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Weekly Report
中東・北アフリカの情勢
平成 25 年5月1日
2013 年 4 月 22-29 日
1
イラク
イラクでは、4 月 23 日、フベイジャで政府軍と反政府勢力が衝突し、緊張
か急激に高まった。同衝突により、双方で 50 人が死亡、200 人以上が負傷し
た。フベイジャの事件は、北部、中部、南部地方のスンニ派居住地区、特に、
ニナワ、タアム、サラハディン、アンバル、ディヤラ等に瞬く間に広まり、
反政府闘争が繰り広げられた。同時に、これが警察及び軍隊と武装勢力との
戦闘に発展した。武装勢力は、軍隊や警察に対して激しい攻撃を繰り返した。
これまでの統計によると、死者は 215 人に達し、負傷者も 300 人以上に上っ
た。武装勢力は、今後首都バグダッドの政界関係者にも攻撃を加えると予告
しており、これに多くのスンニ派部族が動員されるものと見られている。上
記5つの州では、政府軍の攻撃から自己防衛するために、さらなる武装部隊
を編成すると表明している。他方、サダム・フセイン時代に副大統領であっ
た I.ドウルラに率いられる武装した旧バース党のメンバー達も活動を活発化
させている。
政府首脳は、国内紛争の拡大を防ぎ、早急に鎮静化させるとしているが、
ティクリット、サマラ、ファルージャ、モスル、ムクダディヤでは、夜間外
出禁止令が発令され、夜間活動に制限が加えられている。
政府軍は、紛争地には装甲車両の部隊も動員し、暴動が激しい地域、武力
攻撃が行われた地域を取り囲むように布陣させている。さらにイラク政府は、
4 月 28 日、これまで暴力と反政府運動を扇動したとして、カタールのテレビ
放送「アルジャジーラ」ほか9つの衛星放送局を放送禁止処分にした。
イラクのクルド自治区の指導者 M.バルザニは、国内問題の解決に軍隊を使
用し、流血の事態を招いたことを非難している。クルド軍部隊のペシャマル
ガ司令官は、当紛争には中立を貫く旨宣言したが、キルクークに対しては、
治安上の空白が生じているとして軍を派遣している。イラク国軍の司令官は、
クルド軍の動向について、
「ペシュメルガは政治工作のために軍を展開してい
る」と批判した。
最近のイラク情勢では、より政治面の闘争が注目を浴びている。スンニ派
の 3 閣僚(教育相、科学技術相、工業資源相)が辞任を表明したが、これで
3 月以降、辞任したスンニ派の閣僚は 5 人となった。
4 月 25 日、マリキ首相は、国内に宗教間紛争を再燃させようという動きが
見られると警告を発した。さらに、同首相は、正当な要求を行っている運動
家に対しては、彼らの要求に応えるために対話を行うとしている。また、現
在、反政府運動を主導しているのは旧バース党の残党とであるとも発言した。
4 月 26 日、シーア派とスンニ派の首脳が共同声明を発出し、
「イラクでの流
血を直ちに止めよう」と訴えた。
2
シリア
政府軍と反政府武装勢力の戦闘はシリア全土に拡大しており、先週は、特
に中央部のダマスカスやホムス州で激しい戦闘が行われた。4 月 23 日、イス
ラエルの I.ブルン将軍は、「シリア国軍は市民に対して化学兵器を使用した」
と述べたが、同時に米国の政府関係者は、
「シリアが化学兵器を使用したとい
う決定的な証拠はない。もっと信頼のおける情報で確認する必要がある」と
した。
なお、米国及び主要国政府筋の発言は以下の通り。
・ホワイトハウス関係者:
「アサド政権が化学兵器を使用するとなれば、越え
てはならない一線を越えたことになると我々は警告してきた。しかし、我々
が行動を起こすには、なおも情報は十分ではない」
・ケリー国務長官:
