「日本社会の課題解決における海外ボランティア活動の有効性の検証」本編

日本社会の課題解決における
海外ボランティア活動の有効性の検証
青年海外協力協会(JOCA)
受託調査研究報告書(2007 年―2009 年)
2009 年 6 月
大阪大学大学院人間科学研究科国際協力論講座
はじめに
大阪大学の教員をしていたラオス人医師といっしょにラオスの農村を歩いていたとき、通り
がかりの小学校を訪問したことがあった。私が日本人であることがわかると、校長先生はクミ
コがきれいにしたトイレと保健室を案内してくれ、彼女のおかげでいまでもきれいなトイレが
使えるのだと自慢してくれた。5 年前に帰国した JOCV 隊員でヨコハマ出身のクミコの所在を
知らないかと聞かれたが、私には答えるすべもなかった。青年海外協力隊員の活動の軌跡は、
ともに汗を流した人びとの記憶にしっかりと残っていることを実感させられた。
40 年を超えた青年海外協力隊(JOCV)は ODA 事業のなかでも海外ボランティア活動とし
て、独自の役割を担ってきた。しかし、日本社会が急激に進行する少子高齢化や活発な国際的
人流などにより大きく変化するなかで、ODA 事業及び JOCV 事業も変化せざるを得ない。ま
た ODA 事業の実施体制も新たな段階を迎えようとしている。
JOCV 事業をさまざまな側面から支えてきた青年海外協力協会(JOCA)からの委託を受け
て、
「日本社会の課題解決における海外ボランティア活動の有効性の検証」という従来にない
視点からの研究を行ってきた。海外ボランティア活動がどのように日本国内の活動に活用され
てきたのかという視点から過去と現在を検証し、国際協力と国内活動のコラボレーションとい
う視点から、新たな ODA 事業の展開のなかで今後の海外ボランティア活動のあり方への示唆
を得ることをめざしてきた。2 年間にわたる研究は、楽しい出会いと学びの場でもあった。
多くの大学・研究機関の協力をいただき、おかげさまで報告書の形でまとめることができた。
インタビュー調査や質問紙調査にご協力いただいた多くの帰国隊員の方々には、この場を借り
て、厚く御礼の意を表したい。
なお、本報告書の内容については、私たちの研究班が責任を負っており、JOCV 事務局や
JOCA の見解ではないことを断っておきたい。また、本研究を遂行するなかで新しい発見も数
多くあったが、同時に今後解決すべき宿題も多くいただいた気がする。海外ボランティア活動
を日本社会に還元するための理論や実践体験など、読者の方々からの忌憚ないご批判やご意見
をいただけると幸甚である。
大阪大学大学院人間科学研究科
中村安秀
〒565-0871 大阪府吹田市山田丘1−2
目次
はじめに
中村 安秀
要約(日本語版・英語版)
中村 安秀
・・・ 1
第1章 研究の目的・概要
中村 安秀
・・・15
第2章 青年海外協力隊事業におけるボランティア経験の社会還元
麻里・中村 安秀
・・・16
藤掛 洋子
・・・34
麻里・高橋 真央・ 中村 安秀
・・・56
澤村 信英
・・・94
カナダ
向井かおり・ 内海 成治
・・・102
スペイン
藤掛 洋子・ 梶房 大樹
・・・110
フランス
北村 広美
・・・120
麻里
・・・126
スウェーデン
麻里・ 中村 安秀
・・・133
ポーランド
麻里・阿部 健一
・・・142
第3章 インタビュー調査
第4章 質問紙調査
帰国隊員対象
OB・OG 会役員対象
第5章 海外調査
米国
英国
韓国
中村 安秀
・・・149
第6章 提言
中村 安秀
・・・156
おわりに
内海 成治
・・・162
資料
要約
新しい時代の海外ボランティア事業としては、国際社会が直面する課題と変貌する日本社会
の課題解決への取り組みを有機的に一体化して捉えることのできる事業モデルを構築する必
要があろう。そのためには、これまでの青年海外協力隊(JOCV)活動が日本社会にどのよう
な影響を与えてきたのかを探り、さらにこれからの日本社会の動向に合わせて、JOCV 活動の
成果をどのように日本国内において展開できるかを探求するなかから生まれてくると思われ
る。
本研究「日本社会の課題解決における海外ボランティア活動の有効性の検証」は、海外ボラ
ンティア活動がどのように日本国内の活動に活用されてきたのかという視点から過去と現在
を検証し、国際協力と国内活動のコラボレーションという視点から、新たな ODA 事業の展開
のなかで今後の海外ボランティア活動のあり方への示唆を得ることを目的としている。JOCA
(青年海外協力協会)からの委託調査研究の形で、2007 年7月から 2009 年6月までの2年間
にわたり、大阪大学大学院人間科学研究科が中心となり、多くの大学・研究機関の協力を得て、
研究を遂行した。
具体的な調査として、JOCV 帰国隊員を対象とした国内インタビュー調査、帰国隊員を対象
とした大規模な国内質問紙調査、各国における海外ボランティア事業の聞き取り調査を実施し
た。それらの結果を総合的に分析し、今後の海外ボランティア活動のあり方に関する提言を行
った。
この間、2008 年6月には公開セミナー「日本社会の課題解決における海外ボランティアの
未来−JOCV の経験を市民社会へ―」を大阪で開催し、2009 年3月には国際ボランティア学
会(東京)において公開シンポジウム「国際ボランティア事業の未来」を開催した。このよう
に、研究の進行に合わせ、市民社会に対する研究成果の還元も行なった。
(1)国内インタビュー調査
青年海外協力隊経験者は約3万2千人に達した。日本社会は、少子高齢化や地域間格差、農
業の問題、環境問題、若者の問題、ジェンダーの問題、多民族多文化国家として対峙する様々
な問題を抱えている。このような日本社会に対し JOCV 帰国隊員はどのような社会貢献をなし
得ることができるのであろうか。
この課題を検証するために、
現在社会貢献を行っている JOCV
帰国隊員へのインタビューを実施した。
1
本インタビュー調査では、①どのような目的で JOCV に参加し、帰国後どのように現在の
活動を展開するに至ったのか、②その継続は容易であるのか否か、困難であるならばどのよう
な障壁が存在するのか、③障壁を取り除き社会貢献活動を継続するためにはどのような制度や
方策を検討する必要があるのか、である。
方法は、国内外で社会貢献活動をしている JOCV 帰国隊員をスノーボーリング方式で抽出し、
半構造インタビューとフォーカス・グループ・ディスカッション(FGD)を実施した。調査期
間は、2008 年4月から 2009 年5月であり、この間に、関東、関西、中部地方に居住する 29
名(男性 17 名、女性 12 名)にインタビュー調査を実施した。
インタビュー結果から、現在も社会貢献活動を続けている JOCV 帰国隊員には、以下の5つ
の特徴が認められた。第一に、派遣前に自分の人生に影響を与える人物に遭遇していた。第二
に、日本社会の規範にしばられない自分にしかできない仕事や生き方を追及していた。第三に、
派遣前・派遣中に大きな異文化ショックに遭遇をしていた。第四に、JOCV 活動で多くのこと
を教えられたり、JOCV の活動の中で多くの課題を持ち帰ってきた人であった。第五に、豊か
さや貧困、生きるとは何かなどの人間としての根源的なテーマを与えられていた。インタビュ
ーを実施した JOCV 帰国隊員たちは、日本において日本人と在日外国人の間のつなぎ役になる
ことができるのではないかと考えており、国際理解教育や異文化紹介などにおいても貢献した
いと考えていた。現在も社会貢献を続ける JOCV 帰国隊員から地球市民を育てるための仮説と
課題を導き出すことができた。
さまざまな課題を抱える日本社会の中で、JOCV 帰国隊員が国内協力や社会貢献をより積極
的に行うことができる枠組みの構築に向けて、学校教育における地球市民教育の浸透や多文化
共生プログラムの幅広い展開、JOCV 帰国隊員の社会貢献を有効に生み出す装置の必要性など
を提言とした。
(2)国内質問紙調査
質問紙調査では、青年海外協力隊帰国隊員が日本国内および海外において、どのような社会
活動を行っているかを調査する。また調査結果から、帰国隊員の社会活動をさらに活発にする
ためには今後どのような支援体制が必要かについての示唆を得ることを目的とした。
1981-1982 年、1991-1992 年、2001-2002 年に青年海外協力隊として派遣された 5,257 名の
うち、2008 年 10 月時点で JOCA に登録されている帰国隊員を調査対象とした。質問紙配布数
は 3,208 名、返送数は 1,535 名(回収率 47.9%)
、有効回答数は 1,530 名(有効回答率 47.7%)
2
であった。
現在、何らかの地域活動を行っているのは 993 名(64.9%)、地域と何も関わりがないと答え
たのは 534 名(34.9%)であった。地域活動を行っているうち、
「日本国内での国際交流、国際
理解教育などの活動」
、
「協力隊 OB・OG 会や育てる会への参加」
「地域や施設でのボランティ
ア活動」がそれぞれ約 30%を占め、
「出前講座での講演協力」
「地域でのイベント開催やその支
援」といった講演やイベントに参加する人も 20%を越していた。
協力隊員の経験を生かした活動としては、小学校や中学校、高校、大学で青年海外協力隊員
の実体験を話すことが多く挙げられた。小学校では、派遣国がモンゴルであったことから、教
科書に出てくる「スーホーの白い馬」をもとにモンゴルの文化や国について説明するためにゲ
ストスピーカーとして呼ばれることもあるという記述があった。また、協力隊での経験を生か
したボランティア活動としては、赴任地の現地語に関するサポートがあった。資料の翻訳、法
廷通訳や医療通訳などの支援活動があがっている。協力隊員の経験や開発途上国、国際交流へ
の関心から、地方自治体の国際交流協会へ勤務したり、国際協力推進員を引き受けたりする隊
員もあった。大学職員となって、留学生の世話や交流を行っているという記述もあった。日本
語教師については、帰国後地域の日本語教室を開いたり、難民を中心とした在日外国人対象に
支援をするボランティアで活動している記述が多くみられた。
「地域や施設でのボランティア
活動」では農業を通した地域活性化への取り組みを行っている記述もあった。さらに、地域の
お年寄りや障害者への支援活動として、老人ホームでのボランティアや障害者の公共施設での
スポーツを通したボランティア活動などが挙げられている。
男女別に、年齢と地域活動の有無の関係をみると、男性では年齢層による活動の有意な差は
見られないが、女性では 40 歳代の年齢層において地域活動なしの割合が有意に高かった。自
由記述の内容では、「育児と家庭中心の生活でほかに活動する余裕がない」や「仕事が中堅ク
ラスになり忙しい」という意見があった。男女別に、就労形態と地域活動の有無の関係をみる
と、男性では就労形態による活動の有無に差は見られないが、女性では、退職参加者が現職参
加者、新卒・学生参加者に比べて、地域活動なしの割合が有意に高かった。
「海外での国際協力・国際協力活動」は、派遣年代や年齢層による差はみられなかったが、
就労形態によって差があり、新卒・学生参加者による参加が多くみられた。
「国内での国際交
流、国際理解教育」の活動状況を男女別、就労形態別で比べてみると、男性では就労形態によ
る差が見られず、女性では新卒・学生参加者、現職参加者による参加が多くみられた。
「OB・
OG 会や育てる会への参加」状況を男女別、派遣年代別にみると、男性では派遣年代層に関係
3
なく一定の参加割合であったが、
女性では帰国後長期間が経過している 1980 年代派遣層、1990
年代派遣層の「OB・OG 会や育てる会への参加」は、帰国後間もない 2000 年代派遣よりも有
意に低い割合であった。
(3)海外調査
海外のボランティア団体に対するヒアリングを行い、国内活動の現状、帰国ボランティアの
国内活動に対する支援などを調査した。調査の成果として得た先駆的な事例を紹介することに
より、日本での応用可能性を検討した。
スペイン、ポーランド、フランス、米国、カナダ、スウェーデン、英国、韓国、タイに対す
る調査を実施した。聞き取り調査では、ボランティア団体による帰国隊員への支援、国内社会
での帰国隊員の受け入れの様子、帰国隊員の国内活動や課題についてなどの情報収集を実施し
た。
海外のボランティア組織では、途上国のニーズや自国の社会変化に伴い、さまざまな試行錯
誤が行われていた。国際協力ボランティアの発想の原点は、先進工業国から貧しい途上国に人
的支援を行うという印象があるが、すでに先進国の仲間入りした国も含め途上国のニーズは大
きく変貌しつつある。豊かな国から貧しい国への援助という古典的な国際協力ボランティアの
発想を転換すべき時期が到来したといえる。また、現在では、ODA や国際機関だけでなく、
援助国および被援助国の NGO、民間企業、大学や研究機関も国際協力の重要な担い手となっ
ている。このように、先進国から途上国へという一方通行の国際協力から、双方向的な国際的
協働へと急速に移行しているなかで、海外ボランティアのあり方も大きく揺れ動いていた。
組織形態の面では、政府機関なのか、ボランティア組織なのかという2つの対極軸が見出さ
れた。カナダのように、政府機関からボランティア組織に大きく方向転換した国もある。また、
スウェーデンでは、直接的な ODA によるボランティア派遣は行っていない。一方、米国のピ
ース・コーにおいては政府派遣の形態を堅持している。派遣目的としては、個人の能力向上
(Capacity building)を重視するのか、専門性(Specialty)をもつ人材を活用するのかという
2つの方向性があり、多くの組織では双方のバランスに配慮していた。一般的に、個人の能力
向上を重視する場合は年齢層が低く、一定の研修を受けたあと、6カ月から2年くらいの長期
派遣を行っていた。専門性を重視する場合には、年齢層も高くなる傾向にあり、6カ月以内と
いう短期派遣も少なくなかった。
4
(4)考察・提言
海外ボランティア活動を日本社会に還元していくためには、以下のようなステップが必要で
あろう。
民間企業との共同事業として就職支援センターを設置し、履歴書や自己紹介の書き方の指導、
就職情報や採用情報などを提供する必要がある、そのうえで、日本の国際協力の貴重な人的資
源である帰国隊員の 20%以上が国際協力分野で活躍できるための具体的な戦略が必要である。
また、青年ボランティアにおいては、個人の能力向上(Capacity building)のためには、単な
る途上国経験だけでなく、帰国後に大学院などにおいて勉学することが重要となる。帰国後の
進路相談会、大学案内などを積極的に開催し、帰国隊員が大学院で行う研究に対する支援もよ
り一層の拡充が望まれる。
多民族多文化社会となりつつある日本社会で必要なのは、言語能力と異文化経験をもつ人材
であり、まさに帰国隊員がそれに相当する。本研究で明らかとなったことは、多くの帰国隊員
が共生社会の実現のために活動しているが、そのほとんどは個人的に活動を開拓してきたこと
であった。自治体、大学、NGO などと個別に社会還元活動を展開するだけでなく、多文化共
生ネットワークを構築して、システムとして取り組む必要があろう。また、国際理解教育とし
て、単に、途上国の経験談を話す時代は終わった。今後は、市民が国際協力活動に参加、行動
できるための道案内ガイドとしての役割が求められている。現職参加した経験を持つ教員も多
く、国際理解教育のあり方を戦略的に構築し、実践を広げていくシステムが求められている。
地域社会の再生・振興に向けて、帰国隊員の手によって地域に根ざした取り組みが各地で
実践されていた。野球を楽しみながら途上国に野球道具を送る、レストランを経営しながらバ
ングラディッシュ農村を支援する、大学教員が学生を巻き込んでパラグアイの子どもたちの就
学支援をする、かつての派遣国が災害を受けた時に緊急支援する、といったさまざまな Good
Practice が実践されていた。
「Think Globally,Act Locally」は 21 世紀の日本社会の再生のた
めのキーワードの一つである。グローバルな世界を視野に入れて、いま暮らしている地域から
地道に取り組んでいく試みを広げていく戦略が求められている。帰国隊員による地域社会活動
の実践例を Good Practice として位置づけ、その具体的な成功の秘訣と教訓(Lessons learned)
を出版し、批判を受けることが求められる。次に、地域社会活動に取り組もうとする JOCV 帰
国隊員への財政的支援の拡充が求められている。同時に、地域社会活動を行っているのは、
JOCV の帰国隊員だけではない。各地のボランティア・センターなど多くの団体とのネットワ
ークを構築し、長期的な視野で取り組む必要がある。将来的には、地域での地道な活動が国境
5
や民族を越えて外部世界とつながり、国内外での先駆的な活動の成果や情報を取り入れ、地域
の活性化につながる地域社会プログラムの成果がグローバルな共有財産となることを期待し
たい。
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Summary
For an overseas volunteer program in the new era, it is necessary to develop a program
model which organically embraces both problems the international society faces and the
effort to solve problems Japanese society has. To do that, we need to measure and
analyze the impact of Japan Overseas Cooperation Volunteer's (JOCV) past activities on
Japanese society. After understanding JOCV's effect on society until now, the program
model in the new era could be developed and modified, if needed, to deal with the changes
in society in the future.
The research, “Verification of the effectiveness of overseas volunteer programs in solving
the problems which face Japanese society today”, is aimed to verify the past and current
situation by approaching from how the overseas volunteer activity has been used for
domestic activities and hear opinions about the role of overseas volunteer programs in the
future from the perspective of collaboration of international cooperation and domestic
activities while expanding new ODA program. For the 2 years from July 2007 to June 2009,
the Graduate school of Human Sciences (Osaka University), commissioned to do a survey
and research by JOCA(Japan Overseas Cooperative Association), conducted a research
with the cooperation of many other universities and research institutes.
Specifically we conducted a domestic interview survey on ex-JOVC volunteers, a massive
domestic survey with questionnaire on returned volunteers and an interview survey on the
overseas volunteer program in different countries.
Those results were analyzed
comprehensively, and helped to make recommendations on how best to proceed the
overseas volunteer activities in the future.
During that time, a seminar open to all people “Future of overseas volunteer for solving
various issues which Japanese society faces, -sharing experience of JOCV with member of
the civil society” was held in Osaka in June 2008. In addition, in March 2009 an open
symposium “Future of the international volunteer program” was held at the International
Society of Volunteers (Tokyo). As above mentioned, with the progress of the research, the
results of the research and survey were shared with members of the community.
7
(1) Domestic interview survey
Approximately 32,000 people have participated in the JOCV so far. Currently Japanese
society faces various problems as a multiethnic and multicultural nation such as problems
of an aging society with a falling birthrate and regional divide, agricultural issues,
environmental issues, adolescent issues and gender issues. What kind of contribution to
such a society ex-JOCV volunteers could do in Japan? In order to examine the question,
interviews were conducted on ex-JOCV Volunteers who currently make a social
contribution.
In the interviews the followings were asked: ①Why ex-JOCV had participated in JOCV in
the first place and how they came to do the current activities after returning home ②Also,
whether continuing to do it is an easy thing to do or not ③If it is difficult, what kind of factors
are obstacles ④What factors need to be considered in order to alleviate these obstacles to
continue to make a social contribution.
Interviewees were selected by the snowball method from among ex-JOCV Volunteers who
presently work on a social contribution activity in Japan as well as abroad, and a
semi-structured interview and a focus group discussion (FGD) were conducted. The survey
was conducted on 29 people (17 males and 12 females living in the Kanto, Kansai and
Chubu regions) from April 2008 to May 2009.
From the result of the interviews, the following five tendencies were discovered. Firstly,
some participants had met someone who affected their lives before being dispatched.
Secondly, those who are free from social norms in Japan pursue works and the way of life
only they can do. Third, they experienced a great cross-culture shock before or during
participating the JOCV program. Fourth, they learned many things from the locals and
brought back many challenges through the JOCV activities. Finally, they faced a compelling
question as a human being such as “What is richness and poverty? What is the meaning of
life?”
The ex-JOCV volunteers we interviewed thought that they could act as a bridge between
local Japanese and the foreign residents in Japan, and also would like to contribute
international understanding, introducing foreign cultures and etc. The interview survey drew
a hypothesis and issue to develop global citizens from ex-JOCV Volunteers who still
8
continue a social contribution.
To develop a framework to encourage ex-JOCV volunteers to make a social contribution
and carry out domestic cooperation activities in Japanese society which faces many issues,
we raised concern about needs of wide-ranging development of multicultural symbiosis
program and spread of global citizen education at school, and establishment of a device to
effectively encourage ex-JOCV volunteers to make social contributions.
(2) Domestic survey with questionnaire
The purpose of the survey with questionnaire was to determine what kind of activities
returned JOCV volunteers were involved in Japan as well as internationally. In addition, the
survey aimed to gather information on what kind of support system would be required to
further intensify ex-JOCV volunteers’ activities in the community.
Out of a total of 5,257 JOCV volunteers dispatched in 1981-1982, 1991-1992 and
2001-2002, those who were still registered in JOCA as of October 2008 were surveyed.
The questionnaires were distributed to 3,208 people and 1,535 questionnaires were sent
back (collection rate: 47.9%) and valid response were 1,530 (response rate: 47.4%).
933 of those surveyed (64.9%) replied that they currently participate in some sort of
regional social activity while 534 of those surveyed (34.9%) answered that they were
currently not involved in any regional social work. Among those who do some sort of
regional social work, approximately 30% each participate in “activities for international
exchange and education of international understanding”, “ex-JOCV Associations and The
supporting organization of JOCV” and “volunteer activity in communities and facilities”,
moreover, over 20% of them participated in lectures and events such as “helping lecturing
at JICA’s visiting lectures” and “holding events in the community or assisting it”.
As activities using experiences of JOCV volunteers, many of those surveyed stated that
they talked about their experience as JOCV member at elementary schools, junior high
schools, high schools and universities. One said that he was sometimes called to an
elementary school as a guest speaker in order to talk about the country and culture of
Mongolia using the story, titled “White horse of Su-ho” from a textbook because he had
experience of being dispatched to Mongolia as a volunteer. As one of the volunteer
9
activities using experience in JOCV, those surveyed also stated that they provided some
support by using local language in the place of their assignment such as Translation of
documents, court interpreter and medical interpreter. Because of their experience as
volunteers and interest in the developing countries and international exchanges, some
volunteers reported taking jobs in municipal international exchange associations or in
promotion of international cooperation. One said that he worked as a university official and
was responsible for foreign students and did socializing with them. As for those who
became Japanese language teachers, most said they opened Japanese language schools
in their communities after returning home or engaged in volunteer work to support
foreigners living in Japan, mainly refugees. Concerning “Volunteer activities in communities
and facilities”, volunteers undertook efforts to revitalize the local area through agriculture.
Furthermore, many volunteers also cited that they did volunteer work in nursing homes for
the elderly in the communities as well as participate in sports-related activities for the
disabled in public facilities.
After examining the relationship between age and community activity participation by
gender, it was found that for males there was no difference in activity participation per age,
but for females there was a significantly high rate of no activity participation among those in
their 40’s. As a reason, many females said that “they have no time to do such activities
because of their life which is centered around children and home” and “mid-level work was
too busy”. Also, concerning the relationship between dispatching style and community
activity participation, there was no difference noted in dispatching style in activity
participation for males, but for females there was a significantly high rate of no activity
participation among “Leave a job” (those who quit their job to join JOCV) compared to
“In-service” (those who keep their position at work in Japan while volunteering as a JOCV”
and “Students and the newly graduated” (those who keep their student status at school and
those who join JOCV immediately after finishing school).With regard to “global exchange
and international cooperation activities in foreign countries”, there was no difference noted
in activity participation by age bracket and year when the volunteers were dispatched, but
in dispatching style there was difference in the participation; many participants consisted of
“Students and the newly graduated”. Comparing the activity condition of “domestic
10
international exchange and education for international understanding” by gender and
dispatching style, there was no difference for males. However, for females, a significant
difference was noted in “Students and the newly graduated”” and ”In-service”.
Upon
examination of the conditions of participation in “ex-JOCV Associations and The supporting
organization of JOCV” by gender and the year in which the volunteers were dispatched, for
males there was at a constant rate no matter what year they were dispatched. However, for
females a low rate of participation was reported among people dispatched in the 1980s and
1990s which is some time ago since they returned home, compared to people dispatched
in the 2000s which is not long after returned.
(3) Overseas survey
By interviewing overseas volunteer bodies, we studied the condition of domestic activities
as well as finding ways to further support domestic activities performed by returned
volunteers. Also, by introducing pioneering examples we got as a result of survey, we
explored possibilities to apply them to Japan.
We conducted the survey in Spain, Poland, France, U.S., Canada, Sweden, U.K., South
Korea and Thailand. In the interview, we collected information about the support given to
returned volunteers by the volunteer bodies, the condition of acceptance of these returned
volunteers in their home countries, domestic activities performed by these returned
volunteers as well as the various problems encountered.
In overseas volunteer organizations, various trial-and-error approaches were used to meet
the ever-changing needs of developing countries and the social change in each home
country. The wide perception is that original intention of international cooperation volunteer
work is for advanced industrial countries to provide physical support for poor developing
countries; however, the needs of developing countries including those countries which
have already reached to the advanced-country level are dramatically changing. Therefore,
it is now necessary to change the common perception of international cooperation
volunteer of wealthy countries simply helping poor countries. Currently, not only ODA and
global associations but also NGO’s, private companies, universities and research
institutions in aid provider and receiver have all become important leaders in international
11
cooperation. During the rapid change from one-way international cooperation which is
given by advanced countries to developing countries to interactive international
cooperation as explained above, there is a great upheaval how the overseas volunteer
should be.
Through the survey, it was confirmed that there are two quite different forms of
organizational support, the government and volunteer groups. Some countries, like
Canada, are making a big move from government institutions to volunteer groups. In
Sweden, volunteers have not been directly dispatched through ODA. On the other hand,
the Peace Corps in the U.S. maintains the form of governmental dispatch. Concerning the
purpose of dispatch, there are 2 very different characteristics to place an emphasis on
individual capacity building or to use people who have a specialty. Many organizations pay
careful attention to the balance between these two characteristics. Generally, when
requiring volunteers to have individual capacity, a younger age group of volunteers is
dispatched for a long period of time such as 6 months to 2 years, after receiving specific
training. On the other hand, for volunteers who possess a specialty, an older age group of
volunteers seems to be dispatched for a shorter term, such as less than 6 months.
(4) Consideration / Recommendation
To apply the achievement of overseas volunteer activities to Japanese social activities,
some steps are necessary as follows.
It is necessary to establish an employment support center which works in cooperation with
various private companies, at the center, teaching the skills needed to write a resume and
do a self introduction; along with providing job information and employment information is
necessary. In addition, a specific strategy needs to be established for more than 20% of
returned volunteers who are important human resources for Japanese international
cooperation to be active in the international cooperation field. For young volunteers after
returning home, in addition to gaining experience in developing countries, studying in
graduate school etc. is also important. A career counseling and providing the information of
universities to returned volunteers needs to be done effectively, and also the assistance for
research they do in graduated schools should be improved.
12
What Japanese society, which is changing to multiethnic and multicultural, needs is human
resources who have language skills and international experience, and returned volunteers
exactly meet these conditions. This research revealed that many returned volunteers do
activities to build a convivial society, but almost all volunteers has developed the activities
individually. A multicultural network should be established and the activities with the local
community,
universities
and
NGO
must
be
coordinated
with
the
network
systematically. Also, the time for just telling people about experience in a developing
country the volunteers have for an education for international understanding is over. From
now on, these volunteers need to play a roll as a guide to lead the way for all civilians to act.
Actually many of the volunteers are working teachers, so it is required to determine how the
education for international understanding should be done and create a system to make use
of the teachers’ experience as volunteers.
To revitalize and promote local society, a community-based approach was taken by
returned volunteers in various locations. Many “Good Practice” programs were arranged
and some examples are the following: sending baseball tools to developing countries while
enjoying the baseball, assisting agricultural village in Bangladesh through the running of a
restaurant, assisting children in Paraguay to have learning opportunities which was
provided by a university teacher involving her students in the project, and immediately
extending assistance in the time of disaster to countries the volunteers were dispatched
before. ”Think Globally, Act Locally”- this is one of the keywords for Japanese society in the
21st century to be renewed. We must look at a bigger picture of a global world, but people
should develop an approach to activities in the locals consistently. The examples of local
social activities performed by returned volunteers should be recognized as “Good Practice”,
then books which could offer hints and talk of secrets of success and lessons learned
through the activities must be issued and criticized. It is also required to secure enough
funding for ex-JOCV volunteers who try to work on regional social activities. At the same
time, participating in regional social activities can not only be done by JOCV volunteers.
The volunteers need to construct a network with many associations such as local volunteer
centers and do activities over the long term. We hope that, in the future, sustainable
activities in local communities are connected to the outside world across national borders
13
and races, achievements and information of pioneering work at home and abroad are
incorporated into activities, and the accomplishments of local social programs can lead to
regional revitalization and become a global common property.
14
第 1 章 研究の目的・概要
中村安秀
1.目的
新しい時代の海外ボランティア事業とは、国際社会が直面する課題と変貌する日本社会の課
題解決への取り組みを有機的に一体化して捉えることのできる事業モデルを構築する必要が
あろう。そのためには、これまでの JOCV 活動が日本社会にどのような影響を与えてきたのを
探り、さらにこれからの日本社会の動向に合わせて、JOCV 活動の成果をどのように日本国内
においても展開できるかを探求するなかから生まれてくると思われる。
本研究は海外ボランティア活動がどのように日本国内の活動に活用されてきたのかという
視点から過去と現在を検証し、国際協力と国内活動のコラボレーションという視点から、新た
