がん化学療法におけるメディカルスタッフの 職業性曝露とその予防について

1
Vol.
Knowledge Communication Surgical は、医療従事者が術中の感染リスクを軽減するための知識や注意点などを、
専門の先生にわかりやすくレクチャーしていただく情報ツールとして誕生しました。
初回は、抗がん剤の取り扱いに関わるメディカルスタッフが受ける職業性曝露の危険性やその予防について、
時計台記念病院の児玉佳之先生に寄稿していただきました。
がん化学療法におけるメディカルスタッフの
職業性曝露とその予防について
社会医療法人社団カレスサッポロ 時計台記念病院
法人本部 がん医療推進室 室長
消化器センター
児玉 佳之 先生
1997年
1998年
2002年
2003年
2007年
2010年
2012年
札幌医科大学医学部卒業
市立美唄病院
栗山赤十字病院 栗山赤十字病院 内科 副部長 藤田保健衛生大学 外科・緩和医療学講座 助教
社会医療法人社団カレスサッポロ 時計台記念病院
消化器センター
社会医療法人社団カレスサッポロ 法人本部
がん医療推進室 室長
■ はじめに
日本静脈経腸栄養学会 評議員、指導医
日本緩和医療学会暫定指導医
インフェクションコントロールドクター(ICD)
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会認定士
日本病態栄養学会評議員、NSTコーディネーター
日本肥満症治療学会 評議員
PEG・在宅医療研究会 専門胃瘻管理者、専門胃瘻造設者、
認定胃瘻教育者
北海道胃瘻研究会 世話人
可能性があります。日本において、職業性曝露が健康な身
体にどのような影響を及ぼすかについてはほとんど報告さ
1981 年以降、悪性新生物は、日本における死因の第 1
れておらず、十分なフォローも受けているとは言えません。
位となり、その死亡率は増加傾向にあります(次頁・図1)
。
このような現状でわれわれは抗がん剤を扱わなければなら
近年、日本において、がん治療における化学療法は目覚ま
ないのです。最近はかなりがん関連の雑誌で職業性曝露の
しい進歩を遂げており、それに伴い、メディカルスタッフ
ことが掲載されるようになり、メディカルスタッフの職業
が取り扱う抗がん剤の種類や量も急激に増加しています。
性曝露に対する意識は少しずつ高まっていますが、個人間、
抗がん剤に関する情報はあふれていますが、その多くが抗
職種間、または施設間でその差は大きく、実際の現場では
がん剤の治療効果のことであり、安全な投与法や曝露によ
正しい知識が身についておらず、さらに経費がかかること
る影響についてはほとんど(全く)伝えられていません。
もあり、なかなか必要物品も整備されていないのが現状で
がん治療において「生存期間の延長」がひとつの大きな目
はないかと思われます。そこで、今回は「抗がん剤の職業
標ですが、抗がん剤治療を受けている患者さんに関わるメ
性曝露とその予防」について考えてみたいと思います。
ディカルスタッフにとっては安全な抗がん剤治療について
も十分に理解している必要があります。そうでなければ、
■ ハザードドラッグとは
がん治療に関わっている健康なメディカルスタッフや健康
抗がん剤など、人々への健康被害を起こす危険薬剤のこ
な患者家族に何らかの悪影響が起こりうる可能性があるか
とをハザードドラッグ(Hazardous Drug:HD)と呼んで
らです。抗がん剤に汚染されている場所は、われわれの目
います。HD は、米国病院薬剤師会(American Society of
には見えません。そのため、抗がん剤に関わるメディカル
Hospital Pharmacists:ASHP)での定義をもとに、米国国
スタッフは知らないうちに、抗がん剤の曝露を受けている
立労働安全衛生研究所(National Institute for Occupational
1
図1 死亡別にみた死亡率の年次推移
死亡率︵人口
万対︶
10
280
260
240
220
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
悪性新生物
心疾患
脳血管疾患
肺炎
22
・
30
・
40
・
50
昭和‥年
・
60
2
7
・
17
20
不慮の事故
自殺
肝疾患
結核
平成・年
注:1)平成 6・7 年の心疾患の低下は、死亡診断書(死体検案書)(平成 7 年 1 月施行)において「死亡の原因欄には、疾患の終末期の状態
としての心不全、呼吸不全等は書かないでください」という注意書きの施行前からの周知の影響によるものと考えられる。
2)平成 7 年の脳血管疾患の上昇の主な要因は、
ⅠCD-10(平成 7 年 1 月適用)による原死因選択ルールの明確化によるものと考えられる。
2
Safety and Health: NIOSH)が、①発がん性、②催奇性、
どのような影響を及ぼす危険があるかを知っていなければ
③生殖毒性、④臓器障害(低用量での)
、⑤遺伝毒性、⑥
職業性曝露を避けることはできません。1979 年にフィン
危険薬剤に構造あるいは毒性が類似している、の 6 項目の
