北欧における高齢化の影響と社会政策の効果に関する事例研究

2013年度助成分
■研究課題名
北欧における高齢化の影響と社会政策の効果に関する事例研究
派遣研究者:
李崙碩(東北大学大学院経済学研究科・専任講師)
派遣先:
スウェーデン・ストックホルム・ストックホルム商科大学欧州日本研究所
派遣期間:2013年7月12日∼2013年8月12日
【研究の概要】
本研究は、世界一の超高齢社会である日本と、世界で高齢化スピードが最も速い韓国を
含む東アジアの新しい社会政策のモデルを導き出すため、スウェーデンとアメリカを中心
とした欧米の現状を把握し、日韓と異なる高齢化の特徴と社会政策の特性を取り上げる。
特にスウェーデンは福祉国家の代表的なモデルとして政府がこれまで社会政策と福祉供給
を推進してきたが、G. Hincheyほか(1999)
、北岡孝義(2010)によれば、最近市場主義
を加え、むしろ市場活用国家だと指摘されることもある。一方、日本と韓国は小さな政府
と市場主義であるアメリカモデルを志向してきたが、神野直彦(2002)等は最近新自由主
義的構造改革を批判し、スウェーデン式のシュムペーター的国家への道を主張したり、武
川正吾(2008)等は、最低限所得保障の一種で、政府がすべての国民に対して最低限の生
活を送るのに必要とされている額の現金を無条件で定期的に支給するベーシクインカムを
主張している。
本研究ではスウェーデンでの現地調査を行い、東アジアの高齢化にともなう産業構造と
社会政策を北欧スタイルの福祉国家型で措置するのか、あるいは第3の東アジア独自のス
タイルを築き上げるべきか、何がアジア的地域性に適合するのかを分析した。そのため、
スウェーデンにおける専門家、政策対象者などに対するインタビューなどを通じて情報を
収集した。なお、北欧社会政策のスタートと背景における差異と形成過程を検討した。そ
のため、北欧高齢社会の特徴、政府と高齢者、企業など政策関連アクターの対応を調査す
るために、高齢者本人及び関連政府機関と企業の関係者に対して深層インタビューを実施
した。今後、この分析結果とモデルを用い、日韓両国だけではなく、中国等アジア全体の
高齢化に大きく貢献することが期待される。本研究に知見を収集・分析してデータベース
化し、アジア各国に対する情報発信と政策提言を図るため、論文の形にまとめることを考
えている。
■研究課題名
Ricardian Invariable Measure of Value in General Convex
Economies
派遣研究者:
黒瀬一弘(東北大学大学院経済学研究科・准教授)
派遣先:
イギリス・ロンドン・The European Society for the History of Economic
Thought
派遣期間:2013年5月14日∼2013年5月20日
【研究の概要】
本研究は、スラッファの不変の価値尺度財としての「標準商品」の発展可能性を吟味す
ることを目的としている。リカードゥは相対価格が変化する要因として分配の変化と技術
の変化を挙げた。現実にはその2つが変化しない商品は存在しなく、リカードゥは不変の
価値尺度財を見つけるのに失敗した。スラッファはリカードゥの問題設定を、技術が固定
された下で分配の変化に対する不変の価値尺度財の探求と分配が固定された下で技術の変
化に対する不変の価値尺度の探求と2つの問題に分離して、スラッファ自身は前者の問題
に取り組んだ。その結果、分配の変化に対してその価値を一定に保つ「標準商品」という
合成商品を構築した。これはリカードゥが抱えていた不変の価値尺度財に関する問題の半
分を解決したと言える。さらに、賃金を標準商品で測った場合、所得分配の関係が直線で
表すことができることも示された。それは、分配関係が価格構造から独立して得ることが
可能であることを意味している。これらスラッファの結果に対しては、分配以外の全てが
一定と仮定されている極めて制約の多い静学的なモデルから導出されたものであるため、
新古典派経済学者は「標準商品」や直線の分配関係の意義に対して疑念を抱いた。そこで、
本研究では、一橋大学の吉原直毅教授と共同で規模に関して非収穫逓増を仮定した一般的
な凸経済の下で技術の変化に対しても分配の変化に対しても、その価値を一定に保つ合成
商品が一意に存在することを証明した。その証明には非線形フロベニウス定理が応用され
ている。さらに、我々の凸経済では、スラッファ経済とは異なり、「標準標品」の存在は
直線の分配関係を得るための必要十分条件ではないことが証明された。
本研究をロンドンのキングストン大学で2013年5月16日∼18日にかけて行われたヨー
ロッパ経済学史学会第17回大会にて報告した。報告に対していくつかの有益なコメントを
得ることができた。とりわけ、われわれの凸経済の下で得られる「標準商品」の経済学的
