コシヒカリの米飯食味に関わる要因の解析 東京農業大学 食料資源理化学研究室 辻井良政 研究概要 近年、食の多様化に伴い、米の消費は減少傾向にあるが消費者は米飯に対するおいしさにこだわりを持っている。米飯の食味は米の品種、産地、栽培方法、 貯蔵方法や収穫後の経過時間などによって影響され、炊飯後の粘り、硬さ、コシ、甘み、香りや外観などが人の官能によって評価される。ジャポがニカやイ ンディカなどの亜種はデンプンのアミロース含量やタンパク質含量などの理化学的成分によって食味の比較ができ、以前はジャポニカ内においてもコシヒカ リを中心に比較を行うことができた。しかし、コシヒカリから育種された良食味米の増加に伴い、従来の理化学的方法では比較が困難になった。しかしなが ら、良食味米の食味は確実に一つ一つ異なっており、どの様な化学的成分に影響を受けているかは詳細には明らかになっていない。また現在、日本の市場に 流通している米の約4割がコシヒカリであり、約9割がコシヒカリ系統である。これらコシヒカリ系統のDNAを用いた品種判別は可能であるが食味の差が生ま れる要因は解明されていない。そこで本研究では胚乳中のたんぱく質や代謝物質に着目し、メタボロームやプロテオーム解析などを用い、コシヒカリ系統米 の食味の差に関わる要因を解明することを目的とした。 DNAを用いた品種判別は可能であるが コシヒカリ 食味判断は不可能 ジャポニカ コシヒカリ 系統 インディカ 理化学的成分を用いた食味の比較が可能 理化学的成分が類似 酵素活性量を用いた主成分分析 炊飯中の米の胚乳中では酵素が作用することで細胞壁多糖やデンプンの分解な どの構造変化が起こり、硬さ、粘りや甘みなどの変化をもたらし食味に影響を与 えている。そこで今回は炊飯中に作用し食味に影響を与えていると考えられる酵 素に着目し、酵素活性量の測定を行った。 (Units/米1g) S1 S2 S3 S4 S5 S6 S7 S8 K1 K2 K3 K4 K5 K6 K7 K8 K9 50 0 100 150 200 100 200 300 400 【Fig.2】 β-amylase活性量 【Fig.1】 α-amylase活性量 S1 S2 S3 S4 S5 S6 S7 S8 K1 K2 K3 K4 K5 K6 K7 K8 K9 S1 S2 S3 S4 S5 S6 S7 S8 K1 K2 K3 K4 K5 K6 K7 K8 K9 0 60 120 180 20 40 60 80 【Fig.4】 α-galactosidase活性量 【Fig.5】 β-galactosidase活性量 S1 S2 S3 S4 S5 S6 S7 S8 K1 K2 K3 K4 K5 K6 K7 K8 K9 S1 S2 S3 S4 S5 S6 S7 S8 K1 K2 K3 K4 K5 K6 K7 K8 K9 0 5 10 15 20 25 【Fig.7】 β-xylanase活性量 4.0 LGCソフト コシヒカリ 3.0 朝露 新形質米 2.0 0 20 40 60 80 100 【Fig.3】 α-glucosidase活性量 S1 S2 S3 S4 S5 S6 S7 S8 K1 K2 K3 K4 K5 K6 K7 K8 K9 0 測定した酵素活性量のデータについて総合的な特徴を比較する ため、多変量解析を行った。解析には17種の試料について8種類 の酵素活性量を用い、主成分分析にはEXCEL主成分分析アドイン (PCA97.xla)ver.1.7を用いた。 第2主成分 S1 S2 S3 S4 S5 S6 S7 S8 K1 K2 K3 K4 K5 K6 K7 K8 K9 0 食味差に関与する要因を明らかにする! しかし、食味は確実にすべて異なる! など 酵素活性量測定 S1 S2 S3 S4 S5 S6 S7 S8 K1 K2 K3 K4 K5 K6 K7 K8 K9 タンパク質、代謝物の存在バランスに着目 はえぬき デンプンのアミロース含量 タンパク質含量 従来の理化学的成分による 食味の比較は非常に困難 あきたこまち 千葉産 1.0 0 日本晴れ 出雲産 はなえまき 邑南産 福島産 夢十色 茨城産 秋田産 -1.0 ソフト158 岡山産 累積寄与率 山形産 (第2主成分まで) 京都産 ミルキークィーン 山形97号 72.4% -2.0 1.0 2.0 3.0 -4.0 -3.0 -2.0 -1.0 0 第1主成分 【Fig.9】第1および第2主成分スコアの散布図 結果・今後の方針 酵素活性量 0 20 40 60 80 100 【Fig.6】 α-mannosidase活性量 Sは新形質米を示す S1 はなえまき S2 夢十色 S3 日本晴 S4 朝露 S5 ミルキークィーン S6 LGCソフト S7 ソフト158 S8 山形97号 (山形県農業総合研究センター と共同試験中、登録予定品種) Kはコシヒカリを示す K1 福島産 K2 秋田産 K3 山形産 K4 茨城産 0 20 40 60 80 100 K5 京都産 K6 岡山産 K7 邑南産 K8 出雲産 【Fig.8】 K9 千葉産 β-glucanase活性量 新形質米 個々の酵素の活性量は品種に よってまったく異なる 複数地域産コシヒカリ 差が確認され、同品種に おいても酵素発現量が変化する 主成分分析 新形質米 個々の酵素バランスが異なる コシヒカリ・山形97号 酵素バランスが似ている 食味が近いという予想付け に繋がる?! 酵素活性測定 試料の追加 酵素活性量のグルーピングの 可能性を検証 食味に連動した品種指標の作成 プロテオーム解析 メタボローム解析 ELISA法による 目的タンパク質の定量比較 食味差に関与する要因を解明する!
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