中小企業が e コマースで成功する条件

中小企業が e コマースで成功する条件
5198056 籠谷 泰延
(要約)ここ数年間のあいだに続々と企業が e コマース(電子商取引)に取り組み始める
ようになってきている。近い将来には、大企業から中小企業また町の食堂や八百屋さんま
で e コマースに取り組まなければならない状況になるだろう。しかし、米国ではネットバ
ブルの崩壊が起き、多くのネット企業は事業面のみならず株式所有の面でも相互依存度が
高かったため、いったん株価が下がり始めると、赤字や収益性の弱いネット企業では資金
繰りに窮し、リストラ・倒産が余儀なくされる等ネット企業間で淘汰が進んでいる。しかし、
全体としては、e コマースの勢いはなくなっているわけではない。今や、ネット企業は新規
性だけでなく安定的な収益を上げることができる企業だけが生き残る選別の時代になった
のである。企業は続々と e コマースに乗り出している。企業が e コマースに取り組む理由
として、我が国を含め世界的インターネットの急速な普及により、新たなビジネスチャネ
ルの拡大やコスト削減などのメリットがあるからである。我が国の中小企業の多くは資金
調達は、金融機関からの間接金融に依存していて、例えいいビジネスプランを考え付いて
も貸し渋りにより新規事業を始めるための資金が問題である。そこで、将来性・成長性で
評価し、投資してくれるベンチャーキャピタルなどの直接金融の利用を積極的に取り組む
必要がある。次に、米国の e コマースで成功している中小企業の事例から共通している成
功ポイントを導き出し、マーケティング編、顧客サービス編、企業戦略編にまとめそれを e
コマースで成功する条件とした。
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目次
はじめに
Ⅰ e コマース企業の現状
1.ネットバブルの崩壊
2.企業が続々と e コマース(電子商取引)に乗り出す理由
(1)インターネットの急速な普及
(2)インターネットにより得られるメリット
Ⅱ 中小企業を取り巻く環境
1.中小企業施策の改正
(1)中小企業向け金融の現状と問題点
① 間接金融への依存
② 担保提供・個人保証の必要性
③ 貸し渋り
(2)中小企業基本法の改正
2.資金調達と直接金融
(1)直接金融の体系と資金調達手段
① 株式の発行
② 社債の発行
③ CP の発行
④ ベンチャーキャピタルによる投資の利用
⑤ 中小企業投資育成会社による投資の利用
(2)直接金融のメリット・デメリット
Ⅲ e コマースで成功している米国の中小企業の実例
Ⅳ 中小企業が e コマースで成功するための条件
1.マーケティング編
2.顧客サービス編
2
3.企業戦略編
おわりに
はじめに
今までは、一部の企業やごくわずかな人々に限られていた IT(情報技術)が、近年、急速に
身近になった。それにより、これから近い将来、確実にどんな企業や多くの人々も電子商
取引を無視することができない状況になるだろう。特に、企業の商取引に大きな影響を与
えるだろう。
日本経済を支える多くの中小企業にとって e コマース(電子商取引)との関わり次第
で電子商取引は大きなチャンスでありピンチを招くものになるだろう。
そのチャンスを活かし、ピンチやリスクを回避し e コマースで成功するにはどうすれば
いいか検証していこうと考えている。
Ⅰ e
Ⅰ e コマース企業の現状
1.ネットバブルの崩壊
米国の e コマース市場は、ネット事業を中核事業としたいわゆるドットコム企業を中心
に拡大し、株式市場での高評価とあいまって、1995年以降、数多くのネット企業が資
本市場に公開され、急速に成長を続けてきた。しかしほとんどの場合、それら企業の収支
は不安定な状況にあったのである。
ネットブームのピークであった1999年前後は、ちょうど伝統企業の巻き返しが本格
的にはじまった時期で、ネット企業をめぐる競争環境は一段と厳しさを増していたのであ
る。その結果、2000年3月頃にネット企業の株価が急落し、1年間で4分のⅠ程度ま
で下落した。(図1)これがいわゆるネットバブルの崩壊である。
