資料3 (3)-1 抗がん剤曝露予防対策マニュアル 2013 年 4 月 1 日 化学療法委員会 Ⅰ.目的 抗がん剤は、がん細胞の増殖を阻止すると同時に、正常細胞に対しても発がん性、催 奇形性、生殖毒性、臓器障害などの毒性を有するものが多い。危険薬剤(hazardous drug :HD)という視点からの対策が必須である。HD を取り扱う医療者への健康被害が 懸念されるようになり医療者の職業性曝露に対する意識は高まりつつあるが、国策とし ての抗がん剤の曝露予防対策は明確になっておらず、施設間または個人間で対策は異な るのが現状である。 抗がん剤を扱う医療従事者は HD のリスクや取り扱い、曝露予防の方法などを十分理 解し、職業的曝露を最小限にするための適切な予防行動を実践することが必要である。 Ⅱ. 用語の定義 1. 危険薬剤(hazardous drug : HD) 抗がん剤など人々への健康被害をおこす薬剤のこと 2. 安全キャビネット(biological safety cabinet : BSC) 安全キャビネットは構造の違いによりクラスⅠ~Ⅲに分類される。さらに気流の 違いによりタイプ A、B に区別される。抗がん剤の調製業務にはクラスⅡタイプ B 以上が望ましいといわれる。薬剤の無菌性と調製者の安全性、環境の汚染防止 を保つことができる。 3. PPE(personal protect equipment) 個人防護具。抗がん剤を取り扱う際に曝露の危険性から身を守るために使用する。 また、PPE はディスポーザブルとし、他の場所や物品に汚染することを防ぐ。 4. エアロゾル(aerosol) 薬剤などの液体成分が微細に分散した霧。 5. スプラッシュ(splash) 飛散、抗がん剤がしぶきとなって飛び散ること。 6. スピル(spill) こぼれ、漏出。抗がん剤が液体の状態でこぼれたこと。 7. スピルキット(spill kit) 抗がん剤の飛散や漏出が発生した場合、薬液の汚染拡大を防止し、処理作業者の 曝露を抑えるための処理用具をまとめたセット。 8. PVC フリー・DEHP フリー ポリ塩化ビニル(PVC)製の輸液セットを用いた場合、輸液セットへの吸着および PVC の可塑剤である DEHP の溶出が認められる剤がある。そのため、PVC を含 まない輸液セットを使用する。DEHP(成形加工を容易にし、製品を軟らかくす る添加剤)は、動物実験において生殖毒性や発がん性が報告されている。現状で は、安全性に配慮した DEHP フリー製品の使用が推奨されている Ⅲ.抗がん剤の発がん性分類 国際がん研究所(IARC)の分類によるとグループ 1 から 4 まであり、グループ 1 と 2 が ヒトに対して発がん性がある、あるいは発がんの可能性がある。グループ 3 と 4 はヒトに 対しての発がん性はないと分類されている。 登録薬剤の数は年々増加している。 (表 1 参照) 職業性曝露を最小限にするために使用する抗がん剤がどのような影響を及ぼす危険性があ るか理解する必要がある。また、データは常に更新されているので定期的な確認を行う必 要がある。 表 1 抗がん剤の発がん性 曝露のリスク 当院で使用している抗がん剤(商品名) グループ 1:ヒトへの発がん性がある エンドキサン®、イホマイド®、ノルバデックス®、 BEP 療法など グループ 2A: シスプラチン®、エトポシド®、ドキシル®など ヒトに対しておそらく発がん性がある グループ 2B: ブレオ®、マイトマイシン®、ノバントロン®など ヒトに対する発がん性をもつ可能性が ある グループ 3: 5-FU®、メソトレキセート®など ヒトに対する発がん性があるものとし ては分類できない IARC による文献 2012 より Ⅳ.