東京バッハ合唱団 月報 BACH-CHOR, TOKYO Monthly Newsletter No.527 May 2006 [第 527 号] 2006 年 5 月号 ― 〒156-0055 東京都世田谷区船橋 5-17-21-101 E-mail:bachchortokyo@aol.com Tel:03-3290-5731 Fax:03-3290-5732 http://www2.tky.3web.ne.jp/~bach/chor/ 5-17-21-101 Funabashi, Setagaya-ku, Tokyo 「ああ 感謝せん 神に!」BWV192、 東京バッハ合唱団の演奏に感銘 ボンヘッファー生誕 100 周年記念大会 小 海 基 (日本基督教団荻窪教会牧師・日本ボンヘッファー研究会員) 演劇、映画の上演などがなされる事です。ボンヘッファー は 39 歳という若さで亡くなったのですが、 単なる神学者と いうだけではなく、劇作品や小説も書き残している多彩な 神学者でした。 特に音楽に関してはそもそもプロの音楽家を目指すか神 学者、牧師を目指すか真剣に悩んだというほどの腕前を持 っていました。ボンヘッファーの家系をたどるとそのこと は納得がいきます。母方の祖母はピアニストであり、クラ ラ・シューマンとフランツ・リストの高弟。姉の夫の父は ハンガリーの作曲家でベルリン音楽大学の教授でもあり、 今もCDでその作品を聴くことのできるエルンスト・フォ ン・ドーナニーです。ですから、今現存しているボンヘッ ファー家の人々も音楽界の著名人が多いのです。例えばア メリカのクリーヴランド交響楽団主席指揮者のクリスト フ・ドホナーニは彼の甥で、少年時代にボンヘッファーの ピアノ伴奏でフルートを吹いているという有名な写真が残 されていますし、 『獄中書簡』 の中に出てくるディートリッ ヒ・ヴィルヘルム・リューディガー・ベートゲという名の もう一人の甥は(幼児洗礼に際して獄中のボンヘッファー から名前と言葉を贈られた) 、 現在ロンドン交響楽団のヴィ オラ奏者として活躍しているといった具合です。 さらに言えばボンヘッファー研究者の中にも音楽関係者 が多いのです。 『ボンヘッファー獄中詩編』 という書物を書 いた東ドイツ(当時)のユルゲン・ヘンキース教授は、ド イツの新讃美歌集E.K.Dの編集者としてとくに諸外国の 讃美歌をドイツ語に訳して収める部門の責任を担いました し、日本基督教団の『讃美歌 21』編集委員にも、バプテス ト連盟の『新生讃美歌』編集委員にも我が日本ボンヘッフ ァー研究会員がいて大きく貢献しています。そしていうま でもなく東京バッハ合唱団の大村恵美子先生も研究会のメ ンバーとして大活躍しておられます。 2005 年から 06 年にかけての1年間は、私たち日本ボン ヘッファー研究会にとってとても重要な年でした。05 年 4 月 9 日がナチ政権によって強制収容所で絞首刑に処せられ たディートリヒ・ボンヘッファー牧師(1906-45)の没後 60 年、 06 年 2 月 4 日が生誕 100 年という年であったからで す。世界中でいろいろな記念集会がもたれました。 日本は第二次世界大戦でドイツと軍事同盟を結んだ国で あり、ドイツの教会以上に日本の教会は戦争協力をになっ た歴史を持ちました。だからこそ戦後の日本の教会は教派 を超えて、ドイツの告白教会が時のナチ政権に抵抗しつづ けた歴史や、カール・バルトたちが中心になって告白した 「バルメン宣言」 、戦後の「罪責告白」 、ボンヘッファー牧 師たちの戦いと神学といったものを精力的に学びつづけて きました。ひとしおの思いがあるのです。