な ODA 事業の展開のなかで今後の海外ボランティア活動のあり方への示唆を得ることを目的
としている。
2.研究組織
(研究代表者)
中村安秀 (大阪大学大学院人間科学研究科 教授)
内海成治 (お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科 教授)
(分担研究者:五十音順)
秋山展子 (東京家政学院大学大学院生活形成論講座藤掛研究室 補助員)
阿部健一 (総合地球環境学研究所 研究推進戦略センター 教授)
安藤和雄 (京都大学東南アジア研究センター 准教授)
池田光穂 (大阪大学コミュニケーションデザインセンター 教授)
北村広美 (大阪大学大学院人間科学研究科 博士後期課程)
澤村信英 (広島大学教育開発国際協力研究センター 教授)
高橋真央 (お茶の水女子大学国際本部グルーバル協力センター 講師)
濱口陽子 (大阪大学大学院人間科学研究科 博士前期課程)
藤掛洋子 (東京家政学院大学大学院生活形成論講座 准教授)
向井かおり(大阪大学大学院人間科学研究科 博士前期課程)
麻里 (大阪大学大学院人間科学研究科 特任研究員)
15
第 2 章 青年海外協力隊事業におけるボランティア経験の社会還元
麻里、中村安秀
1)はじめに
青年海外協力隊事業が発足して以来、3万人を越える協力隊経験者が日本社会や国際社会の
中で自身の経験を活用し、多様な社会還元活動を行っている。従来から、彼らの社会還元活動
についての調査や研究も多数報告されており、青年海外協力隊の帰国隊員による社会還元活動
に対する関心を喚起してきた。しかしながら、多くの調査や報告における膨大な調査結果の分
析は行われているが、帰国隊員の社会還元活動の全体像やこれから取り組むべき課題について
十分に分析されているとはいい難い。従来の多くの調査報告書などを渉猟した結果、就職・進
路開拓とその支援、日本の国際協力の人的資源としての活用、多民族多文化社会への還元、戦
略的な国際理解教育、日本の地域社会との関わり、という視点を見出した。
本稿では、これらの切り口から過去の調査や報告書を分析し、青年海外協力隊事業における
ボランティア経験の社会還元に関する既存の言説をレビューすることとした。
2)就職・進路開拓とその支援
徳田(1999)は国際協力事業団大阪国際センター(現 JICA 大阪)に登録された青年海外協
力隊帰国隊員のうち無作為抽出した 200 名を対象とした質問紙調査を行った(1998 年 6 月∼7
月実施)
。回収率は 35%(70 名)で、回答者の性別は男性 70%、女性 30%、帰国後平均 10 年
が経過していた。調査結果によると、協力隊への参加が帰国後の求職活動に与えた影響につい
て、42 名中 20 名(48%)が良い影響があった、12 名(29%)が悪い影響があったと回答した。
求職者の 3 人に 1 人が協力隊活動によって求職に悪い影響があったと回答しており、社会にお
ける協力隊活動の評価がまだあまり高くないことを示している。また、休職で協力隊に参加し
た者(現在は、現職参加者と呼ばれている)が復職した後の状況について、休職参加 20 名の
うち協力隊参加前と同じポストに戻った者は 5 名(25%)
、復職後に何らかの不利な扱いを受
けた者は 5 名(25%)であった。協力隊事務局は休職制度を推進しているが、復職後に元のポ
ストに戻れなかったり、不利な扱いを受けたりすることがあるという現実は、休職参加制度が
建前だけのものに終わってしまう危険性を示唆している。建前だけの休職制度(現職参加制度)
ではなく、実質を伴った制度にする努力が望まれる。
16
青年海外協力隊事業評価報告書(外務省、2002)では、昭和 56 年度、平成 3 年度、平成 8
年度に派遣された帰国隊員から無作為抽出により 733 名を対象とした質問紙調査が行われた
(2002 年実施)
。回収率は 32.5%(238 名)であった。協力隊での経験がこれまでキャリアパ
スとして役立っているかという問いに対し、57.1%(136 名)は「役に立っている」
「やや役に
立っている」と回答している。
「役に立っている」
「やや役に立っている」と回答したのは、新
卒参加者では 71.2%(47 名)
、退職参加者では 58.1%(54 名)と差がみられた。新卒参加者に
とって協力隊経験が重要なキャリアパスとしての機能を果たしている。平成 12 年度に帰国し
た隊員の進路状況によれば、帰国者 1,131 名のうち帰国 1 年―2 年間に進路の決定したもの(就
職、自営、復職)は 718 名(63.5%)である。アルバイト・短期就労者は 169 名(14.9%)
、復
職を除く就労者のうち教員(地方公務員)となった者は 46 名(9.8%)であった。しかしなが
ら、帰国隊員に対する求人件数は全盛時の 5 分の 1 程度まで落ち込み、特に大企業からの求人
件数は大幅に減少している。これに対し JICA 側は進路相談カウンセラー、ハローワークとの
連携、企業懇親会を通じた就職支援依頼等を通して、協力隊員の就職に対し積極的な支援を行
っている。
「21 世紀の JICA ボランティア事業のあり方」調査研究報告書(協力隊事務局、2002)に
よると、帰国隊員や専門家経験者を対象としたアンケート調査(2001 年実施、対象者詳細、
対象人数、回収率不明)で、協力隊に参加して困ったこととして、
「帰国後の就職」との回答
が 32.8%あった。また、帰国隊員に対する国内での評価について、
「あまり評価されていない」
が 62.1%、
「全く評価されていない」が 16.0%であった。帰国隊員の日本社会における活躍の
場が拡大しない最大の理由として、我が国においてボランティア活動そのものが社会に十分に
根付いておらず、ボランティア活動に対する理解や評価が充分でないことが考えられる。
JICA では協力隊事業を体系的に評価するため、2004 年より本格的に事業評価を開始した。
事業評価の一環として平成 17 年度(2005 年)には、帰国後 2 年および5∼7年の帰国隊員を
対象としたアンケート調査が行われた。回収率は、帰国後 2 年 41.0%(397 名/969 名)
、帰国
後 5―7 年 34.8%(917 名/2632 名)であった。これらの結果は、青年海外協力隊事業評価報
告書(協力隊事務局、2006、2007)として中間報告が公表されているが、全体の結果を分析し
た報告書はまだ発表されていない。青年海外協力隊事業評価報告書(協力隊事務局、2006)の
帰国後 2 年の帰国隊員へのアンケート調査によると、協力隊事務局からの求人情報の提供につ
いて「存在を知らない」2%(8 名)
「利用したことがない」57%(214 名)
、JICA Partner か
らの求人情報提供の「存在を知らない」23%(86 名)
「利用したことがない」49%(183 名)
、
17
就職活動・キャリアパスに関するアドバイスについて「存在を知らない」8%(30 名)
「利用し
たことがない」62%(232 名)
、JICA による進路開拓セミナーの開催について「存在を知らな
い」6%(23 名)
「利用したことがない」75%(281 名)と回答しており、多くの帰国隊員が就
職活動支援をうまく活用できていない現状が明らかになっている。一方、各地域に配置されて
いる進路相談カウンセラーは、93%が「よく利用する」
「時々利用する」と回答しており、その
うちの 86%が進路相談カウンセラー制度を有益であると評価している。協力隊への参加がキャ
リアアップに影響を与えたと回答した者は、帰国 2 年の帰国隊員では 62%(240 名)
、帰国 5―7
年の帰国隊員では 60%(541 名)であった。帰国 2 年の帰国隊員へ協力隊への参加によるネガ
ティブなインパクトを聞いたところ、
「技術が後退した」
「2 年間の不在による実務、キャリア
両面でのブランク」
「新卒参加で、どのように役に立つのか疑問」
「周囲の関係者の不理解、低
評価による就職難」
、
「逆カルチャーショックによる疎外感」などが挙げられている。また、帰
国後 2 年の現職参加帰国隊員 99 名のうち、80 名(80.8%)が復職後継続して勤務しているが、
15 名(15.0%)は復職後に退職していた。帰国後5∼7年の現職参加帰国隊員 218 名では、155
名(71.1%)が継続勤務しており、54 名(24.8%)が復職後に退職していた。
青年海外協力隊の派遣期間はさまざまであるが、おおむね2年間を途上国で過ごすという経
験は、人生にとって決して短いものではない。協力隊経験がキャリアパスとして役に立ってい
る隊員も少なくないが、協力隊に参加して困ったこととして帰国後の就職をあげる人が 32.8%
を占め(協力隊事務局、2002)
、協力隊への参加が求職活動に悪い影響を与えた人が 29%(徳
田、1999)もいた。JICA やその他関係団体による就職支援や進路開拓支援の制度は充実して
きているが、多くの帰国隊員はそれらの制度を利用したことがなく、存在さえ知らない人も少
なくない。また、就職や大学院に進学した帰国隊員に対する就職状況調査も不十分である。教
育分野以外の現職参加者の復職後の状況については、徳田(1999)の調査があるのみであった。
まず、帰国隊員の就職や進学状況に関する追跡調査を実施することが求められている。そして、
帰国隊員が気軽に相談できるような就職支援や進路開拓支援サービスの充実が必要であろう。
3)日本の国際協力の人的資源としての活用
青年海外協力隊事業評価報告書(外務省、2002)の帰国隊員へのアンケート調査(前述)に
よると、派遣前に協力隊の活動に期待していたこととして 22 名(9.2%)が「国際協力関係の
仕事に就くためのステップ」と回答した。協力隊への参加が「国際協力分野で働くきっかけと
18
なった」との回答は 31 名(13.0%)であった。国際協力分野以外の仕事をしている帰国隊員(人
数不明)のうち 58%は「できれば国際協力に携わる仕事をしてみたい」と回答し、国際協力分
野で働きたいと考えている人材が潜在的に多くいる。帰国隊員の就職希望先の一つでもある民
間の開発コンサルタントを対象としたアンケート調査では、協力隊経験者を「即戦力として期
待する」と評価する一方で、
「個人差がある」
「海外留学経験者の方が協力隊より能力に勝る場
合が多い」などのコメントもあった。国際協力分野においては、協力隊経験者、留学経験者、
国際機関経験者が同じ土俵に立ち、人材としての「質」が競われる。協力隊に参加しただけで
は十分なキャリアパスとはなっておらず、開発援助に関する高い専門性や語学力の向上など、
協力隊員のさらなる能力向上が求められている。これに対し、JICA 側の取り組みとして、ジ
ュニア専門員制度が設けられており、若手人材に経験と機会を提供する場とするほか、JICA
研修、帰国隊員等の人材育成奨学金制度が 2001 年に開始されるなど、帰国隊員への支援に積
極的に取り組む方針を示している。
「21 世紀の JICA ボランティア事業のあり方」調査研究報告書(協力隊事務局、2002)の
アンケート調査結果によると、帰国後も JICA とのコミュニケーションを密にしたいかという
問いに対し「そう思う」
「まあそう思う」が 79.2%、帰国後の JICA への協力意向については「積
極的に協力」
「まあ協力」が 83.2%であり、多くのボランティア経験者が帰国後も継続して国
際協力活動に対して高い関心を持ち続け、自分自身の体験を再度国際協力に生かしたいと考え
ている。帰国後、国際協力を目指す人材がキャリアアップを図れるよう適切なキャリアパスを
用意する必要がある。具体的には、帰国隊員が今後国際分野で活躍する能力を身につけるため
に、国内外で学術経験を深める機会を増やし、国際協力や人道支援活動を行う国際機関、援助
機関や NGO などへのインターン制度を設け、優先的に帰国隊員を登用していくなどの方策が
ある。
プロジェクト研究「日本型国際協力の有効性と課題」
(JICA、2003)は、JICA の技術協力
を中心とした日本の国際協力の有効性や課題について、途上国へのインパクトと国内社会への
波及効果の二つの領域において明らかにすることを目的に実施された。日本の技術協力は、青
年海外協力隊、専門家派遣、研修員受け入れなど、多くのスキームが国民の幅広い参加によっ
て実施されるという大きな特徴を有する。国内社会への波及効果については、技術協力スキー
ムへの参加およびその直接的間接的影響によって、参加者本人へのインパクトおよび日本国内
における開発途上国・国際協力に対する理解・支持の増進、民間レベルの国際交流の促進、参
加者を取り巻く地域の活性化などの波及効果を明らかにすることを目的とし、アンケート調査、
19
インタビュー調査を実施した。アンケートの主な対象者は、JICA が保有する登録名簿から無
作為抽出された個別専門家派遣経験者(帰国後 2 年と 5 年各 200 名)
、協力隊帰国隊員(帰国
後 2 年と 5 年各 200 名)
、プロジェクト技術協力方式専門家 150 名であった。回収率は個別専
門家派遣経験者 41.3%(165 名)
、協力隊帰国隊員 40.8%(163 名)
、プロジェクト技術協力方
式専門家 49.3%(74 名)であった。JICA による派遣経験以外に、所属組織や自治体、NGO
などによる国際協力活動への参加経験を持つ人は、個別専門家、プロジェクト技術協力方式専
門家はそれぞれ約 60.0%、協力隊帰国隊員で 35.6%であった。詳しい活動内容を見てみると、
個別専門家は、「専門家以外の ODA による国際協力活動」31.5%、
「所属する組織独自の国際
協力活動」30.9%、
「NGO/市民による国際協力活動」12.7%であった。プロジェクト技術協力
方式専門家は、
「所属する組織独自の国際協力活動」24.3%、
「地方自治体による国際活動」20.3%、
「NGO/市民による国際協力活動」18.9%であった。協力隊帰国隊員では、
「NGO/市民による
国際協力活動」21.5%、
「地方自治体による国際協力活動」14.7%、「協力隊以外の ODA によ
る国際協力活動」5.5%であった。協力隊帰国隊員は、帰国後の国際協力活動として、NGO/市
民による国際協力活動への参加の比率が高いという特徴があった。また、協力隊への参加やそ
の経験による影響で、
「国際協力専門機関へ就職・転職したもの」は 5.5%、
「国際協力関連の
国内大学・大学院へ進学したもの」は 3.7%、
「海外留学したもの」は 4.3%であった。
青年海外協力隊事業評価報告書(協力隊事務局、2006)によると、帰国後 2 年の帰国隊員で
「現職参加ではなかったもの」あるいは「復職後に退職したもの」397 名のうち、JICA(嘱託・
調整員を含む)やその他の国際協力専門機関へ就職した者は 41 名(10.3%)
、NGO/NPO に就
職した者は 13 名(3.3%)であった。また、帰国後 5―7 年の帰国隊員で「現職参加ではなかっ
たもの」あるいは「復職後に退職したもの」917 名のうち、JICA(嘱託・調整員を含む)やそ
の他の国際協力専門機関へ就職した者は 199 名(21.7%)
、NGO/NPO に就職した者は 40 名
(4.4%)であった。
多くのボランティア経験者が帰国後も継続して国際協力活動に対して高い関心を持ち続け、
自分自身の体験を再度国際協力に生かしたいと考えていた。しかし、協力隊に参加しただけで
は、国際協力分野での即戦力とは見なされておらず、協力隊経験が国際協力分野への就職に有
利であるとはいえない。種々の調査により帰国後の年数や対象が異なるが、帰国隊員の 10%−
20%ぐらいが JICA、国際協力専門機関、NGO/NPO などで国際協力に携わっている。しかし、
協力隊参加後、実際どれだけの帰国隊員が、国際協力分野で働いているのかの継続的な調査は
20
なく、国際協力分野への就職率や進学率もわからない状況である。また、現在まで行われてい
るすべての調査において、大学や研究機関に所属し、国際協力分野や国際問題に取り組み、活
躍している研究者は、
「国際協力に関与している者」としてカウントされていない。国際協力
分野に進んだ帰国隊員に関する調査を行い、実態を把握した上で、大学院進学や研修を行うな
ど、国際協力を目指す人材がキャリアアップを図れるよう適切なキャリアパスを用意する必要
があろう。
4)多民族多文化社会への還元
青年海外協力隊事業評価報告書(外務省、2002)では、OB・OG 会へのヒアリング調査か
ら、帰国隊員が協力隊経験によって体得した語学力と相手国事情への理解を活用し、日本社会
に生活する途上国の人々に様々な形で積極的に支援・協力している例が多いことが明らかとな
った。地方自治体職員が現職参加で協力隊へ参加し、国際協力への理解を深め、復職後地域の
国際化に貢献している。しかしながら、これまでは一部の活動を取り上げて評価するにとどま
っている。復職後の自治体職員が総合的にどの程度人材活用されているのかを継続的にモニタ
リング、評価していくことが望ましい。
「自治体・協力隊連携アンケート」調査(青年海外協力協会、2002)では、地方自治体の国
際交流・国際協力事業などの現状を把握し、帰国隊員の社会還元や地域との連携の可能性を検
討することを目的に全国の 3,247 の市区町村を対象にアンケート調査と 948 の市区町村への訪
問調査を実施した。アンケート調査の回収率は 93.8%(3,046 件)であり、回答者は各自治体
の協力隊担当者あるいは国際交流担当者である。アンケート調査実施の主旨として、地方自治
体と開発途上国との協力に向けた意向調査、地方自治体の地域復興政策に対する帰国隊員の活
用調査などが挙げられているが、地域に暮らす外国人支援のための帰国隊員の活用については
述べられていない。アンケート調査結果によると、
「帰国隊員を自治体職員として採用したい」
と回答したのは 10.4%(317/3,046 件)であった。帰国隊員の有効な活用方法としては、国際
交流員が最も多く 59.3%(166/280 件)
、次に教育関係 40.0%(112/280 件)が挙げられた。
948 市区町村への訪問調査では、
「協力隊や帰国隊員との連携は特に考えていない」と答えた自
治体は 15.2%(144 件)
、
「職員の減少で帰国隊員の雇用は難しい」と答えた自治体は 15.2%(144
件)であった。訪問した地方自治体の国内での国際交流活動として、「在住外国人や地域の小
規模国際交流あり」9.8%(93 件)や「在日外国人に対し、メンタル等のケア」1.6%(15 件)
が挙げられた。また、帰国隊員との連携に関する要望事項として「協力隊や帰国隊員のリスト
21
を提供してほしい」11.9%(113 件)
、
「通訳で協力してほしい事がある」2.8%(27 件)であっ
た。これらの調査結果から、地方自治体における協力隊事業への理解が十分とは言えない状況
であることが明らかになった。これは、広報に問題があるだけでなく、国が実施する事業(協
力隊事業)と地方自治体は無関係であるという認識が改善されていないためである。
、地域活
性化に役立ち、地域において実現可能な ODA 関連事業が存在するにもかかわらず、身近な出
来事とは認識されず、開発途上国への関心の薄さにつながっている。協力隊事業の地方自治体
での活用は重要であり、国と地域が互いに協力しながら事業を推進することが必要不可欠であ
る。これを円滑に実践していくためには、自治体、JICA 及び協力隊帰国隊員との連携を促進
し、相互の理解を深めることが重要である。また、今後、独自の特色ある国際交流・国際協力
事業を展開することが求められてくる自治体において、協力隊事業などの国が実施する公的事
業をどのように活用し、地域の活性化に結び付けていくかが重要な課題であり、地域の協力隊
帰国隊員など海外ボランティア経験者は欠かせない存在である。自治体職員の現職参加や協力
隊事業を活用した地域活性化モデル事業の実施など地方自治体が公的事業をより活用しやす
くなるような環境整備が必要である。
「多文化共生に関する現状および JICA での取り組み状況に係る基礎分析」
(国際協力総合研
究所、2007)では、多文化共生分野における JICA のかかわりに関する現状と可能性について、
2 件のアンケート調査、多文化共生分野の活動実践者 7 名へのインタビュー(2007 年 2 月~3
月、3 回実施)
、専門家 4 名へのインタビュー(2007 年 3 月実施)をおこなった。アンケート
調査は、JICA 国内機関を対象としたもの
(2006 年 11 月実施、
有効回答数 15 件、回収率 93.7%)
と地域で活動する多文化共生関連団体を対象としたもの(2006 年 2 月実施、有効回答数 267
件)である。JICA 国内機関対象アンケート調査によると、JICA 以外の多文化共生関連団体と
すでにパートナーシップがあるのは 13 件(87%)で、多文化共生に関する地域からの要請が
あるのは 11 件(73%)であった。地域からの要請内容としては、国際理解に関する講師派遣
11 件、通訳派遣 4 件、在日外国人支援に関する講師派遣 4 件、在日外国人生徒に対する学校で
の補助教員 2 件が挙げられた。また、JICA 国内機関として地域の多文化共生に関わる必要性
について聞いたところ、
「必要性を感じる」67%「必要性を感じない」20%であった。
「必要を
感じない」とした機関はいずれも地域から要請のない機関であった。地域で活動する多文化共
生関連団体対象アンケート調査によると、団体の人材として JICA 活動経験者がいるのは 128
件(48%)であった。そのうちの 91 件(74%)が協力隊帰国隊員、26 件(21%)が JICA 専
門家であった。団体事業に JICA 活動経験者が関わっている事のプラス効果の有無について聞
22
いたところ、
「プラス効果がある」232 件(87%)
、
「プラス効果がない」16 件(6%)との回答
が得られた。プラス効果の詳細としては、
「異文化および多様な価値観・文化理解がなされて
いる」94 件(75%)
、
「派遣国の実情についての理解が活動に反映されている」62 件(50%)
といった背景理解のほか、
「職種としての専門知識が活かせる」49 件(39%)
、
「開発課題解決
で得た専門的な知識と経験が事業に反映される」53 件(42%)
、
「通訳・翻訳などの言語対応が
できる」38 件(30%)が挙げられた。多文化共生分野の活動実践者および専門家へのインタビ
ューからは、JICA が現在多文化共生分野で果たして役割について、人材面での役割を評価す
る意見が多かった。しかしこれは、現在活躍している帰国隊員を中心とした JICA 関連人材の
個人的な資質によるところが大きい。実践者インタビューでは JICA の組織的な関与がないこ
とが指摘され、専門家インタビューでは、人材育成面での JICA の目標設定がないことなどが
指摘された。また、国際理解教育での関与を除くと、外部からの依頼に応じて JICA 国内機関
は「できる範囲で対応している」にすぎないというのが、
「JICA の多文化共生分野での活動」
に対する外部の認識である。実践者の中には、協力隊での経験をきっかけに多文化共生へ踏み
出すというパターン以外に、国内での活動が先にあって、そのスキルアップとして協力隊に協
力隊に応募するというパターンも見られ、今後の人材育成や海外での開発援助と国内の多文化
共生事業との連携のあり方を示した。協力隊事業との連携により実施可能な外国人住民への直
接的な支援として、帰国隊員を地域の求めに応じて紹介するシステムをつくる、帰国隊員が地
域で活躍するための研修機会を設ける、帰国後の多文化共生分野での活躍を視野に入れた協力
隊の計画的な採用・派遣を行うことなどが期待されている。
「兵庫県における外国人児童生徒の実態調査―国際ボランティア経験者を活用した相互連携
の支援ネットワークをめざして―」
(益田、2007)は、兵庫県において外国人児童生徒や彼ら
をとりまく支援環境についての現状課題と今後の支援のあり方についての調査を実施した。さ
らに、協力隊帰国隊員の海外ボランティア経験から得られた資質に注目し、外国人児童生徒支
援にどのように関わることができるのかについても検討している。外国人生徒へは、学校や日
本語教師が日本語教育などの支援を行っているが、外国人生徒たちは、自分の悩みを母語で聞
いてくれる人、受け止めてくれる人の存在も求めている。一方、協力隊帰国隊員は、協力隊経
験によって得た能力、ボランティア活動への高い意欲、兵庫県内のネットワークなどの観点か
ら、外国人児童生徒に対して新たな形の支援を提供できる人材だと考えられる。帰国隊員自身
も支援協力に前向きな姿勢を示している。しかしながら、帰国隊員が個人として学校現場に入
ることは難しく、外国人児童生徒を支援する「場」を見つけられずにいるのが現状である。学
23
校現場における外国人児童生徒の悩みを話したい、聞いてほしいという要望と、支援にかかわ
るための「場」を探している帰国隊員の要望を結びつけるために、帰国隊員、学校、行政、日
本語教師のそれぞれが相互連携する支援ネットワークの構築が必要である。
多文化多民族社会の現場となっている地方自治体において、異文化や多様な価値観に理解が
あり、派遣国の実情を知っており、言語対応も可能な帰国隊員に対する期待は大きく、地方自
治体の国際交流事業の担い手として考えられている。また、個々の帰国隊員が、実際に多文化
共生分野で積極的な活躍をしている。しかし、JICA や JOCV 事務局では、地方自治体との協
力を自治体職員の現職参加促進と地方自治体主体の国際交流事業だけに焦点をあてているき
らいがある。急速に変貌しつつある多文化多民族社会の実態に即応して、在日外国人支援や多
文化共生分野における帰国隊員の活躍の場を開拓する努力が必要であろう。
5)戦略的な国際理解教育
徳田(1999)によると、帰国隊員が自らの協力隊活動を話す機会について、講演、サークル、
友人達を含めて 59%がそのような機会があったと回答した。これは、友人にすら協力隊の経験
を話さないものが 40%以上もいることになり、協力隊経験が個人にあるいは社会に伝わらない
ことがかなりあると言える。
青年海外協力隊事業評価報告書(外務省、2002)によると、現職教員の協力隊への参加経験
は復職後に学校教育現場において、生徒、生徒の父母、同僚に直接開発教育や国際理解教育を
直接行うことができるため、国内の教育現場での活躍を十分に検討し、その効果をモニターし
ていくことが必要である。一方で、
「学校の体制の中ではいまだ開発教育への積極的な取り組
みは認められていない」との声もあった。また、地方自治体の国際化への活用、国際理解教育
や開発教育の指導要綱や教材作成への活用のため、帰国隊員からの情報を蓄積し、広く公開で
きるシステムが必要である。その他、国民に対する開発教育や国際理解教育への貢献を日本社
会への還元の一環と考え、サーモンキャンペーン(現・出前講座)が行われている。サーモン
キャンペーンは帰国隊員が講師となり、学校、地方自治体などを対象に年間 600 回以上実施さ
れている。帰国隊員アンケートでは、帰国隊員の 90%が帰国後何らかの形で派遣国や国際協力
についての紹介をした事があると回答していた。
「21 世紀の JICA ボランティア事業のあり方」調査研究報告書(協力隊事務局、2002)で
は、教育現場などの場を通じて協力隊での経験を次世代を担う子どもたちや学生、市民へと還
24
元していく方法を進めるための課題と提言がまとめられている。JICA では、サーモンキャン
ペーンをはじめとする開発教育支援に積極的に取り組んでいる。教育現場での開発教育は子ど
もたちの人間性と国際性を高め、これがひいては国民の国際協力への理解や参加につながるも
のと考えられる。しかし、協力隊員にたいしてサーモンキャンペーンの趣旨の周知徹底が図ら
れていないこと、また帰国隊員が国際協力体験を伝える機会が充分でないことが課題である。
また、今後は教育現場だけでなく社会教育、生涯学習の場も重要な社会還元の場と捉えていく
必要がある。これらの課題を解決するために、帰国隊員が自らの責務として開発教育活動に参
加するためのシステム作りが必要である。また、国内教育現場を世界の多文化への理解と尊重、
グローバルな視野を持った人材の育成、ODA を含む国際協力への理解向上と国民参加を促す
貴重な場と捉え、教育現場と協力隊事業の相互乗り入れの強化が必要である。
プロジェクト研究「日本型国際協力の有効性と課題」報告書(JICA、2003)によると、職
場で海外派遣経験について伝えた経験について聞いたところ、
「頻繁にあった」
「時々あった」
と答えたのは、個別専門家経験者では 82.4%(136 名/165 名)
、プロジェクト技術協力方式専
門家経験者 82.5%(61 名/74 名)
、協力隊帰国隊員 57%(93 名/163 名)であった。協力隊
帰国隊員が職場で経験を伝えた割合は、専門家に比べ顕著に低かった。一方、プライベートな
場で経験を伝えた経験については、
「頻繁にあった」
「時々あった」と答えたのは、個別専門家
経験者では 61.2%(101 名/165 名)
、プロジェクト技術協力方式専門家経験者 66.3%(49 名
/74 名)
、協力隊帰国隊員 76.1%(124 名/163 名)であり、帰国隊員が専門家を上回ってい
た。さらに、講演、セミナー等を通じて多数の人に伝えた経験については、個別専門家経験者
では 72.8%
(120 名/165 名)
、
プロジェクト技術協力方式専門家経験者 67.6%(50 名/74 名)
、
協力隊帰国隊員 73.7%(120 名/163 名)が「頻繁にあった」
「時々あった」と回答した。協力
隊帰国隊員では、サーモンキャンペーンなどの所属組織外における講演やセミナー実施経験を
持つ人が 52.1%と半数を超えていた。協力隊帰国隊員は、専門家経験者と比較すると、所属組
織との関係が小さいことを反映し、経験を伝達する場は外部や一般を対象とした機会が中心と
なっているのが特徴的である。
現職教員特別参加制度評価報告書(協力隊事務局、2007)では、2002 年に文部科学省と JICA
の連携により創設された現職教員特別参加制度(派遣教員 353 名、2007 年 2 月現在)に焦点
をあて、ボランティア経験の社会への還元が如何に日本の教育現場でなされているかについて
アンケート調査を行った。アンケート対象者は平成 14 年度 1 次隊以降現職教員特別参加制度
を適用し派遣され、すでに帰国した現職教員 187 名(回答数 107 名、回収率 57.2%)で、調査
25
は 2007 年 2 月から 3 月に実施された。協力隊に参加したことについて「大変よかった」と「ま
あよかった」が 100%を占めており、満足度の高さが伺える。協力隊に参加して教師自身が得
たものとして、
「教員としての資質向上」
、
「日本の教育の再確認」のほか、
「協力隊ネットワー
クを通じた幅広い教育展開の可能性」を挙げている。一方、学校現場の中で派遣中の経験が生
かされているとの回答は全体の 70.1%(75 名)にとどまった。学校教育現場での協力隊経験の
活用事例として、
「国際理解教育の内容が充実」
、
「子どもたちへの接し方の変化」
、
「外国籍児
童への対応など」が挙げられた。授業以外での還元活動としては、
「生徒会やクラブ活動での
国際協力活動の指導」
、
「活動報告会」など直接生徒に伝えるものもある一方、
「職員研修会で
の協力隊経験の発表」
、
「PTA や地域・市民を対象にした講習会の実施」なども挙げられた。回
答者のうち 88 名(82.2%)が「自身の国際理解が深まった」と回答しているが、
「国際理解教
育の推進を担当している」のはわずか 28 名(26.1%)であった。また、学校側(学校長、同僚
教員等)は帰国後の取り組みについてどのように受け止めているかという問いには、
「好意的」
「やや好意的」59 名(55.1%)、
「特段のコメントはない」46 名(43%)
「やや否定的」2 名(1.8%)
であった。
「コメントなし」
「やや否定的」な反応については、
「帰国前と学校が異なり派遣の
背景を理解してもらいづらい」
「協力隊活動に対し否定はされないが関心が低い」
「学校で掲げ
る目標以外の活動は評価されにくい」
「多忙で、生徒に機会を与えるという関心が教師サイド
にない」などが挙げられた。
多文化共生に関する現状および JICA での取り組み状況に係る基礎分析(国際協力総合研究
所、2007)の JICA 国内機関対象アンケート調査によると、JICA 国内機関のうち多文化共生
関連団体とのパートナーシップがあると答えた機関(13 件)が、パートナーシップを取ってい
る事業は、
「教員向け国際理解教育/開発教育研修」11 件、
「国際理解ワークショップ」11 件、
「国際理解イベント」10 件、
「学校などでの国際理解教育」8 件、
「市民向け講座」8 件、
「JICA
研修員と地域住民との交流行事」6 件であった。地域で活動する多文化共生関連団体対象アン
ケート調査では、JICA 活動経験者の言語スキルや異文化理解の地域への還元の要望も高く、
開発教育や国際理解教育と多文化共生が相互に関連していることに対する積極的な取り組み
も期待されている。JICA 活動経験者の活躍が期待される国際理解教育において、教育現場か
らは海外の話を聞きたいというシンプルな依頼が多いが、そこに多文化共生の視点を組み入れ
ていくことができるのは、JICA ならではのスタンスである。多文化共生分野専門家インタビ
ューでは、開発援助と多文化共生を共に貧困の解決という問題の両端に位置するグローバルイ
シューとしてとらえる事が、JICA に求められている独自のスタンスであるとも指摘された。
26
国際協力への市民参加を掲げる JICA だが、現場が海外である活動に市民が参画するには、地
域の問題に密着した課題を入り口として活用することが有効である。
青年海外協力隊事務局では、ボランティア経験の社会還元状況を評価する指標を示している。
(協力隊事務局、2004)直接還元度として、帰国隊員による社会還元活動の実施状況と成果を
指標としており、講座や報告会などの開催実績と参加者の満足度を調査項目となっている。ま
た、間接還元度としては、帰国ボランティアの市民社会への参加・貢献を指標としており、
NGO/NPO の設立や参加、地域活動への参加状況などを調査項目としている。青年海外協力隊
事業評価報告書(協力隊事務局、2006、2007)の帰国隊員へのアンケート調査結果によると、
帰国後、ボランティア経験や任国、あるいは国際協力について紹介するような活動を行ったも
のは、帰国 2 年の帰国隊員では 356 名(89.7%)
、帰国 5―7 年の帰国隊員では 805 名(87.8%)
であった。参加者の満足についての報告はされていない。また、これらの紹介活動により、日
本市民が途上国や国際協力について理解や認識を高めるよい機会になっていると思うかとい
う問いに対して、
「とても思う」
「ある程度思う」が帰国 2 年の帰国隊員では 337 名(92.1%)
、
帰国 5―7 年の帰国隊員では 763 名(93.6%)であった。この問いに対し、否定的な回答をした
者は、その理由として日本人の途上国への関心の薄さを挙げる一方、体験の伝え方や活動紹介
プログラム構成の不十分さなどを挙げた。帰国ボランティアの体験談を社会還元成果の一つと
捉えると、より効果的な成果を求める上で、プレゼンテーションスキルの向上等も工夫される
必要がある。さらに、社会還元活動の意味を広義にとらえ、学校教育現場での帰国報告会や講
演会のみならず、もっと多様な発信をすることが重要であると提言した。大学や研究機関との
連携によって、現地で得た知識や経験をより学術的な分野に活かす環境づくり、NGO/ NPO と
の連携によってグローバル社会の課題を市民と考える活動を行う、各地の OB・OG 会と協力
しながら、自治体の国際関係団体などで社会還元を行い、広く市民社会に帰国隊員の活躍をア
ピールするなどを具体例として示した。
JOCA では、協力隊経験を国際理解教育の現場で役立てるため、異文化理解ワークショッ
プや協力隊体験談の講師を派遣している。参加者が“地球に生きる一人としての自分を見つめな
おすきっかけ”につなげることを目指し、JOCA 地球生活体験学習教材を活用したワークショッ
プ、青年海外協力隊の体験談を加えたプログラム、
「総合的な学習の時間・国際理解」に役立
つ資料・情報の提供、その他の異文化理解ワークショップ・協力隊体験談などのプログラムな
どを実施している。対象者は主に教員、小中高校の児童・生徒、一般市民である。JOCA によ
27
ると、2007 年度の講師派遣実績は 55 件で、参加者は 3,867 名であった。その他、国際理解教
育・開発教育用教材の販売、教材の貸し出し、帰国隊員に対する伝え方研修などを行っている。
JICA 地球ひろばでは、出前講座を「開発途上国の実情を知り、日本との関係や、国際協力
がなぜ必要なのか理解するために、開発途上国で活動したボランティア経験者を派遣するプロ
グラム。総合的な学習の時間・各教科や特別活動での国際理解教育、教員や PTA、自治体など
の研修で活用」してほしいとしている。出前講座は学校を中心に、毎年全国で 2,200 件以上実
施され、約 25 万人が受講している。
活動紹介や任国紹介、国際協力活動などの協力隊経験の伝達については、90%近い帰国隊員
が何らかの形で実施していた。出前講座や講師派遣という形は、国際理解教育や開発教育の一
つの形態として定着しているといえる。しかし、テレビやインターネットを通じて途上国の映
像や情報が簡単に入手できるようになった現在では、途上国での生活体験に基づき、児童生徒
や一般市民の意識を高め行動を促すような実践的な国際理解教育や開発教育が求められてい
る。
6)日本の地域社会との関わり
「自治体・協力隊連携アンケート」調査(青年海外協力協会、2002)では、協力隊事業や帰
国隊員を有効活用することができるかついて調査を行っている。帰国隊員の中には、出身地か
ら離れてでも、自分の専門技術を活かせる仕事に就きたい、あるいは自然豊かな土地で暮らし
たいと考えているものが少なからずいるとし、地方自治体の地域振興政策において、帰国隊員
の地域への転入・定住を希望するかについて聞いている。8.6%(262/3,046 件)の自治体が
帰国隊員の転入・定住を希望すると答え、農業、地域活動、語学、国際交流などの技術や経験
を期待していると回答した。そのうち約 30%が転入・定住希望者への支援策があると答えてい
る。
「21 世紀の JICA ボランティア事業のあり方」調査研究報告書(協力隊事務局、2002)に
よると、地域社会への貢献を通じて間接的に国際協力を行う帰国隊員が増加している。地域の
活動に直接的・間接的に貢献したいと考える帰国隊員に対して JICA 国内機関が有する地元の
ネットワークを生かして必要な情報を随時提供するなど、スムーズに活動を開始できるような
環境を整備することも重要であると指摘している。
28
青年海外協力隊事業評価報告書(協力隊事務局、2006、2007)では、帰国隊員の社会還元活
動の間接還元度を評価するにあたり、帰国ボランティアの市民社会への参加・貢献を指標とし
ており、NGO/NPO の設立や参加、地域活動への参加状況などを調査項目としている。アンケ
ート調査によると、帰国後 2 年の帰国隊員では「自治体が実施する国際交流活動への参加」58
名(14.6%)
「地域団体の活動への参加」51 名(12.8%)
「NGO/ NPO 活動への参加」50 名(12.6%)
であった。帰国後 5∼7 年後の帰国隊員では、
「自治体が実施する国際交流活動への参加」133
名(14.5%)
「地域団体の活動への参加」111 名(12.1%)
「NGO/ NPO 活動への参加」130 名
(14.2%)であった。帰国隊員の活発な市民社会への参加が明らかになったが、今後は、どの
ような形でボランティア経験が活かされているか調査し、社会還元の成果を検討していく必要
がある。
帰国隊員のボランティア活動や NGO/NPO 活動への高い参加率については種々の調査や報
告があったが、日本社会の中で帰国隊員がどのような活動を行い、地域社会の発展にどのよう
に貢献しているのかといった視点からの報告は、ほとんど行われていなかった。
7)その他
①広報・協力隊事業への理解向上
青年海外協力隊事業評価報告書(外務省、2002)によると、協力隊事業は JICA の他の援助
スキームと比較した場合、もっとも一般国民が理解しやすい ODA 事業であるといわれている
が、一般国民の認知度は未だに低いのが現状である。帰国隊員が適切に社会から評価され、帰
国隊員たちが彼らの経験を存分に日本社会に還元できる状況を整備するために、帰国隊員が実
際日本社会にどのような影響を与えることができるのか継続的に調査し、評価していくことや
協力隊事業の理解度向上、国際理解教育の推進などに取り組むべきである。
「自治体・協力隊連携アンケート」調査(青年海外協力協会、2002)の結果によると、3046
の地方自治体のうち、
「青年海外協力隊についてよく知っている」と回答したのは 945 件
(31.0%)
、
「協力隊の名称を知っているのみ」2044 件(67.1%)
、
「各都道府県 OB・OG 会の
活動をよく知っている」107 件(3.5%)となっており、地方自治体における協力隊事業および
帰国隊員の知名度は全体的に非常に低い値であった。
「21 世紀の JICA ボランティア事業のあり方」調査研究報告書(協力隊事務局、2002)で
は、帰国隊員の日本社会における活躍の場が拡大しない最大の理由は、我が国においてボラン
29
ティア活動そのものが社会に十分に根付いておらず、ボランティア活動に対する理解や評価が
充分でないことが考えられると述べている。さらに、
「JICA に関する全国市民アンケート調査」
結果から協力隊の具体的な活動内容を認知しているのが 32.6%にすぎず、ボランティア活動一
般に対する理解度や評価を高める方策や、JICA ボランティア事業について国内外での評価を
高める方策が必要であると指摘している。
②専門分野における国際化への貢献
帰国隊員の中には、協力隊経験を活用して、自らの職域・専門分野における国際化に貢献し
ているものも少なくない。帰国隊員がどのように専門分野における国際化へ貢献しているのか
について具体的な活動内容の報告のほか、研究報告も見られた。
教育分野において、派遣現職教員の帰国後の活躍については、毎年「開発途上国における派
遣現職教員の活躍―帰国隊員報告会―報告書」で報告されている。平成 19 年度の報告会では、
派遣経験の活用方法の共有や活用可能性の拡大を目的として「派遣経験を生かした教育活動に
関するパネルディスカッション」が設けられ、4 名の派遣現職教員が帰国後の活動について発
表した。森本(2006)は、勤務校での国際理解学習指導において、外国人または海外生活の経
験を持つゲストティーチャーを活用している。国際理解教育の活性化を図るため、ゲストティ
ーチャー人材バンクとして、大学、JICA、県および町の国際交流協会、海外勤務経験を持つ教
員との幅広いネットワークを持ち活動を行っている。
保健・医療・福祉分野において、中嶋(2007)は、海外の国際協力現場で社会福祉やリハビ
リテーション分野での支援の需要が増加している中、国内のリハビリテーション専門家養成課
程では、グローバルな活躍を視野に入れた人材育成が不十分であることを明らかにした。リハ
ビリテーション分野で派遣された青年海外協力隊員へのアンケート調査結果をもとに、今後の
専門家養成カリキュラムに必要な要素を提案している。石本(2008)は、国際協力活動が作業
療法士に与える影響を理解することを目的に、社)日本作業療法士協会が青年海外協力隊作業
療法士隊員を対象に行ったアンケート調査(2005 年実施)を分析した。国際協力活動が隊員
に及ぼした影響、作業療法士の人材育成手段としての国際協力活動、要請教育および現任者教
育の課題などを考察している。杉浦(2003)は、青年海外協力隊看護職帰国隊員と公立総合病
院勤務看護職との異文化背景を持つクライアントへ適切な看護を提供する能力(異文化間看護
能力)を比較した。調査結果によると、青年海外協力隊看護職帰国隊員群が効率総合病院看護
職群に比べて、異文化間看護能力が有意に高かった。具体的に両群で差がみられた能力要素を
30
分析した結果から、クライアントの文化を尊重した看護の提供は、相違が存在するという事実
を知っているのみでは不可能であり、その相違がどのようなものであるかを知っている必要が
あることがわかった。さらに、杉浦(2006)は、外国人クライアントの看護において大切と認
識された事柄の内容分析を行った。外国人クライアントの看護実践現場においては、言語の障
壁が看護ケア提供の最大の障壁として認識されていることが明らかになった。また、青年海外
協力隊看護職帰国隊員と公立総合病院勤務看護職の認識を比較したところ、
「文化の考慮」で
青年海外協力隊看護職帰国隊員の回答率が有意に高かった。青年海外協力隊看護職帰国隊員は、
クライアントの持つ文化の多様性を尊重し、これを考慮したケアを重視していると捉えられた。
山本(2008)は、青年海外協力隊看護職帰国隊員に、海外活動経験の活用方法の一つとして、
在日外国人に対する支援への意識と現状について質問紙調査を実施した。調査結果より、協力
隊派遣後、在日外国人支援活動に興味・関心を持っている人や実際に活動している人の割合は、
派遣前よりも高くなっている。しかし、帰国後実際に在日外国人支援活動を行った人と興味を
持っている人の割合には差がみられた。在日外国人支援活動の阻害要因を明らかにし、解決す
る必要がある。
JOCA によると、青年海外協力隊職種別 OB・OG 会には、看護職、幼児教育、栄養士、体
育・スポーツ、柔道、日本語教育、都市計画・建築関連、作業療法士・理学療法士などがある。
それぞれの専門性と協力隊経験を活かし、国内外で活動を行っている。
このように、帰国隊員は、その専門性を活かし、専門分野における国際化の重要な担い手と
活躍している。
31
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33
第3章 インタビュー調査−青年海外協力隊経験者たちの社会貢献に関する考察
藤掛洋子
1.本研究の背景と目的
2006 年9月9日にヘルシンキで、
EPA
(経済連携協定:Economic Partnership Agreement)
に日本政府は署名し、インドネシアやフィリピンから看護師や介護福祉士候補者が日本に移動
してきている。また、2008 年6月7日に自民党の「外国人材交流推進議員連盟」が日本の移
民政策に関する提言案をまとめ、人口減少社会において国力を伸ばすには、移民を大幅に受け
入れる必要があるとし、
「日本の総人口の 10%(約 1000 万人)を移民が占める『多民族共生
国家』を今後 50 年間で目指す」と明記した(読売新聞 2008 年6月8日)
。そこでは、留学
生を 100 万人受け入れるという提案もなされた。
日本には在日韓国・朝鮮人は 60 万人いるといわれており、また、アジアの女性との間に生
まれた子どもの国籍問題は、国内だけで数万という推計がある。
在住外国人の定住化により 200
万人以上の外国籍の市民が暮らし、国際結婚は全婚姻の5%にのぼっている。海外で勉学した
帰国子女が増加し、日本で学ぶ留学生は 12 万人を越している。このような多民族多文化社会
は、今に始まったものではない。このような認識の上にたち、多民族多文化社会に関する議論
を始めることが重要であると考える。同時に、海外において異文化理解を深める経験を有した
人材を活用する取組の枠組みを構築することは火急の課題である。
本章では、3万2千人に達した青年海外協力隊(Japan Overseas Cooperation Volunteers、
以下 JOCV)経験者に焦点を当て、協力隊の経験者がどのような目的を持ち、
「発展途上国」
に出向いて行ったのか、そして帰国後、どのような社会貢献活動を行っているのかについてイ
ンタビューを実施することを通し、日本社会の課題解決に向けた現状と課題を検討する。
JOCV 事業は、1957 年より構想され、1965 年にスタートした。JOCV は、日本国政府が行
う政府開発援助(Official Development Assistance:ODA)の一環として、外務省所管の独立行
政法人国際協力機構(Japan International Cooperation Agency、以下 JICA)が実施する海外
ボランティア派遣制度であり、募集分野には農林水産、教育、保健衛生など 120 以上もの職種
に分類されている。2008 年にはその派遣が 80 ヶ国、3万2千人を超えている。
本章では、日本社会が抱える少子高齢化問題や多民族多文化国家社会の課題、地域や農業の
問題、環境の問題、わかものの問題、ジェンダーと開発に関わる問題などに JOCV 経験者がど
34
のような社会貢献をなし得ることができるのか、現在、社会貢献を行っている元 JOCV へのイ
ンタビューを実施することから検証する。
2 研究方法
2−1 調査手法・調査対象者の選定方法・調査期間
本章では、1)どのような人が協力隊活動を終えた後もボランティアや社会貢献活動を行っ
ているのか、2)また、その継続は容易であるのか否か、困難であるならばどのような障壁が
存在するのか、3)障壁を取り除き社会貢献活動を継続するためにはどのような制度・政策を
検討する必要があるのかについて調査を行うため、現在、国内外で社会貢献活動を行っている
元 JOCV をスノーボーリング方式で選び、半構造インタビューと一グループに対しフォーカ
ス・グループ・ディスカッション(FGD)を実施した。半構造インタビューとは、鍵となる質
問以外は、調査協力者の話を中断せずに丁寧に聞き取りをするものである。
調査対象者の選定方法は、以下の通りである。1)社団法人青年海外協力協会(Japan
Overseas Cooperative Association、以下 JOCA)で把握している日本国内外で社会貢献活動
を積極的に行っている元 JOCV でコンタクトが取れ、かつ、調査協力者として承諾を得ること
ができた人、2)JOCV のネットワークを通じ、スノーボーリング方式でコンタクトがとれ、
社会貢献活動をしており、かつ調査協力者として承諾を得られた人である。
今回の調査では、元シニアボランティアをインタビュー調査の対象とはしていない。その理
由として、以下の点が挙げられる。2007 年度よりシニアボランティアとジュニアボランティ
アは一元化されたが、それ以前は、派遣前訓練などの形体や統計データ(例えばグラフ1 男
女別青年海外協力隊派遣実績などの統計データ)が異なるため、今回はジュニアのみ、すなわ
ち旧 JOCV のみを対象とした。シニアを含めた分析は今後の課題としたい。
調査期間は、2008 年4月1日より 2009 年5月 31 日であり、この間に、関東、関西、中部
地方(長野県・愛知県)に居住する 29 名(男性 17 名、女性 12 名 内 JOCV 未経験の配偶者
女性1名含む)=合計 29 名にインタビューを実施した(表1参照)
。
35
表1 調査協力者一覧
調査時の
性別
年齢
A
男性
40代
B
男性
20代
C
女性
30代
D
女性
30代
E
男性
50代
F
男性
30代
G
女性
30代
H
女性
40代
I
男性
40代
J
男性
20代
K
男性
30代
L
女性
30代
M
男性
20代
N
女性
30代
O
女性
30代
P
女性
40代
Q
男性
40代
R
男性
50代
S
男性
40代
T
男性
40代
U
男性
30代
V
男性
30代
W
女性
30代
X
男性
40代
Y
女性
30代
Z
男性
30代
A2
男性
40代
B2
女性
20代
C2
女性
40代
隊次
昭和61年度2次隊
平成15年度2次隊
平成12年度3次隊
平成14年度1次隊
昭和59年度3次隊
平成8年度1次隊
平成10年度3次隊
平成4年度2次隊
平成11年1次隊
平成17年度1次隊
平成14年3次隊 平成13年1次隊
平成15年度2次隊
平成11年2次隊
平成10年3次隊
平成4年度3次隊
昭和61年1次隊 昭和54年2次隊
昭和60年
平成11年3次隊
平成14年2次隊
平成13年1次隊
平成13年2次隊
平成7年2次隊 平成16年3次隊 平成9年3次隊
平成1年3次隊 平成15年度3次隊
Cさんのパートナー
派遣国
職 種
手法
ペルー
パラオ
バングラデシュ
モルディブ
バングラデシュ
サモア
ニジェール
パラグアイ
パナマ
エルサルバドル
パキスタン
ガーナ
ケニア
トンガ
ソロモン
ケニア
ネパール
マラウイ
パラグアイ
パラグアイ
パラグアイ
ガーナ
ガーナ
野球
文化財保護
染色
幼稚園教諭
農業機械
柔道
家政
家政
システム・エンジニア
考古学
木工
家政
環境教育
体育
視聴覚
家畜飼育
作業療法士
電子機器
写真
野菜
野菜
バスケットボール
村落開発普及員
個別インタビュー
個別インタビュー
個別インタビュー
個別インタビュー
個別インタビュー
個別インタビュー
個別インタビュー
個別インタビュー
個別インタビュー
FGD
FGD
FGD
FGD
個別インタビュー
個別インタビュー
個別インタビュー
個別インタビュー
個別インタビュー
個別インタビュー
個別インタビュー
個別インタビュー
個別インタビュー
個別インタビュー
個別インタビュー
個別インタビュー
個別インタビュー
個別インタビュー
個別インタビュー
個別インタビュー
ケニア
ボリビア
ジンバブエ
フィリピン
ミクロネシア連邦
**
理数科教師(現職参加)
村落開発普及員
野球
村落開発普及員
栄養士
**
* 主たる調査担当者 F:藤掛洋子、H:濱口陽子、I:石坂貴美、KY:北原照美、KH:北村広美、N:中村安秀、O:大野真、U:内海成治、Y:
は協力隊から帰国後、結婚している一組のカップルを示す。
出典:インタビュー記録をもとに筆者作成。
主たる調査担当
者
F
F
F
F
F、KT、YN
F、KT、YN
F、KT
I、F
I
I
I
I
I
KH、O
KH、O
U、H
N、O、H
F
F
F
F
I
I
I
I
I
I
F
F、KY、YN
麻里、YN:山口考彦
調査対象者の年齢は、1981 年生(現在 28 歳)∼1950 年生(現在 59 歳)であり、インタビ
ュー時間は平均1人約2時間であった。加えて、電子メールや電話などでの落穂拾いを行った。
調査対象者には、1)JOCV への応募動機、2)異文化理解、3)協力隊と日本社会の構造
にはどのような関係性があるのかなどを鍵にインタビューを行い、その結果を筆者が分析した。
また、4)なぜ、帰国後もボランティア活動を続けるのかについても質問した(質問項目は2
−2を参照)
。
2−2 調査ユニット
全国に散らばる元 JOCV へのインタビューを実施するために調査ユニットをもうけた。調査
ユニットは A・B の2グループがある。
調査ユニット A は、藤掛洋子(東京家政学院大学准教授)が代表をつとめ、メンバーに元
JOCV の石坂貴美(バングラディッシュ OG)
・北原照美(モルディブ OG)
・
麻里(ミク
ロネシア連邦 OG)
、山口考彦(パラオ OB)が入った。調査メンバーは、はじめに筆者の実施
するインタビュー調査に同行するとともに、調査項目に関する統一と半構造インタビューの留
意点に関する情報交換を行った。特に、半構造インタビューの手法に関する留意点について会
36
議を行い合意がなされた。
調査ユニット B は、内海成治(お茶の水女子大学大学院教授)
、中村安秀(大阪大学大学院
教授)
、北村広美(大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程)
、大野真(青年海外協力協会
受託研究 事務補佐)
、濱口陽子(大阪大学大学院人間科学研究科博士前期課程)で構成され
た。調査ユニット A とは別にインタビューを実施した。その際には、A・B 間において質問項
目の統一をはかるとともに、半構造インタビューのメリット、デメリットに関する双方向での
確認を行った。なお、調査ユニット B のデータ確認、とりまとめ、落穂拾いは筆者が行った。
調査ユニットが使用した基本となる質問項目は以下の通りである。
1.JOCV を志望したきっかけは何ですか?
2.JOCV の体験を通して、あなたの財産になったものは何ですか?
3.JOCV の活動で感じたあなた自身の問題や課題は何でしたか?
4.帰国後はどのような活動をしていましたか? 中断した理由は何ですか?
5.現在はどのような活動をしていますか?(中断している場合は、理由は何ですか?)
6.どのようなきっかけで現在(あるいは過去)の活動をするようになりましたか?
7.JOCV の体験は、どのように現在の活動に活かされていますか?
8.JICA や JOCA、OB・OG 会1からどのようなサポートがあればよいと思われますか?
