第 21 回食細胞機能異常症研究会

第 21 回食細胞機能異常症研究会
日時:2013 年 12 月 14 日(土)13:00 より
場所:東京慈恵会医科大学 南講堂
特別講演1
『慢性肉芽腫症関連腸炎の小児患者における内視鏡像と病理組織像の検討』 国立成育医療研究センター消化器科 新井勝大
背景:慢性肉芽腫症(Chronic Granulomatous Disease:CGD)の 30~50%に消化器症状が合併することが知られ
ている。慢性肉芽腫症関連腸炎(CGD associated colitis:CGDAC)に特徴的な病理組織所見の報告はあるが、
内視鏡所見についての報告は乏しい。
方法:国立成育医療研究センターでフォローされている 5 名の CGD 小児患者(全て男性,2-17 歳)に、腹痛
や下痢、血便の評価目的で大腸内視鏡検査が行われた。その内視鏡所見と病理組織所見を、後方視的に評価し
た。
結果:CGDAC に特徴的な内視鏡所見としては、大腸粘膜の発赤、びらん、偽膜形成や炎症性ポリープに加え、
黄色調の浮腫状粘膜に茶色の斑点を伴う所見を認めた。病理組織所見では、多彩な炎症性細胞の粘膜固有層へ
の浸潤に加え、泡沫状組織球や、時に多発する肉芽腫形成を認めた。陰窩炎や陰窩膿瘍を伴い、炎症性腸疾患
に矛盾しない組織像を呈した症例もあった。
結論:CGDAC の内視鏡所見は様々だが、黄色調の浮腫状粘膜に茶色の斑点を伴う所見は特徴的と思われた。
多発する肉芽腫と泡沫状組織球は CGDAC の患者に特徴的な所見であった。
特別講演2
『原発性免疫不全症に対する遺伝子治療』
国立成育医療研究センター成育遺伝研究部 小野寺雅史
1990 年、米国国立衛生研究所(NIH)で行われたアデノシン・デアミナーゼ(ADA)欠損症より始まる原発性
免疫不全症の遺伝子治療は、2000 年の X 連鎖重症複合免疫不全症(X-SCID)や ADA 欠損症に対する造血幹
細胞遺伝子治療の成功により、適当な移植ドナーがいない患者に対し有効な治療法を提供するという臨床的立
場を確立した。さらに慢性肉芽腫症(CGD)やウィスコット・アルドリッチ症候群(WAS)など他の原発性
免疫不全症に対してもその有効性が証明され、また、原発性免疫不全症以外の遺伝性疾患に対しても極めて良
好な治療成績を示したことから、今後もその対象疾患は拡大していくものと思われる。ただ、X-SCID や CGD
あるいは WAS において遺伝子治療を受けた患者に白血病などの造血系異常が発症したことから、造血幹細胞
遺伝子治療自体の安全性が厳しく問われ、事実、安全性を評価する有効な方法がない状況ではその実施に際し
て患者の利益と危険性(リスク・バランス)を十分に考慮した上での総合的判断の下に遺伝子治療が実施され
るように定められている。
私たちは北海道大学において 2 名の ADA 欠損症に対する造血幹細胞遺伝子治療を経験し、現在も国立成育医
療センターにおいて移植ドナーが見つからない重症 CGD 患者に対し NIH の Malech 博士らとの共同研究でレ
トロウイルスベクターを用いた造血幹細胞遺伝子治療を計画している。今回の発表では、自験例を紹介すると
伴に欧米を中心とする現在までの原発性免疫不全症に対する遺伝子治療を紹介し、我が国における今後の遺伝
子治療の在り方を考えたい。
一般演題
(1)慢性肉芽腫症42例における肉芽腫性疾患の臨床的検討
後藤文洋 1)、河合利尚 1)、中澤裕美子 1)、内山徹 1)、原山静子 2)、田村英一郎 2)、小野寺雅史 1)
1) 国立成育医療研究センター免疫科、2) 東京慈恵会医科大学小児科学講座
【背景】慢性肉芽腫症(CGD)は NADPH オキシダーゼの異常により殺菌能が低下し、易感染性を示す原発
性免疫不全症である。本疾患では、TNFα など炎症性サイトカインの過剰産生により肉芽腫を合併する。今回、
肉芽腫性疾患を合併したCGD症例の臨床像について検討した。【方法】当科で診療した CGD42症例を対
