富 松 良 夫 賞 平 成 二 十 六 年 度 第 五 回 都 城 市 教 育 委 員 会 入 選 作 品 集 創 作 詩 コ ン ク ー ル 主 催 - 0 - 【一般】 【児童】 *講評・総評 上村由美子 ・・4 ・・3 次 松元詩歩子 ・・5 目 ・・1 久子 ・・6 該当なし 「復路」 福元 幸一 ・・7 金賞 「ルフラン」 倉山 希実 ・・8 ・・2 「旅立ち」 西 はな 加奈 「藤棚」 木下 ・・9 﨑山 「風」 西郷隆太郎 ・・ 「躓く朝」 「舟」 湯池 ・・ 銀賞 「枝木」 大浦銀次郎 ・・ 銅賞 金賞 「心」 春花 ・・ 銅賞 佳作 銀賞 「すいぞくかんのいるか」 山内 晃希 桃愛 「ペタペタペタ」 西薗 佳作 「バント」 ・・ 辰雄 ・・ 愛依莉 西 大重 「わたしのお兄ちゃん」 審査委員長 14 13 12 11 10 16 - 1 - 碕 【一般の部】 銀賞 躓く朝 﨑山 加奈 だれにも見えない世界がある どのくらい経つのだろう 見えない世界との隙間に 今朝も足を引っ掛けた 朝から蒸し暑く セミは庭の楠に抱かれ激しく最期の歌を歌う 届いた訃報 今日またひとり 記憶の中から出られなくなった人がいる 汚れたテーブルを拭く 流し台には二人分の食器 何度も何度も記憶のドアを開け閉めしながら うろたえながらもいつものように トーストを頬張りコーヒーをすする 傾いたのは椅子の足か 受け入れられない常識のモノサシか 洗濯物を干す キリのない日常はどんな日も 躓くのはその世界との境 かつてはそこに居心地の良い椅子があった いつからかカタカタ音を立てる 見上げれば真夏の陽射し セミたちはあらん限りの力で羽を震わす 回り灯籠のようにせわしい 痛む右足を引き摺る 香の煙はセミの声に混じり天へと昇っていく 昇れない私はまたしても躓き 仏壇の燈明を点して手を合わす どこからも答えは出て来ないのに いつ果てても良いのだと私の聴覚を揺する 身の回りの親しい人がひとり またひとりと 二度と会えない世界へと旅立っていく 記憶の中に住む人々が 記憶の中にしか住めなくなって 2 碕 銀賞 人生の復路にも 小さな音に耳を傾け 小さな光に目を凝らし 小さな歩幅で今日を踏みしめる いまだ抱き続ける卵ほどの夢があるなら 私はその温もりを信じよう いつの間に通り過ぎたのだろう 速度を緩めた分だけ広がった世界に 良い事が一つもないはずはない 復路 人生の折り返し地点を まだまだ長い人生と高をくくっていた頃 上村 由美子 一気に通り過ぎたのかもしれない 遅れて来る人よ 見るがいい たとえ それが夕焼けの空でも 誰が見ても もう走っているとは思えない だから私は 私のお気に入りの靴が どこかに脱ぎ捨てられているだろう 分厚くなった足裏は 小さな棘など気にする事もなく 不格好に もう走っているとは言わない 誰が前にいるとか 誰が後ろにいるとか 誰も言わなくなったから 私は心地よく歩むことが出来る 堂々と そしてこの復路を 味わうように歩みたいのだ 私の未来には 夢と呼べるほどの大きな望みはない その代わりに背負う物もない 諦めのような 納得のような 3 銅賞 「ルフラン」 松元 詩歩子 わからないままに詩も運命も人生も 漂う波となる かつて海の都に逝った人々のように 真っ黒い得体の知れぬモノに 迫り来る大嵐 美辞麗句 それの中には何がある 同じ詩のパターンのルフランの波がくる 顔が霞む日には 秘められている かつてこの世を生きていた人の思いが 言葉は人の繰り返し 翻弄されてしまうのが人の常なのだろうか かつての思いのかけらが 誰かが空を見上げているのだろう 人の媚を売って生まれた詩は 狭苦しく並んでは吹き飛ばされいく 言葉は時として透明なナイフになる ルフランであるけれども 思いは告げられない 誰かがそれを一度は使っている 一度も私のモノとは化しはしない 心の襞を伝えることが出来ず ありきたりでいつも終わる 思いの波が押し寄せて 胸のつまりをルフランである言葉から 何を表していいのだろう 4 銅賞 旅立ち 福元 久子 潮騒の音を聴いている わたしの魂を惹きつれ わたしの魂は旅立つ 海なのか 空なのか 空なのか 海なのか どこまでも青く澄んだ 高く高く高く 深く深く深く 