世界の中でドイ ツ語、英語につづいて最も多くのボンヘッファーの著作が 訳され読まれている国がこの日本なのです。 ★ 3 月 21 日(春分の日)午後 3 時から信濃町教会で行なわ れた日本バルト協会と日本ボンヘッファー研究会主催の 「ボンヘッファー生誕 100 年記念大会」は、そういう思い で全国から集まった 230 名以上の人々にあふれかえった大 変大きな会となりました。この会では、ドイツから『新ボ ンヘッファー全集』の中心をになったイルゼ・テート博士 とディルク・シュルツ牧師という 2 人の研究者を、仙台か ら宮田光雄東北大学名誉教授を招き、感銘深い講演がなさ れました。諸講演はこれから出される「福音と世界」6 月 号誌上に採録されますが、これらの講演にひときわ感銘深 い印象を添えたのが、開会礼拝のなかで捧げられた東京バ ッハ合唱団によるバッハのカンタータ第 192 番《ああ感謝 せん神に》と、参加者全員で歌ったボンヘッファー牧師の 詩による讃美歌 《善き力にわれ囲まれ》 (これは彼が獄中で 書いたもので、 『讃美歌 21』469 とバプテスト連盟の『新生 讃美歌』73 の 2 つの版によって歌われました) 、同じく《キ リスト者と異邦人》 (「なやみのさなか神に助け求め」 、こ れは大村恵美子先生の訳!)でした。 ボンヘッファーの研究会は世界的な広がりをもち、各国 で大会が開かれるのですが、その度に私たち日本からの参 加者が圧倒されるのがボンヘッファーにちなんだ演奏会や ★ ドイツを東西に分断する壁が崩され統一がなされたとき、 J.S.バッハゆかりのライプツィヒ聖トマス教会やドレス デンの聖十字架教会、指揮者のクルト・マズアといった人 たちが大きな影響力をもったことは有名な話です。神学や 音楽は一見この世の政治とまったく無関係な分野のことの ように見えますが、ボンヘッファーの神学やバッハの音楽 1 たか? ボンヘッファーと同時代の彫刻家です。 ナチ政権か ら退廃美術の烙印を押され、破壊されそうになった彼の彫 刻の数々が来日しているのです。その中で私にとってはバ ルラッハの最晩年の作品がとくに印象的でした。 「歌う男」 と「笑う老女」です。バルラッハの作品は次々と破壊され、 生活も追い詰められて敗戦前に彼は亡くなるわけですが、 いちばん悲惨な時代にいちばん明るい作品を彼は残してい るのです。時代の暗闇に巻き込まれず、嵐の只中で次の時 代の希望を指し示す力を、私はボンヘッファーの言葉や、 バッハの音楽、 バルラッハの彫刻からいつも感じています。 そうした輝きを、東京バッハ合唱団の皆さんの歌声は、確 かに響かせていました。感謝です。 の深い水脈に連なる人々が反ナチ政権抵抗運動や戦後の東 西冷戦の克服に大きな影響を与えているのですね。直接的 にこうした運動の精神的支柱を担っているのです。最近で も、今度のローマ教皇ベネディクト 16 世自身が、これまで 少年時代にヒトラーユーゲントであったことばかりマスコ ミで報道されてきましたが、それだけではなくて、少年時 代をバッハの合唱団として定評のあるグループの1つ、ド イツのレーゲンスブルク大聖堂の聖歌隊員として育ち、お 兄さんはその指揮者として生涯を全うした人であることを 私は就任祝賀コンサートのDVDで知らされびっくりしま した。 ★ ボンヘッファーの生誕 100 年を祝うのに東京バッハ合唱 団の皆さんがバッハのカンタータ 192 番を選ばれたのは、 本当にふさわしい選択であったと思います。単に大会に花 を添えるというだけの華々しい作品というのではなくて、 歌詞の内容がとても印象的に響き合っていたと思います。 