ここ - 市民オンブズパーソン栃木

COPT通信61
市民オンブズパーソン栃木 2012 年 4 月 18 日発行
Citizen
OnbudzPersons
号 Tochigi
当時、道路特定財源の暫定税率の問題は、国
内政治の最大の争点で与野党が激しく対立して
いました。このような政治的問題に関し、一方
の立場を支持する署名活動に県が協力すること
は、地公法 35 条(職務専念義務)
、36 条(政
治的行為の制限)に反するとし、県知事らに対
し、県が費消したコピー代等の賠償を求める住
民訴訟を 08 年 6 月 9 日に提起しました。また、
署名活動に協力した自治体側の公金支出につい
ては、パーソン栃木の会員2名が高根沢町長と
那須烏山市長に対し、損害賠償を求める住民訴
訟を提起しました。
09 年 12 月に那須烏山市の事件の判決があり
ました。判決は、市職員の署名活動への協力行
為は地公法 35 条に違反するが、職員の故意・
重過失までは認められないとして請求を棄却し
ました。結論は住民側の敗訴でしたが、違法性
(職務専念義務違反)は認め、判決は確定しま
した。
10 年 2 月に県と高根沢町の事件の判決があ
りました。判決は、両事件とも、公務員は全体
の奉仕者であるから特定の私的団体の活動に協
力することは職務の範囲を逸脱するとし、署名
活動への協力行為は違法であるとして請求を認
容しました。高根沢町の方は控訴せずに確定し
ました。
県の方は控訴し、控訴審判決が 11 年 1 月 31
日にありました。東京高裁は、署名協力は県の
分掌事務として行われたもので一部の者のため
に行われたとは認められないとして原判決を取
り消し、パーソン栃木の請求を棄却しました。
パーソン栃木は上告しましたが、本年 3 月 1 日、
最高裁は上告を棄却しました。
この事件は、争いの金額は小さな事件でした
が、政治的問題に対する自治体の関与の在り方
という重大な問題が争点となりました。この争
点は、例えば、今問題となっている原発につい
て、今後、その存廃をめぐるさまざまな動きが
起きて自治体が関わってくるような場合には、
同様に問題となってくるものです。残念ながら
上級審では敗訴してしまいましたが、1審では
自治体の関与を明確に違法と認める司法判断が
なされ、今後の自治体の動きに一定の歯止めを
かけたという意味で意義のある訴訟であったと
思います。
2011年度活動報告
パーソン栃木代表 高 橋 信 正
2011 年度の主な活動を報告します。なお、
2011 年度以前より継続している問題について
は、新入会員にもわかるように、当初からの活
動経過も簡単に記しました。
1 3ダム訴訟
3ダム(南摩ダム、湯西川ダム、八ツ場ダム)
事業への公金支出は違法であるとして、パーソ
ン栃木と県民 20 人が栃木県知事に対し、事業
負担金の差し止めと既払金約 81 億 9000 万円
の損害賠償等を求めた住民訴訟です。
04 年 11 月に提訴し、11 年 3 月 24 日に1審
判決がありました。判決は、違法性を基礎づけ
る住民側の主張を相当程度認めながら、結論と
しては行政に広範な裁量を認めてダム行政を追
認する不当な内容でした。八ツ場ダムについて
は、1都5県で同時に住民訴訟を提起しました
が、1審はすべて住民側の敗訴となり、いずれ
も控訴して東京高裁に係属中です。
栃木の控訴事件では、東京高裁の裁判官の要
望により、本年 4 月 27 日に湯西川ダム・南摩
ダム・渡良瀬遊水地等の現地視察(現地進行協
議)がおこなわれることになりました。
ダム問題について、政治に期待することがで
きなくなった以上、私たちが頑張っていかなけ
ればならないと思います
2 道路特定財源署名訴訟
08 年 1 月、栃木県は、
「必要な道路整備を進
める女性の会」と称する団体から、ガソリンの
暫定税率の維持を求める署名の協力要請を受け、