9.その他(調査協力者からの自由な発言を尊重し、会話を妨げない。
)
10.調査者からの確認。
2−3 記録・分析・個人情報保護について
インタビューは、調査協力者の許可を得られた場合のみ IC レコーダーに録音した。得られ
たインタビューデータは、文化人類学をはじめとする質的調査などで用いられる「語り分析」
を行った。単語だけを抜き出すのではなく、語りの文脈やその語った人の生きてきた社会背景
などを含め理解しようとするものである。また、語りから傾向が見いだせたものはタイポロジ
ーに分類した。A(女性)
、B(男性)という形で処理を行った。
なお、語りの分類については、調査協力者自身が分類したものではなく、筆者が分析の過程
OB は Old Boy、OG は Old Girl の和製英語である。JOCV 帰国隊員を県別にとりまとめた
組織の名称は、○○県 OB 会、○○県青年海外協力協会、○○県 OV 会など、多様である。本
稿では、
JOCA の公式ホームページ https://www.joca.or.jp/content/homecommiNGOb_og.html
(2009 年 6 月 25 日アクセス)に記載されている表記にならい、これらの組織を OB・OG 会
と表記する。
1
37
で分類したものである。また、今回の調査において個人の語りの多くは、時系列でなかったり、
落ち穂拾いの中で前後関係が明確になったりしたものである。それらを、筆者が分析の過程で
時間軸や社会関係の中に置き換えて分析したものであり、調査協力者の語りが「物語化」して
いたり、
「英雄伝」のようなものになっているものはなかった。
4.では、インタビュー結果を分析するが、記述の際は、氏名をアルファベットで表記し、
性別とインタビューを実施した当時の年代を示す。例:Aさん(男性、40 代)
。インタビュー
の際には、年齢などの聞き取りも行ったが、JOCV は職種や派遣隊次などが細かく再分化され
ているため、個人の特定を避けるため、年代別に示した。
3. 先行研究
3−1. プレ調査:青年海外協力隊への参加動機とタイポロジー
筆者は 2000 年から今日まで青年海外協力隊駒ヶ根訓練所と青年海外協力隊広尾訓練センタ
ー(広尾にある青年海外協力隊広尾訓練センターは 2005 年で地球ひろばに衣替えし、JOCV
訓練所は二本松と駒ヶ根に二本化された)において「開発とジェンダー」の講義を担当してい
る。講義終了後、毎回40分程度、自由に参加できる形式を採り、自由討議や質問の会を設け
ている。その会や後の電子メールなどの交換を通し、隊員たちの協力隊への参加動機が大きく
三つに分かれる傾向にあることがわかってきた。
第一は、今しかできないこと、大きな変化を求めて、自分探しの旅(自分は何ものであるの
か)
、海外で暮らしてみたい、という「自分探しの旅型」である。
第二は、人生の息抜き、男性あるいは女性に課せられた役割からの「一時逃避型」などであ
る。そのため、職場に復帰したら、自分は青年海外協力隊事業に参加したことは絶対口にしな
い、と語る現職参加の大手企業の男性もいた。
最後は、海外の大学で開発学や国際関係学などを学んだので国連の職員になりたい、NGO
の職員になりたい。協力隊はそのための一つのステップというタイプである。つまり、人生の
目的が国際協力に定まっている「国際協力邁進型」である。
3−2.青年海外協力隊派遣数の推移と日本社会の概況
本項では、前項のプレ調査を受け、青年海外協力隊派遣数の推移と日本社会の概況について
38
確認する。JOCV への応募数の増減に関しては、経済状況が悪化すると増加し、好転すると減
少するとよく言われる。このような経済的な要因が協力隊への応募に大きく影響すると思われ
るが、他にもいくつかのプッシュ要因、プル要因があると思われる。
グラフ1は、男女別青年海外協力隊派遣人数の推移(出典:独立行政法人国際協力機構20
08年7月 28 日現在)である。1998年には男性と女性の派遣隊員数がはじめて逆転し、
その後一貫して女性の青年海外協力隊員の数が男性を上回っている。
青年海外協力隊派遣人数:男女別
1800
1600
1400
派遣人数
1200
1000
均等法
制定
1990年
代女性
の
職種増
加
【*】
1998年
女性隊員
が男性隊
員の数を上
回る
均等法
改正
【*】
均等法
改正
【*】
800
600
400
200
0
19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 20 20 20 20 20 20 20 20
65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07
女
2 37 11 11 25 19 14 30 26 31 38 38 55 66 73 76 92 95 120173196196225284273345363421464524486455539636673686610714720805813937913
男
38 74 151168208198203206139176178190261245281313361367401452582602608592578602594543594661589519550556656587506591583582615592569
総計 40 111162179233217217236165207216228316311354389453462521625778798833876851947957964105118107974108119132127111130130138142152148
グラフ1 青年海外協力隊派遣人数:男女別
出典:独立行政法人国際協力機構(2008年7月28日現在)をもとに筆者作成
【*】均等法=男女雇用機会均等法
1990 年代に入ると、男女問わず、または女性でも活躍できる職種が増えていった。これまで
男性が対象であった職種に女性が参加できるようになり、男女ともを対象にした募集案件が増
加していった。案件形成の変化について、八田(2004)は、1)社会開発分野に重点を移行さ
せている開発の世界的な潮流を JICA が受け継ぐなかで、男性中心的な農業、土木等の職種/
部門の案件が減り、女性中心的、もしくはジェンダー中立的な教育、保健等の職種/部門が増え
たこと、さらに2)『募集要項』もしくは『受入希望調査表』の性別を条件づける(特に男性
のみとする)案件が減り、男女不問の案件が増えたこと、募集案件の変遷が、JICA のジェン
ダー主流化・WID の取り組みが始まった時期と一致することを指摘している。この点は、JOCV
に女性が参加することに対するプル要因になっていると思われる。
また、先に述べた「自分探しの旅型」や「現実からの一時逃避型」の場合、日本社会の規範
39
に息苦しさを感じていることがしばしば語られた。このような規範が、JOCV 事業への参加に
関するプッシュ要因の一つになっていると思われる。
4.インタビュー調査結果と分析
インタビューデータは、半構造インタビューと半構造インタビューの項目を用いたFGDに
より収集した(2.の研究方法を参照)
。ここでは、傾向を見出すために、質問項目に沿って
調査協力者の語りを並べ替える。先にもふれた通り、調査協力者の語りが「物語的」にでてき
たわけでも、
「英雄伝」として出てきたわけでもなく、時系列に分析する中で、見出せた傾向
として筆者が分類したものである。
4−1.派遣前
派遣前、調査協力者はどのような思いで JOCV に応募したのであろう。
A さん(男性、40 代)
:
「男たるもの仕事に身を捧げるものだ。30歳までに子どもを持たない
と男ではない」と職場で言われてきた。だけれども、彼女もいないし、自分は縛られるものがない。
守るものもない。自分だけが生きていくために頑張れればよいから、自分がずっと愛してやまなか
った野球に懸けた人生を送りたいと考え、野球隊員として協力隊に参加した。
C さん(女性、30 代)
:女性はこうだ、男性はこうだという道がいう中で、
(女性としての)自
分の道を敷かれていることが非常に息苦しかった。
Fさん(男性、30 代)
:
「日本男児だから定職につくべき」ということを言われた。両親が望ん
でいたのは、公務員や会社員になるなど、安定した職に就くことであった。自分の信じた道を行け
ばなんとかなる、と JOCV へ応募した。
I さん(男性、40 代)
: 30 歳になって何か物足りなさを感じ、人生を変えたいと協力隊に参加
した。協力隊に参加するといって初めは家族には反対されたけれども、5年間かけて説得し、理解
を得た。
R さん(男性、50 代)
:勤務していた大きな会社を、それも終身雇用定年が保障されていた会社
を男性が退職することは、当時、
「自殺行為」と考えられていた。しかし、自分自身は、今しかで
きないことをしたい、海外を自分の目で見たいみたいと思い退職した。
H さん(女性、40 代)
:日本社会にある女性の生きる道として、25 歳までに結婚して、出産し
てよき母になるという価値観に疑問を感じ、JOCV に参加。
40
このように、協力隊に参加した人々は、日本社会の規範にからみとられない「自分探しの旅」や
「一時的な現実逃避型」であったりした。29 名中、25 名が、なんらかの形で日本社会の規範であ
る性別役割分業に対し違和感を持っていた。したがってこのような日本社会のジェンダー規範が協
力隊への参加のプッシュ要因になっていると考えられる。
女性の JOCV 事業への参加の増加に関しては、先に述べた 90 年代以降の国際社会におけるジェ
ンダーの平等という考え方により男女問わず、または女性でも活躍できる職種の増加をもたらした
ことがプル要因と考えられる。この双方が作用する中で、女性隊員の増加が認められたのではない
かと考えられる。
4−2.異文化との遭遇
本章の調査協力者は、帰国前や帰国後になんらかの社会貢献活動を積極的に行っている人々
である。このような人々は、どのようにして社会貢献に対する価値観を育んできたのであろう
か。
A さん(男性、40 代)
:野球を指導してくれた先生から大きな影響を受けている。野球は9人で
やるけれども、9人で野球は成り立たない。ナイン以外に、球拾いや応援する人がいないと野球は
成り立たない。つまり、100 人の野球部員は 100 人みなが平等だと教えられてきた。それが、国際
協力の現場で大変役に立った。
Aさんの場合は、すべての人は平等であるという思想が野球によって育まれ、協力隊の活動
で芽を出したと言えよう。また、A さんは、父親がハンセン病の病棟で調理師をしていた関係
から、子どものころからハンセン病の病棟に連れて行かれて、手のない人、体の一部がただれ
たり、変形している人をみてきた。最初はショックを受けたけれども、いろいろな人がいるこ
とを学び、ハンセン病の患者も平等に権利を享受する必要がある、差別というのはおかしいと
いうことを、幼少のころから学んでいる。
Bさん(男性、20 代)
:ブラジルのベレン生まれ。日本に4歳で帰国、しかし、そこで差別に遭
い、山形での生活や異文化に逆カルチャーショックを受け、日本の暮らしになじめず、高校からは
アメリカに行った。アメリカでも非常に苦労したが、そこで日系の柔道の先生に出会い、助けられ、
自分も人助けがしたいと思った。そして中米を訪問した際、JOCV に出会って、こんな世界がある
のだ、自分もこのような活動をしたいと考え、協力隊に参加した。
Cさん(女性、30 代)
:女性差別を職場で受けてきた。
Hさん(女性、40 代)
:中国に出張した際、自分の足を切り落とし、物乞いをしている男性に遭遇
41
した。同じ地球上に生きる同じ人間なのに、なぜ、このようなことが起きるのか、一度しかない人生、
このような問題に向き合うべきと思った。
Gさん(女性、30 代)
: 兄と父をたて続けに失くし、
「生きているって、何だろう」と真剣に考え
るようになり、仕事を退職した。
V さん(男性、30 代)
:学生時代、ベトナムで出会った物乞いや障害者たちの姿に驚いた。
Wさん(女性、30 代)
:ガーナからの留学生が自宅に遊びに来る機会があった。
Y さん(女性、30 代)
:小学校に JOCV 経験者の先生がいた。ザンビアに派遣されていたので、み
んなから「ザンビア先生」と呼ばれていた。中・高校生くらいのときから、異文化や海外に興味を持
つようになった。
A2(男性、40 代)
:学生のときのインド・ネパールでの異文化体験があった。
このように、調査協力者は、JOCV に参加する以前に多くの異文化に遭遇している。自分と
は異なるものを目の当たりにしたり、差別を目の当たりにしてきたり、差別をされたりである。
このことから、異文化体験・異文化理解をする経験や差別を受ける当時者になる経験が、問題
意識を明確化したり、自分の位置する狭い空間から他者や世界に視野を向けるきっかけになっ
ているのではないかと考える。
4−3.JOCV の体験を通した気づき・学び
JOCV の体験の通し、調査協力者はどのようなことを学んでいるのであろうか。
Fさん(男性、30 代)
:配属先に行くと仕事がなかった。その後、道場ができたが、生徒が来な
かった。自分は「指導者」という立場で行っていたが、生徒がいないと「指導者」にはなれない、
ということに気がついた。生徒の存在のおかげで自分は活動ができると気づいた。
Gさん(女性、30 代):派遣先では仕事がなかった。何かしなくては、と思うが周りがお膳立て
してくれるわけではないので、とにかく自分が動くしかなかった。JOCV 以前の仕事では、何か問
題があると人のせいにできたけれど、任地では自分がやらなければならなかった。ただし、反対に
言えば、自分さえやる気になれば何でもできるということにも気がついた。
Hさん(女性、40 代):「答えは現場にしかない」ということが、JOCV の経験から生み出した
自分自身の哲学となった。また、JOCV は技術協力にいくのかもしれないが、与えられ、協力され、
育てられる部分の方が多い。
Jさん(男性、20 代)
:考古学を勉強し、実際に発掘現場に行ったら、現地の日雇い労働者は、
賃金ももらえないし、発掘がないと本当にお金が全く入ってこない。しかし、世界中に残る遺跡は、
42
このような地域で生きる人々の力と技術のお陰で守られている。このような彼らを自分は支援した
い。
Lさん(女性、30 代):人間の幸せはお金だけではない。
V さん(男性、40 代)
: 国籍や人種を超えて、お互いに通じ合えた。
Y さん(女性、30 代)
:自分というものを再認識できた。
Z さん(男性、30 代)
:生活は貧しいながらも、現地の人たちの笑顔がすてきだった。日本人とは
違うその様子に、
「幸せに生きていくこと」とはどういうことか考えさせられた。
V さん(男性、30 代)
:任地から離れた場所で、自分が外国人ということで差別を受け、袋詰め
の水を投げつけられた経験がある。ガーナの人びとは昔、肌の色の違いにより差別を受け、奴隷と
して扱われたというつらい歴史をもっている。それにも関わらず、肌の色が違うからとアジア人を
逆に差別する人が一部存在することに衝撃を受けた。
(中略)自分は肌の色などの表面的なことで人
を判断することが決してないようにと心に誓った。また、人は人種や国境を越えて分かり合える存
在であると確信するようになった。
W さん(女性、30 代)
:今から思うと、活動内容は甘い点が多かった。帰国後、その課題につい
て何かできないかと始めたのが、ガーナの女性たちが作ったシアバターを輸入・販売する仕事であ
る。
JOCV として派遣され、派遣国に自分は「支援」
、あるいは「協力」しに行ったものの、反
対に多くの学びや気づきを与えられ、現地の人々から支援と愛をもらって、結局は教えてもら
うことばかりだったと多くの元 JOCV たちが語る。これは、専門性が幅広く、受け入れ先の裾
野も広い。反対に考えると「専門性の低い技術集団(一部の職種を除く)
」であるからこそ、
対象社会の文化や多様性の中で悩み、葛藤し、努力してコミュニケーションを取り、精神的成
長をなし得る機会を与えられているのではないかと考えられる。
インタビューをした元 JOCV は、対象地域にある文化、価値観、豊かさに活動を通し気付い
ていく。それと同時に、同じ目線に立とうという気持ちを持ち、ある特定の人が置かれている
構造的な暴力、避けようがない貧困などに気付いていったものも多い。JOCV の活動を通し、
自分探しの旅をはじめ、そして幸せとは、平等とは、国を越えて理解しあうとはどのようなこ
となのかを真摯に考え続けていた。また、差別に遭ったり、多くの成功や失敗を積み重ねてい
る人が多い。このような体験は、帰国後の社会貢献活動にどのような影響を及ぼしているので
あろう。
43
4−4.帰国後の社会貢献活動
29 名の調査協力者は、帰国後も多様な水準において社会貢献活動を行っている。
表2 調査協力者の主な職業および社会貢献活動
調査時
性別
隊次
の年齢
派遣国
職 種
A
男性
40代
昭和61年度2次隊
ペルー
B
男性
20代
平成15年度2次隊
パラオ
C
女性
30代
平成12年度3次隊
バングラデシュ
D
女性
30代
平成14年度1次隊
モルディブ
E
男性
50代
昭和59年度3次隊
バングラデシュ
F
G
H
I
J
K
男性
女性
女性
男性
男性
男性
30代
30代
40代
40代
20代
30代
平成8年度1次隊
平成10年度3次隊
平成4年度2次隊
平成11年1次隊
平成17年度1次隊
平成14年3次隊 サモア
ニジェール
パラグアイ
パナマ共和国
エルサルバドル
パキスタン
L
女性
30代
平成13年1次隊
ガーナ
M
男性
20代
平成15年度2次隊
ケニア
N
女性
30代
平成11年2次隊
トンガ
体育
O
女性
30代
平成10年3次隊
ソロモン
視聴覚
P
女性
40代
平成4年度3次隊
ケニア
家畜飼育
Q
男性
40代
昭和61年1次隊 ネパール
R
S
T
U
男性
男性
男性
男性
50代
40代
30代
30代
昭和54年
昭和60年
平成10年
平成14年2次隊
マラウイ
パラグアイ
パラグアイ
パラグアイ
V
男性
30代
平成13年1次隊
ガーナ
W
女性
30代
平成13年2次隊
ガーナ
X
Y
男性
女性
40代
30代
Z
男性
30代
A1
男性
40代
B2
女性
30代
平成15年度3次隊 ミクロネシア連邦
C2
女性
40代
Cさんのパートナー
平成7年2次隊 ケニア共和国
平成16年3次隊 ボリビア
平成9年3次隊
ジンバブエ
平成1年3次隊 フィリピン
**
野球
これまでの主な職業および社会貢献活動
JOCV訓練所勤務、ペルーに野球道具を送るNGO活動。
米国で柔道を教える。帰国後、JOCV訓練所勤務を経て、大学院へ進学。文
化財保護についてさらに極める。
染色
財団法人アジア保健研修財団
カンボジアでのボランティア活動、JOCV訓練所勤務を経て、JOCV調整員と
幼稚園教諭
して海外勤務。
ベンガル料理レストラン経営、地域の人と連携してアジアの国の人々を多様
農業機械
な形で支援。
柔道
Iターンいちご農家、地域で柔道を教える。食と農の在り方を追及。
家政
福祉系の仕事、Iターンいちご農家、食と農の在り方を追及。
家政
大学教員、NGO活動
システム・エンジニア 国際協力関連事業で海外勤務
考古学
名古屋大学大学院生、OB/OG会の活動に参加。
木工
小売店勤務、OB/OG会活動に参加。
OB/OG会実行委員メンバー、買い物ゾーンクラブの事務局。
家政
会社員。働きながらできるだけ国際協力にも関わりたいと思い、OB/OG会に
環境教育
参加している。出前講座、地球温暖化に関する勉強会の開催、訓練所での講
座開催。
文化財保護
国際理解教育にかかわる。指導者研修にも参加。
2004年、近しい隊員OBで「出前講座研究会」を発足。
情報交換や技術習得を行なう。また、ワールドコラボフェスタにも参加。
JICA中部勤務。
大学ボランティアコーディネーター。最終的な夢は、同じくケニアJOCVのOBで
ある夫の経営する北海道の農場で、夫とともに国内外の青年のためにケニア
村のようなものを設立したい。訪れた人々が、そこに来て癒されて帰っていく
ような場所にしたい。
特任研究員。日本理学療法士協会、日本作業療法士協会それぞれの国際
部に所属し、海外において日本の技術をどのように移転できるかという研修
や、海外から理学療法士や作業療法士の方が来たときに交流を持ったりして
いる。国際協力機関とも関係を持っている。
電子機器
企業を早期退職。森林ボランティアを行う
写真
社会福祉協議会理事。
野菜
会社経営者。農業や地球環境を考えた会社の経営を行う。
野菜
会社管理職。農業や地球環境を考えた会社で勤務。
実家の家業の手伝い。妻とガーナのシアバター販売し、ガーナ文化の広報と
バスケットボール
発展のための活動も行う。
夫とガーナのシアバター販売し、ガーナ文化の広報と発展のための活動も行
村落開発普及員
う。
理数科教師(現職参加私立高校非常勤講師、OB/OG会実行委員メンバー。
村落開発普及員
国際協力事業および国内在住外国人支援関連事業会社
(現在)臨時的任用教諭(育休)として小学校に勤務。2007年からOB/OG会
野球
の会長を務めている。
愛知県内の企業で、派遣社員として勤務。輸出貿易関連の法律関係を担
村落開発普及員
当。現在OB/OG会の副会長を務めている。
栄養士
大阪大学特任研究員
夫とベンガルレストランで共同経営。レストランでアジアの子どもたちを支援す
**
る様々な活動を地域の人々と連携しながら展開。
作業療法士
出典:インタビュー記録をもとに筆者作成。
表2に見るとおり、
・ペルーに野球道具を送る。
・アジア保健協会:NGO スタッフとしてアジアの方たちに保健衛生を届ける。
・ベンガルレストラン:バングラディッシュ農村への支援。
・農業による地域おこし(I ターンイチゴ栽培農家)
。
・会社経営をしながら農と食をつなげる。
・JOCA スタッフ、国内協力員、OB・OG 会の活動を中心的に担う
・地域の NGO に参加
・NGO の運営
44
・地球環境保護活動などである。
このような活動は、何がきっかけとなったり、どのような思いから始まったのであろう。
Oさん(女性、30 代)
:帰国後協力隊活動だったが何を協力したのか、不完全燃焼感が残った。
しかしこのことが現在の社会貢献活動の原動力にもなっている。
Pさん(女性、40 代)
:すべての活動は、隊員時代からつながっている。
Qさん(男性、40 代)
:活動を離れて現地の人たちと交流した経験がとてもよかった。
Tさん(男性、40 代)
:みんなが幸せにならなければ、自分も幸せになれないということを学ん
だ。
Tさんは、農水産物の生産および通信販売などを行なう企業の経営者であるが、彼は自身の経営す
る会社に協力隊の帰国隊員を社員として雇っている。優秀な人材を採用したら協力隊帰国隊員だっ
たという。Tさんは、帰国隊員の企業活動や NGO 活動にも多方面から支援をしている。Wさんは、
Tさんの会社に帰国後、就職していたことがある。
Wさん(女性、30 代)
:シアバターを扱うことで、ガーナとつながるのであれば、ボランティア
ではいけない、ビジネスとしてきちんとやりたいと考え、元 JOCV が経営する農産加工物などを
取り扱っている通信販売会社へ就職した。その後退職するが、元 JOCV の役員は、退職後もなに
かと気にかけてくれた。
Tさんは、Hさんの運営する NGO の支援も行っている。このようにTさんなどを中心とした元
JOCV 間のネットワーク網の拡大には目を見張るものがある。Tさんは、学生時代に管理社会や差
別社会、水俣や沖縄の問題などのさまざまなテーマにふれ、ボランティアなどの社会活動もやって
きた。沖縄でハンセン病患者の家を訪ねた時、患者の家に上がるだけで喜んでくれた。小さな喜び
だが、当事者の苦しみの重みを感じた。自己の内省や他者理解、失敗や苦しみを積み重ね、乗り越
えた帰国隊員が協力し合い、小さなものかもしれないが、新たな社会のうねりを生み出していると
考えられる。
Fさん、Gさん夫妻:二人で何をしていくか、一生をかけるものとは何だろうと考え続けていた。
そこには、
「消費するだけでなく、生産もしたい」という思いがあった。以前から知っていた、オ
ーストラリア発の「パーマカルチャー」に関心があった。英語の permanent と agriculture を掛け
合わせた言葉で、衣食住全てを自分たちで循環させようとするもの。新規就農を後押しする「担い
手育成基金」という団体があることを知り、Iターンととなった。
Wさん(女性、30 代)
: JOCV の活動の課題へ取り組みたいという思いが、シアバターの輸入・
販売をする会社の設立につながった。貧しいかわいそうな人の作ったものを買って支援してくださ
45
いという働きかけでなく、ガーナの面白いもの、伝統の知恵としてシアバターを紹介したいと考え
ている。
X さん(男性、40 代)
:
「ケニア滞在中に旧友から聞いた『温暖化』という言葉が頭からはなれ
なくなった。教師として目の前にいる子どもたちのために何かをするか、十年後の子どもたちのた
めに何かをするかは両立できない、今の子どもたちに関しては自分以上に上手に指導できる先生が
たくさんいるのだからその先生たちに任せて、自分は十年先の子どもたちのために温暖化に取り組
もう、と決心。1997 年 12 月に帰国してから5年後、退職して地球温暖化の問題に取り組むことに
した。
X さんは、
「途上国と温暖化、知識と思いを共有しよう」というテーマで勉強会を開催したりするこ
とを通し、日本の子どもたちに途上国のことを伝えることができる JOCV の経験は宝である、と語
る。一方、途上国の温暖化の状況を語ることができる元 JOCV が現段階ではほとんどいないことに
ついても問題として指摘する。これは派遣前の訓練所での問題ではないかという議論もしている。
Rさん(男性、50 代)
:長く生きていくと、自分はこの世に生を頂いた、多くの人の支えがあっ
て生かされているということに気がつかされ、思い知らされる。大袈裟な気持ちではないが、頂く
ばかりの人生で良いのかと考える。自分自身の存在を考えた時、人様のために何かをする、人の役
に立つことによって自分の存在を認識する。森林ボランティアについても、時間や精神的な余裕が
ないとできないものであるが、利己主義に生きるのではなく、やらせてもらえる機会があるのであ
れば、やる。それにまさるものはない。
Rさんのように社会貢献は利己主義に生きるのではなく、やらせて頂くものであるという境地に立
つものもいる。これも JOCV 活動や帰国後の JOCV のネットワークが大きく影響しているという。
多くの元 JOCV が地域に戻り、自分のできることはやる、という姿勢で地道に社会貢献活動をして
いることが今回の調査協力者の語りから確認することができた。
4−5.JICA や JOCA、OB・OG 会に望むサポート体制
帰国後、いろいろ経験を活かして活動をしたいと思っている元 JOCV はたくさんいる。帰国
後の隊員の個々の活動のステップを支援するような制度があればよいと考える協力隊帰国隊
員は多かった。
Fさん(男性、30 代)
:JOCV の派遣数を増やしてほしい。自分は JOCV に行って本当に良かっ
たと思っている。途上国を経験する人が増えれば、日本はもっと違う社会になるのではないか。数
が増え、お互いが触れ合う機会が増えることがいい。ぶつかることも摩擦を起こすこともあって、
46
そこでお互いに持っていないものを感じ取ることができる。協力隊は数より質、という人もいるが、
自分は、断然数を増やすことが大事だと思う。
「向こうの人のため」と言う人、
「自分のため」と言
う人がいるが、どっちも結局は同じ方向に向かっていくと思う。
Gさん(女性、30 代)
:日本に帰ってきてからは、OVとなり、自分なりにできることはやっ
ていきたいとは思っている。帰国隊員が、いろんな意味で、その経験を活かしていける場を造って
いってほしいと思う。また、派遣前訓練に関わったスタッフを定着させるサポートが必要だと感じ
る。訓練を受け、
「いってらっしゃい」と送り出したスタッフが、帰国隊員を「おかえりなさい」と
迎えてくれることの意味は大きい。
V さん(男性、30 代)
:現地の状況理解やつながりを一番多く持っているのが元 JOCV。しかし、
その経験を活かして現地と日本をつなげてビジネスを始める際、事業をサポートしてくれる制度が
あればよいのではないか。
X さん(男性、40 代)
:今後は、JICA や JOCV、JOCA も地球温暖化に積極的に取り組んでいく
べき。
Lさん(女性、30 代)
:帰国後、国際協力を仕事としたいと考えている人は多い。しかし、首都
や地方都市の中心に住んでいる人しか関わることができないものも多い。勤務形態の多様化も含め
て、もっといろいろな地域で働く機会を増やしてほしい。また、JOCA や JICA の職員、数年間の
ペースで異動してしまう、また、OB・OG 会の役員・運営委員も数年で入れ替わってしまうので、
10 年から 20 年の長いスパンで人の行き来を見てくれる職員が必要ではないか。
Qさん(男性、40 代):帰国当時は、作業療法士は再就職が難しくなかったが、現在は帰国後の
再就職が難しくなってきておりサポートが必要だと感じる。
A1 さん(男性、40 代):OB・OG 会をリフレッシュするためには若い新帰国隊員の参加が不可
欠。OB・OG 会を古株の人たちだけで仕切っていては、会を活性化することは難しい。 人の集ま
りやネットワークを大切に育てていくためには、組織として常時関わることが出来る専従の職員が
必要である。
元 JOCV たちは、派遣国で異文化の中で生活してきた経験を活かして、地域の日本人と在日
外国人の間のつなぎ役になることができるのではないかと考えている。そして、実際に国と国
をつなぐ役目を担ったり、国際理解、異文化紹介、環境問題の解決など多様な場で活躍してい
る。このように国際協力を民際協力に、あるいは国内協力に変えていこうとする協力隊経験者
が少なくない数が存在することは確かである。そのための活動をよりよいものにするために彼
ら・彼女らは地域の中では自らのネットワーキングにより構築しているが、より大きな枠組み
47
において JICA や JOCA、あるいは行政機関、大学、産業界との連携が今後さらに必要になっ
てくるのではないかと考える。
5.結論
帰国後も社会貢献活動を続けている 29 名の元 JOCV を対象にインタビューを行った結果、
以下の六つの特徴が認められた。この傾向が元 JOCV の傾向を普遍化するものではないが、な
んらかの傾向を示すものであり、仮説の元となるモデルが見いだせたのではないかと考える。
第一に、運命の人との出会いがあった。それは、野球の指導者だったり、先輩隊員だったり、
NGO のスタッフだったり、途上国の人であったりと、派遣前にすでに運命の人に出会い、自
分の人生に影響を与える人物に遭遇していた。
第二に、自分以外の人ができる仕事はもういい、自分にしかできない仕事とは何なのだろう
と追及しているものであった、その場合、地位やお金よりも、私ができるもの、を追求してい
た。
第三に、日本社会の規範にしばられない、自分らしい生き方を追求していた。男はこういう
生き方、女はこういう生き方をしなければならない、ということに絡めとられていない、全く
気にしていない、あるいは嫌だと抵抗する人、そのことを理解するパートナーに出会っていた。
第二の点と重なるが、自分の物差しをきちんと持っているものであった。人はこういうふうに
言うけれども、自分はこういうふうな生き方をしたいから、それをやってみようというもので
あった。この点は、志望動機がいなかるものであれ、JOCV 事業に参加することで、多くの学
びをするので良いのではないか、という見方も存在するであろう。しかし、これからの時代は、
JOCV 事業への参加者が経済的要因や日本のジェンダー問題からの「脱出」
、国際社会の政策
というプル・プッシュ要因とは別の要因も求められてもよいのではないだろうか。すなわち、
JOCV 事業と JOCV 事業への参加者が有する異なる水準や空間における社会貢献の可能性を
理解した上で事業への参加を目指す若者が増加することもまた望ましいのではないだろうか。
そのためには、日本社会におけるボランティアへのまなざしの変化を生むための教育が必要に
なってくると思われる。
第四に、異文化理解・ショック・差別などが身近にあった人が多かった。JOCV に参加する
以前、または参加後にジェンダー問題にぶつかったり、差別にあったり、自分では全く意識し
ていなかったけれども差別をしてしまったり、子どものころに何らかの衝撃的な異文化体験を
しているものは、帰国した後もボランティア活動に従事している傾向がみてとれた。
48
このことから、異文化体験・異文化理解の経験が、問題意識を明確化したり、自分の位置す
る狭い空間から他者や世界に視野を向けるきっかけになっているのではないかと考える。この
ことは、地球市民を育成するためには、より早い段階で異文化体験や「差別」を受ける当時者
になったり、差別の問題に向き合うようなカリキュラムを準備することから、人の心の痛みに
寄り添ったり、他者の価値観や複数の価値観(例:当事者の豊かさ感など)を許容することの
できる人間を育成することにつながるのではないかと考えられる。
第五に、JOCV 活動で多くのものを教えられたり、課題を持ち帰ってきた人であった。帰国
後も社会貢献活動をなんらかの活動で行っているものは、協力隊活動で豊かさや貧困、生きる
とはなどの人間としての根源的なテーマを与えられた人、活動が納得のいくまでできず、日本
社会で納得のいく活動をしたいと思っている人が多かった。これは、言葉を変えれば、与えら
れることで自己の存在を確認し、今度は与えることで自己の存在を確認する作業になっている
のではないかと考える。
他者(生徒)の存在のおかげで自分は活動ができると気づいたり、多くの人の支えがあって
生かされているということに気がつかされ、頂くばかりの人生ではなく、人様のために何かを
する、人の役に立つことによって自分の存在を認識するという自らの哲学を構築している人も
多く見受けられた。
JOCV として派遣され、派遣国に自分は「支援」
、あるいは「協力」しに行ったものの、反
対に多くの支援と愛をもらって、結局は教えてもらうことばかりだったと多くの隊員たちが語
る。これは、専門性が幅広く、受け入れ先の裾野も広い、悪く言えば「専門性の低い技術集団
(一部の職種を除く)
」であるからこそ、対象社会の文化や多様性の中で悩み、葛藤し、努力
してコミュニケーションを取り、精神的成長をなし得る機会を与えられているのではないかと
考えられる。
インタビューをした協力隊帰国隊員は、対象地域にある文化、価値観、豊かさに活動を通し
気付いていく。それと同時に、同じ目線に立とうという気持ちを持ち、ある特定の人が置かれ
ている構造的な暴力、避けようがない貧困などに気付いていったものも多い。
第六に、今回の調査協力者たちの多くは、異文化の中で生活してきた経験を活かして、地域
の日本人と在日外国人の間のつなぎ役になることができるのではないかと考えている。国際理
解、異文化紹介など、帰国隊員が活躍する場はたくさんあると思っている。JOCV は専門職集
団でありながら、受け皿は広い。これは、専門職に特化した国際 NGO とは異なる点ではない
かと考える。NGO の場合は、役割も目的も明確になっている。一方、JOCV は、技術力は高
49
い人もいるが、そうでない人もおり、受け皿が広い。このような集団が任国の多様な社会、多
様な文化を包括的にみる、悩む機会を与えられているのではないかと考える。このような葛藤
は、国や職種は違えども、多少なりとも JOCV 隊員に共通する項目ではないだろうか。このよ
うな悩みが JOCV の精神的な面を結び付けたり、成長を促しているのではいかと考える。
語りの中で「JOCV は、多様な技術を持った集団であり、異文化理解の中で培ってきた忍耐
力や人に対する思いやり、差別される側への温かなまなざしを向ける肌感覚がある」というも
のがあった。これらは、今日の日本社会が対峙しつつある多民族多文化国家の中で起きつつあ
るコミュニティの問題などに対応できる能力を有する人材として活躍する場があるのではな
いかと考える。
しかし、帰国後、経験を活かして活動をしたいと思っている帰国隊員はたくさんいるものの、
帰国後の隊員の個々の活動のステップを支援するような制度が十分にはない。帰国隊員が活用
できる予算が必要という声もあった。 これらの意見も含め、本調査研究から明らかになった
点を以下の提言として示す。
6.提言:社会貢献を促進するために
日本社会は冒頭でも述べたようにさらに多民族多文化社会となっていくであろう。このよう
な日本社会の中で、「日本社会の課題解決における海外ボランティア活動の有効性の検証」は
時期にかなったものであると考える。変わる日本社会の中で元 JOCV たちが国内協力をより積
極的に行うことができる枠組みの構築に向けた提言を以下に行いたい。
6−1.教育現場や教育行政への提言
① 教育現場:学校教育における地球市民教育の浸透
社会貢献をする、あるいは今後も積極的に行いたいと考えている協力隊帰国隊員たちの語り
から見えてきたものは、比較的早い段階における異文化体験であったり、差別の体験であった。
これらの経験が、後の社会貢献にむけた種を育むのではないかと考えると、異文化体験や異文
化理解教育、差別の問題に関するカリキュラムを低学年から学習プログラムとして取り入れる
ことが重要であることが示されたと言えよう。
地球市民を育成するためには、より早い段階で異文化体験や「差別」を受ける当時者になっ
たり、差別の問題に向き合うようなカリキュラムを準備することから、人の心の痛みに寄り添
ったり、他者の価値観や複数の価値観(例:当事者の豊かさ感など)を許容することのできる
50
人間を育成することにつながるのではないかと考えられる。
現在、JOCA などでは、異文化理解教育などの出前講座を行っているが、これらのカリキュ
ラムを行っている小学校・中学校・高校・大学と連携し、有効性を検証する必要があるだろう。
また、その結果を受け、学校教育における地球市民教育を浸透させることの意義を行政に伝え
ていく必要がある。
② 教育行政:多文化共生プログラムの幅広い展開にむけて
文部科学省が取り組んでいる、多文化共生プログラムでいわれる異文化理解教育は、英語教
育に偏る傾向がある(藤沼 2009)
。しかし、実際には、日本社会にはさまざまな国籍を持つ
人々が日本社会のコミュニティの成員となっており、子どもを持つ親となっている人々も多い。
その中には、家庭内で少数言語を話す場合も多い。結果、保育園や小学校などをはじめとする
教育現場で困難に直面しているのが現実である。他方、協力隊は 80 カ国に散らばり国際協力
活動を行ってきた3万2千人の人々がおり、この中には少数言語で仕事のできる協力隊経験者
も多い。このような人材を教育現場で活用することのできる制度を作ることは火急の課題であ
る。地域には、少数言語や文化不適応などから不登校の児童を支援するサークルや NGO 団体
が多くある。しかし、それらの多くは持続可能性が低かったり、個人の持ち出しで子どもたち
を支援している場合が多い。しかし、グローバル化の進展する中、人の移動が活発化している
今日、国際社会の移動や移民の子どもたちの支援を個人の水準で行うのみではならない。政策
の中に外国人の子どもたちの支援制度を確立し、予算をつける必要がある。その際、現場で活
躍できる人材には、協力隊や NGO 経験者であり、彼ら/彼女らの能力を集結することが重要で
ある。社会関係資本、人的資本の集積と再配分のための装置が必要なのである。
特に青年海外協力隊は、政府開発援助という枠組みの中で活動をしている。その点を強く認
識し、帰国後もなんらかの形で社会貢献をすることは自分たちの課題と考えている人々も多い。
これらの人々の思いと社会のニーズを結びつける装置を構築することは火急の課題である。
6−2.日本社会にある規範・文化的障壁
協力隊への参加動機はいくつかの動機が複合的に重なるであろう。そのひとつとして日本社
会の規範が、特に女性の協力隊への応募に関するプッシュ要因になっていることがインタビュ
ーより明らかになった。
この点は、二つの問題を内包していると考える。一つは、日本社会にあるジェンダー課題が
51
今なお根深いものであるという点である。もう一つは、このようなジェンダー問題が協力隊へ
の応募を促すプッシュ要因になっているという点である。できうるならば、社会の問題がプッ
シュ要因ではなく、JOCV 事業の理念や役割を理解し、参加者が異なる水準や空間において多
様な社会貢献の可能性をなし得る主体的な存在として事業への参加を目指すことの方が望ま
しいのではないだろうか。そのためには、日本社会におけるボランティアにむけた各人のまな
ざしの変化を生むための教育が必要になってくる。
6−3.帰国隊員を支援するハブ的空間の設置
協力隊経験者に対し「派遣終了後は自分たちの足で歩きなさい」と言われることがある。こ
れはある意味、間違いではないが、ある意味では社会関係資本の流出にもつながる。異文化体
験をした、少数言語を含め日本語以外の言語を用い仕事のできる人材を集約する国内協力セン
ターのようなハブを戦略的に設け、予算措置をすることが必要なのではないかと考える。
本章では、協力隊経験者へのインタビューを中心に分析してきたが、このハブでは、日本や
海外で活動してきた NGO 経験者ともネットワークを構築できる空間であることが必要ではな
いだろうかと考える。NGO は専門性の高い組織であり、それゆえに NGO がばらばらに分裂
している傾向にあるように思われる。このような組織と人材を取りまとめるハブを戦略に設け、
研究を行い、経験者たちに提言していくことが重要であろう。
① 協力隊経験者の社会貢献を有効に生み出す装置の必要性
協力隊経験者の多くは、自分たちの経験や学びを通し、日本社会に還元したいと考えている。
また、すでに多くの実践が点や一部線、そして面の形で存在していることが明らかになった。
これらの点と点、線と線が、効率よく結びついたり、新たな結び付きを生み出し、日本社会が
対峙する社会問題に答えていくためには、それらを結びつける装置が必要である。それは、
JOCA や OB・OG 会が担うべきことではなかろうか。
また、6−1の②で論じた多文化共生プログラムなどと連携し、元 JOCV の社会貢献を効果
的に発現するための装置づくりが必要である。
しかしながら、国際協力に関わる職業は不安定である。このことからも、プロフェショナル
として生きるために雇用の安定を図ることも大きな課題である。
52
② 組織に残るジェンダー課題の克服に向けた評価とモニタリング制度の確立
3−2.でも論じてきたように、女性の協力隊員は増加し、1998 年を境に、女性隊員数は
男性隊員を上回り続けている。しかし、帰国後の協力隊員を組織する会は「OB 会」という名
称を掲げたところも多い。この名称に違和感を持つ男性と女性双方の元協力隊員たちは多く存
在する。帰国後、なんらかの社会貢献をしたいが、会に参加すると男性中心的であり、違和感
を持ったという帰国隊員も多い。できうるならば、両方の性にとっても、セクシュアル・マイ
ノリティにとっても居心地の良い名称を付すことは今後の課題であろう。たかが名称、されど
名称である。協力隊員にもセクシュアル・マイノリティはいる。また、派遣国や配属先にもセ
クシュアル・マイノリティや少数民族はいる。すべての人が自分らしく、社会貢献活動ができ
るようなそのような空間を生み出すのに、名称は冠であり、組織のアイデンティティを担うも
のであり、重要である。
また、アンケート調査結果より、女性が出産や夫の転勤などで社会貢献活動から退く傾向の
あることがわかった。しかし、インターネットなどを活用し、在宅でも可能な社会貢献活動を
創出していくことはできると考える。規範や構造的な問題が絡み合って生み出されている人材
の流出を見極めることが組織の活性化を行う上で極めて重要であり、制度を変えれば、このよ
うな潜在的な人材を活用することが可能であることを検討しても良いのではないだろうか。
③ 企業や行政に提言をおこなうための研究の推進
外務省は、1年間に3人、2年間契約で協力隊帰国隊員を雇用している。主に在外公館にお
いて経済協力班などで勤務するポストである。また、外務省の専門職員などではすでに 30 人
程の協力隊帰国隊員がパーマネント職員として勤務している。このように、外務省などでは着
実に JOCV 経験者が増加しつつある。また、いくつかの都道府県では、JOCV 経験が有利に働
くような教員採用システムをとっていたり、公的機関への JOCV の採用を積極的に行っている
ところともあるが、数はまだ少ない。
企業や行政に対し、協力隊の経験者の採用を促進するための働きかけを今後も JOCA などが
継続して行っていくことはできないだろうか。また、⑤で述べるような JOCA 研究チームを設
置し、企業がどのような人材を求めているのかを調査することも必要であるだろう。
元 JOCV たちは、社会貢献を視野に入れたり、全面に打ち出した起業や NGO 運営などを積
極的に行っている。これらの活動を21世紀のサードセクターと位置づけ、起業・企業・NP
Oマネジメントなどのノウハウを提供できるような情報ハブを JOCA 内で構築してはどうで
53
あろう。3万2千人いる元 JOCV の中には、企業に成功しているもの、NPO・NGO 活動で
着実な実績をあげているもの、民間企業・行政に採用されそこでも社会貢献をしているもの、
教育・研究職についているものなど多様な分野で活動しているものも多い。帰国後の職種別、
グッドプラクティスを収集したハブを JOCA のHPなどで発信することも重要であろう。また、
協力隊への応募がより促進されるためにも、協力隊参加時の積立金の制度、JICA 枠の海外留
学制度などをさらに周知することは必要ではないだろうか。このようにすることで、協力隊活
動への参加や参加の意義を明確化することができるのではないだろうか。
入口から出口まで、さらにはその後まで支援をするというのは賛否両論であろう。しかし、
実際には、入口から出口までの支援は幾通りもあり、大学においても JOCV 活動を単位認定し
ている大学(例:広島大学)がある。米国平和部隊などは、終了後、大学院に進学できる可能
性がある。大学との連携もさらに進めていく必要があるだろう。
今後、このようないくつもの進路をイメージできる帰国後モデルを具体的に紹介することは、
これから参加したいと考える人々に対しても、帰国後の隊員たちに対しても、社会に対しても
意味のあることだと考える。すでに JICA が発行している機関紙、
『クロスロード』には、この
ようなモデルとなる隊員たちの事例が蓄積されている。これらのデータを活用することも検討
するべきであろう。
JOCV 事業への参加は、人生のキャリアをストップするのではなく、キャリアを着実に積み
上げていくものであるという点を、目に見える形で示すことは早急に行うべきではないだろう
か。
④ JOCA 研究チームの設置
超少子高齢化社会日本の中では、移民を受け入れないと日本社会に未来はないと考えている
人も多い。また、多くの人が国境を越える今の時代、人の移動、定住、新しい家族の形成は避
けては通れない問題であるが、そこでは移動、移民にまつわるジェンダーの問題が起きてくる
ことも事実である。
「世界人権宣言」では「すべて人は、国籍を持つ権利を有する」と規定している。また、
「児
童の権利に関する条約」第7条では「すべての児童は、国籍を取得する権利を有する」と謳っ
ている。しかし、日本では様々な事情により国籍がない、無国籍の人が存在している。
また、移動、移民と異文化理解ということでは、教育現場において、例えば、幼稚園の先生
は全くタガログ語を話すことはできないが、幼稚園にタガログ語を母語に持つ子どもが登園し
54
てくる。このような事態は益々、増加するであろう。
日本社会が抱える国内協力の問題は多様である。その中でも、JOCV 経験を生かし、国内協
力の可能性を見出す努力はすでに行われており、地域振興、異文化理解など具体的な活動が展
開されている。
このような日本社会の課題を解決するために元 JOCV ができること、できないこと、連携の
