全国共同利用・共同研究拠点 平成23年度 共同利用・共同研究 成果報告集 広島大学原爆放射線医科学研究所 【放射線影響・医科学研究拠点】 目 次 平成 23 年度共同利用・共同研究採択課題一覧 i 平成 23 年度共同利用・共同研究成果報告 重点プロジェクト研究⑴ 1 重点プロジェクト研究⑵ 12 重点プロジェクト研究⑶ 17 重点プロジェクト研究⑷ 45 重点プロジェクト研究⑸ 46 重点プロジェクト研究⑹ 51 自由研究 53 《付録》 平成 23 年度共同利用・共同研究課題募集要項 71 採択状況 73 共同利用・共同研究に供する施設 ・ 設備及び資料等の利用状況 74 平成23年度共同利用・共同研究採択課題一覧 平成 23年度共同利用・共同研究採択課題一覧 採択番号 申請者(代表者) 新規継続 共同研究課題名 課題番号 原医研担当者 1-1 今 泉 和 則 広島大学 新規 細胞ストレスに対する小胞体機能 変化の解析 重点⑴ 稲葉 俊哉 1-2 田 内 広 茨城大学 継続 NBS1 タンパク質による DNA 損傷 応答制御機構に関する研究 重点⑴ 松浦 伸也 1-3 斉 藤 典 子 熊本大学 新規 DNA 損 傷 修 復 に お け る 細 胞 核 構 造・核-細胞質間輸送の役割解析 重点⑴ 田代 聡 1-4 鈴 木 元 名古屋大学 継続 複製後修復経路における DNA ポ リメラーゼ Polδ の機能解析 重点⑴ 増田 雄司 DNA 損傷応答に伴う DNA メチル 1-5 北 村 俊 雄 東京大学医科学研究所 新規 化変化が細胞老化に及ぼす影響の 解析 重点⑴ 稲葉 俊哉 放射線障害修復機構への老化関連 財団法人 継続 遺伝子の関与 放射線影響研究所 重点⑴ 松浦 伸也 1-6 野 田 朝 男 所属機関 1-7 矢 中 規 之 広島大学 継続 ビタミン B6 摂取における大腸癌予 防効果の遺伝子解析 重点⑴ 松井 啓隆 1-8 大 森 治 夫 京都大学 新規 DNA 損傷バイパスにおけるユビキ チン化酵素の役割 重点⑴ 増田 雄司 神谷 研二 BAF を用いた DNA 傷害時の損傷 独立行政法人 新規 修復タンパク質の細胞内挙動の連 産業技術総合研究所 続化学発光観察 重点⑴ 田代 聡 1-9 星 野 英 人 1-10 河 野 一 輝 庄原赤十字病院 継続 ゲノム不安定性症候群における細 胞核微少環境の研究 重点⑴ 田代 聡 1-11 石 田 万 里 広島大学 継続 ゲノム損傷修復の分子機構に関す る研究 重点⑴ 田代 聡 1-12 山 本 卓 広島大学 ZFN を用いたゲノム損傷修復関連 継続 遺伝子のノックアウト細胞株の樹 立 重点⑴ 松浦 伸也 1-13 土 生 敏 行 京都大学 継続 p53-p31 経路による細胞生死決定機 構の解析 重点⑴ 河合 秀彦 1-14 井 倉 毅 京都大学 DNA 損傷応答シグナルの活性化に 継続 おける TIP60 ヒストンアセチル化 酵素複合体の役割 重点⑴ 田代 聡 1-15 中 島 秀 明 慶應義塾大学医学部 新規 造血器腫瘍発生における放射線障 害とエピゲノム制御異常の関連 重点⑴ 松井 啓隆 1-16 小 林 正 夫 広島大学 継続 重症先天性好中球減少症における 新規遺伝子変異の同定 重点⑴ 稲葉 俊哉 1-17 濱 聖 司 広島大学 継続 悪性グリオーマ細胞の放射線感受 性の検討 重点⑴ 松浦 伸也 1-18 島 弘 季 東北大学 新規 RAD51 動態制御機構の解明 重点⑴ 田代 聡 2-1 嶋 本 顕 広島大学 新規 重点⑵ 河合 秀彦 ヒト iPS 細胞の染色体安定化機構 と放射線の影響に関する研究 備 考 i 採択番号 申請者(代表者) 2-2 坂 本 修 一 所属機関 課題番号 原医研担当者 公益財団法人 低分子化合物を用いた低線量放射 新規 線応答に関わる因子の探索 微生物化学研究会 重点⑵ 河合 秀彦 低線量率放射線誘発細胞応答にお けるヒストン修飾の役割の解明 重点⑵ 松浦 伸也 低線量放射線がゲノム DNA のメチ 独立行政法人 継続 ル化状態に及ぼす影響の評価研究 放射線医学総合研究所 重点⑵ 川上 秀史 2-3 小 林 純 也 京都大学 2-4 齋 藤 俊 行 新規継続 新規 共同研究課題名 2-5 七 條 和 子 長崎大学 継続 原爆被爆者に関するプルトニウム と内部被曝の研究-その1 重点⑵ 星 正治 3-1 武 井 佳 史 名古屋大学 継続 原爆被爆者血液塗抹検体及び細胞 における MicroRNA の発現解析 重点⑶ 三原圭一朗 3-2 高 木 正 稔 東京医科歯科大学 新規 家族性リンパ腫の遺伝的背景の探索 重点⑶ 稲葉 俊哉 より高効率の放射線療法の確立に 新規 向けた臨床的放射線耐性の分子機 構の解明研究 重点⑶ 細井 義夫 ATM 欠損の慢性骨髄性白血病発 症・進展における関与の解析 重点⑶ 本田 浩章 3-5 犬 飼 岳 史 山梨大学 継続 白血病原因転写関連因子の機能解析 重点⑶ 稲葉 俊哉 3-6 黒 澤 秀 光 獨協医科大学 継続 急性リンパ性白血病融合転写因子 の標的遺伝子解析とその機能 重点⑶ 稲葉 俊哉 3-7 志 村 勉 東北大学 新規 長期分割照射法を用いたヒトがん 細胞における放射線耐性の研究 重点⑶ 神谷 研二 笹谷めぐみ ヒト腫瘍細胞の放射線応答浸潤能 独立行政法人 新規 変化に関する分子メカニズムの解 放射線医学総合研究所 析 重点⑶ 飯塚 大輔 新規 乳がん幹細胞発生の分子基盤の研究 重点⑶ 瀧原 義宏 3-10 辻 浩 一 郎 東京大学医科学研究所 継続 造血関連遺伝子改変マウスにおけ る造血細胞分化・増殖能の解析 重点⑶ 本田 浩章 3-11 小 林 正 夫 広島大学 先天性好中球減少症における発癌 機構の解析 重点⑶ 瀧原 義宏 重点⑶ 本田 浩章 重点⑶ 本田 浩章 疾患モデルマウスにモバイル因子 を用いた多段階発癌の解析 重点⑶ 本田 浩章 3-15 自 見 英 治 郎 九州歯科大学 コンディショナルノックアウトマ 継続 ウ ス を 用 い た 破 骨 細 胞 に お け る Cas の機能解析 重点⑶ 本田 浩章 3-16 須 田 年 生 慶應義塾大学 継続 造血幹細胞におけるヒストン脱リ ン酸化酵素 Fbxl10 の機能解析 重点⑶ 本田 浩章 3-3 福 本 学 東北大学 3-4 高 木 正 稔 東京医科歯科大学 継続 3-8 今 井 高 志 3-9 菅 野 雅 元 広島大学 3-12 菅 野 雅 元 広島大学 3-13 菊 池 章 大阪大学 新規 コンディショナルノックアウトマ 新規 ウスを用いた造血細胞におけるポ リコーム遺伝子 Eed の機能解析 コンディショナルノックアウトマ 継続 ウ ス を 用 い た 造 血 細 胞 に お け る Wnt5a の機能解析 3-14 中 村 卓 郎 財団法人癌研究会 継続 ii 備 考 採択番号 申請者(代表者) 所属機関 3-17 秀 道 広 広島大学 3-18 酒 井 規 雄 広島大学 3-19 檜 井 孝 夫 広島大学 新規継続 共同研究課題名 コンディショナルノックアウトマ 継続 ウ ス を 用 い た 角 化 細 胞 に お け る Cas の機能解析 トランスジェニックマウスを用い 継続 た小脳失調症における PKC 変異体 の機能解析 コンディショナルノックアウトマ 新規 ウスを用い大腸癌における Wnt5a の機能解析 課題番号 原医研担当者 重点⑶ 本田 浩章 重点⑶ 本田 浩章 重点⑶ 本田 浩章 3-20 小 田 秀 明 東京女子医科大学 継続 遺伝子改変マウスの組織病理学的 解析 重点⑶ 本田 浩章 3-21 丸 義 朗 東京女子医科大学 新規 Bag1 欠 失 の 慢 性 骨 髄 性 白 血 病 発 症・進展に対する関与の解析 重点⑶ 本田 浩章 3-22 高 倉 伸 幸 大阪大学 コンディショナルノックアウトマ 継続 ウ ス を 用 い た 血 管 形 成 に お け る Cas の機能解析 重点⑶ 本田 浩章 3-23 香 城 諭 北海道大学 新規 免疫細胞における Dec1 の役割およ び細胞制御機構解析 重点⑶ 本田 浩章 Parp および Parg 発現変化による 独立行政法人 継続 慢性骨髄性白血病悪性化への関与 国立がんセンター研究所 の解析 重点⑶ 本田 浩章 7q- を有する白血病発症における Runx1 変異の関与の解析 重点⑶ 本田 浩章 重点⑶ 本田 浩章 重点⑶ 本田 浩章 重点⑶ 本田 浩章 3-24 益 谷 美 都 子 3-25 奥 田 司 京都府立医科大学 新規 3-26 古 市 貞 一 独立行政法人 理化学研究所 3-27 本 田 善 一 郎 東京大学 3-28 渡 邉 秀 美 代 東京大学 コンディショナルノックアウトマ 継続 ウスを用いた脳神経細胞における Cas の機能解析 コンディショナルノックアウトマ 継続 ウスを用いた自己免疫疾患発症に おける A20 の機能解析 足細胞特異的 Cas 欠失(ノックア 継続 ウト)マウスを用いた糸球体上皮 細胞における Cas の機能解析 3-29 黒 川 峰 夫 東京大学 継続 CasL 欠損の慢性骨髄性白血病発症 機構への関与の解析 重点⑶ 本田 浩章 3-30 滝 田 順 子 東京大学 トランスジェニックマウスおよび 継続 ノックインマウスを用いた変異型 ALK の機能解析 重点⑶ 本田 浩章 3-31 真 田 晶 東京大学 継続 コンディショナルノックインマウ スを用いた変異型 Cbl の機能解析 重点⑶ 本田 浩章 重点⑶ 本田 浩章 重点⑶ 本田 浩章 重点⑶ 本田 浩章 重点⑶ 神谷 研二 笹谷めぐみ 重点⑶ 瀧原 義宏 3-32 小 川 誠 司 東京大学 3-33 佐 藤 智 彦 東京大学 3-34 宮 川 清 東京大学 コンディショナルノックアウトマ 継続 ウスを用いた造血器腫瘍発症にお ける A20 の機能解析 転写因子 Evi-1 の造血幹細胞における標的 新規 遺伝子の同定及び発癌のメカニズム解析/ 骨髄性白血病におけるニッチの役割の解明 トランスジェニックマウスを用い 継続 た減数分裂に関与する遺伝子 SCP3 の機能解析 神経幹細胞で観察される選択的染色 体分配における p53 遺伝子の役割 3-35 白 石 一 乗 大阪府立大学 継続 3-36 小 林 正 夫 広島大学 継続 原発性免疫不全症の解析 備 考 iii 採択番号 申請者(代表者) 所属機関 共同研究課題名 課題番号 原医研担当者 3-37 谷 内 一 郎 (独)理化学研究所 継続 リンパ球分化を制御する遺伝子発 現機構の解明 重点⑶ 稲葉 俊哉 3-38 大 段 秀 樹 広島大学 継続 In vitro におけるヒト末梢血 B 細 胞培養系の確立と応用 重点⑶ 岡田 守人 3-39 泉 俊 輔 広島大学 継続 有機天然化合物のアポトーシス誘 導および介入の作用機序解析 重点⑶ 河合 秀彦 飯塚 大輔 3-40 檜 山 英 三 広島大学 継続 ヒトがんにおける発がん機序と悪 性度規定因子の解明 重点⑶ 大瀧 慈 準備中 3-41 坂 田 麻 実 子 筑波大学 (F-21) 新規 造血器腫瘍におけるエピゲノム異 常の発症メカニズムの解明 重点⑶ 松井 啓隆 3-42 森 下 和 広 宮崎大学 (F-22) EVI1 高発現白血病細胞における接 新規 着依存性の薬剤耐性の制御機構の 解析 重点⑶ 金井 昭教 3-43 幸 谷 愛 東海大学 (F-24) 新規 EBV 関連リンパ腫における小分子 RNA の網羅的解析 重点⑶ 松井 啓隆 4-1 安 西 和 紀 日本薬科大学 被ばく後投与で放射線防御作用を 新規 示す化合物の培養細胞への作用の 解析 重点⑷ 細井 義夫 4-2 泉 俊 輔 広島大学 継続 放射線被曝のバイオドジメトリー を志向した尿プロテオーム解析 重点⑷ 河合 秀彦 飯塚 大輔 カロテノイド産生性植物乳酸菌の 新規 機能を活用した放射線被爆低減技 術 重点⑷ 神谷 研二 利用中止 笹谷めぐみ 5-1 菅 野 雅 元 広島大学 新規 造血幹細胞制御の分子基盤の研究 重点⑸ 瀧原 義宏 5-2 酒 井 規 雄 広島大学 継続 脳虚血に伴うストレス応答物質の 解析 重点⑸ 田代 聡 5-3 田 口 明 松本歯科大学 新規 血管内皮細胞機能解析に関する研 究 重点⑸ 東 幸仁 4-3 杉 山 政 則 広島大学 (F-19) 新規継続 5-4 高 橋 将 文 自治医科大学 (2-6) 新規 心筋細胞機能解析に関する研究 重点⑸ 東 幸仁 5-5 茶 山 一 彰 広島大学 (2-7) 間葉系幹細胞機能解析と発癌機構に関す 新規 る研究(大腸癌の増殖・進展における骨髄 由来間葉系幹細胞の重要性に関する研究) 重点⑸ 東 幸仁 5-6 中 島 歩 広島大学 (2-8) 新規 脈管系細胞機能解析に関する研究 重点⑸ 東 幸仁 5-7 木 原 康 樹 広島大学 (2-9) 新規 循環疾患における再生医療に関す る研究 重点⑸ 東 幸仁 5-8 後 藤 力 広島国際大学 (2-10) 新規 血管内皮前駆細胞機能解析に関す る研究 重点⑸ 東 幸仁 6-1 高 橋 規 郎 ㈶放射線影響研究所 継続 動物モデルを使った放射線により 誘発する循環器疾患の研究 重点⑹ 稲葉 俊哉 6-2 豊 田 新 岡山理科大学 国際規格化に向けた人の歯の ESR 線量計測方法の確立 重点⑹ 星 正治 iv 継続 備 考 採択番号 申請者(代表者) 所属機関 新規継続 共同研究課題名 課題番号 原医研担当者 F-1 廣 田 隆 一 広島大学 継続 バクテリア変異株のゲノム解析 自由研究 松井 啓隆 F-2 内 匠 透 広島大学 新規 脳機能に関するゲノム科学的研究 自由研究 川上 秀史 F-3 太 田 茂 広島大学 継続 環境汚染物質の甲状腺ホルモン攪 自由研究 藤本 成明 乱作用におけるヒトリスク評価 F-4 小 林 正 夫 広島大学 新規 周期性好中球減少症モザイク症例 自由研究 瀧原 義宏 の解析 F-5 小 林 正 夫 広島大学 継続 代謝性疾患の解析 F-6 小 西 博 昭 県立広島大学 新規 ミトコンドリア指向性 RNA 顆粒形 自由研究 田代 聡 成タンパク質 CLPABP の解析 F-7 梶 梅 輝 之 広島大学 新規 造血幹細胞におけるポリコーム遺 自由研究 瀧原 義宏 伝子群による制御機構 F-8 澤 尻 昌 彦 広島大学 新規 重粒子線の骨代謝におよぼす影響 F-9 茶 山 一 彰 広島大学 F-10 中 野 由 紀 子 広島大学病院 備 考 自由研究 瀧原 義宏 自由研究 松浦 伸也 抗ウイルス薬投与による C 型肝炎 新規 ウイルスのアミノ酸変異の継時的 自由研究 松井 啓隆 検討 A キナーゼアンカータンパク変異 継続 体における心筋内カルシウム動態 自由研究 田代 聡 の解明 F-11 佐 々 木 民 人 広島大学 継続 胆道系悪性腫瘍の分子生物学的解析 自由研究 宮本 達雄 F-12 栗 原 英 見 広島大学 継続 家族性侵襲性歯周炎の疾患関連遺 自由研究 川上 秀史 伝子究明 F-13 中 尾 眞 二 金沢大学 新規 骨髄不全症候群における染色体 13q 自由研究 松井 啓隆 欠損の解析 F-14 横 山 明 彦 京都大学 新規 MLL 白血病の分子メカニズム F-15 白 倉 麻 耶 広島大学 新規 F-16 楯 真 一 広島大学 細胞損傷マーカー蛋白質と受容体 継続 との相互作用解析を通した損傷シ 自由研究 田代 聡 グナル(伝達機構の解明) F-17 弓 削 類 広島大学 新規 幹細胞のストレス応答機構の解明 F-18 大 坪 素 秋 別府大学 新規 F-20 菊 池 裕 広島大学 ゼブラフィッシュを用いたゲノム 新規 DNA のメチル化或いはクロマチン 自由研究 松井 啓隆 構造変化機構の解明 F-23 北 村 俊 雄 東京大学 新規 細胞周期 G0 マーカーの解析 自由研究 松井 啓隆 骨、軟骨細胞における HIF-1 制御 自由研究 谷本 圭司 機構の解明 自由研究 谷本 圭司 ポリコーム遺伝子群の一つ Scmh1 自由研究 瀧原 義宏 欠損マウスの解析 自由研究 松井 啓隆 v 採択番号 申請者(代表者) 所属機関 F-25 谷 本 幸 太 郎 広島大学病院 新規継続 共同研究課題名 課題番号 原医研担当者 備 考 エナメル蛋白およびエナメル蛋白 新規 分解酵素における分子間相互作用 自由研究 松井 啓隆 の解明 F-26 林 奉 権 放射線影響研究所 新規 免疫学的加齢と細胞内活性酸素産 自由研究 飯塚 大輔 生への放射線影響の研究 F-27 秀 道 広 広島大学 新規 蕁麻疹やアトピー性皮膚炎におけ 自由研究 田代 聡 る I 型アレルギーの研究 F-28 越 智 光 夫 広島大学 新規 microRNA を含むエクソソームを 自由研究 東 幸仁 準備中 用いた組織再生治療の試み vi 平成23年度共同利用・共同研究成果報告 重点プロジェクト研究⑴ 1-1 細胞ストレスに対する小胞体機能変化の解析 研究組織 代 表 者:今泉 和則 (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・教授) 原医研受入研究者:稲葉 俊哉 (がん分子病態研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 【研究内容】 図2 ガンマ線照射によって Chop mRNA の発現レベルが大腸 および精巣で上昇する。内在性指標として Gapdh を用いた。 (-):未処理のマウス、(+):ガンマ線を照射したマウス、 N=2 【今後の展望】 本研究成果を発展させることによって、細胞小器官レベ 小胞体に構造異常のタンパク質が過剰に蓄積する状態を ルでのストレス感受性分子メカニズムの理解につながり、 小胞体ストレスと呼ぶ。最近、小胞体ストレスおよびその 放射線照射後の細胞傷害によって生じる病態の解明と疾患 ストレス応答が各種の疾患発症に密接に関わることがわ 治療戦略構築への応用が期待できる。さらに小胞体ストレ かってきた。そこで本研究では、マウスに様々なストレス ス応答の活性化レベルを調べることで放射線傷害のレベル (ガンマ線照射を含む)を与えた際の小胞体機能変化を解 を評価するマーカーとしての応用にも期待できる。 析し、ストレス応答経路の活性化分子機構を明らかにする ことを目的とする。 【研究成果】 発表論文 現在論文準備中。 ガンマセル照射装置によりマウスに 1Gy のガンマ線を 照射し、24 時間後に全身の臓器(肝臓、脾臓、肺、大腸、 精巣、胃、心臓、腎臓)を採取した。各臓器から mRNA を 抽 出 し、 小 胞 体 ス ト レ ス マ ー カ ー(BiP、CHOP) の 発 現 レ ベ ル を RT-PCR に よ り 調 べ た 結 果、 大 腸(BiP、 CHOP)、心臓(BiP)および精巣(CHOP)で発現レベル の上昇が認められた(図1、2)。以上の結果から、ガン マ線照射により複数の臓器において小胞体ストレスが誘発 され、小胞体ストレス応答シグナルが活性化している可能 性が示唆された。 図1 ガンマ線照射によって Bip mRNA の発現レベルが大腸お よび心臓で上昇する。内在性指標として Gapdh を用いた。 (-):未処理のマウス、(+):ガンマ線を照射したマウス、 N =2 1 重点プロジェクト研究⑴ 1-2 NBS1 タンパク質による DNA 損傷応答制 御機構に関する研究 研究組織 代 表 者:田内 広(茨城大学理学部・教授) 原医研受入研究者:松浦 伸也 (放射線ゲノム学研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 本研究では、ナイミーヘン症候群(NBS)の原因タンパ ク NBS1 が制御する DNA 損傷応答経路と、NBS1 タンパ クドメイン、DNA 損傷量との関係をより詳細に解析する ためにガンマ線照射の線量率を変化させて損傷を導入し、 細胞挙動やタンパク挙動を調べることを目的としている。 NBS1 は、RAD50 および MRE11 と複合体を形成し、放 射線照射による DNA 二重鎖切断(DSB)形成に伴う複合 体の局在および修復活性の制御を行うのみならず、DNA 損傷が入った細胞のアポトーシスや細胞周期チェックポイ ントなど多様な損傷応答経路を制御しており、これらの制 御は損傷の程度によって変化する可能性があることが示唆 されている。例えば、NBS1 による ATM の活性化制御は 低線量では重要であるが、高線量被ばくでは NBS1 による 制御が必要とされない。そのような NBS1 によるシグナル 制御に対する線量や線量率依存性を明らかにするために、 平成 23 年度は、NBS1 が受けている新たな翻訳後修飾の 実体とその役割について解析を進める予定であたったが、 東日本大震災が発生し、茨城大学の一部試料や装置の被 害があったことから、半年あまりの復興作業の後に NBS1 の部分阻害と修復効率に関する実験に変更して検討を行っ た。なお、翻訳後修飾については、次年度以降に細胞が準 備でき次第、再度取りかかる予定である。 発表論文 1)Sakata, K., Someya, M., Matsumoto, Y., Tauchi, H., K a i , M . , T o y o t a , M . , T a k a g i , M . , H a r e y a m a , M., Fukushima, M.: Gimeracil, an inhibitor of dihydropyrimidine dehydrogenase, inhibits the early step in homologous recombination. Cancer Science 102: 1712-1716, 2011. 2)Yanagihara, H., Kobayashi, J., Tateishi, S., Kato, A., Matsuura, S., Tauchi, H., Yamada, K., Takezawa, J., Sugasawa, K., Masutani, C., Hanaoka, F., Weemaes, C. M., Mori, T., Zou, L., Komatsu, K.: NBS1 recruits 2 RAD18 via a RAD6-like motif and regulates Pol <eta>dependent translesion DNA synthesis. Molecular Cell 43, 788-797, 2011. 重点プロジェクト研究⑴ 1-3 DNA 損傷修復における細胞核構造・核-細 胞質間輸送の役割解析 発表論文 Saitoh, N (corresponding author), Sakamoto, C, Hagiwara, M, Agredano-Moreno, L. T., Jiménez-García, L. T., Nakao, M. The distribution of phosphorylated 研究組織 SR proteins and alternative splicing are regulated by 代 表 者:斉藤 典子(熊本大学発生医学研究所・助教) RANBP2. Mol. Biol. Cell, 23: 1115-1128, 2012. 共同研究者:徳永 和明(熊本大学発生医学研究所・研究員) 斉藤典子、徳永和明、松森はるか、中尾光善.核内ボディー 冨田 さおり の構造・機能・形成機序、 DOJIN BIOSCIENCE シリー (熊本大学発生医学研究所・大学院生) ズ 染色体と細胞核のダイナミクス 平岡泰・原口徳子編 原医研受入研究者:田代 聡 集 印刷中 (細胞修復制御研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 【研究内容】 DNA 損傷修復過程に関わるタンパク質因子の多くは核 内構造と密接に関連しており、細胞核構造を中心とした高 次なレベルでの制御が存在すると考えられる。細胞核内は 高度に組織化され、様々な核内ボディーが存在し、発生・ 分化の過程やがんを含む疾患において、ダイナミックに変 動する。核スペックル、カハール小体、PML ボディーな どは、DNA 損傷を含むストレス下でその形態が変化し、 細胞修復機構との関わりが示唆されている。本研究では、 核ボディーの形成機構と細胞における機能解析を行った。 【研究成果】 核内構造体のひとつである核スペックルの形成が核- 細胞質間輸送因子(Ran, RanBP2 など)の制御下にある ことを見出した。また、核-細胞質間輸送制御システム が核構造形成を介して遺伝子発現を制御するメカニズム を論文報告した。本研究は、田代教授とディスカッショ ンを交わしながら遂行した。また、結果の一部について は、International Symposium for 50th Anniversary of RIRBM(Feb 21, 2012, Hiroshima University)でのポス ター、原爆放射線医科学研究所におけるセミナー(平成 24 年2月 21 日)のかたちで発表の機会をいただいた。 【今後の展望】 細胞核の形態は細胞状態を評価する指標として優れてお り、癌細胞における核構造異常(核異型)は病理の最終診 断に広く用いられている。引き続き田代教授との共同研究 として、DNA 損傷などのストレスを受けたほ乳類細胞の 核内形態について、新規画像解析法を用いた定量解析を行 い、被爆を含む環境変化による細胞の変質を細胞形態画像 から判断する基準の確立につとめたい。 3 重点プロジェクト研究⑴ 1-4 複製後修復経路における DNA ポリメラー ゼ Pol δの機能解析 質にも寄与することを示唆している。 しかしながら、これまでのところ、精製されたアポ酵素 は不安定であり、構造解析結果の信頼性が十分ではない。 このため、より信頼性の高い結果を得る必要があり、現 研究組織 在、さらに安定して構造解析を実施できる条件を検討中で 代 表 者:鈴木 元 ある。 (名古屋大学大学院医学系研究科・講師) 原医研受入研究者:増田 雄司 発表論文 (分子発がん制御研究分野・助教) なし 研究内容・研究成果・今後の展望等 放射線や環境変異原によって引き起こされる重要な生物 影響の一つは突然変異の誘発であり、その分子メカニズム の解明は当該研究分野の重要課題である。放射線や環境 変異原は多種多様な DNA 損傷を引き起こすが、DNA 損 傷自体は変異ではなく、突然変異は DNA 複製の課程で起 こる生化学的反応の帰結である。DNA 損傷は DNA 修復 機構により完全に除去されることはないので、複製の際 DNA ポリメラーゼは損傷 DNA に遭遇する。DNA 複製を 忠実に行う複製型の DNA ポリメラーゼ(Polδまたは Polε) はその忠実度ゆえに損傷塩基に対しては DNA 伸長反応を 続けることができない。したがって、DNA 損傷から細胞 を保護するためには損傷を除去することなく DNA 合成を 再開する複製後修復と呼ばれる分子機構を必要とするが、 その生化学的実体は明らかではない。