な意味づけに関するコメント、われわれが定義した「標準商品」がどのような意味で不変
性を保つのかというコメントは本研究の完成度を飛躍的に高めるものである。今後は異常
のコメントにしたがって本研究の完成度を高め、国際雑誌へ投稿する予定である。以上の
ような貴重な機会を与えて下さった貴財団に厚く御礼申し上げたい。
■研究課題名
XBRLの導入が、日本の情報環境に与えた影響についての研究
派遣研究者:
武田史子(東京大学大学院工学系研究科・准教授)
派遣先:
フランス・パリ・European Accounting Association(EAA)、マレーシア・ペナン・
Asian Academic Accounting Association(AAAA)
派遣期間:2013年5月6日∼2013年10月30日
【研究の概要】
2013年5月6日∼8日にフランス、パリで開催されたEuropean Accounting Association
Annual Congress (EAA)と、10月27日∼30日にマレーシア・ペナンで開催されたAsian
Academic Accounting Association Annual Conference(AAAA)に出席し、論文発表(初
稿および改訂版)をいたしました。これらの学会での研究発表および研究者との交流・意
見交換は、今後の研究の改善に対して、大変有益なものとなりました。
今回発表した論文は、
“The Impact of XBRL Adoption on the Information Environment
in Japan”であり、XBRLの導入が、東京証券取引所における情報環境にどのような影響
を与えたのかを、計量的な手法を用いて検証しています。分析の結果、XBRLの導入が、
東京証券取引所における情報の非対称を削減したことに貢献したことが示されました。こ
の論文は、現在査読付き英文査読付学術雑誌に投稿中です。
論文の要旨は以下の通りです。
This article investigates whether the Japanese Financial Services Agency s mandatory
use of XBRL affects investors in assessing the financial information. Although regulators
expect the introduction of XBRL to enhance the transparency and quality of business
reporting, given the non-trivial implementation and learning costs, whether the XBRLbased disclosure improves the information environment is an empirical question. As prior
studies in other countries provide mixed results, our analysis of the Japanese case should
be quite insightful, because Japan is one of the few countries where thousands of listed
firms were forced to use the XBRL format all at once. By examining various measures in
the pre- and post-XBRL periods, we provide evidence consistent with the notion that the
adoption of XBRL has helped to improve the information environment, as shown by the
reduction of event returns volatility, absolute cumulative abnormal returns, changes in
the standard deviation of returns, and abnormal bid-ask spread.
■研究課題名
適応的学習における金融政策の有効性
派遣研究者:
中川竜一(関西大学経済学部・教授)
派遣先:
アメリカ・オレゴン州ユージーン市
派遣期間:2013年9月1日∼2013年9月30日
【研究の概要】
今回の海外派遣では、金融市場の不完全性がマクロ経済の性質および金融政策の有効性
にどのような影響を与えるかを分析した。とりわけ、
「適応的学習」という新しい概念を
