行政書士でガッチリ稼ぐ本(annex)

行政書士で
ガッチリ
稼ぐ本 annex
行政書士で
ガッチリ
稼ぐ本 annex
資格取得の方法から
資格を活かした開業・
成功例まで
資格取得の方法から
資格を活かした開業・
成功例まで
桂井茂敏
桂井茂敏
著
著
行政書士資格はこうして活かせ!
行政書士
なぜ急増?
日本経済新聞の「エコノ探偵団」は、経済に関する疑問を解きほ
ぐしてくれると好評のトレンドニュースである。
「行政書士 なぜ急増?」のヘッディングで、行政書士が増大して
いるとの記事があった。入会者が1年間で一気に1000人以上も
増えた年もあり、平成18年4月1日現在の会員数は38,875人
である。
行政書士資格はそれほど難関ではなく比較的楽に取得できるとい
うことで人気も高く、受験者も平成12年度から急増し平成17年
度には74,762名が受験している。
サラリーマンや公務員は、「会社勤めより独立開業した方がやり
がいがある」「定年後も仕事がしたい」と、仕事や将来の人生設計
にこの資格にゆきつく。
行政書士の憲法、民法、行政法、一般教養科目は、公務員試験や
就職試験の科目でもある。そこで、大学生や専門学校生は「ついで
に行政書士もゲット!」となる。
OLや主婦は、「結婚、出産後も長く続けられる」「家事、育児
と両立する」仕事と、女性にも年々超人気の資格である。
資格ブームの現代、合格のハードルがそれほど高くはない行政書
士、試験科目から論文がなくなり苦手意識の強い人には朗報だった
ようである。
また、仕事の内容も官公庁への許認可申請書の作成と提出代理か
ら、契約書や遺言書など法律に関する書類の作成、法務事務の取扱
いが増えてきているのも魅力のようである。
さらに、行政書士がヒーローのコミックが漫画週刊誌に連載中で
あり、かって、常盤貴子と深津絵里でテレビドラマ化されたことも
人気に火をつけた。
しかし、その割りには仕事の内容までは詳しく知られていない。
それどころか行政書士だけでは食べていけない、開業するには他の
資格も取得しなければならない、他の業務(資格)も兼ねなければ
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ならない資格、という大いなる誤解まで生んでいる。
確かに、行政書士は、弁護士や税理士ほど有名ではない。街中で
法律事務所や会計事務所は見かけても、行政書士事務所はあまり見
受けられない。
法律系の国家資格の中では比較的合格しやすい資格といわれる行
政書士。司法試験のように合格が難しい資格ならば希少価値もあり
イコール高収入であろうが、合格しやすい資格ならばそれほどでは
ないな、と考えたとしても無理からぬことである。
だが、現代は、社会的に有名で難易度が超A級の資格だからとい
って、必ずしも高収入が得られるとは限らない時代なのである。
実は、行政書士で、年間数千万円稼いでいる人はいくらでもいる。
あまり知られていないだけである。資格は行政書士だけ、もちろん
それで十分なのである。何か資格を取って、これから開業しようと
する人にとって行政書士が一番である。
資格が取りやすく、いつでも、どこでも、すぐに開業でき、特殊
な技能も経験もいらない。特別な許可も免許もいらない。それに何
といっても資金がいらない。
さらに、今から開業しても諸先輩に対抗して存分にやってゆける。
こんなウマ味のあるのは行政書士だけである。将来性が超有望なの
である。
資格は活かす時代だ
行政書士でガッチリ稼いでいる人は、実は、資格を活かしている
人なのである。何も特別なことをしているわけではない。行政書士
の資格を的確に活用しているのである。これから資格をめざす人は
これを知っておくべきである。
...
現代は「資格の時代」から「資格を活かす時代」になっている。
難しい資格だからといって必ずしも高収入が保証されるのものでは
ない。資格者は毎年増え続けている。例えば、税理士は全国にすで
に約7万人、しかも毎年1000人以上が新たに増える過当競争の
業界である。
ところが、行政書士は資格は持っていても、何をするのかわから
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ない人、何をしたらよいのかわからない人、資格の活かし方がわか
らない人が思いのほか多い。行政書士になりたい、行政書士で生き
てゆく、と決意してなったわりには、もうひとつ具体的なポリシー
が不足しているように感じられる。
したがって、これから行政書士をめざす人は、資格をどう活かす
のかを知っておいた方がよい。資格はもっているだけでなく、それ
をどう活かすかということである。
本書では、全国で活躍する行政書士を具体的に紹介している。
ほんとう
行政書士の 真 の情報を読者に提供する。行政書士は今、どんな
仕事をしているのか。どうすれば行政書士で成功するのか。その、
すべてをお話ししようと思う。 なま
この書は、いわば「行政書士の生の情報」ということができる。
行政書士の実務学校を創立
私は、1984年に行政書士の実務を指導する学校を創立した。
行政書士を志す人びとのために、その実務と情報を伝授する講座を
毎年開講している。
行政書士は試験に合格さえすれば開業できる。実務の知識や経験
を問われることはないので実務の勉強をしないですぐに開業する人
がいる。
開業さえすれば後は何とかなるという人、3年は仕事がなくても
生活できるだけのお金を貯めて開業したという人、3年は食えなく
てもガマンするという人、石の上にも3年だから辛抱するという人。
実は、こういう人が100%失敗する。
3年も必要ない。勝負は最初の90日間である。死にものぐるい
でやるのである。必死こいてやるのである。そうすれば開業してか
ら6ヵ月で答えがでる。
試験に合格しただけで、何をする資格なのか知らない人がいる。
資格を活かしたいと思っても活かし方がわからない人がいる。これ
ではせっかくの資格も宝の持ち腐れである。
行政書士の実務を知り、業務知識をもち、資格を活かしていただ
きたい。あなたの身近な困っている人びとの話しを聴き、その相談
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に応じていただきたいと思う。
仕事の知識が役に立つことがある。困っている人びとの相談に応
えられることがある。「資格を活かす」とは、こういうことをいう。
開業しなければ資格は活かせないというものでもない。何がなん
でも独立開業するというだけでは、これまた能がなさすぎる。
会社に勤めながらサイドビジネスで資格を活かすこともできる。
行政書士は経営法務コンサルタント
行政書士の仕事は、企業の経営についてアドバイスをし、法律に
基づいてコンサルテーションをしてゆくことである。中小企業の経
営法務コンサルタントなのである。
仕事のできる近代的行政書士とはこういう人をいう。
行政書士資格を活かす、近代的行政書士になるためにという観点
からお話してゆくつもりである。
そこで、
第1章は、行政書士とはどんな資格なのか、仕事を中心に述べた。
第2章は、行政書士になるためにはどうしたらよいのか解説した。
第3章は、開業までに準備しておいてほしいことをお話しておく。
第4章は、行政書士で活躍するにはどうすべきか具体的に述べた。
第5章は、全国で成功している行政書士の実例を上げた。
第6章は、行政書士で成功するポイントを9つにまとめた。
ほんとう
行政書士をめざす人びとに
真 の情報を伝える。このようにやれば
....
よいというおはなしではない。私たちはこのようにやってきたから、
ガイド
あなたもこうすればよいという、指針である。
こうすれば必ず成功するという具体的なマニュアルである。
近代的行政書士になっていただきたい。そして、私たちとともに
活躍していただきたい。
2006年5月
桂
井
茂
敏
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◆売買契約書
◆賃貸契約書
◆請負契約書
◆委任契約書
◆代理店契約書
◆内容証明郵便
◆内容証明郵便のポイント
◆内容証明郵便の活用
◆示談書
◆相続と遺言書
◆公正証書遺言のすすめ
◆遺産分割協議書
◆知的財産権
◆創作事実証明書の作成
◆行政書士は経営法務コンサルタント
◆区役所にて区民のための相談
CONTENTS
行政書士資格はこうして活かせ…………………………1
第1章
1
行政書士はどんな仕事をしているのか…………11
大きな行政書士事務所…………………………………12
◆行政書士補助者募集
◆ビルの9階で職員23名、顧客3000社
◆建設業許可申請業務
2
行政書士の仕事は相談に応じること…………………14
◆行政書士の仕事は相談に応じること
◆実務は、いつも相談から始まる
◆話しを聴くということ
◆相談は無料ではない
3
行政書士は書類を作成することもある………………20
◆書類の作成をする
◆権利義務・事実証明に関する書類
◆官公署に提出する書類とは何か
4
行政書士は官公署に提出することもある……………24
◆官公署に提出することもある
◆官公署に提出する書類の作成
◆行政書士が代理して提出するとは
◆代理ではなくて代理人としてとは
◆行政書士の申請手続代理
◆代理できない申請もある
5
行政書士は契約その他の書類を作成する……………29
◆契約その他に関する書類
◆契約書とは
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6
他の国家資格との職域と業務範囲……………………46
◆弁護士との職域
◆事件性とは
◆交通事故示談業者
◆遺産相続関係手続報酬金請求訴訟
◆法律業務はどこまでできるか
◆税理士との職域
◆公認会計士との職域
◆社会保険労務士との職域
◆司法書士との職域
◆弁理士との職域
◆その他の職域
第2章
行政書士になるには(省略)
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1
2
行政書士になるには
第4章
◆行政書士になるには
◆行政書士試験超人気の秘密
◆行政書士試験
1
第3章
1
2
行政書士資格のメリット………………………………85
◆行政書士はこんなにも有利
◆円満解決能力のある人
◆法律に独占業務の規定がある
◆多くの顧客ができる
◆はじめの一歩
◆宅地建物取引主任者資格を活かす
◆まだ過当競争になっていない
◆会社での経験がそのまま行政書士業務になる
3
行政書士の業務と報酬…………………………………93
◆行政書士の主要業務
◆行政書士の受ける報酬
◆業務の完遂と報酬請求権
◆保存版行政書士報酬額表
開業前に準備しておくこと………………………55
合格したら実務を学ぶ…………………………………56
◆合格したら実務を学ぶ
◆簿記を学ぶ
◆実務の研修
◆行政書士実践実務研究会
2
行政書士はなぜ有望なのか……………………………81
◆行政書士としてポリシーをもつ
◆事務弁護士ソリシター
◆離婚相談室○○センター
◆法律相談
◆行政書士は事務弁護士ソリシター
行政書士試験に合格するには
◆行政書士試験に合格するには
◆憲法の対策
◆行政法の対策
◆行政手続法の対策
◆行政不服審査法の対策
◆地方自治法の対策
◆民法の対策
◆商法の対策
◆税法の対策
◆基礎法学の対策
◆これが一般知識の勉強の仕方
◆人文分野の対策
◆社会分野の対策
◆合格への王道
行政書士でガッチリ稼ぐには……………………80
事務所を設け登録・入会する…………………………67
◆登録・入会する
◆事務所設計マニュアル
◆什器備品と文書管理
◆使用人とその他の従業者
◆補助者を雇うか、ひとりでやるか
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4
行政書士の将来…………………………………………98
◆規制緩和で業務は拡大する
◆ますます増える外国人・国際関係業務
◆数字に強い行政書士
◆経理や総務は行政書士の仕事
◆行政書士は経営コンサルタント
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第5章
1
全国で成功している行政書士の実例…………・105
建設業許可申請が専門業務…………………………・106
第6章
行政書士で成功する9つのポイント…………・134
1
何をするのかを明確にすること……………………・135
2
ひとりでも多くの人に知ってもらうこと…………・139
3
広告しろ、宣伝しろ、営業しろ……………………・142
4
兼業を禁ずる…………………………………………・145
5
よろず屋になってはならない………………………・147
6
成功はヤル気次第という精神論……………………・149
7
行政書士との付き合い………………………………・151
8
サクセス・センス……………………………………・153
◆Aさんの成功のポイント
2
風俗営業許可申請で業務拡大………………………・109
◆Bさんの成功のポイント
3
外国人関係業務の申請取次行政書士………………・110
◆Cさんの成功のポイント
4
会計記帳業務で顧問先を増やす……………………・112
◆Dさんの成功のポイント
5
行政書士事務所からの紹介で超多忙………………・114
◆Eさんの成功のポイント
6
会社を設立したら離さない…………………………・116
◆Fさんの成功のポイント
7
顧問契約を結ぶ………………………………………・118
◆Gさんの成功のポイント
8
相続業務はますます増大する………………………・120
◆Hさんの成功のポイント
9
行動力が決めて………………………………………・122
9 運を呼び込む…………………………………………・156
◆Iさんの成功のポイント
10
外国人業務を新聞にリリース………………………・124
◆Jさんの成功のポイント
11
やさしい遺言の書き方教室…………………………・126
◆Kさんの成功のポイント
12
運送業許可申請が専門業務…………………………・128
◆Lさんの成功のポイント
13
あなたの相続相談室を開設…………………………・129
◆Mさんの成功のポイント
14
顧客獲得はDMから始まった………………………・132
◆Nさんの成功のポイント
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1
第1章
大きな
行政書士事務所
行政書士は多くの顧客をもつことができる
◆行政書士補助者募集
行政書士は
どんな仕事をしているのか
◆行政書士は経営法務コンサルタント
行政書士の仕事は
ひとつは相談に応じること
ひとつは書類を作成すること
人びとや中小企業のコンサルタントなのである。
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「補助者募集! 行政書士N事務所」
もう20年以上も前のことである。朝日新聞の求人広告に目が止
まった。「えっ、行政書士が事務員を募集している!」と驚いた。
というのも、行政書士という資格は知っていたが、運転免許の申請
が仕事という程度である。それほど魅力を感じる資格でもなければ、
取ろうという思いもなかった。それがまさか新聞でリクルートする
事務所があるとは思いのほかであった。どんな事務所なのか、ぜひ
見てみたいと興味をもった。
当時、経営と経理を指導する「桂井経営経理事務所」を開設して
いた。学生時代から、将来は、中小企業の経営を助言する、いわば
街医者になりたいと思っていた。なぜ中小企業なのかと問われると
何であるが、今から思えば、祖父は小さな会社の経営者で、「社長
といっても(イバっていられるわけでなく)大変だなあ。」と子供
心に思ったものである。営業の第一線で陣頭指揮をとりながら、帳
簿もつければ資金集めにも東奔西走する。労務管理もすれば雑用も
する。いわゆる中小企業はないものだらけである。組織もなければ、
金もない。伝統もなければ、信用もない。そのひとつひとつを一か
ら作ってゆくには時間がない。社長ひとりがいわば営業部、経理部、
総務部…。
中小企業に経理や総務の事務スタッフを雇う余裕がないならば、
社外に求めればどうだろうか。知恵や手を貸してくれる人、相談相
手を社外にもてばよい。
アウトブレーンになりたい、多くの中小企業者と出会いたい、と
願っていた時でもあった。
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◆ビルの9階で事務員23名、顧客3000社
N事務所は、渋谷駅から徒歩1分のビルの9階、そのドアを開け
て驚いた。広々とした50坪位のフロアーにスタッフが23名もい
たのである。行政書士は、官公署のそばで隠居仕事のように細々と
営むという、これまでの固定観念が吹き飛んでしまった。
N先生と面接する。聞くと顧客はナント3000社!官公署のそ
ばで客が来るの待つ事務所ではない。こちらから客を訪問する事務
所であった。カルチャー・ショックを受けた。行政書士が、こんな
にも多くの顧客をもつことができるとは。
それまで経験してきた会計・経理の業界では、顧客の数は30社
もあれば御の字、10社もあれば食えると言われる。それが10倍
どころかなんとまあ100倍である。行政書士という資格はとにか
く数の上では多くの顧客ができる。今まで望んできた多くの中小企
業と出会うことができるということだけは事実であった。
◆建設業許可申請業務
N事務所の主な業務は、建設業許可申請書の作成である。
建設業を営もうとする者は、国土交通大臣又は都道府県知事の許
可を受けなければならない(建設業法3条)。
N事務所は、この許可申請だけでなく、3年(現在は5年)ごと
に許可の更新申請、毎年の決算報告、経営事項審査申請、公共工事
入札資格申請などの手続きを行ってきて、顧客が3000社になっ
たのである。
ちなみに、全国で建設業の許可を受けている建設業者は約56万
社以上もある。飽和状態で厳しい経営環境が続く業界であり、倒産、
廃業、転業がうち続くが、一方で許可を受けずに営む業者があり、
新規開業をはかる者もいる。新陳代謝の激しい業界であるが、その
ことがむしろ顧客のニーズがあるということでもある。
行政書士の業務は3000種類以上あると言われるが、ひとつの
事務所が手がける業務はそんなに多くはない。2、3の主たる業務
を決め専門分野を確立している。医者といっても内科、外科、眼科、
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耳鼻科などそれぞれ専門があるように、行政書士も、建設・宅建関係、
国籍・外国人関係、運輸関係、風俗・飲食業関係など、それぞれ得意
な分野、専門分野をもっている。行政書士で成功する秘訣のひとつ
は、専門分野を確立することである。
「行政書士さんって、何をしているのですか?」と聞かれて、
「官公署へ提出する書類を作成する」「許認可手続をする」と言って
いるようでは成功はおぼつかない。行政書士で食えるとか食えない
とか言っている以前に、自分の業務を具体的にわかりやすく人びと
に話すことが先決問題である。
スタッフが多いから立派な事務所だ、よい事務所だとは言わない
が東京には顧客1万社のO事務所、北海道札幌には職員15名顧客
1500社のS事務所がある。その他にもスタッフが何人も働く行
政書士事務所は全国各地に存在している。
世間一般に言われるように行政書士は仕事がなくて食えない資格
であるならば、これほどスタッフを雇う必要がないし、雇うことは
できない。そこに多くのニーズがあるからそれに応える行政書士が
いる。とにかく、行政書士は多くの顧客が作れる資格であることだ
けは間違いない!
2 行政書士の仕事は
相談に応じること
「書類を作成する」前に「相談に応じる」がある
◆行政書士の仕事は相談に応じること
行政書士の仕事は大きくわけてふたつある。ひとつは「書類を作
成する」ことであり、もうひとつは「相談に応じる」ことである。
行政書士の業務は、行政書士法1条の2で、「行政書士は、他人
の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(中略)その他権
利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含
む。)を作成することを業とする。」と規定されている。
そこで巷間、行政書士を語るに「行政」「書」「士」だから「行
ひと
政」書類を「書」く「士」であり、もって「官公署に提出する書類
- 14 - Copyright c 2006 katsurai
を作成する資格」「許認可手続の書類を作成する資格」と言われる。
そう言われればまさにその通りなのであるが、これから受験をめ
ざす人はともかく、すでに行政書士になっている者がよしんばそう
せいこく
思っているとしたら、正鵠を誤ることになる。
なぜならば、「書類を作成する」という行為は行政書士の業務の
中でもほんの一部を言うにすぎない。「書類を作成する」ことよりも
「相談に応じる」ことの方が大きな位置を占めるのである。
行政書士法1条の3に「行政書士は、前条に規定する業務のほか、
他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることがで
きる。」とあり、同法三号で「前条の規定により行政書士が作成す
ることができる書類の作成について相談に応ずること。」と規定さ
れている。
条文は、同法1条の2の「書類を作成する」ことの後に同法1条
の3の「相談に応ずる」ことがあるが、業務の後先をいえば、「相
談に応ずる」ことが先である。書類を作成するにあたって、まず、
依頼者と相談をする、これを相談業務という。
すなわち、依頼者と相談をしなければ書類にならない=仕事にな
らないのであって、言い換えれば、相談に応じなくても作成できる
ような、いわば誰でも簡単に書けるような定型的な書類の作成は、
専門業務にしない方がよいということである。
官公署のそばに事務所を構え大きな看板を掲げる。官公署へ来た
人たちの中には、書類を自分で書くのは面倒だから事務所に来て
「書類を作成する」ことを依頼する。そこで、依頼者の面前で直ち
に「書類を作成する」。いわば登記所のそばの司法書士と同じイメ
ージで、行政書士をとらえない方がよい(せめて、これから開業し
ようとする近代的行政書士は)。
依頼者の相談に応じ、(チョットは)頭を使うことが行政書士の
これからの仕事である。
◆実務は、いつも相談から始まる
「会社を作りたいのですが?」
「何を用意したらいいでしょうか?」
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実務はいつも相談から始まる。事務所を訪れる依頼者、顧問先の
社長からの電話、おしなべて相談である。相手の話しをひとつひと
こた
つ丁寧に聴き、わかりやすく応えてゆくことが仕事である。
行政書士になってかれこれ20年になるが、依頼者から「会社設
...
立の書類を書いて下さい」と言われたことはいまだかってない。会
社を作りたいと思っても細かいことはわからないので専門家に頼む。
その書類の書き方ばかりではなく、会社を作るのに相談したいこと
があるから専門家に頼むのである。
会社にするメリットは何か?
商売を始めるが、会社にした方がよいのか、個人事業で始めた方
がよいのか。会社にすると何が得なのか。個人事業とどこがどう違
うのか。デメリットはないのか。
何年も個人事業でやってきたが、会社にしたら個人の時の設備や
商品などの資産はどうなるのか。会社が引き継いでくれるのか。
会社にするとして、株式会社がよいのか、合資会社や合名会社が
よいのか、どう違うのか、合同会社(LLC)とは何か。
有限責任事業協同組合(LLP)というのがあるらしいが、どん
なケースに設立したらいいのか。
会社の商号には、どのような決まりがあるのか。
会社の目的には、どのよう表現の仕方があるのか。
会社の資本金はいくらにして、株主は誰と誰なのか。
取締役や監査役にはどんな責任があり、どんな人が適任なのか。
このようなことにも相談に応じ、わかりやすく、丁寧にアドバイ
スしてゆく。士業者の中にはとかくこ難しく話して、辟易される者
がいると聞くが、専門家ならば平易な言葉で語ることである。難し
いことを優しく、優しいことを深く、深いことを面白く話すことで
ある。専門家と言われる人種は、あれこれ物事を難しくしがちだが、
一般に支持されなければ意味がない。より単純化するのが真の専門
家というものである。それができるのが行政書士であり、実は、そ
れは法律の知識ではなく、その人の教養のなせるワザなのである。
「書類を作成する」というプリミティブ(primitive)な行為は、行
政書士業務の中で占める割合が小さいと言うのもここにある。
会社を設立するというのは、書類を書いて登記所へ出すことなの
ではない。いわば人の誕生と同じと考えられるだけの感性の豊かさ
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やバランス感覚などが必要なのである。
◆話しを聴くということ
では、「相談に応じる」というのだから、依頼人の話しをそのま
まおとなしく聞いていれば良いかというと、答えは当然ノーである。
.
.
相手の話しを聞くのではなく聴かなければならない。耳で音や声
.
.
をただ感じとるのは聞く。耳を傾け、注意して聞き取るのを聴くと
.
いう。であるから、人の話しを真剣に聴くことはエネルギーがいる。
へとへとになってしまうこともある。
聞き上手という言葉がある。相手が話しやすいように受け応えし
て、巧みにその人の話しを聞くことをいうが、行政書士は聞き巧者
でなければならない。依頼者の話しをよく聴くことである。相談と
は、コンサルテーションではなくヒアリングである。
依頼者は必ずしもすべて事実を話すとは限らない。自分に都合の
良いことだけを話し、具合の悪いことは話さない、ときにはウソも
つく。依頼者の話しを鵜呑みにした結果、仕事がうまくいかないど
ころかトラブルに発展することもある。だからといって虚偽を述べ
た依頼者が悪いと責めても仕方がない。都合の悪いことは話さない、
これまた人情で、自分に才知が足りなく、事理に暗く、識見がなか
ったと、おのが不明を恥じることである。
弁護士や司法書士など専門的職業人による法律相談に対する苦情
として「話を聞いてくれなかった」「尋問のようだった」などがよ
く挙げられる。相談に応じているのか、説教をしているのかわから
ないのもいる。素人をオドシテどうするのだ(笑)。
とかく法律家の相談は、要件事実論の考え方があるようでその点
を聞き出そうとする。人生相談のような話しにいらつき遂には質問
を始める。このような対応を考えれば、「尋問のようだった」との
批判がなされることは当然のことである。一生懸命話している最中
に、「このケースはこれこれしかじかの事件だから、要件事実は
…。」と考えをめぐらせ短時間の間にその事実を聞き出そうという
ことばかりあせるのである。
人の話を聴くというのはカンタンそうで、これがなかなかムズカ
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シイ。第一に、知識がなくてはならない。法律知識はもとより、世
事にも通じていなくてはならない。相手は法律に疎く何をどのよう
に順序立てて話してよいかわかってないことや、自分の感情にとら
われて枝葉末節なことを何度も繰り返したり、反対に、すべて話し
てしまうと自分に不利になるのではないかと肝心なことには言葉を
濁すことがある。
そこで第一に、信頼関係を構築するためには、資格や法律だけで
はなく、加えて教養がなくてはならい。真の専門家とは、門外漢に
対してやさしい心づかいができる人のことである。
第二に、こちら側の理論を話さないことである。人間というのは
自己顕示欲が強いので話したがり屋が多い。総じて話すというのは
楽なのである。疲れないしエネルギーを消耗しないのである。だか
ら、相手の話を生半可に聞き相手の10倍も話してしまう。相談と
はコラボレーション(collaboration)なのである。コミュニケーシ
ョンを円滑かつ適切にするには、聴くことのスキルを磨かなくては
ならないのである。
そして、第三に、これが最も大切なのであるが、コワイ顔をしな
いで(笑)、スマイルをもって応じなければならない。概して、相
手と信頼関係が初対面からできていることはマレであり、ファース
トインプレションが大切である。服装、身だしなみ、言葉づかいに
も注意を払いたいものである。
◆相談は無料ではない
書類の作成までに至らず、相談だけで仕事を終えてもよい。
依頼者が行政書士の話しを聞いて、「とてもよくわかった、自分で
書類を作成できる」と考えたならば、それはそれでいい。
書類を書かなかったから仕事にならなかった、お客を逃がしたの
ではない。説明が良かったのである。物事の道理と仕組みについて
素人にもわかりやすく話したのである。自分の能力を誇りに思って
よい、喜ぶべきことである。
チョット話せば素人にもわかる簡単なことを、ことさらこむずか
さむらい
しく理屈をこねて講釈して成り立つ 士 業もあると聞くが、行政書士
- 18 - Copyright c 2006 katsurai
はその必要がない。合格するのが難しいと言われる資格ほど、その
仕事はわりとそうでもない。
行政書士は試験が簡単と言われる分、仕事はちょっとハードなも
のがある。依頼者が一見して自分でできると考えたとしても、実際
はかなり手数がかかるものである。一度自分でやったとしても、そ
の後は行政書士に依頼してくるのがゆきつくところである。
ところで、相談だけで仕事を終えたとしても無料ではない。事務
所の相談料の規定に基づき相談報酬をもらう。
これくらいは無料にすべきだ、友だちだから、近所だから、将来
は客になるから、といってサービス(無料報酬)にすべきだという
人もいる。しかし、行政書士のサービスというのは、タダでやった
り、安くやったりすることではない。特に、開業したての行政書士
にその傾向があるが、それだけはやめた方がよい。
行政書士が、サービス(無料報酬)でやらなければならないこと
はもっとほかにある。仕事としてやるべきことと、社会奉仕(ボラ
ンティア)でやるべきことを分けなくてはいけない。
もし近所の人びとのために、行政書士としてボランティアをした
いというのであれば、毎月第2土曜日を無料相談日と決める。事務
所を開放して、その日に限って無料で相談に応じる。さらにひとり
で行なうのではなく、何人かの行政書士と共同で実施してもよい。
行政書士だけでなく、法律や税金などの相談にも応じられるように
弁護士や税理士など他の士業者にも協力をしてもらう。それでこそ
ボランティアである。
本当は報酬をもらうつもりだったが、たまたまお金がもらえなか
ったから、後でこれはボランティアだったと言い訳するのならば、
そんな人は行政書士をやめなさい。
必殺仕置き人の中で中村主水が言う。「俺たちは、人助けをして
いるんじゃない。俺たちが思いあがりをしないために、俺たちは、
お金をもらうんだ。」
- 19 - Copyright c 2006 katsurai
3
行政書士は書類を
作成することもある
どんな書類を作成するのか
◆書類の作成をする
仕事が相談だけで終わるものならばその方がよい。話しをするだ
けでお金がもらえるし、何しろ楽ちんである。
しかし、相談の結果、依頼者から書類も作成してほしい、と言わ
れれば書類の作成も引き受ける。ここで初めて業として書類の作成
をする。
行政書士が作成する書類は「権利義務に関する書類」と「事実証
明に関する書類」である。断わるまでもないが「官公署に提出する
書類」ではない。
「権利義務」「事実証明」日常的にはあまり使わない言葉かもしれ
ない。
- 20 - Copyright c 2006 katsurai
行政書士法1条の2の「行政書士は(中略)権利義務又は事実証明
に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成すること
を業とする。」からきている。
①権利義務に関する書類というのは、権利の発生、存続、変更ある
いは消滅の効果を生じさせようとして作成する書類をいう。
賃貸借契約書、金銭消費貸借契約書、遺言書、遺産分割協議書、
示談書、始末書、定款、就業規則、賃金規定などをいう。
②事実証明に関する書類というのは、社会生活上のさまざまな権利、
利益が守られるように事実(事項)について証明するために書類
を作成することをいう。
内容証明郵便、交通事故調査書、財務諸表、商業帳簿、履歴書
(会社経歴書、略歴書など)、実施調査に基づく図面(最寄りの駅
からの案内図、営業所の平面図、見取図など)などをいう。
◆権利義務・事実証明に関する書類
「権利義務・事実証明に関する書類」とは、何となくわかったとして、
では、その書類の作成が、業として(仕事として)、誰から、どの
ように、行政書士に依頼されるのかと疑問に思ったのではないだろ
うか。
不動産賃貸借契約書は不動産屋が作成するし、金銭消費貸借契約
書は金を貸す方が作成するであろう、履歴書は本人の自筆のはずで、
いったいどこに行政書士が関与する場合があるのだろうか、と。
そう思うのも無理はない。街中や官公署のそばにある事務所に、
「行政書士さん、不動産賃貸借契約書を作成して下さい」「内容証明
書を書いて下さい」と、お客さんが飛び込みで依頼があるのではない。
しかし、業として不動産賃貸借契約書を作成することもあれば、
内容証明書を作成することもある。
営業の免許を申請するに際し、営業所を賃借しているのであれば
賃貸借契約書の写しが必要である。もとより賃貸借契約書がありそ
うなものであるが、たまたま社長個人の家を営業所としていた場合
にないことがある。そこで、営業免許申請書の作成に付随して、社
長個人を貸主、会社を借主として賃貸借契約書を作成する。
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賃貸借契約書は「権利義務・事実証明に関する書類」で、作成す
るのは行政書士の業務であるといっても、賃貸借契約書だけを作成
するということはあり得ない。
内容証明書の作成を考えてみよう。
エステサロンと契約をしたのだが、当初の説明とサービスがまっ
たく違う。中途解約して返金してほしいのだが、と相談を受ける。
相談の時点では内容証明がどうのという段階ではない。消費者契約
法や特定商取引に関する法律などを基に相談を進めてゆく。やがて
これはクーリングオフをする、解約の通知は内容証明郵便で出した
方がよいという結論に達する。どのような内容でどのように書くの
かを顧客と相談する。そこで初めて内容証明書の作成が仕事になる
のである。
「行政書士さん、内容証明書を書いて下さい」と、内容証明書に関
する知識がある人ならば、その人は本屋に行って「内容証明書の書
き方」という本を買い、自分で作成する。
◆官公署に提出する書類とは何か
行政書士法1条の2は、「行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得
て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的
方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができな
い方式によって作られる記録であって、電子計算機による情報処理
の用に供されるものをいう。以下この条及び第19条1項において
同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この
条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する
書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とす
る。」である。
行政書士法1条の3は、「行政書士は、前条に規定する業務のほ
か、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすること
ができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限さ
れている事項については、この限りでない。
一 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提
出する書類を官公署に提出する手続について代理すること。
- 22 - Copyright c 2006 katsurai
二
前条の規定により行政書士が作成することができる契約その他
に関する書類を代理人として作成すること。
三 前条の規定により行政書士が作成することができる書類の作成
について相談に応ずること。」である。
行政書士は「官公署に提出する書類を作成するのが仕事」と言わ
れるのであるが、これは、今まで述べてきたように次のように考え
てゆきたい。
まず、相談。「法務相談」(同法1条の3三号)をすることが第
一である。相談だけで業務を終えてよい。ところが、書類も作成し
てほしいと依頼されたならば、ここで初めて「書類を作成する」
(同法1条の2及び1条の3二号)。書類の作成だけで業務を終え
てよい。
ところが、官公署に提出する必要があると行政書士が判断したな
らば、ここで初めて「官公署へ提出する」(同法1条の3一号)こ
とになる。つまり、官公署へ提出することを前提に書類を作成する
のではないということである。ちょっと理屈ぽっくなったが、具体
的にみてみよう。
建設業許可申請書がある。建設業を営もうとする者は、建設業の
種類(業種)ごとに、国土交通大臣又は都道府県知事の許可を受け
なければならない(建設業法3条)。建設業許可申請書の作成並び
に提出手続代理は行政書士の業務である。
東京都知事の許可を受けようとするならば、書類は東京都知事に
提出する。だから、建設業許可申請書は官公署(この場合は東京都
庁)に提出する書類である、と言って言えないことはない。
..
