I ICG Report

I
ICG Report
2013年12月04日発行 第369号
発行:ICGインベストメント
ICGレポート編集部
沢井智裕/山本信幸/藤居玲子
日本株ファンドは今から買える
~クリーンテク、バイオ、スマホ、SNS関連も面白い~
アジア株高は香港から
香港では低金利を背景に不動産価格が 1997 年の高値を更新し、金融街セントラル地区を含む
香港島の 97 年を 100 とした不動産価格は 120 を突破した。貧富の格差が拡大する香港では民衆
の不満が鬱積している。特に不動産価格の高騰は、一般大衆にとって持ち家の夢を雲散霧消させ
ることになりかねない。毎週末の対北京政府、香港政庁に対する大規模デモ行進は今や常態化し
てしまった。
不動産価格が高騰している理由として、中国本土からの法人による土地購入や中国本土の富裕
層の住宅購入が問題となっていた。そんな中、香港政庁は春先から不動産売買の際に外国人や外
国法人に対して購入時に取得価格の 15%の印紙税を課した。さらに地元民を含む売り手に対して
も、不動産の保有期間が 6 カ月以下の場合に売却価格の 20%、1 年以下の場合は 15%、3 年以下で
も 10%の印紙税を課した。
効果はてきめん。不動産価格は高止まりしているが、売買件数が減少に向かった。香港域内の
大手金融機関の大半は、2014 年に香港の不動産価格が 10 - 20%程度下落すると予想している。
低金利の香港はカネ余り状態にある。香港政庁の不動産規制によって行き場を失った資金は、
間違いなく株式市場へ向かう。すでに兆候はある。ハンセン指数は 9 月高値の 2 万 3600 ポイン
ト台を超えて、11 月 28 日には一時 2 万 4000 ポイントを付けた。不動産市場で行き場のなくなっ
た資金の投資行動は慎重ながらも、リスクマネーとして株式市場に流入し始めている。英系スタ
ンダードチャータード銀行は、来年のハンセン指数の予測を 2 万 8000 ポイントとしているが、
ボーダレスの時代に香港の株価だけが急伸するとはとても思えない。やはりバックグラウンドと
して米量的緩和の継続や米債務引き上げ問題の決着等の懸案事項をクリアする必要がある。
1 月 15 日を期限とする 2014 年度暫定予算問題については、アメリカ国民が共和党(特にティー
パーティー)に対し譲歩を求め始めている。共和党内部でも無用な抵抗を続けて再び政府機能を
麻痺させれば国内からの批判が高まり、2014 年に控える中間選挙で惨敗するのではないかとい
う危機感を募らせているので、国民の意向に従わざるを得ないだろう。
アジアの二大市場が相場を引っ張る
11 月 27 日時点で日経平均株価の年初来の上昇率は 63.95%に達した。日本銀行による量的緩和
政策と同時に円高是正、そして MY 株高によって支えられてきた。この動きは来年も続くことに
なりそうだ。今年ほどの上昇率は望めないにしても、日経平均株価で 2 万円に限りなく手の届く
ところまで近づくのではないだろうか。今年は「民主党政権 3 年半の株安是正」であり、今後は
「海外株高分の恩恵」に預かることができるはずだ。
金融政策による協調も米 FRB が望むところである。お互いに量的緩和を継続できれば両者の責
任問題にはならないからだ。それでも量的緩和縮小が早ければ来年中に実現するアメリカよりも
日本のほうがより量的緩和に集中できるかもしれない。そうすると為替もさらなる円安に向かう
場面があるだろう。
120 円レベルまでは「良い円安」として株価も上昇していくことが予想される。輸入物価は値
上がりするが、末端の小売価格に転嫁せずとも、輸入企業によるコストカット努力でしのぐ事が
1
できるはずである。輸入企業はこれまで「円高の恩恵を十分に受けて来て体力がある」からだ。
財務省が 11 月 20 日に発表した 10 月の貿易統計は、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支
が1兆906億円の赤字となり、過去3番目の赤字水準となった。赤字は16カ月連続で、先月に引き
続いて過去最長を更新している。輸出が金額、数量とも増加しているのだが、一方で輸入の増加
も大きく、貿易赤字は拡大傾向が続いている。このまま赤字拡大が続けば、やがて経常収支も赤
字に転落してしまう可能性が出てくる。日本企業は決済用の米ドルを手立てするために手元の日
本円を売ってドルを買わなくてはならなくなる。
また日本の国債の利回りが0.6%前後に留まる一方で、アメリカ国債の利回りは2.7%前後まで上
昇しており、日米間の長期金利差は2%以上に拡大している。この金利差が今後、為替相場にボディー
ブローのように利いてくるはずである。つまり日本の生保を中心とした機関投資家や個人投資家
は、高利回りを求めて自国通貨の日本円を売却して、米ドルを購入して米国債に投資するという
ことになる。
今から買うべきファンドとは?