各市町村長に署名活動への協力を依頼し、各自
治体はこれに協力しました。
1
直しは当然で遅すぎたというべきです。しかし、
第1回の有識者会議の議論の内容を見ると、適
正な結論が出されるとは到底思えません。
3 行政委員の月額報酬訴訟
県の非常勤行政委員(収用委員会・人事委員
会・労働委員会・選挙管理委員会・教育委員会・
公安委員会の各委員および監査委員)は、公安
委員会以外は、1 年間に開いた定例会が 10 ~
30 回程度(公安委員会だけは 70 ~ 90 回程度)
という状態で、ほとんどの委員が 10 数万円程
度の月額報酬を支給されており、定例会に全く
出席しない月でも月額報酬は支給されます。そ
の結果、定例会1回当たりの報酬額を計算する
と、10 数万円から 20 万円を超える委員もいま
した。
このような月額報酬制は違法かつ不当である
として、パーソン栃木は、県知事に対し、月額
報酬の支出差し止めを求める住民訴訟を 09 年
7 月 27 日に提訴しました。この判決が 10 年
12 月 16 日にありました。判決は、月額報酬を
定めることは県議会の裁量権の範囲内であると
して請求を棄却しました。
パーソン栃木は控訴し、11 年 10 月 12 日に
東京高裁の判決がありました。加藤裁判長は、
審理中、
「原審は被控訴人の言いなりの判決を
しており、そのような立場はとらない」と明言
していましたが、呆れたことに、判決は、原審
とほぼ同じ理由で議会の裁量権の逸脱・濫用は
ないと判断し、控訴を棄却しました。加藤裁判
長の言を借りれば、
「被控訴人の言いなりの判
決」と厳しく批判されるべきです。
パーソン栃木は上告し、現在最高裁に係属中
です。しかし、最高裁の別の部では、11 年 12
月 15 日に、同種の滋賀県の事件で、自治体の
議会の裁量を広く認める判断を示し、1審と2
審の判決を取り消して原告側を逆転敗訴させま
した。この最高裁判決は、議会の裁量権に限界
があることは認めたものの、月額制をとる必要
性について行政側の言い分をそのまま認め、結
果的には議会に無限定な裁量権を認めた不当な
内容です。
栃木県の 08 年度の全行政委員の月額報酬を
時給 2 万円で試算すると、年間約 6000 万円が
削減できます。これが長年、税金から支出され
ているのです。滋賀県の大津地裁判決以降、全
国各自治体で月額報酬の見直しが急速に進んで
いますが、その理由は、判決で明らかになった
異常に高額な月額報酬の実態が、一般市民の感
覚から著しくかけ離れているためと思います。
栃木県でも、ようやく本年3月から有識者会議
を開催し、月額報酬の見直しを始めました。見
4 県議政務調査費訴訟
栃木県議会では、08 年度分から政務調査費
の収支報告書に領収書の添付を義務付けました。
パーソン栃木は、09 年6月、両議会の収支報
告書の開示請求を行い、開示資料を分析・検討
しました。その結果、政調費の支出報告書の内
容に問題が多いことが判明したため、10 年 5
月 13 日に、4会派に対し総額約9千万円の返
還求める監査請求をおこないました。
しかし、監査委員は、監査結果の中で、政調
費については会派に広範な裁量権限があり、そ
の自主性・自立性が尊重されると述べ、政調費
の支出内容に立ち入った審査は全く行なわず、
支出内容に疑問があることを認めながらも、会
派が政調活動費と判断し認めているから違法不
当でないと結論づけました。すなわち、
「不適
切な処理が一部見受けられた」とか「収支報告
書の内容が簡単な記載にとどまっており、県民
への説明責任、透明性の確保から政務調査費の
支出対象となることを説明できる記載内容とす
るよう要望する」等と述べていますが、それが
監査結果に反映していません。その結果、監査
委員は、自民党会派の 46 万 2,989 円を違法・
