高輝度蓄光式誘導標識の解説とその有効活用について

■ 技術トピックス
高輝度蓄光式誘導標識の解説とその有効活用について
The Explanation and Effective Usages about High Bright Photoluminescent Evacuation Sign Boards
東
尾
正
TADASHI HIGASHIO
(œ日本消防設備安全センター 専務理事)
はじめに
1.蓄光とは
避難誘導に関する標識類は,唯一,消防法令に
物質が,X線,紫外線や可視光などの電磁波を
おいて防火対象物に設置する誘導灯および誘導標
吸収すると,物質中の電子は励起状態に押し上げ
識の技術基準が定められている。蓄光機能を有す
られ,そこから基底状態に戻る際にエネルギーが
る誘導標識の性能は,「誘導灯および誘導標識に
放出される。この放出エネルギーに相当する光の
係わる設置・維持ガイドラインについて」(平成
波長が,ちょうど可視光の領域にある場合に物質
11年9月21日消防予第245号)でJIS Z 9107の規
が発光して見える現象を蛍光といい,その中でも
格を満たすものを活用するとしている。
時間をかけてゆっくり解放される一連の現象を蓄
しかしながら,近年このJIS Z 9107に規定され
光(発光)と呼んでいる。
た蓄光性能を大きく上回る蓄光材を用いた誘導標
ピーク波長365nm付近の光を吸収し,発光ピー
識が開発され,各消防本部の個別承認という形で
ク波長520nm付近で発光するものが,一般的な蓄
設置事例が増えてきたことを受け,「高輝度蓄光
光体として普及しており(蓄光体以外のものは光
式誘導標識に要求される機能および設置のあり
を吸収,反射するのみで,暗所では自ら発光しな
方」を研究するため,平成16年9月に「高輝度蓄
い),人の目には緑色として認識される。
光式避難誘導標識等研究協議会」を母体とする,
自動車のバッテリーが,ダイナモを介して電気
「高輝度蓄光式誘導標識等規格検討委員会」が設
を蓄え,発電するしくみに例えると,蓄光体は電
置された。そして,œ日本消防設備安全センター
(以下「安全センター」という)を事務局として
関係規格の調査および誘導標識の見え方の実験等
が実施され,その成果に関する報告書が平成17年
8月に「高輝度蓄光式誘導標識に関する研究」
(以下「研究報告書」という)として消防庁に提
出された。
これを受け,消防庁は技術基準の見直しを行い,
気が光に置き換わったものと考えることができる。
ここではバッテリーの発電時間が蓄光体の発光時
間に相当し,初期電力が初期輝度に相当する。
蓄光体は,古くから夜光時計の文字盤などに用
いられてきており,JIS Z 9107(安全標識板)に
おいても蓄光安全標識板が定義付けられている。
近年,従来の約10倍の初期輝度,残光時間を有
する蓄光素材(アルミン酸ストロンチウム)が開
消防庁告示第5号(平成18年3月29日)で「高輝
発されたのをきっかけに,それ以前のものとは格
度蓄光式誘導標識」の定義が盛り込まれた告示改
段にレベルが違う高輝度の蓄光製品の開発が進み,
正が行われるに至った。
今日の法制化への動きに繋がった。
本レポートは,高輝度蓄光式誘導標識に関する
「告示」および「研究報告書」の解説および実施
例等を紹介し,告示改正に伴う今後の有効な活用
法などについて提言するものである。
2.蓄光式誘導標識および高輝度蓄光式誘導
標識とは
2.1 蓄光式誘導標識
蓄光標識板はJIS Z 9107(安全標識板)の中に
一般標識板および蛍光標識板と並び記載されてお
2006・6・建築設備士 37
表−1 りん光輝度比較
単位:mcd/m
蓄光式誘導標識
高輝度蓄光式誘導標識
JIS Z 9107
S200級
A200級
B200級
C200級
110以上
―
―
―
―
50以上
―
―
―
―
24以上(100未満) 250以上 200以上 150以上 100以上
7以上
75以上 60以上 45以上 30以上
時間
5分後
10分後
20分後
60分後
2
表2−1 誘導標識の区分と励起照度200 lx時の表示面の