経済モデルに導入することによってそれらの効果を分析した。国内の研究動向を振り返る
と、適応的学習の概念を取り入れた研究はほとんど見られない。そこで、適応的学習を専
門とする海外の研究者との共同研究をおこなった。
申請者は、2013年9月の1ヶ月間、オレゴン大学に滞在し、George W. Evans教授および
Bruce McGough准教授と研究交流した。滞在期間中には、同大学のセミナー等で申請者
の適応的学習と金融政策に関する研究成果を発表し、上記2名の研究者と意見交換をおこ
なった。また、両研究者の現在の研究トピックおよび活動内容を確認した。さらに、これ
らの研究交流を通じて、両研究者に対して適応的学習におけるマクロ経済分析の共同研究
を提案した。
今回の研究活動から、上記2名の研究者との継続的な共同研究体制を確立することがで
きた。申請者は、貴財団の派遣期間終了後、2013年10月∼2014年3月までのサバティカル
休暇を利用しオレゴン大学に客員研究員として引き続き滞在した。今回の貴財団の派遣が
実現したことによって、短期間で上記の研究成果が得られるのみならず、その後の両研究
者と継続的な共同研究体制を確立することができた。現在、2つの論文を執筆中である。
■研究課題名
大規模災害からの復興戦略と諸アクターの役割に関する国際比較
研究─ハイチ大地震と東日本大震災
派遣研究者:
藤本典嗣(福島大学共生システム理工学類・准教授)
派遣先:
ドミニカ共和国・ISA大学、ハイチ・JICAハイチフィールドオフィス
派遣期間:2013年9月10日∼2013年9月30日
【研究の概要】
本研究は、2010年1月に起こったハイチ大地震(マグニチュード7、死者数約22万人、被
害額78億ドルでGDPの約1.3倍)に焦点をあて現地調査をおこない、大規模災害の復興・
復旧過程の特色を、国際比較の上で明らかにした。2013年7月時で、28万人の避難民が、
首都ポルトーフランスを中心とした352箇所にわたる仮設住宅に居住している。国内統治
の不安定性により、2004年から国際連合ハイチ安定化ミッションが駐留し、自国政府との
二重統治がおこなわれている。その中で発生した大地震は、
「復興」においても、諸外国
や国際機関の主導的関与のもとの政策立案・施行となった。断層破壊の首都直下型地震と
いう要因に加え、低開発国であるために、国民経済規模の小ささ、一人当り所得水準の低
さ、低建築技術水準のため、政府・自治体・民間・コミュニティとして、地震に対する防
災・減災力を十分に持ち合わせていなかった。国民経済の成立において、国内でファイナ
ンス化できる仕組みが、もとから欠如していた上に、震災復興のための巨額の資金が急遽、
必要となったために、その資金は、諸外国の援助に依存した。二重統治からくる国際的情
報発信の迅速性、損壊・倒壊が被害の主であるための可視性から、ハイチの1年間のGDP
を上回る震災被害額が計上され、海外援助により、国民経済上のマクロバランスは保たれ
ている。対して、東日本大震災は、復興予算の国内ファイナンス化を前提とした、政策的
意思決定がなされている。そのため、地震、津波による損壊、倒壊とは、別個にある原子
力事故の被害は、不可視性とも相俟って、等閑せざるを得ない中で、政策立案や施行がな
されている。
本研究は、事前準備で、経済地理学会北東支部例会(於:コラッセ福島、2013年7月20日)
において、
「ハイチ大地震の復興における諸アクターの役割─JICAの事例」という題目で、
日本計画行政学会第36回全国大会(於:宮城大学、同年9日7日)において「ハイチ大地震
の復興と国際的行政機関の役割」という題目で、各報告をおこなった。研究成果として、
「ハ
イチ大地震とマクロバランス(仮)」(福島大学震災復興国際比較研究チーム編『東日本大
震災からの復旧・復興と国際比較(仮)』[八朔社刊、2014年4月に刊行予定]の第13章)
という題目で、分担著として掲載される予定である。
■研究課題名
私人と外国「国家」との間の紛争解決について
─日本の主権免除法を素材として─
派遣研究者:
水島朋則(名古屋大学大学院法学研究科・教授)
派遣先:
台湾(中華民国)・台北、国際法協会(ILA)・アメリカ国際法学会(ASIL)
2013年アジア・太平洋研究フォーラム(2013 ILA-ASIL Asia-Pacific Research Forum)
派遣期間:2013年5月14日∼2013年5月17日
【研究の概要】
私人と外国国家との間の紛争解決に関わる国際法規則の1つが主権免除であり、外国国
家は、私人が起こした民事裁判において法廷地国の裁判権から一定の場合に免除されるこ
とになる。日本では、2004年の国連主権免除条約に基づく「外国等に対する我が国の民事
裁判権に関する法律」(主権免除法)が2009年に公布されているが、この法律案を審議し