日本在住の読者にはやはりアクティブ型の日本株ファンドが適している。株価指数に連動する
インデックスファンドやETFもかなりパフォーマンスを上げるに違いないが、セクターを絞った
テーマ関連ではクリーンテクノロジ-関連ファンド、バイオテクノロジー関連ファンドが面白い
だろう。ナスダック市場が活況なことからスマホ機器関連、ソーシャルネットワーク関連株を組
み入れたファンドもいいだろう。
証券業界の古いことわざで「節分天井、彼岸底」と言う言葉がある。年末のラリーが年明け後
の2月上旬ごろまで続き(この頃、米債務上限引き上げの問題が議論されているはず)、その後
は一旦株価が軟調になる場面があるかもしれないが、いい買い場が来るはずである。
世界分散型を考えている投資家は、ここ半年ほど調整が続いているフィリピン、インドネシア
といったイスラム圏を除くアジア市場に資金が戻り始めている点に注目しよう。冒頭で取り上げ
た香港、台湾、シンガポール、韓国というかつて「フォー・リトルドラゴン(4つの龍)」と呼
ばれた国や地域の株式市場も景気回復を先取りする形で相場が持ち直している。それに追随して
インド、ベトナム市場がいい。
タイでは、インラック首相による「恩赦法」の中に、タクシン元首相の帰国が盛り込まれてい
るため、反タクシン派はもとより、タクシン派にも反対する動きが出ており、それが大規模デモ
を誘発している。しかしながらタイ金融当局の動きは素早かった。タイ中央銀行は11月27日に開
いた金融政策委員会で、政策金利(翌日物レポ金利)を現行の年2.5%から0.25%引き下げ、2.2
5%にすることを賛成多数で決めた。97年以前のタイであれば、金融当局のこのような素早い動
きは考えられなかった。金融当局と市場との間でしっかり「対話」が行われている国は投資家の
信頼も厚くなる。
欧米の投資家は自国の成長率が低いため、以前のように簡単には自国に資金を引き揚げたりし
ないだろう。成長性の高い市場に留まって経済成長の果実を得るスタンスに変更はないはずだ。
日本もその洗練されたアジア諸国の恩恵を受けることになる。来年は環太平洋経済連携協定
(TPP)のルール作りや加盟問題が真剣に議論されるだろう。日本もぜひ、各国の動きに後れを
取らずに加盟に邁進してもらいたいものである。
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Q&A
Q. 香港の銀行に口座を保有していますが、運用のアドバイスをしていただけますか?
A. 30万米ドル以上の金融資産があれば、年間契約によりポートフォリオの作成やファンドの選
択をさせていただきます。ご遠慮なくご相談下さい。まずは [email protected] までご相
談の内容をメールして下さい。HSBC、スタンダードチャータード銀行、ハンセン銀行、シティバ
ンク等、どの口座にも対応させていただきます。
Q. 香港金融セミナーは開催されないのでしょうか?
A. ICGレポートが主催するセミナーはしばらくお休みでしたが、他社や外部の団体からは要請が
あり、随時行っています。少人数でもご希望がありましたらグループセミナーも開催させていた
だきます。同様に上記のメールアドレスまでご相談下さい。
Q. オフショア法人を設立する際にバージン諸島(BVI)とケイマン島の法人の銀行口座の開設が
難しくなっていると聞きましたが代替案は?
