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№110
編
集:平成25年2月
「ミッションマネジメント」とは、五つの項目で体系化されている。<下図参照>
① ミッション(存在価値)の定義から出発する最上位の概念
「ある技術で世界一」になる「ある分野で社会に貢献する」など存在価値を表現したもの
② 経営理念
経営や組織運営に対する考え方、組織としてのあるべき姿、目指すべき姿、ステークホル
ダーに対する考え方などをまとめたもの
③ 行動指針
組織構成員の行動スローガン
④ 行動憲章
組織構成員が心得るべき日常行動の判断基準書
⑤ 業務マニュアル
日常業務の手順書
体
上位概念
系
ミッション
意味と内容
【社会における組織の役割】
社会において、何で役立つか、貢献するかを宣言したもの。その姿を高く、
(存在価値) 深く広く設定するほどミッションへと昇華される。
【経営や組織運営に対する考え方】
経営理念
組織としてのあるべき姿、目指すべき姿、ステークホルダーに対する考え方
などをまとめたもの
【組織構成員の行動スローガン】
行動指針
ミッションや経営理念を達成するために組織構成員がどのような共通の行動
指針を持つべきかを箇条書きにまとめたもの。
【組織構成員が心得るべき日常行動の判断基準】
行動憲章
階層別、部門別などで構成員が業務を遂行するに当たって、やるべきこと、
やってはいけないことの判断基準を示したもの。
業務
マニュアル
下位概念
【日常業務の手順書】
上記の体系を基盤として、日常業務を遂行する際に必要な具体的作業手順書。
日々の業務に合わせて常時変更される。
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ミッションマネジメントを検討する際に注意すべきポイ
ントは、三つである。
◆一つ目
ミッション(存在価値)から業務マニュアルまで一貫
性を持たせること。大切なことは、プロセスにある。
すなわち、業務マニュアルを遂行すればミッションに
近づき、使命感を実現するためには業務マニュアルが
不可欠という関係である。但し、ミッションマネジメ
ントの検討は、使命感の確立が優先する。業務マニュアルの作成から始めてはならない。
◆二つ目
「不易と流行」の視点で見れば、下位概念である業務マニュアルほど“流行”(やり方の変
更が多くなる。上位概念の使命感に近づくほど“不易的”な(普遍的な概念)表現となる。
したがって「ミッションマネジメント」の本質は、「存在価値の向上運動」でなければなら
ない。その点で、現場レベルにおいて最も大切になるものは、ミッションや経営理念と日常
行動を結ぶ「行動指針」「行動憲章」となる。・・・「業務マニュアル」ではない。
あなたの会社には、経営理念以外に行動指針と憲章は存在しますか?
◆三つ目
前述の徹底方法を工夫させること。
「掲示」
「唱和」いろいろな手法はあるが、大切なのは物
事の本質であり、「物」ではなく「事」のほうである。物である商品はライフサイクルがあ
り、時代と共に必ず陳腐化する。思想や価値は「事」であり、陳腐化することがない。
「フォー・ザ・カスタマー」を否定する経営者はいないだろう。経営する「事」を考える場
合、その本質を論議しなくてはならない。会社が存続する意義や必要性を問い、その答えを
ミッション(存在価値)として組織に浸透し徹底しなければならない。
正しい哲学からしか正しい経営行動は生まれない。
ミッションマネジメントは、その一番の実践者である「社長の経営行動」が起点となる。
第一ボタンをかけるのはトップである。社長の哲学が組織の行動特性を決め、組織の行動が会
社の哲学を具現化する。正しい経営行動とは何か。行動を見れば、背景の哲学がわかる。
3頁からは、自分自身をチェックしてみてください。
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優秀な社長が「やらない」「やっていない」10項目の経営行動を以下に列挙します。
ミッションマネジメントを妨げる反面教師のセルフチェックリストとして参考にしてみてく
ださい。
Check1:現場を歩かない
社長は、現場を歩くことに多くの時間を費やすべきである。優秀な経営者は「現場好き」
である。ここで言う「現場」とは、作業着を着て一緒に“現場”で仕事をすることでは
ない。これでは本末転倒。幅広く、バランスよく顧客の声を聞く、仕入先のからの意見
をもらう、社員の思いを聞く仕事など。社長自ら声を聞きに出向かなければならない。
現場に行けば偏った意見、聞きたくない問題、クレームなども耳に入るでしょう。しか
し、現場を見極め、直視しなければならない。身近な取り巻きの意見ばかり聞いている
と経営判断を誤る可能性がある。会社の存続の源泉は『社長室の外』にある。
Check2:自分だけが正しいと思い込む
会議を見ると一つ目は、会議の場で「一人でしゃべっているタイプ」、あるいは「何もし
ゃべらない傍観者のタイプ」の社長である。前者はワンマン型社長で、後者は独善型社
長である。二つ目は、自らの成功体験だけにしがみついているタイプ、成功のイメージ
は持たなければならないが、成功体験だけにしがみついてはいけない。
