「東日本大震災の教訓を踏まえて世界の大災害に備える医療資源はどうあるべきか」 救急振興財団 会長 日本医療資源開発推進機構 会長 日本医科大学名誉教授 山本 保博 東日本大震災は 2011 年 3 月 11 日に発生し、東北地方太平洋沖地震とそれに伴って 発生した大津波、また地震による東京電力福島第一原発事故が合併し、巨大災害とな ったのである。犠牲者は 18,500 人、負傷者は 6,150 人と報告され、死因の 91%は津 波に巻き込まれての溺死だった。 特に岩手県大槌町では、地震後に役場で災害対策本部の立ち上げ準備のために集ま った職員 60 人中、町長の加藤宏暉氏を含め 30 人以上が津波に襲われ犠牲となってし まったのである。町全体では 1,300 人が犠牲となった。 私たちは 3 月 19 日に岩手県大槌町に入り、医療活動と共に県立大槌病院が津波に 襲われ崩壊してしまったことによる医療体制の復興をお手伝いすることとなった。私 たちの日本災害医療ロジスティック協会が、米国ヤンセンファーマ社からの寄付を活 用して仮設大槌診療所を作り、医療システムの復興に微力ながらお手伝いできればと 考えたのだった。 2015 年 11 月、久しぶりに仮設診療所を訪問し、その後の地域や病院の復興状況を 伺うことができた。本年夏には待望の新大槌病院が開院するとの嬉しいニュースもあ った。しかし、大槌町の人口推移を見ると、1980 年に人口 21,200 人だったのが、地 震 3 年後の 2014 年 2 月には、11,830 人と急速に減少してしまった。何とか震災前の 人口には戻したいものである。 ここで災害について考えたいが、災害とは、突然、予告なく発生し、私たちの生 命、健康、環境が侵され、現場行政の緊急対応能力だけでは限界があり、地域外から の援助をも求めねばならない事態をいう。それ故、私たちは現在、自助・共助の力が 十分発揮できるように災害準備をしなければならない。 “Natural disasters will hit us when we have forgotten about them”と寺田寅彦氏 が言ったように、この東日本大震災に関しても風化が忍び寄っているようだが、風化 させてはいけない災害であることは確かである。もちろん、福島原発事故の収束はい つになるか見当もつかないのだが。 東日本大震災の主な死因は溺死だったが、関東大震災は熱傷であり、阪神淡路大震 災では圧死だったように、災害では同じ損傷形態はなく「災害はひとつひとつ違った 顔でやってくる」ことを裏付けている。 私たちは東日本大震災を教訓に、津波には「遠くへ逃げる」ことは通用せず、「安全 な高層ビルに逃げる」ことが重要で、津波襲来予想のある地域では津波シェルターを 地域ごとに計画する必要がある。また近い将来、5 階以上のビル建設を計画する場 合、法律でビル内に津波や高潮に対応できる In-building Emergency Response Facilities(IERF)を作り、災害備蓄、仮設診療所、緊急医薬品、防災グッズ、職員 3 日分の飲料水(3ℓ 日/人)、トイレ、衛生用品などを準備したいものである。なお、災 害現場にはどんな危険が潜んでいるかわからないので、個人用防護具 PPE 注1を着用 せねばならない。 世界の大震災を考える際、最近ではまずテロが頭に浮かぶ。テロとは恐怖心を引き 起こす暴力、脅威、威嚇により特定の政治的目的を達成しようとする組織暴力の行 使、及びそれを容認する主義をいう。テロリストの大量殺戮武器 WMD(Weapons of massive destruction)としては CBRNE 注2がある。また、テロリストが使用してい る武器の 80%は爆発物 Explosives で占められている。しかし、テロではどんな危険 があるか不明なので、私たちは要救助者への接触を試みてはならない。 テロリストの目標は大量の死傷者、主要サービスの破壊、経済の混乱、資源の危機 的喪失、Community morals の低下を謀ることなどである。また、彼らのターゲット は公共施設、公共集会場所(劇場、駅)、大規模交通機関、政治・経済的に打撃を与え られる場所、インフラ施設、通信・放送網、原子力発電所、アグロテロなどである。 東日本大震災後の災害に対する医療資源の備えや考え方が変化しつつあること、ま た世界における大災害は CBRNE が占めるようになっていることは確かである。 注1:PPE ヘルメット、ゴーグル、N95 マスク、安全靴、作業手袋、ノンラテックスグローブ 注2:CBRNE 化学 (Chemical)、生物 (Biological)、放射性物質 (Radiological)、核 (Nuclear)、 爆発物 (Explosive) 【図1】災害傷病者と医療資源のバランス ロジスティックス要員の動きが災害時には Key になる。 限られた時間、環境、人員、限られた医療資源を有効に活用する。 必要なことは何でもやる。 ロジの 3K は機転、機敏、気配り。
© Copyright 2024 Paperzz