ケーヒン技報 Vol.4 (2015)

ケーヒン技報 Vol.4 (2015)
目次
巻頭言
ケーヒン技報 Vol.4 の発刊に際して. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1
生産本部長 今野元一朗
寄稿
私とインジェクターノズル噴霧微粒化シミュレーション研究の歴史. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
東北大学流体科学研究所 石本 淳
技術展望
脱レアアースモータの研究動向 -永久磁石を用いた車載モータ- . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6
先進技術研究部 遠藤佳宏
論文
ハンマリング構造を用いたガソリン直噴用インジェクタの開発. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10
森谷昌輝・宮下純一・猪又 茂・町田啓介
Steady State Calibration for Catalyst Heat-up Optimization on Gasoline Direct Injection Engine. . . . . . . . 17
Jing HE・Fuyuki KAKIMOTO・Fuminori SATO・Carsten HAUKAP・Thomas DREHER
永久磁石埋込型同期モータ(IPMSM)
のロータ形状がトルクリップルに及ぼす影響. . . . . . . . . . . . 28
上田正嗣・池田祐司・遠藤佳宏
品質工学を用いたマウント条件最適化による小型部品欠品の抑止. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33
武石正敬
技術紹介
ダウンサイジング直噴過給エンジン用インジェクタ. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 40
ダウンサイジング直噴過給エンジン用インテークマニホールド. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 42
リアトーコントロールシステムフェールセーフ用ソレノイド. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 44
アルミニウムダイカスト局部加圧装置. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 46
特許
フューエルポンプモジュール. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 48
熱交換器. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 49
巻頭言
ケーヒン技報 Vol.4 の発刊に際して
今 野 元一朗
Genichirou KONNO
生産本部長
ケーヒン技報 Vol.4 の発刊に際して,一言ご挨拶を申し上げます.
前回の技報 Vol.3 から1年を経ましたが,その間にも市場環境には大きな変化が出てき
ています.四輪車市場では,全世界の販売台数が約 8900 万台と増加しているものの,そ
の伸びはやや鈍化傾向にあり,これまで成長を牽引してきた中国・アジア地区でも増加傾
向の鈍化や減産などの状況がみられます.二輪車市場では,生産台数について中国・イン
ドが依然上位にあるものの,やはり急激な増産はなくなりつつある状況です.したがっ
て,O E M のシェア拡大にむけた争いは一層激化していきます.われわれもメガサプライ
ヤとの競争に対抗していかなければなりません.このような状況にあって,中国では欧州
の排ガス規制「ユーロ5」に相当する新規制「国5」の実施やインドでもバーラト・ステージ
(BS5)を適用する時期の前倒しが検討されており,環境対応にむけた商品開発と,ものつ
くり技術の両立が重要になっています.
当社でも前期から今期にかけてその仕込みを進めています.拡大する直噴インジェクタ
搭載車市場については,メキシコと北米での生産準備が整い,量産を開始しました.国内
でも宮城第二製作所において,ハイブリッド車用 PCU の要となるパワーモジュールの量
産にむけて最後の熟成期に入りました.また,空調機器では新しいお客様への HVAC 納入
に対応するため,中国武漢に新工場を設立し量産を開始する予定です.燃料電池自動車へ
の搭載部品も栃木地区・宮城地区において量産の準備に入っています.
こうした新しい製品を開発していくには,日本を核とした“つくり”の進化を確実に進め
ていくことが必要になってきます.二輪車市場の環境基準に対応した燃料供給部品の投入
や,四輪車市場への直噴技術に関連した部品等の展開においては,QCD を満足させるため
に開発段階から多岐にわたる CAE の進化や,新材料の適用評価手法の確立,試作段階から
量産へむけた要素技術の手の内化が必要になってくるでしょう.さらに,出来たモノを検
証し計測する技術の効率化や高速・高精度そして廉価な量産製法などの同時開発が重要に
なってきます.例えば,断面形状が性能に大きく影響し,組み立てられた状態での非破壊
検査が難しい樹脂インテークマニホールドなどは,非接触 3D 計測器・CT/X-REY 計測器・
CAE との連携が重要になりますし,流速や騒音などが重要な要件である HVAC にも同様
の検査手法が必要になってきます.直噴インジェクタの噴口などにおいても高精度な穴加
工技術や精密加工法案の確立が重要であり,実際の噴霧状態を管理する工程にも常に新し
い技術開発が必要となっています.
ケーヒン技報は,このような製品が生まれ量産に至るまでの技術を,各分野へ広く浸透
させ次の新たな技術開発につながるように牽引していくものと思っています.
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寄稿
私とインジェクターノズル噴霧微粒化
シミュレーション研究の歴史
石 本 淳
Jun ISHIMOTO
東北大学流体科学研究所
附属未到エネルギー研究センター
混相流動エネルギー研究分野
1995年 東北大学大学院工学研究科機械工学第二専攻博士課程
修了.東北大学流体科学研究所 助手,弘前大学理工学部 助教授,東北
大学流体科学研究所 准教授を経て,2012年 東北大学流体科学研究所
附属未到エネルギー研究センター 混相流動エネルギー研究分野 教授.
主として高機能性混相流体の超並列融合計算研究に従事.現在の主な
研究テーマは噴霧・微粒化現象に関するマルチスケール数値計算法の
開発,極低温粒子噴霧による新型ナノ洗浄法ならびに超高速ガラス凍結
法の開発,がれき混入型津波・竜巻などの自然災害ダメージに関する高
精度シミュレーション予測などに関する異分野融合型産学連携研究を
推進している.Cryogenics Best Paper Award 2009 (Elsevier B.V.) 受賞.
私がインジェクターの研究と関わるようになったのは 2003 年ぐらいだったと思います.
当時まだ弘前大学理工学部の助教授であった私のところに,流体研 極低温流研究分野 助
手時代の上司であり恩師でもある上條謙二郎教授(東北大学流体科学研究所 名誉教授)か
ら電話があり,
「今,ケーヒンという会社が流体研寄付講座で研究を実施しており,微粒化
のシミュレーションができる人を探しているので協力してやってくれないか」と言うお話
をいただきました.当時の私の主研究テーマは極低温固液(スラッシュ)あるいは気液混相
流,極低温キャビテーションであり,微粒化のシミュレーションは経験が無かったのです
が University of Kentucky(USA)から帰国して直後であり,Aluminum Ingot スプレー冷却,
微小重力単一液滴燃焼等,微粒化・噴霧現象に関わるいろいろなテーマを拡充していた時
期でもありましたのですぐに引き受けることを決めました.ここから,ケーヒンさんとの
おつきあいが始まったわけです.当時の私はインジェクターに関して燃料噴射機であるこ
とは知っていましたが,エンジンの燃費や性能に関わる最重要部品であることをこの時期
に初めて知りました.
とは言え,2000 年初頭の微粒化のシミュレーション技術というと噴霧が形成された後
のシミュレーションが主流で,K I V A と言う噴霧燃焼コード(現在ではほぼ全ての商用ソ
フトに実装されています)を使用した計算がほとんどであり,どこの研究機関も KIVA を
使用して似たような結果しか出てこない状態でした.我々が目指すような,インジェク
ターの噴孔直下で液柱が分裂・微粒化して液滴が形成されるまで(これを1次微粒化と言い
ます)を扱った研究はほとんど見当たらず,液柱が分断して1個の液滴ができるようなシ
ミュレーションがやっとの状態で,世界的にもちょうど1次微粒化シミュレーションの研
究が開始された時期でもありました.このような状態でしたので,自作ソフトウエアで研
究を実施することは限界が来ることが目に見えており,まずは微粒化シミュレーションに
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ケーヒン技報 Vol.4 (2015)
強い適切なソフトウエアを探すことにしました.
いろいろ探して見つけたのが,Nabla 社(現在は消滅)の FOAM というソフトウエアで
す.これは今ではメジャーなオープンソース CFD コードとなっている OpenFOAM の前
身となった商用ソフトです.共同研究費のほとんどをこのソフトウエアの購入費に充てま
した(しかし,FOAM は1年後にオープンソースの OpenFOAM に変貌したので購入費は
丸損したことになります).当時,国内ではほとんど使用実績のないソフトでインストール
から並列計算ができるまで,非常に苦労しましたが,微粒化解析はこのソフトしか出来な
かったためなんとか試行錯誤で使い方を理解しました.うれしいことにケーヒンの寄付講
座研究スタッフが流体研にあった古い PC クラスタを降雪の中,弘前大まで車で運送して
くれたり,セットアップを手伝っていただいたりと大変献身的な活躍をしていただきまし
て,1年後には2次元ノズル噴流の液柱分裂計算が〔図 1(a)〕,約2年後には3次元ノズル
噴流の1次分裂解析が可能となるまでこぎつけることに成功しました.日本国内では私が
一番はじめに OpenFOAM を研究に使用した人と言うことになっているみたいです.
その後,私は 2005 年に東北大流体研の助教授として異動になり共同研究も場所を弘前
大から流体研に移して継続することになりました.研究テーマはより高度なインジェク
ターノズル内に発生するマイクロキャビテーションを考慮した1次微粒化解析のシミュ
レーションになりました.時間応答がきわめて早く,発生キャビティ形状が数ミクロン
オーダと微小なため可視化が不可能とされているインジェクターノズル内マイクロキャビ
テーションの解明です.この解析により,ノズル内のどこの領域にキャビテーションが発
生して噴霧挙動にどのように影響しているのかが判明し,マイクロキャビテーションが噴
孔直下のエッジ部やプレート上部に発生することがわかりました.また,キャビテーショ
ン発生の有無により,噴霧角や粒径分布に大きな影響を与えていることが明らかとなり,
実現象を再現するためにはキャビテーション生成を考慮したモデルが必要であることが判
明しました〔図 1(b)〕.
(a) 研究開始初頭に行ったノズルから噴出する
ガソリン液柱分裂に関する2次元計算
(2004年)
(b) マイクロキャビテーションを伴うガソリンエンジン用
インジェクターノズル微粒化プロセスの融合計算
(2009年)
図 1 インジェクターノズル噴霧微粒化シミュレーションの進展
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私とインジェクターノズル噴霧微粒化シミュレーション研究の歴史
次に挑戦することになったのが,1 次微粒化モデルで得られた粒径分布等の統計量を
より大領域の筒内モデルに引き継いでラグランジュシミュレーションを実施して2次微
粒化に伴う大領域噴霧シミュレーション手法を確立するという,かなりハイレベルの問題
です.しかしながら統計量引き継ぎに要するカプラー(インタフェース)の開発が困難を極
め,実現象に即した噴霧の再現には至らず,この試みは失敗に終わってしまいました.そ
うこうしているうちに 2008 年のリーマンショックが発生し景気の急降下とともに共同研
究も打ち切りとなってしまいました.
ここからしばらくケーヒンとの交流が途切れ,震災等もあり空白期間が続きます.しか
し,2012 年から HONDA の除雪車に関わる雪のシミュレーション共同研究が短期で実施
され,このプロジェクトが終了した 2013 年頃に,再度,仲野是克特任教授とケーヒンから
共同研究の申し出がありました.今回の目標は,前回失敗した1次微粒化から2次微粒化
までの統一的シミュレーション法に加えて直噴インジェクターに対して適用可能なソフト
ウエアを開発することですが,高温高圧下における1次から2次微粒化までの解析を行う
必要があり今までに前例がない研究なので非常に困難な研究になることが予想されまし
た.しかしながら昨今大学の研究には産学連携が重要視されてきており産業界の要請に答
える必要性があるとの考えから再度共同研究を実施することに決めました.1次微粒化と
2次微粒は異なった計算手法が必要であり,これを連携するブリッジツール(計算結果引
き継ぎ用のインタフェース)を開発することが一番の難関であることは前回の失敗で教訓
を得ていたので,ブリッジツールの開発と適用が可能なソフトウエアの選択には慎重を期
しました.そこで選択したのが前回使用した OpenFOAM ではなく CONVERGE と言うエ
ンジン解析に特化したソフトウエアです.このソフトウエアをベースにブリッジツールの
開発が進んで行くわけですが,2015 年になって仲野特任教授から共同研究を本格的に行
うため,流体研内に共同研究部門:
「先端車輌基盤技術研究(ケーヒン)」設置のご提案をい
ただきました.ケーヒン側の技術者が流体研に常駐して共同研究を行う本格的な共同研究
講座であり,産学連携のアウトプットを目に見える形にし,流体研が自動車業界に研究成
果を還元するという目標にはかねてからの念願であったので,私が代表を引き受けさせて
いただくことにしました.共同研究講座を開始してから 1 次微粒化解析用 VOF 計算に対
し3ヶ月以上もの長い計算時間を要するという危機的状況に直面しましたが,ケーヒン側
と流体研側相互の数ヶ月の昼夜にわたるディスカッションにより,計算時間を2週間にま
で短縮させることが可能になりました.まさに産学連携研究がインジェクター計算手法の
ブレイクスルーに成功した瞬間であったと思います.計算時間の短縮化とモデル作成改善
に成功してからは,より精度の高い修正型ブリッジツールの開発と6噴孔モデルの計算に
も成功し,高性能インジェクターの CAE 開発・実用化と高温・高圧下における新しい噴霧
解析モデルの開発成功に近づいていると言えます.ここで 2003 年に研究を開始した当時
を振り返って現在と比較してみますと,コンピュータの演算速度も 10 倍以上高速化する
とともに計算環境は格段に進化し,12~3 年でこれだけ早くなったのかと改めて技術の進
歩を実感します.研究開始当時,インジェクター噴霧微粒化計算専用に購入した,最新鋭
P C クラスタ 15 台は現在では全てが廃棄処分となり新型の並列マシンに入れ替わってい
ます.しかしながら現在のこれだけ高速化した並列コンピュータ・最新のソフトウエアを
フル活用しても,そのままでは1ケースの計算に3ヶ月以上もかかってしまい,大学・企業
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ケーヒン技報 Vol.4 (2015)
研究者の英知を結集し頭を使わないと計算時間短縮化にこぎつけられないというのが,イ
ンジェクター噴霧微粒化計算の難しさでありまた大規模数値計算を工夫して実施する必要
性があるというわけです.人知の結集は計算機の進化をも上回るというのがものづくりの
面白さでしょうか.
これまでの共同研究から,インジェクターという小さい自動車部品設計の重要性と噴霧
特性が燃費に及ぼす影響を十二分に再認識させられてきたわけですが,次世代の産業界を
担う今の学生が自動車業界に対してあまり強い思い入れがないのが残念なところです.私
の研究室に配属された学生(機械系)にどのような業界に就職したいのか尋ねると,宇宙開
発と答える学生が毎年かなりの数に上ることに驚かされます.学生が世界のマーケットを
理解していないというか,日本(世界)の産業構造における自動車業界の占める割合がかな
り高いことを知らないのです.日本は自動車を製造して高い GDP をたたき出している国
であり,宇宙開発のマーケットは話にならないぐらい小さいと言うことを説明し,宇宙を
やってもポストはないしあまり活躍できないぞ,と言い聞かせてもどうもピンとこないよ
うです.これには,今まで自動車業界の重要性をきちんと説明してこなかった我々教員の
側にも責任があるのですが,
「はやぶさ」等の宇宙開発の結果を過大に報道するマスコミに
も問題があります.機械系の学生には見た目のかっこよさに惑わされず,きちんと市場規
模を本質的に理解して自分が活躍できる業界を目指してほしいと願うばかりです.学生へ
の産業界に対する正しい認識をさせるためには,インターンシップ・見学会等で実際に短
期間会社に滞在し,自動車関連部品に触れ,ものづくりの面白さと重要性を体験してもら
うのが一番と思います.従いまして,自動車業界から大学・学生へ業界に触れる機会や説明
の機会を増やし,積極的なアプローチによる優秀な学生の獲得を目指していただきたいと
思います.
以上,私とインジェクター研究に関するこれまでの歴史を概略的に述べさせていただき
ましたが,今後の共同研究部門:
「先端車輌基盤技術研究(ケーヒン)」の発展と自動車産業
への貢献を祈念して筆を置きたいと思います.
(余談ですが,先日チェコの国際会議でイスラエルの研究者と話す機会があったのです
が,私の名字である石本(Ishimoto)はヘブライ語で“man with car”
(ISH IM OTO)と言う
意味になるそうで,自動車の中にいる人すなわち運転手の意味になるそうです.生まれな
がらにして自動車との関わりを宿命づけられているようで驚きました.)
