があったようですね。 父が教師をしていたこともあり、家に 人で空想にふけるのが大好きでした。 らかと言えばおとなしい子どもで、一 り、幼い頃は甘えん坊でしたね。どち て育ちました。末っ子だったこともあ 私は神奈川県で生まれ、両親、そし て兄、2人の姉の4人兄弟の次男とし から、学校の先生から﹁お父さんみた りません。ただ、父が教師であること 特に強い将来の夢があったわけではあ ぐらいは考えたこともありましたが、 その頃は﹁電車の運転手になりたい!﹂ 能性もあったのかもしれません︵笑︶ 。 しかして、そのまま理系の道という可 い!﹂という思いだけはあったのです 来の夢はないのに、 ﹁教師にはならな うなものがありました。ですから、将 ﹁父と同じは嫌だ﹂という反発心のよ 見られました。しかし、当時の私には ⋮⋮。そんな光景も、よく我が家では 酌み交わしながら教育談義に花が咲く した。家に同僚の先生が集まり、酒を 父は仕事熱心な人で、教育に情熱を 持ち、教師という仕事を全うした人で 見よう見まねでいじっていました。も は本がたくさんあったんです。だから、 いに教師になったらどうだ?﹂と言わ つもはどんな本を読んでいるの?﹂と 学1年生くらいの頃、よその人に﹁い なって母から聞いた話なのですが、小 ようなものでした。父は軍属でありな ったそうです。父はそれで生き残った に高熱を出してしまい、即日除隊にな た。しかし、ちょうど召集があった日 父は戦前に大学を出てから軍属とな り、兵器工場で兵器をつくっていまし 失敗してもいい! 心に響いた先生の言葉 すから︵笑︶ 。 今は中学・高校の校長をしているので ょう。現に私は、後に大学教員になり、 の尊敬の気持ちの裏返しだったのでし 聞かれて、 ﹁ ﹃文藝春秋﹄を読んでる﹂ がら生き残った身として、おそらく複 ︵笑︶ 。でもそれは、今振り返れば父へ と答えたらしいのです︵笑︶ 。もし本 はそれが嫌だったんです︵笑︶ 。 当に読んでいたとして、内容を理解し 雑な思いを抱えていたのだと思います。 高校は、地元の進学校である県立厚 木高校に進みました。厚木高校は、神 父がはっきり言ったわけではないので 当時、生意気にもずいぶん大人の本 を読んでいたようです。これは大人に れることがよくありました。実は、私 はないかと、私は思っています。 由は、その複雑な思いからだったので すが、戦後に人間教育の道を選んだ理 “桜美林” という名の通り、 春には美しい桜の花が咲き誇る 桜美林中学校・高等学校。 大学教員、 中高校長として、 42 年の長きにわたり桜美林学園の学生や生徒を 見守ってきた大越孝校長先生に、 ご自身のこと、 そして学校のことについて お話を伺いました。 私も読書が大好きで、それも影響して その一方で、機械いじりも好きで、 壊れた時計やラジオを修理したりと、 校長先生 いたのかもしれません。 ﹁教師にはならない!﹂ と思ったわけ 大越 孝 ていたかどうかは別にしても、当時の 私は、本であればどんなものにも興味 2014/07/31 15:21 088-093_DN10_hmn_03.indd 088-089 た か し し こ お お 088 089 桜美林中学校・ 高等学校 多様な視点を持ち、 柔軟に思考できる グローバルリーダーを育てる教育を 実践していきたいと考えています。 人気中学校 校長先生インタビュー 人気中学校 校長先生インタビュー た。戦後、当時の日本において、自由 を象徴するアメリカという国は、誰も が憧れる存在だったと言ってもいいの ではないでしょうか。私も子ども心に、 アメリカはその雰囲気といい、文化と いい、何もかもがすばらしいと思って いました。そして﹁いつか、アメリカ で生活できたらいいな﹂と甘い夢を抱 いていたのもこの時期です。そんな憧 れと英語を学ぶことが結びつくのに、 そう時間はかかりませんでした。 教師の使命を 教えてくれた言葉 大学は、桜美林大学文学部英文学科 に進学しました。 当時、桜美林大学は新設されたばか りの大学でした。