ランドの Falck らが抗がん剤を取り扱った看護師の尿から
うち1つ以上満たしている薬剤のことをいうと定義してい
正常者より有意に高い変異原性物質が検出されたと報告
ます。
し、健康なメディカルスタッフに対する初の毒性報告とし
HD の準備や投与時に医療者が曝露を受けることを「職
て注目を集めました。その後もがん化学療法を行うメディ
業性曝露」と呼んでいます。HD の曝露によって起こる重
カルスタッフの染色体異常や、流産発生率の増加、急性症
大な問題として発がん性や催奇性があります。発がん性と
状の発症などの報告が続き、職業性曝露に対する予防対策
は正常細胞がなんらかの原因によってがん化する性質のこ
が注目されるようになりました。抗がん剤の曝露による影
とで、細胞の度重なる変異や遺伝子要因、細胞のアポトー
響は、発がん性、催奇性に加え、臓器障害や急性症状(表
シス障害、細胞の分化異常などが原因となります。多くの
抗がん剤は DNA に影響し、がん細胞を障害するという作
表1 抗がん剤の曝露によって起こる急性症状
用をもっていますが、それと同時に正常細胞の DNA や染
色体にも働いて、細胞のタンパク合成に影響を与えること
過敏反応
アレルギー反応、皮疹、
眼の刺激など
免疫反応
慢性の咳嗽あるいは喉の刺激、
発熱など
消化器症状
食 欲 不 振、 悪 心、 嘔 吐、 下 痢、
便秘など
循環器症状
息切れ、不整脈、末梢浮腫、胸痛、
高血圧など
によって突然変異を起こします。突然変異を起こした
DNA や染色体の多くは、異常細胞として生体免疫反応に
よって取り除かれますが、残存した一部が変異細胞を作り、
がん細胞が発生します。これを二次がんと呼んでいます。
一方、催奇性とは、妊娠中に HD に曝露した場合、胎児の
構造上の障害が起こり、奇形を起こす性質のことをいいま
す。また、精子や卵子が影響を受け、流産や不妊の原因に
なるというような場合もあります。
■ 抗がん剤の職業性曝露による影響
発がん性のある薬剤を扱う場合には、その薬剤が自分に
神経症状
頭痛、めまい、不眠、
意識消失など
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1)などが報告されています。がん化学療法薬の発がん性
ンプルまたはバイアルに封入されている場合、調製のた
を示すデータの多くは動物の HD 曝露による発がん性変異
めに薬剤を取り出すときに、薬液が飛び跳ねたり、こぼ
原性の確認と、HD を扱うメディカルスタッフの尿中に出
れたり、エアロゾルが発生することがあります。バイア
現した変異原性物質の検出、がん化学療法を受けた患者さ
ルの抗がん剤が増えていますが、バイアル内が陽圧化し
んでの二次がんの発症についてです。二次がんについては、
た場合に、トップに開いた穴から溶解された抗がん剤が
白血病、非ホジキンリンパ腫、膀胱がんの報告が多くなっ
こぼれたり、エアロゾルが発生することがあるので取り
ています。多種類の抗がん剤に少しずつ長期的に曝露され
扱いには注意が必要です。また、注射器内の空気を排出
た場合の慢性的な影響については、現在のところ明らかに
する時や針を外す時にも、エアロゾルの発生やこぼれを
なっていません。また、曝露後長時間経過した後に発症し
生じやすくなります。ルアロック式でない注射器や針を
た場合には、これらの症状の原因が職業性曝露であるとは
使用すると作業中に接続が外れることもあります。
思いつかない可能性があります。さらに、抗がん剤の職業
性曝露による影響はわれわれだけでなく、子供の世代まで
2. 抗がん剤の与薬時
影響する可能性がありますが、そこまで長期間にわたって
点滴で投与する時には、輸液ラインを抗がん剤の入っ
調査された報告はほとんどありません。このような状況で
た薬液でプライミング(ラインを薬液で満たす)すると、
ありながら、抗がん剤治療に関わるメディカルスタッフの
ラインの先端から抗がん剤がこぼれ出ることが考えら
長期間の健康被害を調査できていないのも現状なのです。
れます。また、点滴終了後接続をはずす時に点滴セット
の接続部、点滴バックなどから抗がん剤がこぼれ出る可
ここでは、実際に抗がん剤の職業性曝露が日常のどのよ
能性があります。経口の抗がん剤も細粒や顆粒であれば
うな場面で起こるのかを考えてみたいと思います。
与薬時に飛散する可能性があります。また、錠剤や軟膏
などでも素手で扱うと、皮膚から抗がん剤を吸収してし
表2 抗がん剤の職業性曝露の機会
業務内容
まう可能性があります。
抗がん剤曝露の機会
3. 抗がん剤の運搬・保管時
調製・与薬準備
運搬・保管
与薬
(点滴・注射・内服など)
こぼれた薬剤の処理
付着物の廃棄
排泄物の取扱い
リネン類の取扱い
抗がん剤がガラス製のバイアルやアンプルに入って
・エアロゾルの吸入
・皮膚への付着
・眼への飛び散り
・針刺し
いる場合、運搬中の振動などでガラスが破損し、薬剤が
こぼれる危険性があります。また、保管する時にも、場
所によっては落下などにより、容器が破損すれば、薬剤
の漏出事故が起こる可能性があります。海外では、製造