抗がん剤曝露による影響 1965 年フィンランドの Falck らにより、抗がん剤を取り扱う看護師の尿より変異原性 物質が検出されたという報告があった。その後も抗がん剤を取り扱う医療者の染色体異常 や流産の発生率の増加、急性症状の発症の報告が相次ぎ、職業性曝露に対する予防対策が 注目されるようになった。HD の曝露による影響は発がん性、催奇性に加え臓器障害や急 性症状などが報告されている。 (表 2 参照) 表 2 抗がん剤の曝露によって起こる急性症状 がん看護 17 巻 4 号(2012)より 過敏反応 アレルギー反応、皮疹、眼の刺激など 免疫反応 慢性の咳嗽あるいは喉の刺激、発熱など 消化器症状 食欲不振、悪心、嘔吐、下痢、便秘など 循環器症状 息切れ、不整脈、末梢浮腫、胸痛、高血圧など 神経症状 頭痛、めまい、不眠、意識消失など Ⅴ.曝露が起こるタイミング 抗がん剤の調製、薬剤の運搬と保管、投与準備時、スピルおよびその処理時、薬剤が付着 した物の廃棄、治療をうけている患者の排泄物処理時、患者が利用したリネンの取り扱い 時、PPE 脱衣時などである。曝露の経路としては薬剤の皮膚や眼球粘膜への接触、エアロ ゾルとして吸入、針刺し事故、抗がん剤で汚染された手での食事などによる摂取などがあ る。 Ⅵ. 推奨される抗がん剤曝露予防対策 1. 安全な作業環境の確保 経口薬を含む抗がん剤の調整または粉砕は、安全キャビネット(BSC)内で行う BSC がな い場所で作業する場合、換気装置と流し台があること、他の薬剤を調整・準備する台から 離れてなるべく人通りのない場所であること等を基準に作業場所を確保する。作業時は吸 水性シートを敷いた上で行い作業後は廃棄する。 2. 個人防護具(PPE)の活用(表 3 参照) 抗がん剤の曝露は HD と接触する薬剤の準備、調剤、運搬、投与準備、薬剤の漏れ、廃棄、 排泄物の取り扱いなどの全てのプロセスにおいておこる可能性があるため、抗がん剤を取 り扱う場面では常に曝露予防行動として PPE を適切に使用する必要がある。これは BSC 内で作業する場合も同様であり、PPE は抗がん剤を取り扱う区域から離れる時には外すこ と、ディスポーザブルとすることが原則である。 表3 手袋 推奨される PPE ・薬剤透過性が低い厚手(0.2mm 以上)のパウダーフリーの手袋。ニ トリル、ポリウレタン、ラテックスなどの素材を使用する。ラテックス は過敏症があるので注意が必要。 ・抗がん剤を取り扱う全ての過程において手袋を 2 重にすることが推奨 されており、ガウンの袖口の下と上に 1 枚ずつ着用し薬剤との接触を可 能な限り防ぐ必要がある。 ・手袋は行為ごとに交換することが望ましい。薬剤が付着あるいは破損、 装着してから 30 分が経過した場合は速やかに交換する。 ・手袋を着用していても微少量の薬液汚染があることを考え、手袋をは ずした後は必ず手洗いをすることが重要である。 マスク ・曝露予防に対しては N95 規格を満たすマスクが推奨されるが全ての 行為で使用するのは難しい。毒性の強い薬剤がスピルした場合などに使 用する。 ・サージカルマスクではエアロゾルなどの吸収防止には十分な効果が得 られないとされている。状況に応じてサージカルマスクの 2 枚重ねなど で対応する。 ・HD の侵入経路である鼻と口を十分に被っていることが重要である。 ・マスク除去後には十分なうがいを行う。 保護メガネ ・ゴーグル、透明プラスチック製フェイスシールドなどを装着し、薬剤 のスプラッシュなどから目を保護する。