月報第527号 2006年5月

東京バッハ合唱団 月報
BACH-CHOR, TOKYO
Monthly Newsletter No.527
May 2006
[第 527 号] 2006 年 5 月号
―
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「ああ 感謝せん 神に!」BWV192、 東京バッハ合唱団の演奏に感銘
ボンヘッファー生誕 100 周年記念大会
小 海
基
(日本基督教団荻窪教会牧師・日本ボンヘッファー研究会員)
演劇、映画の上演などがなされる事です。ボンヘッファー
は 39 歳という若さで亡くなったのですが、
単なる神学者と
いうだけではなく、劇作品や小説も書き残している多彩な
神学者でした。
特に音楽に関してはそもそもプロの音楽家を目指すか神
学者、牧師を目指すか真剣に悩んだというほどの腕前を持
っていました。ボンヘッファーの家系をたどるとそのこと
は納得がいきます。母方の祖母はピアニストであり、クラ
ラ・シューマンとフランツ・リストの高弟。姉の夫の父は
ハンガリーの作曲家でベルリン音楽大学の教授でもあり、
今もCDでその作品を聴くことのできるエルンスト・フォ
ン・ドーナニーです。ですから、今現存しているボンヘッ
ファー家の人々も音楽界の著名人が多いのです。例えばア
メリカのクリーヴランド交響楽団主席指揮者のクリスト
フ・ドホナーニは彼の甥で、少年時代にボンヘッファーの
ピアノ伴奏でフルートを吹いているという有名な写真が残
されていますし、
『獄中書簡』
の中に出てくるディートリッ
ヒ・ヴィルヘルム・リューディガー・ベートゲという名の
もう一人の甥は(幼児洗礼に際して獄中のボンヘッファー
から名前と言葉を贈られた)
、
現在ロンドン交響楽団のヴィ
オラ奏者として活躍しているといった具合です。
さらに言えばボンヘッファー研究者の中にも音楽関係者
が多いのです。
『ボンヘッファー獄中詩編』
という書物を書
いた東ドイツ(当時)のユルゲン・ヘンキース教授は、ド
イツの新讃美歌集E.K.Dの編集者としてとくに諸外国の
讃美歌をドイツ語に訳して収める部門の責任を担いました
し、日本基督教団の『讃美歌 21』編集委員にも、バプテス
ト連盟の『新生讃美歌』編集委員にも我が日本ボンヘッフ
ァー研究会員がいて大きく貢献しています。そしていうま
でもなく東京バッハ合唱団の大村恵美子先生も研究会のメ
ンバーとして大活躍しておられます。
2005 年から 06 年にかけての1年間は、私たち日本ボン
ヘッファー研究会にとってとても重要な年でした。05 年 4
月 9 日がナチ政権によって強制収容所で絞首刑に処せられ
たディートリヒ・ボンヘッファー牧師(1906-45)の没後
60 年、
06 年 2 月 4 日が生誕 100 年という年であったからで
す。世界中でいろいろな記念集会がもたれました。
日本は第二次世界大戦でドイツと軍事同盟を結んだ国で
あり、ドイツの教会以上に日本の教会は戦争協力をになっ
た歴史を持ちました。だからこそ戦後の日本の教会は教派
を超えて、ドイツの告白教会が時のナチ政権に抵抗しつづ
けた歴史や、カール・バルトたちが中心になって告白した
「バルメン宣言」
、戦後の「罪責告白」
、ボンヘッファー牧
師たちの戦いと神学といったものを精力的に学びつづけて
きました。ひとしおの思いがあるのです。世界の中でドイ
ツ語、英語につづいて最も多くのボンヘッファーの著作が
訳され読まれている国がこの日本なのです。
★
3 月 21 日(春分の日)午後 3 時から信濃町教会で行なわ
れた日本バルト協会と日本ボンヘッファー研究会主催の
「ボンヘッファー生誕 100 年記念大会」は、そういう思い
で全国から集まった 230 名以上の人々にあふれかえった大
変大きな会となりました。この会では、ドイツから『新ボ
ンヘッファー全集』の中心をになったイルゼ・テート博士
とディルク・シュルツ牧師という 2 人の研究者を、仙台か
ら宮田光雄東北大学名誉教授を招き、感銘深い講演がなさ
れました。諸講演はこれから出される「福音と世界」6 月
号誌上に採録されますが、これらの講演にひときわ感銘深
い印象を添えたのが、開会礼拝のなかで捧げられた東京バ
ッハ合唱団によるバッハのカンタータ第 192 番《ああ感謝
せん神に》と、参加者全員で歌ったボンヘッファー牧師の
詩による讃美歌
《善き力にわれ囲まれ》
(これは彼が獄中で
書いたもので、
『讃美歌 21』469 とバプテスト連盟の『新生
讃美歌』73 の 2 つの版によって歌われました)
、同じく《キ
リスト者と異邦人》
(「なやみのさなか神に助け求め」
、こ
れは大村恵美子先生の訳!)でした。
ボンヘッファーの研究会は世界的な広がりをもち、各国
で大会が開かれるのですが、その度に私たち日本からの参
加者が圧倒されるのがボンヘッファーにちなんだ演奏会や