たやす
しかしそこには、役所に書類を単に提出する、提出すれば容易く
..
受理されるというニュアンス(nuance)がないか。
そこが違う。書類を提出しさえすれば全てが受理され、全てが許
可されるのではない。許可を受けるためには、申請者が許可の基準
(許可を受けるための資格要件)を備えていなければならない。
すなわち、「官公署に提出する書類」とは何かというと、実は、
..
「権利義務と事実証明に関する書類」の集積なのである。
申請者は、建設業を履行するに足る誠実性や金銭的な信用を有し
ているか、経営業務を管理する責任者がいるか、専任の技術者が置
かれているか等の審査を受ける。
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許可の基準があることを証明するために書類を作成するが、大切
なことは、それを事実として裏付ける疎明資料、原始証憑によって
書類を作成するということである。当該申請については、この資料
とこの書類によって間違いなくこの事実がある。よってこの書類を
作成したということが重要なのである。ここを間違ってはいけない。
建設業許可申請書は「官公署に提出する書類」であるという以前
に事実を証明する書類なのである。「権利義務・事実証明に関する
書類」の積み上げなのである。
疎明資料を基に、行政書士自身がこれは事実であると確認する。
そこで、それを書類にする。そして、そのこと(事実)を証明する
ことによって行政書士の業務は完了する。
4
行政書士は官公署に
提出することもある
官公署に提出する書類とは
◆官公署に提出することもある
行政書士が作成した「権利義務・事実証明に関する書類」を官公署
に提出した方がよい、しなければならないと、行政書士自身が判断
したならばその旨を依頼者に伝える。
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その場合でも、まず第一には依頼者が自ら官公署に持参して提出
すればよい。書類の内容は完璧なのである。官公署に100%受理
され、許可されるはずである。
ところが「仕事が忙しいので、代わりに行って下さい。」と依頼
されれば、ここで初めて行政書士が代理して提出しに行くことにな
る。それが、行政書士法1条の3一号「前条の規定により行政書士
が作成することができる官公署に提出する書類を官公署に提出する
手続について代理すること。」になるのである。
行政書士は、官公署に提出する書類を作成するというが、単に書
類を出す、子供が生まれたから出生届を出すとか、おじいちゃんが
死んだから死亡届を出すということではない。
ある事情について、その目的を達成するため、法律上、官公署な
どにあらかじめ書類を申請しなければならないことがある。これに
対して、官公署すなわち行政庁は、法律の定めるところに従い、そ
の一方的な判断に基づき申請者の権利義務その他の法的地位を、許
可や認可という行政行為によって具体的に決定する。
行政書士は、こうした書類を他人の依頼によって報酬を得て作成
するとともに、官公署へ提出する手続きを他人に代わって代理する
のである。
◆官公署に提出する書類の作成
行政書士の基本的な業務は、「官公署に提出する書類の作成」で
ある。今後ともこの業務がベースである。
「お客さんから建設業の許可をもっているかと聞かれたけど、私ど
もの会社でも許可が取れるでしょうか。」
建設業の許可を取りたいという依頼者は、取れるという確信をも
って「書類を書いてほしい。」と依頼するのではなく、許可が取れ
るか否かわからない段階から依頼してくる。許可が受けられるのな
らば取って下さいということになる。
官公署にスムースに書類が受理されることは確かに重要であるが、
法律相談の結果、「権利義務・事実証明に関する書類」を作成して
「官公署に提出する(書類)」という認識が必要である。
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行政書士は、書類が官公署に受理されなければ仕事にならないが、
それは、あくまでも「事実」に関する書類であって、官公署に受理
されんがための「事実でない」書類の積み上げであってはならない。
官公署へ提出する書類を具体的に列挙する。
①建設、建築に関するもの
建設業許可申請、経営事項審査申請、建設工事等入札資格審査
申請、電気工事業者登録申請、宅地建物取引業者免許申請、建築
士事務所登録申請など。
②法人設立に関するもの
一般財団法人、一般社団法人、NPO法人、社会福祉法人、医
療法人、宗教法人、学校法人の設立など。
③外国人の在留、国籍に関するもの
外国人が日本に在留するための許可申請の手続、外国人が日本
国籍を取得する国籍帰化申請の手続、日本人と外国人との国際結
婚による戸籍の手続など。
④営業の許可に関するもの
風俗営業、飲食店営業、貨物運送業、産業廃棄物処理業、旅行
業、労働者派遣業、貸金業、旅行業、古物商、理容業、美容業な
どの営業許可申請など。
⑤自動車、運転許可に関するもの
自動車の登録申請、車庫証明、運転免許申請、交通事故保険金
の請求など。
⑥知的財産・福祉に関するもの
著作権登録申請、プログラム登録申請、種苗法による品種登録
申請、介護保険制度による申請など。
◆行政書士が代理して提出するとは
行政書士法に代理権が明文化されが、この代理の意味をどう解釈
するかについては、民法99条の規定に沿ったものと考えてよい。
「代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした
意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。
- 26 - Copyright c 2006 katsurai
2 前項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について
準用する(民法99条)。」
代理権を考える上で注意したいのは、以前の提出手続代行と申請
手続代理の違いである。提出手続代行とは、本人の決定した意思表
示を、本人の委託により伝達する使者の概念に近い行為をいう。申
請手続代理とは、法律効果を生じさせる意思決定にかかわるような
重要な事項に関して主張、陳述、説明、回答、補正、受領、取り下
げ等を本人に代わって行う行為をいう。
現代は、他人を利用して社会活動を広げる場合に、本人と他人と
の法的な関係は、指揮命令の関係か、それとも両者が対等な関係か
により異なると考えられる。
この関係の違いは裁量権の有無である。指揮命令の関係では、任
された他人には裁量権はなく、本人の決めた意思に従って行動しな
ければならない。一方、対等な関係の場合は、裁量権があるので、
自分の考えで行動することになる。
この関係を法規に照らすと、裁量権があれば委任契約となり、裁
量権がなければ労働契約、雇用と考えられる。
他人と相手との関係で他人に顕名するか否か、「代理人」と表示
して他人が行為する方式が「代理」で、「本人」とだけ表示して他
人が行為する方式が「代行」である。
行政書士と依頼人との関係は、以前は代行であり裁量権もなかっ
たわけであり、現在は代理となるので裁量権に基づいて行為をする
ことになる。
◆代理ではなく代理人としてとは
ところで、行政書士法1条の3二号で、「前条の規定により行政
書士が作成することができる契約その他に関する書類を代理人とし
て作成すること」と、「代理」ではなく「代理人」として作成する
と規定されている。「代理」とする方がすっきりするのであるが、
これは行政書士法改正の中で弁護士法72条との関係で、「人」を
入れて問題点をクリアーした経緯があるようである。
「代理人として」とは、契約等についての代理人としての意であり、
- 27 - Copyright c 2006 katsurai
直接契約代理を行政書士の業務として位置づけられるものではない
が、行政書士が業務として契約代理を行うことができると解される。
この規定により、行政書士が、契約書に代理人として署名し、契約
文言の修正等を行うことができるという意味である。
「代理人として書類を作成することができる」ということは、書類
を作成する前提として「契約代理」を行うことを想定している。行
政書士の予防法務に関する業務を重視したものと言える。
◆行政書士の申請手続代理
民法で定められている有権代理が成立するためには、第一に本人
が代理人に委任する意思を有していること、第二に代理人が本人の
為にすることを示していること(顕名)、そして、代理人の行った
代理行為が代理権の範疇であることが必要である。当然ながら本人
の委任意思と委任範囲を明確にするために、本人が代理人である行
政書士に委任状を発行することが必要となる。
委任事項の書き方としては、包括的な委任であるならば、
「○○申請に関する一切の権限」
「○○申請並びに許可証を受領する一切の権限(処分通知の扱い
も明確化した場合)」
「○○申請に関する書面の作成、申請代理、補正、手数料の支払
い、許可書の受領(委任事項を列記した場合)」のように記載する
必要がある。
提出手続の委任だけならば、「○○申請書の提出手続代理に関す
る一切の件」となる。
その他、原本還付請求、取り下げ、復代理人の選任、解任、税務
関係証明申請代理等の事項を、文中又は別途項を立てて記載するこ
とにより、委任範囲を明確化することもできる。
官公署の窓口等においては、担当官の求めに応じて委任状の提示、
提出の必要な場合がある。行政書士証票に関しても許認可等申請書
の提出を代理する場合、窓口等の求めに応じて行政書士であること
を証するために提示しなければならない。
官公署への手続で委任状の提出を求められたときには写しを、そ
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れ以外の時には原本を保管すること。委任状とは別に、依頼者との
間で行政書士報酬も取り決めた業務委託契約書を交わすことが望ま
しい。
これにより後日、依頼者との問の無用のトラブルを回避、軽減す
ることが可能となる。業務委託契約書も委任状の原本又は写しとと
もに保管することが必要である。
◆代理できない申請もある
個別法で本人出頭主義の規定があるものは代理が許されず、代理
になじまない行為といえる。出入国管理及び難民認定法においては、
本人が出頭して書類を提出することが原則になっている。
「地方入国管理局長が特に認めたもの」(同法施行規則19条3
項)として、行政書士、弁護士、一定の機関の職員が申請取次がで
きる申請取次行政書士の制度があるが、これは、代理権の行使では
ないので、入国管理局の担当官が本人の同行を要求したときには、
それに従わなければならない。
次の行為が代理になじまないものとして留意しておかなければな
らない。
①国籍関連業務
②外国人登録関連
③外為法関連
④帰化許可申請(書類の作成はできるが、本人出頭主義)
⑤在留資格変更許可申請(日本在留の外国人によるもの)
⑥在留期間更新の許可申請
⑦再入国の許可申請
⑧在留資格認定証明書交付申請
5
行政書士は
契約その他の書類を作成する
契約その他に関する書類とは何か
- 29 - Copyright c 2006 katsurai
◆契約その他に関する書類
コンビニで週刊誌を購入するのも契約(売買)なら、「売買は、
当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方
がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その
効力を生ずる(民法555条)。」「誕生日にエルメスをプレゼン
トするよ」とカノジョに言うのも契約(贈与)である。「贈与は、
当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、
相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる(同法549
条)。」
友人からチョット1万円借りても契約(消費貸借)だし、「消費
貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還
をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによ
って、その効力を生ずる(同法587条)。」休日に自動車を借り
たら、これも契約(使用貸借)である。「使用貸借は、当事者の一
方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方
からある物を受け取ることによって、その効力を生ずる(同法59
3条)。」
生活に深く密着した契約であるが、契約はこのように原則的には
口頭で成立する。
ところが、契約といえば、契約書に署名・捺印することや、契約を
締結することが考えられる。マンションを借りた場合の賃貸借契約
などである。「賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を
相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払
うことを約することによって、その効力を生ずる(同法601
条)。」
契約書に署名・捺印するということは、記録を形にして残すという
行為であり、契約内容に合意をするという法律上の行為を構成し、
契約により債権・債務が発生することになる。
契約を締結することによりまず最初に債権が発生すると同時に、
その権利に対応する債務が発生する。当事者について、その債権の
範囲(相手にとっては債務の範囲)、有効期間、それらの制限、例
外などを決めなければ無制限に権利を行使されてしまう。
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◆契約書とは
◆賃貸借契約書
契約書には、履行すべき内容が明記されたマニュアルとしての機
能と、契約事項に対して何らかの疑義が生じたり紛争が生じたりし
た場合にそれを解決するための根拠となる機能を有する。
疑義や紛争の対象となる事項は、当事者の権利と義務に関するこ
となので、権利の範囲、期間と義務の範囲、期間について記載する
ことが重要である。後日、誰が読んでもその内容の解釈に客観的な
判断ができるようにする。
記載すべき項目と内容は当事者の権利と義務であるので、基本的
には自分の権利は広く、多く、長く、相手の権利は狭く、少なく、
短くなるように相手と交渉してその結果を記載する。
貸借契約における当事者の法律関係は、貸主が借主に対して物品
又は金銭の使用(権)を許諾し、借主がそれに対して対価を支払う。
貸主から借主に提供される等価物は、単なる使用(権)の許諾で
あり、使用(権)の許諾期間が満了又は終了した場合には、その使
用(権)の対象となる物品又は金銭を、借主は貸主に返却すること
により法律関係を原状に回復させる。
貸借契約においても、等価物である使用(権)については、可能
な限り広く、多く、長く許諾させる。許諾がなされた後においても、
その保証を可能な限り広く、多く、長く獲得する。
当初の期待されていた通りに物事が進まなかった場合についての
対応策を予め決めておく。
契約の終了時には、当事者の法律関係を原状に回復させる必要が
あり、借主は貸主から借りたものを貸主に返却する債務があるので、
その債務の履行を取り決める。
●機械・設備賃貸借契約書
●車輌賃貸借契約書
●駐車場使用契約書
●定期借地権契約書
◆売買契約書
売買契約における当事者双方の法律関係は、買主が売主に対価を
支払い、売主は買主に等価物(物品又はサービス)を提供する。
等価物を受け取る側、買主(債権者)は、その受取りの対象とな
る等価物を可能な限り広く、多く、長く所有できるようにする。等
価物を受け取った後にも、その保証を可能な限り広く、多く、長く
獲得する。
当初の期待されていた通りに物事が進まなかった場合の対応策を、
予め決めておく。
●パソコン売買契約書
●複写機売買契約書
●不動産売買契約書
●著作権譲渡契約書
●営業譲渡契約書
●売掛債権譲渡契約書
- 31 - Copyright c 2006 katsurai
◆請負契約書
請負契約における当事者の法律関係は、請負者が業務を遂行す
ることによって達成し又はその成果(物)に対して発注者が対価を
支払う。
請負契約は、発注者が請負者に対して成果(物)の満たす基準を
指定すると同時に、その達成方法についても仕様書の形で指示する。
請負契約は、等価物に対しては、可能な限り広く、多く、長く獲
得する。等価物に対する保証を可能な限り広く、多く、長く獲得す
る。
- 32 - Copyright c 2006 katsurai
当初の期待されていた通りに物事が進まなかった場合についての
対応策を予め決めておく。
請負契約は、特定の請負者でないと期待された等価物が得られな
いので、第三者に対する請負による再発注(孫請負業者)を禁止す
る条項がある。
成果(物)の達成にあたっては、請負者独自による業務遂行に依
存する部分が多くあり知的財産権が発生する。この帰属についても
取り決める。
●工事請負契約書
●貨物運送契約書
●工事下請負契約書
◆委任契約書
委任契約における当事者の法律関係は、委任者は受任者に対価を
支払い、受任者はサービスや業務を遂行し作業を行い、それに伴う
成果(物)をもたらすことである。
委任契約は、提供される等価物が一定の基準を満たしていれば、
その達成方法は受任者に一任されている。
等価物がサービスであって、一定の基準を満たしていれば、委任
者がこのサービスを受けた後の結果について、その責任は受任者に
はない。
委任契約においても、等価物については、可能な限り広く、多く、
長く獲得するようにする。その保証を可能な限り広く、多く、長く
獲得する。
当初の期待されていた通りに物事が進まなかった場合の対応策を、
予め決めておく。
委任契約は、等価物に成果物が含まれた場合、その成果物に関す
る知的財産権の帰属についても決めておく。
契約の終了時は、当事者問の法律関係を原状に復帰させる。借主
は貸主から借りたものを貸主に返却する債務があるので取り決める。
●債務弁済契約公正証書作成委任状
●事務委託契約書
- 33 - Copyright c 2006 katsurai
●業務提携契約書
●販売委託契約書
◆代理店契約書
代理店契約における当事者の法律関係は、代理店が、販売元、輸
入元、メーカーから商品やサービスの販売権の許諾を受け、販売す
ることによって一定の対価を得る。
代理店契約は、特定の商品やサービスを販売する権利の許諾であ
る。商品に対する所有権は業者から代理店に移転する。
代理店契約は、等価物を受け取る側(代理店)は、その受取りの
対象となる等価物を可能な限り広く、多く、長く所有できるように
する。等価物を受け取った後においても、その保証を可能な限り広
く、多く、長く獲得する。
当初の期待されていた通りに物事が進まなかった場合についての
対応策を予め決めておく。
●チェーン・ストアー契約書
●フランチャイズ契約書
●代理店契約書
●特約店契約書
◆内容証明郵便
金を貸したが返してくれない、家賃を支払ってくれない、商品を
買ったが解約したい、社会生活上のトラブルを解決しようとすると
き、最初の対策として内容証明郵便(内容証明)を送ることがある。
内容証明は、記載された内容が真実であると公的機関が証明する
証明書ではなく、内容証明という単なる特殊な郵便の一種である。
証明されるのは、その内容の信憑性ではなく、郵送された郵便物
にこれこれの事項が確かに記載されていたという事実のみである
「内容証明の取扱においては、郵政事業庁において、当該郵便物の
内容たる文書の内容を証明する(郵便法63条)」。
- 34 - Copyright c 2006 katsurai
内容証明が、社会生活上のトラブルを解決する上で効果があるの
は、当事者の意思表明の事実を公的機関の記録に残すからである。
当事者間で何らかの意思表示を行った場合、それを後日、証言す
る証人を介在させることは一般的に不可能である。
内容証明は、書面により存在するので証人の役割を担うことがで
き、有力な証拠となり得る。法律行為がなされたか否かについて、
後日、疑義や争いが生じた場合においても、その事実を証明する必
要が出てくるが内容証明は証拠となる。
内容証明で郵送する場合は書留郵便とし、意思表示を相手方が受
信した時に法律行為の効力が発生する場合は、郵便物が確かに配達
されたことを証明する配達証明扱いにする必要がある。「引受時刻
証明、配達証明、内容証明及び特別送達の取扱いは、書留とする郵
便物につき、これをするものとする(同法57条2項)。」
たことを証明します。○○郵便局長 印」と記載して返却される。
これが内容証明となる。
④郵便局に謄本が5年間保存される。
もう1通は5年間郵便局に保存される。内容証明を紛失した場合
でも申し出により閲覧が可能であり、内容証明を再度発行してもら
うことができる。
⑤受取人は心理的にプレッシャーを感じる。
内容証明は、その記載内容が事実であるとその信憑性が証明され
るわけではない。が、行政書士が代理して作成する場合は、次は、
プロが法的な解決をしてくるだろうと受取人は推察して、その主張
を素直に認めるような場合もあり得る。
内容証明を出すのは、事の次第が緊迫しているという印象を相手
に与える。通常郵便ではそれほど真剣には対応しなかった相手も、
内容証明を受け取ったとたんに直ちに対応してくるということもあ
り得る。
◆内容証明郵便のポイント
①記載内容に制約はない。
内容は自由に記載することができ、普通の手紙と何ら変わること
はない。言いたいことを自由に書き綴ることができ、記載した事項
は、確実に記録に残るので、自分に不利なことは記載しない。
②使用文字、書式に制約がある。
使用する文字は日本語で、仮名、漢字、数字、括弧、句点、一般
記号を使って書く。
縦書きの場合は、1枚の用紙に1行20字以内で、26行以内で
ある。横書きの場合は、1校の用紙につき1行13字以内で、40
行以内または1行26字以内で、20行以内となる。市販されてい
る内容証明書用の用紙を使用しても良いし、パソコンで作成しても
良い。この規定に違反している場合は、郵便局の窓口で受け付けな
い。
③郵便物を差し出した年月日が証明される。
郵便局の窓口には、同じものを3通提出する。その1通に「この
郵便物は平成○年○月○日第○号書留内容証明郵便物として差出し
- 35 - Copyright c 2006 katsurai
◆内容証明郵便の活用
内容証明は、法律的トラブルの解決の手段として利用する。相手
にどんな手紙をいつ出したか証明できる効果と、相手に対する心理
的強制力をもつ。しかし、それ以上の効果はない。
そこで、
①証拠作りに配達証明を付ける。
通知は、相手に届いて初めて効力をもつ。到達したかどうかは、
相手の言葉ひとつでどのようにでもなる。いつ到達したかという事
実を郵便局に証明してもらう。内容証明を出した後 1 年以内であれ
ば、郵便局に行って配達証明をしてもらうことができる。
配達証明を付けるか付けないかは自由であるが、法廷にもち込む
ようなことがある場合、法的証拠として、十分な役割を果たしてく
れる。こちらの強い意思と態度を示すものとしての事実上の効果も
あるので、請求等、権利行使の手始めとしては有効なものである。
しかし、常に内容証明を利用した方が良いということではない。
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今後の取引など円満な関係を保ちたい時、訴訟に発展しそうな深刻
かつ重大な場合などケース・バイ・ケースで慎重な判断が求められる。
②心理的効果
再三の請求にも関わらずまったく返答のなかった債務者に、内容
証明で請求したところ、すぐに何らかの返事が返って来たというこ
とがある。
内容証明を出してきたのだから、ここで支払わないと、次は裁判
になるとか、他の強い手段に出てくるに違いないと思うものである。
債権の回収に内容証明が使われるのはそのためである。
行政書士が代理人として発送するならば、その心理的効果は大き
いものとなる。
③相手の考えをさぐる、引き出す、次の手を考えながら作成する。
法律上での争いも、時にはかけひきが必要である。相手がどんな
考えを持っているか知りたい時に、内容証明の力を利用して相手の
考えを探り、引き出す。
内容証明を出せば、相手から何らかの回答が得られる。相手の性
格や状況をよく考え、時には下手に出たり、時には強気に出たり、
相手が受け取ったらどうしても返事を書かざるを得ないような書き
方など、工夫を凝らして相手の考えを引き出す。
内容証明には、法的証拠を作る目的が含まれる。自分の証拠にな
ると同時に、相手の証拠にもなる。不利になる事実、虚偽の事実、
自分の非を認めるような表現、脅迫的な言葉や表現など自分の不利
になるようなことは書かない。
④借用書がなかったら。
内容証明で「当方は貴殿に100万円を貸した」と記載しても、
その記載内容が事実であると証明されるわけではない。だから、事
実は100万円なのに、内容証明で「当方は貴殿に500万円に貸
した」と記載することもあり得る。
相手方が内容証明で「当方が借りたのは500万円でなく100
万円である」と記載してきたら、法律行為がなされたか否かについ
て内容証明は証拠となり得る。
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◆示談書
示談とは、民法が規定する和解契約である。
「和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめる
ことを約することによって、その効力を生ずる(民法695
条)。」
被害者と加害者の当事者が、対立する利益主張を譲りあって、そ
の間の紛争を解決することを約束する契約である。お互いの話し合
いにより裁判などで争わずに円満に解決を図るのである。
示談は契約で、お互いの口頭の意思表示だけでも有効であるが、
後日の紛争を避けるために、当事者が、どんな損害(損害の種別)
で、いくら(賠償金額)を、いつ、どのような方法で支払うか(支
払条件)を明確に記載した文書が示談書である。
示談は、契約であるから、一度成立するとこれを破棄することは
できない。後日予期しない後遺症が発生した場合、大幅な事情変更
が事後に生じた場合、公序良俗に反するような示談は無効となる。
交通事故の殆どが示談によって解決されている。交通事故の保険
は各種賠償責任保険について保険金支払の要件となる。損害の種別
は人損と物損がある。これに、治療費、損害物の修理額、時価額な
どの積極損害と逸失利益などの消極損害と精神的損害が慰謝料とな
る。
示談は、被害者と加害者の当事者が、対立する利益主張を譲りあ
って、その間の紛争を解決することを約束する契約であるから、行
政書士が、交通事故の被害者又は加害者の代理人として他方の当事
者と示談交渉して、その結果を示談書にまとめることは、非弁活動
(弁護士法第72条違反)になる。
争訟性のある法律事務は弁護士の独占業務であり、行政書士は、
争訟性のない法律事務しか取り扱うことができない。
紛争の結果がすでに当事者で解決され、合意が形成されていて、
今後、新たな紛争を生じさせない、紛争が再発しないため、後日の
紛争を避けるために、当事者が合意書を取り交わす示談書ならば、
その作成は行政書士の業務となる。
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◆相続と遺言書
遺言は何のために書くかというと、自分の死後その財産の自由な
処分のために書くのである。
会社を経営し、事業を営んでいるのならば、その事業を残し特定
の者に承継させたいという思いがある。相続人が複数の場合、事業
は相続人に分割されることになる。これでは事業の維持、その後の
経営を困難にすることがある。遺言により遺産の分割を指定したり、
禁止することができる。
「被相続人は、遺言で、分割の方法を定め、若しくはこれを定める
ことを第三者に委託し、又は相続開始の時から5年を超えない期間
内分割を禁ずることができる(民法908条)。」
老後に世話になった息子の嫁など、法定相続人でない者に財産を
残したい場合がある。遺言がないと、遺産は法定相続人に承継され
る。そこで、相続人でない者に遺産を残したいときには、遺言をす
る必要がある。
日常生活において相続人同士の仲があまりよくない時は、相続の
時に遺産の分配をめぐって紛争が生じることがよくある。兄弟同士
がまさか財産で争うことはないと親は考えていたしても、一生かか
っても稼げない金額が転がり込んでくるとしたならば、相続ならぬ
争続が開始することもある。
◆公正証書遺言のすすめ
自筆証書遺言の方が、いつでもどこでも簡単に作成することがで
きる。遺言を作成した事実及びその内容も秘密にしておくことがで
き、内容を変更することも容易である。方式はむずかしくなく、費
用もかからない。
遺言書の保管が問題となり、紛失したり、内容を改ざんされる危
険があり、詐欺や強迫の可能性もある。方式が不備だと無効になる
おそれがある。さらに、執行にあたっては検認の手続きを要する。
老人の痴呆が社会問題にもなっているが、遺言についても、正常
な判断力のない状態で作成された遺言は無効となる。また、臨終の
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際の遺言など、判断力の存在が問題になりそうな状況での遺言には
注意が必要である。
このような場合、判断力の存在を証明する何らかの手を打ってお
く必要があり、やはり、公正証書遺言が最善の方法である。
公正証書遺言は、公証人が作成するので、内容が明確であり方式
も確実である。証拠力が高い。原本を公証人が保管するので万全で
あり、紛失したり改ざんされたりする危険がない。字が書けない者
でも作成することができるし、検認の手続きが不要である。
遺言者が公正証書遺言を作成すると、作成をした公証人が日本公
証人連合会に報告をしなければならないので、その遺言書はどこの
公証人役場で保管されているのかがわかる。
日本公証人連合会が、公正証書遺言を作成した役場名、公証人名、
作成年月日などを遺言者ごとに検索できるようにコンピュータで管
理している。ただし、公証人だけが日本公証人連合会に照会できる
ことになっており、関係者からの直接の照会には応じていないので、
必ず公証人を通じて照会しなければならない。
秘密保持のため、遺言者本人及び遺言者死亡後は相続人などの利
害関係人のみが照会を依頼することができることになっている。
「遺言書の保管者は、相続の開始を知つた後、遅滞なく、これを家
庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書
の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同
様である。
2 前項の規定は、公正証書による遺言には、これを適用しない。
3 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理
人の立会を以てしなければ、これを開封することができない(同法
1004条)。」
公正証書遺言には、証人2人以上の立会を要する。証人は、遺言
の内容を聞知して、それが遺言者の真意と一致していることを証明
する人である。証人は、遺言の作成に深く関与するので、未成年者、
推定相続人とその配偶者、受遺者とその配偶者、直系血族、公証人
の配偶者、四親等内の親族、書記と雇人はなれない。
「次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
一
未成年者
二
推定相続人、受遺者及びその配偶者並びに直系血族
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三
公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び雇人
(民法974条)。」
行政書士が遺言者とともにその遺言の趣旨を作成する。行政書士
2人が代理人として立ち会い、この遺言の執行者に就職する。
「遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はそ
の指定を第三者に委託することができる。
2 遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定を
して、これを相続人に通知しなければならない。
3 遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとする
ときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない(同法
1006条)。」
ければ成立しない。
「共同相続人は、第908条の規定によつて被相続人が遺言で禁じ
た場合を除く外、何時でも、その協議で、遺産の分割をすることが
できる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又
は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を
家庭裁判所に請求することができる。
3 前項の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、
期間を定めて、遺産の全部又は一部について、分割を禁ずることが