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技術展望
脱レアアースモータの研究動向
脱レアアースモータの研究動向
-永久磁石を用いた車載モータ-
遠 藤 佳 宏
Yoshihiro ENDO
先進技術研究部
1.はじめに
燃費向上や安全性 ・ 快適性向上の目的で,自動車には多くのモータが搭載されている.
これらのモータは小形 ・ 軽量 ・ 高効率が求められるので,PMSM(永久磁石同期モータ)方
式で,マグネットにレアアースを使ったものが多い.
このレアアースの価格高騰や供給不安への対応案として,研究が進められてきた脱レア
アースモータの研究動向についての調査結果を報告する.
2.レアアース価格の暴騰
図 1 に示す様に,2010 年 8 月頃まで安定していたレアアース価格が 2011 年 8 月には,
8倍以上の異常高値を記録した(1).
このような状況下,日本では NEDO(独立行政法人 新エネルギー・ 産業技術総合開発機
構)の支援を受けた,脱レアアース・省レアアースモータの研究が各大学や企業で盛んに行
われるようになった.
図1
レアアース価格の推移
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ケーヒン技報 Vol.4 (2015)
現時点(2015 年 6 月)では,価格が下落してはいるが,2010 年 8 月頃に対してはまだ高価
であり,産出国の国策による供給停止・制限等が考えられるので,脱レアアースモータの研
究が急務であることに変わりはない.
3.脱レアアースモータの研究動向
自動車用モータの脱レアアース化の取り組み事例として,マグネットを使用しない S R
モータ,フェライトマグネットを使用するアキシャルギャップ型モータ,電磁石による界
磁を用いるクローポール型モータの3種類の研究動向を以下に紹介する.
(1)マグネットを使用しない SR モータ
脱レアアースモータとして,S R モータを選択した千葉らの研究のモータ概略を図 2 に
示す(2).
SR モータの問題点として,①トルク密度が低い,②効率が悪い,③トルクリップル ・ ノ
イズ ・ 振動が大きい,④汎用インバータが使えない,ことが述べられている.また,目標値
として,軸出力は 50 kw 以上,最高効率は 95% 以上,最大トルクは 400 Nm 以上,と設定し
た.これが達成できれば,実用されている PMSM と同等性能となる.
第1次試作機の負荷試験では,軸出力が 50 kw 強,最高効率が 95.4%,最大トルクが
340 Nm,の結果を得ている.最大トルクのみが 15% 不足したがそれ以外は目標値を達成し
ている.
トルク目標の達成と更なる高効率化,鉄心材料コストダウンを目指し,第2次試作機を
設計予定であるが,第1次試作機の結果より,SR モータでも PMSM に匹敵する性能が引
き出せる可能性を見出せた.
(2)フェライトマグネットを使用するアキシャルギャップ型モータ
脱レアアースモータとして,アキシャルギャップ型モータを選択した竹本らの研究の
モータ概略を図 3 に示す(3).
モータの開発目標値として,体積は 8.92 L 以下,最大トルクは 400 Nm 以上,最高出力
は 50 kW 以上,基底回転数は 1,200 rpm,を掲げている.一方レアアースマグネットに代
図2
マグネットを使用しない SR モータの
断面図および固定子と回転子の写真
-7-
図3
アキシャルギャップモータの概略図
脱レアアースモータの研究動向
えてフェライトマグネットを使用するモータの問題点として,マグネットトルクの大幅
な減少が挙げられる.フェライト化により,残留磁束密度が 65% 減少し,保持力が 64%
減少するので,マグネットトルクが 87% 減少する(トルクが 13%しか出せない)懸念が
ある.
上記課題を克服し,目標値を達成するために,①減少するマグネットトルクを補うこと,
②不可逆減磁を回避すること,を達成するべく,アキシャルギャップ型+セグメント構造
回転子というコンセプトが提案されている(図 3 参照).これを基に試作された1号機は,
体積を 8.81 L に抑えながら,最大トルクで 301 Nm,最高出力で 51.5 kW,基底回転数が
1,700 rpm,の実負荷試験結果を得ている.開発目標値に対して最大トルクのみ目標値未達
であるが,最大出力は達成している.フェライトマグネットでもモータ形状を工夫するこ
とでレアアースモータに迫る性能が引き出せる可能性を見出せた.
(3)電磁石による界磁を用いるクローポール型モータ
脱レアアースモータとして,クローポールモータを選択した三菱電機株式会社における
開発事例のモータ構造を図 4 に示す(4).
マグネットを使わずに界磁磁極を構成する一つの方法としてクローポール型モータを採
用し,界磁コイルを用いて磁界を作成する.
従来ランデル構造を大型化する時の課題として,①回転子の磁気飽和,②回転子の強度
不足,③回転子形状の複雑さ,④回転子表面鉄損が大きい,が挙げられる.これらの課題
を解決する手法として,A. 内部磁気飽和緩和用にフェライト磁石を装着(課題①の対応),
B. クローポールを積層鉄心とし,リング状構造体で磁極を保持(課題②~④対応),を実施
して対応を図った.
積層型クローポールモータの改良点は,①スロット幅拡大による漏れ磁束低減(磁気
飽和対策),②極数対スロット数最適化(磁気飽和対策),③ロータ径 U P(総磁束量向上),
④磁石幅最適化(磁気飽和対策+総磁束量向上),⑤ロータ磁極先端部形状最適化(漏れ磁
束低減),が挙げられる.これら改良内容を反映した試作機の到達レベルは,最大トルクが
100 Nm,最高出力が 20 kW であり目標を達成している.また,最高回転数は 6,000 rpm の
達成が見込まれており,JC08 モード走行時の消費電力は,検証中である.
トルク・出力・回転数は達成できており(一部達成見込み),電磁石による界磁を用いるク
ローポール型モータでも PMSM に匹敵する性能が引き出せる可能性を見出せた.
図4
積層型クローポールモータの回転子
-8-
図5
従来のランデル構造ロータ
ケーヒン技報 Vol.4 (2015)
4.まとめ
以上,自動車用に研究が進められている3種類の脱レアアースモータ,
(1)マグネット
を使用しない SR モータ,
(2)フェライトマグネットを使用するアキシャルギャップ型モー
タ,
(3)電磁石による界磁を用いるクローポール型モータの研究動向を取り上げた.
これらは,現在主流のレアアースを使った PMSM に匹敵する性能をレアアースレスで
達成できる可能性を見出せている.現時点の課題として,起動トルクや実用効率の不足が
挙げられているので,これら課題の克服と生産性を含めたコスト低減努力が引き続き必要
と考えられる.
レアアースの高騰を機に世界中で開発され一部で稼動を開始している鉱山からは軽希
土(N d など)が産出されているので,N d に関しては価格が早期に低値安定することが推
測される.
(2014 年 8 月時点で,100ドル/kg を切っておりこの価格レベルは価格高騰前の
2010 年 7 月~2011 年 1 月レベルに戻っている.)
しかし,重希土(Dy など)は現生産国の鉱山以外には鉱脈が発見されておらず,現産出国
一国依存が継続される見通しである.
(Dy は 2014 年 8 月時点で,500ドル/kg までは戻し
たが軽希土に比べると,依然高値安定状態である.)
これらのことから,今回取り上げた例はいずれもレアアースを一切使わないモータの
研究例であるが,完全なレアアースレスでは技術的な課題が多いので,安定供給が期待で
きるレアアースとしては Nd だけを使ったモータの研究が必要と考えられ,既に開発がス
タートしている.
脱 D y 化に伴う課題として,高温環境下での保持力低下等が挙げられるが,これらに関
しては既に,大学や企業で日夜研究が進められている.
近い将来,脱 Dy 化が当たり前に達成できるようになり,レアアースとして Nd のみで温
度環境が厳しい車載要件を満足した高性能モータが広く一般に使われるようになることを
切望する.
参考文献
(1)
「レアメタル
・レアアース資源の現状と課題」,p2「レアアースの価格推移」,
(社)電子情
報技術産業協会(JEITA)
(2011-11)
,
(社)電子情報技術産業協会の許諾を得て転載
(2)千葉明・竹野元貴・星伸一・竹本真紹・小笠原悟司:「自動車用スイッチドリラクタンス
モータ開発について(一次試作機の 50 kW 試験結果と考察)」,第 31 回モータ技術シ
ンポジウム,B-1,pp.B1-1-3, 11
(2011-7),
(一社)日本能率協会の許諾を得て転載
(3)竹本真紹:「フェライト磁石を用いたアキシャルギャップモータの開発状況」,第 31回モータ技
術シンポジウム,B-2, pp.B2-1-5, 9, 17
(2011-7)
(一社)
,
日本能率協会の許諾を得て転載
(4)井上正哉:「ハイブリッド自動車用クローポール型モータの開発状況」,第 31 回モータ技
術シンポジウム,B-2, pp.B2-3-8~10
(2011-7),
(一社)日本能率協会の許諾を得て転載
この報告内容は,電気学会技術報告書第 1323 号として 2014 年 11 月に発行された『製
品応用に適するモータとその制御技術』に掲載された論文の一部を(一社)電気学会の許諾
を得て転載したものである.
-9-
論文
ハンマリング構造を用いたガソリン直噴用インジェクタの開発
ハンマリング構造を用いたガソリン直噴用
インジェクタの開発※
Development of Injector for Gasoline Direct Injection by Using Hammering Needle Valve Drive System
森 谷 昌 輝*1
Masateru MORIYA
宮 下 純 一*1
Junichi MIYASHITA
猪 又 茂*1
Yutaka INOMATA
町 田 啓 介*1
Keisuke MACHIDA
Due to calls for the protection of the environment and soaring oil prices, requirements in the automotive industry
increasingly focus on lower emissions and lower fuel consumption. The major technical issues that must be faced
to meet these requirements in gasoline direct injectors are shortening response time, designing to withstand variable
fuel pressures and optimizing the atomization of fuel spray. This paper describes our development of a gasoline
direct injector using a hammering needle valve drive system to solve these three technical issues.
Key Words: Heat engine, Fuel injection Gasoline direct injector, Solenoid valve
1.はじめに
減」,「分割多段噴射」に対し,ガソリン直噴イ
ンジェクタは『高応答化』,『高燃圧化』,『微
粒化』が技術的な課題となる(Fig. 1).
近年,地球環境保護に加えて原油価格の高
騰に対する社会的関心も高まってきている中,
本 報 告 で は 上 記 の『 高 応 答 化 』,『 高 燃 圧
自動車には低エミッション・低燃費が求められ
化』,『微粒化』を達成するため,ニードルバル
ている.自動車用ガソリンエンジンにおいて
ブ駆動部に採用したハンマリング構造につい
は,これまでのインテークポート内への燃料
て説明する.
噴射方式から,エンジンの熱効率向上や始動
Fig. 2 および Table 1 に,従来品インジェク
時のエミッション性能向上のため筒内への直
タと本開発品インジェクタの構造図およびイ
接燃料噴射方式への置換が進んでいる.
ンジェクタの諸元を示す.
そのガソリン直噴エンジンにおいても,更
従来品インジェクタではアーマチュアと一
なる低エミッション化,低燃費化が求められ
体構造だったニードルバルブを,本開発品イ
ており,様々な試みがなされている.低エミッ
ンジェクタでは別体構造とし,なおかつアー
ション化には,冷機時始動に筒内壁面に付着
しにくい噴霧,気化しやすい噴霧(2)を得るた
Engine
Technical issues
of injector
Wide range injection
High-response
Reduced fuel spray adhesion
Variable fuel pressure
(High pressure)
Multiple injections
Atomization
めに燃料の微粒化や,未燃ハイドロカーボン
(H C)排出削減をするための分割多段噴射(3)
が必要である.また低燃費化には,冷機始動
時における未燃 HC(付着燃料)の削減(余剰な
(1)
燃料噴射量の低減) や燃焼性向上を目指し
ていくためのワイドレンジな噴射量対応が必
要である.ガソリン直噴エンジンのニーズで
ある「ワイドレンジ噴射量」,「噴霧付着の削
Fig. 1
Relationship between engine requirements
※2015 年 6 月 30 日受付,自動車技術会の許諾を得て,自動車技術会論文集 Vol.46, No.3, pp.597-602 より加筆修正して転載
*1 開発本部 第三開発部
- 10 -
ケーヒン技報 Vol.4 (2015)
Table 1
の向上,3.5MPa から 20MPa までの可変燃圧
Injector specifications
Injector
type
Conventional
injector
Newly
developed
injector
Outside
diameter
Φ24.6
Φ21
Length
102.5mm
89.1mm
Weight
124.2g
78.0g
Booster
voltage
Fuel
pressure
150V
40V
10MPa
constant
3.5MPa∼
20MPa
DFR
12.9
46.8
対応により約 2.4 倍の向上となり,合わせて約
3.6 倍向上させることができた.
2.ニードルバルブ高応答対応
本開発品インジェクタのニードルバルブ周
辺構造と部品名称を Fig. 3 に,ニードルバル
ブ開弁動作を Fig. 4 に示す.
開弁動作の各段階について以下に示す.
(a) 駆動信号が入力される前の状態(すなわ
マチュアの慣性力によりニードルバルブが引
ち閉弁状態)において,アーマチュアはダ
き上がるハンマリング構造を採用した.それ
ンパースプリングにより下流方向に押し
により,本開発品インジェクタは従来品イン
付けられ,ロアストッパーにて所定の位
ジェクタと比較し体格を 15% 小型化,重量を
置で停止している.
(b) コイルに駆動信号が入力されると磁気回
37% 低減することができた.
路内に磁束が発生し,アーマチュアとス
またワイドレンジ噴射量を表す指標として動
テータとの間に磁気吸引力が作用する.
的流量比があり,式(1)で表すことができる.
磁気吸引力によりアーマチュアは開弁方
Dynamic Flow Ratio =
QMAX
QMIN 向に引き上げられる.
(1)
(c) 磁気吸引力により引き上げられたアーマ
DFR
(Dynamic Flow Ratio)とは,対応最大
チュアは,まずアッパーストッパと衝突
燃圧で噴射される最大流量(Q M A X)
( 駆動信号
する.その際の衝撃力(ハンマリング)に
時間:10msec)を対応最小燃圧で噴射される最
よりアッパーストッパと接合しているバ
小噴射流量(Q M I N)で割った値のことである.
ルブロッドおよびロアストッパとバルブ
従来品インジェクタの D F R に対し本開発品
インジェクタの DFR は,ニードルバルブ高応
Main spring
答化による最小噴射流量の減少により約 1.5 倍
Coil
Armature
Guide collar
Stator
Armature
Damper spring
Armature
Upper stopper
Lower stopper
Valve rod
Needle valve
Valve
Conventional injector
Fig. 2
Newly developed injector
Schematic of injector and needle valve
Fig. 3
- 11 -
Construction of needle valve
ハンマリング構造を用いたガソリン直噴用インジェクタの開発
ボール(4部品合わせてニードルバルブ)
ニードルバルブの作動には磁気吸引力を用
いているため,作動を高応答化するには磁気
が開弁側へ押し上げられる.
吸引力を向上させる必要がある.
(d) アーマチュアとアッパーストッパとの間
磁気吸引力 F は式(2)で表すことができ,
で発生した衝撃力で押し上げられたニー
ドルバルブは,アーマチュアと一緒に開
磁気吸引力の向上には磁束密度 B の増加と吸
弁方向へ移動していく.ニードルバルブ
引断面積 S の拡大という2つの手法がある.
が開弁方向に移動したことにより,ニー
ドルバルブが開かれ燃料が噴射される.
F=
(e) アーマチュアはガイドカラーに衝突し
磁気吸引力により静止状態となる.しか
B 2 ·S
2µ 0
(2)
ここで,μ 0 はアーマチュアとステータの
し,アーマチュアはバルブロッドのロア
ギャップ部の透磁率である.
ストッパとアッパーストッパの間で移動
磁束密度 B は使用する磁性材の B-H 特性に
可能であるため,アーマチュアからアッ
起因し,元となる磁界 H は式(3)で表すこと
パーストッパは離脱して上流方向へ慣性
ができる.
運動(オーバーシュート運動)する.
(f) メインスプリングにより閉弁方向に押し
H=
付けられているため,すぐにアッパース
トッパはアーマチュアと再び当接する.
n·I
L
(3)
ここで,n はコイル巻数,I は駆動電流,L は
磁路長さである.