不当支出と認め返還請求等の措置を勧告しまし
たが、その余は違法・不当支出と認めませんで
した。パーソン栃木は、県知事に対し、各会派
に合計約 9000 万円の返還を求める住民訴訟を
10 年 8 月 10 日に提起しました。
パーソン栃木は、引き続いて 09 年度の政調
費についても監査請求を経て、11 年 8 月 19 日
に、県知事に対し、各会派に合計約 1 億 1700
万円の返還を求める住民訴訟を提起しました。
2 つの事件は、現在、宇都宮地裁で審理中ですが、
10 年度の政調費についても、監査請求をおこ
ない住民訴訟を提起する予定です。
5 本田技研補助金訴訟
本田技研工業とホンダエンジニアリングが、
宇都宮テクノポリスセンター東側の土地約 10
haを購入し、研究施設を新設して 10 年から
稼働しています。これに対し宇都宮市は、
「企
2
パーソン栃木は、11 年 3 月 28 日、宇都宮市
監査委員に対し、本件補助金の交付を行わない
よう宇都宮市長に勧告することを求める監査請
求を行いました。ところが、宇都宮市は、私た
ちが監査請求を行ったその当日に補助金の支出
をしました。そこで、監査請求を損害の填補を
求める内容に変更しましたが、監査委員は監査
請求を認めませんでした。パーソン栃木は、宇
都宮市長に対し、本田技研に約 9700 万円の返
還を求める住民訴訟を 11 年 8 月 18 日に提起し
ました。
業立地補助制度」により、上限額である約 10
億円の補助を行いました。
この補助制度は、企業の新規立地に対する補
助制度です。しかし、本田技研の場合は、従前
より芳賀工業団地で営んでいた事業の敷地拡大
のため隣接地を購入したところ、偶々それが宇
都宮市であったというもので、実態は企業の新
規立地でなく既存企業の事業拡大にすぎません。
したがって、新規立地により期待されるような
産業の振興や雇用機会の拡大が生じることもあ
りません。なお、宇都宮市では、市内立地企業
の事業拡大の場合については、
「企業拡大再投
資補助制度」を設けており、その場合の補助限
度額は 5000 万円と定めています。本件は明ら
かに制度趣旨に反する補助で、しかも一私企業
に 10 億円というのは極めて過大であり不当な
公金支出です。
2012年度活動方針
パーソン栃木代表 高 橋 信 正
パーソン栃木が結成されてから 15 年が経過しました。この間、全国各地でオンブ
ズマン活動が活発化し、住民訴訟の数も増えて、それに関する情報交換が盛んにお
こなわれるようになりました。特に北海道・東北ネットワークは、全国でそれが最
も進んでおり、共通のテーマの訴訟に関して継続的に情報交換や弁護団会議がおこ
なわれるようになってきました。このように、住民側の訴訟に対する取り組みは従
前と比較にならないほど進化してきています。
しかし、裁判所の最近の状況は悪くなっていると言わざるをえません。行政に
対し無制限ともいえる大幅な裁量を認め、行政を追認する傾向が顕著です。これ
は、全国各地の裁判所において見られますが、特に最高裁にその傾向を強く感じます。
例えば議員の費用弁償訴訟や行政委員の月額報酬訴訟などをみても、せっかく下級
審で行政の違法不当を是正する良い判決が出ても、最高裁に行くと行政の裁量を理
由に破棄されてしまいます。これでは、司法に行政をチェックする機能を期待する
ことはできません。私たちは、このような裁判所の姿勢を正し、市民常識にかなっ
た適正な判断をさせるよう求めていかなければなりません。そのために、今後とも
住民訴訟に積極的に取り組んでいく決意です。特に、新しい弁護士会員には、裁判
の中心的役割を果たしていただきたいと思います。
また、最近は、どうしてもパーソンの活動が裁判中心になってしまいがちです。
私たちの活動を広めていくためには、裁判以外の活動も重要です。裁判以外の活動
のテーマを探し、積極的に取り組んでいきたいと思います。
