資料2 (全国における支援組織、及び農業経営体の事例調査結果) 1.事例調査の目的・対象先 2.事例調査結果 ---------------------------------------------- 89 -------------------------------------------------------- 90 事例 13)財団法人北海道農業企業化研究所(HAL財団) ----------------- 90 事例 14)財団法人北海道科学技術総合振興センター(ノーステック財団) ---- 96 事例 15)株式会社谷口農場 ----------------------------------------- 103 事例 16)有限会社仲野農園 ----------------------------------------- 106 事例 17)株式会社北洋銀行 ----------------------------------------- 109 注)事例番号は資料1から通番 1.事例調査の目的・対象先 事例調査の目的 ・南九州での川上∼川下に至る流通形態や産業間連携のあり方を踏まえ、経営拡大意欲の強 い経営体が アグリビジネスに強いプレーヤー へ発展できる環境づくり(=支援策)を 提案する際の基礎資料とすることを目的に、全国的な事例を調査、研究した。なお、対象 先の選定には以下のポイントを重視した。 〔対象事例〕 ①民間組織がアグリ関連産業間連携や産官学間連携の一体的な支援、及びJA系 統に頼らない農業経営体の支援等に取り組んでいる事例 ②農業経営体が農業から出発して法人化し、生産だけでなく加工や販売、あるい は観光など川中、川下の機能を統合しながら発展している事例 ③アグリ関連産業に属する経営体が農業生産と密接に連携、もしくは統合して発 展している事例 〔調査のポイント〕 ①組織プロフィール ②経営理念・組織形態のポイント(ヒト、モノ、カネの視点を重視) ③事業の概要(可能な限り時系列に整理) ④川上∼川下に至る流通形態(販売チャネルを重視) 調査対象先 ・農業産出額が全国 1 位で、南九州と同じく首都圏を主なターゲットとしている北海道の支 援組織、及び農業経営体のうち、上記①、及び②に該当する以下の 5 先を調査対象先とし た。 ○財団法人北海道農業企業化研究所 (通称 HAL財団) ○財団法人北海道科学技術総合振興センター ○株式会社谷口農場 【HAL 財団賞受賞企業】 ○有限会社仲野農園 【HAL 財団賞受賞企業】 ○株式会社北洋銀行 - 89 - (略称 ノーステック財団) 2.事例調査結果 事例 13)財団法人北海道農業企業化研究所 (通称 HAL財団) ①組織プロフィール 所在地 〔財団本部〕樺戸郡浦臼町オサツナイ 315 番地 118 〔札幌事務所〕札幌市中央区南 1 条西 6 丁目 15 番 1 設立代表者 神内良一 札幌あおば生命ビル 10 階 (有)神内ファーム二十一 代表取締役 プロミス株式会社 最高顧問 会 長 武部 勤 衆議院議員 理事長 磯田憲一 元北海道副知事 副理事長 三上哲夫 北海道大学大学院教授 専務理事 中野 正博 上記含む理事 8 名、監事 2 名、評議員 8 名 常勤職員 財産 設立年月日 48 名(2007 年 4 月 1 日現在) 約 120 億円(神内良一氏が全額出捐) 2003 年 12 月 24 日 ・全国の耕地面積の 4 分の 1 を占め、畑作地の 50%近い面積を有しながら、生産額シェアの 低い北海道農業を活性化するには、施設型農業により冬の克服と、「生産→加工→流通→販 売」を一貫することが必要という立場に立ち、これを従来通りの 家業 では不可能、農業 にも企業化が必須という趣旨で、研究と既存農家の支援を目的として、2003 年に設立され たシンクタンク。 ・設立代表者は神内良一氏(プロミス株式会社 最高顧問)で太平洋戦争半ばに学徒援農動員 で初めて北海道に来て以来、その魅力にとりつかれ、自ら農業に取り組みたいと(有)神内 ファーム二十一を設立、そして北海道全体の農業活性化を目指し、公益事業として本財団を 設立したもの。 ②経営理念・組織形態のポイント ∼農業を「経営」の視点で捉え直す∼ ・当財団は生産から流通、加工、調理、販売、消費に至る一連の流れを経営的視点から見つめ 直し、農業を「経営」の視点で捉え直すことを重視している。 ・現在の職員は 48 名(設立当時は 20 名程度)。研究者は募集によるものだが、情報、金融等 異業種から転職するなど、農外経験者が多い組織であることが特徴。 ・道庁内の農業支援組織として農業試験場があるが、寒さや病害虫に強い品種(良質、多収品 種)を作ること、つまり農作物そのものに視点を置いていることが多いという認識から、作 物依存の思考ではなく、「今作れるものを作っても売れる」仕掛けづくりを目指している。 - 90 - ∼ 家業 から企業化の促進∼ ・当財団では、北海道の農業生産法人は節税対策や信用力強化、あるいはトップの思いだけで 設立されたケースが多いことから、今後は、経営理念と事業計画、事業目標等が整備されな いといけないという考えを持っている。また、法人化する経営者は基本的に生産に関する知 識が豊富な方が多いこともあって、なかなか経営まで目が向かない現状もある。 ・農業生産法人は他産業の企業と比べて、経営的な視点がまだ不足しており、雇用の確保や環 境対策、地域活動への参加など企業に求められる地域貢献の役割を認識する必要がある。例 えば、2 次、3 次産業との交流を進めるなかで、企業経営の失敗談、ノウハウを吸収する必 要がある。 ・企業として重要なポイントは「できる、勝てる、儲かる、続く」であり、最後の「続く」と いう視点が農業経営に乏しい部分。高齢化が進む現状から事業継承の問題も含めて、継続的 な農業を実現するために企業化は不可欠である。 ∼生産者の収益機会を増やす新業態の創出∼ ・これまでの農業は生産のみに着目した収益構造であったが、今後は新しい農業経営の可能性 を考え、将来の北海道農業の事業領域を企画検討する必要がある。農業からつながる外食産 業や新たな加工品開発・販売などの実証実験を通して、生産者の収益機会を増やす新業態を 創出することを目指している。 ・収益機会の増加とは単なる多角化ではなく、農業に全く関係無い販売チャネルの拡大ではノ ウハウが生きず、本業にフィードバックされるものもないと考えている。収益機会を増加さ せることで、従来の市場、JAを通じた販売チャネルとの比較が可能となり、農業経営の視 点が芽生えるきっかけとなる。 ・しかし、これまで生産だけに専念してきた農家にいきなり「相対で商品を売れ」といっても 難しい。そういう意味では、インフラ整備によるネット販売は比較的取り組みやすいものと 言える。 ・収益機会を増やすことはリスク分散のメリットも出てくる。自然条件に左右される農業のリ スクは大きいと考えられているが、他産業でもリスクは存在するもの。何も農業だけが特別 ではなく、そのリスクまで織り込んだ農業経営が必要である。 ③事業の概要 ∼新しい流通を創り出す「北海道農業・元気プロジェクト」の展開∼ ・北海道農業の主なターゲットは大都市圏であるが、現在の市場流通ではただ出荷するだけで、 消費者ニーズが十分に把握できない流通形態となっている。 ・そこで、本州向け農産物の流通開発の一環として、2006 年 8 月、 「北海道農業・元気プロジ ェクト」がスタートした。道内の農家約 100 戸が参加し、農薬や化学肥料の使用などに関す る当財団独自の認証基準をクリアしたキャベツやジャガイモ、カボチャなどの農産物(HAL 認証農産物)を生産し、農協を通さずに直接出荷、イオンが販売するというもの。当面は低 農薬から始め、最終的には完全な「オーガニック野菜」の生産・販売を目指している。 - 91 - ・本プロジェクトは「HAL 認証農産物」の安定生産システムの構築と、北海道農産物の「生 産・流通・販売」の各分野における新たなシステム開発など を目的としており、当財団は農家から委託手数料の収入はあ るものの、利益にはなっていない。 ・下図はプロジェクトのイメージであるが、農業経営体との連 携も大きなポイントとなる。現在、北海道農業会議と連携の 上、北海道農業法人会議の事務局を運営。川上∼川中∼川下 の積極的な情報交換(加工食品商談会、HAL 認証農産物検討 HAL 認証農産物 会及び講習会)により、各組織へのフィードバックを行って いる。 〔北海道農業・元気プロジェクトにおける各組織の役割〕 ○品質/安全基準の統一 (HAL 認証システムの導入) HAL 財団 ○生産流通指導 ○集荷/選荷/貯蔵/出荷 ○農業金融に関する支援 北海道農業 法人会議 中間流通 ㈱イオン ○安心・安全・健康な農産物生産 ○流通システムの構築 ○持続的農業の実現 ○物流サポート ○企業的農業経営の実現 ○オペレーションサポート ○北海道農 業法人会議メ ン バー生産農産物の継続的 販売 ○お客様満足の創造 ○エコファーマー取得 ○道産農産物の販売拡大 〔北海道農業・元気プロジェクト活動概要〕 ◎ HAL 財団と国内最大の流通事業者イオン(株)との連携による北海道農業支援活動 ◎ 北海道農産物の新たな生産・流通システムの構築(環境保全・適正コスト) ◎ 外国農産物に対する競争力強化と北海道農産物の市場確保活動 ◎ 北海道農業法人会議との提携活動(全道への波及効果) ◎ 企業的経営を行う農業者の育成支援活動 ◎ 「HAL 認証農産物」の安定生産システム構築(環境保全・持続型農業・安心安全健康志向) ◎ 消費者と北海道農業の絆の構築のための活動 ◎ 生産者・流通業者・消費者との共生のための活動 - 92 - お客様 ∼農業者みんなが使える共通プラットフォームの構築∼ ・当財団の取組みの特徴として、 農業者みんなが使える加工、流通、販売までの一貫した共 通プラットホーム の構築が挙げられる。先述の「北海道農業・元気プロジェクト」はこの 一環でもあり、他にも、ITを活用した受発注システム、及び共販ネットワークの開発や、 流通センター・農産物加工施設の整備、共通パッケージデザインの構築など汎用性の高い取 組みを行っている。 〔共通プラットフォーム事業例〕 ・ITを活用したオンライン受発注システムやトレーサビリティ システム、在庫管理から流通、さらには代金清算までスムーズ 受発注システムの開発 な一連の決済システムなど、使う人に便利で簡単な受発注シス テムの開発を進めている。 ・北海道の農産物、酪農製品を販売するオンラインショップシス テムの構築を進めている。共販ネットワーク WEB サイト『ほっ 共販ネットワークの開発 かいどう本舗』は当財団の運営のもと、北海道内の協力農家と 連携した商品販売や情報発信、情報収集を目的として、実証実 験が始められている。 ・机上の理論だけでは収益につながらないという考えから、2007 年秋の稼動を目指し、貯蔵・選果・加工という一連の工程で商 品づくりを行う物流実証実験施設の建設を進めている。 流通センター・農産物加工施設の ・恵庭テクノパークへ低温倉庫2棟と食品加工施設の計3棟を建 整備 設する。投資額は土地取得費を含め約 20 億円。 ・新千歳空港、札幌市街地が近い恵庭はアクセスが良いことか ら、農家の商談スペースや会議室の活用を検討している。 ・農産物のストーリーを伝えるにはパッケージデザインが重要な 要素という考えから、多くの生産者が共通のデザインを使用 し、廉価で訴求力の高いデザインを普及させる VI(ビジュア ル・アイデンティティ)開発事業を進めている。 ・地域別、作物品目別の商品群ごとにデザインフォーマットを構 共通パッケージデザインの構築 築。デザインはあくまで商品が棚に並んだ様子のイメージを重 視している。 ・道内でこだわりの農産加工品・畜産加工品を作っている生産者 が力を合わせて一つのブランドとなれば、販売チャネルの開拓 や首都圏大規模店での流通、収益性のアップ、他商品のお客様 の相互移譲など新たな展開が期待される。 - 93 - ・今後、実証実験段階にあるプラットホーム事業それぞれが収益を生むシステム、つまり事業 化が見込まれれば当財団から切り離すことも検討している。 HAL財団による実証実験段階 受発注システム 共販ネットワーク 事業化(農家の共同出資による運営 流通センター 等) ・この他、財団活動の周知と農業者の収益向上を目的とした広報誌「HAL だより」や、農業経 営者の抱える問題点や要望を聞き、企業化に向けた必要事項を組み込んだセミナー、及び勉 強会の開催、北海道農業への貢献や農業者の収益向上に向けて企業化を計画・実行している 個人および団体に対する表彰制度「HAL 農業賞」を設けている。 ∼農業企業化に利用可能な普及型施設事業化の取組み∼ ・社会科学系の取組み以外にも当財団では自然科学系の取組み(バイオ・先端技術等)にも力 を入れているが、あくまで目的は農業企業化に関するものである。 ・例えば、建設コストの問題により一般化されていない高機動施設の導入に向けた低コスト普 及型施設開発の実証実験や、様々な技術や新しい素材から高付加価値の農業生産品開発に向 けた調査研究などを行い、より収益性の高い農業を目指している。 研究栽培圃場 成分分析室・化学系実験室 (各種農作物の栽培に関する試験研究を研究圃場で行 (農作物の栄養成分をはじめ、栽培に用いる水耕養液 い、試験研究による成果は大規模圃場で実証し、収穫 の成分組成、土壌成分などについての分析を行う。) 物の市場出荷等により収集された評価データ等をもと に、流通開発・商品開発を行う。) - 94 - 太陽光温室 グロースチャンバー (ロボットやムービング・ベンチによる機械化・自動 (様々な環境条件を再現できる試験装置。湛液式水耕 化 で、労 働生産 性と設 備回転 率(作 付け回 数)を 向 栽培用のベッド、養液循環システムを組み合わせた設 上。さらにスペーシング装置により通路スペースのム 備で、栽培作物の環境条件による比較生育実験や水耕 ダを省き、面積効率の向上を図る。) 栽培での実績のない作物の生育環境実験を行う。) 季間氷蓄熱空調システム アイスシェルター (大型水槽に数 cm の水を張り、冬の外気を導入して氷 (出荷野菜の予冷に使用する 0℃の冷気を取り出し、パ を作り、その繰り返しにより積層させながら全自動で レットに水を入れ棚に設置。冬季に氷点下の外気を取 製氷させる方法や、夏に二次側を冷水で効率よく取り り入れて氷を作り、冬は水が凍結するときの潜熱を、 出す方法をシステムとして確立したもの。) 夏は氷が融解するときの潜熱を利用するもの。) 資料)HAL 財団、ヒアリング等 - 95 - 事例 14)財団法人北海道科学技術総合振興センター (略称 ノーステック財団) ①組織プロフィール 所在地 北海道札幌市北区北 21 条西 12 丁目(コラボほっかいどう内) 役員数 28 名(うち常勤 4 名)(2007 年 9 月現在) 職員数 58 名(2007 年 9 月現在) 基本財産 43 億 8800 万円 設立年月日 2001 年 7 月 1 日 ・1996 年に設立された道内経済 4 団体を中心とする「北海道産業クラスター創造研究会」に おいて民間主体の産業クラスター実現のための政策提言等を行い、その検討内容を元に、 1998 年 4 月、ホクタック財団(財団法人北海道地域技術振興センター)内に「クラスター 事業&FC 担当部」が設置され、実践活動が開始された。 ・さらに、2001 年 7 月にそれぞれ経済産業省と文部科学省の補助事業受託機関であったホク タック財団とホクサイテック財団(財団法人北海道科学・産業技術振興財団)が統合し、当 財団が設立された。主な出資は北海道電力、北洋銀行など地元民間企業で、職員も民間企業 からの出向者がほとんどである。 ・1999 年度以降の実践活動の成果として、企業等との連携による累計で 91 件にのぼるプロジ ェクトが事業化され、2006 年度は約 41 億円の売上を計上している。また、道内 31 地域に 産業クラスター研究会が発足し、地域特性を活かした産業戦略の策定とビジネス立ち上げに 向けた活動が展開されている。 