顔に密着するものが望ましい。 ・主に調剤時、薬剤がスピルした時の処理時、体腔内注入時な どに使用する。 ガウン ・背開き、長袖、袖口が締まったもので隙間のないように着用する必要 がある。 ・素材は薬剤不透過性、撥水性のものを使用する。 ・明らかな汚染があった時や破損した時、作業が終了した時に交換する。 キャップ ・頭髪を完全に被えるもの。 ・素材は薬剤不透過性、撥水性のもの。 ・キャップの着用は調剤時、HD のスピルがおきた時に使用する。 スピルキット ・手袋 2 組、ガウン、N95 規格のマスク、シューズカバー、ゴーグル 吸水パッド、塵取り、廃棄袋、警告表示カードなどを(全てディスポー ザブル)ひとつにまとめたもの。 ・スピル時速やかに処理できるよう、調剤場所と抗がん剤を取り扱う部 署に設置しておくことが望ましい。 ・PPE をはずす時は PPE それぞれの表面に触れないよう注意しながら はずす。 ・はずした PPE は速やかに密閉したうえで抗がん剤専用のハザードボ ックスにいれて廃棄する。 参考文献を基に作成 3. 1) 薬剤の安全な取扱い 保管・搬送 抗がん剤の保管は、地震などの災害発生時に落下したり破損したりしない場所に専用 スペースを設け抗がん剤と明記しておく。抗がん剤の運搬時は二重にした透明の密封 式プラスチックバックあるいはファスナー付きビニール袋に入れ抗がん剤であること を明記して専用容器で搬送する。シリンジの場合は、ルアー付きシリンジにキャップ をつけて同様に搬送する。 2) 投与時の注意 輸液ラインのプライミング(ライン内を輸液で満たすこと)は、抗がん剤の入ってい ない輸液で行う。抗がん剤の入った輸液でプライミングすると、先端から抗がん剤が こぼれる可能性がある。抗がん剤で満たされた輸液ラインの滴 下筒を満たすときには、逆流させて満たすようにする。滴下筒に圧をかける と、ゴム栓部分からスプラッシュの可能性がある。抗がん剤の点滴ボトル交換は、ス ピルやスプラッシュを防ぐため、ボトルのゴム栓部分上に向け、目線より低い位置で 行う。抗がん剤の調製、投与時は閉鎖式薬物混合システムを使用することが推奨され る。このシステムは薬剤の交換あるいはプライミングの際に抗がん剤が器材の外部に 漏れることを防ぐためのものである。これを使用することにより抗がん剤による曝露 の予防と外部からの汚染物混入防止が可能となる。 3) 内服薬投薬 錠剤の分割や粉砕、カプセルの中身を出すことは、抗がん剤の粉塵の吸入や皮膚への 接触の危険性があるため、できるだけ避ける。錠剤を砕く場合は安全キャビネットで PPE を装着して行う。簡易懸濁を行う場合は密閉容器で懸濁する。粉砕や簡易懸濁し た経口抗がん剤の与薬時は、PPE を装着し抗がん剤が直接手に触れないようにし、与 薬後は石けんと流水で手を洗う。 4) 排泄物・リネンの処理 多くの抗がん剤は主に肝臓で代謝され、大部分は尿中または胆汁中に排泄される。抗 がん剤投与後 48 時間以内の排泄物には、抗がん剤の代謝物や未変化体が多く含まれる ことから特に注意が必要である。(表 4 参照)化学療法後 48 時間以内の患者の排泄物 (尿、便、吐物、体液など)処理時には、スタンダードプリコーション(二重の手袋、 ガウン、マスク)を実施するが、スプラッシュが予測される場合には、ゴーグルやフ ェイスシールドも装着する。排泄物付着物の廃棄はビニール袋に二重に入れて密閉し 抗がん剤専用廃棄容器に捨てる。排泄物を流したタンクは2回以上流し、十分に洗浄 する。同じように患者が使用したリネンに体液が付着した場合は PPE を装着しパッド などを使用して吸収させ、汚染を拡散させないようにする。