新しいPET薬剤とPET装置へ望むこと

[2] 新しい PET 薬剤と PET 装置へ望むこと
国立精神・神経センター武蔵病院放射線診療部
松田博史
精神・神経疾患を対象とする療養型病院であり、研究施設ではないためマンパワーを望めない施
設において PET 薬剤と装置に対して希望する要点を述べる。
1. PET 薬剤
1‑1 サイクロトロン装置の性能規格化
神経伝達機能を測定するためには、比放射能の高い放射性リガンドを合成することが必要であ
る。医用サイクロトロンでも各社において性能に差があるようであり、放射性リガンドを製剤する
ための性能の規格化がなされるべきと考える。
1‑2
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C 標識薬剤の簡便な自動合成装置の開発
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C ラクロプライドなど既に確立された神経伝達機能測定薬剤の簡便な自動合成装置があれば、
放射性医薬品の専門の薬剤師がいない施設でも合成が可能となる。
1‑3
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C 標識薬剤の 18F 標識
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C 標識薬剤が 18F 標識されれば、より高い画質を得ることができ、さらに神経伝達機能測定用剤
で遅い脳内動態を示す薬剤の解析が容易になる。
1‑4
大脳皮質の微量な神経伝達機能測定薬剤
すでに、ドーパミン系では、高い比放射能を持つ大脳皮質の微量な神経伝達機能測定薬剤が発
表されている。われわれは、Transcranial Magnetic Stimulation などによる精神疾患の治療の確立
をめざしているが、大脳皮質において、receptor activation study が可能な親和性を有するリガン
ドを望む。
2.PET 装置
2‑1 画質
精神・神経疾患のためには神経核を描出できるような高い空間解像力(1‑3mm)を有する装置が望
ましい。
高い信号対雑音比を得るため、散乱線の低減のための高いエネルギー分解能を有し、高速の逐
次近似法による再構成が望ましい。
トランスミッションスキャンは、肺の放射能の低下や均一な肝の放射能をもたらし、肺、縦隔、
脊椎、鼡径部での検出能向上が図れるため必須と考える。さらに、イメージアーチファクトの低減
も図れる。
2‑2 短時間撮影
患者さんに優しい装置として3D 収集による高感度が望ましい。また、これにより高いスループ
ット(全身でエミッションスキャンは 20 分以内、トランスミッションンは 2 分以内が望ましい)が
得られる。
2‑3 低価格
販売台数の増加により、価格の低下が望まれる。これにより、一施設でも数台設置することが
可能になる。また、メインテナンス料が現在は非常に高額であり、もっと低いランニングコストに
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抑えることが必要であろう。
2‑4 信頼性
装置は故障が少なく、共通の性能評価ファントムを用いて一様かつ簡便な Quality Control が望
ましい。
2‑5 CT と PET の融合
PET で得られる異常部位の位置確認には CT などで得られた形態情報との融合が必須である。CT
と PET 画像をそれぞれに撮像し、融合することもなされているが、以下のような要因により完全な融
合は困難とされている。
CT での腕上げによる位置のずれ、CT で行われる息止めによる位置のずれがおこる
CT と PET 撮像時での膀胱の大きさの違いでも吸収や位置がずれる
Image registration における剛体モデルでの融合は誤差を生ずる
弾性モデルでの融合が望ましい
したがって、CT と PET の融合装置が必要となる。病変の位置同定が容易になり、CT による吸収補正
によるコスト削減もはかれる。CT もなるべく多い配列の高性能機が望ましい。また、CT と PET で同
定された病変の CT による生検を行うための工夫がなされている。たとえば、CT と PET を並べたり、
離したりすることのできる装置が発表されている。
2‑6
PET 撮像時の動きの補正
PET 撮像時に患者が動いた場合、現時点では動きの補正が難しい。したがって、動きの検出シ
ステムを開発し、リストモード収集による画像再構成時での動きの補正が望まれる(国立循環器セン
ターでは既に開発)
2‑7
立位で可能な PET
立位と臥位で撮像可能な PET 装置があれば、脳科学研究に役立つ(生理的な負荷を自然の状態
で行える。また、 体位変換負荷による循環動態の変化や運動負荷などにも使える可能性がある。
2‑8
Mobile PET system
トラックによる巡回がすでに米国で行われている。
2‑9 interventional PET が施行しやすい装置
Transcranial Magnetic Stimulation などによる精神疾患の治療の確立において、刺激最中の
PET による最適治療条件の決定を行っているが、現状の装置では、開口径が狭く、施行しにくい。
Interventional PET が行いやすい装置の開発を望む。
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