平成 25 年 5 月 12 日 Weekly Report 1 中東・北アフリカ情勢について May 06-12, 2013 パキスタン パキスタンの国会議員選挙が 5 月 11 日に行われたが、これは、同国憲法の 規定に基づいたものであり、同国で初めての民主的手段によるものとなった。 小選挙区の 272 議席をめぐっては、約 5000 人が競い合った。 (注:パキスタ ン議会の下院には、比例選の議席も併せて 342 議席があるが、そのうち、60 議席が女性に、10 議席が非イスラムの少数宗教に割り当てられている)。 選挙に勝利したのは、かつて二度首相を務めたナワズ・シャリフが率いる 中道保守の野党「パキスタン・イスラム連盟-ナワズ派」 で、130 議席を獲 得した。同派は、10 の少数イスラム政党及び民族派政党の連合で構成されて いる。第 2 党は、イムラン・ カーン党首が率いる「パキスタン正義行動党」、 第 3 党は先の政権党、 「パキスタン人民党」 (PPP)であった。PPP の党首は、 ザルダリ大統領の息子、ビラーワル・ザルダリである。選挙後、シャリフ党 首は、早々に新政府の体制作りに取り組んだとされる。 今回の選挙は、極めて緊張感漂う雰囲気の中で行われた。パキスタンのタ リバンは、事前に選挙妨害を行うと宣言し、この選挙は反イスラム的だと厳 しく非難した。選挙運動中には、爆弾事件やその他の暴力事件が絶え間なく 発生し、合計で 100 人以上の死者を出した。また、投票当日には、これとは 別に、数件のテロ攻撃により 24 人が殺害された。選挙前、政府は、「選挙の 警備に 7 万 5000 人の国軍兵士を含む 60 万人以上の治安部隊を投入し、万全 の警備体制を敷いた」と、警備に自信を持っていたが、結果は上記のように かなりの犠牲者が出てしまった。 今次選挙におけるもう一つの注目点は、 “原理主義的な風潮が高まりつつあ る中”での選挙であったが、投票率は 60 パーセントを超え、国民の意識の高 さが窺われたことであった。投票者数が予想よりも多かったため、投票所の 作業時間も、定時より 1 時間延長された。 2 シリア 先週、同国中央部のホムス州及び南部のダラア州で大規模な衝突が発生し たが、政府軍は、シリアのダラアとヨルダンを結ぶ戦略的に重要な道路であ るダマスカス・ハイウェイからの反政府武装勢力の駆逐に成功した。 5 月 7 日、ロシア・モスクワで行われたケリー米国務長官とロシア首脳と の会談では、シリア情勢が最大のトピックとなった。ケリー長官は、プーチ ン大統領に対し、 「中東情勢の安定という観点から、特にシリア問題の解決の ためにロシア政府と協力していきたい」とし、会談後、両国は、シリア政府 と反政府組織の間の対話を促し、2012 年 6 月にスイスのジュネーブで開かれ た“シリアに関する国際会議”を、5 月末に再開することで合意に達した。 さらに両国首脳は、シリアが化学兵器を使用したという情報の検証作業の ために、両国間の情報協力を強化することでも合意した。 同時に、ケリー長官は、①アサドはシリアの正統の大統領ではないという こと、②シリアの政権を交替させるという段階に至れば、アサドは次期政権 の担い手として相応しくない旨を再度強調した。 ただし、消息筋は、 「シリアの安定化を目指す国際会議は、その仕組み自体 に大きな意見の食い違いがあることから、5 月中の開催はまず不可能であろ う」との見解を表明している。 プーチン大統領と英国のキャメロン首相は、5 月 10 日、ロシアのソチでシ リア問題について会談を行った。プーチン大統領は、 「ロシアと英国は、シリ アが領土を保全する主権国家であるという観点を常に維持し、国内の争いを 早急に終息させ、平和的な解決を見るということで共通の関心を有している」 と述べた。 一方、キャメロン首相は、 「我々の間に見解の相違があることは隠しようが ないが、紛争を終結させ、シリア国民に彼ら自身の政府を選ばせ、過激主義 の台頭を阻止するという基本的な目標では一致している」と強調した。 プーチン大統領は、イスラエルのネタニヤフ首相とシリア問題で電話会談 を行った。近い将来、ネタニヤフ首相は、同じ問題でプーチン大統領と直接 協議を行うために、ロシアを訪問すると見られる。 イスラエルによるミサイル攻撃が行われた翌日の 5 月 6 日、ロシアのラブ ロフ外相は、シリアのワリド・ムアレム外相と会談したが、その際ラブロフ 外相は、 「ロシアは、イスラエルに対して強く自制を求める。シリアのみなら ず、地域の主権国家へのいかなる暴力も容認できない。特に、シリアは、現 在、国内紛争により破壊が行われ、極めて危険な状況下にある」と警告した。 先週、ロシアからのシリアへの武器供給について協議が行われた。該当す る武器は、特に、対空ミサイル・システム「S-300」である。ラブロフ外相は、 「ロシア政府はシリアと新たな武器取引を行う積りはないが、既に契約済み の部分については、供給を完遂させる」と強調した。その際、同外相は、対 象の武器が S-300 であるか否かについては言及しなかったが、 「我々は防衛シ ステムについてのみ論じている」と述べた。 米国は、ロシアがシリアへの武器供与を中止するよう期待しているが、ラ ブロフ外相の言を受け、メディアに対しては、 「ロシアは対空ミサイル・シス テム S-300 をシリアに供給する準備を進めている」とコメントした。 3 トルコ シリア-トルコ国境の町レイハンル市(トルコ側)でテロ事件が発生した ことで、シリア内戦の影響により、トルコでも情勢が複雑化しつつあると見 られる。