空気式天井放射冷暖房システム

■ 技術トピックス②
空気式天井放射冷暖房システム
西 野 宗 武
永 池 英 彦
MUNETAKE NISHINO
(㈱インターセントラル 代表取締役社長)
HIDEHIKO NAGAIKE
(㈱インターセントラル 工事部)
はじめに
近年,工業の発展に伴い地球温暖化が叫ばれ,世界的
な規模で環境対策に関わる研究が行われている。特に日
本においては政府のエコポイント制度導入により,エコ
に対する意識が高まってきている。
このような背景から,空気調和・衛生業界においても
省エネルギー型の商品が数多く開発・販売されており,
地下水・太陽熱・放射熱など省エネルギーにつながる新
しいシステムが注目を集めてきている。
今回ご紹介するのは,快適性に優れる放射冷暖房であ
り,ヒートポンプ空調機を熱源とする新しい天井放射冷
暖房システムである。
1.システム概要
当システムは,従来の対流式・放射式単体での空調に
おける問題点を改善し,より快適度が高く,省エネ性に
優れたシステムとして開発された。
従来の空調システムでは,冬場における足元の底冷え
が起き,夏場には足元が涼しくても顔のほてりが起きや
すかった。これは空気の密度差により,冷たい空気は下
方に,暖かい空気は上方に行く性質によるものである。
従来は,この問題点を解決すべく空調機の吹出風速を
上げ,室内空気をより撹拌させることで室内温度を均一
化してきた。しかし,風速を上げることにより居住者に
対する,気流感が強くなり不快感が増す結果となった。
これらの問題を解決すべく,弊社では気流感がなく快
適性の高い放射空調を基調とし,さらに天井放射におけ
る上下温度差を軽減すべく,強制対流を取り入れ,双方
の利点を併用することにより快適性の高いシステムを開
発した。
今回紹介するシステムは,熱源として熱効率の良いヒ
ートポンプ空調機(以下,空調機)を用い,その空調空
気を天井内のダクトを介し,放射パネル化した天井材に
送風し,天井材自身を冷暖することによる放射と,天井
材に設けられた開口から室内に吹出す空調空気により,
1つの熱源による放射と対流の併用を可能にしている
(図−1)。
また,本システムにおける特徴として放射パネル内に
蓄熱材が設置されている。これにより空調機のデフロス
ト運転やデマンド運転時における送風運転時においても
蓄熱材の熱量により空調空気の温度変化を軽減し,パネ
ル温度や室内温度に大きな影響を与えないようにしてお
り,より快適性の高いシステムとなっている(図−3)。
図−1 システム概要図および実験測定点
2011・6・建築設備士 33
表−1 測定条件
夏環境
室内温度制御
室外気温
パネル
寸法
穴数
枚数
風量
空調機吹出
パネル吹出
冬環境
28℃
20℃
約32℃
約5℃
590×590mm
φ5×144個
16枚
約320m2/h
約20m2/h
約640 m2/h
約40m2/h
図−2 環境実験室平面図
図−4 夏環境垂直温度分布
図−3 天井放射パネル
図−5 夏環境水平温度分布(FL+1100)
写真−1 環境実験室
2.環境実験概要および結果
岩手県滝沢村にある弊社研究所で,本システムによる
環境実験を行った。なお,実験室は室内面積24.4m2,室
内高さ2.7mである(写真−1)。
下記に実験における主な条件を示す。
・測定点(図−1,図−2)
温度測定箇所は,室内垂直温度(床面,床上高さ0.1,
1.1,2.1m,放射パネル表面温度),室内水平温度(床上
高さ1.1m,5ヵ所),空調機吹出温度,空調機吸込温度,
パネル吹出温度,外気温度
2.1 夏環境(冷房時)の環境状態(図−4∼図−6)
① 室内の垂直温度差
室内の垂直温度差は,床上高さ0.1∼2.1mの間で1℃
以内に分布しており,温度差の小さい快適な室内環境と
なっている。
② 室内の水平温度差
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図−6 夏環境天井パネル下0.3m風速
床上高さ1.1mにおける室内の水平温度差は,1℃前
後となっている。室内南東がやや温度が高いのは測定機
器の設置個所に最も近い位置であり,その影響を強く受
けていると考えられる。
③ 放射パネルの立ち上がり時間
放射パネルの表面温度は約45分後には19℃前後にて安