・図1 米国ネット企業の株価推移(1998年9月を100として指数化)
3
出所)通産省 平成13年版通信白書
このネットバブルの崩壊の理由には、投資家のネット企業に対する評価の大きな変化が挙
げられる。それまでは、ネット企業に対する評価は、顧客数やウェブサイトへのアクセス
数さえ伸びればネット企業の収益はいずれ安定するようになるだろうという将来性を重視
し収益性を後回しにするというものであった。それが、2000年になると投資家の一時
的な期待感は薄れネット企業間の競争は激化しネットビジネスを安定軌道に乗せることは
容易ではないと認識され、収益性を強く求めるようになったのである。
多くのネット企業は事業面のみならず株式所有の面でも相互依存度が高かったため、い
ったん株価が下がり始めると、赤字や収益性の弱いネット企業では資金繰りに窮し、リス
トラ・倒産が余儀なくされる等ネット企業間での淘汰が進んでいるのである。
しかし全体としては、e コマースの勢いは衰えたわけではない。ネットバブルの崩壊はあ
くまでネット企業に対する評価の修正に過ぎないのである。
今や、e コマースは選別の時代に入ったということである。新規性だけでなく収支を上げ
る見込みのないネット企業は淘汰され、持続的な優位性をもたらす明確な能力や技術を安
定的な収益を上げるネット企業だけが生き残る時代になったのである。
2.企業が続々と e コマースに乗り出す理由
企業が e コマースに乗り出すには理由がある。その理由とはインターネットの普及によ
り販売チャネルの拡大や企業経営にさまざまなメリットを生み出すからである。これでは
漠然とし過ぎている為、これから詳しく述べていこうと思う。
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(1)インターネットの急速な普及
世界のインターネット利用者数は、この数年急激に増加し続けている。NUA社が公表
している推計によると、2000年11月現在のインターネット利用者数は約4億710
万人に達しているのである。
(図2)
・図2 世界のインターネット利用者数
出所)通産省 平成13年通信白書
次に、現在の我が国におけるインターネット普及の現況を見ると、平成12年末には個
人におけるインターネット利用者数は4708万人と推計され、平成11年末の段階と比
較すると74%増加となっている。
また、平成17年(2005年)におけるインターネット利用者を推計したところ、8
720万人まで増加するものと見込まれている。なお、ここでは、「インターネット(ウェ
ブ又は電子メールのどちらかのみの場合も含む。)を、自宅・自宅外を問わず、パソコン、
携帯電話、携帯端末、家庭用ゲーム機、インターネット接続機器を設置したテレビ受像機
により利用している人」と定義している。
さらに、総務省が行っている通信利用動向調査によれば、平成12年11月におけるイ
ンターネットの世帯普及率は34.0%、事業所普及率は44.8%、企業普及率では9
5.8%となっており、順調に増加している。
(図3)
5
・図3 我が国におけるインターネットの普及状況
出所)通産省 平成13年通信白書
(2)e コマースにより得られるメリット
インターネットを利用することで企業にとって、大きく分け以下の3つがメリットであ
る。
① グローバル化
② 経費の削減
③ 中小企業であっても大企業に対抗することが可能
①は、インターネットには世界のコンピュータが繋がっている。e コマースはネットワーク
上での取引であるので基本的に国境がないということである。②は、メーカーでは Web 上
で商談、見積もり請求などが行える、サービス業・銀行・証券会社などでは実店舗でのカ
ウンター業務などが減り、人件費の削減などを意味する。③は、
「人・もの・金」すべての
経営資源に乏しい中小企業であっても、情報と豊かな発想を武器に、新しいアイデアを構
築すれば大企業にも対抗できるということである。
Ⅱ 中小企業を取り巻く環境
長引く不景気・金融機関の早期是正措置による貸し渋りなどで資金繰りに苦しむ中小企
業が、新事業を行うには資金調達を銀行借入れのみでは非常に困難であり大きな悩みであ
