Justin Bieber

Justin Bieber's "Believe" World Tour
(“FOH on-line” Written by Written by Blair Jackson)
19 歳のカナダ人ポップシンガーJustin Bieber の事を、自らを『ビリーバー』と呼ぶ熱烈なファン以外
にも知らない人はいないだろう。2009 年にセンセーショナルなデビューを果たした彼は社会現象をひ
きおこす。発売したアルバムはこれまでに数百万枚ものセールスを獲得。2010 年から 2011 年 10
月まで初のワールドツアーを行い、アメリカ、ヨーロッパ、アジア、オーストラリア、メキシコ、南アメリカ
を回った。2012 年からは新たに Believe ツアーを開始。このツアーはアメリカ、カナダ、ヨーロッパ、
中央・南アメリカ、アジア、そして中東や南アフリカなどを回る予定で 2013 年 11 月まで続くという。ま
さにひっきりなし、Bieb に敵なしだ!
Justin Bieber の Believe ツアー(タイトルは 2012 年の同名アルバムから名づけられた)は 2013
年夏からアメリカのアリーナクラスの会場をメインに(6 月最終週に南カリフォルニアで開始)、山を越
えながら西へ移動し北東へ、その後カナダの都市も回り、東方面、フロリダまで下った。
圧倒的なステージ
Justin のツアーでは巨大なデッキステージが 3 つ作られており、これを手掛けているのは Clair
Global だ。Justin が歌うのは大体一番下のデッキ(ここからも客席に花道が伸びている)で、12 人
のダンサーが彼を取り囲む。2 番目のデッキには DJ とコーラス 3 名がおり、1 番上のデッキでは
Justin が簡単なドラムソロが行えるようになっている(ドラムの腕前は大したもので、他にアコースティ
ックギターやグランドピアノも演奏するが、show のほとんどはボーカルとダンスに徹している)。ステ
ージには豊富な照明、様々なサイズの LED スクリーン、パイロなどが組み込まれ、リフトでの登場シ
ーンや、華麗な羽を付けた Justin が空中に舞い上がる場面もあるという。90 分の show は演出もさ
ることながらサウンド面も満足できる仕上がりとなっている。圧倒的に若い女性が多い客席からは黄
色い歓声、叫び声が止むことはない。
2 回目の小休止
現ツアーのバンドメンバーやサウンドチームはほとんど前回の My World ツアーと変わっていない。
それが何か国も回るツアーをトラブルなく続けている秘訣だろう。
その一人、2010~2011 年のツアーでも FOH エンジニアを務めた Gordon Mack に話を伺った。
Gordon はこれまでに D’Angelo、Erykah Badu、Chaka Kahn、Madonna、Prince などをミキシ
ングした経験を持つベテランエンジニアだ。
Gordon: 非常に造作ないツアーなのです。今では卓で全て整えられているし、いつもスムーズに事
が運びます。さらに、このツアーのスタッフは全員本物のプロです。最強のチームだと思
います。
Bieber のツアーにおいて、Gordon がこれまでのミキシングアプローチから変えたところはあったの
だろうか?
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Gordon: John Legend ツアーの時は、ホールからスタートし、その後アリーナ、スタジアムへと段
階を踏むことができましたが、Justin の場合、最初から大きな会場だという事を考慮しな
ければなりませんでした。しかしながら、ミキシングにおいて変わったことは何もしていま
せん。実際音を聞いてみて、バンドが何を求めているか考え、それを表現するだけです。
目を閉じて、一人一人の音を配置するべき場所に配置し、確実に全員の音が聞こえるよ
うにします。ホールだろうがアリーナだろうが同じです。本当のことを言えば、私はあまり
ステージを見ていないのです。アーティストがそこらじゅうにいる時は別ですが。Justin に
限ってはいつも動いているんですよ。ただ、私自身はバンドメンバーの方を中心に聞いて
います。目を彼らに向ける必要はありません。目を閉じてしまえばより耳に集中でき、そ
の方が良く聞こえるのです。
Gordon の卓は Avid VENUE Profile。Gordon 的には『インプットの数でいえば大したことはない』
という。レイヤーが 2 つか 3 つで、ほとんどがドラムだそうだ。インプットリストを見ると、32ch がドラム
とパーカッションのトリガーに使われていた。22ch が Melvin Baldwin の大きなセットで、Justin 用
が 10ch だった。
Gordon: Melly のドラムにはキックが 2 つあり、マイク 2 本(内側に Shure Beta 91、外側に Beta
52)が使われています。スネアマイクも 5 本で、メインスネアとセカンドサイドのスネアが
ダブルになっています。(トップに Heil Sound PR20、その下に Shure SM57) その他、
3rd HIGH スネア(上に 57)、2x Hi-Hat、サイドにも 1 本(Shure SM81)、5x Tom(3
ラック、2 フロアで、全て Sennheiser e904)、2x Overhead(Audio Technica
AT4050)、ride(SM81)が使われています。トリガーには Radial JDI を使っています。
パッドのレベルは以前から Melly が処理しており、これもスムーズに行えています。