平均輝度
励起光源
励起照度
S200級
区 A200級
分 B200級
C200級
D65,20分照射終了
20分後
200 lx
2
250mcd/m 以上
200mcd/m2以上
150mcd/m2以上
2
100mcd/m 以上
D65,20分照射終了
60分後
200 lx
2
75mcd/m 以上
60mcd/m2以上
45mcd/m2以上
2
30mcd/m 以上
り,りん光輝度の性能が示されているにすぎなか
ったが(表−1参照)
,今回の告示改正で「JIS Z
8716の常用光源ランプD65により照度200ルクスの
外光を20分間照射し,その後20分経過したのちの
表示面(以下『照射後表示面』という。)が24ミ
リカンデラ/m2以上100ミリカンデラ/m2未満の平
均輝度を有する誘導標識」と明確な定義づけがな
表2−2 誘導標識の区分と励起照度100 lx時の表示面の
平均輝度
励起光源
励起照度
S100級
区 A100級
分 B100級
C100級
D65,20分照射終了
20分後
100 lx
2
200mcd/m 以上
2
150mcd/m 以上
100mcd/m2以上
―
D65,20分照射終了
60分後
100 lx
2
60mcd/m 以上
2
45mcd/m 以上
30mcd/m2以上
―
された。
2.2
高輝度蓄光式誘導標識
今回の告示改正で高輝度蓄光式誘導標識は,
「照射後表示面が100ミリカンデラ/m2以上の平均
表2−3 誘導標識の区分と励起照度50 lx時の表示面の
平均輝度
輝度を有する誘導標識」と定義付けられている。
励起光源
また「ただし,廊下または通路に設ける高輝度蓄
励起照度
S50級
区 A50級
分 B50級
C50級
光式誘導標識のうち,蛍光ランプにより照度100
ルクスの外光を20分間照射し,その後20分間経過
D65,20分照射終了
20分後
50 lx
2
128mcd/m 以上
2
100mcd/m 以上
―
―
D65,20分照射終了
60分後
50 lx
2
38mcd/m 以上
2
30mcd/m 以上
―
―
した後における表示面が150ミリカンデラ/m 2以
上の平均輝度を有するものにあっては,短辺の長
さ8.5cm以上かつ面積が217cm2以上とすることが
できる」とも定められている。
そして,「研究報告書」には環境照度とりん光
後,表面加工し石英等を露出させた成形物
3.高輝度蓄光式誘導標識の試験基準および
判定基準
輝度性能の関係ごとの誘導標識の区分が設けられ
本件に関わる安全センターの認定基準において
ており,実際の運用に際し,環境照度が違う場所
高輝度蓄光式誘導標識の種類および区分が明確化
でも十分な視認性が確保されている。
されたので概要について述べる。
表−1に,200ルクスの環境照度下で求められ
3.1
種類および区分
る蓄光式誘導標識および高輝度蓄光式誘導標識の
誘導標識の種類は,次による。
りん光輝度を示す。同じ励起条件下であれば,従
¸
来の蓄光式誘導標識と比較して,C200級では4倍
強,S200級ともなると10倍強のりん光輝度性能を
屋内用および屋外用とする。
¹
に区分)とする。
また,「研究報告書」において評価を実施した
されている。
設置場所による種類
床用および壁用(床面から1m未満・以上
発揮するのが,高輝度蓄光式誘導標識である。
高輝度蓄光式誘導標識素材として次のものが定義
設置環境による種類
º
誘導標識の区分
誘導標識の表示面は,表2−1∼表2−3
○ 合成樹脂製のシートまたは板 合成樹脂と
の左欄に掲げる誘導標識の区分に応じ,
混合してシートまたは板状とした成形物
JIS Z 8716(表面色の比較に用いる常用光
○ 陶磁器質タイル JIS A 5209の1.摘要範囲
源蛍光ランプD65−形式および性能)に規
に規定するもの
定する常用光源蛍光ランプD 65を使用し,
○ 高硬度石英成形板 石英等を主とした無機
同表に掲げる各条件での平均輝度が,同表
質骨材,充填材と樹脂を混合し成形固化させた
の右欄に掲げる値を有するものとする。
