4月 - 在ボツワナ日本国大使館

Botswana Medical Information
2016 年 4 月
【医療トピックス】
○口蹄疫と食肉の安全
首都ハボロネのあるボツワナ南部は、今まで牛・豚などの病気である口蹄疫の危険性が
無い地区とされていました。4月上旬に野生のバッファローが、首都ハボロネや牛肉産業
の拠点で食肉処理場があるロバツェを含む地区に、侵入したため、口蹄疫が持ち込まれた
可能性が疑われました。その後の検査で、バッファローは口蹄疫陰性の結果でした。しか
し、口蹄疫の拡大を防ぐ防疫のため、該当地区の家畜の移動が制限され、ロバツェの食肉
処理場への搬入も停止され、一時的に牛肉の流通量が低下し、店頭に並ばなくなる事態が
生じました。またボツワナから EU への牛肉輸出も停止されました。
今回の出来事で、当地の食肉の安全に関して不安を持った人が複数人いたため、口蹄疫
に関して情報提供を行います。
口蹄疫は牛や豚を含む偶蹄目(蹄が偶数に分かれている)の動物のウイルス性疾患で、
非常に感染力が強い病気です。英語でも Foot and Mouth Disease(FMD)といい、発病する
と口の中や蹄などに痛みを伴う水疱ができます。成獣は死ぬことはあまりありませんが、
その痛みのため餌が食べられない、歩けない等のため、体重が減る、牛乳が出せなくなる
などが生じます。成獣と異なり、幼獣は死亡することも多く、また妊娠中に発病すると流
産する危険性が有ります。口蹄疫が発生すると、このような経済的損失が発生します。
右図(農林水産省ホームページより)のように、
口蹄疫はアジアやアフリカで広く見られます。日
本は清浄国に分類され、島国であるおかげで口蹄
疫の進入を防ぎやすいのですが、それでも 2000
年、2010 年に九州宮崎を中心に発生し、大量の
殺処分が行われ、マスコミでも大きく報道されま
した。今回問題になったバッファローなどの野生
動物も口蹄疫に罹患するため、野生動物の豊富な
大陸にある国では清浄化が難しいとされていま
す。発生した時の対策のひとつは、家畜の移動禁
止と人や車による感染伝播の防止で、今回のボツワナ政府の対応もこのためです。
口蹄疫は通常は人に感染しない病気で、食肉や乳製品から人に感染することもありませ
ん。安心してください。
文責:平 昭嘉(在ボツワナ日本国大使館医務官)
【新聞報道】
2016 年 4 月 1 日 Daily News
○マラリアで学生が死亡(チョベ地区)
ボツワナ北部のチョベ地区で、本日までに登録されたマラリア感染 41 例の中に、マラリ
ア関連死が記録されていた。死亡者はナタ・シニアセカンダリースクールの生徒だった。
District Development Committee(DDC)の経済企画官の Kagiso 氏は 41 例のうち 9 例が国
外から来た人であることを報告した。またマラリア対策の室内残留性噴霧(IRS)の追加を、
適用範囲を拡大して行っていると述べた。
チョベ地区議会議長 Mwanota 氏は、IRS の実施割合は惨憺たる結果で、昨年の噴霧時期
(10 月~12 月)に 46%しか実施されていないと述べた。「9963 室の消毒を予定していた
が、住民の拒否のため 4555 室で実施できなかった。ボツワナは 2018 年までにマラリアを
根絶することを目標にしているが、そのためには IRS 実施率を毎年 90%以上にする必要が
ある。」と述べた。
医務官からの解説:
マラリアの原因であるマラリア原虫は、ハマダラカが刺すことで人に感染します。蚊の
唾液とともに体内に侵入したマラリア原虫は、肝臓に到達し、肝細胞内で増殖します。増
殖したマラリア原虫は血液中の赤血球内に侵入し、成熟後、赤血球を破壊して外に出てき
ます。マラリア原虫には複数の種類がありますが、悪性度が高いのは熱帯熱マラリアです。
ボツワナには主に熱帯熱マラリアが分布し、乾燥の程度が強い南部ではあまり発生が見
られません。WHO の統計では、ボツワナにおける 2014 年のマラリアによる死亡者数は 24
名となっています。WHO は、ボツワナは、今後、マラリア根絶可能な国のひとつとしてい
ます。