長年リードギタリスト/音楽ディレクターを務める Dan Kanter(show でもあちこちでスポットライトが
当たる)のギター(主にレスポール)をアンプで捕えるのは Heil PR30。アコースティックギターには
Shure UR1 ワイヤレスを使っている。(Justin のアコギも同様) Wizard Jones のキーボードは
Radial J48 アクティブダイレクトと JDI パッシブダイレクトボックスを通して Profile へ。そして、ツアー
の常連 Bernard Harvey から初夏頃にバトンを受け取った Dave Parks のベースにも Radial J48
DI を使用。バンドメンバーはこの 4 名と DJ の Tay James、コーラス 3 名で、Crown 311 ヘッドセ
ットマイク(Shure UR1 トランスミッターを通して)を使用している。
Justin のメインマイクに使われているのも Crown 311。モニターエンジニアの Alex MacLeod はこ
のマイクについて、Justin が激しいダンスを披露してる時でもいい音がするマイクだと絶賛する。
Alex:
理由としては、外部のノイズをシャットアウトする機能が素晴らしいこと、また、口元から離
れていかない作りになっていることが挙げられます。夜の時間帯が多い show なのです
が、女性の悲鳴のような歓声にも負けないマイクですよ。
この他、Heil RC-22 カプセル、Heil Fin を 1 曲のために使用している。これはダイナミックマイクで、
内部に 3 つの LED が入っており、ファンタム電源を入れると内側から光るそうだ。
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Alex:
Gordon が様々なカプセルを試した結果、RC-22 に落ち着いたようなので、私も引き継
いだのです。今の所満足していますよ。Shure 58 や 57 とは違って 311 と同じく周りの
声などを拾わないので。何とかして Justin が手でマイクを覆わないよう四苦八苦した時
期もあったのですが、こういったカプセルだとあまり変わらないので、私たちにとっては良
かったです。Fin は Shure 55(エルビスのマイク)と似ているのですが、もう少し艶があっ
てマイクというよりキャデラックのエンブレムみたいなんですよ。あと、赤く光りますしね。
それをワイヤレスにするための唯一の方法は XLR プラグイン トランスミッターを使うこと
だけでした。(Lectrosonics HM)
バンドの人数が少ないこと、そして観客はアルバムのサウンドに近い音楽を求めていることなどを考
慮すると、Pro Tools からのトラックを使わないわけにはいかない。バンドが演奏できないドラムのル
ープなど約 12ch が割り当てられているという。それでもこの show は録音などではなく、ミュージシャ
ンが夜な夜な必死で演奏しているのは間違いない。
シグナルプロセッサーに関して、Gordon は外付け機材を避け、Profile のものにほぼ頼っている。
Gordon: あと、コーラス(リードボーカル用)が欲しいので Waves 9 を使っています。コーラス以外
の目的では使っていないのですが。他には、卓に入る時に D-Verb を使っているくらいで
す。
Gordon: 機材はたくさんあると間違った方向に行くこともあるので、最小限にするのが好きです。私
にとっては仕事ができなくならないだけの機材があるのがベストです。バンドから与えら
れるものが良ければ私がしなければならないことは特にありません。バンドメンバーはツ
アー制作前からいい仕事をしており、ツアーが始まってからはそれぞれの音を作り上げて
いましたので、show の間、私が彼らにしてあげられる事はあまりありませんでした。
モニターアイランド
モニターアイランド
Believe ツアーからモニターエンジニアを務める Alex MacLeod は、これまで Frankie Jay、Neo
などの R&B やヒップホップを中心にミキシングした経験を持つ。彼は各会場で PA がフライングされた
後、『モニターアイランド』(と彼が呼んでいる)の出来上がっていく光景を眺めているという。
Alex:
ステージが巨大で照明機材のセッティングにすごく時間がかかるので、床にスペースを発
見するやいなや、6x12ft のモニタースペース(DiGiCo SD10 などが載る)をライザーの
上に作るんです。その後、上手ダウンステージ付近へ転がしていきます。モニターアイラ
ンドはメインデッキから 3ft ほど下がった場所にあるので、ステージがよく見渡せますし、
いつでも Justin や Dan Kanter を視界に入れることができます。ベースの Dave は少し
見えるくらいですが。
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Alex:
現在のアウトプットは 41 です。ハードワイヤー ~ イヤモニ、全てステレオで合計 17 イ
ヤーミックスになります。さらにウェッジセンドもいくつかあります。DJ の Tay やドラムの
Melly はウェッジとイヤモニ両方使っています。ドラムサブは Clair BT-218、その上に
SRM ウェッジ。Dave もイヤモニをしてウェッジを 1 本、自分の前に置いて使っています。
Show の最後 2 曲は Justin がイヤモニをしないのでダウンステージに SRM ウェッジを
置いて、サイドフィルも使っています。ステージ上のメンバーほぼ全員が Ultimate Ears