できる(同法907条)」。
◆知的財産権のひとつ著作権とは
◆遺産分割協議書
相続の開始後、共同相続人の所有に属している財産を、各相続人
に分配する行為を遺産分割という。遺産の分割は、相続人が 2 人以
上いる場合に、遺産を相続分に応じて、各相続人が分け合うことで
ある。この遺産分割について、相続人全員で話し合うことが協議分
割である。そこでの話し合いがまとまり、誰が何を取得するかなど
決まった内容を記載し、相続人全員の署名、押印をして作成した文
書を遺産分割協議書という。
遺産分割の方法について、相続人同士での話し合いがまとまらな
いことがないように、遺言で指定しておくことができる。
不動産は妻と長男が、有価証券と預金は二男と長女が相続せよと
指定したり、建物は妻が、宅地と農地は長男が、有価証券は二男が
預金は長女が相続せよなどと指定する。
被相続人は「分割の方法を定めることを第三者に委託する」こと
もできる(同法908条)。委託される第三者は、共同相続人以外
の者てなければならず、共同相続人中の1人、妻とか、長男とかに
一切を委託する遺言は効力がない。委託された第三者の指定する分
割方法は、法律にのっとった分割基準に従わなければならない。
遺言による指定がない場合には、いつでも分割は共同相続人の協
議で行うとができる。協議は全共同相続人が参加し、かつ同意しな
作詞家をめざして養成講座で勉強するAさん。ある日、その講座
の講師でもある著名な作詞家に自分の作った詩が無断で使用されて
しまった。Aさんは抗議したが、作詞家は自分が先に作ったものと
らち
強弁して埒が明かない。
詩のように自分の気もちを自分なりに工夫して表現をしたものを
著作物(著作権法2条1項一号)という。小説、作詞、作曲、まん
が、絵画、論文、脚本、講演、写真、図面、設計図、ゲーム、振り
付け、コンピュータプログラムなども含まれる。この著作物の表現
そのものを著作権として、特許権や実用新案権などの産業財産権と
同じように知的財産権として保護される。
著作権は、特許権や実用新案権と違い、権利を得るために登録な
どの手続きを一切必要とせず、作品を創作した時点で権利が自動的
に発生する。これを無方式主義という。
詩を作った時点でAさんの著作権が生じているのであり、作詞家
が詩のフレーズを無断で使用して、新曲として発売したりすれば、
それはAさんの著作権を侵害したことになる。
このような争いになった場合、その詩はAさんが作ったのかそれ
とも著名な作詞家が先に作っていたのか、それをどう証明するかと
いうことになる。
文化庁に著作物を登録する制度が設けられている(著作権の登録
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申請)。これは、著作権に関する事実関係を公示することと、著作
権が移動した場合の取引の安全を確保することを目的に設けられて
いる。登録できる著作物は限られているが、登録したから著作権が
発生するわけでない。登録は第三者に対する対抗要件であり不動産
の登記制度に似ている。
文化庁に著作権を登録するためには、その著作物の公表及び発行
の証明をしなければならない。また、登録するのは著作物そのもの
ではなくてその要約400字以内にまとめたものを登録する。
言語の著作物のうち、詩、短歌、俳句など、ごく短い文章のもの
については原作のまま登録することができる。
及び下部分、それぞれに著作者の実印と行政書士の職印で各2
か所捺印して封印する。
⑤公証役場に出向き、封筒の表面に確定日付を受ける。
⑥行政書士と著作者がそれぞれ各1部封筒を保管する。
ネットで交わす電子文書であれば原子時計によりタイムスタンプ
を刻印することにより原本であることを証明するのみならず、電子
時刻も証明する。文書を改ざんすれば時刻証明も消える。
契約書などの偽造を防ぐには公正証書を活用することが有効であ
るが、電子文書では利用できないし、改ざんのあとも残らない。
この電子時刻認証技術は国税庁が文書保存に活用するなど急速に
普及する中、創作事実証明の電子証明に活かせそうである。
◆創作事実証明書の作成
◆行政書士は経営法務コンサルタント
Aさんの詩のように、まだ世間に公表できるような著作物ではな
いが、将来、発表した時に自分の著作物である、自分が他人より先
に創作したのだという証明をしてほしい、あるいは、著作物の要約
だけではなくて、著作物そのものの存在を証明してほしいといった
ニーズには、著作権の登録制度だけでは応えることができない。
著名な作詞家の主張に対して、この詩を先に創作したのはAさん
であり、平成○年○月○日に確かに創作した(創作の事実)という
ことを証明することができれば、この争いに決着をつけることがで
きるし、未然に防ぐこともできる。
行政書士が、行政書士法1条の2の「権利義務又は事実証明に関
する書類を作成することを業とする。」規定に基づき、その創作の
事実を証明し、作成した書類を創作事実証明書ということができる。
①まず第一に、当該著作物が入る大きさの封筒を2部用意する。
②封筒の表面には「同封された著作物は、下記記載の通り相違ない
ことを証明する。」「日付、著作者の氏名、住所、電話番号、著
作物の内容」「行政書士名、事務所所在地、電話番号」をそれぞ
れ2部とも記載し、行政書士職印を捺印する。
③封筒には、当該著作物と著作者の印鑑証明書をそれぞれ2部とも
に封入する。
④封筒は、開封されて内容が改竄されないように糊づけした上部分
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「行政書士はあなたの暮しと財産を守ります」。私は名刺にこのよ
うに書いている。中小企業の経営と法務を指導してきて20年以上
になる。切実に感じるのは中小企業の経営者は、常に良き相談相手
を求めてやまないということである。
ひょんなことにより、20年前から、行政書士こそが「経営法務
コンサルタント」であると位置づけ、中小企業の経営と法務の相談
相手として今日まで活動を続けている。
行政書士の資格で中小企業と顧問契約を結び、リーガルサービス
とマネジメントサービスを提供してゆくものである。
行政書士は「官公署に提出する書類を作成」したり「許認可手続」
をすることのみが仕事ではない。中小企業のためにこそあるべきで、
全国200万社の法人企業と300万個人事業者のためにその職責
を果たすべきである。そのためには、座してひとつひとつの業務依
頼を待つのではなく、積極的に中小企業経営者と顧問契約を結び、
事務所経営の安定と職域の拡大をはかってゆくことである。
行政書士という名称に「書」すなわち書くという字が入っている
から、とかくその業務は、書くことが仕事のように思われているが、
どちらかといえば、コンサルタント、依頼者の相談相手になること
が重要な業務である。
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◆区役所にて区民のための相談
行政書士会渋谷支部では、区役所の委嘱を受け、毎月第 2 金曜日
に区民のための「行政書士による無料相談」を実施している。先日、
相談員として出向いたところ、「父親が亡くなって家屋を相続したい
のだが」「夫に遺言書を作っておいてくれと頼んでいるのだが」な
ど、相談がよせられた。
相談したいのだけれど、誰に相談したらよいのか、どこへ行けば
よいのか、わからずに困っている人たちがいる。こうした人達が、
気軽に相談でき、費用も高くない専門家である行政書士を求めてい
る。公的な相談機関も多いが、わざわざ出向くというのではなく、
市井の中で行政書士が相談に応じるべきである。
相談料は、各々行政書士が 1 時間いくらと決めている。これが行
政書士の時給と考えればよい。サラリーマンやパートで働く場合な
どと比べて時給は高い。自分の都合の良い時に都合の良い時間だけ
働けばよい。朝は10時から夕方は4時までというのも可能である。
そこが自由業のイイトコロである。夜遅くまで仕事をすることがあ
っても、残業であるとか、やらされているという受動的な気持ちは
まったくない。自分の意思で好きにやることができる。
サラリーマンよりも少し多い収入を得ることができる。「おかげ
さまで会社もできました。ありがとうございました。今後ともよろ
しくお願いします。」とお礼の言葉をいただくことが何よりもうれ
しい。それこそ行政書士の職業冥利につきると言えよう。
冥利とは、神仏が知らず知らずのうちに与えてくれる利益をいう。
利益は与えられるものであり、それが、行政書士という職業の道で
あり、人の道に通ずる。行政書士という職業は、その収入ばかりで
なく、公益活動も行ってゆかねばならない社会的に求められている
専門家でもある。一生涯働くこともできれば、余生を社会奉仕のボ
ランティアとして生きてゆくこともできる。
行政が規制緩和の流れにあったとしても、高度複雑化してゆくこ
とは避けられない。そこに法務事務に精通した行政書士はますます
必要になってくる。国民の暮しの中にある法律書類の作成、法務相
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談などイギリスにおける事務弁護士(solicitor)の業務に、近代的
行政書士が応えなければならない。
気軽に相談ができる法律家になることが人びとの行政書士に対す
る期待である。
6
他の国家資格の職域
業務範囲
行政書士は他の資格の業務はできない
◆弁護士との職域
行政書士は「官公署に提出する書類」と「権利義務又は事実証明に
関する書類」を作成することを主な業務とするが、弁護士、税理士
など、他の国家資格の業務はできないとされる。
「行政書士は、前項の書類の作成であっても、その業務を行うこと
が他の法律において制限されているものについては、業務を行うこ
とはできない(行政書士法1条の2第2項)。」
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他の法律というのは、弁護士法、税理士法、公認会計士法、弁理
士法、司法書士法などである。
弁護士の業務は「当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱に
よって、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請
求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事
務を行うことを職務とする。」と弁護士法3条1項に規定する。
弁護士でない者が法律事務を取り扱うことを禁じている。「弁護
士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事
件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申
立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和
解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業
とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定
めがある場合は、この限りでない(同法72条)。」
行政書士は「権利義務又は事実証明に関する書類」の作成につい
て相談に応じることも業とする(行政書士法1条の3)が、弁護士
法72条の問題はないのだろうか。顧客の相談にはどのようなこと
でも応じることができるのだろうか。そもそも「権利義務に関する
書類」は「その他の一般の法律事務」(弁護士法3条)に包含され
るが、法律相談といっても弁護士法に抵触する業務範囲を考えなけ
ればならない。行政書士の「権利義務又は事実証明に関する書類」
と弁護士の「その他の法律事務」とは何か。行政書士の「契約その
他に関する書類を代理人として作成する」と弁護士の「その他一般
の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事
務を取り扱い」とはどのように考えればよいのか。
◆弁護士法の事件性とは
かって、弁護士法72条が問題となった事例を紐解くことが我々
の代理権の内容についての理解を深めることになる。
民間離婚調停業者が弁護士法違反で訴えられた事件がある。この
事件は「離婚相談室○○センター」なるものを開設した民間業者が、
離婚問題をスムーズに解決し一般の市民にも重宝されていたのであ
るが、弁護士会が弁護士法違反で告訴して業者が摘発された。
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このことはいかに弁護士がやらない些未な業務でも、いかに市民
が便利に利用して感謝していようとも、被害者が存在しなくとも、
弁護士法72条及び弁護士会がこのような存在を認めない顕著な例
だったということができる。
ところで、もし、この業者が行政書士資格をもっていたらどうだ
ったか。「事件性」がない場合であれば(夫婦間で離婚を合意して
いるなど)行政書士が関わっても弁護士法72条に抵触しない。
離婚届を前に両者に話を聞きながら離婚届に記入してゆく、親権
はどうするのか、慰謝料はいくらにするのか、両者で話し合われす
でに合意している。そのことに対するアドバイスを行っただけでは
「事件性」を問われることはない。
行政書士が法律事務ができるということが法律に明記されたわけ
であるが、これは弁護士法72条に大きな風穴をあけ、行政書士の
業務を確実に広げることになった。行政書士は、行政書士の名で代
理人となって法律事務ができるわけであるが、何でも代理できるの
かというとそうではなく「事件性」の有無の判断がよりいっそう重
要となる。
◆交通事故示談業者
交通事故示談斡旋業というちょっと怪しげな業者が、損害賠償の
示談取りまとめをしたということで弁護士会が訴えた時の札幌地裁
判決がある。
「一般市民の日常生活から生ずる簡易で少額な法律事件は、弁護士
の通常の業務範囲からほとんど全面的に疎外されているといって過
言でない。
弁護士でなくても十分処理しうるような簡易、少額な法律事件、
法律事務についてまで、弁護士でなければ一切報酬を得る目的をも
ってしては取扱い得ないとすることは社会的衡平の見地から、とう
てい許されないであろう。それは特定の職業階層に対し、与えられ
るべき以上の独占的な営業範囲を与えるとともに、国民一般に対し
必要以上の不便、不自由を与えるにすぎないと思われる(自動車交
通事故による損害賠償の示談取りまとめなどを業とした弁護士法違
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反事件の一部無罪・昭和46年2月札幌地裁)。」
北海道が弁護士過疎地であるという状況を織り込んでいるにせよ、
随分と思い切った判断である。その後、弁護士会に控訴され上級審
では業者は有罪となってしまった。依頼人は、こうした業務は本来
は弁護士であることを承知していたにもかかわらず、着手金や成功
報酬のことなどを考えると、少額の訴訟にしては高いので、示談屋
に依頼することになったのであろう。つまり、依頼人は資格を見て
依頼するよりも、なるべく安い費用でよい結果を出してくれる者に
依頼するということである。
◆遺産相続関係手続報酬金請求訴訟
行政書士が遺産相続手続きを行い、報酬を請求したものの支払わ
れなかったので依頼人を被告として裁判で請求に及んだときの東京
地裁判決である。
「相続財産の調査、相続人の調査、相続分なきことの証明書や遺産
分割協議書等の書類の作成(中略)右各書類の内容を説明すること
については(中略)行政書士の業務の範囲内である」「遺産分割に
ついて紛争が生じ争訟性を帯びてきたのにもかかわらず(中略)折
衝することは、単に行政書士の業務の範囲外であるというばかりで
なく、弁護士法72条の「法律事務」に該当し、いわゆる非弁活動
になる(中略)折衝したことについての報酬を原告は請求できない
というべきである(行政書士がその業務範囲を超えて弁護士法72
条違反の所為に及んだ事件の一部認容・平成5年4月25日東京地
裁)。」
先に触れた「事件性」の有無とあいまって非常に難しい問題であ
る。法改正後の行政書士業務と弁護士業務の間には境界があるが、
それをどこで線引きするかという問題である。
「事件性」があれば、弁護士法に違反する事になるが、どこまでが
弁護士法に違反しないのかという線引きを慎重にするということで、
参考になる事件だったと思われる。
今後の行政書士の業務には「事件性」が大きなキーワードとなる
ことがわかる。事件が起こって裁判にならないように、理想的には
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事件が起こる前に契約書を作成するなどの予防法務を行うべきなの
である、が、現実問題としてはそれはこれからの国民の意識の高ま
りと行政書士の啓発活動にかかっている。
◆法律業務はどこまでできるのか
では、行政書士の法律業務はどこまでが良くてどこからがダメな
のか、その基準は何か、といっても、それはケース・バイ・ケース
であるとしか言いようがないが、こんな例え話で少しはご理解いた
だけるだろうか。
スポーツクラブで週に1、2度泳ぐことにしている。その水温が
30~31度である。温水であるから冷たくはないがやはり水であ
る。汗を流すためにバスを利用する。そのお湯の温度はお風呂に適
温の41~42度を示している。これはまさにお湯である。
ご存知のように水は氷点の0度から沸点の100度まである。
その100度という大きな温度差の中で、その日に泳ぎ入浴して
身体に触れ肌で感じた温度は、プールの30~31度からバスの4
1~42度と、温度差はたった10度である。サウナの後に熱い熱
いといって飛び込む水風呂の水温でも20度である。これはもう非
常に冷たい。3分も入っていると身体の芯までしびれてくるようで
ある。
行政書士の法律相談は、42度以上の高温のやけどをするような、
つまり弁護士法に触れるような内容は差し控えて、30度から40
度のちょうどいい温度の相談(これを法務相談という)に留めてお
くということであろう。また、それで十分である。
◆税理士との職域
税理士は、「他人の求めに応じ、租税(中略)に関し、次に掲げる
事務を行うことを業とする(税理士法2条)。」
①税務代理
税務官公署に対する租税に関する(中略)申告、申請(中略)
代理し、又は代行すること。
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②税務書類の作成
税務官公署に対する申告等に係る申告書、申請書(中略)税務
官公署に提出する書類で、財務省令で定めるものを作成する。
③税務相談
税務官公署に対する(中略)申告書等の作成に関し、租税の課
税標準等の計算に関する事項について相談に応ずる。
税理士は①~③の業務(税理士業務)のほか、税理士業務に付随
して財務書類の作成、会計帳簿の記帳代行その他財務に関する事務
(会計業務)を業として行なうことができる。
税理士業務は税理士の独占業務であり、税理士又は税理士法人で
ない者が税理士業務を行なうと罰せられる(同法52条・59条三
号)。
先日、所用で税務署へ出向いたところ「税理士のニセモノにご注
意を!」という大きな看板があった。「ニセモノ」とは何ごととび
っくりしたが、聞いてみれば何のことはない。納税者が税理士でな
い者(これがニセモノということらしい)に税務の申告を頼んだり
すると不利益を被ることがあるから、税理士以外には依頼しないよ
うにということらしい。
なるほど税理士でない者が税理士業務を行なうと罰せられるが、
税理士業務の付随業務である会計業務は税理士の独占業務ではない。
会計業務は、行政書士の正当業務である。会社や商店の記帳処理、
会計帳簿の作成は業として行政書士もできる。
行政書士は、②税務書類の作成はできないが、この税務書類に添
付して税務署に提出する決算財務書類(貸借対照表、損益計算書な
ど)、その内訳書は業として作成することができる。行政書士は行政
書士の資格で会計事務所を経営することができる。
税理士が行政書士の業務を行なっている(そのため行政書士は仕
事がない)とは、ときたま聞くことであるが、税理士は行政書士と
なる資格を有する(行政書士法2条5号)に過ぎない。資格を有す
ることと、仕事ができるということはまったく別のことである。
◆公認会計士との職域
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公認会計士は、「他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の監査又
は証明をすることを業とする(監査業務)」(公認会計士法2条1
項)。「公認会計士又は監査法人でない者は、他人の求めに応じ報酬
を得て、2条1項(監査業務)に規定する業務を営んではならない
(公認会計士法47条の2)。」
公認会計士の独占業務は監査業務であり会計業務ではない。公認
会計士の監査を受けなければならない企業は、資本金が5億円以上
又は負債総額が200億円以上の企業である。中小企業を主たる顧
客とする行政書士と、大企業から依頼を受ける公認会計士とは職務
範囲は競合しない。経営指導業務という点から考えても同じである。
公認会計士は税理士となる資格を有する(税理士法3条四号)の
で、公認会計士と名乗りながら監査業務ができず税理士業務を行な
っている者もいる。その場合、その者は公認会計士ではなくて税理
士である。
◆社会保険労務士との職域
社会保険労務士は、「労働及び社会保険に関する法令に基づいて
申請書等を作成し、申請等について、その提出に関する手続を代わ
ってすること、あっせんについて、紛争の当事者を代理すること、
その他諸法令に基づく帳簿書類を作成すること、これらについて相
談や指導することを業としている(社会保険労務士法2条)。」
社会保険労務士は、企業の社会保険の新規適用申請、労働保険の
新規適用申請を業務とするが、かって行政書士の報酬額表に、社会
保険新規適用申請、労働保険新規適用申請が記載されていた。
これは、昭和55年8月31日までに行政書士会に登録入会した
者に限り、「当分の間」行政書士の資格で社会保険新規適用申請、労
働保険新規適用申請を行なうことが認められているからである。し
かし、昭和55年9月1日以降に行政書士会に登録入会した者、こ
れから行政書士会に入会しようとする者は、これらを業として行う
には社会保険労務士又は社会保険労務士法人でなくてはならない
(同法27条)。
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◆司法書士との職域
◆弁理士との職域
司法書士は、「登記又は供託に関する手続の代理、裁判所、検察庁
又は法務局若しくは地方法務局に提出する書類の作成。これらに関
する審査請求の手続について代理することを業とする(司法書士法
3条)。」
行政書士と司法書士は、その歴史的沿革において代書人制度から
発展してきたものである。代書人は、司法関係の書類を代書する司
法代書人が分離し今日の司法書士制度として発展した。後に土地家
屋調査士制度が分離独立した。
一般的な書類を代書するのが一般代書人であるが、今日のような
高学力社会においては、一般代書というのはあり得ない。現代は、
行政書士法1条の2「権利義務に関する書類」の規定から「法務」
に関する書類の作成をする。「官公署に提出する書類」と捉えるので
はなく、「権利義務と事実証明に関する書類」を作成することを行政
書士の業務とする。これが行政書士制度として発展し、後に社会保
険労務士制度が分離独立した。
司法書士は、不動産登記業務を中心に商業登記の書類作成並びに
登記申請代理及び簡裁訴訟代理業務を行っている。その業務は「司
法」すなわち裁判所に関する書類の作成よりは不動産登記、所有権
移転並びに抵当権設定の登記が主である。
行政書士は、官公署に提出する書類の作成のみならず、法務局へ
提出する商業登記に関する書類であったとしても、その添付書類は
作成することができる。
株式会社を設立するには、定款、発起人会議事録、株式申込事務
取扱委託書、取締役及び監査役選任決議書、取締役及び監査役の就
任承諾書、取締役会議事録、取締役及び監査役の調査報告書などの
書類が必要である。これらの書類は、行政書士が業として作成する
ことができる。定款は作成するのみならず、依頼人からの委任を受
け公証役場へ代理人として認証を受けに行くこともできる。
ただし、法務局、地方法務局、その支局、出張所へ代理人として
登記を申請することはできない(同法73条1項)。
弁理士は、「特許、実用新案、意匠若しくは商標又は国際出願若
しくは国際登録出願に関する特許庁における手続及び特許、実用新
案、意匠又は商標に関する異議申立て又は裁定に関する経済産業大
臣に対する手続についての代理並びにこれらの手続に係る事項に関
する鑑定その他の事務を行うこと(弁理士法4条1項)。」を業と
している。
弁理士又は特許業務法人でない者は、特許権、実用新案権、意匠
権、商標権、サービスマークなど、産業財産権について、特許庁や
経済産業省への手続き、異議申立て、裁定の手続き並びにこの書類
の作成(弁理士業務)を業とすることができない(同法75条・7
9条)とされている。
弁理士は弁理士業務以外にも、特許権、実用新案権、意匠権、商
標権のほか、著作物(著作権法2条1項一号)や回路配置(コンピ
ュータプログラム)についての権利、技術上の秘密の売買契約、許
諾に関する契約その他の契約の締結の代理を行い、これらに関する
相談に応ずることを業とすることができる(同法4条3項)が、こ
れらは、弁理士の独占業務ではなく、行政書士もまた著作物や回路
配置はもとより、産業財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標
権など)についての権利、技術上の秘密の売買契約、許諾に関する
契約その他の契約の締結の代理(契約業務)、これらに関する相談
に応ずることも業とすることができる(行政書士法1条の3)。
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◆その他の職域
その他、行政書士が業務を遂行するのに関係してくると思われる
士業に、中小企業診断士(中小企業支援法11条1項一号)、土地
家屋調査士(土地家屋調査士法3条・68条)、海事代理士(海事
代理士法1条・17条)、不動産鑑定士(不動産の鑑定評価に関する
法3条)、測量士(測量法48条・55条の14)、建築士(建築士
法3条~3条の3・23条の9)などが考えられる。それぞれの業
務を規定した法律の条文を参照していただければと思う。
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1
第3章
合格したら
実務を学ぶ
行政書士になる前の実務とは
◆合格したら実務を学ぶ
開業前に
準備しておくこと
◆開業する前にこれだけはやっておきたい
行政書士の実務を知ろう
サイドビジネスで、ボランティアで
経営法務コンサルタントとして
人びとの相談に応じてみよう。
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行政書士試験に合格したならば、実務を学ぶことである。
資格はもっているだけでは意味がない。資格を活かそう。そこで、
資格にプラス実務。これからはコレである。
せっかくとった資格であるから少しは実務に触れてみる。実務の
雰囲気を味わってみる。
行政書士を開業するのではない。勉強した法律(民法、行政法な
ど)が、実務にどう活かされるのか、実際に試してみるのである。
行政書士の実務とどう関連しているのか、そこにまた新しい知識が
生まれる。
①出生届・死亡届
自然人の権利能力の始期は出生であり(民法1条の3)、子が出
生すると、嫡出子の時は父又は母が、非嫡出子のときは母が、その
届出をしなければならない(戸籍法49条1項・52条)と学んだ。
ただし、届出の有無は権利能力の取得と関係なく、たとえ届出が
なくても子は出生の事実によって権利能力を取得する。
この届出(出生届)には、医師又は助産婦の出生証明書を添付し
て(同法49条3項)、戸籍事務管掌者(市町村長)にする(同法
1 条)ことになる。出生届の用紙を実際に入手して見てみよう。
はい、ここで問題。生まれた子の住所(住民登録をする所)は、
東京都新宿区であるが、生まれた子の父と母の本籍は東京都豊島区
である。生まれたのは母の実家である長野県長野市の市民病院であ
る。14日以内に届け出なければならないのは、1.新宿区、2.豊
島区、3.長野市、4.どこでもよい。さて、どれが正解か。
答えは、新宿区、豊島区はもとより生まれたところ(出生地)の
長野市に届け出ることもできる(同法51条1項)。
届け出るときは、母子健康手帳と届出人の印鑑を持参すること。
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国民健康保険の加入者ならば保険証も持参すること。
自然人の権利能力の始期が出生としたならば、終期は死亡である。
民法に規定はないが、このことは当然とされている。
死亡の事実は、一定の者(届出義務者・同法87条)によって、届
出(死亡届)なければならないが、戸籍簿への記載は一応の証拠方
法(推定力はある)でしかなく、権利能力は死亡の事実そのものに
よって消滅する。死亡届の用紙を実際に入手して見てみよう。
死亡届は、届出義務者が死亡の事実を知った日から7日以内に、
死亡診断書又は死体検案書を添付してしなければならない。やむを
得ない事由により診断書又は検案書を得ることができないときは、
お寺の葬儀執行証明書や死体発見者の証明書など死亡の事実を証す
る書面をもって代えることができる(同法86条)。届け出るとき
は、届出人の印鑑を持参すること。
②身分証明書
民法で、行為能力を制限される者として未成年者と成年であって
も精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者を、
成年後見制度により家庭裁判所が後見開始の審判をする(民法7
条)と学んだ。
ところで、その人が未成年者か否かは、運転免許証・健康保険証な
どで容易にわかる。では、その人が成年被後見人・被保佐人・被補助
人か否かはどうしたらわかるのであろうか。何かに記載されている
のであろうか。その証明はあるのだろうか。
この証明書を身分証明書という。本人又はその代理人に限り申請
することができる。申請する役所は本人の本籍地がある市(区町
村)役所である。
市町村の交付する身分証明書には「禁治産又は準禁治産の宣告の
通知を受けていない。(成年被後見人又は被保佐人とみなされる者
に該当しない。」「後見の登記の通知を受けていない。(成年被後
見人に該当しない)。」「破産の通知を受けていない。(破産者で
復権を得ない者に該当しない)。」の事項を公的に証明する。
平成12年4月1日の成年後見登記制度により、禁治産者は成年
被後見人、準禁治産者は被保佐人と改められ、登記事務も市町村か
ら東京法務局に移管になった。同日以降登記された場合は東京法務
- 57 - Copyright c 2006 katsurai
局に登記され、以前に登記された事項は本籍地の市町村より登記・証
明されている。
破産者に関する事項は引き続き本籍地の市町村が行っている。
東京法務局民事行政部後見登録課で発行する登記されていないこ
との証明書には「成年被後見人とする記録がない。(成年被後見人
に該当しない。)」「被保佐人とする記録がない。(被保佐人に該
当しない)」の事項を公的に証明する。
平成12年3月31日までに登記されていないことの証明は、市
(区町村)役所の交付する「身分証明書」、平成12年4月1日か
ら証明日までに登記されていないことの証明は、東京法務局の交付
する「登記されていないことの証明書」の2通が必要になる。
③不動産登記簿
民法物権では、不動産の登記が第三者に対する対抗要件であると
学んだ(民法177条)。
土地を取得したり建物を新築した時の不動産登記は登記所にする。
そこで、登記所(法務局・地方法務局及びその支局・出張所)へ行
き不動産登記簿を閲覧してみよう。
不動産登記簿には、土地登記簿と建物登記簿の2種があり、それ
ぞれ1筆の土地又は1個の建物につき一用紙が備えられている。各
登記用紙には、表題部・甲区・乙区が設けられている。
表題部には、不動産の表示に関する事項が記載されている。甲区
事項欄には、所有権(同法206条以下)に関する登記がなされ、
乙区事項欄には、所有権以外の権利に関する事項が記載される。住
宅ローン会社や銀行から金を借りている場合に、抵当権(同法36
9条以下)や根抵当権(同法398条の2以下)が設定されていれ
ばこの乙区に記載される。
④婚姻届・離婚届
男女の自由な意思で婚姻の合意(実質的要件)があった(民法
742条)としても、わが国では法律婚(届出婚)主義をとってい
るので、婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出(形式的要
件)をして(同法739条)、受理されなければ婚姻は成立しない
(同法740条)。
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婚姻届をしない限り、いかに夫婦の実態をそなえていても法律上
は内縁にすぎず、夫婦とは認められない。婚姻届の用紙を実際に入
