201511117 tkatayama

fNIRS 分析での t 検定と分散分析 片山 朋香 廣安 知之 日和 悟 2015 年 10 月 14 日 IS Report No. 2015111001 Report
Medical Information System Laboratory Abstract
現在,fNIRS 分析において確立されたデータ分析手法はなく,個々の研究者がそれぞれの判断でデー
タ解析を行っている.その中でも,統計が広く用いられてきた.脳血流の活性を認めるため,もしく
は安静時や課題時といったような対照となる状態と比較するために,t 検定や分散分析などが使用さ
れてきた.時系列データの安静時と課題時の平均値をデータとして用いるのが一般的である.データ
の種類や比較する条件の数などから,検定の種類を決める必要がある 1) .
本稿では,t 検定,分散分析についてと,fNIRS 研究においてどのように t 検定と分散分析が使わ
れてきたかを述べる.
キーワード: fNIRS,t 検定, 分散分析
目次
第 1 章 fNIRS データの分析方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2
第 2 章 t 検定
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3
第 3 章 分散分析 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
4
3.1
分散分析の基本 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
4
3.2
分散分析の種類 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
5
第 4 章 分散分析と fNIRS 研究 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
6
第 5 章 統計を用いた fNIRS 研究例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
8
5.1
t 検定を用いた研究例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
8
5.2
分散分析を用いた研究例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
8
第 1 章 fNIRS データの分析方法
fNIRS 研究では,標準化されたデータ分析手法はいまだ確立されていない.脳血流の活性を認めるた
め,もしくは安静時や課題時といったような対照となる状態と比較するために,個々の研究者がそれ
ぞれの判断で独自にデータ解析を行っている現状である.fNIRS データの分析にあたって,光路長の
問題を考慮しなければならない.現在,一般的に用いられている fNIRS 計測法では近赤外光の移動
距離を測定することは不可能であるため,計測値は相対的な変化量とみなされる.このことは,異な
る被験者,同一個人の異なる部位では直接の比較が困難となることを意味する 1,
2)
.
制約の範囲内で最も確実な分析方法は,個々人の計測値の変化を波形によって確認する手法である.
ひとつの計測期間中に光路長の変化がないと仮定すると,対象者個人の同一チャンネル内での変化量
では比較が可能となり,一部統計的解析を用いることができる 2) .fNIRS 分析において,今まで広
く統計が用いられきている.統計解析においては,時系列データの安静時と課題時の平均値をデータ
として用いるのが一般的である.データの種類や比較する条件の数などから,検定の種類などを決め
る必要がある 1) .また,光路長による制約を回避する手法として,比率値を用いた分析が行われて
いる.式 (1.1) のような脳機能の左右差を示す側化指数(LI:Laterality Index)も,比率値として対
象者同士の比較やグループ間比較に使用可能となる.両項に同一の光路長因子が含まれるため,原理
的にはその影響を除外することが可能と考えられている 2) .
LI = (∆Lef tHb − ∆RightHb)/(∆Lef tHb + ∆RightHb)
(1.1)
対象間の比較を含む場合は,分散分析が最も多く用いられている.被験者内要因を含むことが多い
ため,繰り返しのある分散分析を使うのが一般的である.
2
第 2 章 t 検定
t 検定は,次の 3 つの適用のために計画される 3) .
• 単一の母集団についての平均値を,ある一定値と比較するため
• 2 つの独立した母集団について平均値を,互いに比較するため
• 2 つの従属した測定値(たとえば,同一の個々体についての処理前と処理後での測定値)を比
較するため
Fig. 2.1 の模式図に示すように,t 検定には片側検定と両側検定がある.値に大小があると仮定で
きる場合は,片側検定を用いる.また,値の大小が仮定できない場合は,両側検定を用いる.
t 検定には,1 標本の t 検定,2 標本の t 検定,対応がある t 検定などがある.1 標本の t 検定は,1
標本の母平均がある基準値と等しいかどうかを検定する.2 標本の t 検定は,2 つの独立母集団の平
均が等しいかどうかを検定をする.どの t 検定を用いるかは,Fig. 2.2 の模式図に従う.2 つのデー
タがペアとして対応している対標本から得られた場合を「対応がある」といい,別々の標本から得ら
れた場合を「対応がない」という.データの対応がある場合は,対応がある t 検定を用いる.対応が
ない場合は,まず等分散かどうかを F 検定より確認する.F 検定より,等分散であれば Student の t
検定,等分散でなければ Welch の t 検定を用いる.