象に、感染性関連肉芽腫と非感染性肉芽腫について後方視的検討を行った。
【結果】治療を要した肉芽腫性疾
患は25例で、明らかな感染症を伴わず肉芽腫を合併した症例は16例であった。この内15例は CGD 腸炎
で、13例にステロイド、免疫抑制剤、サリドマイド等による治療が行われた。また、非感染性肺肉芽腫は
4例で認め、3例にステロイドやサリドマイド治療が行われた。肉芽腫性疾患に対するステロイド治療中、
新たに感染症を合併したのは5例であったが、感染症をきたさなかった8例との間で、ステロイドの投与期
間および総投与量に有意な差は見られなかった。一方、サリドマイド投与中に感染症を合併した症例はなか
った。【考察】CGD における肉芽腫性疾患は、活性酸素産生障害に関連する過剰な炎症反応の遷延が病態に
関与すると考えられている。ステロイドや免疫抑制剤は、易感染性を増悪することから、肉芽腫に対する抗
炎症治療において易感染性へ与える影響の少ないサリドマイドなど新たな治療法の開発が必要と考える。
(2)Skewed inactivation により発症した X 連鎖慢性肉芽腫症の一女児例
呉宗憲、春日晃子、加藤幸子、堤範音、柏木保代、河島尚志
東京医科大学小児科
【はじめに】慢性肉芽腫症(CGD)は好中球の活性酸素生成蛋白の先天的欠損または機能異常により易感染性を
示す遺伝性疾患である。日本においては伴性劣性遺伝形式を取る事が多いため通常は男性発症で女性は保因者
となるが、女性の発症例も少数ながら報告されている。今回我々は過去に gp91-phox exon3 のスプライシング
異常による CGD と診断されている父親の娘が咳嗽を主訴に受診。好中球殺菌能検査(DHR-123)8.3%と低値、
父親と同様 gp91-phox exon3 のスプライシング異常を認め、skewed inactivation による CGD を発症したと思わ
れる女児例を経験した。【症例】5歳女児。BCG 接種にてトラブルなし。1 歳時より中耳炎や副鼻腔炎を度々
繰り返していたが入院や重症化の既往は無い。今回咳嗽を主訴に受診。胸部 CT にて肺炎を認めた。治療経過・
画像所見より肺炎は真菌性と思われたが、ボリコナゾールによる治療中に薬剤性肝機能障害のため中止とした。
以降 ST 合剤で予防内服を行っていたが再度肺炎が悪化。当変異例ではインターフェロン γ への反応が良い事
が報告されており、ご両親と相談の上インターフェロン γ による治療を開始した。治療前後のフローサイトメ
トリーによる好中球 gp91-phox 発現解析の結果と文献的考察を加え報告する。
(3)骨髄移植後早期に非典型的な白質脳症を発症した慢性肉芽腫症の一例
星野顕宏、野村恵子、金兼弘和
富山大学医学部小児科
慢性肉芽腫症(CGD)の根治療法として骨髄移植が施行されるが、感染症や合併症の有無、ドナーの種類(DLI
が可能かどうか)は個々の症例で異なり、最適な移植の時期や方法は不明である。我々は感染症を反復した
CGD の一例に対して、RIC による非血縁者間骨髄移植を施行した。移植後早期に白質脳症を発症した。非典
型的な臨床経過とともに、移植前処置との関連やその他の合併症についても報告する。症例は CGD(p22phox
欠損)の男性である。感染症を反復しており、17 歳時に HLA 一致の非血縁ドナーがみつかったことから、骨
髄移植を施行した。前処置は Flu 180mg/m2、ivBU 6.4mg/kg、TLI 4Gy を施行し、GVHD 予防には FK506 (血
2
中濃度 5-10ng/mL)、短期 MTX(day1 15mg/m2、day3、6、11 10mg/m2)を用いた。生着はスムーズで(day15
に好中球≧500µL、day21 に血小板≧2 万/µL、day23 に網状赤血球≧20‰)、day21 に末梢血で完全キメラを確
認した。
day14 から見当識障害があり、day16 には失語と一過性の巣症状(視覚異常、右上肢の振戦、顔面の感覚異常)