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る。そこで、中小企業がどのようにすれば、外部から資金を調達することができるのかを
考えていこうと思う。
1.中小企業施策の改正
(1) 中小企業向け金融の現状と問題点
①間接金融への依存
大企業の資金調達構造が、自己資本・社債といった直接調達の比重を高めてきたのに対し
て、我が国のほとんど中小企業が、銀行からの融資を受ける間接金融により資金調達を行
っているのが現状である。
②担保提供・個人保証の必要性
中小企業が金融機関から借り入れを行うに際して、通常は何らかの担保を提供すること
が条件であり、また、代表者の個人保証を求められることが多く、担保・保証問題が資金
調達上の制約要因の1つとなっている。
③貨し渋り
早期是正措置にともない、金融機関が中小企業に対して一斉に貸し渋りを行っている。
(2)中小企業基本法の改正
平成 11 年 12 月、36 年ぶりに「中小企業基本法」が改正された。改正のポイントは、①
基本理念、②重要政策、③政策手段、④中小企業の定義の 4 つであるが中でも中小企業の
定義が拡大されたことが大きい。これにより、従来であれば受けられなかった公的融資や
補助金・助成金など様々な支援制度の活用が可能になったのである。
旧・中小企業基本法 新・中小企業基本法
資本金 従業員数 資本金 従業員数
中小企業 製造業その 1 億円 300 人 製造業その 3 億円 300 人
の定義 他の業種 他の業種
卸売業 3 千万円 100 人 卸売業 1 億円 100 人
小売業・ 1 千万円 50 人 小売業 5 千万円 50 人
サービス業 サービス業 5 千万円 100 人 資本金・従業員数のいずれかに該当すれば、中小企業施策の対象
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この他、中小企業基本法の改正に伴いさまざまな直接金融関連法(中小企業信用保険法・
信用保証協会法、中小企業金融公庫法、中小企業投資育成株式会社法など)が改正される
など国の金融施策の転換により、中小企業における直接金融への積極的なアプローチが可
能となり、多様な資金調達手段による資金計画を策定しやすい基盤が整備されたのである。
2.資金調達と直接金融
企業が外部から資金調達する方法には、大きく分けて「直接金融」と「間接金融」の2
つがある。
・直接金融とは、資金を必要とする企業が株式や社債等を発行して非金融機関の機関投
資家や企業から投資を受け資金を調達すること
・間接金融とは、金融機関から融資を受け資金を調達すること
上で挙げたように、金融機関の借入れのみに頼っていては十分な資金調達を行うのは困難
であるので中小企業も直接金融による資金調達を積極的に行わなければならないのである。
(1)直接金融の体系と資金調達手段
直接金融には、株式の発行、社債券の発行、CP(コマーシャルペーパー)の発行の3
種類がある。
①株式の発行
株式の発行は株式会社のみに認められた権利であり、最も広く資金調達できる手段であ
るが、審査基準の緩和が進んだ現在でも容易に行えるものではない。
② 社債の発行
社債券の発行も株式会社のみに認められた資金調達方法で、社債券の発行には投資家を
募る「公募方式」と縁故者などの特定者に限定し発行する「私募方式」がある。なかでも、
投資家数や発行金額の少ない小人数私募債は、届出や告知義務も緩和されており、一般の
中小企業にも比較的取り組みやすくなっている。
③CPの発行
このうち、CPの発行は発行方法の複雑さや格付けの問題などから一般の中小企業が利
用することは非常に困難であるので、ここでは省略させていただく。
④ ベンチャーキャピタルによる投資の利用
ベンチャーキャピタルから直接資金を調達することも直接金融の主要なルートの1つで
ある。
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ベンチャーキャピタル(以下VC)とは、高い技術力・開発力を持っている、隙間分野