(a) Valve closed
(b) Start moving
armature
上記より,ニードルバルブの作動を高応答
(c) Hammering
化するには,吸引断面積 S の拡大,磁性材の
B-H 特性の向上,コイル巻数 n の増加,駆動電
流 I の増加,磁路長さ L の短縮が手法として
挙げられる.
た だ し ,エ ン ジ ン 搭 載 性 を 考 慮 し た イ ン
ジェクタ体格の制約により吸引断面積 S と
コイル巻数 n が,また,ECU(Engine Control
Unit)消費電力の制約による駆動電流 I に,そ
(d) Start moving
valve
れぞれ制約がある.また,磁性材の B - H 特性
(e) Valve overshoot
を向上させる方法として,レアメタル系金属
(f) Valve open
を含有した磁性材などを選定することもでき
るがコストや耐食性等により,当社の従来品
インジェクタと同じ磁性材を採用した.した
がって,本開発品ではニードルバルブの高応
答化のため,磁路長さを短縮(ショートサー
キット化)する検討をおこなった.
エンジン搭載性からインジェクタ外径の寸
法制約のもとでショートサーキット化を検討
するにあたり,電磁場シミュレーションソフ
Fig. 4
トウェアを用いて解析をおこなった(Fig. 5).
Needle valve opening behavior
- 12 -
ケーヒン技報 Vol.4 (2015)
ル線の積層数の限界値があることが分かった.
磁路の形状について,外径はエンジン搭載
性による寸法制約から,内径はメインスプリ
また,コイル線の積層数を減らすとコイル
ングのレイアウト寸法制約から,それぞれ決
線の占有面積が減少すると共に磁路長さが増
まる.また ECU の消費電力要求値からコイル
加するため,吸引力の上昇速度が遅くなるこ
抵抗値がおおよそ定められ,それによりコイ
とが分かった.
ル線径が決まる.そこで,コイル線の積層数を
上記を踏まえ,吸引力の上昇速度はコイル
パラメータとし,開弁時のハンマリング構造
線の積層数が多いほうが優れることより,6
を考慮した吸引力,および開弁状態を保持す
層巻きを採用した.ただし,必要な吸引力に
るために必要な吸引力と,吸引力の上昇速度
対し余裕がないことから8層巻きは採用しな
を判断材料に電磁場シミュレーション解析を
かった.
ハンマリング構造に最適な磁気吸引力を
おこなった(Fig. 6).
解析結果を,Fig. 7 に示す.シミュレーショ
設定にすることにより,バルブ閉弁状態から
ンの結果,コイル線の積層数を減らすとコイル
バルブ開弁状態にかかる時間(バルブ作動応
線の占有面積が減少し代わりに吸引断面積が
答時間)が短縮し高応答化することができた.
増加することで吸引力が増加すること,逆に
従来品インジェクタと比較すると本開発品イ
コイル線の積層数を増やすと吸引力が減少し
ンジェクタの開弁時におけるニードルバルブ
バルブ駆動に必要な吸引力が得られないコイ
の作動応答時間を約 62% 短縮することが可能
となった(Fig. 8).
Magnetic flux density [T]
Magnetic force [N]
70
1.2
0.8
0.4
60
50
40
30
20
Target levels
10
0.0
Fig. 5
4-Layer winding
6-Layer winding
8-Layer winding
80
1.6
0
0
Dynamic magnetic analysis
0.5
1
Fig. 7
Attraction cross-sectional area
Magnetic force
Valve stroke [µm]
6-Layer
winding
4-Layer
winding
Conventional injector
Newly developed injector
60
Valve open
40
Valve opening time
20
Valve close
0
0.23msec 0.09msec (-62%)
-20
0.0
0.5
1.0
1.5
Time after open pulse input [msec]
Fig. 6
2
Magnetic path length
80
8-Layer
winding
1.5
Time after open pulse input [msec]
Schematic of variation of number of coil
layers
Fig. 8
- 13 -
Valve behavior
2.0
ハンマリング構造を用いたガソリン直噴用インジェクタの開発
3.高燃圧化対応
Operable pressure
Maximum
従来品インジェクタに対しより高圧な燃圧
へ対応するため,本開発品インジェクタは衝
撃力を開弁力に利用するハンマリング構造を
採用している.アーマチュアの衝撃力は,アー
Variation of
operable
pressure
Target level
Minimum
Dimensional
tolerance range
マ チ ュ ア ス ト ロ ー ク で 決 定 さ れ る .ア ー マ
チュアストロークはニードルを作動させる重
Armature stroke
要なパラメータである.
Fig. 10
アーマチュア周辺の構造図を Fig. 9 に示す.
Relationship of armature stroke and
operable pressure
高い燃圧に抗して衝撃力でニードルバルブ
を押し上げるには衝突前のアーマチュアの速
4.微粒化対応
度を速くする必要がある.アーマチュアスト
ロークを大きくすると衝突前のアーマチュア
の速度は速くなり衝撃力も大きくなるので,
微粒化の要素として,噴孔部の上下差圧を
高燃圧でもニードルバルブを押し上げること
大きくすることで微粒化が促進されることが
ができる.しかし,アーマチュアストロークを
知られている(4).上下差圧を大きくするには
大きくしていくと衝撃力が大きくなり,衝突
「噴孔上流側の噴孔直上圧を上げる」か「噴孔
時の音の増大や衝突部耐久性が問題となって
出口側圧力を下げる」ことになるが,噴孔出口
くる.
側圧力は筒内圧力でありインジェクタ単体に
よって, エンジン実機動作環境影響による
よらないため,ここでは噴孔上流側の噴孔直
衝撃力バラツキを見積もり,設定燃圧(ター
上圧を上げる方法を採用した.バルブシート
ゲットレベル)以上で作動できるようにしつつ
周辺の構造図を Fig. 11 に示す.
余分な衝撃力を発生させないようアーマチュ
噴孔の上流側の噴孔直上圧を上げるには,
アストロークを最適化した.アーマチュアス
シート部での燃料圧力損失を少なくする必要
トロークと作動限界燃圧の関係性,および本
があり,手段としてバルブストロークを大き
開発品インジェクタにて採用したアーマチュ
くしてシート部開口面積を拡大する方法と
アストロークを Fig. 10 に示す.
シート径そのものを大きくする方法が挙げら
れる.
しかし,バルブストロークを大きくした場
Upper
stopper
Seat opening area
Valve
stroke
Armature
stroke
Armature
Lower
stopper
Fig. 9
Seat diameter
Schematic of armature
Fig. 11
- 14 -
Injection hole
Schematic of valve seat
ケーヒン技報 Vol.4 (2015)
合は,ニードルバルブの応答性の悪化,衝突部
時間を約 62% 短縮した.また,燃料噴射
の耐久性の悪化,衝突音の悪化などを招くた
量は従来品インジェクタよりも D F R 値
め,むやみにバルブストロークを大きくする
換算で,約 3.6 倍ワイドレンジにすること
ことはできない.またシート径も大きくする
ができた.
ことで受圧面積が増え開弁時に大きな駆動エ
(2)ハンマリング構造のアーマチュアスト
ロークを最適値に設定することで,従来
ネルギーを必要とすることになる.
本開発品インジェクタではこの課題に対
品インジェクタの作動燃圧 10M P a より
し,開弁時の衝撃力を駆動エネルギーへ変換
もさらに高燃圧な 20M P a まで対応する
できるハンマリング構造を採用することで解
ことが可能となった.
(3)従来品インジェクタよりもシート径を
決した.
拡大することで,-43% の微粒化を達成
レーザー回折法を用い噴霧粒径を計測した
した.
結果, 従来品インジェクタに対しシート径を
大きくし噴孔直上圧を向上した本開発品イン
参考文献
ジェクタは,同じ印加燃圧(10M P a)において
も噴孔上下差圧を大きくしたことで格段に微
粒化が促進し,粒径を -25% 縮小することがで
(1)足立良太ほか:燃料噴霧の微粒化が4ス
きた.
トローク火花点火機関の冷始動性に及ぼ
さらに本開発品インジェクタは高燃圧に対
す影響,日本機械学会関東支部ブロック
応しているため,20MPa 印加時においては従
来品インジェクタに対し -43% 縮小すること
合同講演会講演論文集,pp.17-18, (2011)
(2)菅原理仁ほか:ガソリンエンジンにおけ
ができた(Fig. 12)
.
る冷機時始動燃焼挙動の解明,関西支部
講演会講演論文集,pp.1-2, (2004)
(3)助川義寛ほか:分割噴射によるガソリン
15
Droplet diameter
(S.M.D) [µm]
直噴エンジンの排気低減技術の検討,日
10
本機械学会年次大会講演論文集, V o l .3,
-25%
-43%
5
0
(4)玉木伸茂ほか:高圧雰囲気下における直
噴式ディーゼル機関用微粒化促進ノズ
ルの微粒化特性と流量特性の改善,日本
10MPa
Conventional injector
Fig. 12
pp.51-52, (2008)
機械学会年次大会講演論文集,p p .1-5,
10MPa 20MPa
Newly developed injector
(2011)
Comparison of droplet diameter
5.結言
ガソリン直噴エンジン用インジェクタの開
発を行い,以下の結論を得ることができた.
(1)ハンマリング構造を考慮した磁気回路の
設計(ショートサーキット化)により開弁
- 15 -
ハンマリング構造を用いたガソリン直噴用インジェクタの開発
著 者
森谷昌輝
宮下純一
猪 又 茂
町田啓介
環境性能を向上させる取り組みの一つであ
る直噴インジェクタにおいて,キー技術とな
るハンマリング構造を紹介できる機会を与え
ていただき有り難う御座います.
ハンマリング構造は複雑な機構のため,開
発中には様々な苦労がありましたが,それら
を乗り越えて量産化できたことを大変嬉しく
思います.
末筆となりましたが,自動車技術会での発
表および本技報への執筆におきまして,御指
導,御協力頂きました皆様に深く感謝申し上
げます.
(森谷)
- 16 -
Keihin Technical Review Vol.4 (2015)
Technical paper
Steady State Calibration for Catalyst Heat-up
Optimization on Gasoline Direct Injection Engine※
ガソリン直噴エンジンにおける触媒昇温の定常適合
Jing HE*1
Fuyuki KAKIMOTO*2 Fuminori SATO*1
何 静
Carsten HAUKAP*3
柿 本 冬 樹
Thomas DREHER*3
佐 藤 史 教
近年,低燃費と高出力を両立するために,過給直噴ガソリンエンジンの需要が高まっている.噴射制御自由
度の高さにより,特に冷間始動時の早期触媒昇温効果が期待できる反面,直噴エンジン特有の煤発生に対して
も考慮が必要であり,適合は非常に難解となっている.従来,触媒昇温適合には,高度な計測環境,複雑なデー
タ処理技術が要求される過渡適合を用いるが,我々は,定常ベンチ環境による触媒昇温の適合手法を考案した.
IAV 社の EasyDoE Toolsuite を用いて,DoE(Design of Experiments)
・モデリング・最適化をおこなった.本
試験は,エンジン回転数および負荷を固定し,ローカル DoE を計画した.煤の排出低減効果をねらって,イン
ジェクター噴射回数は最大4段までのテストを実施した.点火タイミングと噴射時間のトレードオフ関係によ
り,噴射回数が強く制約を受ける.このような複雑な運転領域を,効率的に燃焼限界まで探索する為,IAV 社
の Boundary Finder シーケンスを採用した.最大6パラメータの領域探索を約6時間で計測できた.
また,モデリング手法は GPM
(Gaussian Process Models)および HILOMOT
(HIerarchical LOcal MOdel
Tree)などを採用している.結果として,排気エネルギーとエミッションの多目的最適化において,従来条件
より早期触媒昇温とエミッション低減を両立することができた.
Key Words: Steady state calibration, Catalyst heat-up, DoE, Optimization, Gasoline direct injection engine
1. Introduction
requires much effort for engine calibration. On the
other hand, to respond to diversified needs in an
The discharge of clean exhaust gas from cold
increasingly competitive automobile market, cost
start to catalyst heat-up is very important to satisfy
reduction measures are must be incorporated with
strict emission regulations. The particulate matter
the maximum use of existing facilities and the
discharged from engine has detrimental effect on
further pursuit of efficiency of development.
the aerial environment and the human body. Direct-
For the purpose of using steady state calibration
injection engines particularly exhaust more soot
to early catalyst heat-up for optimized emissions,
than port-injection engines. In recent years, various
it is necessary to cope with both compensation of
countries have strengthened exhaust gas regulations
engine speed variation according to ignition timing
for gasoline engines. Furthermore, for obtaining
retard and early catalyst heat-up. The maximum nine
higher engine power and reduced fuel consumption,
control parameters, such as ignition timing, starts of
supercharged direct-injection engines are necessary,
the injection, intake and exhaust camshaft phasing,
which makes control system more complex and
and lambda, are adopted for this study. However,
※Received 4 September 2015, Reprinted with permission from IAV GmbH, original publication in, Proceedings of the 8th Conference
Design of Experiments (DOE) in Engine Development, June 11-12, 2015, Berlin. Copyright © 2015 IAV GmbH.
*1 Development Department 0, R&D Operations *2 Keihin Sales and Development Europe GmbH *3 IAV GmbH
- 17 -
Steady State Calibration for Catalyst Heat-up Optimization on Gasoline Direct Injection Engine
because of interaction among these many parameters,
be used. For this and as one main core assumption,
so many parameters make convex hull very complex.
the engine out conditions after engine idling are
Furthermore, measurement start point of boundary
defined to be constant and persistent after engine
search largely depends on the result of convex hull.
start. Thus, the models will describe the main single
Additionally, in order to maintain balance in exhaust
influence of the calibration parameters on engine
gas enthalpy, fuel consumption and exhaust emission,
outputs, only. The purpose of the models is to find
decision of objective functions and constraint
optimal settings for the steady state engine maps
conditions become very difficult. This paper
and to evaluate different calibration strategies. An
introduces techniques for solving these problems.
important focus of the development is to perform
all measurements on a common engine test bench
2. Catalyst heat-up optimization
with a much reduced effort compared to cold start
experiments.
In general, the calibration of the catalyst heatup is very complex and time consuming. Complex,
2.2. Engine and test bench configuration
because the optima has to be a well-balanced
The engine used in our calibration tests is a
compromise between exhaust gas enthalpy to reach
turbo charged, direct-injection gasoline engine.
the catalyst light-off as fast as possible, gaseous
Figure 2 illustrates the system structure of the test
emissions as well as soot emissions, drivers comfort
bench. This experiment uses the A&D iTest 3.2 data
and finally the fuel consumption. Time consuming,
acquisition and control system for dynamo control.
because the number of calibration parameters is very
The automatic operation sequence is prepared
high, especially with the introduction of multiple
using the A&D ORION (Open Real-time Intelligent
injections and each experiment usually must start
Optimization Network) automated measurement
at the same cold engine conditions. This chapter
software, to conduct boundary detection
introduces an approach to optimize calibration
measurements and DoE measurements. In order
parameters using the steady state DoE methodology.
to protect engine during automatic operation, the
The core assumptions for the experiment as well as
knock indication system KIS4 is adopted for knock
the test environment and equipment are described.
Find optimize engine settings to increase
exhaust enthalpy
(Constant engine speed)
2.1. Development task and model assumptions
Figure 1 shows typical measurements of emission,
Engine Speed
catalyst temperature and engine speed right after
the engine start for a given standard vehicle cycle.
NOx
The typical calibration task is to find optimal engine
parameter settings after engine idling to heat-up the
THC
catalyst idealistically to reach light-off temperatures.
The core task of this development is to generate
engine out models of the exhaust heat amount
Catalyst Temperature
(exhaust enthalpy), temperatures, emissions, fuel
Time
consumption and other important engine outputs. For
Figure 1
economic reasons a steady state DoE approach will
- 18 -
First seconds after engine start for a
common vehicle cycle
Keihin Technical Review Vol.4 (2015)
detection and combustion fluctuation observation in
split injection patterns of, single injection, double
real time. The AVL483 micro soot sensor is used
injection, triple injection and quadruple injection.
for soot measurement, and the MEXA-7100 analyzer
Because the injector specification allows up to
is used for exhaust analysis. The A&D CHOE-200
four injections, a model for each injection pattern
heat exchanger device is used to control coolant
will be created. The start of injection will be one
temperature. Furthermore, engine control system uses
main input parameter of the DoE models. For
the A&D ADX-5435 equipped with Keihin’s original
each injection pattern, the injected quantity will be
application instead of a mass production ECU and
equally distributed for all injections. Furthermore,
software. The drivers of the injectors and the fuel
the fuel pressure, ignition timing, lambda, intake and
pump are specially manufactured for test engine.
exhaust camshaft phasing are also defined as model
inputs. Figure 3 summarizes the main in- and output
2.3. Task definition
parameters of the DoE models.