を認めた。頭部 MRI では FLAIR で両側白質に高信号域があり、脳波でも高振幅徐波があった。大量免疫グロ
ブリンおよび mPSL パルス療法により、すみやかに意識レベルや神経学的異常は軽快した。その後は神経学的
異常を認めないものの、頭部 MRI では 5 か月間にわたって現在も白質病変が残存している。免疫学的機序(多
発性硬化症、急性散在性脳脊髄炎、GVHD)、感染症(進行性多巣性白質脳症、EB ウイルス、トキソプラズマ)、
薬剤性(PRES)などが鑑別となるが、いずれも臨床経過や検査所見が非典型的で診断には至っていない。
(4)造血幹細胞を標的とした慢性肉芽腫症に対する遺伝子治療臨床研究に向けたドライランの実施
山元茉莉、河合利尚、小野寺雅史
国立成育医療研究センター 成育遺伝研究部
慢性肉芽腫症(CGD)は、NADPH オキシダーゼの異常により活性酸素産生能が低下し、殺菌障害をきたす原発
性の食細胞機能異常症である。本疾患の約 80%が、NADPH オキシダーゼ構成要素のひとつである gp91phox 蛋
白に異常を認める。従来、CGD では造血幹細胞移植が唯一の根治療法であるが、HLH 一致ドナーの不在や感
染症により十分な前処置が行えないなどの課題が指摘されている。そこで当研究部では、米国 NIH との共同
研究として X 連鎖慢性肉芽腫症の遺伝子治療臨床研究を実施する体制を整えた。本臨床研究では、造血幹細
胞への遺伝子導入法として、無菌的に細胞調製を行う閉鎖系培養システムを用いる。今回、本システムにより
臍帯血単核球から CD34+細胞を分離しレトロウイルスを用いて EGFP 遺伝子導入を行い、Large scale での細胞
分離/遺伝子導入システムの確認を行った。5.82x108 個の臍帯血単核球から 1.49x106 個の CD34+細胞(純度 96%)
が分離され、遺伝子導入効率は 62%であった。次に、本臨床研究で使用するレトロウイルスベクター
(MFGSgp91phox)について、本閉鎖回路システムにおける遺伝子導入効率を検討した。赤芽球細胞株である
K562 を用いて遺伝子を導入したところ、導入効率は 65%であった。これは、欧米で実施された臨床試験と同
等の導入効率であることから、本臨床研究においても海外と同等の高い治療効果が期待される。
(5)Emberger 症候群の 1 例
八角高裕 1)、才田聡 1)、梅田雄嗣 1)、西小森隆太 1)、足立壮一 2)、小原收 3)、平家俊男 1)
1) 京都大学大学院医学研究科発達小児科学、2) 京都大学人間健康学科、3) かずさ DNA 研究所
Emberger 症候群は難聴、下肢の原発性リンパ浮腫、造血器異常を特徴とする稀な症候群で、近年 GATA-2 の
遺伝子異常が原因であることが報告された。今回、下肢の浮腫を主訴に受診し、遺伝子検査により確定診断に
至った Emberger 症候群の 1 例を経験したので、文献的考察を加えて報告する。症例は 13 歳の男児。先天性難
聴あり、その他の異常をこれまで指摘されておらず、重篤な感染症の罹患歴もない。父母に難聴があり、父方
祖父に白血病の既往がある。12 歳 6 ヶ月頃より、運動後に両下肢が腫脹することに気付き、13 歳 8 ヶ月時に
症状が持続するため当科受診した。血液検査で WBC 2800 /µl (好中球 70.9%, リンパ球 26.9%, 単球 1.4%), Hb
13.6 g/dl, Plt 14.1 万/µl と白血球数および血小板数の低値を認め、単球数低下が顕著であった。FCM 解析では
単球・B 細胞・樹状細胞の欠損・減少を認めたが、NK 細胞比率は正常範囲であった。骨髄検査では cellularity
の低下と 3 系統の異形成を認め、RCMD と診断した。以上の経過および検査所見から Emberger 症候群を疑い、
GATA-2 遺伝子解析を施行したところ、新規変異 c.1084C>T (p.Arg362X)が同定され、診断確定に至った。