た国会において、主権免除法にいう「外国」には日本政府が承認していない国家(未承認
国家)は含まれないと述べられており、その場合、北朝鮮や台湾は主権免除法の対象外と
いうことになる。
しかしながら、このような立場は、未承認国家に主権免除を与える可能性を認めた東京
地裁1954年6月9日判決と整合しない。この判決に対しては、かつては批判もあったが、こ
れらの批判はいずれも既に乗り越えられていたと言える。また、国家承認には政治的性格
が伴うが、そのような政府の政治的判断(政治的国家承認)によって私人が起こした民事
裁判の結果が左右されることは、民事上の権利義務の争いについての決定のため裁判所に
よる審理を受ける権利を保障する自由権規約とも整合的でない。
また、北朝鮮に対して日本がベルヌ条約上の義務を負うことを否定した北朝鮮著作物事
件(最高裁2011年12月8日判決)に照らして、仮に未承認国家が国連主権免除条約に加入
したとしても、日本と未承認国家との間では国連主権免除条約に基づく権利義務関係が生
じないため問題がないという立場もあるが、これも国際法の観点から正当化するのは困難
である。
「国内社会においても国際社会においても、およそ法は人間のために存在する」
ということを念頭におき、私人と外国「国家」との間の紛争解決が政治的国家承認に左右
されないようにすべきである。
このような趣旨の英文ペーパーを事前に提出するとともに、それに基づいた口頭発表を
行った。会議での質疑応答において、また、その後、e-mail等を通じて、他の参加者から
発表に対するさまざまな意見やコメントを受けることができ、非常に有意義な発表の機会
であった。いただいた意見やコメントもふまえつつ、ペーパーに補足・修正を加え、でき
るだけ早い機会に英文論文として成果を公表したいと考えている。
2012年度助成分
■研究課題名
高度情報通信社会における通信の秘密
派遣研究者:
宍戸常寿(東京大学大学院法学政治学研究科・教授)
派遣先:
アメリカ合衆国UCバークレー、スクール・オブ・ロー
派遣期間:2012年7月23日∼2013年7月26日
【研究の概要】
本研究は、高度情報通信社会における通信の秘密の憲法的保障の意義、より具体的には、
憲法上は通信の秘密の保障をもたないもののオンライン・プライバシーの保護に関するア
メリカ合衆国の議論との比較を通じて、憲法が通信の秘密を保障する法的意義、国家が通
信法制により通信の秘密を保障する法的意義、通信の秘密の個別的内容(とりわけプライ
バシー、個人情報の保護との異同)
、通信の秘密の侵害と正当化の判断基準について、解
明することを目的とする。具体的な研究方法としては、UC Berkeley Law Schoolに
Visiting Scholarとして一年間滞在し、文献調査・収集及び検討を進めた。
アメリカ法におけるプライバシーの保護はコモン・ロー、連邦法・州法等により多様で
あるが、我が国の通信の秘密に相当する規律としては、合衆国憲法第4修正および電子通
信 プ ラ イ バ シ ー 法(ECPA) が 有 名 で あ り、 と り わ け9.11後 の 愛 国 者 法(PATRIOT
ACT)による通信傍受の問題が注目されてきた。しかしそのほかにも、コモン・ロー上
の守秘義務関係に加え、連邦法でも、通信に関する法執行協力法(CALEA)、外国諜報
監視法(FISA)
、ケーブル通信政策法(CCPA)、映像プライバシー保護法(VPPA)、テ
レコミュニケーション法、電話利用者保護法(TCPA)、児童オンライン・プライバシー
保護法(COPPA)がそれぞれ通信の秘密に相当する論点を提起している。さらに、連邦
取引委員会(FTC)が、FTC法5条にいう「不公正または欺瞞的な行為または慣行」に対
する制裁として課徴金や包括的プライバシープログラムの策定を命ずる等しており、また
COPPAにより保護される個人情報の範囲をIPアドレスや移動端末IDにまで拡張する等の
動きが見られる。わが国の通信の秘密がアメリカと比較して過度に強力であるとの批判が
見られるが、法体系の違いはもちろん、こうした広汎な法分野ないし法執行の現実を踏ま
えて、より具体的に情報の内容・文脈ごとに正確な分析を行う必要がある。
本研究の成果の一部は、①「通信の秘密について」季刊企業と法創造35巻(2013年)14-29
頁、②「表現の自由」岡村久道編『インターネットの法律問題』
(新日本法規出版、2013年)
107-140頁、③「通信の秘密に関する覚書」長谷部恭男=安西文雄=宍戸常寿=林知更編『高
橋和之先生古稀記念 現代立憲主義の諸相 上下』
(有斐閣、2013年刊行予定)において公
表済みないし公表予定であるが、引き続き法学雑誌等を通じて発表していく予定である。
■研究課題名
情報化社会と刑事法の対応
派遣研究者:
髙山佳奈子(京都大学大学院法学研究科・教授)
