和牛の改良は歩みを止めず!

たくみ
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青森県産業技術センターの匠のお話あれこれ○
和牛の改良は歩みを止めず!
地方独立行政法人
青森県産業技術センター
畜産研究所
1.種雄牛をつくる待望の施設
田中
敏彦
センターは、その後平成21年の独法化によ
り和牛改良資源部に改称され、平成24年度か
肉用牛は、H23農林水産統計によると、本県
の畜産算出額111億円の14.3%を占め、肉用牛
らは野辺地町にある畜産研究所に業務を移管し
ています。
しゅゆうぎゅう
※1)
の親となる優秀な種雄牛
を確保することは、
多大な経済効果につながります。
2.和牛改良は農家の協力の賜物
平成5年、当研究所(当時は畜産試験場和牛
改良技術センター)で誕生した「第1花国」は、
スーパー種雄牛を作り出すためには、交配す
東の横綱とまで言われた名牛となり、低迷して
る優秀な雄牛も大切ですが、それ以上に遺伝能
いた県産和牛子牛価格を全国トップレベルまで
力の高い母牛の存在が重要です。
押し上げた時は、多くの関係者が歓喜したもの
当研究所では、県内の和牛繁殖農家さんが飼
でした。本県の肉用牛が全国の産地間競争に勝
っている約12,000頭の繁殖雌牛の中から、毎
つためには、優秀な種雄牛が必要なのです。
年最新の育種価
いくしゅか
平成13年春、受精卵移植技術を駆使して次
のスーパー種雄牛をつくる待望の施設が田子町
に誕生しました。これが「和牛改良資源センタ
ー」です(写真1)。最先端の設備を備え、改
良のスピードアップが期待されました。
写真1 和牛改良資源センター
※2)
や「血統」などを参考にし
て 選 抜 し、 高 い 能 力 を 持 つ ト ッ プ ク ラ ス
きょうらんぎゅう
※3)
の供卵牛
を導入しています。
【豆知識】
※1種雄牛:食肉用、乳用などそれぞれの目
的にかなった優れた遺伝子を持つ雄牛の
こと。
※2育種価:親牛から子牛に伝わる遺伝的能
力を数字で表現した通信簿のようなもの。
※3供卵牛:雄牛を交配した後、受精卵を採
取するための雌牛のこと。
※4受卵牛:受精卵を育てる代理母的な牛の
こと。
これもすべて繁殖農家さんのご理解とご協力
の賜物であり、深く感謝申し上げます。
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れぢおん青森
2013・12
3.期待されるスーパー種雄牛の誕生
5頭の肥育成績が最高級であるA 5ランクと驚
異的な成績でした。
(1)500頭から60頭の選抜
供卵牛から採取した受精卵は、繁殖農家さんか
じゅらんぎゅう
※4)
ら借りた受卵牛
の子宮に移植します(写真2)
。
その後、供卵牛として使用した2年の間に、
子牛28頭に恵まれ、雄牛が8頭もいるので、
1頭くらいは種雄候補牛になって欲しいと願っ
ていました。
まず、2頭の雄子牛が種雄牛候補となる直接検
※5)
定
を受けましたが、合格しませんでした。次
の5頭の雄子牛はこの検定を受けることなく市場
で売られる結果となりました。
諦めかけていた最後の8頭目、これが何とか検
定に合格し、晴れて種雄牛となりました。第7代目
の青森県基幹種雄牛
「優福栄」
の誕生です
(写真4)。
写真2 牛の受精卵
これまでに、県内の農家さん150戸以上の協
力のもと、1,000頭以上の雌牛に受精卵を移植
し、500頭以上の子牛を生産しました。そして、
この中から選抜した60頭を超える雄子牛を種
【豆知識】
※5直接検定:本牛の発育などを調査する検
定のこと。
※6現場後代検定牛:本牛の子牛の肥育成績を
調査するための検定を受ける牛のこと。
雄候補牛として送り出しています。
ゆうふくさかえ
の誕生
(2)第7代基幹種雄牛
「優福栄」
〜「さわゆう」
との出会い
(写真3)
写真4 第7代青森県基幹種雄牛「優福栄」
一方、雌牛20頭は、ほとんどが繁殖牛とし
て農家で飼われており、その子牛たちは、現在
写真3 スーパー繁殖牛「さわゆう」
も市場で高い評価を受けています。近い将来、
その兄弟の中から素晴らしい牛が出てくること
平成15年度の供卵牛として、東通村の大沢
でしょう。
さんから「さわゆう」を購入しました。
とても品が良く、血統的には純粋の但馬系(兵
庫県を中心とした血統)雌牛であり、大変貴重
な存在でした。また、産んだ子牛9頭のうち、
(3)
「優福栄」誕生の秘話(偶然と奇跡?)
私たちの作る牛は全て受精卵移植技術によ
るもので、母牛(供卵牛)にホルモン剤を使
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い、たくさんの受精卵を作ることから始まりま
20年に生まれました(写真6)。発育が良く、
す。そしてこの受精卵を移植して、子牛を産ま
資質も優れていたことから種牛候補の直接検定
せるのですが、全てが必ずしも受胎するわけで
に合格し、次の現場後代検定牛
はありません。また品質が悪いことで凍結保存
子牛が生産されることになりました。
※6)
に選ばれ、
にむかず、廃棄される受精卵も多くあります(写
真5)
。
写真6 注目の種雄候補牛「安平勝2」
写真5
超音波診断装置による供卵牛や
受卵牛の検査
それでは、ここで隠されたエピソードをご紹
また「安平勝2」の子牛達は平成24年長崎
県で行われた第10回全国和牛能力共進会の県
代表として出品されました。その結果、青森県
介しましょう。
ぶどまり
平成18年3月、この「さわゆう」から採卵
で初の「歩留賞」を受賞しました。これは、無
したところ、品質の悪い受精卵が2個見つかり
駄の無い枝肉に与えられる賞で、枝肉を買う業
ました。この状態での凍結保存は無理でした
者さんが特に喜ぶ「歩留まり」に優れているこ
が、移植すれば受胎する可能性がまだ残されて
とを示しており、今後注目の1頭となることで
いて、しかも、偶然にも2頭の受卵牛が見つか
しょう。
ったので、急遽、移植してみることにしました。
幸運なことに両方とも受胎し、雌1頭と雄1
4.みんなで元気な「あおもり和牛」を!
頭が無事に産れました。どちらもかわいい子牛
でした!この雄子牛こそが、後の基幹種雄牛「優
本当に優良な種雄牛は10年に1頭生産でき
れば良い方だと言われています。
福栄」だったのです!
もしもあの時、移植する受卵牛が見つからな
国内の和牛生産における本県の位置付けは、
ければ、
「優福栄」はこの世に存在しなかった
まだまだ先進地とは言えない状況にあります
かもしれません!偶然と奇跡?が重なった瞬間
が、生産者と我々技術者、さらには行政の力を
でした。
結集し、国内でも有数の和牛生産地に躍進する
ことを夢見ています。
(4)今後の活躍が期待される種雄候補牛
今後も生産者が望むスーパー種雄牛の開発に
やすひらかつ
現在期待されている種雄候補牛の「安平勝2」
は、宮崎県との精液交換で得た種雄牛「安平」
と三戸町から購入した供卵牛との交配で、平成
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れぢおん青森
2013・12
取り組んでいきますので、どうぞご期待下さい。
みんなで元気な「あおもり和牛」をつくって
いきましょう!