One aim of the development is to compare and
In order to take engine coolant conditions into
evaluate different injection strategies for optimizing
account, the experiments will be conducted with a
MEXA-7100
DMS500
EasyDoE
1.6.1
AVL-483
CHOE-200
Offline
ORION
1.7.6
ASAP3HS
Dynamo
A&D
iTest
CAN
UDP
Figure 2
•
•
•
•
•
•
KIS4
Engine Control
ADX-5435
ASAP3
KISTLER
Throttle
Intake valve
Exhaust valve
Lambda
Waste gate
Ignition
Injector
Device Driver
Fuel pump
Device Driver
Test bench structure
•
•
•
•
•
•
•
•
Intake camshaft phasing
Exhaust camshaft phasing
Lambda
Ignition timing
Fuel pressure
SOI 1st, SOI 2nd, SOI 3rd, SOI 4th
Coolant temperature
Figure 3
Gasoline DI Engine
(Turbo Charged)
Model in- and output parameters
- 19 -
Temperatures
Exhaust enthalpy
NOx
THC
Soot/PN
COV
Fuel consumption (BSFC)
...
Steady State Calibration for Catalyst Heat-up Optimization on Gasoline Direct Injection Engine
constant water temperature (coolant out) of approx.
Table 1
35°C. The engine speed is kept at 1500rpm and load
is kept at 30Nm.
Control parameter
Unit
Range
Ignition timing
CA
5 ~ -30
SOI_1st
CA
0 ~ -230
SOI_2nd
CA
-30 ~ -300
SOI_3rd
CA
-60 ~ -330
SOI_4th
CA
-90 ~ -360
Fuel pressure
MPa
4 ~ 20
3. Steady state calibration process
This chapter describes the steady state model
based calibration process used for catalyst heat-
Control parameters and their ranges for
boundary detection
up optimization. The first step of the process, e.g.,
the definition of target goals of the development,
the boundary detection will be reduced. Table 1
definition of base parameters, general conditions,
summarizes the control parameters and ranges
constraints. The experimental setup has been specified
chosen for the boundary detection. For all remaining
in the previous chapter. The remaining steps, listed
input parameters constant values will be chosen for
below, will hereafter be discussed in detail:
the boundary detection. For the later test design
• Boundary detection,
calculation the ranges will be defined manually.
• Test design,
The ignition shows a strong influence on exhaust
• Data evaluation and modelling building,
temperature, therefore the ignition is one main
• Optimization and validation.
parameters of boundary detection. The starts of
the injections (SOIs) have a strong geometrical
3.1. Boundary detection
dependency among themselves and are highly
In order to generate data driven models of high
influencing emissions, especially soot particles
quality, the definition of the design space and the
in size and number. The fuel pressure strongly
parameter ranges is essential. The better the design
influences the injection rate. Furthermore, the
space is known in advance, the better the coverage
injection rate is limited by a minimal flow rate of
of candidates will be for the measurements and the
the injectors, refer Figure 4.
later model building. Furthermore, if restricted and
Because of the strong dependency of the ignition
not drivable areas can be omitted from the design
timing and injection time on one hand, as well as
space beforehand, the more efficient and less time
the geometrical dependencies of injection times in
consuming the measurement effort will be, because
combination with the fuel pressure on the other
hard limit violations are avoided.
hand, the boundary detection is greatly dependent
To c o p e w i t h t h e n o n l i n e a r d e p e n d e n c i e s
on the initial start point of the boundary search. To
and constraints of the input parameters, the test
cope with these effects, a short pre-investigation has
design will be calculated using a convex hull of
been conducted to determine the size and shape of
the input parameters. This convex hull will be
the convex hull in dependency of the initial start
created on the base of measurements done with
point. The determination has to be done carefully
an automated Boundary Finder sequence of the
for all parameters which are constant during the
test bench automation software ORION. Because
boundary search. Figure 5 shows the image and
the identification of a design space is extremely
mode of operation of the Boundary Finder sequence
time consuming for nine parameters in case of
of ORION. There are three steps for boundary
a quadruple injection pattern, the dimensions of
detection:
- 20 -
360
Keihin Technical Review Vol.4 (2015)
Constraint
SOI_2nd
Injection Time
Start Pont
Minimal flow of injector
Measured Point
DoE plan Point
Constraint
0 re
Figure 4
adv
Ignition timing
0
360
SOI_1st
Dependency of injection time on ignition timing and geometrical dependencies of multiple injections
Step1 – Move to a safe start point in dependency of
done with reduced setting speed.
the last boundary point;
Figure 6 shows the convex hull results for
Step2 – Move to an intermediate point inside convex
the injection patterns of single injection, double
hull of already measured boundary points;
Step3 – Search a new target boundary point starting
Initial Start Point
from the intermediate point
Boundary Point
The intermediate point guarantees the optimal
Start Search
start conditions for each adjustment and boundary
Intermediate Target
search. The speed of the parameter adjustment is
Next Boundary
Steps
dependent on the actual operation. Moving inside
the hull to an – already known – intermediate point
is very fast. Whereas the actual boundary search as
well as a re-approach in case of a limit violation is
Figure 5
Double Injection
0
SOI_1ST [deg]
SOI_1ST [deg]
Single Injection
-50
-100
-150
-200
-250
10
0
-10
-20
Ignition [deg]
-30 0
5
10
15
0
-50
-100
-150
-200
-250
10
20
0
-10
-20
Fuel pressure [MPa]
Ignition [deg]
0
-50
-100
-150
-200
-250
10
0
-20
Ignition [deg]
-30 0
Figure 6
5
-30 0
5
10
15
20
Fuel pressure [MPa]
Quadruple Injection
SOI_1ST [deg]
SOI_1ST [deg]
Triple Injection
-10
Image of Boundary Finder
10
15
20
0
-50
-100
-150
-200
-250
10
0
-10
-20
Fuel pressure [MPa]
Ignition [deg]
-30 0
5
10
20
Fuel pressure [MPa]
Convex hull result for different injection pattern
- 21 -
15
Steady State Calibration for Catalyst Heat-up Optimization on Gasoline Direct Injection Engine
Table 2
Summary of design points, validation and repetition measurements
Injection pattern
DoE design points
Validation points
Repetition points
Single
234
22
12
Double
513
55
27
Triple
656
69
27
Quadruple
848
81
27
injection, triple injection and quadruple injection.
normalized design space is generated taking all
The convex hull size of quadruple injection is
defined ranges, constraints and convex hulls into
approximately half of single injection. Furthermore,
account. Within this design space a candidate set
the results demonstrate strong dependency of fuel
is generated using a Sobol sequence. Finally, the
pressure on the number of injections. The single
target number of design points and the distribution
injection pattern allows a much higher fuel pressure
is the result of a combination of Latin sampling
level than the multi-injection patterns. This fact can
and distance optimization. This procedure assures
be explained by system limitations, which request
a very good distribution at a minimal calculation
a minimal injection rate and allows an equidistant
time. One important advantage of this procedure is
distribution of the injected fuel mass per injection,
its extensibility. Important, because the estimation of
only. This example illustrates the advantage of an
required measurements is very difficult, especially
automated boundary detection methodology. In the
for designs of high order. The test plan can be
present case, a run time of six hours was required
enlarged very quickly with condensing of the
for a six parameter boundary detection.
existing design. This has the advantage of easily
adding measurements until the target model quality
3.2. Test design
is reached. For statistical evaluations and validation,
To ensure maximal accuracy, one model is
additional validation and repetition measurements
created for each injection pattern at constant
are planned automatically. The used test design
operating conditions of speed of 1500 rpm and load
methodology has been shown to be the best practice
of 30Nm. Furthermore, the coolant out temperature
for the most important model types for a steady
is defined to be constant at 35°C. The introduced
state DoE approach: Gaussian Process Models –
convex hulls of the automated boundary detection
GPM, HILOMOT – Hieratical Local Model Tree,
are the base of the constraints. For all remaining
RBF – Radial Basis Functions and Polynomials(2), (3).
parameters the constraints and ranges are defined
manually. The following parameters are defined as
3.3. Data evaluation and model building
input of the DoE, refer Figure 3.
After carefully evaluating the measurements for
• Intake Camshaft phasing,
each injection pattern the models are created. For
• Exhaust Camshaft phasing,
this model building process, the following model
•Lambda,
types have been used: Gaussian Process Models,
• Ignition timing,
HILOMOT models, Radial Basis Function and
• Fuel Pressure,
st
Polynomials (using various regression algorithms).
th
• SOI 1 … SOI 4 .
The final model is either chosen manually or using
The following design methodology is used to
an automated model building process. The latter
(1)
calculate space filling test designs : Initially, a
includes an automated outlier detection as well as
- 22 -
Keihin Technical Review Vol.4 (2015)
Table 3
Injection
Number
Model results
nRSME
nRSME
nRSME
(Fitting) (Validation) (PRESS)
Unit
Exhaust Enthalpy Flow
[kW]
3.3%
2.9%
3.5%
Polynomial
BSFC
[g/kWh]
5.9%
5.0%
6.2%
Polynomial
COV
[%]
8.5%
8.6%
9.1%
Polynomial
Single
Injection
NOx
[ppm]
2.2%
4.6%
3.6%
GPM
THC
[ppmC]
2.0%
4.0%
4.1%
GPM
Soot
[mg/m^3]
3.7%
5.3%
6.8%
GPM
Exhaust Enthalpy Flow
[kW]
2.0%
2.5%
2.8%
GPM
BSFC
[g/kWh]
5.2%
7.7%
5.4%
Polynomial
COV
[%]
6.7%
8.6%
9.4%
HILOMOT
NOx
[ppm]
2.6%
3.6%
3.5%
GPM
THC
[ppmC]
2.8%
2.9%
4.0%
GPM
Soot
[mg/m^3]
3.3%
6.7%
9.4%
GPM
Exhaust Enthalpy Flow
[kW]
2.4%
2.9%
3.1%
GPM
BSFC
[g/kWh]
5.3%
6.9%
5.8%
GPM
COV
[%]
8.7%
10.9%
10.8%
GPM
NOx
[ppm]
2.0%
3.1%
3.4%
HILOMOT
THC
[ppmC]
3.1%
4.2%
4.3%
HILOMOT
Soot
[mg/m^3]
2.1%
4.1%
3.4%
GPM
Exhaust Enthalpy Flow
[kW]
2.0%
2.5%
2.8%
GPM
BSFC
[g/kWh]
5.0%
4.8%
5.5%
Polynomial
COV
[%]
7.8%
9.5%
10.7%
GPM
NOx
[ppm]
3.3%
3.7%
4.1%
GPM
THC
[ppmC]
3.2%
3.5%
4.0%
GPM
Soot
[mg/m^3]
3.8%
7%
7.8%
GPM
Double
Injection
Triple
Injection
Quadruple
Injection
automated BoxCox output transformation.
CpEX : Specific heat constant pressure
The final model type is chosen on the base of
MassFlowEX : Exhaust mass flow
weighted fitting errors, validation errors and PRESS,
and the normalized RMSE as followed:
whereas the errors are calculated as followed:
RMSE =
Model
Type
Model
nRMSE =
n
1
( yi − yˆ i ) 2 (1)
∑
n i =1
RMSE
× 100 (%)(4)
Max − Min
with
n
PRESS = ∑ ( yˆ i − yi ) 2(2)
Max : Maximum measurement value,
i=1
Min : Minimum measurement value
with
Table 3 shows an overview of the chosen model
yi : Measured value
types and model errors for each injection pattern.
ŷi : Prediction value
The overall model quality is good and the relation
Exhaust enthalpy flow is calculated using equation (3).
of fitting, validation and PRESS nRMSE shows the
expected distribution.
EnthalpyFlowEX = TEX • CpEX • MassFlowEX(3)
As the sole exception, the models for the
with
coefficient of variance (COV) are showing noticeable
TEX : Exhaust temperature
higher errors. One root cause for the behavior of
- 23 -
Steady State Calibration for Catalyst Heat-up Optimization on Gasoline Direct Injection Engine
COV is the retarded center of combustion close to
parameter. Figure 8 shows the results for chosen
misfire for late ignition. Especially for high numbers
engine outputs on the ordinate over the abscissa
of injections a more retarded ignition is required
lambda. Lambda has been proven to be a good
to fulfill the constraint of the minimal injection
choice for the comparison.
rate of the used control system. Figure 7 shows
the predicted vs. observed plot as an example for a
COV [%] (Single Injection)
20
single injection pattern.
Fit Point
Validation Point
15
Predicted
3.4. Optimization and validation
The first objective of the evaluation is the
comparison of the four injection patterns. For this,
10
5
the Pareto fronts for various parameter combinations
are calculated. With plotting the resulting trade-offs,
0
the potential of each injection pattern can easily be
0
5
Measured
shown. To create the Pareto a full factorial grid is
Figure 7
calculated using the same distribution for each input
Quadruple
Single
26
1000
24
22
20
Triple
Quadruple
600
400
0.90
0.95
1.00
1.05
Lambda [-]
Double
Triple
1.10
0
0.85
1.15
Quadruple
1500
THC [ppmC]
1100
1000
0.90
Single
2000
0.95
1.00
1.05
Lambda [-]
Double
Triple
1.10
1.15
Quadruple
1000
500
900
0.90
Single
0.95
1.00
1.05
Lambda [-]
Double
Triple
1.10
0
0.85
1.15
Quadruple
18
08
Soot [mg/m^3]
1.0
16
14
12
0.90
Single
20
0.95
1.00
1.05
Lambda [-]
Double
Triple
1.10
1.15
Quadruple
0.6
0.4
0.2
10
0
0.85
Double
800
1200
800
0.85
COV model of triple injection
200
Single
BSFC [g/kWh]
Triple
1200
18
0.85
Cov_Cyl1 [%]
Double
28
NOx [ppm]
Enthalpy Flow_Ex [kW]
Single
15
10
0.90
Figure 8
0.95
1.00
1.05
Lambda [-]
1.10
1.15
0.0
0.85
0.90
0.95
1.00
1.05
Lambda [-]
1.10
Comparison of the four injection patterns using a Pareto optimization
- 24 -
1.15
20
Keihin Technical Review Vol.4 (2015)
For rich engine operation, the highest exhaust
compared to the single injection pattern. However,
gas enthalpy flow can be achieved using a single
the more retarded the combustion the lower the
injection pattern and the lowest using the quadruple
combustion temperature and thus the lower the NOx
pattern. For stoichiometric and lean engine operation
emissions.
this behavior is reversed. The double injection
For this study, the Pareto front does not show
pattern shows the highest efficiency, with the
the absolute optima. But it shows the maximal
smallest break specific fuel consumption (BSFC).
potential and the direct impact on results, if the
Here, the quadruple injection leads to the highest
parameter range and outputs are constrained. For
fuel consumption, whereas double and triple
the comparison shown in Figure 9, the COV is
injection shows almost the same consumption.
introduced as constraint at the point of infection of
The quadruple injection shows the lowest NOx
the gradient of the exhaust temperature. Additionally,
emissions with a reduction of approx. 30% compared
the chosen COV values are still acceptable in terms
to the single injection pattern for stoichiometric
of customers comfort.
engine operation. For the THC and soot emission,
The intake and exhaust camshaft phasing show a
the result are not as clear as for the NOx, but single
strong influence on the engine outputs. Nevertheless,
and quadruple injection show almost the same level
the hydraulic drive of the engine is limited in
of emission.
operation of a cold engine. Thus additional
To conclude, one reason of the advantage of
constraints for the camshaft phasing and ranges are
the quadruple compared to the singe injection
defined. All further evaluations have been done using
pattern is that the quadruple injection pattern
the shown constraint definitions.
allows an engine operation with a more retarded
The target of this validation is to find optimal
center of heat release. Hence, an increased BSFC
settings for each injection pattern and to compare
for quadruple injection at larger values of COV
these optima with the original map settings as
20
15
900
800
600
500
300
COV [%]
1000
Single_Point
Double_Point
Triple_Point
Quadruple_Point
900
700
600
500
400
Single_Point
Double_Point
Triple_Point
Quadruple_Point
400
10
5
T_CAT [ºC]
700
BSFC [g/kWh]
25
800
Single_Point
Double_Point
Triple_Point
Quadruple_Point
T_Ex [ºC]
Enthalpy Flow_EX [kW]
30
COV [%]
Single_Point
Double_Point
Triple_Point
Quadruple_Point
800
700
600
500
COV [%]
Figure 9
Pareto front analysis
- 25 -
COV [%]
Steady State Calibration for Catalyst Heat-up Optimization on Gasoline Direct Injection Engine
Table 4
Deviation [%] of the double injection pattern compared to original reference engine maps
Percent
䕧Enthalpy Flow
different
Injection
[%]
pattern
9
Reference Value
䕧COV
䕧NOx
䕧THC
䕧Soot
[%]
[%]
[%]
[%]
[%]
-0.8
4
-4.3
-27
-38
Reference Value
Optimization Value
Optimization Value
1
2
3
4
1
Injection Number
2
3
4
Optimization Value
2
3
4
Injection Number
Reference Value
2
3
4
Injection Number
Reference Value
Optimization Value
1
2
3
4
1
Injection Number
Figure 10
Optimization Value
Optimization Value
Soot [mg/m^3]
NOx [ppm]
1
1
Injection Number
THC [ppmC]
Reference Value
Reference Value
COV [%]
BSFC [g/kWh]
Enthalpy Flow_EX [kW]
Double
䕧BSFC
2
3
4
Injection Number
Optimization results for each injection pattern
reference. Figure 10 summarizes the best results
heat-up optimization. In order to compare different
of all optimizations performed for each injection
injection strategies, a maximum number of six
pattern plotted on the abscissa. The red dotted line
parameters were set in the boundary detection
marks the engine outputs of the reference maps.
test. The results demonstrate strong dependency of
If the enthalpy flow of exhaust gas is chosen as
fuel pressure on the number of injections. GPM,
measure for the comparison, the double injection
HILOMOT, RBF and Polynomials method were used
shows the best results of all patterns. Furthermore,
to build models. All models were of high quality.
the results for the double injection are even better
Compared to reference maps, to establish quick heat-
than the reference of the original engine settings.
up of the catalyst and lowering emission compatibly
At the same level of fuel consumptions compared
by multi-objective optimization of exhaust enthalpy
to the reference, the double injection pattern shown
and exhaust emission, has been achieved.
a higher level of enthalpy flow and lower levels of
References
emissions. Only, the COV value increases slightly.