派遣先:
第19回国際刑法会議準備シンポジウム・準備組織会合(国際刑法学会)、
イタリア・ヴェローナ大学・イタリア・シラクーザ市・国際刑事高等研究所(ISISC)
派遣期間:2012年11月26日∼2012年12月4日
【研究の概要】
本研究計画は、①2014年にリオデジャネイロで開催される第19回国際刑法会議「情報化
社会と刑事法の対応」の準備会合としてイタリアのヴェローナ大学で開催されるシンポジ
ウムへの参加、②引き続いて同じくイタリアの国際高等刑事研究所で開催される、国際刑
法学会執行部による同国際刑法会議準備会への参加、③それらの成果公表に向けた活動、
を中心としたものである。当初の計画どおり、申請者は、国際刑法学会日本部会を代表し
て①のシンポジウムに参加するため、準備作業として、書籍の購入、および、英文ペーパー
の校正費用(外部業者に依頼)の支出を行った。また、比較法の調査等のため、資料収集
および資料整理の作業に携わる大学院生1名にアルバイト代を支給した。①のシンポジウ
ムでは、日本法の状況につき問題領域ごとに2回に分けて口頭発表を行い、さらに、リオ
デジャネイロ会議に提出するための決議案の作成作業に参加した。さらにこれを受けて、
リオデジャネイロ会議の運営を協議するため、国際刑事高等研究所(シラクーザ市)で開
催された国際刑法学会執行部会に出席した。
研究成果として、日本のサイバー犯罪対策法制は、包括的立法によらず個別の規定の導
入によっていること、諸外国で利用されている諜報機関や特別の捜査手法(通信内容の捜
査等)は基本的に用いられないこと、青少年保護のため民間組織が活用されていること等
を特徴とし、抽象的危険犯による前倒し処罰の傾向においては諸外国と共通することが明
らかになった。人権保障の観点からは、日本が諸外国のような規制的立法の方向に安易に
進むことには警戒が必要である。リオデジャネイロ会議に先立つ準備会合はこのほかに3
回開催される予定であり、申請者は本計画の成果をふまえてさらにサイバー犯罪とその対
策について検討を進め、2013年中に1回の会合に出席し、研究成果を英文で公刊する予定
である。
■研究課題名
1970年代、地方財政危機の政治的インパクト:
日仏伊三カ国の比較政治史
派遣研究者:
中山洋平(東京大学大学院法学政治学研究科・教授)
派遣先:
フランス・パリ市、グルノーブル市、サンテティエンヌ市、レンヌ市、共同研
究機関:CDC(預金供託金庫)歴史委員会(Conseil Historique)
派遣期間:2013年3月19日∼2013年3月30日
【研究の概要】
今回の派遣は、1970年代の地方財政危機の生成とその政治的インパクトを、様々な条件
がよく似た日仏伊三カ国について比較するという研究課題のうち、フランスに関する実証
研究に必要な一次史料の調査・収集を行うことを主たる目的とする。加えて、CDC(預
金供託金庫)の歴史委員会の研究グループと今後の共同研究の道筋について協議を行ない、
フランスに関する実証研究について現地での刊行の見通しを付けることも目論まれてい
た。この時期、CDCは、地方自治体のインフラ整備事業の殆どに長期低利融資を供給し
ており、70年代の地方財政危機とは、文字通り不可分の関係にある。
フランスについては、グルノーブル、サンテティエンヌ、レンヌの3つの大都市圏を実
証的に分析して比較することでより普遍性の高い知見を導き出す手法を取る。時間の制約
から、今回は、そのうちグルノーブルとレンヌを主たる対象とすることとし、市と県の文
書館などにおいて史料の調査・収集を行った。
グルノーブルでは、県文書館を中心に、県開発公社の事業展開と財政状態の展開、地方
財政危機に対する県市町村長会や県議会の対応などを中心に調査を行った。
サンテティエンヌでの調査には1日しか割けなかったが、県文書館において、多くの大
都市で左右の政権交代が起こった1977年の市町村(コミューン)選挙において、地方財政
危機がどのようなインパクトを持ったかを、警察や県庁の史料を中心に分析した。市文書
館では、市開発公社の財政危機・破綻の経緯に関する調査を行った。
レンヌでは、市の政権党であるキリスト教民主主義勢力を中心に、70年代の諸党派のネッ
トワークの変容や77年の市町村選挙の情勢や結果を警察報告を中心に検討した。加えて、
市文書館で、ブルターニュ広域開発会社や、レンヌ都市圏の広域区とその都市計画公社な
どの事業・財政状況についても検討した。
パリでは、まず、CDCの史料室で、70年代の地方自治体向け融資政策の展開を中央(指
導委員会)・地方(地域代表部)双方の史料を通じて検討した。また、国立文書館で、ポ
ンピドゥー、ジスカール・デスタン両大統領の大統領文書を閲覧し、財政危機の下での両
政権の地域開発政策の展開を調査した。
加えて、CDCの歴史委員会の研究グループの代表者であるMichel Margairaz教授らと