GATA-2 変異で引き起こされる疾患はこれまでに MonoMAC 症候群(DCML 欠損症)、家族性 MDS/AML、
Emberger 症候群の 3 つの病型が報告されている。これら 3 病型における genotype-phenotype に一定の傾向は見
られないが、最終的に MDS/AML を高率に発症する点は共通している。Emberger 症候群は、約半数で MDS/AML
3
を発症することが報告されており、本症例においても白血病移行の有無について慎重に経過観察するとともに、
造血幹細胞移植の施行を検討している。
(6)難治性骨髄炎をきたした IFNγ 受容体1部分欠損症の母児例
竹田加奈子 1)、河合利尚 2)、中澤裕美子 2)、庄司健介 3)、小室久子 4)、森田久美子 4)、大矢幸弘 4)、宮入烈 3)、
石黒精 1)、小野寺雅史 2)
国立成育医療研究センター 1) 総合診療部、2) 免疫科、3) 感染症科、4) アレルギー科
【背景】メンデル遺伝型マイコバクテリア易感染症(MSMD) は、BCG、非定型抗酸菌などの細胞内寄生菌
に易感染性を示す原発性免疫不全症であり、IL-12 / IFNγ 経路の異常に起因する。障害される分子により、
IFNγR1 欠損症、 IFNγR2 欠損症、IL-12p40 欠損症、IL-12R 欠損症、STAT1 異常症、NEMO 遺伝子異常症など
が報告されている。【症例】1歳女児。 BCG ワクチン接種から7か月後に腋窩皮下膿瘍と多発性骨髄炎を発
症し、同部位から Bacille Calmette Guerin が検出された。また、患児の母親は BCG ワクチンの接種歴はなかっ
たが、1 歳時に非定型抗酸菌に起因すると思われる難治性多発性骨髄炎を発症した。しかし、6歳以降は骨髄
炎の再燃はみられず、感染予防治療が行われなくても明らかな易感染性を示さなかったため、免疫不全症の自
覚はなかった。今回、患児と母の末梢血単核球における IFNγR1 発現が著明に亢進していたため、IFNγR1 遺伝
子の解析を行ったところヘテロ4塩基欠損を認め、母児ともに IFNγR1 部分欠損症と診断した。【結語】予防
接種の問診票では免疫不全症に関する質問があるものの、患児の母のように重篤な感染症と免疫不全症との関
連が認識されていなければ、容易に見逃されてしまう危険性が示唆された。IFNγR1 部分欠損症は比較的軽症
な臨床経過を示すが、患児の骨髄炎は難治性であり IFNγ 大量療法を併用した。
(7)リンパ球異常を認めた WHIM 症候群の1例
加藤環 1)、本間健一 1)、今井耕輔2)、小林真一3)、佐藤謙3)、木村文彦3)、野々山恵章1)
1) 防衛医科大学校小児科、2) 東京医科歯科大学小児科、3) 防衛医科大学校血液内科
【はじめに】WHIM 症候群は wart、hypogammaglobulinemia、infections、myelokathexis を特徴とする常染色体
優性遺伝性の疾患で、原因遺伝子は CXCR4である。今回我々は、リンパ球異常を呈した 1 症例を経験したの
で報告する。【症例】31 歳男性。肺炎に罹患し他院へ入院した。入院時は白血球数 2000/µl であったが、感染
改善後に白血球数 700/µl(lymph 546/µl、neutro 112/µl)に減少したため、当院へ紹介された。12 歳時にも肺炎
に罹患し白血球減少を指摘されていた。精査の結果、低ガンマグロブリン血症(IgG 394 mg/dl、 IgA 25 mg/dl、
IgM 17 mg/dl)があったが、ウイルス特異抗体の産生は認め(麻疹 IgG+、風疹 IgG+)、PHA、ConA は正常で
あった。FACS では、T 細胞は、CD4/8 比が逆転しており、CD45RO/CD4+CD3+ 95.3%と著明な偏倚を認めた。
KREC は正常、TREC が陰性であった。疣贅は認めず、骨髄検査でミエロカテキシスの所見を認め、PET で骨