「優秀な経営者は、相手に質問を浴びせる。ダメな経営者は、相手に自分の主張を浴び
せる」トップのリーダーシップは衆知独裁(さまざまな意見を聞き、最後は一人で決断
する)である。自分だけが正しいと思い込んでいるトップに真の衆知独裁は出来ない。
Check3:好きな仕事だけする
これは、開発型経営者に多い。発明家は会社を潰す。時間の大半を会社や組織のために使
うのではなく、自分のやりやすい仕事、経験してきた仕事、好きな仕事に費やしてしまう。
これが続くと会社全体の優先順位が変わり、経営資源配分が変わる。結果、会社の性格ま
で変わってしまう。社長の時間という経営資源は、戦略や戦術、経営課題の優先順位から
配分されなければならない。
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Check4:やめることができない
撤退はトップの専権事項である。
「槍の名人は、引くのがうまい」という。この決断が中々
難しい。やめる決断はときに恥ずかしく、負けを認めたように感じる。しかし、社長はと
きに自己否定することも求められる。現実を見ると、先送りの決断が何と多いことか「撤
退できない」、
「やめることができない」という背後には、社長の優柔不断な性格特性が見
え隠れする。言葉の派手さよりも、行動そのものが真のリーダーシップである。
Check5:社内よりも社外を優先する
社外の活動(地域・業界団体の活動など)に事案を掛け過ぎて社内行事をおろそかにする。
若手経営者や高齢のベテラン経営者に多い。社外活動が悪いと言っているのではない。
地方企業の場合は、地域貢献のために社外活動も必要となる。しかし、「うちの社長は殆
ど会社にいない」という愚痴が現場から聞こえるようになったら要注意。後継者のリーダ
ーシップは、社内で築くことを優先すべき。現場にでて汗をかき、それを確立すべき時期
に社外活動を重視してはならない。
Check6:リスクを過小評価して見くびる
異業種の社長との交流の少ない社長に多い。視野が狭く、同業種の会社も同じ問題を抱え
ているから「自社も大丈夫」と業界の常識と捉えてしまう。「赤信号、みんなで渡れば怖
くない」という意識である。また「井の中の蛙」病でもある。異業種は経営モデルが異な
るため学ぶことも多い。規模特性も同様である。異業種と付き合うことで、自社の点検も
できる。業界の常識は、異業種では非常識なことも多い。
Check7:好みの人材だけを周りに集める
何も意見を言わない人畜無害な幹部社員、イエスしか言わない無責任な社員ばかりを周り
に集めると、社長の気持ちはよくなるだろうが会社は進歩しない。逆に停滞していく。
人畜無害や無責任社員を「茶坊主」とも言うが、要領のよい世渡り上手はどんな組織にも
いる。このタイプの人材が経営の中枢に入らないように、幹部社員の段階でふるいにかけ
る仕組みが重要。オールイエスと社長自身が気持ちよくなってきたら要注意。
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Check8:変化を極端に嫌う
変化に抵抗する社長がいる。頭が固く、柔軟性が不足している。これを信念や理念と勘違
いしているから余計に厄介である。頑固と信念の違いは何か、は簡単である。譲らない事
柄の重要度を見ればよい。小さな事柄は部下に任せればよいのに、どうでもよいことに拘
り、肝心なことは譲ってしまう。小事に勝って大事に負ける経営行動である。
経営とは生き物である。変化こそ常道であり、変化に強い体質をつくること。
Check9:できない人材のことばかり考えている
優秀な経営者は頭の中の70%は、組織や人材のことを考えている。そしてその70%を
100とした内の70%は優秀な人材をどのように生かすか考えている。ダメな経営者は
その逆で、頭の中の70%ができの悪い人材の愚痴で満たされている。
組織構成はどの様な規模になっても「2:6:2」である。優秀な人材が2割、普通が6
割、残りの2割が足を引っ張るか、追随型人材である。できない人材の事ばかり考えてい
ると、そのうち優秀な人材が会社から去っていく。
Check10:金・人・時の公私混同
社長の公私混同は三つある。金銭・人事・時間である。
一つ目の金銭については、会社内にガバナンスが効いていると防ぐことができる。
二つ目の公私混同は「人事権」の乱用である。人事権は社長の専権事項であるがゆえに
公私混同になりがち。自分のお気に入りを「子分」のように周りに置いたり、
「好みの人
材」を周りに置くのも一種の公私混同である。三つ目は時間の公私混同である。社長は
ある意味、24時間、365日会社人でなければ勤まらない。優秀な社長ほど四六時中
会社のことを考えている。
『社長が部下を見るのに3年、部下が社長を見るのに三日』と
言われる。社員は常に二つの目で社長を見ている。時間の使い方の公私のけじめを意識
することである。
経営者の皆様、会社存続を途絶えさせる自らの行動に気づき、自ら変わ
ることが大切です。社長自身が変革すれば、会社も変革します。
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