九州工業大学学術機関リポジトリ"Kyutacar"

九州工業大学学術機関リポジトリ
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フラーレンの熱的および電気的性質に関する研究
髙倉, 剛
2009
http://hdl.handle.net/10228/2524
Rights
Kyushu Institute of Technology Academic Repository
博士論文
フラーレンの熱的および電気的性質に関する研究
著者
髙倉 剛
指導教官: 松永 守央
目次
第 1 章 序論
1.1 研究の背景
1.1.1 はじめに
1.1.2 フラーレンの大量生産
1.1.3 フラーレンの物性及び応用展開とスポーツ用品
1.1.4 工業製品への適用
1.1.5 今後の工業的応用への期待
1.2 本研究の目的
参考文献
1
1
1
1
2
6
9
9
11
第2章 フラーレンの基礎物性
2.1 緒言
2.1 実験方法
2.2.1 試料
2.2.2 純度分析
2.2.3 物性の測定
2.3 結果と考察
2.3.1 純度
2.3.2 フラーレン粒子の形態
2.3.3 フラーレン粒子の化学的性質
2.4 結論
参考文献
13
13
13
13
13
14
14
14
16
19
21
22
第3章 フラーレンの熱的特性と燃焼反応性
3.1 緒言
3.2 実験方法
3.2.1 試料
3.2.2 熱分析法
3.2.3 燃焼試験
3.2.4 揮発分測定
3.3 結果と考察
3.3.1 フラーレンの熱反応性
3.3.1.1 フラーレンの昇華
23
23
23
23
23
24
25
26
26
26
3.3.1.2 昇温条件下での酸化反応
3.3.1.3 等温酸化反応
3.3.2 フラーレンの燃焼反応性
3.3.2.1 小ガス炎着火試験
3.3.2.2 燃焼速度試験
3.3.2.3 揮発分測定による急速加熱と結晶性
3.4 結論
参考文献
29
31
41
41
43
45
48
49
第4章 熱可塑性エラストマーとフラーレン類の複合材料の機械的特性
4.1 緒言
4.2 実験方法
4.2.1 試料
4.2.2 サンプルの調製
4.2.2.1 引張り物性用の溶媒法によるサンプル調製
4.2.2.2 粉末法による引張り試験用試料の調製
4.2.2.3 熱分析用試料の調製
4.2.3 測定装置と測定条件
4.3 結果と考察
4.3.1 溶媒法によるサンプルの引張応力試験
4.3.2 粉末法による試料の引張応力試験
4.3.3 DSC 測定結果
4.4 結論
参考文献
50
50
50
50
51
51
52
53
54
54
54
59
64
66
67
第5章 フラーレンの電気抵抗の温度依存性
5.1 緒言
5.2 実験方法
5.2.1 試料
5.2.2 測定試料の調整
5.2.3 測定装置と測定条件
5.3 結果と考察
5.3.1 電気伝導率の温度依存性
5.3.1.1 試料 C60
5.3.1.2 試料 C70
5.3.1.3 試料 MF
68
68
68
68
69
70
72
72
72
73
73
5.3.1.4 試料 SWNT
5.3.1.5 試料 C60Hx
5.3.1.6 試料 PCBM
5.3.2 電気導電率測定におけるヒステリシスが発生する要因の解析
5.3.3 活性化エネルギー
5.4 結論
参考文献
第6章
謝辞
結論と今後の課題
75
75
75
77
80
82
83
84
87
第 1 章 序論
1.1 研究の背景
1.1.1 はじめに
フラーレンは炭素原子のみからなり、代表的なC 60 の構造をFig.1-1に示したように
中空構造をもったナノサイズの「炭素分子」であり、代表的なナノカーボン材料として、
様々な分野での応用展開が期待されている。
Fig.1-1
Carbon structure of fullerene(C 60 ).
このような炭素分子の存在は1970年に予想され1)、1985年星間分子の研究の中で
初めて実験的に確認された2)。人工合成が1990年に成功3)して以来、日米欧を中心に
精力的な研究が行われ球状炭素分子としての特徴的性質が次々と明らかになった
4-15)
。溶媒に可溶で純品に精製でき、且つ化学修飾が可能である16)。また、これらを原
料とした新規材料の創成と共に、添加剤として従来材料の高機能化が可能であること
が知られ、広い用途分野で有用性が確認されている。2002年から工業生産が始まっ
たのを契機に2003年には最初のフラーレン商品が上市され、今後多くの産業分野に
おいてフラーレンの応用展開が本格化すると期待されている。
1.1.2 フラーレンの大量生産
フラーレンは、数年前まで金よりも高い価格で売られ、また供給量が少なかったため
に、検討される範囲・対象も限られていた。フロンティアカーボン株式会社(以下FCCと
略)は、2002年5月に年産400kgの製造能力を有するパイロットプラントを、さらに翌2
003年5月からは年産40tの能力を持ったスケールアッププラントの稼動を開始し、フ
ラーレンおよびその周辺素材の量産・低価格化を確立することで新規基盤素材として
のフラーレンの実用化に取り組んでいる。
-1-
フラーレン製造プロセスは大きく分けると、①フラーレン合成ならびにそのフラーレン
が含有されたスス(Soot)の製造プロセス、 ②このススから溶媒不溶な成分、並びに可
溶な不純物を取り除き、製品となるフラーレン類(C 60 、C 70 、高次フラーレンの混合した
ミックスフラーレンでMFと略す)を分離・精製するプロセス、③カラム分離技術などを駆
使し、ミックスフラーレンからC 60 、C 70 等各フラーレン単体を得る単離プロセス、さらに④
市場のニーズに合わせてフラーレン誘導体を合成あるいはフラーレンを各種媒体に
分散する等の加工プロセスから成る。
①のフラーレンを含有したススの製造に関して、FCCは炭化水素を原料にした燃焼
法を実用化している。燃焼法の優れた点は連続プロセスであり大量生産に向いている
こと、また原料として安価な炭化水素を利用できることである。ススからいかにフラーレ
ンを抽出し分離・精製するか、②および③のプロセスもススの製造と同様に実際の大
量生産において極めて重要である。抽出・分離・精製の全ての工程において従来に
比べ大幅に低コスト化が可能なプロセスが必須であり、プロセス及び溶媒の選択、使
用済溶媒の回収・再利用に至るまでトータルとして最適なプロセスの選択が欠かせな
い17)。
1.1.3 フラーレンの物性及び応用展開とスポーツ用品
フラーレンはダイヤモンド、グラファイトに次ぐ第三の炭素同素体であるが、Table 1
-1に示すとおり有機溶媒に可溶である18-20)。また、昇華性を示す21)、という独特の特性
を持つ唯一の純粋な「炭素分子」である。H.S. Chenらはフラーレンを窒素雰囲気中で
昇温すると、Fig.1-2 に示すように、450℃付近から指数関数的に減量が始まり、
700℃までに約80%以上が減量することを報告している。
-2-
Fig.1-2
TGA analysis of C60.
(The programming rate=1.2℃/min)
また、昇温条件を変更した検討から昇華熱( ΔHs )を求め、フラーレンの ΔHs は約
40kcal/molであり、グラファイトのΔHs 170kcal/molよりも小さいと報告している22)。こ
の昇華する性質は分離・精製に利用されている。また、フラーレンンは化学および熱
的に安定で壊れにくい分子であり、光エネルギーを吸収し、電子受容性が高く、優れ
たラジカル補足能を有している。ラジカル補足能による、熱安定性向上のFCC測定例
をFig.1-3に示す23)。
-3-
10% Weight Loss Temperature [℃]
300
MF
295
290
Irganox1010
285
280
275
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
Additive Content [wt%]
1.0
1.2
Fig.1-3 Heat-resistant improvement by the addition of fullerene into POM.
即ち、ポリアセタール樹脂(POM)の耐熱安定剤として、「Irganox1010」を添加したも
のに対し、フラーレンは添加量に比例して耐熱性が向上し、しかも、「Irganox1010」より
効果があることが判る。これは、熱により発生したラジカルがフラーレンにより捕捉され、
ポリマーの分解が抑制されたものと考えられている。他にも、エネルギー分野、IT分野、
医薬品や診断薬などバイオ分野への応用等に加えて、フラーレンが大量に利用でき
る基盤が出来てきたことから、さらに広範な分野で応用研究が加速しており、Fig.1-4
に示したように、ポリマー、ゴム、複合材への添加剤、潤滑用途など実用化の例が増え
てきている。
そんな中で、いち早く商品化されたのがスポーツ分野である。
-4-
Magnetic Record
Toner
Diagnostic Agent
Medicine
Cosmetic
Information/
Communication
Electron
Accepter
Bio/
Medicine Cage Structure
Sensor(photo,gas)
Gas Separation
(connoted
Metal)
Free Radical
Scavenger
Environment
Gas(H,O,CO)
Storage
Photo
Devise
Electrical
Devise
SuperConductivity
Photo
Absorbent
Low Thermal
Conductivity
Nanoporous
Adsorption
Nano-size
Molecule
Energy/
Transport
Lithium Battery
Fuel Cell, Solar Cell
Fig.1-4
Photosensitive Material
Nonliner Optical Element
Superconductivity circuit
FET, Photolithography
Industrial
Usage
Catalyst
Diamond Coating
Lubricant
Polymer Additive
Value Added Film
Characteristic and application of the fullerene.
2003年1月、世界初のフラーレン入り商品として具体化したのが、ボウリングのボー
ルである24)。
2003年7月には、チタンにフラーレンを添加したクラブヘッドを有するゴルフクラブが
登場25)し、チタンの中にフラーレンを均等に配合することにより、金属強度・疲労特性
がアップ。結果、ヘッドのたわみを最大限に引き出す極薄ヘッド構造とし、従来に比べ
飛距離アップを実現している。2004年10月には、フラーレンを添加した樹脂を用いた
ガラス繊維強化複合材料(GFRP)をシャフトに採用したゴルフクラブが発表され、発
売は翌年2月より開始された26)。軽量で、しかも強さとガラス繊維特有の粘りを両立させ
たクラブである。さらに、2005年2月に炭素繊維強化複合材料(CFRP)のマトリックス
樹脂にフラーレンを添加したシャフトならびにクラブヘッドを有したゴルフクラブも登場
し27)、2006年1月、8月には、2つのメーカーからフラーレンを配合したCFRPをシャフト
に用いたゴルフクラブが発売されている28)。
これらは、いずれもフラーレンを添加することにより、軽量化に加え更なる特性改善
-5-
を狙った例である。また、複数のメーカーでの採用は、フラーレンの効果が認知されて
きた証としても捉えられる。
2004年11月に、バドミントンラケット、2005年2月には、硬式テニスラケット、軟式テニ
スラケットと相次いで発売された27)。これらはいずれもフラーレンを添加したCFRPでフ
レームとシャフトができており、バドミントンラケットについては、メーカーのコメントでは、
次の効果が期待される。
①軽量で強い構造のラケット
②15%軽量化して「トップライト設計」が可能
③耐衝撃強度30%及び耐久性10%の向上
④反発性能5%のアップにより、スマッシュ、ドライブのスピードがさらに加速する
テニスのラケットも同様な期待効果である。
2005年2月、バドミントン及びテニスのガットが発売された29)。これは、耐久性アップ、
反発力アップ、に加え、かつてない高音という特徴を持っているとのことである。スポー
ツの分野では音や打感といった感性の部分も重要な要素となる。
2005年2月、フラーレンの潤滑性を生かしたスキーワックスが発表された30)。
2005年春、CFRPを用いたスノーボードが発表された27)。
2006年4月、ゴルフボールが発売された31)。これは、高弾性エラストマーにフラーレ
ンを配合し、過剰なバックスピンの減少による飛距離アップと打球感の改良を行ってい
る。 その他スポーツ用途として検討がなされているものとして卓球ラケットへの適用特
許32,33)が出ている。
1.1.4 工業製品への適用
フラーレンを添加することで、従来の材料でも耐熱性向上が図れるFCCの測定例を
Fig.1-5に示す23)。すでに樹脂にカーボンブラックを添加すると耐熱性が向上すること
が知られているが、フラーレンはカーボンブラックよりその効果が大きい。Fig.1-5は4種
類の樹脂についてMF及び三菱カーボンブラック#30をそれぞれ1%添加した場合と無
添加の試料について、重量が10%減となる温度を測定した結果を示している。カーボ
ンブラックおよびMFを加えた試料では無添加のものに比べて10%減量する温度が上
昇し、耐熱性が改善されるがことが判る。また、いずれの樹脂においてもMFのほうがは
るかに効果が大きい。MFとカーボンブラックの温度の差を図中に数字で示した。
-6-
10% Weight Loss Temperature Increase
(℃)
50
MF 1%
対カーボンブラック効果
vs. carbon black.
40
MCC carbon black #301%
三菱カーボンブラック#30
24℃
30
26℃
20
19℃
17℃
10
0
-10
PMMA
PS
Resin
PET
POM
樹脂
Fig.1-5 Heat-resistant improvement effect by the fullerene addition of the resin.