髄への集積の亢進を認めた。CXCR4 遺伝子解析を行った結果、既報告の変異 c.1000C>T p.Arg334X を hetero
に認め、WHIM 症候群と診断した。その後頭部腫瘤が出現し malignant lymphoma の所見であった。
【考察】WHIM
症候群では CXCR4の gain of function によって骨髄中への好中球の停滞、骨髄好中球の増加と末梢血好中球減
少を引き起こすとされ、リンパ球障害に関しては症例によって多様性が存在であるとされている。我々は、
TREC、KREC をクリニカルマーカーとして、CVID (common variable immunodeficiency)患者を 4 群に分類する
と TREC 陰性の症例では悪性腫瘍が 29%と多数例で発生することを報告したが、本症例においても同様の結
果であった。現在我々は国内の WHIM 症例について、リンパ球サブセット解析、TREC/KREC 解析を進めてい
る。
(8)肝膿瘍を発症した自己免疫性好中球減少症の一例
竹崎俊一郎 1)、植木将弘 1)、戸澤雄介 2)、山崎康博 1)、藤田祥二 2)、阿部修司 2)、井口晶裕 1)、山田雅文 1)、小
4
林一郎 1)、中村和洋 3)、有賀正 1)
1) 北海道大学大学院医学研究科小児科学分野、2) 函館五稜郭病院小児科、3) 広島大学医歯薬学総合研究科小
児科
自己免疫性好中球減少症(AIN)は主に乳児期に発症し,抗好中球抗体によって好中球が破壊される疾患である。
一般的に AIN は感染急性期に好中球が増加し、重症先天性好中球減少症(SCN)に比べて合併する感染症は軽症
である。今回我々は肝膿瘍診断時に著明な好中球減少を認めた 6 か月男児 AIN 症例を経験した。深部感染症
の合併から当初は SCN を疑ったが、それまでに重症・反復感染症の既往がなく SCN の候補遺伝子(HAX1, ELA2)
に変異はなかった。骨髄では成熟停止は認められず、また 6 週間にわたり好中球は低値が持続し周期性は見ら
れなかった。広島大学小児科で行った抗好中球抗体測定によって、好中球の FCgReceptorⅢb に存在する HNA-1a
に対する自己抗体が高抗体価であり、AIN の診断に至った。肝膿瘍は抗菌剤の静注で治癒し、ST 合剤の予防
投薬を行っている。現在好中球は 100/ul 程度で推移し、重症感染症は発症していない。本症例で AIN に非典
型的な重症感染症を発症した原因として、抗好中球抗体の抗体価が高く、一般的な AIN に比べ好中球の破壊
がより強かったことが一部関与していると考えられた。また本症例のように初発時に重症感染症を来し、急性
期にも好中球増加を見ない AIN 症例が存在するため、臨床症状だけで AIN を除外しないことが重要である。
また外注による抗好中球抗体測定は不十分であり、適切な施設に速やかに依頼することが必要である。
(9)重症先天性好中球減少症(SCN)に対し造血幹細胞移植を施行した 3 例
阿久津裕子 1)、伊藤一之 1)、小林千佳 1)、宮脇零士 1)、青木由貴 1)、今井耕輔 1)、富澤大輔 1)、
高木正稔 1)、梶原道子 2)、森尾友宏 1)、水谷修紀 1)
東京医科歯科大学医学部附属病院 1) 小児科、2) 輸血部
【目的】SCN(Severe Congenital Neutropenia)の造血幹細胞移植(HSCT)の報告例は少なく、適切な前処置や移
植ソースについては不明な点が多い。今回 ELA2 遺伝子異常を伴う SCN3 例に対して HSCT を行ったので報告
する。
【症例 1】2 歳,男児:移植ソースは HLA 完全一致同胞骨髄。前処置は TBI 3Gy,Flu 125mg/㎡, L-PAM 90mg/
㎡, Cy 120mg/kg, ATG 10mg/kg を使用した。day18 で生着し、以降合併症認めず、経過したが、ドナー80%程度
の安定した混合キメラ状態で経過している。【症例 2】3 歳,男児:移植ソースは、GVHD 方向 4/6(5/8)一致、拒
