1991 01-1990 0 債券間のミスプライスを狙った戦略は、上のグラフを見ればわかるが、利益を出すのが 非常に難しい。市場の非効率性を逆手に取り、本来の価値とは違う価格で取引されている 債券、現物、先物を見つけなければならない。市場は確かに非効率ではあるが、そのミス プライシングから益を得ようとしているマネージャーが他にも多くいれば、そのミスプラ イシングの差はすぐに無くなってしまう。 4.13. フィクスド・インカム・コンバーティブル・ボンド(Fixed Income Convertible Bond) 主として転換債券に対してロング・オンリーのファンドである。転換債券は、債券及び 株式両方の性格を持つ。もし原株式の値が上がれば、この価値増加分を反映し、転換債券 の価値も上がる。株式の価格が下がれば、ストレート債券と同じ性質となる水準まで転換 債券の価値が下がるので、価値の下落に対するプロテクションが行われる。 VAMI: Growth of 1000 Dow Jones Industrial Average 12000 10000 HFRI Fund Weighted Composite Index 8000 HFRI Fixed Income: Convertible Bonds Index 6000 4000 2000 01-2007 01-2006 01-2005 01-2004 01-2003 01-2002 01-2001 01-2000 01-1999 01-1998 01-1997 01-1996 01-1995 01-1994 01-1993 01-1992 01-1991 01-1990 0 上のグラフを見ると、株式の性格も持っているので、市場インデックスと同じような動 きを見せているのがわかる。その価値が下がっても、プロテクションが行われる利点があ る。しかし、株式への転換権が付いているため、利率は普通社債よりも低く設定されてお り、あまり高いリターンを望めない。 4.14. フィクスド・インカム・ハイ・イールド(Fixed Income High-Yield) マネージャーは、投資非適格債券に投資する。目的は、現在のクーポン収入の受け取り から過小評価されている債券の取得にまたがる。発行体のクレジット・リスクの評価に力 点が置かれる。ハイ・イールド商品には、エクステンディブル/リセット(償還繰り延べ 可能証券、再構成可能証券)、インクリージング・レート・ノート(金利が上がってゆく証 券)、ペイ・イン・カインド証券(別種の証券で償還が行われる証券)、スプリット・クー ポン証券(クーポン部分を切り離せる証券)及びユーザブル・ボンドなどがある。 VAMI: Growth of 1000 12000 Dow Jones Industrial Average HFRI Fund Weighted Composite Index HFRI Fixed Income: High Yield Index 10000 8000 6000 4000 2000 01-2007 01-2006 01-2005 01-2004 01-2003 01-2002 01-2001 01-2000 01-1999 01-1998 01-1997 01-1996 01-1995 01-1994 01-1993 01-1992 01-1991 01-1990 0 上のグラフを見る限りでは、良いパフォーマンスをしているようには思えない。2007 年 の 10 月 24 日には、米ハイイールド債市場で、電力・ガス大手のエナジー・フューチャー・ ホールディングス(旧TXU)が起債した 75 億ドルのジャンク債が人気を集めた。応募者 利回りは最高 11.625%で、米国のジャンク債としては過去最大の発行額である。 4.15. フィクスド・インカム・モーゲージ・バックド(Fixed Income Mortgage-Backed) 抵当証券に投資するファンド。多くのファンドは、AAA の格付けを持つ証券に焦点を絞 っている。証券としては、政府機関債、政府出資企業債、プライベート・ラベル証券、レ ート調整済みパス・スルー証券、レート調整済み担保証券(CMO)、不動産抵当投資証券 (REMIC)、ストリップ・モーゲージ・バックド証券(SMBS)など、ファンドはこれらの 証券のミスプライシングからの利益を狙う。元本償還期前の支払いリスク(プリペイメン ト・リスク) 、金利リスクは共通である。先物、ショート・セールス・オプションなどのレ バレッジも使われる。 VAMI: Growth of 1000 Dow Jones Industrial Average 12000 10000 HFRI Fund Weighted Composite Index 8000 HFRI Fixed Income: Mortgage-Backed Index 6000 4000 2000 01-2007 01-2006 01-2005 01-2004 01-2003 01-2002 01-2001 01-2000 01-1999 01-1998 01-1997 01-1996 01-1995 01-1994 01-1993 01-1992 01-1991 01-1990 0 上のグラフを見ると、パフォーマンスは市場インデックスよりも低く、さらに 2007 年に は米国のサブプライム住宅ローンの問題がモーゲージ証券(住宅抵当証券:住宅ローンを 証券化したもの)にも影響を与えている。