マラリア対策として、感染を媒介するハマダラカへの対策が重要です。ハマダラカは吸
血行動時に壁にとまる習性があります。上記 IRS は、室内に噴霧すると壁に殺虫成分が付
着し残留します。そこへ蚊がとまると蚊が死亡します。住居周囲の環境整備とともに、IRS
はマラリアに対抗する重要な手段とされています。
2016 年 4 月 7 日 Daily News
○象に襲われ死亡したことが疑われる男性
象が多いことで知られるチョベ地区のカサネで、47 歳男性が死亡しているのが発見され、
死亡原因は象に襲われたと考えられている。チョベ地区では、毎年、象に襲われて死亡者
が出ているが、2014 年から 5 名が記録されている。警察はチョベ地区を、特に夜間に歩く
ときは注意するように呼びかけている。
2016 年 4 月 15 日 Mmegi
○人免疫不全ウイルス(HIV)対策プログラムの推進で HIV 抑制率が 96%
以前からボツワナで調査研究を行っているアメリカのハーバード大による、医学雑誌ラ
ンセットに掲載された論文で、ボツワナの HIV 検査・治療・HIV 抑制率が優れていること
が報告された。このことは HIV 罹患率の高く、医療資源に制約のある国でも、強い HIV 対
策プログラムを実施することでよい結果を得ることができることを示している。国連合同
エイズ計画(UNAIDS)は 2020 年までに、人口の 90%に HIV 検査を行い自らの状態を知
らせ、陽性者の 90%に抗レトロウイルス薬療法(ART)で治療を行い、その 90%にウイル
ス抑制を達成する計画を行っている。ボツワナで 2013 年 10 月から 2015 年 11 月まで行わ
れた HIV 対策キャンペーンで、12610 名に対し HIV 検査を施行し、陽性者は 3596 名
(29%)
で、この陽性者のうち 2995 名(83.3%)は以前から自らの HIV の状態を知っていた。また
自らの HIV の状態を知っていた人のうち 2617 名は ART をすでに受けていた。さらに、
ART を受けている人のうち 96.5%がウイルスの抑制を達成していた。
2016 年 4 月 25 日 Daily News
○ボツワナの血友病
世界血友病デーに、プリンセスマリーナ病院(PMH)の小児の血液病と小児癌の部門の
長である Anderson 氏が、血友病に関して講演を行った。ボツワナの血友病に対する標準的
な治療・ケアはレベルが高く、現在、PMH にあるセンターで小児から成人までを含む 50
名に対応している。診断されていない患者がまだいると思われるので(血友病は 10 万人に
10 人といわれており、ボツワナの人口からすると 200 名以上の患者が想定できる)、血友
病に関する知識を啓蒙するとともに、疑わしい症状があるときは受診を勧めた。
医務官からの解説:
血友病は遺伝性の病気で、出血を止めるための凝固因子という成分の一部を持たないた
め、出血が止まりにくくなります。性別を規定する性染色体のうち、X 染色体に問題の遺伝
子があるため、伴性遺伝という形式を取り、男性患者がほとんどです。遺伝子突然変異で
発症する人もいるため、親兄弟姉妹に血友病患者がいない場合もあります。第Ⅷ凝固因子
の障害による血友病 A と第Ⅸ凝固因子の障害による血友病 B があり、2011 年の調査では、
日本の血友病 A 患者数 4475 人(男性 4446 人、女性 29 人)
、血友病 B 患者数 971 人(男
性 958 人、女性 13 人)となっています。
2016 年 4 月 27 日 Mmegi
○不必要なレントゲン検査に警告
保健省主催のレントゲン検査に関するワークショップで、プリンセスマリーナ病院の放
射線部門長 Tabengwa 氏は不必要なレントゲン検査に警鐘を鳴らした。その原因として医
療関係者への正しい指導と知識の欠如が原因と述べた。放射線被曝の害を医療関係者・患
者に啓蒙する必要性や、レントゲン機器のオーバーワークによる破損で生じる経済的損失
にも言及した。また放射線科専門医の不足も危機的状況であると述べた(ボツワナ最大の
公立病院であるプリンセスマリーナ病院で2名)
。
文責:平 昭嘉(在ボツワナ日本国大使館医務官)