特筆すべきは、この 複製後修復に欠損を持つ細胞が放射線に感受性を示すこと であり、複製後修復が放射線障害からの細胞の保護に重要 な機能を担うことが示唆されている点である。本研究ので は、Polδが損傷部位に遭遇した際の酵素学的機能を明ら かにし、複製後修復の分子機構を解析することにある。 昨年度の共同研究の結果我々は Polδのサブユニット の一つ、POLD4 が発がんとゲノムインスタビリティー抑 制に必須の機能を持つことを示した。細胞生物学的には POLD4 が染色体断裂を抑制していることが明らかとなっ た。本研究では、洗練された再構成系からでしか解明でき ない分子メカニズムに関する諸問題に焦点を絞り複製後修 復経路の生化学的基盤を確立することを目指し、POLD4 の存在するホロ酵素、及び存在しないアポ酵素の電子顕微 鏡観察を行った。その画像の 3 次元再構築を行ったとこ ろ、アポ酵素において一部構造に欠損が観察された。また、 欠損している部位は DNA との結合に関与することがコン ピューターシュミレーション解析から想像された。このこ とは POLD4 の存在が全体のポリメラーゼ構造に影響を与 え、DNA の結合性やプロセッシビティー等の生化学的性 4 重点プロジェクト研究⑴ 1-5 1-6 DNA 損傷応答に伴う DNA メチル化変化が 細胞老化に及ぼす影響の解析 放射線障害修復機構への老化関連遺伝子の 関与 研究組織 研究組織 代 表 者:北村 俊雄(東京大学医科学研究所・教授) 代 表 者:野田 朝男 共同研究者:中西 真 (名古屋市立大学・教授) (財団法人放射線影響研究所遺伝学部・副部長) 原医研受入研究者:稲葉 俊哉 原医研受入研究者:松浦 伸也 (がん分子病態研究分野・教授) (放射線ゲノム疾患研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 研究内容・研究成果・今後の展望等 放射線発がん過程では、ゲノム異常とともに、加齢等に 放射線被ばくにより生じるゲノム損傷のうちのある画分 伴うエピゲノム制御異常が大きな役割を果たしていると考 は、修復困難(不能)なものであることが分かってきてい えられている。本研究では、次世代シーケンサを用いて、 る。本研究では、この修復不能なゲノム損傷の特徴付けを ヒストンの各種修飾状態やゲノム DNA のシトシンメチル めざしている。特に、これらの損傷生成に関わる遺伝的要 化状態を網羅的に検索することにより、エピゲノム制御の 因としての老化関連遺伝子の役割を解析することを試みて がん化への関与を明らかにする。 いる。これまでに報告のある老化遺伝子・寿命短縮あるい 今年度は、がん抑制因子 chk1 がヒストン H3 をリン酸 は延長に関わるとされる遺伝子の強制発現、あるいはノッ 化することにより、転写調節に関わるという作業仮説のも クアウト、ノックダウンにより放射線効果の修飾が見られ と、chk1 抗体を用いた ChIP シーケンスを行った。ChIP るか否かの検討を行っているところである。これまで、照 シーケンスは、名古屋市立大学・中西真教授の研究室で 射装置の使用(複数回)があり、今後は画像解析装置の共 ChIP を行い、広島大学原爆放射線医科学研究所でシーケ 同利用も計画している。 ンスしたものであり、現在データ解析を進めている。 発表論文 発表論文 なし 5 重点プロジェクト研究⑴ 1-7 1-8 ビタミン B6 摂取における大腸癌予防効果 の遺伝子解析 DNA 損傷バイパスにおけるユビキチン化酵 素の役割 研究組織 研究組織 代 表 者:矢中 規之 代 表 者:大森 治夫 (広島大学大学院生物圏科学研究科・准教授) (京都大学ウイルス研究所・准教授) 原医研受入研究者:松井啓隆 原医研受入研究者:増田 雄司 (がん分子病態研究分野・准教授) (分子発がん制御研究分野・助教) 研究内容・研究成果・今後の展望等 研究内容・研究成果・今後の展望等 azoxymethane(AOM)は大腸腫瘍を誘発させる発癌性 本研究は DNA 損傷バイパスにおけるユビキチン化酵 物質として、マウスなどの実験動物に投与することで前癌 素の役割を探ることを目的とする。DNA 損傷を受けた細 病変である aberrant crypt foci(ACF)が発生させること 胞では DNA ポリメラーゼの伸長反応に重要な PCNA が から、大腸癌モデル動物として発癌予防物質の探索や癌発 RAD6-RAD18 複合体によるユビキチン化を受け、そのこ 生メカニズムの研究に広く用いられている。また、以前我々 とが DNA 損傷バイパスに関わる特殊な DNA ポリメラー は、vitamin B6 の投与によって AOM 誘発による ACF の ゼを損傷部位にリクルートすることに繋がると考えられて 発生率が低下することを明らかにしている。そこで本研究 いる。増田らはヒト RAD6-RAD18 複合体を大腸菌におい は、vitamin B6 の大腸腫瘍に対する予防効果のメカニズ て過剰発現させて精製することに成功し、その作用機構に ムを解明することを目的として、大腸における網羅的な遺 ついては詳細な研究を行っている。しかし、DNA 損傷の 伝子発現解析を行った。5 週齢雄性 ICR マウスに vitamin 種類は多種多様であり、また DNA 損傷バイパスに関わる B6 の含量の異なる実験食(1mg vitamin B6/kg diet、お DNA ポリメラーゼも Pol eta, iota, kappa, REV1, Pol zeta な よび 35mg vitamin B6/kg diet)を8週間自由摂取させた ど複数存在するので、個々の損傷部位でどの損傷バイパス 後、大腸組織由来の total RNA を調製後、マウスゲノム DNA ポリメラーゼが機能するかは不明である。また、通常 アレイ(Agilent 社)に対してハイブリダイゼーションを の複製型 DNA ポリメラーゼと違って、損傷バイパス DNA 行った。有意な発現変動が認められた遺伝子群を候補因子 ポリメラーゼは誤りを起こし易く、それらが損傷部位で役 として単離し、詳細な発現解析を行った。vitamin B6 摂 割を果たした後では、すぐにまた複製型 DNA ポリメラー 取量の増加に伴って claudin4 の mRNA 発現量が増加し、 ゼと置き換わることが必要となる。大森らは Pol kappa と また Reg family 遺伝子の発現量が減少した。claudin4 は 結合する因子の探索を行い、REV1 が Pol kappa の C 末端 腸管上皮細胞の tight junction 構造の一部としてバリア機 部分と結合することを報告してきたが、REV1 の他に ASB 能に関わることが知られていることから vitamin B6 の新 (Ankyrin repeat and SOCS-box)proteins の一つが含まれ たな生理機能が示唆された。さらに、Reg family は様々 ることを明らかにした。ASB タンパク質は Elongin-Cullin- な発癌に関与することが示唆されていることから、Reg SOCS(ECS)複合体としてタンパク質のユビキチン化に関 family の発現量の減少が vitamin B6 の大腸腫瘍の予防効 わることが知られており、少なくとも 18 種類も存在する。 果の新たな機序に関連する可能性を示した。以上の研究結 そのうちの一つが Pol kappa にかなり特異的に結合する意 果から、食餌性 vitamin B6 の摂取による大腸における新 義としては、損傷部位で役割を終えた Pol kappa の分解に たな栄養学的効果に関連する因子群が単離され、今後も機 関与する可能性などが考えられた。受入研究者の増田助教 能解析などを推進する。 が 10 月に名古屋大学に転出したこともあって、共同研究は 当初の計画通りには進展しなかったが、ECS 複合体が果た 発表論文 して Pol kappa のユビキチン化に関わるかどうかを含めて、 Toya. K., Hirata. A., Ohata. T., Sanada. Y., Kato. N., in vitro での研究を進めたいと考えている。 and Yanaka. N. Regulation of colon gene expression by vitamin B6 supplementation. Mol. Nutr. Food Res. 56, 発表論文 641-652, 2012 無し。 6 重点プロジェクト研究⑴ 1-9 1-10 BAF を用いた DNA 傷害時の損傷修復タン パク質の細胞内挙動の連続化学発光観察 ゲノム不安定性症候群における細胞核微小 環境の研究 研究組織 研究組織 代 表 者:星野 英人 代 表 者:河野 一輝(庄原赤十字病院・小児科医師) (独立行政法人産業技術総合研究所健康工学 原医研受入研究者:田代 聡 研究部門・研究員) (細胞修復制御研究分野・教授) 原医研受入研究者:田代 聡 (細胞修復制御研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 動的な高次構造体から構築されている細胞核微小環境 研究内容・研究成果・今後の展望等 は、内的要因あるいは外的要因によりその形態および動態 本研究は、自己励起蛍光タンパク質・eBAF-Y(EYFP が変化する。正常細胞および様々な疾患の細胞における細 と RLuc8 との融合体)による新しい化学発光細胞観察技 胞核微小環境の制御機構を解明することはその病態生理 術を用いて、DNA 傷害に関わるヒストン H2AX の挙動を を理解するうえで重要である。我々は、DNA 二本鎖切断 リアルタイムかつ絶え間なく観察し、当該タンパク質の細 (DSB)修復機構の相同組換え修復において中心的役割を 胞内での詳細挙動を明らかにすることを目的とした。具体 担うゲノム修復蛋白質 RAD51 に注目し、その局在および 的には H2AX と BAF の融合タンパク質の細胞内挙動を、 動態解析を進めている。その結果、内在性の RAD51 は正 発光観察装置(メーカ貸与デモ機)を用いて連続観察した。 常細胞では S 期に RAD51 フォーカスを形成すること、過 尚、研究実施は、デモ機の貸与期間(1ヶ月)に集中的に 剰発現された RAD51 は DNA 密度が粗なクロマチン間領 実施した。 域の一部にチューブ状の高次構造体を形成するという知見 その結果、H2AX の変異体の1つにおいて、DNA 傷害 を得ている。正常細胞において紫外線レーザーマイクロ照 細胞で出現する「微小核」が複数個、或いはそのサイズが 射システムを用いて DSB を誘導すると、チューブ状構造 巨大化するといった、DNA 傷害を蓄積し易い表現型の存 体に一致する部位に RAD51 が集積する。そこで、ゲノム 在が示唆された。また、当該変異体に関し、著しく巨大な 不安定性症候群の代表的疾患である毛細血管拡張性運動失 微小核で、蛍光観察において EYFP は存在するが、化学 調症(AT)の患者細胞株を用いて同様な実験を行った。 発光観察においては、発光強度の増減による“点滅現象” その結果、正常細胞と同様に AT 細胞でも RAD51 はチュー を新たに見出した。この現象は当該変異蛋白質の細胞内 ブ状構造体を形成したが、DSB を誘導してもチューブ状 での複合体形成環境の変化を BAF の構造変化を通して、 構造体に一致する部位に RAD51 は集積しなかった。これ 発光強度に変換するものと推測される。当該点滅現象は、 らの結果から、ATM が RAD51 のチューブ状構造体の形 CFP と YFP による従来の FRET 観測系でのドナー/ア 成には関与しないが、DSB が誘導された部位への RAD51 クセプター比での評価でなく、発光強度として直接観察で の集積には関与する可能性が示唆された。さらに、正常細 きる新たな観測系と言う点で大変興味深い。 胞において、クロマチンがクロマチン間領域の形成に与え 本年度の共同研究から得られた研究成果は“現象”とし る影響を検討するために、HDAC 阻害剤あるいは異なる ても新しく、点滅現象が H2AX に関わる細胞内のどのよ 浸透圧の培養液での処理により細胞のクロマチン密度を変 うな変化を反映するのかについては全く手掛かりがない、 化させた。その結果、RAD51 チューブ状構造体の形態が 極めて萌芽的な段階にある。今後、田代教授との更なる共 クロマチン密度により変化することが確認され、クロマチ 同研究を通した進展により、DNA 傷害と微小核の詳細挙 ンがクロマチン間領域の形成制御に関与していることを見 動という観点から、H2AX の新たな機能を明らかにして 出した。今後は、分子遺伝学的研究手法を用いた染色体 いきたい。 DNA 高次構造変化の新しい解析手法を開発することによ り、放射線により誘導されるゲノム障害の修復機構におけ 発表論文 る細胞核微小環境の役割の解明に取り組む。 特になし。 7 重点プロジェクト研究⑴ 1-11 1-12 ゲノム損傷修復の分子機構に関する研究 ZFN を用いたゲノム損傷修復関連遺伝子の ノックアウト細胞株の樹立 研究組織 代 表 者:石田 万里 研究組織 (広島大学大学院医歯薬保健学研究科・講師) 代 表 者:山本 卓 共同研究者:石田 隆史 (広島大学大学院理学研究科・教授) (広島大学大学院医歯薬保健学研究科・講師) 共同研究者:坂本 尚昭 原医研受入研究者:田代 聡 (広島大学大学院理学研究科・准教授) (細胞修復制御研究分野・教授) 原医研受入研究者:松浦 伸也 (放射線ゲノム疾患研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 宮本 達雄 本研究は、被爆者の追跡調査(被爆線量と動脈硬化性心 (放射線ゲノム疾患研究分野・助教) 疾患の罹患率に相関あり)と早老症(ウェルナー症候群や ハッチンソン・ギルフォード・早老症候群)の病態をヒン 研究内容・研究成果・今後の展望等 トに、ゲノム損傷および修復異常と動脈硬化との関連を明 本研究では、人工酵素ジンクフィンガーヌクレアーゼ らかにすべく実施している。 (ZFN)を利用した標的遺伝子破壊システムを利用して、 本研究により、ヒトおよびモデル動物(動脈硬化発症マ DNA 修復関連遺伝子の破壊培養細胞株を樹立することを ウス)の動脈硬化巣にゲノム損傷の蓄積、特に二本鎖切断 目的とする。 が認められること、同部位に修復因子の活性化が認められ 培養細胞において効率的に標的遺伝子へ変異を導入する ることを明らかにした。培養血管平滑筋細胞を用いた実験 システムを確立するため、本年度はこれまで利用していた から、ゲノム損傷修復因子、特に ATM の欠如は細胞のア ZFN に加えて、TALEN を作製し変異導入効率を検討し ポトーシスを減少させ細胞を老化に向かわせることを明ら た。TALEN によってヒト HPRT1B 遺伝子への変異導入 かにした。 を確認し、さらに CCR 遺伝子ファミリーにおける Large 動脈硬化部へのゲノム損傷の蓄積が認められることか deletion が可能であることを示した。 ら、この現象を用いて動脈硬化の診断、あるいは動脈硬化 今後は、上記の方法を用いて DNA 修復関連遺伝子の破 のリスクの総合評価を行えないかを検討することとし、ヒ 壊細胞株の樹立を行なう計画である。 ト試料を用いたゲノム損傷評価法を確立した。現在、本方 法を用いて、動脈硬化の診断、動脈硬化リスクの総合評価 発表論文 における有用性を検討中である。 ・Kawai N, Ochiai H, Sakuma T, Yamada L, Sawada H, Yamamoto T, Sasakura Y. Efficient targeted 発表論文 mutagenesis of the chordate Ciona intestinalis genome なし(現在準備中) with zinc-finger nucleases. Dev. Growth Differ. in press. ・Takagi H, Inai Watanabe SI, Tatemoto S, Yajima M, Akasaka K, Yamamoto T, Sakamoto N. Nucleosome exclusion from the interspecies conserved central ATrich region of the Ars insulater. J. Biochem. 151(1), 7587(2012) ・Sakuma T, Ohnishi K, Fujita K, Ochia H, Sakamoto N, Yamamoto T. HpSumf1 is involved in the activation of sulafatases responsible for regulation of skeletogenesis during sea urchin development. Development Genes and Evolution, 221(3), 157-166(2011) 8 重点プロジェクト研究⑴ 1-13 P53-p31 経路による細胞死決定機構の解析 two-hybrid 法では Ringfinger 領域のみでその結合が観 察された。よって Ringfinger 領域は p31comet と直接 的に、また核移行シグナル領域は間接的もしくは何らか 研究組織 の細胞内調節によって制御されている結合であると考え 代 表 者:土生 敏行 た。今後その結合調節及び、結合依存的なユビキチン化 (京都大学放射線生物研究センター・助教) の状況を調査していく予定である。 原医研受入研究者:河合 秀彦 ② HDM2、E2 タンパク質の調製 (放射線細胞応答研究分野・助教) 再構築に向けて、HDM2 組換えタンパク質の精製を 大腸菌及びバキュロウイルスー昆虫細胞系を用いて試 研究内容・研究成果・今後の展望等 みたが発現レベルが低く精製度の高い組換えタンパク p53 はストレスに応じ様々な標的遺伝子の発現調節を 質の精製には至らなかった。また HDM2 に結合できる 行うとされている。しかしストレスレベルに応じたそ E2 タンパク質を酵母 two-hybrid アッセイにより報告さ の応答変化をいかに行っているかは不明なままである。 れているもの6種類について再度検討した結果、結合が p31comet(以下 p31)は我々が解析を行っている因子で 確認されるものは3種類しかなかった。この三者を同様 spindle checkpoint 解除に必要な因子として当初解析を に大腸菌を用いて組換え精製タンパク質の取得を目指し 行っていたが、近年 p53 の調節因子ですそのストレスレ たが、全て不溶化し精製することはできなかった。この ベルに応じた転写調節に関与していることを明らかにし E2 を現在昆虫細胞のシステムを用いて精製している。 てきた。この調節では、トポイソメラーゼ阻害剤による 【今後の展望】 DNA 損傷、ヒドロキシウレア、UV 等による DNA 合成 次年度に向けて今年度精製を試みたタンパク質を引続き 阻害、rRNA 合成阻害、酸化ストレスのストレスレベル依 精製の試みを行うこと、さらにバキュロウイルスー昆虫細 存的に低ストレス状態では p53-p31 結合が標的遺伝子 p21 胞系を用いて精製条件の最適化など精製とアッセイ系の最 の発現誘導を円滑に行うが、細胞死を招く高ストレス状態 適化を行っていきたいと考えている。 では p53-p31 複合体が解消され p21 の発現誘導を停止させ ることを明らかにしてきた。この p53-p31 複合体のストレ 発表論文 スレベルに応じた変化を p53 ユビキチンリガーゼ HDM2 該当無 による p31 のユビキチン化によって行っているのではな いかという細胞レベルでの実験で証明しつつある。このユ ビキチンリガーゼ HDM2 による p53-p31 複合体への影響 を試験管内の反応で再構築することをこの共同研究での最 終的目的とした。 【研究成果】 ① HDM2 と p31comet との相互作用の解析 In-vivo での HDM2-p31comet の相互作用を免疫沈降 法により調べた結果、ストレス依存的にその結合がある のではないかという結果を得た。また p53-HDM2 の結 合と経時変化を観察すると HDM2-p31comet 結合は p53 と HDM2 の結合が解離した後に結合していることが観 察された。細胞内で HDM2,p31comet を発現させてそ の結合様式を調べたが HDM2 を強制発現することによ り p31comet が強力にタンパク質の不安定性が増すこと からタンパク質分解阻害を行いその結合が容易に観察さ れ p53 非依存的ではないかという結果を得た。HDM2 と p31comet の結合部位を調べた結果、HDM2 の核移行 シグナル領域、Ringfinger 領域と結合が確認され、酵母 9 重点プロジェクト研究⑴ 1-14 1-15 DNA 損傷応答シグナルの活性化における TIP60 ヒストンアセチル化酵素複合体の役割 造血器腫瘍発生における放射線障害とエピ ゲノム制御異常の関連 研究組織 研究組織 代 表 者:井倉 毅 代 表 者:中島 秀明 (京都大学放射線生物研究センター・准教授) (慶應義塾大学医学部・准教授) 共同研究者:井倉 正枝 原医研受入研究者:松井 啓隆 (京都大学放射線生物研究センター・博士研 (がん分子病態研究分野・准教授) 究員) 原医研受入研究者:田代 聡 研究内容・研究成果・今後の展望等 (細胞修復制御研究分野・教授) TET2 は DNA のメチル化シトシンを脱メチル化する酵 素であり、遺伝子発現のエピジェネティックな制御に深く 研究内容・研究成果・今後の展望等 関わっている。また TET2 は、急性白血病・骨髄異形成 本研究は、TIP60 ヒストンアセチル化酵素に着目し、放 症候群など広範な造血器腫瘍で変異が認められる。TET2 射線による DNA 損傷部位のクロマチン構造変換の分子 変異が腫瘍発生を引き起こす分子メカニズムを探るため、 機構と DNA 損傷応答シグナル活性化における損傷クロ 我々は Tet2 ノックアウトマウス(Tet2-KO)の解析を施 マチンの構造変換の役割を探ることが目的である。我々 行した。その結果、Tet2-KO 胎仔肝では造血幹細胞・前 は、TIP60 ヒストンアセチル化酵素複合体が、ヒストン 駆細胞分画が増加していること、Tet2-KO 胎仔肝由来造 H2AX を損傷クロマチンから放出させることを明らかに 血幹細胞では自己複製能が亢進していることを見いだし し(Ikura, T. et al. Mol Cell Biol. 2007)、損傷領域のクロ た。続いて、Tet2-KO における造血幹細胞機能異常の分 マチンが動的に変化することを見出した。本共同研究によ 子メカニズムを探るため、Tet2-KO と野生型マウスのゲ り TIP60 による H2AX のアセチル化が、損傷クロマチン ノムワイドな DNA メチル化解析を施行した。現在 Tet2 領域で DNA 損傷のセンサー蛋白質である NBS1 の維持に 欠失によってメチル化状態が変化する標的遺伝子の抽出を 関与することを見出した。これまでの研究で TIP60 によ 進めている。 る H2AX のアセチル化と協調的に働くと考えられるヒス トンシャペロンを TIP60 複合体の構成因子の中から同定 発表論文 した(投稿準備中)。しかしながら TIP60 が如何なる機構 Kunimoto H, Fukuchi Y, Sakurai M, Sadahira K, でこのヒストンシャペロンを制御し、NBS1 の損傷領域に Ikeda Y, Okamoto S, Nakajima H: Tet2 disruption leads 誘導、維持するのかについては未だ不明な点が多い。今後 to enhanced self-renewal and altered differentiation of は、生化学的および FRAP などを用いたイメージング法 fetal liver hematopoietic stem cells. Scientific Reports, により TIP60 複合体が、如何なる機構でヒストンシャペ 2:273, 2012. ロンを制御し、NBS1 を損傷領域に維持させるのかについ て本共同研究の中で明らかにしていきたいと考えている。 発表論文 1. Nishizawa H, Ota K, Dohi Y, Ikura T, Igarashi K. Bach1mediated suppression of p53 is inhibited by p19 (ARF) independently of MDM2. Cancer Sci. 2012 Feb 20 2. Shi L., Fujioka K., Sun J., Kinomura A., Inaba T., Ikura T., Ohtaki M., Yoshida M., Kodama Y., Livingston G.K., Kamiya K., Tashiro S. A new system for analyzing ionizing radiation-induced chromosome abnormalities. Radiation Research (in press) 10 重点プロジェクト研究⑴ 1-16 1-17 重症先天性好中球減少症における新規遺伝 子変異の同定 悪性グリオーマ細胞の放射線感受性の検討 研究組織 研究組織 代 表 者:濱 聖司 代 表 者:小林 正夫 (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・研究員) (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・教授) 共同研究者:栗栖 薫 共同研究者:小林 良行 (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・教授) (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・大学院生) 西本 武史 原医研受入研究者:稲葉 俊哉 (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・医員) (がん分子病態研究分野・教授) 高安 武志 (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・大学院生) 研究内容・研究成果・今後の展望等 原医研受入研究者:松浦 伸也 先天性好中球減少症や一部家族性先天性血小板機能異常 (放射線ゲノム疾患研究分野・教授) 症について、倫理審査を経た後、末梢血白血球から DNA を抽出し、次世代シーケンサで全エクソンの DNA 配列を 研究内容・研究成果・今後の展望等 決定した。