一部のモーゲージ証券が 2006 年 11 月頃から、 価格がじわじわと下落を始めた。そして今年、特に 2 月に入って急落となり、アジア発世 界的株価急落とも相俟って事態が沈静化するのに約 1 ヵ月かかる事になった。 4.16. マクロ(Macro) 株式、金利、外国為替、商品の予想される価格動向に対してレバレッジを効かせて投資 するファンドである。マクロ・マネージャーは“トップ・ダウン”のグローバル・アプロ ーチを行い、予想するマーケットの動きに対し、いかなる市場のいかなる商品にも投資す る。このような動きは、世界経済、政治、グローバルなモノ、カネ両面の資源の需給関係 の予想される変化によってもたらされるかもしれない。価格の動きを増幅させるため、取 引所上場及び店頭デリバティブ商品がよく使われる。 VAMI: Growth of 1000 14000 Dow Jones Industrial Average HFRI Fund Weighted Composite Index HFRI Macro Index 12000 10000 8000 6000 4000 2000 01-2007 01-2006 01-2005 01-2004 01-2003 01-2002 01-2001 01-2000 01-1999 01-1998 01-1997 01-1996 01-1995 01-1994 01-1993 01-1992 01-1991 01-1990 0 上のグラフを見ると、高いパフォーマンスを常に維持していることに注目したい。90 年 代前半は、アジア、ラテンアメリカなどにバイアスを置いてポートフォリオを組むマクロ・ ファンドが多かった。レバレッジの大きさがマクロ・ファンドの特徴である。特に市場性 があり、大量の資金が動く為替、金利市場での運用に大きなレバレッジを利用する。通貨 危機の時にはマクロのヘッジファンドが動くことが多く、今までマクロのファンドのパフ ォーマンスに一番大きな影響を与えてきたのは、為替市場であった。 マクロ・ファンドが為替市場に参入すると、銀行、投資銀行、生命保険、証券会社のト レーダーなど機関投資家が追随し、その結果、為替市場の変動を大きくする。97 年にマレ ーシアのマハティール首相や香港の通貨危機が目の敵にしたのは、マクロのヘッジファン ドであった。 4.17. マーケット・タイミング(Market Timing) 資産をマーケットの上昇トレンドが始まったと思われる方へ移し、またマーケットが下 降トレンドに入ったと思われるところから引き上げるような配分を行う投資である。主と して、ミューチュアル・ファンドとマネー・マーケット・ファンドの間で資金を移動させ る。典型的には、トレンドに沿った指標がファンドの方向を決定するのに用いられ、売り 買いのシグナルと見なされる。買いのシグナルが出た時にはキャピタル・ゲインを得よう として資産をマネー・マーケット・ファンドからミューチュアル・ファンドに移す。マー ケットが下降トレンドに入り売りシグナルとなれば、ミューチュアル・ファンドに投資し ている資産は売られ、次の上昇への動きが来るまでは、安全性を維持するためにマネー・ マーケット・ファンドに移す。マーケットが下降局面にある間はミューチュアル・ファン ドへの投資を避けようとするのが目的である。 VAMI: Growth of 1000 12000 Dow Jones Industrial Average HFRI Fund Weighted Composite Index HFRI Market Timing Index 10000 8000 6000 4000 2000 01-2007 01-2006 01-2005 01-2004 01-2003 01-2002 01-2001 01-2000 01-1999 01-1998 01-1997 01-1996 01-1995 01-1994 01-1993 01-1992 01-1991 01-1990 0 マーケット・タイミングの戦略は、一般的な株式投資信託よりもリスクが低い運用手法 と考えられる。そのことは上のグラフを見ればわかるが、大きな損失を被っている時期が ない。パフォーマンスとしても、2000 年からは、市場インデックスの下降とは逆に、上昇 傾向にある。 4.18. マージャー・アービトラージ(Merger Arbitrage) 時にはリスク・アービトラージと言われるもので、レバレッジ・バイアウト、合併、敵 対的買収などの事象に基づいて投資する。通常は、買収の対象になっている会社の株は評 価され、買収しようとしている会社の株は価値が下がる。これらの戦略は、買収される会 社の株式の購入によりリターンを生み出す。時には買収側の会社の株のショート売りを行 う。マネージャーは、普通株式のアウトライトでの売買に変わるリスクの小さい代替物と して、株式のオプションを使う。大部分のマージャー・アービトラージ・ファンドは、S&P のプット・オプションもしくはオプション・スプレッドを購入することにより、市場リス クをヘッジする。 