清水 武さんの 飛行機に乗ったドン・キホーテ 第9回 マチュピチュ アンデス山中に眠るインカ文明 胸 を 突くような 急 傾 斜 の 山 肌 を、小 型 バスで 登り、岩 だらけ の 山 の 斜 面 を 5 分も歩 い た 私 は 、突 然 、眼 前 に 広 がった 視 界 に「アッ」と 驚きの 声を上 げてしまいました。 「なんという荘 厳 な 遺 跡! しかも こん な 高 い 山 の 頂 に!」。そ れ はまさに 幻 の 空 中 都 市 の 名 に ふ さ わしい光景でした。 山 の 中 腹 から山 頂 に か けて段々畑 にも似 た 石 造りの 市 街 地 の 跡 が 続 いています。王 宮 や 寺 院 だったらしき跡もある。向こう側 にそびえる山 の 頂 にも神 殿らしい 遺 跡 が、雲と霧 の 中で 見え隠 れしている。眼 下 に は、アマゾン川 の 源 流 の 一 つウル バンバ 川 が 千 尋 の 峡 谷を 作り、その 川 音 が 岸 壁をよじ登ってきて耳 に 響く。雲 霧 行き交うこの 山 の 頂 に、いった い 何 の目的で、どのようにこの 石 造 都 市を築 い た の だろうか。歴 史 学 者 にかぎらず、一 旅 行 者 に とっても、マチュピチュほど不思議で魅力ある遺跡はないでしょう。 前日はインカ帝 国 の 古 都クスコを訪 れていました。標 高 3 4 0 0 m。8月だというの に、吹き 抜 ける風 は 肌を刺 すように 冷 た い。インディオの 露 店 からリャマ の 毛 の セーターを買 い 求 め、 「高 山 病 の 予 防 に」と勧 められてマテ茶を飲 む。クスコからマ チュピチュへ は 高 山 鉄 道 が走っています。列車はアンデスの山中をゆっくりと、また何回もスイッチバックを繰り返し な がら進んで いきます。4 時 間 ほどで 終 着 駅 へ。そこから小 型 バスで、高さ5 0 0 m 以上 の 山 の断崖を、日光の「いろは坂」方式で上りつめたのです。 1 5 3 1 年、スペインの 征 服 者ピサロが 1 6 5 人 の 部 下を連 れてきたとき 、中央アンデスを支配していたインカ帝国のアタワルパ王の下には約1 万 の 兵 が いました 。兵 の 絶 対 数 で はとてもか な わ な い 。そこで ピ サ ロ は 奇 策をめぐらし、平 和 交 渉をすると見 せ か けて、まんまと王を虜 にし た ので す。ピラミッド型 の 指 揮 系 統 にあったインカ帝 国 は、王を失うと たちまち崩 壊してしまいました 。インカ 兵 にとって、ス ペ イン 兵 の 用 い る鉄 砲と騎 馬 は 大 変 な 脅 威で、それまで 見 たこともな かった 馬 は 四 足 の怪物 くらいに思えたかもしれません。 こうして、栄 光 を 誇って い た インカ 文 明 も歴 史 の 舞 台 か ら 消 えてしま い まし た 。そして 遺 跡 は 1 9 1 2 年、アメリカの 考 古 学 者 ハイラム・ビンガ ムが乙女 蒸 発 の 伝 説 に 惹 か れ て調 査・発 見 するまで 4 0 0 年 近く もアンデスの山中深く眠っていたのです。 かくも見 事 な マチュピチュの 廃 墟 に立 つと、ティオ ティワカン の ピラミッド に 代 表 されるアス テカ 文 明 や、ユカタン半 島 の マ ヤ文 明とあわ せて、とめどもな い歴史への感慨が胸を去来するのでした。
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