可能性を模索することが必要であり、そのための研究を専任研究員、客員研究員、委託研究な
どを通し学際的に行うことが不可欠となってくる。
「異文化体験を積んできた協力隊は、地域
の日本人と在日外国人の間のつなぎ役になることができるのではないか。自分はそれをやりた
い」という調査協力者の言葉に象徴されるように、JOCA は社会貢献をより効果的に実践する
ための研究と実践を体系的に行っていくことが重要であろう。
引用文献
八田朋子(2004)
『青年海外協力隊(JOCV)による開発協力とジェンダー認識―帰国隊員の
経験を手がかりに』お茶の水女子大学大学院人間文化研究科修士論文。
藤掛洋子(2009)
「 元青年海外協力隊たちの地球市民的実践ー帰国隊員へのインタビューよりー」
、
『国際ボランティア学会第十回大会』
(2009 年3月7日 土曜日 於:お茶の水女子大学)
。
藤沼滋子(2009)
『国際理解教育における地域人材の活用―横浜市における市民の協力』
、清泉
女子大学大学院修士論文。
讀賣新聞 2008 年6月8日
政府開発援助大綱 1992 年六6月 30 日閣議決定
(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/seisaku/taikou/sei_1_1.html 2009 年5月 10 日ア
クセス)
インタビューデータ
55
第 4 章 質問紙調査
麻里、高橋真央、中村安秀
4−1.帰国隊員対象質問紙調査
目的
青年海外協力隊帰国隊員が日本国内および海外において、どのような社会活動を行っている
かを調査する。
調査結果から、帰国隊員の社会活動をさらに活発にするためには今後どのような支援体制が
必要かについての示唆を得る。
方法
(1)調査対象者
1981 年、1982 年、1991 年、1992 年、2001 年、2002 年に青年海外協力隊として派遣され
た 5,257 名のうち、2009 年 10 月時点で JOCA に登録されている帰国隊員を調査対象とした。
対象となる派遣年は、年代による社会活動状況の変化に注目するために、10 年おきに設定した。
(2)調査の実施
調査期間を 2009 年 1 月 5 日から同年 2 月 16 日までとし、質問紙を郵送にて配布した。回
答は、郵送、ファックス、E メールにて回収した。なお、調査にあたっては、倫理的側面を考
慮して、対象者には質問紙と共に本調査研究の概要、分析における匿名性の確保を明記した文
書を同封した。
質問紙配布数は 3,208 名、返送数は 1,535 名で回収率は 47.9%であった。そのうち、未記入
返送などを除いた有効回答数は 1,530 名であり、有効回答率は 47.7%であった。
(3)調査内容
質問紙は以下の内容に沿って、項目を設けた。質問紙は資料として添付した。
1)基本属性 (現在の年齢、性別、派遣年、派遣国、派遣職種、現在の居住地)
2)協力隊に参加する前の就労形態
3)協力隊として過ごした日々についての感想
「あなたは、協力隊として過ごした日々を、いまどのように感じていますか」という質問に対
し、
「辛かった」
「協力隊に参加しなければよかった」
「充実していた」
「楽しかった」
「その他」
から最も強く感じるものを 1 項目選択
56
4)協力隊活動や生活を通しての自分自身の成長
「協力隊員としての生活や活動を通して、自分自身が成長したと思いますか?」という質問に
対し、
「全く変わらなかった」
「少しは成長した」
「とても成長した」
「その他」から当てはまる
ものを 1 項目選択
5)現在の地域社会との関わり
「現在、あなたは地域社会とどのような関わりをもっていますか?」という質問に対し、
「何
も関わりがない」
「地域や施設でのボランティア活動」
「地域でのイベント開催やその支援」
「協
力隊 OB・OG 会や育てる会への参加」
「出前講座での講演協力」
「NGO/NPO などの設立また
は参加」
「日本国内での国際交流、国際理解教育などの活動」
「海外での国際協力、国際交流な
どの活動」
「その他」について当てはまるものを選択(複数回答可)
。具体的な活動を自由記述。
6)JICA 青年海外協力隊事務局や JOCA に期待する帰国後の活動に対するサポート
「JICA 青年海外協力隊事務局や JOCA(青年海外協力協会)から、どのようなサポートがあ
れば、あなたの現在の活動や仕事に活用できると思いますか?」という質問に対し、回答を自
由記述。
7)抽選
調査協力の御礼品として、本調査結果をもとに執筆される書籍を 50 名、東ティモールコーヒ
ーを 100 名に贈るとし、希望の品を選択してもらった。
(4)分析方法
データ入力、集計には Excel を使用し、χ2検定には SPSS10.0 for Windows を用いた。
結果
表1 年齢と性別
年齢層
20-39
40-49
50-69
合計
男性
274
290
278
842
女性
377
233
72
682
合計
651
523
350
1524
表2 派遣年と性別
派遣年層
1980 年代
1990 年代
2000 年代
男性
238
309
289
836
女性
52
232
395
679
合計
290
541
684
1515
57
合計
1.基本属性
(1)性別
有効回答数 1,530 名のうち、男性 844 名(55.2%)女性 683 名(44.6%)未記入 3 名(0.2%)
であった。
(2)現在の年齢
回答者の最少年齢は 27 歳、最高年齢は 64 歳であった。20 歳から 39 歳、40 歳から 49 歳、
50 歳から 69 歳の 3 群に分けて集計、分析を行った。年齢層別人数を表 1 に示した。
(3)派遣年
本調査の対象派遣年は、1981 年、1982 年(昭和 55 年 3 次隊から昭和 57 年 2 次隊)
、1991 年、
1992 年(平成 2 年 3 次隊から平成 4 年 2 次隊)、2001 年、2002 年(平成 12 年 3 次隊から平
成 14 年 2 次隊)であったが、58 名(3.8%)が対象年以外の派遣年を記入していた。これは、
帰国した年を記入したものや、回答者の中には複数回にわたり協力隊に参加している者も含ま
れていたためと考えられる。派遣年未記入は 18 名(0.8%)であった。対象年以外の派遣年が
記入されている場合も、対象年から大きく外れているものはな
かったため、派遣年代を 1980 年代派遣、1990 年代派遣、2000 年代派遣の 3 群に分けて集計、
分析を行った。派遣年層別人数を表2に示した。
(4)派遣国
表 3 に派遣国別人数を示した。計71カ国から回答を得た。
表3 派遣国別人数
アジア
463
バングラデシュ
フィリピン
中国
ネパール
スリランカ
インドネシア
マレーシア
タイ
ブータン
ラオス
モルディブ
カンボジア
モンゴル
ベトナム
パキスタン
キルギスタン
ウズベキスタン
大洋州
128
66
60
58
53
38
37
27
25
18
17
16
13
13
11
8
2
1
トンガ
フィジ−
23
22
パプア・ニューギニア 21
サモア
15
ミクロネシア連邦 13
パラオ
13
ソロモン諸島
13
バヌアツ
6
マーシャル諸島
2
中南米
378
パラグアイ
ホンジュラス
ボリビア
ドミニカ共和国
グアテマラ
コスタリカ
エクアドル
パナマ
ジャマイカ
ニカラグア
エルサルバドル
チリ
コロンビア
メキシコ
ペル−
セントルシア
ベリーズ
58
67
65
50
28
22
21
20
18
16
15
13
12
11
6
6
5
3
アフリカ
420
マラウィ
タンザニア
ガーナ
ケニア
ザンビア
セネガル
ニジェール
ジンバブエ
ブルキナファソ
ボツワナ
エチオピア
リベリア
コートジボアール
マダガスカル
ルワンダ
ウガンダ
ジブチ
スーダン
71
55
51
51
50
42
28
15
12
9
8
8
6
4
4
3
2
1
中東
100
モロッコ
シリア
ヨルダン
チュニジア
エジプト
イエメン
45
27
16
7
3
2
欧州
35
ブルガリア
ハンガリ−
ルーマニア
ポーランド
12
12
7
4
未記入
合計
6
1530
(5)現在の居住地
表 4 に現在の居住地別人数を示した。質問紙は登録されている日本の住所に郵送したため、海
外で生活している帰国隊員の手元には届いていないケースが多いと考えられる。しかしながら、
留守宅家族の協力や Email での回答受付けにより、海外からの回答も 39 名(2.5%)あった。
表4 現在の居住地別人数
北海道
76 福島県
21 東京都
224 山梨県
13 滋賀県
20 鳥取県
5 香川県
6 熊本県
14
青森県
10 茨城県
30 神奈川
142 長野県
49 京都府
30 島根県
6 愛媛県
14 大分県
4
岩手県
8 栃木県
23 新潟県
24 岐阜県
32 大阪府
82 岡山県
16 高知県
15 宮崎県
8
宮城県
35 群馬県
22 富山県
7 静岡県
36 兵庫県
63 広島県
22 福岡県
46 鹿児島
23
秋田県
8 埼玉県
79 石川県
12 愛知県
82 奈良県
16 山口県
13 佐賀県
7 沖縄県
16
山形県
11 千葉県
66 福井県
9 三重県
17 和歌山
6 徳島県
6 長崎県
9 海外
39
未記入
8 合計
1530
(6)職種
表5 職種部門別人数
農林水産部門
305
教育文化部門
247
19
スポーツ部門
410
保守操作部門
153
計画行政部門
0
土木建築部門
93
保健衛生部門
253
加工部門
職種不明
50
合計
823
表5に職種部門別の人数を示した。職種部門は JICA の使用しているカテゴリーを使用し
た。計 136 職種から回答を得た。
59
(7)協力隊に参加する前の就労形態
表6 派遣年層 * 性別 * 就労形態のクロス表 (上段:n数 下段:行%) n=1512
協力隊参加前の 就労形態
派遣年層
1980年代
男性
女性
合計
1990年代
男性
女性
合計
2000年代
男性
女性
合計
退職参加
現職参加
新卒・学生
無職
その他
合計
102
61
48
14
13
238
42.9%
25.6%
20.2%
5.9%
5.5%
100.0%
27
9
10
3
3
52
51.9%
17.3%
19.2%
5.8%
5.8%
100.0%
129
70
58
17
16
290
44.5%
24.1%
20.0%
5.9%
5.5%
100.0%
129
108
50
17
5
309
41.7%
35.0%
16.2%
5.5%
1.6%
100.0%
146
42
30
8
6
232
62.9%
18.1%
12.9%
3.4%
2.6%
100.0%
275
150
80
25
11
541
50.8%
27.7%
14.8%
4.6%
2.0%
100.0%
131
62
63
22
8
286
45.8%
21.7%
22.0%
7.7%
2.8%
100.0%
215
60
64
33
23
395
54.4%
15.2%
16.2%
8.4%
5.8%
100.0%
346
122
127
55
31
681
50.8%
17.9%
18.6%
8.1%
4.6%
100.0%
750
342
265
97
58
1512
退職参加 759 名(49.6%)
、現職参加 342 名(22.4%)
、新卒・学生 269 名(17.6%)
、無職
99 名(6.5%)
、その他 58 名(3.8%)
、未記入 3 名(0.2%)であった。
「新卒・学生」には、大
学を卒業してすぐの新卒参加者と大学や大学院などを休学して参加した者が含まれる。
「その
他」は、自営業、非常勤講師、臨時職員、アルバイト、研修生などであった。
派遣年代ごとの就労形態を表6に示した。退職参加者の割合は、男女合計では派遣年代間に
差は見られない。しかし、退職参加者の割合を男女別に見てみると、1990 年代および 2000 年
代では、女性の退職参加者が男性の退職参加者に比べて有意に多かった(p<0.05)
。現職参加
者の割合は、2000 年代で男女とも減少している。現職参加者の割合を男女別に見てみると、
1990 年代、2000 年代で男性の現職参加者が女性の現職参加に比べて有意に多かった。新卒・
学生参加者の割合は 1990 年代でやや減少しているものの、各派遣年代ともほぼ約 15%から
20%であり、派遣年代間および男女間で有意な差は見られなかった。
1990 年代以降、退職参加者は男性より女性の方が多く、現職参加者は女性より男性の方が
多くなっていることがわかった。
60
(8)協力隊として過ごした日々の感想
表7 協力隊として過ごした日々をいまどのように感じていますか?(n=1530)
充実していた
727
47.5%
楽しかった
548
35.8%
48
3.1%
3
0.2%
その他
198
12.9%
未記入
6
0.4%
辛かった
協力隊に参加しなければよかった
「充実していた」727 名(47.5%)
、
「楽しかった」548 名(35.8%)が多数を占め、
「辛かっ
た」48 名(3.1%)と回答した者は少なかった。
「協力隊に参加しなければよかった」はわずか
3 名(0.2%)であった。
「その他」198 名(12.9%)には、
「辛く楽しい日々だった」
、
「辛かっ
たがやりがいがあった」など一言では言い表せないというコメントが多かった。その他には、
「協力隊に参加してよかった」
「いろいろあったが貴重な経験となった、人生のプラスになっ
た」
「様々なことを学んだ、気づきや発見があった」
「もっとやれることがあった、実力不足だ
った」などの感想がみられた。
帰国後、帰国隊員が協力隊として過ごした日々に対して一言では言い表せない様々な感想や
感情を持っていることがわかった。自由記述の中には、
「活動報告の時に、自分の経験や感想
をうまくまとめられないので、それに対するアドバイスや支援が欲しい」と意見も挙げられた。
(n=229)
53.3%
37.1%
45.6%
38.8%
(n=366)
図1 協力隊として過ごした日々の感想:現職参加者と退職参加者の比較(男性)
61
(n=110)
45.5%
36.4%
46.0%
35.0%
(n=389)
図2 協力隊として過ごした日々の感想:現職参加者と退職参加者の比較(女性)
退職参加者と現職参加者における「協力隊として過ごした日々の感想」の回答分布を図1、図
2に示した。女性では、現職参加者と退職参加者に「協力隊感想」の回答分布に差はみられな
かった。一方、男性では、充実していた、楽しかったなどの肯定的な感想の割合が退職参加で
84.4%、現職参加で 90.4%であった。男性では、退職参加者に比べて現職参加者の方が、協力
隊として過ごした日々について肯定的な感想の割合がやや高かった。
(9)協力隊活動や生活を通しての自分自身の成長
表8 協力隊として、自分自身が成長したと思いますか?(n = 1530)
12
0.8 %
少しは成長した
542
35.4%
とても成長した
919
60.1%
その他
56
3.7%
未記入
1
0.1%
まったく変わらなかった
「とても成長した」919 名(60.1%)
、
「少しは成長した」542 名(35.4%)と、全体の 95.5%
を占めた。
「まったく変わらなかった」12 名(0.8%)のうち、11 名は男性であった。
「その他」
56 名(3.7%%)には、
「成長したというのではなく、変化したと思う」
「成長したかどうかは、
まだわからない」
「成長したところもあるが、退化したところもある。
」などのコメントがみら
れた。
62
(n=231)
63.6%
33.3%
57.4%
36.1%
(n=366)
図3 協力隊活動や生活を通した自分自身の成長:現職参加者と退職参加者の比較(男性)
(n=111)
57.7%
38.7%
57.9%
37.9%
(n=390)
図4 協力隊活動や生活を通した自分自身の成長:現職参加者と退職参加者の比較(女性)
退職参加者と現職参加者の「自分自身の成長」の回答分布を図3、図4に示した。女性では、
現職参加者と退職参加者に「自分自身の成長」の回答分布に差はみられなかった。一方、男性
では、
「とても成長した」との回答が現職参加者で 63.6%、退職参加者で 57.4%となった。男
性の退職参加者よりも現職参加者の方が、
「成長した」と感じている者の割合がやや多数であ
った。
。
63
(10)現在の地域活動
表9 現在の地域活動の有無 (n=1527)
何も関わりがない(地域活動なし)
534
34.9%
何らかの活動をしている(地域活動あり)
993
64.9%
表10 活動内容(地域活動ありの内訳/複数回答) (n=993)
日本国内での国際交流、国際理解教育などの活動
305
協力隊OBOG会や育てる会への参加
294
30.7%
29.6%
地域や施設でのボランティア活動
出前講座での講演協力
地域でのイベント開催やその支援
海外での国際協力、国際交流などの活動
290
265
226
162
29.2%
26.7%
22.8%
16.3%
NGO/NPOなどの設立または参加
その他
150
184
15.1%
18.5%
現在、地域と何も関わりがないと答えたのは 534 名(34.9%)
、何らかの活動を行っているのは
993 名(64.9%)であった。地域活動ありのうち、約 30%が「日本国内での国際交流、国際理
解教育などの活動」
、
「協力隊 OB・OG 会や育てる会への参加」
「地域や施設でのボランティア
活動」に参加していた。地域活動ありのうち、複数の活動に参加しているものが 471 名
(47.4%)であった。
表11 活動数 (複数回答の回答数)
1
2
3
4
5つ以上
合計
522
243
123
52
53
993
52.6%
24.5%
12.4%
5.2%
5.3%
100
活動内容
現在、何らかの活動を行っているのは 933 名であり、全体の 64.9%を占めた。そのうちの
30.7%が「日本国内での国際交流、国際理解教育などの活動」であり、続いて「協力隊 OB・
OG 会や育てる会への参加」が 29.6%、
「地域や施設でのボランティア活動」が 29.2%となっ
た。
64
「日本国内での国際交流、国際理解教育などの活動」では、協力隊員の経験を生かした(ボ
ランティア)としての活動、個人的な活動、仕事の延長線上にある活動の 3 つに主に分けるこ
とができた。
まず、協力隊員の経験を生かした活動としては、小学校や中学校、高校、大学で青年海外協
力隊員の実体験を話すことが多く挙げられた。小学校では、派遣国がモンゴルであったことか
ら、教科書に出てくる「スーホーの白い馬」をもとにモンゴルの文化や国について説明するた
めにゲストスピーカーとして呼ばれることもあるという記述があった。他にも一般の人々に任
地国、地域の文化、人々や国際協力について理解し、活動に参加してもらうことを目的とした
講演会や地域でのイベント、チャリティーコンサートの開催などがあり、地域に住むアジアや
アフリカ、中南米の人々にも場所を解放し、交流する場を提供するような企画を立ち上げる記
述もあった。また、企画までは行かないが、行った場で自分の経験を話したり、イベントに参
加するという記述が多く見られた。
協力隊での経験を生かしたボランティア活動としては、赴任地の現地語に関するサポートが
あがっている。特に地方自治体が運営する人材バンクに登録して、特殊言語に関する資料の翻
訳、法廷通訳や医療通訳などの支援活動が主となっている。
個人的な活動としては、留学生のホームステイやホームビジットの受け入れ、さらに近所に
住む開発途上国から来ている外国人の生活や学校面での世話、中国残留孤児帰国者の生活支援
などが挙げられた。また、職場に積極的に JICA 研修員を受け入れて技術支援を行っている記
述もいくつか見られた。さらに職場で自分の協力隊経験や途上国の話をしたり、職場全体での
開発途上国や NGO への支援に関わっているという記述もあった。そして、日本ユニセフ協会
や NGO 団体への定期的寄付活動や多文化共生に関する講演会への出席などもあった。
仕事の延長線上の活動として特に多かったのが、帰国後、小中高等学校の教員となった隊員
が授業や学校内で多文化共生や国際理解教育や開発教育の普及に力を注いでいることであっ
た。任地国の紹介や、開発途上国全般の紹介を行っていた。現在教員として教壇に立っている
隊員の中には、国や民族に対する偏見を無くすような教育を授業の中で行っているという記述
もあった。
また、協力隊員の経験や開発途上国、国際交流への関心から、地方自治体の国際交流協会へ
勤務したり、国際協力推進員を引き受けたりする隊員もあった。大学職員となって、留学生の
世話や交流を行っているという記述もあった。さらに職場 JICA 研修生を受け入れ、
65
日本語教師については、帰国後地域の日本語教室を開いたり、難民を中心とした在日外国人
対象に支援をするボランティアで活動している記述が多くみられた。
「協力隊 OB・OG 会や育てる会への参加」については、地方の OB・OG 会の幹事役を引き受
けたり、協力隊説明会への参加などが多く記載されていた。また、個人が専門分野や地域で隊
員 OB・OG のネットワークを作っており、その活動に関わったり、何人かの隊員が集まって
新たな NPO を設立するような動きもみられた。
「地域や施設でのボランティア活動」では、地域にコミットした青年会議所の運営、町内会、
子供会や PTA 活動の役員を引き受けている記述が多かった。また、役員ではなくとも町内会
活動への参加や協力を行ったり、農業を通した地域活性化への取り組みを行っている記述もあ
った。さらに、地域のお年寄りや障害者への支援活動として、老人ホームでのボランティアや
障害者の公共施設でのスポーツを通したボランティア活動などが挙げられている。地域の育児
を支援するための場を提供したり、障害を持った人々の相談業務を担ったり、地域の在日外国
人の世話を行うなど、社会的に弱者とされている人々の支援を日常的にボランティア活動とし
て行っているという記述も目立った。
「出前講座での講演協力」では、小学校、中学校、高校や大学などで地元の学校で出前講座を
実施しているという記述や依頼があれば逐次対応していると記載している記述も目立った。
「地域でのイベント開催やその支援」
OB・OG 会のイベントを中心に参加している記述が多かった。アフリカンフェスタなどが開
催された際には、それに関わったり、JOCA 主催のイベントを手伝ったりしている記述が目立
った。また、年間スケジュールに従って協力隊 OB・OG 会の各種イベントに参加していると
いったことや地方自治体が主催する国際交流等のイベントに協力隊の OB として手伝うといっ
たが上がっていた。また地方で NGO が主催するイベントに参加したり、国際協力に関するイ
ベントに OB 会を通して出店したりしているという記述も見られた。
「海外での国際協力、国際交流などの活動」
協力隊活動終了後、専門職として国際協力に関わった事例としては、JICA 職員やコンサル
66
タント、NPO/NGO の職員として働いていた。また、50 代の隊員の中には、シニアボランテ
ィアとしてボリビア、メキシコなど中南米で再び活動に参加したという記述もいくつか見られ
た。さらに国連ボランティア(UNV)や JICA の短期、長期専門家として開発途上国で活動し
ているほかに、国際 NGO で医療活動に取り組んでいた。
開発途上国での災害救援活動(スマトラ島、ミャンマー、パキスタンなど)に関わったとい
う記述も多くあり、中には病院から派遣されて医療支援活動を現地で行ったという記述もあっ
た。
30 歳代の隊員の中には地域研究や開発研究として国際協力を専門とする大学院に入学して、
これまでの経験に基づき専門性を深める研究を行ったり、外国の大学で教壇に立っている隊員
の報告もあった。
更には、帰国後、民間企業や地方自治体に就職し、開発途上国と関わる職種につき、直接的
ではないが、途上国の発展に寄与したり、人材育成に関わっているという記述も見られた。
「NGO/NPO などの設立または参加」
アフリカに関する NPO を立ち上げたり、その活動の一環としてアフリカ理解講座を開いて
いる記述があった。また、自分の専門や派遣国とは関係なく、アジアのへき地医療を支援する
会を立ち上げ、支援活動を行っている隊員 OB や友人と NGO を立ち上げ、日本側から途上国
で活動している友人を支援しているといった記述もあった。
NGO や NPO に会員として参加している隊員数は多いことが分かった。小規模の NGO の運
営から関わっている隊員や大規模の国際 NGO に会員として関わったり、活動の一環として講
演を引き受けたりしていた。さらに、NGO の事務の仕事を月に 2 回程度手伝っている隊員や
NGO が作成する国際理解教育の教材作成の手伝いなど、ボランティアとして活動に参加して
いる隊員の記述が多く見られた。
また、国際交流に関する団体を設立したり、地方にある NGO の事務局を担当している隊員
OG/OB もあった。また、NGO が主催しているスタディーツアーへ参加したり、NGO を通し
ての村落への教育支援活動に取り組んでいるという記述もあった。
67
(11)地域活動状況 −年齢層別
表12 年齢層別地域活動の有無
年齢層
20-39
地域活動なし 地域活動あり
男性
女性
合計
40-49
男性
女性
合計
50-69
男性
女性
合計
80%
合計
96
177
273
35.2%
64.8%
100.0%
133
244
377
35.3%
64.7%
100.0%
229
421
650
35.2%
64.8%
100.0%
89
200
289
30.8%
69.2%
100.0%
96
137
233
41.2%
58.8%
100.0%
185
337
522
35.4%
64.6%
100.0%
102
176
278
36.7%
63.3%
100.0%
17
55
72
23.6%
76.4%
100.0%
119
231
350
34.0%
66.0%
100.0%
70%
60%
50%
40%
20-39
40-49
50-69
図5 年齢層別 地域活動状況(男性)
80%
70%
60%
50%
40%
20-39
40-49
50-69
図6 年齢層別 地域活動状況(女性)
3 つの年齢層とも、地域活動ありの割合は約 65%であった。男女別に地域活動の有無を見て
みると、40-49 年齢層、50-69 年齢層において、地域活動の有無に男女差が見られた。40-49
年齢層では、41.2%の女性が地域活動なしと答え、女性の地域活動は男性よりも有意に少なか
った。また、50-69 年齢層では、地域活動ありと答えた女性は 76.4%であり、男性の 63.3%よ
りも有意に多かった。
男女別に、年齢と地域活動の有無の関係を示した(図5、図6)。男性では年齢層による活
動の有意に差は見られないが、女性では、40-49 年齢層において地域活動ありの割合が低かっ
た。
設問では、地域活動を行っていない理由については聞いていないが、自由記述の内容から地
域活動を行っていない理由が読み取れるものもあった。現在、地域活動を行っていない 40-49
年齢層の女性の記述を見てみると、
「育児と家庭中心の生活でほかに活動する余裕がない」
「仕
事が中堅クラスになり忙しい」
「帰国後時間が経ってしまい、具体的な活動内容が思い浮かば
ない」という意見があった。また、現在活動していないが「子育てが終わり、時間ができた時
68
に何かをしたい。
」
「自分でもできることがあるかもしれないので、情報がほしい」など、いず
れは地域活動に参加したいと希望する声もあった。その他、JICA/JOCA からのサポート要望
欄には、
「子供を連れて参加できるイベント」や「自分の時間をうまく活かしてできる活動」
の紹介を希望する声があった。
40 代の女性の 40%以上が、現在地域活動に全く参加していないことがわかった。40 代女性
が地域活動をしていない理由として、育児や仕事で忙しく、活動する時間がないという意見が
挙げられた。一方で、時間ができたら何かしたい、あるいは今の状況でも参加可能な活動を紹
介してほしいなど、地域活動を行いたいと希望する声も聞かれた。さらなる地域活動の促進の
ためには、子育て中や活動に費やす時間が限られている人でも参加可能な活動内容や、インタ
ーネットを利用した活動、在宅での活動など活動形態の工夫が必要である。
表13 年齢層 * 性別 * 地域活動のクロス表 (複数回答 上段:回答数 下段%:回答数/行のn数)
n =151 8
年齢層
20-39
40-49
50-69
何も関わりがない
男性
n=273
地域活動あり
地域活動なし
日本国内 での 国際交 協力隊OV会や育 て
流 、国際理 解教 育
る会へ の参加
地域や施 設でのボ
ランティア活動
出 前講座で の講演
協力
地域でのイベン ト開 海外で の国際協力 、 NGO/NPOの設立
催 やその 支援
国際交 流
または参加
その他
96
40
60
34
68
43
31
19
28
35.2
14.7
22.0
12.5
24.9
15.8
11.4
7.0
10.3
女性
133
89
79
54
81
40
36
42
41
n=377
35.3
23.6
21.0
14.3
21.5
10.6
9.5
11.1
10.9
合計
229
129
139
88
149
83
67
61
69
n=650
35.2
19.8
21.4
13.5
22.9
12.8
10.3
9.4
10.6
男性
89
62
65
68
48
47
37
30
31
n=289
30.8
21.5
22.5
23.5
16.6
16.3
12.8
10.4
10.7
女性
96
43
25
46
29
34
17
24
37
n=233
41.2
18.5
10.7
19.7
12.4
14.6
7.3
10.3
15.9
合計
n=522
185
105
90
114
77
81
54
54
68
35.4
20.1
17.2
21.8
14.8
15.5
10.3
10.3
13.0
男性
102
52
55
61
32
50
33
23
32
n=278
36.7
18.7
19.8
21.9
11.5
18.0
11.9
8.3
11.5
女性
n=72
17
16
8
24
6
10
6
11
15
23.6
22.2
11.1
33.3
8.3
13.9
8.3
15.3
20.8
合計
119
68
63
85
38
60
39
34
47
n=350
34.0
533
19.4
302
18.0
292
24.3
287
10.9
264
17.1
224
11.1
160
9.7
149
13.4
184
表 13 を見てみると、20-39 年齢層では、男女ともに 20%以上が「OB・OG 会や育てる会へ
の参加」や「出前講座での講演」を行っており他の活動に比べ多かった。また、20-39 年齢層
の女性では、
「日本国内での国際交流・国際理解教育」が 23.6%であり、同年齢層の男性より
もこの分野で多く活動している。
40-49 年齢層の男性では、20-39 年齢層と同様「OB・OG 会への参加」が 20%を超えている
ほか、
「地域や施設でのボランティア活動」が 23.5%であった。
69
40-49 年齢層の女性は、全体的な活動量は他の年齢層に比べて低いものの、
「イベント開催や
その支援」については、14.6%であり、他の年齢層の女性(10.6%、13.9%)よりもやや多く
の参加が見られる。これは、子育てや仕事に忙しい 40-49 年齢層の女性でも「イベント」など
単発の活動には比較的参加しやすいためと考えられる。また、40-49 年齢層の女性では、
「日本
国内での国際交流・国際理解教育」が 18.5%と、他の活動よりも多かった。50-59 年齢層では、
「地域や施設でのボランティア活動」が 24.3%あり、他の年齢層(13.5%、21.8%)に比べて
多かった。同様に、
「イベント開催やその支援」についても 17.1%となっており他の年齢層
(12.8%、15.5%)よりも多い傾向にあった。
50-69 年齢層の「
「地域や施設でのボランティア活動」や「イベント開催やその支援」の活動
内容は、
「地方自治体の国際協力事業への参加」
「異文化紹介や料理教室などイベント開催」な
どの海外ボランティア経験を生かした活動のほか、
「スポーツ、芸術、音楽を通したボランテ
ィア活動」
「自治会、防災、清掃」
「学校、PTA 活動など子供を通してのかかわり」
「福祉施設
でのボランティア」など地域に根付いた活動が多かった。その他には、
「地域の人々への環境
問題の啓蒙活動」や「地域に暮らす外国人への生活サポート、日本語教室ボランティア」など
の記述も見られた。
50 代以上の人々が活発に行っている地域活動は、それぞれの地域の活性化に大きく貢献して
いると考えられる。現在行われている活動を継続させていくためには、これらの活動について
の情報を若い世代や活動の機会を探している人達と共有し、活動の担い手を増やしていくこと
が必要である。また、これらの地域活動がボランティアや海外活動と関係がない場合にも、
JOCV ネットワークを活用することで、若い世代の帰国隊員の社会還元の場にもなりうる。
(12)地域活動状況 −派遣年代別
表14 派遣年代別地域活動の有無(男性)
地域活動なし 地域活動あり
男性
1980年代
1990年代
2000年代
合計
表15 派遣年代別地域活動の有無(女性)
地域活動 なし 地域活動 あり
合計
90
148
238
37.8%
62.2%
100%
101
208
309
32.7%
67.3%
100%
93
194
287
32.4%
67.6%
100%
284
550
834
34.1%
65.9%
100%
女性
1980年代
1990年代
2000年代
合計
70
合計
18
34
52
34.6%
65.4%
100%
89
143
232
38.4%
61.6%
100%
137
258
395
34.7%
65.3%
100%
244
435
679
35.9%
64.1%
100%
派遣年代別の地域活動の有無を表14、表15に示した。男女とも地域活動ありは約 62%から
68%であり、派遣年代間に地域活動有無の大きな差は見られなかった。
表16 派遣年層 * 性別 * 地域活動のクロス表 (複数回答 上段:回答数 下段%:回答数/行のn数)
地域活動あり
地域活動なし
派遣年層
1980年代
1990年代
2000年代
何 も関わりが ない
日 本国 内での 国際 交 協力 隊OV会や育て
流、国際 理解 教育
る会への 参加
地 域や施設 でのボ
ランティア活動
出前 講座での講演
協力
地 域での イベント開 海 外での国 際協力、 NGO/ NPO の設立
催や その支援
国際交流
または 参加
その他
男性
90
42
46
54
28
44
31
20
23
n=238
37.8
17.6
19.3
22.7
11.8
18.5
13.0
8.4
9.7
女性
18
11
3
18
5
6
2
7
8
n=52
34.6
21.2
5.8
34.6
9.6
11.5
3.8
13.5
15.4
合計
108
53
49
72
33
50
33
27
31
n=290
37.2
18.3
16.9
24.8
11.4
17.2
11.4
9.3
10.7
男性
101
70
67
67
44
50
37
30
40
n=309
32.7
22.7
21.7
21.7
14.2
16.2
12.0
9.7
12.9
女性
89
42
25
50
23
35
19
27
44
n=232
38.4
18.1
10.8
21.6
9.9
15.1
8.2
11.6
19.0
合計
190
112
92
117
67
85
56
57
84
n=541
35.1
20.7
17.0
21.6
12.4
15.7
10.4
10.5
15.5
男性
93
42
65
41
77
46
32
21
28
n=287
32.4
14.6
22.6
14.3
26.8
16.0
11.1
7.3
9.8
女性
137
95
84
55
88
43
38
43
41
n=395
34.7
24.1
21.3
13.9
22.3
10.9
9.6
10.9
10.4
合計
230
137
149
96
165
89
70
64
69
n=682
33.7
20.1
21.8
14.1
24.2
13.0
10.3
9.4
10.1
528
302
290
285
265
224
159
148
184
2000 年派遣では、
「出前講座での講演」が 24.2%、
「OB・OG 会や育てる会への参加」が 21.8%
であった。1990 年派遣層では、
「OB・OG 会への参加」
、
「出前講座での講演」は 2000 年派遣
層と比べ低かった。
2000 年代派遣の女性では、
「日本国内での国際交流・国際理解教育」
が 24.1%
であり、同年齢層の男性よりもこの分野で多く活動している。1990 年代派遣の男性では、
「日
本国内での国際交流・国際理解教育」が 22.7%と他の活動よりも比較的多く、他の派遣年層の
男性(14.6%、17.6%)に比べても高い割合であった。
2000 年派遣において、他の派遣年代よりも OB・OG 会や出前講座への参加が多いことは、
帰国直後の隊員への参加呼びかけや情報提供がうまく機能していると言える。一方で、派遣年
代をさかのぼるに従って、これらの活動参加率が低下することから、活動を継続しにくい体制
になっていると言えるかもしれない。
設問では、現在の地域活動について聞いているため、過去あるいは帰国直後にどのような活
動をしていたのか、帰国後から現在に至るまでに活動内容にどのような変化があったのかにつ
いては分からない。しかし、記述の中には過去の活動に関するものもあり、それらの記述によ
71
ると、過去に行っていた活動をやめたり、中断したりしている理由として、
「転居・転職」
「結
婚・出産」
「仕事や家庭で忙しくなり、時間がなくなってきた」などが挙げられていた。出前
講座については、帰国直後のみ実施」という記述が多かった。また。少数ではあったが、
「帰
国後の活動時に、活動について悩みが出てきたり、問題が起こったりしたのでやめてしまっ
た。
」という声もあった。JICA/JOCA へのサポート要望の欄には、「帰国後の社会還元活動
時の悩みや問題を相談できる窓口がほしい」という要望もあった。
(13)地域活動状況−就労形態別
表17 就労形態別地域活動の有無
地域活動なし 地域活動あ り
退職参加
男性
女性
合計
現職参加
男性
女性
合計
新卒・学生
男性
女性
合計
無職
男性
女性
合計
その他
男性
女性
合計
80.0%
合計
132
234
366
36.1%
63.9%
100%
155
235
390
39.7%
60.3%
100%
287
469
756
38.0%
62.0%
100%
76
154
230
33.0%
67.0%
100%
28
83
111
25.2%
74.8%
100%
104
237
341
30.5%
69.5%
100%
51
111
162
31.5%
68.5%
100%
31
75
106
29.2%
70.8%
100%
82
186
268
30.6%
69.4%
100%
17
37
54
31.5%
68.5%
100%
18
26
44
40.9%
59.1%
100%
35
63
98
35.7%
64.3%
100%
11
15
26
42.3%
57.7%
100%
15
17
32
46.9%
53.1%
100%
26
32
58
44.8%
55.2%
100%
地域活動あり
60.0%
40.0%
20.0%
0.0%
現職
図7
新卒・学生
退職
無職
その他
就労形態別 地域活動状況(男性)
80.0%
地域活動あり
60.0%
40.0%
20.0%
0.0%
現職
新卒・学生
退職
無職
その他
図8 就労形態別 地域活動状況(女性)
派遣前の就労形態によって、現在の地域活動の有無に差があるかどうかを検討した(表 17)
。
現職参加者と新卒・学生参加者では約 70%が、退職参加者では 62%が何らかの地域活動を行っ
ており、新卒・学生参加者、現職参加者が退職参加者に比べて「地域活動あり」が多かった。
すべての就労形態において有意な男女差は見られなかったが、参加者現職参加者者では、女性
が男性よりもやや「地域活動あり」が多かった。
男女別に就労形態と活動有無の関係を見てみると、男性では、就労形態による活動有無に差は
72
みられなかった。一方、女性では、退職参加者が現職参加者、新卒・学生参加者に比べて、
「地
域活動あり」が有意に低かった。
(図8)
退職参加者は、現職参加者、新卒・学生参加者に比べて地域活動を行っている人の割合が少
なかったが、この傾向は特に女性で強くみられた。
表18 就労形態 * 性別 * 地域活動のクロス表 (複数回答 上段:回答数 下段%:回答数/行のn数)
地域活 動あり
地 域活動なし
就労 形態
退職参加
現職参加
新卒・学生
無職
その他
何も関 わりがない
男性
n=366
日 本国内での国際
交流、国際 理解教
育
協力隊OV会や 育て 地域や 施設 でのボラ
ンテ ィア 活動
る会 への参加
出前講座 での講演
協力
地域でのイベント開 海外での国際協 力、 NGO/NPOの設 立
催やその支援
国際 交流
または参加
その他
132
66
69
74
62
66
41
31
44
36.1
18.0
18.9
20.2
16.9
18.0
11.2
8.5
12.0
女性
155
64
59
66
58
50
35
44
57
n=390
39.7
16.4
15.1
16.9
14.9
12.8
9.0
11.3
14.6
合計
n=756
287
130
128
140
120
116
76
75
101
38.0
17.2
16.9
18.5
15.9
15.3
10.1
9.9
13.4
男性
76
43
58
50
38
31
15
16
20
n=230
33.0
18.7
25.2
21.7
16.5
13.5
6.5
7.0
8.7
女性
28
36
17
27
24
12
8
9
17
n=111
25.2
32.4
15.3
24.3
21.6
10.8
7.2
8.1
15.3
合計
104
79
75
77
62
43
23
25
37
n=341
30.5
23.2
22.0
22.6
18.2
12.6
6.7
7.3
10.9
男性
51
32
32
25
36
27
37
16
17
n=162
31.5
19.8
19.8
15.4
22.2
16.7
22.8
9.9
10.5
女性
31
36
23
19
23
18
12
16
10
n=106
29.2
34.0
21.7
17.9
21.7
17.0
11.3
15.1
9.4
合計
82
68
55
44
59
45
49
32
27
n=268
30.6
25.4
20.5
16.4
22.0
16.8
18.3
11.9
10.1
男性
17
9
12
12
9
9
4
6
8
n=54
31.5
16.7
22.2
22.2
16.7
16.7
7.4
11.1
14.8
女性
18
6
8
7
6
2
4
5
6
n=44
合計
40.9
13.6
18.2
15.9
13.6
4.5
9.1
11.4
13.6
35
15
20
19
15
11
8
11
14
n=98
35.7
15.3
20.4
19.4
15.3
11.2
8.2
11.2
14.3
男性
11
5
6
3
4
6
4
2
2
n=26
42.3
19.2
23.1
11.5
15.4
23.1
15.4
7.7
7.7
女性
15
6
5
5
5
2
3
3
n=32
合計
46.9
18.8
15.6
15.6
15.6
6.3
9.4
9.4
26
11
11
8
9
8
4
5
5
n=58
44.8
19.0
19.0
13.8
15.5
13.8
6.9
8.6
8.6
534
303
289
288
265
223
160
148
184
退職参加者では、
「地域や施設でのボランティア活動」が全体の 18.5%であり、他の活動に
比べてやや多かった。退職参加者で「地域でのイベント開催やその支援」をしている男性は女
性に比べて多かった。
現職参加者では、
「日本国内での国際交流、国際理解教育」が全体の 23.2%と最も多く、次
に「地域や施設でのボランティア活動」22.6%、
「協力隊 OB・OG 会や育てる会への参加」22.0%
となった。現職参加者では、男性と女性で活動内容に違いがみられた。現職参加者の男性は「協
力隊 OB・OG 会や育てる会への参加」が 25.2%で、女性 15.3%に比べると有意に多かった。
一方、
「日本国内での国際交流、国際理解教育」については、現職参加者の女性 32.4%、男性
73
が 18.7%であり、女性の方が有意に多かった。「地域や施設でのボランティア活動」について
は、現職参加者の男性、女性ともに 20%以上の人が参加し、男女差は見られなかった。
表17で示したように、現職参加者と新卒・学生参加者が、帰国後地域活動しやすい環境に
ある。現職参加者の具体的な活動内容では、
「日本国内での国際交流、国際理解教育」と「地
域や施設でのボランティア活動」が多くみられた。現職参加者において、
「日本国内での国際
交流、国際理解教育」活動が多いのは、他の派遣形態に比べて教員が多く含まれており、教育
現場での活動が活発であるためと考えられる。それに加えて、現職参加者では男女ともに「地
域や施設でのボランティア活動」への参加が、退職参加者、新卒・学生参加者よりも比較的多
くみられた。これらの結果より、現職参加者においては、教育現場や職場での社会還元活動だ
けでなく、地域にも出て活動を行う人が多いといえる。
新卒・学生参加者では、
「日本国内での国際交流、国際理解教育」が全体の 25.4%、
「出前講
座での講演協力」22.0%、
「協力隊 OB・OG 会や育てる会への参加」が 20.5%であった。新卒・
学生参加者の男性では「海外での国際協力、国際交流」が 22.8%であり、女性よりも有意に多
かった。
「日本国内での国際交流、国際理解教育」では、新卒・学生参加者の女性が 34.0%、
男性が 19.8%であり、女性が男性よりも有意に多かった。
新卒・学生参加者の特徴として、
「日本国内での国際交流、国際理解教育」
「出前講座での講
演協力」
「協力隊 OB・OG 会や育てる会への参加」が 20%を超えているほか、
「NGO/NPO の
設立または支援」以外の項目もすべて 15%以上になっていた。
「NGO/NPO」については、新
卒・学生参加者は 11.9%であるが、退職参加者 9.9%、現職 7.3%に比べると比較的多くが参加
していると言える。男女別に見ても、男性の「NGO/NPO の設立または支援」と女性の「海
外での国際協力、国際交流」以外はすべての項目で 15%以上になっている。このことより、新
卒・学生参加者の帰国隊員が、複数の活動に関わっている人が多いことがわかった。
就労形態別に一人あたりの平均活動数を表 19 に示した。平均活動数は、活動数総計を合計人
数で除して計算したもので、新卒・学生参加者の平均活動数が一番多かった。新卒・学生参加
者において、複数の活動を行っている人の割合が多いことがわかった。
74
表19 就労形態別 平均活動数
平均活動数
総活動数/n数
総回答数/活動ありのn数
新卒・学生
1.41
1.23
1.17
1.15
1.05
2.04
1.78
1.89
1.79
1.91
現職参加
退職参加
無職
その他
表20 就労形態と活動数のクロス表 0
1
2
新卒・学生
82
84
50
30.5%
31.2%
18.6%
現職参加
104
126
61
30.5%
退職参加
37.0%
17.9%
*活動数は複数回答の回答数で示した。
3
4
5
6
7
8
29
13
7
2
2
0
合計
269
10.8%
4.8%
2.6%
0.7%
0.7%
0.0%
100.0%
34
10
5
1
0
0
341
10.0%
2.9%
1.5%
0.3%
0.0%
0.0%