青い地球は遠ざかる 深い 深い 深い空 なぜか 空が海に見える日 海底に住んでいるわたし 暗黒と静寂が支配する 小さな小さな 宝石 山の上の空は 果てしなき無音の世界 どこからか月影のような 決して海ではないのに 山の上の空が海に見える なぜか わたしは魚 一条の光がわたしを誘う 淡い光が射して 浜辺で拾った貝殻は わたしはその道をめざす いざな 過ぎ去った命の形見 色も形も なぜこんなに ゼロ 光に満ちた 0の世界 それは 永遠のようで 精緻な文様を残すのか 壁に飾った貝殻は 一瞬のようでもあった すべてが溶け合っていく 山の上の空を見上げ 5 佳作 藤棚 初霜の声と共に落葉を始めると 不揃いの添え棒で 継ぎ足してきた姿があらわになり 密かな自慢のぶんだけ それでも下から見る裸の枝たちは 倉山 幸一 手作りで拡げてきた 冬色の画用紙に幼い子が引いた 落ち着かない視線を向けることになる 藤棚との一年は 三月半ば クレヨンの線のように 伸びるままに 日に日にふくらむ花芽を 寒さに息をひそめながらも どうどうと横たわっている。 毎朝見上げる時から始まる 桜の話題が賑やかな中 しだれながら咲く花は 祝いの会場に集まった 娘たちのかんざしにも似て 楽しげな話声まで聞こえてくる やがて幾重にも誇る葉は 夏の庭に有り難い日陰を落とし 新芽の枝は 緑の噴水のように 棚のあちこちから噴き上がる 6 佳作 風 西 コスモスの上を吹き抜ける風が 冬の循環を始めよと言った 希実 万物があるがままに千変万化する自由の中 で、人だけが息苦しいと感じた なぜなら弱くて傷つきやすい「命」が無力 で、強いものは暴力であり、攻撃であり 権力であり、憎しみであると問いかけて しまったからだ 人の心にだけ吹く、その冷たい風にあたる まいと山の頂の塔に登り、世界が怖れに 満ちているという理由で呼吸を止めていた 愛される存在でありたいと願う心から私が 生じ、愛される存在に足りないという無念 から私が始まった 宇宙風よ 天地を創造し万物に命を与えたのか そして心を持たせ、悩ませ、虚無の意味を 教えたのか 風は命を無力と感じる私を笑った おののきつつもその肺を無限の大気で満た せと言った 太陽のフレアのひとふきで生命はたやすく 息絶え、それを残酷というならば 生命が永遠であれと願う私がいるからだ 宇宙のわずか一握りの土くれで作られた肉 体を永遠であれと頼む私がいるからだ だがいつか知るに違いない すべてはおのれから吹いてくる 我こそは命を循環し、永遠に絶えることの ない銀河を吹き渡る風 7 【児 童 の部】 金賞 「 舟」 真っ暗な海を迷わず渡れるように。 とてもとてもにぎやかな中で、静かに静かに 目を閉じ手を合わせる 8 今町小 四年 木下 はな ご先祖様がさみしくないように、 舟の横をはなれない。 ヒューバーン、ヒューバーン あちらこちらで花火が上がっている 7月 日 おじいちゃんが天国へ行って初めての お盆 おじいちゃんの家には、私よりも大き な舟が来ていた。 少しの間里帰りしていたご先祖様達と、 この舟に乗ってまた天国へもどって行 くのだろう。 たくさんの花火とたくさんの人に見送 られ、舟はでる。 妙法丸とついた舟はとてもキレイ。 ろうそくの入ったちょうちんに、 ごうかな家がならぶ 妹や弟達がさわりたくてさわりたくて 15 銀賞 枝木 山田中 一年 西郷 隆太郎 枝木さん君って人は 馬鹿だなあ 折れることで新しいセカイが まっているとでも思っているのか? 君たちはそのコンクリートの 地面が新しいセカイなのだと思ってるの? 毎日ふまれて短くなり 暑いコンクリートの上で 一日中ねころんでいる人生 そんなんでいいの? 木にくっついていたらそのうち 美しい花になれるのに でも君は一番に自らの意思で ゴールテープを切るように落ちていった まだ折れていない枝木は上から からかうように見ている やがて春が来て上にいた枝木は キレイな桜の花の木となっていた 枝木さん君って人は馬鹿だなあ 9 銀賞 心 川東小 四年 湯地 桃愛 心 いつもいっしょ おちこんでもいっしょ 大事な物 自分のことが分かってる 心 みんなにもある 全部心にしまってる いやなことうれしいこと だれよりも分かってるいい心 心 お母さんにおこられた それを全部心にそうだん あやまったらとささやく心 あやまったら心のおかげで なかなおり 心 みんなに聞いた なぜ心があるのと みんなが笑った 神様の送り物だと 10 銅賞 すいぞくかんのいるか 今町小 二年 おおうら ぎんじろう いるかはおよぐ。 