新素材キチンナノファイバーによる マメ科植物の病害防除効果と微生物共生促進能に関する研究 鳥取大学 農学部 上中 弘典 キ チ ン は N -ア セ チ ル グ ル コ サ ミ ン が 直 鎖 状 に 連 な っ た 高 分 子 多 糖 類 で あ り 、カ ニ や エ ビ などの甲殻類の殻、およびきのこなどの菌類の細胞壁の主成分である。キチンは土壌改良 剤をはじめ、手術用糸など、農業、食品、医療と幅広い分野で利用されており、生体に関 する様々な機能が報告されている 1)。 植 物 に は キ チ ン を 認 識 す る 能 力 が あ り 、 キ チ ン の 認 識により植物は病害抵抗性を誘導できるだけでなく、共生土壌微生物である根粒菌や菌根 菌が分泌するキチン骨格をもつ物質を認識し、共生関係を成立させている 2)-4)。 こ の 様 に キチンには植物に利益をもたらす能力があるにも関わらず、農業現場での利用は限定的で ある。その理由は、キチンが水に不溶であるとともに、本効果が弱いという問題に起因す る。これらの問題を解決できる素材として、我々はキチンをナノレベルの繊維に調製した キチンナノファイバーを開発した 5 ) 。キ チ ン ナ ノ フ ァ イ バ ー は 水 中 で 均 一 に 分 散 す る た め 、 高分子のまま利用可能である。またナノサイズの形状により表面積が格段に増えることか ら、キチンがもつ機能を増幅する事が可能であり、実際にキチンのナノファイバー化によ り複数の植物における病害抵抗性が飛躍的に誘導されるという革新的な成果を得ている 6),7)。 短 鎖 キ チ ン オ リ ゴ 糖 が 菌 根 菌 の 共 生 シ グ ナ ル 分 子 と し て 認 識 さ れ る と い う 報 告 も あ ることから 8)、 キ チ ン ナ ノ フ ァ イ バ ー も 同 様 に 認 識 さ れ 、 共 生 を 促 進 す る 能 力 が あ る と 考 えた。そこで本研究では、菌根菌と根粒菌の両方と共生可能なマメ科植物を対象に、キチ ンナノファイバーがもつ病害防除と微生物共生に関する機能を明らかにすることで、本素 材を用いた豆類の効率的な生産技術開発に寄与できる知見を得ることを目的とした。 実験方法 1.キチン・キトサン溶液、およびキチン・キトサンナノファイバー分散液の調製 キ チ ン 溶 液 は 、 キ チ ン オ リ ゴ 糖 ( NA-COS-Y, 焼 津 水 産 化 学 工 業 ) に 蒸 留 水 を 1%(w/v) になるように添加し、スターラーで一晩撹拌して溶解させ、調製した。キトサン溶液は、 キ ト サ ン ( 東 京 化 成 工 業 ) を 0.3 M 酢 酸 に 1%(w/v)に な る よ う 添 加 し 、 ス タ ー ラ ー で 一 晩 撹拌して溶解させ、調製した。 キチンナノファイバー、およびキトサンナノファイバー分散液の調製は、既往の論文を 参考に修正して行った 9),10)。 カ ニ 殻 由 来 の キ チ ン 粉 末 ( キ チ ン TC-L , 粒 度 : 42 メ ッ シ ュ パ ス 90%以 上 ,脱 ア セ チ ル 化 度 5%以 下 , 甲 陽 ケ ミ カ ル )も し く は キ ト サ ン 粉 末( FH-80, 粒 度:83 メ ッ シ ュ パ ス 95%以 上 ,脱 ア セ チ ル 化 度 80%以 上 , 甲 陽 ケ ミ カ ル )に 蒸 留 水 を 添 加 し て 1% (w/v)に 調 整 し た 後 、ボ ー ル 衝 突 チ ャ ン バ ー を 搭 載 し た 湿 式 粉 砕 装 置( ス タ ー バ ー ス ト ミ ニ ,HJP-25001S,ス ギ ノ マ シ ン )を 用 い て 処 理 し た 。衝 突 回 数 は 10 回 、ノ ズ ル の 径 は 100 µm、 衝 突 圧 力 は 200 MPa と し た 。 全 て 使 用 時 に 蒸 留 水 を 用 い て 終 濃 度 0.1%(w/v)も し く は 0.01%(w/v)に な る よ う に 調 製 し 、 使用した。 2.