100.0%
287
263
105
45
25
20
9
3
1
758
37.9%
34.7%
13.9%
5.9%
3.3%
2.6%
1.2%
0.4%
0.1%
100.0%
35
31
20
9
1
1
1
0
0
98
35.7%
31.6%
20.4%
9.2%
1.0%
1.0%
1.0%
0.0%
0.0%
100.0%
無職
26
17
6
5
3
1
0
0
0
58
44.8%
29.3%
10.3%
8.6%
5.2%
1.7%
0.0%
0.0%
0.0%
100.0%
534
521
242
122
52
34
13
5
1
1524
その他
退職参加
現職参加
新卒・学生
0%
20%
5以上
40%
4
60%
3
2
80%
1
図9 就労形態別活動数
75
100%
(14)海外での国際協力、国際交流活動
25%
25%
23%
海外活動あり
海外活動あり
20%
20%
15%
15%
15%
11%
11%
10%
7%
10%
7%
5%
0%
0%
退職参加
現職参加
無職
9%
7%
5%
新卒・学生
9%
その他
0%
新卒・学生 退職参加
図 10 就労形態別海外活動状況(男性)
現職参加
無職
その他
図 11 就労形態別海外活動状況(女性)
本質問紙調査の調査時点に海外で働いている帰国隊員からは、ほとんど回答が得られていな
いため、実際にはより多くの人が海外での国際協力や国際交流活動を行っていると考えられる。
「海外での国際協力や国際交流」の活動状況は、派遣年代や年齢層による差は見られなかっ
たが、就労形態によって差があり、新卒・学生参加者が退職参加者、現職参加者よりも有意に
多い結果となった。男性でこの傾向がより強くみられ、男性の新卒・学生参加者のうち 22.8%
が「海外での国際協力や国際交流」を行っている。また男女間の活動状況を比べると、新卒・
学生参加者の男性は、女性よりも有意に多く「海外での国際協力や国際交流」活動を行ってい
ることがわかった。
新卒・学生参加者は帰国後も国際協力活動を続けている人が多いのは、新卒・学生参加者者
が協力隊参加前から、協力隊への参加を国際協力へのキャリアアップのための第一歩として捉
えているからとも考えられる。新卒・学生参加がさらに国際協力を続けられるような支援をさ
らに充実させる必要がある。一方、すでに社会人経験や専門的な技術・知識をもつ退職参加・
現職参加者のうち、国際協力活動を継続している者は少ない。様々な職種、分野の専門的な技
術や知識をもって国際協力分野へ転職したいと考えている人たちへの支援が必要である。
76
(15)国内での国際交流、国際理解教育活動
40%
40%
34%
国内活動あり
30%
30%
20%
国内活動あり
32%
20%
19%
18%
19%
17%
10%
20%
16%
19%
14%
10%
0%
0%
新卒・学生
現職参加
退職参加
無職
その他
新卒・学生
現職参加
退職参加
無職
その他
図 13 就労形態別国内活動状況(女性)
図 12 就労形態別国内活動状況(男性)
「国内での国際交流、国際理解教育活動」では派遣年代や年齢層による差は見られなかった
が、就労形態によって差があり、新卒・学生参加者と現職参加者が退職参加者よりも有意に多
い結果となった。
「国内での国際交流、国際理解教育活動」の活動状況を男女間で比べてみる
と、男性では就労形態による差が見られず、特に女性で顕著な差がみられた。
(16)OB・OG 会や育てる会への参加
25%
23%
22%
OBOG会活動あり
19%
20%
25%
OBOG会活動あり
21%
20%
15%
15%
10%
10%
5%
5%
11%
6%
0%
0%
2000年代
1990年代
2000年代
1980年代
図 14 派遣年代別 OB 会等活動状況(男性)
1990年代
1980年代
図 15 派遣年代別 OB 会等活動状況(女性)
OB・OG 会への参加は、男女全体でみると派遣年代、年齢層、就労形態による大きな差は見
られなかった。しかし、男女別にみると、男性が派遣年代層に関係なく一定であったのに比べ、
女性では 1990 年代派遣と 1980 年代派遣が 2000 年代派遣よりも有意に低かった。
77
(17)JICA/JOCA からのサポート要望
協力隊経験を活かした地域活動を進めるために、JICA や JOCA からどのようなサポートが
あればよいと思うかという問いへ寄せられた意見を6つのカテゴリーに分けて、まとめた。
第1に就職支援、第2に日本の国際協力の人的資源としての活用、第 3 に多民族多文化社会の
日本社会への還元、第 4 に戦略的な国際理解教育、国際交流の実践、第 6 に情報提供、第 7 に
JOCA の活動に関してであった。
さらに協力隊経験への感想を載せた回答者も多かった。
以下、
順を追って説明していく。
第1の就職支援については、協力隊経験を生かせる職に関する就職情報の提供を希望する意
見が多かった。また、企業の中には協力隊経験の 2 年間をマイナスに捉えるところもあること
から、協力隊経験の有用性を企業に対して JOCA は周知するようにして欲しい、といった意見
があった。帰国隊員の中には、
「2 年間の経験は、日本では優遇される条件にはならない。その
間は無職期間としてカウントされる。貴重な 2 年間が、社会復帰時にせめて職業の経験年数に
含まれる制度があれば良いと思います」というように協力隊経験の期間への企業側の理解を促
進してほしいという意見が多く寄せられていた。特に地方在住の帰国隊員からは、田舎では協
力隊の認知度が低いために経験が評価されないといったことや「帰国後、地方都市に住む者に
とって、労働条件に余裕が少なく、また企業(そのように余裕がある民間企業)も少ないので
地方都市で帰国後の受け入れ企業先の発掘が必要ではないか」というように JOCA が地方の企
業に対して、協力隊経験の意味やその活動の評価を大きく発信してほしいといった意見があっ
た。さらに、キャリア・サポートに対する何らかのシステム作りを求める声もあった。特に地
方では、スキルアップのための情報や機会が乏しいため、JOCA などが率先して情報を提供し
てほしいというものがあった。
第 2 の日本の国際協力の人的資源としての活用について帰国隊員からは、
「帰国後も気軽に
参加できるような短期間の国際協力の機会があると良い」といった意見や「従事する企業や団
体、自治体、教育委員会等の法的整備を推進することによって、事業の理解や参加者が増加す
るのではないか」
、
「国際協力分野での仕事を希望する帰国直後の隊員とすでに活躍している協
力隊 OB・OG が交流できる活動をもっと増やしてもらいたい」といったように協力隊経験を
生かした国際協力の活動の活性化や人材育成について記述したものが多くみられた。
また、これから派遣される協力隊員への貢献や募集活動に関わりたい、という意見もあった。
「隊員候補生に対しての『技術移転の問題点』などの講師の依頼、隊員候補生に対して今まで
経験したことをふまえて講師をしたいです」や「長期(通算 15 年)滞在者のキャリアを訓練
78
所で生かしたいと思う」といったように隊員候補生の養成に貢献したいという記述もあった。
そして、
「現在の仕事、メカニックに対する教育を行っていますが、後輩隊員に対して何か協
力をしたいと思います。しかし、どこに依頼して良いのか、どこに相談をして良いのかが不明」
といったように隊員の人材育成に関わりたいが、どこからその情報を得れば良いのか分からな
いといった意見も上がった。
さらに募集活動については、
「私の周りの人たちは協力活動に興味がある人たちが多いが、
なかなか説明会の日程に合わない。
協力隊から帰国した人全員に説明会の時に見せる映像 DVD
を渡してくれれば、一人ひとりが協力隊の宣伝ができ、参加する人が増えると思う」といった
意見も寄せられた。
また、協力隊で培った現地語を生かして、いずれ国際協力や地域の活動に携わりたいが日常生
活に追われて語学を忘れてしまっていることから、語学力維持のための講座や刊行物の発行、
語学力向上のためのサポートが必要だという意見も多くあった。
第3の多民族多文化社会の日本社会への還元については、在日外国人へのサポートに関する
活動の支援について書かれたものが多かった。協力隊経験で現地語ができるようになった特技
をあげ、中南米からの出稼ぎ労働者などへの通訳をやってみたい、という記述が目立った。ま
た、それに準じて、医療通訳の養成講座やフォローアップ講座などを開催してほしいという要
望もあった。また、各地域の語学ができる帰国隊員が情報提供をしながら、在日外国人のサポ
ートができないかといった提言もあった。
第 4 の戦略的な国際理解教育、国際交流の実践については、教育現場で働く帰国隊員からの
国際理解教育に使える教材の提供を求める記述が多くあった。その中には、協力隊員が派遣さ
れている「国別の 30 分程度の紹介ビデオや教材貸し出しの充実によって国際理解の指導に役
立てることができる」といったものや「総合学習のひとつとして国際協力、国際交流プログラ
ムの学校向けパンフなどがあれば。また、そういったプログラムをパッケージ化したものが(既
にあると思うが)あって、利用しやすい形になっていれば、生徒たちへよい刺激を与えること
ができるのではないかと思います」といったように現役の教員からの現在の協力隊員の活動と
国際理解教育をつなげた生きた教材の必要性を述べた記述も目立った。
第 5 に情報提供に関する記述があった。これは、1.任国や青年海外協力隊活動の現在の状
況 2.ネットワーク 3.イベント参加やボランティアの募集 の3つに分けられる。第 1
の「任国や青年海外協力隊活動の現在の状況」については、
「派遣国における最新の情報(医
療水準や教育レベル、農業分野など)の詳細について提供してほしい。一時点のものではなく
79
タイムリーに更新される情報が良い。派遣隊員の情報網を使えば各国の各分野における情報収
集も可能ではないかと考える」といった意見があるように、派遣国の状況を見守り、何か支援
が必要であれば隊員や活動をサポートしたいという記述があった。これは特に帰国してから時
間がたった帰国隊員が仕事や子育てなどの日常生活に追われながらも、どこかで派遣国と関わ
っていたいという気持ちが表れている。第2に「ネットワーク」については派遣隊員の分野別、
国別の OB・OG 会を地域ごとにもっと積極的に活動させたい、というものが多くあった。
「協
力隊 OB・OG のテーマ型ネットワークがあれば、相談や協力等を依頼でき、横のつながりも
生まれるため、活動に非常に役立つ」といったように、ネットワークの重要性を述べているも
のが目立った。帰国後、数年経って生活に余裕ができるようになってから、連絡が簡単に取れ
るようなシステムを作ってもらいたいという意見もあった。それには、
「
(帰国後)数年、数十
年後、時間がふと出来たときにお手伝いを申し出られる制度、雰囲気があると嬉しい」といっ
たように、活動を再開したいと考えた時に隊員同士のネットワークが必要不可欠であるといっ
た声があがっていた。さらに、ネットワークを再構築したいが、個人情報保護法などがあり、
隊次や職種別でのネットワークを形成できないという不満が上がっていた。そして、
「イベン
ト参加やボランティアの募集」については、帰国隊員から様々な要望が上がっていた。「国際
交流、国際協力活動に何らかの形で参加したいが、情報をどのように探したらよいのか分から
ない。見つけても仕事の関係で定期的には参加できないので、今一歩踏み出せないでいる。国
際交流・協力関係で一日でも参加可。自宅でも参加可能なものがあれば、情報提供願いたいで
す」といったように記述者の多くがボランティア活動をしたいが、そのきっかけや情報が少な
いため、何をしていいのか分からないというものであった。隊員 OG からは OG の記述には「現
在、子育て中で活動ができない。学校現場にもどっても校務がいそがしく、なかなか隊員とし
ての活動を生かせることがほとんどできません」や「子育て、介護、職場での中堅的な立場等
で多忙をきわめています。Active な活動は困難な状況ですが、必要があった時に、資料や人の
紹介などがあれば助かると思います」
「帰国後、結婚し家庭を持つと、独身時代のようにボラ
ンティア活動に参加することは難しいと感じています。子連れでも参加できるような活動の場
があれば参加したいという思いはあります」というように子育てや仕事などによって時間が制
約されている中、短時間で関われるものなどがあれば、参加したいという意見が多く寄せられ
ていた。つまり、子育ての合間や余暇の時間を生かしてボランティア活動の参加に関する情報
提供を望んでいる隊員 OG の記述が目立った。
最後に、JOCA の活動に対する要望がある。
「JOCV の活動をもっと認知してもらう活動も必
80
要だと思います。OB 会や育てる会の役割が重要」といった意見や「JICA や青年海外協力隊に
ついての知名度が一般的にとても低いように感じられる。国の事業、税金を使用しているにも
関わらず、その活動内容もいま一つ知られていない。もっと色々な人に JICA や JOCV、そし
てその活動を知ってもらえるような広報活動に力を入れて欲しい」といったように地域や会社
に対して帰国隊員の経験の価値についてもっと広報をしてほしいという意見が寄せられてい
る。
さらに、都市部と地域との格差については、
「勉強会やイベント等都市部で開催されることが
多く、仕事の都合上参加できないことが多いので、地方でも開催する機会をもう少し増やして
欲しい」という要望も上がっていた。
やや受身であるが隊員からは「何かできることがあれば気楽に声をかけて欲しい。日々の雑務
でこちらからはなかなか連絡等を取り難い」というように JOCA から帰国隊員に直接、活動の
サポートを呼びかけて欲しいという意見もあった。
また、JOCA への要望とは異なるが、多くの帰国隊員が自分の置かれた現在の状況と心意を
記述していた。
「現在の自分は、ノルマをこなすのに精一杯の状態であり、仕事の仕方、生活
の仕方を変えないと精神的・時間的余裕を持つことができないと感じている」といったものや
「現在中学校に勤務していますが、正直海外での活動を生かす場面はありません」といった記
述もあった。さらに、協力隊員としての経験が現在の生活や仕事の中では何も生かされていな
いという思いといつかは生かしたいということが書かれてあった。また OB には「OB 会も若
かった頃は参加できたが、社内での立場が上がるに従い、参加が難しくなった」や「現職参加
し、帰国後もずっと同じ会社で働いていて、毎日忙しく JOCV に参加したことすら忘れてしま
うような感じでいます」という記述もあった。
そして、
「もう遠い昔となった感のある協力隊ですが、自分の中では今でも宝物のような 2 年
間でした。日々の生活に追われ、なかなか色々なイベント(協力隊関係)には参加できません
でしたが、自分が楽しかった恩返しとしてもいつか何かの形でお返しできればと思っていま
す」というようにいずれ協力隊の経験や自分の興味を生かして、国際協力活動やボランティア
活動に関わりたいという抱負が書かれてあるものも多くあった。また、「管理職で比較的忙し
いため、JOCV の経験の活用については考えていないのだけれど、定年後はできればアクショ
ンを起こしたいと考えています」や「現職参加後、教育現場から声がよくかかり、各学校に出
向くことが多く、再度退職後、アフリカにシニアボランティアとして参加できればと考えてお
ります」や「定年後(60 歳)再び海外でボランティア活動をやりたいと思っている」といった
81
ように、定年後に再び国際協力の活動に関わりたいという希望や具体的なプランを立てている
隊員 OB の記述もよく見られた。
帰国隊員から寄せられたコメントには、今の自分の生き方に協力隊経験が強く影響を及ぼし、
それを生かしているものもあった。
「青年期に住みなれた国(日本)から離れて、自分の持っ
ている物(技術、価値観)を他国で利用しようとした場合に味わう「ギャップ」はその人の価
値観や、単一民族にありがちな『一つの答』という文化を突破する経験になると思う。現在の
経験を考えると、帰国当初の経験だけではなく、帰国後、5年10年という経験は若者の長期
ビジョンに役立つと考えます」というように帰国後の様々な場面で協力隊経験やそこでの考え
方が生かされたということが書かれている。また、
「住んでいる地域における、色々な行事に
参加するとき、協力隊でのボランティア精神が生きているように思う。JICA や JOCA からサ
ポートは必要ないが、地域・地方で生きる隊員 OB としてプライドをもって自分の仕事をし、
地域の活性化のためにふるさとをもう一つの場としている」というように協力隊として得た経
験を現在の仕事や活動、生活に生かしているという帰国隊員も多くいた。また、経験だけでは
なく「隊員活動中に知り合った方々とのつながりが18年後の現在にも生かされていると感じ
ます」というように、隊員経験を通して得た人脈や仲間の存在が現在の生活を支えていると書
いていた隊員もいた。
82
4−2. OB・OG 会役員対象質問紙調査
(1)目的
都道府県 OB・OG 会がそれぞれの地域において、市民や地域社会とどのような関係を持ち、
組織としてどのように社会貢献をおこなっていくことができるのかを検証する。
(2)方法
調査対象者
各都道府県 OB・OG 会役員 各 3 名
調査の実施
調査期間を 2009 年 1 月 27 日から同年 2 月 27 日までとした。質問紙は JOCA 役員会議に
て配布され、回答は郵送、ファックス、E メールにて回収した。質問紙配布数は 141 名、
返送数は 33 名で回収率は 23.4%であった。
調査内容
・基本属性 (所属 OB・OG 会、OB・OG 会所属年数、現在の年齢、性別、派遣年、派遣
国、派遣職種、現在の居住地)
・OB・OG 会の活動具体例(自由記述)
・ボランティア経験の社会還元に関する問題点(選択肢より複数回答)
・地域からの社会還元活動へのニーズ(自由記述)
・今後どのような社会還元活動をしたいか(自由記述)
主な結果
・男性 21 名、女性 9 名、16 の都道府県から回答を得た。
・OB 所属年数 10 年未満が 14 名、10 年以上 20 年未満が 13 名、20 年以上が 6 名であっ
た。
・ボランティア経験の社会還元に関する問題点として、
「帰国隊員にとって、社会還元活動
を行うための時間がとれない」が 26 名(78.7%)で最も多く、
「OB・OG 会の社会還元活
動に参加する帰国隊員の数が不足している」19 名(57.5%)
、
「市民(地域社会)からの社
会還元活動に対する要望が少ない」11 名(33.3%)であった。
・ 自由記述項目は、内容を一覧表にして報告する。
83
ボランティア経験の社会還元に関する問題点
「ボランティア経験の社会還元に関して、どのような問題点があると思いますか?」
30 代 女性
帰国してから OV 会がしているボランティア活動を特別に捉えている人が多く?参
加しづらいのかもしれないと感じることがある。
30 代 男性 帰国隊員が地元に就職しないので連絡が途絶える。
島根県は人口の割に協力隊に参加する率は高いが、地元に残る人が少なく、OB 会
30 代 男性 にはいる人数が限られてしまう。そのために独自開催となる社会還元活動がとりに
くい。次年度は、独自に「帰国報告会」などを開催してみたい。
30 代 男性
30 代 女性
帰国してすぐの OV は時間的都合のつくことが多いが、新九就職等されると、難し
くなるケースは多いと思う。(市民からの要望は平日に多い)
帰国隊員が体験談を話す為の方法をよく見につけていない。仕事をしている OV に
は活動を頼みにくいし、時間が取れない人が多い。
・福井県の場合は、帰国隊員が職を求めて大都市圏に出て行ってしまうため、人材
30 代 男性 の不足が深刻である。 ・帰国隊員の身分や職が安定しない限り、社会還元活動へ
の積極的な参加は期待できない。
30 代 女性
帰国後の熱い思いが日本での生活が落ち着いてくる頃には、温度が下がり、なかな
かタイミングが合わない人が多いのではないか。
社会還元活動をする場(出前や帰国報告会等)がもっとあってもいいと思う。OV
30 代 女性
会のみでは、準備等大変なので、JICA・JOCAの行事の一環として行い、O
Vが参加できる形をとってもらえたら、もう少し参加するOVも増えるのでは?
(準備はJICAがして、OVは参加のみ)←都合よすぎ?
30 代 男性
自営業,定時制の教員などの昼間に動ける人材がおらず,振込み,各申請,イベン
ト打合せへの参加など支障になっている。
帰国後の OV は、30−40 代で仕事と子育てに追われている。残念ながらまとまっ
40 代 男性
た時間がとれない。専任スタッフを置くほどの予算はなく、奈良県内では独立でや
っていけるだけの需要もないので、これからも専任を置けそうでもなく、当面は、
ボランタリーベースでやっていくしかない。
40 代 女性 徳島県内で帰国後就職する OV が減っている(雇用の問題)
84
40 代 男性
OV 会の活動に参加する OB・OG が固定されている。帰国した元隊員が県外に就職
等で行ってしまい、人材が不足している。
多分、あまり協力隊や OB 会の還元活動を知らないから。日本で正規就職をしてし
まうと難しい場合が多い。現在、基本的には会員の会費しか定期収入は無い.帰国後
は、まず日本社会に(海外で働きたいものはその方向で)定職を見つけようとするも
40 代 女性
のがほとんどである。したがって、要望が平日の場合は、なかなか対応できる者が
いない。熊本での職場環境は、週末にイベントに参加したり、また事前にその話合
いに参加できるような物現的・精神的余裕が持てるところは少ないようである。
定まった事務所や事務局員がいないと(本県の場合は無いため)問い合わせや定期的
な活動への対応は難しい。
40 代 男性 仕事、家庭で忙しい OV が多いと思われます。
海外での経験や情報が陳腐化し、多様化し、さまざまなソースから情報を得ること
40 代 男性
ができるようになり、単に帰国報告会などで活動を提示しても人が集まらなくなっ
た。また、OV は個人主義的になり、OB 会という集団で活動することは難しくな
っており OB 会としての社会還元は困難である。
1) 協力隊(隊員)、及び帰国隊員についての認知度がまだまだ低いのではないでしょ
40 代
うか。 2)帰国して、就職または現職復帰してしまうとなかなか時間の折り合いが
合わず、実際に参加できる隊員は限られているため、思うような活動も難しいと思
います。
50 代 男性
50 代 男性
仕事が多忙な OV が多く、社会還元活動をする時間が取れなく、参加する人も少な
い。奈良では、大阪など県外で仕事をする人が多いものもその一因と思われる。
帰国直後の OV は、年齢的に仕事において(組織のなかに中堅)の家庭(子育て時
期)においても多忙な時期であり時間の管理がたいへんである。
活動する帰国隊員に社会還元の必要性を認識してもらう雰囲気を作ることが必要。
50 代 男性 帰国隊員の年代が個人の生活基盤を確保するために時間を費やすこととなり、余裕
がない。
50 代 男性 OB 会に加入する人が少なく、活動できる人材が慢性的に不足している。
50 代 男性
帰国後、地方に就職する職場が少ない。
訓練中に社会還元の大切さを伝え、参加意識の醸成を計る。
85
10 年前と比べ、国際理解教育学習、開発教育の講師要請が激減している。学校での
「総合的な学習の時間」にかける意気込みの減少と正比例している。地域社会にお
いても地方自治体において「国際交流課」は廃止または予算・人員削減の対象とな
50 代 男性 っており、行政主導の国際理解行事が消滅した。 地域に仕事がないため、帰国隊
員のほとんどは他県に流出している。そのうえ、最近の帰国隊員は OB 会への参加
が消極的で、ここ 10 数年、総会をはじめ、各事業に顔を出す OB は固定しており、
閉塞感がある。
そもそも市民が OV 会があること自体知らない状態である。帰国隊員がそれぞれ事
50 代 男性 情があるとは思いますが、(自分もかつてそうであった。)社会還元活動に参加しよ
うとする人が少ない。
JICA を含めて、社会還元活動に対しての参加者への対応を間違っているのでは?
50 代 男性 参加者は、日本社会で生活をしているが、活動を要望する人たちはボランティア(安
い労働者)としてしか考えていない。
50 代 男性
60 代
帰国隊員は基本的に定職に就いている、または求職中のためボランティア活動に費
やす時間の確保の制約等で各プログラムへの参加者は少数で、ほぼ固定している。
標記事項大体すべてが該当すると思われるが、基本的に帰国隊員に社会還元の意識
が薄く、自主的に活動する意欲があまり無い(各自仕事を持っているのも一要因)
協力隊事業が発足して 44 年が経過し、かなり国民の間に協力隊事業が認知されて
きた。地域社会にとって海外で活動したという体験は珍しいことではあっても、そ
60 代 女性
れを生かすということには結びついていない。特に、公務員、(県庁、区役所、)
教員の世界ではそれが著しい。2 年間海外旅行をしてきたような扱いをうけ、同僚
から非難、羨みをかい、協力隊員としての体験は無視にちかい。これは帰国隊員の
意気を落とす結果になる。まだまだ地域社会の国際化などにはほど遠い。
86
地域からの社会還元活動へのニーズ
「地域社会(市民)から貴 OB・OG 会に対する社会還元活動へのニーズは、どのようなもの
がありますか?」
20 代 女性
お話を聴きたいと言って下さる方が多い。→公民館や学校などで出前講座 イベン
トへの協力隊ブースの設置
大分県別府市には 1 万人位の留学生がいて、人口の 10%に近い。留学生が抱える
30 代 男性 問題に、応えられる人材が必要不可欠。OB・OG を率先して、問題解決の現場に
当てさせるべきである。
30 代 女性 国際理解について話してほしいという学校などの要望が多い
30 代 男性 ・帰国報告会等、JOCV での活動紹介 ・国際交流活動の参加
30 代 男性
体験談の要望。 各国文化に触れるイベント(食べ物、音楽、芸術など) あるい
は地域社会からどのようなニーズがあるのかわかりにくいという面もある。
30 代 女性 出前講座(異文化理解)
30 代 男性
途上国での経験や体験談も話してほしい。 ※どのようなニーズがあるのか、こち
らがお聞きしたい。あるいは、地域社会からはあまり期待されていないのだろうか。
30 代 男性 学校(教育機関)からの講師依頼 ・市民講座への参加依頼(近年は無いが・・・)
30 代 女性 特に感じられない。 ・ 協力隊に行きたい と言う人の相談にのることはある。
市民からの意見を直接聞いたことがない。市民も、どのようにOVと関わりをもっ
30 代 女性 てよいかわからないのでは?年2回の屋台では、毎年同じメニューなので、目当て
に来てくださる方もいらっしゃる←これは市民からのニーズ?
30 代 男性
JICA を通じた出前講座。協力隊に興味がある層への帰国報告会。募集説明会での
個別相談
協力隊自体への関心→応募相談、小中校での体験談。異文化への関心→衣食住に関
40 代 男性 する講座を派生して、子育てや現地社会、宗教まで多岐にわたる。
国際協力
(ODA)への関心は今一つ欠けるようである。
40 代 女性
定期的に青少年センターの講座を受け持っている。地域の祭りのお手伝いや出展。
学校での文化祭に出展。市町村のイベントと連携
40 代 男性 国際協力に関する情報提供
87
40 代 男性
大人から子供まで楽しめる、ワークショップ的なイベントが欲しい。 海外の面白
い話が聞きたい。 海外の物(食べ物、生活用品等)の販売をしてほしい。
40 代 男性 出前講座
40 代 男性 学校からの出前授業の希望はあるようです。それ以外はわかりません
40 代 国際協力イベントのブース出展依頼、講演会への講師
現状では特別なニーズは無い。直接 OB 会へのリクエストは無い。OB 会の存在自
40 代 男性
体が知られていないということも理由の 1 つであると思う。基本的に、熊本市国際
交流振興事業団、JICA 協力推進員を通じてのイベントへの参加依頼、もしくは講
演依頼となっている。
50 代 男性 体験報告。国際協力団体とのネットワーク作り
滋賀においては、新定住外国人の急激な増加に伴い教育現場において日本語教育の
必要な子どもたちや保護者とのコミュニケーションの問題が深刻になっている。そ
50 代 男性 のため、OV 会に対してスペイン語・ポルトガル語の通訳や翻訳を行うことのでき
る OV の紹介依頼が多く寄せられるようになった。また、国際理解教育、開発教育、
人権教育の視点より公演やワークショップのファシリテータ―依頼も増えている。
50 代 男性 国際理解教育にかかわる活動(一般市民、学生等へ)
50 代 男性 出前講座
50 代 男性
市民からの具体的な要望はあまり無い。当協会から働きかけている。 山形県、市
の国際交流協会の理事になっている。
過疎県である本県の場合、地域社会の大きなファクターである学校と行政からの要
請が前述のとおり激減したので、地域社会から能動的に発生するニーズはないと言
50 代 男性
える。ただし、OB・OG として地域社会に対して果たす役割は以下のものがある
と考える。(1)地域住民の人権意識を高める(2)地域住民に国際協力の意味を
正しく理解してもらい、実践に結びつける。(3)地域に在住する外国人が社会参
加できるよう支援する。
50 代 男性 今のところわかりません
50 代 男性
国際団体でのアドバイザーとして参加し、海外からの学生や、旅行者へのアドバイ
ス活動など
50 代 男性 特に要望のフィードバックは無い
88
60 代 特に具体的にはない。OB 会からの発信により活動している
60 代 女性
社会還元活動へのニーズは小、中、高校での総合学習や出前講座の講師役で任国事
情や国際協力などのテーマで話す機会が増えている。
途上国における協力隊活動や、協力隊参加のための情報提供。 学校における国際
? 理解教育、キャリア教育、ボランティア教育への協力。地域社会活動への参加。青
年団体連盟など
89
今後の社会還元活動
「OB・OG 会として、今後どのような社会還元活動をしたいですか?」
今後とも公民館や学校などで地域の方に協力隊のことを知って頂くため、お話
20 代 女性
する機会をつくっていきたい。また、イベントにブースを出し、パネル展示や
世界のお茶など出来る範囲で、地域の方との活動を行っていきたいと考えてい
ます。
30 代 男性
楽しい社会還元活動。自分から、積極的に活動しない(出来ない)のであれば、
やらない方が良い。
30 代 女性 地域の人たちが求めるもの。又、帰国隊員、派遣前の人達が参加しやすい会。
30 代 男性 独自の帰国報告会&パネル展
30 代 男性
社会から OB 会へどのようなニーズがあるのかを知るための活動。公民館等で
の地区の文化祭において、各国料理の出店等をする。
30 代 女性 協力隊広報(メディアを使って)
一人一人が、一人一人の対場や意志において出来ることを小さなことでも大き
なことでも、実行していくことが大切だという視点に立って、還元したい。つ
30 代 男性
まり、イベントをやるとか、関係組織で活動するとか、講演するとか、そうい
ったことではなく、身近な生活の場で、身近な人との間で、JOCV の活動を通
じて得た経験を、ただなんとなく人に伝える。そんな一人一人の気持ちが、大
きな波になるんじゃないかと思います。(具体的でないですね)
30 代 男性 より多くの市民の方へ異文化理解・途上国理解をすすめたい。
−OB という個人ではない OV 会というと・・・ あえて OB・OG 会が主
30 代 女性
導で動かなくても、それを職業としている JICA 関係の人が(各県の JICA 推進
員や JOCA 支部とかも)企画したことに OV も協力するという形にすれば、ネッ
トワークも一本化されてよいのではないかと思う。
一番喜ばれるのは、体験談だと思うが、ただ見る・聞くだけではなく、現地料
30 代 女性
理を一緒に作りながらのその国を体験する、どこかへ出かけて行き、泊まり込
みで水のない生活を体験する、一日、民族衣装等、その国の人になりきって生
活してみる、などなど、短い時間で体験談を話すだけではなく、
「生活体験」を
90
丸一日かけて体験するなどのイベントの開催はどうか?もちろん、言語もなる
べく日本語を避ける
ホームページを維持していく人材を確保したい。会計をきちんとできる人を探
して,収支をしっかり管理したい。
30 代 男性
・OB 会にとって,豊富な人材が売りであるので,海外経験を伝える技術をみな
で学び,閉鎖的な視野でありがちなわが国へ海外経験を伝えることで,社会還
元していきたい。世代が若いので,地域の若者とコミュニケーションし,活力
のある場を広げたい。
異文化理解から一歩進めて、地域協調に進められればと思っている。
日本は経済的に恵まれているので、閉鎖的とは言われながらも海外への旅行な
40 代 男性 どを含め外へ出る人は増加しているが、逆は(特にアフリカの人材受け入れは)
ほぼ変わらず低水準であるため(例えば留学生数)
、アフリカの人材育成のため、
受け入れ態勢を整えたい。それにはまず、アフリカへの理解が必要であるが。
教育が一番重要と考えます。日本だけで生きてはいけません。多文化共生を基
40 代 女性 に、地球市民として生きることの原点を伝えていきたいと思います。出来れば
大学の 一般教養 の講座に組み入れたいと思います。
40 代 男性
40 代 男性
40 代 男性
自分が行っていた国に関心を持つ人が多くなるようにしたい。 イベント等で
写真展示に参加する。JICA ボランティアの説明会に参加する。
地域社会のニーズに応えるイベント。途上国をテーマにしたワークショップ、
講演、物品販売等がすべてそろったイベントの開催。
学校現場に常勤の OV 教師を増やしたい。子どもを地球市民としての視点を持
つよう育成していくことがこの世界には絶対必要だから。
OB であることにこだわらず、地域で暮らす外国人との共生をすすめる活動をし
40 代 男性 ていきたいです。今は OB を中心に在日の外国人に日本語を教える活動をして
います。
40 代
小中学生向け国際理解ワークキャンプ(ツアー)。協力隊カレッジの開催。留学生、
地域在住外国人の支援
91
各自治体及び NGO 等によって開催されるイベントへの参加。※国際交流イベ
40 代 男性
ント (少し意味が違いますが、協力隊、OB 会の認知度を上げることがまず必
要と考えます。もちろん、イベント参加や還元活動を通じて認知度を上げるこ
とが重要である。
)
50 代 男性 中学生、高校生の国際協力エッセイ発表会
他の国際関係 NGO.NPO と連携し地域社会の人々の内なる国際化を促進させる
50 代 男性 活動を進めていきたい。また、途上国での生活体験や実践経験に裏打ちされた
特色ある発信を行っていきたい。
50 代 男性
50 代 男性
・協力隊事業に関する広報、理解活動(特に小学校高校生∼中学生) ・国際
交流活動への積極的参加(異文化交流) ・環境保護活動への参加
人材、資金不足により、現状を維持するのが精いっぱいで、新たな取組みを行
えるような余裕は無い。
協力隊の募集啓発。 企業懇談会。現在実施している事業の継続。県海外技術
50 代 男性
研修員などへの日本語支援事業。JICA 青年研修事業、JICE 東アジア青少年交流
事業等の受け入れを通して受入機関や高校生、ホームステイ受け入れ家庭との
交流を図る。
私自身もそうであるが、OB 会としてではなく、個人的に社会還元活動をしてい
る OB・OG が少なくない。
(私の場合は、日本語ボランティア団体を運営して
50 代 男性
いる。
)個人的な活動は様々なものがあり、むしろ、そちらの方が貢献度も高い
ものがあるように思う。ただ個人的な活動には限度があるので、OB 会として、
個人的な活動をしている OB・OG のネットワークと支援体制を構築できないか
と思う。
50 代 男性
環境問題。特に地球温暖化対策についての活動。若者に農業、林業への魅力。
就労する為のノウハウなどを伝えたい。
上述の問題点、制約のため、現行実施プログラムの継続実施が基本。今後は更
50 代 男性 に力量に応じ、地域イベントに参加し、JICA ボランティア事業の広報の機会を
拡げていきたい。
60 代
北海道には札幌、帯広と 2 か所国際センターがありセンター在住(研修期間)
の研修員を活用した社会に対する活動をしたい現在、国際社会に対する情報は
92
ホームページ他で十分知識は得られる。従って標記の様に生の人間を通した交
流が効果的と思われる。
まず、帰国した隊員が2年間したことが生かされるような環境作りが大切であ
る。それには、帰国報告会、体験発表などの機会をたくさん作るよう学校、公
60 代 女性
民館など教育委員会などへ働きかけする。
協力隊として活動するにあたり、仕事を辞めなくても参加できる休職制度につ
いての認識を企業経営者に説明する。
帰国隊員の就職の応援をするための地元企業へ人材情報の説明をする。
? 現状維持で十分
93
第5章 海外調査
米国
1. 調査概要
米国における海外ボランティア派遣の代表的組織であるピースコー(平和部隊:Peace
Corps)について調査した。1961 年の創設以来、19 万 5 千人を 139 カ国に派遣している。そ
の応募から派遣までのプロセス、および帰国ボランティアへの支援、活動を中心にインタビュ
ーを行った。
2. 訪問者・調査日程
澤村信英・内海成治・向井かおり
2008 年 11 月 1 日∼4 日
3. 訪問先
ピースコー(平和部隊、Peace Corps)
面談場所:ピースコー本部、1111 20th Street, NW, Washington, DC
面談日時:2008 年 11 月 3 日(月)10:00-12:00
面談者:Josephine K. Olsen, Deputy Director(現長官代行)
4. 米国における海外ボランティア事業の変遷
米国における海外ボランティア事業としては、ピースコー(平和部隊:Peace Corps)がそ
の代表的存在であり、1961 年から継続的に派遣されてきた。最近では、ブッシュ大統領(当
時)のイニシアティブにより、2002 年に「繁栄のためのボランティア(Volunteers for
Prosperity)
」と呼ばれるフリーダムコー(自由部隊:Freedom Corps)が設立されている。この
ような政府による派遣に加え、数多くの NGO が海外ボランティア活動の機会を提供している。
フリーダムコーは 2001 年の同時多発テロ事件を契機に始まったものであり、医者、看護師、
エンジニアなど、比較的専門性の高い人材を短期間であるが、12 万人以上派遣してきた(Office
of Volunteers for Prosperity, 2008)
。その派遣方式は官民協働を基本とし、268 のパートナー
企業・NGO と協力し、所属先には補助金が支給される仕組みになっている。この事務局は国
94
際開発庁(USAID)内にあったが、オバマ政権になりその派遣は中断されている。
NGO によるボランティア派遣の多くは、ワークキャンプ方式で実施されている。国際ボラ
ンティアプログラム協会(IVPA: International Volunteer Programs Association)が 1996 年
に創設され、12 の NGO で構成されている(実際には 80 以上の NGO が短期の海外ボランテ
ィア体験プログラムを提供していると言われている)
。たとえば、その中のグローバルサービ
スコー(GSC: Global Service Corps)は、1993 年に設立され、タイとタンザニアへ 2 週間か
ら 6 ヶ月のさまざまな期間でボランティアを派遣し、
コミュニティ開発に関わっている。
また、
クロスカルチュラルソルーションズ(CCS: Cross-Cultural Solutions)は 1995 年から毎年、4
千人以上を全世界に派遣し、スタッフも 12 カ国で 300 人以上いる。いずれも航空賃や宿泊費
などの実費に加え、参加するために 300 ドル程度の手数料を徴収し、ボランティア活動の支援
を行っている。
このようにさまざまな形態で海外ボランティアは派遣されているが、本章では、米国の海外
ボランティア事業の草分け的存在であり、早くからその派遣が制度化されているピースコーに
焦点をしぼって詳述する。
5. 調査団体のボランティア事業の特徴
(1)ピースコーのはじまり
ピースコーの起源は、1960 年 10 月のミシガン大学における大統領候補ジョン・F・ケネデ
ィによる演説にある。
「国が諸君のために何をしてくれるかではなく、諸君が国のために何が
できるかを問いかけたまえ」はケネディの残した有名なことばであり、同年 11 月にはピース
コー構想が発表され、翌 1961 年 8 月には第一陣として 51 名がガーナに派遣されている(栗木
1997、p.1)
。
この 1960 年代初頭の時代背景を考えると、米国がボランティアを海外に派遣しようとした
理由が理解しやすい。冷戦最高潮の米ソが開発途上国を舞台として、国際援助を使って東西の
綱引きを行っていたころである。米国の海外でのイメージは「醜いアメリカ人(Ugly
Americans)
」
と称されたように、
他国を理解しようとせず、
まったく芳しいものではなかった。
また、アフリカ諸国が次々と独立を果たした時期であり、それらの新興国家を西側につなぎと
める必要もあった。
このような政治性を帯びて発足したピースコーではあるが、現在も米国を代表する海外ボラ
ンティア派遣事業の中心的組織である。
95
(2)ピースコーの概要
ピースコーは、1961 年 3 月に設立され、これまで(2008 年 9 月末現在)、19 万 5 千人を 139
カ国に派遣している。単年度の派遣人数は、1966 年度の 9,216 人をピークとして開始当初の
1960 年代は比較的多く、1980 年代には 2,774 人(1987 年度)まで減少しているが、その後漸
増し、
2000 年代は 4,000 人前後で推移、2007 年度は 4,038 人である(Peace Corps, 2007a, p.21)
。
人道支援など、帰国ボランティアを活用した緊急短期派遣(The Crisis Corps)も 1996 年か
ら開始され、これまで 40 カ国に 1,000 人以上が派遣された。
予算額(2007 年度)は 324 百万ドルであり、議会に要求し、承認される。ピースコーは特
定の省庁に属さない、独立した機関である。したがって、議会に対する説明、働きかけは重要
な活動になる。米国の二国間援助機関である USAID(国務省所管)とは完全に別組織であり、
活動の接点としては、現地で「小規模プロジェクト支援(Small Project Assistance)
」資金を
提供する程度である。ピースコー関係者にとっては、援助機関である USAID とは一線を画し
たいという思いもあるように感じられた。
ピースコーのミッションは明確であり、設立以来、変わっていない。すなわち、次の 3 つの
方法により、世界の平和と友好を促進することである。北村(2009、186 頁)はこれらを「国
際協力」
「国際交流」
「国際理解」と端的に表現している。
①
訓練された男女に対する関係国の人々のニーズに応じて支援する(To help the people
of interested countries in meeting their need for trained men and women.)
。
②
奉仕する人々の側でアメリカ国民のより良い理解を促進する(To help promote a
better understanding of Americans on the part of the peoples served.)
。
③
アメリカ国民の側で他の人々のより良い理解を促進する(To help promote a better
understanding of other peoples on the part of Americans)
。
(3)現ボランティアの属性・派遣国・職種
現在(2008 年 9 月末)派遣中のボランティアの属性などは、表 1 のとおりである。毎年、
約 4 千人の新たなボランティアを派遣し、常に 8 千人が活動している。派遣国は 76 カ国(カ
ントリーオフィスがあるのは 70 カ国)であり、アフリカ(39%)
、中南米(26%)、東欧/中央
アジア(20%)、アジア(7%)、北アフリカ/中東(4%)、大洋州(4%)である(ボランティア
要請数による比率)。職種は、教育(35%)
、保健・HIV エイズ(21%)
、ビジネス・開発(15%)
、
96
環境(15%)
、青少年活動(5%)
、農業(5%)
、その他(5%)となっている。近年、教育分野
での活動の割合が増え、女性のボランティアが増加傾向にある。
表 1 ボランティアの属性
人数(訓練生を含む)
7,876 人
性別
女 60%、男 40%
婚姻
独身 94%、結婚 6%
マイノリティ
ボランティアの 15%
(アフリカ系、アジア系、ヒスパニック系など)
年齢
平均 27 歳、中間 25 歳
(ボランティアの 5%が 50 歳以上、最年長は 84 歳)
学歴
94%が大学卒以上、11%が修士号以上
注:
「訓練生(trainee)
」は現地訓練中のボランティア候補生を指す。
出所:Peace Corps (2008b)
(4)派遣の方針・条件
派遣人数、職種は派遣国のニーズにより決まる。したがって、派遣国は志願者がもつ技能と
ホスト国の要請次第である。住居も地方の質素な小屋から大都会のアパートまでさまざまであ
る。最低限の資格要件は、18 歳以上(上限なし)、健康状態良好、アメリカ国民、である。学
歴要件はないが、実際には 95%が大学卒であり、高校卒の場合、3~5 年間の職務経験を有する
ことが期待されている。現職参加の制度はない。参加申請から面接等を経て派遣が決まるまで、
通常半年から 1 年かかる。
ボランティアとしての 2 年間に現地訓練期間を加え、全体で 27 ヶ月のプログラムになる。
国内での事前訓練は行わず、出発の 24 時間前にワシントン DC のホテルに集合する。派遣の
時期は、年 1~2 回にまとめられ、現地に赴任後、約 3 ヶ月の訓練を受ける。この現地訓練は
6~8 人のグループで行われるのが通常で、ホスト・ファミリーと生活を共にし、現地の言語と
文化を学ぶ。この時点で、約 2 割がドロップするという。活動中の月額生活費は 250 ドル、活
動完了後に再調整手当(readjustment allowance)として 6,000 ドルが支払われる。帰国後の
就職や教育支援は制度化されている。
ホスト国での活動は言うまでもないが、帰国後の社会還元活動はピースコーの第 3 のゴール
97
(国際理解に対する貢献)として重視されている(次節以下で詳説)。
(5)特徴的な事業内容
1)大学との連携プログラム
ボランティアの大部分が大卒であることに関係するが、大学との連携事業が多く、ピースコ
ーと大学の双方にメリットがある関係性が構築されている。大きく分けて 2 通りの連携方法が
ある。一つは、ピースコーと同時に大学院(修士課程)へ願書を提出し、ピースコー派遣中の
活動を踏まえた研究テーマを設定する。通常、1 年間学習した後にピースコーに参加し(この
活動自体が単位として認定される)
、帰国後にプログラムを修了する。もう一つは、ピースコ
ー活動終了後に参加するもので、45 大学、140 以上のプログラムが、ビジネス、教育、保健、
環境、工学などの分野で提供されている。奨学金を得るにあたり、ボランティアの経験が評価
されることも多く、授業料が減額されるなどの特典もある。このような連携を推進する背景に
は、大学がピースコーの活動を支援し、学生も実践経験を踏まえて、質の高い論文を書くこと
が可能となるためである。ピースコーの募集要項には、
「大学院進学か、ピースコー参加か・・・
なぜ両方ではないの(Grad School or Peace Corps… Why Not Do Both?)