ですので不安もあり で、自分たちで判断して行動すること、 くれる学校でした。しかし自由な一方 風そのままに、生徒の自由を尊重して 史がある学校です。旧制中学時代の校 奈川県内の公立高校の中でも、長い歴 ││人生は何度失敗してもいいんだ。 驚きました。 生はほかにいませんでしたから、正直 じゃないか﹂と。そんなことを言う先 とえそれが5年後に変わったっていい ら、今自分がやりたいことをやれ。た なえてくれたのも、この桜美林大学で リカに行きたい﹂という私の願いをか もありました。しかし、 ﹁いつかアメ ね。正直、転学しようかと思ったこと ると、良い面、悪い面両方ありました 入学を決意しました。実際に入ってみ を受けてみたいという気持ちもあり、 ましたが、新しい大学で、少人数教育 そして同時に責任も求められましたね。 やり直しがきくのだから││。 きくなっていきました。そんな中で、 るほど、反発する気持ちがどんどん大 若かった私は、そう言われれば言われ る﹂ともよく言われたものです。まだ る先生が多く、また﹁教師に向いてい もともと、高校に入ってからは人文 系の分野に興味を抱くようになってい のは、まさにこの先生のおかげです。 身の主体性を意識できるようになった たと思います。成長するに従って、自 先生の言葉によってそう思えたこと は、私のその後の人生に大きく影響し そこに2年半ほど通いました。アメリ アメリカへは、リベラル・アーツ・ カレッジへの学士留学という形で渡り、 きたのです。 業後、アメリカの大学に行くことがで その先生方のおかげで、私は大学を卒 ネイティブの先生がいらっしゃって、 した。大学には熱心に指導してくれる 当時英語を担当してくれていたある先 たのですが、この英語の先生に出会っ カのリベラル・アーツ・カレッジは、 月。今年で2年目になります。 私が、校長として今一番に考えてい るのは、キリスト教の教えを基にした 建学の精神やこれまで築き上げてきた 伝統を守りながらも、本校を本当の意 中でも、自分の教えたいことが学生た かったと思うことに多々出会いました。 現場に立ってみると、教師になって良 教員になった私ですが、実際に教育の ﹁教師だけにはなりたく は、この経験があったからと言えます。 中高時代、 ない!﹂と思いながら、図らずも大学 います。本校の教育の礎になっている そが、真のグローバル教育だと考えて の見方をできる子どもを育てることこ でしょうか。私は、柔軟で多様なもの 育がなされている学校がどれだけある の実態をともなった真のグローバル教 学校教育の現場で﹁グローバル教育﹂ の必要性が叫ばれて久しいですが、そ 味でグローバル化することです。 で過ごすことになりました。大学初年 ちに伝わって、それを彼らが喜んでく 年もの長い年月を、私は桜美林大学 とても心が弾んだ思い出として、私 の講義を契機に﹁もっと勉強したいの 生き方が見えてくるのではないでしょ 通じて、初めて異文化や異なる人々の 世界の宗教、文化、言語などの学びを 灯すことだ︶ ﹂という言葉です。その ︵教 pail,but the lighting of a fire. 育とはバケツを満たすのではなく火を 見せてくれることは、教育に携わる者 いく⋮⋮。学生が主体的に学ぶ姿勢を につながり、毎年の恒例行事となって 展していって、夏休みに行われる合宿 なってほしいと思います。その多様な れ、その上で柔軟な思考ができる人に りません。多様な考えをまずは受け入 ﹁正答は一つ﹂と 本校の生徒には、 考えるような大人にはなってほしくあ 界観を育む一つのツールと言えます。 で読書会を開いてくれませんか?﹂と 言葉を目にしたとき、私は日本の社会 として何よりの喜びです。そしてそん ものから何を学び、何を選び、教養と 子どもと接するときの つのこだわり 自分から あいさつをする 言葉を届ける ね。 ができる環境をつくりたいです 子どもたちが誰とでもあいさつ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 第 一 歩 で す。 が け て い ま す。 