★
ドイツを東西に分断する壁が崩され統一がなされたとき、
J.S.バッハゆかりのライプツィヒ聖トマス教会やドレス
デンの聖十字架教会、指揮者のクルト・マズアといった人
たちが大きな影響力をもったことは有名な話です。神学や
音楽は一見この世の政治とまったく無関係な分野のことの
ように見えますが、ボンヘッファーの神学やバッハの音楽
1
たか? ボンヘッファーと同時代の彫刻家です。
ナチ政権か
ら退廃美術の烙印を押され、破壊されそうになった彼の彫
刻の数々が来日しているのです。その中で私にとってはバ
ルラッハの最晩年の作品がとくに印象的でした。
「歌う男」
と「笑う老女」です。バルラッハの作品は次々と破壊され、
生活も追い詰められて敗戦前に彼は亡くなるわけですが、
いちばん悲惨な時代にいちばん明るい作品を彼は残してい
るのです。時代の暗闇に巻き込まれず、嵐の只中で次の時
代の希望を指し示す力を、私はボンヘッファーの言葉や、
バッハの音楽、
バルラッハの彫刻からいつも感じています。
そうした輝きを、東京バッハ合唱団の皆さんの歌声は、確
かに響かせていました。感謝です。
の深い水脈に連なる人々が反ナチ政権抵抗運動や戦後の東
西冷戦の克服に大きな影響を与えているのですね。直接的
にこうした運動の精神的支柱を担っているのです。最近で
も、今度のローマ教皇ベネディクト 16 世自身が、これまで
少年時代にヒトラーユーゲントであったことばかりマスコ
ミで報道されてきましたが、それだけではなくて、少年時
代をバッハの合唱団として定評のあるグループの1つ、ド
イツのレーゲンスブルク大聖堂の聖歌隊員として育ち、お
兄さんはその指揮者として生涯を全うした人であることを
私は就任祝賀コンサートのDVDで知らされびっくりしま
した。
★
ボンヘッファーの生誕 100 年を祝うのに東京バッハ合唱
団の皆さんがバッハのカンタータ 192 番を選ばれたのは、
本当にふさわしい選択であったと思います。単に大会に花
を添えるというだけの華々しい作品というのではなくて、
歌詞の内容がとても印象的に響き合っていたと思います。
コラール自体がドイツ三十年戦争(1618-48)の終結した際
に歌われた平和のコラール(Martin Rinckart“Nun danket
alle Gott”1636)として有名ですし、また元になる聖書テ
キスト(旧約外典シラ書 50,24-26)も神の業のために選ば
れ、立てられた苦難の預言者にちなんだもので、そのよう
に平和を祈り、苦難の伴うキリストへの服従の道に生涯を
捧げたボンヘッファーと重ねながら、今の私たちに与えら
れた使命を思う大会にふさわしいものだとしみじみと感じ
ました。
ふだんは大村訳の日本語でカンタータを歌われている東
京バッハ合唱団のことですから当然日本語で歌うのかと私
は思っていたのですが、ドイツ語で歌われたのにはびっく
りしました。遠路のメインゲストへのご配慮です。私は開
会礼拝の司式者でしたので良く見えたのですが、最前列に
すわるドイツからの 2 人のゲストが、憑かれたように聴き
入っていたのがとても印象的でした。また 3 曲歌われたボ
ンヘッファーの獄中詩による讃美歌は村上伸先生の説教や
宮田光雄先生の講演でも触れられ、説教者も講演者も感極
まって涙ぐむという場面もあって、音楽の力はすごいもの
だと感じました。
ボンヘッファー神学における音楽の重要性については、
大村恵美子先生の研究やCDが世界的にも注目を集めてい
ます。それらは日本のボンヘッファー研究の大きな貢献の
ひとつであると思っています。彼の『獄中書簡』を読むと、
ボンヘッファーは差し入れられた「ローズンゲン」と共に
「マタイ受難曲」のフルスコアを読みながら、バッハやそ
こに出てくるパウル・ゲルハルトの讃美歌に支えられて最
期の日々をすごしていたことが良く分かります。聖書から
真実な神学や音楽、歌が生み出され、あのような暗闇の時
代にもかかわらず希望の言葉が生まれ、力を持っていった
ということを知らされます。そうしたボンヘッファーの一
面を知らせてくださった東京バッハ合唱団の名演奏でした。
▲ エルンスト・バルラッハ 「歌う男」 1928 年
▼ エルンスト・バルラッハ 「笑う老女」 1937 年
★
今年はもうひとつ、エルンスト・バルラッハ(1870-1938)
の彫刻展が東京芸大で開催されています。ご覧になりまし
2
2006 年後半‐2007 年 3 月の活動予定
受難曲と美術作品 ④
団員総会
6 月 24 日(土)15:30−17:30
会場:世田谷中央教会
キリストの捕縛
白木 博也
合唱団の活動年度は、毎年 7 月 1 日(創立記念日)から
翌年 6 月末日までとし、6 月最終の練習日に団員総会が開
かれます。年間の事業と決算の報告があり、新年度の活動
が討議される、団のもっとも重要な会議です。
