平成 18 年度内閣府経済社会総合研究所 イノベーション国際共同研究プロジェクト 社会イノベーション研究会「Social Enterprise / Social Entrepreneurship 関連文献レビュー集」より “Social Entrepreneurship: a Different Model?” (「ソーシャル・アントレプレナーシップ―特異なモデルか否か」 ) By Roger Spear International Journal of Social Economics, Vol.33, No.5/6, 2006, pp.399-410, Emerald Group Publishing Limited <要約> 東京工業大学ノンプロフィットマネジメントコース 水野雅男 ■目的:経済的起業家と社会起業家の両方を対象とした分析の枠組みを開発すること。 ■方法論:枠組みは、時々無視される集合(複数)の起業家の次元を適合させるためのも の。社会起業家の定義を採用するための行動に関する研究方法である。それは、社会的 企業(協同の co-operative、互恵の mutual、慈善的な voluntary 組織)に焦点を当てている。 この論文は、UK の実業部門における社会的企業に関するいくつかのケーススタディを基 礎として、概念的な枠組みを開発している。 ■発見された結果:従来の中小企業と対照的な起業家に関する興味深いモデルを提示する 小規模の研究を構築した。 ■研究の限界と示唆:従来の起業家研究への示唆と同時に、社会起業家の新しい分野を切 り開くための基礎を創造した。 ■実証的示唆:社会起業家へのより効果的な支援に関する政策上の示唆を提示した。 ■独自性:政策立案や研究のために、社会起業家における重要な要因を確立した。 ■キーワード:企業の社会的責任 Corporate social responsibility、起業家理論 Entrepreneurialism、 協同組合組織 Co-operative organizations ■論文形式:研究論文 1.序論 ◇従来の起業家に関する研究 1980 年代は起業家に関する研究が大きく成長した。その大部分は、中小企業(SMEs: small and medium enterprises)の研究であり、新規開業や事業展開の経済的な側面に偏っていた。 これらに比べてずっと狭い範囲ではあったが、社会的かつ公共的な起業に関する研究もあ った。この分野の文献は、学問分野やテーマにおいて、かなりの多様性が見られる。Babson 会議は、一部は学問分野に、一部は実証的カテゴリーに属しているものの、25 分野にわた ると指摘している。。 この論文は、中小企業とは異なる制度上の形態、特に社会的企業の制度上の形態(協同 組合 co-operatives、共済組合 mutuals、非営利組織 not-for-profits)について論じている。ふ たつの分野(協同組合 co-operatives と中小企業 SMEs)には強い相似性があると理解されて いるが、実際には大きな差異がある。本研究は、収集された実験データ分析の理論的な基 340 平成 18 年度内閣府経済社会総合研究所 イノベーション国際共同研究プロジェクト 社会イノベーション研究会「Social Enterprise / Social Entrepreneurship 関連文献レビュー集」より 礎を構築するために、非営利組織や社会的企業から起業家に関する研究論文の方法を引用 している。個人的な起業家に関する従来の一般的なモデルと起業家の行動に関する制度上 の焦点には大きな違いがある。起業家の社会的な重要性は、組織構成や操業において、社 会あるいはコミュニティの目標を達成する範囲の研究によって確かめられている。研究方 法は、協同部門(co-operative sector)における社会起業家の特徴を明らかにしようと試みて いる。 ◇協同組合と社会的経済部門 協同組合(共済組合や任意団体、非営利組織とともに)は、社会的経済の一部分であり、 先進国の経済においては重要な役割を担っている。同時に、多くの発展途上国においても 重要であり、全世界に 7 億以上の協同事業者(co-operators)がいる。社会起業家は、商業 的な株式会社部門とは異なるいくつかの特徴を持つ。CECOP26は、労働者の買収や会社分割 も含め、協同組合設立モデルを 5 つの類型に分類した。協会組織は、起業の過程で重要な 役割を担っている。 イタリアでは、過去 20 年間社会的協同組合は地方の協同組合共同体の支援なしでは成長 しなかった。UK やスウェーデンでは、協同組合開発組織(CDA)27が労働者協同組合を創 り上げてきた。このような起業支援の制度形態は、従来のいくつもの欠陥を補ってきた。 ◇社会的経済部門の研究 社会的経済部門(協同組合、共済組合、コミュニティビジネス、任意団体、非営利組織) は、数多くの先進国経済において重要な役割を担っている。欧州諸国の雇用の 3.3〜16.6% を占めているが、この部門を対象とした研究は少ない。その穴埋めをし、起業家論研究の 本道を形成するのが研究の目的である。 社会的企業部門など組織群の開発に密接に関連する、要因間の 3 つの相互作用の組み合 わせが一般的な研究手法である。需要側の要因(社会的企業からのサービスを望む顧客)、 供給側の要因(起業家の輩出)、両者の関係に影響を及ぼす文脈的、制度上の要因(制度上 の形態を選択することにも影響を及ぼす)。これは、起業の過程に影響するいくつかの要因 を分類するのに便利だが、研究の焦点は起業の過程の原動力となる供給側との文脈的要因 にある。