中国新聞広島制作センターの建築・設備計画

―― 実 施 例 ――
中国新聞広島制作センターの建築・設備計画
鹿島建設ñ 建築設計本部設備設計総括グループ 伊 藤 健
■キーワード/新聞印刷工場・氷蓄熱
構 造 柱SRC・梁S造
1.はじめに
階 数 地上4階
中国新聞広島制作センターは,中国新聞社が安芸の宮
工 期 平成16年1月∼平成17年10月
島にほど近いチチヤスハイパーク内に建設した新聞印刷
全体配置は図−1のようになっており,工場棟・メデ
工場で,世界最速のシャフトレス輪転機4セットを実装
ィアプラザ棟から構成される。蓄熱槽は屋外に設置し,
し,最新のニュースをいち早く紙面にて読者へ届けるこ
中国新聞のマスコットキャラクター「ちゅーピー」の外
とを可能としている。
装を施すことにより,サイン計画上の役割も担っている
敷地内にはイベント・展示などの文化交流に使われる
(写真−2)
。
メディアプラザも建設,ふれあい広場と合わせ,地域に
開放された「ちゅーピーパーク」を形成している。
(写
真−1)
LPGバルク
2.建物概要
B
将来増築スペース
2−1 建築概要
建物名称 中国新聞広島制作センター
チチヤスプール
建 築 主 ñ中国新聞社
設計監理 鹿島建設ñ
建築設計本部
施 工 鹿島建設ñ
広島支店
工場棟
A
所 在 地 広島県廿日市市大野
見学者ギャラリー
蓄熱槽
調整池
ふれあい広場
用 途 新聞印刷工場
N
敷地面積 64,051.25fl
建築面積 07,953.55fl
延床面積 16,623.43fl
図−1 全体配置
写真−1 全景
ヒートポンプとその応用 2006.3.No.69
A
―2―
メディア
プラザ棟
B
―― 実 施 例 ――
各階平面および断面図を図−2に示す。
1 階 巻取り紙搬入,立体紙庫,輪転機給紙部,
トラックヤード
2 階 輪転機印刷部,製版,発送仕分
3階∼4階 熱源・コンプレッサ・空調機械室
なお,工場南側は事務厚生ゾーンとなっている。
2−2 設備概要
受
変
電 特 別 高 圧 22kV
(本線予備電源方式)
特高変圧器 22kV/6.6kV
5,000kVA×2
予 備 電 源 発電機(防災,保安),UPS,蓄電池
写真−2 蓄熱槽
防 災 自火報,非常照明,誘導灯
空調
機械室 製版室
輪転機印刷部
空調
機械室
発送仕分
空調
機械室
屋外設備
スペース
立体紙庫
事務厚生
ゾーン
2階平面図
4階平面図
B
巻
取
り
紙
搬
入
輪
転
機
制
御
盤
室
輪転機給紙部
A
立体紙庫
輪
転
機
制
御
盤
室
空
調
機
械
室
特高
電気室
トラック
ヤード
屋外設備
スペース
熱源
機械室 電気室
コンプ
レッサ室
A
立体紙庫
ボイラ 電気室
室
見学者ギャラリー
屋外設備
スペース
事務厚生
ゾーン
蓄熱槽
B
3階平面図
1階平面図
7
7
6
6
5
4
空調機械室
空調機械室
コンプレッサ室
熱源機械室
電気室
チチヤス
プール
輪転機印刷部
5
立体紙庫
輪転機給紙部
4
3
3
2
2
1
1
トラックヤード
A−A断面図
将来増築スペース
輪転機印刷部
見学者
ギャラリー
輪転機給紙部
B−B断面図
図−2 各階平面図・断面図
―3―
ヒートポンプとその応用 2006.
3.
