リザーバー動注の基本と実際

IVR マニュアル/ 2004 日本血管造影・ IVR 学会「技術教育セミナー」より:稲葉吉隆
連載 2
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IVR マニュアル/ 2004 日本血管造影・ IVR 学会総会「技術教育セミナー」より・・・・・・・・・・・・・
リザーバー動注の基本と実際
愛知県がんセンター
放射線診断部
稲葉吉隆
はじめに
フローチェック
リザーバー動注療法におけるメンテナンスとして, と
くに肝動注カテーテル・リザーバーシステム留置後の
対応について概説する。このメンテナンスは, 肝動注化
学療法を可能な限り長期間継続するための必須事項で
あり, 基本姿勢としてリザーバー留置後も術者自らが管
理に関わっていくことが望まれる。所謂リザーバーの
入れっぱなしは言語道断であり, 自らが直接管理できな
い場合には, 協力医師, 看護師に対して適切な指導また
は指示をする必要がある。
カテーテル・リザーバーシステムの状況や薬剤分布
について確認するために必須である。DSA と CTA(ま
たは MRA)を組み合わせて行う。DSA のみでは肝内で
の分布状況が十分評価できず, CTA や MRA では血流状
態が分からない。MRA は濃度分解能に優れ, 実際の薬
剤注入速度での微量の造影剤注入でも評価が可能であ
る。肺へのシャントの存在の評価には RI が有用なこと
もある。
定期:システム留置直後, 治療中 2 〜 3 ヵ月毎, 休薬後
の治療再開時に行う。
要時:肝病巣の増大(全体, 部分的)や肝機能悪化を認
めた場合に行う。
緊急:薬剤注入時, 注入後の違和感や疼痛が出現した場
合には直ちに行う。また, 行える体制が必要である。
薬剤動注時の基本
穿刺や用手的注入の感覚をつかんでおくことは重要
であり, 異常発見の手がかりにもなる。
消毒:アルコール, イソジンなどを用いてリザーバー部
の皮膚面を消毒するが, 施設の感染防止規定に準じて行
う。消毒薬に対する過敏症に注意を要する。
穿刺:リザーバーのシリコン製セプタムの損傷を最小
限にするために, 穿刺針はノンコアリング(コアレス)
ニードルを使用する。通常 24 G 針で十分であり, リザ
ーバーのセプタム部皮膚面に対して垂直に, チャンバー
の底に達するまでゆっくり穿刺する。セプタムの劣化
を最小限にするため毎回少しずつずらして穿刺するよ
うに心掛ける。誤穿刺を防止するには, 穿刺時のセプタ
ムを貫通する感覚をつかむことが重要である。
水通し:穿刺後, リザーバー内の通り(開存性)を確認
するために, 生食または蒸留水でフラッシュする。これ
も注入時の手圧での感覚が重要である。抵抗が全くな
い場合はカテーテルとの接続がはずれていることがあ
り, 抵抗が強い時にはカテーテルの屈曲や閉塞, リザー
バーそのものの閉塞が考慮される。リザーバー閉塞の
誘因となるため, 不要に逆血は確認しない。逆血させた
場合は十分に生食または蒸留水でフラッシュする。
薬液注入:用手的注入はゆっくり行い, 過圧しない。薬
液注入ポンプに接続する場合は, 穿刺針との接続部のク
レンメのロック解除を確認する。
穿刺針の固定:持続注入となる場合は, 針先が抜けてこ
ないように, また接続部がはずれないようにテープで固
定する。テープかぶれには注意する。
ヘパリンロック:ヘパリン原液を使用する。休薬時でも
原則として 2 〜 3 週毎に水通しとヘパリンロックを行う。
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フローチェックにて異変が確認された場合の対処
場合によっては, 直接血管造影を行って, 詳細を確認
して対処する。
1. 注入不可, 注入時薬液漏れ
カテーテル損傷や屈曲, リザーバー閉塞の可能性があ
り, リザーバー部の撮影を行い, 状況に応じて, カテー
テル修復やリザーバー交換を行う。皮下でカテーテル
が屈曲している場合はカテーテルを伸ばす方向に牽引
することで注入が容易になることがある。持続注入の
場合はテープ固定を工夫する必要がある。
2. カテーテル移動がない場合の異常
肝動脈が細くなってきた場合や肝動脈の流れが遅く
なってきた場合は休薬を考慮するが, 但し, 病状によっ
ては動注化学療法を続行する。
DSA で肝動脈の一部描出不良となっている場合も休
薬を考慮するが, CTA で全肝への分布が確認されれば,
続行も可である。CTA で肝内分布が不良の場合は肝動
脈以外からの供血路(側副血行路)が関与していること
が想定され, 休薬してその側副血行路の遮断(塞栓)を
考慮する。特に右下横隔動脈が関与することが多い。
側副血行路が長い範囲に及ぶ場合の塞栓には, NBCA
(リピオドールと混合して使用)による塞栓が有用であ
る(図 1)。
肝外血流(副左胃動脈や上十二指腸動脈など)が顕在
化してきた場合も, その肝外への血流路を遮断(塞栓)
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a b c
d e
図 1 肝動脈以外からの供血(32 歳女性,
大腸癌肝転移)
a : フローチェック DSA ;肝動注化学療法開始から7ヵ月経過しているが, 肝