Fig. 2.1 片側検定と両側検定(自作)
Fig. 2.2 t 検定の種類(自作)
3
第 3 章 分散分析
分散分析とは,3つ以上の水準がある場合に,要因の有意性を判定する検定である.
3 群以上の水準があると,t 検定は使用することができない.例えば,A,B,C の 3 群がある時,
A-B,B-C,C-A 間において有意水準 5%で t 検定をした場合を考える.
「少なくとも 1 つが有意差あ
り」となる確率は,式 (4.1) より 14%となる.
1 − (1 − 0.05) × (1 − 0.05) × (1 − 0.05) = 0.14 (3.1)
このように,危険率が上昇し,甘く評価してしまうため,3 群以上の水準がある場合は分散分析を
使用する必要がある.
3.1
分散分析の基本
データには元々ばらつきがあり,この誤差によるばらつきを,要因によって変化した値と混同して
しまうと間違った分析の元となる可能性がある.意味のない変動(誤差変動)と意味のある変動(要
因によって変化した部分)の分散を分け,その分散比を求めることで,要因による変動が誤差に比べ
て十分に大きければ要因による変動があると判定する方法である.また,誤差変動とは,要因の平均
と観測値の差のことであり,要因による変動とは,全体の平均と要因の平均の差のことである.
分散分析の根底にある基本とは,あるいくつかの仮定の下で全体の平方和は各成分に分解できるこ
とである.つまり,全体変動を各変動成分の単純な和として表せることであることが重要である.い
くつかの仮定とは,
• 線形性
• 直交性
• 誤差に関する諸々の仮定
である.分散分析モデルは,線形モデルの一種である.注意点として,線形性は母数についてである.
分散分析モデルの式を行列表記にすると式 (3.2) のようになる.
y = Xβ + ε
(3.2)
ここで,y は被説明変数ベクトル,X は説明変数行列,β は母数ベクトル,ε は誤差変数ベクトル
を表している.直交性とは,説明変数ベクトル同士の内積が 0 ということである.つまり説明変数が
互いに相関していないことを意味している.
4
3.2 分散分析の種類
3.2
第 3 章 分散分析
分散分析の種類
Fig. 3.1 の模式図のように,分散分析は分類される.繰り返しがある場合は,被験者内要因の反復
分散分析,繰り返しのない場合は,被験者間要因の要因分散分析を用いる.反復分散分析とは,対応
がある t 検定を 3 群以上に拡張したものであり,要因分散分析とは,対応がない t 検定を 3 群以上に
拡張したものである.各分散分析は,要因の数によって 1 要因の一元配置分散分析,2 要因の二元配
置分散分析がある.被験者間要因とは,2 つの要因のすべての水準で異なる被験者を用いる場合であ
り,対応がないことに該当する.一方で,被験者内要因とは,各被験者が 2 つの要因のすべての水準
に参加する場合であり,対応があることに該当する.混合の要因とは,1 つの要因は被験者間,もう
1 つの要因は被験者内の場合である.
Fig. 3.1 分散分析の種類(自作)
5
第 4 章 分散分析と fNIRS 研究
fNIRS 研究においては,多因子分散分析の要因となる半球や電極数などの空間的な部位の配慮をする
必要がある.また,主効果と同じくらい,要因の交互作用を調査すべきである.主効果とは,各要因
の単独の効果であり,交互作用とは,要因が組み合わさって生じる効果である.
多チャンネル NIRS で分散分析を行うと,検定回数が増加し第一種の過誤が生じやすくなる.第一
種の過誤とは,本当は帰無仮説が正しいのに棄却してしまう過誤のことである.いくつかの関心領域
(ROI:region of interest)のチャンネル群にまとめることによって,検定回数を減少させることが可
能になる 2) .
分散分析は,何を比較したいのかによって用いる要因を考える必要がある.要因として以下のよう
な場合が考えられる.
• 対象者間の比較を含む場合
• 複数の課題間の比較を行う場合(繰り返しの課題・異なる条件の課題)
• 安静時と課題時の比較を行う場合
• チャンネル間での比較を行う場合
• 賦活の半球差をみる場合
注意点として,課題時とベースライン時の各平均値を指標とする場合は,課題区間(タスク前・タ
スク時・タスク後)が要因となる.しかし,課題時の変化量(課題時平均からベースライン時平均)
を指標とする場合は,課題区間は要因でない.
対応がない二元配置分散分析は,式 (4.1) で表すことが可能である 1) .また,飽和モデルは,式
(4.2) で表す.
yijl = µij + eijl
(4.1)
i = 1, ..., a; j = 1, ..., b; l = 1, ..., nij
y は,l 番目のサンプルデータ,i は要因 A の水準,j は要因 B の水準,µij は被験者の平均値,e は
誤差を表す.n は,観測数つまり水準の組み合わせを示している.