No.69
―― 実 施 例 ――
機 乗用,人荷用
生し,印刷工程に影響を与えることとなる。また,印刷
給 水 受水槽+加圧ポンプ方式
時には輪転機駆動部からの多大な機器発熱と湿し水(オ
給 湯 セントラル方式,個別方式
フセット印刷では,水と油の化学的性質を利用し版から
消 火 屋内消火栓,屋外消火栓
紙へ転写を行う)が消費されることによる潜熱負荷が発
冷
生する。
昇
降
熱
源 ターボ冷凍機(インバータ)
複数の印刷ユニットから構成される輪転機は全長約
ブラインターボ冷凍機+STL蓄熱槽
※
(ESS 蓄熱受託事業)
温
熱
24m,高さ約15m(給紙部含む)といった大きさであり,
源 小型貫流ボイラ(プロパンガス)
上下の温度分布,ユニット間の気流分布について配慮す
空 調 空調機 空気熱源ヒートポンプエアコン
る必要がある。
(ビルマルチ)
新聞印刷工場の空調負荷は印刷速度(部数)
に大きな影
生産用冷却水 インキローラー冷却水ポンプ 熱交換器
響を受け,基本的に年間冷房であり,暖房負荷は冬期の
圧 縮 空 気 水冷コンプレッサ
非印刷時間帯のみとなる。本工場では朝刊・夕刊の印刷
排 水 処 理 生活系,生産系
を行い,負荷のピークは朝刊印刷を行う深夜となるが,
※ESS:ñエネルギア・ソリューション・アンド・サービス
ピーク負荷対応だけではなく,低負荷時にも効率良く負
荷を処理することを考慮しなければならない。電力デマ
3.空調設備計画
ンドにおいても,新聞印刷時に突出することとなり,設
3−1 計画概要
備機器によるデマンド抑制を行うことも大きな意味を持
つこととなる。
空調設備計画を進めるうえで,以下の点について特に
地域へ情報を発信する新聞印刷工場の性格上,設備機
留意する必要があった。
・温湿度管理
器はもとより,
建物本体,インフラを含めた信頼性の確保
・輪転機まわりの気流分布
は重要であり,空調計画にも十分な配慮が必要となる。
・省エネルギー
3−2 熱源設備
・電力デマンド抑制
本建物の冷熱源は蓄熱受託制度を利用。ESSにより機
・信頼性の確保
器設置・システム運用・保守管理が行われることとなっ
新聞印刷に用いられる巻取り紙は,適切に温湿度管理
ている。蓄熱受託制度については相当数の活用実績もあ
された状態で保管されなくてはならない。管理状態が不
り,制度の詳細については省略するが,初期投資額の低
行き届きな場合,高湿によるシワや低湿による断紙が発
減はもとより,詳細な運転実績データの収集および解析
インキローラー系統
膨張タンク
C
CR
インキローラー
(輪転機)
INV
PC-8,9,10
(水−水)
C
C
HEX-2 熱交換器
CR
CR
C
H
AHU
4F東機械室系統
CR
HR
C
H
AHU 2F 機械室/
4F西機械室系統
CR
HR
C
H
AHU
1F機械室系統
CR
HR
冷水系統
膨張タンク
AHU
1F制御盤室系統
温水系統
膨張タンク
CH-1
PC-4,5,6,7
INV
PH-1,2
CHS-1
CHR-1
CR
C
C
H
S
冷水ポンプ
(1台予備)
PC-2-1 INV
S
PC-2-2
HEX-3 熱交換器
給湯 (蒸気−水)
加湿
SH-1
T
T
HEX-4 熱交換器
PB-1
冷水ターボ冷凍機
(インバータ)
SR
BR
THW-2 ホットウエルタンク
ブラインターボ冷凍機
SRP-1-1
T
SRP-1-2
SR
THW-3 ホットウエルタンク
ヒートポンプとその応用 2006.3.No.69
冷却水ポンプ
PCD-2
CT-1 冷却塔
SRP-2-1
図−3 熱源まわり配管フロー
SR
(蒸気−水)
THW-1
ホットウエルタンク
T
CT-2 冷却塔
冷水ポンプ
(1台予備)INV
PC-1-1
PC-1-2 HEX-1 熱交換器(ブライン−水)
PH-2-1
ボイラ
B B B-1,2
INV
冷却水ポンプ
PCD-2
CR
C
HR
SR
SRP-2-2
―4―
INV PB-2
ポンプ
(1台予備)
蓄熱槽
蓄熱槽
―― 実 施 例 ――