コラール自体がドイツ三十年戦争(1618-48)の終結した際 に歌われた平和のコラール(Martin Rinckart“Nun danket alle Gott”1636)として有名ですし、また元になる聖書テ キスト(旧約外典シラ書 50,24-26)も神の業のために選ば れ、立てられた苦難の預言者にちなんだもので、そのよう に平和を祈り、苦難の伴うキリストへの服従の道に生涯を 捧げたボンヘッファーと重ねながら、今の私たちに与えら れた使命を思う大会にふさわしいものだとしみじみと感じ ました。 ふだんは大村訳の日本語でカンタータを歌われている東 京バッハ合唱団のことですから当然日本語で歌うのかと私 は思っていたのですが、ドイツ語で歌われたのにはびっく りしました。遠路のメインゲストへのご配慮です。私は開 会礼拝の司式者でしたので良く見えたのですが、最前列に すわるドイツからの 2 人のゲストが、憑かれたように聴き 入っていたのがとても印象的でした。また 3 曲歌われたボ ンヘッファーの獄中詩による讃美歌は村上伸先生の説教や 宮田光雄先生の講演でも触れられ、説教者も講演者も感極 まって涙ぐむという場面もあって、音楽の力はすごいもの だと感じました。 ボンヘッファー神学における音楽の重要性については、 大村恵美子先生の研究やCDが世界的にも注目を集めてい ます。それらは日本のボンヘッファー研究の大きな貢献の ひとつであると思っています。彼の『獄中書簡』を読むと、 ボンヘッファーは差し入れられた「ローズンゲン」と共に 「マタイ受難曲」のフルスコアを読みながら、バッハやそ こに出てくるパウル・ゲルハルトの讃美歌に支えられて最 期の日々をすごしていたことが良く分かります。聖書から 真実な神学や音楽、歌が生み出され、あのような暗闇の時 代にもかかわらず希望の言葉が生まれ、力を持っていった ということを知らされます。そうしたボンヘッファーの一 面を知らせてくださった東京バッハ合唱団の名演奏でした。 ▲ エルンスト・バルラッハ 「歌う男」 1928 年 ▼ エルンスト・バルラッハ 「笑う老女」 1937 年 ★ 今年はもうひとつ、エルンスト・バルラッハ(1870-1938) の彫刻展が東京芸大で開催されています。ご覧になりまし 2 2006 年後半‐2007 年 3 月の活動予定 受難曲と美術作品 ④ 団員総会 6 月 24 日(土)15:30−17:30 会場:世田谷中央教会 キリストの捕縛 白木 博也 合唱団の活動年度は、毎年 7 月 1 日(創立記念日)から 翌年 6 月末日までとし、6 月最終の練習日に団員総会が開 かれます。年間の事業と決算の報告があり、新年度の活動 が討議される、団のもっとも重要な会議です。 ことに今年度は、2007 年 3 月の《マタイ受難曲》演奏会 にむけて、 多くの新入団員が加わりつつある現状ですので、 新しい方々も共に合唱団の実情を知っていただくよい機会 となります。ぜひ出席してください。 オリーブ山が突然、騒乱の場となる。現れた兵士たちの 前で、キリストに裏切りの接吻をかわすユダ。マルコの耳 を削ぐペテロ。 創立記念懇親会とバザー 【本紙 4 面にご案内】 6 月 26 日(月)18:30-20:30 会場:目白聖公会 参加費:2000 円(軽食代・記念品代を含む) 団友や後援会員、ご支援の皆様にひろく呼びかけて、団 員ともども一堂に会し、親しく交流をたのしむ会です。 今年は久しぶりに、合唱団の経常会計と演奏会会計、後 援会の会計と、すべてにおいて赤字が克服され、来春の《マ タイ》 (創立 45 周年記念)にそなえて財政的にも憂慮のな い態勢をととのえているところです。一角に併設されるバ ザーコーナーも定着してきました。ご参加、献品等、みな さまのご協力をお待ち申し上げます。 