次に、機械特性向上が図れるFCC測定例をFig.1-6に示す23)。フラーレンを添加しな
いエポキシ樹脂に対し、僅かな添加量(約0.1~1%)でも、曲げ強度、弾性率共に向
上が見られる。
-7-
Three-point bending test.
1.20
1.15
相対値
Relative
value
Epikote828/EpomateB002
曲げ強度
Bending strength
Bending elasticity
曲げ弾性
1.10
1.05
1.00
0.95
0 wt%
0.08 wt%
0.8 wt%
MF content.
MF配合量
Fig.1-6 The reforming of the epoxy resin by the fullerene addition.
他に撥水性・撥油性、潤滑性34,35)を始めとし種々の特性改善が図られるとともに、使
用素材の低減・低コスト化、そして高寿命化が可能となる。また、フラーレンの光電機
能やラジカル補足機能を応用することにより、エネルギー分野およびITデバイス関連
分野においても実際の商品化を目指した検討が加速している。リチウムイオン電池に
フラーレンを添加するとエネルギー密度、サイクル特性、安全性等が格段に改善され、
燃料電池においては広い温度範囲で作動する電解質膜が作成可能となる。電子ペ
ーパー等の電力源として有望な有機太陽電池については、実用化に向けた検討が加
速している36)。さらに、ゴム分野への応用としては、低比重でヒステリシスロスや動的損
失を低減させたゴム組成物や低発熱性で耐久性と転動抵抗に優れたタイヤ37)、エラス
トマーの高減衰性保持確保38)、エラストストマーに添加し安定した半導電性領域の制
御を容易化39)、制震、免震用途の防振ゴムへの適用40)等が特許として、出されてい
る。
これらの技術は今後数年で市場に出てくる可能性が高く、我々の生活をより省エネ
ルギーで安全かつ快適にしてくれると期待されている。
-8-
1.1.5 今後の工業的応用への期待
従来高価で供給量も限られていたフラーレンであるが、この数年で工業生産が本格
化し、特に日本においては潤沢に使える環境が整ってきた。炭素という無機的性質と、
溶媒に溶け官能基を付与できるといった有機的性質を併せ持つフラーレンは、現在は、
主にスポーツ用途で、複合材への添加による、特性向上を主とした商品化が行われて
いるが、今後、工業用製品の登場が待たれるところである。
過去を見れば、新しい素材がスポーツ用途から始まり工業用途へと展開されること
を想定した場合、炭素繊維の例がある。1970 年代初めスポーツ用途に始まり、ここで
その性能が認められ、1980 年代以降航空機用に展開されたのを機に、耐震補強用、
液晶基板運搬用ロボットアーム、印刷用ロール、といった産業用途へと順次展開され
代替不可の分野を形成し、今世紀に入り年々需要が伸びている。
これが新素材の展開の成功例と考えるとフラーレンも同様な足跡をたどるのではと
予測される。
1.2 本研究の目的
フラーレン合成については、燃焼法の採用と技術改良により、安定かつ安価に生産す
る目途が立っている。次に、ススからフラーレンを抽出し分離・精製することも、ススの
製造と同様に重要であり、大幅な低コスト化を実現するため、新規プロセスを開発・実
用化している。また、市場の要望に応え、純粋なフラーレンに加えて、化学修飾フラー
レンあるいは加工品も提供されている。さらに、溶媒に抽出されない不溶分も高純度
炭素のフラーレン類縁物質として興味深い特性を有しており、ナノムブラック(商品名)
として提供されている。しかし、スポーツ用品以外に工業材料としての適用例は皆無で
ある。その理由として、工業材料として応用するために必要な以下の研究が不足して
いると考えられる。
①多数の研究は少量による物性評価のため、工業用材料設計には充分な特性が
分かっているとはいえない。
②混合フラーレンに対する物性評価は、ほとんど無い。
③燃焼等のフラーレンの安全性評価は皆無である。
フラーレンの工業用材料への適用における機能発現のメカニズムを解明するに当たっ
て、フラーレンの基本的性質を把握することから始め、それから導かれる新規材料の
可能性を探り、機能発現のメカニズムを解析し、新規材料の設計・開発に繋げる。
そのため、本研究では
1)フラーレンの基礎物性の把握
2)フラーレンの熱的特性と燃焼反応の検討
3)フラーレンの機械的特性の検討
4)フラーレンの電気的特性の検討
-9-
を行った。
本論文では、第 1 章で研究の背景と目的、第 2 章でフラーレンの基礎物性、第 3 章
でフラーレンの熱的特性と燃焼反応性、第4章でフラーレンの機械的特性、第5章で
フラーレンの電気特性について研究した。第6章では、総括として本研究で得られた
結果をまとめ、今後の展開について述べる。
- 10 -
参考文献
1) 大澤映二, 化学, 25, 854 (1970)
2) H.W. Kroto, J.R. Heath, S.C. O’Brien, R.F. Curl,R.E. Smalley, Nature, 318, 162
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3) W. Kratschmer, L.D. Lamb, K. Fostiropoulos, D.R. Huffman, Nature, 347, 354
(1990)
4)N.Sivaraman,R.Dhamodaran,I.Kaliappan,T.G.Srinivasan,P.R.Vasudeva Rao and
C.K.Mathews,Fullerene Science & Technology,2(3),233(1994)
5)C.Pan,M.P.Sampson,Y.Chai,R.H.Hauge,and J.I.Margrave,J. Phys. Chem., 95,
2944 (1991)
6)J.E.Fischer and P.A.Heiney,J. Phys. Chem.Solids, 54, 1725 (1993)
7)J.Abrefah ,D.R.Olander,M.Balooch,and W.J.Siekhaus,Appl. Phys.Lett., 60, 1313
(1992)
8)J.M.Hawkins,A.Meyer,T.A.Lews,S.Loren,and F.J.Hollander,Science, 252, 312
(1991)
9)A.M.Rao,P.Zhou,K.Wang,G.T.Hager,J.M.Holden,Y.Wang,W.T.Lee,X.Bi,
P.C.Ekund,D.S.Cornett,M.A.Duncan,I.J.Amster,Science, 259, 955(1993)
10)X.Armand,N.Herlin,L.Voicu,and M.Cauchetier,J. Phys. Chem.Solids, 58, 1853
(1997)
11)橘 勝,表面,40,73(2002)
12)T.Arai,Y.Murakami,H.Suematsu,K.Kikuchi,Y.Achiba,and I.Ikemoto,Solid
State Commun, 84, 827 (1992)
13)F.Yan and Y.N.Wang,Appl. Phys.Lett., 73, 476(1998)
14)J.Mort,R.Ziolo,and M.Machonkin,Chem. Phys.Lett., 186, 284(1991)
15) J.Mort,M.Machonkin,and R.Ziolo,Appl. Phys.Lett., 60, 1735 (1992)
16) 村山英樹, 化学工学, 69, 32 (2005)
17) 有川峯幸, 炭素,224, 299 (2006)
18) W.A. Scrivens, J.M. Tour, J.Chem.Soc.,Chem.Commun, 15, 1207 (1993)
19) R.S. Ruoff, D.S. Tse, R. Malhotra, D.C. Lorents, J. Phys. Chem., 97, 3379 (1993)
20) D. Heymann, Carbon, 34, 627 (1996)
21) N. Siveraman, R. Dhamodaran, I. Kaliappan, T.G. Srinivasan, P.R. Vasudeva Rao,
C.K. Mathews, ”Fullerenes”, p.156 (1994)
22) H.S. Chen, A.R. Kortan, R.C. Haddon, D.A. Fleming, J. Phys. Chem., 96, 1016
(1992)
23) フロンティアカーボン社、社内データ
- 11 -
24) ABS社HP: http://www.absbowling.co.jp/products/balls/index.html
25) マルマン社 HP: http://www.maruman.co.jp/
26) ダイワ精工社HP: http://www.daiwaseiko.co.jp/
27) ヨネックス社HP: http://www.yonex.co.jp/index.html
28) 横浜ゴム社HP: http://www.yrc.co.jp/
29) ゴーセン社HP: http://www.gosen.jp/
30) マツモトワックス社HP: http://www.matsumotowax.com/
31) キャスコ社HP:http://www.kascogolf.com/jp/closeup/closeup28.html
32) 田枡公彦, 特開 2005-6924 (2005)
33) 田枡公彦, 特開 2005-118223 (2005)
34) http://www.syba.co.jp/nagai/
35) http://www.bardahl.co.jp/index.htm
36) 産総研HP:
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2005/pr20050127/pr20050127.html
37) 青木勢, 笠井鉄夫, 特開 2005-23239 (2005)
38) 高松成亮, 笠井鉄夫, 特開 2005-82608 (2005)
39) 吉川均, 笠井 鉄夫, 特開 2005-179590 (2005)
40) 宮路浩忠, 中西臣悟, 笠井鉄夫, 特開 2006-131819 (2006)
- 12 -
第2章 フラーレンの基礎物性
2.1 緒言
フラーレンは代表的なナノカーボン材料として、様々な分野での応用展開が期待されて
いる。このような炭素分子の存在は 1970 年に予想され 1)、1985 年星間分子の研究の中で
初めて実験的に確認された 2)。人工合成が 1990 年に成功 3)して以来、日米欧を中心に精力
的な研究が行われ球状炭素分子としての特徴的性質が次々と明らかになった。フラーレン
には C60 を含め、さまざまな炭素数を持つものが存在し、多くの研究報告がなされている
が、混合フラーレンMFについての性質についての研究報告例はほとんどない。生産が比
較的容易なMFを工業材料として用いるため、本章では、C60や他の炭素材料と比較しな
がら物理的、化学的性質について研究した。
2.2 実験方法
2.2.1 試料
フラーレン類はフロンティアカーボン㈱製の市販品であるフラーレン C60(C60)
、混合
フラーレン
(MF)
、
フラーレン類似の炭素粉末
(FB)
およびこれらを粉砕したもの
(C60-F、
MF-F、FB-F)を用いた。使用した試料の名称と商品名を Table 2-1 にまとめた。なお、
物理的、化学的性質を比較するため、炭素粒子の標準物質として Sid Richardson Carbon
Company 製の標準カーボンブラック(IRB#7)を用いた。
Table 2-1 本章で使用した試料の概要
C60:フラーレン C60(商品名:nanom puple ST、C₆₀96%以上)
MF::混合フラーレン(商品名:nanom mix ST C₆₀約 60%、C₇₀約 25%、その他
高次フラーレンを含む混合フラーレン)
FB:フラーレン類似炭素(商品名:nanom black ST 、フラーレンを含む煤の溶媒不溶
分)
C60-F:フラーレン C60 微粉(C60 を微粉砕したもの)
MF-F:混合フラーレン微粉(商品名:nanom mix ST-F 、MF を微粉砕したもの)
FB-F:フラーレン類似炭素微粉(商品名:nanom black ST-F、FB を微粉砕したもの)
IRB#7:標準カーボンブラック
2.2.2 純度分析
各試料中に含まれるフラーレン成分の含有量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
- 13-
により測定した 4)。カラムは YMC-Pack ODS-AM、S-3μm、12nm、75×4、6mmID、
溶離液 48vol%トルエン/メタノール、0.8ml/min の条件で測定した。定量には、FCC
製の MF を原料に昇華法にて分離精製した C₆₀及び C₇₀を標準物質として用いた。
各試料中に含まれる炭素、水素、窒素の元素分析は、PERKIN ELMER 社製 CHNS/O
Analyzer2400 を用いて行ない、酸素は酸素窒素同時分析装置 LECO 社製 TC-436 を用い
て測定した。
各試料中に含まれる水分は、電量滴定法水分計ダイアインスツルメンツ社製 CA-200 型
と水分気化装置 VA-200 型を用いて測定した。
灰分は JISK1474 に準拠して、試料 1g を 30ml の磁性皿に精秤し、試料を均一に広げ
あらかじめ 815±10℃に保持した電気炉に、2 時間保持する。灰化終了後、
、金属板上で
10 分間冷却後、デシケーター内で 20 分間冷却した後、残分重量から灰分量を算出した。
2.2.3 物性の測定
フラーレン等の定性分析は、日本分光工業㈱製 IRA-2 を用いてフーリエ変換赤外分光法
(FT-IR)により行った。なお、KBr 錠剤成型法により分析用試料を作製した。
各試料の形状は走査型電子顕微鏡 SEM(日本電子㈱製全自動微小部分析装置 JCXA-733
型)を用いて観察した。
各試料の結晶構造は、CuKαを用いた粉末法により、X 線回折法で決定した。なお、測
定には日本電子㈱製特殊環境 X 線回折装置 DX-3500K を用いた。
各試料の粒度分布は、堀場製作所㈱製レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置 LA-920 型を
用いて測定した。
比表面積は、島津製作所・Micrometrics 社製の自動比表面積測定装置ジェミニ 2360 型
を用いて、C60 と MF は 0.3g を、FB と IRB#7は 0.1g を前処理として、窒素置換後、
300℃で 15 分間脱気し、室温まで冷却した後、精秤し吸着測定した。
2.3 結果と考察
2.3.1 純度
フラーレンは、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒に可溶な特異な炭素材料であるこ
とが知られている。Fig.2-1 に C60 と MF の HPLC により測定されたクロマトグラムを示
す。トルエン/メタノールの溶離液を用いた HPLC の結果から、本研究で使用した C60
試料の純度は 99.6%と高いことは判明した。Fig.2-1 における他のピークは無視できると
考えて良く、この試料は純物質に近いと判断した。一方、試料 MF は C60 および C70 が主
成分であることが分かり、高次フラーレンを加えた純度は97%であった。
- 14-
300
250
mAu
200
C60
150
100
solvent
50
0
30 0
5
10
20
15
20
15
20
RT(min)
25
20
mAU
15
C60
solvent
15
10
C60-O
5
0
0
5
300
10
RT (min)
C60
250
mAU
200
150
C70
100
solvent
C84
50
C76 C82
0
0
5
10
30
RT(min)
25
mAU
20
C60
C70
solvent
15
C84
10
C76
5
C60-O
C7 0-O
C60-O2
0
0
C82
5
Fig.2-1 HPLC
C86
C90 C
92
C88
RT10
(min)
C94
15
20
of fullerene(C60) and mixed fullerene(MF).