〔ノーステック財団クラスター推進部の活動の推移(概要)〕 - 96 - 〔販売に成功した事業化件数と売り上げ〕 百万円 2006 年度 売上: 41 億円 4,500 累計事業化件数: 91 件 4,000 累計売上: 約 114 億 9600 万円 4,109 3,265 3,500 3,000 2,500 1,998 2,000 1,500 1,001 1,000 500 27 118 1999年 2000年 575 331 0 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 ②経営理念・組織形態のポイント ∼企業のアイデアと外部のサポーターとの つなぎ役 ∼ ・北海道の中小企業の現状をみると、ビジネスに必要な技術やノウハウ等が概ね揃っていても、 経営者が個別に外部(支援企業、販路先、試験研究機関等)と対応することが多いことから、 ネットワークが不十分でビジネス開発が進まないという課題があった。 ・この課題解決のために、当財団が仲介役となり、企業とサポーターの連携を強め、成果のあ がる具体的な事業化を目指している。当財団の職員からなるプロジェクトマネジャーが中小 企業のニーズや課題を丁寧に聞き取り、必要となる サポーターとの接着剤 の役割を果た している。 〔これまでのビジネス開発のイメージ〕 〔当財団のビジネス開発のイメージ〕 ∼サポーターとのネットワーク不足∼ ∼企業と外部のサポーターをつなぐ∼ サポーター - 97 - ∼プロジェクトの事業化までの当財団の担当者によるきめ細かい支援体制∼ ・当財団の大きな特徴は企業のアイデアまたは地域の研究会活動に対し、プロジェクトマネジ ャー(財団職員)が一つのプロジェクトのテーマ発掘から事業化に至るまで、きめ細かい一 貫した支援を行っている点である。単なるご意見番ではなく、担当者が企業と一緒に汗を流 す姿勢を重視している。 ・具体的には、プロジェクトマネジャーが中心となり、フードコーディネーターや元大企業役 員、元北海道大学教授など専門家 80 数名で組織するアドバイザーとチームを組んで推進し ており、多様なニーズに対応可能となっている。 ・ビジネス開発は以下の 4 つのステップを踏んで実施している。特に、STEP1(テーマ発掘) では単なるアイデアのみではなく、やる気と実力があるか、身の丈にあったものか、コアと なる技術は整備されているか、などを評価するため、STEP2へは約 3 割しか進まない。また、 STEP3では補助金を活用した開発段階になるが、企業の負担割合も大きくなることから、 STEP2での検討も大きなポイントとなる。 〔ビジネス開発に向けた STEP〕 STEP1 ・面談や現場確認を通してビジネスアイデアの内容を確認し、財 団内部でプロジェクト評価表に基づいて採点して実現可能性等 (テーマ発掘・一次対応段階) を検討している。 ・企業を中心に、ノーステック財団のコーディネーター、専門の アドバイザーを構成員としたビジネス検討会議を設置し、技 STEP2 術・市場性・採算性・科学的な裏づけ等、事業化への課題を解 (ビジネスプラン検討段階) 決しながらプランを作成する。 ・この段階における調査や研究にかかる費用については、市場調 査費は企業が 1/2 負担し、その他は財団の負担となっている。 ・プロジェクト推進会議を設置し、補助金等を活用して大学等と STEP3 の共同研究によりプロトタイプの製品の製造・開発を行う。次 の事業化段階に進む前に、開発が目標に達しているかどうか再 (開発段階) 確認するとともに、事業化へ向けた広報、販売面に関する具体 的な検討も行う。 ・財団が市場に参入するための量産化に向けた生産体制、仕入れ 体制、販売体制の相談に応じるほか、開発商品のPR(マスメ STEP4 ディアへの紹介、パンフレットの作成)、フォローアップ資金 (事業化段階) へのつなぎ、諸制度の紹介も行っている。 ・事業化チームの行司役として利益配分や企業間調整を行うとと もに、知的所有権の申請や契約書作成も行っている。 - 98 - ∼様々な組織形態からの出向者で構成される民間のみの出資法人∼ ・当財団は民間主導で設立され、主な出資は北海道電力、北洋銀行など地元民間企業である。 公的な資金が入っていないため、比較的活動は制限されない。 ・また、職員も民間企業からの出向者がほとんどである。クラスター推進部は 10 名で構成さ れているが、北海道電力、北洋銀行、北海道旅客鉄道などが出向元で、北海道庁からの派遣 者もいる。このような様々な業界における豊富な経験やネットワーク、あるいは事業化に向 けた視点はビジネス開発を目指す中小企業に大きな活力を与えている。 ③事業の概要 ∼食関連プロジェクトの取組み促進∼ ・企業や生産者のプロジェクトではテーマごとに「食(農畜水産物、農業機械・食品加工機械、 衛生管理・品質管理機器、未利用資源活用」、「住(林業・製材・木製品、住宅建築、家具 等)」、「遊(マルチメディア、娯楽サービス・観光等)」の 3 つの分野に大別されている。 ・これまで事業化された 91 件のプロジェクトをみると、食関連が大半を占めており、売上も 大きい。例えば、「酪農新飼養管理システムの開発」や「鮭皮コラーゲンによる化粧品原料 の開発」では累計で約 2 億円の売上をあげ、海外からの問合せもあるという。 ・こうしたことから、当財団は「原料調達」から「販売」に至る流れに、必要と思われる技術 要素をつなぐ「食クラスター形成」を目指し、2006 年度から 5 年間で取り組む中期活動方 針の累計売上目標の 3 割(50 億円程度)を目指している。 〔食クラスターの形成イメージ〕 販売 資源再利用技術 道産食品販売プロモーション事業 貯蔵技術 鮮度維持技術 流通・物流管理技術 流通・物流 衛生管理技術 省力化・効率化技術 加工技術 製造・加工 商品企画・マーケティング 商品企画 品種改良・栽培技術 バイオ技術 原料調達 - 99 - 収穫技術 ∼既存の中核推進組織との連携による案件発掘・広域化促進∼ ・これまでのプロジェクト推進は当財団がある札幌市を拠点としていたが、広大な北海道の案 件を発掘、支援していくには難しい面があった。 ・そこで、2006 年度より道補助事業「地域産業創出プロジェクト推進事業」として、人口規 模 10 万人以上の 6 地域に既にある中核推進組織に「地域産業プロデューサー」を設置し、 当財団のような つなぎ役 にする取組みを開始した。地域産業プロデューサーは生産、工 程管理やマーケティング、マネジメントなど幅広い分野での経験者で、できるだけ地元在住 の方にお願いしている。 ・中核推進組織は既存の産業振興に関する財団等であるが、それぞれ開設された経緯や担う役 割、専門分野が異なることが多い。そこで、各地域で上がってきた案件については、中核推 進組織ができる範囲で進め、当財団も積極的に支援を行っている。 ・2006 年度では 6 つの中核推進組織を窓口としたプロジェクトとして、ビジネスプラン検討 段階が 19 件、開発段階が 3 件あり、また事業化段階へ 2 件進むなど、 点 財団の取組みは地域中核都市圏とを結ぶ 線 から始まった当 となり、そして北海道全域の 面 へと拡が りをみせている。 〔中核推進組織による支援体制イメージ〕 中核都市圏の企業・起業家 6つの地域中核推進組織 ㈱旭川産業高度化センター (財)十勝圏振興機構 (社)北見工業技術センター運営協会 (財)室蘭テクノセンター (財)釧路根室圏産業技術振興センター (財)函館地域産業振興財団 大学や高専等 研究機関 農業試験場等 ノーステック財団 - 100 - 支援機関 ∼町村圏単位で展開する「産業クラスター研究会」の取組み∼ ・人口規模 10 万人以上の 6 中核都市圏に比べ、人口規模の少ない町村圏での取組みは「産業 クラスター研究会」によるものが大きい。 ・これは、当財団が要請や強制したものではなく、前理事長の熱意が各地域の人々に伝わり、 地域の産業おこしを自主的に行おうとする気運の表れである。現在、道内 30 の地域、1,100 名の異業種ネットワークへと拡大し、地域特性を活かした産業戦略の策定とビジネス立ち上 げに向けた活動が展開されている。 ・例えば、石臼コーヒーミルやカムイ・ミンタルの塩、ホタテ貝殻を活用したタイルなどを商 品化した「胆振西部産業クラスター研究会」、七面鳥に着目しブランド化に成功した「滝上 産業クラスター研究会」などが成功事例として挙げられる。しかし、こうした事業化までた どり着く研究会はまだ少なく、様々な議論の場となっている段階にとどまっているケースが 多いという。 ・以下では、「よいち産業クラスター研究会」をベースに異業種で立ち上げた「株式会社産ク ラよいち」を取り上げ、その取組みのポイントを整理した。 ○株式会社産クラよいち 所在地 北海道余市郡余市町黒川町 1301 番地 代表者 代表取締役 役員数 7名 資本金 910 万円 設立年月日 小田 寛 (株式会社北王よいち社長) (出資者は 16 名) 2005 年 7 月 25 日 ・2000 年、27 番目の研究会として発足した「よいち産業クラスター研究会」(21 名)の農 産加工プロジェクトでは、リンゴ、サクランボ、プルーンといった地元産果実の規格外 品について、付加価値を生み出せる方法を模索する中で、果実を「ペースト化」するこ とにより、お菓子の原料や介護食など、様々な用途の商品開発の可能性に着目。そこ で、同研究会の有志の出資により「株式会社産クラよいち」を 2005 年 7 月に設立した。 ・通常、ペーストは粘度、酸度の管理が難しく、増粘剤や PH 調整剤などで調整するのが普 通とされるが、当社の原料は果実素材のみであり、こだわりの商品づくりを目指してい る。 ∼法人化は事業化に向けた第一歩∼ ・法人化のきっかけは研究会組織に限界を感じたことが大きい。研究会で議論を重ねて も、外部に対する批評や批判、または実現可能性がない夢を語るばかりでなかなか前に 進まなかった。そこで、売上を伸ばし雇用を生むという地域への経済効果を出すために も、法人化を選択した。 ・しかし、16 人の出資者は全て異業種企業の代表者であり、「誰がトップになるのか」、 「金、知恵、汗が出せるのか(ボランティアに徹することができるのか)」など様々な課 - 101 - 題が出てきた。そこで、月 2 回、7 名の定例取締役会を開き、経営理念、事業計画を綿密 に立案。「金、知恵、汗」の 3 つを皆で出し合おうと結束を深めている。 ・下図は流通過程を表したもので、生産、加工、貯蔵などを出資した企業が担っている。 