動脈血流は良好に保たれている。
b : フローチェック CTA ; a の直後の CTA であるが, 肝内側区域横隔膜下の
腹側から背側に灌流欠損(分布不良)域を認める。
c : 右下横隔動脈 DSA ;横隔膜下に腫瘍濃染がみられる。
d : 右内胸動脈 DSA ;肝内側区域に一致した濃染を認める。
e : フローチェック CTA ;右下横隔動脈および右内胸動脈からの求肝性供血
路を NBCA −リピオドール混合液で塞栓後, 肝内側区域の病巣にも分布が
回復している。
a b c
図 2 肝外血流の顕在化(86 歳男性, 大腸癌肝転移)
a : フローチェック DSA ;肝動注化学療法開始から 2 ヵ月後。動注後, 右上腹部痛出現。右肝動脈より左下方向へ走
行する血管が顕在化している。
b : 胆管周囲動脈 DSA : a で認められた血管(胆管周囲動脈)を直接造影したところ, 胆膵系への分布がみられた。
c : フローチェック DSA ; b の近位部を NBCA −リピオドール混合液で塞栓後, 肝動注に伴う腹痛は消失した。
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する(図 2)。
肝動脈中枢型閉塞は, 直接血管造影を行って詳細を確
認することが望まれる。フィブリンシースならウロキ
ナーゼの注入が有効なこともある(図 3)。限局性の閉
塞(狭窄)ならばステント留置を考慮してもいいかもし
れない(図 4)。また, 一度カテーテルを抜去してから再
留置を考慮したほうがいい場合もある。
肝動脈中枢型閉塞が解除不能な場合は他治療に移行
せざるを得ない。
3. カテーテル移動あり
留置カテーテルが先進している場合は別経路からの
フックカテーテルで引っ掛けたり, 留置カテーテルその
ものを牽引したりして留置カテーテルを引き戻して, 再
固定する(図 5)。
留置カテーテルの後退が認められる場合, 軽度後退の
み(許容内)ではそのまま継続する。肝動脈描出良好だ
a b
図 3 フィブリンシース?(66 歳男性,
大腸癌肝転移)
a : フローチェック DSA ;カテー
テル留置から 3 年 5 ヵ月経過し
ている。留置カテーテルからの
造影では肝動脈は高度狭窄して
いるようにみえる。
b : 腹腔動脈造影 : 肝動脈は開存し
ており, 血流も良好である。カ
テーテル側孔部にフィブリンシ
ースが生じていた可能性がある。
図 4 肝動脈中枢型閉塞(56 歳男
性, 肝細胞癌)
a : フローチェック DSA ;胃十
二指腸動脈の分岐部で途絶
するように肝動脈閉塞がみ
られる。
b : フローチェック DSA ;総肝
動脈から固有肝動脈移行部
に Palmatz stent 留置後, 肝
動脈血流が回復している。
a b
a b c
図 5 カテーテル先進(44 歳女性, 大腸癌肝転移)
a : フローチェックDSA;肝動注化学療法開始から2ヵ月後, カテーテルが先進しており, 側孔が胃十二指腸動脈内にある。
b : 留置カテーテル位置修正;大腿動脈より挿入したフック型カテーテルにより, 留置カテーテルを引っかけで引き
戻した。
c : フローチェック DSA ;側孔位置を総肝動脈に修正し, 胃十二指腸内で再度固定後, 肝血流の描出は回復している。
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が, 背側膵動脈や脾動脈が描出される場合は, その背側
膵動脈や脾動脈の塞栓を考慮する。
肝動注の維持が不可能な移動では, 肝動脈の開存が確
認されれば, 再留置を行う。
再留置(入れ直し)
肝動注の維持が不可能な留置カテーテルを抜去して,
再留置を行う。
抜去法としては, 鎖骨下動脈経由でカテーテル先端固
定留置法の場合はフックカテーテルで引っ掛けたり, 留
置カテーテルそのものを牽引したりして, カテーテル先
端を大動脈内に引き戻し, バスケット鉗子で把持して,
大腿動脈から引き抜く。カテーテル先端部に付着して
いる血栓, フィブリンに注意する。先端固定部が強固な
場合は, ガイドワイヤーをカテーテル内に通して牽引し
てみる。
再留置経路は, 同じ経路か変更するか検討する。
カテーテル再留置法は, GDA-coil 法後では末梢動脈
留置法か SPA-coil 法に変更する。SPA-coil 法の場合は,
追加の血行変更も必要となる(図 6)。
おわりに
リザーバー動注療法でのメンテナンスは必須であり,
薬剤動注時やフローチェックでの状況の変化を適確に
把握し, ひとつひとつ先送りにせずにその都度対応して
いくことで, 動注化学療法の長期間継続が可能となり得
図 6 カテーテル再留置(50 歳男性, 大腸癌肝転移)
フローチェック DSA : SPA-coil 法によりカテーテル
再留置したが, 肝血流良好である。
る。場合によっては, 躊躇せずに直接血管造影を行って
状況を確認して, 対処することも肝要である。長期継続
により, リザーバー動注療法での奏効率の向上, さらに
は予後延長が期待できるものとなる。
【文献】
リザーバー療法. リザーバー研究会編, 南江堂, 東京,
2003.
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