いるかは、ジャンプする。 いるかは、あたまがいい。 いるかは、はがじょうぶ いるかは、うみにいる。 いるかは、 たくさんなかまがいる。 たのしそうにおよいでいる。 けど、 ほんとうはうみにすんでいる。 だから、すこしさみしそう。 でも、 いるかのショーを たのしみにしている人は たくさんいる。 いるかは、何をかんがえて およいでいるの? ぼくは、 いるかのほんとうの気持ちを しりたい。 11 銅賞 ペタペタペタ ペタペタペタ わたしの足音 ペタペタペタ かわいい音だね 今町小 三年 山内 春花 トコトコペンペン おかあちゃんの足音 トコトコペンペン ふしぎな音だね。 ドンドンドコドコ おとうちゃんの足音 ドンドンドコドコ たいこみたい トントンペチャペチャ おねえちゃんの足音 トントンペチャペチャ おもしろい音だね。 12 佳作 バント 山田中 二年 西薗 晃希 ホームランや タイムリーを打った人だけ ヒーローのように見えるけど 自分をぎせいにしてでも ランナーを進める大切な役割 バンド あまり目立たなくても 地味でも 一点をとったタイムリーヒットの裏には ヒットで点の入る塁に 自分をぎせいにし進める バント チームが勝利するために 僕はバントをする 13 佳作 わたしのお兄ちゃん 川東小 四年 西 愛依莉 どうしてだろう、お兄ちゃんとけんかをし た。なのにどうして楽しいの どうしてだろう、お兄ちゃんに、たたかれた なのにどうしてうれしいの どうしてだろう、お兄ちゃんにわたしのおや つを食べられた なのにどうしておこらないの どうしてだろう、何をされてもうれしいな 人にされるとうれしくない どうしてだろうお兄ちゃんだけ、何をされ てもうれしいな どうしてだろう、お兄ちゃんが、見てくれる とうれしいな お兄ちゃんだから、うれしいな 14 講 評 ・ 総 評 【一般の部】 賞 金賞 題名 氏名 該当なし 該当なし 講評 該当なし 生と死の狭間で揺れ動く複雑な心情を鋭い感覚で表現。 碕 﨑山 加奈 躓く朝 「躓く」という象徴性を帯びた言葉の繰り返しが想像力 を刺激し、作品に広がりと深みを出している。特に「躓 き」ながら「だれにも見えない世界」とどう関わってい くのか興味をそそられる。 銀賞 わかりやすく説得力のある作。過去や人目を気にせず前 復路 上村由美子 向きに生きようという達観の境地を詩的に表現。対句や 同音の繰り返しなどでリズミカルに展開させ、最終連の 詩情の高揚に繋げている。 言葉の性質をよく把握し、洗練された感覚と深い洞察 力、巧みな比喩で言葉の本質に深く切り込んでいる。特 ルフラン 松元詩歩子 に言葉の持つ矛盾や一面性に視点を向け、事の本質や真 実を正しく伝達することの難しさを強調している。 銅賞 ユニークな発想と豊かな想像力で宇宙空間を自由に飛 旅立ち 福元 久子 翔するというスケールの大きな作。時空を超えた魂の旅 はやがて宇宙と渾然一体となり、無に帰す。はてしなく 広がる空間に残る深い余韻が印象的である。 藤に対する並々ならぬ思い入れから生まれた作のよう 藤棚 倉山 幸一 だ。季節ごとに変容していく藤を愛情深く観察し、斬新 な感覚と巧みな比喩で藤の魅力をあますところなく表 現している。 佳作 観念的な言葉の多様で、難解な印象を与えるが、哲学的 な問いを含んだ作。住みにくい世の中で傷つき悩みなが 風 西 希実 ら必死に己に向かって言い聞かせようとしている痛々 しい心情が読み取れる。最後は自身の内部に目を向け、 永遠に憧れながら、循環する命を見つめている。 《総評》本年度は、入選しなかった作品も含めてレベルの高い作品が多かった。しかし、 ずば抜けて優れた作品がなく金賞を省いた。入選作はいずれも、自分の生き方を深く見つ め、その中からテーマを設定していた。また、独自の視点で自然や宇宙を捉えようとする 作品も目立った。入選しなかった作の中にも繊細で心惹かれるものもあった。