に着目した事業展開を行っている等、成長性が高く、将来的には株式公開が期待できる企
業に必要資金を出資の形で提供し、その企業が株式公開を果たすことによりキャピタルゲ
インを得ることを業務とした会社のことである。
十分な担保資産がなく間接金融では資金調達が困難なベンチャー・中小企業にとって将
来性で判断してくれるVCは重要な存在である。
資金の提供方法は、企業が発行する新株の引受け、もしくは転換社債等の引受けにより
行われる。
様々な民間のVCが存在しており、なかには独立系のVCもあるが、そのほとんどが証
券系、銀行系、生損保系など別の母体を持ち活動している。
ベンチャーキャピタルはただ資金の提供のみならず、コンサルタント業務、事業の育成
等、経営全般に係る問題について様々な角度からの支援活動を行う。
ベンチャーキャピタルが未公開企業に投資する場合、ベンチャーキャピタル自身の資金
であるプロパー資金で投資する場合と、投資事業組合(いわゆるベンチャーファンド)を
結成して投資する場合がある。
・ベンチャーファンドの仕組み
<特徴>・集めた資金を複数の未公開企業に分散投資
・上場、公開に伴うキャピタルゲインを投資家に平等配分
・出資であるため投資家のリスクは投資家のリスクは投資金額に限定
ベンチャーキャピタル
ベンチャーキャピタル
(無限責任組合員) コンサルティング報酬
管理報酬 投資 運営 コンサルティング契約
成功報酬 キャピタルゲイン
投資事業組合 未公開企業
投資事業組合 未公開企業
投資
分配金 出資
投資家
投資家
(有限責任組合員)
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一般的なベンチャーファンドでは法令で組合員(投資家)が49人以下に限定されている
ため、一定規模の資金を集めるため1口あたり数百∼数千万円の出資金額である。そのた
め、組合員は機関投資家やオーナー経営者に事実上限定されているのが現状である。
最近では米国のようにエンジェルファンドという投資単位を小口化することで個人でもベ
ンチャー企業に出資することができるファンドが増えてきている。この背景には、ナスダ
ック・ジャパン市場の開設などで VC が投資資金を回収する環境が整ってきたことがある。
⑤ 中小企業投資育成会社による投資の利用
中小企業投資育成会社は、政府系のベンチャーキャピタルで1963年に制定された中
小企業投資育成株式会社法にもとづいて東京・大阪・名古屋に設立された、中小企業が将来、
株式の公開により独力で資本を調達できるようになるまで、その株式を保有し、併せて経
営、技術上のコンサルティングを行ってくれる会社のことである。
(2)直接金融のメリットとデメリット
直接金融には間接金融とは異なったメリット・デメリットがあるので、資金の使途や調
達期間など企業の調達条件に応じて直接、間接金融の使い分けることが重要である。
<メリット>
・決算内容など過去の事業実績で融資の可否が左右される間接金融より将来的な収益力
が判断される点で、新分野に活路を求める企業にとっては有利である
・事業の成長性を重視するため、担保力が弱く、欠損企業でも資金調達が可能
・株式や社債の発行は優良企業の証であるため、広く一般に優秀性をアピールできる
・一般投資家などの新たなルートからの資金調達が可能
・借入れと違い資金使途が限定されていない
・社債の場合、原則として期限一括償還であるため、期間中の償還負担が低い
・社債の場合、固定金利のため長期的な資金計画が立てやすい
<デメリット>
・調達コストが借入れ金利に比べて少し割高である
・借入れに比べ予備知識の習得が必要
・財務内容などで一定の基準を満たさなければ実質利用できない
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・多くの場合、企業の経営内容のディスクロージャーが必要なため、健全で明確な経営
能力の維持が問われる
以上、直接金融の仕組み・調達手段について述べてきたが、どの手段で資金調達するに
しても重要な課題がある。1つめは、
「事業の成長性」である。現在の財務内容や資産所有
