F-1 フランスの木造建築市場 FCBA木造建築産業部建築担当課長 パトリック・モリニエ ------------------------------------------------------------------------------------1.FCBAの概要 FCBA、フランス木材技術研究所(森林・セルロース・建築木材・家具技術研究所)は1940年 代末に、木材関連産業を強化する目的でつくられた。森林、森林から一次加工された木材、紙、 二次加工の建築、家具、さらにはバイオエネルギーなど、木に関係する全ての関連産業を網羅し ている。350人のスタッフでパリとボルドーに事務所を構え、①技術サポート、②研究、③製品 の認定・評価、④製品の標準化・規格化、⑤広報、の5つのテーマで業務を展開している。 機械、物理、生物、化学の4つの研究所がある。機械研究所では、ボードや混合材の評価、組 み立てられた材料の評価などを行っており、建物の低申請の試験を1年前から研究している。物 理研究所では、窓やドアなどの建具について雨風の試験、壁、天井、床の耐火試験を行っている。 2007年から、シネル・ボア・パートナー(Syner Bois Partners)という名前でCSTB、フラン ス建築科学技術センターと木についての共同研究を行っており、今回の団員の4名がこのメンバ ーである。 2.フランスの林業 フランスの国土に対する森林面積の割合は30%でヨーロッパの国の中でも4番目に多い。森林 は、建築で使う用材、産業で使う加工材、燃料として使用するものの3つの分野で使われている。 フランスの森林は増えているが利用率は森林の伸びより少ない。 フランスにおける、家具、パルプ、建材の輸出は5%以下である。貿易収支は60億ユーロの赤 字であり、エネルギーの輸入が多く、その次に多く輸入しているのが木である。これは資源でも あるので、政府は2、3年前から正常化したい意向である。フランスの森林の大半は広葉樹で、針 葉樹林が多い地方はアキテーヌ地方だけである。大部分が広葉樹林であるにもかかわらず針葉樹 の製材が増えており、広葉樹の製材は減っているという問題がある。また、フランスの森林のほ とんどが私有林であるため、その利用にはむずかしさがある。 3.フランスの木造建築の市場と関連製品 フランスでは木造建築市場について、統計的な数字がない。国としても問題であるととらえ、 現在、調査機関を設立中である。 フランスにおける木造建築企業のグラフをみると2,446企業のうち従業員が20人以上の企業が 55%、10人以下の企業が23%、10~19人の規模が22%で、全体の45%を20人以下の小規模な企 業が占めている。こういった小企業は工業化に踏み出せない現状がある。 2011年のフランス国内の建築市場において、主な4つの分野で木造建築が占める割合をみると (F-1-2の2ページ)、戸建て住宅では10.2%、共同住宅では4.1%、公共建築等では4.8%、増改 築では19.8%で、前年の2010年と比較すると各分野で木造の比率が増えている。 公共建築が前年より20%増になっているのは、国の木材産業振興施策の表れである。また、木 は軽量であるため、増改築に使用される割合も増えている。 各主要部材の市場傾向をみていくと、従来の木材である梁(sawn timber beams)の市場は減 少傾向にあり、デュオ(Duo)やトゥリオ(Trio)といった集成材の工業製品の生産はヨーロッ パでは約300,000m3で、伸びている。フランス国内では30,000m3と生産は少なく、逆に消費が伸 びている。 フランスの集成材の梁の生産は140,000m3、消費は約200,000m3で安定している。全部が木、 または木と金属のI 型梁(I beams)は100万m 生産されており、大きな市場となっている。 フランスで屋根の骨組みに使われる木材(rooftrusses)の生産は600,000m3でその90%が戸建 て住宅用だが、フランス経済の不況もあり、市場は減少している。また、伝統的な戸建て住宅の 市場も減っている。 木材を使った特殊な建築の事例では、体育館の天井に使用する例や、コンクリート柱を使った 物流建物や鉄骨柱の工場に利用されているものがある。集成材の屋根組のメーカーがあり、この 市場は伸びている。 床への木材の利用については、全て木材の製品や、コンクリートと木材との混合の製品もあり 音響の要求特性に合わせたり、夏の快適さを求めて利用されている。 建具の市場は、無垢材(solid wood SW)の生産は減少傾向だが、断熱の基準が設けられたこ とにより、中に断熱材などを入れる集成材(laminated and fingerjointed timber blanks LFJ) は増加傾向にある。建具の生産は、外造作では130,000m3で、うちSWが60%、LFJが40%であ る。内装の建具造作は120,000m3でSWが50%、LFJが50%である。内造作では、全て木の窓枠 は減っており、アルミと木の混合の窓枠の生産は増えている。また、戸建て住宅で使われるドア や階段の市場は減っている。 板材の市場は、構造用を除くファイバーボード(mediumand high density fiber board)の生 産は、3,500,000m3で減少している。家具等に用いられるが、フランスにおける家具の消費自体 が減っている。構造用を除くパーティクルボード(particle board)もフランスでの生産は 600,000m3、消費は400,000m3である。 OSB(oriented strand board)は、生産が300,000m3、消費は400,000m3で木造建築が伸びて いるのに比例し伸びている。合板(plywood)の生産は、400,000m3で減っており、消費は 700,000m3と横ばいである。工場の中には閉鎖するところもあり、生産が減っている一つの要因 である。 この様なボードを建築材料として使用する場合の多くは構造壁に用いており、この市場は伸び ている。市場が伸びている製品では、断熱ファイバーボードがある。CLTはフランスでは生産し ていないが、消費は約30,000m3あり、増えている。断熱パネルの市場も伸びており、フランスで は、屋根や、垂木と屋根の間に使う下見板(sarking)に使用されている。 建築における木材利用について、床材や、内装材には、ほとんど合板が使われている。また、 外装材として使用する場合もあり、地場の木を活用するなど、木の利用促進というトレンドに乗 って伸びている。 国の木の利用促進の施策は3つの市場における木造建築に、大きな影響を与えている。まず、 戸建て木造住宅の市場では、環境面での木のよさが好感視され、また、断熱性にすぐれ、施工が 早くエネルギーをあまり使わない低消費住宅ということで重要視されている。また、低コストの 木造住宅を生産する工場ができ、建設会社とデベロッパーが一緒になって新しい木造住宅ブラン ドをつくり、産業に影響を与えている。 共同住宅の市場では、戸建て住宅と同様に断熱性能のよさ、生産性の高さ、施工の早さが評価 されており、市場が伸びている。また、今まで木の事業をしていなかったコンクリートの会社が 参入し、木とコンクリートの混合建築システムを開発するなど、産業面にも影響がでている。 公共建築の市場でも、戸建て住宅、共同住宅の市場と同様に、木材の断熱性能のよさ、工業化 の可能性、施工の早さによって、市場が伸びている。さらに地場の企業にとって地場資源を大い に活用できる利点も市場拡大の一因である。また、共同住宅市場と同様に、コンクリート会社に よる木とコンクリートの混合建築システムが産業面に大きく影響している。 今後の課題としては、昔建てた建物のエネルギー性能を高めるレトロフィットへの利用や、コ ンクリート業界と木材業界が手を結び、壁や外装に木を利用していくことでさらに市場を伸ばす こと、また、木造住宅の高層化を考えている。 フランスの木造建築産業を、需要をしっかりカバーでき、今後成長する分野に育てていきたい。
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