1:C60 2: The scale of the vertical line is expanded at 10 times of C60
3: MF 4: The scale of the vertical line is expanded at 10 times of MF
The condition
of
HPLC, eluant : 48vol%
toluene/methanol
0.8ml ・ min-1 , column : YMC-Pack
ODS-AM,S-3μm, 75*4.6mm I.D. column temp.:40℃ wave length:308nm,injection volume:5μl
- 15-
Table 2-2 に、各試料に含まれる C60 および C70 の含有率、及び各試料の元素分析の結
果を示す。IRB#7は炭素材料の標準物質の一つとして用いられる標準カーボンブラックで
その炭素含有室は 96.75%であった。それに対して、試料 C60 の炭素含有率は 99.6%であ
り、水素、窒素、酸素の含有率はいずれも 0.3%以下であった。また、灰分も 0.1%以下し
か存在しないことが分かった。以上の結果から、本研究で使用した試料 C60 は、標準物質
の一つである炭素材料よりも不純物が少なく、高純度の炭素材料であると結論した。
一方、試料 MF における炭素含有率は 99.3%であり、ほぼ C60 の純物質である試料 C60
に匹敵する高い炭素含有量を示した。また、水素、窒素、酸素の含有率は、いずれも 0.3%
以下と標準カーボンより少ないことが確認できた。また、灰分の含有率も 0.1%以下であ
ることから、試料 MF も高純度の炭素材料と判断できた。
しかし、フラーレンを僅かに含む溶媒不溶性の試料 FB-S の炭素含有率は 97.9%であり、
試料 C60 と試料 MF のフラーレン類に比べて炭素含有率は低いものの、この試料でも標
準物質の炭素材料よりも高い炭素含有率を示すことが判明した。
さらに、本研究で使用した試料 C60 と MF に付着している水分量は、ともに 0.1%以下
であり、試料FBにおいても 0.1%程度あることがわかった。これらの値から、標準炭素
材料の付着水分量 1.3%よりも著しく低いことから、本研究で使用した試料は、吸湿性が極
めて低いと考えられる。
Table 2-2 Purity and elementary analysis.
Purity(%)
Element(%)
C60
C70
HF*
C
H
N
O
H2O
Ash
C60
99.59
<0.1
0.17
99.6
<0.3
<0.3
0.10
0.034
0
MF
58.47
23.81
14.64
99.3
<0.3
<0.3
0.28
0.032
0
FB
0.36
0.23
0.14
97.9
<0.3
<0.3
1.51
0.122
0
IRB#7
-
-
-
96.2
<0.3
<0.3
2.43
1.30
0.22
*HF: higher fullerene.
2.3.2 フラーレン粒子の形態
Fig.2-2 に SEM による観察結果を示す。試料 C60 は柱状の結晶が認められ、1 個の結晶
サイズは 10μm 前後である。試料 MF は球状でサイズも試料 C60 と同様の数μm~10 数
μm で、微結晶の凝集体を形成してと観察された。また、試料 MF を微粉砕したものは
0.5~2μm の球状であり、試料 FB と試料 IRB#7 もほぼ球状であることが分かった。
- 16-
C60
1μm
1
MF
2μm
MF-F
2
2μm
IRB#7
FB
2μm
3
1μm
4
5
Fig.2-3 SEM images of fullerene and carbon materials.
1:C60 2:MF 3:MF-F 4:FB 5:IRB#7
試料 C60 の粒子径分布の測定結果を Fig-2-4 に示す。分散媒として水にエタノールと界
面活性剤のDBS(ドデシルベンゼンスルフォン酸)1%水溶液を加えたものを用いた。測
定時、超音波により分散する時間に比例して粒子が小さくなることが分かった。1分後の
- 17-
値を各試料の測定結果を Table 2-3 にまとめた。試料 IRB#7 の粒子径はミリメートルサイ
ズに造粒されているが、超音波処理する時間に比例して解砕され、15 分後ではメジアン径
で 0.25μm となった。しかし、10μm 程度の径であった試料 C60-S と試料 MF は、微粉
砕後は 1μm 前後に解砕されたが、サブミクロンには至らないことが判明した。これは、
電気抵抗が高く 5)、静電気による凝集性も一つの要因と考えられる。なお、これらの粒子
径は SEM 観察結果とほぼ合致した。
9.4μm(1min)
6.8μm(5min)
6.0μm(10min)
5.2μm(20min)
Frequency. (%)
12
10
8
6
4
2
0
0.1
1
10
100
1000
Particle size (μm)
Fig.2-4 Particle size distribution curves of fullerene(C60).
Table 2-3
Particle size and Specific surface area of fullerene and carbon materials.
C60
C60-F
MF
MF-F
FB
FB-F
IRB#7
Particle size(μ)
9.4
1.14
10.6
2.16
385
0.71
0.25
Specific surface area (m2g-1)*
3.9
―
1.8
―
95.7
―
72.9
*By multipoint B.E.T. nitrogen adsorption.
粒子の比表面積も Table 2-3 に示した。試料 C60 と試料 MF に比べて、試料 FB の比表
面積は著しく大きく、標準炭素のIRB#7 と同程度の比表面積を有することが分かった。
- 18-
また、試料 FB は微粉砕するとサブミクロンの粒径となり、比表面積も大きいことを考え
ると、試料 FB は微粒子が集合した形態であると考えられる。
2.3.3 フラーレン粒子の化学的性質
Fig.2-5 に FT-IR による測定結果を示す。試料 C60 では、C60 に起因する 1535、1427、
1180、579、525cm-1 に吸収スペクトルが観察された。一方、試料 MF には C60 に起因す
る吸収に加えて、795、671、640 cm-1 の C70 由来の特徴的なスペクトルが観察され、C60
と区別できる 6,7)。
一方、試料 FB および標準カーボンブラックでは、ほとんど特徴的な吸収スペクトルを
観察することができなかった。
525
1427
1180
579
1535
C60
Absorbance
N60
640
671
795
MF
FB
IRB#7
200
700
1200
1700
2200
2700
3200
3700
-1
Wavenumber(cm )
Fig.2-5 FT-IR spectra of fullerene and carbon materials.
粉末X 線回折による測定結果をFig. 2-6 に示す。
C60 は広角側から
(511)、
(422)、
(420)、
(331)、(222)、 (311)、(220)、(111)面に特徴的な回折線を示し、面心立方晶(fcc)
であることが分かった。これは SEM 観察とも一致する。一方、比較として用いた FC
社製の C70 は(112)、(200)、(103)、(110)、(102)、(101)面に特徴的な回折線を示す。
試料 MF では、(511)、(422)、(420)、(311)、(220)
、(111)面の C60 由来の回折線は検
出されたが、C70 の特徴的な回折線はほとんど認められなかった。この原因を解明する
には至らなかったが、Table 2-1 に示した HPLC による結果を考慮すると、試料 MF で
- 19-
は C70 が極めて微細な結晶であるか、C60 の結晶に C70 が配位している可能性が考えられ
る。
また、標準カーボンブラックでは 2θが 20~30°にブロードな回折像を示すのに比較
して、フラーレン類は鋭い回折線を示すという特徴がある。しかし、試料 FB は IRB#7
よりもさらに結晶性が低く、ほとんど無定形の炭素であることが分かった。なお、試料
MF を粉砕しても、結晶形態にほとんど影響しないことも分かった。
(111)
(220)
(311)
(222)
(420) (422)
(200)
(511)
(331)
C60
Intensity
(103)
(110)
(101) (102)
(112)
C70
(111)
(220)
(311)
(420)
(422)
(511)
MF- F
MF
IRB# 7
FB- F
FB
10
15
20
25
30
35
2θ(deg.)
40
Fig.2-6 XRD patterns of fullerene and carbon materials.
- 20-
45
50
55
60
4.結論
フラーレン類の物理的、化学的分析より以下の結論を得た。
1)試料 C60 と MF は灰分が少なく、炭素含有率量が高く、吸着水分も少ない高純度
の炭素材料である。また、試料 C60 は結晶性が高く、試料 MF は微結晶の凝集体であ
る。一方、試料 FB は吸着水分、灰分がともに少なく、標準カーボンブラック(IR
B#7)より純度の高い炭素材料である。
2)平均粒子径は C60、MF の10μmに比して、FB は大きいが、微粉砕性は C60、
MF より良好である。比表面積は、C60、MF はほぼ同様で、IRB#7 よりかなり小
さい。一方、FB はIRB#7 と同程度の比表面積を有する。
3)FT-IR による赤外線吸収観察では、MF には C60 のほかに、C70 由来の特徴的なピ
ークが観察され、C60 と区別できる。それに対し、FB および標準カーボンブラック
には、ほとんど特徴的な吸収は見られなかった。
4)C60 と C70 は結晶由来の特徴的な回折線を持つが、試料 MF では、C60 由来の回折
線は検出されたが、C70 の特徴的な回折線はほとんど観察されなかった。標準カーボ
ンブラックは回折線 20~30°にブロードな回折像を示すのに比べて、フラーレン類
は鋭い回折線を示す。試料 FB は IRB#7 よりさらに結晶性が低く、ほとんど無定形の
炭素と言える。また、試料 MF は粉砕により結晶形態が変化しない。
- 21-
参考文献
1) 大澤映二:化学、25, 850 (1970)
2) H.W.Kroto, J.R.Heath, S.C.O’Brien, R.F.Curl and R.E.Smalley, Nature, 318, 162 (1985)
3) W.Kratschmer, L.D.Lamb, K.Fostiropoulos and D.R.Huffman, Nature, 347, 354 (1990)
4)第34回 Continuing Educationシリーズ講習会、ナノテクノロジー -基礎から応用まで
-(2003年)
5) 篠原久典,齋藤弥八,フラーレンの化学と物理,pp.57 ,名古屋大学出版会(1997)
6) W.Kratschmer, L.D.Lamb, K.Fostiropoulos and D.R.Huffman, Nature, 347, 354 (1990)
7) A.M. Rao et al, Science, 259, 955 (1993)
- 22-
第3章 フラーレンの熱的特性と熱反応性
3.1 緒言
フラーレンは代表的なナノカーボン材料として、様々な分野での応用展開が期待されて
いる。フラーレンにはC60を含め、さまざまな炭素数を持つものが存在し、多くの研究報
告がなされているが、熱的性質や熱反応性に関しての研究はあまり行われていない1)。と
りわけ、MF(混合フラーレン)についての研究は皆無である。本章ではフラーレンの熱
的特性および熱反応性について検討した。
3.2 実験方法
3.2.1 試料
フラーレン類はフロンティアカーボン㈱製の市販品であるフラーレン C60(C60)
、混合
フラーレン
(MF)
、
フラーレン類似の炭素粉末
(FB)
およびこれらを粉砕したもの
(C60-F、
MF-F、FB-F)を用いた。以上の試料は第2章で使用した試料と同じであるが、その名称
と商品名を Table 3-1 に再掲した。なお、物理的、化学的性質を比較するため、炭素粒子
の標準物質として Sid Richardson Carbon Company 製の標準カーボンブラック(IRB#7)
を用いた。
Table 3-1 Specimens used in this chapter
C60:フラーレン C60(商品名:nanom puple ST、C₆₀96%以上)
MF::混合フラーレン(商品名:nanom mix ST C₆₀約 60%、C₇₀約 25%、その他
高次フラーレンを含む混合フラーレン)
FB:フラーレン類似炭素(商品名:nanom black ST 、フラーレンを含む煤の溶媒不溶
分)
C60-F:フラーレン C60 微粉(C60 を微粉砕したもの)
MF-F:混合フラーレン微粉(商品名:nanom mix ST-F 、MF を微粉砕したもの)
FB-F:フラーレン類似炭素微粉(商品名:nanom black ST-F、FB を微粉砕したもの)
IRB#7:標準カーボンブラック
3.2.2 熱分析法
昇温酸化反応は理学電機㈱製熱分析装置 Thermo Plus2 型を用い、開放系でアルミナ製
容器に試料約 2mg を秤量し、空気雰囲気下、昇温速度 20℃/min にて 1000℃まで加熱す
ることにより測定した。窒素雰囲気下での熱分析はエスアイアイ・ナノテクノロジー㈱製
- 23 -
の熱分析装置 Exstar6000 型を用いて、開放系で白金容器に試料 5mg、窒素雰囲気下、20℃
/min にて 1000℃まで加熱することにより測定した。
等温酸化反応は、理学電機㈱製示差熱分析装置 Thermo Plus2 を用い、開放系でアルミ
ナ製容器に試料量約 2mg、空気雰囲気下で測定した。測定温度は試料 MF と C60 につい
ては 365~400℃、試料 FB では 350~425℃にて、試料 IRB#7は 450~510℃の 4 つの
温度にて0~8 時間等温で加熱し、測定した。
3.2.3 燃焼試験
小ガス炎着火試験は、消防法に基づく危険物第 2 類(可燃性固体)の試験法「小ガス炎着
火試験」に準じて、試験回数 10 回にて実施した2)。
燃焼速度試験は、危険物輸送国連勧告「燃焼速度試験法」に準じて、試験回数 2 回にて
実施した3)。
Fig.3-1 に「小ガス炎着火試験」
、Fig.3-2 に「燃焼速度試験法」を示す。
Fig. 3-1 Small gas flame test.