家族で配列を比較し、原因遺伝子(候補)の同 広島大学原爆放射線医科学研究所にあるガンマセルを用 定に成功した。 いて、培養腫瘍細胞に放射線を照射する実験を行った。複 このうち血小板減少症では、4歳の女児を発端症例とし、 数種のグリオーマ細胞株では、多くの報告にある通り、放 4世代 10 名の家系内患者を抱える、常染色体優性遺伝形 射線照射量依存性に生存細胞が減少することをコロニー 質を有する家族性血小板減症家系を次世代シーケンサを用 アッセイ等で確認した。特に今回、2011 年度は腫瘍幹細 いて解析し、ITGB3 遺伝子の T2231C 変異を原因遺伝子 胞(glioma stem-like cell)の概念に注目し、これらの同定、 変異候補として同定した。 この結果生じるインテグリン 単離を試み、放射線照射も行った。通常の細胞株と、腫瘍 β3 L718P 変異の血小板機能の解析とインテグリン蛋白質 幹細胞系での放射線感受性の差異を調べようとしている。 の機能異常を検討中である。 しかし、腫瘍幹細胞の単離方法や、照射後の培養条件の設 定等に問題があり、現在、再検討中である。磁気ビーズ法 発表論文 を用いた細胞単離や、フローサイトメーターを用いたソー ティングを試みている。 発表論文 11 重点プロジェクト研究⑴/重点プロジェクト研究⑵ 1-18 2-1 RAD51 動態制御機構の解明 ヒト iPS 細胞の染色体安定化機構と放射線 の影響に関する研究 研究組織 代 表 者:島 弘季(東北大学医学系研究科・助手) 研究組織 原医研受入研究者:田代 聡 代 表 者:嶋本 顕 (細胞修復制御研究分野・教授) (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・准教授) 共同研究者:禅正 和真(広島大学薬学部・学部学生) 研究内容・研究成果・今後の展望等 須藤 優樹(広島大学薬学部・学部学生) 本研究は、放射線等により細胞内で染色体 DNA 二本鎖 Alexandra Chiru 切断が生じた際に行われる相同組換え修復の重要な因子で (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・大学院生) ある RAD51 タンパク質が、いかなる機構によって DNA 原医研受入研究者:河合 秀彦 損傷部位に集積するかを明らかにするためのものである。 (放射線細胞応答研究分野・助教) これまでの共同研究の結果、RAD51 は SUMO タンパク 質と相互作用するための配列を持っており、ここを介した SUMO あるいは SUMO 化された何らかのタンパク質との 研究内容・研究成果・今後の展望等 【研究内容】 結合が RAD51 の DNA 損傷部位への集積に重要であるこ iPS 細胞は ES 細胞と同様の未分化性・多分化能を有し、 とが分かった。 その無限増殖能はがん細胞の形質に類似している。iPS 細 今後、RAD51 がどのようなタンパク質と相互作用する 胞の染色体安定性維持機構に関しては正常細胞と同等の高 のか、またそれが DNA 損傷の発生から修復までどのよう いインテグリティー維持能を示すのか、がん細胞のように に変動するのかを調べることが課題となるであろう。 不安定性を示すのかは、iPS 細胞の臨床応用における安全 性の観点から非常に重要である。23 年度は放射線照射に 発表論文 対する iPS 細胞の生存曲線を検討し、DNA 損傷応答や細 未投稿 胞周期の検討を行った。 【研究成果】 ヒト線維芽細胞 TIG-3 より樹立した iPS 細胞の 10%及 び1%生存率を示す線量は、それぞれ 1 Gy と 2 Gy であ り、親株の TIG-3 のそれら(2 Gy と 5 Gy)と比べる高い 感受性を示した。DNA 損傷応答では p53 の蓄積と、Chk2 の活性化及び Cdc25A のリン酸化が認められた。一方、 p53 の標的遺伝子である p21 の誘導は認められなかった。 FACS による細胞周期の解析から、iPS 細胞は放射線照射 により S 及び G2 期で停止することが示唆され、G1 期で の明確な停止が起こらなかった結果は、p21 の誘導が認め られなかった事実と一致した。また、53BP1 抗体を用い た免疫染色から、放射線照射 iPS 細胞は damage foci を形 成し、DNA 修復系が応答することが明らかとなった。 【今後の展望等】 iPS 細胞は親株である体細胞と比較して放射線感受性が 高いことから、原発事故で問題となる周辺地域での低線量 被曝の影響を検討するモデルとして有用であることが示唆 された。今後は、親株との比較実験から、DNA 損傷応答 が DNA 修復、細胞死等の選択経路の違いを明らかにする とともに、より低線量における生物応答を検討し、低線量 12 重点プロジェクト研究⑵ に応答する生物マーカーの検索する。 発表論文 該当なし 2-2 低分子化合物を用いた低線量放射線応答に 関わる因子の探索 研究組織 代 表 者:坂本 修一 (公益財団法人微生物化学研究会微生物化学 研究所沼津支所・研究員) 原医研受入研究者:河合 秀彦 (放射線細胞応答研究分野・助教) 研究内容・研究成果・今後の展望等 低線量・低線量率放射線は医療現場等現代の日常生活に おいて被ばくする可能性があり、そのリスクを正確に評価 することは放射線防護と言う観点から非常に重要である。 しかしながら、リスク評価を行う上での基礎的知見である、 低線量・低線量率放射線に対する生物応答の分子機構につ いては、現在も不明な点が多く残されている。そこで本申 請課題では、低分子阻害剤を用いた化学遺伝学的手法によ り、低線量・低線量率放射線に対する生物応答において重 要な因子及びシグナル伝達経路を新たに同定することを目 的とした。 本研究課題では、まず、低分子阻害剤スクリーニングを 行うための細胞応答の指標を得ることを目的として、持続 的に低線量率放射線を照射した細胞の DNA 損傷応答因子 の動態を免疫染色法と蛍光顕微鏡を用いて定量解析した。 その解析から得た結果に基づいて、IN Cell Analyzer によ る細胞増殖や細胞周期解析、及び DNA 損傷応答因子を用 いた低線量細胞応答を指標とした低分子阻害剤スクリーニ ング法を開発した。 今後、開発したスクリーニング法を用いて、実際に低分 子阻害剤スクリーニングを行うことによって、低線量・低 線量率放射線に対する生物応答において重要な因子及びシ グナル伝達経路を同定する。 発表論文 本申請課題に関する論文発表はありません。 13 重点プロジェクト研究⑵ 2-3 低線量率放射線誘発細胞応答におけるヒス トン修飾の役割の解明 が起こる可能性が示唆される。今後、クロマチン免疫沈降 法で1個の DSB 損傷発生部位近傍のヒストン修飾をさら に検討するとともに、低線量率放射線に対する感受性、ゲ ノム不安定性に対する関与を明らかにしたい。 研究組織 代 表 者:小林 純也 発表論文 (京都大学放射線生物研究センター・准教授) ありません。 共同研究者:藤本 浩子 (京都大学放射線生物研究センター・研究員) 原医研受入研究者:松浦 伸也 (放射線ゲノム疾患研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 電離放射線により DNA 二重鎖切断(DSB)損傷が発生 すると、損傷発生部位に DNA 修復タンパク質が集積し、 DNA 修復機構が活性化される。ゲノム DNA はヒストン・ 関連タンパク質と安定なクロマチン構造を構成しているた め、DNA 修復タンパク質の DNA 損傷部位への集結には、 損傷発生部位でヒストンタンパク質の修飾に伴うクロマチ ン構造の弛緩(クロマチンリモデリング)が必要であると 考えられる。高線量被ばく時では DSB 修復の開始にはヒ ストンのアセチル化、ユビキチン化が重要であることが近 年明らかとなっているが、低線量放射線被ばくなど、ゲノ ム DNA 内に少数の DSB が発生する状況下で、ヒストン 修飾・クロマチンリモデリングの役割について明らかにさ れていない。それゆえ、本研究では少数の DSB 損傷が起 こりうる条件下でのヒストン修飾の役割について、低線量 (率)放射線照射装置及びクロマチン免疫沈降法を用いて 検討を行った。 I-SceI/DR-GFP システムで細胞核内に1個 DSB 損傷を 発生した時の DSB 近傍のヒストン修飾をクロマチン免疫 沈降法で検討すると、DSB マーカーであるγH2AX の集 積が確認された。また、H2B のユビキチン化、H3 のメチ ル化の集積も DSB 近傍で誘導されており、低線量放射線 で想定される少数の DSB が生じた場合でも高線量と同様 のヒストン修飾が誘導されることが示唆された。次に低 線量(率)放射線照射装置でヒストン修飾を検討すると、 p53 が機能欠損したヒト繊維芽細胞では DSB 損傷発生に 依存せずにγH2AX、H2B のユビキチン化が誘導される可 能性が示唆されるとともに、p53 が正常の繊維芽細胞では 照射終了後に H2A のアセチル化、H3 のメチル化の抑制 が維持されることが見いだされた。これらの結果から、低 線量放射線被ばくでは高線量被ばくと同等のヒストン修飾 が誘導されるとともに、DSB 非依存のヒストン修飾応答 14 重点プロジェクト研究⑵ 発表論文 2-4 低線量放射線がゲノム DNA のメチル化状 態に及ぼす影響の評価研究 未発表。 研究組織 代 表 者:齋藤 俊行 (独立行政法人放射線医学総合研究所重粒子 医科学センター・主任研究員) 共同研究者:臺野 和広 (独立行政法人放射線総合医学研究所放射線 防護研究センター・研究員) 原医研受入研究者:川上 秀史 (分子疫学研究分野・教授) 丸山 博文 (分子疫学研究分野・准教授) 森野 豊之 (分子疫学研究分野・助教) 金井 昭教 (附属放射線先端医学実験施設・特任助教) 研究内容・研究成果・今後の展望等 低線量電離放射線がさまざまな細胞機能に影響を及ぼす 可能性は長年にわたり議論が続いているものの機構論とし ての裏付けデータは乏しい。特にエピゲノムへの影響は 不明である。前回共同研究において報告者らはエピゲノ ムの中でも特にゲノム DNA メチル化状態に着目し、次世 代型 DNA シークエンサによるメチル化 DNA 断片の大規 模頻度解析とメチル化感受性制限酵素による DNA 断片鎖 長解析のふたつの解析を実施した。得られたデータから、 比較的低線量域(100 ミリグレイ)の放射線曝露が、ゲノ ム DNA のメチル化量変化につながる可能性が考えられた ため、今回の共同研究では別途調製した試料(biological replicates)をもちいて次世代型 DNA シークエンサによ る上記知見の再現性確認に取り組んだ。100mGy 照射試 料と非照射対照試料をセットとして2セットの Biological replicates を用意し、メチル化 DNA 断片を補足濃縮して イルミナ社 Genome Analyzer IIx による配列タグ頻度解 析をおこなった。それぞれのセットから 129 箇所と 180 箇 所の配列タグ頻度上昇(5倍以上)領域が見出された。こ こで示唆されたメチル化量変化を別技術によって確認すべ く、現在ゲノム DNA のバイサルファイト処理による非メ チル化シトシンのウラシルへの変換反応を利用して、照射 試料と対照試料とのメチル化量の差異を評価中である。 15 重点プロジェクト研究⑵ 発表論文 2-5 原爆被爆者に関するプルトニウムと内部被 曝の研究-その1 1)七 條 和 子、 高 辻 俊 宏、 福 本 学、 松 山 睦 美、 Mussazhanova Zhanna、三浦史郎、蔵重智美、関根一 郎、中島正洋 長崎原爆被爆者の剖検・パラフィン標本 研究組織 を用いた被ばくと遺伝子損傷について 広島医学会雑誌 代 表 者:七條 和子 in press (長崎大学大学院医歯薬学総合研究科原研病 理・助教) 2)Matsuu M, Okaichi K, Shichijo K, Nakayama T, Nakashima M, Sekine I. Norepinephrine enhances 共同研究者:関根 一郎(長崎赤十字センター・所長) radiosensitivity in rat ileal epithelial cells. J Radiat Res 原医研受入研究者:星 正治 52(3):369-373, 2011 (線量測定・評価研究分野・教授) 3 )S h i c h i j o K , T a k a t s u j i T , Y a m a m o t o M , Nakashima M, Nuclide identification of alpha-emitters 研究内容・研究成果・今後の展望等 by autoradiography in specimen of atomic victims 本研究は、人体内残留放射能の病理学的研究を行い、物 at Nagasaki. In Proceedings of the 17 th Hiroshima 理学的に低線量プルトニウムを測定することである。原爆 International Symposium pp.71-74, 2012 (http://home. 被爆者における放射線障害は外部被曝線量によって厳密に hiroshima-u.ac.jp/heiwa/ipshue.html) 評価されている。しかしながら、外部被曝のみの範疇で入 市被爆者における染色体異常(鎌田他 2006)などの報告 を説明することは不可能で、内部被爆の人体に及ぼす重要 性が示唆される。長崎の原子爆弾はプルトニウム爆弾で ある。原爆被爆者について人体内に放射性物質が残存す ることは報告されていない。我々は、長崎原爆被爆者病理 標本の残留放射能をオートラジオグラフィー法で検出し、 239Pu 特有のエネルギーの確立分布とほぼ一致する結果を 得ている。今回「広島・長崎の線量評価」、「ウラングロー バルフォールアウトと広島原爆黒い雨」、「セミパラチンス ク核実験周辺村落の土壌中放射能汚染」など外部被曝・線 量測定研究のメッカである広島原医研との交流により、プ ルトニウムの同定を試み、さらに、放射線が人体に及ぼす 内部被爆の影響を分子病理学的に解明するという新領域に 科学的証拠を提唱する。 【研究成果】 1)第 52 回原子爆弾後障害研究会、至広島で「長崎急 性原爆被爆者の剖検・パラフィン標本を用いた被ばくと 遺伝子損傷について」、2)17th Hiroshima international symposium: Lessons from unhappy events in the history of nuclear power development. (Jan 25-26, 2012. at Hiroshima) で、“Nuclide identification of alpha-emitters by autoradiography in specimen of atomic victims at Nagasaki”の学会発表を行い、アルファ放射体を用いた オートラジオグラフ法による核種の同定を試み、さらに長 崎原爆被爆者について遺伝子損傷を確認した。 16 重点プロジェクト研究⑶ 3-1 原爆被爆者血液検体及び細胞における MicroRNA の発現解析 [2012 年2月] 4. Mihara K, Bhattacharyya J, Kitanaka A, Yanagihara K, Kubo T, Takei Y, Asaoku H, Takihara Y, Kimura A. T-cell immunotherapy with a chimeric receptor 研究組織 against CD38 is effective in eliminating myeloma cells. 代 表 者:武井 佳史 Leukemia, 26:365-367 (2012).[2012 年2月] (名古屋大学大学院医学系研究科・准教授) 5. Kubo T, Takei Y, Mihara K, Yanagihara K, Seyama T. 共同研究者:袁 媛 Amino-modified and lipid-conjugated dicer-substrate (名古屋大学大学院医学系研究科・大学院生) siRNA enhances RNAi efficacy. Bioconjugate 大西 なおみ Chemistry, 23:164-173 (2012).[2012 年2月] (名古屋大学大学院医学系研究科・研究補佐員) 6. Suzuki Y, Ito Y, Mizuno M, Kinashi H, Sawai A, 原医研受入研究者:三原 圭一朗 Noda Y, Mizuno T, Shimizu H, Fujita Y, Matsui K, (広島大学病院血液内科・講師) Maruyama S, Imai E, Matsuo S, Takei Y. Transforming growth factor-β induces vascular endothelial growth 研究内容・研究成果・今後の展望等 factor-C expression leading to lymphangiogenesis 本 研 究 は 原 爆 被 爆 者 血 液 細 胞 か ら の microRNA in rat unilateral ureteral obstruction. Kidney (miRNA)抽出法を独自に確立し、さらに網羅的 miRNA International, in press. 発現解析(アレイ解析)を行うことで、原爆被爆者に特 徴的な miRNA 群を同定することを目的とする。現在まで に血液細胞からの miRNA 抽出技術を確立しており、本 年度は網羅的アレイ解析を施行した(Human TaqMan® Array MicroRNA Card ver 3.0 に搭載の 754 個の miRNA を対象)。本アレイ解析は TaqMan MicroRNA アッセイ の特長を生かした「定量性のあるアレイ」であり、生物学 的意味を有する mature miRNA のみを高感度に定量検出 できる。特定 miRNA 群の発現量変化と予後・特に発がん・ 血液疾患発症との関係を見出していきたいと考えている。 発表論文 1. Kubo T, Yanagihara K, Takei Y, Mihara K, Morita Y, Seyama T. Palmitic acid-conjugated 21-nt siRNA enhances gene-silencing activity. Molecular Pharmaceutics, 8:2193-2203 (2011). [2011年12月] 2. Bhattacharyya J, Mihara K, Ohtsubo M, Yasunaga S, Takei Y, Yanagihara K, Sakai A, Hoshi M, Takihara Y, Kimura A. Overexpression of BMI-1 correlates with drug resistance in B-cell lymphoma cells through the stabilization of survivin expression. Cancer Science, 103:34-41 (2012).[2012 年1月] 3. I n a b a S , N a g a h a r a S , M a k i t a N , T a r u m i Y , Ishimoto T, Matsuo S, Kadomatsu K, Takei Y. Atelocollagen-mediated systemic delivery prevents immunostimulatory adverse effects of siRNA in mammals. Molecular Therapy, 20:356-366 (2012). 17 重点プロジェクト研究⑶ 3-2 3-3 家族性リンパ腫の遺伝的背景の探索 より高効率の放射線療法の確立に向けた臨 床的放射線耐性の分子機構の解明研究 研究組織 代 表 者:高木 正稔 研究組織 (東京医科歯科大学医歯学総合研究科・講師) 代 表 者:福本 学 (東北大学加齢医学研究所・教授) 共同研究者:水谷 修紀 共同研究者:桑原 義和(東北大学加齢医学研究所・助教) (東京医科歯科大学医歯学総合研究科・講師) 志村 勉 (東北大学加齢医学研究所・助教) 原医研受入研究者:稲葉 俊哉 原医研受入研究者:細井 義夫 (がん分子病態研究分野・教授) (放射線医療開発研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 研究内容・研究成果・今後の展望等 少数ながら家族性にリンパ腫を発症する家系が報告され 標準的な放射線治療法では、1日 2Gy 週5回の X 線分 ている。しかしながら現在までその責任遺伝子に関しては 割照射で総線量 60-70Gy を照射する。我々は、1日 2Gy 全く明らかにされていない。この責任遺伝子を明らかにす の照射で、30 日以上分割 X 線照射しても増殖する細胞を ることにより家族性リンパ腫の病態を解明することを目的 「臨床的放射線耐性細胞」と定義し、複数の放射性抵抗性 とした。家系のうち発症者4人、非発症者1の全エクソン 細胞株を樹立した(Cancer Sci. 2009)。さらに、2Gy より 解析を行い、候補となる遺伝子を 43 個まで絞り込んだ。 大きな線量による分割照射により、約1ヶ月で細胞が抵抗 これら遺伝子についてさらに非発症者2人を追加し、サン 性を獲得することを明らかにした(Oncogene 2010)。こ ガーシークエンスを行い再評価することにより、候補遺伝 れらの放射線抵抗性獲得の機序として、放射線照射により 子を8個まで絞り込んだ。今後機能解析を行い、責任遺伝 Akt が活性化することを明らかにした。また、Akt 活性化 子を同定する。 へ至る上流の情報伝達経路が線質や線量によって異なるこ とが示唆されるデータが得られている。さらに、持続的に 発表論文 活性化された AKT により GSK3 β依存性の cyclin D1 の なし proteolysis が抑制される結果として cyclin D1 が活性化す ることが、放射性抵抗性獲得にとって重要であることを明 らかにした。これらの結果を踏まえ Akt を阻害すること により放射線抵抗性を解除できるかどうかを検討した。実 験には、Akt 阻害剤として Akt/PKB signaling inhibitor-2 (API-2) と Cdk4 inhibitor(Cdk4-I) を 用 い た。API-2 処 理により、放射性耐性細胞の cyclin D1 は発現が抑制され た。また、API-2 処理により放射線耐性細胞はアポトー シスを生じるとともに、放射線抵抗性は完全に消失し た。API-2 処理と Cdk-4 処理により放射線耐性細胞の cisplatinum(II)-diamine-dichloride に対する抵抗性も消失し た。これらの結果は、放射線抵抗性獲得に関して AKT を 介した生存シグナルのターゲットとして Cyclin D1/Cdk4 が 重 要 で あ る こ と を 示 唆 す る。 ま た、AKT/GSK3β/ cyclin D1/Cdk4 の経路は、臨床の放射線治療において分 割照射により獲得される放射性抵抗性に対する新しい放射 線増感のための分子標的となる可能性がある。 発表論文 なし 18 重点プロジェクト研究⑶ 3-4 3-5 ATM 欠損の慢性骨髄性白血病発症・進展に おける関与の解析 白血病原因転写関連因子の機能解析 研究組織 研究組織 代 表 者:犬飼 岳史(山梨大学医学部・准教授) 代 表 者:高木 正稔 原医研受入研究者:稲葉 俊哉 (東京医科歯科大学大学院発生発達病態学・講師) (がん分子病態研究分野・教授) 原医研受入研究者:本田 浩章 (疾患モデル解析研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 急性リンパ性白血病の原因となる E2A-HLF 融合転写因 研究内容・研究成果・今後の展望等 【研究内容】 子に関して、次世代シーケンサを用いた ChIP-seq アッセ イをおこない、その標的遺伝子の解析をおこなった。その 慢性骨髄性白血病は融合遺伝子 p210BCR/ABL により 結果 CD33 抗原や LMO2 転写調節関連遺伝子を同定した 発症する造血器悪性腫瘍である。臨床的には、分化傾向を (2010 年度の論文として発表)。さらに新たな標的遺伝子 有する顆粒球系細胞が徐々に増加する慢性期を数年経過 の検索を継続し、いくつかの有力な候補を見いだしている。 した後に、不可避的に幼弱芽球が急激に増加する急性白 血病に似た病態に移行する(急性転化)。この共同研究で 発表論文 は、受入研究者が作製した慢性骨髄性白血病を発症する p210BCR/ABL トランスジェニックマウスに、DNA の修 復や細胞周期の制御に関わる ATM(Ataxia Telangiectasia Mutated)の欠損マウスを掛け合わせることにより、慢性 骨髄性白血病の発症や急性転化における ATM の役割につ いて検討する。 【研究成果】 p210BCR/ABL トランスジェニックマウスにおこる白血 病の急性転化が ATM がヘテロに欠損することによって加 速されることが明らかとなった。このことは ATM のハプ ロの機能不全で発がん感受性が規定されていることが示唆 され、毛細血管拡張性運動失調症保因者に疫学的に観察さ れる、高発がん性を生物学的に裏付けることができた。 【今後の展望】 がん抑制分子としての ATM の機能と一般に存在する ATM の遺伝的多型を持つ人、および発がん感受性との関 連を明らかにする糸口となると考えられる。 発表論文 なし 19 重点プロジェクト研究⑶ 3-6 3-7 急性リンパ性白血病融合転写因子の標的遺 伝子解析 長期分割照射法を用いたヒトがん細胞にお ける放射線耐性の研究 研究組織 研究組織 代 表 者:黒澤 秀光(獨協医科大学医学部・准教授) 代 表 者:志村 勉(東北大学加齢医学研究所・助教) 原医研受入研究者:稲葉 俊哉 共同研究者:福本 学(東北大学加齢医学研究所・教授) (がん分子病態研究分野・教授) 原医研受入研究者:笹谷 めぐみ (分子発がん制御研究分野・助教) 研究内容・研究成果・今後の展望等 急性リンパ性白血病の原因となるキメラ転写因子に関し 研究内容・研究成果・今後の展望等 て、次世代シーケンサを用いた ChIP-seq アッセイをおこ 日本人における死因の第1位はがんである。がん征圧の ない、その標的遺伝子の解析をおこなった。