過程でバイアル表面に抗がん剤が付着する危険性が指
・薬剤の付着した手から
の経口摂取
摘されており、日本でも、使用前のシクロフォスファミ
・便、尿、吐物への接触
されています。ということは、抗がん剤による曝露のリ
・薬剤付着リネン類への
接触
スクは、調製前にすでにあるということを認識する必要
在宅における看護
ドのバイアルの表面に薬剤が付着していたことが確認
があります。最近は、メディカルスタッフの安全を高め
たバイアルも開発されています。オンコテイン TM バイ
アルは、①バイアル表面の残留抗がん剤による曝露のリ
スクを軽減する、②搬送時、落下時のバイアル破損のリ
1. 抗がん剤の調製時
スクを軽減する、③バイアル破損時のガラス片や薬剤飛
最近は、薬剤師が安全キャビネット内で調製すること
散のリスクを軽減するという特徴をもっており、このよ
が多くなっていますが、現在も病棟の処置台で看護師や
うな製剤技術を使用した製品を積極的に採用するのも
医師が行っていることもあると思います。抗がん剤がア
重要と考えます。また、企業側も積極的にこのようなメ
3
ディカルスタッフの安全を高めたバイアルの開発に力
べてのメディカルスタッフは職業性曝露のタイミングにつ
を注いで欲しいと思います。
いてしっかり理解していないと職業性曝露の予防はできま
せん。また、すべてのメディカルスタッフは、どの患者さ
4. 残薬や抗がん剤付着物などの破棄時
んが抗がん剤治療中であるのかを、知っていなければなり
抗がん剤の残薬、調製時に使用した器材、使用後の輸
ません。そして、抗がん剤治療終了後 48 時間は体液の扱
液セット、薬液が汚染したシートやアルコール綿などを
いに注意する必要があるのです。医師、看護師、薬剤師だ
蓋のないゴミ箱に破棄すると、その中で薬剤がこぼれて
けでなく、介護士、リハビリセラピスト、管理栄養士、放
エアロゾル化するリスクがあります。内服抗がん剤の
射線技師、臨床検査技師、清掃担当者などすべてのスタッ
PTP 包装やスティック包装なども注意が必要です。抗が
フが注意する必要があります。抗がん剤治療終了後 48 時
ん剤が付着したものを破棄する時には容器に必ず抗が
間以内の患者さんがこれらのスタッフがそばにいる時に嘔
ん剤が付着していることを明記すべきであり、廃棄物処
吐したらどうするでしょう?そのようなときのマニュアル
理業者に対する曝露予防に対しても配慮が必要となり
は皆さんの病院にはあるでしょうか?また、そのようなと
ますが、現在のところこれらに取り扱いに関する法的な
きに実際にどうするか訓練などしているでしょうか?
強制はありません。
4
■ メディカルスタッフへのアンケート調査
5. 排泄物の取り扱い時
実際にメディカルスタッフは現時点でどのくらい抗がん
抗がん剤治療終了後 48 時間は体液中に薬剤が残存し
剤の職業性曝露に対して理解しているのかを知るために、
ている可能性が高いため、治療を受けた患者さんの排泄
当院で開催している緩和医療学講座 in 時計台記念病院に
物(尿、便、吐物など)によって、抗がん剤の曝露を受
参加したメディカルスタッフ 69 名(医師 4 名、看護師 41
ける危険性があります。そのため、患者さんのオムツ、
名、薬剤師 10 名、リハビリセラピスト 9 名、管理栄養士
蓄尿バック、ストーマパウチなどを通常の破棄方法で取
4 名、その他 1 名)に対して「抗がん剤の取り扱いに関す
り扱うと、抗がん剤の飛び跳ね、こぼれ、エアロゾル化
るアンケート」調査を実施しましたのでその一部を紹介し
などにつながる可能性があります。
ます。
「これまでに、抗がん剤の取り扱いに関する教育を
受けたことがありますか」の質問に「ある」と回答したの
6. リネン類の取り扱い時
は全体の 53%で、
「スピルキットを知っていますか」の問
排泄物と同様、抗がん剤治療終了後 48 時間は体液中
いに「知っている」と回答したのは全体の 7% でした。同
に薬剤が残存している可能性が高いため、治療を受けた
時に看護師(41 名)だけに実施したアンケートでは、
「抗
患者さんの体液が付着したリネン類を素手で取り扱う
がん剤が入った点滴バッグに輸液セットを接続する際、事
と、抗がん剤に曝露する危険性があります。
前に輸液セットを生理食塩水などであらかじめプライミン
グを行ってから接続を行っていますか。
」との問いに「はい」
病棟での抗がん剤の調製や予薬作業、抗がん剤治療患者
と回答したのは全体の 27%でした。抗がん剤を投与され
のケアはほとんどが看護師の業務であることから、看護師
た患者の排泄物(便・尿・吐物)の取り扱いに関する現状
はメディカルスタッフの中でも抗がん剤に曝露する機会が
についてのアンケートでは「抗がん剤投与後 48 時間(薬
最も多い職種といえます。しかし、現場の医師、看護師の
剤によっては 72 時間)までを “ 曝露防止策を実行すべき
中には抗がん剤曝露の危険すら正しく認識していない人た
時間 ” として認識していますか」の問いに「はい」と回答
ちがたくさんいるのが現実です。実際に私も研修医時代に
したのは 12%で、