あ い さ つ は コ ミ ら先にあいさつをするように心 相 手 が 誰 で あ っ て も、 ま ず 私 か 1 読書をすすめる います。 合う上でも大切なことと考えて て も ら う こ と は、 相 互 に 理 解 し をしようとしているのかを知っ えています。私が何を考え、何 声 を か け、 言 葉 を 届 け よ う と 考 ら う た め、 こ ち ら か ら 積 極 的 に まず、私という人間を知っても 2 ていきたいと思っています。 と し て、 本 を 読 む こ と を す す め ります。自分探しの一つの手段 分に出会える大切な機会でもあ るものです。また、知らない自 読書は、人生を豊かにしてくれ 3 この頃、実は前にもまして、父のよ うに教員を目指してはどうかとすすめ 生が、ふと私にこう言ったのです。 たこと、そして漠然としたアメリカへ は変わりません。我が校の素直でまじ ﹁人生、先のことなんてどうなるか誰 めな生徒たちには、大きなポテンシャ 少人数体制で教育が行われており、基 国も文化も言葉も違う作家と思想家の ルを感じています。彼ら・彼女らの成 礎的な教養を磨くとともに、ものの考 言葉ですが、言っている内容はほぼ同 長した姿を想像して、わくわくする毎 の憧れがあり、私は次第に英語を学問 え方を養うことに重点が置かれていま じことですよね。特に、大学教員にな として学びたいと思うようになりまし す。アメリカでは、基礎教養を磨く学 ってからのイェイツの言葉は心に浸み 日を過ごしています。 またゼロから始めたらいいんだ。だか 士課程︵大学︶と、専門性を追求する ました。 にもわからない。仮に失敗したのなら、 修士、博士課程︵大学院︶とは明確に ﹁教師とは人を育む者。心に知的な火 年間、大学教育一筋だった私が、 本校校長に就任したのが2013年4 区別されており、大学を卒業して社会 を灯す者﹂ に出ても、さらに専門的に学びたいと いう者には、常に学びの門戸が広く開 かれています。一度社会に出ると改め めて強く思ったのです。 私は一人の教育者としてこれを使命 として生きていきたいと、このとき改 育とは違い、文字通り﹁開かれた教育﹂ て学び直すことが難しい日本の高等教 を私はこのアメリカ留学で実感しまし 本当の グローバル教育とは? た。後年、桜美林大学にリベラル・ア 度に新入学生として入学した私が、今 れた瞬間はかけがえのない時間だと感 ーツを取り入れることに尽力できたの ここにあるのは、やはり縁なのだと実 キリスト教の教えも、グローバルな世 大学院修了後、桜美林大学の教員と して勤めることになりました。以後、 感しますね。 じます。 のウィリアム・バトラー・イェイツと 学生たちが声をかけてきてくれたとき そうして、大学の英語科教員になっ た私は、あるとき、アイルランド出身 いう詩人の言葉に出会います。それは、 思想家である河合栄治郎氏の﹃学生に して集積していくか。グローバルリー とが大切だと考えています。 者たちは、そのための能力を高めるこ うか。 与う﹄という本に、 ﹁教師とは、人生 教師をも追い越していく姿を見られる な意欲ある学生が人間的な成長をとげ、 桜美林中学校・高等学校の校長とな った今も、その教育者としての気持ち を思い出します。それがだんだんと発 の分岐点に立つ若者に潜める心霊に点 ダーとして、これからの社会を担う若 ﹁ Education is not the filling of a 火して、これを人生の戦いに駆ること﹂ とさらにうれしいですね。 という内容の一文があったことを思い その一文に私は深く感動したんです。 出しました。学生時代にその本を読み、 3 アメリカ留学時代の一枚。 「 アメリカでの生活はと ても楽しかったですね」 (大越校長先生) 2014/07/31 15:21 088-093_DN10_hmn_03.indd 090-091 41 090 091 『文藝春秋』を愛読 (⁉)していた頃の写真。本が大好きな 小学生だったそうです。 桜美林中学校の宿泊行事で生 徒にインタビューする大越校 長先生。 