その結果アポ 研究推進が行われているが、いまだにがんに対する決定打 トーシス制御因子である survivin を同定し 2010 年度に論 となる治療法は確立されていない。がんの3大治療法の1 文報告を行った。さらに新規の標的遺伝子を検索中である。 つである放射線治療は、放射線による細胞傷害性を利用し てがんを制御する局所療法であり、組織の機能温存性に優 発表論文 れている。しかし、がん細胞は容易に放射線に耐性を獲得 するため、放射線治療によるがんの根絶には、がんの放射 線耐性の克服が必要とされる。 我々は放射線治療で用いられる 1 月間にわたる長期の分 割照射でがん細胞が放射線耐性を獲得する機構を明らかに した。がん細胞の獲得放射線耐性は、恒常的な細胞の生存 シグナル DNA-PK/AKT 経路の活性化とその結果として 起こるサイクリン D1 の過剰発現が原因である。我々は、 マウスを用いた動物実験により、AKT 阻害剤と放射線を 併用することで、がんの放射線耐性が抑制されることを明 らかにした。さらに、その存在が指摘され、腫瘍に含まれ る自己複製能と腫瘍形成能を持つがん幹細胞の放射線耐性 の問題に取り組んだ。我々は放射線を繰り返し照射するこ とで放射線感受性の非がん幹細胞を死滅させ、放射線耐性 のがん幹細胞が濃縮されると予想し、2ヶ月半にわたる放 射線照射によってがん幹細胞を濃縮することに成功した。 我々が濃縮したがん幹細胞の解析により、がん幹細胞では 放射線照射後に AKT 経路が活性化され、効率よく DNA 損傷が修復されることで放射線耐性を示すことを明らかに した。以上の結果から、分割照射による獲得放射線耐性と がん幹細胞による放射線耐性のいずれにも AKT 経路が関 与し、放射線と AKT 阻害剤の併用によって、がんの放射 線耐性を克服することが可能であることを明らかにした。 発表論文 1. Shimura T, Noma N, Oikawa T, Ochiai Y, Kakuda S, Kuwahara Y, Takai Y, Takahashi A, Fukumoto M. Activation of the AKT/cyclin D1/Cdk4 survival 20 重点プロジェクト研究⑶ signaling pathway in radioresistant cancer stem cells Oncogenesis doi:10.1038/oncsis, 2012 2. Shimura T. Acquired radioresistance of cancer and the AKT/GSK3β/cyclin D1 overexpression cycle. J Radiat Res (Tokyo) 52: 539-544, 2011 3. Shimura T, Kakuda S, Ochiai Y, Kuwahara Y, Takai Y, 3-8 ヒト腫瘍細胞の放射線応答浸潤能変化に関 与する分子メカニズムの解析 研究組織 代 表 者:今井 高志 Fukumoto M. Targeting the AKT/GSK3β/cyclin (独立行政法人放射線医学総合研究所重粒子 D1/Cdk4 survival signaling pathway for eradication 医科学センター 先端粒子線生物研究プロ of tumor radioresistance acquired by fractionated グラム・プログラムリーダー) radiotherapy. International Journal of Radiation 共同研究者:石川 顕一 Oncology Biology Physics 80:540-548, 2011 (独立行政法人放射線医学総合研究所重粒子 医科学センター 先端粒子線生物研究プロ グラム・研究員) 原医研受入研究者:飯塚 大輔 (放射線細胞応答研究分野・助教) 研究内容・研究成果・今後の展望等 【研究内容】 DNA メチル化変化は遺伝子発現制御に関わる可塑的、 後天的な制御である一方、細胞分裂を経て娘細胞に安定的 に継承される。癌をはじめ免疫や代謝などの後天的な病気 で DNA メチル化異常が報告されており、近年では DNA 損傷修復や放射線感受性と DNA メチル化制御の間でクロ ストークの存在を示唆する報告もある。しかし、細胞の放 射線応答に DNA メチル化がどのように関与しているかは 充分に解明されていない。我々は、細胞の放射線応答遺伝 子発現変化における DNA メチル化の関与を明らかにする 目的で、放射線照射後に浸潤能が変化する2種類のヒト膵 癌由来培養細胞株に炭素線 2Gy 又は X 線 4Gy を照射し、 照射 48 時間後の mRNA 発現(①)と DNA メチル化(②) のゲノム網羅的解析を行った。そして、放射線照射後に mRNA 発現が変化し、かつ近傍で DNA メチル化が変化 する遺伝子を探索し(③)、その発現変化が DNA メチル 化変化に依存したものであることの検証を行った(④)。 【研究成果】 ①炭素線照射後に発現誘導する遺伝子は 156 遺伝子、発 現抑制する遺伝子は 70 遺伝子あった。一方、X 線照射後 に発現誘導する遺伝子は 41 遺伝子あり、発現抑制する遺 伝子は 21 遺伝子あった。②炭素線あるいは X 線照射によ り高メチル化または脱メチル化されるゲノム領域は、そ れぞれ 30Mb から 50Mb の範囲であった。③炭素線応答 の遺伝子発現変化を示した 226 遺伝子のうち 186 遺伝子 (82%)で近傍に DNA メチル化変化を検出した。一方 X 線応答の遺伝子発現変化を示した 62 遺伝子のうち 45 遺伝 21 重点プロジェクト研究⑶ 子(73%)で近傍に DNA メチル化変化を検出した。④放 射線照射後に脱メチル化され、かつ発現誘導を示した遺伝 子について、脱メチル化薬剤処理した細胞における発現解 3-9 乳がん幹細胞発生の分子基盤の研究 析を行い、発現誘導が脱メチル化により誘導されることを 研究組織 検証した。 代 表 者:菅野 雅元 【今後の展望】 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・教授) 今後、放射線応答の DNA メチル化変化を介した遺伝子 共同研究者:黒木 利知 発現変化が、放射線照射された細胞の浸潤能変化にどのよ (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・大学院生) うな影響を与えているか、解析を進めたい。 JANAKIRAMAN HARINARAYANAN (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・大学院生) 発表論文 敦 芸 該当無し。 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・大学院生) 原医研受入研究者:瀧原 義宏 (幹細胞機能学研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 ほ乳類などの多細胞生物は、それぞれの臓器ごとに幹細 胞が存在しており、近年の研究で殆どの臓器で幹細胞シス テムによる組織の構築が判明している。癌組織において も、幹細胞システムに類似した階層が存在し、癌幹細胞が 通常の癌細胞を供給しながら癌組織を構成している可能性 が指摘されている。そして、癌幹細胞は放射線や抗癌剤に 対する抵抗性を持ち、癌の再発 o 転移に重要な役割を果た していると考えられ、再発や転移などの治療抵抗性の原因 となっていると考えられている。そのため、癌幹細胞を標 的とした治療法の研究が世界中で進められているが未だそ の治療法は確立されていない。 本研究は、癌の根治的治療法として癌幹細胞を標的とし た治療法の基礎理論の確立を目指し、乳癌幹細胞発生の分 子基盤について解析を行った。癌幹細胞の活性制御因子と してエピジェネティックスが注目されているが、このエピ ジェネティックスの重要な制御因子としてポリコーム複合 体があげられる。研究代表者はこれまで、ポリコーム複 合体1の構成因子である Mel-18 と Bmi1 と乳癌の発症に ついて解析を進めてきた。本研究では、Mel-18+/- マウス の自然発症乳癌から樹立した乳癌細胞に Mel-18 発現ベク ターを導入し、Mel-18 の発現量と乳癌幹細胞活性につい て検討した。その結果、Mel-18 が癌幹細胞にとって重要 な性質を規定していることを明らかにし、分子標的癌治療 を考える上で重要な制御機構の一端を解明した。 発表論文 Janakiraman H, Nobukiyo A, Inoue H, Kanno M. Mel-18 controls the enrichment of tumor-initiating cells 22 重点プロジェクト研究⑶ in SP fraction in mouse breast cancer. Hiroshima J Med Sci. 2011 Jun ; 60(2):25-35. 3-10 造血関連遺伝子改変マウスにおける造血細 胞分化・増殖能の解析 研究組織 代 表 者:辻 浩一郎(東京大学医科学研究所・准教授) 共同研究者:馬 峰(東京大学医科学研究所・特任研究員) 原医研受入研究者:本田 浩章 (疾患モデル解析研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 【研究内容】 受入研究者が作製・飼育した様々な造血遺伝子関連改変 マウスの造血組織(骨髄、脾臓、胸腺、リンパ節など)を 分離し、flow cytometry やコロニー形成の手法を用いて その分化および増殖能の変化について詳細な解析を行う。 【研究成果】 A20 コンディショナル、MxCre(+)のマウスは、造血異 常、特に B 細胞の減少を特徴とする。この共同で申請者 の研究室においてコロニーアッセイを行ってもらうことに より、このマウスの造血細胞はサイトカイン存在化でコロ ニー形成能を有することが明らかとなった。 【今後の展望】 ど の 様 な 分 子 機 構 に よ り、A20 コ ン デ ィ シ ョ ナ ル、 MxCre(+)のマウスにおいて B 細胞が有意な減少を示すか について解析を行なう。 発表論文 なし 23 重点プロジェクト研究⑶ 3-11 先天性好中球減少症における発癌機構の解析 胞体ストレスが関わっている可能性があり、今後 SCN 変 異例における糖鎖付加異常が病態に及ぼす影響について実 験を進めて行く予定である。 研究組織 代 表 者:小林 正夫 発表論文 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・教授) なし。 共同研究者:梶梅 輝之 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・助教) 溝口 洋子 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・大学院生) 原医研受入研究者:瀧原 義宏 (幹細胞機能学研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 先天性好中球減少症(Severe Congenital Neutropenia: SCN)は慢性好中球減少症、特に末梢血好中球数が 200/ μl 未満、骨髄像で前骨髄球、骨髄球での成熟障害、生後 より反復する重症細菌感染症を臨床的特徴とする血液疾患 である。好中球エラスターゼ(Neutrophil elastase: NE) をコードする ELANE 遺伝子のヘテロ接合性変異が周期 性好中球減少症と SCN の多くの例で同定され、その後も 10 種類以上に及ぶ責任遺伝子が明らかにされている。本 症は重症細菌感染症を反復することから、乳児期に死亡す る例が多かったが、1990 年代より G-CSF の開発と本疾患 群での有効性より長期生存が可能となった。しかしなが ら、G-CSF 治療を実施している長期生存例において、白 血病(AML)の合併が報告され、同治療を行う周期性好 中球減少症や特発性好中球減少症では白血病の合併を認め ないことから SCN 自体がリスクと考えられているが、そ の分子機序は明らかになっていない。我々は ELANE 遺 伝子変異5種類を含む ELANE 遺伝子発現レトロウィル スベクターを作成し、レトロウィルスを用いて HL60 細 胞に導入した。NE 蛋白の processing、糖鎖付加、局在 及び小胞体ストレスについて検討を行った。ELANE 導 入 HL60 において NE の immunoblotting を行ったところ、 25kD 及び 30kD-32kD 付近に band を認め、SCN 変異例で は WT 及び他の変異と比較し 30kD の band が濃くみられ た。Tunicamycin 処理実験により、30kD 付近にみられた band は糖蛋白であると考えられた。また WT 及び SCN 以外の変異では 30kD 付近の band の消失時間の相違がみ られ、変異蛋白において metabolism の違いが想定された。 また小胞体ストレスのマーカーとして Bip mRNA 発現の 検討を行ったところ SCN 変異例で WT の 1.5-2 倍の上昇 がみられた。これらの結果より SCN 変異例に関しては小 24 重点プロジェクト研究⑶ 3-12 3-13 コンディショナルノックアウトマウスを用 いた造血細胞におけるポリコーム遺伝子 Eed の機能解析 コンディショナルノックアウトマウスを用 いた造血細胞における Wnt5a の機能解析 研究組織 研究組織 代 表 者:菊池 章(大阪大学医学系研究科・教授) 代 表 者:菅野 雅元 共同研究者:佐藤 朗(大阪大学医学系研究科・助教) (広島大学大学院医歯薬総合研究科・教授) 原医研受入研究者:本田 浩章 共同研究者:郭 芸 (疾患モデル解析研究分野・教授) (広島大学大学院医歯薬総合研究科・教授) 井上 洋子 研究内容・研究成果・今後の展望等 (広島大学大学院医歯薬総合研究科・教授) Wnt はリガンドとして機能する細胞外分泌蛋白質であ 西部 莉央 り、動物の発生に必須である。分泌された Wnt が細胞膜 (広島大学大学院医歯薬総合研究科・教授) 上の受容体に結合した後に活性化される細胞内のシグナル 原医研受入研究者:本田 浩章 伝達機構には、β- カテニン経路とβ- カテニン非依存性経 (疾患モデル解析研究分野・教授) 路が存在する。Wnt シグナルと炎症性疾患との関連につ いては、β-カテニン非依存性経路を活性化する Wnt5a が 研究内容・研究成果・今後の展望等 【研究内容】 慢性関節リウマチ患者の関節滑膜細胞で高発現しているこ とが報告されているが、その意義については未だに判然と Eed は ポ リ コ ー ム 遺 伝 子 で あ り、EZH2 や Suz12 な しない。一方、炎症性腸疾患は、持続または反復する粘血 ど と 共 に ポ リ コ ー ム 複 合 体 で あ る polycomb recessive 便を伴う大腸における慢性非特異性炎症性疾患であり、我 complex 2(PRC2)を構成する。PRC2 はヒストン H3 リ が国において有病率は急増しているが、病因や病態に関し ジン 27(H3K27)のメチル化機能を有し、様々な染色体 て不明な点が多い。 部位での H3K27 メチル化を制御することにより、細胞増 昨年度私共は Wnt5a により活性化されるシグナルと免 殖、細胞分化を含めた種々の細胞機能に関与していると考 疫応答、炎症性疾患の関連を明らかにするために Wnt5a えられている。この共同研究では、PRC2 の H3K27 結合 ノックアウト(KO)マウスを用いて解析を行った。具体 能を担うと考えられている Eed のコンディショナルノッ 的には、Wnt5a KO ホモマウスは胎生致死であるため、 クアウトマウスを作製することにより、造血細胞における Wnt5a KO ヘテロマウス(Wnt5a+/-)に腸管炎症を誘発す PRC2 の役割について解析を行なう。 るデキストランナトリウム硫酸(DSS)を与え、野生型 【研究成果】 と比較検討した。その結果、Wnt5a KO ヘテロマウスは 本年度の成果としては、相同組換えが同定された ES 細 DSS による体重減少が野生型に比較して抑制され、下痢 胞をマウス受精卵にインジェクションし、キメラマウスが や消化管出血等の病態活性指標が軽度であることが判明し 得られたところまでである。現在このキメラマウスを通常 た。そこで、本田教授との共同研究で作製した Wnt5a コ のマウスと掛け合わせ、germline transmission の検討を ンディショナル KO(cKO)マウスと Mx-Cre マウス(造 行っている。 血組織特異的に Cre recombinase を発現する)と交配さ 【今後の展望】 せ、血球系にのみ Wnt5a が発現していないマウスを作製 ヘテロマウスが得られたら、まず Neo を欠失させ、そ して、DSS により腸管炎症を誘導した。しかし、Wnt5af/ のマウスをホモ変異体として目的組織で Cre を発現する f x MX-Cre マウスは対照マウスと同様な腸管炎症病態 トランスジェニックマウスとの掛け合わせを行い、組織特 を示した。すなわち、マクロファージを含む血球系での 異的に Eed を欠失したマウスを作製し解析を行う。 Wnt5a の発現は、腸管炎症の病態に関与していないこと が示唆された。今後は、Wnt5a cKO マウスの利点を生か 発表論文 して、組織特異的に Wnt5a を KO することにより、どの なし 組織の Wnt5a が腸管炎症に関与するのかを決定したい。 また、造血系での Wnt5a の KO がどのような病態と関連 25 重点プロジェクト研究⑶ するかについても新たな視点で探索をしていきたい。 発表論文 1. Miyamoto, T., Porazinski, S., Wang, H., Borovina, A., 3-14 疾患モデルマウスにモバイル因子を用いた 多段階発癌の解析 Ciruna, B., Shimizu, A., Kajii, T., Kikuchi, A., Furutani- 研究組織 Seiki, M., and Matsuura, S. Insufficiency of BUBR1, a 代 表 者:中村 卓郎 mitotic spindle checkpoint regulator, causes impaired (財団法人がん研究会がん研究所発がん研究 部・部長) ciliogenesis in vertebrates. Hum. Mol. Genet., 20, 2058-2070, 2011 2. Kagermeier-Schenk, B., Wehner, D., Özhan-Kizil, G., 共同研究者:横山 隆志 (財団法人がん研究会がん研究所発がん研究 部・研究員) Yamamoto, H., Jian Li, Kirchner, K., Hoffmann, C., Stern,P., Kikuchi, A., Schambony, A., and Weidinger, G. 中武 真由香 The transmembrane protein Waif1/5T4 inhibits Wnt/ (財団法人がん研究会がん研究所発がん研究 部・研究員) β-catenin signaling and activates noncanonical Wnt pathways by modifying LRP6 subcellular localization. 田中 美和 Dev. Cell, 21, 1129-1143, 2011 (財団法人がん研究会がん研究所発がん研究 部・研究員) 3. Deraz, E.M., Kudo, Y., Yoshida, M., Obayashi, M., Tsunematsu, T., Tani, H., Siriwardena, S., Keikhaee, 原医研受入研究者:本田 浩章 M.R., Qi, G., Iizuka, S., Ogawa, I., Campisi, G., Lo (疾患モデル解析研究分野・教授) Muzio, L., Abiko, Y., Kikuchi, A., Takata, T. MMP-10/ Stromelysin-2 Promotes Invasion of Head and Neck Cancer. PLoS ONE, 6, e25438, 2011. 研究内容・研究成果・今後の展望等 【研究内容】 4. Kikuchi, A., Yamamoto, H., Sato, A., Mastumoto, S. 受入研究者が作製した様々な疾患モデルマウスにレトロ New insights into the mechanism of Wnt signaling ウイルスを感染させ、疾患発症の期間や疾患の悪性度を呈 pathway activation. Int. Rev. Cell. Mol. Biol. 291, したマウスが出現するかどうかについて検討を行なう。こ 21-71, 2011 の様なマウスが得られた場合、その腫瘍組織から DNA を 抽出し、inverse PCR を用いてウイルス挿入遺伝子を単離 し、その発現変化について検討する。 【研究成果】 受入研究者が作製した TITAN ノックアウトマウスなど にレトロウイルスを感染させることにより、協調遺伝子の 単離を行った。特に、新たにヒストン脱メチル化酵素であ る Fbxl10 が単離され、この遺伝子の白血病発症機構につ いて解析を行っている。 【今後の展望】 受入研究者が作製した疾患モデルマウスにレトロウイル スを感染させ、表現型の変化を生じたマウスからウイルス 挿入遺伝子を単離することにより、多段階発癌の分子機構 が明らかに出来ると考えられる。 発表論文 なし 26 重点プロジェクト研究⑶ 3-15 コンディショナルノックアウトマウスを用 いた破骨細胞における Cas の機能解析 現するカテプシン K-Cre ノックインマウスと交配し、 p130Cas cKO マウスを作製した。p130Cas cKO マウス は野生型マウスと比較して成長障害は認められなかっ た。しかし、軟 X 線写真および µCT 撮影による3次元 研究組織 的解析により、野生型マウスと比較して骨端部の X 選 代 表 者:自見 英治郎 不透過像、海綿骨の著明な増加および骨密度上昇が認め (九州歯科大学分子情報生化学分野・教授) られた。骨形態計測の結果より、p130Cas cKO マウス 共同研究者:永井 香絵 は野生型マウスと比較して多核の破骨細胞が多数存在 (九州歯科大学口腔機能発達学分野・大学院生) し、骨形成のパラメーターに変化はないことから、破骨 牧 憲司 細胞分化の異常ではなく、骨吸収能が著しく低下してい (九州歯科大学口腔機能発達学分野・教授) ることが示唆された。そこで、p130Cas cKO マウス由 仲村 一郎 来の骨髄細胞を M-CSF および RANKL 存在下で培養す (湯河原厚生年金病院リウマチ科・部長) ると、アクチンリングを持たない破骨細胞が形成され、 原医研受入研究者:本田 浩章 さらに象牙片上で吸収窩を形成することが出来なかっ (疾患モデル解析研究分野・教授) た。 【今後の展望】 研究内容・研究成果・今後の展望等 【研究の概要】 in vitro の 実 験 で は、 我 々 の 予 想 通 り、p130Cas の 機 能を抑制するとアクチンリングを持たない破骨細胞が 大 理 石 骨 病 を 呈 す る Receptor Activator of NF-κB 誘 導 さ れ た。 し か し、p130Cas cKO マ ウ ス で は Src 欠 Ligand(RANKL)や c-Fos などの遺伝子欠損マウスの多 損マウスのような大理石骨病を示さなかった。このこと くは破骨細胞の分化障害に起因するものが多い。p130Cas は、p130Cas 以外に Src の下流分子として働く分子が存 はアクチン制御を介して細胞骨格形成の中心的役割を担う 在する可能性が考えられる。つまり別の Cas 分子によっ アダプタータンパク質であり、これ迄の我々の研究結果よ て p130Cas の機能が代償される可能性が考えられたため、 り、p130Cas は破骨細胞の骨吸収能に重要な役割を担って CasLKO マウスと交配させることで破骨細胞で p130Cas/ いると考えられている。しかし、p130Cas の遺伝子欠損マ CasLKO2 重欠損マウスを作製し、解析する予定である。 ウスが心血管形成不全により胎生早期に致死となるため、 その成体における機能は不明のままである。本研究は、破 発表論文 骨細胞特異的に p130Cas を欠失した p130Cas のコンディ なし ショナルノックアウトマウス(p130Cas cKO)を作製する ことにより、p130Cas の破骨細胞における機能解析を行う ことを目的とする。 【結果】 ⑴ マウス骨髄細胞に野生型 p130Cas と、p130Cas の活 性化に重要な SH3 ドメインを欠失したドミナントネガ ティブ型 p130Cas(p130Cas DN)をレトロウィルスベ クターで遺伝子導入し、マクロファージコロニー刺激因 子(M-CSF)存在下で3日間培養し、破骨細胞前駆細 胞を誘導した。さらに3日間、M-CSF および RANKL 存在下で培養し、破骨細胞を誘導すると p130Cas DN を 導入した破骨細胞では、破骨細胞の骨吸収の指標となる アクチンチンリング形成が抑制された。同様にテトラサ イクリン依存性に破骨細胞で p130Cas をノックダウン すると、アクチンリング形成が抑制された。 ⑵ p130Cas flox マ ウ ス と 破 骨 細 胞 特 異 的 に Cre を 発 27 重点プロジェクト研究⑶ 3-16 3-17 造血幹細胞におけるヒストン脱リン酸化酵 素 Fbxl10 の機能解析 コンディショナルノックアウトマウスを用 いた角化細胞における Cas の機能解析 代 表 者:須田 年生(慶應義塾大学医学部・教授) 研究組織 共同研究者:田久保 圭誉(慶應義塾大学医学部・助教) 代 表 者:秀 道広 原医研受入研究者:本田 浩章 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・教授) (疾患モデル解析研究分野・教授) 共同研究者:岩本 和真 (広島大学病院皮膚科・医科診療医) 研究内容・研究成果・今後の展望等 【研究内容】 原医研受入研究者:本田 浩章 (疾患モデル解析研究分野・教授) 造血細胞においては、様々な遺伝子が協調して機能する ことにより、造血幹細胞の複製と分化の過程を司り、造血 系の恒常性を維持しているが、各々の遺伝子の生物学的 研究内容・研究成果・今後の展望等 【研究内容】 機能については不明の点が多い。