手して見てみよう。
婚姻届には、婚姻後に夫婦が称する氏と新しい本籍を記載するの
であるが、夫の氏を名のるときは夫が、妻の氏を名のるときは妻が
戸籍の筆頭者となって夫婦の新戸籍が作られる。夫婦の新本籍地は、
従来の本籍地や住所に関係なく自由に定めることができる。
婚姻届は夫又は妻の本籍地か住所地どちらでも届け出ることがで
きる。成年に達した証人2人が必要である。
離婚届の用紙を実際に入手して見てみよう。
離婚は、協議離婚、調停離婚、審判離婚、裁判離婚の4種別にわ
かれる。離婚届は、夫婦の本籍地又は住所地にする。双方の印鑑を
持参し、届出先に本籍や復籍する戸籍がないときは双方の戸籍謄本
も持参する。
協議離婚(同法763条)は、夫婦の双方が合意して、離婚届を
提出し受理されることによって成立する(同法765条)。協議離
婚のときだけ婚姻届と同じく成年に達した証人2人が必要である。
未成年の子があるときは、親権者と定められた者の氏名及び親権
に服する子の氏名を記載する(同法766条)。
婚姻前の氏に戻る者は、もとの戸籍に戻るのか、新しい戸籍を編
製するのか記載するが、今後も離婚の際に称していた氏を称すると
きは、3か月以内に届出(戸籍法77条の2)をしなければならな
い(民法767条)。
一方が離婚に合意しないとき、あるいは離婚には合意したが子の
親権者や慰謝料の折り合いがつかないときは家庭裁判所に調停を申
し立てなければならない。
家庭裁判所は、人事に関する訴訟事件その他一般に家庭に関する
事件について調停を行う(家事審判法17条)。家庭裁判所が調停
を行うことができる事件は、家庭裁判所に調停を申し立てなければ
ならず、これに反して訴えが提起されたときは、裁判所は、その事
件を家庭裁判所の調停に付さなければならない(調停前置主義・同
法18条)。
調停により双方の合意がなり、離婚が成立したのならば、調停の
申立人が、離婚届に調停調書の謄本を添えて届出をする。
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調停が不成立のときは、自動的に審判手続きに移り審判による離
婚となる。この場合、審判の申立人は、離婚届に審判書の謄本を添
えて届出をする。
審判でも合意できないならば、最終的な解決として、あらためて
家庭裁判所に裁判を起こし(訴訟)、判決を受ける必要がある。裁
判により離婚が確定したときは、訴えを提起した者は、裁判が確定
した日から10日以内に、離婚届に判決の謄本を添えて届出をする
(戸籍法77条)。
⑤戸 籍
戸籍法で学んだ、戸籍の謄本や抄本を本籍地の市町村長に請求し
て(同法10条)実際に見てみよう。どのようなことが記載(同法
13条)されているのだろうか。
戸籍は、人の出生から死亡までの身分関係を記録し公示する制度
である。その記載は、出生届・婚姻届・死亡届など、その殆どは届出
によって行われる。戸籍は夫婦とその子供を単位として作られるが、
日本人でない者(外国人)と婚姻した者や配偶者のない者が新たに
戸籍を編製するときは、その者及びこれと氏を同じくする子ごとに
編製する(同法6条)。
戸籍謄本とは、戸籍に記載されている人全部を謄写したものをい
い、戸籍抄本とは、戸籍に記載されている人のうち必要とするもの
だけを謄写したものをいう。
一戸籍内の全員をその戸籍から除いたとき、その戸籍は、戸籍簿
から除いて別につづり、これを除籍簿という(同法12条)。この
除かれた戸籍の謄本や抄本、戸籍に記載した事項に関する証明書の
交付を請求することができる(同法12条の2)。
新戸籍が編製された者、他人の戸籍に入る者、死亡した者、失踪
宣告を受けた者、国籍を失った者は、従前の戸籍から除籍される
(同法23条)。
行政書士となったときは、相続や遺言関係の業務を依頼されれば、
相続人と被相続人との相続関係を証明する必要があるので、戸籍謄
本や除籍謄本を請求することになる。
⑥住民票の写し・戸籍の附票
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住民基本台帳法は、個人の居住関係及び地位を公証する必要から
生まれた法律であると学んだ(住民基本台帳法1条)。市町村長は、
個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して住民基本台帳を作成
し、市町村に備え付けられる(同法5・6条)。
誰でも、市町村に対して、住民基本台帳の閲覧を請求することが
できるし、住民票の写し又は住民票に記載した事項に関する証明書
(住民票記載事項証明書)の交付を請求することができる(同法
11・12条)。
市町村長は、その市町村の区域内に本籍を有する者につき、その
戸籍を単位として、戸籍の附票を作成しなければならない(同法
16条)とある。
戸籍の附票とはいったいどんな書類だろうか。どのようなことが
記載(同法17条)され、どのようなことがわかるのだろうか。
この戸籍の附票の記載や削除又は記載の修正は、市町村長の職権
で行われる(同法18条)。実際に、この戸籍の附票の写しの交付
(同法20条)を受けてみよう。本籍地の市(区町村)役所に請求
する。
⑦商業登記簿
商法では、株式会社について学んだ。定款(商法165条)とは
どんなものでどこにあるのだろうか。何が記載(同法166条)さ
れているのだろうか。
定款の認証(同法167条)とはどういうことで、公証人(公証
法人1条)とはどういう人で、どこにいるのだろうか。
あわせて、「株式会社の定款の作り方と実例」「1週間でできる株
式会社のつくり方」などの本を見ておくのもよい。
会社の設立手続きは設立の登記で完了する。設立の登記は、創立
総会集結の日など所定の日から2週間以内に本店の所在地でしなけ
ればならない。
法務局は、土地や建物などの不動産登記と、会社その他の法人を
設立したときの商業法人登記を取り扱っている。
そこで、近所の工務店は株式会社らしいと知ったならば、ちょっ
と調べてみる。会社の住所(本店)と名前(商号)をメモして、管
轄する法務局・地方法務局(支局・出張所)へ行き、閲覧してみよ
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う。登記事項証明書も交付申請してみよう。
⑧どんな官公署があるのか
自分の住んでいるところには、どんな官公署が、どこにあるのだ
ろうか、とりあえず近所の官公署を知っておこう。
市(区町村)役所、(都道府)県庁、税務署、(都道府)、県税
事務所、警察署と消防署、法務局(地方法務局・支局・出張所)、
法務省入国管理局(支局・出張所)、簡易裁判所や家庭裁判所、陸
運支局(登録事務所)、地方整備局、土木事務所、保健所、社会保険
事務所、労働基準監督署、公共職業安定所など。
公証人役場とは、どんなところで、何をするところなのだろうか。
どんなときに行くところなのだろうか。官公署ではないが、商工会
議所(商工会)、消費生活センター、国民生活金融公庫なども知っ
ておきたい。
「自由にお持ち帰り下さい」と色々なパンフレットやリーフレット
が置いてあるところがあれば、自由に持ち帰るとよい。役所のパン
フレットというと、堅苦しくてわかりにくく文字ばかりとの先入観
もあるが、最近は、マンガやイラストをいっぱい使い、カラーも豊
富できれいでわかりやすく解説されたものが多い。将来の行政書士
業務に役に立つものもあるので、無料ならば本を買うよりもよいの
でもらっておくことである。
市(区町村)役所や(都道府)県庁では、許認可申請受付の窓口
はもとより、中小企業向けの経営指導・企業診断、制度融資・助成金、
経営研修・講習、異業種交流・産学公連携などの窓口も訪れてみる。
税務署、(都道府)県税事務所では、個人事業の開業届・青色申告
承認申請書の入手、税金の話しや青色申告の制度・特典など、法務局
(地方法務局・支局・出張所)では、登記制度のほか、人権啓発・擁
護、成年後見制度、帰化など、法務省入国管理局(支局・出張所)
では、外国人の出入国、登録制度など、簡易裁判所や家庭裁判所で
は、法律相談や手続きの方法を知ることができる。
公証人役場では、遺言、公正証書の作り方、確定日付の受け方、
電子公証制度など、商工会議所(商工会)では、企業の経営革新や
経営指導、マル経融資(商工会議所推薦融資)、創業、ベンチャー
支援など、消費生活センターでは、消費者保護とクーリング・オフ
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の方法など、国民生活金融公庫では、小規模企業の政府系金融機関
としての融資制度などを知ることができる。
⑨実務に役立つ本を見る
行政書士実務に役立つ本を読んでみよう。
時効の中断事由に請求(民法147条1号)がある。友だちに金
を貸したが返してくれないなど、貸金の請求は内容証明で催告(同
法153条)をする。この場合には「内容証明の実例」「内容証明・公
正証書起案作成の手引」などの本が役に立つ。
内容証明書を送ったくらいでは返済に応じないならば、直ちに、
支払督促(同法150条)を申立てよう。「支払督促のがわかる本」
には、その書式と書き方、費用などについて詳しく解説されている。
売買(同法555条)契約、賃貸借(同法601条)契約など、
契約書に関する書式の見本も「契約書とその応答文書文例」「契約
の一般知識と基本文例」などで知ることができる。
人が死亡すると同時に相続が開始し(同法882条)、相続人は、
相続分に応じて被相続人の権利・義務を承継する(同法899条)。
相続人が数人いるときは、遺産は相続人の共有となる(同法898
条)が、次に相続分に応じて具体的に分けられることになる。
相続は、誰にでも発生する身近な問題である。「相続・贈与がわか
る事典」や遺言に関する本で相続や遺言、遺産分割協議書や遺言書の
作成の知識を得ておくことである。
⑩行政書士の実務で役立つ法律
行政書士の試験科目ではないので勉強しなかったが、実務に必要
となる法律も今から学んでおこう。
外国人関係業務には、国際私法を内容とする法例、外国人の帰化
申請では、日本の国民たる要件を定め、国籍の取得及び喪失に関し
て規定した国籍法がある。
外国人が日本に在留する、永住する許可申請などは、日本に入国
し又は出国するすべての人の出入国の公正な管理と、難民の認定手
続を整備する出入国管理及び難民認定法がある。
産業の国際競争力の強化を図るため、知的財産の創造、保護及び
活用する必要性が増大しているが、行政書士の知的財産権業務とし
- 63 - Copyright c 2006 katsurai
て著作権関係がある。
知的財産法としては、著作権法、種苗法、不正競争防止法などが
ある。著作権法は、著作物(思想又は感情を創作的に表現したもの
で、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの)、実演、レコ
ード、放送及び有線放送の著作者の権利及びこれに隣接する権利を
定めて、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等
の権利の保護を図り、文化の発展に寄与する(著作権法1条・2条
1号)法律である。
種苗法は、新品種の保護のための品種登録に関する制度、指定種
苗の表示に関する規制等について定め、品種の育成の振興と種苗の
流通の適正化を図り、農林水産業の発展に寄与する(種苗法1条)
法律である。
不正競争防止法は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際
約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に
係る損害賠償に関する措置等を講じ、国民経済の健全な発展に寄与
する(不正競争防止法1条)法律である。
行政書士は、広く国民のほか、会社をクライアントにするので、
会社法はしっかり勉強しておきたい。
さらに、建設業許可申請ならば建設業法、運送事業経営許可申請
ならば道路運送法や貨物自動車運送事業法、宅地建物取引業者免許
申請ならば宅地建物取引業法、風俗営業許可申請ならば風俗営業等
の規制及び業務の適正化等に関する法律、その他、刑法、民事訴訟
法、刑事訴訟法、家事審判法、消費者契約法、特定商取引に関する
法律など多くの法律がある。
法律そのものはそれほどおもしろいものではないかもしれないが、
行政書士の業務にはそれぞれこのような根拠法規があるのだな、と
いう程度の知識でいいから知っておくとよい。実際に実務に携わっ
たときに、すぐ手に取れるようにしておけばよいであろう。
試験に合格したのだ。これからは試験のための勉強ではなく、実
務のための勉強だ。これからが法律がおもしろくなるのだ。人びと
の役にたつ、ホンモノの法律を学ぼう。
◆簿記を学ぶ
- 64 - Copyright c 2006 katsurai
簿記を勉強した経験のない人は、簿記を学んでおいてほしい。行
政書士は法律家の資格であり、試験科目にも法律があるから法律に
関しては素養のある人が多い。大学でそれなりに法律を学んだ経験
のある人もいるから、まあよしとしよう。
ところが、行政書士はまた中小企業の経営コンサルタントなので
ある。必須知識として簿記が必要である。にもかかわらず食わず嫌
いが多いのであるが、開業前に学んでおいてほしい知識である。
行政書士は、これから商売を始める人、事業を興そうとする人と
の出会いの連続である。中にはすでに始めてしまっている人もいる。
いずれにしても顧客の対象は経営者である。経営には数字がつきも
のである。企業の経営成績と財政状態を表す書類に財務諸表がある。
財務諸表がわかり、経営者と少しは話しができるようになっていた
だきたい。
いまさら簿記なんかと言っているようでは、おのずと自分の業務
範囲を狭める。簿記は行政書士の常識である。将来は、行政書士で
あり経営者である。自らも経営の数字には明るくなくてはならない。
かい
「まず、隗より始めよ」である。
日本商工会議所主催の簿記の検定試験が、毎年2月6月11月と
年3回実施されている。この3級でいいから受験を目指して勉強し
てほしい。合格を目標に勉強するが目的ではない。「簿記を勉強す
る」といっても、何か目標がないとなかなか継続できるものではな
いだろう。そこで「資格」と言えば、目の色を変えて勉強するだろ
うから例としてあげた。3級に合格したら次は2級と試験に合格す
ることが目的となってはいけない。その必要はない。資格だけをめ
ざす世界は、行政書士の実務の素養を得ることと関係ない、これは
また別の世界だ。
◆実務の研修
実務を学ぶ方法として、行政書士事務所に勤めるという手もある。
東京には補助者80名の大きな事務所もある。新聞の求人欄で補助
者を募集している事務所も見受ける。
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ただ、補助者になるというのは就職することである。行政書士に
限らず、士業界には数年間修行をして独立するという方法が昔から
あった。いわば雑役に従事する丁稚が年季奉公し、長年忠実に勤め
のれん
て顧客を分けてもらう、いわゆる暖簾分けである。もっとも現在は
のれん
暖簾分けなどめったにないが、それ以外は似たようなものである。
このような非近代的なことを旧態依然とやっているようではいつま
でたってもその業界は発展してゆかない。
数年間補助者であることの時間のムダも考えなければならない。
実際に時間をかけて見習わなければならないことは何か。 1 回やれ
ばわかることを見習いと称して何度もやる必要はない。もっと勉強
すべきことがほかにたくさんある。
行政書士の業務範囲は広く、ひとつの事務所が手懸ける業務は全
体からみればごく一部である(補助者が何十人いようと)。何年も
補助者を経験して、覚えたのが2、3の申請書の書き方だけという
のでは困る。他の業務はどうするのだろうか。
それよりも、一番大事な自分の顧客はどのようにつくる。事務所
経営のノウハウはどのように学ぶ。
そして、開業資金の準備はできているのだろうか。
◆行政書士実践実務研究会
1984年行政書士の実務学校を創立した。行政書士をめざす人
びとに対して、行政書士の実務と事務所経営のノウハウを伝授する
ものである。建設業許可申請、外国人在留許可申請など主な業務と
行政書士として必要最小限の知識を、3か月の講座ですべて教え込
んでしまおうというものである。
当時、受験の学校はあっても実務学校などはない。行政書士会で
も講習会がそれほど開催されていなかった時代である。行政書士会
にさきがけて講習会を始めた。自治大臣(当時)は、行政書士の資
質の向上を図るため、講習会の開催、資料の提供その他必要な援助
を行うように努めるものとするとされた行政書士法の改正(行政書
士法19条の4)はその翌年のことである。
現在は行政書士会へ入会したならば、行政書士会が主催する講習
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会、研修会には参加できる。開業するのではなくて、研修を受ける
ために入会をする人もいると聞く。それだけでは会費がもったいな
い。入会するというのは開業することである。開業したならばその
日から、顧客開拓に全精力をつぎ込んでいただきたい。
入会しなければ実務を勉強できないということはない。行政書士
の実務に関する本も市販されている。本を読んで実務に触れること
もあると思う。開業行政書士に話しを聞くこともあろう。いろいろ
な機会をとらえて、やはり、行政書士会へ登録・入会する前までに実
務の一端なりを勉強しておいていただきたい。
2
事務所を設け
登録・入会する
事務所はどこに設けるのがよいのか
◆登録・入会する
試験に合格しても、行政書士として業務を行なうためには登録・
入会しなければならない。事務所をどこに設けるかを決めたなら、
日本行政書士会連合会(以下「連合会」という)に登録(行政書士
法6条)し、行政書士会に入会する(同法16条の5第1項)こと
になる。
連合会に登録の申請をするには、事務所予定地の都道府県に設立
されている行政書士会を経由して申請する(同法6条の2第1項)。
事務所を設けようとする所在地(住所地ではない)の行政書士会
に行き、登録・入会に必要な書類をもらってくる。行政書士の登録
は、次の書類を添えて申請する(東京都行政書士会の場合)。
●提出書類
①行政書士登録申請書
②履歴書(連合会規定用紙)
③誓約書(連合会規定用紙)
④東京都行政書士会入会届(個人用)
⑤東京行政書士政治連盟加入届
●書類提出時に必要な費用
①登録手数料
25,000円
②入会金
200,000円
③本会会費
18,000円 (3ヶ月分)
④政治連盟会費
3,000円 (3ヶ月分)
合計 246,000円
●添付書類
①行政書士となる資格を証する書面
②戸籍抄本 発行後3ヶ月以内(外国人は、市区町村長の登録原票)
③住民票 発行後3ヶ月以内
④登記されていないことの証明書 発行後3ヶ月以内
⑤身分証明書(本籍地の市区町村発行のもの)発行後3ヶ月以内
⑥事務所の使用権を証する書面
⑦写真
その他、詳細は各行政書士会にお問い合わせいただきたい。
実務も学んだ。さあ、事務所を設け、行政書士を開業だ!
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◆事務所設計マニュアル
行政書士は、その業務を行なうための事務所を設けなければなら
ない(行政書士法8条1項)が、どのような場所に設けたら良いの
だろうか。交通至便で環境良好なオフィス街か。官公署のそばにあ
って大きな看板を掲げなければならないか。近代的なビルの一角に
位置していることが必要か。県庁のある都市や主要都市か。住宅地
ではダメで商業地か。
事務所は、行政書士事業の本拠である。
「サラリーマンではなく独立して一国一城の主になる」と言うが、
文字通り事務所は城である。そこで事務所経営の戦略を練り、戦術、
戦法を組み立てる場所であり、時には、自己を省み自省する場所で
もある。自分にとって大切なそして居心地のいい空間でなければな
らない。
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とにかく、とりあえずあれば良いというものでもなさそうだ。
顧客に事務所を訪問してもらう。官公署に書類を提出しに行く。
官公署のそばで飛び込み客を待つ。客の訪問を受けた際に、外見の
立派さで信頼感を得たり、事務所のロケーションや物理的な条件が
事務所経営に有利であったりすることがまったくないわけではない。
行政書士は無形のサービスを提供する。商品の販売のように目に
見えるものを売るのではないから、事務所が立派だという演出もあ
る程度は必要かもしれない。
.....
しかし、開業当初からハッキリ言って客は来ない。
....
客がないという意味ではナイ。「官公署のそばに事務所を構え、
客が来てくれる事務所」という発想は止めるということだ。ではど
うするのか。
そう、「こちらから顧客のところへ行く事務所」である。
「顧客のところへ行く」「官公署に行く」のであるから、行政書士
は事務所を留守にすることが多く、顧客もめったに訪れない事務所
が立派である必要はない。開業資金があり余るならばともかく、立
派な事務所にこだわらなくてもよいということである。
客から、「立派な事務所ですね」と言われたとしても、だから「あ
なたに依頼しましょう」とは言ってはくれない。資金は事務所より
も営業、広告、宣伝にかけたい。開業したてのころは顧客が事務所
へわざわざ訪問してくれることよりもこちらから訪問することの方
が多い。お客さんに来てもらおうなんて十年早い。
事務所は自宅で十分である。なるべく資金をかけずに事務所を持
とうとするならば自宅の一部を事務所にする自宅兼用事務所である。
自宅を事務所にする場合は、事務所部分と居住部分が完全に分離さ
れ、業務の秘密保持と従事に差し障りがないようにしなければなら
ない。独立した6畳位のスペースは必要である。リビングなどと併
用は望ましくない。
自宅で十分であるが、事務所所在地の住居表示はやはり人口が多
い都市部がよい。それもできればベッドタウンよりは昼間人口の多
い地域、中小企業や商店のある都市がよい。行政書士は人びとを顧
客として成り立つ。役所のそばである必要はないが、人が少ないと
ころでは仕事にならない。県庁所在地や主要な都市が有利であるこ
とは言うまでもない。
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行政書士を開業するに「事務所はどこに設ければ良いですか。」
「事務所を設けなければならない。」と何をおいてもまず事務所のこ
とを言い、それがすべてのような人もいる。「事務所などはどこでも
良い、自宅で十分だ。」と言うと怪訝そうな顔をする。事務所を持
たなければ仕事が始まらないような、事務所さえできればもうそれ
がすべてで、仕事はそこへやってくるような気分になる。
立派な事務所が必要だろうか。仕事は事務所がやるのではない。
見事な事務所だから仕事がくるのではない。官公署のそばだから仕
事がくるのではない。
自宅併用事務所のメリットは経費が少なくてすむが、デメリット
は、オンとオフのけじめがつきにくいということであろうか。どこ
からが仕事でどこからがプライベートか、時間の管理をすることが
肝要である。朝起きてから寝るまで同じ空間ということもあり、つ
いダラダラと時間を過ごしてしまう。これが独立事務所ならば、朝、
家を出る時に、「さあ、これから仕事。」と切り替えられる。
時間のコントロールができるのならばマイナスにはならない。も
っとも事務所がどこであろうが、時間管理は自由業者にとって必要
な自己規制ではあるが。
次に自宅併用事務所は、とにもかくにも家族の協力なくして成功
はあり得ない。家族を補助者にするしないにかかわらず創業のパー
トナーである。外出中に仕事の電話に出てもらうこともある。お互
い軌を一にして歩んで行ってもらわなければならないのである。
外国人が対象の国際関係業務は、顧客の方が事務所を訪れて来る
ケースがある。紹介がなく訪れる一見客の外国人に対するリスクの
問題や、事務所の規模・大きさがそのまま行政書士の信頼度と考え
るお国柄もあり、自宅併用事務所ではない方がよい。
女性(に限ったことではないが)行政書士は、ビジネスの付き合
いがプライベートに発展しトラブルになることもある。プライバシ
ーを守るためにも、セキュリティのためにも自宅と事務所をわける
ことが必要である。
確かに開業当初はあまり費用はかけられない。しかしそれはまた
一面、消極的な守りの経営にはまり込むことでもある。挙げ句の果
てに段々うまくいかなくなり挫折してしまうことになる。
儲かってから事務所を借りるというのではいつのことになるのか
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わからない。それよりは、事務所を借りた以上は徹底的にやってや
ろうと、あえて外に打って出るという積極的な発想も必要である。
ひとりでは費用がかかるから、行政書士が何人か集まって事務所
を借りる共同事務所も考えられる。設備や資金を個人で持つのでは
なく共有してすませる形態で、いわばシェアリングである。十分な
開業資金を蓄えなくても開業できる。立派な事務所を構えればステ
ータスシンボルにもなるが、資金負担を増やす。その点、共有すれ
ば開業へのハードルも失敗のリスクも大きく下がる。持たざる経営
というところである。時間をかけて開業資金を貯めていたらビジネ
スチャンスを失ってしまう、とにかくすぐに行政書士を始めちゃお
という人向きである。
これも当然メリット・デメリットがある。事務所費用をどう分担
するかを決めなければならない。誰がコピーを何枚とったとか、誰
々は電気代を使い過ぎだとか、揉めないようにしなければならない。
事務所に依頼された仕事の収入の帰属、それぞれの役割分担など、
ルールをシッカリ決めておかなければ、集まったお互いの信頼関係
も壊れることになる。みんなが同じく平等というのではなく、誰か
ひとりがリーダーシップを持つ方がよい。トラブルをなくする工夫
が必要な事務所形態である。
行政書士が、弁護士や税理士など他の資格者と事務所を持つのを
合同事務所と定義する。
ひとつの事務所で様々な手続を行える。いわゆるワンストップサ
ービスと呼ばれるもので、一カ所の事務所で顧客にサービスが提供
できる、これからの事務所形態かもしれない。
ただ、この形態は行政書士にとってはあまりメリットはない。外
国人関係業務に強いとか、著作権専門とか、高度な専門性をもって
ないと他の資格者の中に埋没してしまうからである。
◆什器備品と文書管理
行政書士は「パソコン一つ」で仕事ができる。それ以外に特別な
設備は必要ない。仕事のしやすい環境と顧客から預かる大切な書類
保管する場所があればよい。
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①事務机
机は大きければ大きいほどよい。書類を作成するには、提出書類、
疎明資料、参考図書、預かり書類など、書類の山に囲まれて仕事を
する。机の上が狭いと仕事の能率が悪いし、書類の紛失の原因にも
なり非効率である。机の上を広く使うため整理整頓する習慣と性格
がなければならない。
②キャビネットと書棚
書類の保管場所はキャビネットである。顧客からの預かり書類、
書類作成資料、事務所控用の申請書のコピーなどを保管する。
申請書のコピーは顧客管理のための書類であり事務所の財産であ
る。守秘義務を遵守しつつ業務拡大に威力をもつツールである。文
書類の整理、管理には十分留意し業務の合理的能率につなげる。
書棚は、業務上の参考書籍、顧客からの預かり書類、未提出書類
の正本、副本の置き場としても重宝する。
③参考書籍
業務のための参考書籍を備える。書籍ばかりでなく、新聞、雑誌
など行政書士にとって情報収集は商品仕入である。これなくして売
上は上がらない。行政書士の実務に最適な書籍も多数出版されてい
るので書店で買い求める。
④応接デスク
顧客の来訪に備えて応接セットは備える。いわゆる応接四点セッ
トなどよりも会議用のデスクがよい。机の位置が低いと、顧客に署
名してもらったり捺印を受けたり書類に記入してもらうに甚だ使い
勝手が悪い。会議用のデスクならば、机の高さ広さがちょうどよく、
来客以外は仕事のスペースになり、書類の置き場になり、コーヒー
ブレイクの場所にもなる。
⑤コピー機
必要な備品としてコピー機がある。コピー機は、業務の事跡を残
すのに必要である。書類の作成は原則として正本と副本の2部作成
する。正本は官公署に提出し、副本は顧客に控えとして保管しても
らう。事務所の控えとしてコピーをとる。官公署は書類提出後も内
容について問い合わせてくることがある。ひとつはこれに応答する
ため。ひとつは次回の業務の参考にするためと顧客に有益な情報提
供の資料とする。
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⑥パソコン
行政書士は、申請書・届出書・議事録・契約書など書類は、パソコン
で作成する。できない方はできるようになること。自転車に乗れる
ことと同じで当然のことである。「私はできません」などと平気で
言う人は行政書士にならない方がよい。
パソコン教室などに行かなくてもワンフィンガーで、株式会社の
定款でもよいから一度作成すればたちまちウマくなる。
パソコンは、文書を作成するだけでなく年賀状ソフトでDM(di
ret mail)を送って顧客開拓に使う。財務計算・給与計算などもでき
る。
許認可申請書の事務所控えを紙で残すのではなくパソコンの中に
保存する。申請書式と顧客情報を書類ではなくパソコンのHD(hard
disk)に保存しておく。さらにバックアップをMO(magneto-opt
ical)に取っておけばこれで完璧である。書類の保存にパソコンを
使うということは、高い家賃の事務所のスペースをとらないという
ことでもある。
⑦ファクス
迅速に確実に情報を交換するにはメールを使うが、場合によって
はファクスも使う。
顧客に準備してもらう書類の一覧・会社設立に必要な印鑑証明書・
戸籍謄本・住民票・書式の書き方などファクスしてもらえる。行政書
士の仕事にとって便利である。書類が行き来する訳であるから、書
類のプロとしてはまだまだ便利である。
⑧電話・ケータイ
顧客はわざわざ訪ねて来ないが電話はくる。そんな事務所にしな
ければならない。電話の応対は、事務所の顔である。「はい、○○
事務所です。」と言う。自宅事務所にした場合でも電話は事務所用
と自宅用とにわけた方がよい。
電話は、ひとつには顧客に応対する窓口としての受信道具である。
ひんぱん
顧客が事務所を訪問することはめったにないが電話は頻繁にある。
またそうでなければならない。
顧客以外にも官公署、行政書士、他の士業者などからの連絡、応
答、問い合わせ、顧客の紹介、相談などの電話がくる。
ひとつには電話営業のための発信用具である。顧客から仕事依頼
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の電話を漫然と待つのではなく、こちらから積極果敢に電話営業を
する。業務受託の有効な武器でありツールである。
行政書士は事務所内だけで仕事をするわけではない。官公署へ書
類を提出する。顧客を訪問する。人びとと会い人脈を広げる。顧客
開拓の営業にでかける。
電話をかけてもコールだけが鳴り続ける行政書士がいる。これで
は何のための電話か。事務所を留守にするならば電話を受けてくれ
る人が必要である。
留守番のためにだけ人を雇うことはできないので留守番電話を使
な
う。電話をかけるとテープが作動する。どこへかけても聞き馴れた
せりふ
テープの声が決まった台詞をはじめる。家庭用ならばともかく業務
用としてはこれではメッセージを入れる気がしなくなる。これでは
顧客の信頼を得られない。着信すれどもメッセージなしということ
になる。大切な顧客を失う。
秘書センターを利用するのもよい。留守中に事務所にかかった電
話を秘書センターに転送しいつでもパーフェクトに応対してもらえ
る。スタッフがいる事務所でも全員が留守にする、昼休みがある、
土曜日は休みである。こんな日に役に立つ。秘書センターでは事務
所名を名乗りあたかも事務員のごとく親切丁寧に応対してくれる。
留守中にかかった電話が緊急なものならばケータイに連絡してくれ
る。気のきかない事務員を雇って顧客に苦情を言われるよりは電話
の要望と信頼に応えてくれる。電話での新規の顧客や飛び込み客に
も応対してくれビジネスチャンスを逃すことはない。
活動する飛び回る行政書士にとっては、即時性が大きく直接本人
と話しができるのはケータイである。ケータイの特性は先方の今と
当方の今を結ぶ即時性である。細かな点や秘密事項も社長本人に確
認することもでき、必要なときが話したいときになる。
事務所を留守がちな行政書士は、連絡を取りながら仕事をすすめ
るときには機能を発揮する。事務所にかかってきた電話をケータイ
に転送する。電波が地下でも届く所も多く、どこにいても事務所に
かかった電話が受けられるようになってきている。事務所をどこに
設けるかという発想よりも、いつでも、どこでも、車の中、電車の
中、行政書士のいるところすべてが事務所になる。立派な事務所を
構えて‥などと言っていることが時代遅れになってきている。
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⑨自動車
交通の便のいい所ならばともかく地方においては自家用車はなく