41 人気中学校 校長先生インタビュー ・キリスト教の教えを基にした﹁いのちの教育﹂。 ・自分、そして世界を見つめる〝目〟を養う英語教育。 3 10 12 11 真のグローバル化を 支える教育 桜美林中学校・高等学校の前身は、 1921年に中国の北京に清水安三氏 により設立された崇貞学園です。同校 は中国、朝鮮、日本の子どもがともに 中国から帰国した清水安三・郁子夫妻 学ぶ学校として設立されました。戦後、 は﹁自分を愛するように、隣人を愛す る﹂というキリスト教の精神をもとに、 改めて桜美林学園を創設しました。清 水氏は、教育モットーとして﹁学んだ ことを人のために、社会のために役立 てる﹂という意味を持つ﹁学而事人﹂ を掲げ、その精神は、今もなお同校の 教育の根幹として受け継がれています。 教育の大きな特徴として、まず﹁い のちの教育﹂が挙げられます。同校の 一日はクラス礼拝や、週に一度の学年 礼拝から始まります。特に学年礼拝で はチャプレン︵牧師︶のほか、各界で 活躍される方などの話を聞く時間があ り、生徒たちは感想を礼拝ノートにま とめ、教職員がコメントを返します。 ﹁私も含め、教員は皆で生徒のノート を読んでコメントを返しています。こ のやりとりを通じて、自分を顧みる時 間をつくることが教育の目的です ﹂ ︵大越校長先生︶ また、英語教育も同校の特徴の一つ です。同校では、 ﹁ Express Yourself ︵ 英語で自分を表現しよ in English う︶ ﹂を英語学習の目標として掲げて います。この頭文字をとると﹁EYE﹂ 、 つまり同校が目指す英語教育のキーワ ードにもなっています。これは、英語 などの外国語を通じて自己表現するこ とが﹁自分を見つめる〝目〟 、世界を 見つめる〝目〟を養う﹂ことにつなが るという意味です。具体的には英語で ﹂ 、 発 表 す る﹁ English Presentation ﹂な 英語で生活する﹁ English Camp ど、自身を英語で表現ができるように なるための、さまざまな機会が設けら れています。 同時に、多文化共生を意識した国際 教育として、第二外国語︵中国語・韓 それは、かつて中国、朝鮮、日本の子 国語︶を学ぶ機会も大切にしています。 2014/07/31 15:21 088-093_DN10_hmn_03.indd 092-093 1. 学年礼拝が行われる荊冠堂(けいかんど う)と呼ばれるチャペル。2. ニュージーラン ドでの短期留学。ほかに中国、韓国、イギリ ス、オーストラリア、アメリカでの海外研修 プログラムがあります。3. 学年礼拝の様子。 生徒たちは礼拝の感想を礼拝ノートにまと めます。 4. 中 1 の林間学校。5. 中 2 のサマースクールでは酪農を体験。6. ク ラブ活動は数も多く、積極的に活動しています。7. 成人式には卒業 生が自主的に集まり、礼拝形式でお祝いをします。8. 中 3 のオース トラリア研修では、ファームステイも経験。9. クリスマス礼拝。 10.「English Camp」では、終日、英語で生活します。11. 体育祭での 応援の様子。12. 独自の考え抜かれたカリキュラムが自慢です。 2 ・多文化共生を意識した国際教育。 1 092 093 どもたちが肩を並べて学んでいた当時 042-797-2668 を彷彿とさせる、同校独自の取り組み DATA と言えるでしょう。 アクセス/ JR 淵野 辺駅よりスクールバ スで約 7 分、 京王・小 田急多摩センター駅 よりスクールバスで 約 20 分 所在地/東京都 町田市常盤町 3758 TEL / 近年、大学進学実績の伸長がめざましい 桜美林中学校・高等学校。その一方で、心 を育てることも変わらず大切にしている 同校の魅力を探りました。 8 9 大越孝校長先生、 4 5 6 7 桜美林中学校 ・ 高等学校の魅力を 教えてください ! ココが 魅 力で す !
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