- 24 -
Fig. 3-2 Burning rate of fullerene and carbon materials.
3.2.4 揮発分測定
JIS-M8812 に準拠する方法により揮発分を測定した。すなわち、サンプルを 107℃で
乾燥した後、約 1g 精秤し、白金坩堝に入れ、均熱部温度 900±5℃で、7 分間保持した。
取り出した後、冷却して揮発減量を算出し、サンプル質量で除して揮発分量とした。Fig.3-3
に概要図を示す。
白金坩堝
サンプル
900±5℃
電気炉
Fig.3-3 Schematic diagram of instruments to weigh the volatile components
- 25 -
3.3 結果と考察
3.3.1 フラーレンの熱反応性
3.3.1.1 フラーレンの昇華
Fig.3-4~3-7 に、窒素中での昇温時の挙動を示す。比較としてAir中での挙動を併せて示
した。試料C60 は窒素中で昇温すると 600℃付近より昇華が始まり、1000℃付近でほぼ全
量昇華することが分かり、H.S. Chenらの報告4)による結果に一致することが確認できた。
Fig.3-5 に試料 MF の窒素中と空気中での挙動を示す。試料 MF も 500℃付近より昇華
が始まるが、1000℃でも全量昇華せず、約 30%程度が残ることが分かった。この理由とし
て、昇華と炭素化反応が競争的に起こり、高次フラーレンが炭素化して昇華しなかったと
考えている。一方、全量の 5%~10%が昇華する温度を比較すると、C60 が 757℃~793℃
に対し、MF は 740℃~796℃となり、その温度差を比較すると C60 が 36℃に対し、MF
が 56℃と C60 の方が小さい結果となった。これは、MF が昇華温度の高い C70 や高次フ
ラーレンの混合物のため昇華温度が上昇したことによると考えられる。
これに対して、標準カーボンブラックでは、昇華は認められなかったが、FB は僅かに
昇華することが分かった。この原因として、僅かに含有されているフラーレンが昇華しこ
とによると考えている。
Fig.3-6 に試料 FB、Fig.3-7 試料 IRB#7 に関する窒素および空気中での挙動を示す。比
較のため、Fig.3-8 に試料 C60 と MF の窒素中と空気中における熱挙動、および試料 FB
と IRB#7 の窒素雰囲気中の熱挙動を示す。
100
550℃/566℃
TG /%
80
60
Air
757℃/793℃
N2
40
20
0
0
100
200
300
400
500
600
700
800
900
1000
Temperature /℃
Fig. 3-4 TG curves of the specimen C60 in the air or nitrogen.
The values shown in the figure indicate the temperature for the weight loss of 5% and 10%.
- 26 -
100
463℃/ -
413℃/446℃
TG /%
80
60
Air
40
N2
20
0
0
200
400
600
800
1000
Temperature /℃
Fig. 3-5 TG curves of the specimen MF in the air or nitrogen.
The values shown in the figure indicate the temperature for the weight loss of 5% and 10%.
100
463℃/ -
413℃/446℃
TG /%
80
60
Air
40
N2
20
0
0
200
400
600
800
1000
Temperature /℃
Fig. 3-6 TG curves of the specimen FB in the air or nitrogen.
The values shown in the figure indicate the temperature for the weight loss of 5% and 10%.
- 27 -
100
602℃/636℃
TG /%
80
Air
60
N2
40
20
0
0
200
400
600
800
1000
Temperature /℃
Fig. 3-7 TG curves of the specimen IRB#7 in the air or nitrogen.
The values shown in the figure indicate the temperature for the weight loss of 5% and 10%.
- 28 -
100
6
5
Weight loss /%
80
1
550℃/566℃
4
740℃/796℃
60
3
467℃/486℃
40
2
757℃/793℃
20
0
0
100
200
300
400
500
600
700
800
900
1000
Temperature /℃
Fig. 3-8 TG curves of fullerene and carbon materials under the air or nitrogen atmosphere.
1:C60 in air 2:C60 in N2 3:MF in air 4:MF in N2 5:FB in N2 6:IRB#7 in N2
The values shown in the figure indicate the temperature for the weight loss of 5% and 10%.
3.3.1.2 昇温条件下での酸化反応
空気中での昇温酸化反応測定の結果を Fig.3-9 に示す。試料 C60 は空気中での酸化反
応が 500℃付近より始まり、550℃から急激に酸化され、650℃では完全に消失した。試料
MF の酸化開始温度は C60 より低く、500℃付近より急激に酸化され、630℃で完全に消
失した。また、試料 FB では酸化開始温度は 340℃と試料中で最も低く、完全消失温度は
C60 や MF より高かった。一方、IRB#7 は酸化開始温度が 515℃と最も高く、酸化終了温
度も最も高かった。
以上の結果から、試料 C60 の酸化開始温度は、IRB#7 より低いが MF、 FB より高く、
酸化反応に対して MF、 FB より安定であると結論できる。
- 29 -
20
120
1
558
-20
80
TG(%)
DTA(μV)
-40
60
-60
40
-80
20
483
0
200
400
20
600
0
1000
800
120
509
2
Weight loss /%
0
80
-20
60
-40
40
-60
20
358
-80
0
-100
20
0
200
400
600
-20
1000
800
45
3
520
0
40
35
30
⊿
Endo.←
T→
Exo.
W
eight loss/%
100
Endo.←⊿T→Exo
-100
-20
25
20
-40
15
-60
10
5
-80
273
0
-100
20
Weight loss /%
Endo.←⊿T→Exo
100
-5
0
200
400
600
800
1000
4
709
100
0
80
-20
60
-40
40
-60
20
-80
0
595
-100
-20
0
200
400
600
800
Temperature /℃
Fig.3-9 TG/DTA curves of fullerene and carbon materials in the air.
1:C60
2:MF 3:FB 4:IRB#7
- 30 -
1000
Endo.←⊿T→Exo
Weight loss /%
0
3.3.1.3 等温酸化反応
Fig.3-10~3-13 に、C60、MF、FB、IRB#7 の各試料に関して、空気中で等温酸化反応
させた際の酸化率(x)と時間の関係を示す。C60 の空気中での等温酸化において、365℃で
は酸化反応は遅いが、380℃以上では酸化反応は速くなり、400℃では約 4 時間の加熱で完
Fractional oxidation, x
全消失した。Fig.3-10 にその挙動を示す。
1
0.8
0.6
365℃
380℃
390℃
400℃
0.4
0.2
0
0
2
4
6
8
Time /hr
Fig.3-10 Isothermal oxidation reaction of specimen C60
- 31 -
10
Fractional oxidation, x
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
365℃
380℃
390℃
400℃
0
2
4
6
8
Time /hr
Fig.3-11 Isothermal oxidation reaction of specimen MF.
Fig.3-11 にその挙動を示したように、試料 MF は 390℃までは C60 とほぼ同じ挙動を
するが、400℃では急激に酸化消失する。一方、試料 FB は Fig.3-12 に示したように、試
料 C60 や MF より同じ温度では酸化速度が遅く、425℃、6 時間後でも完全消失しないこ
とが分かる。また、試料 IRB#7 は Fig.3-13 に示したように、450℃では酸化反応の進みは
遅く、500℃を超えると酸化速度が速くなることが分かった。
試料 C60 と MF の熱反応性を比較するため、Fig.3-14 に 400℃の酸化率と時間の関係を
示した。C60 に比べて、試料 MF は酸化率が速く、C60 がより熱的に安定であることが分
かった。
- 32 -
Fractional oxidation, x
0.8
350℃
375℃
400℃
425℃
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
0
1
2
3
4
Time /hr
5
6
7
Fig.3-12 Isothermal oxidation reaction of the specimen FB.
Fractional oxidation, x
1
450℃
470℃
490℃
510℃
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
1
2
3
4
Time /hr
5
6
7
Fig.3-13 Isothermal oxidation reaction of the specimen IRB#7.
- 33 -
1
Fractional oxidation, x
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
C60(365℃)
0.4
C60(380℃)
0.3
C60(390℃)
0.2
C60(400℃)
0.1
MF(400℃)
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
Time /hr
Fig.3-14 Isothermal oxidation reaction of fullerene(C60)and mixed fullerene (MF)
以上の結果に基づき、またSEM観察の結果を参考にして、試料をほぼ球状と仮定して、
Fig.3-15 に示した球状固体の酸化反応モデル7)により実験結果を解析した。
1.境膜
未反応球
状
固体
2.生成物層
3.反応界面
Fig.3-15 球状固体の反応律速
1:ガス境膜拡散律速 k’t=x
2:生成物層内拡散律速 k’t=1-3(1-x)2/3+2(1-x)
3:表面反応律速 k’t=1-(1-x)1/3
- 34 -
固体表面で反応が生起して生成物層を形成すると、気相酸素が生成物層を通して反応し、
反応界面が粒子内部に向かって移動する。このようなモデルの場合の反応機構5)は(1)ガス
境膜内拡散、(2)生成物層内拡散、(3)未反応核表面での反応の 3 つの過程から成立する。こ
こで擬定状態の近時を採用し、3 つの過程の 1 つが律速段階となる場合を考えると、それ
ぞれの過程について次式で表される。
(1)ガス境膜拡散律速:
kt=x
(2)生成物層内拡散律速
kt= 1-3(1-x)2/3+2(1-x)
(3)表面反応律速
kt=1-(1-x)1/3
x:反応率、 t:反応時間、 k:定数
C60の反応率-時間の曲線に表面反応律速の(3)式より、kt=1-(1-x)1/3 とt をプ
ロットした結果をFig.3-16に示す。両者に良い直線関係が見られることが分かった。各温
度で(3)式の定数kを求め、そのArrheniusプロットをFig.3-17に示す。
0.8
0.7
1-(1-x )
1/3
0.6
0.5
365℃
0.4
380℃
0.3
390℃
0.2
400℃
0.1
0
0
2
4
6
Time /hr
Fig.3-16 Linear plot for the specimen C60
- 35 -
8
-1
lnk
-1.5
y = -16897x + 23.441
-2
-2.5
-3
-3.5
0.0014
0.00145
0.0015
0.00155
0.0016
0.00165
-1
1/T(K )
Fig. 3-17 Arrhenius plot for the specimen C60
そこで、直線関係が得られ、この結果より活性化エネルギーを算出することができる。
次に、MFの反応率-時間の曲線に生成物層内拡散律速の(2)式の
kt= 1-3(1-x)2/3+2(1-x) とt をプロットした結果をFig.3-18に、各温度で求めた定数
kとそのArrheniusプロットをFig.3-19に示す。
同様にFBの反応率-時間の曲線に生成物層内拡散律速の(2)式より、
kt= 1-3(1-x)2/3+2(1-x) とt をプロットした結果をFig.3-20に、各温度で求めた定数
kとそのArrheniusプロットをFig.3-21に示す。
また、IRB#7の反応率-時間の曲線にガス境膜拡散律速の(1)式より、kt=x
とt をプロットした結果をFig.3-22に、各温度で求めた定数kとそのArrheniusプロットを
Fig.3-23に示す。各試料のArrheniusプロットをした結果をまとめてFig.3-24に示す。
- 36 -
2/3
1-3(1- x ) +2(1-x )
0.8
0.7
0.6
365℃
380℃
390℃
400℃
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
0
2
4
Time /hr
6
8
Fig.3-18 Linear plot for the specimen MF.
0
-0.5
ln k
-1
-1.5
-2
y = -19477x + 27.235
-2.5
-3
-3.5
0.00148
0.0015
0.00152
0.00154
0.00156
-1
1/T /K
Fig. 3-19 Arrhenius plot for the specimen MF.