「患者の排泄物を取り扱うときは防護具
病棟で眠い目をこすりながら抗がん剤の調製を行っていま
を着用していますか。
」の問いには約 20%が「はい」と回
したが、今考えると曝露予防対策は全く実施できていませ
答しました。抗がん剤を投与された患者のリネン類の取り
んでした。残念ながら、その当時抗がん剤の曝露予防教育
扱いに関する現状についてのアンケートでは「 防護具を
は全くされていませんでした。しかし、現在はそれではい
装着して患者のリネン類を取り扱っていますか」の問いに
けません。抗がん剤治療を行っている患者さんに関わるす
は「はい」と回答したのは 1 名のみでした。在宅の場合の
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アンケートでは、
「患者の洗濯物は家族の洗濯物と分ける
4. 注射針の針刺し
ように指導していますか」の問いに 10%が「はい」と回
抗がん剤の調製・混合時に使用した注射針を誤刺した
答し、
「患者の洗濯物は通常の洗剤で 2 度洗濯するように
場合には、軟部組織の蜂巣炎や組織壊死がおこることが
指導していますか。
」の問いには、1 名のみが「はい」と
あります。
回答しました。
表3 抗がん剤の曝露経路
吸 入
エアロゾル化した薬剤の吸い込み、ダス
トの吸い込み
吸 収
直接触れる、あるいは保存容器などの周
囲に付着した薬剤と皮膚や目が接触する
摂 取
針刺し
■ 海外・日本における職業性曝露対策
欧米諸国では、1970 年代から国家が医療従事者のため
の抗がん剤取り扱いガイドラインを作成し、その遵守を法
的に義務づけています。アメリカでは労働者安全衛生法の
もと、1970 年に連邦政府の一機関として、労働安全衛生
管理局(Occupational Safety & Health Administration:OSHA)
が設置され、1986 年に「職場における細胞障害性治療薬
汚染された食品、飲料水などと一緒に食
べる(手についたあるいは周辺の機器な
どに付着した薬剤を飲食時に一緒に食べ
てしまう)
の管理のためのガイドライン」
、1999 年に「テクニカルマ
薬剤で汚染された針を刺してしまう
たにもかかわらず、職員の尿から抗がん剤が検出されたこ
ニュアル(危険な薬への職業被曝のコントロール)
」を発
表 し た。 さ ら に、 安 全 キ ャ ビ ネ ッ ト(biological safety
cabinet:BSC)や個人保護具を整備して、被曝対策を行っ
とから、2004 年に NIOSH は警告を発表しました。これは
1. エアロゾルや空気中の微粒子の吸入
「医療環境における抗がん薬と他の危険性医薬品への職業
前述のタイミングで発生したエアロゾルや微粒子を
上の被曝防止」に関するもので、この中で「保健医療現場
吸入してしまうと、気道の炎症、気管支喘息様症状、頭
において危険性医薬品を使用したり、そのそばで作業をし
痛などを起こすことがあります。
たりすると、皮膚発疹、不妊症、流産、先天性異常、およ
び場合によっては白血病その他のがんを発症する恐れがあ
2. 皮膚・粘膜の接触による吸収
る」と警告しています。これらのガイドラインやマニュア
抗がん剤が直接皮膚や粘膜に付着することにより、付
ルにより、アメリカの医療現場では、事業者および労働者
着部位の皮膚炎・湿疹などの皮膚障害や経皮的な体内
の義務と保護が守られています。多くの施設で曝露対策は、
への吸収が起こる危険性があります。また、抗がん剤
事業者、労働者ともに義務として実施されています。また、
が飛び跳ねて眼に付着し、角膜損傷した報告もありま
米国がん看護学会(Oncology Nursing Society:ONS)も
す。皮膚や粘膜・眼などからの抗がん剤の吸収は、抗
Chemotherapy & Biotherapy Guidelines や Safe Handling
がん剤の付着した手から二次的にもたらされることも
of Hazardous Drugs などを発行し、看護師の職業性曝露
多いです。
予防の教育と指針を示しています。
一方、日本ではがん化学療法が頻繁に行われている今日
3. 抗がん剤の付着した食物による経口摂取
でも、国策としての抗がん剤の職業性曝露予防対策は明確
抗がん剤の付着した手で飲食したり、食器を扱うこと
とはなっておらず、日本病院薬剤師会や日本看護協会が独
により、経口的に抗がん剤を摂取してしまうことがあり
自 に ガ イ ド ラ イ ン を 発 行 し て い る と い っ た 状況です。
ます。抗がん剤を経口摂取すると、腹痛、嘔気・嘔吐な
1991 年に日本病院薬剤師会が「抗悪性腫瘍剤の院内取り
どの消化器症状を生じることがあります。実は多くの研
扱い指針」を発表していますが、実際に現場で抗がん剤を
究結果から、病院内が広範囲に汚染されていることが明
扱っている医師、看護師には普及しませんでした。看護に
らかになっています。気付かないうちに抗がん剤が付着
おいては、1990 年代初期より、抗がん剤の取り扱いに警
した手で飲食し、経口摂取によって曝露している可能性