てはならない。顧客への訪問にしても、官公署へ行くにしても足の
便がなくてはならない。行政書士はフット・ワークがよくなくてはな
らない。
オートバイに乗って走り回っている東京の行政書士がいる。四輪
だと交通渋滞に巻き込まれたりして、顧客と約束の時間が守れない
ことがあるからである。
◆使用人とその他の従業者
平成16年8月1日から施行された行政書士法に、行政書士が他
の行政書士又は行政書士法人の使用人として1条の2、1条の3に
規定する業務に従事することを妨げない(行政書士法1条の4)と
された。
行政書士又は行政書士法人の使用人その他の従業者は、正当な理
由がなく、その業務上取り扱つた事項について知り得た秘密を漏ら
してはならない。行政書士又は行政書士法人の使用人その他の従業
者でなくなつた後も、また同様とする(同法19条の3)が新設さ
れた。
使用人とは、行政書士事務所又は行政書士法人と雇用関係にある
者をいい、その他の従業者とは、雇用関係はなく行政書士の業務を
手伝う者をいう。行政書士が使用人又はその他の従業者になること
もあり、その行政書士事務所又は行政書士法人は、1か所でなけれ
ばならないということはない。
行政書士は開業すると業務を受託するために営業をする。顧客を
訪問し関係書類を蒐集する。書類を作成して、官公署へ提出する。
提出を終えた書類の副本を顧客に返還すると同時に報酬を受ける。
これをひとりでやるわけであるから顧客が増えれば増えるほど忙
しくなってくる。手伝ってくれる事務員が必要になる。
使用人を採用するということは、給料、交通費など直接コストと
福利厚生など間接コストもかかる。それに伴い損益分岐点は、経費
の2倍の売上が必要になる。雇用するメリットが必要ならば3倍の
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売上を見込まなければならない。行政書士事業の経費率は30%位
であるから必要な利益から割り出して計算する。
配偶者を補助者(同法施行規則5条1項)とすることもある。開
業に際しては配偶者の協力と理解は欠かせない。配偶者を補助者と
して届け出て(同法施行規則5条2項)書類の作成と官公署への提
出は配偶者に任せる。自分は営業と顧客との渉外折衝に専念すると
いう業務分担も合理的である。
これはまた、所得税法上青色申告の承認を受け、配偶者が専ら事
業に従事していたならば、青色事業専従者として配偶者への給与が
必要経費となる(所得税法57条)ので節税にもなり有利である。
◆補助者を雇うか、ひとりでやるか
ところで、行政書士にとって補助者とは何か。補助者を雇う理由
は何か。
経営者の立場からいえば、補助者を雇うには2通りある。
ひとつは、配偶者以外で事業パートナーとしての補助者である。
豊臣秀吉には竹中半兵衛、黒田官兵衛がいて、徳川家康には本多
正信がいた。漢の高祖には張良である。織田信長やナポレオンは例
外であり、歴史上、天下取りには軍師、謀臣はまず欠かせないよう
である。
もうひとつは、補助的な業務を行なわせるスタッフである。これ
は文字どおり補助者であるから、未経験者を雇ったならば一から指
導しなければならない。海軍大将山本五十六が言ったように「やっ
てみせ、言ってきかせて、やらせてみ、ほめてやらねば人はうごか
じ」という精神を持って、時間と費用をかけて育てていかなければ
ならない。補助者といえば一般的にはこちらを言う。
士業者を職業とする理由のひとつに「人に使われたくない」とい
うのがある。それはまた「人を使いたくない」ということと表裏の
関係にないだろうか。人の使い方に人一倍気を使う人であるという
ことでもある。
使われる立場からいえば、「補助者希望」「見習いで働きたい」
という場合、それは将来の独立までの間、それもできるだけ早く役
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に立つことだけを覚えて独立しようということになる。その為には
給料はいくらでもよい、極端なのはタダでもよいと言う。
使う立場からいえば、仕事が忙しくて手伝ってほしいから雇う。
お金のことを言うならば、どちらかといえば給料は多く払ってもよ
いから仕事をやってほしいと思う。人に教えるということはお金よ
りも貴重な時間がかかる。お金の10万や20万は余分に払っても
よいから大切な時間には代えられない。
安い給料でもよいから働きたい、勉強になるからタダでもよいと
いうのは、まったく時間のムダだから止めなさい。
補助者を雇ってみたら開業のための実務習得ばかりを考えている、
という声がある。事務所のためとか依頼人の立場に気を配らない。
自分から進んで仕事をしようとしない。言われたことしかやらない。
簡単な仕事もできないのに興味のある仕事になるとやらせてくれと
自分のためになる仕事を選んでいる。雇われる方は就職とは考えな
いのかもしれないが、仕事のやり方を教えるために雇うのではない。
補助者を希望する時は、その年月を終えたならばいったい何歳に
と き
なっているのかも考える。行政書士が現役でバリバリやれる年齢は
限られている。やるならば1日も早く独立開業すべきである。
学生時代から国家資格を受験し続けている人の中には何年も無職
であったり、フリーターぐらいしか経験がなく、企業で社員教育を
受けた経験がない人が少なくない。
試験のための勉強ではなく、社会で通用する常識人のための教育
が受けられる時代というのは新入社員のほんの一時期である。
社会に出てそれなりの年齢に達すると、その人の言葉づかい、挨
拶の仕方、態度などが、社会人として常識にずれているなと感じた
としても、誰も忠告したり、助言したり、注意してくれなくなる。
まして士業者になればなおのことである。 と き
年齢にふさわしい教養を身につけておく時間が必要である。
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第4章
行政書士で
ガッチリ稼ぐには
◆行政書士はなぜ超有望なのか
行政書士の仕事は
3000種類ともいわれる
時代の変化によって
その業務はますます拡大していく。
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- 80 - Copyright c 2006 katsurai
1
行政書士は
なぜ有望なのか
行政書士の仕事はどんどん増える
◆行政書士としてポリシーをもつ
ポリシーとは、行政書士を行ってゆく方針をいう。事務所経営の
指針をいう。行政書士資格のとらえ方、考え方をいう。そのポリシ
ーのもとに行政書士としての基本を作ってゆく。どんな職業でもそ
うであるが基本がなくては成り立たない。
ところが、行政書士は試験に合格してすぐ開業する。基本を学ぶ
機会がないまま自己流でやってゆく。学ぶとは=まねぶ、人のまね
をすることからくる。よい人のまねをして学ぶ。その上で自分なり
の行政書士像を作ってゆくことが肝心である。
聞くところによると、歌舞伎の世界では基本がわかった上で型を
崩すのが「型破り」、基本がなければただの「形無し」という。
ポリシーとは、特に何か高尚な信念を持てということではない。
物の本によると、行政書士で成功するには、人格とか人間性を磨け
というようなことが書いてあったり、言ったりする人がいる。
行政書士だから弁護士だから人格を高潔にしなければならない、
人間性を磨かなければならないと思っているとするならば、それは、
行政書士や弁護士を特別の職業だと勘違いしている、どちらかとい
うと思い上がりというものである。
顧客は、行政書士に人格や人間性を求めているのではない。行政
書士や弁護士に限らずどんな職業に就こうとも、人間のあるべき姿
を求めて努力してゆくことは必要であろう。
◆事務弁護士ソリシター
イギリスの弁護士は、バリスター(barrister)とソリシター(s
olicitor)に分かれる。バリスターは法廷弁護士といい法廷での弁
論だけを専門に担当する。ソリシターは事務弁護士といい一般の法
律相談や書類の作成・管理をする。弁護士だが法廷には立たない。役
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割に応じて二種類に分かれている。
イギリスでは市民の法律相談はソリシター(事務弁護士)が受け
る。気軽で身近な存在である。人びとは助言と指導を受けその場で
法律書類を作成してもらう。日常のチョットした事件はそれで十分
こと足りる。ソリシターがこれは裁判の必要があると判断したなら
ばソリシターからバリスター(法廷弁護士)に依頼する。バリスタ
ーはソリシターの紹介によってのみ事件の依頼を受け、依頼者から
直接受けることはない。
わが国の弁護士は主としてバリスターの役割をもちソリシターも
兼ねる。市民から直接相談を受け書類を作成し法廷で弁論もする。
イギリスと違って一人二役であるから合理的な気もする。
それぞれの国によって国風が違うとはいえ、弁護士を2つに分ける、
なぜこんな面倒なことをするのであろうか。歴史のある国イギリス
の制度だけに、学ぶべきものがあるのではないかと感じる。さらに、
日本の弁護士はバリスターとソリシターの2つの役割を担っている
であろうか。
◆離婚相談室○○センター
かなり以前のことであるが「離婚相談室○○センター」と名乗る
者らが弁護士法違反で警視庁に逮捕された。「弁護士より円満・ス
ムーズ・費用も安い」をキャッチフレーズに離婚相談所なるものを
開設した。約300件の離婚に介入し、入会金や着手金の名目でお
金を受け取り、慰謝料の取立てまでも代行し調停料などと称して約
4千万円の収入を得ていた。
離婚は、慰謝料・親権・養育費負担など法律問題がからむ。素人が
関わると人権侵害になるばかりでなく、このような法律事件を営利
を目的に継続的に弁護士資格のない者が業として行うと弁護士法72
条に違反する。弁護士会からの再々の勧告にもかかわらず営業を続
けていたため、東京の三弁護士会から非弁護士行為として告発され
たわけである。
ただ、この離婚相談室の利用者からは被害届や苦情といったもの
はなかったらしい。どちらかといえば、問題が解決し慰謝料も入る
- 82 - Copyright c 2006 katsurai
ようになったと感謝までされていた。
昔ならば仲人や親に相談することも手軽にお金で済まそうという
時代の始まりであった。
◆法律相談
現代は人間関係が希薄であり、自分の悩みや相談ごとを気軽に話
せる相手がいないといわれる。相談することによって相手との複雑
な人間関係を作りたくないということもある。
争いごとも当事者同士の話し合いによる妥協や、コミュニティー
内部の調整で決着をみることが困難な時代である。
そこで友人や知人ではなく第三者に相談することになる。ただ相
談する相手は秘密を守ってくれることが条件である。勿論そのため
には専門家に委ね、それ相応の費用は払おうということである。
家族(離婚、親子、相続)問題、土地などの財産取引、事業経営、
交通事故など日常生活から生ずる紛争の解決。外国人労働者、高齢
者福祉、教育、働く女性と男女の平等の問題など人権に係わる問題
について、聞きたいこと相談したいことは人それぞれに存在してい
る。相談相手、相談機関を求める潜在的なニーズは高い。
国民の権利意識が高まり、社会の組織も複雑多岐になり高度専門
化してきた。契約、債権債務、相続、隣人訴訟など法律問題が身の
回りに発生する。生活に入り込み民事事件となる。裁判などに一生
関わることはないと確信している人でも、ある日突然に民事事件の
当事者となり法律事件に直面する。
人生80年時代を迎え、この高齢化社会の中で相続、遺言に関す
る相談はもとより、高齢者の財産管理、成年後見制度の利用、家族
と健康、医療と告知、葬式とお墓、住まい、年金など、高齢者にま
つわる法律相談が増える。
◆行政書士は事務弁護士ソリシター
日本の弁護士は約2万人。顧問弁護士をもち気軽にアドバイスを
受け、身にかかる事件を解決できる人は少数であろう。弁護士に相
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談するにしても着手金、成功報酬など費用の面で不安をもつ人びと
も多い。アメリカのようにファミリー・ロイヤーを持つというには
日本ではまだまだ先のことである。
そこで、まず行政書士がこの役割を担ったらどうだろうか。
中小企業者は、経営上の相談相手として行政書士に相談する。書
類の作成を依頼し法的に不備がないようにしてから行動する。
企業にひとたび問題が発生したならば、行政書士が真っ先に駆け
付け即座に対応する。経営者を支え企業を守る。それでこそ、行政
書士は街の法律家である。
中小企業の社長・経営者には家族がある。相続問題、遺言書作成、
成年後見、婚姻、離婚、親子など家族法の分野の相談に応じること
になる。
開業当初から、あなたの街の法律家=行政書士というのではなく、
官公署へ提出する書類、許認可手続き、権利義務・事実証明の書類
の作成、相談を通じて信頼を得る。そこから市民法務、予防法務的
な業務の相談にも応じていく。
イギリスの弁護士制度をみるに、日本においては事務弁護士は行
政書士である。日本の弁護士は法廷活動が中心で大都市遍在である。
これが弁護士の過疎過密を生む。
弁護士は紹介がないと相談を受けないとか、報酬の規定がわかり
にくく高いという誤解も生んでいる。「一体いくらとられるかわか
らない。」と、まずフトコロ具合との相談で、事務所の門をくぐる
のをためらう。これでは大衆が気軽に弁護士の事務所に入ってゆけ
ない。
弁護士の不在は、資格のない者が法律事務を頼まれ問題を起こす。
いわゆる事件屋、取立屋、示談屋といった不埒の輩が跳梁跋扈する。
このような連中が大衆の法律の無知につけ込み、法律の隙間で食い
人びとの被害の後が立たない。
こうした被害を防ぐため、街の法律家として行政書士がもっと応
えるべきである。行政書士ができる業務範囲を明確にする。PRす
ることにより広く多くの人びとに知ってもらう。訴訟になりそうな
法律事件は、行政書士が信頼できる弁護士を紹介すればよい。
事件になってしまってから依頼するのが弁護士なのである。行政
書士は、事件になる前に依頼されるようにする。これを予防法務と
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いう。顧客とのコミュニケーションを日頃からもつことにより権利
義務・事実証明の書類の作成を通して事件にならないようにしてゆく
使命がある。
2
行政書士資格のメリット
行政書士と他の資格を比べてみると
◆行政書士はこんなにも有利
現代は一億総資格時代である。新聞、雑誌、インターネット上に
は、資格、免許、技能の各種学校、通信教育機関の広告が数多く掲
載されている。サラリーマンの転職や脱サラ、定年退職後の第二の
人生設計のため、資格は「第二の年金」という言葉も生まれた。資
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格のひとつも取得しておくことは将来の保険とさえ言われる。
「○○○士」といっても、金さえ払えば得られるもの、私的な団体
が発行する殆ど役に立たないもの、たった一日の講習で取得できる
もの、公的な資格でもすでに業界が飽和状態で将来性に疑問のある
ものなど多種多様である。
これからは、どういう資格を取得したらよいのだろうか。
第1に、オモシロイことである。
第2に、実益があることである。
一生のうちの貴重な時間を、その資格に費やすのである。オモシ
ロクなくてはならない。学ぶことに楽しく、愉快で、目の前が明る
くなり、広々と拓ける感じで、気持ちが晴れるようでなくてはなら
ない。
オモシロオカシク勉強する。強いて勉めるのだから、そりゃ最初
はチョットはつらい。チョットはつらくても、やがて喜びを知るこ
とができるから続けられる。真理を知ることで「あ、こういうこと
か!」と気持ちが晴れるのである。
貴重なお金を費やすのであるから、実益もなくてはならない。ハ
ッキリいってお金にならねばオモシロサも半減である。資格を取る
ことが趣味だという人もいるが、ここはやはり、趣味と実益を兼ね
たい。
行政書士の試験科目は、国民の基本的な人権にかかわる憲法、個
人の財産や相続などの民法、官公署との関わりの中から考える行政
法、日常生活に密着した戸籍法や住民基本台帳法など、教養として
学んでおいても、これからの生き方に役に立つ法律ばかりである。
行政書士資格の人気は、年々高まり、受験者の層は非常に多岐に
わたっている。
社会への進出が著しい主婦やOLなど女性をはじめ、将来の独立
や、転職を考えるサラリマーン、他の資格取得のワンステップとし
て行政書士をとる人、自己啓発の一環として勉強を始める中高年、
このような多くの人びとが、行政書士の資格をめざしている。
行政書士は、総務大臣が管掌する国家資格であり、社会的にも高
い評価を受け信頼された資格である。
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◆円満解決能力のある人
行政書士に向く人は、円満に解決する能力のある人がよい。
弁護士は社会正義を実現することを使命とする(弁護士法 1 条)
と言うが、その仕事は、どちらか一方(原告又は被告)の側に立ち、
相手(原告又は被告)と闘争をすることを好む人に向いているとい
える。
行政書士は、依頼人はもとより相手方の言い分もよく聞いて納得
させ、そのことを書類にすることの方が好きな人に向いている。争
うよりは、「まあまあ、そう言わずに。」と両者を円満に、平和的
に物事を解決する能力のある人がよい。
弁護士は基本的人権を擁護する(同法1条)と言うが、それは、
人権が行使できない場合に行使できるようにする、不当な判決を免
れる、不当な請求を斥けるというように、依頼者の「元々あるべき
姿に戻すこと」が仕事であり、争ったあげく相手に勝訴したところ
が、そんなのは当り前でいわば元に戻っただけである。
ところが行政書士は、これから事業を始める人に会社を作ってあ
げる、新しく営業の免許や許可を取ってあげる、日本国籍を取得し
て日本人として生活をスタートさせてあげる、というように、依頼
者に対して、これからの、前向きな、積極的な創設的利益をもたら
すことが仕事である。
過去の利益を後から計算して税務申告する税理士、不動産の権利
を保全するために登記する司法書士などは、後処理の消極的な利益
をもたらすことが仕事と言える。
◆法律に独占業務の規定がある
行政書士法が、行政書士の業務を規程している(行政書士法1条
の2及び1条の3)だけでなく、行政書士又は行政書士法人でない
者は、業として第1条の2に規定する業務を行うことができない
(同法19条1項)と規定され、これに違反した者は、1年以下の
懲役又は50万円以下の罰金に処すると規定している(同法21条
2号)。
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このような規定を「独占業務」の規定という。いわば法律がこれ
これは行政書士の仕事であると公言し、かつ行政書士だけができる
と保証していると言っても過言でない。
公的な資格であっても、法律に独占業務の規定がないと実益がな
く職業として安定していると言えない。取得してもあまりメリット
がないということである。
中小企業診断士は、経済産業大臣が登録する法律上の国家資格で、
その業務は中小企業支援法に基づく経営の診断及び経営に関する助
言というが独占業務の規定はない。
中小企業に対する経営の診断や経営に関する助言は「経営○○
士」でも「経営○○管理士」でも、無資格であっても実力さえあれ
ばできる。つまり経営コンサルタントになることができる。サラリ
ーマンに人気の高い資格であるが、これでは苦労して取得する気も
なくなるというものだ。
資格を活かして、将来の人生設計とその収入を考えた場合、行政
書士の方がはるかに実益があり得であると言える。
中小企業診断士として独立開業を考えているのであれば、中小企
業診断士だけでは食っていけないので、行政書士も取得してから開
業した方が鬼に金棒である。
◆多くの顧客ができる
その名称が、ともに「○○書士」だから似ていて、よく間違われ
る資格に司法書士がある。その仕事の内容はもちろん異なるのだが、
もっと大きな違いは対象とする顧客が違うということである。行政
書士は登記ができないから司法書士よりもウマ味がない、などとい
うことよりも、いったい顧客はどこにいるのか、ということの方が
重大な意味をもつ。
司法書士の顧客は登記をする人が依頼者になると言っても、実の
ところ金融機関である。人は不動産を購入するに銀行から金を借り
る。金を貸す銀行は、抵当権を設定し、所有権を移転する。この登
記業務を司法書士に行わせるが、銀行が介在して依頼するのであり、
司法書士が客から直接依頼を受けるのではない。
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司法書士にとって主たる顧客は銀行である。顧客(=銀行)が今
後益々増えつづけることはなく、逆に合併で銀行は減った。すでに
顧客(=銀行)を持っているベテラン司法書士はよいが、これから
開業する司法書士は顧客の獲得が大変である。登記所前に事務所を
構えたところで飛び込み客に期待はもてない。
そこで新人司法書士が考えた挙げ句の仕事が成年後見制度の援助
者業務であり、簡裁訴訟代理関係業務である。
ところが、行政書士は直接に顧客と知り合う。街を歩く人びとの
ひとりひとりがすべて顧客の対象である。銀行に限らず企業がすべ
て顧客の対象である。紹介による顧客もあれば、事務所への飛び込
み客もある。不特定多数の人々が行政書士の顧客になる。日本にい
る人びとだけでなく、世界中の人びとが顧客になる。
行政書士は多くの顧客ができるのである。
時に役立つのか。法律論ではなく、わかりやすく話しをする機会が
くる。信頼関係に成り立って話すから依頼者は理解をする。それを
納得という。さらに、保険とは何なのか。損害保険や生命保険はな
ぜ必要なのか。リスク・マネジメントが必要なのはなぜか。生まれ
たばかりの企業とはじめの一歩を歩む。
行政書士の業務がプラスされて初めて社会保険労務士の資格が活
かされる。社会保険労務士の資格だけで営業するのでは顧客対象を
自ら狭くしているようなものである。会った人すべての人びとが顧
客の対象になるように大きく広く営業ができる。
社会保険労務士の資格を取ったならば、それだけでは心許ない。
行政書士資格も取り業務を拡げるのである。社会保険労務士資格と
行政書士資格の相乗効果が生まれ、大きく飛躍できるのである。
◆宅地建物取引主任者資格を活かす
◆はじめの一歩
行政書士は、これから事業を起こす起業家、商売を始めようとす
る事業者にまず第一番目に知り合う。営業の免許を取得する。会社
を設立する。はじめの一歩のすべてはここから始まる。行政書士が
手伝う仕事は豊富である。
社会保険労務士は、社会保険や労働保険の新規適用申請を業務と
する。設立してから何年もたった会社へ営業しているが労多くして
益少なしである。法律に決められているから社会保険に加入しなさ
い、労働保険に加入しなさい、と業務の誘致や指導をしたところで
法律はそうであったとしても、実際にはなかなかムズカシイ。
それよりも、はじめの一歩にその企業と出合うことである。
事業を始める、会社を設立する、そのはじめの一歩の手続きのお
手伝いをするのである。
従業員を雇うならば、就業規則を作る、賃金規定を作る、退職金
規程を作る。はじめの一歩の仕事としてやらなければならないこと
は多い。社会保険や労働保険の話しをするのは依頼者と信頼関係を
築いてからでよい。やがて機会がくる。
社会保険や労働保険は企業にとってなぜ必要なのか。どのような
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宅地建物取引主任者という資格がある。人気の高い資格である。
不動産業を開業するには必要不可欠の資格である。この資格を単独
で活かして収入を得るためには不動産関連の業務でなければならな
い。脱サラ資格、独立資格というよりは不動産会社就職資格と言え
る。不動産業をやらずして資格を活かそうとしてもできない相談で
ある。
ところが、宅地建物取引主任者資格に行政書士資格を兼ねたなら
ば、シナジーで両資格とも偉大な力を発揮する。
ただし、不動産業を始めるのではない。行政書士資格を活かした
いのならば、不動産業を開業してはイケナイ。行政書士と不動産業
を兼ねる人を見るが、これでは行政書士の資格は活かしていること
にはならない。不動産業を始めるのならば、不動産業に徹しなさい。
同じ事務所で兼業することは、行政書士である意味がない。
あくまでも行政書士として人びとに接していかなければならない。
近所の人びとに行政書士を知ってもらい、何が仕事なのかを理解し
てもらわなければならない。
同じ事務所で、同じ場所で、行政書士の看板と不動産屋の看板を
掲げる。ある時は不動産屋又ある時は行政書士、そしてその実体は
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というのでは、近所の人びとの理解を超える。タバコ屋で行政書士、
不動産屋で行政書士というのはあり得ない。
行政書士業務の中で、開発行為許可申請、農地転用許可申請、宅
地建物取引業免許申請などの許認可手続き、不動産についての相談、
不動産取引に関連する業務に、宅地建物取引主任者の知識と経験を
活かすのである。
そうすれば、宅地建物取引主任者と行政書士の二つの資格がとも
に活きる。二兎を追う者は二兎をも得るという、世にも珍しい例に
なるのである。
◆まだ過当競争になっていない
弁護士には司法研修所において、1年半司法修習生として国費で
学ぶ実務研修の期間がある。行政書士にこのような制度はない。
行政書士の資格は持っていても、実際の実務に従事した経験が浅
かったり、まったくなかったりで実務に精通している者が少なく、
他の士業界に比べて過当競争になっていない。
行政書士は、一日でも早く実務を覚え自分の専門を創り、それを
何度も繰り替えし場数を踏むことが、そのままこの業界でオーソリ
ティーになる早道である。
現在は経済的に安定し社会的によく知られた国家資格であっても、
年々資格者が開業してくるため相対的に顧客が減少して収入が頭打
ちの士業者も多い。税理士は現在約7万人、毎年千人が新たに増え
る過当競争の業界である。報酬のアップもままならず、月額の顧問
料は20年前よりも安く設定しているほどである。
すなわ
か
月満つれば 即 ち虧くといって、全盛時代があればあとは衰えるば
かりである。過去現在がよくても未来永劫それがつづく保証などは
ない。名前の有名な資格ばかりにこだわることはない。
行政書士は、ようやく少しは有名になってきて発展の途についた
ばかりである。まだまだこれからの資格である。いわば未熟な資格
と言える。しかしそこが、これから行政書士をめざす人、行政書士
こそ将来の天職と信じる人、新規参入者にとっては有利なのである。
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◆会社での経験がそのまま行政書士業務になる
現在の会社の仕事は行政書士業務とまったく関係ない、今までの
経験は何にもならないと思っているとしたら、そんな考えは今すぐ
ステナサイ。
今までの会社で色々な経験を積んできた方は、それをそのまま活
かして、行政書士の業務としていただきたい。行政書士の職域をさ
らに増やすことになる。
確かに現在は、建設業許可申請や外国人在留許可申請などを業務
としている。しかし当初からこれらが行政書士の業務と決められて
いたわけではない。行政書士各々が自分の業務にしようと、その業
務を研究し、いくつもの実践を積んできた結果なのである。
さらに、(実はこれが一番大切なことなのであるが)世の中の人
びとに行政書士の業務であると社会的な認知を受けたのである。
行政書士法第1条の2(業務)には「許認可手続きが行政書士の
仕事」と規定されてはいない。既存の、つまり先輩行政書士が50
年間やってきた許認可申請書の作成だけが行政書士の業務ではない。
会社に勤めた経験のある方は総務部、法務部などで書類の作成を
してきたはずである。許認可申請書でなくてよい、官公署に提出す
る書類でなくてよい、権利義務・事実証明の書類であればよい。かっ
ての仕事そのままが行政書士としての仕事でもある。
以前の会社のニーズであったことは当然のことながら同業他社の
ニーズでもある。そこには中小企業もあろう。行政書士を必要とす
るニーズは多く存在する。そもそもあなたの会社が必要としていた。
リストラだ、何だといっても人手は必要だ。
いや、リストラしたからこそ社内ではなく社外にその人材を求め
る。後はその人が「秘密を守ってくれる」ならばそれでよい。
今の会社を定年退職し嘱託などの地位を得てそのまま同じ事務を
やって給料を貰うのではない。より良い報酬を得るために、今度は
企業の外部からアウトブレーンとして行政書士で活躍しよう。今の
会社、関連会社との顧問契約の締結を在職中に根回しすることであ
る。退職して行政書士を開業したならば、今度は、同業他社にアプ
ローチすることだ。
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③建設業許可申請、決算報告、変更届
④建設業経営事項審査申請
⑤建設工事競争入札参加資格審査申請
⑥物品買入れ等・役務提供競争入札参加資格審査申請
⑦外国人在留許可申請・帰化許可申請・国際結婚・離婚手続き
⑧風俗営業許可申請、深夜酒類提供飲食店営業届出
⑨宅地建物取引業免許申請
⑩産業廃棄物(一般廃棄物)処理業許可申請
⑪会計記帳処理、会計帳簿作成
⑫運送事業経営許可申請・貨物軽自動車運送事業経営届出
⑬遺言・相続業務、相続人・相続財産の調査、遺産分割協議書
⑭知的財産権業務、著作権・プログラム・育成者権登録申請
⑮一般財団法人・一般社団法人・NPO法人・社会福祉法人設立
⑯契約書・内容証明書の作成
⑰民事法務
⑱家事法務
⑲商事法務
⑳刑事法務
その他、ADR(Alternative Dispute Resolution)業務
3
行政書士の業務と報酬
行政書士の業務と保存版報酬規定
◆行政書士の主要業務
行政書士は官公署に提出する書類を作成し、その種類は3千種類
以上あると言われるが、現在、実際に手がけている業務の種類はそ
うは多くはない。そのうちの主なものをあげる。
行政書士は、こうした書類について業として他人より依頼を受け、
その書類の作成方法、どこの官公署に提出するか、
①相談を受けることだけでも業とすることができ、
②書類の作成及び、
③官公署に代理して提出することもでき、さらに、
④作成書類の内容を説明し、
⑤質問に回答し、
⑥提出書類の補正や確認もできるのである。
①株式会社設立業務(ただし、登記申請の代理は弁護士・司法書士
の独占業務。)
②有限会社から株式会社への商号変更
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- 94 - Copyright c 2006 katsurai
事務所経営の重要なポイントである。士業者といえども同業他者と
の価格競争があり、中には報酬をダンピングして安いということを
キャッチフレーズに業務を誘致するという問題も起きている。
ボランティアで行政書士業を行うのではない以上、報酬を受領し
てこそ「業として」である。
◆業務の完遂と報酬請求権
◆行政書士の受ける報酬
行政書士から受ける質問の中に「○○の仕事はいくらもらえばい
いですか。」というのがある。
行政書士の受ける報酬に関しては、かっては行政書士会会則や同
施行規則などで規定され、行政書士会報酬額表があった。
平成9年12月4日、行政改革委員会規制緩和小委員会は「行政
書士会会則及び日本行政書士会連合会会則に、行政書士の受ける報
酬については記載しないこととすべきである。」とする最終報告書
を提出した。これを受け、平成11年7月16日に公布された地方
分権を図るための関係法律の整備等に関する法律(法律第87号)
の中で行政書士法が改正され平成12年4月1日より施行された。
事業者の料金、価格等は自由な競争である。これは弁護士、税理
士を初め士業者の報酬といえども例外でない。公正取引委員会がか
って独占禁止法に抵触するとした士業者の報酬額は、各々が自由に
取り決める価格自由競争の時代になったのである。
そこで、報酬をどう決めるのか、どうスムーズに受領するかは、
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行政書士に対する業務の依頼は、法律的にいうならば弁護士と同
じく、依頼者との委任契約(民法643条)である。それは無償、
片務、諾成契約であり、特約により報酬を支払う旨を定めれば有償、
双務契約になる(同法648条1項)。
つまり、行政書士の仕事にしても弁護士の仕事にしても委任契約
..
は原則無償、すなわちタダということである。
仕事を受託する前に報酬、お金の話しをしておかなければ、仕事
をしてしまった後に、相手にお金を支払ってもらえなくても文句を
言えないとゆうことである。
お金の話しは先にすること。仕事を受けるならば、それは契約な
のだから何よりも報酬を取り決めなければならない。仕事を受けて
しまってから、「○○の仕事はいくらもらえばいいですか。」とい
う質問は、いかに愚問であるということがおわかりいただけるであ
ろう。
一度仕事を受けると、受任者は、有償・無償を問わず、委任事務の
処理については善良な管理者の注意義務を負う(同法644条)。
..