リネンを洗濯する場合は 手袋を装着し他の洗濯物とは分別し2回洗濯する。すぐに洗濯ができない場合はビニ ール袋に入れて「抗がん剤汚染」と記載し密封して保管する。 表4 尿中に抗がん剤の残留が認められた時間 薬剤名(商品名) 48 時間未満で尿中残留が認められた薬剤 72 時間後に尿中残留が認められた薬剤 トポテシン®、ゼローダ®、5-FU®、 カルボプラチン®、タキソール®など エンドキサン®、メソトレキセート®、 ブレオ®など 4 日後に尿中残留が認められた薬剤 エトポシド®など 6 日後に尿中残留が認められた薬剤 ドキシル®、ノバントロン®など ファルモルビシン®、シスプラチン®、 7 日後に尿中残留が認められた薬剤 ジェムザール®、タキソテール®、 タルセバ®など 石井範子編:看護師のための抗がん剤取扱いマニュアル(2007)を一部改変 5) 廃棄 抗がん剤の調製、投与に使用した物品や抗がん剤付着物は周囲への汚染やエアロゾル による曝露を防ぐため、すべて二重にしたビニール袋に入れて密閉し、抗がん剤専用 医療用廃棄物容器に廃棄する。抗がん剤投与済みの点滴ボトル等はビニール袋に入れ 密閉した状態で患者サイドから持ち帰り廃棄する(表 5 参照) 表5 抗がん剤付着物として廃棄が必要なもの 抗がん剤付着物 抗がん剤の調製や投与時に使用した 具体例 ガウン、手袋、マスク、ゴーグル、キャップなど PPE 抗がん剤の調製に使用した器材 アンプル、バイアルと残液、シリンジ、注射針、 吸水性シート、消毒綿など 抗がん剤投与に関連したもの 抗がん剤投与済みの点滴ボトル、輸液セット シリンジ、消毒綿、経口内服薬の包装など 48 時間以内に抗がん剤治療を受けた 尿、便、吐物、胸水、腹水、胆汁などの付着物、 患者の排泄物、体液で汚染されたもの 紙オムツ、ナプキン、パッド、ストーマ用品など 抗がん剤がこぼれた時の処理用品 スピルキット、ふき取りに使用したペーパー 警告表示カードなど がん看護 15 巻 6 号(2010)より一部改変 4. 患者への指導と注意事項 化学療法を受ける患者や家族にも抗がん剤の曝露および曝露予防に対する適切な指導が 必要である。患者の心情にも配慮し、説明のタイミングや説明方法を考慮する。 1) 在宅化学療法(インフューザーポンプ使用)時 使用後のインフューザーポンプやヒューバー針等はビニール袋に入れ密閉して病院に 持参してもらう。治療時チューブの接続部やヒューバー針刺入部から液漏れした場合 はディスポーザブル手袋を装着し処理する。付着した皮膚も濡れた布できれいにふき 取る。可能であれば石鹸で洗浄し洗い流すことが望ましい。衣類に抗がん剤が付着し た場合は他の洗濯物と別にして洗濯機で2回洗濯する。すぐに洗濯できない場合は二 重にしたビニール袋に入れて密閉しておく 2) 排泄後 抗がん剤投与 48 時間は、トイレで排泄後 2 回流し十分に洗浄する。その後石けんと流 水で十分に手を洗う。ストーマ用品やパッドなどは、二重にしたビニール袋に入れ密 閉して廃棄する。 3) 経口抗癌剤などの取り扱い 薬剤は他のものと区別し、小児の手の届かない場所に保管する。服薬後は石けんと流 水で十分に手を洗う。服薬後のシートはビニール袋に入れて密閉し蓋のついたゴミ箱 に捨て焼却処分する。 5. 周辺業務従事者への注意事項 医療従事者は、個々の曝露予防対策を実施するとともに、廃棄業者や清掃業者、洗濯 従事者等の周辺業務従事者に対する曝露予防、さらには環境汚染に対する配慮も必要 である。周辺業務従事者は抗がん剤についての知識は持ち合わせていないため抗がん 剤に曝露することがないよう医療者は廃棄物や洗濯物を安全な状態で渡す必要がある。 