- 37 -
0.00158
0.2
350℃
375℃
400℃
425℃
1-3(1-x) 2/3 +2(1-x )
0.15
0.1
0.05
0
0
2
4
6
Time /hr
Fig. 3-20 Arrhenius plot of FB
生成物層内拡散の式
0
-1
y = -7954x + 7.8782
lnK
-2
-3
-4
-5
-6
0.0014
0.00145
0.0015
0.00155
0.0016
-1
1/T /K
Fig. 3-21 Arrhenius plot of FB
- 38 -
0.00165
1
450℃
470℃
490℃
510℃
0.8
x
0.6
0.4
0.2
0
0
1
2
3
4
Time /hr
5
6
7
Fig.3-22 Linier plots of IRB#7.
0
-1
ln k
y = -15919x + 18.944
-2
-3
-4
0.0012
0.00125
0.0013
0.00135
1/T /K-1
Fig. 3-23 Arrhenius plot of IRB#7.
- 39 -
0.0014
-1
y = -16897x + 23.441
-2
FB
MF
-3
y = -15919x + 18.944
lnk
y = -19477x + 27.235
C60
IRB#7
-4
y = -7954x + 7.8782
-5
-6
0.0012
0.0013
0.0014
0.0015
-1
0.0016
0.0017
1/T /K
Fig. 3-24 Arrhenius plots for the fullerenes and carbon material.
以上の結果から活性化エネルギーを算出し、各試料の速度式と燃焼パラメーターを
Table 3-2 に示す。試料 MF と FB については、生成物層内拡散律速の式により説明可
能であり、
試料IRB#7に対しては、
ガス境膜拡散律速の式が適合することが判明した。
酸化反応開始温度と活性化エネルギーを比較した結果、試料 C60 と MF は活性化エ
ネルギーほぼ同じで、酸化開始温度は MF の方が低かったが、試料 FB については両者
に比較して、酸化開始温度が低く、活性化エネルギーも小さいことから、熱安定性は低
いことが分かった。
- 40 -
Table 3-2
Kinetic parameters of the fullerenes and carbon material.
N60
MF
FB
IRB#7
483
358
273
595
558
509
520
Surface reaction
Diffusion -controlled
Diffusion -controlled
Gas-phase mass
controlled shrinking
shrinking unreacted
shrinking unreacted
transfer controlled
unreacted-coremodel
core model
core model
model
Exothermic reaction start
temp.(℃)
Exothermic peak
Temp.(℃)
Rate equation
1/3
k’t=1-(1-x)
2/3
2/3
k’t=1-3(1-x) +2(1-x)
k’t=1-3(1-x) +2(1-x)
709
k’t=x
Frequency factor (h-1)
23.4
27.2
7.9
18.9
Activation energy (kJ・mol-1)
141
162
66
132
Sample weight ;2mg ,Heating rate; 20℃・min-1.
3.3.2 フラーレンの燃焼反応性
3.3.2.1 小ガス炎着火試験
小ガス炎着火試験による結果を Fig.3-25 と Table 3-3 に示す。着火の外観は、C60、MF
および MF-F は赤熱状態が観察されるが、FB と FB-F は赤熱してないことが分かった。
試料 MF は 10 秒以内に着火はするが、10 秒以上燃焼が継続しないことが判明した。ま
た、試料 FB は、3 秒以内に着火するが 10 秒以上燃焼継続しないことも分かった。したが
って、試料 MF と試料 FB は、消防法の可燃性固体には該当しないことから、熱的な用途
にも応用できることが分かった。一方、粉砕した粒度の小さい MF-F と FB-F は 10 秒以
内に着火し、10 秒以上燃焼を継続した。これにより消防法第 2 類の第 2 種可燃性固体に該
当することが分かった。
- 41 -
1
3
2
C60
4
MF
5
MF-F
6
FB
FB-F
Fig. 3-25
Small gas flame test.
1: The sample shape before the test.
2:C60, 3:MF, 4:MF-F, 5:FB, 6:FB-F
Table 3-3 Small gas flame test.
MF
MF-F
FB
FB-F
Ignition and
Though it ignites within
The specimens ignite
Though it ignites
The specimens ignite
combustion
10 seconds, the
within 10 seconds, and
within 3 seconds, the
within 10 seconds,
situation.
combustion does not
the combustion
combustion does not
and the combustion
continue over 10 seconds
continues over 10
continue over 10
continues over 10
or it does not ignite within
seconds after ignition.
seconds.
seconds after
ignition.
10 seconds.
- 42 -
3.3.2.2 燃焼速度試験
試料 C60 と MF および FB はともに赤熱燃焼するが、燃焼時間より可燃性物質には該当
しない。また、それらの粉砕品の C60-F、MF-F および FB-F も赤熱燃焼するが、燃焼時
間より可燃性物質には該当しないことが分かった。それらの燃焼速度試験の結果を
Fig.3-26 と Table 3-4 に示す。試料 IRB#7 は炎を当てた部分は赤熱するものの、着火、延
焼しなかった。一方、試料 N60 と MF は赤熱しながら燃焼するが、試料 FB は燃焼する
が赤熱は少なかった。また、いずれの場合も炎は生じなかった。燃焼速度は MF と C60
との差はなく、FB がフラーレンより約 2 倍の速さとなった。
さらに、燃焼速度に及ぼす粒子径の影響を検討するため、異なる粒子径の試料試験の結
果を Table 3-4 に示す。この結果から、試料 C60 では 1.5 倍、試料 MF では約 2 倍、試料
FB では約 3 倍といずれも粒度が細かくなると、燃焼速度は速くなることが分かった。
これらの結果より、C60 と MF および,FB の比較において、燃焼速度は、比表面積が大
きく、かつ、結晶性が悪いほど速くなり(FB>MF>C60)
、結晶性が高いほど、着火(酸
化開始)温度は高くなる(C60>MF>FB)
。一方、カーボンブラックは、アモルファス、
かつ、比表面積も大きいが常温で燃焼しないのは、反応機構(ガス境膜内拡散律速)と活
性化エネルギーの違いにより燃焼が継続しないものと考えられる。
- 43 -
1
2
3
4
Fig. 3-26
Burning rate test
1: C60-F, 2:FB-F, 3:IRB#7(Under burner ignition. ) 4:IRB#7(ater the burner ignition.)
Table 3-4
Particle size, Specific surface area , and Burning rate of fullerene and carbon materials.
C60
C60-F
MF
MF-F
FB
FB-F
IRB#7
Particle size(μ)
9.4
1.14
10.6
2.16
385
0.71
0.25
Specific surface area (m2g-1)*
3.9
―
1.8
―
95.7
―
72.9
Burning rate(mm・min-1)
1.2
1.8
1.4
3.2
2.6
7.7
*By multipoint B.E.T. nitrogen adsorption.
- 44 -
Burning is not
continued.
3.3.2.3 揮発分測定による急速加熱と結晶性
揮発分の結果を Table 3-5 に示す。先の昇華する結果と比較すると、ほとんど
昇華することなく残留した。
これは、
昇華反応より早く炭化反応が進んだものと推定する。
MF が完全昇華することなく一部残留したことと同様現象と考えられる。
また、この残留物の X 線回折を Fig.3-25、3-26 に示す。揮発分測定前の結果と比較す
ると、急速加熱により C60 と MF は著しく結晶性が悪くなった。一方、FB は僅かに含ま
れるフラーレン類が炭化反応で結晶性が悪くなる分、僅かに結晶性が悪くなったものと推
定される。IRB#7は、ほとんど変化がなかったが、これは、もともと結晶性が悪く、且
つ、熱履歴を既に受けており変化がないためと考えられる。
Table 3-5
Volatile matter(%)
C60
MF
MF-F
FB
FB-F
IRB#7
2.98
2.12
2.32
4.90
5.08
2.60
- 45 -
25000
C60
C60 after VM measurement
Intensity
20000
15000
10000
5000
0
10
20
30
40
50
60
2θ(deg)
5000
MF
MF after VM measurement
Intensity
4000
3000
2000
1000
0
0
Fig. 3-25
20
40
60
80
100
2θ(deg)
XRD patterns of the specimens C60 and MF after heat treatment.
- 46 -
4000
FB
FB after VM measurement
Intensity
3000
2000
1000
0
10
20
30 2θ(deg) 40
50
60
3000
IRB#7
Intensity
IRB#7 after VM measurement
2000
1000
0
10
20
30
2θ(deg)
40
50
60
Fig. 3-26 XRD patterns of the specimens FB and IRB#7 after heat treatment.
.
- 47 -
3.4 結論
フラーレン類の熱反応性や燃焼反応性試験より、次の結論を得た。
1)標準カーボンブラックは昇華しないが、C60 及びMF(混合のフラーレン)は窒素
雰囲気下、500℃以上で昇華が始まる。更に昇温すると C60 が MF より低い温度で完
全に昇華するのに対し、MF の一部は昇華しない。
2) C60 は酸化に対しては、高次のフラーレンを含む MF より安定で、酸化開始温度も
高い FB は、フラーレンに比べて熱的に安定でなく、燃焼性が高いことが確認された。
3) C60の燃焼形態は、表面反応律速で、MFは生成物層内拡散律速反応である。FBは
MFと同様、生成物層内拡散律速反応である。一方、標準カーボンブラック(IRB#7)
は、ガス境膜内拡散律速反応である。
また、活性化エネルギーは、燃焼性の高いFBが最も小さい。
4) 危険物輸送国連勧告「燃焼速度試験法」では、フラーレンは燃焼するが、標準カーボ
ンブラックは燃焼しない。また、燃焼速度は粒子径に反比例し速くなるが、フラーレン
類は粒子径によらず可燃性物質には該当しない。
- 48 -
参考文献
1) 篠原久典,齋藤弥八,”フラーレンの化学と物理”,pp.114,名古屋大学出版会(1997)
2)「危険物確認試験実施マニュアル」pp.36(1989)
3)国連勧告・試験マニュアル「Recommendations on the TRANSPORT OF DANGEROUS
GOODS-Manual of Tests and Criteria-Third revised edition」
4) H.S.Chen, A.R.Kortan,R.C.Haddon and D.A.Fleming, J.Phys.Chem., 96, 1016 (1992)
5)K.Hashimoto,’’Hannoukougaku’’,pp.222, Baifukan (1979)
- 49 -
第4章 熱可塑性エラストマーとフラーレン類の複合材料の機械的特性
4.1 緒言
熱可塑性エラストマー(TPE)とは、室温ではゴム弾性を示すが、高温ではプラスチック
のように塑性変形する材料の総称である。この物質は再利用が可能であるため、環境に対
する負荷が小さく、
昨今の社会情勢の要求に適応した材料であると言える。
しかしながら、
TPEは優れた面ばかりを有しているわけではなく、現在の架橋ゴムを全て代替することは
困難である。従来、熱可塑性樹脂、及び熱硬化性樹脂等の樹脂の特性を改良するために、
これらの樹脂材料に無機材料からなる微粒子が添加されてきた1)。特に、樹脂材料中に微
粒子をナノメートルオーダーで分散させた樹脂複合材料は、ユニークな特性を有するため
近年注目を集めている。具体的な樹脂複合材料の一つとして、樹脂材料中にカーボンナノ
チューブ等の微細な炭素繊維を含有する樹脂組成物が開発されている2-5)。しかしながら、
炭素繊維などを添加して樹脂材料の特性を改良するためには、少なくとも数wt%以上の
炭素繊維を添加する必要がある。そのため、炭素繊維を添加することにより引張応力等の
機械的特性を向上させると、その反面、加工性及び成形性が低下して劣化するという問題
があった。
このような問題点を解決するためには、樹脂材料が有している加工性及び成形性をほと
んど損ねることなく、優れた引張応力を示すことができる樹脂複合材料を提供することが
求められている。例えば、種々の熱可塑性エラストマーに、フラーレン(C60、C70)及びフ
ラーレン製造時に生成する溶媒不溶のフラーレン類似炭素を分散させて複合化した材料で
は、機械的物性の向上等の興味深い結果が得られている6)。
本研究では、多様化・複雑化するニーズに対応する材料の創製を目的として、フラーレ
ン化合物に着目した。フラーレンは炭素 60 個からなる直径約 0.7nm の球状物質であり、
種々の特性を有しており、TPE との複合化により、TPE の高性能化・機能化が期待され
る。ここで用いるフラーレン化合物は燃焼法で製造されており、種々の構造体が含まれ、
溶媒抽出によって分離することが可能である。本章では、これらのフラーレン類を用いて
TPE としてポリウレタンエラストマー(PUE)をマトリクスに用いて複合化し、得られた複
合物に関する機械的特性について研究した。
4.2 実験方法
4.2.1 試料
本章では第二章の Table 2-1 に示したフロンティアカーボン㈱製の市販品であるフラー
レン C60、混合フラーレン MF、フラーレン類似炭素 FB を使用した。
-50 -
4.2.2 サンプルの調製
4.2.2.1 引張り物性用の溶媒法によるサンプル調製
ポリウレタンのサンプル調製の概要図を Fig.4-1に示す。PUE の合成は、ポリオール
に数平均分子量 2000 のポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG2000)、ジイソシア
ネートに 4,4’-ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)を加え、鎖延長剤に 1,4-ブタンジ
オール(BD)を用いて、それぞれのモル比を PTMG:MDI:BD=1:2:1 とし、THF を溶
媒に用いてプレポリマー法によりポリウレタンのサンプルを調製した。
ポリウレタンと MF の複合材の調製法の概要を Fig. 4-2 に示す。フラーレン C60、混合
フラーレンMF 及びフラーレン類似炭素FB は市販品のまま使用した。
PUE に対してC60、
MF 及び FB がそれぞれ所定の濃度となるように 70˚C の PUE/THF 溶液に、10 分間超
音波処理をしながら混合し、その後キャスティングにてフィルムとした。C60、MF の添
加量は0~1000ppm(0~0.1wt%)とし、FBの添加量は、PUE に対して 0~10phr(=per
hundred resin/rubber、PUE の質量を 100 として、添加する物質の相対質量を表示した
値。
)とした。得られたフィルムは 120˚C で 1 時間、熱プレス成型して測定用試料とし、
引張物性測定を評価した。
CH2
O
HO
n
H
+
OCN
Poly(oxytetramethylene)glycol
(Mn=2000,PTMG)
MDI
NCO
4,4’-Diphenylmethanediisocyanate
(MDI)
80?C/2h
80℃/2hr
PTMG
MDI
Prepolymer
OH
HO
1,4-Butanediol
THF
PUE/THF solution
Scheme 1. Synthesis of Polyurethane Elastomer.