なお、ご参加の記念品として、これまで数年にわたって 月報に逐次連載してきた《マタイ受難曲》関連の記事を、 冊子にまとめてお渡しする予定です。 来春の演奏のために、 くりかえし参考に読まれて、役立てていただきたいと思い ます。 ▲ドゥチョ・ディ・ブォンセーニャ(1255/60-1315/18) イタリア・シエナ,ドゥオモ付属美術館「マエスタ」より 《マタイ受難曲》夏期特別集中練習 8 月 5,12,19,26 日(いずれも土)13:00−19:00 会場:世田谷中央教会 今年は、野尻湖での合宿と神山教会コンサートとを返上 して、8 月中の全 4 週の土曜日を《マタイ》の集中練習に 充てることにしました。遠隔にお住まいなどで、なかなか 練習に通えない方々も、 どうぞこの機会をご利用ください。 なお、8 月中は月曜の練習は休会となります。 ▲ジョット・ディ・ボンドネ(1266-1337) イタリア・パードバ,スクロヴェーニ聖堂 ■《マタイ受難曲》 :第 26 曲 エヴァンゲリスタ(T)/イ ェス(B) クリスマス祝会 12 月 18 日(月)18:30-20:30 会場:目白聖公会 ■『マタイによる福音書』 :第 26 章 47-56 節 3 今年は、 やはり例外的に 12 月の定期演奏会がありません。 その代わり、16 日(土)まで《マタイ》の練習をしっかり 続けます。 年の終わりに、もろもろの感謝をこめ、新年の祝福をい のりながら、クリスマス会で活動をしめくくります。最近 は、後援会員・団友の方々のご参加も多くなり、うれしく 思っています。 ご出席くださって、来春早々の《マタイ》上演へのお励 ましをいただければ、しあわせです。 特別演奏会《マタイ受難曲》抜粋 2007 年 3 月 3 日(土)15:30−17:30 会場:世田谷中央教会 テノール(エヴァンゲリスト) :鳥海 寮 聖書朗読:加藤剛男 合唱:東京バッハ合唱団+児童合唱団 ピアノ:内山亜希 指揮:大村恵美子 創立 45 周年記念・第 100 回定期演奏会《マタイ受難曲》 2007 年 3 月 21 日(火・祝日)17:00 開演 会場:杉並公会堂(2006 年 6 月新装開館、JR 荻窪駅下車) ソプラノ:光野孝子 アルト:佐々木まり子 テノール(エヴァンゲリスト) :鏡 貴之 テノール:佐伯雅巳 バス:渡邊 明 バス:宇佐美桂一 創立 44 周年記念 手づくり懇親会とバザーのご案内 合唱:東京バッハ合唱団+児童合唱団 管弦楽:東京カンタータ室内管弦楽団 【前ページのスケジュール欄もご覧ください】 6 月 26 日(月)18:30-20:30 会場:目白聖公会 参加費:2000 円(軽食代・記念品代を含む。当日、会 場にてお支払いください) 指揮:大村恵美子 《マタイ受難曲》の上演会場となる杉並公会堂は、本年 6 月オープン予定のシューボックス型クラシック音楽専用ホ ール。どんな響きになるのか楽しみです。 毎年の創立記念パーティを、これまではレストランなど の一室を借りきってお祝いしていましたが、昨年、普段の 練習に使っている会場で、団員の方々の持ち寄った食べ物 などによる手づくりの懇親会を試みましたら、お客様がた にはとても喜んでいただいたようです。 そこで、今年も同じ趣向でいたします。 ▼杉並公会堂(1190 席) ● ご友人もお誘い合わせで、ぜひご参加ください。食事 の準備等のため、なるべくご予約ください(事務局) 。 ● 会場での演奏やスピーチなど、大歓迎。事前にお知らせ ください。 ● 当日のバザー用の提供品をお送りください。前日まで に事務局あてにお送りいただければ幸いです。 4
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