キチン・キトサンナノファイバーの植物病原菌に対する抗菌性の評価 灰 色 か び 病 菌 ( Botrytis cinerea ) BCT 菌 株 も し く は ア ブ ラ ナ 科 植 物 黒 す す 病 菌 ( Alternaria brassicicola ) O-264 菌 株 を V8 平 板 培 地 上 で 25℃ 、 7 日 間 静 置 培 養 後 、 Black-Light-Blue ラ ン プ 照 射 下 で 更 に 同 条 件 で 7 日 間 培 養 す る こ と で 、胞 子 形 成 を 誘 導 し 、 これら菌株の胞子を得た。 滅 菌 水 を 用 い て 終 濃 度 1×10 5 個 / ml に な る よ う 調 製 し た 胞 子 懸 濁 液 に 、 終 濃 度 0.1%に なるよう調製したキチン・キトサン溶液、キチン・キトサンナノファイバー分散液および コ ン ト ロ ー ル と し て 滅 菌 水 を 加 え 、 攪 拌 し た 。 ス ラ イ ド ガ ラ ス 上 に 混 合 液 を 50 µl ず つ 滴 下 し 、 カ バ ー ガ ラ ス を か け 、 湿 室 チ ャ ン バ ー 内 で 24 時 間 静 置 し た 。 光 学 顕 微 鏡 (BX53, Olympus)を 用 い て 観 察 す る こ と で 、 胞 子 発 芽 管 長 を 測 定 し た 。 3.キチンナノファイバーによる微生物共生促進効果の評価 供 試 植 物 と し て は ミ ヤ コ グ サ ( Lotus japonicus )の Gifu B-129 系 統 を 用 い た 。 供 試 共 生 菌 は 、根 粒 菌 と し て Mesorhizobium loti の MAFF 303099 菌 株 、菌 根 菌 と し て Rhizophagus irregularis の DAOM 197198 菌 株 (Mycorise-ASP, PremierTech)を 用 い た 。 ミ ヤ コ グ サ の 種 子 を 無 菌 播 種 後 、 24℃ 、 暗 黒 下 で 3 日 間 、 続 い て 照 明 下 (明 期 14 時 間 /暗 期 10 時 間 )で 7 日 間 培 養 し て 得 ら れ た 実 生 を 、根 粒 共 生 の 場 合 は 窒 素 源 無 添 加 の 1/10 濃 度 B&D 液 体 培 地 、 菌 根 共 生 の 場 合 は リ ン 酸 源( KH 2 PO 4 )を 20 µM に し た 1/10 濃 度 B&D 液 体 培 地 を そ れ ぞ れ 添 加 し た 培 土 ( バ ー ミ キ ュ ラ イ ト :川 砂 =1:2) を 充 填 し た プ ラ ン ト ボ ッ ク ス に 移 植 し 、 1 週間照明下で更に培養した。キチンオリゴ糖、もしくはキチンナノファイバー処理は、終 濃 度 0.01%(w/v)に な る よ う に 各 溶 液( 分 散 液 )を B&D 液 体 培 地 に 添 加 す る こ と で 行 っ た 。 1 週 間 後 、根 粒 共 生 の 場 合 は TY 液 体 培 地 に て 2 日 間 培 養 し た 根 粒 菌( OD 6 0 0 =1.0)を 40 µl ず つ 各 プ ラ ン ト ボ ッ ク ス に 添 加 し 、更 に 4 週 間 照 明 下 で 培 養 し た 。菌 根 共 生 の 場 合 は 4×10 3 個 / ml の 根 粒 菌 の 胞 子 懸 濁 液 を 6 ml ず つ 各 プ ラ ン ト ボ ッ ク ス に 添 加 し 、 更 に 6 週 間 照 明 下で培養した。 根 粒 共 生 に お け る 共 生 促 進 効 果 は 、培 養 終 了 後 の 各 植 物 体 の 地 上 部 と 根 の 長 さ と 乾 燥 重 、 お よ び 根 に お け る 根 粒 数 と 根 粒 の 大 き さ を 測 定 す る こ と で 評 価 し た 。 ま た 、 根 粒 菌 を TY 液 体 培 地 に て 培 養 す る 際 に 終 濃 度 が 0.01%(w/v)に な る よ う 培 地 に キ チ ン ナ ノ フ ァ イ バ ー を 添 加 し 、25℃ で 3 日 間 培 養 す る こ と に よ り 、根 粒 菌 の 増 殖 に お け る キ チ ン ナ ノ フ ァ イ バ ーの効果を調査した。