VAMI: Growth of 1000 12000 Dow Jones Industrial Average HFRI Fund Weighted Composite Index HFRI Merger Arbitrage Index 10000 8000 6000 4000 2000 01-2007 01-2006 01-2005 01-2004 01-2003 01-2002 01-2001 01-2000 01-1999 01-1998 01-1997 01-1996 01-1995 01-1994 01-1993 01-1992 01-1991 01-1990 0 上のグラフを見る限りでは、市場インデックスと同等かそれ以上のパフォーマンスだと いえる。上に述べられているものよりも実際の買収合併はもっと複雑な方法や過程がある のでその成否を的確に見通す分析力や判断力がマネージャーに求められている。 敵対的買収といえば、日本で行われた事例として、2003 年 12 月、米投資ファンド「ス ティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンド」が東証2部上場のユシ ロ化学工業と毛織物染色業大手のソトーに、日本で初めての本格的な敵対的TOBを仕掛 けました。スティールは両社の株主に市場価格よりも高い買い付け価格を提示、ユシロ/ ソトーは1株配当金を大幅増配し対抗、それを受けて上昇した株価がスティールの買い付 け価格を上まわり、結局TOBは不成立となりました。 4.19. リラティブ・バリュー・アービトラージ(Relative Value Arbitrage) 金融商品間、例えば、株式・債券、オプション、フューチャーなどの相対的価格差から 利益を狙う。マネージャーは、金融商品価格の不適切さを決定するのに数字的分析、ファ ンダメンタル分析、テクニカル分析を使う。原証券、関係の深い証券、証券グループ、ま たマーケット全体との関連で証券には不適切なプライシングが行われる。多くのファンド はレバレッジを使い、全世界に収益機会を探る。アービトラージ戦略にはディビデンド・ アービトラージ、ペア・トレーディング、オプション・アービトラージ、イールド・カー ブ・トレーディングが含まれる。 VAMI: Growth of 1000 12000 Dow Jones Industrial Average HFRI Fund Weighted Composite Index HFRI Relative Value Arbitrage Index 10000 8000 6000 4000 2000 01-2007 01-2006 01-2005 01-2004 01-2003 01-2002 01-2001 01-2000 01-1999 01-1998 01-1997 01-1996 01-1995 01-1994 01-1993 01-1992 01-1991 01-1990 0 上のグラフを見る限りでは、いいパフォーマンスを常に維持している。LTCM もこの戦 略を用いていたと言われている。LTCM には 1997 年にノーベル経済学賞を受けた経済学者 であるマイロン・ショールズとロバート・マートンが参加し、当時はドリーム・チームと 呼ばれていた。運用方針は、流動性の高い債券がリスクに応じた価格差で取引されていな い事に着目し、実力と比較して割安と判断される債券を大量に購入し、反対に割高と判断 される債券を空売りするものであった。コンピュータを用いて多数の銘柄について自動的 にリスク算出、判断を行って発注するシステムを構築した。また、個々の取引では利益が 少ないことから、発注量を増やし、レバレッジを効かせて利益の拡大を図った。その後、 1995 年には M&A、1996 年には金利スワップ取引、1997 年には株式やモーゲージ取引の ように、低流動性かつ不確実性が高い市場取引にも参入していった。 4.20. セクター(トータル) (Sector (Total)) エネルギー、金融、保健、バイオテクノロジー、金属・工業、不動産、テクノロジー、 その他など業種の総合。 VA: Growth of 1000 VAMI: Growth of 1000 2500 25000 Dow Jones Industrial Average HFRI Fund Weighted Composite Index HFRI Sector (Total) 20000 15000 10000 Total 2000 1500 1000 5000 500 0 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 01-1990 01-1991 01-1992 01-1993 01-1994 01-1995 01-1996 01-1997 01-1998 01-1999 01-2000 01-2001 01-2002 01-2003 01-2004 01-2005 01-2006 01-2007 0 左上のグラフを見ると、セクターファンド全体としては、ヘッジファンドインデックス やダウ工業平均よりもパフォーマンスが良いのが分かるが、1998 年代後半から 2003 年ま での間に急激な変化が見られる。