」と記されているほ
どである。
2)ワールドワイズスクール
「ワールドワイズスクール(World Wise Schools)」は、ポール・D・カバーデル長官(1989
∼1991 年在任)の提唱により開始され、第 3 のゴールを達成するためのプログラムである。
米国の生徒に世界の人々、文化、地理の学習の支援を行い、必要なサービスや資料(教材)を
提供するものである。現ボランティアと帰国ボランティア(Returned Peace Corps Volunteers:
RPCV)が米国の生徒と相互交流できることが特徴であり、異文化理解を促進する。全米でお
よそ 40 万人の生徒がこのプログラムに参加している。この交流の方法には、手紙、写真、電
話、電子メールなどを使う。教材は冊子形式のもので、自由にダウンロードできる。米国内の
教師から 1 万 9 千近い冊子や DVD の要望があった(2006 年度)。2006 年からは動画の配信も
試験的に始めている。より具体的なプログラム内容は、北村(2009)に詳しい。
3)ピースコー週間
毎年、3 月 1 日の週に行われる「ピースコー週間(Peace Corps Week)
」は、現ボランティ
98
アおよび帰国ボランティアか家族や友人と共に、ピースコーの創設を祝賀して行われるもので
ある。例えば、2006 年のピースコー週間では、帰国ボランティアが学校や職場において体験
の発表や写真展を行い、数多くの議会でピースコー活動の役割や貢献を功労する声明文を発表
した(Peace Corps, 2007a, p.44)
。ホスト国においても、ピースコーの活動や役割についての
発表や展示、相手国政府や関係機関と連携した広報活動が行われた。これは、第 3 および第 2
のゴール(国際理解と国際交流)を達成するためのものである。
6. 帰国ボランティアへの支援体制と帰国ボランティアの活躍や課題
(1)帰国ボランティアへの支援
ボランティア活動は現地での任期 2 年間をもって終了し、その 3 ヶ月前に「活動終了キット
(Close of Service Kit)
」を受け取る。この封筒の中には、主に「RPCV ハンドブック」
(24
頁)と「キャリアリソースマニュアル(Career Resource Manual)
」
(CD)が収められている。
ハンドブックには帰国するにあたっての心構え、RPCV へのピースコー本部が提供するサービ
ス、第 3 の目標(国際理解活動への貢献)について記されている一方、キャリアマニュアル
CD は約 100 頁にわたり、技能と職業関心の自己評価から、仕事の選択、レジメの書き方、面
接の受け方などが書かれている。
帰国後は、国内 11 箇所の支部にあるキャリア・センターにおいて、職業紹介や大学院進学情
報の提供を行うと共に、毎月 2 回、これらの最新情報をウェブ上に掲載している。2005 年に
は、約 750 人の帰国ボランティアがキャリアフェアやセミナーに参加している。
連邦政府の就職する場合、1 年間の非競争資格(noncompetitive eligibility)を受けること
ができる。すなわち、空きポストがあり、資格要件を満たせば、標準的な競争を経ずに雇用さ
れ、2 年間のボランティア活動期間が退職金算定に加算される。
(2)帰国ボランティア(RPCV)の活躍
著名な帰国ボランティアとして、
「ピースコー概要表 2009 年」には、国務次官補や国会議員、
小説家、社長など、23 人の名前が挙げられている(Peace Corps, 2008b)
。前長官(Ronald A.
Tschetter)
、現長官代行(Josephine K. Olsen)もそれぞれインド、チュニジアのボランティ
アであった。ピースコー職員は言うまでもないが、USAID 職員の 3 分の 1 が RPCV であり、
米国大使にも多いと説明を受けた。ピースコー設立当初からそうであるが、ハーバードなどの
有名大学を卒業したばかりの若者がアフリカの田舎で現地の人々と同じような生活をし、彼ら
99
の生活改善を支援するというイメージがあり、一つの若者のキャリアパスとして社会に定着し
ているようである。大卒後に一斉採用、終身雇用される制度がそもそもないこともこのような
パスを可能にしているのだろう。
RPCV に対する調査(Peace Corps, 1996)が 10 年ごとに行われている。1996 年に実施さ
れた調査では、1961 年から 1993 年に参加した 94,586 人を対象にサンプル調査を行い、1,253
人(回収率 54%)から回答を得ている。この中で、帰国後のピースコー関連のプログラムには
56%が参加した経験を有し、その関わり方は、帰国ボランティア組織(38%)
、全国ピースコー
連盟(29%)
、ピースコー募集(20%)である。また、第 3 のゴール(国際理解)を目指す活
動への参加経験としては、公式の講演(57%)
、学校の授業(31%)
、留学生等との交流(30%)
、
執筆・投稿(19%)などが挙げられている。このような比較的高い割合は、ピースコーとして
派遣された当初から、帰国後の国際理解に対する貢献が期待されていることが明確にされてい
ることに加え、そのような活動を支援する国内システムが構築されていることが背景にある。
この点、RPCV を中心とする組織である全国ピースコー連盟(National Peace Corps
Association)など帰国ボランティア組織の活動によるところが大きい。
7. まとめ
米国の海外ボランティア事業は、近年多様化しているものの、ピースコーは草分け的存在で
あると共に今もってその代表的派遣組織である。ピースコーの発足にはケネディの政治的思惑
があり、当初に比べて現在の派遣数は半減しているものの、そのミッションは変わることなく
受け継がれてきた。援助機関、開発 NGO、研究者など、途上国の開発に関わる少なくない者
が RPCV である。
バラク・オバマ現大統領は、候補者時代に、民間外交、市民社会を通した支援の推進として、
ピースコーの派遣人数を倍増する構想を示している。ボランティア派遣人数がピークだった
1966 年(1 万 6 千人)と比べ、ピースコー創設 50 周年を迎える 2011 年に、派遣人数を倍増
させる(すなわち、現在の 8 千人から 1 万 6 千人に)意向を示している(Obama, 2008)
。現
在、政権交代の移行期のため長官ポストは空席であるが、長らく派遣を中止していたインドネ
シアともボランティアを送ることで合意するなど、ピースコー事業も大きく転換するものと考
えられる。
ピースコー事業を精査していくと、日本の青年海外協力隊の制度と類似点が多いことに気が
つく。なかでも RPCV に対する支援策の多くは、日本が米国の経験をもとに取り入れたもので
100
ある。その背景は、明確に謳われているピースコー第 3 のゴール(国際理解への貢献)とも密
接に関係し、先行事例が多いからである。しかし、米国の場合、この第 3 のゴールに固着せざ
るをえないため、もっと広範な海外ボランティア活動の社会還元のあり方を十分検討してこな
かったとも言える。また、日本と米国ではそもそも社会の成り立ち方が異なり、海外ボランテ
ィア経験を自国の社会にどのように還元できるかは、日本のコンテクストに照らして考えれば、
もっとその可能性が広がるかもしれない。
8. 参考文献
北村友人 2009 「米国における国際教育協力経験の社会的還元活動―平和部隊を中心とした
実践に関する報告―」
『わが国の国際教育協力の在り方に関する調査研究・プロジェクト研
究報告書』
(国立教育政策研究所、研究代表者:斉藤泰雄)
、175−190 頁.
栗木千恵子 1997 『ケネディの遺産―平和部隊の真実』中央公論社.
Obama, B. 2008. A Quantum Leap. WorldView Magazine, Vol.21, No.3.
[http://www.worldviewmagazine.com/issues/article.cfm?id=257&issue=56]
Office of Volunteers for Prosperity. 2008. Volunteers for Prosperity Annual Report 2008.
USAID.
Peace Corps. 1996. Survey of Returned Peace Corps Volunteers. Peace Corps.
Peace Corps. 2007a. Congressional Budget Justification/ Fiscal Year 2008. Peace Corps.
Peace Corps. 2007b. Peace Corps 2006 Volunteer Survey: Global Report. Office of Planning,
Policy and Analysis, Peace Corps.
Peace Corps. 2008a. Life is calling. How far will you go? Peace Corps.
Peace Corps. 2008b. Fact Sheet 2009. Peace Corps.
101
カナダ
1. 調査概要
カナダの国際ボランティア派遣組織である CUSO(Canadian University Service Overseas)
の組織と活動を調査すべく2008年夏にコンタクトを取り、2008年11月に訪問調査を
実施した。しかし、10月末を持ってCUSO はイギリス系の国際ボランティア組織 VSO
Canada と合併したところであった。合併直後の CUSO-VSO を訪問し、聞き取り調査を行な
った。また、その母体となっている VSO International を12月に、同じく国際VSOのメン
バーである VSO Jitolee(ケニアに所在)を2009年2月に聞き取り調査を行なった。
2.訪問者・調査日程
カナダ
2008 年 11 月 4 日∼11 月 8 日:内海成治、澤村信英、向井かおり
イギリス 2008 年 12 月 6 日∼12 月 11 日:
ケニア
麻里、向井かおり
2009 年 1 月 31 日∼2 月 8 日:内海成治、澤村信英
3.訪問先
(1)CUSO-VSO
面談場所:CUSO-VSO本部、44, rue Eccles Street Ottawa, ON, Canada
面談日時:2008 年 11 月 5 日 (水) 10:00∼13:30
面談者 :Ms. Mary Stuart, Executive Director
Mr. Jeffrey Rouse, Finance, Human Resources & Information Technology
Director
Ms. Erin Bateman, International Placement Manager, Participation &
Governance
Ms. Genevière Garneau, International Volunteer Recruitment Manager
Ms. Heidi Lasi, Public Engagement and Communications Manager
Mr. Alan Webb, Training & Development Advisor
(2)VSO International
面談場所:VSO International 事務所、Carlton House, 27A Carlton Drive, Putney, London
面談日時:2008 年 12 月 9 日 (火) 15:30–16:10
102
面談者 :Mr. Nick Gallagher, Head of International Volunteer Delivery
Mr. George Awalla, International Placement Manager for HIV/AIDS Goal
Ms. Joyce McNeill, International Assessment Manager
(3)VSO Jitolee
面談場所:VSO Jitolee 事務所、5th Floor, Timau Plaza, Argwings Kodhek Rd, Nairobi
面談日時:2009 年 2 月 3 日 (火) 10:00∼12:00
面談者 :Mr. George Awalla, International Placement & Knowledge Manager
Mr. James Kiplimo, Head of Fundraising & External Relation
Ms. Lillian Kotonya, Head of International Volunteering
4.カナダ政府の援助政策と国際ボランティア事業の変遷
1960 年、対外援助庁(EAO)が設立され、1968 年にカナダ国際開発庁(CIDA: Canadian
International Development Agency)に名称変更した。CIDA はカナダ政府の開発援助(ODA)
の大部分を担っており、プログラムやプロジェクトの実施とともに、公的・私的組織が提案し
たプロポーザルを審査した後、資金援助も行なっている。
1980 年代から 1990 年代にかけて、カナダ政府の財政赤字により援助予算が縮小し、NGO
に対しても自己資金の拡大を要求することとなった。
2005 年、カナダ政府は「Canada’s International Statement: A Role of Pride and Influence
in the World」を発表し、開発については「政府一体としてのアプローチ」
、
「援助対象分野と
対象国の集中化」
、
「多国間機関との連携」
、
「カナダ国民の参加」
、
「援助デリバリー・システム
の改革」の 5 つが言及された。
現在、CIDA は優先課題として「貧困削減」
、
「民主的ガバナンス」
、
「民間セクターの発展」
、
「保健」
、
「基礎教育」
、
「ジェンダー」
、
「持続可能な環境」を挙げている。
カナダにおいては、ボランティア派遣事業は政府の直轄事業ではなく NGO のボランティナ
派遣活動を資金的に援助してきた。ボランティア派遣事業を行なう NGO は IC プログラムと
呼ばれる特別な資金供与プログラムを通じ、他の事業を行う NGO とは別枠で扱われている。
5.調査団体のボランティア事業の特徴
5−1.VSO International
(1)概要
103
VSO はイギリスで 1958 年に設立された。その後 1989 年に英国以外にオランダにリクルー
トメントオフィスを設置して以来、カナダ、ケニア、フィリピン、アイルランド、インドにオ
フィスを開設した。その目的は、ボランティアの確保、資金調達の拡大、そして欧米人以外に
もスキルを持ち合わせた人が存在するという倫理的観点からである。
VSO の 7 つのフェデレーションメンバーは、
ボランティアをリクルートする役割を担ってい
る。一方、約 40 のボランティア派遣対象国にはそれぞれプログラムオフィスがある。そのオ
フィスで現地政府や現地 NGO などからプロジェクトの提示を受け、その情報が VSO
International に集められる。そこでプロジェクトと各フェデレーションメンバーに応募してい
るボランティアのマッチング(適合)が行なわれ、派遣に到る。
(2)方針
VSO はボランティアの質を一定以上に保つために、Base Line を定め、各フェデレーション
メンバーがボランティアをリクルートする際および訓練する際の目安としている。
各 VSO で集められたボランティアは、派遣先で他国のボランティアと同じプロジェクトで
活動することもある。ボランティア同士の交流も VSO のねらいの一つである。
フェデレーション
メンバー
プログラム
VSO
⑤マッチング
④プロジェクト
オフィス
International
VSO UK
(35 カ国)
⑧現地訓練、
VSO Netherlands
サポート
CUSO-VSO
③プロジェクト
⑦ボランティア派遣
VSO Jitolee
現地政府、NGO など
VSO Bahaginan
①応募
VSO Ireland
ボランティア
②審査
⑥研修
104
5−2.CUSO-VSO
(1)概要
CUSO は 1961 年に設立され、当初は Canadian University Service Overseas というその名
称通り、大学卒業直後の若者の派遣を中心としてきた。当初のモットーは「serve and learn」、
つまりサービスをして同時に学ぶというものであった。しかし 1970 年代にはボランティアの
多くがスキルを持ったプロフェッショナルとなり、若者に限らなくなった。これは途上国側か
らのニーズに合わせた変化である。
一方 VSO Canada は 1995 年に活動を開始した。両団体はパートナーとしてともに活動する
こともあったが、政府からの資金の縮小が大きな要因となり 2008 年、CUSO と VSO Canada
は合併し、CUSO-VSO となった。
この合併によって、3つの利点があるとされている。第一に、財政的側面である。運営費を
削減し、開発資金(development dollars)の効果を拡大することができる。また、ヨーロッパ
やアメリカ合衆国からなど、資金調達の幅が広がる。第二は、ボランティアの確保である。カ
ナダ全土だけでなくアメリカ合衆国からもボランティアをリクルートすることができる。第三
は、
国際性である。
VSO フェデレーションとして国際的規模でその政策に関わることができる。
また、国境を越えた開発プログラムに携わることが可能となる。
(2)援助政策
CUSO-VSO のボランティアは、長期的で持続可能な活動を目指している。ボランティアは、
そのプロフェッショナル性を求められ、派遣国の地域社会で現地の人々とともに住み、働く。
「貧困と不公平のない世界」を目的とし、特に力を入れている分野は、教育、HIV&AIDS、
障害、健康と社会的幸福、生計確保、参加とガバナンス、環境と天然資源の管理の 8 つである。
(3)CUSO-VSO のボランティア
CUSO-VSO は 43 カ国に対して、累計 12000 人以上のボランティアを派遣してきている。
2008 年に関しては合併直後であるために定かではないが、年間約 250 人のボランティアを派
遣している。
ボランティアの種類は、以下の4種類である。
1) 長期ボランティア
7ヶ月から2年(ただし言語訓練が必要な国に対する派遣は3ヶ月の訓練を含めた 27 ヶ月
間)までのプロフェッショナルの派遣。
105
2) 短期専門家派遣
3ヶ月から6ヶ月の派遣で、長期ボランティアより高い専門性を求められる。
3) 青年ボランティア
CIDA の International Youth Program を通じて19歳から30歳のボランティアを6ヶ月
派遣する。
4) ディアスポラ(Diaspora)ボランティア
カナダ国内に在住するディアスポラコミュニティ(主に移民)から彼らの起源である国にボ
ランティアとして派遣する。
5) ビジネスパートナーシップ
企業と連携し、6ヶ月から12ヶ月間、その企業の従業員をボランティアとして派遣する。
ディアスポラボランティアは5つの中でも特に特徴的なものである。現在は多くとも10名
程度の派遣であるが、CIDA の資金の増加によっては今後増加する見込みである。現在はエチ
オピア、ガイアナ、フィリピンのディアスポラに対して、他のNGOと連携してプロジェクト
を行なっている。
5−3.VSO Jitolee
(1)概要
VSO Jitolee は 1990 年に国際的 NGO として登録された。VSO Jitolee はケニアにおいて、
国内、国外ボランティアのリクルートベースであり、活動する場を提供している。
VSO Jitolee が力を入れているのは、
「生計確保プログラム」
、
「HIV&AIDS プログラム」
、
「障
害プログラム」
、
「国内ボランティアプログラム」
、
「国際ボランティア」である。
(2)ボランティア活動
1)国内ボランティア
ケニアの地域社会の様々な要望に応えるためにおこなっている。具体的には、以下のような
ものがある。
雇用者ボランティア(Employee volunteering)
:企業とパートナーシップをとり、雇用者が
ボランティアに従事する。
国際交流プログラム(Global Exchange program)
:ケニア人がイギリスでボランティアを行
なう。帰国したボランティアは、地域社会プロジェクトを援助するなどしている。
106
2)国際ボランティア
VSO Jitolee では、ケニア人とウガンダ人のプロフェッショナルを毎年平均 120 人(2007 年
は 123 人の長期ボランティアと 9 人の短期ボランティア)リクルートし、アフリカやアジア、
大洋州、中南米など 35 カ国に派遣している。
6.帰国ボランティアの活躍と社会還元
(1)CUSO-VSO
CUSO-VSO は帰国後ボランティアに対して、社会復帰のための帰国後研修(Reintegration
Weekend)を行なっている。この帰国後研修では、まず、Public Engagement について説明
される。元々は Development Education という言葉が使われていたが、Global Education を
経て現在の Public Engagement となった。この Public Engagement は、CIDA によって「人々
が国際開発についての優先課題と持続的な人間開発への基本的理解から、国際的な問題の原因
や結果の理解を通じて、個人的関わりや情報に基づいた行動へ移ることを可能にさせる一連の
過程と経験」であると定義されている。つまり Public Engagement という言葉を使用するこ
とにより、国際開発に関して認識するだけでなく、具体的な行動を起こすことの重要性を示し
ているのである。
CUSO-VSO は具体的に、帰国後ボランティアにとにかく家族や知人やメディアなどに自分
の経験を話すこと、つまり行動を起こすことを強調している。そのためにこの研修の最後には、
「誰に対して、何を、どのように行動をとるか」についてグループワークをし、その結果をフ
ォローアップしている。
また、CUSO-VSO は国際教育助成金として帰国後ボランティアに、250 から 750 カナダド
ルを与える。それを利用して帰国後ボランティアたちは、本の出版や写真展、学校でのプレゼ
ンテーションを通じて自らの経験を発表している。
このように、帰国後ボランティアがカナダ国内で自らの体験をもとにいかに具体的な行動を
とるか、ということを重視し、サポートしている。
(2)VSO Jitoleee
南のボランティア(southern volunteer)が「頭脳流出」であるという批判に対して、Laura
Popazzi
は 「 RETURNING
HOME:
THE
IMPACT
OF
INTERNATIONAL
VOLUNTEERING ON KENYAN CIVIL SOCIETY」という報告書でケニア人帰国後ボラン
ティアの国内での役割について調査し、考察している。
107
ケニア人ボランティアの多くが海外での活動後、ケニアに帰国している。また、帰国ボラン
ティアのほとんどがボランティア活動によって、コミュニケーションや対人関係の能力、訓練
する能力などを得、それが市民社会を強化することに利用できると述べている。
彼らの帰国後の行動にも効果が表れている。ケニアの開発に貢献したいと考えた帰国ボラン
ティアは、2003 年に NAVNET(National Volunteer Network Trust)を設立した。現在は
VSO Jitolee と連携してケニア国内のボランティア活動をサポートしている。さらに、地域開
発への貢献、地域から国内レベルまでの開発への関わり、地域プロジェクトへの参加、ボラン
ティアの促進、など実質的な役割をほとんどの帰国ボランティアが果たしている。
7.まとめ
CUSO-VSO を含めた VSO のボランティア活動の特徴は、NGO 性と専門性であろう。NGO
性は、イギリスがチャリティーの長い伝統を持つことと無関係ではない。カナダも NGO 支援
としてボランティア事業を展開していたが、一層の財政困難な中で、NGO 支援が減ることか
ら、CUSO と VSO の合併と言う事態になった。同時に NGO であることは、活動の多様性の
確保に取って重要なことであろう。CUSO-VSO は基本的には CIDA と同様 8 の目標を掲げて
いるが、必ずしも同一ではない。
専門性は VSO、CUSO を通じての大きな特徴である。これはアメリカの Peace Coops と比
較するとよく理解できるであろう。VSO は初めにプロジェクトありきで、そのプロジェクトの
実施のためにボランティアが求められ、リクルートする。ケニアの場合も HIV・AIDS を中心
としたプロジェクトを大きな柱としてボランティアのリクルートと採用を行っている。
また、ボランティアの側は、VSO ボランティアは、彼らのキャリアパスの一環であり、一つ
の職業としての側面が強い。それは VSO が展開している社会がボランティアをそのように見
ているからであろう。国際ボランティアの位置づけは社会の鏡なのであろう。
8.参考文献
Laura Popazzi. 2004. RETURNING HOME: THE IMPACT OF INTERNATIONAL
VOLUNTEERING ON KENYAN CIVIL SOCIETY : OPEN UNIVERSITY MSc
Development Management
財団法人国際開発センター. 2003. プロジェクト研究「日本型国際協力の有効性と課題」:国際
協力事業団 III-7-III-8.
108
高柳彰夫. 2001. カナダの NGO 政府との「創造的緊張」をめざして: 明石書店
CIDA ホームページ http://www.acdi-cida.gc.ca/index-e.htm 2009.3.29 アクセス
CUSO ホームページ http://www.cuso.org/ 2009.3.29 アクセス
CUSO-VSO ホームページ http://www.cuso-vso.org/en/ 2009.3.29 アクセス
VSO Canada ホームページ http://www.vsocan.org/ 2009.3.29 アクセス
VSO International ホームページ http://www.vsointernational.org/ 2009.3.29 アクセス
VSO Jitolee ホームページ http://www.vsojitolee.org/# 2009.3.30 アクセス
109
スペイン
1.調査概要
スペインはEU(EUropean Union:欧州連合加盟国)への加盟後も援助を受けてきた国であ
るが、著しい経済成長の後には援助する側となり多様な形のボランティア事業や国際協力事業
を展開している。国際協力事業の対象国の多くは旧植民地国である中南米諸国である。また、
移民の送り出し国でもあったスペインは、1999年以降、移民受け入れ国へと転換している。宗
主国を経験し、被援助国から援助国へ、そして移民送り出し国から移民受け入れ国家へと転換
していった構図は、日本社会と重なる部分も多い。
多民族多文化国家ともいえるスペインにとって、ボランティアや国際協力は社会の中でどの
ように認識されてきたのか、政府はどのような戦略の中に国際協力を位置付けているのか、
AECID(Agencia Española de Cooperación Internacional para el Desarrollo)などでのイン
タビュー調査およびスペインの国際協力機関が所蔵している文献研究を踏まえ検討する。
2.訪問者・調査日程
藤掛洋子 2008 年8月5日∼8月 10 日
梶房大樹 2008 年8月5日∼8月 12 日
3.訪問先
(1)AECID(Agencia Española de Cooperación Internacional para el Desarrollo)
面談場所:AECID事務所、 Av. Reyes Católicos 4, 28040 Madrid
面談日時:2008 年 8 月 6 日 15:00-17:00
面談者 :Ms.Maria Carmen Almeria
(2)INJUVE(Insituto de la Juventud)
面談場所:INJUV 事務所、 José Ortega y Gasset,71 - 28006 Madrid
面談日時:2008 年 8 月 8 日 10:00-12:00
面談者 :Sub Directora General , Ms. Pilar Bonilla Manzano,
(3)Coordinadora ONG para el Desarrollo-España(NGO)
面談場所:NGO 事務所、 C/ Fuentes, 10, 1º Izda.MADRID
110
面談日時:2008 年 8 月 8 日 15:00-17:00
面談者 :Ms. Teresa Sánchez Ravina, Information Service
(4)在スペイン日本大使館
面談場所:在スペイン日本大使館、C/Serano,109 28006−MADRID,SPAIN
面談日時: 2008 年8月8日 16:00-17:30
面談者:貴志創氏
4.スペインの国際協力に関する概況およびボランティア事業の変遷
1)スペインの国際協力に関する概況2
1975 年のフランコ政権崩壊後、スペインは民主主義へ移行した。1985 年に EU に加盟し、
それ以降 EU 諸国より援助を「受ける側」であったスペインが、後の急速な経済成長により、
中南米諸国に援助「する側」となった。1992 年は、EU 統合の年であり、スペイン王室の支援
を得たコロンブスが新大陸を発見してから 500 年目の年でもあった。そのためこの年にバルセ
ロナ五輪やセビリア万博が開催をされている。
EU への加盟により、スペインは EU の中でも低開発国として、多くの援助を受けてきてお
り、その対象となったのがスペイン内部の低開発地域である。スペイン内部は、貧しい地域と
豊かな地域の格差が激しく、貧しい地域が援助の対象となったのである。その後、著しい経済
発展を経たスペインは、国際協力のための法律を 1998 年に制定した。この法律により、国際
協力機関AECI(Agencia Española de Cooperación Internacional )が法的根拠のもと設
立された。この機関は、国際情勢を背景にしてスペインが新たに組織した点において、非常に
重要な任務と責任を負っている(Kuramochi XX)
。
EU 統合と経済発展を続けたスペインは 1999 年以降、欧州最大の移民受入国となった。2004
年における EU25 ヶ国の総受入移民数約 185 万人のうち、60 万人強をスペインが受け入れ、
2005 年1月時点で外国人総数は 369 万人に達し、スペイン総人口の 8.3%を占めている。2007
年 10 月時点では、スペインの人口 4500 万人に対し、外国人は約 450 万人となり、人口の 10%
となった。このように EU に向かう移民はスペインに集中しているといえる。
2
在日本スペイン大使館ホームページ、Kuramochi(XX)を参照。
111
スペインにおける不法移民の数は、推定100万人以上と言われている。2001年の外国人法の
改正により合法移民受け入れをスペイン政府は明確化するとともに、不法移民の取り締まりを
強化した。また、エクアドル・コロンビア・モロッコ等と移民協定締結、合法移民の国別受入
枠を設定した。
近年も、セウタやメリージャに4600人近いサハラ以南アフリカ住民が不法入国するなど、移
民問題は深刻であり、スペインはモロッコと緊密に協議すると共に、EU全体にも影響する案
件として、EUレベルでも問題を扱うことを提起している。
このような背景から、国内で行わなければならないボランティア事業や国際協力事業がたく
さん存在している。人の移動にともなう子どもの国籍問題や婚姻・離別に伴うジェンダー問題
は今後増加する一方であることから、EU諸国においても「移動とジェンダー」に関する研究
が活発に行われている。
日本とスペインは、植民地、被援助国から援助国、移民送り出し国から移民受け入れ国へと
いうように、社会変化の過程でいくつかの共通点を見出すことができる。
また、以下に述べるように、日本政府とスペイン政府は中南米諸国に向けた国際協力を協調
して実施することに合意している。
麻生総理大臣は、日本政府の立場から、2007年6月にスペインのモラティノス外務大臣と会
談を行い、世界第8位の経済規模を有し、国際社会で政治的にも重要な地位を占めているスペ
インとの協力を強化したい旨を述べた。また、モラティノス外務大臣が同会談で、スペインは
中南米諸国との強い絆を有しており、日本ともこの地域におけるプロジェクトを協力して行っ
ていきたい旨を述べた。それを受け麻生総理大臣は、政策協議に関する覚書を踏まえ、具体化
のための対話を行っていきたいと述べている3。モラティノス大臣の発言は、サパテロ政権が欧
州・地中海・中南米に重点を置いている背景を受けたものであるが、日本政府の国際協力がア
フリカへシフトする中、中南米諸国にスペイン政府と共同で国際協力を実施しようという方向
性が打ち出されたことは、三つの点から意味があると考える。一つには、戦前・戦後の移民が
日本から中南米に送り出されていった歴史を考えると、日本の中南米に向けた国際協力をなん
らかの形で継続することは必要であると考える。二つめには、多様な国家が支援を行うEU型
の援助は必要であると考える。三つ目に、日本の食糧問題を解決する国の一つとして中南米諸
3
日・スペイン外相会談(概要)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/g_aso/asem_g8_07/j_spain_gai.html(2007 年6月1日)
112
国や中南米に在住する日系農家との連携を深めるためにも日本と中南米諸国はより強い関係
性を持っておくことが望ましい。以上のことから、日本と中南米諸国は密接な関係を保ってい
く必要があると考える。
2)ボランティア概念の浸透とボランティア事業の変遷
スペインが援助供与国となった歴史は浅い。このような国では、ボランティア概念はどのよ
うに浸透していったのであろうか 。現代スペイン社会におけるボランティアシッ プ
(voluntariado:社会奉仕)は 1980 年代に始まったといわれるが、この時期のボランティア
活動は、福祉国家政策による社会的サービスが及ばない分野に限られていた。このため公共制
度のみに頼ることの困難が社会で認知され、ボランティアの必要性が理解される一方、ボラン
ティアシップに対しては、未熟な温情主義の行動で、近代的な方法論に欠けるといった認識が
なされていた(Ceperuelo Edo & Muñoz Castellanos 2005:125)。
ボランティアが急速に活性化したのは 1992 年以後で、様々な宣伝キャンペーンのほか、多
くのボランティア団体が登録され、チャリティ・イベントが開催された。結果、メディアなど
に取り上げられることも増えた。1992 年以前は、対 EU 加盟国、対 NATO(North Atlantic
Treaty Organization:北大西洋条約機構)加盟国などヨーロッパ地域内でスペインが近代国家
としての地位を築くことが命題であったのに対し、1992 年のバルセロナ五輪、セビリア万博
の開催を契機に、よりグローバルな市民社会を志向し始めたとする見方がある(在スペイン日
本大使館、貴志創職員へのインタビューより)
。
この頃には「ボランティアシップ」の用語がすべての無報酬活動に拡大解釈され、公務員や
政治家も無視できない市民社会運動が、一種の「ブーム」として語られるようになっていった。
そしてスペイン国内の各自治州で社会奉仕活動に関する法令が制定されていった(Ceperuelo
Edo & Muñoz Castellanos 2005:125)
。
1996 年に制定された社会奉仕法(Ley 6/1996 de Voluntariado Social)では、公共の関心事
への対処は国家と市民社会が共有する責任があるとの認識から、市民生活に影響する問題の解
決、とりわけ社会的な差別・疎外の撤廃に向け、特に自覚の高い個人のみでなく、市民の連帯
意識と利他的精神に基づいた組織を通じた社会貢献が期待されている。そしてこの連帯のため
の社会的なイニシアティブの表れを「ボランティア(voluntariado:奉仕の精神)
」と位置づけ
ている。
113
この意味で社会奉仕の精神は、単なるボランタリズム(自発的な意思)、個人的・孤立的・
散発的な行動、志は高いが非効果的な行動を超えなければならず、民間・公共を問わず組織が
個々のボランティアの努力、熱意、献身との相乗効果を図る必要を訴えている。重要視される
のは、公共であれ民間であれ、何らかの組織が活動を実施している点であり、これにより、友
人関係や好意、血縁・地縁などによる孤立的・散発的なボランティア個人の行動と、法律が規
定する社会奉仕活動とを区別している。
また、いかなる形態であれ無給である点も強調されている。この無給のボランティアと有給
の労働者という区別は、ボランティア個人とボランティア団体の間で紛争が起こらないように
するために、法律でボランティアの権利と義務を明確に規定することにもつながっている。社
会奉仕法で規定された権利と義務は、ボランティア団体自らがヨーロッパ地域および世界レベ
ルで開催した会議で採択された宣言の内容を基本としている。こうした土壌があるためか、ス
ペインでは各ボランティア団体が明文化した定款を規定している場合が多く、NGO を支援す
る組織(例えば Coordinadora ONG para el Desarrollo-España)が団体の規約・定款を作成
する方法を研修する教本も編集されている。
ボランティアが行う活動範囲は社会奉仕法第四条に例示され、教育からスポーツ、社会福祉
まで幅広く、開発協力・国際協力もその中に明記されている。活動実施地域の多様性を反映し、
社会奉仕法ではその付属条項で、海外ボランティアや開発協力ボランティアにも法律の適用を
規定している。
5.調査対象団体のボランティア事業の特徴(団体概要、調査内容など)
5−1. AECID
(スペイン国際開発協力庁:Agencia Española de Cooperación Internacional
para el Desarrollo)
1998 年に制定された国際開発協力法(Ley 23/1998 de Cooperación Internacional al
Desarrollo)によると、スペインの国際開発協力政策は、1978 年の憲法前文に発し、国際社会
の相互依存と連帯の概念に基づき、民主国家と発展途上国の間の外交の基礎であると位置づけ
られている。当時はスペインも被援助国とされていたが、1981 年より地域開発銀行(米州開
発銀行、アフリカ開発銀行、アジア開発銀行)の加盟国となり、EU の基金・プログラムと合
わせて資金を拠出してきた。
1985 年には、文化および経済関係と科学技術協力を担うすべての機関を統括するため、外
務省の中に「国際協力およびイベロアメリカのための国家事務局(Secretaría de Estado para
114
la Cooperación Internacional y para Iberoamérica)
」を設立した後、1988 年に開発協力に関
わる政策実施を整理すべく、外務省所管の独立機関である「スペイン国際協力庁(AECI:
Agencia Española de Cooperación Internacional)」が設立され、以来これが途上国への二国
間援助を担うこととなった。こうした中、スペインは 1991 年にOECDの開発援助委員会(D
AC)への加盟を果たし、以来他のドナー諸国と協調を図りながら開発協力を進めることとな
った。1996 年には、
「イベロアメリカ協力庁」と「アラブ・地中海・途上国協力庁」がAEC
Iの部署として統合され再編成されている。
なお、現政権の省庁再編を受け、スペイン現地調査実施時点(少なくとも 2005 年以降)で、
外務省(Ministerio de Asuntos Exteriores)は外務国際協力省(Ministerio de Asuntos
Experiores y de Cooperación)に、スペイン国際協力庁(AECI)はスペイン国際開発協力庁
(AECID)に改称されている。
1998 年の国際開発協力法では、国際開発協力政策は NGO など様々な社会政策の担い手を巻
き込んでこそ成功するものだという認識から、スペインが実施する開発のための多種多様な取
組みを効果的かつ一貫性を持った枠組みにまとめていくことを提唱している。このため、この
法律の第 6 章で「国際開発協力への社会参加」と題して、国家による非政府ベースの協力推進、
開発協力のための民間団体の定義とその登録、助成金制度、各団体の規律、財政的なインセン
ティブについて規定している。
このうち、NGO との連携およびボランティア活動との関係で注視しておくべき点が、ボラ
ンティア(voluntarios/as)と国際協力専門家(cooperantes)の違いである。国際開発協力法
では、ボランティアおよびボランティア活動については社会奉仕法の規定を準用しているが、
国際協力専門家については別項を設け、十分な学術知識と実務経験を有し、委託を受けて一定
のプロジェクトやプログラムの実施に携わる者と定めている4。しかし、それ以外の規定は 2006
年の「国際協力専門家規約(Estatuto de los Cooperantes)
」まで持ち越されていた。なお、こ
のようなボランティアと専門家の役割分担は、次に紹介する INJUVE(Insituto de la
Juventud:青少年庁)の活動にも表れている。
4両者の違いの説明には様々なものがあるが、国際協力専門家は契約により労働を提供する者、
ボランティアの労働は契約による条件も組織によってまちまちであるとされている
(Coordinadora ONG para el Desarrollo España の HP より)
。また、2、3 ヶ月の短期派遣が
多いボランティアに対し、専門家の場合は数ヶ月以上の長期派遣が多く、より職業性・専門性
が強くなる(Plataforma para la Promoción del Voluntariado en España でのインタビューよ
り)
。
115
5−2. INJUVE(青少年庁:Insituto de la Juventud)
青少年庁(Instituto de La Juventud:INJUVE)は、スペイン政府の青少年省に属する組
織であり、1959 年設立にされた。若者のボランティアを盛り上げ、社会問題を改善し、若者
に有意義な余暇を提供するのが目的である。
毎年、5月下旬にボランティアやワークキャンプの募集を締め切り、その後選抜に入る。応
募者の年齢は 30 歳までと非常に若い。学歴や応募者は学部学生、卒業生、修士修了生、社会
人など多様であり、スペインのみならず世界中から若者が応募してくる。活動期間は9カ月で
ある。
募集内容は、多岐にわたる。2009 年度の事例をみると 13∼14 世紀に建てられた宮殿の植物
園である Santa Catalina Botanic Garden での整備作業や、女性・子ども・若者に向けたパフ
ォーマンスを行い彼ら・彼女らを元気づけるもの、祭り開催のために地元のボランティアと会
場整備や壁磨きを行う、発掘作業、昔からの知恵を活かした環境保護など、あらゆる地域おこ
し、地域振興、ボランティア活動の募集がある。
なお、ボランティア活動ではなく、Cooperante と呼ばれる協力者もおり、スペイン政府と
雇用契約を結び、中南米諸国に派遣される。かかる費用は政府から支払われる。これは、日本
の青年海外協力隊事業に似ているものであり、日本政府とスペイン政府が強調して実施するこ
とのできる内容であるとかんがえられる。
日本国内において JOCA が行っている地域おこしは、スペインの国内ボランティアの事例が
参考になるだろう。
5−3.スペイン開発 NGO 調整団体(Coordinadora ONG para el Desarrollo-España)
(1)概要
開発と貧困撲滅を共通目標に、途上国でプロジェクトや協力活動を実施、調整する 100 以上
の NGO が加盟する非営利団体である(以下 Coordinadora と略す)。これらの加盟団体の主な
協力分野は開発と人道援助であるが、スペイン国内においては開発教育や啓発活動を行ってい
る(Coordinadora 2005: 21)
。Coordinadora 自体は海外へのボランティア派遣を行っていな
いが、各加盟団体のボランティア派遣情報がホームページで検索できるシステムを運営し、参
加希望者の応募を支援している。AECID からの資金援助も受けており、開発 NGO 間の調整
と、職員の能力強化のため各種研修、セミナー、調査などを実施している。
116
(2)ボランティア活動の現況
Coordinadora は AECID からの資金援助で開発 NGO に関する年間報告書を発表している。
2007 年実施調査によると、加盟 NGO の活動地域は、2006 年の支援額ベースで津波災害後の
復興支援によりアジアが急増したものの、アフリカが 30%、ラテンアメリカが 52%を占めて
いる5(Coordinadora 2008: 9、34)
。
開発 NGO で働くボランティアでは女性が多数(国内 68%、国外 62%)を占める。これを
年齢別に見ると、国内では 25∼45 歳と 45∼65 歳がほぼ同数(37%と 34%)で多数だが、国
外では圧倒的に 25∼45 歳(64%)が多い(Coordinadora 2008: 30)
。しかし、これらの数字
はそのほぼ全員が国内で働くスタッフの 21,000 人であり、実際にはこれ以外に年間 1,000 人
以上が、短期ボランティアでフィールド活動に参加している。参加期間は 3 ヵ月未満が 67%に
のぼり、1 年以上の派遣は 11%のみである(ibid.: 48)
。
58%の開発 NGO が途上国へボランティアを派遣している(ibid.: 64、70)
。その主要派遣国
は、ボリビア、ペルー、グァテマラ、エクアドル、ニカラグア、ホンデュラス、エルサルバド
ルとなっているが(ibid.: 48)
、この中には現地で実施されているプロジェクトを視察するスタ
ディツアーも含まれている(ibid.: 65、70)
。
(3)開発 NGO への社会的認知
Coordinadora が行った世論調査によると、NGO による途上国開発協力活動について「同感
である」
「非常に同感である」と答えた人の割合は 86%に上り(Coordinadora 2005: 22)
、開
発 NGO の活動がスペイン社会で広く受け入れられていることが窺える。一般にボランティア
によって運営されていると思われがちな NGO のスタッフについては、59%が有給スタッフの
契約に賛成と答えており、開発 NGO の実施する業務を「プロフェッショナル化」すること、
または「尊厳の保てる最低限の給与」を保証するべきと認識されていると思われる(ibid,: 28)。
開発 NGO による協力活動への市民参加については、限定的ではあるが東南アジアの津波災
害への復興支援キャンペーンの際、最近 1 年で「協力支援をした」と答えた人のうち、半数が
5
ラテンアメリカへの支援が半数以上を占める背景には、スペイン植民地時代からの関係やそ
れによる言語的文化的共通性もあると思われるが、近年急増する中南米からの移民労働者を抑
制する意義もある。つまり、本国で十分生活を維持できれば、ヨーロッパへの移民を抑制でき
るとするものである(Plataforma para la Promoción del Voluntariado en España でのインタ
ビューより)
。
117
一時的な募金をしている(震災支援全体では支援をした人の 9 割が募金)
。一方、ボランティ
ア活動に参加した人の割合は 8%にとどまっている。これを年代別に見ると、35∼54 歳で「会
員になる」割合が高くなるのに対し、ボランティア活動に参加するのは 25∼34 歳で高くなっ
ている。また 18∼24 歳ではフェアトレードや民芸品などを購買する割合が高くなる。これを
Coordinadora は、25∼34 歳世代が社会的経済的に不安定であるのに加え、国際協力を職業選
択の一つとして志向し、ボランティア活動をそのキャリア形成の第一歩とする青年が増えてい
ると指摘している(ibid.: 53-57)
。
6.まとめ
スペインでは、政府による国際協力としてのボランティア事業は現在確立の途上にある。海
外ボランティアの派遣を統括する団体も設置されていないようであり、現地へのボランティア
派遣は、AECID が財政支援する個々の開発 NGO にゆだねられている。特徴的なのは、1年
以上の長期派遣がボランティアの場合はほとんどなく、3ヶ月未満の短期派遣が主である点で
ある。このため、海外ボランティア活動に参加する青年は、仕事と仕事の合間や休暇を利用し
ており、これを将来の国際協力専門職へのキャリアパスと位置づけるケースも増加していると
思われる。
しかし、EU統合の流れの中で、アメリカの単独主義を批判しているスペインをはじめとする
EU諸国の姿勢は、今後の新たな国際協力の在り方を示すものでもあるだろう。日本は植民地
国や移民送り出し国に国際協力を実施している。また、21世紀に入り、両国とも移民の数が増
加しており、益々多民族多文化社会になると思われる。ここでみてきたスペインの国際協力、
そしてINJUVEにみられる地域おこしを世界の若者が担うプログラムは、JOCAが現在展開を
はじめている国内協力の一つの方向性を示すものではないだろうか。
また、日本とスペインが強調して中南米諸国に国際協力を展開するという新たな方向性も確
認された。これは、EUと日本がつながる可能性を示したものであり、これまでとは異なる国
際協力の可能性を示唆するものでもあると考える。
引用・参考文献
Ceperuelo Edo, Belén and Muñoz Castellanos, Hortensia (2005), Voluntariado y
Participación Ciudadana, Fundación Intered (ed.), Voluntariado para una Participación
Solidaria, pp. 117-138 (Módulo 5), AECI.