Table 4 summarizes the deviations of the double
(1)Haukap, C.; Hegmann, M.; Kohler, B. U.:
injection pattern compared to the original reference
Strategies for improving the process of Test
settings of the engine.
Design and Test Plan computation for high
dimensional designs. In: 6 th Conference on
4. Conclusion
Design of Experiments, Berlin. 2011
This paper described the steady state calibration
(2)Baumann, W.; Dreher, T.; Ropke, K.; Stelzer, S.:
method with common engine test bench for catalyst
DoE for Series Production Calibration. In: 7th
- 26 -
Keihin Technical Review Vol.4 (2015)
Conference on Design of Experiments, Berlin.
2013
(3)Hartmann, B.; Baumann, W.; Nelles, O.; AxesOblique Partitioning of Local Model Networks
for Engine Calibration. In: 7th Conference on
Design of Experiments, Berlin. 2013
Authors
Steady state calibration method efficiently
implemented on engine test bed has been
substantiated in this practice, and effort will be made
to verify on actual vehicle hereafter. Furthermore,
steady state calibration method will be effectively
applied to Keihin’s component development.
Here, I would like to express my thankfulness to
all persons in our company as well as IAV GmbH
for their kind cooperation. (HE)
− Dr. Carsten HAUKAP
Member of the department ‘Methodology
Development’ of IAV GmbH since 2004. Specialist
for steady state and dynamic DoE and processes
and model based calibration. Responsible of project
management of methodology related projects.
− Thomas DREHER
Member of the department ‘Methodology
Development’ of IAV since 2000. Specialist for
test bench automation and model based calibration.
As team manager responsible for software tool
development.
Software products: IAV EasyDoE and ORION (in
cooperation with company A&D)
- 27 -
論文
永久磁石埋込型同期モータ(IPMSM)のロータ形状がトルクリップルに及ぼす影響
永久磁石埋込型同期モータ(IPMSM)のロータ形状が
トルクリップルに及ぼす影響※
Effect of the Rotor Shape of an Interior Permanent Magnet Synchronous Motor (IPMSM) on Torque Ripple
上 田 正 嗣*1
Masashi UEDA
池 田 祐 司*1
Yuuji IKEDA
遠 藤 佳 宏*1
Yoshihiro ENDO
In this paper investigate the reduction of torque pulsation in concentrated coil motors which utilize the
characteristics of IPMSM’s for miniaturization and high efficiency, using magnetic field analysis to optimize the
positioning of the magnets and the rotor shape.
Key Words: IPMSM, rotor shape, concentrated coil, torque ripple
1.まえがき
Table 1
永久磁石埋込型同期モータ(以下 IPMSM と
Constrations
略す)は,リラクタンストルクの活用により,
小型・高効率化できる特徴があり,自動車業界
Requierments
では燃費向上を図るため HEV/EV 車両などの
Design constraints and requirements
Inverter bus voltage Vdc
Max phase current
Constant rating current
Constant rating speed
Rating torque
Max outer diameter of stator
Motor weight (Max)
173 V
21.2 Arms
10 Arms
5000 rpm
2.2 Nm
ϕ94 mm
1.05 Kg
車載用モータとしての利用が増加している.
一方,こういった車載用電動デバイスでは,
型に特化したモータアクチュエータをコンセ
商品性向上の観点において NV(音・振動)の重
プトとし Table 1 のように制約条件と設計要
要性を看過できないため,モータの振動源の
件を設定した.
ひとつであるトルクリップルやコギングトル
制約条件は,電源電圧が 173V,相電流は最
(1)
クの低減が課題
大 21.2 Arms,連続定格相電流は 10 Arms,定
であり,モータハードウエ
格出力時のモータ回転数は 5000 rpm とした.
アと制御の両面から改良手法の構築が進めら
(2)
れてきている
設計要件は定格トルク 2.2 Nm,モータ体格は
.
本稿では,磁場解析手法を用いてロータ形
レイアウト制約としてステータ外径を j 94 mm
状およびマグネット配置を工夫することによ
以下,磁気回路重量を 1.05 kg 以下とした.こ
り,IPMSM の特徴である小型・高効率をいか
こで磁気回路重量とはステータとロータおよ
しつつ,トルクリップルやコギングトルクを
びマグネットと巻き線の総重量である.
設計要件およびコンセプトを満たすため,
低減した検討経過と結果について述べる.
モータ形式は6極9スロットのインナーロー
2.検討モータモデル
タ形式とし,ステータは分割コアを採用し,さ
らに巻き線占積率向上と低銅損を両立させる
制約条件と設計要件
ため,巻き線はバイファイラとした.マグネッ
本検討では HEV/EV への搭載を想定し,小
トは磁束の有効利用を目的とし,1極につき
※2015 年 5 月 18 日受付,電気学会の許諾を得て,電気学会研究会資料 RM-14-076 より加筆修正して転載
*1 先進技術研究部
- 28 -
ケーヒン技報 Vol.4 (2015)
Table 2
本 検 討 で は ,定 格 ト ル ク 出 力 時 の ト ル ク
Specification of reference motor
Phases and poles
Nunber of stator slot
Diameter of stator
Diameter of rotor
Core length
Nunber of turns/slot
Type of laminating steel
Type of magnet
Magnetic thickness (r direction)
リップル低減を目的とするため定格電流であ
3 phases, 6 poles
9 slot
ϕ 93 mm
ϕ 53 mm
16.8 mm
84 turns (Bifilar coil)
35A270
Nd-Fe-B
3 mm
る相電流 10 Arms 通電時の最適位相角にて解
析を実施し,リラクタンストルクを含むトル
クリップル低減を検討した.
トルクリップルの低減のためにはギャップ
,
磁束密度を正弦波化する必要があり(3)(5)
,実
際の物理的対策としては,ステータのティー
2枚使用の V 字型配置とした.駆動方式は
ス先端形状の工夫およびマグネット形状の工
180 度通電正弦波駆動のセンサレス制御方式
夫等がある.今回は小型モータをコンセプト
を想定している.
にしており, マグネットの V 字配置型の採
F i g . 1 に検討モータの断面図を示し,
用および,巻き線スペースのロスを考慮し,
Table 2 にモータ緒元を示す.今回の試作機で
Fig. 2 のようにロータ外周形状を磁極中心か
はこの初期型モータをベースとし,モータの
ら磁極間にむけて緩やかにギャップを広げて
振動源のひとつとなるトルクリップルを低減
いく手法を検討した.
F i g . 3 にパラメータスタディとして,モー
するべくロータ形状および,マグネットの開
タ中心とロータ最外径 R 中心をオフセットし
き角に着眼した検討を実施した.
たロータ形状によるモータ特性の変化につい
ϕ5
3
ての磁場解析結果を示す.磁場解析には株式
会社 JSOL の提供する JMAG を使用した.
オフセットのない初期型モータモデルのト
ϕ93
ルクリップルは,Peak to peak で 0.32 Nm で
あった.ロータ最外径 R のオフセットの増加
に伴い,モータ出力トルクは減少していくが,
トルクリップルは減少していき,オフセット
6 mm にて最小値をとる一方オフセット 7 mm
以上では増加傾向に転じている.モータ出力
トルクの減少は磁極間部のギャップ拡大に
Fig. 1
よって, 有効磁束量および q 軸方向のインダ
Reference motor model
クタンスの低下により,リラクタンストルク
Of
fse
tR
3.解析結果
3.1. ロータ外径形状の影響
Offset
トルクリップルの構成要素は以下の3つで
ある.
①ス テータの作る電磁石とマグネットの吸引
No
et
offs
反発力
②コギングトルク
③リラクタンストルク
Fig. 2
- 29 -
Mimetic diagram of rotor shape with offset
永久磁石埋込型同期モータ(IPMSM)のロータ形状がトルクリップルに及ぼす影響
フセット量 4 mm 仕様との定格電流時のトルク
成分が減少した結果といえる.
波形を示す.
F i g . 4 にロータ形状違い(ロータ最外径 R
の各オフセット設定量違い)における誘起電圧
波形を導出し,F F T 処理した結果を示す.比
3.2. さらなるトルクリップルの低減
較するとオフセット 4 mm の場合が最も高調波
前述の通り,ロータ外径 R のオフセット
成分を含まず,それよりオフセット量を大き
量最適化により,初期型モータに対しトルク
くしていくと,主に5次の高調波成分の重畳
リップルを低減することができたが,コギン
により誘起電圧波形が歪み,理想的な正弦波
グトルクは,ほぼ変化がなく低減できていな
からのかい離が大きくなっていく.センサレ
いことから,ギャップパーミアンスの不均一
ス制御においては,誘起電圧波形の歪が角度
が改善されておらず,さらなるコギングトル
推定誤差と電流波形の歪等を招き,モータ性
クおよびトルクリップルの低減の手法を検討
(4)
能と効率を悪化させる要因となるため
した.Fig. 6 に V 字配置型ロータのマグネッ
,誘
起電圧波形は正弦波に近しい方が望ましい.
ト開き角変更によるモータ特性変化を磁場解
以上より低トルクリップルと誘起電圧の低歪
析にてパラメータスタディした結果を示す.
比較すると,マグネット開き角 75 度以下で
率を両立する外径 R オフセット量 4 mm を今
のコギングトルクは 0.05 Nm 近傍で推移して
回仕様の最適値として採用した.
いるが,76 度以上からは,コギングトルクが
Fig. 5 に初期型モータとロータ最外径 R オ
Torque ripple
Torque
0.3
0.25
2.3
2.5
2.28
2.45
2.26
2.4
2.24
2.35
2.22
0.2
2.2
0.15
2.18
2.16
0.1
0.05
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
2.3
2.25
2.2
2.15
2.14
2.1
2.12
2.05
2.1
Offset 4mm
No offset
2
0
20
40
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
Change in motor characteristics as a result
of difference in rotor shape
0
1
2
3
4
5
6
7
Fig. 5
Torque ripple/Cogging torque [Nm]
BEMF THD [%]
Fig. 3
80
100
120
8
Torque waveform (No offset & offset 4mm)
Torque ripple
Cogging torque
Torque
2.3
0.3
0.25
0.2
0.15
0.1
0.05
0
72
Offset [mm]
Fig. 4
60
Rotor angle [deg]
Offset [mm]
73
74
75
76
77
78
79
80
81
2.28
2.26
2.24
2.22
2.2
2.18
2.16
2.14
2.12
2.1
Torque [Nm]
0
Torque [Nm]
Cogging torque
Torque [Nm]
Torque ripple/Cogging torque [Nm]
0.35
Magnet open-angle [deg]
THD comparison of BEMF waveform as a
result of difference in rotor shape
Fig. 6
- 30 -
Change in motor characteristics as a result
of difference in magnet open-angle
ケーヒン技報 Vol.4 (2015)
Torque ripple/Cogging torque [Nm]
増大傾向に転じている.この結果から今回の
場合,モータの組み立て性を考慮した現実的
なマグネット配置として 76 度を選択した.次
に,磁極間部分のギャップのみさらに広げて,
2段曲率としたロータ外径構造を検討した.
F i g . 7 に今回の検討において,最終的に決
定した最終ロータ形状を示す.この最終ロー
タ形状により,先述の外径 R オフセット 4 mm
仕様に対しては.Fig. 8 に示すように,トルク
0.35
Latest model
0.25
0.2
0.15
74% reduction
0.1
67% reduction
0.05
0
Fig. 9
Cogging torque
Torque ripple
Comparison of torque ripple and cogging
torque of reference model and latest model
リップルを 33% 低減することができた.当初
の初期型モータモデルとの比較では,Fig. 9,
Reference model
0.3
2.5
F i g . 10 に示すように,トルクリップルを
2.45
2.4
74%,コギングトルクを 67% 低減することが
Torque [Nm]
2.35
できたうえ,モータ出力トルクの低下はほぼ
ゼロに押さえ込むことができている.
2.3
2.25
2.2
2.15
2.1
76º
2
Latest model
0
20
40
60
80
100
120
0
Rotor angle [deg]
R3
R22.5
Reference model
2.05
Fig. 10
Comparison of torque waveform of
reference model and latest model
2.1
4
4.まとめ
本稿では,集中巻 I P M S M を題材にロータ
形状を工夫することでモータの振動源のひと
つであるトルクリップルとコギングトルクを
5.2
低減する手法とその効果を確認し,実例と数
Fig. 7
値を持って示した.
Outline of latest rotor
Torque ripple/Cogging torque [Nm]
しかしながら,今回確認した具体的な効果
は,モータの所要出力や体格といった制約・設
0.14
0.12
0.1
33% reduction
4mm offset model
Latest model
計要件は元より,使用する各磁性材料物性等
によっても異なるため,今後は,より多方面で
0.08
最適解を得る多目的最適化設計のプロセスの
0.06
構築にも取り組んでいきたい.
51% reduction
0.04
0.02
0
Fig. 8
参考文献
Torque ripple
Cogging torque
Comparison of torque ripple and cogging
torque of 4mm offset model and latest model
(1)堺 和 人・徳 増 正:「 永 久 磁 石 モ ー タ の コ
ギ ン グ ト ル ク 解 析 」日 本 A E M 学 会 誌
- 31 -
永久磁石埋込型同期モータ(IPMSM)のロータ形状がトルクリップルに及ぼす影響
Volume2 Number1 (1994)
(2)浅野能成・伊藤浩:「磁界解析を用いた永
久磁石埋め込みモータの低騒音化」,信学
技報 TECHNICAL REPORT OF IEICE
(1997)
(3)武田洋次・松井信行・森本茂雄・本田幸夫:
「埋め込み磁石同期モータの設計と制
御」,オーム社 (2001)
(4)株式会社日立製作所総合教育センタ技術
研修所:「わかりやすい小型モータの技
術」,オーム社 (2004)
(5)川村清美・横内保行:「業務用空調向け回
路一体型 IPM モータの開発」,Panasonic
Technical Journal Vol.55 No.3(2009)
著 者
上田正嗣
池田祐司
遠藤佳宏
車載用電動デバイスの音・振動といった課題
に対し,磁場解析により最適化をおこなう事
ができました.今後も様々なニーズに応じた
モータの最適設計ができるよう磁場解析のみ
ならず,関連技術への理解を深めたいと思い
ます.本研究を推進するにあたり,ご指導・ご
協力をいただきました皆様に感謝申し上げま
す.