A. 代わって同じタックスヘイブンでもさらに規制の緩やかなサモア、アンギラ、セーシェル諸
島籍で会社設立を行い、香港の金融機関で法人口座を設けるケースが急増しています。現在のと
ころ香港の金融機関における口座開設はスムーズに進んでいるそうです。
NEWS
ユーロ圏はマイナス金利を導入か
11月7日、ヨーロッパ中央銀行(ECB)は、ユーロ圏17カ国の政策金利を0.5%から0.25%に引き
下げた。ヨーロッパ中央銀行は、さらなる利下げも模索していると言われている。また民間の金
融機関が中央銀行の当座預金勘定に預けている預金に対しては、11月の下旬になって、民間金融
機関の貸し出しをより一層促進するために、「マイナス金利の導入」も議題に上っている。
具体的には、当座預金残高に対してゼロ金利を継続しながら、なんらかの費用負担を求めるも
のである。費用負担を嫌がる各行が預金を引き出し、民間企業への貸付に預金を回すというシナ
リオである。ユーロ圏の金融機関の中央銀行の当座預金における残高は700億ユーロ(約23兆円)
に達しており、これまでの金融緩和の効果は十分に発揮しているとは言い難い。ドイツは中央銀
行の当座預金残高が1152億ユーロ(約15兆5000億円)と、当座預金残高の3分2を占め、コスト
負担に猛反発している。フランスも8240億ユーロ、イタリア、オランダもそれぞれ2400億ユーロ
の残高があり、ドイツ同様に「マイナス金利」の導入に反対している。
ユーロ圏も政策金利がほぼゼロ金利に近付きつつあるが、緊縮財政の続くユーロ圏では、景気
回復の足取りが鈍く、域内の失業率も12%を超える過去最高水準に張り付いたままである。今後E
CBがマイナス金利の導入に踏み切ったとしても金融機関のコスト負担が大きく、収益力は大きく
低下するためにユーロ圏金融機関の「貸し渋り・貸し剥がし」が心配される。
(ICGヨーロッパ ヨハブリウィット)
アジア圏でユーロとドル建て融資が拡大
年初からこれまで中国と東南アジア諸国における金融機関が域内の企業にドル建て、もしくは
ユーロ建てで貸し付けた金額が昨年同期比54%増の1334億ドルに上り、通年では過去最高の2011
年の水準を更新することが確実となった。欧米のゼロ金利政策により借り入れコストが低くなっ
たことと、手元の資金流動性を高める需要があった。個別では、例えば中国の電子商取引大手の
3
アリババホールディンググループが80億ドルの銀行ローンの借り換えを行った。株式公開を控え、
手元の資金流動性を確保した。アリババを始め多くの大手企業が低利での借り換えに踏み切った。
一方で低金利を背景にドルとユーロ建ての債券の発行需要も高まった。2013年は約1410億ドル
の債券が発行されたと見られる。セクター別では石油・ガス関連の企業が284億ドルを筆頭に、I
T関連企業、輸送関連企業がそれぞれ2番手、3番手として資金調達している。
貸し手の上位金融機関は、トップが英系のスタンダードチャータード銀行で7%のシェアを誇り、
日本の東京三菱銀行がシェア5.6%で追随する。アジアでは投資銀行に代わって、商業銀行がプレ
ゼンスを発揮し始めている。
(ICGアジア 沢井智裕)
大人しくなったスイスの「投資銀行」
「欧米金融機関のグローバル展開に後れを取るな」とばかりにレバレッジ経営を拡大させたス
イスのクレディスイスとUBSが債券投資、為替取引、商品取引の部門の縮小が迫られている。ス
イスの金融当局からは、クレディスイスの資産に占めるレバレッジ商品取引の比率を「6-10%
の範囲」に低下させるように求められているようだ。
そのためには資本を増強させるか、既存のレバレッジ資産を売却しなくてはならない。あるい
はその両方で実現させることになる。現在の資産縮小と資本の充実を継続すれば、2015年頃には、
クレディスイスのレバレッジ比率はスイスの金融当局の要求する6%を下回る、4.2%程度にまで低
下する見込みである。ただし銀行の収益性の低下は否めない。
UBSについても同じことが言えるが、スイスの金融機関であると同時にユーロ圏における最大
手クラスの金融機関の資産圧縮の影響は大きい。アメリカが新しい金融ルールとして金融機関の
レバレッジ比率を、ホールディングカンパニー(持ち株会社)レベルで5%、傘下の金融機関に対
して6%を軸に調整しているため、スイスの両行はそれ以上のリストラを計画して健全性をアピー
ルしたいところである。
(スイス 元プライベートバンカー)
上昇相場に賭ける投資家
経済開発協力機構(OECD)は、11月下旬に世界経済の見通しを下方修正した。5月の時点で13
年の成長率を3.1%、14年の成長率を4%としていたものを、インドやブラジルの新興国景気の減速
を理由にそれぞれ2.7%、3.6%とした。しかしながら投資家の行動は、それとは裏腹に強気が台頭
している。アメリカでは12月中に来年度の予算編成があり、1月15日には債務上限引き上げ審議
の延長期限が来る。市場参加者の間では、米量的緩和の延長や企業業績の底打ちを予想する向き
も多い。
ある個人投資家はシカゴのオプション市場でVIX(恐怖指数)を1.3ドルで10万枚購入した。投
資金額ベースで130万ドル(約1億3000万円)となる。恐怖指数はマーケットのボラティリティが
高まれば価格が上昇する。投資家は今後4カ月の間に現在のレベルからは「88%程度の確率で上昇
余地がある」との統計を信用して賭けに出たようだ。