状況よりも、将来の事業収益性に重点を置いて投資判断を行う直接金融において、より成
長性の高い企業ほど容易に資金調達が可能であるからである。2つめは、
「ディスクロージ
ャー」である。融資と異なりリスクの高い投資という手段で資金調達を行うには、より投
資家のリスクを低く抑えるための手段が求められるからである。それが情報開示である。
よって、積極的なディスクロージャーを実施する必要があるのである。
Ⅲ e
Ⅲ e コマースで成功している中小企業の事例
1.米国の事例
(1) フリッジドア・コム
フリッジドアは、創業者のクリス・グウィン氏が1997年にボストンに設立した冷蔵
庫のドアに飾るマグネットを専門に販売している従業員は3人のオンラインストアである。
フリッジドアでは、動物、テレビドラマ、音楽、有名人、マンガヒーロー、映画など、販
売マグネットは10のカテゴリーに分類され1600種類のマグネットを販売している。
価格は3∼4ドルの物が大半である。また、同社では、企業名やロゴ入りカスタムメード
マグネットの販売も行っている。
グウィン氏は、大手調査会社で勤めている間に、自宅でフリッジドアを創業したのであ
る。自己資金の2万ドルで商品とコンピュータソフトを購入し、まず25種類のマグネッ
トを販売したところ、1日目から注文が届き、その後、売上は毎月25%の割合で増加し、
1年以内に利益がでたのである。そして、グウィン氏は仕事をやめ、フリッジドアに専念
したのである。
同社では、週に約400個のマグネットを販売し、クリスマスシーズンには、通常の5
∼6倍の数を販売した。平均販売価格は約30ドルである。
アメリカのマグネット市場は1億5000ドルで、大企業が参入するには小さすぎるが、
中小企業が事業を展開するには十分な市場規模である。そのため、マグネット市場は、小
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さなメーカー及び小売業者からなっており、市場を牛耳る企業がないのである。また、マ
グネットの世界は底深く、既存の店舗では在庫や販売ができないほど種類が豊富なのであ
る。
フリッジドアの成功したポイントは、マグネットというニッチな商品に目をつけ主要業
者のいない断片化した市場に参入したことが挙げられる。また、オンラインの強みを活か
し、豊富な品数・あらゆるマグネットを提供していることが挙げられる。他には、ユーザ
ーにサイトに関してアンケートを行い、サイトの問題点・満足度・マグネットについて質
問し、サイト改善などの卓越した顧客サービス提供していることが挙げられる。
(2) シットステイ・コム
シットステイは、1996年に愛犬家であるクルーガー夫妻が設立した従業員5人のペ
ット用品とその飼い主向け用品を販売しているオンラインストアである。ペット用には首
輪、骨、ブラシ、救急用具、おもちゃ、飼い主用には書籍、ビデオ、Tシャツなどの商品
を販売している。Tシャツは、140種類の犬の絵柄をそろえている。商品は、書籍・ビ
デオ、衣服、収集品、ドッグフード、機器、ギフト・カード、健康美容、アクセサリー、お
もちゃの9つのカテゴリーに分かれている。商品は注文から24時間以内に発送。理由に
関わらず、30日間は返品できる100%満足保証付きである。海外からの注文は売上の
5%程度だが、サイトでは自動通貨変換ツールを搭載し、海外からの顧客が注文しやすく
工夫している。同社のサイトの特徴は、商品概要を、オーナー自らの経験を交え、一人称
「私」を使って書かれていること、また、犬を題材にした日替わりマンガを掲載している
ことである。
同社の成功のポイントは、愛犬家というニッチ層をターゲットにしたこともあるが、パ
ーソナルタッチのきめ細かい顧客サービスとユーモアで親しみやすいアットホームなサイ
ト作りにあるのである。それにより優れた製品と優れたショッピング環境を提供したこと
により、満足した顧客が家族、友人、皆に口コミやメーリングリストなど宣伝してくれ、
広告宣伝費が削減できたのである。また、同社では、ウェブ構築からマーケティングまで
すべて社内で行って、運営コストを抑えていることが成功のポイントである。