是非次回も 挑戦してほしい。既成概念に囚われると物事の真の姿が見えなくなるので気をつけてほし い。また、常套句は避け、自分の中で十分咀嚼した言葉を使ってほしい。来年度もまた瑞 瑞しい作品に出会えることを切に願っている。 - 15 - 【児童生徒の部】 賞 題名 氏名 講評 初盆の間、おじいちゃんを心からあたたかく迎え入れて いる、家族みんなの麗しい雰囲気が、簡潔な文章の中に 大変よく表現されています。妹、弟の気持ち、ユーモア があって臨場感があります。特に最後の二行の、にぎや 金賞 舟 木下 はな かさと、静けさの、対比の表現はとても光っています。 仏様への合掌には尊敬の心がこもっていて、いたく感動 いたしました。法名のついた壮麗な舟のおじいちゃん は、きっと喜んで天国へ帰られたとおもいます。この詩 は、ある豊かな温かいものに包まれているような詩です ね。 親木の母体から、自分の意思で離れていった枝木との対 話、枝木には愚弄されても生きる強い心を感じますね。 親木に残った枝木たちは春を謳歌していますが、自分の 枝木 西郷 隆太郎 意志を通すには強い信念が必要ですね。この詩(寓話) は人の心に思いが寄せられるところがよいですね。これ はまた、一つの生き方を暗示しています。 「葉っぱのフレディ」を読んでいるような気がしまし た。 銀賞 心って不思議なものですね。その人の働きのもとになっ ているもので、自分のことは分かっていても、相手の心 は何を思っているか、当てることはできません。そんな 心 湯地 桃愛 相手の心と自分の心とが一つになったら素晴らしいで すね。自分の心を見つめ、相談にのってくれる心がある とよいですね。悲しいときは励ましてくれる心を持ちた いですね。心って、本当にこれは、神様からの贈りもの だと思います。 すいぞくかんの、いるかは、人に仕込まれた芸をたくさ んしてみせるから、きっと、あたまがいいのでしょうね。 ほんとうは、広い広い海で、たくさんのともだちや、な 銅賞 すいぞくか 大浦 んのいるか 銀次郎 かまと、泳ぎたいと思っているのかもしれませんね。さ みしくみえるのは、そのせいかもしれません。ほんとう の、いるかの気持ちを知りたいと思うのは、ぎんじろう 君にせいぶつをあいするやさしい心があるからだとお もいます。 - 16 - 家族一人一人の性格の違いから生ずる足音のリズムを ペタペタぺ 山内 タ きいて、足音の主を言い当てられるのは、素晴らしい聴 春花 覚力だとおもいます。各人の足音を写した語(擬声語)・・ じぶんの、おかあちゃんの、おとうちゃんの、おねえち ゃんの・・大変ユーモラスで愉快な詩ができました。 銅賞 ホームランを誰しも打ちたいのに、チームの和で勝利に 導くために、バントする。責任感と、我慢する気持ちが、 バント 西薗 晃希 大変よく表現されています。これは、心をひきつけられ る心強い、心のホームランです。ナウな中学生の心意気 を感じました。 兄弟姉妹の絆は、親子の絆と同じく、目には見えない深 佳作 わたしのお 西 兄ちゃん いもので結ばれていると思います。表面はけんかして 愛依莉 も、どこか許しているお兄ちゃんがある。あまえられる お兄ちゃんがいて、うらやましいですね。ほのぼのとし た兄弟愛を感じます。 《総評》応募数は昨年が余り多かったのか、今年はやや減少していた。 テーマについては、昨年のような片寄りはなく、視野の広がりのあることを感じた。 大変よいことだと思う。 表現のあり方には、詩的な表現というよりも、作文の型が多かった。 これは、学習指導においても一考すべきことかと思われた。 基本的なことだが、ことばは伝達されるためには、鮮明に筆記されることが望まれる。 よいテーマをもちながらも、観察力、想像力、表現力にいま一歩の突込みがなく作品とし て惜しまれるものがあった。 入選次点の作品の中には、秀れたものも多くあり、次回への挑戦を期待したい。 審査委員長 富松良夫顕彰委員会会長 発 行 年 編 集 ・発 行 - 17 - 大 重 辰 雄 平成26年 11 月 15日 都城市立図書館
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