バンジャマン・ペッシュが語る 「エトワール・ガラ2016」の見どころ

バンジャマン・ペッシュが語る
「エトワール・ガラ2016」の見どころ
8月11日の公演に先立ち、
「エトワール・ガラ2016」のアーティスティック・オーガナイザーを務める
バンジャマン・ペッシュが来日。記者懇親会で語った「エトワール・ガラ2016」の見どころ、抱負をご紹介します。
「エトワール・ガラ」は2005年に公演が始まり、準備を始めたの
は2003年に遡ります。以前は大阪の観客の方が、東京に観に来
て下さるというかたちでした。2014年に続きふたたび大阪に来ら
れることを大変誇りに思っております。この公演は私にとって大
いなる冒険と言えます。
今回はクラシックバレエ、アカデミックなもの、そして、ネオ・クラ
シック、コンテンポラリー、現代のバレエまで、大変豊かな内容
をお見せするプログラムとなっています。
このプログラムの中で、日本の観客の皆様に様々な振付家の多
様性をご紹介できることを、大変嬉しく思っております。
まず古典バレエでは、パリ・オペラ座のクラシックを体現するヌ
レエフ振付の「ロミオとジュリエット」の中から3つの場面を取り
上げます。3組のカップルが3つの場面を踊りますが、それぞれ
年齢も違いますし、それぞれのカラーの違いをお楽しみいただ
けると思います。
次に、20世紀から21世紀にバレエがどのように変革していった
かというところをご覧いただきます。バレエの歴史の中で、ネ
オ・クラシックの先駆者であるバランシンの振付作品「シルヴィ
ア パ・ド・ドゥ」は将来エトワールに一番近いと私が思ってい
るユーゴ・マルシャンと、最近エトワールに昇格したばかりのロー
ラ・エケが踊ります。2人にご期待ください。
ローラン・プティの作品「ランデヴー」は、新しい時代を告げる作
品といえるでしょう。ダンスだけではなく、舞台芸術や音楽など
の総合芸術を組み込んだ作品で、ピカソをはじめ、当時のそれ
ぞれの分野で活躍したアーティストが参加しました。プティはそ
(c)Hidemi Seto
の時代において、古典の作品に時代の新しい風を吹き込んだと
いう意味で、大変革新的な先駆者であったと言えます。
「病める薔薇」は、プティがマイヤ・プリセツカヤのために振付け
た作品です。私はこの作品でマイヤ・プリセツカヤのコンクール
で優勝し、それが私のバレエ人生の中で大変大きな位置を占
めております。当時私はまだ20歳の若いダンサーでしたので、
この優勝によってその後の私のバレエ人生の道が開けていった
という、特別な思い入れのある作品です。マイヤ・プリセツカヤ
にオマージュを捧げます。
また、現代の注目すべき振付家の作品もこのプログラムに組み
込んでおります。
「With a Chance of Rain」は、英国の振付家リ
アム・スカーレットの作品、そしてもうひとつ「See」は、日本の振
付家、大石裕香さんの作品です。これらをご紹介できることも
嬉しく思っております。
「ル・パルク」の「解放のパ・ド・ドゥ」ですが、この作品は私が今
年の2月にオペラ座でアデュー公演をした際に踊りました。日本
は私にとって30年にわたり公演をしてきた、とても思い入れの
強い国であり、私のバレエ人生の中で象徴的な意味を持つ国
でもありますので、ここでオペラ座と同じパ・ド・ドゥを踊るとい
うことが、とても重要な意味を持っています。今回は日本のお客
様にもある意味での「アデュー」という意味を持っていると思っ
ています。
最後に、今回の「エトワール・ガラ2016」では、構成部分や、芸術
面での変革、またダンサーたちが10年間でどのように変わって
きたか、そういった部分をお見せしたいと思っております。この
公演を通してバレエの大きな流れというものをご覧いただきた
いと思います。
Q&A
ー質疑応答ー
Q.今年の2月にアデュー公演を終えたばかりですが、20年踊っ
てきたオペラ座を離れることへの思いをお聞かせください。
A.まず一言で表現すると「誇り」というところだと思います。42
歳の定年までずっと踊り続けられたことへの誇りです。
オペラ座の中で、バレエ人生を通して、一緒にやってみたい振
付家の作品を踊れましたし、踊ってみたい役も踊ってこられま
した。本当に喜びでいっぱいですし、もうそういう意味ではや
りきったという気持ちです。ですので、今後は私自身と言うより
も他の人のサポートとして携わっていきたい。芸術監督のよう
に、人を引っ張っていく、何か伝えていくというようなところ
に、身を置きたいと思っております。
Q.先程、日本の観客に向けてのアデュー公演になるとおっ
しゃっていたこと、今後、芸術監督などにもご興味があるとい
うことですが、ペッシュさんの踊りを日本でみられるのは、今回
が最後になるということでしょうか。
A.もしかしたらそうとも、
もしかしたら違うとも・・・
(笑)
冗談めかして話しましたが、真剣に話すとすれば、ダンサーと
して舞台に立ち続けるには、大変な集中力が必要で、自分自
身の体に対して、時間をかけて管理していかなくてはいけま
せん。そのための時間を今後は自分のためではなく、人のため
に使っていきたいという気持ちがあります。芸術監督という道
を選んでいくとなれば、自分のために割く時間がどうしても
減ってしまいます。ただ、何かそういった機会があってできる
ことであれば、ダンサーとしての機会もないわけではありませ
ん。先程「アデュー」という言葉を使ったのは、これまで私は光
のもとに、光の中にいましたけれども、これからは後ろ、影に
回ってというような意味で、ひとつの区切りと言う意味で「ア
デュー」という言葉を使わせていただきました。
Q.今回初登場の若いダン
サー、レオノール・ボラッ
ク、ジェルマン・ルーヴェ
の印象をおきかせくださ
い。
A.「エトワール・ガラ」の面
白いところ、興味深いとこ
ろは、すでに評 価が確立
したアーティストだけでは
なく、新しいダンサーを発
掘できる、発見できる場所
でもあるところだと思いま
(c)IkAubert
す。つまりはエトワールだ
けではなく、将来エトワー
ルに近いようなダンサーたちを、私が私のビジョンの中でお届
けするというのが「エトワール・ガラ」の面白みだと思っており
ます。
レオノール・ボラック、ジェルマン・ルーヴェの2人は、私にとっ
ては将来のエトワールに近いダンサーだと思いますし、その才
能と可能性と言う意味でも、とても期待しているダンサーで
す。
この2人は、パリ・オペラ座ならではの遺産であるエレガンス
や大変高貴なイメージを受け継いでいるダンサーだと思いま
す。
Q.バレエを習っている方、バレエ・ダンサーを目指す方への
メッセージ、そしてバレエを鑑賞するファンへのメッセージをお
願いします。
A.まずバレエをされている方に言いたいのは「がんばれ!」の
一言だと思います。バレエ・ダンサーはとても難しい職業だと
思いますし、勇気の要る道だと思います。常に情熱とバレエへ
の愛を持ち続けること、と伝えたいと思います。もちろん失望
も多いと思いますが、それと同じくらい大きな喜びを得られる
職業だと思います。喜びや自由、たくさんの幸せな瞬間もある
と思いますので、ぜひ頑張って続けてください。
「エトワール・ガラ」は、新しいバレエの世界を観ていただける
貴重な機会だと思います。