菌根共生における共生促進効果は、培養終了後の各植物体の地上部 と根の長さ、および乾重量を測定することで評価した。また、インクを用いて菌根菌を染 色した根を光学顕微鏡にて観察することで、既往の論文に従い菌根形成率を測定した 11)。 4.共生関連遺伝子群の発現解析 無 菌 播 種 後 、24℃ 、暗 黒 下 で 3 日 間 、続 い て 照 明 下 (明 期 14 時 間 /暗 期 10 時 間 )で 9 日 間 栽 培 し て 得 ら れ た ミ ヤ コ グ サ の Gifu B-129 系 統 の 実 生 を 、 0.01%(w/v)の キ チ ン オ リ ゴ 糖 溶液、もしくはキチンナノファイバー溶液、およびコントロールとして滅菌水に 1 時間浸 漬 し た 。 Total RNA Extraction Mini Kit (RBC Bioscience)と DNase I (TAKARA)を 用 い て 各 処 理 サ ン プ ル か ら 得 ら れ た Total RNA を そ れ ぞ れ 1 µg ず つ 用 い 、PrimeScript II 1st strand cDNA Synthesis Kit (TAKARA)に よ り cDNA を 合 成 し た 。 合 成 し た cDNA と ミ ヤ コ グ サ の 共 生 マ ー カ ー 遺 伝 子 で あ る NSP2 と RAM1 に 特 異 的 な プ ラ イ マ ー 1 2 ) , 1 3 ) 、 THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix (TOYOBO)、 お よ び Light Cycler 480(Roche)を 用 い て 、 両 遺 伝 子 の 発 現 量 を 定 量 化 し た 。 同 時 に ハ ウ ス キ ー ピ ン グ 遺 伝 子 で あ る UBQ10 1 4 ) の データも取得し、本遺伝子の定量値を用いて各サンプルにおける両遺伝子の発現量を 2-ΔΔCT 法 15)に て 補 正 し た 。 実験結果及び考察 1.キチンナノファイバーによるマメ科植物の病害防除効果 キチンは抗菌性をもたないが、キチンを脱アセチル化することで得られるキトサンには 抗菌活性があることが広く知られている 1)。 キ ト サ ン の 植 物 病 原 菌 に 対 す る 抗 菌 性 が 報 告 されているが、我々はこれまでにキトサンとキチンナノファイバーを部分的に表面のみを 脱アセチル化した表面キトサン化キチンナノファイバーを混合して成形したフイルムにお い て 、様 々 な 植 物 病 原 菌 に 対 す る 抗 菌 性 を 確 認 し て い る 1 6 ) 。ダ イ ズ や イ ン ゲ ン な ど の マ メ 科植物において重要病害の一つに挙げられる灰色かび病を引き起こす灰色かび病菌は多犯 性の病原糸状菌であるため、その防除はマメ科の作物のみならず様々な作物種において期 待されている。植物体への処理は液体状での散布を想定しているため、本研究では先行研 究とは異なり病原菌の胞子と混合する処理法を用いてキチンナノファイバー、ならびにキ トサンナノファイバーの本病原菌に対する抗菌性を評価した。同時にキチンオリゴ糖とキ トサンの溶液による影響も評価した。また、対象実験としてアブラナ科植物黒すす病菌に 対する抗菌性も評価した。発芽管伸長を指標にした評価を行った結果、灰色かび病菌に対 してはキチンナノファイバーとキトサンナノファイバーの処理による伸長抑制効果が顕著 に観察されたが、キチンオリゴ糖だけでなく抗菌性が知られているキトサン溶液でも抑制 効 果 は 見 ら れ な か っ た( 表 1)。一 方 で 、ア ブ ラ ナ 科 植 物 黒 す す 病 菌 に 対 し て は キ ト サ ン 溶 液 の 処 理 で の み 顕 著 な 伸 長 抑 制 効 果 が 観 察 さ れ た ( 表 1)。 