(3)モ・ホッタ・モ・ベッタ
モ・ホッタ・モ・ベッタは1989年に創業者エイズン夫妻が自己資金2万ドルで設立
したホットソースを専門にした通信カタログ販売会社である。最初は、18ページのカタ
ログを、家族や友人など150人に送付した。89年の売上は、2万7000ドルに留ま
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った。しかし、アメリカでホットソースブームが到来し、93年には200万ドルに増加
し、このころから黒字経営になっていた。だが、ホットソース専門の通信カタログ会社や
小売店も各地に現れ始めたのである。
そこで、同社はインターネットが普及する前の95年にウェブサイトを立ち上げ、ホッ
トソースのオンライン販売を開始したのである。ウェブデザインは社内で行っている。カ
タログ及びオンラインで販売している商品は、チリソースやバーベキューソースから各種
こしょうなど計300点。「デイブの狂気」「サイコソース」「Y2Kミレニアムメルトダ
ウン」などユニークな商品名が並ぶ。商品も顧客自身の写真やアートワーク入りの独自の
ラベルを張ったオリジナルブランドのカスタムソースなどユニークなものを提供している。
もちろん、100%保証つきで、満足行かなければ返品できる仕組みになっている。同社
は、一般消費者以外にも小売業者や他のオンラインサイトにも販売する卸売りも行ってい
る。 同社では、オンライン販売を始めた結果、オンライン顧客の75%が新規顧客で、
インターネットの利用により新たな市場が開拓できたのである。現在、オンラインの売上
は小売り売上の20%を占め、売上は創立時の200∼300%に伸びている。
同社の成功ポイントは、通販ビジネスで築いてきたフルフィルメントなどのインフラ整
備とカタログ、ウェブサイト、卸売販売などによるマルチチャネル販売できたこと、カス
タムソースなどのユニークなサービス提供にある。また、通信カタログをオンライン化す
ることによるカタログ作成費・受注する人件費の削減によるコスト削減にあるのである。
(4)その他の企業
参考にしたすべての企業の事例を説明することができないので、企業名と業種だけ紹介
する。
企業名
アートソース
ダディズ・ジャンキー・ミュージック
ニルバナチョコレート
ノーブレイナー・ブラインズ&シェイズ
フォトクレージー
フランス・イン・ユア・グラス
フルトン・ストリート・ロブスター&シーフード
プレイング・マンティス
プール・アンド・スパ・コム
US スポーツキャンプス
業種
小売業
小売業
小売業・卸売業
小売業
小売業
サービス業
卸売業・小売業
製造業
小売業
サービス業
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Ⅳ 中小企業が e コマースで成功する条件
これまでⅡ章で述べたこと、Ⅲ章で紹介した企業に共通した成功ポイントを「マーケテ
ィング」
「顧客サービス」「企業戦略」に分けてまとめ、それを私が考える中小企業が e コ
マースで成功する条件とする。
1.マーケティング編
(1)ニッチ市場を狙う
競争が激化する一方のウェブ上には、一般商品を販売しているサイトにいたっては数知
れない。巨大サイトは、集客と売上増を図るために何千万ドルという資金を販売マーケテ
ィングに費やしている。こうした厳しい市場で中小サイトが生き残るには、ニッチ市場を
狙うことが大きな成功要因になる。Ⅲ章で挙げた成功例もニッチを狙ったものが多い。
冷蔵庫のドア用マグネット、そして、既存企業では、中古楽器、ワイナリー旅行、コレ
クター向けミニカー、プール・スパ製品などニッチ市場に参入していた。
ニッチな商品は、オフラインの世界では地理的に市場が限られるため展開が難しいが、
世界中に販売ができるオンラインでは、十分な顧客を集めることができ、特に主要業者の
いない断片化した市場では、中小企業でもインターネットの力を利用し市場を牛耳ること
も可能なのである。しかし、おいしい市場とわかれば、大企業が参入する恐れがある。大
企業が参入するには小さすぎるが、中小企業が十分な売上を上げられるだけの規模の市場
