公益財団法人大林財団 研究助成実施報告書 助成実施年度 2010 年度(平成 22 年度) 研究課題(タイトル) 全球気候モデルの出力データを用いた都市流域における水災害に関 する研究 研究者名※ 羅 平平 所属組織※ 京都大学・工学研究科・都市環境工学専攻 研究種別 奨励研究 研究分野 その他 助成金額 30 万円 概要 本研究では、まず、水文統計の手法で現在まで数十年間のの水文デ ータを解析し,都市渇水流域の水資源と水質の傾向を解明すること である。本研究の特色は、水文分型モデル(SWAT モデル)で日本の 都市流域に最初的な応用を始まり、将来の全球の気候変化を考慮し, 特に極端気象の影響で都市流域の水循環を再現することである。最 後に、全球気象モデル(GCM)のデータを SWAT モデルに導入し、都 市の土地利用の変化によって将来流域の水資源や水質の影響を予測 する。 発表論文等 ※研究者名、所属組織は申請当時の名称となります 1.研究の目的 (注)本様式を参考に、エクセル、CD-R で作成いただいても結構 です。 最後に、支出報告書がありますので、記入捺印のうえご提出 ください。 本研究では、まず、水文統計の手法で現在まで数十年間のの水文データを解析し,都市渇水流域の水資源 と水質の傾向を解明することである。本研究の特色は、水文分型モデル(SWAT モデル)で日本の都市流 域に最初的な応用を始まり、将来の全球の気候変化を考慮し,特に極端気象の影響で都市流域の水循環を 再現することである。最後に、全球気象モデル(GCM)のデータを SWAT モデルに導入し、都市の土地利 用の変化によって将来流域の水資源や水質の影響を予測する。 2.研究の経過 (注)必要なページ数をご使用ください。 本研究には、データの収集及び整理することが重要である。SWAT モデルは日本の都市流域に最初的な 応用であり、それに対して日本における流域の土壌と土地利用のデータベースを構築する必要がある。 また、SWAT モデルの入力情報とする気象データの格式を転換し、気象観測点の位置のデータベースを 組み立てる。本研究に使う 50 メトル標高数値データ(DEM)、100 メトル土地利用地図と 20 万分之一土 壌分布図が日本国土交通省のホームページからダウンロードされる。さらに、標高数値データ、土地利 用地図と土壌分布図は ArcGIS で 60 メトルに転換する。SWAT モデルの精度を向上するために、水文 モデルの校正と検証期の感度を分析する。最後に、20km の GCM データを使って将来の水循環を予測 し、土地利用の変化による水災害への影響も考察し、将来的な水災害に対する総合的な対策を検討する。 具体的に、研究の経過は以下のように述べている。 2011.4-2011.5 日本における対象流域のデータを収集し、SWAT モデルを改良する。 2011.6-2011.8 GCM データを収集して、モデルに対応するフォーマットに転換する。 2011.9-2012.10 GCM データを入力し、SWAT モデルで対象流域における将来の水資源を予測する。 2012.2-2012.3 モデルによって解析結果を分析し、レポートや論文としてとりまとめ、国際誌に投稿す る 3.研究の成果 (注)必要なページ数をご使用ください。 1.研究の準備 まず、図1.1 のように、間伐が流域の渇水と洪水に与える影響を明らかにし、その過程を表現できる SWAT モデル(図 1.2)を選択した。 図 1.1 間伐の渇水と洪水に与える影響 図 1.2 SWAT モデルでの水循環 2.1 森林整備前後における流量解析 本研究では、森林整備前後の葉面積、土壌体積含水率と透水係数を文献調査結果により設定した。そし て、SWAT-CUP プログラムで校正した SWAT モデルを用いて、2003 年~2008 年の月ごとと年の平 均変化及び三つの渇水期間における森林整備前後の変化を求めた。 年平均変化(図 2.3)については、流量が 2.65mm 増え、蒸発散量が 2.37mm 減るという結果を得た。ま た、貯留量変化が若干減る。月ごとの平均変化(図 2.4)については、2,3 月の以外に流量が増え、1 月から 3 月と 11 月の以外に蒸発散量が減る。これらの結果は平均値であり、渇水イベント毎の出水で は状況が変わっていくと考えられる。 図 2.3 整備前後の平均年差値 図 2.4 整備前後の平均月差値 本研究で、2003 年~2008 年における三つの渇水期間に分けて解析を行った。