これは後ほどのテクノロジーファンドの説明のところで も述べるが、インターネットバブルの影響を受けているのだと思われる。 右上のグラフが表しているのは、左上のグラフと同様に 1990 年の付加価値(Value Added)を 1000 という基準にして、アメリカの産業全体の付加価値の増加を表している。 それを見ればわかるが、単調に増加しているだけで、左上のグラフに見られるような急激 な変化は見られず、投資家の期待の拡大によってこの変化はもたらされたことが分かる。 4.21. セクター(エネルギー)(Sector (Energy)) エネルギー分野の投資に焦点を絞った戦略。セクターの中で証券を分散、例えば証券を エネルギー・セクターの小分類である石油業に特化するなどの方法で、ロング及びショー トのポジションを取って投資する。 VA: Growth of 1000 VAMI: Growth of 1000 3500 18000 Dow Jones Industrial Average HFRI Fund Weighted Composite Index HFRI Sector: Energy Index 16000 14000 12000 10000 8000 Energy 3000 2500 2000 1500 6000 4000 1000 2000 500 0 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 01-1990 01-1991 01-1992 01-1993 01-1994 01-1995 01-1996 01-1997 01-1998 01-1999 01-2000 01-2001 01-2002 01-2003 01-2004 01-2005 01-2006 01-2007 0 左上のグラフを見ると、2004 年までは HFRI インデックスよりも悪いパフォーマンスで あるが、そこから急激にパフォーマンスが向上している。右上のグラフと比較すると、パ フォーマンスがエネルギー産業の付加価値と同調しているかのように、同じ上昇傾向を示 しているのがわかる。セクター(エネルギー)戦略を用いているヘッジファンドのマネー ジャーたちがエネルギー産業の付加価値の増加を見逃さずに自分たちのリターンに生かし ている証明でもある。 4.22. セクター(ファイナンシャル)(Sector (Financial)) 銀行持株会社、銀行、貯蓄組合、保険、モーゲージ・バンク、その他の金融機関の証券 に投資する戦略である。 VAMI: Growtrh of 1000 14000 12000 10000 8000 Dow Jones Industrial Average HFRI Fund Weighted Composite Index HFRI Sector: Financial Index VA: Growth of 1000 3500 3000 Financial 2500 2000 6000 1500 4000 1000 2000 500 0 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 01-1990 01-1991 01-1992 01-1993 01-1994 01-1995 01-1996 01-1997 01-1998 01-1999 01-2000 01-2001 01-2002 01-2003 01-2004 01-2005 01-2006 01-2007 0 左上のグラフを見ると、全体的に堅調に増加の傾向を示しているが、1998 年に一時的な 下落を示している。これは 98 年秋に起こったロシアの金融危機や大手ヘッジファンド (LTCM)の経営破綻の影響だと思われる。欧米の金融機関が 1000 億ドルもの資金を投資 しており、また LTCM の運用手法を真似していた金融機関も多くあり、ロシアの金融危機 による金融機関全体に与えた不安が左上のグラフの 98 年の下落にも表れている。 4.23. セ ク タ ー ( ヘ ル ス ケ ア / バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー )( Sector (Healthcare/Biotechnology)) 保健、薬品、バイオテクノロジー、医療機器分野の会社に投資するファンド。 12000 10000 8000 6000 4000 VAMI: Growth of 1000 Dow Jones Industrial Average HFRI Fund Weighted Composite Index HFRI Sector: Health Care/Biotechnology Index VA: Growth of 1000 3000 2500 Health Care/Biotechnology 2000 1500 1000 2000 500 0 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 01-1990 01-1991 01-1992 01-1993 01-1994 01-1995 01-1996 01-1997 01-1998 01-1999 01-2000 01-2001 01-2002 01-2003 01-2004 01-2005 01-2006 01-2007 0 左上のグラフを見ると、2000 年における上昇と 2002 年における下降が目立っているが、 右上のヘルスケア/バイオテクノロジー産業の付加価値には大きな変動は見られないのを 考慮すると、投資家や市場間だけの一種の動きだけだと思われる。