定している。
④ 空調機の吹出温度変化による放射パネル温度への影響
空調機の吹出温度は室内温度が設定温度になると急激
図−9 冬環境水平温度分布
図−7 湿り空気線図
図−10 冬環境天井パネル下0.3m風速
図−8 冬環境垂直温度分布
な温度変動を示している。それに対して,放射パネルの
温度には大きな温度変化は見られない。これは,パネル
に内蔵している蓄熱材の影響であると考えられる。
⑤ パネルの放熱量
この実験結果からパネルの放熱量を算出すると約
70W/m2となる。同一条件の床冷房では約36W/m2(弊
社比)であるので,かなりの放熱量が確保できているこ
とが分かる。
⑥ 室内気流
放射パネル下0.3mにて測定を行ったところ,約0.3m/s
であった。
⑦ パネル表面の結露
室内空気温度24℃,湿度60%のときの露点温度は16℃
となる(図−7)。このときパネル表面温度は約19℃で
あるのでパネル表面の結露は起きないことが分かる。
2.2 冬環境(暖房時)の環境状態(図−8∼図−10)
① 室内の垂直温度差
室内の垂直温度差は,床上高さ0.1∼2.1mで2.7℃差で
あり,快適な上下温度差の範囲となっている。
② 室内の水平温度差
床上高さ1.1mにおける室内の水平温度差は,1℃前
後である。室内の西側において放射パネルの敷設面積が
少ないため西側の温度が低くなっているが,温度差が1
℃前後であり,比較的小さな温度差であった。
③ 放射パネルの立ち上がり時間
放射パネルの温度は約30分後には30℃程度で安定して
いる。
④ 空調機の吹出温度変化による放射パネル温度への影響
空調機は冬場におけるデフロスト運転を行った際,吹
出温度が急激な温度変動を示しているが,冷房運転時と
同様に放射パネルの温度に大きな温度変化は見られない。
⑤ パネルの放熱量
この実験結果からパネルの放熱量を算出すると約
73W/m2となる。同一条件の床冷房では約76W/m2(弊
社比)であり,床冷房と比較してもほぼ同等の能力を示
していることがわかる。
⑥ 室内気流
放射パネル下0.3mにて測定を行ったところ,約0.7m/s
であった。
⑦ パネル表面の結露
室内温度より放射パネル表面温度の方が高くなるので,
結露の心配はない(図−7参照)。
2.3 デザイン上の利点
従来の空調システムでは,天井カセット型空調機など,
室内天井に露出してしまうものが多く,天井のレイアウ
トが制限されてしまうことが多かった。本システムでは,
天井パネルの敷設が自由であり,照明や火災報知機など
の設置が制限されることがない。
また室内に露出することもなく,パネル表面のデザイ
ンも変更可能であるため,室内のデザインに合わせて放
射パネルデザインを変更することにより,従来の空調シ
ステムでは難しかった,インテリアとしての空調システ
ムの実現が可能となっている。
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写真−2 受付
写真−3 待合室
写真−5 廊下
写真−4 診療室
3.施工事例(写真−2∼写真−5)
東京品川区の某病院において,本システムが採用され
ている。写真からわかるように,照明等の設置が自由で
あり,室内に空調機が露出しないため,意匠面において
も優れている。
ま と め
本システムの特徴は,夏・冬共に室内上下温度差が小
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36 建築設備士・2011・6
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さく,また室内の気流感も抑えられており,快適な空調
システムとなっている。特に病院,事務室,学校等の天
井高が低めの施設において有効であり,特にベッドでの
生活時間が長い病院においては天井からの空調は優位性
がある。耐震性の配慮など施工に関する課題は残るもの
の,ヒートポンプ空調機の省エネルギー性能と放射空調
による快適性の融合は,環境問題への取り組みと居住者
の快適性を両立した新たなシステムとして期待できる。
(平成22年6月4日 原稿受理)
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