(上田)
今回の成果は,開発の手順・工夫の観点な
ど,そのノウハウの蓄積が具体的な成果となっ
て表れたと考えます.今後は,システム設計の
観点から,より効率的な磁気回路と制御性を両
立した高度な設計を目指していきます.
(池田)
- 32 -
ケーヒン技報 Vol.4 (2015)
論文
品質工学を用いたマウント条件最適化による
小型部品欠品の抑止※
Prevention of Separation of Small Electronic Components by Optimization of Mounting
Conditions Using Quality Engineering
武 石 正 敬*1
Masataka TAKEISHI
Technology for mounting small electrical parts is required for decreasing the size of electronic control units
installed in automobiles. One problem often confronted in mounting of small electrical parts is an increase in
separation of parts from the board. This paper describes our evaluations for optimization of mounting conditions
for small electrical parts using quality engineering principles. Operational efficiency and influence of noise
factors were also taken into consideration in our evaluations.
Key Words: Electronics and Control, Engine Control, Package, Assembly, Quality Engineering, Surface Mount Technology
1.はじめに
上のはんだペーストの状態など,実際の条件
を再現して実装評価を実施しなければ部品マ
ECU(Engine Control Unit)を代表とする自
ウント工程における課題を抽出することがで
動車に搭載される電装部品において,長期的
きない(4).部品欠品に対しては,基板上に印
な安定動作とともに,高性能化・小型化が求
刷されたはんだペーストの量や,部品をはん
められている.そのため,狭いスペースに対
だペーストに押し込む量により,部品とはん
し,より小型の部品を数多く搭載する必要が
だペーストのタッキング力が変化することが
(1)
ある
わかっており,部品欠品の発生率に影響を及
.E C U の電子制御基板を構成する部
ぼすことが報告されている(5).
品のなかでも,最も多く実装されている部品
のひとつとして,抵抗・セラミックコンデンサ
本報告では,部品マウント工程における実
のチップ部品が挙げられる.これらの部品は
装機の設備設定・ノズル形状を対象とし,今
小さく,市場では更に小型化された部品が発
後小型実装部品のなかでも主流となる 0603
表されている.特にセラミックコンデンサは,
チップの部品欠品抑止のための実装条件最適
2020 年に 0603( 0.6 mm × 0.3 mm)サイズの微
化評価について述べるものである.評価は品
小チップ部品が市場構成比1位になることが
質工学(6)を用いて実施した.これまでも,は
予想されている(2).
んだ付けを伴う実装工程に対する安定化・工
ECU を構成する電子部品の表面実装技術に
程改善への品質工学の適用については,荘所
ついては,小型化に対応するための改善が求
ら(7)や太場ら(8)が報告しているが,今回は
められる.中でも実装機(マウンタ)を用いた
0603 チップの実装条件最適化に対し,評価
部品マウント工程の課題として,部品欠品が
の効率化,および製品において想定される誤
(3)
挙げられる
.0603 サイズレベルの小型部品
差因子による影響を含めた評価をおこなうこ
マウント工程の品質確保にあたっては,基板
とでロバスト性の高い条件の導出を狙ったも
※2015 年 7 月 28 日受付
*1 先進技術研究部
- 33 -
品質工学を用いたマウント条件最適化による小型部品欠品の抑止
のである.評価は2ステップ構成で,ステッ
い.よって,本報告ではタッキング力不足に
プ1として部品欠品に対する影響が大きい
よって発生するものを部品欠品として扱うこ
因子の抽出,およびその他因子の最適条件の
ととする.
抽出をおこなった.次にステップ2として,
ステップ1で求めた影響が大きい因子におい
2.2. 発生タイミング
て部品欠品を抑止するための最適条件を導出
部品欠品の発生タイミングに関しては,マ
ウンタの動作が高速であるため把握しづらく,
し,マウンタ条件の最適化とした.
通常の撮影機材・目視では困難である.そこ
2.部品欠品について
で,部品マウントの状況をハイスピードカメ
ラで撮影した.Fig. 2 に撮影した映像を示す.
2.1. 不良モード
その結果,部品欠品は,マウンタノズルで吸着
部品欠品は表面実装技術における不良モー
した部品を基板上の印刷はんだに押し込み,
ドの一種であり,はんだ印刷された基板に部
リリースする際に発生していることがわかっ
品 を マ ウ ン ト し た 際 ,そ の 前 後 で 部 品 を 紛
た.よって,評価対象とする条件項目は,部品
失してしまう(欠品してしまう)不良である.
リリース前後に影響を及ぼすものを選定した.
F i g . 1 に部品欠品の例を示す.原因のひとつ
としては部品と印刷はんだのタッキング力不
足が考えられる(4).タッキング力が不足する
と,印刷はんだ上にマウントされた部品を保
持することが困難になる.タッキング力が不
足する原因としては部品吸着ノズルにおける
部品吸着時のズレや基板上の印刷はんだの不
足など,様々な要因が考えられる.部品欠品を
Parts missing occurs at parts releasing.
抑止するためには,その発生タイミングを把
Fig. 2
握し,適切な対策を施す必要がある.タッキン
グ力不足以外の部品欠品原因としては,部品
Situation of separation of parts from the
board
同士の干渉や,部品をマウントノズルで吸着
3.ステップ1:影響大因子の抽出
する際の吸着ミスが挙げられるが(4),マウン
タノズルの部品有無確認機構により検出可能
3.1. 評価方法
であることから,製品基板に対する影響はな
基板はガラスエポキシ基板(F R -4 180 mm
× 200 mm × 1.2 mmt,4層版)の全面に 1608
( 1 . 6 mm × 0 . 8 mm )チ ッ プ・1 0 0 5( 1 . 0 mm ×
0.5 mm)チップ・0603 チップという3サイズの
OK
NG
部品を実装するためのパッドを配置したもの
NG
を用いた.基板概要を Fig. 3 に示す.なお,本
評価に関しては 0603 チップのみを実装し,評
価対象とした.基板にはんだペーストを印刷
し,評価水準毎に9個の部品をマウントして,
Fig. 1
部品のマウント状態を目視により数値化した.
Separation of parts from the board
- 34 -
ケーヒン技報 Vol.4 (2015)
数値化は,部品がパッドの中心にマウントさ
Table 1
れていれば1点,部品がパッドに乗っていな
Score
The standard of the judgment
1
No problem
2
There is a small position gap
3
There is a position gap,
but both terminals on pad
4
Only one terminal is
attached to pad
5
Complete separation of part
from the board
い場合を5点とし,5段階評価の望小特性と
して集計した.配点一覧を Table 1 に示す.部
品マウント状態の数値化に関しては様々な方
Score standard for part mounting state
法が考えられるが,印刷はんだにマウントさ
れた部品ははんだ接合前の不安定な状態であ
り,基板ハンドリング時の揺れ・衝撃によりマ
ウント後の状態を維持できない可能性がある.
そのため,基板を自動搬送する外観検査設備
の使用は避け,目視による数値化を採用した.
また,目視による採点により作業時間を大幅
Table 2
に短縮することができ,評価時間の短縮にも
The factor of L18 orthogonal array
Control factor
A Mount angle
寄与するものである.
評価水準の組み合わせについては,L18 直
B Part push stroke
交表を用いた.その際の制御因子・誤差因子の
C
D
E
F
G
H
各水準,および代表的な固定条件を Table 2 に
示す.制御因子はマウンタの設備設定項目と
し,誤差因子は部品種・印刷はんだ量とした.
部品マウント状態を評価する尺度として
Nozzle shape
Substrate conveyance speed
Nozzle 2 stage movement
Part recognition speed
Part conveyance speed
Part adhesion speed
Noise factor
Part kind
Volume of solder
S N 比を用いた.S N 比はばらつきの尺度とし
Images
Level 1
0 deg.
Current
-0.3mm
Rectangle
High
Yes
High
High
High
Level 2
90 deg.
Current
Asterisk
Middle
No
Middle
Middle
Middle
Level 3
–
Current
+0.3mm
Circular
Low
(Yes)
Low
Low
Low
Level
0603 resistor
100%
0603 capacitor
70%
て扱われ,任意の設計が持つ機能の大きさと
ノイズによるばらつきの比を表している(6).
また,各因子が部品マウント状態に与える
以下に本報告で用いた望小特性の S N 比ηを
影響度を比較するため S N 比の分散分析をお
求める式を示す.
こない,寄与率を求めた(6).寄与率とは,分散
1
η = −10 log (
n
分析において,要因効果の割合を全変動に対
する百分率として表した量である(9).
y )
2
i
3.2. 結果
180.0mm
T a b l e 3 に制御因子の S N 比一覧と分散分
析結果を,F i g . 4 に要因効果図と寄与率のグ
ラフを示す.分散分析で,自由度 f,誤差変動 S
200.0mm
から求めた各水準の分散 V が誤差分散 V e より
小さいものに関しては誤差の範囲内とみなし,
誤差 e にプールした.プール後の誤差を(e)と
する.
設備設定値のひとつである「部品押し込み
There are 9 parts
Fig. 3
量」に対する S N 比の変動が大きく,影響が
T=1.2mm
大きいことがわかった.寄与率ρに関しても
50% 以上を部品押し込み量が占めている.ま
Substrate for evaluation
- 35 -
品質工学を用いたマウント条件最適化による小型部品欠品の抑止
Table 3
条件最適化において実施したマウント点数を
Calculation result
増やした際の効果確認によりこれを代用する.
(a) S/N ratio
A
B
C
D
E
F
G
H
Control factor
Mount angle
Part burglar amount
Nozzle shape
Substrate conveyance speed
Nozzle 2 stage movement
Part recognition speed
Part conveyance speed
Part adhesion speed
Level 1
-2.57
-4.85
-1.05
-1.48
-1.37
-1.84
-1.73
-1.05
Level 2
-0.74
0.00
-1.82
-2.06
-2.06
-1.39
-1.50
-1.70
プール後の誤差(e)の寄与率は約 45% で
Level 3
−
-0.11
-2.10
-1.42
-1.53
-1.74
-1.74
-2.21
[dB]
あった.これは,L18 直交実験において取り上
げきれていない誤差の存在を表している.想
定される誤差としては,部品押し込み量に関
連する基板垂直方向の因子が挙げられる.例
えば,基板反り・はんだ量・チップ部品高さな
(b) Variance analysis result
Control
factor
A
B
C
D
E
F
G
H
e
(e)
T
f
S
V
Pool
1
2
2
2
2
2
2
2
2
(15)
17
15.06
92.10
3.51
1.52
1.58
0.69
0.23
4.03
33.93
(60.54)
152.64
15.06
46.05
1.75
0.76
0.79
0.34
0.11
2.01
16.97
(4.04)
䕿
どである.そこで,これらの基板垂直方向に関
ρ (%)
連する因子に対しては次項のマウンタ条件最
55.05
適化において取り扱うこととした.
䕿
䕿
䕿
䕿
䕿
䕿
4.ステップ2:マウンタ条件の最適化
44.95
100.00
4.1. 評価方法
評価は,前項で導き出した寄与率が大きい
た,要因効果図から,部品押し込み量以外の因
項目である「部品押し込み量」を制御因子に置
子についても最適条件を求めた.なお,本評価
いた一因子実験とした.誤差因子として,実装
においては部品欠品の抑止が最終目的である
工程で想定される基板側の因子を置いた.因
ため,L18 直交実験の妥当性を確認するための
子と水準一覧を Table 4 に示す.評価に用いた
確認実験については実施しておらず,次項の
基板,および目視による5段階の部品欠品状
態の数値化は前項同様である.
評価で求めた部品押し込み量に加え,基板
-1
に対して垂直な方向のばらつき項目を抽出し
-2
た後,各公差から想定される値を算出・加算す
-3
D
High
Middle
Low
C
High
Middle
Low
B
High
Middle
Low
A
Yes
No
(Yes)
High
Middle
Low
の最適値を導き出した.
-6
Rectangle
Asterisk
Circular
ることで部品欠品を抑止する部品押し込み量
-5
Current-0.3mm
Current
Current+0.3mm
-4
0 deg.
90 deg.
S/N ratio η [dB]
0
4.2. 結果
E
F
G
Fig. 5 にマウンタ押し込み量に対する部品
H
欠品採点結果を示す.グラフの縦軸は一般的
Percent contribution
ρ [%]
(a) Response graph
に品質工学で指標となる S/N 比ではなく,各
60
水準の採点結果の平均値とした.そのため,数
40
値が低いほど部品欠品が発生しづらく,軽度
20
であることを示しており,平均値が1であれ
ば部品欠品は無く,安定した部品マウントが
0
A
B
C
D
E
F
G
H
なされているといえる.
(e)
部品押し込み量が小さいほど部品欠品の採
(b) Percentage contribution
Fig. 4
点結果は大きくなっている.これは,部品押し
Response graph and percentage contribution
of Step1
込み量を大きくすることで部品欠品を抑制で
- 36 -
ケーヒン技報 Vol.4 (2015)
Table 4
Factor and levels of Step2
Factor
Control Part push
factor stroke
9
pattern
Warp of the 2
substrate
pattern
Noise
factor
Volume of
solder
2
pattern
Kind of
parts
2
pattern
Table 5
Level
• Current - 0.40mm ∼ • Current ∼ • Current +0.30mm
…
Factor
…
• No
• Yes
• Typical
• Little
Standard deviation list of z axial element
Image
Tolerance
Standard
deviation
0.005
n
Average
−
−
13.80±0.02mm
−
−
0.30±0.03mm
0.23±0.03mm
20 0.308mm 0.00737
20 0.224mm 0.00283
0.0000544…③
0.0000078
1.20±0.10mm
216 1.189mm 0.0206
0.000426…④
74.00±0.05mm 20 74.00mm 0.0243
0.000593…⑤
Mounter head
Z axis
±0.015mm
Mounter nozzle
Parts Capacitor
hight Resister
Substrate
thickness
Backup
Variance
0.000025…①
※Estimated value
0.00666
0.0000444…②
※Estimated value
• 0603Ceramic capacitor • 0603Resistor
Table 6
0.60mm × 0.30mm × t0.30mm
Optimum list of control factors
0.60mm × 0.30mm × t 0.23mm
Factor
Part burglar amount
Nozzle shape
Substrate conveyance speed
Nozzle 2 stage movement
Part recognition speed
Part conveyance speed
Part adhesion speed
きることを示しており,はんだ印刷量によら
ずマウンタ押し込み量を現行条件以上とする
ことで部品欠品が発生しなかったことを表し
ている.
Condition
Current+0.10mm
Rectangle
Low
Yes
Middle
Middle
High
次に,基板垂直方向に対して影響を及ぼす
項目の標準偏差σを求めた.これは,前項の
して取り扱った.各項目の標準偏差σ①~⑤の二
L18 直交実験時に抽出しきれなかった誤差に
乗和平方根より,押し込み量の標準偏差σT を
関連する因子の影響を補うものである.各項
算出した.
目のイメージ図と標準偏差σを Table 5 に示
σ T = σ ①2 + σ ②2 + σ ③2 + σ ④2 + σ ⑤2
す.ここで実測が困難であるマウンタヘッド
√
の Z 軸動作精度・マウンタノズルの高さに関
≒ 0.034 [mm]
しては公差を3で割った値を公差の推定値と
最後に,評価から求めた部品押し込み量に
The average score of separation
of parts from the board
3.5
押し込み量の推定ばらつきとして 3σT を加算
The kind of The warp of
the parts the substrate
3.0
2.5
2.0
0603R
No
0603C
No
0603R
Yes
0603C
Yes
し,最適な部品押し込み量として「現行押し込
み量+0.1m m」を導き出した.すでに3項で求
めているその他の設備設定項目を含め,最適
条件を Table 6 に示す.効果の確認として,本
1.5
1.0
-0.5
-0.4
-0.3
-0.2
-0.1
0.0
0.1
0.2
0.3
0.4
最適条件により 11,000 個の 0603 チップのマ
0.5
ウントを実施し,部品欠品が発生しなかった
Part push stroke [mm]
ことを確認した.