結果として、渇水期間中、 増加した流量は主に表面流出によるものであった。2005/6/15~2005/9/6、2007/5/24~2007/7/14 と 2008/7/25~2008/11/25 の 3 つの渇水期間の中で、2005 年と 2007 年の 2 つの渇水期間に、流量の増加 が見られるが、2008 年の渇水期間に流量が減少するという結果が出た。この理由として、SWAT モデ ルには、土壌からの蒸発散を計算するモジュールがあり、計算基準として葉面積指数を基にしており、 葉による影が覆う面積を考慮し、土壌蒸発散の計算を行う。2008 年の渇水期間には降雨量が少なく、間 伐後の土壌からの蒸発散量が多くなり、流出量が減ると考えられる。 図 2.5 2005 年と 2008 年の渇水期間の整備前後の差値 2.2 地球温暖化の河川流況への影響の解析 研究対象流域が小さな流域なので、現在 GCM データの中で最も良い解像度の GCM20 データを用い るとしても、良好な平均月流量の結果は得られなかった。そこで、SDSM を用いて、GCM データを校 正時の観測地点にダウンスケーリングを行った。 本研究では、GCM20 と GCM-HadCM3 データを用いて、それらをダウンスケーリング後のデータと 本川観測地点の観測データとの精度比較を行った。GCM20 データの精度が最も良い結果を得た。それ で、GCM20 を用いることにした。 さらに、流域外の 2 つと流域内の 2 つの GCM20 ポイントを本山地点にダウンスケーリングした(図 2.7) 。GCM20 ポイントをダウンスケーリングした本川と本山地点で、SWAT モデルによるシミュレー ションをした結果、24 年の平均月流量のパタンが観測値とよく一致した(図 2.8-d) 。 また、本川地点では、近未来実験(2015-2039 年)と 21 世紀末実験(2075-2099 年)の気温や雨量の変化 を解析した結果、図 2.8-a,b のように、25 年間の月平均日最高と最低気温は、全体的に増加していく。 また、25 年間の月平均総雨量(図 2.8-c)の方は 4,7,8,9 と 10 月の変化が著しく、特に洪水や渇水の 災害の頻繁に起きている 7,8 と 9 月に大きな変化が見られる。さらに、本川と本山地点のダウンスケ ーリングした GCM20 データを校正した SWAT モデル(図 2.6)に入力し、流出点の流量の変化(図 2.8-d) を求めた。流量変化は雨量変化と比較し、4 月以外はほぼ同様な変化みられている。4 月の変化がない 理由として、4 月の蒸発量(図 2.8-e)の変化が大きいと考えられる。蒸発量(図 2.8-f)は 4~9 月の増加と 10、11 月の減少が見られている。土壌水量は 5 月の減少と 8、10 月に増加傾向が見られる。 600 0 500 R² = 0.9529 250 200 P 150 300 1500 Observed 100 50 Simulated 0 0 50 100 150 200 250 300 2000 200 2500 100 3000 Month 図 2.6 1980 年~2008 年における月平均流量の校正結果 Jul-08 Jul-07 Jan-08 Jul-06 Jan-07 Jul-05 Jan-06 Jul-04 Jan-05 Jul-03 Jan-04 Jul-02 Jan-03 Jul-01 Jan-02 Jul-00 Jan-01 Jul-99 Jan-00 Jul-98 Jan-99 Jul-97 Jan-98 Jul-96 Jan-97 Jul-95 Jan-96 Jul-94 Jan-95 Jul-93 Jan-94 Jul-92 Jan-93 Jul-91 Jan-92 Jul-90 Jan-91 Jul-89 Jan-90 Jul-88 Jan-89 Jul-87 Jan-88 Jul-86 Jan-87 Jul-85 Jan-86 Jul-84 Jan-85 Jul-83 Jan-84 Jul-82 Jan-83 Jul-81 Jan-82 Jul-80 3500 Jan-81 0 Precipitation (mm/month) 1000 300 400 Jan-80 Discharge (m3/s) 500 25 25 20 20 15 GCM20_1979-2003 10 GCM20_2015-2039 5 月平均日最低気温(℃) 月平均日最高気温(℃) 30 10 5 0 GCM20_2075-2099 Obs_1980-2003 0 15 