ことに今年度は、2007 年 3 月の《マタイ受難曲》演奏会
にむけて、
多くの新入団員が加わりつつある現状ですので、
新しい方々も共に合唱団の実情を知っていただくよい機会
となります。ぜひ出席してください。
オリーブ山が突然、騒乱の場となる。現れた兵士たちの
前で、キリストに裏切りの接吻をかわすユダ。マルコの耳
を削ぐペテロ。
創立記念懇親会とバザー 【本紙 4 面にご案内】
6 月 26 日(月)18:30-20:30
会場:目白聖公会
参加費:2000 円(軽食代・記念品代を含む)
団友や後援会員、ご支援の皆様にひろく呼びかけて、団
員ともども一堂に会し、親しく交流をたのしむ会です。
今年は久しぶりに、合唱団の経常会計と演奏会会計、後
援会の会計と、すべてにおいて赤字が克服され、来春の《マ
タイ》
(創立 45 周年記念)にそなえて財政的にも憂慮のな
い態勢をととのえているところです。一角に併設されるバ
ザーコーナーも定着してきました。ご参加、献品等、みな
さまのご協力をお待ち申し上げます。
なお、ご参加の記念品として、これまで数年にわたって
月報に逐次連載してきた《マタイ受難曲》関連の記事を、
冊子にまとめてお渡しする予定です。
来春の演奏のために、
くりかえし参考に読まれて、役立てていただきたいと思い
ます。
▲ドゥチョ・ディ・ブォンセーニャ(1255/60-1315/18)
イタリア・シエナ,ドゥオモ付属美術館「マエスタ」より
《マタイ受難曲》夏期特別集中練習
8 月 5,12,19,26 日(いずれも土)13:00−19:00
会場:世田谷中央教会
今年は、野尻湖での合宿と神山教会コンサートとを返上
して、8 月中の全 4 週の土曜日を《マタイ》の集中練習に
充てることにしました。遠隔にお住まいなどで、なかなか
練習に通えない方々も、
どうぞこの機会をご利用ください。
なお、8 月中は月曜の練習は休会となります。
▲ジョット・ディ・ボンドネ(1266-1337)
イタリア・パードバ,スクロヴェーニ聖堂
■《マタイ受難曲》
:第 26 曲 エヴァンゲリスタ(T)/イ
ェス(B)
クリスマス祝会
12 月 18 日(月)18:30-20:30
会場:目白聖公会
■『マタイによる福音書』
:第 26 章 47-56 節
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今年は、
やはり例外的に 12 月の定期演奏会がありません。
その代わり、16 日(土)まで《マタイ》の練習をしっかり
続けます。
年の終わりに、もろもろの感謝をこめ、新年の祝福をい
のりながら、クリスマス会で活動をしめくくります。最近
は、後援会員・団友の方々のご参加も多くなり、うれしく
思っています。
ご出席くださって、来春早々の《マタイ》上演へのお励
ましをいただければ、しあわせです。
特別演奏会《マタイ受難曲》抜粋
2007 年 3 月 3 日(土)15:30−17:30
会場:世田谷中央教会
テノール(エヴァンゲリスト)
:鳥海 寮
聖書朗読:加藤剛男
合唱:東京バッハ合唱団+児童合唱団
ピアノ:内山亜希
指揮:大村恵美子
創立 45 周年記念・第 100 回定期演奏会《マタイ受難曲》
2007 年 3 月 21 日(火・祝日)17:00 開演
会場:杉並公会堂(2006 年 6 月新装開館、JR 荻窪駅下車)
ソプラノ:光野孝子
アルト:佐々木まり子
テノール(エヴァンゲリスト)
:鏡 貴之
テノール:佐伯雅巳
バス:渡邊 明
バス:宇佐美桂一
創立 44 周年記念
手づくり懇親会とバザーのご案内
合唱:東京バッハ合唱団+児童合唱団
管弦楽:東京カンタータ室内管弦楽団
【前ページのスケジュール欄もご覧ください】
6 月 26 日(月)18:30-20:30
会場:目白聖公会
参加費:2000 円(軽食代・記念品代を含む。当日、会
場にてお支払いください)
指揮:大村恵美子
《マタイ受難曲》の上演会場となる杉並公会堂は、本年 6
月オープン予定のシューボックス型クラシック音楽専用ホ
ール。どんな響きになるのか楽しみです。
毎年の創立記念パーティを、これまではレストランなど
の一室を借りきってお祝いしていましたが、昨年、普段の
練習に使っている会場で、団員の方々の持ち寄った食べ物
などによる手づくりの懇親会を試みましたら、お客様がた
にはとても喜んでいただいたようです。
そこで、今年も同じ趣向でいたします。
▼杉並公会堂(1190 席)
● ご友人もお誘い合わせで、ぜひご参加ください。食事
の準備等のため、なるべくご予約ください(事務局)
。
● 会場での演奏やスピーチなど、大歓迎。事前にお知らせ
ください。
● 当日のバザー用の提供品をお送りください。前日まで
に事務局あてにお送りいただければ幸いです。
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