しかし、本研究は社会起業家の輩出に関する要因には深く分析しない。 ◇本研究の概要 ・この 3〜20 年に創設された 6 つの協同組合組織(ロンドンとイングランド南東部の異な る部門、規模の組織)のケーススタディ。 ・起業の過程を中心としてインタビュー調査を行い、テーマごとに分析した。異なるいく つかの部門を対象に、いくつかの起業家論を開発しようとしている。 26 欧州労協連(欧州労働者協同組合・社会的協同組合・労働者参加企業総連合)の略。Confederation Europeenne des Cooperatives de Travail Associe, des Cooperatives Sociales et des Entreprises Sociales et Participatives(仏) 。 http://www.cecop.coop 27 Co-operative Development Agency の略。協同組合や社会的企業、コミュニティビジネスの起業 と経営支援を行う支援組織。 341 平成 18 年度内閣府経済社会総合研究所 イノベーション国際共同研究プロジェクト 社会イノベーション研究会「Social Enterprise / Social Entrepreneurship 関連文献レビュー集」より ・起業に影響を及ぼすもの(協同組合の起源、起業家の動機、社会的企業の原型、ソーシ ャル・キャピタル、学習と成果)を検証した。ソーシャル・キャピタルは、社会的経済に おいて重要な資産であり、起業の過程における公式・非公式な支援構造も重要な役割を果 たすと仮定した。学習と知識管理に関する研究手法は、技術情報をどのように得られたか を理解する上で重要であり、その要因は成功の鍵を握っている。 ・異なる国家や部門の社会的企業の計測しにくい定性的なデータを開発(分析)すること の一翼を担う。 2.社会的企業の起源と起業家の動機 Origins of the social enterprise and entrepreneur motivations FT:連邦の自然食品協同組合のグループの支援が牽引力となって、起業イニシアティブ を形成し、一種の事業合併のような形で起業家を連携させた。中心となった起業家たちの 動機が協同組合形態に前向きだったし、両者とも独立性を求めていた。 VS:2 人の男性が中心的に関わり、家族と CDA(労働者が起業時の戦略的視野と専門知 識を与えた)が外部から支援した。 CS:自分たちの仕事を確保するために、競争入札で公共企業を買収した。 TR:労働者は南米の避難民、協同組合を組織することを切望していた。 LS:公共部門組織を従業員が買収、私企業でなく社会的企業の形での民営化である。 (CS も同様) CC:協同組合の組織構造をもちながら、非営利団体として組織し、社会的活動のための 助成金に定期的に応募している。 ・1 人の起業家の家族の歴史の中に起業経験があるだけだが、自発的な事例では個人の歴 史の中の小さな事業の経験が重要。 ・自発的な事例では、趣味や自営からの明確な転換が図られている。 ・動機はきわめて多様。制度的な構成の選択も半分の事例は外的な影響を受けているし、 法律家などの専門家からアドバイスを受けて折り合いをつけている。 ・ほとんどの事例で、CDA や家族、連邦政府のような外部の利害関係者から支援を受け ている。 ・半分の事例は非自発的、小規模企業部門の典型というよりも、協同組合をより象徴す る。ビジネスや社会的パフォーマンスにおいて高水準の革新を行う起業家的な姿勢が 現れている。公共部門の制約から解放された独立した経営者は、大きなイニシアティ ブ(主導力)と起業家的能力を発揮する。 3.革新 Innovation Schumpeter は、起業家論を革新と結びつけ、さまざまな面で企業化が確信と創造的破壊 を起こす、としている。Casson(1982)は、高次と低次の起業家論を区別している。 342 平成 18 年度内閣府経済社会総合研究所 イノベーション国際共同研究プロジェクト 社会イノベーション研究会「Social Enterprise / Social Entrepreneurship 関連文献レビュー集」より 革新の度合いは研究にとって興味深いが、必要不可欠なものではない。これらの事例で は、高次の革新はないが、いくつかの革新エピソードがあった。 4.起業家論モデル Models of entrepreneurship 事例研究では、起業家を「英雄的な」個人とみる一般的視点と対比すると、社会起業家 の集団的性格は協同組合事業において卓越している。集団的イニシアティブを持っている と、協同組合という組織体制を選びやすいというのは明白だが、中核的なマネジャーは個 人的に起業家的であるということも十分考えられる。協働、連携、リーダーと支援者、チ ームなど、起業家のより集団的な形態が見られた。 5.外部からの支援とソーシャル・キャピタル External support and social capital いくつかの事例では、外部のグループや協会が起業家構造において重要な役割を担って いる。焦点となる組織の周囲に起業家仲間(サークル)が構成され、起業家が中心的な役 割を果たすが外部の利害関係者も必要に応じてその中央に包含される。起業家への支援と は、資源、専門家の意見、ソーシャル・キャピタルなどの提供である。 外部の利害関係者は、制度上の形態を選考する際に重要な役割を担ったり、できる限り の時間を起業行動に注入したり、戦略的な見解を持ち込んだり、様々である。 