告を発する報告がされましたが、2004 年になってやっと
があります。
日本看護協会より「看護職の社会経済福祉に関する指針―
5
看護の職場における労働安全衛生ガイドライン」が作成さ
れ、抗がん剤の取り扱いに関する内容が盛り込まれました。
4.抗がん剤の危険性及び取り扱い方法についての十分な
教育や指導が必要である。
■ PPE(Personal P rotective E quipment:
個人防護具)
■抗がん剤の安全な取り扱いのために
抗がん剤の安全な取り扱いの原則を以下に示します。
PPE には、手袋、マスク、ガウン、ゴーグル、キャップ、
1.抗がん剤が人体に侵入する経路は、気道、皮膚、口腔が
シューカバーなどがあります。PPE 装着時の動きにくさや、
あり、曝露と拡散を避けることによって、抗がん剤の人
経済的な問題、曝露予防の不確かな知識から感染防護具な
体への侵入を防ぐ。
どの代替品を使用している場合もあり、十分な曝露予防効
果が得られていない場合もあります。PPE を装着する必要
2.取り扱いの基本は防護であり、上の三つの経路からの侵
入をバリアによって阻止する。
があるのは、静脈からの注射針の挿入・抜去、薬液の注入、
アンプルオープン、シリンジのエアー抜き、抗がん剤の投
バリアプロテクションに必要な物品は、手袋、マスク、
与、薬剤バッグの交換、チューブのプライミング、容器か
ガウン、ゴーグル、キャップである。作業用シートや廃
らの薬液の漏れ、抗がん剤に汚染された物の処分、48 時
棄物用容器も必要である。
間以内に抗がん剤を投与された患者の排泄物処理、スピル
などの行為を実施する場合です。実践に際しては、PPE の
3.安全キャビネット内での調製が不可欠である。安全キャ
ビネットは、エアーバリアが空気の作業者側への流出を
6
遮断することで、作業者の安全性確保が保証されてい
る。作業者への曝露、感染防止と無菌操作が可能なクラ
スⅡの安全キャビネットで行うことが望ましい。
正しい装着方法について日頃から訓練し、意識を高めるこ
とも大事と考えます。
■ 手袋
サイズが合っているもので、薬剤の透過性が低いラテッ
図2
浸透時間
パープルニトリルエクストラ
硫酸ブレオマイシン
ブスルファン
カルボプラチン
シスプラチン
シクロホスファミド
塩酸シタラビン
240 分以上
ダカルバジン
塩酸ダウノルビシン
ドセタキセル
30.7 分
15.0mg/ml
ゲムシタビン
8.0 mg/ml
6.0 mg/ml
イダルビシン
1.0mg/ml
10.0 mg/ml
1.0 mg/ml
20.0 mg/ml
100.0 mg/ml
10.0 mg/ml
5.0 mg/ml
10.0 mg/ml
イホスファミド
50.0 mg/ml
イリノテカン
20.0 mg/ml
塩酸メクロレタミン
1.0 mg/ml
メルファラン
5.0 mg/ml
メトトレキサート
25.0 mg/ml
マイトマイシン
0.5 mg/ml
ミトキサントロン
2.0 mg/ml
6.0 mg/ml
塩酸ドキソルビシン
2.0 mg/ml
パクリタキセル
エピルビシン
2.0 mg/ml
リツキシマブ
10.0 mg/ml
10.0 mg/ml
エトポシド
20.0 mg/ml
チオテパ
フルダラビン
25.0 mg/ml
トリセノックス
0.1 mg/ml
5- フルオロウラシル
50.0 mg/ml
硫酸ビンクリスチン
1.0 mg/ml
カルムスチン
3.3 mg/ml
ASTM D6978-05 Standard Practice for Assessment of Resistance of Medical Gloves to Permeation by Chemotherapy Drugs
www.jp.kchealthcare.com/
図3
American Society of
Health System
Pharmacists (ASHP) 2
Oncology Nursing
Society (ONS) 1
Occupational Safety and
Health Administration
(OSHA)3
パウダーフリー
適
適
適
ラテックスグローブの使用
適
適
適
ガウンのカフをカバーする
長いグローブの使用
適
適
適
ニトリルグローブの使用
適
適
(記述なし)
2 重グローブ
適
適
適
不適
不適
(記述なし)
1 時間ごと
30 分ごと
1 時間ごと
着用前&着用後
着用前&着用後
着用前&着用後
プラスチック、ビニール手袋の使用
グローブ交換
手洗い
1 Oncology Nursing Society (ONS): Safe Handling of Cytotoxic Drugs, Independent Study Module 1997.
2 American Society of Health-System Pharmacists (ASHP): ASHP Guidelines on Handling Hazardous Drugs. Am J Health-Syst Pharm.
2006; 63:1172–93.
