耐暑性向上による花色・花形・香りに優れたバラ生産技術とアロマ製品の

地域課題に係る産学共同研究委託事業 概要報告書
1.委 託 事 業 名 :
耐暑性向上による花色・花形・香りに優れたバラ生産技術とアロマ
製品の開発
2.委託事業者名:
委託団体:株式会社発電マン
連携団体:富士見工業株式会社、静岡県工業技術研究所
連携大学:静岡大学グリーン科学技術研究所
教授 原 正和
静岡大学創造科学技術大学院統合バイオサイエンス部門
教授 渡辺 修治
3.研究成果概要:
【はじめに】
静岡県は全国でも屈指のバラの産地であり、年
間 2,440 万本(H24:全国 2 位)の切り花を出荷
している。特に、静岡市では、県内で最大規模(年
間 380 万本弱)の切り花(施設栽培)生産が行わ
れている。
バラは高温による障害を受けやすく、夏季には
良品が減り、国産バラの卸売価格が低迷し、8月
にかけて出荷も落込む(図1)
。
写真1 試験圃場:鈴木バラ園(静岡市)
《出荷を待つ深紅のバラ「メイン・キャスト」》
特に暖地の静岡では、夏季に、高温障害による
葉枯れ(写真2)などの品質劣化が起こり、出荷量・産出額共に大きく落ち込む。他産地や
輸入品との競争が年々厳しくなるなか、夏季の出荷を含めた年間を通じての高品位なバラ生
産は、バラ農園の農業経営における喫緊の課題である。
そこで本研究では、①高温ストレスに強く高品位なバラの生産管理技術の開発を目指し、
夏季のバラ施設栽培の生産現場において、
地元静岡で発明された植物由来の耐暑性付与剤『サ
ーモザイム』の施用による高温障害の抑制を試みた。
更に、静岡のバラ産業の活性化のため、
『静岡市のバラ』のブランド力強化を目指して、生
花以外の事業展開「バラの香りを活用した新たな商材開発」を提案するため、②バラの花か
ら芳香成分を抽出し、その香りを活かしたアロマ製品の試作・開発を行った。
3500
(万本)
卸売数量
卸売価格
3000
120
2500
100
2000
80
1500
60
1000
40
500
20
0
写真2 バラの施設栽培ハウス内で
高温期に多発する「葉枯れ」
140
(円/本)
0
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
図1 国内産バラの月別卸売状況(H24)
地域課題に係る産学共同研究委託事業 概要報告書
【研究結果および成果】
(1)「サーモザイム」施用による育成管理における耐暑性誘導の効果検証試験
育成試験は、鈴木バラ園(静岡市)にて実
施した。
「サーモザイム」施用(培土潅注・散
布)による試験株の育成管理を行い、夏から
冬にかけて定期的に生育評価を実施して、耐
暑性付与によるバラ生産への効果を検証した。
また、富士見工業㈱の温室特設ハウスにおい
て、培土への潅注の有無や散布方法など、
「サ
ーモザイム」
の効果的な施用条件を検討した。
(1)-1
写真3 バラ育成試験区の設定(鈴木バラ園)
生育評価
「サーモザイム」処理区では、茎丈の伸長に
バラツキが小さく成長が安定し(図2)、茎丈
50cm 以上のものは、約1ヶ月のうちに安定
して収穫できた(表1)
。また、処理後4ヶ月
間の経過において、葉枯れの抑制、ベルサー
ルシュート数の増加、および収穫可能性本数
の増加が顕著であった(図3)
。写真3に見ら
れるように、「サーモザイム」施用を充分に行
った株からは、多数の側枝やベルサールシュ
図2 茎丈の伸び率
ートが旺盛に発生した。
これらのことから、
「サーモザイム」の施用
は、夏季の高温期から冬場にかけて、葉枯れ
による不良が少なく収穫本数が増加すること
で、バラ(切り花)の生産に好影響を与える
ことが示唆された。
図3 バラ育成への処理効果の経過
写真3 株の育成初期に施した力枝から
多数のベルサールシュートと側枝
が発生(「サーモザイム」処理区)
地域課題に係る産学共同研究委託事業 概要報告書
(1)-2
花の品質評価
各処理区について開花期の3つの花を任意に採取し、「サーモザイム」施用による花の品質
向上への効果を調べた。
処理区において、花弁数の増加傾向が認められた(図4)。これは、