「シリアが化学兵器(特にサリン)を使用したという確た
る証拠があがれば、米国政府はシリアの反政府勢力に武器を提供し、さら
に、シリア領土内に飛行禁止地域を設定するであろう」
・オバマ大統領:「シリアの化学兵器使用の可能性について情報を精査する。
今のところ確認できる情報は得られていない」
・英国キャメロン首相:
「アサド政権が化学兵器を使用したという証拠が得ら
れたとしても、英国は軍を派遣するようなことはない」
・フランス外相:
「国際社会はシリアが化学兵器を使用したか否かの証拠を入
手していない。メディアが熱狂的に作り上げた大げさな報道に踊らされて
はならない」
シリア政府は、こうした西側諸国やイスラエルの糾弾を拒絶する姿勢を見
せており、反政府勢力を非難している。他方、西側諸国は、シリア政府は化
学兵器の使用の可能性についての国連の調査に協力し、専門家の入国を許可
すべきと主張している。
「シリア革命・反体制派諸勢力国民連合」
(NCSROF)は、4 月 22 日、自組織
の暫定指導者にジョージ・サブラ氏を選出した。同人は辞任したM.カティ
ブ氏の暫定的な後任であり、正式な指導者は 5 月 10 日に選出される予定であ
る。一方のアサド大統領は、
「武装勢力との和解など不可能である。自由シリ
ア軍は既にテロリストと化している」と強調した。
EU諸国は、4 月 22 日、反政府勢力と一般市民を支援する目的で、同勢力
が支配する地域からの石油輸入について制裁を緩和するとの決定を行った。
これに対し、シリア政府は、
「国連安保理はEUの不法な決定を禁止するべき
であり、EUはテロリストの支援を控えるべきだ」と反駁した。
4 月 24 日、米国のオバマ大統領は、カタールのアルタニ首長との会談後、
「米国の考えはシリアの政治改革を行うことであり、そのためにアサド氏を
政権の座から引き下ろす必要がある」と明言した。
シリア問題の解決を目指す国連及びアラブ連盟のブラヒミ特別代表は、4 月
24 日に開催された国連安保理の非公開協議において、
「シリア情勢は救いよう
のない局面に達しているし、両者による対話も最早不可能だ。自分の見解は、
アサドが次期大統領選に出馬しないことこそが、シリアの安定に大きく貢献
するというものだ」と述べた。
その一方、シリア政府内では、ブラヒミの発言は、
“内政干渉”と批判され
ている。
3
イスラエル
米国のヘーゲル国防長官は、先週、イスラエルを訪問し、
「米国はイスラエ
ルが中東で最有力の軍事力を有していることを確認する」と述べた。同長官
は、さらに、
「米国はイスラエルに武器を供給するが、この武器はイスラエル
以外には供給されないものだ」と述べた。両国は、最近のイスラエルへの武
器供与に関する合意に関して詳細を話し合ったが、それらは、地上のレーダ
ーシステムを破壊するための最新モデル航空機搭載ミサイル、空中給油機
KC-135、新鋭の航空機搭載レーダー、V-22 オスプレーについてである。イス
ラエルはこれらの武器・システムの最初の受領国となる。両国はさらに、シ
リア情勢とイランの核開発問題についても協議を行った。
イスラエルのヤアローン国防相は、
「イスラエルは、イラン問題に関しては
外交努力で解決したいと望んでいるが、イスラエル軍は、防衛のための準備
は常に整っている」と述べ、他方、ヘーゲル国防長官は、
「イランの核兵器開
発は許されるものではない。イラン問題の解決方法として、軍事力行使とい
う選択肢も残っている」と言及した。
4
エジプト
エジプトのモルシ大統領は、4 月 23 日、
「エジプトとイスラエルの真の関係
修復は、同国がパレスチナ政府と和平合意した後に初めて実現するものだ」
と語り、それが実現しなければ、同大統領はイスラエルを訪問する積りはな