3 Occupational Safety and Health Administration (OSHA): OSHA Technical Manual Section VI: Chapter 2, 1999
図4
浸透時間
スターリング、スターリングエクストラ
シスプラチン
240 分以上
1.0 mg/ml
5- フルオロウラシル
50.0 mg/ml
50.0 mg/ml
シクロホスファミド
20.0 mg/ml
イホスファミド
ダカルバジン
10.0 mg/ml
ミトキサントロン
2.0 mg/ml
パクリタキセル
6.0 mg/ml
硫酸ビンクリスチン
1.0 mg/ml
塩酸ドキソルビシン
エトポシド
2.0 mg/ml
20.0 mg/ml
ASTM D6978-05 Standard Practice for Assessment of Resistance of Medical Gloves to Permeation by Chemotherapy Drugs
クス、ニトリル、ポリウレタンなどの素材を使用すること
確な基準を設けるべきと考えます。キンバリークラークの
が望ましいです。ただし、ラテックスは過敏症のリスクも
KC500 パープルニトリルエクストラは図 2 の試験をクリ
あるので、注意が必要です。手袋に付着しているパウダー
アしており、米国労働安全衛生局(OSHA)
、米国医療薬
は汚染物質を吸収するため、パウダーフリーでディスポー
剤師会(ASHP)
、米国腫瘍学看護学会(ONS)などが定め
ザブルであることが重要です。抗がん剤を取り扱う全ての
ている薬剤取り扱いガイドラインに適合(図 3)しており、
過程において、手袋を 2 重に着用することが推奨されてお
抗がん剤ミキシング時のダブルグローブアウター用として
り、ガウンの袖口の下と上に1枚ずつ着用し、薬剤との接
推奨できます。また、インナー用としては図 4 の耐浸透テ
触を可能な限り防ぐ必要があります。手袋は行為ごとに交
ストを行っている KC300 スターリングニトリルエクスト
換することが望ましいですが、薬物が付着あるいは破損、
ラが適していると考えられます。
装着してから 30 分が経過した場合はすみやかに交換する
こと、手袋を着用していても極少量の薬液汚染があること
■ マスク
を考え、脱いだ後は必ず手洗いすることが重要です。米国
NIOSH は抗がん剤の曝露予防に対して N95 規格を満た
政府はがん化学療法に使用されるために販売されるグロー
すマスクを推奨していますが、装着時の呼吸困難などの使
ブに一定の基準を要求しており、様々ながん化学療法剤に
いにくさの問題や経済的にもすべての行為で使用するには
対する耐浸透テストを実施しています。今後は日本でも明
難しいのが現状です。そのため、抗がん剤ミキシング時と
7
図5
浸透時間
240 分以上
コンフォート防水ガウン
シクロホスファミド
20.0 mg/ml
塩酸ドキソルビシン
2.0 mg/ml
エトポシド
20.0 mg/ml
5- フルオロウラシル
パクリタキセル
メトトレキサート
50.0 mg/ml
6.0 mg/ml
25.0 mg/ml
ASTM F739-99a Standard Test Method for Permeation of Liquids and Gases through Protective Clothing Materials under Conditions of
Continuous Contact
毒性の強い薬剤がスピルした場合に着用するのが現実的で
用します。キャップの目的は薬剤の頭髪への飛散防止と頭
す。紙マスクの推奨はなく、サージカルマスクではエアロ
髪の落下を防ぐためですが、がん化学療法薬耐性を試験し
ゾルや微粉末の吸収防止には十分な効果が得られないとし
たものはありません。キャップは調剤、
薬剤の漏れが起こっ
ています。しかし、状況に応じて、ディスポーザブルで厚
たときに着用する必要があります。
手の不織布タイプやサージカルマスクの 2 枚重ねなどで対
応することもあります。十分に鼻と口を被っていることが
重要です。
■ ガウン
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■ 排泄物処理
薬剤毎に体外への排泄時間あるいは期間は異なります
が、一般的に 48 時間以内に抗がん剤治療を受けた患者さ
んの血液、吐物、尿、便などを扱う場合は PPE を着用し、
ポリウレタンでコートされた低浸透性の素材が望ましい
慎重に処理する必要があります。ただし、抗がん剤の種類
です。ガウンは隙間のないように着用する必要があり、長
によっては、排泄までの持続時間が長いものがあります。
袖、カフ付きでサイズが合っている、背中が開いていて体
患者さんの周囲への曝露を最小限にするためにも、可能な
温調節ができるなど、心地よく着られるガウンを選出する
限り治療中の患者さんには直接トイレまで出向いてもら
ことが大切です。ガウンはディスポーザブル製品を使用し、
い、排泄してもらうことが望ましいです。トイレは抗がん
明らかな汚染があった場合や破損したとき、行為が終わっ
剤を服用している患者さん専用のものとして、排泄物を流
たときなどに交換します。ガウンの装着は患者さんとのコ
すときは 2 回流してもらう。排尿が自立している男性患者
ミュニケーションの障害となることもあるので、十分な説
の場合、立位で排泄すると尿が飛び跳ねる危険があるので
明をして着用することが大切です。コンフォート防水ガウ
座位での排泄としてもらう必要もあります。便器などを清
ンは、医療従事者が多量の体液や液体から守ることだけで
掃する場合は防護具を装着し、2%次亜塩素酸ナトリウム
はなく、特定の薬剤の危険を伴う処置(薬剤の調剤、患者
を用いて行います。清掃担当職員が行う場合は、曝露防止
への投与、処置など)も考慮した製品で、図 5 の化学療法
の必要性と具体的な方法について十分説明する必要があり
薬剤浸透試験を行っている商品です。