38
建築設備士・2006・6
表−3 種類による試験項目
標識の種類
性能項目
床用
外観・形状・
寸法・表示
耐磨耗性
耐水性
耐候性
耐燃性
耐薬品性
曲げ強度
すべり抵抗
耐凍結融解性
輝度
発光色
高輝度蓄光式誘導標識
屋 外
屋 内
壁 用
壁 用
床用
1m未満 1m以上
1m未満 1m以上
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
表−4 設置環境照度と誘導標識の区分一覧
設置環境照度(lx)
大きさ
視認距離
(mm)
(m)
10
通路
120×360
7.5
10
100×300
7.5
10
85×255
7.5
10
避難口 210×210
7.5
10
120×120
7.5
3.2
320 288 256 224
D65,200 lx時の
区分
A200 S200 S200 S200
C200 B200 B200 B200
― ― ― ―
C200 B200 B200 B200
― ― ― ―
B200 A200 A200 A200
S200 ― ― ―
B200 A200 A200 A200
― ― ― ―
S200 ― ― ―
192 160 128 96
D65,100 lx時の
区分
― ― ― ―
B200 B100 A100 S100
― ― ― ―
B200 B100 A100 S100
― ― ― ―
A200 A100 S100 ―
― ― ― ―
A200 A100 S100 ―
― ― ― ―
― ― ― ―
種類による試験項目
種類による試験項目は表−3の通りとし,外観,
80 64 50
D65,50 lx時の
区分
― ― ―
A50 S50 S50
― ― ―
A50 S50 S50
― ― ―
― ― ―
― ― ―
― ― ―
― ― ―
― ― ―
のか,設置場所による種類を選定する。
º
設置する場所の設計照度または照度の実測
形状,寸法,表示試験,輝度試験および発光色試
値を基に,表−4(「研究報告書」中の「設
験は必須項目で,その他の試験は¸設置環境の種
置環境照度と誘導標識の区分一覧」)より誘
類,¹設置場所の種類,º誘導標識の区分など申
請者の申請に基づき行うものとする。
表示面に保護材を装着するものにあっては,当
該保護材を装着した状態で試験を行う。
高輝度蓄光式誘導標識では,耐候性および耐摩
耗性試験等は前処理としての位置付けであり,試
導標識の区分を選定する。
4.2 選定における注意事項
誘導標識としての視認性とその耐久性を長時間
確保するためには,次の点について確認した上で
高輝度蓄光式誘導標識の選定にあたることが重要
である。
験後のりん光輝度が表2−1∼表2−3に定める
¸
性能を満たさなければならない。
¹
まずは認定品であることを確認する。
素材の選定を行う。設置予定場所の環境,
使用用途等の設置条件に耐え得る素材を選定
4.誘導標識の選定
する。ひとつの建物の中でも設置環境はそれ
4.1 選定方法
ぞれ違うため,その中で最も厳しい条件に耐
高輝度蓄光式誘導標識は,設置環境,設置場所
え得る素材を選定することが望ましい。代表
および環境照度に応じて,適切なものを選択して
的な素材の一般的な使用条件および使用環境
初めて視認性を確保することができる。よって,
次に挙げる項目を確認した上で選定することが重
要となる。
¸
屋内用なのか,屋外用なのか,設置環境に
よる種類を選定する。
¹
の比較を表−5に示す。
中には保証期間を5年に設定している素材があ
る一方,保証がないものもあるので留意を要する。
º
誘導標識(認定品)には,選定に関わる情
報,つまり設置環境の種類,設置場所の種類,
床用なのか,床からの高さ1m未満の壁用
誘導標識の区分,設置可能な環境照度および
なのかまたは床からの高さ1m以上の壁用な
型式記号の表示義務があるので,表示を確認
2006・6・建築設備士 39
表−5 代表的素材の一般的な使用条件および使用環境比較
合成樹脂シートまたは板
×(磨耗,剥離)
軽歩行床
×(磨耗,剥離)
重歩行床