Fig.4-1 Synthesis procedure of polyurethane elastmer.
-51 -
PUE
+
THF
C60,MF,FB
THF
ultrasonic wave
agitation for 5min.
agitation at 70℃
PUE / THF solution
+
THF dispersion
+
C60,MF,FB / PUE / THF dispersion
agitation at 70℃ for 20 min.
and ultrasonic wave agitation
for 10min.
C60,MF, FB / PUE composite
pressed sheet-like
(at 120℃、for 60 min.)
C60,MF,FB / PUE composite sheet
Fig.4-2 Preparation of PU composites by the solvent method.
4.2.2.2 粉末法による引張り試験用試料の調製
サンプル調製概要を Fig.4-3 に示した。BASF 社製ポリウレタンに C60、MF、FB を粉末
の状態で、6 インチオープンロールを用いて室温にてロール間隙 1mm 混練し、150℃、1
時間、熱プレス成型した。この試料を用いて、引張物性を測定した。
-52 -
PUE made by BASF Co.
C60,MF, FB
kneading in 6 inches 2 rollermills at room
temperature.
C60, MF, FB / SBS
composite
pressed sheet-like(at 150℃、for 60 min.)
C60, MF, FB / SBS
composite sheet
Fig.4-3 Preparation of PU composites by the dry method.
4.2.2.3 熱分析用試料の調製
サンプル調製の概要をFig.4-4 に示す。マトリクスポリマーとして、ポリスチレン-blockポリブタジエン-block-ポリスチレンコポリマー(SBS,JSR㈱製TR2787)を用い、FBと 6 イン
チオープンロールにより室温で,ロール間隙 1 mmで混練した。SBS 20 gに対するFBの量
は0から30 phrとした。
FB混練後、
ロール間隔を3 mmとしてFB/SBCコンポジットを得た。
調製したコンポジットを 120 ℃、150 kg/cm2の条件で 30 分間プレス成型した後、約 50 ℃
まで冷却したものをDSC測定用試料とした。
本章中に記載する試料名は、
例えばFBを 10 phr
添加したSBSの場合をFB10/SBSと略記する。
-53 -
SBS by JSR Co.
FB
kneading in 6 inches 2 rollermills at room temperature.
FB / SBS
composite
pressed sheet-like(at 120℃、for 30 min.)
FB / SBS
composite
sheet
Fig. 4-4 Preparation of SBS composites.
4.2.3 測定装置と測定条件
引張応力試験は、JIS K6251に準拠する方法により行った。即ち、各試料をJIS K6251
に準拠するダンベル状試験片(3号)に加工し、この試験片を、テンシロン(オリエンテ
ック社製RTA-100)を用いて、室温下、引張速度100mm/minで測定した。
熱分析には、示差走査熱量計(理化学電気㈱製 Thermo plus DSC8230)を用い、温度範囲-
150~300 ℃、昇温速度 5 ℃/min、空気雰囲気下で測定した。
4.3 結果と考察
4.3.1 溶媒法によるサンプルの引張応力試験
C60、MF、FBの各試料に対する引張り応力試験の結果を、Fig.4-5~Fig.4-7 に示す。
また、伸び 100%のときの引張応力(100%モジュラスM100)
、及び伸び 300%のときの引
張応力(300%モジュラスM300)をTable 4-1 及びTable 4-2 に示す。各試料の 100%モジ
ュラス及び 300%モジュラスを、Table 4-1 ではフラーレンを添加しない試料に対する相対
値(添加なし試料のM100及びM300を 100 としたときの相対値)で示した。なお、試験片の
伸び(%)は、試験片の引張方向の長さからの伸びを百分率で示したものであり、試験片
の長さと同じ長さ伸びた時の伸びが 100%であり、試験片の長さの3倍伸びたときの伸び
-54 -
は 300%となる。これらの関係を、Fig.4-8 に示す。これらの結果よりフラーレンを含有す
る試料は、フラーレンを含有しない試料に比べて引張応力が向上するが分かった。また、
C60 及びMFを 100~1000ppm含有する試料は、FBを 1phr含有する試料及び 3phr含有す
る試料と同程度の優れた引張応力を示した。したがって、C60 とMFを用いると、100~
1000ppmという少量でも、この樹脂複合材料の機械的特性を充分に向上できることが明ら
かとなった。
このような効果が得られた理由として、フラーレンによる架橋効果が考えられる。すな
わち、フラーレンがポリウレタン間を架橋することにより、材料の強度が高くなったと考
えられ、
分子数からは少量を添加するだけで効果は期待できるといえる。
また、
FBを 5phr
以上含有する試料は、さらに高い引張応力を示したが、その増加率は低いことから、価格
を考慮するとフラーレンを 100~1000ppm の低濃度での添加が効果的と結論できる。
30
control
100ppm
500ppm
1000ppm
25
Stress (MPa)
20
15
10
5
0
0
200
400
600
800
1000
1200
Strain (%)
Fig.4-5 Stress-strain curves of the PUE samples containing C60.
-55 -
30
control
100ppm
25
500ppm
1000ppm
Stress (MPa)
20
15
10
5
0
0
200
400
600
800
1000
1200
Strain (% )
Fig.4-6 Stress-strain curves of the PUE samples containing MF.
30
control
1phr
3phr
5phr
7phr
10phr
25
Stress (MPa)
20
15
10
5
0
0
200
400
600
800
1000
Strain ( % )
Fig.4-7 Stress-strain curves of the PUE samples containing FB.
phr(=per hundred resin/rubber)
-56 -
Table 4-1 Relations between M100/M300 ratio and content of C60 and MF.
Contet of fullerene M100
(ppm)
(MPa)
C60
0
1.5
100
1.7
500
2.0
1,000
1.6
MF
0
1.5
100
1.5
500
1.6
1,000
1.6
M 300
(M Pa)
2.5
3.2
3.4
3.3
2.5
3.4
3.2
3.3
Tb
(MPa)
20.9
23.3
23.1
25.6
20.9
25.3
25.7
24.9
EB
(%)
1020
900
900
920
1020
900
900
900
M100
Ratio*
100
113
133
107
100
100
107
107
M300
Ratio*
100
128
136
132
100
136
128
132
*Relative values to the blank (= 100)
Table 4-2 Relations between M100/M300 ratio and content of FB.
FB
Contet of fullerene M100
(phr)
(MPa)
0
1.4
1
1.4
3
1.8
5
2.0
7
1.4
10
2.3
M 300
(M Pa)
3.2
3.6
3.8
5.0
5.0
5.5
* Relative values to the blank (= 100)
phr(=per hundred resin/rubber)
-57 -
Tb
(MPa)
28.5
27.1
29.0
29.0
28.5
26.9
EB
(%)
910
810
820
825
775
770
M100
Ratio*
100
100
129
143
100
164
M300
Ratio*
100
113
119
156
156
172
M100,M300の相対比(-)
C 60
M 100
M 300
140
135
130
125
120
115
110
105
100
95
90
0
200
400
600
800
C on t e n t (p p m )
1 ,0 0 0
1 ,2 0 0
M100,M300の相対比(-)
MF
M 100
M 300
140
135
130
125
120
115
110
105
100
95
90
0
200
400
600
800
C o n t e n t (p p m )
1 ,0 0 0
M100,M300の相対比(-)
FB
1 ,2 0 0
M100
M300
180
170
160
150
140
130
120
110
100
90
0
2
4
6
8
Content(phr)
10
12
Fig.4-8 Relations between M100/M300 ratio and content of fullerene (C60,MF and FB).
phr(=per hundred resin/rubber)
-58 -
4.3.2 粉末法による試料の引張応力試験
粉末法により作製したC60、MF、FBの各試料に対する引張り応力試験の結果をFig.4-9
、及び伸
~Fig.4-11 に示す。また、伸び 100%のときの引張応力(100%モジュラスM100)
び 300%のときの引張応力(300%モジュラスM300)をTable 4-3、Table 4-4 及びFig.4-12
に示す。これらの結果より溶媒法と同様にフラーレンを含有する試料は、フラーレンを含
有しない試料に比べて引張応力が向上することが分かった。また、C60 及びMFを 100~
1000ppm含有する試料は、FBを 3phr含有する試料と同程度の優れた引張応力を示した。
したがって、C60 とMFを粉末で混練する場合にも、フラーレンの量が 100~1000ppmと
いう少量でも、この樹脂複合材料の機械的特性を充分に向上できることが明らかとなり、
工業材料として開発することが可能であると同時に、添加方法も溶媒に一旦分散した後マ
トリックスに配合する方法に比べて、直接、粉末にてマトリックスに添加する方法は、工
程の短縮により工業的に優位であると考えられる。
60
control
100ppm
50
500ppm
1000ppm
Stress (MPa)
40
30
20
10
0
0
100
200
300
400
500
600
Strain (% )
Fig.4-9 Stress-strain curves of the PUE samples containing C60.
-59 -
60
co ntrol
1 00 p p m
50
5 00 p p m
1 00 0 p p m
Stress (MPa)
40
30
20
10
0
0
10 0
200
3 00
400
500
60 0
Strain (% )
Fig.4-10 Stress-strain curves of the PUE samples containing MF
-60 -
60
control
3p hr
50
5p hr
7p hr
10 phr
Stress (MPa)
40
30
20
10
0
0
100
2 00
300
40 0
500
60 0
Strain (% )
Fig.4-11 Stress-strain curves of the PUE samples containing FB.
phr(=per hundred resin/rubber)
-61 -
Table 4-3 Relations between M100/M300 ratio and content of C60 and MF.
Contet of fullerene M100
(MPa)
(ppm)
C60
0
3.7
100
5.5
500
5.3
1,000
5.1
MF
0
3.7
100
4.9
500
5.1
1,000
5.9
M300
(MPa)
12.0
17.0
18.0
18.5
12.0
16.9
18.4
18.3
Tb
(MPa)
51.9
47.5
53.2
53.7
51.9
49.3
44.3
44.0
Eb
(%)
500
480
470
480
500
460
440
440
M100
Ratio*
100
149
143
138
100
132
138
159
M300
Ratio*
100
142
150
154
100
141
153
153
*Relative values to the blank (= 100)
Table 4-4 Relations between M100/M300 ratio and content of FB.
FB
Contet of fullerene M100
(MPa)
(phr)
0
4.0
3
5.1
5
5.3
7
6.2
10
6.2
M300
(MPa)
11.9
15.7
15.6
15.7
18.8
Tb
(MPa)
49.8
55.2
53.0
55.1
45.8
* Relative values to the blank (= 100)
phr(=per hundred resin/rubber)
-62 -
Eb
(%)
500
520
510
490
480
M100
Ratio*
100
128
133
155
155
M300
Ratio*
100
132
131
132
158
C 60
M 100
M 300
M100,M300の相対比(-)
160
150
140
130
120
110
100
90
0
200
400
600
800
C ontent(ppm )
1,000
1,200
M100,M300の相対比(-)
MF
M100
M300
170
160
150
140
130
120
110
100
90
0
200
400
600
800
Content(ppm)
1,000
M100,M300の相対比(-)
FB
1,200
M 100
M 300
170
160
150
140
130
120
110
100
90
0
2
4
6
8
C ontent(phr)
10
12
Fig.4-12 Relations between M100/M300 ratio and content of fullerene (C60,MF and FB).
phr(=per hundred resin/rubber)
-63 -
4.3.3 DSC 測定結果
最後にポリウレタンとは直接関係ないが、同じ熱可塑性エラストマーであるSBSの熱的
挙動に対するFBの効果について述べる。SBSの構造式をFig. 4-13 に、DSCによる測定結
果をFig.4-14 に示す。無添加のSBS(コントロール)では、約-88 ℃にポリブタジエン相
および約 110 ℃付近にポリスチレン相のガラス転移に起因する吸熱ショルダーが確認さ
れた。FBを添加すると、前者は少し高温側に、後者は少し低温側にシフトし、20 phr添加
した試料では、いずれも観察することが困難になった。また,高温側において、無添加SBS
では、約 207 ℃にピークトップを持つ発熱ピークが確認できるが、このピークはポリブタ
ジエンの自動酸化反応による酸化劣化に起因すると考えられる7,8)。このピークは、FBを
10 phr添加で 19 ℃および 20 phr添加で 32 ℃それぞれ高温側にシフトして酸化劣化の開始
が遅延され、また、発熱量も減少していることからラジカル捕捉効果によると考えられ、
SBSに対してもゴム同様にFBは酸化劣化の抑制効果を持つと推定される。フラーレンはラ
ジカル捕捉能があることが報告されており、フラーレン製造時の未抽出成分であるFBにお
いても類似した特徴が表れている。これは、僅かに含まれるフラーレンのπ電子が二重結
合に作用するLewis酸塩基による結合によると考える。
さらに、FB は複雑な構造を持つ混合物であり、化合物中に環状になりきれなかったダン
グリング炭素を持ち、これらもラジカル捕捉能を有しており、これらの効果とも考える。
C
H2
H2
C
CH
H
C
H
C
CH 2
H2 H
C C
CH2 CH
CH
CH2
n
m
SBS
Fig.4-13 Structure of SBS.