また、観光業に携わった藤原常務など多彩なメンバーがおり、それぞれの経験、ノウハ ウを活かして、プロジェクトを進めている。 〔川上∼川下に至る流通過程イメージ〕 ノーステック財団 パッケージ改良支援 新たな販路先 規格外品を買取 中井観光農園 等生産者 袋詰め作業・営業活動等 一般消費者 株式会社産クラよいち 二次加工メーカー 加工(委託) ㈱北王よいち 貯蔵(委託) 既存の販路先 丸亀阿部冷蔵㈱ ∼ノーステック財団と連携した新たな販売チャネルの構築∼ ・これまで、ペーストは 2 次加工メーカーをメインターゲットとしてきた。しかし、メーカ ー側もペーストを利用した商品を開発するには時間を要しており、なかなか売上が伸びな い現状にあった。 ・そこで、小売店を通した一般消費者向けの新たな販売チャネルを開拓したが思うようにい かない。この失敗を活かし、ノーステック財団のマネジメント、資金支援を受け(補助 50 万円・自主財源 25 万円)、デザイン学校との連携のもと、パッケージデザインを検討 している。 以前のパッケージ 改良後のパッケージ 資料)ノーステック財団、ヒアリング等 - 102 - 事例 15)株式会社谷口農場 ①組織プロフィール 所在地 北海道旭川市東旭川町共栄 255 番地 代表者 代表取締役 従業員数 資本金 設立年月日 売上高 谷口 威裕 12 名(2008 年 2 月) 3,000 万円 1968 年 3 月 28 日(創業は 1900 年) 2 億 4,500 万円(2008 年 1 月期) 経営面積 作付け総面積 栽培作物 水稲 1704a トマト 343a 馬鈴薯 46a その他野菜 96a (他 果樹 16a 3400a (自社所有地 1608a 芝庭園 28a 借地 1792a) とうもろこし 263a 黒大豆 236a 小豆 370a 緑肥作物 187a 施設敷地 91a 住宅敷地 20a) ・田園都市旭川の郊外南東部は上川盆地と呼ばれ、夏は暑くまた昼夜の寒暖差が大きいため、 品質収量とも北海道随一の稲作地帯となっており、生産力の高さを象徴する「上川百万石」 とも別称されている。野菜の栽培も盛んで、気象的な優位性を発揮した道外移出の先進地と して高い評価を得ており、稲作と双璧をなしている。 ・1987 年、特別栽培米制度が創設されると同時に消費者ネットワークを組織。翌年、旭川近 隣の青年部 OB 10 名により北海道クリーン農業研究会を設立、統一ブランド米を「雪の舞」 と決定。その後、特別栽培米の契約面積の拡大や、有機発酵肥料製造工場を新築など有機栽 培、こだわり商品への取組みが当社の大きな特徴である。 ②経営理念・組織形態のポイント ∼経営の複合化による気づき∼ ・今から 107 年前、初代が富山県魚津市より現在地に入植。創業以来稲作一筋であったが、 1968 年に法人化した後、1970 年に米の減反政策が実施され、対応策としてえのき茸栽培の 導入を決断した。夏季は水稲、冬季はえのき茸と通年就業体制を確立。 ・このように、米とえのき茸を組み合わせた複合経営は「同じ農業でもこんなに違うのか」と 気づきを与えた。また、1972 年の大凶作でもリスクが分散されたことで比較的影響が少な かった。 ∼成功と失敗を通じた販売チャネルの拡大∼ ・1987 年には市民農園「キレンジャクくらぶ」を開設(現在は閉鎖)。また、水稲育苗ハウス の後作として、トマトの試験栽培、トマトジュースの委託製造を始めると、この完熟トマト ジュースが評判となり、有機農産物宅配会社「らでぃっしゅぼーや」との取引が始まる。 ・しかし、1990 年、外注先の製造ミスによる事故により「らでぃっしゅぼーや」との取引が 停止し、加工部門からの撤退を考えた。しかし、今後の事業展開を見据え、これまでの委託 - 103 - 加工から自社加工への転換を図るべく工場を新築(事業費約 8 千万円・補助事業)、新たな ブランド名「ゆうきくん」として再出発する。 ・1997 年には、売掛損失による資金繰り悪化を軽減するため、完熟トマトのもぎとり直売を 実施し、1999 年には売上高 1,000 万円を突破。翌年には、農場直売店「まっかなトマト」 を設置し、本格的な野菜販売を開始した。 ・2000 年、北海道入植 100 周年を契機に、総合的なアグリビジネス戦略を策定。翌年、経営 戦略を 3 つの事業に区分化、マザーファーム事業を重点項目とし、 2002 年には農場アンテナショップ機能を兼ねた農場キッチン「赤 とんぼ」開店、地元小学校の要請により「田んぼの学校」「わんぱ く農場」の体験事業を開始している。 ・このように、当社は経営複合化でもあくまで農業生産を基軸とし、 「稲作+畑作+野菜+肥料製造+食品加工+観光飲食+農業体験」 の部門を効率的に組み合わせ、農業の多面的機能のビジネス化を図 ると同時に、年間を通じて安定した就業体制を確立した点に特徴が ある。今後は、ネット販売システム構築に向けて、専従者を置くな 有機栽培完熟トマト ジュース「ゆうきくん」 ど体制づくりを進めるとしている。 ∼徹底した社内の情報共有化・事業計画の立案∼ ・1995 年、「ゆうきくん」が有名テレビ番組に取り上げられると産直宅配が急激に増加、放送 日当日には 920 万円の売上を計上したことから、約 2.5 倍に増産を開始した。しかし、長期 の見通しが甘く、大量の在庫を抱えることになる。この経験から、事業計画の重要性を認識 する。 ・経営理念を「三健農業の確立(大地の健康を守り、作物の健康を養い、人の健康を育む農業 を実践する)」と設定し、経営目標、事業計画、決算状況等とともに、社員への情報開示を 徹底している。また、社員教育の仕組みづくりにも力を入れ、2007 年度には、総務部、農 産部、製造部門、観光部門それぞれのマニフェストを作らせるなど、社員全体が経営意識を 持つきっかけづくりを進めている。 ∼本格的な広域連携ビジネスへの取組み∼ ・2005 年、北海道の農業法人 23 社による販社㈱アグリスクラム北海道を設立。農業者⇔農業 者、生産者⇔消費者、農業者⇔就農希望者の 架け橋 となることを目的に、統一ブランド による商品開発や IT システム化の研究(オンラインショップ)、会員を講師にした「アグリ 塾」の実施による農業経営技術の向上などに取り組んでいる。 - 104 - ③川上∼川下に至る流通形態 ∼多彩な販売チャネルとビジネスパートナー∼ ・主な販売チャネルとしては、小売店、食品メーカーへの直販だけでなく、顧客会員「緑の家 族」への自社ブランド米「雪の舞」等の宅配販売、OEM商品の受託製造、トマトジュース 「ゆうきくん」などトマト関連製品直売所「まっかなトマト」、トマトのもぎとり園、夏場 のみの営業のため売上割合は低いものの農場キッチン「赤とんぼ」など多彩で、成功と失敗 を繰り返しながら着実に顧客からの信頼を得ている。 ・また、北海道中小企業家同友会や北海道農業法人会議、北海道農業企業化研究所(HAL 財 団)、北海道クリーン農業研究会などとの情報交換や業務提携、またあさひかわ農業協同組 合ともパートナーシップを構築している点も大きなポイントである。 〔川上∼川下に至る流通形態イメージ〕 旭川地区アグリビジネス研究会 北海道クリーン農業研究会 契約栽培 契約栽培 資材メーカー 北海道中小企業家同友会 仕入 あさひかわ農業 協同組合 情報交換 ㈱谷口農場 北海道農業法人会議 金融・仕入・ 情報交換 販売 〔関連会社〕 北洋銀行 農林漁業金融公庫 旭川信金 ㈱旭川食品 金融 (豆製品の製造等) 販売 大手スーパー、 食品メーカー 宅配業務 業務提携 北海道農業企業化研究所 (HAL 財団) 顧客会員 1,383 名 (うち米の宅配 442 件) (平成 18 年 12 月末現在) OEM商品の ㈱ずいうん、㈱りょくけん、 ㈱フルーツバスケット 受託製造 直売 量り売り トマトもぎとり園 農場直売店「まっかなトマト」 自然食 レストラン 農場キッチン「赤とんぼ」 地産地消 学童農園「田んぼの学校」、 体験農園「わんぱく農場」 の拡大 委託販売 資料)谷口農場 HP、HAL 財団、ヒアリング等 - 105 - ㈱アグリスクラム北海道 事例 16)有限会社仲野農園 ①組織プロフィール 所在地 夕張郡長沼町東 6 線北 14 代表者 代表取締役 従業員数 資本金 同族会社 仲野 満 約 30 名(有限会社仲野フルーツガーデン含む) 300 万円 有限会社仲野フルーツガーデン ・長沼町は道央都市近郊に位置する地理的優位性と 11,500haの広大な農耕地が存在する。 こうした特徴を活かし、2004 年にはグリーンツーリズム特区の認定を受け、消防法、旅館 業法についても規制緩和が適用、事業コストが低減されたことにより、農産物直売所やファ ームレストラン、観光農園等が整備されてきた。また、農家民泊も約 150 戸で約 3,000 人を 受け入れており、2008 年は約 5,000 人の受入が予想されている。 ・当社では生産分野において消費者ニーズに応じた品種選定をするとともに、加工に適した品 種で少量高付加価値商品を重視し、お菓子作りに最適な紅玉やジュース専用のコックスオレ ンジなど用途の違うリンゴを栽培している。時期によっては 10 種類以上のリンゴの味を楽 しめる。加工分野では自社生産の果樹を原料としたジュース(北王よいちに委託製造)、ジ ャムなど新商品の開発などを行っている。 ②経営理念・組織形態のポイント ∼リンゴの木オーナー制への取組み∼ ・これまで 4 世代に渡ってリンゴを中心に作り続けてきたが、リンゴの木オーナー制に取り組 むことで、収穫に伴う作業量の軽減と商品選別、及び調整作業負担の低廉化を図ったもの。 ・オーナー制度の規模は、8 年程前に約 450 本であったものが現在、270 本程となっている。 管理の面からも適正規模であると考えている。1 本あたり平均 1 万円で、リピーターは 5 割 程である。また、参加者が収穫した食材を使った料理や菓子作りを体験できる料理教室など も開催している。現在、約 2,500 万円の売上があり、リンゴとその加工品が約半数を占め、 その他、じゃがいも、さくらんぼ、ブルーベリー、プルーンがほぼ同じ割合で、果樹が約 9 割となっている。 オーナー制のリンゴの木 - 106 - ∼ 高付加価値化 と 消費者とのふれあい を生むレストラン事業への進出∼ ・仲野社長は、「丘の上から、雄大な北海道の大地や石狩平野に沈む夕日の雰囲気を味わいた い」という思いから、ログハウスを 4 年の歳月をかけて手作り。1995 年 3 月にファームレ ストラン「ハーベスト」を創業し、同年 9 月に「ハーベスト」を有限会社仲野フルーツガー デンとして法人化している。現在、年間約 6 万 5 千人の来客数で約 9 千万円の売上がある。 ・レストランに出す原料のうち、リンゴジュースやじゃがいもは通年で自社農園から供給でき る。これらは農場から直接出荷した場合の価格と比べて、レストランで売ると数倍の付加価 値を生むことになる。また、観光農園のもぎ取りだけでは農業生産の過程と生産者の想いが 消費者になかなか伝わらないものが、目前で食しても らうことでその感想や感謝の言葉を得られる場となる。 同社長は農家が農産物加工からファームレストランま でを営む最大のメリットはこの 消費者とのふれあい 高付加価値化 と にあると考えている。 ・農家は畑以外でも様々なこと(納屋の修理や農業機械 の手入れなど)ができないと生きていけないが、チェ ーンソーを使った大工工事などが得意だった同社長は 手作りのログハウス「ハーベスト」 ログハウスを手作りし、比較的安価に事業拡大ができ た。このように、農家は農業で学んだノウハウを畑以 外でもっと活かすべきと考えている。 ・しかし、農家は 人をもてなす ことに慣れていない。 料理や接客といったレストランのノウハウを取得する のに時間を要した。また、冬場では来客数が減少し、 売上も 3 分の 1 まで落ち込む。レストランは 20 人を 雇用しているが、年間で 8∼10 ヵ月しか雇用できない 「ハーベスト」内部 のが現状である。 ∼事業展開で重視する 地域活性化 の視点∼ ・自社農園で供給できるリンゴジュースやじゃがいも以外はなるべく地元から調達している。 個人農家やJAだけでなく、農産物以外も地元商店から仕入れるようにしている。レストラ ン「ハーベスト」は大自然や夕日など長沼町の雰囲気を売る場所であると同時に、地域の食 材をPRする場所、言わばアンテナショップ的な機能を充実させたいと考えている。 ・レストランでは 20 人の雇用が生まれているが、出身が農家で将来就農を希望する若者や製 菓専門学校の卒業生など、全て地元採用である。 ・近隣にもファームレストランがあるが、最近ビュッフェスタイルに変えたことで来客数が増 えた結果、当レストランの来客数も増加した。このように消費者ニーズに即した施設がある 程度集積され、地域の魅力や経済的な効果を生み出していく必要がある。 - 107 - ③川上∼川下に至る流通過程 ・販売チャネルとして、有限会社仲野農園が営む果樹もぎとり園、リンゴの木オーナー制度、 直売所、有限会社仲野フルーツガーデンが営むファームレストラン「ハーベスト」、及び 「ハーベスト」内ショップがあり、ほぼ全てが消費者直売の形態となる。内訳はファームレ ストラン「ハーベスト」、及び「ハーベスト」内ショップで約 8 割の売上を占めている。 ・今後、農業者の経営するレストランであることを有効的にPRし、差別化を図ると同時に、 消費者が収穫体験の中で収穫した食材を使った料理や菓子作りを体験するような料理教室の 開催など、農園とファームレストラン、つまり生産と加工、販売機能を持つ強みを活かした 取組みを進める方針である。 〔川上∼川下に至る流通過程イメージ〕 果樹もぎとり園、直売所 有限会社仲野農園 生産 リンゴの木オーナー制 販売 有限会社仲野フルーツガーデン レストラン「ハーベスト」 ㈱北王よいち 委託加工 周辺農家、商店 (ジュース) 販売 「ハーベスト」内ショップ 資料)仲野農園、HAL 財団、ヒアリング等 - 108 - 事例 17)株式会社北洋銀行 ①組織プロフィール ・北海道を中心に業務を行う第二地方銀行。本店所在地は札幌市。破綻した北海道拓殖銀行の 事業を譲受した流れを受け、北海道及び札幌市の指定金融機関である。資金量・預金量は道 内銀行で最大、かつ第二地方銀行で最大である。 ②北海道農業支援の主な取組み ∼大都市圏での食品商談会によるビジネスマッチング促進∼ ・北海道農業の現状として、年に一度しか収穫できない一毛作で夏から秋にかけて大量に出荷 され、集荷・加工・流通・販売はJA系統が担う割合が高い。また、茶のような工芸農作物 などはほとんどなくバレイショや大豆、小豆など一次、二次加工が必要な品目が多いことや、 ターゲットとする市場も首都圏の割合が高いこと、食の歴史・文化などが浅いことなどから、 農家が消費者ニーズを把握するのは難しいと考えている。 ・こうした現状を受けて、当行では業務推進部の担当者が中心になり、融資部等との連携のも と、農業分野への取組みを推進しており、JA系統を利用せず、独自に商品開発、市場流通 を目指す農業法人等の支援に力を入れている。 ・毎年秋に行っている食品商談会「インフォメーションバザール」は 20 年の歴史があり、主 に札幌市を会場としてきたが、3 年前から首都圏東京で実施している。来場者数は 2,000 名 を超え、参加企業数は 2006 年の 100 社から 2007 年は 170 社に増加、リピート率は約 8 割と 人気を博している。これに続き、2008 年 2 月には大阪で開催し、約 100 社の参加を得た。 ・開催にあたっては、北海道経済産業局や北海道、札幌市など行政、JA系統やノーステック 財団、商工会議所など北海道の業界団体も多数参加している他、鹿児島銀行も協力しており、 金融機関の地域間連携による広域的なビジネスマッチングにも力を入れている。 インフォメーションバザールの様子 資料)北洋銀行、ヒアリング 開催チラシ - 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