△(剥離)
寒冷地屋外の床,壁
○
軽量鉄骨下地の壁
○
コンクリート下地の床,壁
×(磨耗,剥離)
一般地域の屋外床
×(紫外線劣化,剥離)
一般地域の屋外壁
陶磁器質タイル
高硬度石英成形板
○
○
△(磨耗,割れ)
○
△(凍結融解割れ)
○
△(割れ)
○
○
○
△(すべり)
○
○
○
写真−1 ハンディータイプ輝度計
のうえ選定する。表−3に示すように,これ
分の測定で20分後の輝度を予測する機能を搭載し
らの種類や区分が違うと視認性が確保されな
ているのが特徴となっている(写真−1)。
い場合が生じるので必ず確認する。
»
設置環境照度の値は,誘導標識を設置する
部位(床または壁)の実測値を当てる。
¼
6.高輝度蓄光式誘導標識の有効な設置場所
蓄光式誘導標識の大きなメリットである設置時
誘導標識を壁面に設置する場合で,床面設
の施工の簡便性や設置後の維持管理およびメンテ
計照度または床面照度を実測した場合は,床
ナンスにおけるノンエネルギー,廃棄物ゼロなど
面実測値の60%を設置環境照度とする。避難
の高いライフサイクルパフォーマンスを有効に生
口誘導標識については,設置位置の関係から
かせる設置場所として,次のような所が考えられ
床面と同程度の照度が得られると思われるの
る。
で設置環境照度を当ててもよい。
½
床用に関しては,すべり抵抗値の表示義務
があるので選定に際しての参考とする。
¾
取扱説明書には,この基準に規定する性能
の合否(または数値)を掲載しているので選
定に際しての参考とする。
5.高輝度蓄光式誘導標識の点検
6.1
難であると認められる場合には,避難安全性を確
保するために誘導灯に代えて高輝度蓄光式誘導標
識を設置することが考えられる。
¸
特殊な立地条件で電源確保が困難であり,
誘導灯の設置等が困難な場所。
¹
誘導灯内部に水が浸入する恐れがあり,防
水構造の誘導灯の設置等が困難な場所。
高輝度蓄光式誘導標識においても,他の消防用
設備と同様に年2回の点検と年1回の報告が義務
º
可燃性蒸気の発生等により防爆構造の誘導
灯の設置等が困難な場所。
づけられている。
具体的な点検方法は,別途ガイドライン等で示
»
極めて低い温度環境に維持することが求め
られ,誘導灯の設置等が困難な場所。
される予定と聞き及んでいるが,りん光輝度の測
定機器については現場で簡易に測定できるハンデ
ィタイプの輝度計が開発されている。この輝度計
は,今回の告示に対応した仕様となっており,数
40
建築設備士・2006・6
誘導灯の設置が困難な場所
誘導灯の設置および維持そのものが物理的に困
¼
特殊な環境条件に設置するため,誘導灯の
設置等が困難な場所。
表−6 高輝度誘導灯と高輝度蓄光式誘導標識の比較
項番
1
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
6.2
項 目
区分
消防法施行規則第28条の3
有効範囲(距離)
消防法施行規則第28条の3
外形寸法
消防法施行規則第28条の3
表面平均輝度
消防法施行規則第28条の3
内蔵電池による点灯時間
消防法施行規則第28条の3
維持管理・報告義務
消防法 第17条
ランプ寿命
内蔵電池寿命
器具全体の寿命
消費電力
品質保証期間
価格(定価)
工 事
主な設置場所
高輝度誘導灯
誘導灯通路C級
消防予第245号(平成11年9月21日)にて規定
10m
消防予第245号(平成11年9月21日)にて規定
0.1m以上0.2m未満
消防予第245号(平成11年9月21日)にて規定
5カンデラ以上
消防予第245号(平成11年9月21日)にて規定
20分(規定の表示面輝度の確保)
平成14年消防予 第172号
消防設備の維持,点灯確認,報告義務
第17条第1項,消防予第172号,第17条3の3
最大約60,000時間(約6年)
最大約60,000時間(約6年)
約12年
4.9W(片面型) 6.9W(両面型)
1年
29,050円(片面型) 31,950円(両面型)
取付工事+配線工事
天井, 壁
誘導標識の設置義務のある場所
多数の者が出入りする,火災危険性が高い等の