またある個人投資家はS&P500が今後3カ月で10%上昇するとの仮定で、1975ポイントのストライ
クプライスで3万1000枚の2月物コールオプションに投資している。いずれにしても個人投資家の
レベルではかなり大きな「賭け金」であることは間違いない。
2つの投資は、それぞれボラティリティの上昇と株価の上昇と必ずしも戦略が全て一致するも
のではないが、マーケットがどちらかに動くという事を投資家が感じ始めていることは間違いな
い。(北米 株式トレーダー)
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FUND
米債務引き上げ問題は大詰めへ
アメリカ国民の間では、共和党内のティーパーティ-が強権を振るっていることに対する危機
感が高まっている。11月初旬に行われたバージニア州知事選挙で民主党のテリー・マコーリフ氏
が勝利し、40年間続いた共和党の州政治の牙城を崩した。同州の知事選で共和党候補が敗れたこ
とは、年末以降に本格化する暫定予算や連邦債務上限の引き上げ問題をはじめとする与野党の財
政協議にも民主党を有利に導くことは間違いない。2月からFRB議長に就任するジャネット・イエ
レン氏は、バーナンキ議長の量的緩和政策を期限を設けずに継続する見込みである。債務引き上
げ問題や量的緩和継続をセーフティネットとして、当面は株式市場にも潤沢な資金の流入を見込
むことができる。
日本株もその恩恵を受ける。来年の景気の減速は既に相場に織り込み済みで各国の主要株式市
場は、景気回復のタイミングを推し量る相場となる。不確定要素はユーロ圏の金融システムや不
透明な新興国の景気回復、イスラエルを中心とした中東情勢の悪化等が挙げられるが、概ねマー
ケットを大きく揺るがす事態は避けられるだろう。
JPMorgan Funds - Hong Kong Fund
短期★★★★★
不動産取引規制によって、域内のカネ余り資金が投資対象を求めて株式市場に流入し始めてい
る。香港ドルと米ドルのペッグ制により、米量的緩和の資金も香港に戻りつつある。
中国本土系資金と米系ファンドが混在する様相。
長期★★★★★
香港のハンセン指数の過去最高値は、2007年10月の31900ポイントどころで、日柄調整は十二
分に済んでいる。来年から再来年に掛けて、新高値の更新が期待されている。株式時価総額も11
00億米ドルを超える。アジアでは韓国と同規模の市場を持つことから流動性にも問題はない。
総評★★★★★
TOKYO
OSAKA
ICGファンドの運用成績
Gold Nugget Fund
2008
2009
2010
2011
2012
2013
Jan
Feb
5.20%
-2.51%
-6.94%
10.81%
-0.52%
1.91%
2.35%
5.07%
0.21%
-5.46%
Mar
-6.86%
-2.24%
0.43%
1.56%
-5.90%
0.57%
Apr
-6.39%
-4.92%
5.31%
6.37%
-1.11%
-9.09%
May
Jun
1.66%
4.59%
13.13% -6.33%
1.54%
2.35%
-1.69% -3.22%
-6.03%
1.79%
-5.44% -14.68%
Jul
-3.11%
1.06%
-5.94%
6.80%
0.86%
9.64%
Aug
Sep
Oct
-9.07%
3.10% -19.72%
0.79%
5.67%
2.45%
6.78%
4.89%
3.03%
8.99% -11.26%
5.36%
2.02%
7.15% -3.27%
6.15% -5.61% -1.07%
Nov
Dec Year-to-date
12.17%
8.28% -17.89%
11.28% -6.08% 21.75%
3.02%
1.72% 24.75%
0.45% -10.17% -1.30%
-0.58% -3.84%
0.73%
May
0.00%
-10.54%
-5.73%
-6.70%
13.29%
Jul
-0.33%
4.30%
-5.35%
-7.20%
6.82%
Aug
Sep
-0.86%
0.25%
-4.31%
6.56%
-8.96% -15.17%
2.42% -0.45%
-4.66%
5.06%
Nov
-0.46%
-4.97%
-3.63%
0.23%
Clean Tech Fund
2009
2010
2011
2012
2013
Jan
Feb
Mar
Apr
-2.73%
3.45%
5.28%
4.21%
-1.71%
-1.66%
-0.71%
-3.37%
1.30%
2.42%
-3.46%
-1.01%
1.03%
-3.59%
-5.06%
16.00%
Jun
-0.70%
-2.16%
-1.92%
1.89%
-3.62%
Oct
-2.03%
-2.06%
-0.67%
-0.64%
0.47%
Dec Year-to-date
-0.57% -4.62%
3.60% -12.17%
-6.45% -39.19%
5.92% -9.09%
本レポートは十分に注意深く編集していますが、完全に誤りがないことを保障するものではあり
ません。本レポートはあくまで投資決定上のひとつの材料とお考えください。
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