ます。
■ ゴーグル
■ リネンの処理
ゴーグル、透明プラスチック製フェイスシールド(ディ
患者さんが使用したリネンに体液が付着した場合は PPE
スポーザブル)などを装着し、薬剤の飛散から目を保護し
を装着し、パッドなどをして吸収させ、汚染を拡散させな
ます。主に調剤時、薬剤をこぼした時の処置時に着用しま
いようにします。リネンを洗濯する場合はグローブを装着
す。もともと眼鏡を使用している場合でも保護メガネを装
し、ほかの洗濯物とは分別して、通常の洗剤で 2 回洗いま
着することが推奨されています。
す(洗濯機を使用)
。すぐに洗濯ができない場合はナイロ
■ キャップ
頭髪をすべて被うサイズで、ディスポーザブル製品を使
ン袋に入れて、密閉した状態で保管しますが、抗がん剤の
付着した汚染物が入っていることがわかるように、専用ラ
ベルを貼った水溶性・不透過性のランドリーバックに入れ
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ます。なお、洗濯担当従業員がいる場合には、その従業員
能な限り漏出物の洗浄を行います。また、他者への曝露を
に対しても曝露防止の具体的方法について十分説明しま
防ぐために、警告ボードで警告する必要があります。
す。ちなみに抗がん剤治療を行っている患者さんに適した
リネン類は、防水性のあるマットレスカバーや、プラスチッ
■ 在宅における対策
クでコーティングされた枕、非吸収性のクッションなどで
がん化学療法は入院から外来にシフトしてきており、外
す。失禁・嘔吐している患者さんには、使い捨てのリネン
来で抗がん剤治療を受ける患者さんは増加しています。大
を使用するべきです。廃棄する場合は、がん化学療法薬専
腸がんでは自宅でもインフューザーポンプを使用し、患者・
用廃棄ボックスに捨てます。なお、在宅におけるリネン類
家族が抜針を行うこともあります。このような場合には、
の取り扱いの手順としては、患者の排泄物や体液などで汚
自宅でも抗がん剤の漏出や投与終了後の抗がん剤が付着し
染された洗濯物は直接洗濯機に入れ、通常の洗剤を用いて
た廃棄物、患者さんの排泄物などにより、家族への曝露が
2 度洗濯します。家庭での洗濯物とは分けて洗います。
起こり得ます。もちろん、これまで話したように、自宅で
家族が患者さんの排泄物や吐物を取り扱う際には、曝露予
■ スピル
(漏出)
対応
防対策を行う必要があります。対策としては、前述のとお
抗がん剤を取り扱う全過程で薬剤のスピルが起こる可能
りですが、患者・家族に説明する際には不安や誤解を与え
性があるため、すぐに利用できるスピルキット(図 6)を
ないような配慮が必要であり、正しい知識と対策をきちん
準備しておくことが推奨されます。そして、誰もがスピル
と説明することがとても重要となります。そのうえで、患
への対応ができるように、日頃から訓練しておく必要があ
者さんの生活環境や家族の協力体制などの個別性を考慮す
ります。抗がん剤がスピルしてしまった場合には、できる
べきです。
だけ汚染を拡散させないようにすることが大切であり、可
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図6 スピルキット
キャップ
ほうき&
ちりとり
グローブ
タオル
(ディスポ)
フェイス
シールド
マスク
ガウン
吸水シート
シューカバー
この他に、密閉可能な危険物廃棄袋、警告表示カード、が必要
■ 実際の例
■ 医療施設管理部門の役割
実は私が最近職業性曝露の問題を意識したのは、胃瘻の
抗がん剤の職業性曝露は、薬剤の混合・調製や与薬に関
患者さんに胃瘻から抗がん剤を投与する際の方法をチェッ
わる医師・看護師・薬剤師だけではなく、患者と接する機
クしていた時でした。患者さんはボタン型の胃瘻を使用し
会のある管理栄養士、リハビリセラピスト、介護士、臨床
ていたため、毎回同じ接続チューブを使用していました。
検査技師、放射線技師や医療廃棄物処理を担当する病院職
簡易懸濁法をおこない、カテーテルチップは使い捨てにし
員、外部の処理委託業者についても危険があり、様々な医
ていましたが、看護師は PPE を装着せずに他の薬剤と同
療関係者への配慮も重要となります。現状では国家の施策
様に簡易懸濁を行い、薬を投与していました。抗がん剤を
がないため、各医療施設管理部門の取り組みが、抗がん剤
投与しているというリスクを全く気にしていない様子でし
の取り扱いに関わるメディカルスタッフの健康に影響しま
た。もちろん、接続チューブは個別に次亜塩素酸ナトリウ
す。管理部門が「抗がん剤の職業性曝露予防」のために取
ムで消毒していましたが、消毒の際の PPE は簡易グロー
り組むべき事項(表 4)を示します。
ブだけでした。では、胃瘻から抗がん剤を投与する場合の
正しい方法について考えてみましょう。まず、胃瘻カテー
テルは接続チューブを必要としないチューブタイプのカ
テーテルとするのがよいでしょう。それは、抗がん剤が付
着した可能性のある接続チューブを毎回消毒して再利用す
ることはかなりのリスクを伴うためです。抗がん剤投与を
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開始する前に、胃瘻カテーテルをチューブタイプへ交換す
ることを勧めるべきです。次に薬を準備する際には、まず、
準備する前に曝露予防のために PPE(マスク、手袋、ゴー
グル、ガウン、キャップ)を装着します。抗がん剤は簡易
懸濁法で投与することになりますが、薬剤を溶解する容器
表4 医療施設管理部門の職業性曝露予防 における役割
1
院内取り扱いガイドライン・マニュアル作成
2
安全チェックリスト作成
3
食職員に対する教育
4
職員の健康管理
5
管理部門による監視体制の整備
や投与するカテーテルチップはすべて一度きりの使い捨て
とします。
■ 事業者の理解
1. 院内取り扱いガイドライン・マニュアル作成
ガイドラインは、主として基本的注意事項を踏まえた