(a) Volume of solder: Typical
The average score of separation
of parts from the board
3.5
The kind of The warp of
the parts the substrate
3.0
0603R
2.5
2.0
5.考察
No
0603C
No
0603R
Yes
0603C
Yes
5.1. 部品欠品のメカニズム
前述のとおり,本報告で評価対象とした部
1.5
1.0
-0.5
品欠品は,マウンタノズルに吸着された部品
-0.4
-0.3
-0.2
-0.1
0.0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
が基板に印刷されたはんだに接し,リリース
Part push stroke [mm]
された瞬間に発生している.これに対し品質
(b) Volume of solder: Little
Fig. 5
工学を適用し設備設定項目である「部品押し
Result score of separation of parts from the
board
込み量」の影響が大きいことを導き出した.そ
- 37 -
品質工学を用いたマウント条件最適化による小型部品欠品の抑止
こから部品欠品の発生メカニズムについて考
0.176 mm2)の密着力を算出した.また,マウン
察する.
タのエアブローによる力 F を以下の式より算
Fig. 7 にリリース前後部品周囲の状況を示
出した.
す.マウンタノズルの開口に真空吸着された
F=
部品は基板に印刷されたはんだに押し付けら
れる.次にノズル開口の真空破壊をおこなう
P
S
P:マウンタのエアブロー圧= 21 × 10 3 [Pa]
ために,エアブローをおこなう.このとき,は
S:マウンタノズルの開口面積=0.072×10-6 [m2]
んだと部品の密着面積が小さく,エアブロー
により部品にかかる圧力が密着面積に比べ大
0603 チップの密着力とエアブローによる
きい場合に部品欠品が発生すると考えられる.
力の比較結果を F i g . 10 に示す.エアブロー
よって,部品と印刷されたはんだの密着面積
による力に比べ 0603 チップの密着力は 1.7~
を安定確保することが部品欠品の抑制に効果
2.1 倍あり,密着面積を確保することで部品欠
的であり,部品押し込み量の最適化により改
品を抑制できることを立証し,妥当性を確認
善されたと推測される.
することができた.
5.2. 最適条件の妥当性
部 品 と は ん だ 間 の 密 着 力 を 導 き 出 し ,評
価結果の妥当性を検証した.0603 チップは
非 常 に 小 さ な 部 品 で あ り ,直 接 密 着 力 を 測
定することは困難である.そこで,3サイズ
(φ 1.2 mm,φ 2.4 mm,φ 4.8 mm)の密着力測定
(a) Adhesion measurement equipment and gauge head
子を用意し,基板上に印刷したはんだに対す
る密着力測定の結果から 0603 チップの密着
Gauge
head
2mm/s
2N
力を算出した.測定子の上下動作速度設定に
関しては JIS Z 3284 に準じておこなった.そ
10mm/s
Solder
Substrate
の際の測定方法を Fig. 8 に示す.密着力測定
用のロードセルの先端に前述の測定子を装着
(b) Gauge head and solder
(Close adherence)
し,基板上に印刷されたはんだに密着させた
Fig. 8
後引き剥がすことで密着力を測定した.この
とき,誤差因子をはんだ厚さとはんだの劣化
3.0
有無とした.密着面積と密着力の関係を Fig. 9
Adhesion [10-3N]
Fig. 9 の各式から 0603 チップ(密着面積=
Nozzle
Vacuum
Air
Method of adhesion measurement
Solder
Solder
condition thickness
New
y = 7E-05x2 + 0.0172x
Low
New
Middle y = 9E-05x2 + 0.0176x
y = 8E-05x2 + 0.0173x
New
High
y = 9E-05x2 + 0.0156x
Used
Low
Used
Middle y = 0.0001x2 + 0.0145x
y = 9E-05x2 + 0.0156x
Used
High
2.5
に示す.
(c) Gauge head and solder
(Tearing)
2.0
1.5
1.0
0.5
0603 Chip
0.0
Solder
Pad
0.0
20.0
40.0
60.0
80.0
Adherence area [mm2]
(a) Before part separation (b) After part separation
Fig. 9
Fig. 7
Nozzle image of the part release
- 38 -
Relation between the close adherence area
and adhesion
Force [10-3N]
ケーヒン技報 Vol.4 (2015)
第4節[2], pp.210-236(2007)
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
(6)日本規格協会:
“ベーシックオフライン品
質工学”(2007)
(7)荘所義弘,鐡見太郎,甲斐靖海,月木末
Low
Middle
High
Low
Middle
New
安定化検討”,第 15 回品質工学研究発表
Used
Adhesion
Fig. 10
正:
“リフロー炉によるはんだ付け工程の
High
大会論文集,pp.602-605(2007)
Nozzle air
(8)太場大輔,高松喜久雄,江末良太,山崎佑
Force of adhesion and nozzle air
希,迎英子,伊東孝:
“イメージパラメー
タ設計によるはんだ付け工程改善の検
6.まとめ
討”,第 19 回品質工学研究発表大会論文
集,pp.254-257(2011)
品質工学を用いてマウント工程における実
(9)JTEX 職業訓練法人日本技能教育開発セ
装不良である部品欠品を抑制する最適条件を
ンター:
“品質工学入門(タグチメソッド
求めた.部品欠品に対して最も影響が大きい
入門)”(2012)
因子はマウンタの設備設定値である部品押し
込み量であり,基板垂直方向のばらつき要素
著 者
を加味し,その値を現行値+0.1 mm とするこ
とで抑止できることを明らかにした.
参考文献
(1)
高木寛二,于強,澁谷忠弘,宮内裕樹,野
武石正敬
呂幸弘:
“チップ部品におけるはんだ接合
部の信頼性設計手法に関する研究(第二
将来想定される表面実装工程の課題に対し
報)
:はんだ接合寿命に及ぼす実装プロセ
て品質工学を適用し,改善評価を試みました.
スのばらつきの影響”,エレクトロニクス
本評価を通じて,品質工学を用いることは研
実装学会誌 Vol.12 No.7, pp.643-650(2009)
究開発の期間を短縮するだけでなく,“ばらつ
(2)J E I T A:
“2015 年度版実装技術ロード
き”に結びつく因子としての“誤差”の概念を
マップ”,pp.212-213(2015)
理解することに非常に有効であることを実感
(3)電子部品・実装技術委員会:
“高密度実装
できました.今後も継続して品質工学に対す
を支える電子部品実装装置の動向”,エ
る理解を深め,研究開発に生かしたいと思い
レクトロニクス実装学会誌 Vol.12 No.1,
ます.
pp.23-26(2009)
本評価を推進するにあたりご助言・ご助力下
(4)松本邦世:
“0603 チップ部品実装技術”,
最新エレクトロニクス実装大全集【下巻】
第5章 第4節[1], pp.188-209(2007)
(5)松本邦世:
“微小チップ部品(0402, 0603
チップ)の狭隣接実装技術”,最新エレ
クトロニクス実装大全集【下巻】第5章
- 39 -
さった方々に感謝いたします.
(武石)
技術紹介
ダウンサイジング直噴過給エンジン用インジェクタ
ダウンサイジング直噴過給エンジン用インジェクタ※
Injector for Downsized Direct-Injection Supercharged Engines
安 田 敬 弘*1
Takahiro YASUDA
鍋 島 保 彦*1
宮 下 純 一*1
Yasuhiko NABESHIMA Junichi MIYASITA
森 谷 昌 輝*1
Masateru MORIYA
猪 又 茂*1
Yutaka INOMATA
工 藤 浩*2
Hiroshi KUDOU
Compared with natural aspiration engine injectors, supercharge engine injectors are required to have large
flow rate and large dynamic flow range. In order to prevent the flow deviation at low injection time, we selected
a control technique of clearance area between armature and lower stopper. As a result, DFR (Dynamic Flow
Ratio) increased by 23%.
1.はじめに
2.目標値
世界各国での排出ガス規制強化や環境意識
NA-DI と TC-DI に要求される燃料噴射特
の高まりを受け,小排気量で燃費性能と動力
性の比較を Fig. 2 に示す.TC-DI の DFR 拡
性能を両立できるダウンサイジング直噴過給
大を達成するためには,応答性を高めること,
エンジン搭載車の拡大が見込まれている.
および短い燃料噴射時間における燃料流量
過 給 エ ン ジ ン 用 直 噴 イ ン ジ ェ ク タ( 以 下
の変動を抑えることが重要である.TC-DI の
TC-DI)は,自然吸気エンジン用直噴インジェ
D F R 目標値は,最大噴射燃圧を N A - D I 同等
クタ(以下 NA-DI)
に対し,動的流量比(DFR:
とした場合に 20% の向上を設定した.
Dynamic Flow Ratio)の拡大が要求される.本
報では応答性の向上と変動率の抑制により,
Flow rate (mm3/st)
DFR の拡大を達成した Fig. 1 に示す直噴イン
Target Value
Max Q
ジェクタの技術内容を紹介する.
DFR とは,任意の燃料噴射時間における最
大燃圧時の最大噴射流量(Q MAX)を最小燃圧時
の最小噴射流量(QMIN)で割った値を示す.
ure
I
-D ress
TC el P
Fu
gh
Hi
ure
-DI
NA l Press
I
e
TC-D Pressure
u
hF
Fuel
w
Hig
o
L
NA-DI ssure
el Pre
Low Fu
Max Q
Min Q
Target Value
Qmax
Dynamic Flow Ratio =
Qmin
Tmin
Tmin
Tmax
Ti (ms)
Fig. 2
DFR comparison
3.技術的取り組み
Fig. 3 に示すハンマリング構造を用いたバ
ルブ駆動方式においては,油種や温度等の環境
Fig. 1
因子により応答性の変動が大きいことが確認
Appearance of direct injector
※2015 年 6 月 1 日受付
*1 開発本部 第三開発部 *2 生産本部 生産技術五部
- 40 -
ケーヒン技報 Vol.4 (2015)
されている.これはバルブ駆動時にアーマチュ
た.最終的に D F R は 23% の向上を達成する
アがロアストッパとの間の微小な隙間に粘性
ことができた.
抵抗力の影響を受け応答時間が変動するため
である.粘性抵抗力の影響を Fig. 4 に示す.
Response time [msec]
そこで,油種や温度等の環境因子による粘
性抵抗力の影響を低減する方法として,アー
マチュアとロアストッパ間の当接面積に対し
最適化をおこなった.粘性抵抗力の低減方法
として面粗度の最適化も検討したが,生産性
NA-DI
Responsiveness
increase
TC-DI
Deviation
decrease
Contact area decrease
および検査基準の観点から当接面積を管理す
20%
る手法を選択した.
40%
60%
80%
100%
120%
Contact area of armature and lower stopper [%]
TC-DI におけるアーマチュアの応答性を評
Fig. 5
価した結果を Fig. 5 に示す.実機環境化での
Relationship of armature contact area and
needle valve responsiveness
高温・高燃圧相当の条件における粘性特性を導
4.まとめ
き出し,応答性と最大作動燃圧が両立できる
ように当接面積の最適化をおこなった.
結果としてアーマチュアの応答性は 4.3%
ハンマリング構造を用いた T C - D I におい
向上し,変動率は 20% 低減した.これにより,
て高い DFR の達成手段として,応答性向上の
MIN Q が低減し DFR 目標値の達成につながっ
ためにアーマチュアおよびロアストッパ間の
微小な隙間に対して当接面積の最適化をおこ
Main spring
なった.その効果,DFR は 23% の向上が実現
Coil
できた.また最大作動燃圧についても両立が
Guide collar
可能となり,ダウンサイジング直噴過給エン
Stator
ジンに対応できる仕様となった.
Damper spring
著 者
Armature
Upper stopper
Lower stopper
Valve rod
Needle valve
Valve ball
Fig. 3
Construction of needle
Fmag
安田敬弘
Fmag
自然吸気エンジン用直噴インジェクタを元
Fstick
にスタートした開発でした.よい手本を参考
Fstick
にできたことで目標の達成が可能となりまし
た.ダウンサイジング直噴過給エンジン用直
Contact area
NA-DI
Fig. 4
噴インジェクタとして量産できたこと,また
Contact area
皆様のお力添えにより今回紹介できる機会を
TC-DI
与えて頂いたことにお礼申し上げます.
(安田)
Viscosity peeling resistance
- 41 -
技術紹介
ダウンサイジング直噴過給エンジン用インテークマニホールド
ダウンサイジング直噴過給エンジン用
インテークマニホールド※
Intake Manifold for Downsized Direct-Injection Supercharged Engines
諏訪間 貴 康*1
Takayasu SUWAMA
山 中 純 一*1
Junichi YAMANAKA
細 谷 悟*1
Satoru HOSOYA
服 部 将 大*1
Masahiro HATTORI
A downsized direct injection engine is an engine with small displacement that makes both fuel consumption
efficiency and high engine performance possible. Small-size and weight-saving construction, high flow rate
performance and high rigidity are the major requirements of an intake manifold for such an engine. This digest
describes our optimization activities using simulation techniques to achieve the required performance in this product.
1.はじめに
約 40% の重量低減をめざし,重量目標値を
1050g,性能目標値を 60ℓ/sec に設定した.
世界各国での排出ガス規制強化や環境意識
2.性能
の高まりを受け,小排気量で燃費性能と動力
性能を両立するダウンサイジング直噴過給エ
ンジン搭載車の拡大が見込まれる.ダウンサ
小型軽量化を実現するため,本製品はシリ
イジング直噴過給エンジンは,環境先進国向
ンダヘッド締結点間に配置するレイアウトを
けの出力/燃費性能向上型と新興国向けの廉
採用した(Fig. 2).
価型の二極化する傾向である.本報では“高出
単純にガス通路を配置すると圧損が大きく
力エンジン並みの流量性能”および“世界最小
なる.またサイドフィードのためスロットル
クラスの小型軽量化と高剛性化”に取り組んだ
に近いポートと遠いポートで流量バランスが
インテークマニホールド開発について紹介す
悪化する.そこで CFD を高精度化し低圧損か
る(Fig. 1).
つ従来同等以上のポート配分形状を実現した.
本製品を搭載したダウンサイジング直噴
主にポートとチャンバ接続部である流速の
過給エンジンは圧縮された空気をエンジン
速いファンネル部に流体挙動の再現性を持た
内に送りこむため,高過給圧への対応として
Tightening points to cylinder head
高い剛性が求められる.本製品では小型軽量
化において,従来の流量目標性能を確保し,
Gas
From
intercooler
Throttle
Gas
To combustion chamber
Fig. 1
Intake manifold exterior
Fig. 2
※2015 年 7 月 3 日受付
*1 開発本部 第二開発部
- 42 -
Layout
ケーヒン技報 Vol.4 (2015)
せるため境界条件を最適化させた結果,実測
との乖離が従来 28% に対し 2.6% まで低減さ
せることができた(Fig. 3).
Weakest points
Funnel
Mass flow rate
2.6%
Fig. 5
Current
Strong optimization
28%
また製造工程においては,溶着条件(スト
Past
ローク・加圧力)をチューニングし最もバラン
#1
Fig. 3
#2
#3
#4
Test value
Sim. data (Past)
Sim. data (Current)
スの取れた条件で管理している.
4.まとめ
Pressure loss analysis simulation
3.剛性
構造解析により小型軽量化と高剛性化を両
立させ高過給圧への耐久性を実現させること
過給エンジンは自然吸気エンジンに対し耐
ができた.過給エンジンに対応してチャンバ
圧強度が 25% 程度厳しくなることから構造シ
形状を最適化することで吸気効率の向上と燃
ミュレーションを用いてリブ配置を最適化し
焼室への最適な気筒配分を実現しエンジンの
た(Fig. 4).
省スペース化にも貢献している.本開発にお
いて耐久信頼性と流量性能を合わせ持ったイ
本製品はシリンダヘッド締結点間に配置さ
れるためエンジンレイアウトの制約上,扁平
ンテークマニホールドを完成させたことで,
形状となることからポート間溶着部に応力が
より多くの製品バリエーションに対応できる
集中する.耐圧強度を確保するため,リブの配
技術を確立した.
置を極限まで最適化し十分な強度を得る仕様
著 者
を実現した(F i g . 5).限られたレイアウトス
ペースにおける小型軽量化と剛性向上は,形
状および溶着条件のパラメータスタディから
トライ&エラーを繰り返し成立させた .
Von mises
stress
諏訪間貴康
お客様と密接して迅速に確実な仕様を決め
られ良い製品が開発できたと自負しておりま
す.無事量産できたことを関連メンバー皆様
Fig. 4
に感謝申し上げます.