6.学習 Leaning 特別な学習環境というものは見られなかったが、様々な方法が採られており、経営上大 きく 2 つの局面で学習が行われている。ビジネスに好意的な顧客と連携するとき、協同組 合の構造はこの顧客の好意に基づくアプローチの一助となる。もう一つは、政治家や地方 政府職員、連邦の機関などの支援をとおしてである。ふたつの事例では家族も多大な支援 をしていることに言及されている。さらに、3 つの事例では、CDA が学習の基盤やアドバ イス、専門知識を与えているが、専門家のアドバイスを欠くとの批判もある。 7.訓練と成果 Lessons and outcomes 4 つの事例では、強い社会的な志向性(参加を促し、搾取的でない)を持っていた。 雇用の確保などの安定的なビジネスが成功と捉えられる事例もあるが、CS は起業家の能 力を開発することはなかった。しかし、残り 2 つの事例では公共部門の制約から解放され た後、著しい成長と質の高い成果(変革)をあげることができた。 FT は、極めて優れた成功を収めたが、競合部門が増加したことにより減収し失敗(倒産) した。 8.結論 従来の中小企業のモデルと対比できる起業家の興味深いモデルを導き出した。 343 平成 18 年度内閣府経済社会総合研究所 イノベーション国際共同研究プロジェクト 社会イノベーション研究会「Social Enterprise / Social Entrepreneurship 関連文献レビュー集」より ・動機は多様だが、観念上の志向性を持つ。 ・制度上の選考は必ずしも合理的ではないが、専門家や支援機構からのアドバイスで 折り合いをつけている。 ・すべての事例(特に、公共部門から民間部門へ移行した非自発的事業)において、 組織形態の移行が見られる。 ・ある限られた変革が行われているが、組織を構成する段階では必ずしも必要ではない。 ・どの起業家も「英雄的個人型」ではなく、リーダーと支援者、あるいはチームなどの 協働を形作っている。 ・組織内の起業家が演ずる役割と、外部の利害関係者によって構成されるより広範囲な グループからなる起業家行動の仲間「起業家構造」を持つ。 ・より広範囲の支援をとおしてソーシャル・キャピタルが活用され、その外部とやりと りが行われていた。 ・学習のネットワークや環境は予想したほど開発されていなかった。しかし、ふだんの 交易関係にあるソーシャル・キャピタルや好意的な利害関係者に大きく依存している。 これらの知見は、社会的企業(協同組合、共済組合や慈善的な組織)の研究に貢献でき るし、中小企業の起業家に関する経験的な研究において、より集団的で分類された視点を 提供する。 以上 344 合併? 独立性とnon-expl. 慈善/顧客スポンサー 慈善 アングロサクソン 中級・急進派 男性/女性 起源 動機 慈善/非慈善 民族性 階級/指向 性別 1994 協同組合 + ビジネス 協同組合 + ビジネス 公共部門の同じ事業 政策的/マネジャー 以前の事業 起業家の役割 機能的差別化 相互に 美味しい食事? 成長し創業者の離脱→失敗 18人 1.75百万 学習 社会的重要性 成果 従業員数 売上高(ポンド) 事業の安定 経済的な成功 55千 900千 正規4-5人+パート8-9人 17人 50千 4百万 パート2人+協力者5-6人 正規120人+パート200人 安定と満足感 品質と効用 品質(貧困な住民) 避難民の救済 CDA CDA,他の中小企業 雇用の確保 CDA,協議会 政策的/リーダー 公共部門の同じ事業 CDA,顧客,ビジネス指導者 相互に 家族,CDA リーダー/支援者 自営の同じ事業 チーム 訓練されたアジアのビデオ専門家 外部の支援/起業家の 連邦政府,出資者/顧 CDA,キーパーソン,家 TU,都市,CDA,顧客 役割/社会関係資本 客 族 外交/内部への働き 連携 4人のマネジャーの階層化 リーダー/支援者 2人の協働 従業員持株型 男性2 (女性1) 下級/中級 政策的受諾 共同参加 非慈善 雇用の確保 地方公的機関の閉鎖後 1986 成長と変革 女性の雇用復帰 ビジネス指導者 協議会,出資者,ビジネ ス指導者 機能的? 公共部門の同じ事業 2人の協働 自己運営 非営利団体 女性2 下級 アングロ + カリブ? アングロサクソン 非慈善 PS push fin.probs CDAの援助要請 男性2 中級 南米 慈善 調整とサービス 公共部門の買収 1993 協同組合/従業員持株型 協同組合(家族) 起業家モデル 顧客の選択/スタッフの巻き込み 協同組合 出資者/起業家の選択 組織類型 協同組合 男性4 労働/中級・慣習的 アングロサクソン 非慈善 雇用の確保 選択理由 男性2 (女性1) 中級ビジネス アジア 金儲け 公式/非公式 1994 CS-computer services TR-trans in services LS-leisure services CC-childcare sevices 非公式的な新しい始業 公共部門の買収 1994 1980-1996 創業 VS-video services FT-food transport Factor/case 平成 18 年度内閣府経済社会総合研究所 イノベーション国際共同研究プロジェクト 社会イノベーション研究会「Social Enterprise / Social Entrepreneurship 関連文献レビュー集」より 表1 345
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