µij = µ + αi + βj + (αβ)ijl
(4.2)
µ は全体の平均,α は要因 A の効果,β は要因 B の効果,αβ は二元配置の交互作用を示している.
注意点として,αβ は積を表しているわけではない.
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第 4 章 分散分析と fNIRS 研究
分散分析を使った研究例が報告されている 1) .ウィスコンシンカード分類課題を用いて,2 チャン
ネル NIRS で被験者 10 名の左右の半球を計測した研究である.繰り返しのある 2 元配置分散分析を
半球 (左 vs 右) ×区間 (課題時 vs 安静時) に対して行っている.パラメータは OxyHb の相対濃度と
DeoxyHb の相対濃度である.定量化のために,OxyHb と DeoxyHb の平均値を左右半球で別々に計
算している.課題 25 秒前から 1 秒前の安静時と課題の 0 秒から 216 秒の値を用いて検定を行った.式
(4.1) と式 (4.2) より,研究と分散分析を対応させると,式 (4.3),Fig. 4.1 のように表すことが可能で
ある.
yij = µ + αi + βj + (αβ)ijl + eijl
(4.3)
i = 1, 2; j = 1, 2; l = 1, ..., 10
Fig. 4.1 fNIRS 研究と分散分析の対応(参考文献 1) を参考に自作
要因 A は半球に対応し,左半球と右半球の 2 つであるため,i は 2 である.また,要因 B は区間に
対応し,安静時と課題時の 2 つであるため,j は 2 である.αβ は,半球と区間の交互作用を表す.
注意点として,安静時と課題時の各被験者の平均値は異なるため,繰り返しのある 2 元配置分散分
析を使用すべきである.
7
第 5 章 統計を用いた fNIRS 研究例
fNIRS 研究において統計を用いて分析をしているものがこれまでに多くある.研究者が比較したい目
的によって要因を考えて,t 検定,分散分析を使用している.統計を用いている研究例をここでは紹
介する.
5.1
t 検定を用いた研究例
N-back 課題とランダムに数字が発生する課題を用いて,前頭前野の OxyHb 濃度の変化を調査した
研究がある 1) .課題時と安静時の 2 つの異なった状態の Hb 濃度変化を統計的に比較するため,有意
水準 0.1%で Student の t 検定が使用されている.
就学前児童のワーキングメモリでの前頭前野外側部を調査のために,大人と子供の被験者で異なる
記憶負荷で物体認識課題が行われた研究が報告されている 1) .課題中の有意な活性チャンネルを見
つけるため,有意水準 1%で Student の t 検定をしている.また,異なる記憶負荷での活性化の度合
いを比較するため,有意水準 5%で対応のある t 検定をしている.
5.2
分散分析を用いた研究例
半球間,区間の比較として,言語流暢課題時の前頭部の活性を計測した研究がある 1) .繰り返し
のある計測の 2 × 4 分散分析(半球(左 vs 右)×区間(安静時 vs 課題時))で検定を行った.パラ
メータは OxyHb,DeoxyHb である.
複数の条件間の比較として匂いの刺激後の乳児の嗅覚皮質の活性の研究が報告されている 1) .繰
り返しがある二元配置分散分析を異なる 3 つの条件(コントロール,初乳,バニラ)での各被験者の
OxyHb の平均値を用いている.
半球間・複数の課題間の比較と集団・複数の課題間の比較をした統合失調症の前頭部の機能的非対
称を調査がある 1) .合図の持続注意集中検査を行っている.2 × 3 の繰り返しがある分散分析(2 半
球× 3 区間)を DeoxyHb を用いて比較している.相対的な半球の活性の集団の違いを検定するため,
2 × 3 分散分析(2 集団× 3 区間)を正規化した左右の DeoxyHb の生データの比率を自然対数にした
値を使って比較している.
8
参考文献
[1] S. Tak and J.C. Ye, “Statistical analysis of fnirs data : A comprehensive review,” NeuroImage,
vol. 85, no. 1, pp. 72–91, 2014.
[2] 相澤直樹, 内海千種, 中村有吾牧田潔, 石橋正浩, 岩切昌宏, “近赤外分光法(NIRS)による前頭
葉血流動態の測定に関する文献的検討-認知課題を中心に-,” 学校危機とメンタルケア, vol. 2, pp.
59–72, 2009.
[3] M.Bremer and R.W.Doerge, アット・ザ・ベンチ バイオ実験室の統計学, 第 1 版, メディカル・
サイエンス・インターナショナル, 2011.
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