この共同研究では、造 Cas(Crk associated substrate)はアクチン制御を介し 血幹細胞で発現しているヒストン脱リン酸化酵素である て細胞骨格形成の中心的役割を担うことにより、細胞分 Fbxl10 のトランスジェニックマウスおよびノックアウト 化、細胞増殖、細胞癌化など多彩な細胞機能に関わるアダ マウスを作製し、これらのマウスから造血幹細胞を単離 プター分子である。しかし、Cas のノックアウトマウスは してトランスクリプトーム、ChIP などの解析を行ない、 胎生致死であるため、その成体における機能は不明のまま Fbxl10 が造血幹細胞においてどの様な分子発現を制御し である。この共同研究では、Cas のコンディショナルノッ ているか、またその発現異常がいかなる分子機序を介して クアウトマウスに角化細胞(ケラチノサイト)において 白血病発症に関与するかについて解析を行なう。 Cre を発現するマウスを掛け合わせることにより、角化細 【研究成果】 Fbxl10 のトランスジェニックマウスおよびノックアウ トマウスの造血幹細胞を単離して cDNA を作製し、トラ 胞特異的に Cas を欠失したマウスを作製し、このマウス に would healing や腫瘍接種などの実験を行なう。 【研究成果】 ンスクリプトーム解析を行なった。トランスジェニックマ Would healing および腫瘍接種のいずれにおいても Cas ウスおよびノックアウトマウスの造血幹細胞で発現が変化 欠失マウスにおいてコントロールマウスに比較して創傷治 している遺伝子が複数同定され、その機能解析を行ってい 癒が遅く、また腫瘍の数も少ない所見が得られた。 る。 【今後の展望】 【今後の展望】 Cas が表皮細胞においてどの様な機序により創傷治癒お ヒストン脱リン酸化である Fbxl10 のトランスジェニッ よび腫瘍形成に関与するかについて、その原因となる分子 クマウスおよびノックアウトマウスの造血幹細胞における 機構を明らかにすることが必要と考えられる。 遺伝子発現変化を詳細に、また網羅的に解析することによ り、ヒストン修飾の見地から造血幹細胞維持および増殖の 発表論文 分子機構に新たな知見を得ることが出来ると期待される。 なし 発表論文 なし 28 重点プロジェクト研究⑶ 3-18 トランスジェニックマウスを用いた小脳失 調症における PKC 変異体の機能解析 研究組織 (5)Shuvaev, A.N., Sakai, N. Hirai, H. 他 Mutant PKCγ in spinocerebellar ataxia type 14 disrupts synapse elimination and long-term depression in Purkinje cells in vivo. J. Neuroscience 31 (2011) 14324-14334 (6)S a k a i , N . , 他 M o l e c u l a r p a t h o p h y s i o l o g y o f 代 表 者:酒井 規雄 n e u r o d e g e n e r a t i v e d i s e a s e c a u s e d b y γP K C (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・教授) mutations. World J. Biol. Psychiatry 12(S1) (2011) 95- 共同研究者:関 貴弘 98 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・助教) (7)S eki, T., Sakai. N. 他 Establishment of a novel 秀 和泉 fluorescence-based method to evaluate chaperone- (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・助教) mediated autophagy in a single neuron PLoS ONE 7 原医研受入研究者:本田 浩章 (2012) e31232 (疾患モデル解析研究分野・教授) (8)D ohi, E., Sakai, N. 他 Hypoxic stress activates chaperone-mediated autophagy and modulates 研究内容・研究成果・今後の展望等 neuronal cell survival. Neurochem. Int. 60 (2012) 431- プロテインキナーゼ C(PKC)γ 分子種(γPKC)の変 442 異で遺伝性小脳失調症 14 型(SCA14)が起こることが知 られている。この共同研究では、小脳特異的なプロモーター を用いて、γPKC の変異体を誘導可能に発現するトランス ジェニックマウスを作製することにより、当該変異体が小 脳失調症の原因遺伝子であるかどうかを検討し、併せて病 態生理の解析を行なうことを目的としている。現在、数ラ インのトランスジェニックマウスの系統が作成され、表現 型の経過観察中である。今年度はシャペロン介在性オート ファジーが神経変性疾患、虚血性脳疾患のターゲットにな ることを明らかにした。今後このマウスを活用しこの領域 の研究を進めたい。 発表論文 (1)Yanase, Y., Sakai, N. 他 A critical role for conventional protein kinase C in morphological changes of rodent mast cells. Immunol. Cell Biol. 89 (2011) 149-159 (2)Harada, Sakai, N. 他 Extracellular ATP differentially modulates Toll-like receptor 4-mediated cell survival and death of microglia. J. Neurochem. 116 (2011) 11381147 (3)Shirai, Y. Sakai, N., Saito, N. 他 Direct binding of RalA to PKCη and its crucial role in morphological change during keratinocytes differentiation. Mol. Biol. Cell 22 (2011) 1340-1352 (4)Seki, T., Sakai, N. 他 Elucidation of the molecular mechanism and exploration of novel therapeutics for spinocerebellar ataxia caused by mutant protein kinase Cϒ. J. Pharmacol. Sci. 116 (2011) 239-247 29 重点プロジェクト研究⑶ 3-19 3-20 コンディショナルノックアウトマウスを用 いた大腸癌における Wnt5a の機能解析 遺伝子改変マウスの組織病理学的解析 研究組織 研究組織 代 表 者:小田 秀明 代 表 者:檜井 孝夫(広島大学病院消化器外科・講師) (東京女子医科大学医学系研究科・教授) 共同研究者:川口 康夫 原医研受入研究者:本田 浩章 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・大学院生) (疾患モデル解析研究分野・教授) 安達 智洋 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・大学院生) 原医研受入研究者:本田浩章 (疾患モデル解析研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 【研究内容】 遺伝子改変マウスにおいてはその遺伝子機能に応じて 様々な表現型(胎生致死、微細な器官形成不全から腫瘍発 研究内容・研究成果・今後の展望等 症に至るまで)が認められる。この共同研究では、受入研 Wnt は細胞分化、細胞増殖、細胞癌化など多彩な細胞 究者が作製した様々な遺伝子改変マウスについて、組織病 機能に関わる因子であり、特に Wnt5a は消化管癌におい 理学的手法を用いて解析を行ない、表現型発症についての ても発現異常が報告されている。しかし、Wnt5a のノッ 原因解明を行なう。 クアウトマウスは胎生致死であるため、その成体での機能 【研究成果】 は不明の点が多い。この共同研究では、Wnt5a のコンディ 受入研究者が作製した遺伝子改変マウスの中から、興味 ショナルノックアウトマウスを作製し、大腸上皮細胞にお ある表現型を呈したマウスについて共同研究で組織病理学 いて Wnt5a を欠失させることにより、大腸上皮細胞の維 的解析を行う。本年度は、Cas コンディショナルノックア 持や分化および大腸癌における Wnt5a の役割を明らかに ウトマウス、A20 コンディショナルノックアウトマウス、 することを目的とする。 ALK ノックインマウスなど様々な遺伝子改変マウスの病 共同で作製した Wnt5a のコンディショナルノックアウ 理学的解析を行った。 トマウスに大腸上皮細胞特異的に Cre を発現する CDX2P- 【今後の展望】 Cre マウスと交配し、大腸上皮細胞に Wnt5a を欠失した マウスの胎児発生、臓器形成、および腫瘍発症において マウスを作製する。このマウスにおいて腸上皮細胞におけ 幅広く体系的な知識を有する組織病理学者と共同研究を行 る機能の変化を解析すると共に、我々が作製した大腸浸潤 い、自らの教室では困難である様々な専門的な手法を用い 癌を発症する CPC;Apc マウスとの掛け合わせを行ない、 て解析を行ってもらうことにより、いかなる原因によりそ Wnt5a の後天性欠失が大腸癌の発症、形態変化、浸潤や の表現型を呈したかということに形態学の見地からの知見 転移などの進展に関与するかどうかについても検討する。 を得ることが出来る。これらの結果は、さらにその基礎に 現在、Wnt5a と CDX2P-Cre マウスの交配の最終段階に ある分子機構解析に発展するための重要な情報となりうる あり、今後、1/8の確率で目的のマウスが genotype で ため、今後も共同研究を継続する予定である。 確認できる予定である。それらのマウスを飼育、解剖後、 得られた大腸癌組織の形態学的、遺伝学的な解析を行い、 発表論文 Wnt5a の機能について検討を行う。 Seo S, Nakamoto T, Takeshita M, Lu J, Sato T, Suzuki T, Kamikubo Y, Ichikawa M, Noda M, Ogawa S, 発表論文 Honda H, Oda H, Kurokawa M. Cas-L regulates myeloid cell motility and suppresses progression of leukemia induced by p210Bcr/Abl. Cancer Sci (in press) 30 重点プロジェクト研究⑶ 3-21 Bag1 欠失の慢性骨髄性白血病発症・進展 に対する関与の解析 研究組織 により、慢性骨髄性白血病の分子機構に新たな知見をもた らすものと考えられる。 発表論文 なし 代 表 者:丸 義朗 (東京女子医科大学医学部・主任教授) 共同研究者:塚原 富士子 (東京女子医科大学医学部・講師) 原医研受入研究者:本田 浩章 (疾患モデル解析研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 慢性骨髄性白血病は融合遺伝子 p210BCR/ABL により 発症する造血器悪性腫瘍である。臨床的には、分化傾向 を有する顆粒球系細胞が徐々に増加する慢性期を数年経 過した後に、不可避的に幼弱芽球が急激に増加する急性 白血病に似た病態に移行する(急性転化)。本共同研究で は、受入研究者が作製した慢性骨髄性白血病を発症する p210BCR/ABL トランスジェニックマウスに、熱ショック タンパク質 70 のコシャペロンである Bag1 ノックアウト マウスを掛け合わせることにより、慢性骨髄性白血病急性 転化における Bag1 の役割について検討した。 Bag1 ホモノックアウトマウス(Bag1-/-)は、胎生致死 であったため、p210BCR/ABL トランスジェニックマウス と Bag1 ヘテロノックアウトマウス(Bag1-/+)を掛け合 わせた。p210BCR/ABL トランスジェニック /Bag1 ヘテ ロノックアウトマウスから定期的に末梢血を採取し、白血 球数、赤血球数、ヘモグロビン濃度、血小板数の測定を行 い、また白血球におけるリンパ球、顆粒球の割合を調べて 慢性骨髄性白血病の病態の解析を行った。その結果、通常 の p210BCR/ABL トランスジェニックマウスと比較して、 Bag1 ヘテロノックアウトマウスと掛け合わせたことによ り、脾臓の肥大化が強まる傾向がみられたがその他の病態 の変化は殆ど認められなかった。一方、Bag1 は、細胞レ ベルの実験において、BCR/ABL 蛋白質の異常構造を直接 認識し、BCR/ABL 蛋白質の分解を促進した。Bag1 ヘテ ロノックアウトマウスの骨髄および脾臓において、Bag1 蛋白質はワイルドタイプマウスと比べて低レベルではあ るが発現していた。このため、Bag1 ヘテロノックアウト マウスと掛け合わせた p210BCR/ABL トランスジェニッ クマウスでは慢性骨髄性白血病の発症や悪性化が見られな かった可能性も示唆される。今後はさらに、Bag1 の活性 に影響する分子等のノックアウトと掛け合わせを行うこと 31 重点プロジェクト研究⑶ 3-22 3-23 コンディショナルノックアウトマウスを用 いた血管形成における Cas の機能解析 免疫細胞における Dec1 の役割および細胞 制御機構解析 研究組織 研究組織 代 表 者:高倉 伸幸(大阪大学微生物研究所・教授) 代 表 者:香城 諭 共同研究者:木戸屋 浩康(大阪大学微生物研究所・助教) (北海道大学遺伝子病制御研究所・講師) 原医研受入研究者:本田 浩章 共同研究者:清野 研一郎 (疾患モデル解析研究分野・教授) (北海道大学遺伝子病制御研究所・教授) 原医研受入研究者:本田 浩章 研究内容・研究成果・今後の展望等 (疾患モデル解析研究分野・教授) 【研究内容】 Cas(Crk associated substrate)はアクチン制御を介し 研究内容・研究成果・今後の展望等 て細胞骨格形成の中心的役割を担うことにより、細胞分 Dec1 は、bHLH ドメインおよび Orange ドメインを有 化、細胞増殖、細胞癌化など多彩な細胞機能に関わるアダ する転写制御因子の一つである。我々は、一部の免疫担当 プター分子である。しかし、Cas のノックアウトマウスは 細胞(iNKT 細胞、γδT 細胞、樹状細胞)において Dec1 胎生致死であるため、その成体における機能は不明のまま が高発現していることを見出した。しかしながら、免疫担 である。この共同研究では、Cas のコンディショナルノッ 当細胞における Dec1 の役割についてはまだ完全に理解さ クアウトマウスを作製し、血管内皮細胞特異的に Cas を れているとは言いがたい。本共同研究では、Dec1 が非常 欠失したマウスを作製することにより、Cas の血管形成に に高発現されている一部の免疫担当細胞を対象とし、それ おける機能解析を行う。 らの細胞機能における Dec1 の役割を明らかにすることに 【研究成果】 加え、その機能制御の分子メカニズムを明らかにすること Cas を血管内皮細胞特異的に欠失したマウスは正常に生 を主たる目的とする。 まれて来たが、解析の結果血管の構築、走行、および増殖 iNKT 細胞において特に Dec1 が高発現されていること 因子に対する反応に異常を有することが明らかとなった。 より、iNKT 細胞における Dec1 の役割についての解析を 現在、その分子メカニズムについて解析を行っている。 中心に検討を進めた。以下には得られた結果の一部を示す。 【今後の展望】 血管内皮細胞において Cas を欠失したマウスを作製す ることにより、血管形成における Cas の生物学的機能が ・iNKT 細胞における Dec1 発現は非常に高く、T 細胞 受容体刺激によって更にその発現は向上した。 個体レベルで明らかになると期待される。特に、病的な血 ・Dec1 の 発 現 は、iNKT 細 胞 の 胸 腺 内 成 熟 と 共 に 上 管新生(特に腫瘍における血管新生)における Cas の役 昇することが確認され、その発現パターンは IFN-γ 割が明らかになれば、Cas を標的とした分子治療へと発展 mRNA および T-bet mRNA 発現と高い相関関係に する可能性が期待される。 あった。 ・Dec1 の欠損により、iNKT 細胞の IFN-γ 産生が大きく 発表論文 減弱した。しかしながら、その他のサイトカインおよ なし び細胞増殖には Dec1 欠損の影響は認められなかった。 現在、iNKT 細胞 IFN-γ 産生制御における Dec1 の役割 についての詳細解析を実施している。また、iNKT 細胞 IFN-γ が病態形成に強く関与する疾患モデルを利用し、各 種病態形成における Dec1 の役割についても検討中である。 5.発表論文 特になし 32 重点プロジェクト研究⑶ た(p<0.05)ため、細胞死の機序を検討した。フローサイ 3-24 Parp および Parg 発現変化による慢性骨 髄性白血病悪性化への関与の解析 トメトリーでは顕著な subG1 分画の増加を示し、DNA 電 気泳動法ではヌクレオソームラダーの増加を示したことか らアポトーシスが誘導されていることを認めた。従って 研究組織 PARP 機能阻害が効率よく急性骨髄性白血病細胞株に細胞 申請者:益谷 美都子 死を誘導することが判明した。 (独立行政法人国立がん研究センター研究所ゲノ ム安定性研究分野・分野長) 【今後の展望】 慢性骨髄性白血病を発症する p210BCR/ABL と Parp-1 共同研究者:佐久間(藤森) 浩彰 欠損マウスとの交配体における慢性骨髄性白血病の病態経 (独立行政法人国立がん研究センター研究所 過を解析することで慢性骨髄性白血病急性転化機構に遺伝 ゲノム安定性研究分野・研究員) 子安定性の見地から新たな知見をもたらすものと考えられ 高木 正稔 る。慢性骨髄性白血病における増殖、分化、細胞死などの (東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科・ 病態と Parp の役割について本研究は基礎的資料の提供が 助教) 期待できる。 原医研受入研究者:本田 浩章 (疾患モデル解析研究分野・教授) 発表論文 なし 研究内容・研究成果・今後の展望等 【研究内容】 慢性骨髄性白血病は臨床的には、分化傾向を有する顆粒 球系細胞が徐々に増加する慢性期を数年経過した後に、不 可避的に幼弱芽球が急激に増加する急性白血病に似た病態 に移行する(急性転化)。融合遺伝子 p210BCR/ABL によ り発症する造血器悪性腫瘍であり、急性転化については、 2次的遺伝子異常の関与が示唆されているが、機構につい ては十分に解明されていない。本共同研究では、慢性骨 髄性白血病を発症する細胞に遺伝子安定性や DNA 修復、 クロマチン制御に関わる poly(ADP-ribose)polymerase (Parp)の機能阻害を行い、受入研究者の協力の下に慢性 骨髄性白血病の病態と急性転化における Parp の役割につ いて検討する。また、慢性骨髄性白血病を発症する細胞に poly(ADP-ribose)polymerase(Parp) 阻 害 剤 あ る い は siRNA などの機能阻害核酸を導入し、受入研究者の協力 の下に慢性骨髄性白血病の増殖、分化、細胞死などの病態 に関連した指標と急性転化におけるポリ ADP- リボシル化 の役割について、遺伝子発現レベル、及びタンパク質発現 レベルで検討する。 【研究成果】 昨 年 度、 作 成 し た 慢 性 骨 髄 性 白 血 病 を 発 症 す る p210BCR/ABL と Parp-1 欠 損 マ ウ ス と の 交 配 体 系 統 を 作成した。この産仔を用いて慢性骨髄性白血病の病態経 過について Parp-1 ホモ欠損型と野生型で比較を開始し た。また、昨年度、急性骨髄性白血病細胞株 HL60 にお いて PARP 阻害剤 PJ-34 単剤処理で細胞増殖が抑制され 33 重点プロジェクト研究⑶ 3-25 3-26 7q- を有する白血病発症における Runx1 変異の関与の解析 コンディショナルノックアウトマウスを用 いた脳神経細胞における Cas の機能解析 研究組織 研究組織 代 表 者:奥田 司(京都府立大学医学研究科・教授) 代 表 者:古市 貞一(東京理科大学理工学部・教授) 共同研究者:塩見 知子 原医研受入研究者:本田 浩章 (京都府立大学医学部・プロジェクト研究員) (疾患モデル解析研究分野・教授) 原医研受入研究者:本田 浩章 (疾患モデル解析研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 p130Cas(Crk associated substrate)/BCAR1(Breast 研究内容・研究成果・今後の展望等 【研究内容】 cancer anti-estrogen resistance protein 1) は、Src 型チロ シンキナーゼ経路やアクチン細胞内骨格系のシグナル制御 7q- は骨髄異形性症候群および白血病に高頻度に認めら 因子を繋ぎとめるアダプター分子であり、脳神経系では発 れる染色体異常である。我々は high array CGH 方を用い 達期に高い発現が見られるが、その機能的な役割は良く分 て 7q 領域から 7q- 症候群の責任候補遺伝子 TITAN を単 かっていない。Cas の KO マウスは胎生致死である。本共 離した。TITAN のノックアウトマウスを作製したところ、 同研究では、受入研究者が作製した条件特異的 KO マウス 長期間の潜伏期後に白血病を発症し、TITAN 欠失は 7q- 系統を利用して、脳領域特異的に Cas を欠失する系統を 症候群における原因遺伝子の1つである可能性が高いと考 作成して脳神経系での Cas 機能を明らかにすることが目 えられた。しかし、この白血病発症には長期の潜伏期が必 的である。2011 年度は、Wnt1-Cre 系統と Emx1-Cre 系統 要であるところから、二次的遺伝子異常の関与が疑われた。 のマウスと交配して、それぞれ後脳と前脳で特異的に Cas 7q- 症候群には高頻度に Runx1 の異常が合併する。そこで、 を欠失するマウスを作製した。その結果、Wnt1-Cre によ 申請者が開発した Runx1 変異マウス(Runx1 R174Q ノッ る後脳特異的 Cas KO マウスは、胎生致死になる事がわ クインマウス)と TITAN ノックアウトマウスを交配し、 かった。胎生期の心臓に Wnt1 が発現することがわかり、 白血病発症までの期間や頻度の変化について検討する。 おそらくその原因は循環器系の欠損が原因と示唆された。 【研究成果】 一方、Emx1-Cre による前脳特異的 Cas KO マウスでは、 交配により、TITAN ノックアウト、Runx1 R174Q ノッ 大脳皮質の層構造に期待していた異常が光顕レベルで観察 クインのマウスが得られており、現在定期的に血液像を観 されなかった。また、CAG-Cre との交配で作出した Cas 察するなどして白血病が発症するかどうかについて検討を のヘテロマウスは、Cas タンパクの量は減少するが、活動 行なっている。 量、協調的運動、不安行動などは野生型とほとんど差がな 【今後の展望】 かった。今後はさらに詳細な解析を実施する計画である。 TITAN ノックアウト、Runx1 R174Q ノックインに白 血病が発症すれば、この2種類の遺伝子の個体レベルにお 発表論文 ける協調作用が証明され、白血病発症機構に新たな知見と 1)Sadakata T, Sekine Y, Oka M, Itakura M, Takahashi M, もたらすと考えられる。 Furuichi T. Calcium-dependent activator protein for secretion 2 interacts with the class II ARF small 発表論文 GTPases and regulates dense-core vesicle trafficking. なし FEBS J. 279(3):384-94, 2012. 2)Otani Y, Yamaguchi Y, Sato Y, Furuichi T, Ikenaka K, Kitani H, Baba H. PLD4 is involved in phagocytosis of microglia: expression and localization changes of PLD4 are correlated with activation state of microglia. PLoS One. 6(11):e27544, 2011. 3)Hamatake M, Miyazaki N, Sudo K, Matsuda M, 34 重点プロジェクト研究⑶ Sadakata T, Furuya A, Ichisaka S, Hata Y, Nakagawa C, Nagata K, Furuichi T, Katoh-Semba R. Phase advance of the light-dark cycle perturbs diurnal rhythms of brain-derived neurotrophic factor and neurotrophin-3 protein levels, which reduces synaptophysin-positive 3-27 コンディショナルノックアウトマウスを用 いた自己免疫疾患発症における A20 の機 能解析 presynaptic terminals in the cortex of juvenile rats. J 研究組織 Biol Chem. 286(24):21478-87, 2011. 代 表 者:本田 善一郎 (東京大学医学部附属病院アレルギーリウマ チ内科・講師) 原医研受入研究者:本田 浩章 (疾患モデル解析研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 【研究内容】 A20(TNFAIP3)は NFkB 経路に関わる情報伝達因子 であり、近年関節リウマチや全身性エリテマトーデスな どの自己免疫疾患との関連が報告されている。