118
Coordinadora ONG para el Desarrollo-España (2005), Informe de la CONGDE sobre la
Percepción Social de las ONGD: así nos ven, Coordinadora ONG para el
Desarrollo-España.
Coordinadora ONG para el Desarrollo-España (2008), Informe de la Coordinadora ONG
para el Desarrollo-España sobre el Sector de las ONGD 2007, Digital Solutions.
Kuramochi, Yuki (XX)La Cooperación internacional para el desarrollo:Desde España hacia
Iberoamerica,Facultad de Ciencias Políticas y Economía Seminario de Latinoamérica y
España(http://www.waseda.jp/sem-lateame/02work/Estructura.htm 2009.05.10 アクセ
ス).
塚本剛志(2006)「ボランティアの動機と文化的要素―スペインにおける予備的考察」、『国
際開発フォーラム』、32:157-172。
スペイン語法律条文
Ley 6/1996, de 15 de enero, de Voluntariado Social
Ley 23/1998, de 7 de julio, de Cooperación Internacional al Desarrollo
ホームページ
Coordinadora ONG para el Desarrollo-España. (http://www.coordinadoraongd.org 2008 年
8月 10 日アクセス)
在日本スペイン大使館
(http://www.es.emb-japaNGO.jp/japones/relaciones_saikin.htm2008 年5月 10 日アクセス)
119
フランス
1.調査概要
国際協力ボランティア活動の帰国後ボランティア(以下帰国ボランティア)の意識と帰国後
のフランス社会への再適応に関する実態を把握するため、これまでに実施された調査研究のレ
ビューを行なうとともに、ボランティア派遣団体および帰国ボランティアの当事者団体に対し
てインタビューを行なった。
2.訪問者・調査日程
北村広美・
麻里
2008 年 9 月 29 日∼10 月 6 日
3.訪問先
(1)Association Française des Volontaires du Progrès
面談場所:AFVP Office Meeting Room
11, rue Maurice Grandcoing, Ivry sur Seine
面談日時:2008年10月1日 (水) 10:30∼11:45
面談者 :Ms.Frederique WILLIAME, Chargée de Communication
(2)Horizons Volontaires
面談場所:Café, Saint Charles Station, Marseille
面談日時:2008 年 10 月 2 日 (木) 17:30–19:30
面談者 :Mr.Fabrice Amaudruz
4.フランスにおける海外ボランティア事業(ボランティア派遣)の変遷
フランスでは1998年に援助体制の改革が行われ、外務省をはじめとして関係省庁の編成
が大きく変わった。フランスで開発援助実施に関係する省庁は多数あり、非常に複雑な仕組み
になっている。また、1998年以前にどのような形で政府がボランティア事業を行っていた
のかについては情報が少ないため、詳細は不明である。本項では、現在フランス政府によって
行われているボランティア事業に関係するものだけをまとめたい。援助体制の改革については、
国際協力銀行開発金融研究所(2006)に詳しい。現在、政府によるボランティア事業支援は、
120
以下のプログラムを通して行われている。
(1)Volotariat International en Entreprise(VIE)
経済財政産業省によって行われているボランティア事業で、ボランティアは海外のフランス
企業で、商業、科学、技術分野の仕事を行う。
(2)Volontariat International en Administration (VIA)
外務省が大使館、領事館や文化センターなどで働くボランティアを派遣するプログラムであ
る。28 歳以下のフランス市民を対象としている。
(3)Volontariat de Solidarité International (VSI)
外務省が、海外へボランティア派遣を行っている 28 の NGO と連携して行っているプログ
ラムである。1 年∼6 年の期間で活動を行い、18 歳以上であれば年齢の上限制限はない。2006
年には 102 カ国へ 1700 名のボランティアを派遣した。このプログラムには、国際協力分野で
初めて仕事をする人が多く参加する。
5.調査団体のボランティア事業の特徴
5−1.AFVP(Association Française des Volontaires du Progrès)
(1)概要
AFVP は、1963 年に設立されたボランティア派遣事業を行う団体である。以前より、フラ
ンス外務省からの助成金が AFVP にとっての主な資金源であり、フランスのボランティア派遣
NGO としてはもっとも多くのボランティアを派遣してきた。AFVP のボランティア派遣事業
は外務省の国際連帯プログラム(VSI)プログラムの一部であるが、AFVP には VSI 連携団体
とは別の予算枠が設けられている。
2008 年の AFVP の予算は 13 百万ユーロであった。そのうちの 60%(約 800 万ユーロ)外
務省からの資金である。外務省以外には、地方自治体、国際協力 NGO、フランス開発庁、欧
州連合、世界銀行などから資金が提供されている。AFVP は団体としての資金源を持っていな
いため、運営、活動などはすべてパートナー組織からの助成金で行われている。
AFVP は、ボランティアの募集、派遣前訓練、活動中の支援、帰国後の社会復帰支援まです
べてを独自に行っている。
(2)ボランティアの派遣
現在、21 歳から 30 歳までの若者を年間約 350 名派遣している。これまでに派遣したボラン
ティアの総数は約1万1千人を超えた。アフリカ、東南アジア、インド洋とカリブ海諸国、ラ
121
テンアメリカなどの約 30 カ国を中心に派遣している。主な活動分野は、地域開発、地方分権
化支援、組織強化、保健、教育、環境、生物多様性、持続可能なツーリズム、青少年活動、市
民社会など多岐にわたる。フランスには、多くの国際 NGO(開発援助系 NGO)があり、その
中でも医療や人道支援などを得意とする NGO が多いため、これらの分野にはボランティアを
派遣していない。通常、派遣期間は 2 年である。すべてのプログラムは、フランスの国際協力
政策ガイドラインに沿って計画、実施される。
5−2.Horizons Volontaires (帰国ボランティアの団体)
(1)団体概要
Horizons Volontaires は OB・OG 会のような団体であり、ボランティア派遣事業は行って
いない。
2002 年に 5∼6 人の帰国ボランティアによって設立され、
現在の会員は約 20 名。
AFVP
の帰国ボランティアが多いが、他 NGO の帰国ボランティアもいる。活動の拠点は、フランス
南西部のマルセイユ(Provence-Alpes-Côte d'Azur 地域圏の首府)のである。
設立メンバーによる調査によって、フランス国内の人々や職場の上司がボランティア活動や
彼らの海外での経験に無関心であることが明らかになり、帰国ボランティアが一人にならない
ようなネットワークを持つことを目的として会が設立された。情報ネットワーク、イベント開
催や就職情報の交換、ボランティア説明会での講演などを行っている。
フランスでの国際協力の場は国レベルから地方レベルに変わってきている一方、地方行政機
関で国際協力の活動経験や知識を持つ人は非常に少ない。今後は、地方行政と連携して活動を
行いたいと考えている。
(2)調査研究の要約
ここでは、Amaudruz 氏による調査研究をもとにしたインタビュー結果を報告する。
2008 年 6 月∼7 月にかけて、Horizons Volontaires に登録している帰国ボランティア 67 名
に対して質問紙を配布し、25 名から回答を得た。またそれに並行して帰国ボランティア、
Horizons Volontaires 代表者、Service Volontaire Européen(ボランティア送り出し団体)の
担当者に対してインタビューを実施した。
質問紙調査回答者の属性は、男性 36%、女性 64%で、年齢は 26-38 歳(中間値 30.6 歳)
、学
歴は 92%が学士またはそれ以上の学位を保有していた。所属団体は複数にわたっていたが 80%
は AFVP であった。活動参加理由は、専門的職業経験を得ること(20 名)
、海外滞在経験の希
122
望(19 名)
、社会活動への参加意識から(16 名)等である(以上複数回答)
。
活動に対する満足度は「満足」が 74%、
「あまり満足していない」が 19%、
「まったく満足し
ていない」が 7%であった。活動により得たものは、職業的側面として専門性や新たな能力、
マネジメント能力等、個人的側面として異文化適応能力、状況理解力、
「開かれた心」
、コミュ
ニケーション能力等であった。
帰国時になんらかの困難を感じた者は 50%で、具体的には帰国時カルチャーショック、活動
により得た能力の活用、再就職や新たな住居探し等である。活動経験をその後の就職等に活か
していると回答した者は 84%で、分野を変更した者は 64%であった。
帰国後にコンタクトをとった組織等での国際協力ボランティア活動に関する認知度は、一般
の就職に関する窓口(ANPE=公共職業安定所)とアソシアシオン(非営利の社会活動団体)
で異なっており、ANPE では認識が低く、アソシアシオンでは高いという傾向がみられた。た
だし、ANPE では帰国ボランティアの能力は高く評価されているという、矛盾した結果が得ら
れた。
帰国時に実施してほしい支援内容は、職業訓練や経済的支援が多かったが、社会的認知を高
めることや帰国ボランティアどうしが出会える場所という回答もみられた。
帰国後に周囲に与えたインパクトとしては、国際協力活動への興味や社会参画への意識の向
上、社会活動団体への意識の他、実際に国際協力ボランティア活動の参加を促したといった回
答もあった。
質問紙調査の回答とインタビューの結果を分析した結果、1)国際協力活動の社会的認知度
の向上、2)活動経験を活かした雇用機会の確保、3)行政による支援、4)帰国ボランティア
による人的ネットワークの構築が必要であるとの結論に至った。
Horizons Volontaire は地域の学校や社会活動団体に対し、積極的に国際協力活動の報告や啓
発の機会を提供しているほか、定期的に帰国ボランティアどうしの交流の機会も設けており、
地域および帰国ボランティア自身に効果をあげていると感じているとのことであった。
6.帰国ボランティアの現状と帰国後の支援(1)帰国ボランティアに関する調査研究:活動
参加の意義
CLONG-Vorantariat(12 の国際協力 NGO によるネットワーク、AFVP を含む)によって
行われた帰国ボランティアに関する調査研究より紹介する。
調査は 2003 年 5 月 5 日∼13 日、CLONG に加盟している団体から派遣されたボランティア
123
のうち、帰国後 5 年未満の者(無作為抽出)501 名を対象に、自宅への電話インタビューとい
う方法で実施された。
回答者の属性は、56%が男性、44%が女性で、年齢層は 25-34 歳が 75%を占める。また 33%
は兵役代替としてのボランティア活動者であった(フランスの徴兵制は 2001 年に廃止されて
いる)
。また 73%は bac+3(大学卒)またはそれ以上の学歴を保有している。
ボランティア活動への満足度に関しては、帰国後の求職活動や最適応への困難さにもかかわ
らず、96%が満足であると回答している。
(職業訓練や大学での教育と比較して)ボランティア
活動でより得られたものとしては、
「職業上の能力(技術、チームワークなど)
」
(71%)
、
「開か
れた心や現地への適応力」
(26%)
、
「コミュニケーション能力」
(15%)などである(複数回答)
。
また回答者の約 1/3 が、
「活動で得た能力を活かしたい」
、
「活動を通じてミッションに対する興
味が増した」等の理由から、帰国後に職種を変更している。
帰国ボランティアのメンタリティに関して、「進歩」と「保守・保身」のいずれのメンタリ
ティに近いかという質問に対しては、帰国後ボランティアの 94%が「進歩」と回答した。なお
一般フランス人は同様の回答が 77%であった。また行使したい社会的権利(投票行動、アソシ
アシオン(民間の社会活動団体)への参加、寄付行為、署名活動など)において、一般フラン
ス人よりも意識が高いという結果が得られた。また活動で向上した人間的資質については、
「開
かれた心や適応性」
(92%)
、
「コミュニケーション能力」
(64%)
、
「精神面」
(39%)という回
答があった。
93%の回答者が、国際協力ボランティア活動の経験が周囲の人に何らかのインパクトがあっ
たと回答している。その内訳は「国際協力活動への興味を喚起」
(85%)
、
「ボランティア活動
に参加」
(63%)
、
「アソシアシオンへの参加または寄付」(60%)等である。
以上の結果より、1)国際協力ボランティアの年齢層は若く、高学歴である、2)責任感が強
く、社会参加意識が高い、3)専門的能力を獲得している、4)もっとも社会意識を高める活動
のひとつである、ということができる。
(2)AFVP による帰国ボランティア支援
AFVP では、4 日間の帰国研修をボランティア活動の最後のミッションと位置づけている。
ボランティア達は、2 年間の活動中に現地の人々と交流し、様々な思い、考えや経験を得て帰
国するが、多くのボランティアはそれらを表現する手段を持っていない。これをふまえて、帰
国ボランティア同士が経験や感情を共有する時間をもつと同時に、プロの講師から指導により
124
経験や感情を表現するプロセスを体験したり、プレゼンテーション作成の技術を学んだりする。
現在、AFVP が直面している課題は、フランスの一般市民がボランティアの知名度が低いと
いうことである。ボランティアについてより多くの市民に理解してもらうために、彼らの経験
をより多く話してもらうことが必要である。帰国研修は、これらの帰国後活動を活発化させる
ためにも重要である。
一方で、AFVP では帰国ボランティアには、義務や責任は一切ないとしている。OB・OG 会
なども自主的に設立されるものであり、
AFVP からの特別な働きかけは何もしていない。
また、
就労支援なども行っていない。このような関係性において、21 歳から 30 歳という若者が活動
によ って成長 して帰国 し、その後 はその経 験を個人 の豊かさ ( Personal Richness /
Enrichment, Personal Development)として彼らの人生の中で個人として活かしていけるよ
うにすることも、帰国研修の目的であるとしている。
7.まとめ
ボランティア派遣団体と当事者団体の二者に対してインタビューを実施したが、いずれも帰国
後の社会再適応に関して注意を払っていることがわかった。特に AFVP では帰国ボランティア
が集まり活動内容や思いを語り合うという場をもって、活動の総括と位置づけていることが印
象的であった。帰国ボランティアが感じがちな帰国時カルチャーショックを緩和し、新たな活
動へのモチベーションを高めるためにもこういった機会は日本でも積極的に導入することが
必要であると考えられる。
8.参考文献
CLONG-Volontariat (2004) Le Volontariat de Solidarité Internationale: un parcours de
citoyennité,CLONG-Volontariat
フランス外務省ホームページ http://www.diplomatie.gouv.fr/ 2009.4.29 アクセス
AFVP ホームページ http://www.afvp.org/ 2009.4.29 アクセス
Amandruz 氏の修士論文
Les enjeux du retour en France des volontaires de la solidarité internationale, Fabrice
Amandruz, 2008. (Thèse de Master de la Université du Maine)
国際協力銀行開発金融研究所(2006)フランス援助機関動向調査、国際協力銀行開発金融研究
所
125
英国
1.調査概要
英国の国際 NGO、VSO UK(Voluntary Service Overseas UK)を訪問し、VSO UK のボラ
ンティア事業、国内開発教育事業、および英国国際開発省(DFID:Department for
International Development)の援助政策における国際ボランティア事業の位置づけ等に関す
る聞き取り調査を行った。
2.訪問者・調査日程
麻里
2008 年 12 月 6 日∼12 月 11 日
向井かおり 2008 年 12 月 7 日∼12 月 12 日
3.訪問先
VSO UK (Voluntary Service Overseas UK)
面談場所:VSO International 事務所
Carlton House, 27A Carlton Drive, Putney, London
面談日時:2008 年 12 月 9 日 (火) 14:00-15:10
面談者 :Ms. Anne McCabe, Active Communities and Partnerships Manager
4.英国における国際ボランティア事業
1997 年、労働党政権による開発政策大きな変革の中で、英国外務省の管轄下に置かれてい
た海外開発庁(Overseas Development Administration)は、担当大臣を置く独立した省に格
上げされ、国際開発省(DFID:Department for International Development)と改名した。
DFID は 1997 年に 22 年ぶりに国際開発白書を発行し、貧困削減への取り組みを強化するこ
とを強調したほか、アカウンタビリティや透明性の向上、開発全般に対する英国市民の意識や
理解を向上させる開発教育の推進などが明記された。続いて、2000 年、2006 年に国際開発白
書を発行した。また、開発援助の目的としては貧困削減を第一義とすることが 2002 年 6 月に
施行された国際開発法に明記されている。
DFID は国際協力における NGO や市民団体に期待する役割を明確に示している。つまり、
英国 NGO の役割は、途上国でのプロジェクトの直接的な実施ではなく、側面的支援であり、
126
英国国内での国際協力に関するアドボカシーや開発教育の推進、つまり、英国開発援助への支
持基盤の拡大であるとしており、こうした方針に沿って NGO に対する財政支援を行っている。
DFID は直接的にはボランティア事業は行っておらず、NGO のボランティア事業に対する財
政支援を行っている。DFID のボランティア事業に対する財政支援スキームは以下の3つであ
る。
(1)Partnership Programme Arrangements(PPAs)
Partnership Programme Arrangements(PPAs) は 2000 年に開始した市民社会組織支援ス
キームである。現在、NGO27 団体が DFID から財政支援を受けている。PPA は、目的を共有
する NGO と DFID がミレニアム開発目標などの国際的な開発目標を達成するために双方がど
のような連携を行ったらよいかを話し合い、目的達成のための指標や評価とモニタリングの手
法、財政的な取り決めを行うものである。大枠での取り決めと NGO からの報告書の提出以外
は、細かな事務手続きなどは要求されない。
当初、PPAs の対象は英国に基盤を置く組織に限られていたが、現在では英国以外の団体も
対象となり、ここ数年は、DFID の海外事務所が途上国の現地 NGO と契約を交わし、財政支
援するケースも増えている。PPAs の総額は年間約 9000 万英ポンドである。この PPAs スキー
ムはボランティア派遣事業を行なう NGO にとっては重要な財政源である。
(2)その他のボランティア事業への財政支援
DFID は、2006 年の国際開発白書”Eliminating world poverty”の中で、異文化理解・開発教
育の一環として3つのボランティア派遣プログラム、すなわちユース・ボランティア(Youth
Volunteering), インターンシップ(Internship), ディアスポラ・ボランティア(Diaspora
Volunteering)への財政支援を明言し、そのうちユース・ボランティアプログラムとティアス
ポラ・ボランティアプログラムが 2008 年から開始された。この2つのプログラムは 3 年間限
定で実施される予定であり、PPAs のような継続的スキームになるかどうかはいまのところ不
明である。
(3)青年ボランティア「プラットフォーム2」 Youth Volunteering “Platform 2”
プラットフォーム2 と名付けられたこのプログラムは、18 歳∼25 歳の若者を開発途上国へ
派遣しボランティア活動を行った後、英国国内で異文化理解・開発教育に携わるという海外活
動と国内活動をセットにしたプログラムである。2008 年から 3 年の期間に 2500 人の若者を派
127
遣することを目標とし、1億英ポンドの予算が DFID に用意された。プログラムを実施する
NGO は、Christian Aid, Islamic Relief, BUNAC の 3 団体である。このプログラムは特に、こ
れまであまり海外に出る機会のなかった若者や、貧困などの国際課題について考える機会の少
なかった若者を対象にしている。また、帰国後、彼らの住む地域において、彼らがボランティ
ア活動から学んだことを活用した異文化理解・開発教育活動をセットにしたユニークなプログ
ラムである。プログラム参加については、専門的な技術や知識は要求されていない。
(4)ディアスポラ・ボランティア Diaspora Volunteering
DFID は 2008 年から 3 年間に、600 人以上のディアスポラ・ボランティア派遣を開始した。
DFID 予算は 3 年で 300 万英ポンドであり、その他には The Big Lottery Fund が National
Lottery の収益の半分をこのプログラムに寄付している。
このプログラムは、VSO UK と英国内のディアスポラグループの協働によって実施されてい
る。現在、VSO UK は 13 のディアスポラグループと連携しており、将来的にディアスポラグ
ループが独自のボランティアプログラムを展開できるよう、組織の能力開発やプログラム管理
について、ディアスポラグループへの支援を行っている。
5.調査団体のボランティア事業の特徴
5−1.VSO UK
(1)概要
VSO UK は、ボランティア事業を通して貧困削減に寄与することを目的とする国際開発系
NGO である。かつては、ボランティアの多くが職業経験のない新卒者であったが、現在では
ほとんどが技術や知識を持つ専門家ボランティアである。海外ボランティアの年齢は 18 歳か
ら 75 歳までと幅広く、平均年齢は 41 歳である。また、約 60%が女性である。1958 年からボ
ランティア派遣が始まり、これまでに3万3千人のボランティアが 120 以上の国で活動した。
2001 年には 44 カ国で活動していたが、活動の効果を高め、人材を有効に活用するため派遣国
を減らしており、現在の派遣国数は33カ国である。 現在、1500 人の専門家ボランティア
が活動しており、おもな活動分野は教育、障害者支援、HIV/AIDS、社会保障、ガバナンスな
どである。
VSOUK と DFID の PPAs は 2005 年から 2011 年までの6年契約であり、
中間年である 2008
年に契約内容の見直しが行われた。2008 年に両者が同意した 4 つの PPAs 目標は、1)
HIV/AIDS 対策支援、2)教育支援、3)障害者支援、4)英国開発援助への英国市民からの
128
支援を増加させることである。1)から3)は海外活動によるインパクトを、4)は国内活動
によるインパクトをモニタリング・評価する。
2007 年度の VSO UK の年間予算は 4310 万英ポンドであり、
そのうち、DFID からは約 2800
万英ポンドと半分以上を占めている。他の基金や他のドナーから 910 万英ポンド、寄付・ファ
ンドレイジングは 460 万英ポンドとなっている。
(2)ボランティアの派遣形態
Long-term :活動分野における専門知識と技術が要求される。2年間の途上国でのボランテ
ィア活動のほか、900 英ポンドのファンドレイジングが義務づけられている。
Short-term :より高度な専門知識を持ち、シニアアドバイザーやコンサルタントのような役
割を担う。活動期間は活動内容に合わせて、数週間から数ヶ月となっている。
Youth for development :対象は 1 年以上の職業経験を持っている 18 歳から 25 歳の若者。
海外ボランティアや国際協力に興味がある者に対して途上国での実践や経験を提供する。おも
な活動分野は、初等教育(教師)
、プログラムマネージメント、ファンドレイザー、IT 技術、
HIV/AIDS 支援、障害者支援である。1 年間の途上国でのボランティア活動のほか、帰国後の
国内での異文化理解・開発教育活動、900 英ポンドのファンドレイジングが義務づけられてい
る。
(3)その他の特徴的なプログラム“グローバル・エクスチェンジ Global Xchange”
Global Xchange プログラムは、18 歳から 25 歳の若者を対象としたボランティア交流プロ
グラムである。英国の若者 9 名と開発途上国(プログラム内ではパートナー国と呼ばれている)
の若者 9 名が1つのグループとなり、英国の比較的貧しい地域で3か月間、開発途上国のある
地域で3か月間、18名が協力し合って、草の根グループボランティア活動を行うプログラム
である。英国とパートナー国から1名ずつのファシリテーターが共に行動し、それぞれの活動
をサポートする。双方の国でのボランティア活動中は、受入地域の家庭にホームステイをし、
地域の人々と生活を共にする。プログラムは、異文化理解・開発教育やボランティア活動から
の学びだけでなく、地域開発、組織学習論などの手法を取り入れ、幅広い学びを獲得できるよ
うに構成されている。異なる文化背景を持つ若者たちが共に生活し、地域住民との協働するこ
とを通して、参加者にも地域とその住民にも多様なインパクトを与えると高い評価を得ている。
このプログラムは、海外ボランティア活動のノウハウを持つ VSO、英国国内ボランティアの
ネットワークや知識を持つ CSV(Community Service Volunteers)、異文化理解・開発教育分
野の経験を持つ British Council の3団体の連携により行われている。
129
6.VSO UK による帰国ボランティアへの支援体制と活動
近年、ますます多様性を増す英国社会において、DFID のみならずすべての英国政府機関で
は、国内の社会統合(Social Cohesion)の強化に関する議論が行われている。DFID は、海外
での生活経験を得た帰国ボランティアを英国社会のつながりを強化するための重要なリソー
スと捉えている。
DFID は、数年前から VSO に対して、帰国ボランティアが英国市民への異文化理解・開発
教育の促進や開発援助への理解向上にどのような貢献ができるのかを示すことを求めている。
これに対応して VSO は帰国ボランティアの国内活動の支援と広報を充実させてきた。
さらに、VSO では帰国ボランティアの国内活動を実施する中で、これらの活動は対象を帰国
ボランティアに限らず、英国市民全員とするべきであると気付いたという。海外に行って活動
することはできないが、国内において、途上国の人々を支援したり、貧困削減などの地球規模
の課題解決に寄与できることを強調し、市民のこうした活動への参加を呼び掛けることとなっ
た。このほか、VSO 国内活動の間接的成果として以下の2点があるという。一つ目は異文化理
解や開発教育は英国社会の健全化に資することである。もう一点は英国市民が地球規模の課題
や開発への関心を高めることでより多くの寄付が集まり、また新たなボランティア候補者が増
える点である。これらは VSO UK にとって重要な成果であり、ひいては英国の国際協力の目
的に合致している。
2008 年からの DFID と VSO の PPAs には、英国開発援助への英国市民からの支援を増加さ
せることを目標の一つとして組み込まれており、DFID への報告書の約 25%はこうした国内活
動についての言及である。このように、国内での国際課題への取り組みや、開発教育への参加
と、海外ボランティア活動は相互に補完しあうものであり、この点に関して DFID、VSO とも
に一致している。
このような状況の中、VSO は帰国ボランティアに対して以下のような取り組みを行っている。
(1)帰国ボランティアとのコンタクトの継続
①帰国ボランティアのつどい(RV Weekend)
VSO は年に 3 回、帰国ボランティアのつどいを開催し、それぞれの活動報告、社会貢献活動
についての理解を深める機会や、帰国ボランティア同士がネットワークを結ぶきっかけづくり
の場を提供している。長期、短期、ユース、ディアスポラの帰国ボランティアが一斉に集まる
貴重な機会でもある。しかし、日本や他国で行われているような、帰国後研修は実施していな
130
い。
②オンラインコミュニティ(Online Community)
オンラインコミュニティと呼ばれるインターネット上のコミュニケーションの場を提供し
ている。VSO に興味のあるものならだれでも参加でき、同じ関心を持つ者同士が知識や情報を
共有したり、ボランティア候補者と経験者からのアドバイスを得たり、また国内活動者と海外
活動者が交流することができる。
(2)帰国後、海外経験を生かした地域活動・社会活動の支援
帰国ボランティアによる国内活動への支援としては、おもに財政支援を中心として行ってい
る。その他には、地域や学校でのプロジェクト実践技術研修もある。
(3)国内での取り組みと、海外ボランティア活動のつながりの強調
帰国後も、様々な形で国際協力活動や VSO と関わっていられるように、定期的なキャンペ
ーンの実施、ファンドレイジングイベントへの積極的な参加を呼び掛けている。また、海外経
験のない市民や帰国ボランティアからなる国内サポートグループを各地に結成し、イベントの
開催や新規ボランティアなどの勧誘を行っている。
(4)ボランティアプログラム自体への帰国後の国内活動や地域活動の組み込み
ユース・ボランティア、ディアスポラ・ボランティア、グローバル・エクスチェンジなどの
プログラムでは、帰国後の国内活動や地域活動がプログラムに組み込まれている。
(5−1参
照)
7.まとめ
DFID は、英国国内での開発教育事業が不十分であったことを認識し、
、1997 年以降、開発
教育を積極的に行う方針を打ち出した。DFID は、開発教育は国民一人一人が貧困などの地球
規模の課題解決への寄与を促進するだけではなく、多様性を増す英国社会のつながりを強化し、
英国社会の健全化に資するものと考えている。また、開発教育を促進していく上で、開発途上
国でのボランティア経験をもつ帰国ボランティアを開発教育実践の重要な担い手と捉えてい
る。
VSO UK では、帰国ボランティアの国内活動への支援だけではなく、特に若年層で、これま
であまり貧困などの課題について考える機会やボランティア活動に関わる機会のなかった若
者へのアプローチを強化している。このような若者を対象としたボランティアプログラムには、
単に海外ボランティア活動の機会を提供するだけではなく、英国国内地域での開発教育活動を
131
組み込んでいる。さらに、ボランティアがフェアトレード物販などのファンドレイジング業務
を実践したり、異なる文化背景を持つ若者と協働するなど、ボランティアプログラムの中にも
開発教育実践の視点が盛り込まれている点が印象的であった。
本項では、VSOUK のボランティア事業について報告したが、VSO 活動への参加がボランテ
ィアにどのような影響を与えたか、帰国ボランティアが現在どのような活動を行っているかい
ついては、2008 年に Institute of Volunteering Research によって調査が行われ、
「The impact
of returned international volunteers on the UK : A scoping review」に詳しく報告されている。
8.参考文献
英国国際開発省(DFID) ホームページ http://www.dfid.gov.uk/ 2009.5.15 アクセス
VSO UK ホームページ http://www.vso.org.uk/ 2009.5.15 アクセス
VSO UK , VSO Public Engagement PRset
Get involved
Institute of Volunteering Research (2008) The impact of returned international
bolunteers on the UK:A scoping review, Institute of Volunteering Research
132
スウェーデン
1.調査概要
スウェーデンでは、
長年、
開発協力分野の NGO によってボランティア活動が行われてきたが、
現在、スウェーデンでは ODA によるボランティア派遣はほとんど行われていないことがわか
った。日本をはじめ他国がボランティア派遣数を増加させようとしている中、なぜスウェーデ
ンがボランティア派遣を積極的に行っていないのかについて聞き取りを行った。また、外務省
スウェーデン開発協力局(Sida)の政策と独自の取り組みである研究協力(research
cooperation)について調査を行った。
2.訪問者・調査日程
中村安秀・
麻里
2008 年 11 月 30 日∼12 月 5 日
3.訪問先
(1)Sida, Swedish International Development Cooperation Agency
面談場所:カロリンスカ研究所(Karolinska Institutet)
面談日時:2008 年 12 月 2 日 (火) 17:00∼18:30
面談者
:Ms. Hanna Akuffo, Team Reader of Team Research Policy and Method
Development, Secretariat for Research Cooperation, Sida
(2)Svalorna Latinamerika-NGO
面談場所:Svalorna Latinamerika 事務所,Tegelviksgatan 40 116 41 Stockholm
面談日時:2008 年 12 月 4 日 (水) 10:30–12:30
面談者 :Mr.Klas Sellström, Programs Officer
Mr.Luis Larrea Morales, Staff coordinator and Programme officer
4.スウェーデンにおける海外ボランティア事業(ボランティア派遣)の変遷
スウェーデンにおける海外ボランティア事業は、その始まりから今日に至るまで、スウェー
デン NGO が非常に重要な役割を担ってきた。
スウェーデンの開発協力は、1866 年に初めてエチオピアへ派遣されたキリスト教宣教師達
133
の活動から始まった。1952 年には、スウェーデン外務省の指導のもと、44 の NGO、政府、
経済セクター関係の代表者で構成された政府開発協力中央委員会を設立した。当初は、第 2 次
世界大戦後のヨーロッパ再建の経験をもつスタッフによる、開発途上国への技術指導や専門家
派遣が主な事業であった。
1962 年、スウェーデン議会は、最初の開発協力法案を承認した。この法案で、スウェーデ
ンの開発協力のゴールを「貧しい人々の生活水準を改善することである」とし、このゴールは
今日も変わっていない。
スウェーデン国際協力機関(SIDA:The Swedish International Development Authority)
は、1965 年に設立された。この年から、SIDA を通して、政府資金が開発協力分野で活動する
NGO へ支援され、多くの NGO が開発や支援活動を拡大することが可能となった。1979 年に
入って、
“20/80 rule”が採択され、
NGO がプロジェクト実施のため SIDA の支援を受ける場合、
係る経費の 20%は NGO 自身が負担することとなった。
この 20%負担は、
2005 年に入って 10%
負担に変更されている。
1989 年ベルリンの壁崩壊後、
中欧と東欧で開発協力プログラムが開始された。
1992 年には、
他地域の発展途上国支援に加えて、中欧、東欧支援のための特別予算が計上された。
1995 年には、スウェーデン開発協力庁(Sida:Swedish International Development
Cooperation Agency)が設立された。Sida は、SIDA や 4 つの小さな政府機関が多面的に開発
協力分野で働くことを目的とし、編成されたものである。
2003 年、スウェーデン議会は新しい開発協力政策として「Policy for Global Development
(PGD)Shared Responsibility」を採択した。貧困撲滅のための自助努力を支える環境への貢
献を目的とし、被援助国自身の戦略及び優先度に基づいた援助を目指すことを明確にした。
スウェーデンの開発協力事業の中で、政府としてボランティア派遣事業を行ったことはない
が、開発協力活動の重要な担い手である NGO は、政府からの資金援助によって多くのスウェ
ーデン市民を途上国に派遣してきた。
5.調査対象団体のボランティア事業の特徴(団体概要、調査内容など)
5−1.Sida(Swedish International Development Cooperation Agency)
(1)概要 [Sida]
スウェーデンにおいては、既に述べたように、援助の実施は外務省(多国間開発協力局)及
びスウェーデン国際開発協力庁(Sida)が行っている。外務省は国際機関を通じて援助を実施
134
しており、Sida は途上国に対する二国間の資金協力、技術協力等の支援を実施するとともに、
国際機関等を通じた援助を行っている。
スウェーデンの開発協力はその目標を、貧しい人々が彼らの生活水準を改善できるように貢
献することとし、世界の不正と貧困を減らすことによって、すべての人々と国に開発、平和、
安全をもたらす機会をもたらすことを目指している。Sida は、この目標を達成するため、対ア
フリカ支援を最重要視している。また、アジア、中東、北アフリカに対しては、民主的統治、
自然資源の持続可能な利用、経済社会開発等の支援を行っている。東欧では、EUとの関係を
重視し、民主主義や市場経済への転換を図り、民主的統治と人権、EU統合に向けた経済・社
会開発、男女平等等の支援、ラテンアメリカでは、多くの人々が教育、保健、自然資源へのア
クセス等の基本的権利を欠いていることに注目し、民主的統治と人権、民主主義、和平プロセ
ス、自然資源の利用、経済・社会的平等の支援を行っている。
(2)援助政策
スウェーデン議会は 2003 年 12 月、政府が提出した「共有責任:全地球的発展のためのスウ
ェーデンの政策(PGD)
」を全会一致で承認した。PGD は、公正で持続可能な全地球的開発へ
の貢献を目標とし、人権の視点を浸透させ、貧困者の視点を基礎とすることとしている。この
中では、PGD の目標達成に向け、通商、農業、環境、安全保障、移民、経済等の各分野の政
策における一貫性を確保することの重要性を強調し、①人権の尊重、②民主主義及びガバナン
ス、③男女共同参画、④天然資源の維持可能な使用・環境保護、⑤経済成長、⑥社会開発・社
会保障、⑦紛争防止・解決、⑧国際公共財の各主要構成要素に関連した活動を強化することと
している。開発協力は、全地球的発展のための、特に最貧国に焦点を当てた主要な手段として
位置づけられ、貧困撲滅のための自助努力を支える環境への貢献を目的とし、被援助国自身の
戦略及び優先度に基づいた援助を目指している。
(3)特徴的な事業内容
1)NGO 支援
スウェーデンにおいては開発援助関係 NGO の数は約 400 団体に上り、多くの NGO が現地
事務所を設置しており、地域との緊密な関係や地域の実情の把握に優れ、各援助分野にわたる
専門的知識も有している。このため、開発援助において果たす NGO の役割は大きく、かつ高
く評価されている。
Sida の NGO との連携にかかる狙いは、途上国の民主的市民社会の発展の促進と現地パート
135
ナーNGO の組織力強化である。2003 年に発表された Sida の開発協力政策「共有責任(Shared
Responsibility)
」の中で、スウェーデンの「開発協力は、全地球的発展のための、特に最貧国
に焦点を当てた主要な手段として位置づけられ、貧困撲滅のための自助努力を支える環境への
貢献を目的とし、被援助国自身の戦略及び優先度に基づいた援助を目指している。
」というこ
とを明確にした。また、2005 年の「援助効果にかかるパリ宣言」によって、パートナー国主
体性の尊重が強く謳われた。このような開発協力政策の流れを受け、Sida は 2006 年「変化の
ための力(A force for change)
」において、スウェーデンの各組織や NGO が人材や、サービ
ス、
物資を提供する活動ではなく、
現地 NGO や市民社会をサポートすることを推奨している。
NGO 支援額は 2007 年で約 13 億 SEK であり、Sida の全歳出額の約 8.5%を占めている。
支援対象は、民主的統治、男女機会均等、人権の尊重と自由、少数民族・先住民等の分野で活
動する国内の NGO や提携組織、国際的ネットワーク等に及んでいる。
補助金の交付については、スウェーデンには「Framework Organizations(枠組み組織)
」
と呼ばれる多数の傘下の NGO を抱える大規模 NGO が 16 あり、この下に組織化される小規模
NGO は枠組み組織を通じて、Sida に対し一括して補助金を申請する。各種の補助金の交付は
個々の NGO ではなく、枠組み組織に対して行われる。補助金の交付に当たっては、原則とし
て NGO 側が活動費用の 10%を自己負担することを条件としている。また、効率的に援助を行
うためのシステム化が図られているか等について Sida が審査を行っている。
Sida は、NGO 支援において、パートナー国での活動を支援する ProjectGrant のほかに
Information Grant と呼ばれるスウェーデン国内での広報、啓発活動に向けた経費を提供して
いる。
Information Grant は、
約 30 の NGO を対象に約1億 2,900 万 SEK が交付されている。
その他、同分野で活動をしているスウェーデンの NGO とパートナー国の団体が交流する機会
を提供する Exchange Programme などもある。
2)研究協力(Research cooperation)
スウェーデンの研究協力 は、1975 年からスウェーデン政府研究協力局(SAREC)によっ
て開始され、1995 年に SIDA とその他機関が合併し設立された Sida のもとで実施されること
となった。2008 年の 10 月には、
Sida が再編され、
Secretariat for Research Cooperation(SRC)
が現在の研究協力を実施している。
SRC の長期目標は、国家の分析能力開発を支援し、国際的に通用する科学的知見を進展させ
ることである。これによって、国家の知見体制の質が強化され、Sida の開発協力の目的である
136
貧困削減や人々の生活改善のための解決策を得ることを目的としている。
SRC は実際に以下の 3 つの事業を実施している。
①二国間研究協力
②地域間、国際間のネットワークや組織への研究支援
③開発に関する研究を行うスウェーデン研究者への支援
二国間研究協力の目的は、大学での research capacity を強化することと国家レベルでの研
究開発を支援することである。
Sida の国家研究支援とは、低所得国における良い研究環境を構築すること、研究者を教育す
ること、研究の計画、優先順位付け、資金調達などの方法を確立するための支援である。低所
得国の少なくとも一つの大学で、research capacity が構築されれば、開発戦略で明瞭に表現さ
れているとおり、高等教育カリキュラムを国のニーズに適応させることが可能となる。研究に
基づいたカリキュラムは、国際的知見を導入し、地域の視点をも包含するものとなるだろう。
137
Figure1: National Research Capacity, written by Ms. Hanna Akuffo, Sida
Figure2: University Research Capacity, written by Ms. Hanna Akuffo, Sida
Figure3: Phases of Bilateral Research Cooperation i, written by Ms. Hanna Akuffo,
138
3)奨学金制度
Sida は 4 種類の奨学金制度を設け、おもに大学や研究機関の研究者や学生への活動資金支援
を行っている。
・Sida's travel grant for internships
これは、国連などを通じた開発協力分野の国際的なポストで働く若い人材を増やすことを目的
とした奨学金である。おもに、国際機関でのインターンシップや無償労働のための資金支援で
ある。
・Minor Field Studies
開発途上国でのフィールド研究のための奨学金プログラム。大学や研究機関の学生が学位や修
士論文のために研究活動(8 週間から 10 週間)を行うことを支援する。このプログラムは、ス
ウェーデンの学生に、開発問題や発展途上国の知識を得る機会を提供することを目的としてい
る。
・Linnaeus-Palme
大学の教員や学生の Exchange プログラムを支援する。Linnaeus は、スウェーデンの教員学
生が開発途上国で学ぶためのものであり、Palme は、開発途上国の学生や生徒がスウェーデン
に来る機会を提供するものである。目的は、学術分野での国際的なやりとりをさらに増やすた
めに、スウェーデンの教育機関と途上国の大学との連携を強化することである。
・Athena
職業教育や職業訓練のための国際的な交流プログラム。生徒、教師、学校経営者や高等職業訓
練校の職員に途上国との交流の機会を提供する。
これらの奨学金を利用した学生が、スウェーデン NGO を通じて、現地の NGO とともに活動
するというケースが多い。
5−2.Svalorna Latinamerika-NGO
(1)概要
Svalorna Latinamerika は、1950 年代の国際的なエマウスムーブメント活動の流れの中、
1957 年に設立された。当初のスタッフの1人がペルーとつながりを持っていたことから、ラ
テンアメリカでの活動が始まった。現在は、民主化(Democracy)
、人権(Human Rights)、
組織開発(Organizations Development)
、環境(Environment)をキーワードにして、ボリ
ビア、ペルー、ニカラグアの 3 国で活動を行っている。
139
2005 年から 2007 年の間で、ボランティア派遣事業を終了させることを決定し、2009 年 7
月に最後のボランティアが帰国する。
(2)ボランティア活動の変遷
60 年代、70 年代は、Solidarity とキーワードとし、ラテンアメリカの人々との連帯を強め
ることが目的であり、他のスウェーデン NGO も多くが同じ目的を持っていた。80 年代に入り
ラテンアメリカに NGO グループが設立され始め、90 年代以降には、ラテンアメリカの NGO
や人材が充実してきた。2000 年以降、スウェーデンの開発協力政策を反映し、Sida は、スウ
ェーデン NGO にサービスや物資を提供する活動ではなく、現地 NGO や市民社会をサポート
する活動を期待しているという方向を明確に示した。
Svalorna Larinamerika のボランティア派遣事業は、Sida からの資金援助によって行われき
た。Sida からの補助金は、例えば学生インターンシップの場合は 100%の資金援助が受けられ
るが、ボランティア派遣の場合は活動資金の 10%をスウェーデン NGO が負担しなければなら
ず、多くのスウェーデン NGO(特に規模の小さな NGO)はインターンシップ制度として学生
などの受け入れはするものの、
「現地の人々とともに働く」タイプのボランティアの派遣はほ
とんど行われなくなっている。
現在、Svalorna Latinamerika では、Sida の奨学金制度「Miner Field Study」を利用して、
ジャーナリストインターン生が現地オフィスで活動をしている。インターンシップ制度を利用
する学生の中には、海外での経験をキャリアパスの一部と考えているものもいて、Sida への就
職を希望している学生も少なくない。
(3)ボランティア存在意義の変化
スウェーデンのボランティアと途上国の人々とのかかわりについて、2つのキーワードが提
示された。
Gap Filler:ラテンアメリカ社会の様々な取り組みやサービスにおいて、地域住民の要求が多
様化する中、それに対応することのできる現地人人材が不足している場合に生まれるギャップ
をボランティアによって補充することができる。そのギャップによって活動が滞っている場合
などには、ボランティア人材が Catalyst になることもある。
Extra Burden:ラテンアメリカの人々がより専門的な技術を持ち、彼らだけで開発を進めてい
くに十分な状況ができている中、経験が充分でないスウェーデンのボランティアが、現地での
活動を行うことが現地の人々にとって「負荷」になるケースがある。
これらのキーワードは、以前のような経験や技術を持ったスウェーデンのボランティアが現地
140
の人々を指導するというボランティア活動が機能しなくなってきたことを示している。このよ
うな現地からの評価は、Svalorna Latinamerika の活動におけるボランティア活動を見直すき
っかけとなる。
6.ボランティア事業実施団体による支援体制と帰国ボランティアの活躍や課題
Sida は、NGO 支援において、パートナー国での活動を支援するプロジェクトグラントのほ
かに Information Grant と呼ばれるスウェーデン国内での広報、啓発活動に向けた経費を提供
している。これは、海外活動経験者や開発協力分野の NGO が国内においてその経験を活かし
た活動できる仕組みのひとつである。
Svalorna Latinamerika は、ボランティア帰国後の支援は特に行っていない。スウェーデン
社会では、ボランティアそのものは非常に良いこととして受け入れられ、海外でのボランティ
ア活動に対しても評価が高い。しかし、海外赴任の経験を持つ NGO スタッフは、帰国後の周
辺の反応から「途上国から学ぶことは何もないとスウェーデン人は信じている」と感じている。
ボランティア活動後、引き続き国際協力分野で仕事をする人もいるが、ごく少数であるとのこ
とだった。
7.まとめ
スウェーデンの政府開発援助において NGO の果たす役割は大きいが、ODA によるボランテ
ィア派遣はほとんど行われていない。むしろ、研究協力(research cooperation)や奨学金制
度の充実により、途上国の人材の育成を図り、自国の若い研究者を海外のフィールドで研鑽さ
せることにより、将来、国際社会で活躍する人材を育成しようとする意図がうかがわれた。
8.参考文献
スウェーデン開発協力庁(Sida) ホームページ http://www.sida.se/ 2009.2.16 アクセス
Sida (2006) A force for change, Sida
Swedish Research Cooperation through Sida.Presentation(2008), Hannah Akuffo.