業務指針のことで、マニュアルは指針を具体的な手順な
安心してがん医療に従事するためにはメディカルスタッ
どで示した手引き書です。施設としてガイドラインを明
フの安全は最優先に考えられるべきです。しかし、残念な
確とし、各部署の特徴に応じて、実用性のあるマニュア
がら現在の日本では大事な情報はあまり伝えられず、自分
ルを作成する必要があります。さらに、作成されたガイ
の身は自分で守らなければならないのが現状です。少なく
ドライン・マニュアルの活用を抗がん剤を取り扱う全職
ともがん医療を専門にやっているメディカルスタッフは抗
員に促し、活用の状況についてしっかり確認することが
がん剤の職業性曝露の危険性をしっかり認識し、スタッフ
重要となります。
一人一人が声をあげて、病院に対して職業性曝露の問題を
啓蒙していく必要があります。がん医療に関わる医療機関
2. 安全チェックリスト作成
は抗がん剤の曝露の可能性をしっかり把握し、患者さんへ
抗がん剤の取り扱いが安全に実行されたかを取り扱
の影響はもちろん、患者さん家族、メディカルスタッフの
い者が確認できるように、作業ごとにチェックリストを
健康を守ることをもっと重視した体制をとるべきと考えま
作成し、チェックリストに基づき作業の確認するように
す。大事なことは、がん化学療法チームのリーダーが安全
習慣化できれば有効です。さらに、チェックした結果を
ながん化学療法の実施について、事業者にきちんと説明し、
管理者が確認し、安全な作業の遂行を評価する際にも利
理解を得ることです。
用できます。
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3. 職員に対する教育
を取り扱う職員に対し、抗がん剤への接触時間、PPE の
抗がん剤の職業性被曝から身を守るためには、正しい
使用状況の調査、抗がん剤の曝露に関連する健康問題に
知識を持って対策を立てることが重要です。抗がん剤治
ついての調査すること、③実際の抗がん剤準備や与薬の
療を行う患者さんに関わる全職員に対して、抗がん剤に
作業状況、作業場所などを定期的に監視すること、抗が
よる職業性曝露予防のための教育と訓練を定期的に実
ん剤の保管場所や運搬法の確認、④院内の抗がん剤によ
施する必要があります。特に、施設外に持ち出される廃
る汚染状況のチェック、など実施すべきと考えます。
棄物の処理について、その方法を徹底させるための説明
や教育を行う社会的責任が医療施設にはあります。
■ おわりに
今回この原稿を書くにあたって、抗がん剤の曝露予防対
4. 職員の健康管理
策の実態を様々なところで調査してみましたが、感染対策
抗がん剤を扱う職員に対しても、放射線の場合と同じ
と比べると比較にならないほど遅れていると言わざるを得
ように職業性曝露に配慮した健康管理がなされるべき
ない状況でした。このまま今の状態でがん化学療法を進め
ですが、日本では行われている施設はほとんどないのが
ていくのは、非常に問題があると考えます。がん医療に関
現状です。職員の健康管理では特に妊娠への配慮が大切
わるメディカルスタッフの皆さんは、今一度自分の施設に
です。妊娠の可能性のある職員や妊娠中の職員(妻がそ
おける現状を把握し、まずできることから曝露予防対策を
のような場合の男性職員も含む)には、抗がん剤の取り
おこなっていく必要があるでしょう。ただ、そうのんびり
扱いをさせない人事管理が必要です。妊娠初期の 3 カ
しているわけにもいきません。二人に一人ががんになり、
月までは、母体が抗がん剤に曝露すると、胎児の発達や
三人に一人ががんで亡くなる時代です。その中で、今の治
臓器形成に影響することから、この点は十分に配慮すべ
療を行いながら、どの病院においても、さらに在宅に至る
きと考えます。
まで曝露予防対策を広めるためには、皆さん一人一人や行
政の力も必要となります。また、抗がん剤を扱う製薬会社
5. 管理部門による監視体制の整備
は抗がん剤の毒性や取り扱う際の危険因子をしっかり報告
抗がん剤の取り扱いや抗がん剤が付着した廃棄物に
することや、安全な調製方法や投薬方法、職業性曝露の予
関する国策がない日本においては、施設ごとに行う独自
防についてもっと啓蒙すべきと考えます。さらに、がん医
の取り組みが、職員を職業性曝露から守る方策となりま
療に携わるメディカルスタッフはまず声をあげ、問題点を
す。施設独自の取り組みには、いろいろな制約があると
指摘し、しっかりとしたマニュアルを整備し、
「抗がん剤
考えられますが、この問題は曝露を受ける職員のみなら
の曝露予防」をもっと啓蒙していかなければならないと思
ず、子孫の代への影響もありえる問題であり、管理者と
います。それなくして、質の高い安全ながん医療は成り立
しての責任はかなり重大です。監視内容や方法は各々の
ちません。皆で現在の日本のがん医療の問題を解決してい
施設で設定されるものですが、①抗がん剤の職業性曝露
きましょう!
の可能性のある職員の名簿を保管すること、②抗がん剤
社会医療法人社団 カレスサッポロ 時計台記念病院
所 在 地 札幌市中央区北1条東1丁目2-3
診療科目 内科・循環器内科・リウマチ科・消化器内科・整形外科・形成外科・
眼科・産婦人科・リハビリテーション
ホームページ http://www.tokeidaihosp.or.jp
本内容は著者の臨床上の経験に基づき説明されております。製品の取り扱い方法については、必ず添付文書をご確認ください。
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KC500
パープル エクストラ
KC300
スターリング エクストラ
KC300
スターリング
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発行元:キンバリークラーク・ヘルスケア・インク
〒220-8115 横浜市西区みなとみらい2-2-1 横浜ランドマークタワー
Tel. 0800-100-5100(フリーコール)
12SMKT024-T
KCJ0094