面談して、2時間にわたって協議を行い、今後、中山を含む共同研究のメンバーで論文集
を刊行する方針で合意した。
■研究課題名
グローバル経営人材指標の日米比較研究
派遣研究者:
永松利文(鳥取大学・大学教育支援機構・准教授)
派遣先:
アメリカ合衆国・マサチューセッツ州ボストン市・ボストン大学国際高等教育
研究所
派遣期間:2013年3月10日∼2013年3月25日
【研究の概要】
ボストン大学国際高等研究所・客員研究員(Visiting Scholar, Center for International
Higher Education, Boston College)として、グローバル経営人材指標についての比較研究
を行った。同研究所所長である、Philip G. Altbach博士は、
比較高等教育研究の権威であり、
世界各国の教育モデルを熟知している。とくに、その比較研究の根底に、経済先進国と開
発途上国の高等教育格差の要因を経済発展度とする考えがあり、この点は、本研究に根深
く関係している。まず、Altbach博士はじめ同研究所教員及び大学院生に、日本の経済的
課題とそれにともなう人材及び教育開発の必要性について、研究会を開き、論議した。な
かでも、想定していたが、経済産業省が2012年に掲げた「日本版」グローバル人材指標に
ついては、米国人にとって、特段のインパクトはなかった。これについては、Altbach博
士が語るように、米国社会の形成の歴史そのものが多国籍の移民及び多様な文化により成
立している。そのため、経済産業省がかかげる指標、たとえば情報発信能力や異文化理解
などはすでに社会教育及び学校教育のなかで実現している。さらに同研究所に同じく客員
研究員として在籍している同僚と各国のグローバル経営人材について協議を行った。彼ら
は、イスラエル、ハンガリー、中国等からの研究留学者であり、本研究は日米の比較であ
るが、これらの意見も興味深い点がいくつかあった。詳細は後日論文等で述べ、報告書上
では割愛する。また、同大学図書館における比較高等教育に関する多くの文献研究を行っ
た。日程の制約もあり、多くの文献研究はできなかったが、同研究所教員等の選定により、
本研究に有益な研究書を効果的に収集した。最後に、本研究課題についての一定のまとめ
として、同研究所教員及び大学院生に対し、講演を行い、研究のレビューを行った。
■研究課題名
国際経済法における公と私の区別とその再構成
派遣研究者:
原田央(東京大学大学院法学政治学研究科・准教授)
派遣先:
アメリカ・ワシントンD.C.・American Society of International Law,
International Economic Law interest group
派遣期間:2012年11月28日∼2012年12月3日
【研究の概要】
2012年11月29日から12月1日の日程でGeorge Washington University Law Schoolにて開
催された、American Society of International Law International Economic Law interest
groupのbiennale conferenceに、報告者として出席し報告を行った。
同学会の共通テーマは、国際経済法における公と私の区別の再検討であり、本派遣研究
者は、第一日目の第二セッションにて、
「国際社会における公と私の区別に関する若干の
史的考察」という表題で報告および質疑応答を行った。
同セッション内での議論ばかりでなく、他のセッションや、セッション外での他国(主
にアメリカ)研究者と実質的な議論を行うことができ、本学会の他の報告においてあまり
取り上げられなかった「公と私」の区別に関する理論的・歴史的な観点に基づくこちらか
らの問題提起は、いくつかの積極的・好意的反応を惹起した。
本報告は、2013年以降に主催者側の編集を経て、他の報告と合わせて出版公表される予
定である。また、それ以外にも、今後も、今回培った研究者間のネットワークを通じて、
相互に問題提起・議論を行っていく予定である。
■研究課題名
Determinants of the Proliferation of Preferential Trading
Arrangements in East Asia(東アジアにおける自由貿易協定増
大の決定要因)
派遣研究者:
保城広至(東京大学社会科学研究所・准教授)
派遣先:
International Studies Association(ISA), 54th Annual Convention,
San Francisco, California, USA
派遣期間:2013年4月2日∼2013年4月8日
【研究の概要】