本研究ではキチン・キトサンナノファイバーの分散液を用いて、これらの植物病原菌に 対する抗菌性を初めて調査した。アブラナ科植物黒すす病菌に対する抗菌性は先行研究の 結果 16)と 一 致 し て い た が 、 灰 色 か び 病 菌 に 対 し て は 全 く 異 な る 結 果 と な っ た ( 表 1)。 シ ート状に加工したキトサンでは灰色かび病菌に対する抗菌性が認められたが、キチンナノ ファイバーと表面キトサン化キチンナノファイバーではほとんど認められない 1 6 ) 。そ れ に 対して、キチンナノファイバーとキトサンナノファイバーの分散液には本病原菌に対する 顕著な抗菌性が確認された。特に、これまで抗菌性が無いと考えられていたキチン、もし くはキトサンをナノファイバー化することで抗菌性を発揮できるようになる菌種が存在す ることは興味深い。キチンナノファイバーによる強い病害抵抗性誘導能 6),7)も 期 待 で き る ため、灰色かび病菌と同様に抗菌性を発揮できる病原菌による病害に対しては、キチンナ ノファイバーを用いることでより効率的な病害防除が可能であると期待される。今後は、 マ メ 科 の 主 要 作 物 で あ る ダ イ ズ に 病 害 を 引 き 起 こ す ダ イ ズ 茎 疫 病 菌 ( Phytophthora sojiae ) や ダ イ ズ 炭 疽 病 菌 ( Colletotrichum truncatum )な ど の 病 原 菌 に 対 し て も キ チ ン ナ ノ フ ァ イ バーとキトサンナノファイバーの分散液による抗菌性を検討する予定である。 2.キチンナノファイバーによるマメ科植物の微生物共生促進効果 キチンナノファイバーによる根粒菌もしくは菌根菌との共生の促進効果を検証するため、 両共生菌との共生実験系が確立されているマメ科のモデル植物ミヤコグサを用いて調査を 行った。同時にキチンオリゴ糖との比較も行った。根粒共生による成長促進効果は地上部 のみで観察され、キチンナノファイバーを添加した場合でのみ、根粒菌未接種の植物体で は 見 ら れ な い 地 上 部 の 有 意 な 成 長 促 進 効 果 が 確 認 さ れ た( 図 1)。キ チ ン ナ ノ フ ァ イ バ ー に れ な か っ た( 図 3)。キ チ ン ナ ノ フ ァ イ バ ー に よ る 共 生 へ の 作 用 を 遺 伝 子 レ ベ ル で 検 証 す る ために、キチンオリゴ糖、もしくはキチンナノファイバーを処理したミヤコグサの幼苗に よる成長促進効果は根粒形成もしくは根粒菌の増殖への影響の結果によるものであると考 えられたため、これらについて検証したが、コントロールと比較して全く差は認められな か っ た( 図 2)。一 方 、菌 根 共 生 に よ る 成 長 促 進 効 果 も 同 様 に 地 上 部 の み で 観 察 さ れ た が 、 菌根形成率も含めてキチンオリゴ糖とキチンナノファイバーの両処理による変化は観察さ おける両共生のマーカー遺伝子の発現解析を行った。その結果、キチンナノファイバー処 理 の み で 根 粒 共 生 の マ ー カ ー 遺 伝 子 で あ る NSP2 の 発 現 量 が 有 意 に 増 加 し て い た の に 対 し 、 菌 根 共 生 の マ ー カ ー 遺 伝 子 で あ る RAM1 の 発 現 量 は 両 処 理 で 全 く 変 化 し な か っ た( 図 4)。 本研究により、ミヤコグサにおいてキチンナノファイバーは菌根共生ではなく、共生に 関わるシグナル伝達経路の活性化により根粒共生を促進することが明らかになった。マメ 科 植 物 の 細 胞 膜 に 局 在 す る 受 容 体 タ ン パ ク 質 NFR は 根 粒 菌 が 分 泌 す る キ チ ン 骨 格 を も つ Nod 因 子 を 受 容 す る こ と で 、 下 流 の シ グ ナ ル 伝 達 経 路 を 活 性 化 す る 3),4)。 