それ以降は 2003 年から パフォーマンスは上昇傾向を示している。 4.24. セクター(リアルエステート)(Sector (Real Estate)) 不動産投資信託(REIT)や不動産会社の証券に投資する。いくつかのファンドは直接、 不動産にも投資する。 VA: Growth of 1000 VAMI: Growth of 1000 2500 12000 Dow Jones Industrial Average HFRI Fund Weighted Composite Index HFRI Sector: Real Estate Index 10000 8000 6000 Real Estate 2000 1500 1000 4000 2000 500 0 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 01-1990 01-1991 01-1992 01-1993 01-1994 01-1995 01-1996 01-1997 01-1998 01-1999 01-2000 01-2001 01-2002 01-2003 01-2004 01-2005 01-2006 01-2007 0 不動産投資信託(REIT)は、不動産からの収益を投資家へ還元する金融商品のうち、と くにその受益権が証券として扱われる不動産特定目的会社、及び、この会社が発行する証 券を指しており、収益の大半が保有不動産の家賃による。そのため一般の株式にくらべて 大幅な配当増、証券価格の乱高下は期待しにくい面がある。そのため、ヘッジファンドの マネージャーのパフォーマンスも左上のグラフのように低いのである。 4.25. セクター(テクノロジー)(Sector (Technology)) テクノロジー分野の証券に投資する。セクターはマルチメディア、ネットワーキング、 パーソナル・コンピューター製造業や小売業者、半導体、ソフトウェアや電気通信業など に小分類できる。 VAMI: Growth of 1000 VA: Growth of 1000 18000 3000 Dow Jones Industrial Average HFRI Fund Weighted Composite Index HFRI Sector: Technology Index 16000 14000 12000 10000 8000 Technology 2500 2000 1500 6000 1000 4000 2000 500 0 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 01- 2005 01- 2006 01- 2007 01- 2003 01- 2004 01- 2000 01- 2001 01- 2002 01- 1997 01- 1998 01- 1999 01- 1995 01- 1996 01- 1992 01- 1993 01- 1994 01- 1990 01- 1991 0 左上のパフォーマンスのグラフを見るとわかるのだが、1990 年代後半から 2000 年を最 高値として急上昇し、2003 年近くまでその影響が残っている。これはまさしくインターネ ットバブル(IT バブル)の時期と重なっている。インターネットバブルとは 1990 年代後 半、米国市場を中心に起ったインターネット関連企業の実需投資や株式投資の異常な高潮 のことであり、ヘッジファンドもこの機会を逃さず利益をあげている。 右上のグラフが表しているのは、左上のグラフと同様に 1990 年の付加価値(Value Added)を 1000 という基準にして、アメリカのテクノロジー産業の付加価値の増加を表し ている。それを見る限りでは、確かに全体的に堅調に増加していっており、1990 年代後半 にかけて増加率が少し大きくなっているように見えるが、急激に伸びているとは思えない。 やはり、インターネットバブルは過大な期待を寄せた投資家の過剰投資によってもたらさ れたバブル現象であったと結論付けられる。 4.26. ショート・セリング(Short Selling) 所有していない証券を売却する投資戦略。価格の下落を予想する証券から利益を得るた めに用いられる手法。ショート・セールスを有効にするため、証券の売り手は、買い手に 受け渡しするために証券を借り入れる。売り手は、貸し手に対し、市場で証券を購入して 返済する。もし売り手が市場で売り値より安く買い戻せれば、利益が生まれる。しかし、 価格が上がれば損失が生じる。ショート売りを行う場合、借りた証券の市場価格と同等の 他の証券もしくは現金を証券の貸し手に担保として差し出さねばならない。