-64 -
m
Endotherm
206.7 ℃
a
-87.8 ℃
120.2 ℃
b
c
225.8 ℃
238.4 ℃
-150 -100 -50
0
50 100 150 200 250 300
Temperature (˚C)
Fig.4-14 DSC thermograms for the specimens.
(a) pure SBS,(b) FB10/SBS and (c) FB20/SBS.
-65 -
4.結論
フラーレン類を添加したポリウレタンの機械的特性を測定することにより、以下の結論
を得た。
1)引張り強度はフラーレン(C60 および MF)の添加量が数百 ppm 程度で充分に効
果があり、それ以上の添加による物性の向上はあまりないことが分かった。フラーレ
ン類似炭素(FB)では、phr オーダーでの添加で、添加量と共に引張応力が向上した。
2)通常用いられるカーボンブラック等に比して、極微量のフラーレン(C60 および
MF)の添加による機械的強度改善は、成形性および加工性を変化させない特徴を有
するので、有用な工業用材料と言える。フラーレン類似炭素(FB)もカーボンブラック
より少量にて効果があり、工業用材料として有用となりうる。3)フラーレンの添加に
よる効果は、ハードセグメントとフラーレン分子との相互作用と考えられ、分子状フ
ラーレンの分子数の効果と考えられる。従って、加えすぎると凝集等により分散が悪
くなり、添加の効果が抑制されると考えられる。
4)粉末を直接マトリックスに混練する方法でも、溶媒法と同様の結果となることが分
かった。従い、溶媒に一旦分散した後マトリックスに配合する方法に比べて、直接、
粉末にてマトリックスに混練する方法は、工程の短縮により工業的に優位であると考
える。
5)SBS にフラーレン類似炭素の FB を添加した試料の熱的挙動から、SBS の酸化劣化
を抑制する効果が見られ、フラーレン類似炭素においてもラジカル捕捉能が示唆され
た。そのメカニズムはπ電子が二重結合に作用する Lewis 酸塩基の概念により説明で
きる。
-66 -
参考文献
1)Zhang, L.,Wang,Y.,Wang,Y.,Sui,Y.,Yu,D.:J.Appl.Polym. Sci., 78, 1873 (2000)
2)斎藤勝, 特開2004-338327 (2004)
3)岩蕗 仁,永田員也,:第17回エラストマー討論会講演要旨集,120(2004)
4)野口 徹,曲尾 章,他,:第17回エラストマー討論会講演要旨集,122(2004)
5)山田 英介,犬飼茂樹,也,:第17回エラストマー討論会講演要旨集,118(2004)
6)熊谷隆秀,山田英介,稲垣愼二,高倉剛,曽根一祐:日本ゴム協会(投稿中)
7)Wang, S.M. et al.: Polym. Degrad. Stab., 52, 51 (1996)
8)Adam, C. et al.: Polym. Degrad. Stab., 24, 185 (1989)
-67 -
第5章 フラーレンの電気抵抗の温度依存性
5.1 緒言
フラーレンは代表的なナノカーボン材料として、様々な分野での応用展開が期待されて
いる。フラーレンにはC60を含め、さまざまな炭素数を持つものが存在し、多くの研究報告
がなされているが、電気特性に関しての研究例4-7)は少ない。従来の研究6)では、フラーレ
ンの電気伝導率の測定は蒸着により作成された薄膜を用いているが、サンプル調製時に構
造が変化する危険性があり、フラーレンの特性を確実に測定できたが問題視されていた。
さらに、混合のフラーレンを蒸着する場合には、蒸着温度により薄膜組成が変化すること
から、その電気的特性を測定することが困難であった。
そこで、本章では測定サンプルにペレットを用いる電気伝導率測定法を確立し、電気特
性に関する知見を得ることを目指した。
5.2 実験方法
5.2.1 試料
フラーレン類は市販のフロンティアカーボン㈱製の、フラーレン C60、混合フラーレン
MF を使用した。これらは第二章の Table 2-1 に示した物質と同じであるが、その名称と商
品名を Table 5-1 に再掲した。また、本章ではMTR社製のフラーレン C70 を用いた。比
較のために単層ナノチューブ、C60Hx(水素化フラーレン)及び有機太陽電池の研究に使
用されている PCBM を用いた。また、PCBM の構造を Fig.5-1 に示す。
Table 5-1 Specimens used in this chapter
C60:フラーレン C60(略号 C60、商品名:nanom puple ST、C₆₀;96%以上
MF:混合フラーレン(略号 MF、商品名:nanom mix ST C₆₀;約 60%、C₇₀;約 25%、
その他高次フラーレンを含む混合フラーレン)
C70:フラーレンC70(略号C70、純度 99.5%)
C60Hx:
(HydrogenatyedC60、x=36-40)
SWNT:単層ナノチューブ
PCBM:Phenyl C61-butyric acid methyl ester(商品名:nanom spectra E100、純度 95%以上)
-68 -
OCH 3
O
Fig.5-1
Molecular structure of PCBM.
5.2.2 測定試料の調整
測定に用いた試料の構造と調製方法の概要図を Fig.5-2 に示す。
745 MPa
deaeration
sample(10φ)
Natural mica
Silver plague
Sample
Gold thin film
Lead wire
Natural mica
Low-temperature plate
Fig.5-2
Preparation of the sample.
試料は、粉末のサンプル約 0.22-0.23gを、IR測定用錠剤成型機を用いて真空脱気しな
がら、プレス圧 745MPa にて直径10mmの円柱状のサンプルに成型した。成型されたサ
ンプルは、両面に金を蒸着し、リード線を銀ペーストで接着して測定に供した。
-69 -
5.2.3 測定装置と測定条件
電気抵抗測定装置の概要をFig.5-3 に、装置全体写真と詳細写真をFig.5-4 とFig.5-5 に示す。
測定温度 10~500Kの間で 1K毎に電気伝導率を測定した。
なお、
圧力は 1~5×107Torrとし、
昇降温速度は 0.3K/minとした。
電気伝導率は、次式により求めた。
R = ρL/S、σ = 1/ρ
(5-1)
(5-1)式における各記号は以下の特性を表す。
R:抵抗(Ω)
ρ:抵抗率(Ω・cm)
L :試料の厚さ(cm)
S :試料の表面積(cm2)
σ:伝導率(Ω-1・cm-1)
Compute
r
Sampl
e
Temperature Controller
Compresso
r
Turbo Pump
Rotary pump
Digital Electrometer
Fig.5-3 Schematic diagram of the measuring devices.
-70 -
①
②
③
①CFF 450 TURBO ; 存在するイオンの量によって、真空度を測定する装置
②OIL MIST FILTER EMF20 ; 燃料ポンプにより温度調整を行う
③CAN- HELIUM COMPRESSOR UNIT ; ヘリウムガスを用いて試料の温度
を下げる際に用いられる
Fig.5-4 Equipments.
-71 -
CRYO・CON 32B(Temperature Controller)
アドバンテストR8252(デジタルエレクトロメータ)
Silver Plague
Golden thin film
Natural Mica
Sample
Lead Wire
Natural Mica
Low-temperature Plate
Fig.5-5
The measuring devices.
5.3 結果と考察
5.3.1 電気伝導率の温度依存性
5.3.1.1 試料 C60
Fig.5-6 に試料C60 の電気伝導率の温度に対する変化を示す。300K以下の低温域では測定毎
に電気伝導率の値が異なる。このような低温域における測定値のバラツキは分子配向の乱
れによる考えられる。一方、296Kより高温になると、電気伝導率は急激に増加する。この
現象は、310~410Kの領域と 480K以上の領域に現れる。296K以上での電気伝導率の急激
な増加は、結晶構造の結合力が弱くなり、電子の運動エネルギーが増加するためと考えら
-72 -
れる。310~410Kの温度域と 480K以上の温度でヒステリシスが観察された原因は現状では
実験的証拠を得ることができなかったが、これらの温度域ではC60のfcc構造が変化する可
能性があると推定している。
Conductivity (1/Ω・cm)
1.0E-09
1.0E-10
1.0E-11
1.0E-12
down
up
318K
1.0E-13
296K
1.0E-14
0
100
200
300
400
500
600
Temperature (K)
Fig.5-6 Conductivity of crystalline C60 specimen with temperature.
( The numeral is the temperature of the inflection.)
5.3. 1.2 試料 C70
Fig.5-7 に試料 C70 の電気伝導率の温度に対する変化を示す。
電気伝導率は試料 C60 より
高温の 330K から急激に増加したが、ヒステリシスはほとんど見られなかった。
。
5.3.1.3 試料 MF
Fig.5-8 にMFの電気伝導率の温度に対する変化を示す。試料MFでは低温域での挙動が
試料C60 と異なるが、267Kより高温で電気伝導率は急激に増加する。この電気伝導率が
急減に増加を始める温度は、試料C60 より低いが、その理由を解明するには至らなかった。
なお、400~450Kの温度域と 470K以上の領域でヒステリシスが観察され、この現象はC60
と類似していることが分かった。第 2 章のFig.2-1 に示した試料MFのX線回折像において
C70の結晶の回折線が観察されなかったことを考慮すると、試料MFにおいてヒステリシ
スを生じる原因として、MFの主成分であるC60の結晶が支配的であり、その性質が強く
表れたと考える。試料C60 とC70 およびMFを比べると、高音域でヒステリシスを生じる
現象はC60に特有の現象と考えられる
-73 -
1E-12
1E-13
347K
1E-14
up
down
330K
1E-15
0
100
200
300
400
500
600
Temperature (K)
Fig.5-7 Variation of the conductivity of specimen C70 with temperature.
( The numeral is the temperature of the inflection.)
1.0E-09
Conductivity (1/Ω・cm)
Conductivity (1/Ω・cm)
1E-11
1.0E-10
1.0E-11
1.0E-12
267K
1.0E-13
up
down
1.0E-14
0
100
200
300
400
Temperature (K)
500
Fig.5-8 Variation of the conductivity of specimen MF with temperature.
( The numeral is the temperature of the inflection.)
-74 -
600
5.3. 1.4 試料 SWNT
Fig.5-9 に温度に対する単層ナノチューブ(SWNT)の電気伝導率の変化を示す。単層ナ
ノチューブはその構造から導電性のπ結合を有しているため、フラーレン類に比べて桁違
い高い電気伝導率を示す。しかし、フラーレン類とは異なり、温度上昇に伴う電気伝導率
の増加は緩やかであり、500K での値は 300K に比べて約 1.5 倍でしかない。また、試料
C60 で観察されたヒステリシスも現れなかった。
5.3. 1.5 試料 C60Hx
Fig.5-10 にC60 を水素化した試料C60Hx の電気伝導率の温度に対する変化を示す。電気
伝導率は、試料C60 やC70 に比べて高温の 373Kから急激に増加したが、ヒステリシスはほ
とんど観察されなかった。C60、C70 、MFおよびC60Hxの4つの試料の電気導電率の温度
に対する変化を比較すると、立体障害の無いフラーレンC60のみにおいてヒステリシスが
現れると考えられる。
また、電気伝導率が急増する温度が、C60、C70、C60Hxに対して、それぞれ 296K、330K、
373Kであることを考えると、立体障害により分子回転が困難となる物質において電気伝導
率が高くなる温度が高温にシフトすると考えられる。なお、フラーレンC60とC70が混在す
る試料MFでは、試料C60 よりも低温の 267Kから電気伝導率が急増したが、この原因につ
いては解明することができなかった。
5.3.1.6 試料 PCBM
Fig.5-11 に Phenyl C61-butyric acid methyl ester (試料 PCBM)の電気伝導率の温度に対す
る変化を示す。なお、本試料ではペレットの成型のためプレス圧を 1.25GPa にした。この
試料では、電気伝導率は 381K から上昇し、本章で使用した試料の中で最も高温であるこ
とが分かった。また、電気伝導率の値も試料 C60 に比べて低かった。試料 PCBM は官能
基を付加しているため、立体障害が大きくなっており、前述の立体障害による分子回転の
阻害の効果によると説明できる。
-75 -
0.3
Conductivity (1/Ω.cm)
0.25
0.2
0.15
0.1
up
down
0.05
0
0
100
200
300
400
500
600
Temperature (K)
Fig.5-9 Variation of the conductivity of crystalline SWNT with temperature.