「サーモザイム」施用
によって、花芽形成のごく初期の段階で、分裂組織における細胞分裂が促され、結果として
花弁数が増加したと考えられる。
花の香り試験では、バラの花の発散成分を「においセンサー」で測定し、センサー指示値
を「香り強度」とみなし評価した。その結果、処理区の値は無処理区に比較して2倍近い「香
り強度」を示した。
50
n=7
2.5
相対強度*
枚数
40
30
2
n=28
n=24
1.5
20
1
10
0.5
0
0
花弁数
写真4 梅ヶ谷圃場でのにおいセンサー
による開花バラの香り調査風景
3
n=8
-0.5
1
香り強度
図4 開花バラの花弁数と香り強度
無処理区
処理区
* 無処理区でのにおいセンサー指示値を基準(=1)とした
(2) バラ育成におけるサーモザイム施用の効果
上記の育成試験結果から、高温期のバラ施設栽培にお
いて、
「サーモザイム」施用が、①徒長抑制などの成長の
正常化、②葉枯れ防止、③ベルサールシュート発生数の
増加に有効であり、また、④花弁数の増加による花形の
充実や⑤香り発散量の増加など、花の品質向上に寄与す
タケニグサ
ることが分かった。
http://www.e-yakusou.com/
「サーモザイム」の有効成分で、野草「タケニグサ」
から抽出されるアルカロイド成分
「サンギナリン」
(図5)
は、投与された植物体内で、
「熱ショック蛋白質(HSP)
」
遺伝子を強力に活性化することが確認されている(M.
Hara et al., 2014)
。
HSP は、ストレスで痛んだ細胞を修復し、正常な植物
サンギナリン
図5 「サーモザイム」の有効成分
の代謝や成長を助けることが知られており、本研究で検
証された上記①~⑤の効果は、この HPS の働きによると考えられる。 なかでも、花の香気
成分の生合成に有効に働くことが示唆された意義は大きく、天然のバラの香り資源の開発シ
ーズとして、産業に貢献する有用な知見を得ることができた。
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(3) 静岡のバラの香りを活用したアロマ製品の開発
静岡のバラ(切り花)の香りを新たな商材として活用するため、市内で生産される芳香性
バラの中からアロマ製品化に活かす品種を探索した。その結果、
「サーモザイム」施用によっ
て増加する芳香成分を主成分として持ち、
そのオレンジの花色のために「エスパルス・ローズ」
と称され、市内で安定的に生産されている品種である「パレオ」(写真6)を選抜した。
写真5 選抜した芳香性バラ 『パレオ』
写真6 香り抽出に用いた減圧水蒸気蒸留装
静岡産の芳香性バラ「パレオ」の花弁から、減圧水蒸
気蒸留法によりローズウォーター(香り素材)を抽出
し、この香りを活かしたアロマ製品を試作した。
本研究の成果品「
《バラの香り オレンジ・ローズ》
のウェットシート」
(図6)は、本研究に参画してアロ
マ製品の試作開発を担った㈱コーヨー化成(静岡市)
の既存製品『マスクにあてる気分爽快ウェットシート
(ミント系)
』の追加アイテムとして、製品展開してい
く予定である。
【まとめ】
図6 本研究の成果品(イメージ)
《バラの香りのウェットシート》
本研究により、夏季のバラ(切り花)施設栽培における「サーモザイム」施用が、高温障
害の予防、安定生産および花の品質向上に寄与することが分かった。なかでも、花の香りの
増強効果を見出した意義は大きく、天然のバラの香り資源の開発シーズとして、産業に貢献
する有用な知見を得ることができた。
今後も研究を進めることで、バラの施設栽培における「サーモザイム」の効果的な施用に
よる育成管理手法、およびバラの花の芳香成分の増強技術を確立し、これにより静岡のバラ
産業の生産性・競争力の向上とブランド力強化に貢献したい。
本事業の推進にあたり、研究の進捗とメンバーの連携調整にご尽力頂いたタカダテクノコ
ンサルタント、圃場提供にご快諾のうえ長期にわたり試験区の育成管理をして頂いた鈴木バ
ラ園、およびアロマ製品の開発で香料調合から製品の市場性・安定性調査を担って頂いた㈱
コーヨー化成の諸氏に深謝致します。