いし、ネタニヤフ首相をカイロに招く積りもないと述べた。
モルシュ大統領は、4 月 27 日、エジプトの法規最高評議会のメンバーと会
談し、エジプトの法制度改革について協議した。両者は、改革には妥協点も
模索する必要があるとして、関係する事項についてさらに話し合うための特
別会議を設定することで合意した。一方、ムスリム同胞団は、司法界から 3000
人(主に裁判官)の職員をレイオフさせる予定と発表した。ムスリム同胞団
は、司法界における旧ムバラク政権の影響を一掃しようと考えているようで
ある。
米国のヘーゲル国防長官は、4 月 24 日にカイロを訪問しモルシュ大統領と
会談した際、同国の改革を急ぐよう促した。一方、モルシュ大統領は、自国
がイスラエルとの平和条約に向けて努力する旨約束し、米国にはエジプトに
対する軍事援助を継続するよう要請した。
5
サウジアラビア
米国のヘーゲル国防長官がサウジアラビアを訪問した際、同長官はサウジ
首脳と両国の長期にわたる緊密な関係を確認し合い、今後もこの関係をさら
に強化することが重要と強調した。軍事協力については、サウジ空軍の武装
強化推進のため、F-15 戦闘機の戦闘能力増強等について協議を行った。その
他、シリア、イエメン情勢、イランの核開発計画などについても話し合われ
た。
6
アラブ首長国連邦
同国訪問中のヘーゲル米国防長官は、UAE の首脳と軍事協力に関して協議を
行い、特に、米国が UAE にのみ提供している F-16 Block 60 をさらに 25 機供
与すると述べた。
7
アフガニスタン
タリバンは、4 月 27 日、春期攻勢の開始を宣言し、全国レベルでの攻撃を
強化すると発表した。さらに、タリバン指導者は、
「外国の侵略者に大損害を
与えるために可能な限りの戦術を行使する。特に、外国軍基地や外交使節に
対する自爆攻撃を増やす計画でいる」と述べた。
8
スーダン、南スーダン
スーダンと南スーダンは、4 月 23 日、2011 年に南スーダンが分離・独立し
た後に閉鎖された、両国間の 2000 キロメートルにおよぶ国境線に 10 か所の
検問所を開設することで合意した。これにより、両国間の国境貿易が促進さ
れると期待されている。南スーダンからスーダンを経由する原油の輸送も
近々再開される見込みである。
ダルフールの武装組織「正義と平等運動」(JEM)は、4 月 27 日、同国の北
及び南コルドファン地方の数か所でスーダン政府軍を攻撃した。JEM の代表は、
「この一連の攻撃は、スーダンの政権を転覆するための戦略的作戦の一環で
ある」との声明を発した。
9
トルコ
クルド人武装組織は、トルコ領内からの撤退を 5 月 8 日から開始する予定
である。しかし、クルド労働者党(PKK)の指導者 M.カライランは、4 月 25
日、
「オジャラン議長と他のメンバーを釈放することが、我々が武装解除に応
じる条件である」と宣言した。PKK 勢力は、イラクのクルディスタンに移動す
る予定とされる。
その一方で、カライランは、トルコ政府に撤退を邪魔しないよう警告し、
「も
し攻撃が行われるようであれば反撃に転じるし、停戦も破棄されるであろう」
と述べた。
10
リビア
4 月 23 日、首都トリポリのフランス大使館前でテロ事件が発生した。リビ
アでは、27 日にもベンガジで警察署を狙った爆弾事件が発生し、28 日には、
トリポリの外務省ビルの裏手で 200 人の武装したグループが一定地域を占拠
するという事件も発生している。
リビア政府は、現在、犯罪の取締りに心血を注いでいるが、国内にはいま
だに武器を所有する多くの組織犯罪グループが存在し、政府の治安対策はあ
まり成果を上げていないようである。
以
上