同テロでは、爆弾が 2 発爆発して 46 人が死亡し、100 人以上が負傷 した。トルコ政府は、 “同事件はシリアの治安部隊によるもの”としてシリア を糾弾しているが、シリア側はこれをきっぱりと否定している。 なお、トルコのダーヴトウル外相は、 「トルコは、攻撃に対してはいかなる 反撃も行う準備ができており、これを実行する権利も有している」と語り、 同時にエルドアン首相も、5 月 12 日、「レイハンルでの連続爆弾テロ事件は、 我が国を隣国との戦争に引き込もうとしている者の仕業だ。トルコは、今後 も平穏を維持しなければならず、挑発にも乗らないことを再認識した」と語 った。 トルコからの分離・独立を目指す「クルド労働者党」 (PKK)は、5 月 8 日、 トルコ領土から撤退してイラクのクルド人自治区への移動を開始した。他方、 イラク政府は、トルコからの武装勢力の入国を拒否する旨表明し、 「イラク政 府は、国家の安全を脅かす可能性のある武装組織が領土内に入ってくること には決して同意しない」と宣言した。しかし、イラク政府は、クルド人自治 区における統率能力はなく、逆に、同自治区の首脳は、PKK 武装勢力の入国 を承諾している。 4 リビア リビア情勢はいまだに複雑である。特に、2011 年のカダフィ政権の転覆に 参加した、主にミスラタ出身者が占める「地域連合革命旅団」の武装組織は、 5 月 5 日に「政治的孤立法」 (カダフィ政権時代に要職にあった者の新政権へ の参加を禁じる法律)が制定されて以降、政府高官に対して圧力をかけ続け ている。とりわけ、ゼイダン首相に対しては強く辞任を迫っている。 5 月 6 日、革命旅団は、再びトリポリの外務省ビルと法務省ビルを封鎖する などし、現地の治安情勢は益々悪化している。テロの発生件数が増え、さら に、武装勢力同士の衝突も各地で見られている。 このような状況下、米国と英国は、リビア駐在の外交支援スタッフを暫定 的に引き上げることにした。さらに、英国の石油企業「ブリティッシュ・ペ トロリアム」(BP)も、現地派遣スタッフの一部を帰国させている。 米国防総省は、リビア在住の米国人を退去させるために、特殊部隊 2 チー ムを同国に派遣した。 5 アフガニスタン ロシアのプーチン大統領は、アフガニスタンに関する安全保障理事会の席 上、同国への様々な支援を継続する旨述べた。同大統領は、アフガン情勢が 悪化していることの脅威を指摘し、その理由として、①外国軍主力部隊の撤 退時期が迫っていること、②反政府勢力の攻撃の活発化、③麻薬密輸が拡大 していること、④アフガンの治安部隊に国内治安を任せられるだけの能力が 不足していること、などを挙げた。 米国は、主要国の軍隊が 2014 年にアフガニスタンから撤退した後も、アフ ガン政府の要請に従い、カブール、バグラム、マザリシャリフ、ジャララバ ード、ガルデズ、カンダハル、ヘルマンド、ヘラートの 9 か所の軍事基地を 継続運営する予定でいる。これについてカルザイ大統領は、5 月 9 日、 「米国 の駐留延長はアフガニスタンの権益を守るためにお願いしていることである」 とコメントした。 一方、米国ホワイトハウスの報道官は、 「主力部隊の撤退以降、残留部隊が アフガニスタンの基地に永久に駐留するということではない。アフガニスタ ン政府が要請している、現地法執行機関の訓練と、拘留中の“アルカイダ要 員の訴追”に関する業務のみを行う」と説明した。さらにオバマ大統領は、5 月 11 日、「2014 年の撤退以降も 2 万 2000 人をアフガニスタンに引き続き駐 留させる予定である」と表明した。 6 イラン 5 月 11 日、イラン大統領選挙(6 月 14 日実施)の候補者登録が締め切られ た。登録を行った人数は合計で 686 人にのぼり、そのうちの 37 人は著名な政 治家であった。1989 年から 97 年まで大統領職にあったハシュミ・ラフサン ジャニ師の名前も見られた。 消息筋は、ラフサンジャニ師は国家最高指導者のハメネイ師とは相容れな い関係であるため、同師の大統領選出馬は、ハメネイ師及び配下の強硬派に とっては大きな問題提起となっている。世論調査の数字を見ると、目下、ラ フサンジャニ師が最も高い支持を集めている。 大統領選挙に立候補登録した者は、同国では権威のある憲法擁護評議会の 認証を受けなければならない。なお、候補者の氏名は、5 月 22 日と 23 日に イラン内務省が公表する。 7 エジプト エジプトのカンディル首相は、5 月 7 日、閣僚の交替を発表し、石油・鉱 物資源相、農業・土地開拓相、法相、文化相、投資相、考古相、計画・国際 協力相、財務相、議会担当相の 9 閣僚を入れ替えた。しかし、カンディル内 閣は不人気のため、主要政治家で入閣を拒否する者も出ているとされ、組閣 が遅れている。 また、この内閣改造では、ムスリム同胞団の進出が目立ち、周囲から反発 の声が上がっている。特に、野党からは、 「カンディル政権は党利党略に左右 され、政治の専門家集団ではない。彼らのポストが国内の不安定と経済危機 の元凶となっている」との酷評を受けている。 8 イスラエル 5 月 11 日、イスラエルのテルアヴィブ、ハイファ、アシュダド、エルサレ ム、ラマット・ガンの各都市で、政府の緊縮財政政策に基づく予算削減と増 税に抗議するデモや集会が行われた。同反政府運動には、全国で数万人が参 加した。 以 上
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