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Page2015 調査報告
page コンファレンス聴講記(3)
基調講演 3:POD ビジネス、日本で出来るのか?
DB にない本も PDF で受け付け可能であり、その場合
には契約後、本を出荷、その後預かったデータは消
去する。Amazon 経由の注文に関しては、ライトニン
ジーエーシティ 代表取締役社長 堀本邦芳
グソースの箱に Amazon のロゴで出荷する。
ナッシュビル工場では製本印刷のピークは 12 月の
page2015 の最終日の基調講演は、黒岩信司(錦明印
クリスマスシーズンに 7 万冊/日、注文オーダーは 3
刷常務)、福浦一広(インプレス R&D 取締役/電子雑誌
万種類(2.0~2.3 冊/1 件)という超小ロット生産を
OnDeck 副編集長)、郡司秀明(JAGAT 理事)、井芹昌信
在庫なしで行っている。全世界での生産量はピーク
(インプレス R&D 代表取締役社長)の各氏が登壇する
時には 84 万冊/週で、その内 40%がナッシュビルで生
パネルディスカッションである。そのテーマの案内
産されているという。
は、「世界最大級の出版 POD 事業を展開する米ライ
POD 事業の発端は親会社の社長ジョン・イングラム
トニングソース社のビジネスが日本でも実現可能な
氏が、在庫を毎年廃却していることを NG とし 1998
のか?を同社を視察したメンバーに問う。日本でラ
年に POD 用にデジタル印刷機を1台購入し、倉庫で
イトニングソース方式が可能なのか? 実用的なの
スタート。サプライチェーンを見直し、設備を強化
か? 技術的にも突っ込んで解析する。もしそのまま
してきた。
の形を日本で実現するのが困難なら、日本に合った
現在設備は(1)プレミアム:HP Indigo , iGen4
形を提案したい。特に日本では商業印刷への応用が
でカバー、ジャケット、中身も印刷する、(2)ミ
ポイントになってくるはずである。」とある。
ディアム:Canon/Oce IJ ロールですき折(Plow
folding)、2page/3page レーザーマックス、(3)
最初に、郡司氏、福浦氏のプレゼンにあるライト
エントリーの 3 つの区分となっている。
ニングソース社の説明についてまとめる。ライトニ
ボリュームゾーンを生産する連帳機は、Canon/Oce
ングソースは、世界最大の書籍流通事業者「イング
のインクジェットで Colorstream3900(Black only)
ラム」の印刷・物流子会社であり、 POD による印刷・
2 台、
Colorstream3900
(4color)
2 台、
Colorstream3500
製本・流通サービスを展開(1 部から数百部まで)し
(4color)1 台、Colorstream10610(Black only)1
ている。また出版社向けにフルフィルメントサービ
台、Variostream9000 トナー方式(Black only)2 台
スを提供し、最大顧客は米アマゾン(約 4 割)であ
を Prisma RIP で運用しているがシステムの評価は高
る。1998 年からデジタル印刷に取り組み、5000 社以
い。
上の出版社から、500 万タイトルものコンテンツを預
出荷時間は受注から出荷まで平均 36 時間であり、
託され、それらの書籍を自社の DB に保管し、全国の
早いものでは 4 時間で、遅くとも 3 日から 4 日間で
図書館やアマゾンに提供している。また eBook サー
出荷する。もともと POD で倉庫・在庫を持たないが、
ビスも行っている。本社は米国テネシー州 LaVergne、
廃棄削減のために在庫削減がモットーだという。
主な事業所は、テネシー州ナッシュビル、ペンシル
プレミアムは iGEN4、Indigo7600・7250 を使用す
バニア州、カリフォルニア州フレスノ、UK(英国)、
る。表紙は基本的に、これらの機種で印刷するが機
フランス、オーストラリア、シンガポールにあり、
種選別は品質ではなくサイズで行う。Photobook など
中国ではパートナーと事業を行っている。
は全てこれらのプレミアム機種で印刷されるがコミ
ビジネスモデルは、在庫の代わりにデジタルデー
ックスはインクジェットが中心である。
タ(PDF)で保存(DB)し、注文が入ったら DB にア
クセスし、一冊から最大 1 万冊まで印刷/製本して配
送する。
郡司氏はライトニングソース社の特筆すべき点と
して、システム構築の最初は HP 社の協力を得たが、
ジーエーシティ株式会社
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だんだんと自力で構築を進め、現在では多数のプロ
一方印刷会社の立場から、黒岩氏は自社で行って
グラマーを雇用し、DB 周辺の技術に差別化を持って
いる POD ビジネスへの取り組みを紹介した後、ライ
いるという。Amazon 自体も POD の工場を作ったが、
トニングソース社の見学について述べた。
コンテンツの運用に関してはライトニングソース社
錦明印刷の製品としては、小ロット書籍、セミナ
の DB を用いた運用をしているらしいという郡司氏な
ー・研修資料、フォトアルバム、パンフレット、POP、
らではの裏話もある。
DM、名刺、事務用印刷物その他もろもろがある。ま
たビジネスの範疇としては Web to Print、データ作
福浦氏は出版社の視点から、出版社の利点を、以
下の様にあげている。