タダだから、お金をもらっていないからといって、万が一許可が
受けられなくてもよいということにはならない。
業務を受託した以上は、有償・無償を問わず最後まで業務を完遂す
ることが必要である。
では、いつ業務の完了とするのか、いつ報酬請求権が発生するの
かを考えなければならない。
書類が受理されなかった、受理されたが許可されなかった場合に
報酬請求権はどうなるのかということである。
行政書士の業務の中でも、株式会社・有限会社など設立が準則主義
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の法人、NPO法人、医療法人、中間法人など設立要件が具備され
ている法人は、報酬をいくらにするかだけを考えればよい。
ところが、社会福祉法人・宗教法人・中小企業協同組合などその設
立要件がハードな法人、財団法人・社団法人などの公益法人の設立、
外国人が日本に在留する身分に関する入管業務、許認可につき行政
庁の裁量権が大きい業務などは、報酬をいくらにするかというだけ
でなく、業務の完遂と報酬受領の仕方に一工夫する必要がある。
いわゆるハードな業務(報酬額が100万円以上とする)の場合、
着手時に「着手金」を受領する。業務が完遂した時に残金を「成功
報酬」として受領する方法をとればよい。
◆保存版行政書士報酬額表
平成9年7月1日施行の東京都行政書士会会則施行規則第14条
第2項別紙第1に規定する行政書士報酬額表である。
以降、東京都行政書士会は報酬額表は作成していない。これは、
いわば最後の行政書士会報酬額表である。当然のことながら現在有
効ではない。参考にしてもらいたいために掲載した。まさに保存版
である。
行政書士は、事務所に、その業務に関し受ける報酬の額を自分で
決めて掲示しなければならない(行政書士法10条の2第1項)と
されている。そうはいっても、行政書士を開業したばかりで、初め
て依頼された業務、やったことがない業務、その業務がどれほど難
易度が高い業務なのか「いったい、いくら報酬をもらえばいいのか
わからない」ことが多いと思う。
そこで、東京都行政書士会の最後の行政書士報酬額表に記載され
たそれぞれの価額を、これから依頼を受ける業務の価額のひとつの
目安にすればよいと思う。
全国の各行政書士会及び日本行政書士会連合会は、依頼者の選択
及び行政書士の業務の利便に資するため、行政書士がその業務に関
し受ける報酬の額について調査して、その統計を作成して公表する
ように努めなければならないことになっている(同法10条の2第
2項)。行政書士会が報酬の額の統計を公表したならば、それも参
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考にして、東京の報酬額のみならずそれぞれの地方・地域に応じた報
酬額があるので、自分の事務所の報酬額一覧表を作成しておくこと
が必要である。
4
行政書士の将来
行政書士の将来はバラ色
◆規制緩和で業務は拡大する
行政書士は、将来も有望な職業である。
社会は規制緩和へと動く。だから許認可が少なくなり行政書士の
仕事も少なくなるのではない。社会は常に変化する。世の中の人び
とのニーズ、行政の要請により新しい法律ができる、法律が改正さ
れる、そこにまた新しい行政書士の業務が生まれる。
平成11年に施行された改正風俗営業適正化法により、風俗営業
の許可、性風俗特殊営業の届出、飲食店営業の届出等新たな風俗営
業が行われることになった。
同じく平成11年の労働者派遣業法の改正で、26業種の専門業
務に限定された派遣が、港湾運送業務、建設業務、警備業務、医療
関係業務(医師、歯科医、薬剤師、保健婦、助産婦、看護婦、栄養
士、歯科衛生士、X線技師、歯科技工士)を除き、自由に派遣する
ことができることとなった。
本格的な超高齢社会の到来を目前に控え、介護サービスの供給に
ついては今後その量的拡大と質の向上が求められている。
実は、有料老人ホームなど介護ビジネスも規制緩和の産物なので
ある。民間活力の利用なのである。
平成12年に施行された介護保険制度は、これまで社会福祉法人
等に限定されていた介護サービスの供給事業が民間事業者にも開放
された。介護サービスにおける民間事業者を取り巻く環境は一変し、
高齢者に関わる市場規模が拡大し、民間事業者の介護サービス事業
への関心が高まってきた。
- 98 - Copyright c 2006 katsurai
ホームヘルプサービス(訪問介護)、訪問入浴サービス(訪問入
浴介護)、訪問看護サービス(訪問看護)、有料老人ホーム(特定
施設入所者生活介護)、福祉用具レンタル(福祉用具貸与)、福祉
用具販売(居宅介護福祉用具購入)、住宅リフォーム(居宅介護住
宅改修)などの介護保険の指定業者になるには申請手続きが必要で
ある。介護ビジネスに参入したい多角化経営をめざす企業、不況の
中、業種の転換を迫られる企業、ベンチャービジネスに進出しよう
とする企業など介護サービスを提供する企業はますます増えてきて
いる。
平成15年改正物流二法が施行され、貨物自動車運送事業法の幾
度もの規制緩和による運送事業経営への参入、旅客自動車運送事業
法の改正による介護タクシーやロケバスなどの需要、同じく平成15
年の酒税法改正により酒類販売免許が実質自由化された。
行政書士の業務はどんどん拡大しこそすれ減少するものではない。
規制緩和、規制緩和というが、実は規制緩和と安全な社会とは二
者択一の問題である。営業免許による規制は消費者保護のためであ
る。無知で無力な(という前提で)国民を、予想される危険から排
除しておこうということで、様々な規制が設けられる。ある営業を
予防的に許可制をしいて監督を強化しようという発想になる。
「このような規制は官僚の権威主義だ」「省益だ」と言う者が一方
で「このような悪徳商法を野放ししているのは行政の怠慢だ、即刻
法律を制定して取り締まれ」と言う。
深刻な社会問題となっている訪問販売による悪徳悪質リフォーム
の被害から高齢者を守る規制として、建設業の許可を取っているか
どうかがある。しかし、請負工事高500万円未満の小さなリフォ
ーム工事は許可を取る必要はない。そこで、悪徳商法にひっかかる
者を保護しようとするならば許可を取らせる規制であり、規制がイ
ヤで安全を要求しようというのであれば、悪徳商法の被害者が相手
に対して訴訟を起こすほかはない。
実際規制の少ないアメリカは、市民がちょっとしたことにも訴訟
を起こすいわば訴訟社会である。日本がアメリカのような訴訟社会
になってゆくのであろうか。
行政書士は、行政、社会情勢などと密接な関係にある。行政組織、
行政機構の変化により業務も多岐多様に変わっていく。社会組織は
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ますます複雑になり、高度専門化する。規制緩和、行政事務の簡素
化は、事務の民間委託が促進され、企業の事務担当者の負担となり、
それを業とする行政書士の業務の拡大となる。
勿論なくなる業務もある。世の中の動きに疎いために段々と業務
が少なくなり衰退していく他の「士業者」を見るまでもなく、何も
それは行政書士に限ったことでない。
社会環境、時代の変遷とともに新しい法律が公布され、施行され
る。それに伴いまた新しい届出、許認可が必要となるのである。
◆ますます増える外国人・国際関係業務
平成16年度末の外国人登録者数は197万人を超え、わが国の
総人口の1.55%を占める。外国人が日本に在留する、日本で学
ぶ、日本で働く、日本人と結婚する、日本国籍を取得する、こうし
た手続きは行政書士の仕事である。
国際的な人の交流を反映して、かっての行政書士の戸籍関係業務
は、現代では外国人の国籍・国際関係業務であると言ってよい。
国際的交流がまだそれほどでもなかった時代には、出入国管理及
び難民認定法(入管法)や国籍法は一般にはなじみの薄い法律であ
った。けれども日本が急速な勢いで国際化し外国との関わりが増え
てくるにつれ入管法や国籍法はにわかにクローズアップされてきた。
国際化が急速に進むと経済の国際化と共に人的交流も拡大する。
それに伴い入国する外国人も年々増え、その入国目的も多様化して
くる。企業も優秀な技術、技能を持つ外国人の雇用を積極的に希望
する。近年、海外進出を計画する企業は、世界の中でもアジアを対
象としている。行政書士が、日本の企業の担当者と一緒に、中国、
ベトナム、タイなどの国々へ出かけて行く。
在留資格を得て、短期・長期にわたって滞在する外国人が増加する
ということは、また、国際結婚も増えることにもなる。国際結婚は、
複数の国の法律が関係するため、日本人同士が結婚する場合より複
雑で面倒な場合が多く、その手続きは、簡単には済ますことはでき
ない。在留外国人の手続き、国際法務等は、行政書士が今後ともそ
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の使命を担っていかなければならない分野である。
申請取次制度がある。入国及び在留の諸手続については本人出頭
が原則であるが、それぞれの管轄により、札幌、仙台、東京、名古
屋、大阪、広島、高松、福岡の地方入国管理局長届け出た行政書士
は、在留資格の変更、期間更新、定住、永住許可及び再入国の許可
の申請を外国人に代わって申請できる制度である。
入国管理局長が適当と認めた行政書士が申請書や資料の提出を行
うことによって、外国人がいちいち入国管理局に出頭することを要
しないので、外国人の円滑な受け入れを図ってゆくことができる。
◆数字に強い行政書士
法律に強いと数字に弱く数字に強いと法律に弱い専門家が多いが、
行政書士は法律にプラスして数字にも明るいと業務がますます拡大
する。
簿記や経理の知識があった方がよい。簿記の検定試験の3級位で
十分である。これから商売を始める人、すでに事業を行っている人
が顧客の対象である。経理の知識を持ち財務諸表なども読めること
が必要である。
事業を始めたならば、その日から必要なのは会計帳簿の記帳であ
る。行政書士が、会社の設立をしたならば次は会計帳簿の作成を代
行する。そこからすべてが始まる。会社と密接なつながりが生まれ
業務が継続してゆく。
建設業許可申請など許認可申請には財務諸表を添付する。許認可
を受けるための要件に財産的基礎がある。その企業の財政状態や経
営成績をディスクロージャーし報告をするのが財務諸表である。
知識不足のために財務諸表を機械的に代書したために依頼者に不
測の事態を与えることがあってはならない。企業の財務の現状を表
示し、さらにアドバイスすることによって企業が適正に許可を受け
られるようにしてゆかなければならない。
建設業許可を受けた建設業者が、公共性のある施設の建設工事の
入札に参加しようとする場合は、経営事項審査申請及び入札参加審
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査申請をすることが必要である(建設業法27条の2)が、ここで
も経理の知識がなくてはたちゆかない。
行政書士の資格を取ったならば、次は他の国家資格をめざすので
はなく簿記を勉強しておいていただきたい。
◆経理や総務は行政書士の仕事
企業は今後も総務、経理事務などの間接業務を外部に委託(アウ
トソーシング)してゆくであろう。低成長時代には、経営資源を効
率的に活用しようとの動きが底流にあり、企業のコスト削減の動き
はこれからますます加速する。直接、利益には結びつかない間接部
門にメスが入るのは避けられない。
財務処理、決算書作成などの経理事務、給与計算などの事務代行
は行政書士が受託すべきである。人的余裕のないベンチャー企業、
中小零細企業など、総務部や経理部に専任要員を雇う余裕のないと
ころが顧客の対象である。
事務屋の最適任者は行政書士である。書類のプロと言ってもよい。
弁護士や税理士など専門家の紹介なども行い、顧客がもちかける内
容に応じて、様々な相談の窓口にもなることもできる。
企業の総務事務を代行する会社があると聞くが、民間の事務代行
会社と行政書士と決定的に違うところはどこか。
それは守秘義務が課されていることである。行政書士及び行政書
士又は行政書士法人の使用人その他の従業者は、正当な理由がなく、
その業務上取り扱った事項について知り得た秘密を漏らしてはなら
ない(行政書士法12条及び19条の3)。違反した者は、1年以
下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる(同法22条1項)。
依頼者にとっては事務代行の料金の多寡もさることながら、会社
の重要な事項、財務の数字を任せるのであるから何よりも秘密が守
られなければならない。「株式会社総務○」などという事務代行会
社よりも、行政書士の方がはるかに信頼が高い。任せて安心という
ものである。
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◆行政書士は経営コンサルタント
行政書士は、中小企業の経営法務コンサルタントである。
できれば財務諸表を読み取る能力ばかりでなく、さらに分析して
アドバイスする能力があればよい。そうであれば経営事項審査申請
業務で顧客に有益なアドバイスをすることもできる。それでこそ行
政書士が中小企業の経営コンサルタントであり、数ある国家資格の
中で行政書士が一番の適任者といえる。
中小企業の経営者は法律問題、企業経営、事業資金で悩む。第三
者に相談することもできず孤立無援である。相談相手として公的機
関、商工会議所、商工会の経営指導員、税理士などが考えられるが、
いつも公的機関に出向くというのも時間がかかるるだろうし、経営
指導員というのも同じである。過去会計から税金を計算するだけの
税理士では不満もあろう。
行政書士は、記帳処理、会計帳簿作成、公庫等の金融機関に対す
る融資申込書類作成業務、官庁や地方自治体の公共工事の受注ため
の申請書作成を通じて企業に関わる。
過去会計ではなく将来ビジョンをとらえた未来会計を前提にして、
企業の発展について経営者と一緒に考えてゆくことが必要である。
業務を通じて経営の助言と指導ができる立場にある。
行政書士は、個人や中小企業の法務相談を受け、さらに中小企業
の経営相談にも応じる経営法務コンサルタントの使命がある。
中小企業者の強いニーズに応えることができるのは行政書士しか
いない。
行政書士は、法律、会計の知識というスペシャリストともにその
教養と知性をもって、ものごとを広い視野で判断がすることができ
るゼネラリストとしても期待されているのであり、オールラウンド
な能力が必要である。
行政書士の業務は、時の行政、政治、経済、法律などにより業務
の拡大にもなれば、時代の流れとともに衰退してゆくものもある。
常日頃から中小企業のニーズに応えようと、業務に対する研究を
続けてさえいるならば、行政書士は、その職域の防衛と業務の拡大
につながる。行政書士がますます社会的、経済的にその地位を確立
してゆくことになる。
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1
第5章
全国で成功している
行政書士の実例
◆論より証拠、
あなたのそばにいる成功している行政書士
行政書士は
得意分野もつ専門家
建設業関係、風俗営業関係、外国人関係
運送業関係、遺言・相続関係
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建設業許可申請が専門業務
A行政書士の場合
Aさんの顧客は建設業者が主である。行政書士業務の中でも特に
建設業許可申請の業務を中心に顧客を増やしてきた。
これから建設業を営もうとする者は、法人個人、企業の大小を問
わず許可を受けなければならない(建設業法3条)。
すでに許可なく建設業を行っている者は、法令で定めた軽微な建
設工事のみを請負っている場合には許可は必要ではない。しかし、
現在はともかく将来も軽微な工事のみしか請負わないということで
はないだろうから、今からでも許可を受けておいた方がよい。
ゼネコンなど元請会社から建設工事を下請けをする場合、建設業
の許可がないと仕事を発注してもらえない。事業資金が必要になっ
て国民生活金融公庫など政府系金融機関からの融資、信用保証協会
の保証を受けるにも建設業の許可が必要である。
全国で許可を受けている建設業者の数は平成17年3月末現在、
約56万社にも上る。構造不況業種だ、飽和状態の過当競争の業界
だとか言われるが、実は、許可業者数は前年に比べ4千社も増加し
ているのである。許可なく建設業を営んでいる業者数もこれと同じ
くらいあるだろうと言われている。許可なく建設業を営むことは、
いわば資格がなくて行政書士業務をやるようなものである。
小さく建設業を営んでいるならばそれでもよいかもしれないが、
会社を設立して人も雇うようになれば建設業の許可を受けて大きく
してゆこうとするのが向上心のある姿勢というものである。
許可を受けた後もその事項に変更があれば変更届出書を提出しな
ければならない。毎年営業年度が終了した後には決算報告書を提出
しなければならない。許可を受けた建設業を引き続き営もうとする
場合は、有効期間満了前に自動車の運転免許のように更新の手続き
をしなければならない。
行政書士の仕事は許認可で、許認可は一度受ければそれでもうお
終いで、顧客との繋がりがなくなるように思われがちだが、建設業
許可申請は顧客と継続した関係を持つことができる業務なのである。
建設業許可を受けた後、公共性のある施設又は工作物の建設工事
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を請け負おうとする建設業者は、その経営状況・経営規模・技術的能
力などの事項について経営事項審査申請を受けなければならない
(同法27条の23)。
経営事項審査申請を受け、経営規模等評価結果通知書、総合評点
値通知書が到達したら、国、都道府県、市町村等の発注する建設工
事を受注するためには入札参加資格申請を行う。
この経営事項審査申請及び入札参加資格申請も行政書士の主要な
業務である。
れこそねずみ算式に顧客が増えてゆくというものだ。
Aさんの顧客は、業務を行った建設業者から仕事仲間を紹介して
もらうことによって倍加する。紹介が顧客開拓の方法であるとはよ
く言われることではあるが、友人知人、同窓会、趣味の会、人脈の
会などの人びとからの紹介なのではない。
顧客からの紹介こそが顧客開拓の王道なのである。
◆Aさんの成功のポイント
紹介のみで顧客を増やすAさん、その成功はどこにあるのだろう
か。
Aさんの事務所スタッフは、所長のAさん、補助者に奥さんと使
用人が3名、総勢5名である。忙しい時には仲間の行政書士に応援
を頼んでいる。建設業者を数十社を顧客にし、顧客への訪問、折衝
はすべてAさんが行い顧客と親密な信頼関係を築き上げている。
顧客先の旅行会や忘年会に招待されるのは当然のこと社長の子息
の結婚式にも招待を受ける。旅行会や忘年会には社長の同業者仲間
もたくさん招待されている。そこで新たな建設業者の顧客が紹介さ
れるチャンスもある。
Aさんとある建設会社の社長の会話である。
社長「どういう仕事をなさっているのですか?」
Aさん「私は、建設業関係です。」
社長「そうですか。先日もある行政書士さんが営業に来たのですが、
その方は何でもやりますと言っていましたが、何でもできるという
のは信じられないですよネ。」
そこでAさん、意を強くし胸を張って「ハイ、私は建設業専門で
す。」と言い切ったのはいうまでもない。
建設業者は、元請けから下請け、下請けから孫請け、孫請けから
さらにひ孫請けと、工事の受注はピラミッド階層のごとく麓が広い。
このようにひとつの建設業者が関わる建設業者の数は中小企業でも
50~60社と取引がある。1社でも建設業者を顧客に持つと、そ
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2
風俗営業許可申請で業務拡大
B行政書士の場合
Bさんは風俗営業許可申請ができる。風俗営業許可申請専門とい
うわけではないのだが、この業務は法律や書類の書き方ばかりでな
く図面など特殊な点もある。申請する役所は公安委員会であるが、
営業所を管轄する警察署が窓口となる。
風俗営業許可申請、道路占用許可申請など警察署が受け付ける業
務は、警察行政事務経験者の行政書士(行政書士法 2 条 6 号)が得
意とする分野である。今まで警察署で申請書類をチェックする側に
いたわけである。許可が受けられる書類や図面の書き方、ノウハウ
などは十二分に熟知しているといってよい。警察署を退職した後は
行政書士となり、お客さんからの依頼を受けて申請する側に廻ると
いうわけである。
Bさんは行政事務経験ではなく試験を経て行政書士になったので
あるが風俗営業許可申請も手がけた。
規制緩和によって行政書士の業務が減るなどと言う者がいるが、
法律ができる、法律が改正されると、そこにまた新しい行政書士の
業務が生まれる。
風俗営業法の改正があったのを機会にBさんはこの業務を自分の
レパートリーとした。持ち前の研究熱心さでいち早く法律を研究し
その業務を取り入れ自分の業務のひとつとしてしまったのである。
Bさんは、その他にも、医療法人認可申請、労働者派遣業許可申
請、有料職業紹介業許可申請、カジノバー営業許可など新法の施行
に伴い新しい行政書士業務が生まれると次から次とこれを習熟して
ゆくのである。
◆Bさん成功のポイント
士仲間からも紹介されてくるのである。
建設業許可申請を専門にしているA行政書士が、風俗営業許可申
請を依頼されると、Aさんは、その依頼者を風俗営業許可申請を専
門とするBさんに紹介する。専門ではない業務は専門の行政書士を
紹介する。その方が合理的であり顧客のためである。そこが他士業
と違うようだ。聞くところによると他士業はまったく同じ仕事なの
でお互い仕事を取り合うこともあるらしい。その点、行政書士はそ
れぞれ専門分野が違うので相互に業務を紹介し合うのである。
Bさんは仲間からの紹介も受けてますます風俗営業許可申請に実
績と経験を積むことになった。その実績と経験がまた仲間内からの
信頼に繋がり紹介が紹介を呼ぶことになる。
医者といっても、内科、外科、眼科、耳鼻咽喉科とそれぞれ専門
がある。内科を訪れた患者を診察しても、これは循環器からくる病
気ではないかと疑いをもった医者は、循環器病専門の医者を紹介す
る。同じように、行政書士もそれぞれ専門を持ち専門以外のことは
行政書士同士が紹介し合っている。
医師は、専門分野を積極的にPRする。患者は疾病にマッチした
医療機関の選択が可能になるうえ専門医の的確な診療を受けられる。
人びとが法による解決を余儀なくされた時、自らの判断で事を処
理できない時は専門家である行政書士の門をたたき任すことになる。
どこにそのような行政書士がいるのか、この分野を得意とする行政
書士は誰か。「風俗営業許可は私の事務所へいらっしゃい。」とい
うのがBさんのPRである。一般の人びとへは勿論のこと、行政書
士や税理士、弁護士などへも自分の専門はPRしておくことである。
3
外国人関係業務の申請取次行政書士
C行政書士の場合
業務の研究に熱心なBさん、果たして研究熱心というだけで成功
するのだろうか。
「Bさんは風俗営業許可ができる。」という評判がたつと、その
仕事がお客さんからの紹介、警察署からの紹介だけでなく、行政書
行政書士の業務には、外国人を対象にする国際法務関係の業務が
ある。国際法務といっても範囲は広いが、主として行政書士が取扱
うのは次の業務である。
帰化許可申請、国籍の離脱による他国籍の取得、国籍取得届出な
ど国籍の得喪に関する業務で法務局に申請する業務。
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外国人が日本に在留する資格の取得や変更、在留期間の更新など
査証を取得する業務で入国管理局に申請する業務。
その他、旅券に関する業務、企業の海外への投資、海外からの投
資に関する業務。
Cさんは、これら入国管理局・国籍関係業務が専門である。外国人
の代理人ともいわれる申請取次行政書士の資格も取得している。
Cさんは当初、事務所を訪れる外国人ひとりひとりの相談に応じ
ていた。実績を積むにつれ、ひとりひとりの外国人から直接依頼さ
れるよりも、日本の企業それも大きな企業からの依頼が多くなって
いった。そうすると後続がなく一回だけの仕事であるよりも、継続
反復して業務の依頼を受けるようになった。こうなると手続きも、
一度に数十人の外国人の分をまとめて手続きすることもできる。ま
すます顧客のニーズに応えられることになる。
外国人を雇いたい企業、雇うことによって海外へ進出を計画する
企業が顧客となる。行政書士の活躍する場所は、日本だけでなく世
界中が舞台となってゆくのである。
ひとつの広告から、Cさんの外国人関係の業務は始まったのであ
る。新聞や月刊誌など日本に住む外国人に向けたコミュニティペー
パーは多い。急増する外国人に情報の場を提供するというだけでな
く、国際化に関心を向ける日本人にも読まれている。
Cさんの成功は、もちろん広告をしたということだけがその理由
ではない。何といっても顧客のニーズを知り、それに応えたという
ことである。
どんな資格があっても、どんなに能力があったとしても、依頼し
てくれる客がいないことにはお話しにならない。その資格も、能力
も、人びとの役には立たない。人びとのニーズがあったとしても、
すべ
そのニーズと行政書士が結びつかなければ、これまたなす術がない。
そういう意味で、まず広告をした、という点で先見性があった。
業務の広告宣伝の重要性を唱える理由がそこにあり、その人が行政
書士で成功するかどうかのメルクマール(指標)の一つに広告宣伝
をしているかどうかがあるというのも頷けるであろう。
4
◆Cさんの成功のポイント
国籍、外国人関係業務で毎日が多忙なCさん、行政書士の業務の
中でも、特に国籍・外国人関係の業務を選択したのは何だったのであ
ろうか。Cさんだけの何か特別な理由でもあったのだろうか。外国
人に人脈があったのだろうか。何かきっかけがあったのだろうか。
日本に住む外国人に向けた日英2か国語の新聞がある。タブロイ
ド版で16ページほどのものである。日本語を勉強中の外国人、日
本語に興味のある外国人にも読みやすいように、すべての漢字にふ
りがながついていることから「ひらがなタイムズ」の名がある。
この新聞にCさんは、他のどの行政書士よりもさきがけて広告を
掲載した。「ビザのでんわむりょうそうだんにおうじます。」
外国人が日本に在留する資格の要件などについて相談を受ける。
電話で相談するくらいは無料でもよい。電話では十分に解決しない
問題はCさんの事務所にやって来て相談する。中には相談だけにと
どまらず、書類を作成し入国管理局に申請することになる。
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会計記帳業務で顧問先を増やす
D女性行政書士の場合
Dさんは女性である。女性の行政書士は、全体の約11%ほど、
まだまだ少数派ではあるが元気な女性行政書士が増えている。
日本の女性は、わが身をかえりみず他を思いやる心が実に細やか
でしかも深い。ひたむきである。自分以外の人びとへ傾ける配慮と
いう点で日本の女性はとても優れている。こうした長所は行政書士
向きと言わねばならない。
行政書士業務のうち、書類を書く、官公署に提出するという部分
だけに関していえば、男性よりも女性に向いている職業といえるか
もしれない。
この女性の特性を活かしたDさんは、企業の経理事務を受託して
いる。行政書士として、近所のお店や会社から依頼を受け、報酬を
得て、記帳処理、会計帳簿の作成をすることを業務としている。持
ち前の几帳面さと、丁寧な仕事、そして何よりも行政書士という資
格が、顧客の信頼を得ている。
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Dさんのもうひとつの顔は、家庭をもつ母であり、妻である。家
事と育児のかたわら、自分の好きな時に、好きな時間だけ行政書士
になる。行政書士だからそれができる。ひとつの会社に経理事務員
として就職する、時給いくらのパートで働くというのではこうはゆ
かない。帳簿付けのお手伝いというのではアルバイト料である。行
政書士ならば報酬額は自分で定められる。そういう点で、時間のや
りくりが上手な家庭を持つ女性にとって行政書士は最適な職業とい
える。
◆Dさんの成功のポイント
企業にとって不可欠な経理事務を業務とする女性行政書士Dさん、
その成功のポイントは何であろうか。
会計記帳業務は企業の奥深く入り込むことになる。経営者として
は秘密を守ってくれる人でなければならない。経理の内容が近所に
つつぬけになっていたのではたまったものではない。
行政書士は、顧客の秘密を漏らすことは厳罰に処せられる。行政
書士は国家資格ということだけでなく、業務上知り得た秘密は守ら
なければならない守秘義務が課せられ顧客の信用度が高い。たまた
ま簿記ができるからとか、税理士事務所に勤めていた経験があるか
らというのでは、経理帳簿作成の適任者とは言えない。
紹介で顧客を増やすDさんだが、どんなに有用な人材であったと
しても、何の資格もないと、紹介する方は何と言って紹介してよい
ものか困る。
「帳簿をつける能力があるから。」「簿記ができるから。」「とに
かく良い人だから。」これでは紹介された方も会ってみる気は起こ
らない。
Dさんは、「行政書士で、とても親切で信頼できるから、帳簿を
付けてもらったら。」という言い方で紹介されている。
会計帳簿の作成依頼は、何といっても信頼である。広告宣伝、営
業だけでは顧客が増えるものではない。顧客が新しい顧客を紹介し、
その顧客がまた新しい顧客を紹介してくれる。ここにも紹介こそが
顧客開拓の王道であるという言葉が大きい。
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5
行政書士事務所からの紹介で超多忙
E女性行政書士の場合
Eさんも女性である。Eさんはこれといった専門の行政書士業務
をもつというよりは、仲間うちの行政書士や税理士から仕事を頼ま
れることの方が多い。
仕事を頼まれやすい人というのはいるものである。仕事を頼む方
き
から見ると頼みやすい人ということであるが、気が利いていて安心
して委せられる人ということだろうか。
女性は、書類を作成する、官公署に提出するというフィールドで
は確かにその特性を発揮する。いわば丁寧に書類を作成し、作成し
た書類を几帳面に整理し、官公署に提出にあたっては的確に説明す
る。
ところが、仕事を取るとか、顧客と交渉、折衝するということに
なるとどうしても苦手な人が多いようである。営業力にウィークポ
イントがあるような気がする。
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デートにしても男性が誘い女性が断るものと相場が決まっている。
女性は自分が断られることに慣れていない。すべてイエスと言って
もらえ順風満帆のつもりかもしれないが、複雑な要因が絡み合うビ
ジネスの世界では通用しない。
営業戦略を詰め交渉や話し合い、時には断られることを想定して
臨む。どのように問いただされどのように断られるか、いわば先回
りして想定質問を考えておく。自分なりの回答を用意しておくこと
である。
ホラ、男性だってひじ鉄にもめげず、あの手この手で誘ってくる
デショ。断られてからが勝負ナノデスヨ。
◆Eさんの成功のポイント
専門の業務というほどのものをまだもち合わせない女性行政書士
のEさん、その成功のポイントは何だろうか。
女性で営業力も兼ね備えていたとしたならば、営業ができる、書
類の作成ができる、官公署に提出できるのいわば三拍子をそろえて、
たちまち行政書士として一人前になれるということであろうか。
自分には営業力がないと自覚するEさん、行政書士の実務研究会
の同じ行政書士仲間の業務を手伝う中から、営業的センスを身につ
けてゆこうとした。
営業力はあるが事務所内にスタッフを抱えていない男性行政書士
た
は、Eさんのような事務能力に長けている人、器用に何でもこなし
てくれる人を重宝する。
行政書士の仕事には繁忙期と閑散期がある。補助者を常時雇って
いるほどではないが、ある時期には人手は欲しい、あるいは急ぎの
仕事が依頼されたがとても手が回らないという時、経験のある行政
書士に手伝って欲しいと思うものである。
行政書士法(19条の3)に、使用人その他の従業者という概念
がある。行政書士又は行政書士法人に雇用契約で雇われるのが使用
人、その時々に応じて仕事を手伝ってもらう仲間の行政書士をその
他の従業者という。
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Eさんは、依頼されたことは決して断らない、確実に事務処理を
してくれる、安心して委せられると信頼されている。そうすると、
行政書士ばかりでなく税理士事務所などからも依頼される。そのう
ちに税理士事務所を通さず、直接Eさんに仕事が依頼されてくるよ
うになる。
最初は他の事務所のお手伝いのつもりでも段々とひとり立ちして
ゆく。いわば場数が増えるのである。これが補助者としての場数で
あれば、所詮、事務所の所長先生の庇護のもとでの場数である。そ
れではいつまでたってもひとり立ちできない。ところが、他の事務
所からの依頼であると責任がまったく違う。ミスをするともう二度
とは依頼されなくなるからEさんも必死である。それがまた良い緊
張感を生み良い仕事をする。そこに信頼が生まれる。補助者として
行政書士事務所に就職するのとはまるで違うわけである。
6
会社を設立したら離さない
F行政書士の場合
Fさんは会社を設立する。新聞に広告を掲載し今までに何十社も
設立してきた。そのひとつひとつの会社を大きく育ててゆく。また
そうでなければ、この仕事はおもしろくないとFさんは自信のほど
を見せる。
会社の設立手続きとは登記所へ書類を出すことと思っている人達
がいる。会社の登記事項証明書を取ることがすべてで、それで依頼
はお終いと考えてしまうのである。
会社の設立は手続きで終わるのではない。人でいえば新しい命の
誕生である。人は生まれたならば役所に届ける。会社も同じである。
会社の設立の届け出も行政書士が手伝う。税務署、県税事務所、市
役所に届け出る。
子どもが生まれたならばうれしくてその記録を写真に撮る、ビデ
オに撮る。育児日誌もつける親がいるかもしれない。会社を設立し
た日にうれしくてビデオに撮る人はいないかもしれないが、その日
から育児日誌ならぬ会計帳簿は付けなければならない。できたての
- 116 -Copyright c 2006 katsurai
会社で、経理担当者はいない、スタッフもいない、そこで、行政書
士が記帳代行する。
会社はこれから色々なことに直面するであろう。経営上、法律上、
様々な障害にも遭遇するであろう。設立することよりも設立した後
の方が大切なのである。