絶方向 4/6(6/8)一致の臍帯血。前処置は Flu 180mg/㎡, target Bu 19.2mg/kg(iv), ATG 10mg/kg を使用した。Day20
で生着した。day24 よりみられた急性 GVHD gradeⅡ(皮膚 stage3)は、Day60 頃より発熱、皮膚粘膜障害及び自
己免疫性汎血球減少も来たし、FK506,PSL を増量したところ PRES を発症、その後肝障害も出現した。皮膚生
検より慢性 GVHD と診断し、Rituximab, MMF, mPSL パルス, CY と治療を追加し、ようやく改善した。【症例
3】2 歳,男児:移植ソースは、GVHD 方向 4/6(5/8)一致、拒絶方向 3/6(5/8)一致の臍帯血。前処置は Flu 180mg/㎡,
target Bu 16.0mg/kg(iv), ATG 8mg/kg を使用した。Day17 に生着後、二次性生着不全となり、day66 に父親から
の半合致骨髄移植を施行した。再移植の前処置は Flu 90mg/m2,CY 1g/m2 で行い、day16 に生着したが、day20
より急性 GVHD gradeⅢ(皮膚 stage3 下痢 stage2)を発症し、mPSL パルス,MMF,MTX を追加し治療を行い沈静
化した。【結論】今回 SCN3 例に対し、HSCT を行った。同胞間移植の 1 例で混合キメラとなったため、前処
置強度を高め、臍帯血移植を行ったが、自己免疫性血球減少、GVHD、生着不全など様々な合併症のコントロ
ールに難渋した。今後、前処置、GVHD 予防法の最適化をはかるため、症例の蓄積が望まれる。
(10)STAT1 異常症の 4 例
小林正夫、岡田賢、津村弥来、平田修、溝口洋子、三木瑞香、川口浩史
広島大学病院小児科
メンデル遺伝型マイコバクテリア易感染症(MSMD)は BCG や非結核性抗酸菌など弱毒抗酸菌に易感染性を
呈することを特徴とする。IFN-γ レセプター(IFN-γR)1 欠損症、IFN-γR2 欠損症、IL-12 欠損症、IL-12R 欠
5
損症、STAT1 欠損症、NEMO 異常症など種々の病因が包含されている。STAT1 は type I IFN(IFN-α/β)と type II
IFN(IFN-γ)の両方のシグナル伝達に重要な転写因子であり、機能喪失型変異によって細胞内寄生菌に対して易
感染性を示すことが知られている。我々は本邦第一例を診断後、4 例の常染色体優性遺伝型のヘテロ変異例を
同定した。症例 1 は SH2 domain、症例 2、3 の親子例は tale segment domain、症例 4 は DNA binding domain の
変異であった。インターフェロン刺激によるリン酸化、GAS との結合能、STAT1 の核内移行、reporter assay
の結果から、食細胞における STAT1 の転写活性の低下が細胞内寄生菌の殺菌能低下の原因と考えた。臨床的
には 4 症例とも多発性骨髄炎を契機に診断に至っており、骨髄炎症例では起因菌の同定とともに免疫不全症
を考慮する必要がある。
食細胞機能異常症レビュー
『食細胞異常症レビューin 2013』
布井博幸、西村豊樹
宮崎大学小児科
食細胞は単に炎症部位に動員され、貪食殺菌し、自ら死んで行く(apoptosis)細胞である。しかし、食細胞機能
異常症患者は、単に易感染性を示すだけでなく、炎症/抗炎症機序(シグナル伝達物質や機能蛋白)異常から
肉芽腫形成をはじめ種々の免疫過程の異常を示している。今回は、食細胞の1)細胞内シグナルの異常として
CARD9 異常症による易真菌感染症、IRF8 異常症による樹状細胞異常、BTK 欠損による好中球機能異常症や、
2)NADPH oxidase 活性を制御する H+ pump(VSOP/HVCN1 KO mouse)について最近の報告を中心に紹介
する。
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