成、印刷、加工、フルフィルメント、在庫管理・発
送、プリントマネジメントと多岐にわたっている。
PDF データを預けておけば、最小 1 部から印刷・
黒岩氏はライトニングソース社の感想として、
製本可能

どのようなビジネスモデルで

上記方法で製造した書籍を読者に個別発送可能

どのようなワークフローで

モノクロだけでなくカラーやハードカバーなど、

どのような生産方式で
選択肢が豊富
ビジネスを行っているのかを視察したが、
返品リスクを極限まで削減できるサービス
 生産設備の数には圧倒されたが、個々の設備は特

そして、NextPublishing が目指すサービスを実現し
ているのがライトニングソースであるとした。
別なものではない
 人手による作業部分が多いが、識別・場内物流・
この NextPublishing とはインプレスR&Dが行うデ
生産計画などITをフルに使った管理は素晴ら
ジタルファースト方式による次世代型出版事業で、
しい
NextPublishing メソッドによる電子出版を中核とし
て、
電子出版のための電子雑誌 OnDeck の発行も行う。
 極小ロットの生産ばかりでなく、小ロットから中
ロットにかけての生産も行っている
その理念と目的は、デジタルパワーを使い、従来の
 品質管理が素晴らしい
出版モデルでは経済的に困難になっている専門書
と説明している。そして感想のまとめとして:
(多品種、少部数)の出版を可能にし、優秀な個人
受注システムや生産システムなどのIT分野やデー
や組織が保有している専門知識の多様な流通を促進
タの持ち方・保管方法などについては不明であるが
することで、社会の発展に資するとある。特徴は:
個々の生産設備は驚くものはない。しかしその物量

デジタルによる編集、制作、流通手法なので、
と生産の合理性・品質管理へのこだわり、幾多の受
圧倒的な低コストで短期間に発行できる。
注形態のものが、同一ラインで問題なく運営されて

電子書籍と印刷書籍が同じ編集プロセスで発行
いるワークフローは素晴らしいと感じたと述べた。

最初に電子書籍(リフロー形式)を作り、最終
的に印刷書籍を作る(デジタルファースト)


会場からの品質に関する質問に対して、黒岩氏は
電子書籍の基本フォーマットとして、国際標準
オフと同様に利用可能なレベルであり、個々には細
の EPUB を利用し、汎用性と発展性がある。
かな問題は有るが運用可能。ポイントはカラーマネ
印刷書籍はプリント・オンデマンド(POD)を利
ージメントとプリンターのメンテナンスをどれだけ
用し、品切れがなく、末永く販売できる。
安定できるかだとした。これはオフセット印刷用の
したがってインプレスは限定的ではあるが、日本
データをそのまま POD で出すのは問題という。また
国内でライトニングソースと同様の POD サービスを
井芹氏はライトニングソース社のコンテンツの流通
実現しているという。
量がポイントで、日本でも 100 倍になればコストも
下がるので出版社の意識は変わりつつあるとした。
ジーエーシティ株式会社
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井芹氏が日本の近代 100 年間の著作を POD 化すれば、
膨大なコンテンツとなり、より流通し、コストも下
がるという。また下がり続ける出版業界は流通を含
めた新しいやり方が必要だとした。現状初版にこだ
わり 300 部刷って書店に平積みして宣伝で売ろうと
するが、本当はロングセラーで売れる方が安定して
望ましい。書店のタナは有限であり、読者も探すの
が大変であると、電子書籍とデジタル POD のメリッ
トを示唆した。
郡司氏が過去の本の POD 出版については作家との
契約が問題ではという指摘に対して、井芹氏は 10 年
ぐらいの本だと印刷本と同じ形状で POD から出すの
は原契約でも可能だという。
流通に関わる問題として、カバーや帯の問題が質
問され、黒岩氏はオフセットと POD を全く同じにす
るのは可能だが、少部数でも人手がかかるとした。
最後に井芹氏はアマゾンが POD に参入し始め、印
刷会社が流通・配送に入ろうとしている。IT 化によ
り分かれていたレイヤーが混じり、消費者と出版・
作家の距離が縮まっているというコメントに対して、
郡司氏はライトニングソース社の戦略は、徹底的に
コンテンツと流通量を集めたことであり、それには
IT、MIS が重要だったといえるとまとめた。
この基調講演も有意義な討論であったと思う。私
自身は基本紙の本でしかも持ち運びやすい文庫本が
好みであるが、デジタルファースト世代、モバイル
ファースト世代が消費するコンテンツに関しては、
デジタルが必然になるのは明らかだろう。10 年は紙
の本は持つだろうが、その先は何とも言えない。
今、印刷業界と出版業界がすべきことは、どちらの
方向であってもフレキシブルに対応でき、形のある
本として持つ価値をオンデマンドで提供できる仕組
み作りとコンテンツ制作・管理のシステム構築では
ないかと思う。そして若い人材を育成して対応力と
発信力を付けることだろう。
ジーエーシティ株式会社