預託された担 保は、借りた証券の市場価格の変動により、減少したり増加する。 VAMI: Growth of 1000 12000 Dow Jones Industrial Average HFRI Fund Weighted Composite Index HFRI Short Selling Index 10000 8000 6000 4000 2000 01-2007 01-2006 01-2005 01-2004 01-2003 01-2002 01-2001 01-2000 01-1999 01-1998 01-1997 01-1996 01-1995 01-1994 01-1993 01-1992 01-1991 01-1990 0 上のグラフを見る限りでは、ショート・セリングのパフォーマンスは全然ダメじゃない かと思えるが、1990 年代に入ってからのニューヨーク株は一貫して上昇トレンドにあった ことを考慮しなければならない。空売りを専門とするこれらのファンドにとって環境は良 くなかったはずだが、パフォーマンスを落とさなかったことに注目すべきである。仮にニ ューヨーク株のバブルがはじけて、相場が弱気市場に入ったときには大きく成果を上げる ことが期待される。そのためにも、他のファンドと組み合わせて投資するという方法を取 る投資家たちがいる。一種の保険なので保険料はその分だけ負担になるが、ヘッジファン ドの空売り専門のファンドは少しでも収益を上げてくれるので、優れた商品だといえる。 4.27. ファンド・オブ・ファンド(Fund of Funds) ファンドもしくはマネージド・アカウントを運用する多数のマネージャーに投資する。 この戦略は、個々のマネージャーの投資のリスク(変動性)を相当に低くする目的で、マ ネージャーのポートフォリオと分散させるための仕掛けである。ファンド・オブ・ファン ドのマネージャーは、ポートフォリオのために投資する戦略を選ぶ裁量権を持っている。 ファンド・オブ・ファンドのマネージャーは、単一戦略を持つ無数のマネージャーに資金 を配分するか、複数の戦略をとる無数のマネージャーに資金を配分するかもしれない。フ ァンド・オブ・ファンドの最小投資金額は、個々のヘッジファンドやマネージド・アカウ ントのそれよりも小さい。 VAMI: Growth of 1000 12000 Dow Jones Industrial Average HFRI Fund Weighted Composite Index HFRI Fund of Funds Composite Index 10000 8000 6000 4000 2000 01-2007 01-2006 01-2005 01-2004 01-2003 01-2002 01-2001 01-2000 01-1999 01-1998 01-1997 01-1996 01-1995 01-1994 01-1993 01-1992 01-1991 01-1990 0 上のグラフを見る限りでは、パフォーマンスはそれほど高くはないが、個人投資家にと ってファンド・オブ・ファンドの存在はとてもメリットがある。世界中にどれだけのヘッ ジファンドが存在するかわからない中で、有望なヘッジファンドを選ぶのは、個人投資家 にとってはまず不可能なことであるし、情報面での壁にも突き当たる。したがって、長年 の経験とヘッジファンドの情報の入手ルートを確立している投資顧問会社が運用するファ ンド・オブ・ファンドを通じて、ヘッジファンドに近づくことが個人投資家にとって最良 の選択肢だと言える。 5.考察 今回の論文で書く上で最も痛感したことは、ヘッジファンドの情報を得ることの難しさ、 またヘッジファンドの姿の捉え難さである。自分自身の知識や情報網の足りなさのせいも あるが、今ではインターネットが普及し、様々な情報が飛び交うにもかかわらずヘッジフ ァンドに関する情報は少ないと思う。確かに過去のヘッジファンドが取った戦略や行動の 分析やレポートは多くあるので、少ないと言うのは語弊があるかもしれない。しかし、新 鮮な情報を得るには困難を極める。ヘッジファンドのパフォーマンスはマネージャーの手 腕にかかっている比重が大きいが、今日のヘッジファンドのマネージャーが何を考えて、 どのような戦略を行うかを知ることはできない。それはヘッジファンドに課せられている 規制が少なく、情報開示を必要以上にしていない関係もある。そんな中で最近では、ヘッ ジファンドの規制をもっと厳しくしようという動きが見られるが、そうなるとヘッジファ ンドとしての魅力が失われる恐れがある中で難しい議論になっていくと思われる。 参考文献 <文献> 「ヘッジファンドの素顔」、編者 IMF、訳者 松崎延寿、シグマベイスキャピタル 「ヘッジファンドの虚実」、著者 足立真一、日本経済新聞社 「ヘッジファンドの世界」、編者 J.レダーマン+R.A.クレイン、訳者 タナティブアセット研究会、東洋経済新報社 <HP> Hedge Fund Research 社(http://www.hedgefundresearch.com/) 中央信託銀行オル
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