今年も「行政の監視・是正」というパーソン結成の原点に立ち、行政の不正・腐
敗を追及していきます。
3
冥土の土産
秋 元 照 夫
私の母は、大正 11 年生まれで今年満 90 歳になる。
私は高 3 まで大田原市で暮らしていたが、東京の大学に行ってからは母と一緒に暮らしたことは
なく、客観的に母を見たことがないのである。
勿論、田舎へ帰省した時などは母に面倒は見てもらったが、結婚してからも親とは同居せず宇都宮
市で暮らしている。父は 22 年前に他界し、母は姉夫婦、孫夫婦、ひ孫 2 名と暮らしている。母は 5
人兄弟姉妹であったが、昨年兄と妹を続けて亡くした。
東日本大震災と原発事故を目の当たりにして、いつ何があっても不思議でない世の中であると痛感
した。私は母と生まれて一度も旅行したことがないことに気付いた。記憶にあるのは母の実家(大田
原市の郊外)へ行ったことぐらいである。
母が死んで祭壇に手を合わせるなら、生きている間に冥土の土産を作ってやろうと思い立った。
冥土の土産なら行ったことのない地域が良い。どこにするか迷った。
私はツアー旅行が大嫌いなのであるが、今回ばかりは母を中心に考えた。何しろ 90 歳の母のお守
をしなければならないからだ。
そこで思いついたのは、今流行の舩の旅である。クルーズといっても色々あるあるが、エーゲ海に
決めた。この地は前々から行ってみたいと思っていたところだ。
母に昨年 6 月ごろ話してみたら、行かない!とあっさり断られた。
姉と私の妻も同行することを伝え、寝ている間に移動できる。船は大型豪華客船だから船揺れはし
ない。添乗員も付いており船には医者も同行しているからなどと説得にかかった。幸い母は、足腰が
丈夫で食欲もある。
かかりつけの日赤のお医者さんに相談したら太鼓判を押され、
やっとその気になっ
た。
母は、それから毎日 2km ぐらいの散歩をしていたようだ。
旅の日程は、11 年 10 月 19 日~ 11 月 1 日までの 14 日間、ローマ郊外のチベタビッキア港を出航
してエーゲ海へ、初めて上陸するのはミコノス島。翌日トルコのクシャダスへ、翌々日イスタンブー
ルへ、翌日アテネへ、翌日サントリーニ島へ、翌々日ナポリへと船内泊 11 日のクルーズである。
イギリスの豪華客船タイタニック号が転覆・沈没してから今年でちょうど 100 年。チベタビッキ
ア港を出港して間もなく、ジリオ島付近で豪華客船「コスタ・コンコルディア」
(乗客乗員約 4200 人)
が 1 月 13 日に座礁・横転したという報道があった。私の頭にはあの大型船が横転するなんて考えも
なかった。
私が乗った船を紹介しよう。セレブリティ・イクノス号(アメリカの会社)という船で全長 314 m、
全幅 36 m、16 階建、総トン数 122,000t、乗客定員 2,850 人、乗務員数 1,250 人、客室数 1,426 室、
船内には劇場、カジノ、プール、ジム、ショップ、バー、メインダイニング、10 か所のレストラン
を備えており、一つの街のようだった。
さて、舩には、カジュアルクラス、プレミアムクラス、ラグジユアリークラスに分けられている。
クイーンエリザベス号や飛鳥はラグジユアリークラスである。何が違うのか?まず第 1 に乗客と乗
務員の割合である。ラグジユアリークラスになると 1:1 ぐらい。私が乗ったのはプレミアムクラスで、
乗客2名に対し乗務員1名がついた。彼の仕事は、ベットメイキングや室内掃除である。
1月に座礁したコスタ・コンコルディアは、カジュアルクラス。欧米人にとってクルーズは決して
高いものではない。子供料金は無料のところが多く、酒や特別なレストラン以外での食事はすべて無
料である。したがって、子供が走り回っているような船はカジュアルクラスでファミリー向けといえ
4
るでしょう。
その他、船室の広さ、バスタブ付、ベランダ付など色々ある。