UE18、Justin だけが UE11 です。ボーカリストには 11 の方が良い気がします。また、コ
ーラス 3 名のうち 2 名は自身が持ち込んできた JH Audio JH16 で、それから変えたく
ないとのことでした。
このようなツアーではトークバックが 1 つでは足りないのではないだろうか…
Alex:
1 つはスタッフ用で、私のモニターテク達もこれでやり取りしています。バックラインのスタ
ッフは各アーティストの後ろにあるエリアにいるので私からは全く見えません。アーティス
トも全員は見えません。また、Justin と直接主な調整を行う ProTools オペレーターも視
界に入れることはできません。水が欲しい、ミックスの変更、などあらゆる事柄のメモをス
テージ上で彼から渡されることも少なくありません。卓のボタンを押せば特定の人と話せ
るトークバックシステムが他にももう 1 つあります。
Alex:
ご想像通り、RF に関しては問題が発生することもあります。数が多いですからね。トラン
スミッターが 9ch、イヤモニが 16ch… その他にも、16ch のワイヤレスインカムを導入し、
これが次の課題となっています。ユニットは 5 つ、ベルトパックが 20ch… RF 担当の
Niall Slevin がアレンジするワイヤレスは全部で 76ch にも上ります。Niall は周波数を
アレンジするのに毎回 6 時間ほど費やし、その後 2、3 時間かけて私たちが実際使って調
節します。
システム アプローチ
ツアーサウンドを支えるのは Clair Global の PA。クルーチーフ兼システムエンジニアの Arnie
Hernandez が目を光らせる。Arnie は 90 年代半ばから Showco のスタッフとしてこの業界に入り、
Clair と合併してからも経験を重ねたプロフェッショナルだ。
システムは、メインアレイに片側 14x i-5/i-5b、サイドアレイに 10x i-3、スタッキングで片側 8x
BT-218A サブ、フロントフィルに片側 3x P-2 となっている。
Arnie:
ほとんどの会場で足りないことはない数です。天井が高い LA の Staples などの会場で
は備え付けのシステムやディレイなどを使い、反対に天井が低いヨーロッパの会場では、
ステージが高いのを活かしてキャビネットを減らし、サイドで上のデッキにいる Justin を
狙えるようにします。今の所、うまくいっていると思います。PA のノイズは Smaart Live
の古いバージョンで出しています。
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Arnie:
アンプは Lab.gruppen PLM 20K ですが、素晴らしいアンプだと思います。アンプのネッ
トワークがまだ新しいとされていた 10 年前は、現在の事を想像しがたかったのですが、こ
ういう技術が生まれたことをとても嬉しく思います。Lab.gruppen はこのツアーにぴった
りなアンプですね。
本当の挑戦
1 万 5 千人の若い女性には、ラウドでクリーンなシステムは求められていないのは明らかだろう。しか
し、Justin Bieber のスタッフは show の度に試行錯誤を繰り返していた。
Arnie:
数年前、悲鳴のような女性の歓声のなかミキシングしなければならない状況を経験した
のですが、PA がかき消されミックスもやりにくかった。このツアーではミックスはミックスと
してそのままに、叫びたい女性には叫ばせてあげたい、というスタンスなんです。PA 以上
に叫んでいる人たちに向かってミックスを作ることが目的じゃありませんから。
Gordon: いやー彼女たちの叫び声はすさまじいですよ。ただ、Justin の声に耳をすませたい時や
一緒に歌いたい時は自然にそうしているようです。私自身は耳に心地よい大きさでミック
スしたいと思っていますが、それを超えて実権は握られているようです(笑)
Crew
Sound Company: Clair Bros. Global
FOH Engineer: Gordon Mack
Systems Engineer: Arnie Hernandez
Monitor Engineer: Alex MacLeod
RF Tech: Niall Slevin
Monitor Tech: Joel Merrill
PA Techs: Henry Fury;
Lan Turner
Gear
PA System
Main PA Hang: (14) Clair i5’s and i5B subs/side
Side PA Hang: (10) Clair i3’s/side
Subs: (8) BT-218A/side ground
Front Fills: (3) Clair P-2s/side on ground; (14) i5B subs/side flown
Amplification: Lab.gruppen PLM 20k
FOH
Console: Avid VENUE Profile
Drive: (2) Lake, LM44 digital audio system processors
MON
Console: DiGiCo SD10
Slants: (14) Clair
SRM wedges
IEMs: Ultimate Ears, JH Audio with Shure PSM1000 Transmitters
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