2000年を境として、東アジア地域(ASEAN10カ国+日本・韓国・中国・インド・オー
ストラリア・ニュージーランド)における2国間・多国間で締結された自由貿易協定(PTAs:
Preferential Trade Agreements)は、目を見張るほどに増大した。本研究の目的は、東
アジアにおけるこれらPTAs増大の、政治経済的な決定要因を明らかにすることにあった。
本研究が採用した方法論は、歴史分析と計量分析の融合である。すなわち、1970年代か
ら90年代にかけて、PTAsが結ばれなかった諸要因を歴史的実証分析によって導きだし、
それら変数群を1990年から最近までのデータを使用して数量化した後に、東アジア諸国の
2国間ペアでPTAsが結ばれているかどうかを従属変数として、生存分析の離散型データ
モデルという統計的分析にかけた。PTAsが結ばれるまでの時間的長さは、どのような変
数に影響されるのかを検証するには、同モデルが最も適当だからである。具体的な独立変
数としては、輸出構造の類似性、地域化(貿易量・直接投資の量)の程度などが過去の経
験から導き出され、また、先行研究の見解(民主主義度、距離)などを制御変数として取
り入れ、それら変数が東アジアのPTAs増大にどのような影響を及ぼしているのかを検証
した。
その結果、仮説通り、輸出構造の類似性が高く、直接投資量が多ければ、PTAsは結ば
れ易いという分析結果がでた。ただし貿易量は、むしろPTAsを阻害する要因となってい
ることも明らかになった。これを2013年4月4日に米国サンフランシスコで行われたISAの、
アジア・太平洋地域間の経済・安全保障協力を主テーマにしたパネルで発表した。ここで
は、日本・韓国・米国からそれぞれ第一線の研究者が参加し、また聴衆も15名ほど集まり、
多くの建設的な討論が行われた。現在、加筆・修正した提出ペーパーを、英文査読誌に投
稿中である。
■研究課題名
ドイツ警察法における補充生の原理の研究─民事不介入の原則を
素材にして
派遣研究者:
米田雅宏(北海道大学大学院法学研究科・准教授)
派遣先:
ドイツ・フライブルク・フライブルク大学法学部第三公法講座
派遣期間:2012年9月1日∼2013年3月31日
【研究の概要】
ドイツでは、警察機関(執行警察)は他の国家機関の活動に対して補充的・二次的であ
るべきとする「補充性の原理」を軸に、戦後警察権力の分散化(いわゆる脱警察化)が進
められたが、近年では国境を越えたテロ対策や警備業者の治安任務への参画等を契機に、
分散した警察権力の自覚的な連携・連帯が模索されている(権力分立観の新解釈〔
(権力
抑制という消極的な)権力分立観から(機関の適性に適合した、機能的な)権力分立観へ〕
もその背景にある)。
本研究は上記の動向を踏まえつつドイツ警察法を貫く「補充性の原理」
の規範的意味を確認した上で、とりわけ執行警察と裁判所との役割分担が問題となりうる
民事不介入の原則を素材にして民事紛争における執行警察の役割と限界について探った。
本研究により、第1にドイツの戦後の脱警察化は権力抑止に由来する任務範囲の制限にも
かかわらず、常に執行警察が危険防御に関わる国家活動の隙間を埋める役割を果たすこと
が法秩序において正当に位置づけられていること、第2に執行警察と一般行政庁との間で
円滑な任務履行を実現するためには互いが有する情報の交換・共有が極めて重要であり、
そのための関連手続が法律上詳細に規定されていること、第3に緊急時における私権保護
のための民事訴訟手続の成果(市民にとっての利便性・簡易性・迅速性等)がこの分野に
おける執行警察の負担の軽重に決定的な影響を及ぼしていること、第4に公法領域と私法
領域に跨がる重層的な「仮の権利保護システム」全体を体系的に明らかにすることの必要
性等が明らかとなった。
本研究はフライブルク大学法学部第三公法講座のD. Murswiek教授の下で文献の調査・
分析の手法を通じて行うと同時に、本研究課題に関して有益なアドバイスを提供して頂い
たTh.Würtenberger教授のご助力も得て、フライブルク地区警察本部のD. Klose氏に執行警
察と警察行政庁ないし特別秩序行政庁との恊働の具体的実例について、またフライブルク
県庁(行政管区庁)の警察本部長B. Rotzinger氏に現在進行中であるバーデン=ヴュルテン
ベルク州の警察改革(執行警察部門の統廃合・任務遂行の効率性と柔軟性の追求・IT部門
強化・改革の意義と効果等)についてヒアリング調査も実施した。これら研究の全体的な
総括については、さらなる実証研究の成果も踏まえて今後論文の形でまとめる予定である
2009年度助成分
■研究課題名
危機後の中国経済
派遣研究者:
計聡(専修大学商学部・准教授)
派遣先:
中国・上海市・復旦大学、社会科学院等、中国・シンセン市・シンセン交易所