私が乗った船の 11 階はペントハウスデッキで、ペントハウススイートとロイヤルスイートなど専
用の階になっている。ペントハウススイートは、112 ㎡、ベランダ 36 ㎡もある。船は階級社会とい
われているが、ちなみに私の部屋は 18 ㎡、ベランダ 5 ㎡であった。
日本のメディアは、座礁した「コスタ・コンコルディア」号を豪華客船と報じたが、正確な報道で
はない。見た目は大きなファミレスを豪華なレストランと表現しているのと同じだからである。報道
は常に真実でなければならない。
私の職業柄どうしても乗務員 1,250 名もいて、採算が取れるのか気になるところであった。終日ク
ルーズの日に毎日 4000 名分の食事を作る厨房見学会があった。厨房は合理的に設計されており、注
文を間違いなく作くれるシステムになっていた。
コック長はスイス人でその下で働いている多くの労働者は、
アフリカ系であった。たぶん 1 日 1,000
円~ 2,000 円ぐらいだろう。また、ウエーターやウエートレスの多くが、東南アジア系であった。私
たちの席の係は、男女ともフィリピン人であった。乗務員は6か月契約で再雇用されるかどうかは、
成績次第ということであった。日本人の乗務員は女性2名で、エステで針をやっていたようだ。
1 隻 500 億円~ 1000 億円といわれており、大型化することで大量人数を乗せ、食材費をコストダ
ウンし、賃金の安いアフリカ系、東南アジア系を使うことで収益をあげていることもわかった。
ちなみに飲料水以外の水は海水を濾過して使用し、残飯などは魚のエサと称して海洋へ投棄してい
るとのことであった。
さて、クルーズの話をしよう。
10 月 20 日チベタベッキア港を出港し、22 日午後 1 時にエーゲ海の島ミコノス島に入港した。こ
の島の観光は風車である。写真でしか見たことがなかったが、1 日もいれば良い島であった。この島
はヌーディストビーチとゲイが多い島でも有名なのである。レストランで男同士が唇でキスするシー
ンを目前で見るとカルチャーショックを受けた。もう一つ有名なのが、ペリカンである。
私はレストランのおやじに「ペリカン」はどこにいる?と尋ねたら、
「ストライキ」と叫び、そこ
らへんにいるだろうとの返事。カメラを担いでペリカン探しが始まった。あっちこっちと何の当ても
なく探し回っていると、なんと小高いレストランの前で身動きせずじっと目を閉じているペリカンを
発見した。
近づいても写真を撮っても逃げずにじっとしたままだった。まさにストライキ中のようだった。
ギリシャでは、ミコノス島、アテネ、サントリ二―島の 3 か所を観光した。
アテネでは、アクリポリスの丘へ登りパルテノン神殿を見てきた。母は両脇を支えられながらも難
なく登ることができた。紀元前 438 年に完成したという世界遺産に感激していたようである。
ガイドさんは 70 歳を過ぎている日本人
女性でギリシャ人と結婚して 40 年ぐらい
ギリシャで生活しているとのこと。アテ
ネ市内では連日デモがあると日本では報
道されているが、心配はないですか?と
尋ねると、なぜそんなに騒ぐのか?デモ
しているところは大統領府前のシンタグ
マ広場だけで行われており問題ないとの
返事。確かに街中は綺麗でありゴミなど
が散乱している様子は見当たらなかった。
ガイドさん曰く。
「ギリシャの債務問題で EU から出てい
けという声が上がっているが、ヨーロッ
5
パの礎を作ったのは、ギリシャ人ではないか!哲学者のソクラテス、プラトン、アリストテレス、ア
ルキメデス、ピタゴラス、医学の祖ヒポクラテスも皆ギリシャ人である。ヨーロッパという名は、ギ
リシャ神話に登場する美女「エウロペ」に由来し、歴史家ヘロドトスが命名したというのである。
」
ギリシャのお陰で今日のヨーロッパの繁栄があるのだから、そう邪険に扱うなということを言いた
かったのであろう。