A20 の単 純ノックアウトマウスは生後間もなく死亡するので、成 体における A20 の役割は不明である。この共同研究では、 A20 のコンディショナルノックアウトマウスを作製し、免 疫系で A20 欠失させることにより、この遺伝子の欠損が 自己免疫疾患発症に果たす役割を検討する。 【研究成果】 A20 のコンディショナルノックアウトマウスを作製し、 このマウスを T 細胞系列で Cre を発現する lckCre トラン スジェニックマウスおよび B 細胞系列で Cre を発現する mb1Cre との交配を行った。両方のマウスともにリンパ球 系の異常を認めており、現在解析を行なっている。 【今後の展望】 特に B 細胞系列で A20 を欠失するマウスを用いて、そ こに自己免疫的な刺激を行なうことにより自己免疫疾患発 症のモデルマウスを作製することを計画している。 発表論文 なし 35 重点プロジェクト研究⑶ 3-28 3-29 足細胞特異的 Cas ノックアウトマウスを用 いた糸球体上皮細胞における Cas の機能解 析 CasL 欠損の慢性骨髄性白血病発症機構へ の関与の解析 研究組織 研究組織 代 表 者:黒川 峰夫(東京大学医学部・教授) 代 表 者:渡邉 秀美代 共同研究者:瀬尾 幸子(東京大学医学部・助教) (東京大学疾患生命工学センター・研究員) 原医研受入研究者:本田 浩章 原医研受入研究者:本田 浩章 (疾患モデル解析研究分野・教授) (疾患モデル解析研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 研究内容・研究成果・今後の展望等 【研究内容】 【研究内容】 慢性骨髄性白血病は融合遺伝子 p210BCR/ABL により Cas はアクチン制御を介して細胞骨格形成の中心的役割 発症する造血器悪性腫瘍である。この共同研究では、受入 を担うことにより、細胞分化、細胞増殖、細胞癌化など 研究者が作製した慢性骨髄性白血病を発症する p210BCR/ 多彩な細胞機能に関わるアダプター分子である。しかし、 ABL トランスジェニックマウスに、腫瘍の進展や転移 Cas のノックアウトマウスは胎生致死であるため、その成 に関与するアダプター分子である CasL(Crk-associated 体における機能は不明のままである。この共同研究では、 substrate lymphocyte)のノックアウトマウスを掛け合 Cas のコンディショナルノックアウトマウスを作製し、糸 わせることにより、慢性骨髄性白血病急性転化における 球体上皮細胞(足細胞)特異的に Cas を欠失したマウス CasL の役割について検討する。 を作製することにより、Cas の糸球体上皮細胞における機 能解析を行うことを目的とする。 【研究成果】 【研究成果】 p210BCR/ABL トランスジェニックマウスと CasL ノッ クアウトマウスを掛け合わせ、p210BCR/ABL トランス Cas を糸球体上皮細胞特異的に欠失したマウスは正常に ジェニック、CasL ノックアウトのマウスを作製した。こ 生まれて来た。コントロールマウスと共に糸球体の病理学 のマウスは、p210BCR/ABL 単独のトランスジェニックマ 的解析や尿タンパクの解析など行ったが、特に差は認めら ウスに比較して白血球数の増加および組織への白血病細胞 れなかった。Cas の類似分子である CasL が Cas 欠失を代 の浸潤が増加していることが明らかとなった。 償している可能性があり、現在 CasL ノックアウトマウス との掛け合わせを行っている。 【今後の展望】 【今後の展望】 CasL ノックアウト、p210BCR/ABL トランスジェニッ クマウスが、通常の p210BCR/ABL トランスジェニック 今回の解析では明らかな表現型は認められなかったが、 マウスに比較して病型の変化(血球増殖や急性転化など) CasL のノックアウトマウスの掛け合わせにより表現型が を認めた場合、CasL は慢性骨髄性白血病の発症や悪性化 出る可能性が考えられる。その場合、糸球体腎炎や膜性腎 に関わる遺伝子であることが証明され、疾患の分子機構に 症などのモデルマウスになる可能性も考えられる。 新たな知見をもたらすものと考えられる。 発表論文 発表論文 なし Seo S, Nakamoto T, Takeshita M, Lu J, Sato T, Suzuki T, Kamikubo Y, Ichikawa M, Noda M, Ogawa S, Honda H, Oda H, Kurokawa M. Cas-L regulates myeloid cell motility and suppresses progression of leukemia induced by p210Bcr/Abl. Cancer Sci (in press) 36 重点プロジェクト研究⑶ 3-30 3-31 トランスジェニックマウスおよびノックイ ンマウスを用いた変異型 ALK の機能解析 コンディショナルノックインマウスを用い た変異型 Cbl の機能解析 研究組織 研究組織 代 表 者:滝田 順子(東京大学医学部附属病院・講師) 代 表 者:真田 昌 共同研究者:小川 誠司 (東京大学医学部キャンサーボード・特任助教) (東京大学医学部附属病院・特任准教授) 共同研究者:小川 誠司 安達 正時 (東京大学医学部キャンサーボード・特任准 教授) (東京大学医学部附属病院・大学院生) 西村 力 原医研受入研究者:本田 浩章 (東京大学医学部附属病院・大学院生) (疾患モデル解析研究分野・教授) 原医研受入研究者:本田 浩章 (疾患モデル解析研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 【研究内容】 研究内容・研究成果・今後の展望等 【研究内容】 Cbl は造血細胞の増殖に関わる E3 ubiquitin ligase であ る。近年申請者は、骨髄性白血病で高頻度にこの遺伝子が ALK(anaplastic lymphoma kinase)はもともと(2;5) 変異していることを見いだした。この共同研究では、変異 転座を有する造血器腫瘍から単離されたチロシンリン酸化 型 Cbl を後天性に誘導可能に発現するコンディショナル 酵素である。近年申請者は、小児腫瘍である神経芽細胞腫 ノックインマウスを作製し解析する事により、腫瘍化にお において、この遺伝子が高頻度に変異していることを見い けるこの遺伝子変異の役割を検討する。 だした。この共同研究では、変異型 ALK を発現するトラ 【研究成果】 ンスジェニックマウスおよびノックインマウスを作製する 変異型 Cbl のコンディショナルノックインマウスに誘導 ことにより、この遺伝子の疾患発症における役割を検討する。 可能に Cre を発現する MxCre トランスジェニックマウス 【研究成果】 を掛け合わせ、Cbl のコンディショナルノックインがホモ 変異型 ALK のトランスジェニックマウスは研究代表者 で、MxCre(+)のマウスが得られた。このマウスに誘導 および共同研究者に送付し、先方で解析を行っており、変 剤である pIpC を投与し、目的変異型 Cbl が発現するかど 異型 ALK のノックインマウスについては受入研究者側で うかについて検討するとともに、表現型の解析を行う。 解析を行っている。変異型 ALK のノックインマウスは生 【今後の展望】 後約1年間観察を行っているが、これまで神経芽細胞腫の 後天性に変異型 Cbl を発現するコンディショナルノック 発症は認められていない。しかし、このマウスに神経芽細 インマウスを作製することにより、Cbl 変異が造血細胞の 胞腫で増幅が認められる MYCN のトランスジェニックマ 分化、増殖に与える影響を解析する。マウスに当該疾患が ウスを掛け合わせたところ、高頻度に神経芽細胞腫が発症 発症すればこの変異が疾患の原因遺伝子であることを証明 することが明らかとなった。 出来るとともに、疾患発症の過程を解析することにより、 【今後の展望】 変異型 ALK と、MYCN の過剰発現とがどのような分 白血病発症の分子機構に新たな知見をもたらすことが期待 される。 子機構により神経芽細胞腫発症に関与するかについて検討 を行う。また、近年 ALK 阻害剤が開発されているので、 発表論文 このマウスに投与し ALK 阻害剤が変異型 ALK を有する なし 神経芽細胞腫の治療に有効かについても併せて検討を行 う。分子治療法への発展も期待される。 発表論文 なし 37 重点プロジェクト研究⑶ 3-32 3-33 コンディショナルノックアウトマウスを用 いた造血器腫瘍発症における A20 の機能 解析 ①転 写因子 Evi-1 の造血幹細胞における標 的遺伝子の同定及び発癌のメカニズム解析 ②骨髄性白血病におけるニッチの役割の解明 研究組織 研究組織 代 表 者:小川 誠司 代 表 者:佐藤 智彦 (東京大学医学部キャンサーボード・特任准 (東 京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科・ 教授) 医員) 共同研究者:真田 昌 共同研究者:片岡 圭亮 (東京大学医学部キャンサーボード・特任助教) (東 京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科・ 原医研受入研究者:本田 浩章 (疾患モデル解析研究分野・教授) 大学院生) 原医研受入研究者:本田 浩章 (疾患モデル解析研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 【研究内容】 研究内容・研究成果・今後の展望等 A20(TNFAIP3)は NFkB 経路に関わる情報伝達因子 本研究は「Evi1 は白血病幹細胞制御に関与する」とい である。近年申請者は、悪性リンパ腫で高頻度にこの遺 う仮説のもと、近年我々が樹立した Evi1-GFP ノックイン 伝子が欠失していることを見いだした。A20 のノックア マウスと、貴大学本田教授が樹立された p210 BCR/ABL ウトマウスは生後間もなく死亡するので、悪性リンパ腫 トランスジェニックマウスの交配による Evi1 レポーター 発症における A20 の役割は不明である。この共同研究で 慢性骨髄性白血病(Chronic Myeloid Leukemia; CML)モ は、A20 のコンディショナルノックアウトマウスを作製し、 デルマウスの作製、解析により CML 幹細胞に対する新規 造血系で A20 を欠失させることにより、この遺伝子の欠 分子標的治療の構築を目指すものである。このマウスによ 損が悪性リンパ腫を含めた造血器腫瘍発症に果たす役割を り現時点でヒト検体では不可能である、「Evi1 高発現細胞 検討する。 の分離」が可能となった。 【研究成果】 上記 Evi1 レポーター CML マウスの解析から、正常造 A20 のコンディショナルノックアウトマウスを作製し、 血と同様に Evi1 陽性細胞はマウス造血幹細胞分画である このマウスを造血系で Cre を発現する様々なトランスジェ Lineage marker 陰性 Sca-1 陽性 c-kit 陽性(LSK)分画に ニックマウスとの交配を行った。現在 A20 コンディショ ほぼ限局しており、Evi1 陽性 LSK は陰性 LSK よりも in ナル、MxCre(+)のマウスに様々な造血異常が認められ vitro コロニー形成能が高かった。In vitro での高い増殖 ており、解析を行っている。 能と対照的に in vivo では Evi1 陽性 CML LSK は陰性対 【今後の展望】 照よりも静止期にあり、BCR/ABL 阻害剤抵抗性を示した。 A20 コンディショナル、MxCre(+)のマウスに認めら これらより慢性期 CML において Evi1 陽性細胞の増殖活 れた造血異常について、分子基盤の面から解析を行う。さ 性の高さそして慢性期 CML における治療抵抗性が示唆さ らに、このマウスに造血器腫瘍が発症するかについて検討 れる(いずれも未発表データ)。上記性質を持つ Evi1 陽性 を行い、腫瘍化の分子機構についても解析を行う。 CML 細胞に特徴的なパスウェイ・シグナル異常を解析す るためのさらなる実施計画を以下に示す。BCR/ABL 依存 発表論文 的 / 非依存的なタンパクリン酸化シグナルの差異を細胞免 なし 疫染色により Evi1 陽性 CML LSK と陰性 LSK で検討する。 シグナル経路の遺伝子発現パターンからの解析のためにオ リゴヌクレオチドマイクロアレイを行う。その後 Evi1 特 異的分子標的の in vitro/in vivo における治療標的として の評価(RNAi 及び阻害剤使用)、そして Evi1 ノックアウ トマウス及び候補遺伝子のノックアウトマウスを用いた 38 重点プロジェクト研究⑶ CML に対する予後改善効果の検討を行う。 発表論文 なし 3-34 トランスジェニックマウスを用いた減数分 裂に関与する遺伝子 SCP3 の機能解析 研究組織 代 表 者:宮川 清 (東京大学大学院医学系研究科・教授) 共同研究者:細谷 紀子 (東京大学大学院医学系研究科・講師) 原医研受入研究者:本田 浩章 (組織再生制御研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 SYCP3(SCP3)は、がん精巣抗原の一つであり、正常組 織では生殖細胞における減数分裂期に発現するのみである が、がんにおいては多様な組織由来のヒトのがんで発現して いる。細胞レベルでは、SYCP3 の発現によって、RAD51 を 介する相同組換え修復の機能が抑制され、放射線や DNA 架 橋剤による DNA 損傷に対する感受性が亢進し、染色体の異 数性が誘導されることが観察されている。その機序としては、 SYCP3 が RAD51 機能のメディエーターである BRCA2 と複 合体を形成することによって、その機能を抑制することが判 明している。BRCA2 変異細胞は、PARP 阻害剤に対して著 明な感受性の亢進を示すことが知られているが、SYCP3 発 現細胞も同様な高感受性を有することが明らかになっている。 このように、SYCP3 の発現は、相同組換え修復を抑制する ことによって、がん病態におけるゲノム不安定性に寄与して いることから、その個体レベルでの機能解析を行っている。 CAG プロモーターによって SYCP3 を発現するトラン スジェニックマウスでは、コントロールと比較して生存期 間の短縮が認められた。その原因としては、腫瘍や貧血に よるものが考えられている。3Gy の放射線照射を行った場 合には、トランスジェニックマウスの生存期間は、有意に 短縮した。一方で、化学変異原である MNU を投与した場 合には、生存期間の明らかな差は認められていない。これ らの結果から、放射線などによる DNA 切断が生じた場合 に、SYCP3 が発現していると、DNA 修復機能が低下して いるために、染色体不安定性が誘導され、腫瘍発症のリス クが増加することが想定されている。今後、より多くのマ ウスを解析して、この結果を確認することにより、新たな 発がん機序が確立されることが期待される。 発表論文 なし 39 重点プロジェクト研究⑶ 3-35 3-36 神経幹細胞で観察される選択的染色体分配 における p53 遺伝子の役割 原発性免疫不全症の解析 研究組織 研究組織 代 表 者:小林 正夫 代 表 者:白石 一乗(大阪府立大学理学研究科・助教) (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・教授) 原医研受入研究者:神谷 研二 共同研究者:梶梅 輝之 (分子発がん制御研究分野・教授) (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・助教) 笹谷 めぐみ 溝口 洋子 (分子発がん制御研究分野・助教) (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・大学院生) 津村 弥来 研究内容・研究成果・今後の展望等 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・大学院生) 組織幹細胞は未分化細胞を供給する特殊な細胞であり、 原医研受入研究者:瀧原 義宏 成体の恒常性維持システムにおいて中心的な役割を持つ。 (幹細胞機能学研究分野・教授) 一方で、幹細胞は生涯、分裂複製エラーや周辺環境から の DNA 損傷ストレスに曝されると予想される。幹細胞に 研究内容・研究成果・今後の展望等 生じるゲノム変異は成体にとって致命的であるので、その 原発性免疫不全症候群は出生 10 万人あたり2-3人の ゲノムの安定性に関わる特別な機構の存在が予想されてき 頻度で発症する先天性疾患で、生後早期からの反復性重症 た。幹細胞の DNA 複製において鋳型鎖を含む染色体が選 感染症が特徴である。申請者のグループは、原発性免疫不 択的に幹細胞に分配されることで、複製エラーから逃れる 全症候群のなかでも食細胞異常症に注目して研究を行っ 機構もその一つである。我々は組織幹細胞の1つである、 て お り、 慢 性 肉 芽 腫 症、 先 天 性 好 中 球 減 少 症、MSMD 神経幹細胞を含む神経細胞塊(ニューロスフェアー)は選 な ど の 疾 患 の 解 析 を 精 力 的 に 行 っ て い る。Mendelian 択的染色体分配を行うことを示してきた。本申請研究では Susceptibility to Mycobacterial Diseases; MSMD は、IL- 選択的分配を行う細胞が幹細胞であることと、分配機構が 12/IFN-γ 経路の異常により抗酸菌やサルモネラ菌に代表 p53 遺伝子に依存することを示すために、広島大学原曝放 される細胞内寄生菌に対して易感染性を示す稀な疾患であ 射線医科学研究所と共同研究を行った。 る。今回、多発性骨髄炎を呈し MSMD が疑われる2症例 p53 遺伝子欠損マウスから樹立されたニューロスフェア において STAT1 の SH2 ドメインにヘテロ接合性新規遺 細胞において、染色体の選択的分配が観察されなかった。 伝子変異(K637E, K673R)を同定した。患者末梢血を用 また、p53 遺伝子欠損株、あるいは長期継代細胞株におい いた解析から、IFN-γ に対する TNF-α、IL-12 産生能の低 て、幹細胞マーカー CD133 陽性集団の減少とともに選択 下及び、STAT1 リン酸化の低下を認めたため、常染色体 染色体分体が観察されなくなった。このことは、p53 遺伝 優性遺伝を呈する STAT1 部分欠損症と診断した。本研究 子活性の低下と幹細胞機能維持に関連性があり、結果とし では、MSMD 患者で同定した K637E、K673R 変異の機能 て選択的染色体分配機構が維持できなくなった可能性を示 解析を通して、STAT1 の SH2 ドメインが STAT1 リン酸 唆している。このことをより明らかにするために、RNA 化及び DNA 結合に対して重要な役割を果たしていること 干渉法による p53 遺伝子欠損株作成を行った。ニューロ を示し、STAT1 の機能ならびに STAT1 部分欠損症にお スフェア細胞は浮遊細胞系の幹細胞であり、一般的な遺伝 ける病因の一部を明らかにした。STAT1 は転写因子のな 子導入技術では形質変換できなかった。そのため、我々は かでも、多岐にわたるシグナル伝達に関与し、生体内で重 センダイウィルスの外殻を用いて形質転換を試み、ウェ 要な役割を果たしている分子であるが、STAT1 の異常が スタンブロット法で p53 遺伝子の減少を確認した。現在、 ヒトにどのような影響をもたらすかについては、本症が稀 この p53 遺伝子抑制株で、幹細胞性の保持と選択的染色 少疾患であることもあり十分な検討はされてはいなかっ 体分配が低下するか否かを検証している。 た。本研究は、MSMD 発症機序を明らかにした有意な研 究であり、さらに本症の理解を深めることにより、今後治 発表論文 療へ発展・応用していきたいと考えている。また、原発性 なし。 免疫不全症の多くで、白血病や悪性リンパ腫などの遺伝子 40 重点プロジェクト研究⑶ 異常に基づく悪性腫瘍が高頻度に発生することが知られて いる。本症をはじめとした原発性免疫不全症の病態解明を 進めることにより、放射線障害によるゲノム障害に基づく 発がん機構の理解を深めることができると期待している。 3-37 リンパ球分化を制御する遺伝子発現機構の 解明 研究組織 発表論文 代 表 者:谷内 一郎 現在、投稿中。 (理化学研究所免疫アレルギー科学総合研究 センター・チームリーダー) 共同研究者:田中 宏和 (理化学研究所免疫アレルギー科学総合研究 センター・基礎科学特別研究員) 原医研受入研究者:稲葉 俊哉 (がん分子病態研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 本研究はリンパ球分化を制御する遺伝子発現機構の解明 することを目的としている。 T リンパ球は外部刺激に応答し、多様に分化増殖する ことで細胞特異的な機能を獲得し、免疫反応を制御する。 我々は T リンパ球の分化運命決定機構で重要な機能を果 たす因子として Runx 転写因子を同定している。本研究は ChIP-sequence を行い、Runx 転写因子およびその相互作 用因子である Bcl11b の結合プロファイルを包括的に捉え ることで、リンパ球分化を制御する遺伝子発現機構解明を 促進することを目的としている。 平成 22 年度に、マウス胸腺細胞を研究材料に、抗 Cbfb 抗体、抗 Bcl11b 抗体を用いて ChIP-sequence を施行し、 Runx 転写因子及び Bcl11b 転写因子の結合部位の同定を 行った。その結果、新規の Runx 転写因子と Bcl11b 転写 因子の共結合部位を幾つか同定出来た。 今年度は、これらの結合部位の生物学的な特性の解析を 進めている。また、新たな ChIP-sequence 解析を行うた めの実験系の開発を進めた。 発表論文 まだありません。 41 重点プロジェクト研究⑶ 3-38 In vitro におけるヒト末梢血 B 細胞培養系 の確立と応用 スポリン、タクロリムス、mTOR 阻害剤:ラパマイシン、 ステロイド:メチルプレドニゾロンなど)がどのように抑 制効果を持つのかを検証する予定である。 研究組織 発表論文 代 表 者:大段 秀樹 和文 今日の移植 2012. Vol.25 No.3 236-238 (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・教授) 学会報告 アメリカ移植学会 2012 ポスター 共同研究者:田中 友加 ABO 血液型不適合移植研究会 2012 口演 (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・助教) 第 48 回日本移植学会総会 一般口演 五十嵐 友香 (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・研究員) 田澤 宏文 (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・大学院生) 山下 正博 (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・大学院生) 佐々木 由布 (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・研究助手) 堀田 龍一 (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・大学院生) 石田 裕子 (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・契約技能員) 原医研受入研究者:岡田 守人 (腫瘍外科研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 私達は移植免疫、特に血液型不適合移植や既存抗体陽性 症例における B 細胞応答を明らかにすることでより安全 な移植の提供と、移植適応拡大を目的としている。 臨床においては各種免疫抑制剤による抗体産生抑制効果 が認められているが、B 細胞に対する詳細な抑制効果は一 定の見解が得られていない。 そこで私達は In vitro で B 細胞を培養、増殖、分化さ せる方法を確立した。B 細胞の BCR を Anti-IgM F(ab)’2 で架橋すると B-1a 細胞が得られ、そこにさらに LPS を加 えると B-1b 細胞に分化する。また、BAFF と CD40L を 遺伝子導入したマウス 3T3 細胞に対して 120Gy の放射線 照射する。この細胞をフィーダー細胞としてこの細胞上で B 細胞を培養すると B-2 細胞に分化する。実際にこの方法 により得られた細胞が B 細胞亜群に分化していることを CD5 という細胞表面マーカーについてフローサイトメト リーで解析した。 この培養方法を用いて各 B 細胞亜群に対し、各免疫抑 制剤(核酸合成阻害剤:ミゾリビン、デオキシスパーガリ ン、ミコフェノール酸、カルシニューリン阻害剤:シクロ 42 重点プロジェクト研究⑶ 3-39 3-41 有機天然化合物のアポトーシス誘導および 介入の作用機序解析 造血器腫瘍におけるエピゲノム異常の発症 メカニズムの解明 研究組織 研究組織 代 表 者:泉 俊輔 代 表 者:坂田 麻実子(筑波大学血液内科・講師) (広島大学大学院理学研究科・教授) 共同研究者:榎並 輝和 (筑波大学血液内科・大学院生) 共同研究者:増田 充志 原医研受入研究者:松井 啓隆 (広島大学大学院理学研究科・大学院生) (がん分子病態研究分野・准教授) 原医研受入研究者:河合 秀彦、飯塚 大輔 (放射線細胞応答研究分野・助教) 研究内容・研究成果・今後の展望等 近年、TET ファミリータンパク質によって 5- メチルシ 研究内容・研究成果・今後の展望等 トシン(5mC)が 5- ハイドロキシメチルシトシン(5hmC) カラタチ(Poncirus trifolaita)の果皮から単離・構造 に変換されることが明らかとなり、このタンパク質が 決定された Auraptene は抗腫瘍活性および抗肥満活性を DNA 脱メチル化機構の一端を担っていると推測されてい 持つ化合物である。本研究では、長鎖アルキルクマリン類 る。同時にこのファミリーに属する TET2 遺伝子の機能 を合成し、ヒト白血病細胞株 Jurkat 細胞(p53 欠損株)、 欠損型変異が、様々な骨髄系腫瘍で高頻度に認められるこ Nalm-6 細胞(p53 野生型)を用いて、合成したクマリン とが報告されてきた。