を選ぶことがポイントである。
(2)バナー広告は使わない
事例を挙げた中小企業に共通しているのは、バナー広告を使っていないということであ
る。これは、大手企業と違い中小企業では、多くの広告費はないからである。しかし、バ
ナー広告を使わない理由は、バナー広告は集客の効果がないと判断しているからである。
事実、広告バナーのクリック率は平均0.4%と言われている。
中小サイトが利用するのは検索エンジン、アフィリエイトプログラム、口コミである。
検索エンジンでは、どのキーワードが効果的かを研究し、そのキーワードをサイト中に散
りばめたりする必要がある。アフィリエイトプログラムは、どのサイトにも向くわけでは
ない。愛犬家やコレクターなど、熱狂的なファンや愛好家のいる製品・サービスに、特に
効果的である。口コミは、効果的なマーケティング方法である。口コミや顧客の間での評
判というのは、オフラインでももちろん大事であるが、インターネット上での方が威力が
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はるかに大きい。情報が伝わるスピードが速く、マウス1つで世界中の何千人というユー
ザーに伝えることができるからである。顧客を満足させることができれば、顧客は勝手に
サイトを世界中に宣伝してくれる。
(3)ユニークな商品
Ⅲ章で成功例に挙げたモ・ホッタ・モ・ベッタは、顧客に顧客自身の写真やアートワー
ク入りの独自のラベルを張ったオリジナルブランドのカスタムソースのようなユニークな
商品やユニークなネーミングもマーケティングには重要である。
(4)個性のあるサイトの作成
大手のサイトというのは、きれいで見栄えがよく、機能的なものが多いが、どこも同じ
ように見える。サイトのデザインでも、大手サイトには出せないような個性や味を出すこ
とが、中小サイトにとって差別化要因となり、顧客を引きつける魅力となる。モ・ホッタ・
モ・ベッタのサイトのイラストは、創業者が自ら描いており、このサイトにしかない真の
オリジナルである。ホームページ作成ツールやサービスが広がり、良く似たサイトが増え
るにつれ、こうした個性のあるサイトが貴重になるのである。
サイトの個性は、デザインだけによって作り出されるわけではない。コンテンツや機能
も大きく影響する。シットステイ・コムの商品説明は、運営者自らの体験をもとに、1 人称
「私」を使って、顧客に語りかけるように書かれている。
2.顧客サービス
(1)満足保証を付ける
事例を挙げた中小サイトは、保証に比べても遜色がない。事例の多くが満足保証や価格
保証を提供している。アメリカでは、オフラインの小売業者でも満足保証や価格保証を提
供するところは多いので、オンラインストア特有の現象ではない。しかし、日本ではあま
り一般的ではなく、普及していないからこそ、こうしたサービスを提供すると差別化が図
れるのである。満足保証があると、気に入らなければ返品できるという思いがあるので、
購入する際にあまり躊躇しなくなる。価格保証も、他の店で同じ商品がより安値で売られ
ていれば差額を返品してくれるというのは、購入の際の安心感を与える。とにかく買いや
すくすることが重要である。
(2)プライバシーの厳守
プライバシー保護は、顧客の信頼を維持するという意味で死活問題である。シットステ
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イ・コムでは、
「どんなに無理強いされても皆様の住所、電子メールアドレス、支払い情報
を他者に撃ったり、交換したり、貸したりすることはありません」とうたっている。フル
トンでは、サイトで、社長が、他のオンラインストアで商品を購入した後、スパムメール
や郵送のダイレクトメールを受け取るようになったという自らの経験を語り、「プライバ
シー厳守はどこも掲げているが、当店の場合、私自ら約束する」とプライバシー規約に署
名している。このように、ユーザーから得る個人情報の取り扱いについて、きちんと明示
することが重要である。
(3)迅速な対応
アートソースでは、1 日で見積もりを提出。フォトクレージーでは、写真を早ければ 1 日