ギリシャ危機が世界を揺るがしているのは事実である。メディアはギリシャ国民を「アリとキリギ
リス」のキリギリスに例え、
彼らに責任があるとするが、
本当にそうなのか?真実を見ることが必要だ。
クルーズの話から飛んでしまうが、ギリシャの財政赤字の原因は何か。
まず政治家と官僚の腐敗がある。
米国のブルッキングス研究所は、ワイロや汚職によって毎年ギリシャ政府は、GDPの8%にあた
る200億ユーロ以上を失っていると発表した。大企業・富裕層は、減税の恩恵を受けた上、大がか
りな脱税を行なっている。ギリシャは世界最大の商船保有国(4千隻以上)だが、商船に対する優遇
措置で毎年 60 億ユーロの付加価値税収入を失っている。こうした脱税、汚職などのヤミ経済は、ギ
リシャのGDP(約2300億ユーロ)の3割以上を占めるといわれる。
歳出面では、10 年間で500億ユーロにのぼる巨額の軍事費がある。対GDP比でEUでは最も
高い軍事費を維持してきた。ギリシャが保有する戦闘機、潜水艦、ヘリなどの大半はドイツとフラン
スの軍事産業から購入している。
こうした赤字国に、融資と国債引き受けで過剰なカネを貸し付けたのが欧州の民間銀行(特にドイ
ツとフランスの銀行)だった。これら民間銀行は、欧州中央銀行(ECB)から金利1%で資金を借
りることができ、それを元手に 利回りが5%程度のギリシャ国債を買えば差額の4%分はまる儲け
だ。ギリシャの累積債務3千億ユーロの 70%は、ドイツとフランスの銀行からの借金だ。 ドイ
ツとフランスは、自国の工業製品を買わせるためにギリシャに際限なく貸し付けたともいえる。
ギリシャの財政赤字が発覚した当初ドイツはギリシャ支援を渋った。ギリシャ危機でユーロ安にな
ることは、
世界有数の輸出産業を擁するドイツにとってむしろ有利な事態だったからだ。
現にギリシャ
危機以降、ドイツの輸出は好調を維持している。ギリシャ国民の犠牲でドイツのグローバル資本はた
んまり儲けたのだ。
財政赤字を作り出した腐敗政治家・富裕層とカネを貸し込んでぼろ儲けしてきたグローバル金融資
本にこそ責任を取らせなければならない。
日本では、野田政権は大騒ぎして消費税増税をしなければ、いずれは日本もギリシャのようになっ
てしまうかのように、メディアを使って大々的に報道している。日本のメディアは戦前の大本営発表
と同じくなってしまったと見て良いだろう。
さて、クルーズの話に戻そう。
8 日目の朝、サントリーニ島に入港した。
接岸はできないため小型船に乗換えての
上陸だ。この島は、アトランティス大陸伝
説の島で、紀元前 1530 年に火山の爆発で
島の半分が吹っ飛んでしまった。海抜 300
mの絶壁の上にフィラの町の家々が迫って
いる。エーゲ海の青、
真っ白な家に赤いブー
ゲンビリア、個人宅にあるブルーのドーム
型のギリシャ正教教会など、始めて訪れた
者には感嘆を呼ぶ景色である。エーゲ海一
の島といっても良いだろう。街はホテルと
土産物屋とレストラン、なぜか宝石店が軒
を並べる。ミコノス島でもそうだが、観光
6
の島である以上、シーズンというのがあ
る。ハイシーズンは 5 月~ 9 月。10 月下
旬では 1/3 ぐらいが店を閉じていた。当
然ツアー料金も違ってくる。大きなホテ
ルは少なく、断崖絶壁に建ち並んでいた
小さなラクジュアリーホテルの 10 月の営
業は、クローズであった。
船に戻るには、ロープウェーで降りる
か徒歩で降りるかのどちらかである。
私と妻は徒歩にした。この島で一番働
くのはロバと聞いていた。港からの荷あ
げなどの運搬である。したがって、道は
ロバの糞だらけである。歩き始めてすぐ
にロバ引きに捕まってしまった。1 人 5 ユーロだ。ガイドブックには 4 ユーロって書いてあったが、
ま~いいか。ロバに乗ったことないことを告げても、
「ノープロブレム」を連呼するだけ。まったく
いい加減なおやじ!