TET2 欠損マウスが骨髄系腫瘍に類 類による細胞死の誘導メカニズムを解析した。その結果、 似した病態を呈することも報告され、TET2 機能異常によ 長鎖アルキルクマリン誘導体により誘導される細胞死は濃 るエピジェネティク制御機構の破綻が骨髄系腫瘍の発症に 度依存的に進行することがわかり、その EC50 値は 140µM 関わっていると推測されている。そこで我々は、TET2 遺 であった。また、この細胞死は時間依存的に進行し、9時 伝子異常がもたらす、ヒト血液細胞の維持・分化・増殖へ 間でほぼ 90%の細胞に細胞死が誘導されることがわかっ の影響を解析し、造血器疾患発症のメカニズムを解明する た。 ことを目指し、研究を行っている。 次に長鎖アルキルクマリン誘導体により誘導される細胞 まず、臍帯血由来の造血前駆細胞分画(CD34 陽性細胞) 死のシグナル経路探索を行うために、Western blotting 解 に対し、RNA 干渉法により TET2 をノックダウン(KD) 析を用いて、カスパーゼ類の活性化の経時変化を調べた。 した。半固形培地を用いたコロニーアッセイにて in vitro その結果、Jurkat 細胞でも Nalm-6 細胞でも Caspase-3 の での分化増殖能を検討したところ、KD 群では赤血球系コ 活性化が起こることがわかった。これらの結果から、長鎖 ロニー数が有意に少なく、コロニーをリプレートできる回 アルキルクマリン誘導体による細胞死がアポトーシスに 数が多かった。また、フローサイトメトリーを用いて赤血 よるものであることが示された。さらに、Caspase-8 の活 球系への分化を解析したところ、KD 群では分化が遅れ、 性化がみられたことから、長鎖アルキルクマリン誘導体に 相対的に幼弱赤芽球(CD71 陽性 GPA 陰性分画)の割合 よって誘導されるアポトーシスはデスレセプターを介した が増加していた。これらの結果は TET2 遺伝子が造血前 経路であることが示唆された。 駆細胞の分化に影響を与えることを示唆している。そこで、 TET2 発現変化に伴う関連遺伝子群の発現量変化を明らか 発表論文 にするため、TET2-KD 群及び control 群それぞれより上 なし 記の幼弱赤芽球を回収して total RNA を抽出した。これ を材料とし、広島大学原医研の次世代シークエンサーを用 いて mRNA sequencing を行った。現在その結果を解析し、 造血に関わる TET2 の標的遺伝子を同定する予定である。 発表論文 なし 43 重点プロジェクト研究⑶ 3-42 3-43 EVI1 高発現白血病細胞における接着依存 性の薬剤耐性の制御機構の解析 EBV 関連リンパ腫における小分子 RNA の 網羅的解析 研究組織 研究組織 代 表 者:森下 和広(宮崎大学医学部・教授) 代 表 者:幸谷 愛 共同研究者:兼田 加珠子(宮崎大学医学部・助教) (東海大学創造科学技術研究機構・特任准教授) 原医研受入研究者:金井 昭教 共同研究者:平林 直己 (附 属放射線先端医学実験施設・特任 (東海大学創造科学技術研究機構・技術補佐員) 助教) 呂 軍 (東海大学創造科学技術研究機構・奨励研究員) 研究内容・研究成果・今後の展望等 原医研受入研究者:松井 啓隆 転写因子 EVI1 の高発現する白血病細胞は予後不良であ (がん分子病態研究分野・准教授) る。白血病の病態において、EVI1 は様々な遺伝子を制御 していることが知られつつある。本研究においては、高発 研究内容・研究成果・今後の展望等 現白血病細胞株を材料とし、EVI 及び GATA2 の抗体を EBV 関連リンパ腫は、EBV がコードする miRNA が発 用いて精製した ChIP DNA を用い、次世代シークエンサー 現し、レトロトランスポゾンが活性化するなど、他の造血 を用いてシークエンスすることにより正確な結合候補領域 系腫瘍とは異なる特徴的な性質を持つ。そこで、ゲノムの を同定することを目的とした。本研究を行うことにより、 ごみと考えられてきた小分子 RNA の発現プロファイルを EVI1 及び GATA2 が結合し、活性化される遺伝子の網羅 網羅的に解析し、レトロトランスポゾンの働きを抑制す 的解析を行うことが可能になる。 る endo-siRNA の発現の有無、および EBV コード小分子 EVI1 高発現白血病細胞株の培養及び ChIP DNA の調整 RNA の発現の多寡を調べるために EBV 関連リンパ腫細 は宮崎大学にて実施した。宮崎大学にて ChIP DNA を抽 胞株に対して小分子 RNA に対する次世代シークエンス解 出した後、定量後広島大学原爆放射線医科学研究所に送付 析を行い、網羅的な発現解析を行った。 し、次世代シークエンサーを用いて結合配列を同定した。 その結果、新規小分子 RNA など興味深い小分子 RNA 本研究により、これまで我々がプロモーターアッセイ等 が同定された。 で絞り込んで来た転写制御領域をより狭め、更なる実験を 今後はそれらに対して機能解析を行う。 行う基礎データを得る事が出来た。今後このデータを元に 更なる検討を行い、EVI1 による接着依存性の薬剤耐性の 制御機構の解明を目指したい。 本研究は、転写因子 EVI1 によって制御される白血病の 予後不良の本態(CAM-DR における接着性制御機構等) を絞り込む為に実施した。今後、EVI1 の関係する分子メ カニズムが明らかとなり、白血病の niche への接着性に依 存する抗がん剤耐性性の獲得機構の解明が進めば、白血病 の新規治療法への応用も進むと考えられる。 今後の展望として、白血病細胞における再現性のみなら ず、幹細胞等サンプルを変えて同様の実験が考えられる。 転写因子 EVI1 によるさらなる遺伝子の制御機構の解明へ 広げていくことで、白血病そのものの発症機構へ切り込ん で行く足がかりになると期待できる。 44 重点プロジェクト研究⑷ 4-1 4-2 被ばく後投与で放射線防御作用を示す化合 物の培養細胞への作用の解析 放射線被曝のバイオドジメトリーを志向し た尿プロテオーム解析 研究組織 研究組織 代 表 者:安西 和紀(日本薬科大学薬学部・教授) 代 表 者:泉 俊輔 共同研究者:窪田 洋子(日本薬科大学薬学部・准教授) (広島大学大学院理学研究科・教授) 土田 和徳(日本薬科大学薬学部・講師) 共同研究者:吉岡 進 高城 徳子(日本薬科大学薬学部・講師) (広島大学大学院理学研究科・大学院生) 関根 絵美子 原医研受入研究者:河合 秀彦、飯塚 大輔 (独立行政法人放射線医学総合研究所・研究員) (放射線細胞応答研究分野・助教) 原医研受入研究者:細井 義夫 (放射線医療開発研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 放射線被ばくにおける事故・災害に際しては、広範な被 研究内容・研究成果・今後の展望等 ばくを疑われる者に対して迅速かつ正確な被ばく線量の推 放射線の発見以来、放射線の有する有害作用をいかに防 定・リスク評価が重要である。本研究では、原子力施設等 ぐかという研究努力がなされてきたが、薬剤(化学物質) の事故を想定し、災害時でも非侵襲的かつ簡便に採取がで を投与することによって放射線障害を防護・低減化する放 きる尿検体を用いた新規バイオドシメトリー(生物学的線 射線影響修飾剤研究も長い歴史を持つ。申請者は最近、マ 量評価法)の構築を目指した。 ウスを用いた実験で、放射線被ばく後に投与して放射線防 4.0 Gy 照射後 24 時間が経過したマウス尿検体を HPLC 御作用を示す化合物をいくつか見出した。これらの化合物 により分取し、各フラクションを MALDI-TOF MS 測定 は抗酸化作用以外の別な機構で作用して放射線防御作用を した。その結果 m/z 2820 のイオンが被ばくにより大きく 示していることが考えられるが、それらの作用機構につい 増加した。これを MS/MS 測定の後、相同性検索により てはほとんど解明されておらず、分子機構の解明が必要で 同定したところ、Hepcidin 2 であることがわかった。次 ある。ここでは、これら化合物のうち γ-トコフェロールジ にこの尿中 Hepcidin 2 の被ばく後の経時変化をみるため、 メチルグリシンエステル(γ-TDMG)について、培養細胞 各尿検体を脱塩し、MALDI-TOF MS 測定した。その結果、 モデルを用い、X 線照射による細胞死に対する防御作用を 被ばく後の尿中 Hepcidin 2 は被ばく線量が増すにつれて 検討した。 増加し、また最大値を迎える時間も遅くなることがわかっ 細胞としては、ヒト繊維芽細胞培養株 KMST-6 およ た。さらに 0.25 Gy、0.50 Gy の低線量では、被ばく後4 び ヒ ト 神 経 膠 芽 種 細 胞 培 養 株 U-87 を 用 い た。γ-TDMG ~7日後で2度目の増加をすることも明らかとなった。 を MEM 培 地 に 溶 解 し、 培 養 細 胞 に 添 加 し た と こ ろ、 γ-TDMG が 100μM までは細胞生存率への影響はなく、毒 発表論文 性は低いことが確認された。KMST-6 細胞株に対して、様々 なし な濃度の γ-TDMG 存在下に 4 Gy X 線を照射し、細胞生存 率をコロニー法で調べたところ、濃度依存的に生存率が上 昇し、100μM では無添加の場合の約2倍の生存率となっ た。γ-TDMG 濃度を 100μM に固定し、その添加時期を X 線照射時期に比べて前後に変えて生存率を測定したとこ ろ、γ-TDMG を X 線照射 15 分後に添加した時に最も高い 生存率が認められた。U-87 細胞株を用いた場合にも、同 様な結果が得られた。これらの結果は、これまでマウスで 得られている結果とよく対応している。今後は、これらの 効果の分子メカニズムについて検討したい。 45 重点プロジェクト研究⑸ 5-1 造血幹細胞制御の分子基盤の研究 2008)。造血幹細胞の活性制御における 2 大内的因子とも いえる HOX 遺伝子(HOXA9 及び HOXB4)と PcG 複合 体1がともに Geminin の分解制御を介して造血幹細胞の 研究組織 活性を制御していることから、Geminin が造血幹細胞の活 代 表 者:菅野 雅元 性制御における中核因子として機能していることが推測 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・教授) された。従って、造血幹細胞の活性制御における Geminin 共同研究者:黒木 利知 の分子機能を詳細に明らかにすることが、ex vivo におけ (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・大学院生) る造血幹細胞の増幅技術の開発につながるのではないかと JANAKIRAMAN HARINARAYANAN 考え、解析を進めている。 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・大学院生) 敦 芸 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・大学院生) 原医研受入研究者:瀧原 義宏 (幹細胞機能学研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 本研究は、造血幹細胞の体外増幅法を開発するための 基礎理論の確立を目指し、HOX 遺伝子による造血幹細胞 制御の分子基盤の解析を行った。HOX 遺伝子の一員であ る HOXB4 は現在知られている最も強力な造血幹細胞増幅 因子であり、ex vivo において ES 細胞や iPS 細胞から造 血幹細胞を誘導することもできる唯一の因子である。そ のため、HOXB4 による造血幹細胞の活性制御機構につい ての研究が世界中で行われてきたが、その分子基盤につ いて充分な理解が得られていなかった。前年度までの研 究で、HOXB4 がユビキチンリガーゼのコア複合体である ROC1-DDB1-CUL4A と結合して RDCOXB4 複合体を形成 し、DNA 複製ライセンス化を制御する Geminin に対して E3 ユビキチンリガーゼとして機能することで造血幹細胞 の活性を制御していることを明らにした(PNAS 2010)。 そこで、本年度は造血幹細胞を活性化することのできる 他の HOX 遺伝子(HOXA9、NUP98-HOXA9 など)に注 目し解析を進めた。その結果、HOXB4 と同じく造血幹細 胞を増幅させることが知られている、HOXA9 も RDCOX 複合体を形成し、Geminin に対する E3 ユビキチンリガー ゼ活性を持つことを明らかにした。そして、HOXA9 も Geminin タンパク質の分解制御を介して造血幹細胞へ増殖 活性を付与することで造血幹細胞の活性を制御しているこ とを明らかにした(論文投稿中)。一方我々はこれまでの 研究で、造血幹細胞の活性を制御する内的因子であるポリ コーム(PcG)複合体 1 もまた、Geminin に対する E3 ユ ビキチンリガーゼ活性をまち、PcG 複合体による Geminin タンパク質の分解制御を行い、造血幹細胞の活性を支持 する上で重要な役割を果たしていることを示した(PNAS 46 重点プロジェクト研究⑸ elimination and long-term depression in Purkinje cells 5-2 脳虚血に伴うストレス応答物質の解析 in vivo. J. Neuroscience 31 (2011) 14324-14334 (6)S a k a i , N . , 他 M o l e c u l a r p a t h o p h y s i o l o g y o f 研究組織 neurodegenerative disease caused by γPKC mutations. 代 表 者:酒井 規雄 World J. Biol. Psychiatry 12(S1) (2011) 95-98 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・教授) (7)S eki, T., Sakai. N. 他 Establishment of a novel 共同研究者:田中 茂 fluorescence-based method to evaluate chaperone- (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・助教) mediated autophagy in a single neuron PLoS ONE 7 土肥 栄祐 (2012) e31232 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・大学院) (8)D ohi, E., Sakai, N. 他 Hypoxic stress activates 原医研受入研究者:田代 聡 chaperone-mediated autophagy and modulates (細胞修復制御研究分野・教授) neuronal cell survival. Neurochem. Int. 60 (2012) 431442 研究内容・研究成果・今後の展望等 脳梗塞では血管閉塞後、様々なストレス応答と神経再生 現象が観察される。この共同研究では低酸素や酸化ストレ スに対する神経細胞応答や神経幹細胞の分化修飾を、遺伝 子・蛋白発現解析により解明することを本共同研究の目的 としている。本年度は、Neuro2A 細胞とラットの中大脳 動脈閉そくモデルを用いて、選択的タンパク分解系の一つ であるシャペロン介在性オートファジー(CMA)の関与 を調べた。その結果、低酸素ストレスにより CMA が活性 化され、低酸素ストレスによる神経細胞死に対し CMA が 保護的に働くことが判った。今後、更に CMA の神経細胞 生存に対する役割やメカニズムを解明する予定である。 発表論文 (1)Yanase, Y., Sakai, N. 他 A critical role for conventional protein kinase C in morphological changes of rodent mast cells. Immunol. Cell Biol. 89 (2011) 149-159 (2)Harada, Sakai, N. 他 Extracellular ATP differentially modulates Toll-like receptor 4-mediated cell survival and death of microglia. J. Neurochem. 116 (2011) 11381147 (3)Shirai, Y. Sakai, N., Saito, N. 他 Direct binding of RalA to PKCη and its crucial role in morphological change during keratinocytes differentiation. Mol. Biol. Cell 22 (2011) 1340-1352 (4)Seki, T., Sakai, N. 他 Elucidation of the molecular mechanism and exploration of novel therapeutics for spinocerebellar ataxia caused by mutant protein kinase Cϒ. J. Pharmacol. Sci. 116 (2011) 239-247 (5)Shuvaev, A.N., Sakai, N. Hirai, H. 他 Mutant PKCγ in spinocerebellar ataxia type 14 disrupts synapse 47 重点プロジェクト研究⑸ 5-3 5-4 血管内皮細胞機能解析に関する研究 心筋細胞機能解析に関する研究 研究組織 研究組織 代 表 者:田口 明 代 表 者:高橋 将文 (松本歯科大学大学院歯学独立研究科・教授) (自治医科大学分子病態治療研究センター 原医研受入研究者:東 幸仁 (ゲノム障害病理研究分野・教授) バイオイメージング研究部・教授) 原医研受入研究者:東 幸仁 (ゲノム障害病理研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 放射線による造血器障害は、骨髄などの造血幹細胞移植 研究内容・研究成果・今後の展望等 などによる治療法がある程度確立されている。しかし、放 放射線による造血器障害は、骨髄などの造血幹細胞移植 射線による致死的な障害となる血管障害に対する治療法は などによる治療法がある程度確立されている。しかし、放 未だ確立されていない。そこで、本研究では、放射線によ 射線による致死的な障害となる心筋障害に対する治療法は る高度の血管障害に対する骨髄単核球細胞、間葉系幹細胞、 未だ確立されていない。そこで、本研究では、放射線によ 脂肪組織由来幹細胞などを用いた新しい細胞療法の確立を る高度の心筋障害に対する骨髄単核球細胞、間葉系幹細胞、 目指す上で、血管の構成上非常に重要な血管内皮細胞の機 脂肪組織由来幹細胞などを用いた新しい細胞療法の確立を 能解析を行う。 目指す上で、心臓の構成上非常に重要な心筋細胞の機能解 本研究により細胞療法、細胞修復・再生バイオ技術を用 析を行う。 いた循環器領域の緊急被ばく医療を確立することは国民全 本研究により細胞療法、細胞修復・再生バイオ技術を用 体の利益につながり国際協力にも寄与する。再生医療・細 いた循環器領域の緊急被ばく医療を確立することは国民全 胞療法を組織的に有事利用するシステムの構築を目指し 体の利益につながり国際協力にも寄与する。再生医療・細 て、緊急被ばく医療として未だ確立されていない血液細胞 胞療法を組織的に有事利用するシステムの構築を目指し 以外の細胞療法、細胞修復・再生バイオ技術の開発に取り て、緊急被ばく医療として未だ確立されていない血液細胞 組むことにより世界に先駆けての緊急被ばく医療における 以外の細胞療法、細胞修復・再生バイオ技術の開発に取り 循環器領域での細胞治療の開発につながる。 組むことにより世界に先駆けての緊急被ばく医療における 循環器領域での細胞治療の開発につながる。 発表論文 なし。 発表論文 なし。 48 重点プロジェクト研究⑸ 5-5 5-6 大腸癌の増殖・進展における骨髄由来間葉 系幹細胞の重要性に関する研究 脈管系細胞機能解析に関する研究 研究組織 研究組織 代 表 者:中島 歩(広島大学大学病院再生医療部・助教) 代 表 者:茶山 一彰 原医研受入研究者:東 幸仁 (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・教授) (ゲノム障害病理研究分野・教授) 共同研究者:北台 靖彦 (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・准教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 品川 慶 放射線による造血器障害は、骨髄などの造血幹細胞移植 (広島大学病院内視鏡診療科・医科診療医) などによる治療法がある程度確立されている。しかし、放 原医研受入研究者:東 幸仁 射線による致死的な障害となる血管ならびに心筋障害に対 (ゲノム障害病理研究分野・教授) する治療法は未だ確立されていない。そこで、本研究では、 放射線による高度の血管・心筋障害に対する骨髄単核球細 研究内容・研究成果・今後の展望等 【研究内容】 胞、間葉系幹細胞、脂肪組織由来幹細胞などを用いた新し い細胞療法の確立を目指す上で、血管、心臓の構成上非常 近年、骨髄由来の間葉系幹細胞(MSC)は創傷部位の に重要な血管内皮細胞ならびに心筋細胞の機能解析を行 みならず腫瘍間質へも動員されることが報告されている。 う。今回、間葉系幹細胞の機能、代謝に関する研究を行った。 しかし腫瘍微小環境における MSC と腫瘍細胞の相互作用 についていまだ明らかにされていない。また、癌間質に 発表論文 おける活性化線維芽細胞は癌関連線維芽細胞(Carcinoma- 1. Ueno T, Nakashima A, Doi S, Kawamoto T, Honda K, Associated Fibroblast: CAF)と称されており癌の増殖、 Yokoyama Y, Doi T, Higashi Y, Yorioka N, Kato Y, 進展に関わると考えられているが、その由来は明らかでは Kohno K, Masaki T. Mesenchymal Stem Cells Ameliorate ない。 Experimental Peritoneal Fibrosis by Suppressing そこで本研究では、癌間質相互作用における MSC の重 Inflammation and Inhibiting TGF-b1 Signaling. Kidney 要性についてヌードマウス同所移植モデルを用いて検討し Int. 2013; (in press). た。 【研究成果】 2. Ohtsubo S, Ishikawa M, Kamei N, Kijima Y, Suzuki O, Sunagawa T, Higashi Y, Masuda H, Asahara T, Ochi M. ヒト骨髄由来 MSC は腫瘍間質に取り込まれ、CAF 様 The therapeutic potential of ex vivo expanded CD133+ 細胞に分化し、血管新生促進やアポトーシス阻害を介して cells derived from human peripheral blood for peripheral 腫瘍増殖・進展を促進することが示唆された。 nerve injuries. J Neurosurg. 2012; 117: 787-794. 【今後の展望】 3. Mori R, Kamei N, Okawa S, Nakabayashi A, Yokota MSC が大腸癌の増殖・進展において重要な役割を持つ K, Higashi Y, Ochi M. Promotion of skeletal muscle ことが明らかにされたが、最終目標は MSC により形成さ regeneration in rat skeletal muscle injury model by local れる腫瘍間質の腫瘍促進作用に関与する重要な増殖因子や injection of human adipose tissue-derived regenerative サイトカインを同定し、その結果をもとに間質を構成する cells. J Tissue Eng Regen Med. 2013; (in press). 細胞をターゲットとした新しい治療法を開発することにあ る。 4. Maruhashi T, Soga J, Idei N, Fujimura N, Mikami S, Iwamoto Y, Kajikawa M, Matsumoto T, Kihara Y, Chayama K, Noma K, Nakashima A, Tomiyama H, 発表論文 Takase B, Yamashina A, Higashi Y. Hyperbilirubinemia, 1. S h i n a g a w a K , K i t a d a i Y , T a n a k a M , e t a l . : augmentation of endothelial function and decrease in Mesenchymal stem cells enhance growth and oxidative stress in Gilbert syndrome. Circulation. 2012; metastasis of colon cancer. Int J Cancer 127:2323-2333, 126: 598-603. 