会社を設立するたびに、Fさんは、これからその生まれたばかり
の会社と共に二人三脚で歩んで行こうと思うのである。
◆Fさんの成功のポイント
会社が大きくなれば自分も事務所も大きくなれるが持論のFさん、
その成功のポイントは何だろうか。
Fさんは、行政書士の業務はサービス業ととらえ、会社のニーズ、
社長のニーズにはすべて応えようとする。
会社を設立したら社員を雇う。そこで、就業規則、賃金規定を作
成する。社員採用計画も立てる。社員募集の広告の広告媒体までも
社長と相談しアドバイスをする。
応募者多数ならば第一次面接は社長に代わりFさんが行う。二次
を役員面接ということで社長と同席し社員採用の選考をする。
会社のスタートにあたり必要な手続きはもちろんのこと、社長の
気がつかないこと、会社にとって準備しておいたらよいこと、すべ
てアドバイスして手伝う。それこそかゆいところに手が届くという
ものである。
会社は段々と成長して大きくなる。大きくなるにつれ法律、経営
に関してまた問題が生じる。そこにまた行政書士としてアシストし
てゆかなくてはならないことができてくる。
会社が大きくなれば、行政書士もビッグになれる。
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7
顧問契約を結ぶ
G行政書士の場合
顧客と顧問契約を結ぶことを第一義にしたGさん。開業当初から
お客さんに会う度に、事務所の顧問契約の制度について話している。
より親切により丁寧にをモットーとするGさん、顧問になること
で顧客に喜ばれる。月々の顧問収入により事務所経営も安定する。
行政書士の仕事に限らずビジネスは恋愛関係である。好きになっ
てもらうおうと最初からすべてをさらけ出すのではなく長い交際の
中からわかってくることがある。メイクアップをして装うこと(演
出をする)もあれば、相手の歓心を引こうとすることもある(駆け
引きもする)。誤解と錯覚で始まった恋愛であったとしても、ウマ
くいっている間はそれで良いし、別れがきたとしてもそれはまたそ
- 118 -Copyright c 2006 katsurai
れで良い。
20年前から行政書士こそが中小企業の顧問にならなければなら
ないと言い続けている。国家資格数々あれど中小企業にとっては行
政書士が一番である。
行政書士で顧問契約を結ぶというと、行政書士資格で顧問になれ
るの、というリアクションがある。お客さんからではなく行政書士
からである。なぜ顧問になれないと言うのだろうか。発想それ自体
がないのではないか。
顧問契約は結べないと盲信する者は決して結ぶことはできない。
行政書士で、顧問契約は簡単に結ぶことができる。ただし、行政書
士自身に、顧客のためにどのようなポリシーを持っているのかとい
うことが要件ではあるが。
◆Gさんの成功のポイント
たとえ6か月間でも顧問契約を結ぶというGさん、その成功のポ
イントは何であろうか。
Gさんはひとつの業務を終えるたびに必ず顧問契約の話しをして
いる。当事務所にはこのような制度がありますと顧問契約書の書式
を見せるのである。
ここで大事なことは、ひとつの仕事を終えた後ということと余計
なことは話さないということである。顧問契約について言葉で説明
するのではなく顧問契約書の書式を見せれば良いだけなのである。
Gさんもつい説明してしまったために、すんでのところで顧問契約
を結べなかったこともあると言う。
無用な説明をしなくても、顧問契約書を見た経営者はその意義を
すぐに理解し顧問契約を結んでくれる。真の経営者というのは、こ
れは必要だと思ったことは即断即決してその費用は惜しまないもの
である。
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8
相続業務はますます増大する
H行政書士の場合
Hさんは、行政書士業務の中でも相続業務の実務家である。
相続業務というと、遺言書の作成であるとか遺産分割協議書の作
成と思われがちだが、その前に、原始資料の蒐集が重要であり具体
的な事務に入ることがある。何通もの除籍、原戸籍謄本の申請から
業務は始まる。
事務所を訪れる依頼者は、モノノ本に書いてあるようなこと、法
定相続人とか法定相続分などということはすでに知っている。遺言
書や遺産分割協議書の書き方も知っている。本に書いてあるのであ
るからそれ位は読んで事務所を訪れる。
行政書士として相談を受けるのはそういうことではない。
遺産相続をめぐる深刻な骨肉の争いで悩む人がいる。家族の調整
機能の低下や住宅地の地価の高騰などが原因のようだ。キチンとし
た遺産相続ができるように、シッカリした遺言さえ残っていればと
悔やまれるケースも多い。
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こんな実例がある。東京・I区内で製本工場を経営していたO氏
が37歳の若さで交通事故で死亡した。O氏には子供はなく残され
たのは奥さんひとりだけ。残った財産は夫婦で13年かけて営々と
築き上げたものだ。
ところが、息子の結婚に反対し勘当同然の関係にあったにもかか
わらず、地方に住む両親が遺産の相続を主張。民法に従って妻が3
分の2、両親が3分の1を相続することになった。このため住宅を
兼ねた工場の建物を売却をせざるを得なくなった。それもこれもひ
とえに遺言がなかったためである。
生前、財産のすべてを妻に相続させるという遺言を夫が作ってお
けば、夫婦で築き上げた財産を手放さずにすんだであろう。
イギリスでは、遺言なしに死ぬのは紳士の恥とまでいう。それに
比べてわが国は遺産の配分を法定相続にゆだねる風潮が強く遺言後
進国である。
財産があるかないかにかかわらず遺言を書いておくことである。
時代と共に家族関係が難しくなっているからということもあるが、
遺言を財産の処理や遺族間のゴタゴタを避ける便法だけにするので
はない。人は死と向かい合う時に、どのようなメッセージを家族に
残すかということでもある。
手段によって受託しようとしても、ムズカシイのである。何よりも
信頼が一番の業務であるから紹介が相続業務の開拓手段である。
その紹介者のグループのひとつとして生命保険のセールスレディ
を位置づけている。日頃の業務の中から積み上げてきた信頼が大切
なのであって、折に触れ、何かにつれ、遺言とか、相続の話題は顧
客にも話してきている。そうした中から依頼者を紹介してもらい、
そしてひとつひとつ手がけてきたのである。
Hさんが行ったことが、口コミで紹介が広がっていった。Hさん
は今、生前に遺言を作成しておくこと、それも公正証書遺言にして
おくことの重要性を啓発する日々である。
9
行動力が決めて
I行政書士の場合
Hさんは相続業務をどのように開拓しようか色々と考えた。
そのひとつの方法として近所の生命保険会社の営業所に飛び込ん
だ。
「セールスレディの皆さんに相続の話しをさせて下さい。」
Hさんは朝の営業ミーティングの時間を拝借して、相続や遺言の
知識を話した。ここから業務に少しでも結びつけばと思って始めた
ことである。
遺言の重要性、遺言書の作成など、相続と遺言についての知識を
わかりやすく、おもしろく話していった。
相続の業務依頼は、口コミによる。相続というデリケートな問題
だけに、ことさらそのことのみを営業したり、広告宣伝などという
Iさんは開業したての頃から行動力があった。営業の経験などな
いのに顧客の獲得に向けて飛び込み訪問を試みる、タオルを持って
近所の会社、お店に挨拶して廻る、とにかく身体にエネルギーがみ
なぎるように、力の限り動いていなければというところがあった。
こうした活動は程なく功を奏する。開業当初から業務の依頼が相
次いだ。
営業の原点は飛び込み訪問である。そうは言ってもまったく見ず
知らずの会社を訪問するには勇気のいることである。
Iさんは、開業最初の90日間を必死でやろう、のんびりとやって
いたのではいつまでもダメだろう。行政書士としてやってゆくため
の自信と度胸をつけようという意味でも営業の方法として飛び込み
訪問を選んだ。これくらいできなくては、という気概もあった。
確かに、行政書士は飛び込み訪問で顧客ができるものではないか
もしれない。しかし、ただ漫然とお客が来るのを待っていてもなお
のこと顧客が来るものではなく、それは座して死を待つに等しい。
顧客に呼ばれたならば、交通手段はオートバイで、すぐに跳んで
行った。
行政書士の仕事をデスクワークと思っている人がいる。官公署の
前に事務所を構え、お客が飛び込んでくるのを待っている。とっく
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◆Hさんの成功のポイント
にそういう時代ではなくなっている。
行政書士というのはサービス業である。労働をサービスするのが
第三次産業であるが、行政書士の場合は知的なサービスも必要であ
るから、第四次産業といってもよい。いずれにしてもサービス業な
のである。サービス業の本質は何かというと行動力である。客の立
場に立って行動あるのみである。
◆Iさんの成功のポイント
フットワークがよい人は何といっても仕事を頼みやすい。顧客は
種々雑多なことを依頼してくる。「この仕事をやって欲しい。」
「こういうこともできるかい?」「とりあえず電話してみたのだけ
れども、やってくれるかい?」
Iさんはこれらにすべて応えていった。
「それはやったことがないので、できません。」「その仕事は、行
政書士の資格ではできません。」「専門が違うので、それは、やり
ません。」
このようなきまり文句を言うと、もう二度とどんな仕事も依頼さ
れない。
依頼された仕事はすべて受ける。経験のなさは、行動力とフット
ワークでカバーしよう。
「何でもやります」とは行政書士から言う言葉ではないが、依頼
されたことは「何でもやる」のである。同じことのように思うかも
しれないが、「顧客のニーズが先にありき」という点で、大きな違
いである。
行政書士法(11条)に、依頼された仕事は拒んではイケナイとい
うのがある。行政書士は社会的な責務があり、国民からの付託に応
えなければならない社会公共的義務があるからということらしいが、
なあに、このホントの意味は、「依頼された仕事を断るなんて、あ
んた、十年早いよ。」ということなのである。
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10
外国人業務を新聞にリリース
J行政書士の場合
Jさんの主な業務のひとつに国籍・外国人関係業務がある。
日々入国管理局関係の業務に対応する中、あまりの忙しさに、こ
れは、ひとりの行政書士が個々に対応することではないと考えた。
企業の大きなニーズに応えるためには、こちらも行政書士集団を作
り組織的に対応することであると。
そこで、Jさんは、行政書士の組織化を提唱して地域の行政書士
を募った。Jさんが主催する任意団体、申請取次行政書士協議会を
結成した。このようにすれば外国人業務の対応に集団で対応するこ
とができる。組織力と機動力を発揮することができると考えた。
Jさんは、地元の市民を対象にした「入管法を学ぶ会」も主催し
ている。外国人の雇用、国際結婚など入国管理及び難民認定法に人
びとの関心も高いことからボランティアの一環として活動している。
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◆Jさんの成功のポイント
勉強会に名を借りた行政書士の任意団体を作るというのは誰でも
考えそうなことである。しかし、自己アピールに非凡な才能をもつ
Jさんはそんなレベルにとどまるものではなかった。その真骨頂を
発揮したのは、行政書士協議会を設立した時に地元の新聞に記事と
して掲載してもらったことである。
大きな活字の見出しで「行政書士がスクラム」「外国人の入国手
続きを代行」「進む企業の国際化を支援」とある。協議会の連絡先
はJさんの事務所である。これが有料の新聞広告だとしたらその広
告料はいったいいくらだろうか。広告だとしたら読む人の印象も違
うだろう。それがあくまでも社会面の記事として取り上げてもらっ
たわけである。その効果たるや絶大である。
「入管法を学ぶ会」を開催した時も、新聞がJさんが講演する様子
を写真入りで記事にしてくれた。外国人労働者の手続きに実績と経
験を持つ行政書士の立場から外国人の労働問題に関しての意見を新
聞の論壇に投稿を行った。その反響は、本人が予想していたよりも
大きかったのである。
このように、Jさんはマスコミを使って「パブリシティ活動」を
重視したPRを行っている。外国人の在留と労働など、日々入管行
政の実務に携わる行政書士の立場から提言と行動を繰り返し、それ
を周知してもらう姿勢をとり続けている。
行政書士は、どこで、どういう仕事をしているのかということを
記事で書いてもらう。マスメディアやミニコミへのリリースが必要
である。行政書士が知られるようになったとしても、何をしている
のか、人びとのために何をするのかを、もっと多くの人びとに知っ
てもらわなければならない。
Jさんのように人びとの理解を深めてゆくことは、地道なようで
あるが大切なことである。それは、Jさん自身にいつしかプラスに
なるということはもとより、行政書士界のためにも大切なことなの
である。
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11
やさしい遺言の書き方教室
K行政書士の場合
主に遺言、相続を手がけるKさんは「弁護士よりも安い、敷居の
低い街の法律家」を自任している。法律を主に扱うのは弁護士だが、
裁判で争わないような法律事務を処理することは行政書士でもでき
る。書類を作成するだけでなく、法律の規定をわかりやすく説明し
て相続人間の利害を調整する役割も果たしている。
Kさんは「やさしい遺言の書き方教室」を主宰している。教室と
いっても生徒を募集して遺言の書き方を教えるのではない。遺言、
相続業務を専門にしているKさんは、生前に遺言書を書いておくこ
との必要性を提唱し、依頼者をマンツーマンで指導するのである。
事務所を「やさしい遺言の書き方教室」と名付けた。教室のモット
ーは、安く、早く、親切な指導をめざしている。教室の特色は、完
全予約制で、その場で、自筆証書遺言が完成できるように個別指導
である。
「遺言書を作成します。」と言ったところで、きょう日そんなもの
誰も頼みはしない。それよりも、「自分の遺言は自分で作りましょ
う。書き方は教えて差し上げましょう。」ということである。
当世は高学歴、高学力時代である。遺言を書こうと思いたった人
は自分で調べて自分で書く。書店で書き方を解説した本を購入する。
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インターネットにも書き方見本がある。ただ、だいたいはわかって
も細かいことがわからない。専門家にチョット聞きたいことがある。
相談だけしたい。そのためには費用を払っても構わない。ところが、
相談をしてみると思いのほかメンドウである。法律的な問題もある。
やはり、ここは専門家にお任せしたいということになる。
◆Kさんの成功のポイント
NHKやワイドショーにも出演、テレビ、新聞、週刊誌の取材も
受けるKさん。相続業務を専門にしたキッカケは駆け出しの頃ので
き事だった。
昭和53年、映画俳優Tが港区元麻布の自宅で散弾銃で左胸部を
射ち自殺した。高視聴率のドラマの終了直後だっただけに、自殺の
原因は映画製作失敗による借金苦とか、女優との女性問題とか、様
々な憶測をよんだ。Kさんはこの相続に関わったことがその後、行
政書士業務の中でも遺言、相続業務を専門にすることに大きな影響
を与えたと言う。
.
相続=相続税と思う人が多いが、実は、平成15年に亡くなった
人の数、つまり相続発生件数、約101万5千件のうち、相続税の
課税対象となったのは約4万4千件で相続税を支払うのは5%未満
である。多くの人には相続税は関係ない。ところが、相続税が課税
されなくても遺産の分け方でもめることが多い。昨年1年間に家庭
裁判所に持ち込まれた相談件数は約10万9千件、相続発生件数の
10%以上にもなる。裁判所に持ち込まれるのはよっぽどのことで、
いわば大半のケースで何らかのもめ事が起きているといってよい。
最近の相続は昔と違って様変わりである。長子相続とか法定相続
通りの遺産分割は少なくなり、親が子に遺産を残さない事例も増え
ている。療養、看護、介護をしてくれた推定相続人以外の第三者に
対する遺贈、少子化による高齢者の養子縁組など、法定相続が形骸
化して、遺言による相続、遺産分割協議による相続が多くなってき
ている。
何しろ最大の遺産が自宅で相続人が複数いる場合、家を分割する
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わけにはゆかない。家を相続する人が他の相続人に、相続割合に見
合った額を現金で支払えばよいのだが、そんな資金を持っていると
は限らない。争いは遺産額の大小に関わりなく発生することになる。
遺言書の作成をすすめるケースとしては、夫婦に子供がなく妻に
遺産を残したい場合、会社経営者で長男など特定の者に事業を承継
させたい場合、看護をしてくれた長男の嫁など相続人でない者に遺
産を残したい場合などがある。
遺言を書いておくことの必要性を提唱しながら、講習会や研修会
で遺言・相続業務の講師も務めて多忙なKさんである。
12
運送事業許可申請が専門業務
L行政書士の場合
運送会社の開業が相次いでいる。事業者数は全国に約6万社。こ
の10年間で約4割も増加した。新規参入は年間約2千社にも及ぶ。
従来は国が地域ごとに、貨物量などに応じて事業免許の数を制限
していたが、90年の規制緩和を契機に中小零細企業を中心に参入
が増えた。免許制から許可制に変わり、5台以上の車輌を保有する
などの条件を満たせば創業できるようになった。
Lさんはトラックディーラーの営業マンを紹介されたことをきっ
かけに運送業許可申請が専門になっていった。
一口に運送業といっても、経営届出書を国土交通大臣に届出れば、
軽自動車 1 台で始められる貨物軽自動車運送事業から、介護タクシ
ーの乗用旅客自動車運送事業、ロケバスの特定旅客自動車運送事業、
トラックの一般貨物自動車運送事業など様々な営業形態がある。
営業マンから紹介された仕事は一般貨物自動車運送事業経営許可
申請であった。今までやったことのない初めての仕事であったが、
当然のことながらミスは許されない。ここで信頼を勝ち取れば、営
業マンは運送会社を多く抱えているだけに次の顧客の紹介が期待で
きる。Lさんは、必死になって本を調べ、役所の窓口に相談し、初
めての仕事をなんとか成し遂げたのである。
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顧客を紹介する方は行政書士の能力を試している。ヘタな行政書
士を紹介して苦言を受けることは自分の大切な顧客を失いかねない。
行政書士が確かな仕事と親切丁寧な応対をしてくれて顧客に喜ばれ
れば、紹介した営業マンもトラックを売るためには大いに助けられ
る。行政書士と営業マンはいわば持ちつ持たれつの関係といえる。
◆Lさんの成功のポイント
行政書士の仕事は、営業の許認可を取得することで終わりと思っ
ている人が多いが、取得した後の方が重要な仕事がある。
現代は、規制緩和と自由競争のルール社会である。運送事業経営
も規制緩和によって新規参入がしやすくなった。規制緩和とは裁量
行政による事前規制の撤廃であって自由放任ではない。行政は事前
に口出ししないことで企業は自由に競争できる。競争はあくまで公
正が条件である。企業はルールを守ることが求められる。ルール違
反は事後的に厳しく処罰され、違反者は営業停止の処分を受ける。
Lさんは、自動車関係許認可業務にとどまることなく、運送事業
者の企業活動が社会規範に反することなく、公正に業務遂行してゆ
くためのコンプライアンス(法令遵守)の指導をしている。
Lさんのホームページには、貨物自動車運送事業者に対する行政
処分等の基準、安全性優良事業所認定の募集開始、介護輸送の法的
取扱い、事業用自動車の事故防止対策といった運送事業の安全運行
に関する法令情報がアップされている。
運送事業者は、一定の数以上の事業用自動車を有している営業所
ごとに、一定の人数以上の運行管理者を選任しなくてはならない。
運行管理者は、道路運送法・貨物自動車運送事業法に基づいて、事
業用自動車の運転者の乗務割の作成、休憩・睡眠施設の保守管理、運
転者の指導監督、点呼による運転者の疲労・健康状態等の把握や安全
運行の指示等、事業用自動車の運行の安全を確保するための業務を
行う。Lさんは、顧客の依頼によって、運行管理者試験の合格対策
までも指導する。
このようにLさんは、運送事業の計画管理から経営のコンサルテ
ィング、事務処理のアシスタントまでを行っているのである。
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13
あなたの街の相続相談室を開設
M行政書士の場合
Mさんは、地元の郵便局の一角に「行政書士無料相談」を10年
近く常設してきた。郵便を出す、貯金の出し入れをするなど、日々
郵便局を訪れた人びとが、ついでに、暮らしに関すること、財産に
関すること、人権に関することなどを相談してゆく。中でも相続、
遺言に関する相談を受けることが多かった。
自宅を事務所に業務を行ってきたのであるが、オフィスを借りた
ことを契機に事務所を「あなたの街の相続相談室」とネーミングし
た。「あなたの街の相続相談室」の大きな看板を掲げる。近所の人
びとはどんな事務所ができたのだろうかと興味深そうである。
Mさんは、毎月第1・第3土曜日を相続・遺言無料相談日にしてい
る。事務所の敷居を低くし事務所を開放する。相続・遺言について、
いつでも、どこでも、何でも、気楽に、ちょっと相談というのがス
タンスである。
事務所を知ってもらうために広告宣伝用の折り込みチラシも作る。
◎相続手続きの方法が分からない。◎相続(遺言)の費用はどの位
かかるの?◎遺言の作り方を知りたい。
相談専用のフリーダイヤルを設ける。その電話番号も語呂がよく
覚えやすいものを選択した。
最初の相談は無料でよい。無料だからといっておざなりな相談は
しない。より以上に親切丁寧な受け応えをするように努めている。
相談する方は緊張と不安を抱えてやってくる。相手の気持をほぐす
ように相談者の話すことは、どんなことでも、どんな話しでも聴く
ことに徹している。相談者が、身体の不自由な方であったり、都合
がつかない場合にはこちらから相談者の所へ訪問している。
◆Mさんの成功のポイント
相談する内容は、遺言書の作り方というよりは人生相談のような
ものもある。こうした内容にも、他の法律家のように相手の話しを
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遮ることなく、Mさんは、相手の身に立って真剣に、時には微笑み
を浮かべ、時には涙して、話しを聴く。初対面の相談者であっても
自ずと胸襟を開き始める。すべてを聴いた後、冷静な判断と助言が
始まる。その頃には相談者からの厚い信頼が生まれている。
相続・遺言の仕事は何といっても信頼が一番である。行政書士とい
う資格がまず信頼の礎である。業務上知り得た相談者の秘密は絶対
守るという守秘義務が第一である。加えて、相談者に安心感を与え
なければならない。「この人ならすべてを話しても大丈夫だ。」と
いう安心感である。
Mさんは聴き上手であると同時に話し上手でもある。話し上手と
いっても話がうまいのではない。言葉が丁寧なのである。言葉遣い
がやさしく謙虚なのである。他の法律家にあるような居丈高なとこ
ろがない。法律相談にありがちな専門用語を使わない。そして言葉
の間合い、テンポ、それにリズムが良いのである。
Mさんは、人との付き合いも大切にしている。義理がけを大事に
する人である。年賀状や暑中見舞い、お歳暮やお中元は欠かさない
のは当たり前のこと、仕事後にちょっとお酒を飲みに行くのもいつ
ものお店である。そこは時には営業の場所でもある。お店の常連が
いる、いろいろな人びとが集う。新しい人間関係も生まれる。酒の
上での話しとはいえ、そこには隠された本音が出ることも、誰にも
話せなかったことを聞かされることもある。仕事の損得を抜きにし
て、そうした人びとの相談にもまじめに、心を一にして応じる。
Mさんは、相続・遺言の相談は、ADR(Alternative Dispute R
esolution)だという。司法制度改革審議会のいう裁判外紛争処理手
続きのことではない。法に拘束されず、紛争の実情に即し、条理に
かなった解決をめざすことを言っている。法律家の中でも行政書士
がこの分野を担わなければならないのもまさにこのことである。
Mさんは、相続、遺言業務で全国を駆け廻っている。相続問題や
離婚問題に対処する多忙な日々を過ごしている。
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14
顧客獲得はDMから始まった
N行政書士の場合
Nさんの顧客獲得のスタートは建設業者に対するDM(direct m
ail)の発送から始まった。
「もう、お済みでしょうか?建設業許可更新のご案内。御社の建設
業許可は、○年○月○日に有効期間がきます。」
建設業を営もうとする者は、国土交通大臣又は都道府県知事の許
可を受けなければならない(建設業法3条1項)が、5年ごとにそ
の更新を受けなければ、その期間の経過によつて、その効力を失う
(同法3条3項)。
当時は、許可行政庁の都道府県庁から建設業者に有効期間到来の
通知が届いた。それ以降も引き続き建設業を営もうとする建設業者
は、有効期間が満了する日の30日前までに、許可の更新に係る申
請書を、新規許可を受ける場合と同様の手続きで許可行政庁に提出
しなければならない(同法施行規則5条)。
建設業者は、期間がきたことを知るが、さて、この手続きを自社
で行うか、それとも、その煩雑さを思えば誰かに頼みたいとも思う。
Nさんは、ジャストタイミングで「更新手続きのご準備はお済み
でしょうか。その手続きは、私どもの行政書士事務所がお手伝いい
たします。」とDMを送付したのである。
役所の手続きが煩わしいと思う建設業者、費用がかかることより
時間の方が大切な建設業者から依頼がある。建設業者の顧客を増や
してゆくことにより行政書士の滑り出しは順調なスタートを切り、
建設業許可関係業務で収入の基盤を固めていった。
Nさんの街は、日本三大ファッション産地として知られる。戦前
から日本でも有名な織物産地があり、糸から、織物、染色技術、ア
パレル企画、デザイン、縫製までの技術がある。生産工場の下請け
や内職で働く人も多く、縫製加工には都合がよい環境で産地の発展
につないでゆけたのであった。
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しかし、時代は変化し多様化してくる。日本人技術者が不足して
きた。企業は優秀な技術、技能を持つ外国人の雇用を積極的に希望
するようになった。世界の中でも中国、ベトナム、タイなどアジア
を対象とする。
Nさんは、外国人の出入国、在留手続きなど入国管理局の申請業
務も手がけるようになった。外国人の在留資格のひとつに「研修」
がある。外国人研修制度といい、諸外国の青壮年労働者を日本に受
け入れ、1年以内の期間に日本の産業・職業上の技術・技能・知識の修
得を支援するものである。Nさんは、地元の繊維産業に、中国から
技術の習得や研究のために来日する研修生や研究者を受け入れる手
続きをサポートするようになった。
◆Nさんの成功のポイント
Nさんは顧客の信頼が厚い。もっとも、信頼というのは一朝一夕
に生まれるものではない。Nさんは何といっても顧客との義理をお
ろそかにしない人である。一度お世話になった人にはその後もそれ
となく心づかいをする。当たり前のことで誰にでもできそうでなか
なかできない。一度や二度は出来ても後が続かない。ところが、N
さんはいつまでも続けるのである。それが顧客の堅い信頼を生む。
Nさんの顧客に上海の企業がある。中国の人との意思の疎通には
難しいことも多いのであるが、ここでも仕事を通じて大きな信頼を
得た。井戸を掘った恩人は忘れないと言われる中国の人は、お世話
になった人を大切にする。
Nさんは、この上海の企業から毎年中国に招待されている。今年
も、上海、蘇州、杭州を旅行をしてきたところである。まさに至れ
り尽くせりで、食費も旅費も先方がすべて手配して払ってくれる。
......
文字通りあごあしつきの旅行であった。日本へ帰国の途、浦東国際
空港まで見送りに来てくれた社長は、「上海蟹のおいしい季節にま
たお招きしましょう。」と言ってくれるのであった。
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第6章
行政書士で成功する
9つのポイント
◆こうすればあなたも行政書士で成功する
よろず屋にならず専門分野をもとう
広告・宣伝をしたら果報は寝て待て
いつも明るく元気に仕事をすれば
世の中バラ色、幸運の女神も微笑む。
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1
何をするのかを明確にすること
新人行政書士が、先輩行政書士に真っ先に聞きたいのは、「顧客
はどうやって作るのですか。」ではないだろうか。
先輩はこう答えるであろう。「それは君、紹介だよ、紹介。」
まあ、そんな言い方はしないかもしれないが、つまるところ紹介
から顧客を開拓したという結論になると思う。
新人君は、「そうか、やっぱり紹介なんだ。」「仕事、紹介して
下さい。」とばかりに、顧客を紹介してくれるのを待つ。しかし、
新人君に特別な人脈やコネクションがあるのならばともかく、開業
したての新人君に誰かが顧客を紹介してくれることはマレである。
顧客を紹介するということは、その顧客に対して責任と義務が発
生するからで、紹介した行政書士がミスをしたならばその行政書士
はもとより紹介した者までが信用を失ってしまう。
ま
確かに、紹介こそが顧客獲得の王道である。そのことに論を俟た
ない。ただ、それは何年も仕事をやってきた行政書士に言えること
であって、開業したての新人行政書士にあてはまることではない。
紹介が顧客獲得の王道と言うけれど、それはよく言われるような
友人や知人からの紹介なのではない。実は、顧客からの紹介のこと
なのである。
そこで、じゃ、その顧客はどうやって作るのかといえば、それは、
営業をして作るのである。
営業と聞いて、「えっ、行政書士も営業をするの。」とビックリ
する人と、「行政書士も事業者である以上営業をしなければ顧客は
できない。」と、当然のことと思う人にわかれる。
行政書士を始めるなら専門分野を決めなければならない。行政書
士は法律の専門家だから、高度な法律知識を提供しなければならな
いから、専門分野と言っているのではない。
専門分野を決めない行政書士は営業をしないからである。専門分
野を決めずしてどこにどう営業するのか。行政書士として、どんな
仕事をするのか、人びとのために何をするのか、明確にしなければ
ならないということである。
- 135 -Copyright c 2006 katsurai
「行政書士だけでは食っていけない。」「仕事は簡単で行政書士に
頼まないで自分でやってしまう。」「合格しやすい資格だから仕事
の需要が少ない。」「開業してやっていくのは大変だよ。」巷間よ
く聞かれることである。
それは、「行政書士って何をするの?」と聞かれて、「官公署に
提出する書類を作成します。」「許認可手続きをします。」と言っ
ている者が、ダメなのである。
...
「官公署に提出する書類」と言われて、世の中の人びとがまず思い
浮かべる役所はどこか。税務署か、裁判所か、登記所か、…。
行政書士が「官公署に提出する書類を作成します。」と言ったと
する。そこで「法人税の申告をしてほしい。」「役員変更の登記を
してほしい。」と依頼された。ところが「税務署はできません。」
「登記所はできません。」と即断で、「できません。」と言ってし
まう。これがダメなのである。
......
......
「行政書士法上できない」ことと「能力がなくてできない」こと
をわけて、相手に理解してもらうことが必要なのであるが、これが
またむつかしい。行政書士の職域が何で、税理士のそれは何で、司
法書士のそれが何かを、相手は知るよしもないし、知る必要もない。
「官公署」と言うから、相手は今あるニーズができるかどうかを聞
いただけである。
その返事が恥じらいもなく「できません。」などという行政書士
には、将来にわたって金輪際何も頼まない。たとえそれが行政書士
の仕事であったとしても。
「許認可手続きをします。」と言う人がいる。名刺に、会社設立、
建設業許可申請、風俗営業許可申請、運送事業経営許可申請、外国
人在留・帰化許可申請、著作権登録申請、内容証明、契約書作成…。
と、業務を細かい字でたくさん記載している人がいる。
これもダメである。
行政書士は業務範囲が広いから知られていないのではない。行政
書士はニーズがないから知られていないのではない。行政書士その
ものが知られていないのである。
世間の人が知っているのは、裁判の弁護士と税金の税理士くらい
である。司法書士や社会保険労務士も知られてはいないが、家やマ
ンションを買ったら登記するでしょ、給料から健康保険や厚生年金
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が引かれているでしょ、と、その仕事を、暮らしの関わりで話せば、
わかってもらえる。
ところが、建設業許可申請と言われても、人びとの多くは「ふ~
ん」である。風俗営業許可しかり、運送業許可しかり。
外国人在留、帰化許可、著作権登録、内容証明、契約書にいたっ
ては「何それ?」である。
加えて、建設許可申請がわかってもらえたとして、建設業を始め
る人だけが顧客ではない。風俗営業や運送業など事業を始めようと
する人だけ、商売を始めようとする人だけ、会社を設立しようとす
る人だけ、が顧客ではない。「行政書士さんって何をするの?」と
聞いてくれた人びとすべてが顧客である。
行政書士ですと言うだけでは不十分である。資格を言うのではな
くその仕事を、わかりやすく言う必要がある。
「あなたのために、○○でお役に立つことができます。」と具体的
でなければならない。
「開業したばかりで何でもやります。」という新人行政書士が多い
ことば
が、その心意気や良し、として、 口 にすると抽象的である。そもそ
も「何でもやります。」とは、何だ?
行政書士は、自分の売る「商品」が具体的で明確であること。相
手にわかりやすく説明できること。自分が売ろうとする「商品」を
相手に説明できずして売れるわけがない。
にん
のり
と
孔子の言行録「論語」に「人を見て法を説く」という言葉がある。
人の性質をみて言うことを変えると諭しているのだが、行政書士が、
自分の仕事を語る時、同じことがいえる。
..
