臨床心理学で人の気持ちへの想像力を豊かに育んで欲しい

【研究者インタビュー No.034】
臨床心理学で人の気持ちへの想像力を豊かに育んで欲しい
大分県立芸術文化短期大学 情報コミュニケーション学科 准教授 柴田 雄企 (しばた・ゆうき)
専門: 臨床心理学。
あります。ただ,就職に関する相談であれば,就職
活動に役立つ情報を提供したりすることもあります。
でも,カウンセラーがリードして問題解決するのでは
なく,あくまで本人の方向性に基づいた自律的な解
決を支援するのが役割です。
▲芸術文化短期大学人文棟前にて。
●臨床心理学はどういう内容でしょう?
心理学の説明は意外と大変で(笑い),いろいろな
方法があると思いますが,そのひとつとして基礎心
理学と応用心理学に分けるやり方があるでしょう。基
礎心理学は視覚実験,記憶実験など理系的な発想
で研究する分野です。人間の心理をデータとして収
集・蓄積できるという特徴があります。応用心理学は
基礎心理学で得られた知見を日常生活の現場に活
かすものです。臨床心理学は応用心理学の一分野
ですね。
臨床心理学は心の悩みに苦しんでいる人に対して,
どういう心理的援助をすれば解決に向かえるかにつ
いて考えたり実践したりする学問です。臨床心理学,
社会心理学,発達心理学などのように○○心理学と
いう場合,その○○で専門性や研究対象が分かる
ようになっています。臨床は広い意味では「現場」と
いうニュアンスが含まれています。臨床心理学は,
学校や職場などの現場で応用できる心理学というこ
とで,カウンセリングのバックボーンになっています。
私は芸短で学生相談を担当していますので,学生
相談を例にとってご説明します。学生相談は悩みを
持った学生の話を聞いて学生生活がうまくいくように
支援するのが目的です。そこで担当として私は相談
に来た学生が何に困っているのか,困っていること
がいくつかある場合はそれぞれの困っている程度な
どを聞きます。今までどんな解決策を考えたり試した
りしてみたかについても尋ねますね。対話を通して
支援していくのですが,例えば,その際にどういう質
問をこちらからするかといったことについて臨床心理
学の知見が役立ちます。
学生は悩みを話していくうちに自分の考えや気持ち
に整理がつき,どうすれば良いか自分で気づくことも
●教育のポリシーは?
心理学などを学ぶことで自分の心を客観的に見るこ
とができたり,他人の気持ちを推し量ることができた
りする人になって欲しいという思いです。自分が経験
したことがないことでも,もし自分がその人の立場だ
ったらどうだろうといったように,自分の身に引きつ
けて考えられるようになると良いですね。
臨床心理学を学ぶと,人の心の動きを尐し客観的
な目で見られるようになります。学生時代だけでなく
社会人になってからもいろんな場面で役に立つと思
います。うまくいかないことだけを見て落ち込むので
はなく,うまくいったことを思い出して元気を取り戻す
ことも大事です。学生には自分の人生を豊かにする
道具として臨床心理学を学んで欲しいと願っていま
す。(写真と文/安部博文)
【柴田雄企(SHIBATA Yuki)プロフィール】
▼1974 年,大分県佐伯市生まれ。
小学校時代は川で泳いだり野球を
して過ごす。中学校は生徒数が尐
ないため男子は全員が卓球部,女
子は全員が庭球部に入ることが決
まりになっていた。卓球部では球を
打つ感触の良さが気に入った。県
立佐伯鶴城高校に進学。将来,教
育分野に進みたいと考える。▼
1992 年 3 月,高校を卒業し同年 4
月,九州大学教育学部に進学。一
人暮らしの自由さを楽しみながらも卓球部でハードな練習の
日々を送る。学部 2 年生の後期から教育心理学を選択し,本
格的に心理学の勉強に取りかかる。生涯発達心理学のゼミ
に所属し,卒業論文は高齢者の心理に焦点を当てた「生きが
い」をテーマにした。1996 年 3 月,九州大学教育学部教育心
理学専攻を卒業。▼指導教員の勧めに従い大学院へ進学。
大学院では,高齢者にスケッチを見せ,物語を語ってもらうこ
とで心理状態を理解するというアメリカで開発された心理テス
トの心理臨床への応用に取り組む。1998 年 3 月,九州大学大
学院教育学研究科教育心理学専攻を修了。▼研究を継続す
るため博士課程へ進学。心理テストで使用するアメリカ製の
絵画テストを日本人向けに改良し調査を継続。高齢者が絵を
見て語る内容から,ものの見方や人間関係の捉え方の傾向
を把握することができた。2001 年 3 月,九州大学大学院人間
環境学研究科博士後期課程人間共生システム専攻心理臨
床学コースを単位取得満期退学。同年 4 月から 1 年間,九州
大学助手。▼2002 年 4 月,大分県立芸術文化短期大学に着
任。現在,校務として学生相談など担当している。
平成 22 年度大学等産学官連携自立化促進プログラム / 地域連携研究コンソーシアム大分 / 取材時期 平成 22 年 5 月