( The numeral is the temperature of the inflection.)
Conductivity (1/Ω・cm)
1E-11
1E-12
1E-13
373K
up
down
1E-14
1E-15
0
100
200
300
400
500
Temperature (K)
Fig.5-10 Variation of the conductivity of crystalline hydrogenation C60 specimen
with temperature. ( The numeral is the temperature of the inflection.)
-76 -
600
Condutivity(1/Ω・cm)
1E-14
1E-15
381K
1E-16
up
down
1E-17
0
100
200
300
400
500
600
Temperture(K)
Fig.5-11 Variation of the conductivity of crystalline PCBM specimen with temperature.
( The numeral is the temperature of the inflection.)
5.3.2 電気導電率測定におけるヒステリシスが発生する要因の解析
フラーレンC60 のみが高温域における電気伝導率にヒステリシスが現れる原因を解析
するため、DSC と高温 X 線回折により解析を試みた。該当する温度付近で測定した DSC
の結果を Fig. 5-12 に示す。測定結果から、試料 MF の方が C70 よりも低温で変化するこ
とが分かり、この傾向は電気導電率の変化が始まる温度と同じ傾向を示した。しかし、
C60 では電気導電率の変化に対応する熱挙動が現れず、DSC 測定からはヒステリシスの
原因を解明することができなかった。一方、XRD の測定は常温で測定後、昇温し 100、
150、200、230℃の各温度で測定した後、200、150、100℃と降温したときの結果を、C60
は Fig.5-13、MF は Fig.5-14 に示す。C60 は各温度による差異は認められなかった。MF
は、230℃で結晶が微結晶化し、降温においてもその影響は残ったが、ヒステリシスの
原因解明には至らなかった。
-77 -
100
90
DSC(mW)
80
70
60
50
40
30
20
C60
MF
C70
10
0
0
100
200
300
Temp(℃)
400
500
Fig.5-12 DSC results for specimens C60, MF and C70 under argon atmosphere.
-78 -
10000
100℃
Intensity
150℃
200℃
5000
230℃
200℃
150℃
100℃
25℃
0
10
20
30
2θ /deg
Fig.5-13 XRD patterns of C60 in the rising and falling temperature.
(The numeral is a temperature.)
-79 -
4000
100℃
150℃
Intensity
200℃
230℃
2000
200℃
150℃
100℃
25℃
0
10
20
30
2θ /deg
Fig.5-14 XRD patterns of MF in the rising and falling temperature.
(The numeral is a temperature.)
5.3.3 活性化エネルギー
領域Ⅰ(350-400K)及び領域Ⅱ(450-500K)の温度範囲における活性化エネルギーを
次の Arrhenius の式より算出した。
σ=σ0×exp(-Ea / KT)
ここで、σ:電気伝導率、σ0:基準電気伝導率、K:ボルツマン定数を表す。試料C60 に
対する結果をFig.5-15 に示した。また、各試料に対する活性化エネルギーの値をTable 5-2
に示す。
活性化エネルギーの値は、領域Ⅰでは試料 C60 が C70 より小さく、MF が三者の比較で
-80 -
は最も小さい。この原因を解明するには至らなかったが、MF の活性化エネルギーが C60
より低い値を示す傾向は、第 3 章で述べた熱安定性が C60 より低いことと一致しており、
C60、C70 及び高次フラーレンの相互作用に起因すると推定した。また、領域Ⅱでは立体
障害が大きいものほど、活性化エネルギーが大きいことが分かった。
Conductivity(1/Ω・cm)
1E-12
y = 0.0003e
-601.81x
-572.22x
y = 1E-05e
1E-13
C60up
C60down
1E-14
1/KT(1/meV)
Fig.5-15 Activation energies for specimen C60 between 350 and 400K.
Table 5-2 Activation energies
領域① (meV)
領域② (meV)
(350-400K)
(450-500K)
up
down
up
down
C60
572
602
722
731
MF
470
464
701
669
C70
610
630
-
-
C60Hx
-
-
896
908
794
819
PCBM
-81 -
4.結論
フラーレン類のペレット成型サンプルを用いた電気抵抗測定より、次の結論を得た。
1)ペレット成型による電気抵抗測定は、蒸着による薄膜法に比較して構造や組成変化
に影響されずに測定可能である。
2)C60 や C70 ペレット試料の電気伝導率は 試料の結晶構造と分子配向に依存する。
3)400-450K 前後において C60 は分子の高速回転は試料の電気伝導率にヒステリシス
を起こす。MF も同様にヒステリシスを起こす。
4)C70 や官能基のついた C60Hx、PCBM 及びナノチューブは、電気伝導率にヒステリ
シスを起こさない。ヒステリシスは、C60 に特有な現象である。
5)電気伝導率の上昇する温度は、回転しにくい、つまり立体障害が大きいものほど、
高温側へシフトする。また、活性化エネルギーも、立体障害が大きいものほど大きく
なる。
-82 -
参考文献
1) 大澤映二,化学, 25, 850 (1970)
2) H.W.Kroto, J.R.Heath, S.C.O’Brien, R.F.Curl and R.E.Smalley, Nature, 318, 162 (1985)
3) W.Kratschmer, L.D.Lamb, K.Fostiropoulos and D.R.Huffman, Nature, 347, 354 (1990)
4) 篠原久典,齋藤弥八,フラーレンの化学と物理,pp.122 ,名古屋大学出版会(1997)
5) T.Arai,Y.Murakami,H.Suemtu,K.Kikuchi,Y.Achiba and I.Ikemoto , Solid State Comm.,
84,827(1992)
6)J.Mort et al., Chem.Phys.Lett., 186,284(1992)
7) J.Mort et al., Appl.Phys.Lett., 60,1735(1992)
-83 -
第6章 結論と今後の課題
フラーレンを工業材料として応用するため、混合フラーレンMFの特性をC60やC70
および他の炭素材料と対比しながら研究し、以下の事項を明らかにした。
第2章では、各試料の組成や純度を確認することが重要であるため、高速液体クロ
マトグラフィーによりフラーレンの含有率を測定し、C60はフラーレンC60が99.6%の
純度であり、MFはC60およびC70が主成分であることを確認した。また、元素分析など
から、C60、MFは灰分が少なく、炭素含有率が高く、高純度の炭素材料であることを
確認した。さらに、走査型電子顕微鏡による形態観察とX線回折による結晶構造解析
などから、試料C60は結晶性が高く、MFは微結晶の凝集体との結論に至った。なお、
試料MFはC60由来の結晶は確認できたが、同じく主成分であるC70が含まれているが、
X線回折からはC70の結晶が確認できなかった。また、MFは粉砕により結晶構造が変
化しないことを確認した。窒素吸着による比表面積測定では、MFの比表面積はC60
と同様に小さく、FBやカーボンラックよりはるかに小さい。
今後の課題としてはMFの結晶化における、C60以外の高次フラーレンの含有率と結
晶構造の変化について検討の必要がある。
第3章では、熱的特性の解析として、TG-DTAにより空気雰囲気下及び窒素雰囲気
下にて加熱昇温により測定し、窒素雰囲気下で標準カーボンブラックは昇華しないが、
フラーレン類は、C60はMFより低温でほほ完全に昇華し、MFは一部昇華しないこと
を見出した。また、C60は酸化反応に対しては、高次のフラーレンを含むMFより酸化
開始温度が高く、熱的に安定であることも実証した。消防法に基づく「小ガス炎着火
試験」に準じた燃焼試験から、MFとFBはともに着火するが、10秒間以上燃焼が継続
しないことから消防法の可燃性固体には該当しないことを明らかにした。さらに、危
険物輸送国連勧告に準じた燃焼速度試験から、MFとFBは規定値よりも燃焼速度が遅
く可燃性物質には該当せず、またMF、FBを微粉砕した試料も可燃性物質には該当し
ないことを立証した。
これにより、危険物でないため、使用や保管の制限がなく、応用展開に制限を受け
ない。また、燃焼性があることと比表面積と結晶構造が類似な点を利用して、花火等
の日本古来の伝統芸術品である、
「線香花火」の原料の松煙の代替品としての可能性が
ある。
空気雰囲気下で所定の温度で加熱保持した等温酸化反応では、C60、MFの両試料で
は、温度とともに燃焼速度は速くなるが、400℃では試料MFの方が高い酸化速度を示
- 84 -
し、C60の方が熱的に安定であることから、昇温反応の結果と一致することも確認し
た。また、固体表面での酸化反応に対して、気相の酸素が生成物中を拡散して反応し、
反応界面が粒子内部へ移動する反応機構モデルを想定し、燃焼メカニズムの解明を試
みた。固体粒子を球状と仮定し、ガス境膜内拡散、生成物層内拡散、未反応核表面で
の反応による気固反応モデルによる解析から、試料により律速段階が異なることが判
明した。すなわち、C60の燃焼は表面反応律速であり、MFとFBは生成物層内拡散が
律速であり、標準カーボンブラック(IRB#7)はガス境膜拡散が律速であることを解
明した。
第4章では、フラーレンの添加による機械的特性の改善効果を解析するため、ウレ
タン系エラストマーにフラーレンを添加した複合材料を調製し、フラーレン添加量に
対する機械的強度の変化を研究した。
その結果、数百ppm程度のフラーレン添加により、機械的強度が向上することを明
らかにした。この値は、数%~数10%というカーボンブラック等の補強材の添加量
に比べて著しく低い。また、数百ppm程度のフラーレン添加では、成形性や加工性の
低下しないことが予想され、省資源という環境に優しい有用な工業材料と言える。
フラーレンの添加方法もドライブレンドにて充分特性を発揮するので、工業化の可
能性が十分に考えられる。
今後は、その効果のメカニズムを解析することにより、更に少量(分子オーダー)かつ
有効な添加方法と他物質への応用展開につき研究を進める必要性がある。
一方、フラーレン類似炭素FBのウレタン系エラストマーへの添加も、カーボンブラ
ックより少量にて機械的強度改善に効果があること、および可塑性エラストマー(S
BS)への添加にて、酸化劣化抑制効果があることより工業用材料として有用となり
うる。
第5章では、フラーレンの電気的特性の解析として蒸着時の組成変化や劣化が問題
であった薄膜法に代わる方法として、ペレットを用いる測定手法を確立し、電気特性
を研究した。その結果、C60やC70を用いたペレット試料の電気伝導率は試料の結晶構
造と分子配向に依存することが分かった。また、400~450Kにおいて、C60 とMFは
電気伝導率にヒステリシスが観察されるが、C70や官能基のついたC60、PCBM及びナ
ノチューブではヒステリシスがないことを見出した。これは、回転のし易さに影響を
受けるものと推定する。ヒステリシス発生現象の解明のため、DSCと高温XRDによる
解析を試みたが、解明には至らなかった。今後は、精度の高いSpring8等によ
る解析が必要である。
- 85 -
また、電気伝導率の上昇する温度は、回転しにくい、つまり立体障害が大きいものほ
ど、高温側へシフトする。また、活性化エネルギーも、立体障害が大きいものほど大き
くなることを見出した。これらの結果より電気伝導率の急激な上昇と回転の高速化は、
電波吸収体への応用の可能性がある。
- 86 -
謝辞
本研究を行うにあたり、入学時より御指導いただきました、九州工業大学大学院工学
研究科 中村英嗣先生(元助教授)と中村先生退官後、お引き受けいただき、本論文をま
とめるにあたり、懇切丁寧に御指導、御助言賜りました九州工業大学・松永守央先生(教
授)に深く感謝致します。
本論文提出にあたり審査戴いた、九州工業大学・山崎二郎先生(教授)、同・増山不二光
先生(教授)、同・清水陽一先生(教授)、同・津留豊先生(准教授)に心から感謝申し上げま
す。
また、共同研究として御指導戴き、且つ本論文の執筆にあたり適切な御教示、御助言を
賜りました、九州工業大学・孫勇先生(准教授)と同じく共同研究として各種サンプルや
データの提供ならびに学会投稿で御指導戴きました愛知工業大学・山田英介先生(教授)
に心から感謝致します。
そして、研究パートナーとしてお手伝いやデータ採取に協力して戴いた九州工業大学大
学院2年生の河野 剛さんに心から感謝します。
加えて、共同研究で御尽力戴いた日東化工株式会社・曽根一祐氏、社会人入学を後押し
いただいた帝人株式会社・友納茂樹氏(元フロンティアカーボン㈱社長)、何かと相談に対
し適切なアドバイスを戴いた三菱樹脂株式会社・村山英樹氏(前フロンティアカーボン㈱)、
三菱化学株式会社・末村耕二氏(前フロンティアカーボン㈱)、ならびにフロンティアカー
ボン株式会社の各位に心から感謝します。
最後に、4年の長い間、暖かく見守ってくれた妻の髙倉由紀子にも心から感謝します。
平成21年2月
髙倉 剛
- 87 -