勿論ロバ1頭に1人ある。添乗員は事故が怖いから勧めてはいなかったが、旅の記念に乗ってみた。
先頭のおやじさんは、この道何十年のベテランらしいが、こっちは初めてでカメラの三脚とザック
を背負い、しかも曲がりくねった下りである。歩いた方が余程楽だった。それにしても1日中客待ち
をしているのだろうか。しかも一人ではなく 10 人ぐらいはロバと一緒にたむろしていた。
ハリウッドスターのブラットピットとアンジェリーナ・ジョリー夫婦は5億円の別荘を買ったそう
だが、もしも私がこの島で暮らすとしたら、暮らせるだろうかと考えてしまった。1週間居られるだ
ろうか?何もしないことが最高の贅沢という価値観が無いからだ。遊びにも才能がいることを痛感し
た。
私だけではなく多くの日本人には、働くことこそ美徳とする遺伝子が組み込まれていると思う。
さっきのロバ引きのおやじたちも一日中ぼ~としていられる遺伝子が入っているのであろう。古代
ギリシャでは、労働をする人は「奴隷」であって、ギリシャ人は、哲学や芸術や音楽など知的なこと
するのだという。ギリシャ人は働ないから借金が膨れ上がったと揶揄されるが、彼らにはその遺伝子
が少ないのではないかと思うのである。
2007 年イギリスのある医薬品会社が、
26 か国 26,000 人を対象に性意識・実態調査を実施した。セッ
クスの回数が 1 位だったのは、ギリシャで年 164 回ダントツだった。2 日に 1 回ペースである。日
本人にとっては拷問に近い数字だろう。2 位はブラジルで 145 回だった。日本は最下位で 48 回だった。
ちなみに年平均は 103 回というから、恐れ入った。これは単なる笑い話ではない。昔から貧乏人
の子沢山と言われてきたので、貧困の問題ではない。昔は長屋の家も多くても子は沢山いた。住宅問
題でもない。今は戸建て住宅やマンションなど住環境が良くなっていているにも関わらず何故か?
やはり労働時間が関係しているのと思うのである。
ギリシャ人と日本人は根本的に違うのがハッキリした。しかし、世界から見たら日本人の長時間労
働は異常なのであろう。
しかし、日本人は長寿である。これは食生活が関係しているのだろう。
母は 90 歳になるというと全員びっくりしていた。母は 14 日間元気に過ごし無事帰国できたので、
冥土の土産は作ってやれた。
20 名ほどのツアーであったが、大半が高齢者夫婦で新婚旅行者は 1 組であった。
船の旅は移動が確かに楽である。船長主催のフォーマルパーティーも2回あり、楽しいことは間違
いない。しかし我儘な私には、欲求不満が溜まるのである。
夜の街も彷徨いたいし、美味いレストランを見つけて美味い料理も食べてみたい。つまり、与えら
れた自由しかないのである。船内のレストランも、5 日目には飽きてしまう。母はうどんや蕎麦やて
7