キ チ ン の 受 容 体 で あ る CERK1 は NFR と 構 造 的 に 類 似 し て い る こ と 17)、 お よ び ミ ヤ コ グ サ で キ チ ン ナ ノ ファイバーを処理するとシグナル伝達経路で引き起こされるカルシウムスパイキングが誘 導 さ れ る こ と も 明 ら か に な っ て い る ( 私 信 )。 そ の た め 、 キ チ ン ナ ノ フ ァ イ バ ー が Nod 因 子 と 同 様 に NFR 等 の 受 容 体 に よ り 認 識 さ れ 、共 生 シ グ ナ ル 伝 達 経 路 を 活 性 化 さ れ た 結 果 、 根粒共生能が促進されたと考えられる。根粒共生においてキチンオリゴ糖による効果がほ と ん ど 無 か っ た こ と に 関 し て は 、 NFR が キ チ ン オ リ ゴ 糖 に 対 す る 結 合 能 が 低 い た め 17)、 短鎖のキチンであるオリゴ糖は受容体に認識されず、共生シグナル伝達経路が活性化され ない可能性が考えられる。一方、修飾基の付加されていないキチンオリゴ糖が菌根共生シ グナルとして認識され、共通共生経路の活性化に繋がるという報告もあることから 8)、 高 分子であるキチンナノファイバーは、菌根共生時には認識されなかったと示唆される。本 研究の知見は、ミヤコグサだけでなくダイズやインゲンなど他のマメ科植物でも今後検証 を行う予定である。 本研究により、キチンナノファイバーがもつ病害防除と微生物共生に関する新しい機能 を明らかにすることができた。今後適用作物種を増やす必要があるが、キチンナノファイ バーを豆類の栽培に利用することで効率的な病害防除と微生物共生の促進が可能であるこ とから、本素材は豆類の新たな生産技術の開発に貢献できると期待される。 要約 キチンの細胞レベルでの認識により、植物は病害抵抗性を誘導できるだけでなく、共生 土壌微生物である根粒菌や菌根菌が分泌するキチン骨格をもつ物質を認識し、共生関係を 成立させている。本研究では、菌根菌と根粒菌の両方と共生可能なマメ科植物を対象に、 キチンをナノレベルの繊維に調製した新素材キチンナノファイバーがもつ病害防除と微生 物共生に関する機能を明らかにすることを目的とした。その結果、キチンナノファイバー にはマメ科植物にも病害を引き起こす植物病原菌に対する抗菌性があることを発見した。 また、マメ科のモデル植物であるミヤコグサにおいてキチンナノファイバーは菌根共生で はなく、共生に関わるシグナル伝達経路の活性化により根粒共生を促進することが明らか になった。これらの知見を利用することで、本素材を用いた病害防除と微生物共生の促進 による豆類の新たな生産技術の開発が可能になると期待される。 謝辞 本 研 究 を 遂 行 す る に あ た り 、 研 究 助 成 を 賜 り ま し た 財 団 法 人 タ カ ノ 農 芸 化 学 研 究 助 成 財 団に心より感謝申し上げます。また、本研究を実施してくれました鳥取大学農学部の江草 真由美博士、岩田侑香里氏、ならびに高嶋さらさ氏、キチンナノファイバーの製造を担当 していただいた鳥取大学大学院工学研究科の伊福伸介准教授、および植物病原菌あるいは 根粒菌を分与頂きました東京農工大学の有江力教授、鳥取大学の尾谷浩名誉教授、ならび に理化学研究所の林誠博士に謝意を表します。 文献 1) 滝 口 泰 之 : 資 源 と し て の バ イ オ ポ リ マ ー : キ チ ン , キ ト サ ン ,キ ト サ ン , キ チ ン ・ キ ト サ ン 研 究 会 編 , ISBN: 4-7655-0370-4, 最 後 の バ イ オ マ ス キ チ ン 、 キ ト サ ン , 技 報 堂 出 版 , 1-20 (1988) 2) 川 崎 努 : 植 物 に お け る 免 疫 誘 導 と 病 原 微 生 物 の 感 染 戦 略 , 領 域 融 合 レ ビ ュ ー , e008 (2013) 3) 林 誠 : 植 物 の 窒 素 固 定 : 植 物 と 窒 素 固 定 細 菌 と の 共 生 の 進 化 , 領 域 融 合 レ ビ ュ ー , 4, e010 (2015) 4) Oldroyd, G.E.: 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