第8回 保険料の構造 保険料の構成 純保険料 営業保険料 (総保険料) 貯蓄保険料 (予定利率) 危険保険料 (予定死亡率) 新契約費 付加保険料 (予定事業費率) 維持費 集金費 など ①純保険料と付加保険料 ▽純保険料・・・保険金支払いに充当される部分、給付 反対給付均等の原則が適用される部分 ▽付加保険料・・・保険事業を維持管理するために要す る費用、リスクプレミアムに相当する 保険料は収入であり、保険金は支出 保険料=純保険料(危険保険料+貯蓄保険料)+付 加保険料(新契約費+維持費+集金費+ 損害調査 費 +代理店手数料+利潤) ②貯蓄保険料と危険保険料 貯蓄(蓄積)保険料=死亡保険料の一部として加入者に払い戻 されるか、将来の支払いに備えて積み立てられる保険料。 ※積立額の累計は、期間満了時に被保険者が生存している場合に 支払われれる満期保険金に最終的に一致する。あるいは解約 返戻金の原資ともなる。いずれにしても、蓄積保険料は加入者 に返還されるものであり、加入者からみると、貯蓄的な要素が大 きい。預金的性格を有するともいえる。 危険保険料=死亡保険金支払いのためにプールされて、被保 険者が死亡した契約について死亡保険金の一部となる保険料。 ※加入者はこれを公平に負担しているが、被保険者が死亡しなけ れば、いっさい保障を受けることはない。消費的要素を有する。 保険利潤の3源泉 (1)死差益(危険差益)・・・実際死亡率<予定死亡率 源泉は、危険保険料 死亡率(危険率)改善により発生する利潤 (2)費差益 ・・・実際事業費率<予定事業費率 源泉は、付加保険料 経営効率(経営努力)により発生する利潤 (3)利差益・・・実際利回り>予定利率 源泉は、貯蓄保険料 資産運用の巧拙により決定される利潤 (4)解約益・・・解約手数料として保険会社が受け取るもの。契約年数の浅い保 険からは、保険会社は、解約損が発生する可能性がある 契約者配当と保険料 ※有配当保険=利差配当+死差配当+費差配当・・・保 険料は高い(=予定利率は低めに設定、3年目から配 当) ※利差配当保険(準配当保険)=利差配当・・・保険料は 中程度(死差、費差は、保険会社へ) ※無配当保険=配当なし ・・・全ての利潤は保険会社 へ・・・保険料は低い(=予定利率を高めに設定) 責任準備金 将来の保険金や給付金、年金などの支払いに備えて、 保険会社が保険の種類ごとに過去に積み立てられた 準備金。保険業法によって、積立が義務付けられてい る。 (1) 「保険料積立金」(一時払い方式、平準方式で払い 込まれた保険料のうち、その 年度の危険率に相当す る部分を除いた蓄積保険料:契約日から整数年数を 経過した時点で計算される) (2)「未経過保険料」(収入保険料のうち、なお保険会社 の責任が残存している期間 に対応する部分:端数経 過の場合に計算される) 保険会社の貸借対照表 標準責任準備金と支払備金 ◎標準責任準備金・・・保険契約に基づく将来における保険金支払い(債 務)の履行に備えるための積立金 ①普通責任準備金 ②払い戻し積立金 ③契約者配当準備金 ④異常危険準備金 ⑤その他・・・地震保険危険準備金、原子力危険準備金、自賠責保険危険 準備金 ◎支払備金・・・保険事故の発生から保険金支払額の確定、実際の保険金 支払いまでの保険金の支払い見積額を計上して積み立てるもの ◎価格変動準備金・・・旧保険業法では86準備金とされてきた 資産による収益については、キャピタルゲインを含めた総合収益(インカムゲ インとキャピタルゲイン)を通常配当として還元することができるようになった。 と同時に、価格変動準備金として、一括して計上する。 保険会社が所有する株式などの価格変動による損失に備えるための積立 金(株式等の売買による損失の填補に充当する場合の他は使用してはなら ない。) 「将来法」と「過去法」 ●将来法の責任準備金=将来の変動要素をも加味して見込まれる収支の不 足額。つまり、将来の保険金支払いのために、現在用意しておかなければ ならない準備金 ●過去法の責任準備金=過去の収支の残額を社内に留保したもの 貯蓄保険料を蓄えて現在保有しているべき保険料総額 両者は、見積もりが正しければ、一致する。 平準保険料方式により、前半は、収入と支出の差が蓄積されて、責任準備金 は増加していくが、後半には収入の不足に充当されて責任準備金は毎期減 尐し、保険期間満了にいたってゼロとなる。 ◎責任準備金は、積立預金残高のような面があると同時に、評価勘定で ある。したがって、予定死亡率や、予定利率など、その際に使用する計算基 礎によって積み立てられるべき責任準備金は異なってくる。保険会社は責 任準備金を毎年度末の決算において確定することになっている。ただし、基 礎率は監督官庁によって定められており、保険会社が自由に決めることは できない。 定期保険の責任準備金 養老保険の責任準備金 定期保険と養老保険の比較 定期保険 養老保険(終身保険) 保障内容 死亡時に死亡保険金 (満期保険金はない) 死亡時には、死亡保険金 満期まで生存した場合、満 期保険金 純保険料の構成 危険保険料 危険保険料+貯蓄保険料 責任準備金 積立額は小さい 積立額は大きい 解約返戻金 尐ない(ほとんどない) 責任準備金に応じて決まる 保険料額 低い 高い チルメル式責任準備金積立 チルメル式 新契約費支出の困難さ(セールスマン報酬、審査費用、証券作成費用など) 各年度の付加保険料に差異を設ける考え方。第一年度の付加保険料を 超える経費は、当該契約の純保険料から賄われ、純保険料から経費に充 当された部分は第二年度以降の付加保険料で埋め合わされていく。 こうしたことから、責任準備金の積立方が異なる。 (ア)第一年度の純保険料が尐なく、経過年数の浅い時点では責任準備金も尐 なくなるが、第二年度以降の付加保険料で埋め合わされた時点で両者は等 しくなる。 ===>解約返戻金が減額される (イ)第一年度の経費を償却する期間によって、5年チルメル、10年チルメル、 全期チルメルなどに区別される(チルメル経過後は、純保険料方式と同じ付 加保険料となる。) 純保険料式とチルメル式による 責任準備金積立の比較 なぜ、払込保険料総額よりも 解約返戻金が尐ないのか ●付加保険料部分 ●危険保険料として消滅している部分 ●初年度の経費が回収されていない 契約年数が尐ないと解約返戻金はほとんどない ※責任準備金は、保険商品の構成にも大きな影響を受ける 責任準備金の割合は、 ①保障性商品よりも生存保障(貯蓄性保険、年金) ②定期保険より終身保険(終身、年金など)終身保険より養老保険 ③短期保険より長期保険 ④全期払い契約よりも短期払い契約 のほうが、貯蓄的要素つまりキャッシュバリューが大きい。 保険料設定における生保と損保の比較 <生命保険> <損害保険> 長期保険料 短期保険料 全社統一的な標準責任 準備金に基づく料率設定 損害率実績より各社が決 定可能 利益源=3利源における 会社留保部分 利益源=1-コンバインド レシオ(損害率+付加率) 保険料改定は、標準生命 保険料改定は、損害率の 表の改定による 実績による ③個別保険料と平均保険料 ●個別保険料=個別のリスクに応じて設定される保険料 ●平均保険料=保険集団全体の平均的に設定される保険料 一般的には、危険同質性と危険大量性とのトレード・オフを解消 するために、大まかに分類された保険集団に対する平均保険 料から、割引・割増の要素を加味することで、個別保険料へ接 近させる手法がとられる。 <個別保険料主義への接近> ①保険の目的物の条件に応じて保険料を設定する方法 ②過去の実績に応じて基準保険料に割引・割増する方法 ③保険者の主観的判断による方法 メリットレイティングと経済効果 メリットレイティング(Merit Rating)=個別保険料に接近するために、 契約者の実績に応じて保険料を調整する方法、MD法ともいう <効果> (1)事故費用の再分配(cost redistribution) (2)適正保険料への誘導効果 (3)金銭的報奨あるいは責任追及(financially responsibility motorists) (4)事故抑止機能(deterrence)=コントローラビリティ (5)尐額保険金請求抑止効果 (6)公衆の容認(public acceptance) (7)経営効率性(efficiency) しかし、メリットレイティングは、導入コストが比較的やすく、契約者の 公平感が得られやすいが、過度の導入は、保険原理にとって、大 きな問題がある。 ④自然保険料と平準保険料 保 険 料 (率 ) 自然保険料 補填分 過収分 平準保険料 加入 年齢 契約 終了 自然保険料の計算 30歳 31 32 33 34 35 生存者数 1000 998 995 991 986 980 死亡者数 死亡率 自然保険料(円) 2 0.002000 2000 3 0.003006 3006 4 0.004020 4020 5 0.005045 5045 6 0.006085 6085 7 0.007143 7143 (保険金100万円に対して) 自然保険料 各年齢(危険率)に応じて算出された保険料 平準保険料 30歳から5年間の死亡者総数・・20人 払込延べ人数・・・・4970人 ∴年払い保険料は、 100万円×20÷4970=4024 平準保険料方式の効果 ・高年齢になるほど死亡率が上昇するために加齢するご とに禁止的に保険料が増加していく ・加齢するごとに、健康状態によって、保険加入の不合 理さを理由にして、健康な人が保険から脱落していく 可能性が高まる。 <効果> ①高齢時の保険料負担の軽減 ②逆選択の防止 ③保険資産の蓄積 ④保険経営の安定性(不確実性への対応) (参考)正味保険料と元受保険料 正味保険料=総保険料―〔(再保険料+解約返 戻金+その他返戻金+満期払戻金および無事 戻し金)-(再保険返戻金およびその他の再保 険収入)〕・・・純正味保険料 元受保険料=元受総保険料―(解約返戻金+ その他返戻金+満期払戻金および無事戻し 金)・・・・・再保険を除外したもの (参考)民間保険の体系 図 7 -4 民間保険の分類 死亡リスク のための保険 生命保険 死亡保険(定期保険、終身保険、定期付き終身保険など) 生死混合保険(養老保険、定期付養老保険、生存給付金付き定期保険など) 生存リスク のための保険 民間保険 生存保険(個人年金、貯蓄保険、こども保険 就業不能保障保険、医療保障保険、介護保障保険、ガン保険など) 自動車保険(自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)、 対人賠償保険、対物賠償保険、車両保険など)) 個人生活リスク のための保険 火災保険(住宅火災保険、住宅総合保険、地震保険など) 損害保険 傷害・医療・介護保険(傷害保険、積立型傷害保険、医療費用保険、介護費用保険など) 自動車保険(自動車損害賠償責任保険(自賠責保険) 対人賠償保険、対物賠償保険、車両保険など) 企業活動リスク のための保険 建物・動産保険(火災保険、風水害保険、動産総合保険、機械保険、盗難保険、ガラス保険) 輸送・海上保険(貨物保険、船舶保険、運送保険、航空保険など) 賠償責任保険(生産物賠償責任保険、役員賠償責任保険など) 費用・利益保険(企業費用・利益総合保険。興行中止保険など) 保証・信用保険 原子力保険 労災保険(労働災害総合保険) 25
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