(図−4)。SAダクトおよび制気口配置にあたってはシミ
ュレーションを行い,温度・気流分布が良好であること
を確認して決定した。
3−5 信頼性の確保
新聞印刷工場の設備として「電力供給」
「圧縮空気の供
給」
「熱源供給」
「立体紙庫の温湿度」
「輪転機制御盤室の温
度」
に関連するものを優先して信頼性の確保をはかった。
インフラである電力に関しては,別変電所からの本線
予備電源特高受電,変圧器2バンクパララン方式などに
より対応。
写真−3 輪転機印刷場
冷凍機およびコンプレッサ冷却水は,雑用水槽として
1日分を貯留することとしている。
コンプレッサは水冷式としているため,立地条件を考
慮し密閉型冷却塔を採用している。また,冷却塔のバッ
SAダクト
RA
クアップは,空調系冷水からの冷却水取出用熱交換器を
AHU
設置し,圧縮空気供給停止による印刷停止リスクの低減
をはかっている。
電力,圧縮空気とは意味合いが異なるが,前述したよ
輪転機印刷部
うに,立体紙庫の温湿度管理については十分に留意する
必要がある。巻取り紙の搬入出時に外乱の影響を受けに
くくするために紙庫内を加圧する計画とし,空調機故障
図−4 輪転機印刷場空調ダクト
時の対応として他系統からのバックアップを行えるよう
による運転管理へのフィードバックや,定期的なメンテ
バイパスダクトを設置している。また輪転機への給電を
ナンスによる熱源システム全体での信頼性の向上など,
行う制御盤室系統は,50%能力×2台の空調機を設置
制度利用のメリットは十分なものと考えられる。
しているほか,制御盤室を通過する給紙系統SAダクト
システムの詳細はESSによる報告を参照願いたいが,
からの給気を可能とする計画としている。
印刷ピーク時間帯は高効率インバータターボ冷凍機をベ
4.おわりに
ースとし,一部放熱を行うことにより,デマンド抑制に
貢献。また,昼間の低負荷時に放熱運転を行い効率的に
本文では触れなかったが,本件では「森の中の工場」
冷熱を供給することが可能となっている。
をコンセプトにさまざまな取り組みもなされている。周
温熱源は小型貫流ボイラ2.0t×2台設置,燃料は
囲に溶け込むグリーンのアール屋根,杉板をあしらった
LPGとしている。ボイラで発生した蒸気は加湿用・空調
外壁,ふれあい広場の豊かな緑,環境学習の一環である
温熱源・給湯加熱源として供給される。
(図−3 熱源ま
ソーラー発電による池の噴水,風力発電を利用した時計
わり配管フロー参照)
台「風と時のモニュメント」,風力・太陽光によるハイ
3−3 空調設備
ブリット照明などがあげられる。これらは,環境配慮に
対する中国新聞社様の良きご理解により実現することが
工場棟の主要部分は空調機方式とし,厚生ゾーンは空
できたと考えている。
気熱源ヒートポンプエアコン
(ビルマルチ)による個別分
工場稼働後間もないこともあり,計測データにもとづ
散方式とした。空調機系統は,温湿度条件・運転時間・
いた設備の検証をすることができていないが,今後十分
機械室配置を考慮し以下のように決定した。
な検証を行い,工場の運用にフィードバックしていく予
紙庫系統(1台),給紙場系統(2台),開梱仕立系統
定である。
(1台),輪転機印刷場・発送系統(8台),製版室系統
また,本プロジェクトは設計開始から開発工事を含め,
(1台),輪転機制御盤室(2台)
3−4 輪転機印刷場の空調
建物完成・工場稼働まで約16カ月という短期間で完成
印刷場(写真−3)系統には8台の空調機を設置,低負
しており,中国新聞社様,施主コンサルの三菱商事様を
荷時は空調機4台を運転,ファンインバータ制御を行う
はじめとする各関係者のご指導・ご協力があってこそ成
ことにより搬送動力を低減し省エネルギーをはかってい
し遂げられたものであります。プロジェクトにかかわっ
る。また,印刷場に面して機械室を配置することにより,
てこられた多くの方に,この場をお借りして深くお礼申
ダクトルートを最短化し施工の省力化に寄与している
しあげます。
―5―
ヒートポンプとその応用 2006.
3.
No.69