抗がん剤の残薬や投与終了後の点滴ボトル等の廃棄時には、廃棄物から抗がんがエア ロゾル化する可能性があるため、密閉した状態で医療用廃棄物容器に廃棄する。 抗がん剤に汚染したリネンを選択に出す時は汚染が広がらないように二重にした、ビ ニール袋に入れて密閉し抗がん剤付着物であることを明記したうえで洗濯業者に取扱 い方法を説明したうえで選択を依頼することが必要である。 Ⅶ.実際の抗がん剤取り扱い手順 1. 抗がん剤を取り扱う前に液体石けんと流水で十分に手を洗う。 2. PPE(マスクとパウダーフリーの手袋)を装着する。 3. 抗がん剤のプライミングは抗がん剤の入っていないもの、生理食塩液か支持薬で 行う。輸液セットは PVC・DEHP フリーで閉鎖式(シュアプラグ)が望ましい。 4. プライミングした支持薬や抗がん剤は抗がん剤専用のトレイに入れて患者のもと へ運ぶ。 5. 抗がん剤へのボトル交換の作業はスピルやスプラッシュを防ぐため、ボトルのゴ ムの部分を上に向け目線より低い位置で行う。(写真1参照) 写真 1 6. 汚染時に備えスピルキットや抗がん剤廃棄専用ハザードボックスを準備しておく。 7. 使用した点滴ボトルや物品は二重にしてビニール袋に入れて口を締め密閉し抗が ん剤廃棄専用ボックスへ廃棄する。 8. 投与中止などで点滴ボトルに抗がん剤が残っている場合はビニール袋に入れて口 をしめて密閉し、抗がん剤専用ハザードボックスへ廃棄する。 9. 使用した物品や機器(点滴スタンドや輸液ポンプ)ベットサイドの汚れは PPE(マ スク、手袋)を装着してクリンキーパーで清掃する。清掃に使用した紙ガーゼは ビニール袋に入れて口を閉めて廃棄する。 10. 抗がん剤治療中の患者の排泄物を取り扱う際は PPE(手袋、マスク、ガウン)を 装着する。体液のスプラッシュが予測される場合はゴーグルも装着する。排泄物 は二重にしたビニール袋に入れて口をしめ抗がん剤専用ハザードボックスへ廃棄 する。トイレに排泄物を流す場合は周りに飛び散らないように十分注意し 2 回流 す。 11. 排泄物や体液で汚染されたリネン類は PPE を着用してビニール袋に二重にして入 れ口をしめて密閉し「抗がん剤汚染」と明記して洗濯へ出す。 12. 手袋は抗がん剤に汚染した時、また抗がん剤を取り扱う度に交換する。 13. PPE(マスク、手袋)をはずした際は手洗いとうがいを十分に行う。 Ⅷ. 抗がん剤曝露時の対応 1. 皮膚や手に付着した場合 抗がん剤の多くは皮膚刺激性があり組織障害を生ずるおそれがある。抗がん剤の中にはア ドリアシン®などのように、皮膚に付着すると皮膚のたんぱくと結合して洗ってもおちず、 皮膚からゆっくり吸収される薬剤がある。また、アドリアシン®、5-FU®などは、皮膚炎を おこすことがある。皮膚や手に付着した場合は直ちに流水で手洗いしさらに石けんで十分 に洗う。大量に付着した場合や皮膚に発赤および痛みが生じた場合は皮膚科を受診する。 2. 目に入った場合 点滴ボトル交換時スプラッシュなどで生じることがある。組織障害の強い薬剤は結膜炎や 強度の流涙があり、眼球損傷や角膜損傷をおこす危険性がある。付着時は直ちに流水か生 理食塩水で十分洗い流す。洗浄後眼科を受診する。 3. 注射針などで刺してしまった場合 抗がん剤を扱った注射針や輸液セットの先端などで誤って皮膚を刺してしまった場 合は血管外漏出時の対応に準じて処置を行う。抗がん剤の組織障害性により対応は異なる。 起壊死性抗がん剤の場合や穿刺部の発赤、紅斑、痛みなどがみられた場合は皮膚科を受診 する。 4. 