(諏訪間)
Rib arrangement optimization
- 43 -
技術紹介
リアトーコントロールシステムフェールセーフ用ソレノイド
リアトーコントロールシステムフェールセーフ用ソレノイド※
Fail-safe Solenoid for Rear Toe Control System
瀬 川 喜 治*1
Yoshiharu SEGAWA
佐々木 裕 和*1
Hirokazu SASAKI
Rear toe control (RTC) is an effective function for improvement of vehicle drivability. When the RTC system
fails, appropriate friction properties are required of the RTC fail-safe solenoid, a component of the RTC system.
This Digest describes our activities for optimization of the structure of the solenoid in order to attain the
appropriate friction properties.
1.はじめに
せ,Gear2 の回転速度を遅くすることである.
G e a r2 と一体化したレシーバにフリクション
リアトーコントロール(R T C)システムと
を発生させることで,トー角度変化が緩やか
は,車両のリアタイヤトー角度を車速やハン
になり,システムフェール時のリアタイヤ挙
ドル角度の情報に基づいて左右独立に操舵制
動が安定する.
本報では R T C システムに使用されている
御することにより,通常走行~限界走行領域
にかけて操舵安定性能の向上を目的とする,
フェールセーフ用ソレノイドの開発について
本田技研工業株式会社が 2013 年世界に向けて
紹介する(Fig. 2).
初めて発信したシステムである.今回開発し
たソレノイドは,第2世代の RTC システムに
搭載されている.
RTC システムの概略を Fig. 1 に示す.モー
タの回転により,Gear1 を介して Gear2 を回
転させ,台形ネジを左右に動かし,リアタイヤ
のトー角度を制御するシステムである.本シ
Fig. 2
Exterior appearance of solenoid
ステムにおける RTC 用ソレノイドの役割は,
2.推力の成立性
モータフェール時に急激なトー角度変化が発
生しないよう,シャフトをレシーバに接触さ
本ソレノイドのフェールセーフ構造を Fig. 3
Tire
に示す.RTC システムフェール時には,可動鉄
Gear1 Motor
心と一体化させたシャフトをソレノイド内部
Gear2
に組み込んだスプリングの推力により,レシー
バへ直接接触させフリクションを発生させる.
本ソレノイドは,システムフェール時に適切な
Trapezoidal Solenoid
thread
Fig. 1
フリクションを与える必要があるが,通常走行
Receiver
時はフリクションを与えないように吸引を保
持し続けなければならない.本ソレノイドは,
Schematic of RTC system
※2015 年 6 月 24 日受付
*1 開発本部 第二開発部
- 44 -
ケーヒン技報 Vol.4 (2015)
限られたスペースかつあらゆる環境下の中で
最低限の接触面積で張り付き力を確保しつつ,
スプリング力を超えるソレノイド推力を発生
初期吸引に必要となる対面吸引力も落とさな
させ,低電流でシャフトを保持し続ける高効率
いような最適設計とすることができた.
の磁力特性としなければならない.スプリング
Initial examination shape
力を超えるソレノイド推力については,高推力
Optimal shape
Shaft
を発生させるために磁路構成・コイル線径・巻
数の設定を最適化することにより,初期検討形
Moving
core
状の推力に対し,22% 向上させた(Fig. 4)
.
Receiver
Solenoid
Suction face shape
Flat
Friction
Fig. 5
Shaft
Fig. 3
4.まとめ
100
Magnetic force (N)
Suction face shape
Moving core
Structure by which friction is applied
本ソレノイドに求められるフリクション特
Optimal shape
Initial examination shape
75
Suction face shape
Step
性を実現するため,初期検討形状に対し,磁路
Area ratio
22%UP
50
構造の高効率化をおこなった.磁路構造の高
効率化により,電源投入時から可動鉄心を吸
引することが可能となり,通常走行時は低電
25
流でありながら可動鉄心を保持しつつ,シス
0
Extended
Fig. 4
Shaft position
テムフェール時には適正なフリクションを発
Retracted
生することができるフェールセーフ用ソレノ
Driving force comparison
イドを確立した.
3.吸引時の保持構造設定
著 者
本ソレノイドは,通常走行時において可動
鉄心が動作しないようにスプリング力を超え
るソレノイド推力を維持し続ける必要がある.
このため,低電流であっても高推力を発生し
続けることができるように可動鉄心と吸引部
に対し,磁力による張り付きを利用した直接
瀬川喜治
接触構造としている.
F i g . 5 に示す初期検討形状では,張り付き
今回開発したフェールセーフ用ソレノイド
力が強すぎ,フェールセーフ時にシャフトが
は,非常に短い開発期間であったものの,関係
動作する応答時間が遅いという事象が発生し
部門や取引先様の知恵を集結することにより,
た.この事象に対しては接触面積を減少させ
迅速に問題解決が可能となり,量産につなげ
る設計をおこなった.接触面に半円状の凸形
ることができました.御協力いただいた皆様
状を付けることで接触面積を減らしながら,
に深く感謝申し上げます.
(瀬川)
- 45 -
技術紹介
アルミニウムダイカスト局部加圧装置
アルミニウムダイカスト局部加圧装置※
Local Pressure Application Device for Aluminum Die-casting
上 原 徹 也*1
佐久間 文 博*1
Tetsuya UEHARA
Fumihiro SAKUMA
In high-pressure die-casting, shrinkage porosities are easily generated in the thick portion of the casting. We have
developed a device for suppressing the occurrence of shrinkage porosities by applying pressure to such thick portion. With
use of this device, when shrinkage porosities occur, their position is deeper in the casting and they are of a smaller width.
1.はじめに
ライド中子を速く動作させるため,局部加圧
回路にある加圧ピンには大流量の作動圧が伝
近年,重力鋳造(G D C)により量産されてい
達し,高速での打ちこみとなり圧力が分散す
た油圧制御バルブ等の高耐圧製品について,
るためアルミの凝固に合わせた速度による局
低コスト化のため高圧鋳造(HPDC)による量
部加圧が困難であった.
本装置は,小流量での油圧制御を可能とす
産がおこなわれるようになってきた.高圧鋳
造の製法は厚肉部にひけ巣が発生しやすく,
るために圧力・温度を補償する流量制御弁を採
内部リークによる気密不良のため直行率を悪
用することにより,キャビティへの充填直後か
化させていた.対策として,ひけ巣の発生しや
ら低速での打ちこみによる部分加圧を実現で
すい厚肉部に対し,溶湯の充填直後に溶湯補
きた.アルミ凝固の初期段階から加圧すること
給をおこなう,最終凝固部位の近傍に対する
により,加圧位置より遠くにあるひけ巣につい
局部加圧により,ひけ巣をつぶしこみ空洞を
てもつぶしこみが可能となっている.通常,一
少なくする製法が検討されている.
つの油圧回路で複数のシリンダを作動させる
今回,上記課題に対し安定した品質を維持
と作動負荷の影響を受け,抵抗の低い方が先に
しながら,コンパクトでシンプルな局部加圧
動く現象が起きるが,圧力・温度を補償する流
が可能となる装置を開発したので紹介する.
量制御弁の採用により,作動負荷の影響を受け
ることなくアルミの凝固に合わせた速度で油
2.局部加圧装置の特徴
圧シリンダを作動させる制御が可能となった.
Fig. 1 に局部加圧装置の概要を示す。
本装置は,加圧ピン駆動用に別動力を設ける
従来装置に対し,油圧シリンダの動力にダイカ
ストマシン本体の油圧回路と制御加圧用回路を
Conventional: Large flow rate control
Semi-solid aluminum
活用しているためコンパクト化されており,ダ
イカストマシンの油圧回路上部への組み込みや
High-speed
pressurizing
金型上面に設置することも可能となっている.
従来装置では,ダイカストマシンの油圧回
Pressure is dispersed
路に作動油の制御装置が装着されており,ス
Fig. 1
※2015 年 8 月 31 日受付
*1 生産本部 生産技術二部
- 46 -
Current: Small flow rate control
Semi-solid aluminum
Low-speed
pressurizing
Pressure to concentrated locally
Overview of a local pressure application device
ケーヒン技報 Vol.4 (2015)
3.局部加圧装置の効果
製品のひけ巣発生位置に比べ加圧方向におい
て 18 mm から 20 mm へとより深い位置となり,
かつ幅が 10 mm から 5 mm へと狭くなってい
Fig. 2 に従来装置と本装置で鋳造した同一
ることから,本装置による局部加圧がひけ巣
製品のリークテスト結果を示す.
対策に効果的であることがわかる.
従来装置で鋳造した製品は,リーク値の変
動が大きく,リーク圧力の平均値も高くなっ
Not pressurized
ているが,本装置で鋳造した製品はリーク値
Conventional
Current
Pressurized
direction
Pressurized
direction
の平均値が低く,リーク圧力の変動幅も狭い
ことから,より安定した局部加圧とひけ巣の
18mm
つぶしこみが可能となっている.
20mm
10mm
Fig. 3 に従来装置と本装置の量産時におけ
Small shrinkage porosities
in the thick portion
る加圧ストローク値の変化をショット毎(鋳
Fig. 4
造回数)の経過で示す.従来装置では,設備稼
Interspersed range of
shrinkage porosities
5mm
Interspersed range of
shrinkage porosities
Comparison of positions of shrinkage holes
generated
働後に加圧ストロークに変動が発生し振れ幅
4.まとめ
は大きくなっていく傾向にあるが,本装置で
は設備の稼働開始から終了まで安定した加圧
ストロークを継続していることがわかる.こ
今後,金型の命数延長に向けてさらなる鋳
れは圧力・温度を補償する流量制御弁をもちい
造圧力の低圧化とアルミの流入速度の低速化
たシンプルな構造であるため,安定した稼働
が進んでいくと考える.
状態を維持することが可能であるためと考え
それにより厚肉部に発生しやすくなるひけ
る.実際の量産設備においては約6ヶ月メン
巣に対し,今回開発した局部加圧装置は,効果
テナンスフリーの稼働実績となっている.
的な対策になることがわかった.
F i g . 4 に局部加圧した製品の断面図を示
現在,一部の製品に対する適用事例である
す.本装置により鋳造した製品のひけ巣が発
が,今後も装置の最適化を進め幅広い機種に対
生している位置は,従来装置により鋳造した
しても局部加圧によるひけ巣対策を展開し生産
Conventional
[Pa]
60
50
40
40
30
30
20
20
10
0
効率の向上に貢献できるようにしていきたい.
Current
60
Threshold
value
50
著 者
10
Average: 27
1 5 9 13 17 21 25 29 33 37 41 45 49 53 57 61 65 69 73 77 81 85 89
Average: 17
0
1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25 27 29 31 33 35 37 39
[Shot]
Fig. 2
[mm]
25
[Shot]
Comparison of leak test values
Conventional
[mm]
25
Stroke setting value for pressurizing
20
10
5
5
0
0
本装置の開発にあたり,我々のアイデアを
具現化してくださった株式会社ダイレクト 21
岩本様と実際の鋳造試作と分析をサポートし
1
8
15
22
29
36
43
50
57
64
71
78
85
92
99
106
113
120
127
134
141
10
1
5
9
13
17
21
25
29
33
37
41
45
49
53
57
61
65
69
73
77
81
85
89
93
97
101
105
109
113
117
15
Fig. 3
上原徹也
20
15
[Shot]
Current
[Shot]
てくださった鋳造課スタッフそして課員の皆
Comparison of stroke values of local
pressure application
様に感謝します.
(上原)
- 47 -
特許
■フューエルポンプモジュール
発明の名称:燃料供給装置
発 明 者:吉田 裕,星 昌宏
出 願 番 号:特願 2013-71665 (2013.3.29)
公 開 番 号:特開 2014-196669 (2014.10.16)
【課題】 吸入フィルタが接続される吸入口,吐出口および
脱気孔を有するポンプハウジングに電動モータおよび燃料
ポンプが収容され,燃料タンク内で気相となる部分および
脱気孔間がベーパー排出通路で連通される燃料供給装置に
おいて,吸入フィルタの目詰まりが生じても唐突なエンジ
ンの挙動変化が生じることを抑止する.
【解決手段】吸入フィルタ 41 が,袋状の濾材 42 と,吸入口
に一端を連通させるとともに濾材 42 内に開口する導出口
43 を他端部に有する接続管部 44 と,該接続管部 44 の他
端部に設けられるとともに少なくとも一部が濾材 42 内に
配置されるようにして濾材 42 に連設されるフランジ部 45
と,濾材 42 のうち導出口 43 に対向する部分の導出口 43
側への所定量以上の変位を規制するとともに濾材 42 内か
ら前記接続管部 44 への燃料の流通を許容してフランジ部
45 から濾材 42 内に向けて突出する保護部 46 とを備える.
発明の名称:圧力調整弁
発 明 者:福重 光豊,上原 寿史,吉田 裕
出 願 番 号:特願 2013-231240 (2013.11.7)
公 開 番 号:特開 2015-090137 (2015.5.11)
【課題】 圧力調圧弁において,球状弁体が開弁した調圧中
に,球状弁体が弁座の直径方向に振動して,異音が発生す
ることを防ぐ.
【解決手段】燃料ポンプ P の吐出燃料をエンジンの燃料噴
射弁Iに送る燃料通路 28 内の圧力を所定値に調整する圧
力調整弁であって,燃料通路 28 又はそれに連なる調圧路
35 に連通する高圧ポート 37 と,この高圧ポート 37 に円
錐状の弁座 38 を介して連なると共に低圧部に開放される
弁室 42 と,この弁室 42 に収容され弁座 38 と協働して高
圧ポート 37 を開閉する球状弁体 39 と,この球状弁体 39
を弁座 38 との着座方向に所定のセット荷重で付勢する調
圧ばね 40 とを備えるものにおいて,円錐状の弁座 38 の
テーパ角度θを 20°~36°に設定した.
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ケーヒン技報 Vol.4 (2015)
■熱交換器
発明の名称:アルミニウム押出形材製熱交換管外面の防食処理方法および熱交換器の製造方法
発 明 者:井川 洋平,寺田 隆,大槻 拓史,岡崎 和之
出 願 番 号:特願 2013-120426 (2013.6.7)
公 開 番 号:特開 2014-238209 (2014.12.18)
【課題】 耐孔食性を向上しうるアルミニウム押出形材製熱
交換管外面の防食処理方法を提供する.
【解決手段】防食処理方法は,Mn0.2~0.3 質量%,Cu0.05
質量% 以下,F e0.2 質量% 以下を含む合金により形成さ
れ,かつ管壁の肉厚が 200 μm 以下であるアルミニウム押
出形材製熱交換管 4 の外面に施すものである.防食処理方
法は,フラックス粉末と,平均粒径 3~5 μm でかつ最大粒
径が 10 μm 未満の Z n 粉末とをバインダーに分散混合さ
せた分散液を塗布するとともに分散液中の液状成分を気化
させて,熱交換管 4 の外面に Zn 粉末付着量が 1~3g/m2,
フラックス粉末付着量が 15g/m2 以下,Zn 粉末付着量に対
するフラックス粉末付着量の比率(フラックス粉末付着量
/Zn 粉末付着量)が 1 以上となるように,Zn 粉末およびフ
ラックス粉末を付着させることを含む.
発明の名称:蓄熱機能付き熱交換器およびその製造方法
発 明 者:鴨志田 理,信末 満
出 願 番 号:特願 2013-228168 (2013.11.1)
公 開 番 号:特開 2015-087086 (2015.5.7)
【課題】 蓄熱材容器内からの蓄熱材の洩れを効果的に抑制
しうる蓄熱機能付き熱交換器を提供する.
【解決手段】蓄冷機能付きエバポレータの蓄冷材容器 15 の
両容器構成板 25,26 の周縁帯状部間に円筒穴 32 を形成
する.円筒穴 32 内に,内部が蓄熱材注入路 33 となった蓄
熱材注入部材 31 の円筒部 37 を配置して両容器構成板に
ろう付する.蓄熱材注入部材 31 の円筒穴 32 よりも外方に
突出した部分に,径方向両外側から圧潰された圧潰部 34
と,円筒状非圧潰部 36 とを形成し,圧潰部 34 により蓄熱
材注入路 33 を封止する.蓄熱材注入部材 31 の円筒部 37
の外径を円筒状非圧潰部 36 の外径よりも小径とし,両者
37,36 の内径を等しくする.円筒部 37 の内端部に蓄熱材
封入部内に突出した内方突出部 37a を設け,内方突出部
37a に,径方向外方に広がった係止部 39 を設ける.
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