理由で,火災時により積極的な避難誘導が求めら
れる場所(学校,図書館,工場,倉庫等)にも,
有効と考えられる。
6.3
¸
誘導灯を補完し,避難上の安全性を高
高輝度蓄光式誘導標識(高硬度石英成型板)
誘導標識通路A200級
「研究報告書」による
7.5m
「研究報告書」による
120mm×360mm
「研究報告書」による
2
外光遮断20分後の輝度が200mcd/m 以上
消防庁告示第5号,平成18年3月29日付け
電池なし
外形検査と蓄光輝度の確認
第17条第1項,消防予第172号,第17条3の3
ランプ使用せず
電池なし
半永久的
ノンエネルギー
5年
28,000円
取付工事のみ(配線工事不要)
床, 壁
ても,有効な対抗手段となり得ると考えられる。
高輝度誘導灯と高輝度蓄光式誘導標識の仕様や
性能等の比較を表−6に示す。
8.蓄光式誘導標識の実施例
約80消防本部が設置を承認(平成18年2月末現
めることが求められる場所
在)した126物件の蓄光式誘導標識(この時点で
は高輝度蓄光式誘導標識としての定義はなされて
いなかったが,「研究報告書」の区分に照らし合
層高めることが望ましい場所(劇場,飲食店,
わせるとB200級に相当する高輝度の蓄光式誘導標
百貨店,旅館,病院,福祉施設,地下街等)。
識)の設置実績(平成12年2月∼平成17年5月)
¹
建物に不案内な者が多数いる,避難困難性
が高い等の理由により,避難上の安全性を一
避難に長時間を要する可能性があるため,
避難上の安全性を一層高めることが望ましい
の中から数例を紹介する(写真−2∼写真−5)
。
○ 一般建築物での使用例
場所(高層ビル,地下駅舎等)
。
7.誘導灯との比較
高輝度蓄光式誘導標識は,例えば高硬度石英成
形板を素材としたもので,従前の電気式誘導灯と
比べて製造エネルギーは80分の1,実使用時の消
費エネルギーはゼロでCO2削減に大きく貢献でき
写真−2 山口宇部空港(平成12年2月施工)
ものである。また,球切れやバッテリー寿命切れ
による定期的な産業廃棄物の発生もなく,材料そ
のものにも水銀やカドミウム,PCB等の有害汚染
物質を全く含有していないこと等,環境対策の面
からも非常に優れたものとなっている。
さらに,物理的な破損を受けても蓄光機能その
ものは損なわれることなく暗視下での視認性を確
写真−3 海ほたるSA(平成16年12月施工)
保できることから,世界的な脅威である人身の殺
傷のみならず建物の破壊も目的としたテロに対し
2006・6・建築設備士 41
輝度蓄光式避難誘導標識等研究協議会」の次のテ
ーマとして「広域避難場所」や「津波避難場所」
の屋外で使用する誘導標識に関する研究が現在進
行中である。
これら一連の動きは,まさしく従来の技術では
写真−4 三井倉庫箱崎ビル(平成14年10月施工)
実用化が困難であった課題に挑むものであり,
「高輝度蓄光」という新技術が国民の「安全・安
心」を担う消防行政を助ける新たな切り札となっ
○ 地下鉄での使用例
ていくことを期待する。
おわりに
高輝度蓄光式誘導標識が普及していくのは,こ
れからである。
従来の誘導標識や誘導灯では困難であった場所
はもとより,広い範囲,いろいろな場所で採用が
写真−5 横浜市営地下鉄(平成15年12月施工)
検討されていくと予想されるが,その優れた性能
も正しい使われ方をして初めて役に立つものであ
9.高輝度蓄光式誘導標識の今後の展開
り,是非,本レポートで述べた注意事項を十分に
確認され選定して頂くよう願うものである。
現在の蓄光製品の性能および技術レベルが,安
最後に,資料提供等ご協力を頂いた「高輝度蓄
全を担保するのに必要な暗視下での視認性を確保
光式避難誘導標識等研究協議会」などの関係者の
できるところまで高まってきたことが,「研究報
方々に謝辞を述べさせて頂き,本レポートを締め
告書」により明らかになった。
括るものとする。
今回の蓄光式誘導標識および高輝度蓄光式誘導
標識に関する告示改正は手はじめにすぎず,「高
42
建築設備士・2006・6
(平成18年4月13日 原稿受理)