床などにこぼした場合 スピルキットを使用する。 (写真 2 参照)市販のスピルキットは高価のため写真を参 考に同様の器材をみつくろい揃えておく。 スピルキット使用方法と留意点 1) スピルキットを開け手袋を着用する。 2) ガウン、ゴーグル、マスク、キャップを着用する。床にこぼれた場合はシュー ズカバーを着用する。 3) ガウンの袖口を覆うようにもう 1 枚の手袋を着用する。 4) 他者への曝露を防ぐために警告ボードを立てて処理を始める。 5) こぼれた薬剤が広がらないように吸水性シートで外側から内側へ向けて押さ えて吸水させる。何回か繰り返し完全に吸水させる。 6) ガラスなど破片などがある場合、使い捨てほうきや塵取りを使用してビニール 袋内へ処理する。 7) PPE をはずす際は二重に着用した外側の手袋を中表に折り込むようにまとめ る。PPE それぞれの表面に触れないように注意しながら外し、同様にまとめ ビニール袋に入れる。最後にもう 1 枚の手袋をはずす。 8) 外した PPE は二重にしたビニール袋に入れて口を密閉し抗がん剤専用のハザ ードボックスへ廃棄する。 9) 必要時清掃業者へ清掃を依頼する。 10) 石けんと流水で十分に手を洗いうがいをする。 写真 2 スピルキット ① ガウン ② パウダーフリー手袋 2 組 ③ マスク(N95 規格が望ましい) ④ 廃棄用ビニール袋 2 枚以上 ⑤ ゴーグル ⑥ ⑦吸水シート ⑧シューズカバー ⑨塵取り 警告表示ボード、キャップなど 5. 蓄尿が必要な場合 抗がん剤治療中はトイレでの排泄が望ましい。蓄尿することで曝露の機会を増やすた めできるだけ蓄尿は行わないこと。使い捨て容器を使用し排尿毎に尿量を測定するな どの工夫が必要である。どうしても蓄尿が必要な場合は、蓄尿容器は密閉蓋のあるも のを使用し、他患者が接触しにくい場所を考慮する。蓄尿容器も廃棄できるものが望 ましい。清掃業者へも処理の仕方に指導が必要となる。 (3)-2 安全キャビネットがない場合の抗がん剤の調製マニュアル Ⅰ.目的 安全キャビネットがない環境において、直接作業を行う取扱者及び周囲の医療従事 者の曝露を防止し、抗がん剤の調製を行う。 Ⅱ.手順 1. 抗がん剤の調製作業に適した場所の確保 1) 換気装置と流し台がある。 2) 他の薬剤を調製・準備する台から離れている。 3) なるべく人通りの少ない場所で行う。 2. 必要物品 1) PPE(手袋 2 対、マスク、ガウン、ゴーグル、キャップ) 2) 吸水性シート 3) 薬剤および混合・調製に使用する注射器・注射針 4) 点滴ボトルおよび点滴セット 5) クリンキーパー 6) 紙ガーゼ、廃棄用ビニール袋など 7) 抗がん剤専用ハザードボックス 3. 作業手順 1) 抗がん剤の調製・準備区域に危険を警告するラベルを貼って、部外者 が区域内に入らないようにする。 危険! 2) クリンキーパーで抗がん剤専用作業台の表面を清拭する。 3) 使用する物品を不足のないように準備する。 4) 抗がん剤専用作業台の上に吸水性シート敷き、使用物品を並べる。 5) 調製・与薬準備作業前の手洗いをする。 6) PPE を着用する。 7) 抗がん剤を調製・与薬準備する。 8) 調製・与薬準備が終了したら、作業台を掃除し、使用した紙ガーゼをビニー ル袋に二重にして口を閉めて抗がん剤専用のハザードボックスに廃棄する。 9) ガウン、手袋、マスク等の PPE を外して、ビニール袋を二重にして入れて 口を閉め密閉し抗がん剤専用のハザードボックスに廃棄する 10) 作業終了後は、十分な手洗いとうがいをする
© Copyright 2024 Paperzz