官公署に提出する書類、許認可手続きと言ったり、会社設立とか、
..
建設業許可申請とかと、どの人にもワンパターンではいけないとい
うことである。自分の「商品」を理解してもらうためには、その人
その人に対処して、相手によって言い方を変えようということであ
る。話す相手を見て最も興味がありそうな「商品」を提供するとい
うことである。
個人事業者に会社設立の話しはよい。建設業者に建設業許可申請
の話しはよい。しかし、サラリーマンだったらどうする、主婦だっ
たらどうする。相手の立場に立ち、相手が、今、必要としている
「商品」、将来、必要となりそうな「商品」を説明するということ
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である。
ところが、司法試験とか国家資格の試験科目など、受験に必要な
ことだけしか勉強してきていないと世の中のことを何も知らない。
それ以外の雑学を何も身につけていない。人間の心を見抜けない。
場の空気が読めない。いったい現代の人達は何を求めているのか、
そのニーズに合わせていけない。
あなたが求めるものはこれでしょ、というものをパーンと出せる
だけの、知恵も技術も人間的な大らかさもふくらみも兼ね備えてい
なければならないのである。
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2
ひとりでも多くの人に知ってもらうこと
「商品」を決めたならば、ひとりでも多くの人びとに知ってもらわ
なければならない。
最近、行政書士のマーケティングとかプロモーションとかという
言葉を聞くが、行政書士に、そんなむつかしいことはいらない。
自分のことを多くの人びとに知ってもらう。その人びとの中に、
行政書士のニーズがある。そして「その件は、私がお役に立つこと
ができます。」と言えばよい。
どんな資格があっても、どんな能力があっても、人びとが知らな
ければ依頼のしようがない。そんなこと当たり前と頭の中ではわか
っているのだろうが、そのための具体的な行動が伴わない。
では、多くの人びとに知ってもらうためには、何から始めればよ
いのか。
第1に、すでに自分のことを知っている人びとに行政書士を知っ
てもらうことである。行政書士の仕事を知ってもらうことである。
だとするならば、自分のことを知っている人で、一番の理解者で
あり、かつ支援者は誰か。
それは親であろう。自分のことを最も理解をし、応援をしてくれ、
何ものにもかけがえのない愛情を注いでくれるのは親である。
「実は今度、息子が行政書士を開業しましてね。行政書士というの
はね、…」と、あちこちで話しをしてくれる。しかも、無償の営業
マンとして。
もし、親が500人もいれば営業などしなくてもよいのかもしれ
ない。
親と同じく、自分のことを理解し応援してくれるのは、(婚姻を
している方は)配偶者であろう。配偶者の理解と協力は欠かせない。
補助者であり、営業マンであり、共同経営者である。まさにベター
・ハーフ(better half)であり、ビジネス・パートナーである。
さらに、子供や祖父・祖母など家族、おじさんやおばさん、いとこ、
配偶者の両親や家族など親戚、そして、子供の頃からの竹馬の友、
学生時代からの友人、今までの職場の仲間、同僚、先輩・後輩など、
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自分が生きてきた過去の人生において、すでに自分のことを知って
いる人びとがあり、これらの人びとに行政書士を知ってもらうこと
である。ここから自分の仕事の理解者、支援者を作ってゆかなけれ
ばならない。
第2に、今、自分が生きている現在において、自分のことを知っ
ている人びとがあり、これらの人びとに行政書士を知ってもらうこ
とである。
近所の人びと、PTA活動、サッカーや野球チームの親の会、趣
味の会や同好会、スポーツクラブ、ライオンズクラブ、ロータリー
クラブ、異業種交流会などに参加することによって知り合った人び
と。
同窓会の幹事役を買って出る、地域のボランティア活動に参加す
る、NPO法人を設立して世話をする、相続・遺言の相談会の開催、
地元で法律セミナーの講師をやってみる、…。
第3に、顧客を紹介してもらう人脈を作る。行政書士をはじめ、
弁護士、税理士、司法書士など他の士業者、信用金庫、信用組合な
ど取引のある地元の金融機関、国会議員や県会議員の秘書、区議会
議員や市議会議員の事務所も訪れる。
多くの人びとの中から仕事の依頼を受け、顧客ができるというの
..
は、いわば確率である。
世の中で何人の人びとが自分のことを知っているのか、行政書士
と知っているのか、そして行政書士は何をするのかを知っているの
..
か。その人びとの中に行政書士のニーズがあり、ある確率で仕事が
..
依頼されてくる。行政書士の営業に、何で確率がでてくるのか?
テレビ番組の平均世帯視聴率、いわゆる視聴率がある。
テレビ局は、番組の視聴率が何%上がった下がったといって一喜
一憂する。ビデオリサーチのサンプル世帯を買収し、視聴率を金で
買って懲戒解雇されたテレビマンまでいる。
この視聴率競争は一等賞を争っているわけではない。視聴率とい
う制度がテレビ業界の根幹をなす仕組みであり、民放が企業として
成り立っていくための基本的な構造である。だから、NHKがビデ
オリサーチから視聴率情報を買うとか、視聴率がどうかということ
は無関係である。
視聴率は、民放とスポンサーの料金交渉の不動の指標である。あ
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る商品の15秒CMを流す→その番組の視聴率が高い→多くの人が
..
見ている→そのうちの何%かの人が買ってくれる、という確率にな
る。
毎朝、事務所へ歩いて行く道すがら、新宿駅南口では消費者金融
数社がポケットテッシュを手渡してくる。これは大もうけしている
から社会奉仕のために配っているわけではない。何千何万というテ
ッシュを配る。受けとった人のうち何人か、何%かが来店してくれ、
..
お金を借りてくれれば、費用と収益が対応するので、これも確率で
ある。
聞くところによると、弁護士は人脈のひとつのバロメーターとし
て、自分に来た年賀状の数をいうらしい。枚数が500枚になったなら
...
ばイソ弁から自前の事務所をもち独立するそうである。だとするな
つな
らば行政書士も500人といわないまでも、人と人との繋がりを作
り、人びとから仕事の情報が集まるようにしなければならない。
そのためには人と会わなければならない。日本は頼み事頼まれ事
の社会で交渉と契約では物事は決まらない。人と直に接触すること
が決定的に重要である。契約よりも人間関係の方が大切なのである。
銀行の融資だって本当はおかしいと思うけれど、お願いして融資
してもらうわけである。月にいっぺんくらい酒を飲むのを積み重ね
て、お願いしやすい状態を常に作っておくことも大切である。
恥はかいても義理欠くなということである。義理堅い人というの
は結構いるものである。情報を集めるのがウマイと言ってもよい。
鮮度の良い、いい情報というのはインフォーマル(informal)な人
..
間関係から生まれてくる。頭を低くしてお願いすれば、情報はタダ
で手に入る。こんなことまで教えてもらっていいのかなと驚くこと
もある。情報は、結局、人と人とのネットワークから生まれる。情
報は発信すれば返ってくる。こちらから発信しなければ返ってこな
い。情報とは変化である。変化しないもの、変化させないものは情
報ではない。
このような関係から仕事の依頼があるのであって、弁護士だから、
行政書士だから、資格があるから、というのではない。ひとりでも
多くの人と出会うことである。
そこで、なんと1日で500人と知り合う方法がある。そんな人
.........
脈作りがあったのかと驚くかもしれない。秘中の秘なのであるが、
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そっとお教えする。
たった1日で500人の人脈を作る方法とは?
それは、500人の人脈がある人、1人と知り合えばよい。
3
広告しろ、宣伝しろ、営業しろ
自分のことを知っている人と人のつながり、これを人脈という。
行政書士の営業は多くの人びとに自分を知ってもらうこと。その
人びとの中に行政書士のニーズがあり、ニーズがある人を紹介して
もらう、紹介こそが顧客獲得の王道である。
モノの本によると人脈作りは、中学・高校・大学の友人、PTAの
父兄、趣味の会やサークルで知り合った人びとということらしいが、
その程度ではタカが知れている。開業の挨拶状を100枚出した程
度では、すぐに仕事の依頼があるものではない。
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ただ、このような人びととのつきあいは、年始の年賀状、暑中見
舞いなど筆まめに季節の挨拶を欠かすことなく、時には先方に出向
いて、日頃からお互いに良い関係、コミュニケーションを持たなけ
ればならない。こちらが用事のある時だけ電話をする、連絡すると
いうのでは相手からの信頼は得られない。
永いつきあいの友人知人の人脈から仕事に結びつけるというのは
時間がかかる。営業効果という観点からいえばいわば漢方薬のよう
なもので、ジワーと効いてくる。顧客獲得の王道である紹介に大き
な期待できることはまちがいない。これは長い目で見て継続して続
けていかなければならない。こういうケースを石の上にも3年(で
効果がある)と言う。
しかし、漢方薬ばかりでは即効性に欠ける。3年も待っていられ
ない。すぐにも仕事がほしい。すぐに依頼を受けるためには、営業
効果がたちまち発揮されるような、いわば漢方薬に対する抗生物質
のようなものが必要である。
そこで、顧客のニーズはどこにあるのかを見極め、ターゲットを
絞り広告、宣伝、営業をする。「私は行政書士です。あなたのため
に○○をします。事務所は○○で、電話番号は○○です。」
行政書士は商売ではないのだから営業などするものではないとい
う意見もある。広告、宣伝は業務のビジネス化を招来し公共的使命
感を忘れ、利益追求のための依頼者獲得に走り、品位を低下させ、
国民の信頼を失わせるから広告、PRはダメだ、という論法である。
専門ないし得意の分野を積極的にPRすることが、どうして品位を
低下させ、国民の信頼を損なうことに結びつくのだろうか。
競争はしないでおきましょ、お互い仲良くうまくやりましょ、と
いうのは、そりゃア、行政書士同士ならば通用するかもしれない、
が、一般社会では通用しない。競争しないことがいかに世の中の動
きとギャップを生むことか。他の士業者の例を見るまでもなく自明
の理である。個々の○○士、○○士会の頭の中に潜んでいるギルド
(guild)的な考え方が、こうした広告を阻んでいることもまた事実
である。
行政書士に行政書士の業務を知らせるのではない。世の中の多く
の人びとに知らせるのである。広告していただきたい。宣伝してい
ただきたい。
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英語でチャンス・メーカー(chance maker)という言葉がある。
チャンス・キャッチャー(chance catcher)とは言わない。チャン
スは作るもの、ビジネスチャンス(business chance)はこちらが作
っていかなくてはならない。待っていても来るものではない。
....
開業体験談を聞くと「たまたま知り合いから依頼された」「紹介
...
で偶然に依頼された」という話しがある。「たまたま」「偶然」だ
からといって「棚からぼたもち」なのではない。いくつものchance
(偶然、運、巡り合わせ)を花の種を蒔くようにして作り、by cha
nce(偶然、たまたま)依頼されたのである。仕事が来るのを待って
いただけではない。
時折、待っているだけの行政書士を見受けるが、それは百年河清
ま
を俟つのごとしである。
広告媒体として、新聞、雑誌、NTTが発行するタウンページ、
夕刊紙、業界紙、タウン誌、その地域に人口が3万人もあれば地域
情報紙がある。団地や住宅地に配られるコミュニティペーパー、フ
リーペーパー、自治体の広報誌、各種団体の広報やPR紙、市議会議
員などが発行する広報誌など、大小さまざまなメディアがある。
新聞といっても一般新聞ではなく、建設業界、運送業界など業界
向け新聞、中国人、韓国人など外国人向けの新聞、飲食店経営者向
けの雑誌など、それぞれ行政書士の専門分野別に広告を出すことに
よって宣伝効果が上がる。
行政書士は専門分野をもてと言うのは、専門だから高度な業務だ、
特別なスキルを持てと言っているのではない。専門分野を決めなけ
れば、広告・宣伝ができないからである。そのニーズがどこにある
のかを見定め、広告・宣伝をしなさいということなのである。
外国人対象の入管関係業務を専門分野と決めたならば、在留外国
人が読む新聞、雑誌、フリーペーパーに広告を掲載する。建設業関
係を専門分野と決めたならば、建設業新聞に広告を掲載する。
専門分野を決めずして、何でもやりますと言っている行政書士は、
広告、宣伝、営業のしようがないではないか。
多くの人びとに自分の「商品」を知ってもらうツールとして、イ
ンターネットがある。ホームページを作成してWeb上で公開する。
メールマガジンを発行して行政書士情報を提供する。こちらから情
報を発信することが顧客の関心をよび将来の依頼へと繋がってゆく。
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ブログが流行である。ブログとは、ウェブ(web)とログ(log)
を足したWeblogを略した言葉で、Web上に残された記録という意
味である。インターネット上の日記形式のWebサイトのことで、
ホームページを作成するほどのメンドウがない。行政書士としての
日々の活動や法律の改正、行政書士情報などを日記風に簡易に発信
してゆくことができる。
ホームページを開く行政書士が増えてきて、みんなが同じような
内容の「商品」を提供し始めると、今度は他の行政書士と自分の提
供する「商品」との差別化を図っていかないとで顧客を獲得できな
い。
悪質商法に対するクーリングオフの内容証明の相談、恋愛トラブ
ルなど女性のための法律相談、女性行政書士はブログの中で仕事と
子育ての両立方法を発信、相続や遺言専門のページ、介護施設や福
祉タクシーなど介護サービス手続きの専門のページ、NPO法人設
立専門のページなど、特徴のあるホームページが見受けられる。
ホームページやブログから顧客ができ、仕事になるかならないか、
..
これも、やはり確率であり、アクセス数を多くする工夫をしながら、
仕事に結びつけてゆく。
メール、ハガキ、ファックスによるDM、チラシを新聞に折り込
む、自らポスティングする。様々な広告媒体を利用して広告、宣伝、
営業をすること。自分のことをひとりでも多くの人に知ってもらわ
なければしょうがないのである。
4
兼業を禁ずる
行政書士を開業したにもかかわらず、他の仕事も同時に始める人
がいる。不動産業、損害保険代理店、学習塾…。行政書士だけでは
食えない、行政書士は兼業の資格、副業で事務所家賃ぐらいになれ
ば、ということだろうが、行政書士は一切の兼業を禁じる。
事務所の周り、近所の人びとに「私は、行政書士です。行政書士
は、これこれ、こういうことをするのです。」と売ってゆかねばな
らない。にもかかわらず、なにゆえ余計な業務をやって、人びとに
思い違いをさせるようなことをするのだろうか。
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行政書士とは何か、人びとのために行政書士は何をして役に立て
るのか、毎朝晩プレゼン(presentation)してゆかねばならないの
である。
社会保険労務士など他の資格と兼ねるのも兼業である。これも禁
じる。なぜか?
人びとは「行政書士で社会保険労務士」「行政書士で不動産屋」
とは思わない。「行政書士」が何かわからないのにプラスして理解
のしようがない。この人はあれもこれもやっているから便利な人だ
とは思わない。人はわかる方、理解できる方をとる。「社会保険労
務士」「不動産屋」だけである。
ゆえに、開業当初は、兼業を一切禁ずる。行政書士で仕事する。
行政書士で信頼を得た。その後ならば何を兼ねてもよい。何を売っ
てもよい。あなたが売る商品は何でも買ってくれる。後から売るも
のはともかく、今、売らなければならないものは何なのか。
それを、行政書士を売りもせずに、売ることもできずして、他の
かく
みの
商品を売るな。それならば行政書士という隠れ蓑など着ずに、不動
産屋をやりなさい。保険屋をやりなさい。人びとにはその方がよほ
どわかりやすい。
相手にあなた自身を行政書士として売り込んだのならば、後は何
を兼業しようとかまわない。すでに行政書士を売っているのである
から、これからは、不動産だろうが、損害保険だろうが、あなたが
もってゆくものはすべて買ってくれる。
会社に勤務しながら、行政書士会に入会するのも兼業である。何
がメリットなのか。毎月会費を払って行政書士会の会報を送っても
らってもしょうがない。会報が欲しければ、実費を払って会報だけ
送ってもらいなさい。
断っておくがすべての兼業を禁じているのではない。継続かつ表
現のもの(継続する性質をもち外から見てハッキリわかるもの。民
法283条参照)に限って禁ずるのである。
開業したてで行政書士の収入だけでは不安だという人は、日曜日
に引越し業の手伝いをする、夜にガードマンやコンビニエンススト
アーでアルバイトをするなど、このような兼業ならば奨励する。
行政書士を売り込むには、人びとに思い違いされないように、商
品はわかりやすく、シンプルでなければならないということである。
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5
よろず屋になってはならない
行政書士業務の範囲は広い。何を主たる業務とするのかわからな
いし、開業当初は何でもやろう、よろず屋のごとく依頼されたこと
は何事も一通りやってみよう、ということらしいが、「その意気込
みや、よし!」として、実際はあまりウマイやり方とはいえない。
業務(field)を絞らない、顧客(target)を絞らないということ
は、言い換えれば営業をしない、広告宣伝をしないということでも
ある。勢い事務所に客が来てくれるのを待ちはじめる。何ら広告も
.....
..
宣伝もせずに電話がくるのを待つ、街の法律家ならぬ、待ちの行政
書士を決め込む。これがダメなのだ。
官公署のそばや、街角の一角に事務所を設け、そこに人が来てく
れる、依頼されたことは何でもやる、不特定多数の個人を相手にす
る、こういう発想はなくすことである。
- 147 -Copyright c 2006 katsurai
事務所への飛び込み客を主たる顧客とした事務所経営はしない。
飛び込み客の依頼する業務は、考案を要しない書類の作成であり単
価が安い。単価が安くてもよいが、その場合はロットの数がまとま
らなければ事務所経営的にはやってゆけない。
単価が高いといっても公益法人設立などレアな業務もやらない方
が賢明である。社団法人などグレードが高い業務を行いました、と
言うが、グレードが高いとはどういうモノか。年に一度しか手がけ
ない業務を自慢したところでしょうがない。手がけた業務がノウハ
ウとなり、それがすぐにまた同じ業務に活かせるのでなければ意味
がない。
開業当初の行政書士に唯一足りないものがあるとしたら、それは
場数である。一日も早く色々な場数を踏んでほしいが、その場数は
次に活かされる場数でなくてはならない。いつもいつも初めての仕
事、これは勉強になるからと言っていたのでは身に付いて活かされ
ない。
ではどうするか?
法人需要に応えることである。企業の中にある反復継続する仕事
を選び、単価の高い専門を決める。中小企業におけるニーズを考え
それに応えるように事務所の体制を整えてゆくことである。
まと
建設業者なら建設業者と的を絞る。許認可手続きだけで終わるの
ではない。中小から中堅までの建設業者に詳しい行政書士と言われ
るようになることである。
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6
成功はヤル気次第という精神論
「成功するにはヤル気次第です。」と、開業の本に書いてある。
開業をめざす人でヤル気のない人などはいない。みんなヤル気満々
で(少なからず不安ももって)開業する。では、ヤル気があっても
成功する人としない人の差はいったい何か。
3年間仕事がなくても食っていけるだけの生活費を準備して開業
するというのは、最も失敗しやすい例だが、一番大きな理由はその
人の心の中にある。
失敗しやすいのは心の適応力の小さい人である。能力があるかど
うかということよりも、むしろ新しい環境や見知らぬ人の中へパッ
とすばやくとけ込んでいく心の柔軟性である。まじめすぎる人、融
通のきかない人、頑固な人、応用問題に弱い人は、なかなか難しい。
本人の能力も必要であるが、何も人並み優れた特殊な能力を要求さ
れているわけではない。常に物事を客観的に見ることができる。自
分自身を客観的に見ることのできるということである。
加えて、独立を決めた最大の理由が行政書士資格への信頼感でな
ければならない。本当は行政書士なんかになりたくなかった。別の
資格をめざしていたのだけれども行政書士しか受からなかった。
....
「行政書士でも‥」「行政書士しか‥」のデモシカ行政書士は成功
しない。
そういう人はすぐ泣き言をいう。エクスキューズ(excuse)をい
う。
行政書士は仕事がない。簡単な書類だからみんな自分でやる。税
理士がやっている、信託銀行がやっている、大きな行政書士事務所
がみんなやって自分のところにまで回ってこない、などなど。
行政書士の業務は、ゼロサム・ゲーム(zero-sum game)ではない。
行政書士の仕事のパイが限定されていて、それを行政書士同士がと
りっこしているのではない。
出不精、筆無精を決め込み、動かない。工夫もない。こういう人
は早晩行き詰まる。淘汰されていく運命にある。
賭けるということをしたことがあるだろうか?
- 149 -Copyright c 2006 katsurai
賭けるというのは、馬が走る、人が走ることに賭けるのではない。
自分自身に賭けるのである。自分自身の可能性に賭けるのである。
ひ と
こちらの方がよほどおもしろい。他人がやるのではない、自分自身
がやるのである。これほど信じられることはない。
ハガキの500枚も出してみる。依頼があるかもしれない。今す
ぐの依頼でなくても3ヶ月後、半年後にあるかもしれない。そんな
のは低い確率と言うだろうか、そうは言うがこれよりももっと低い
確率をあたかも高い確率のように思って何度もムダをしてきたでは
ないか。それに比べればこれほど確率の高いものはない。当てにな
らないギャンブルをするのではなく効果のあるギャンブルをする。
そして、幸運の女神が微笑むのを待とう。
独立するからには当然、成功したい。そのためにはヤル気だけで
はダメで、そのヤル気を仕事の能力にかえてゆかなければならない。
具体的なツールにかえてゆかなければならないのである。
- 150 -Copyright c 2006 katsurai
7
行政書士との付き合い
行政書士勉強会を名乗る団体も多く出てきた。行政書士がお互い
に勉強し切磋琢磨するのならば良いことだが、派閥を作るための手
段であってはならない。
派閥を作るというのは、ひとつはひとりでやるには何事も自信が
なくてできないが、みんなで渡れば怖くないというようなことと、
もうひとつは多数決でものごとを決めるための決定権をもとうとい
うためのようだ。
正義を貫こうとして多数を制しようというのは当然である。運命
共同体として集団による個の幸福の確保である。人は個人で生きら
れぬ以上、強いきずなで結ばれ互いの力を相乗し合うことが望まし
い。こういう時には正義を主張し討論して賛成者を募るので派閥と
は言わない。
ところが正義の所在に関係なく、自分達の意思を主張しようとす
るところから派閥を作るようである。実は全体などどうでもいいん
だ、我々さえ利益を受ければよいというのが派閥である。
参加するならば、時間のムダにならないよう厳しい眼で取捨選択
した方がよい。
太宰治が、当時文壇に対して言い放った言葉がある。「サロンで
は文化はできない。」人が集まってワイワイやったところで何ら生
産がないのである。
行政書士を大別するとアイデアジェネレーター(idea generato
r)とアイデアキラー(idea killer)、アイデアを発生させる人と
潰す人の2通りいる気がする。ポジィティブ(positive)な発想で
新しいことにアグレッシブ(aggressive)に挑戦していくジェネレ
ーターに対して、キラーは、建設業は斜陽産業だから許可など取る
ものはいない、遺言や相続は信託銀行がみんなやっている、著作権
の登録なんか作詞家でもないのに誰がやるんだよ、ネガティブ(ne
gative)な発想で他人の意見を否定するわりには自分の意見がない。
物事を頭の中だけで考える、概して、猛勉強をしていい学校をいい
成績で出た人に多い気がする。
- 151 -Copyright c 2006 katsurai
「君ねえ、僕なんか開業当時は結構苦労したんだよ。」などと苦労
話をしたがる先輩がいたらこれも付き合ってはイケナイ。
行政書士は苦労してはイケナイのである。若い時の苦労は買って
でもしろというがウソである。そんなモノしないにこしたことがな
い。たとえ苦労していたとしてもそんなことおくびにも出してはイ
ケナイ。行政書士とはそういう職業なのである。
見習いとか徒弟制度とか士業界の中には旧い体質もあり、自分が
苦労して今日あるから君も苦労して一人前になりなさいというよう
なところがあるが、時間のムダである。
苦労していたとしても他人からそうに見られないように、本人が
苦労とも何とも思っていないことが一番良いのは言うまでもない。
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8
サクセス・センス
行政書士として成功するためにはどんな能力が必要なのだろうか。
リーガルマインドか、マネジメント能力か、才能か、天性のものか。
巷間言われるような精神論でやる気と努力次第なのか。
その人の人柄や人間性だなどと言う人もいるが、抽象的なそもそ
も人間性とは何か、顧客は何も行政書士の人柄や人間性にお金を出
すのではない。
行政書士に必要なもの、それは能力などという大げさなものでは
なくて、ちょっとしたセンスだと思う。サクセス・センス(succes
s sence)などという言葉はないのであろうが、第1には、Common
sense だと思う。
常識といっても必ずしも社会的儀礼の知識という意味ではなく、
まして行政書士試験の一般教養の知識のことでもない。
人生経験から身に付いた日常の実用的な思慮分別で教養といえる
かも知れない。物事の微妙な感じを悟る感覚というようなもので、
相手の気持ちがわかることだと言ってももよい。相手と共通の基盤
に立って考えられる能力のことである。
行政書士はプロフェッショナルでなければならないが、その行政
書士の技量は、他の専門家や依頼者など誰かと共同で知恵を出し合
い、問題解決にあたる時にこそ真価が発揮される。協力してともに
働くコラボレート(collaborate)には、教養の能力が不可欠となる。
教養とは、法律など専門知識以外の根源的な好奇心や探求心のこ
とでもある。「へぇー」「ほぉー」と、驚きとか不思議とか対象物
に感応し大いに触発される感覚である。感銘する、感じ入るという
ことなくして毎日はないだろう。このオモシロがる力が専門を助け
る。専門と教養は不可分の関係にある。
第2に、Invest senseである。もとよりこのセンスは造語である
が、invest とは、資本やお金を投資する、時間やエネルギーなどを
使うという意味で、○○を費やす、○○を買うという意味である。
- 153 -Copyright c 2006 katsurai
サラリーマンの時は、お金をどう貯めるかということが大きな問
題である。給料として月々に入る一定の収入から、家計費はいくら
小遣いはいくらと節約してなるべくお金を使わないで貯蓄ができる
ようにする。
ところが、事業者(行政書士)は、お金を使わなければならない。
上手にお金を使うことの方が重要なのである。お金をどう使うか
ということは、実は、なかなか難しいことなのである。資本やお金
を投資してつまりお金を費やして事業を行ってゆくのである。時に
は一見ムダなお金を使わなければならないこともある。
どんな広告媒体に宣伝費をいくら費やすのか、接待交際費はどう
使うのか、営業費は売上の何%まで使うのか、新しいパソコンを買
う、自動車を買い換える、事務所備品を買うなどである。
収益を得るためには、経費をどうかけるのかということである。
費用をかけなければ収益は上がらない。
「(石の上にも3年ということで)3年間仕事がなくても食ってい
けるだけのお金を貯めて行政書士を開業した。」という人がいる。
こういう人は100%失敗する。
なぜか。お金を使わないからである。食っていく(生活の)ため
に使うお金は経費ではない。経費をかけない、お金を使わない、動
かない、営業をしない、これでは事業ではない。
企業会計原則に、費用収益対応の原則というのがある。ある会計
期間に発生した費用のうち、その会計期間の収益獲得に貢献した部
分だけをその期の期間費用として認識測定するという原則であり、
期間費用を決定する役割を担っているものである。
何事も事業には経費がかかるというのはおおよそ頭ではわかる。
しかし、経費率30%というのは今月の売上が100万円あった
から、その中から30万円を支払うということではない。売上があ
ろうとなかろうと毎月30万円支払わなければならないということ
である。
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開業1月目の売上は0である。しかし、経費30万円支払わなけ
ればならない。2月目もそうである。開業5月目位まで0かも知れ
ない。6月目にやっと10万円の売上があった。次の月は20万円
で、その次の月は30万円になって、ようやく収支トントン…、や
がて月間の売上が目標の100万円に…。
当然のことながら毎月の生活費20万円は経費ではない。
そして、1年間を終えて決算をしてみたところ、売上が1200
万円、経費は360万円(経費率30%として)だから840万円
の利益ということなのである。
invest は、in + vest で、装う=衣服の着用という意味がある。
そこで、第3に、Fashion sense をあげる。
何もブランド物や高価な物を身につける必要はないが、お客さん
相手の商売である以上、清潔感のある服装は必要である。まして、
開業当初は初対面の人と会うことの連続である。ファーストインプ
レッションを大切にすべきである。顧客はよく見ている。行政書士
の身なりから、なりふり、言葉使いまで。
東京ディズニーランドと東京ディズニーシーを運営するオリエン
タルランドが準社員(アルバイター)に常に発するメッセージがあ
る。「あなたは青空のステージに立つ。おしゃれは自分のため、身
だしなみは相手のために。」
おしゃれに気を配れる人というのはまた自分を客観的に見られる
人でもある。
9
運を呼び込む
「行政書士だけでは成功しない」などというしかめつらしい悲観論
にはいつもキチットした論理がある。それに対して「行政書士でガ
ッチリ稼ぐ」などという楽観論にはプラスして情熱や冒険心がある。
これがなければ世の中チットモおもしろくなく、行政書士などとい
う仕事をやれるものではない。
私たちは悪いイメージを次から次へ自作自演しストレスにかかっ
たり、自分の進歩にブレーキをかけ自分を患っている。良いイメー
ジを作ることは生きていくために大切なことである。人間のある種
の細胞は、明るさ、希望、積極性によって活性化し、怒り、恐れ、
失望などのストレスによって機能が低下する。これがガンをはじめ
多くの病の進行に大きな影響をもっているという。
成功する条件としてツキもなければならない。幸運を手もとに引
き寄せなくてはならない。行政書士に限らず士業は堅実な職業であ
るが、そうはいっても定石通りでこれをやったらこれが出てくると
いうことであるならばそれは自動販売機と同じである。入れたより
大きく返ってくる場合もあるし全然返ってこない場合もある。むし
ろ返ってこない場合の方が多い。いろいろなケースがあるから面白
いのであり、それを楽しむ余裕のない人は行政書士に限らず独立開
業するなどということは思いとどまった方がよい。
世阿弥の「花鏡」にある有名な言葉に「離見の見」がある。他人
のまなざしで自分を客観的に見るという意味である。観客の見る役
者の演技は、離見(客観的に見られた自分の姿)である。離見を自
分自身で見ることが必要であり、自分の見る目が観客の見る目と一
致することが重要であると世阿弥はいう。
顧客のためにと言いながら、知らず知らず独善的になっているか
もしれない、場の空気が読めていないのかもしれない。自分の姿を
「離見の見」で見る心と余裕はファッションセンスと相通ずるもの
がある。
開業したからには幸運の女神が微笑まなくてはならない。幸運の
女神に好きになってもらわなくてはならない。そのためにはどうし
たらよいか。
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簡単なことである。笑いがあるということと謙虚であるというこ
ねた
うら
とである。妬み、そねみ、ひがみ、恨みをもち合わせていないこと
である。明るく元気に生き生きとし、いつもあるべき姿を求めて生
きてゆくということである。
そして、hert and soul に仕事をしてゆくことである。