で発送する。ノーブレナーでは、カスタムメードのブラインドを 1 日で製造して出荷する。
その他、販売にすぐにはつながらない顧客からのメールにもすぐ返答する。
3.企業戦略編
(1)マルチチャネル販売をする
モ・ホッタ・モ・ベッタなど事例の多くが、インターネット以外に、カタログや店舗販
売を利用し、マルチチャネル販売に成功している。既存企業の場合、オンライン進出によ
って、既存の顧客層を食うのではなく、新たな顧客、特にオフラインとは異なる顧客層を
獲得しているところが多い。モ・ホッタ・モ・ベッタではオンライン顧客の75%が新規
顧客であり、リアルグッズのオンライン売上の半分が新規顧客によるものである。また、
顧客に多様な選択肢を与えることが、購入を容易にし、顧客サービスにも繋がる。すべて
オンライン化すれば顧客は満足するわけではない。実際に商品を手にとってみたいという
消費者は多いのである。顧客のその時々のニーズに合わせ、オンライン、電話、ファック
ス、店頭で、購入やサービスが利用できるようにすることが顧客サービスとなり、かつ売
上増につながる。インターネットはあくまでチャネルの1つなのである。
マルチチャネル販売は、小売と卸売を兼ねるという形でも行える。ニルバナ、モ・ホッ
タ・モ・ベッタでは、もともと小売業からはじめたが、今では卸販売も行っている。小売
はマージンが大きいが、販売数量を伸ばすには、ブランド構築とマーケティングに時間と
費用がかかる。卸売はマージンは小さいが、販売数量が大きいといううまみがあるからで
ある。一方、反対に、フルトンのように、オフラインの卸売業者がオンラインでは小売販
売をしている。
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(2)従来のプロセスを効率化
インターネットを利用して従来のプロセスを効率化するというのは、中小サイトに限っ
たことではないが、多くの事例がこれに成功している。特に、既存企業において大きな効
果を上げている。フォトクレージーでは、校正刷りを作り、顧客に郵送する、といった非
常に手間のかかる写真販売プロセスをインターネットを使って簡素化し、時間とコストを
半減し、利便性とスピード、高品質という付加価値を顧客に与えている。アートソースで
は、クライアントから電話で依頼を受けると、絵画サンプルカードの中からふさわしいも
のを選んでカラーコピーをとってクライアントに郵送するという従来のシステムをオンラ
イン化し、顧客が自分で好きな画像をオンラインで選べるようにした。それにより、絵画
選択のプロセスを迅速にし、顧客の満足度をますとともに、送料、コピー代、カタログ作
成費など年間6万ドル以上を節約するという成果が上がったのである。このように商品選
択・注文プロセスを効率化することはコスト削減になり、同時に顧客サービスの充実、顧
客の満足度向上につながるのである。
(3)資金調達の多様化
十分な担保資産がない中小企業が間接金融だけで新規事業のための資金調達を行うのは
困難である。そこで、社債の発行、ベンチャーキャピタルや中小企業投資育成会社による
投資など直接金融を積極的に行い、間接金融と直接金融両方からの資金調達を行わなけれ
ばならない。
(4)コアビジネス以外はアウトソーシングする
中小企業では資金的にも人材的にも大企業のように豊富でないため、その乏しい経営資
源を競争優位のものに特化する必要がある。そのため、他の資源は、アウトソーシングす
ることで、自社の強みの部分を十分発揮でき、また固定費の削減につながるのである。
おわりに
以上のように中小企業が新事業を行ううえでネックになる資金調達問題と実際 e コマー
スで成功している米国の中小企業の事例から中小企業が e コマースで成功する条件を、私
なりに検証してきた。今後、e コマースに取り組もうと考えている中小企業の方々の参考に
なれば幸いである。
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参考文献
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