派遣期間:2009年8月24日∼2009年8月28日(上海)、2009年12月17日∼2009年12月19日(シンセン)
【研究の概要】
①上海訪問について
これまでの中国中小企業の資金調達についての調査で、上海は主な拠点であった。今回
の訪問は、これまで聞き取り調査を行っていた企業を主な対象として、その後の状況特に
資金調達面の困難、2008年の世界危機の影響、そして今後の発展の見込みについて聞くこ
とができた。
また、復旦大学をはじめ上海社会科学院などの複数の研究者から、危機後の中国経済の
情勢と今後顕在化する恐れのある経済諸問題を中心にヒアリングをおこなった。中国は内
外に厳しい問題と直面しながら、政府が主導で高い成長率を維持しようとしてきた。今回
の調査訪問では実施された短期・中長期マクロ経済政策の意図とその効果をどのように評
価すべきか、90年代後半の危機を乗り越えた経験を踏まえ、今回の危機を乗り越えるには
何が必要か、また経済発展の障害となるものとは何かなど、多方面にわたり、各研究者か
ら大変率直な感想を聞き、また忌憚のない意見交換ができた。
②シンセン訪問について:
2009年3月末に「株式新規公開発行・創業板上場管理暫定法案」の発表をきっかけに、
シンセンで創業板取引市場が設立され、中小企業(特に成長型創業企業)にとりフォーマ
ルな資金調達のチャンネルが整備され、より円滑な資金調達が可能となった。しかし、
「暫
定法案」の成立には紆余曲折を経て10年という長い歳月がかかった。今回のシンセン訪問
はシンセン交易所の見学と本法案が成立するまでの経緯、特徴(特に市場リスクについて
の制度設計)
、さらには、創業板にかかわる一連の政策が、中小企業の資金調達、中小企
業の発展にもたらす影響を理解するのに有益であった。
中国は大きな経済発展を遂げ、世界第二のGDPを持つ経済大国に成長した、しかし、
多くの面で未だに市場と企業活動の円滑な働きを担保するための制度や法が整備されてい
るとはいえない。今日の中国経済の実情を分析する際、これらの不備は重要な視点となる
が、現地の有識者からこれまでの歴史的背景と制度の変遷などの経緯とそれに対する見解
を聞くことができたのは大変貴重な体験であった。
2007年度助成分
■研究課題名
東アジア共同体共通政策をめぐる「トラック2機関」の現地動向
調査─非伝統的安全保障政策課題を中心に─
派遣研究者:
進藤榮一(江戸川大学経営社会学科・教授、現在:筑波大学大学院・名誉教授)
派遣先:
中國・北京・中國外交学院、マレーシア・クアランプール・マレーシア戦略国
際研究所、シンガポール・シンガポール・シンガポール戦略国際研究所、イン
ドネシア・ジャカルタ・インドネシア戦略国際研究所
派遣期間:2007年7月20日∼2007年7月29日
【研究の概要】
東アジア共同体形成に向けた、域内のトラック2機関が、非伝統的安全保障問題について、
いかなる政策対応を取ろうとしているか、中国と主要アセアン、3カ国のシンクタンクを
歴訪し、政府関係者との聞き取り調査を行った。
①日本では東アジア共同体形成に関して、消極的で否定的な意見がメディアで多く見られ
る。特に中国主導か、日本主導かの主導権争いで動きが停滞しているとの観測記事が流
されている。しかし、トラック2の影響力のある政策知識人やシンクタンクの意見を総
括的に見る限り、そうした見方は、日本特有の見方であることが、強く印象付けられた。
②中国についていえば、21世紀に中国がますます大国として、経済的にも政治的にも力を
強めていくことについて、かなりの自信を持って、かなりの余裕すら感じられる政策姿
勢が顕著にうかがえた。日本でしばしば喧伝される、猛々しい「中国脅威論」は、かな
りの距離を感じた。
③アセアン諸国の3カ国についていえば、2015年アセアン共同体の形成に向けて、着々と
シンクタンク間で情報交流交換を行い、特に、非伝統的安全保障分野での積極的な姿勢
が顕著に見られた。また中国との関係についても、単純な中国脅威論的な見方ではなく、
むしろ台頭する中国を、アジア力の台頭という文脈の中で積極的にどう互いに協力分野
を広げて、東アジア共同体という地域協力体形成の文脈でとらえていることに強い印象
と知見を得た。
総括として、日本の政府も経済界もメディア、研究者も、東アジア共同体構築に向けて
より積極的に、中国やアセアン諸国と、特に、食料備蓄制度や海賊対策、人身売買、地震
津波・防災システム構築などの非伝統的安全保障分野で多くの協力体制構築の必要性があ
ることが痛感された。
帰国後の研究成果として『エコノミスト』『朝日新聞』『毎日新聞』等に関連記事を数編
書いた。また単著として『国際公共政策─新しい社会へ─』日本経済評論社、2010年、
『東
アジア共同体と日本の戦略』共編、桜美林大学出版部、2011年、
『アジア力の世紀─どう
生き抜くか─』岩波新書、2013年6月に結実した。