GCM20_1979-2003 GCM20_2015-2039 GCM20_2075-2099 Obs_1980-2003 -5 Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec 月 1200 GCM20_1979-2003 160 GCM20_2015-2039 140 GCM20_2075-2099 800 Obs_1980-2003 月平均流量(m3 /s) 月平均総雨量(mm) 1000 月 600 400 200 120 100 GCM20_1979-2003 GCM20_2015-2039 GCM20_2075-2099 Obs_1979-2003 80 60 40 20 0 0 Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec 月 180 GCM20_1979-2003 160 GCM20_2015-2039 50 45 Sim_1979-2003 120 100 80 60 40 20 月平均土壌水量(mm) GCM20_2075-2099 140 蒸発散(mm) 月 40 35 30 25 GCM20_1979-2003 20 GCM20_2015-2039 15 GCM20_2075-2099 10 SWAT_Simulation 5 0 0 Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec 月 月 図 2.8 将来の気候及び流量変化 3. 考察及び結論 森林整備による流量増加は主に表面流出によるものというのは明らかにした。増加量については、研 究対象流域の最下流点に早明浦ダムがあり、早明浦ダムに十分な貯水量がある場合は、森林整備によっ て増加した流量は住民の生活に直接貢献はしない。しかし、渇水の時においては、早明浦ダムの貯留率 が非常に低くなり、森林整備によって増加した水が非常に重要であると考えられる。例えば、早明浦ダ ムの利水容量が底をついた5日間のケースでは、森林整備による渇水期間における増加した算出水量が 340 人の5日間の水需要が満たせる事が明らかになった。また、現在森林整備が推進されているが、2008 年の渇水期間のような逆効果になる可能性も考慮する必要があると考える。 将来の気候及び流量変化について、解析の内容を踏まえ 8 月の月平均流量が増加したため、洪水リス クが高まる事が予想される。また、7 月と 9 月の月平均流量が減少し、さらに蒸発量が増加するため、 渇水リスクが高まる可能性が示唆された。 参考文献 1) 篠宮佳樹:間伐によって河川の流量はどのように変化するか,四国の森を知る,No.7,2007.2 2) 依光良三:破壊から再生へ,アジアの森から,日本経済評論社,東京都,2003 3) S.L. Neitsch, J.G. Arnold, J.R. Kiniry & J.R. Williams: Soil and water assessment tool theoretical documentation, Version 2005, Texas, 2005 4) 亀田千明:香川県高松市における渇水リスクと水資源管理,高知工科大学フロンティアプロジェクト, 2007 4.今後の課題 (注)必要なページ数をご使用ください。 将来の課題は、歴史的な極端事象の下での都市水災害の発生メカニズムを分析し、また統計的な手法で都 市水災害の傾向を把握する。特に、過去から現在に至るまでの極値を抽出し、災害の頻度を 200 年、500 年 及び 1000 年の単位で計算し、都市水災害と極端事象の相互関係を解析する。すなわち、古代と将来の気候 と環境を古文書や古地図、さらには全球気候モデルの出力を分析し、統計的なモデルと物理的な水文モデ ルを用いて古代の極端事象下の都市水災害を再現し、将来の極端事象下の都市水災害を予測する。また、 古代と将来の極端事象下の都市水災害脆弱性を評価する。こうして、極端事象下の都市水災害の総合的な 分析の下で、防災教育、復旧・復興、観測体制などの観点から、将来の適応性社会を構築するために有用な 解析手法を提案する。 古水文(pareo-hydrology)の極値を用いた頻度解析は、将来の長期的な都市水災害対策において、新しい 考え方での再現期間を提案することができ、また、従来の頻度解析手法の重要な検証することになる。
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