Svalorna Latinamerika. Svalorna Larinamerika ホームページ
http://www.svalorna.se/?q=espanol 2009.2.16 アクセス
高橋真央(2003)
「スウェーデンにおける ODA と NGO のパートナーシップ--フレームワーク
NGO を中心に」
、大阪大学大学院人間科学研究科ボランティア人間科学紀要 Vol.4:85-96
141
ポーランド
1.調査概要
ポーランド外務省国際協力局を訪問し、2008 年より開始されたボランティア事業について
聞き取り調査を行った。また、国際協力局によるボランティア事業実施において重要な役割を
担う NGO の代表として、国内外で広く活動を行っている Polish Humanitarian Organization
を訪問し、聞き取り調査を行った。
2.訪問者・調査日程
阿部健一 2008 年 8 月 24 日∼8 月 31 日
麻里 2008 年 8 月 24 日∼8 月 29 日
3.訪問先
(1)Development Cooperation Department, Ministry of Foreign Affairs, Poland
面談場所:外務省国際協力局 会議室
面談日時:2008 年 8 月 26 日 (火) 15:00∼16:30
面談者 :Ms.Agata Czaplinsla, Ms. Katarzyna Czerniecka
(2)Polska Akcja Humanitarna(Polish Humanitarian Organization)−NGO
面談場所:Polska Akcja Humanitarna Main Office
面談日時:2008 年 8 月 27 日 (水) 11:30–12:30
面談者
: Mr.Pailina Szczygiel, Director of the Humanitarian and Development
Education Department
4.ポーランドにおける海外ボランティア事業(ボランティア派遣)の変遷
ポーランドと発展途上国との協力は、アフリカ、アジア、中南米からポーランドの大学へ学
生を受け入れから始まり、長い歴史がある。また、ポーランドの NGO は、世界中で災害人道
支援において長期にわたる活動を行うなど、多くのポーランドの組織が地域開発や市民社会の
社会活動を支援してきた。
1989 年の共産主義体制崩壊後、ポーランドは市場経済化・民主化に向けた取組みを開始し
た。これらの動きに対し、EU が主導する G24(対東欧諸国支援関係国会合)が発足、ポーラ
142
ンドは、各国からの支援を得つつ積極的な国内改革を推し進めた結果、経済成長を遂げ、2004
年5月に EU 加盟を果たした。この頃より、被援助国から援助国へと転換してゆき、新興ドナ
ー国と呼ばれるようになった。
EU に加盟して以降、ポーランドの対外援助は次第に重要性を増し、ポーランド ODA も増
大し続けている。ポーランド開発援助歳出額(ODA)は、2004 年の 5 億 199 万 PLN(1 億 4
千万 USD)から、2008 年には 11 億 PLM(4 億 8 千万 USD)に増加し、ODA の国民総所得
(GNI)に占める割合は 0.05%から 0.09%となった。
また制度や組織の面では、2003 年に、ポーランド政府によって「ポーランド開発協力戦略
(The strategy for Poland's Development Co-operation)
」が採択され、対外援助に関する主
要基準と組織的な枠組みが示されている。続いて 2005 年、ポーランド外務省において国際協
力局が設立され、援助活動の計画立案及び実施の調整を担当している。その他、財務省におい
ては資金面の援助や、国際機関との資金のやり取りを行っており、文部科学省(Ministry of
Science and Higher Education)においては奨学金や資格の授与を行っている。
2004 年には NGO からのプロポーザル受け入れと、ポーランド大使館による Small Grants
Fund を開始し、2005 年からは、政府機関や地方自治体団体が行う開発プロジェクトへの助成
金支援を開始している。その他、2005 年以降、ポーランド社会に向けた開発教育への支援を
行っている。このような国内教育活動を行う NGO や教育機関への資金支援によって、多くの
開発教育活動が行われている。2008 年、ポーランドの人々が途上国で働く機会をより多く得
られるようポーランド ODA によるボランティアプログラムが開始された。
5.調査対象団体のボランティア事業の特徴(団体概要、調査内容など)
5−1.Development Cooperation Department, Ministry of Foreign Affairs, Poland
(1)概要
2005 年、ポーランド政府の外務省において国際協力局が設立され、援助活動の計画立案及
び実施を行っている。 援助活動は、ポーランド国内の政府機関、地方自治体団体、NGO や
国際機関(EU、国連等) と協力しながら実施される。二国間協力のほか、国際機関を通じての
多国間協力や、カナダなどの援助国と協働して開発援助活動を行う三国間協力を行っている。
さらに人道援助、食糧援助や、途上国からの留学生への奨学金支給、ポーランド人の国際援助
活動への理解と支援を促進するための写真展の実施やメディアを活用した広報活動も行って
いる。
143
図1 ポーランド開発援助(ODA)、Polish Aid Annual Report 2007
(2)援助政策
ポーランド開発援助の原則として、国際社会における役割としてミレニアム開発目標の達成
に寄与すること、EU 加盟国として、EU の開発方針を遵守すると同時に EU の安定と拡大に
貢献すること、援助効果にかかるパリ宣言の精神を援助活動において実践することを示してい
る。
ポーランドは開発援助における重点分野と優先援助国を定めている。1989 年以降、民主化、
市場経済化に積極的に取り組み、体制変革を行った経験を活かし、貧困削減、民主主義の促進、
市民社会および健全な統治の確立といった分野に重点をおいている。2009 年の優先援助地域
として、ベラルーシ、ウクライナ、モルドバ、グルジア、アフガニスタン、アンゴラ、パレス
チナ自治区が挙げられている。
(3)ボランティアの派遣
2008 年、ポーランド国際協力局によるボランティア事業が開始された。ポーランドでは、
政府に先行して NGO が多分野にわたり海外へボランティアを派遣し、活躍しており、政府に
よる新ボランティア事業は、ポーランド政府と NGO の新たな連携事業として位置づけられて
いる。国際協力局は、ボランティア事業をとおして、知識と経験を持った NGO の活動への継
続的な支援や国と市民社会の連携強化を可能にするとしている。また、ボランティア事業を、
EU 内の他ドナーと同様、有用な援助方法として位置づけ、さらに教育手法、開発手法、開発
144
援助の課題への取り組みのひとつとして、重要なプログラムであるとしている。国際協力局は、
ボランティア事業では専門家の派遣は実施しないとし、むしろ他のEU諸国に比べ海外経験の
機会の少ない国内の若者が、国際理解や開発協力への理解を深めることをもっとも重要な点で
あるとしている。
派遣団体
ポーランド
③プロポーザル提出
(ポーランド国内の NGO や教会等)
外務省国際協力局
①プロポーサル要請
⑦派遣前訓練
⑤プロポーザル承認
⑩帰国後研修
援助協力
団体の信頼性を確認
④能力チェック
②ボランティアを推薦
在外公館
⑥事前研修
要請書
パートナーシップ
ボランティア
要請書
団体の信頼性を確認
受入団体
(受け入れ国の NGO、教会、その他機関)
⑧現地訓練
⑨活動支援
図1
図2
ポーランド外務省国際協力局と各組織の相互関係 (外務省国際協力局資料より)
5−2.Polska Akcja Humanitarna(Polish Humanitarian Organization)−NGO
(1)概要
PHO は、海外及びポーランド国内で活動を行う NGO である。自然災害、紛争、構造的貧困
を被る地域への人道支援と、ポーランドにおける国際理解教育が主な活動である。さらに、難
民・送還者センターは、住居を探している外国人やポーランドでの新しい生活をはじめようと
している送還者への支援を行っている。
PHO は 1992 年、ボスニアとコソボに部隊を派遣したのをはじめとし、約 15 年間、積極的
に海外での人道支援を行っており、緊急支援を専門としてきた。イラン、パキスタン、トルコ
での地震、米国でのハリケーン、スリランカ、ジャワ島の津波、チェコやドイツでの洪水、チ
ェチェン、スーダン、アフガニスタン、レバノンでの軍事紛争に対し、多くの支援を行ってき
た。その後、徐々に海外での紛争後の復興における地域への支援へと活動の幅を広げている。
活動は、個人からの寄付や、国際機関、外務省、EU 団体などから資金支援されている。
145
国際理解教育プログラムは、学生、児童、教師、NGO へ提供されている。このプログラム
によって、人道支援、開発問題に対する対象者の認識や感受性を高めることを目指している。
1994 年からは、一般市民への教育プログラムも開始しており、多くの企業からアドボカシー
や社会啓蒙プロジェクトにおいて商業ベースでない協力も得ている。
(2)ボランティアの派遣
PHO は独自にボランティアを派遣しているのではなく、GLEN(Global Education Network
of Young Europeans)というグループに属し、GLEN のボランティア派遣スキームに沿ってボ
ランティアを派遣している。GLEN は国際理解教育の推進を目的としており、実践や体験を取
り入れた研修をおこなっている。GLEN を構成するのは新旧 EU 加盟国の12の組織であり、
特に EU 内交流と南北交流を同時に行う方法で事業を行っている。外務省国際協力局のボラン
ティア事業枠を利用して PHO から派遣されるボランティアも派遣前、帰国後の研修は GLEN
研修に参加している。
6.ボランティア事業実施団体による帰国後の支援体制と帰国ボランティアの活躍
2008 年 8 月の国際協力局訪問時には、
まだ初回派遣のボランティアが帰国していなかった。
国際協力局としては特に帰国後の就職支援を行う予定はないが、就職活動において海外での活
動経験は評価され、帰国ボランティアは他の若者よりも就職しやすいと考えている。また、ポ
ーランド国内での転職も珍しいことではないので、帰国後の再就職は問題ないと考えていると
のことであった。国際協力局では、帰国ボランティアが帰国報告講演やショートフィルムの作
成などの国際理解教育活動を行う場合、1人約30万円の資金援助を行う。
ボランティアへの派遣前、帰国後研修や技術的な支援はそのほとんどが派遣団体である
NGO や教会によって行われる。帰国ボランティアには、自主参加で経費も自己負担であるが
1週間の集中研修が行われる。おもに、国内で報告会やワークショップを行う際に必要な技術
を学ぶ。特に、PHO はポーランド国内での国際理解教育を積極的に行っており、これらの活
動を効果的に行うためにもグループワークの実践方法などを研修で学び帰国ボランティアに
は経験や学びを国内の多くの人々と共有することを期待している。
7.まとめ
ある国のボランティア活動の性格は、その国の政治文化、歴史経験に大きく左右される。ポ
ーランドも、例外ではない。最後に海外ボランティア活動の特色を、ポーランドの地政学的位
146
置、歴史的文脈に留意しながら、3点にまとめてみたい。地政学的位置として重要なのは、ポ
ーランドが自由主義社会と共産主義社会の境界にあったことである。一方歴史的に重要なのは、
冷戦後、西欧への帰属意識を鮮明にしながら、民主主義への移行を、比較的すみやかに成し遂
げたということである。
まず第一点は、民間組織によるボランティア派遣が政府機関に先行していることである。
すでに述べたように、外務省国際協力局による海外ボランティア派遣は、まさに始まったば
かりで、規模は小さく、派遣期間も短く、いまだ発展途上・試行錯誤の状況にある。一方、民
間組織は、本報告で紹介した PHO がその代表であるが、冷戦終結後からすでに援助支援活動
を実施しており、はるかに豊富な経験と実績を有している。その結果、政府の海外ボランティ
ア派遣は、派遣 Needs の事前調査から現地での支援体制にいたるまで、NGO 組織に大きく依
存することになった。
民間組織が海外支援活動の面で実績を積んだのは、西側諸国の民主化支援活動の賜物である。
冷戦終結後、西側諸国は、文化的・言語的にも類似性の高いポーランドを、旧ソ連地域に対す
る人道援助・民主化支援の拠点とした。その際、未成熟な新体制政府よりも、他の東欧諸国に
比べ、
広く残されていたカトリック教会をはじめとするポーランドの「市民社会」
(大津留 2004)
に信頼をおき、支援活動のパートナーとして、ノウハウと活動の機会を提供したのである。
このことは、派遣規模が小さいこともあり、比較優位の点で、派遣国・専門分野を絞ってい
る、という第二の特色の背景にもなっている。計画経済・社会主義から市場経済・民主主義へ
と移行した経験を活かし、とくに体制移行国への派遣を優先させている。派遣業種も、たとえ
ば市場経済化でのあらたなメディアの体制構築など、独特のものがある。
第三点は、専門家の派遣という面よりも、自国の若い世代の教育という面を重視しているこ
とである。共産主義体制から新たな体制への移行で、アイデンティティと方向性を急速に失っ
たのが、ポーランドの若者だとされる(大津留 2004)
。EU の加盟後、他の EU 諸国の同世代
と伍することを想定すると、国際経験を積む機会も少なかったポーランドの若い世代の、国際
理解力だけでなく、コミュニケーション能力、社会性、協調性や自尊心などを育成することが
国策として急務となる。ボランティア派遣において、とくに教育という側面の比重が大きいの
は、このポーランドの置かれた今日的状況を反映している、と考えられる。
以上 3 点を指摘したうえで、今回の調査訪問を終えての印象を一つだけ述べておきたい。イ
ンタヴューの合間に、アメリカや西欧に比べての経験の乏しさが、国際協力局であれ、NGO
組織であれ、逆に組織の柔軟性と感じられることがしばしばあった。とくに国際協力局は、ス
147
タッフに若手が多いこともあり、格式ばった外務省のなかで、お役所」的雰囲気のまったく感
じさせない自由な空間となっている。
「新しいヨーロッパ」として、重厚な伝統の中に新風を
吹き込むという意気込みが、ボランティア派遣事業のなかでどのように結実するのか、可能性
への期待は大きい。すでに規格化・定型化された、ともいえる日本のボランティア派遣事業も、
さらなる未来可能性のために学ぶところはあるかもしれない。
8.参考文献
大津留(北川) 智恵子(2004)ポーランド市民社会におけるアメリカ民主化支援の位置づけ、
關西大學法學論集 53(4/5)849-872
土岐啓道(2008)チェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア(V4)の援助動向、開発援
助動向レポート No.27 http://dakis.fasid.or.jp/report/pdf/report27.pdf 2009.3.5アク
セス
ポーランド外務省国際協力局ホームページ
http://www.polskapomoc.gov.pl/Main,page,160.html 2009.3.5 アクセス
Polska Akcja Humanitarna(Polish Humanitarian Organization)ホームページ
http://www.pah.org.pl/pl-index.html
2009.3.5 アクセス
GLEN(Global Education Network of Young Europeans)ホームページ
http://www.glen-europe.org/ 2009.3.15 アクセス
148
韓国
1.調査概要
韓国は、日本の JICA および JOCV のシステムを参考にしつつ、OECD 加盟国として国際
協力を国策として強力に推進してきた。韓国の海外ボランティア派遣および帰国後のサポート
を実施している KOICA(韓国国際協力庁)および KOVA(韓国海外奉仕団)に対するインタ
ビュー調査を行った。JICA や JOCA に類似した活動が多かったが、まず理念を提示した後に
活動が始まるという姿勢がみられた。また、両機関ともに、本研究に多大の関心を示し、報告
書の送付を強く希望していた。
2.訪問者・調査日程
中村安秀・李 錦純
2009 年 4 月 26 日(日)∼4 月 28 日(火)
3.訪問先
(1)KOICA(Korea International Cooperation Agency:韓国国際協力庁)
面談場所:KOICA 本部
面談日時:2009 年 4 月 27 日 14:00−16:00
面談者:Kim Myong Gin(奉仕事業部 奉仕企画チーム 課長)
Jun Young Suk(奉仕事業部 奉仕事業 1 チーム 課長)
Im Dae Geun(奉仕事業部 奉仕事業 3 チーム 課長)
(2)KOVA(Korea Overseas Volunteers Association:韓国海外奉仕団)
面談場所:KOICA 本部
面談日時:2009 年 4 月 27 日 10:00−13:30
面談者:Seo Young Chel(事務局長)
Jeon Ju Yun(幹事)
Kim Hye Jung(幹事)
Kim Dae Joong(海外奉仕団訓練センター生;帰国団員)
149
4.KOICA(韓国国際協力庁)
「Making a better world together(人類共栄)」をスローガンとする KOICA(Korea
International Cooperation Agency)が設立されたのは、1991 年である。2007 年現在、韓国
の ODA 総額は 2.57 億 US ドルである。国連事務総長 Ban Ki-moon 氏と連携し、MDGs(ミ
レニアム開発目標)の達成に向けた国際協力の取り組みを国家戦略として打ち出している。
KOICA は 28 カ国に事務所を置き、技術協力、人材養成と研修、人道支援などを行っている。
KOV(Korea Overseas Volunteers)は 1990 年以来、45 カ国に 4,800 人のボランティアを
派遣してきた。現在までの累計でみると、アジアが 64.5%を占め、東欧・中央アジアが 8.7%
と多いのが特徴である。教育(29%)、情報通信技術(18%)
、保健医療(16%)
、工業エネル
ギー(13%)
、村落開発(12%)が主要な分野である。また、同時に NGO に対しては、55 の
NGO に対して 345 のプロジェクトを支援してきた。
海外ボランティアの派遣人数(2009 年 4 月 15 日現在)は 1,522 名であり、アジア(47.6%)
、
アフリカ(23.1%)
、中南米(21.2%)が上位を占めた。近年は、アジアの比重が下がり、アフ
リカへの派遣が増加している傾向にある。ボランティア派遣隊員(奉仕団員という)はボラン
ティア、国際協力要員(兵役としての派遣)
、医師に分類されている。派遣期間は、原則とし
て2年間である。なお、コーディネーター43 名が各国に派遣され、奉仕団員のサポートを行っ
ている。また、奉仕団員とは別枠で、NGO 派遣が 145 名(9.5%)を占めている(表1)
。こ
の NGO 派遣はネットワーク型 NGO と KOICA の共同事業であり、派遣費用は KOICA が負
担し、活動内容や人選は NGO 団体に任されており、国内研修は NGO が独自に行っている。
2008 年度の派遣隊員 1,016 名に対する調査によれば、教育、保健医療、情報通信の3分野
で約 79%を占め、女性が多く(59%)
、30 歳未満が多い(63%)といった特徴があった。一般
のボランティア(740 名)が多数を占めていたが、国際協力要員(兵役)としての派遣が 147
名、シニア・ボランティア 88 名、ボランティア医師 31 名にのぼった(表3)
。
全体として、韓国内外から KOV の拡充に対するニーズが高く、派遣人数の増員とともに、
MDGs 達成に向け多様な活動を実施している。
5.KOVA(韓国海外奉仕団)
KOVA(Korea Overseas Volunteers Association)は帰国した KOV(海外ボランティア)
の OB 会活動団体として、1992 年に設立された。1991 年に派遣された第1期のボランティア
44 名が最初の会員となり、現在では約 1,400 名以上の会員を持つ。事務局長をはじめ、若いメ
150
ンバーが積極的に多彩な活動に取り組んでいた。
KOV の活動を支援するために、ニュースレターの発行、写真展の開催、KOV 隊員の活動に
関する絵葉書、派遣国に関するパンフレットなどの活動を行っている。KOV 隊員の家族や企
業に対する国際理解教育をめざし、絵葉書には隊員の個人名を書くなどのきめ細かな配慮を行
っていた。
また、将来の国際協力人材の養成をめざし、学生ボランティア活動にも積極的に取り組んで
いた。大学生 150 名に途上国を経験させるスタディツアーや Global Youth Leadership プログ
ラム(選抜した中学生に途上国を体験させる)を実施していた。訪問先として KOV 隊員の活
動現場や途上国の NGO などを訪れることにより、学生が国際協力の現場を知る機会となり、
同時に KOV 隊員にとっても励みとなるという相乗効果がみられている。
帰国後の KOV 隊員の問題点として、国からの支援がほとんどないことと、帰国隊員の就職
が難しいことがあげられていた。また、KOV 隊員に対する帰国後研修はとくに実施していな
かった。
6.帰国隊員への具体的な支援策
(1)海外ボランティア就職支援センター
KOICA は帰国した KOV 隊員に対する就職支援をさまざまに試みた結果、最終的に、民間
企業であるコリアリクルート(株)と共同して KOV 就業情報支援センターを運営することに
なった。
「KOV 隊員は、派遣国での活動経験を通じて、飛びぬけた問題解決能力と創造的自己
を持ち合わせた人材に成長しているにもかかわらず、団員活動期間(2―3 年)の間に変化した
就業環境に効果的に対処できず、帰国後の国内定着に困難を感じている」ため、帰国した KOV
隊員の就職活動を直接支援することを目的としている。
2005 年 6 月に設置され、就職支援相談はもとより、履歴書や自己紹介の書き方の指導、ホ
ームページによる就職情報などの提供、採用情報を提供するニュースレターの発送(毎週)、
就職コンサルティングのセミナー開催(月 2 回)などを実施している。
帰国した KOV 隊員の中には現職参加や大学院進学希望者もいるが、毎年 200−400 名くら
いが就職活動を希望し、2009 年 4 月までに、400 名以上の就職を斡旋してきた。また、就職活
動中に進学したものを除いた最終的な就職率を算出しており、就職率は 40−86%と年度ごと
の変動が大きい(表2)
。
151
(2)通訳プール
KOV 隊員の長所である言語能力と異文化経験を韓国社会で活用することを目的に、KOVA
では通訳プール事業を展開している。すでに 250 人の帰国隊員が登録され、31 言語に対応で
きる体制が整備された。韓国では、外国人労働者や国際結婚(中国、ベトナム、カンボジア、
フィリピンなどの女性が韓国人男性と結婚するパターンが多い)の増加により、共生社会のあ
り方が大きな社会問題となっている。具体的には、警察、民間企業、多文化地域センターなど
からの要請を受け、当該言語のできる KOV 帰国隊員を通訳として派遣している。通訳プール
への登録は帰国隊員の自主性に任され、運営管理する KOVA は毎年、登録データの更新を行っ
ている。派遣費用については、依頼元の企業やセンターなどが支払い、KOVA にも手数料が入
る仕組みである。
帰国隊員からの評判は非常にいい。
「帰国後に、自分に何ができるのか悩んでいたが、言葉
と文化を知っているという強みを生かし、韓国の社会で役立ったことも喜びは大きい」といっ
た賛辞の声が寄せられている。
(3)国際理解教育
グローバルな世界と韓国社会をつなぐ役割として、国際理解教育にも精力的に取り組んでい
る。小中学校などから要請があったときは、単に帰国隊員が講義するだけでなく、派遣国の人
(研修員や留学生、国際結婚した人など)といっしょに学校に出かけるようにしている。その
国の当事者がいることで、より国際理解が深まると考えている。派遣国に関するパンフレット
や写真などの教材も製作している。
参考文献:
KOICA (2008) Making a better world together, KOICA, Korea
(以下は、韓国語の収集資料)
韓国大学社会奉仕協議会,大社協 17 期スリランカチーム報告書、(社)韓国海外奉仕団員連合
会(KOVA) 、2009 年 1 月
韓国大学社会奉仕協議会,大社協 17 期フィリピンチーム報告書、(社)韓国海外奉仕団員連合
会(KOVA) 、2009 年 1 月
韓国大学社会奉仕協議会,大社協 17 期インドネシアチーム報告書、(社)韓国海外奉仕団員連
152
合会(KOVA) 、2009 年 1 月
韓国大学社会奉仕協議会,大社協 16 期カンボジアチーム報告書、(社)韓国海外奉仕団員連合
会(KOVA) 、2008 年 8 月
(社)韓国海外奉仕団員連合会(KOVA) 、ベトナムに視線を注ぐ:多文化家庭幸せ作りプログラ
ム父親学校、(社)韓国海外奉仕団員連合会(KOVA) 、2007 年
(社)韓国海外奉仕団員連合会(KOVA) 、カンボジアに視線を注ぐ:多文化家庭幸せ作りプログ
ラム父親学校、(社)韓国海外奉仕団員連合会(KOVA) 、2006 年
(社)韓国海外奉仕団員連合会(KOVA) 、新政府の多文化政策:課題と方向,多文化政策フォー
ラム、2008 年 3 月 19 日
(社)韓国海外奉仕団員連合会(KOVA) 、多文化社会の言語:多文化政策フォーラム資料集第 2
号,2008 年 5 月 29 日
(社)韓国海外奉仕団員連合会(KOVA) 、多文化教育の地平を広げよう−人権,平和,国際理解
−、第 3 回多文化政策フォーラム、2009 年 3 月 31 日
153
表1 海外ボランティアの活動状況 (2009 年 4 月 15 日現在)
合計
地域
奉仕団員(人数)
NGO
管理要員
(人数)
奉仕
兵役
医師
(人数)
(人数)
アジア
725
486
95
21
102
21
アフリカ
352
240
58
10
35
9
中南米
322
259
43
6
6
8
東欧・CIS 地域
103
89
1
7
2
4
中東
20
19
0
0
0
1
合 計
1522
1093
197
44
145
43
表2 就職斡旋活動の成果(2009 年 3 月現在)
就職活動を依
年度
頼した人数
(A)
就職保留者
(進学・研修
就職斡旋中
就職した者
就業率(%)
など)
(C)
(D)
(D÷<A-B>)
(B)
2005 年
138
65
31
42
57.5
2006 年
337
154
110
73
40.0
2007 年
214
55
22
137
86.1
2008 年
426
198
109
119
52.1
表3 海外ボランティア派遣中隊員に対する調査(2008 年度:33 カ国)
人員(名)
(%)
①教育
510
50.2%
②保健医療
163
16.1%
③行政制度
10
1.0%
④情報通信
132
13.0%
活動分野
154
⑤産業エネルギー
54
5.3%
⑥農漁村開発
45
4.4%
⑦環境・女性
101
10.0%
合計
1015
100.0%
人員(名)
(%)
①一般奉仕団員
740
72.8%
②シニア奉仕団員
88
8.7%
③国家協力要員(兵役)
147
14.5%
④国際協力医師
31
3.1%
⑤NGO 奉仕団員
0
0.0%
⑥産学奉仕団員
10
1.0%
1016
100.0%
人員(名)
(%)
①満25歳未満
185
18.3%
②満30歳未満
452
44.7%
③満35歳未満
194
19.2%
④満45歳未満
77
7.6%
⑤満55歳未満
60
5.9%
⑥満55歳以上
43
4.3%
1011
100.0%
団員形態
合計
年齢区分
合計
155
第6章 提言
中村安秀
(1)海外ボランティア組織のあり方
海外のボランティア組織では、途上国のニーズや自国の社会変化に伴い、さまざまな試行錯
誤が行われていた。
国際協力ボランティアの発想の原点は、先進工業国から貧しい途上国に人的支援を行うとい
う印象があるが、すでに先進国の仲間入りした国も含め途上国のニーズは大きく変貌しつつあ
る。多くの途上国は、国全体の経済水準は低くても、首都や大都市には欧米の大学を卒業した
優秀な人材も少なくない。民間企業や民間コンサルタントには経験豊富な専門家がいる。豊か
な国から貧しい国への援助という古典的な国際協力ボランティアの発想を転換すべき時期が
到来したといえる。また、現在では、ODA や国際機関だけでなく、援助国および被援助国の
NGO、民間企業、大学や研究機関も国際協力の重要な担い手となっている。このように、先進
国から途上国へという一方通行の国際協力から、双方向的な国際的協働へと急速に移行してい
るなかで、海外ボランティアのあり方も大きく揺れ動いている。
組織形態の面では、政府機関なのか、ボランティア組織なのかという2つの対極軸が見出さ
れた。カナダのように、政府機関からボランティア組織に大きく方向転換した国もある。また、
スウェーデンでは、最初から ODA によるボランティア派遣は行っていない。一方、米国のピ
ース・コーにおいては政府派遣の形態を堅持している。
派遣目的としては、個人の能力向上(Capacity building)を重視するのか、専門性(Specialty)
をもつ人材を活用するのかという2つの方向性があり、多くの組織では双方のバランスに配慮
していた。一般的に、個人の能力向上を重視する場合は年齢層が低く、一定の研修を受けたあ
と、6カ月から2年くらいの長期派遣を行っていた。専門性を重視する場合には、年齢層も高
くなる傾向にあり、6カ月以内という短期派遣も少なくなかった。
1965 年以来、国際協力の中にボランティアという考え方を導入したという意味で青年海外協
力隊の果たした先駆的な役割と意義は非常に大きなものがあった。しかし、現在では、途上国
において無数の NGO/NPO(国際 NGO からローカル NGO まで)が多様な分野に展開し、多
くの日本人ボランティアが国際協力の現場で活動している。このような現状からみれば、ODA
としてボランティア事業を行う意義を改めて問い直す必要があろう。
また、個人の能力向上か、専門性の重視かという点については、JOCV においては機軸が揺れ
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動いているように見える。体験談や説明会などの新規隊員募集の際には、
「あなたの世界を変
える第一歩」あるいは「世界も、自分も、変えるシゴト」と呼び込みをかけている一方で、途
上国での活動においてはプログラム評価の視点などから ODA 事業としての成果を求めている。
個人の能力向上と専門性の間でどのようにバランスを取るのかという戦略を策定したあとは、
募集の時から派遣終了時まで一貫した方針を提示し続けるべきである。それが、ある意味で人
生をかけて途上国に赴こうと決意した人に対する組織としての誠意であろう。
(2)派遣形態の多様化が必要である
途上国の多様なニーズに応えるためには、多様な人材を海外ボランティアとして派遣する必要
が生じる。また、グローバル化のなかで、日本も多文化共生社会となりつつある。在住外国人
の定住化により 200 万人以上の外国籍の市民が暮らし、国際結婚は全婚姻の5%にのぼってい
る。海外で勉学した帰国子女が増加し、日本で学ぶ留学生は 12 万人を越し、そして青年海外
協力隊経験者は3万人以上にのぼっている。
このように、日本国内の人材が多様化している現状を見据え、海外ボランティアの派遣形態を
多様化すべきである。派遣する人材の多様性に応じて、研修の形態も異なるであろうし、帰国
後の日本社会とのかかわりも当然異なってくる。
・青年ボランティア
途上国での経験を積む機会を提供することを目的とする。大学、NGO、民間企業、地方自治
体との連携をより強化し、ネットワーク化する必要がある。
長期ボランティア(現在の JOCV の2年間派遣の形態)
大学、民間企業、地方自治体からの派遣(3−6カ月)
NGO スタッフとして派遣(6カ月―1年)
・専門職ボランティア
すでに、高い専門性や国際協力経験を有する人材を途上国で活用することを目的とする。長
期間の研修は不要であり、相手国のニーズにあわせて派遣期間も柔軟に対応できる。
・架け橋ボランティア
日本に在住する外国人(国籍は日本だが、両親が外国人という場合もある)が家族の母国で
活動することを目的とする。日本で育った外国人のなかには、
「日本と母国との架け橋になり
たい」と願う青少年も少なくない。彼らこそが、日本と途上国という2つの国の文化や風土を
熟知している貴重な人材である。日本が多文化多民族共生社会であるという前提に立てば、青
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年海外協力隊員の国籍条項を撤廃することが求められている。
(3)帰国後の日本社会への還元
海外ボランティア活動を日本社会に還元していくためには、以下のような6つのステップが
必要であろう。
・就職支援活動のシステム化
驚くべきことに、JOCV 帰国ボランティアのうち、進路が未決定のものはわずか 0.5%であ
る(2006 年度帰国者)
。JICA の進路開拓セミナーや進路相談カウンセラー事業の効果ともい
えるであろう。個人の努力と知人のツテに頼る時代は終焉した。多くの国立大学においても、
組織をあげて就職支援活動に取り組むようになっている。民間企業との共同事業として就職支
援センターを設置し、履歴書や自己紹介の書き方の指導、就職情報や採用情報などを提供する
必要がある。
・日本の国際協力の人的資源としての活用
帰国隊員の 20%以上を国際協力分野で活用するための戦略が必要である。2006 年度帰国者
資料では、帰国隊員のうち、JICA ボランティア(8%)
、JICA(3%)
、NGO(2%)
、公務
員(5%)である。現状では、JICA のジュニア専門員と国連ボランティア(UNV)の採用に
おいて、JOCV 経験が優先的に考慮されるに過ぎない。ODA による海外ボランティア派遣事
業という性格を考えると、まず政府が率先して JOCV 経験者を積極的に採用すべきであろう。
政府が優先的に採用しない限り、民間企業が JOCV 経験者を優先採用する動きは広がらないで
あろう。
具体的には、以下のような方策が考えられる。ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー
(Junior Professional Officer: 以下 JPO)のうち数名は JOCV 経験者の枠として確保し、
JOCV から JPO、国連職員という道筋を誘導する。JICA や外務省の中途採用において、JOCV
枠を確保する。その他の官庁や自治体においても、中途採用にあたり、JOCV 経験を優遇する
ことを明記すべきである。
・大学院などにおけるキャリア・アップに対する支援
とくに、青年ボランティアにおいては、個人の能力向上(Capacity building)のためには、
単なる途上国経験だけでなく、帰国後に大学院などにおいて勉学することが重要となる。個人
の能力向上に重きを置いている米国のピース・コーでは「大学院も途上国経験も」というスロ
ーガンで、大学院との共同を推進している。帰国後の進路相談会、大学案内などを積極的に開
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催し、帰国隊員が大学院で行う研究に対する支援もより一層の拡充が望まれる。また、協力隊
や JOCA が大学や大学院と連携して、寄附講座や講師の派遣を行い、協力隊候補者の教育と帰
国隊員のキャリア・アップに積極的にかかわることも考えられる。
・多民族多文化社会の日本社会への還元
多民族多文化社会となりつつある日本社会で必要なのは、言語能力と異文化経験をもつ人材
であり、まさに JOCV 帰国隊員がそれに相当する。本研究で明らかとなったことは、多くの帰
国隊員が共生社会の実現のために活動しているが、そのほとんどは個人的に活動を開拓してき
たことであった。
外国人が多く住んでいる地方自治体との協働はもとより、外国人集住都市会議(2001 年に
設立され、群馬県、静岡県、
愛知県などの 25 市町村の首長が集う)や自治体国際化協会(CLAIR)
などとの組織的な連携が必要であろう。また、教育、保健医療、保育などの現場ではコミュニ
ティ通訳者を切望している。地方自治体と協働して多文化共生センターを設置・運営する、コ
ミュニティ通訳の研修会を開催する、などの組織的支援を行う必要性は高い。JOCA が指定管
理者となっている浦安市国際センターのような活動を一つのモデルとして、より広範囲の多文
化共生社会をめざした活動の展開が必要である。そのためには、自治体、大学、NGO などと
個別に展開するだけでなく、
「多文化共生ネットワーク」を構築して、システムとして取り組
む必要があろう。
・戦略的な国際理解教育のあり方
国際理解教育として、単に、途上国の経験談を話す時代は終わった。今後は、市民が行動で
きるための道案内ガイドとしての役割が求められている。現職参加した経験を持つ教員も多く、
国際理解教育のあり方を戦略的に構築し、実践を広げていくシステムが求められている。文部
科学省では、
「初等中等教育における国際教育推進検討会報告」
(2005 年)において、
「地域の
国際教育拠点の形成」や「国際教育にかかわる教育資源の共有化と連携の強化」を掲げている。
今後は、文部科学省、自治体教育委員会、国際理解教育学会、開発教育協会などとのネットワ
ークを構築し、JOCV 経験を活かした戦略的な国際理解教育をめざす必要があろう。
(4)自立と共生の新たな地域社会をめざして
2004 年 12 月のスマトラ沖地震・津波で未曾有の被害を受けたアチェ州における人道支援に
関して、2008 年 8 月に研究者、国際機関、NGO、メディアなどから構成される学際チームに
よる調査を行ったことがある。北アチェ州の農村では、日本人宣教師が被災した村をたまたま
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訪れ、村の農民は宣教師とともに有機農法に取り組みはじめ、彼が村を訪問してくれることを
心待ちにしていた。敬虔なイスラム教徒の村で日本人宣教師が指導する有機農法という、突拍
子もない人と人の結びつき。また、1978 年にドイツの飛行機が墜落したマラッカ海峡に面し
た漁村では、ドイツの NGO が津波後の復興支援として漁船や研修などの支援を行っていた。
30 年近い年月を隔て、災害がマラッカ海峡沿いの村とドイツを直接結びつけた。地震や津波で
大きな被害を受けた地元の民が、災害後の人道支援という形で外部からやってきたよそ者と出
会う。悲惨な災害がなければ恐らく絶対に出会うことのなかった地元民とよそ者が紡ぐ織物と
して、共生人道支援が実施されていた。
おなじことが、熊本県水俣で始まった「地元学」でもいえる。地元学では、地元に存在する
「あるものさがし」のなかで、どこにでもあるもの、よそにはないものを探す作業を通じて、
それらを新しく組み合わせる想像力を大切にしている。そのときに、地元に暮らす「土のひと」
だけで行うのではなく、外部からやってきた「風のひと」との協働作業が重要である。風のひ
との役割は、教え導くことではなく、地域のもっている力を引き出す触媒であり、土のひとが
変わっていくまで、ゆっくりと待つ心構えが求められている。
地域社会の再生・振興に向けて、JOCV 帰国隊員の手によって地域に根ざした取り組みが各
地で実践されている。本研究においても、さまざまな形で地域の活動に参加しながら、途上国
とのつながりや支援を継続していた。野球を楽しみながら途上国に野球道具を送る、レストラ
ンを経営しながらバングラディッシュ農村を支援する、大学教員が学生を巻き込んでパラグア
イの子どもたちの就学支援をする、かつての派遣国が災害を受けた時に緊急支援する、といっ
たさまざまな Good Practice が実践されていた。
言いふるされた言葉ではあるが、
「Think Globally,Act Locally」は 21 世紀の日本社会の再
生のためのキーワードの一つである。グローバルな世界を視野に入れて、いま暮らしている地
域から地道に取り組んでいく試みを広げていく戦略が求められている。
JOCV 帰国隊員が地域社会での活動に取り組むときは、ある意味でよそ者であり、
「風のひ
と」として位置づけられる。しかし、途上国の厳しい現実の中で、赴任前に描く理想と赴任後
に直面する現実のギャップを克服し、勤務先やコミュニティのなかで異文化になじみながら理
解してきた貴重な経験を持っている。地域に内在する豊かな資源(人、モノ、資金、情報など)
を新たに組み合わせることにより、
「土のひと」である地域住民とともに、地域のもつ力を引
き出す触媒としては、JOCV 帰国隊員はうってつけの人材である。
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まず、JOCV 帰国隊員による地域社会活動の実践例を Good Practice として位置づけ、その
具体的な成功の秘訣と教訓(Lessons learned)を出版し、批判を受けることが求められる。地
域社会活動を行っているのは、JOCV 帰国隊員だけではない。JOCV 経験の優位性を明らかに
するには、地域社会の人びとに成功と失敗の軌跡を提示することが重要である。次に、地域社
会活動に取り組もうとする JOCV 帰国隊員への財政的支援の拡充が求められている。同時に、
地域社会活動に取り組んでいる帰国隊員によるセミナーなどを積極的に開催し、帰国隊員同士
の情報交換の機会を増やすべきであろう。
このような地域社会活動は、日本の多くの人々の手で行われている。各地のボランティア・
センター、全国社会福祉協議会、総務省地域おこし協力隊、トヨタ財団地域社会プログラム、
地域社会振興財団など、多くの団体とのネットワークを構築し、長期的な視野で取り組む必要
がある。将来的には、地域での地道な活動が国境や民族を越えて外部世界とつながり、国内外
での先駆的な活動の成果や情報を取り入れ、地域の活性化につながる地域社会プログラムの成
果がグローバルな共有財産となることを期待したい。
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おわりに
本委託研究「日本社会の課題解決における海外ボランティア活動の有効性の検証」に関して、
青年海外協力隊協会(JOCA)と最初に話をしたのは、2006 年の暮れではなかったかと思う。
青年海外協力隊の日本社会への貢献について研究できないかとの話であった。調査は東京大学
と大阪大学の両方に頼みたいとのことである。大阪大学としては、できないことはないが、国
際協力機構(JICA)
の青年海外協力隊事務局でも毎年こうした調査は行っていることでもあり、
何か新しいことを見いだせるか不安があったことは事実である。しかし、それ以上に、この課
題は研究者として魅力的であった。これまで大阪大学では中村教授を中心として、協力隊員の
報告書を分析してレポートを作成したことがあった。幸い好評で、協力隊員の活動を動かして
いる要因をそれなりに分析できたと思う。
今回の調査を行うにあたって、協力隊経験者でかつ大学で教員となっている方々と若い研究
者を中心に研究班を組織した。国際ボランティアの社会貢献と言っても幅ひろく、何を対象と
するか、そしてそれに迫るためにどような調査方法が最適なのか、また2年間という期間と限
られた予算の中での実現可能性等々、課題は山積していたが、逆にそれゆえに、研究者として
やりがいを感じたことも事実である。最終的には国内での帰国隊員へのインタビューとアンケ
ート調査、それに併行して関係機関へのインタビューを行い、海外の国際ボランテティア派遣
機関への訪問調査を通して立体的に課題に迫ることにした。
大阪や東京で何度も行った打合せの会議は大変刺激的で、参加することが楽しみであった。
そして若い研究者の方々が積極的に参加したことも印象的であった。また、いわば調査チーム
全員参加の形で国内での調査と海外の訪問聞き取り調査をほぼ予定通りに行うことができた。
調査は若手と経験のある研究者の組み合わせて行うことができたことも、有意義であった。そ
のため、調査実施ごとに行われた報告会や2度行ったシンポジュウムは大変盛り上がり、研究
チームにとっても貴重な共に学びあう場であった。私自身は、山口県における帰国隊員のイン
タビューとアメリカ、カナダ、ケニアでの国際ボランティア派遣機関の調査を行った。若い大
学院生とともに行う調査は、大変ではあったが、私自身にとって大きな学びの機会であり、2
年間の調査が終わるのをさびしく思っている次第である。
出来上がった報告書の内容に関しては、私が評価する立場にはないが、調査に参加したもの
として、学ぶところが多く、今後の国際ボランティア事業に関して一定のパースペクティブを
与えることができたのではないかと思う。
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最後に本調査の機会を与えてくださった金子洋三会長をはじめとする青年海外協力協会
(JOCA)に感謝いたします。そして、調査に協力していただいた帰国協力隊隊員、関係機関、
海外の国際ボランティア機関の方々、また、委託研究費の受け入れから事務処理、会計処理に
力を尽くしてくれた大阪大学人間科学部の事務の方々に深謝いたします。最後に、特任研究員
として、さまざまな事務連絡と同時に調査の実施、報告書のまとめまで丁寧に行ってくれた
麻里さんには心から「ありがとう」と申し上げます。
研究チームを代表して 内海成治
2009 年 6 月 21 日
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