2010 49 重点プロジェクト研究⑸ 5-7 循環器疾患における再生医療に関する研究 Chayama K, Noma K, Higashi Y. Flow-mediated vasodilation is augmented in a corkscrew collateral artery compared with that in a native artery in 研究組織 patients with thromboangiitis obliterans (Buerger 代 表 者:木原 康樹 disease). J Vasc Surg. 2011 Dec ; 54(6):1689-97. (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・教授) 4. Idei N, Soga J, Hata T, Fujii Y, Fujimura N, Mikami S, 共同研究者:丸橋 達也 Maruhashi T, Nishioka K, Hidaka T, Kihara Y, (広島大学大学院医歯薬保健学研究科・大学院生) Chowdhury M, Noma K, Taguchi A, Chayama K, 三上 慎祐 Sueda T, Higashi Y. Autologous bone-marrow (広島大学大学院医歯薬保健学研究科・大学院生) mononuclear cell implantation reduces long-term 岩本 由美子 major amputation risk in patients with critical limb (広島大学大学院医歯薬保健学研究科・大学院生) ischemia: a comparison of atherosclerotic peripheral 松本 武史 arterial disease and Buerger disease. Circ Cardiovasc (広島大学大学院医歯薬保健学研究科・大学院生) Interv. 2011 Feb 1 ; 4(1):15-25. 梶川 正人 (広島大学大学院医歯薬保健学研究科・大学院生) 原医研受入研究者:東 幸仁 (ゲノム障害病理研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 末梢動脈閉塞をきたす代表的疾患としての ASO とバー ジャー病を標的とし、骨髄由来の内皮前駆細胞(EPC)の 病変局所への注入が、患者の予後や QOL を改善するかど うかについて検討した。その結果、EPC 局所投与により 両者の予後(救肢率)および QOL が格段に改善すること が示された。一方 ASO はバージャー病ほどの改善効果は 認められず、その相違は末梢血液内の EPC 動員能と関係 している可能性が示唆された。今後は動物実験などを進め ることにより、EPC の効果発現機序やその誘導改善方法 の開発などに取り組んでゆく。 発表論文 1. Noma K, Kihara Y, Higashi Y. Striking crosstalk of ROCK signaling with endothelial function. J Cardiol. 2012 May 16. [Epub ahead of print] PubMed PMID: 22607993. 2. Fujimura N, Jitsuiki D, Maruhashi T, Mikami S, Iwamoto Y, Kajikawa M, Chayama K, Kihara Y, Noma K, Goto C, Higashi Y. Geranylgeranylacetone, heat shock protein 90/AMP-activated protein kinase/ endothelial nitric oxide synthase/nitric oxide pathway, and endothelial function in humans. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2012 Jan ; 32(1):153-60. 3. Fujii Y, Fujimura N, Mikami S, Maruhashi T, Kihara Y, 50 重点プロジェクト研究⑸/重点プロジェクト研究⑹ 5-8 6-1 血管内皮前駆細胞機能解析に関する研究 動物モデルを使った放射線により誘発する 循環器疾患の研究 研究組織 代 表 者:後藤 力 研究組織 (広島国際大学保健医療学学部・准教授) 代 表 者:高橋 規郎 原医研受入研究者:東 幸仁 (財団法人放射線影響研究所遺伝学部・研究員) (ゲノム障害病理研究分野・教授) 共同研究者:丹羽 保晴 (財団法人放射線影響研究所放射線生物/分 研究内容・研究成果・今後の展望等 子疫学部・研究員) 放射線による造血器障害は、骨髄などの造血幹細胞移植 楠 洋一郎 などによる治療法がある程度確立されている。しかし、放 (財団法人放射線影響研究所放射線生物/分 子疫学部・部長) 射線による致死的な障害となる血管ならびに心筋障害に対 する治療法は未だ確立されていない。そこで、本研究で 原医研受入研究者:稲葉 俊哉 は、放射線による高度の血管・心筋障害に対する骨髄単核 (がん分子病態研究分野・教授) 球細胞、間葉系幹細胞、脂肪組織由来幹細胞などを用いた 新しい細胞療法の確立を目指す上で、血管、心臓の構成上 研究内容・研究成果・今後の展望等 非常に重要な血管内皮細胞ならびに心筋細胞の機能解析を モデル動物として脳卒中易発症系高血圧自然発症ラット 行う。 系統(SHRSP)を使用した。5週齡のオスラットに高線 今後はより詳細な研究方法の具体的な展開を検討してい 量率(1Gy /分)のガンマ線(4, 2, 1Gy)を単回全身照射 るところである。 したものを照射群とし、同週齡の非照射ラットを対照群 とした。用いたラットの匹数は、4Gy(11)、2Gy(8)、1Gy 発表論文 (10)、OGy 対照(10)である。実験は、①寿命を観察する ために、死亡するまで飼育、または②病理組織学的検索用 の新鮮試料を得るために、卒中様症状を示した直後に解剖 し病理検索を実施すると言う2通りの手順で行った。ラッ トへの放射線照射および飼育は広島大学原爆放射線医科学 研究所で、病理検索は環境科学技術研究所でそれぞれ実施 した。【結果】①寿命は、照射群で非照射群に比べ、統計 的に有意な短縮が認められた。②血管病変の広がり、重篤 度は、照射群で非照射群に比べて有意に顕著であることが 病理組織学的検索で確認された。今後、さらに低線量照射 したラットを用いた実験を行うこととする。 発表論文 51 重点プロジェクト研究⑹ DOI:10.1016/j.radmeas. 2011. 05. 008. 6-2 国際規格化に向けた人の歯の ESR 線量計 測方法の確立 K. Zhumadilov, A. Ivannikov, D. Zharlyganova, V. Stepanenko, Z. Zhumadilov, K. Apsalikov, S. Toyoda, S. Endo, K. Tanaka, C. Miyazawa, T. Okamoto, M. Hoshi 研究組織 (2011) The influence of the Lop Nor Nuclear Weapons 代 表 者:豊田 新(岡山理科大学理学部・教授) Test Base to the population of the Republic of 原医研受入研究者:星 正治 Kazakhstan, Radiation Measurements, Elsevier, 46, 425- (線量測定・評価研究分野・教授) 429. カシム ズマディーロフ (線量測定・評価研究分野・特任准教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 大規模な放射線事故といった、計測用の特別の線量計素 子を持たない公衆が被曝する場面で、人の歯を用いた電子 スピン共鳴(ESR)被曝線量計測は、頭部のみの線量では あるが、公衆一人ひとりの個々の被曝線量を定量できると いう利点があるために重要な技術として注目され、技術の 開発が進んできた。人の歯などを用いた ESR 線量計測に ついて、国際標準化機構(ISO)による国際規格化に向けて、 規格化の作業が進んでおり、現在委員会原案について検討 されている。本研究では、この国際規格化が実現された時 に、実際の事故被曝の線量計測において必要となる次の点 を検討する。⑴実際の事故被曝線量の計測において差し引 く必要のある、日本人のバックグラウンド線量を定量的に 求める。⑵感度の規格化のための、適切な標準試料を作製 する。 日本人のバックグラウンドについては、福島の住民につ いて原子力発電所事故以前のバックグラウンドの値を求め ることができた。これをより正確にするため、バックグラ ウンド線量のない歯について標準照射を行った。今後測定 を進める予定である。 感度の規格化のための標準試料については、石炭が適切 ではないかという結論になっており、今後信号の安定性、 規格化の方法について測定、検討を進める予定である。 発表論文 S. Toyoda, S. Pivovarov, M. Hoshi, T. Seredavina (2012) 90 Sr in mammal teeth taken in the Semipalatinsk Test Site measured by imaging plates. IPSHU English Research Report Series, 28, 119-122. S. Toyoda, A. Kondo, K. Zhumadilov, M. Hoshi, C. Miyazawa, A. Ivannikov (2011) ESR measurements of background doses in teeth of Japanese residents, Radiation Measurements, Elsevier, 46, 797-800, 52 自由研究 F-1 バクテリア変異株のゲノム解析 研究組織 の phoUrevB は MOPS 培地中では継代を繰り返しても安定 してポリリン酸の蓄積を示した。ダイレクトシークエン スの結果、phoB に変異点が見出された。現在その変異が phoB の機能に及ぼす影響を解析している。 代 表 者:廣田 隆一 (広島大学大学院先端物質科学研究科・助教) 発表論文 原医研受入研究者:松井 啓隆 なし (がん分子病態研究分野・准教授) 金井 昭教 (附属放射線先端医学実験施設・特任助教) 研究内容・研究成果・今後の展望等 申請者らの研究グループでは、これまでにバクテリアの リン酸レギュロンの抑制因子である phoU が不活性化する と大量のポリリン酸(無機リン酸のポリマー)が蓄積する ことを発見した。しかしながら、phoU 変異株の多くは不 安定であり、増殖の経過と共にポリリン酸を蓄積しなくな る復帰変異株(リバータント)を生じやすいという問題が あることが分かった。この問題の解決の糸口として、申 請者は NTG 変異によってポリリン酸を安定に蓄積する大 腸菌の phoU 変異株(MT4, #29)を取得した。この株は、 多重変異により phoU 変異株の不安定性に関わる遺伝子、 あるいは安定化に関わる遺伝子に変異が生じていると考え られた。そこで、本研究ではこの変異株の全ゲノム配列を 解読することにより、変異遺伝子を同定し、phoU 変異株 の不安定性機構を解明する事とした。 これまでに、MT4, #29 の全ゲノム配列を解読したと ころ、両者の共通変異点が 15 ヶ所存在することが明らか になった。これらの遺伝子の破壊株、過剰発現株を作製 し、phoU 変異株の安定性に関わる遺伝子の同定を進め たが、原因遺伝子と考えられるものを得ることは出来な かった。そこで、phoU 単独破壊株から生じるリバータン ト 50 株以上の解析を行った。これまでに、PhoU リバー タントに生じる変異はリン酸輸送体 Pst とリン酸レギュ ロンの転写因子 PhoB がターゲットであることが確認さ れた。このうち、PhoB をターゲットとしたリバータント (phoUrevB)の変異点解析を行い、phoUrevB には変異のタイ プが異なるバリアントが多数存在する事を明らかにした。 さらに、非常に興味深いことに、これらのバリアントの 中には、グルコースを炭素源とした完全合成培地(MOPS 培地)中で、著量のポリリン酸蓄積を示すものが存在し た。この phoUrevB は点変異による PhoB の部分的な構造変 化によって、PhoR-B 二成分制御系シグナルの受容形式あ るいは転写機構が変化していると推察された。さらに、こ 53 自由研究 F-2 F-3 脳機能に関するゲノム科学的研究 環境汚染物質の甲状腺ホルモン撹乱作用に おけるヒトリスク評価 研究組織 代 表 者:内匠 透 研究組織 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・教授) 代 表 者:太田 茂 共同研究者:玉田 紘太 (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・教授) (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・特任助教) 共同研究者:佐能 正剛 山脇 洋輔 (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・助教) (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・研究員) 松原 加奈(広島大学薬学部・6年生) Akanmu Moses Atanda 原医研受入研究者:藤本 成明 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・研究員) (疾患モデル解析研究分野・准教授) 梅田 稔子 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・研究員) 研究内容・研究成果・今後の展望等 仲川 涼子 環境化学物質の甲状腺ホルモン撹乱作用により胎児期の (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・研究員) 発達障害などが懸念されている。広く環境中に存在してい 黒坂 哲 る化学物質の中で、甲状腺ホルモン類似構造を有する臭素 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・特任助教) 化難燃剤、医療用医薬品や動物用医薬品を取り上げ、リス 中井 信裕 ク評価を行うことを目的としている。甲状腺ホルモン受容 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・研究員) 体を介した転写活性化作用を精査する目的で、ラット下垂 野村 淳 体細胞株 MtT/E2 を用いた in vitro 高感度レポーターアッ (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・特任助教) セイ系を構築し、これら化学物質の甲状腺ホルモン活性を 原医研受入研究者:川上 秀史 評価した。また甲状腺ホルモン応答性遺伝子の発現変動を (分子疫学 研究分野・教授) 指標とした評価も合わせて行った。その結果、複数の化学 物質が甲状腺ホルモン系を撹乱させる可能性が示唆された 研究内容・研究成果・今後の展望等 (Matsubara et al., 2012)。さらに、これら化学物質をラッ Dagestan の大うつ病の大家系を用いて、本うつ病に ト新生仔期に曝露させ、成体期における影響を血中甲状腺 関与する遺伝子座位を同定した。これまで大うつ病で報 ホルモン濃度、各臓器における甲状腺ホルモン応答性遺伝 告 の あ る 4q25, 11p15, 12q23-24, 13q31-32, 18q21-22 及 び 子の発現変動を指標に評価した。今後、上述の in vitro 高 22q11-13 に 加 え て、LOD>3 の 座 位 と し て、2q13.2-p11.2, 感度レポーターアッセイ系を用いた甲状腺ホルモン撹乱物 14q31.12-q32.13 及び 22q12.3 を同定した。 質のスクリーニングを継続し、活性が検出された化学物質 については、引き続き in vivo に対する影響も合わせて評 発表論文 価する。 Bulayeva, K, Lencz, T, Glatt, S, Takumi, T, Gurgenova, F, Kawakami, H and Bulayev, O: Mapping genes related 発表論文 to early onset major depressive disorder in Dagestan Matsubara K, Sanoh S, Ohta S, Kitamura S, Sugihara K, genetic isolates. Turkish J Psychiatry, 23: 161-70, 2012. Fujimoto N. An improved thyroid hormone reporter assay to determine the thyroid hormone-like activity of amiodarone, bithionol, closantel and rafoxanide. Toxicol Lett. 2012, 208(1):30-5. 学会発表 (1)2011 年 10 月 28 日 フォーラム 2011 衛生薬学・環 境トキシコロジー 金沢 54 自由研究 演題:新生仔期ラットへの甲状腺ホルモン様物質曝露 による影響評価(口頭発表) ○松原加奈、佐能正剛、藤本成明、杉原数美、北村繁幸、 太田茂 (2)2012 年 3 月 31 日 日本薬学会 第 132 年会 札幌 演題:環境化学物質の転写活性化を介した甲状腺ホル モン撹乱作用(口頭発表) ○松原加奈、佐能正剛、藤本成明、杉原数美、北村繁幸、 太田茂 F-4 周期性好中球減少症モザイク症例の解析 研究組織 代 表 者:小林 正夫 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・教授) 共同研究者:梶梅 輝之 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・助教) 平田 修 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・大学院生) 津村 弥来 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・大学院生) 溝口 洋子 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・大学院生) 原医研受入研究者:瀧原 義宏 (幹細胞機能学研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 周期性好中球減少症(CyN:Cyclic Neutoropenia)は、 約 21 日の周期で好中球減少を認める疾患である。好中球 減少期には ANC は 200/μl 以下となり、3~5日で回復 する。好中球減少と同時に網状赤血球、血小板も同様な変 化をするが、好中球ほど顕著ではない。骨髄像では、骨髄 顆粒球系細胞の低形成、前骨髄球での成熟障害が特徴的で ある。90%以上の症例で好中球エラスターゼをコードする ELANE 遺伝子にヘテロ接合性変異が同定されている。 我々は、ELA2 ヘテロ接合性新規遺伝子変異 IVS4+5 G>T を同定した CyN 患者の家系遺伝子解析から、好中球 減少を認めていない患者の母親でも同変異を持つことを同 定した。しかしながらシークエンスの波形の高さが明らか に患者のものより低かったことから、変異を有する細胞と 正常細胞が混在するモザイク症例である可能性が示唆され た。そこで本研究では、好中球、単球、T リンパ球および 頬粘膜を採取し、これら体細胞における変異率を検討した。 母親から採取した CD3 陽性 T 細胞・CD14 陽性単球細胞・ 頬粘膜細胞では約 30%、CD16 陽性細胞では4%前後の変 異率であった。一方、CyN 患者から採取した細胞ではい ずれも 50%程度の変異率であった。以上の結果から、母 親は体細胞分裂時に変異の入ったモザイク症例であること が考えられた。今後は、Laser Microdissection で採取し た single cell を用いて変異の検討を行い、モザイクである ことを明らかにする予定である。 55 自由研究 F-5 F-6 代謝性疾患の解析 ミトコンドリア指向性 RNA 顆粒形成タン パク質 CLPABP の解析 研究組織 代 表 者:小林 正夫 研究組織 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・教授) 代 表 者:小西 博昭 共同研究者:原 圭一 (県立広島大学生命環境学部・教授) (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・大学院生) 原医研受入研究者:田代 聡 原医研受入研究者:瀧原 義宏 (細胞修復制御研究分野・教授) (幹細胞機能学研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 研究内容・研究成果・今後の展望等 ミトコンドリアは生体内においてエネルギー生産及び細 脂肪酸代謝異常疾患の一つ、中鎖脂肪酸アシル CoA デ 胞の生死に関与する重要なオルガネラである。また、染色 ヒドロゲナーゼ(MCAD)欠損症は、欧米ではフェニル 体とは別に遺伝情報を持ち、その異常がミトコンドリア脳 ケトン尿症と同程度の頻度で見つかっている。しかし本邦 筋症などの疾病の原因になることが知られている。我々は では全国規模の新生児マススクリーニング対象疾患となっ これまでに EGF 刺激時に細胞内でチロシンリン酸化を受 ていないため、詳細がまだよくわかっていない。我々は、 ける新規タンパク質の解析を行ってきた。その中で分子 代謝不全として発症後に精査となった患者、限られた地域 内に2つのプレックストリン相同(PH)領域を持つタン で行われている新しい新生児マススクリーニングパイロッ パク質について解析し、ミトコンドリア特異的脂質であ トスタディで陽性となった新生児の検体を用いて、中鎖ア るカルジオリピン(CL)とその分解産物であるホスファ シル CoA デヒドロゲナーゼをコードする ACADM 遺伝子 チジン酸(PA)に結合することを見出し CLPA-binding 変異の同定、さらに患者白血球の MCAD 比活性を健常者 protein(CLPABP)と名付けた。PH 領域を持つタンパク 白血球と比較して評価してきた。 質の多くは種々のイノシトールリン脂質に結合し、細胞膜 本邦でみつかった変異は欧米で見つかる変異とは大 上にリクルートされる場合が多いが、このタンパク質の局 きく異なっていた。それぞれの変異の特性を知るため、 在はそれらとはまったく異なり、細胞内を顆粒状に点在し HEK293 細胞に過剰発現させて in vitro で基質と反応させ、 ていた。さらによく観察すると、その多くがミトコンドリ 生成物を HPLC 解析して定量し、wild type との比活性を アの表面上にあることがわかった。また、CLPABP の結 求めた。 合タンパク質の解析を行ったところ、多数の RNA 関連タ 評価した 10 の変異のうち、6つは比活性 10%以下で、 ンパク質が同定され、その複合体中には RNA 分子そのも 臨床症状などからも病因として有意な変異と考えた。残る のも含まれていることが明らかとなった。カルジオリピン 4つについては、健常者と同程度の活性が見られた。うち はミトコンドリア内膜特異的なリン脂質であるが、ミトコ 3つは重度の活性低下を示す変異との compound hetero ンドリアの分裂や融合時にミトコンドリア表面の細胞質側 と し て み つ か っ て い る。 1 つ は SNP と の compound へ移行することが知られている。CLPABP は細胞質表面 hetero として見つかっているが、この SNP は患者白血球 のカルジオリピンと結合すると考えられ、ミトコンドリア を用いた検討から病原性がないとは言い切れない活性低下 の分裂・融合に深く関与していることが示唆される。本研 を及ぼす可能性が想定されていた。 究では、CLPABP はそのようなミトコンドリアの表面を 患者やマススクリーニング陽性者に見つかる変異の全て 認識し、局在する機構を持っているのではないかと考え が、病気の原因となるものではないのかもしれない。また ている。それを証明するために、貴研究所の共焦点レー 本研究は、発症前にマススクリーニング陽性と見つかって ザー顕微鏡を用いて、蛍光標識した CLPABP タンパク質 きた新生児の御両親に説明を行う上で、同定された変異に の細胞内局在解析を行った。昨年度はミトコンドリアの よって、個別に予測される MCAD 活性に応じた適切な説 動きが活発な COS-7 細胞内での CLPABP の局在を中心に 明を行う一助となるのではないかと考えている。 解析していたが、現在はミトコンドリアの動きの異なる 細胞や CLPABP のノックアウト細胞などの解析も併せて 行っている。それらを通して、ミトコンドリアの機能と 56 自由研究 CLPABP の関連について明らかにしていく予定である。 発表論文(本研究テーマとは直接関係しないが、参考論文 として記載) F-7 造血幹細胞におけるポリコーム遺伝子群に よる制御機構 Role of a tyrosine phosphorylation of SMG-9 in binding 研究組織 of SMG-9 to IQGAP and the NMD complex. 代 表 者:梶梅 輝之 Takeda S, Fujimoto A, Yamauchi E, Hiyoshi M, Kido H, (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・助教) Watanabe T, Kaibuchi K, Ohta T, Konishi H. Biochem 原医研受入研究者:瀧原 義宏 Biophys Res Commun. 410, 29-33 (2011) (幹細胞機能学研究分野・教授) Inhibitory effect of SPE-39 due to tyrosine phosphorylation and ubiquitination on the function of Vps33B in the EGF-stimulated cells. 研究内容・研究成果・今後の展望等 【研究内容】 Ishii A, Kamimori K, Hiyoshi M, Kido H, Ohta H, 我々は以前から造血幹細胞の自己複製制御におけるポリ Konishi, H (2012) FEBS letter (in press) コーム遺伝子群の解析をすすめており、ポリコーム遺伝子 の bmi1 と mel-18 のバランスが自己複製制御の運命決定 に大きな役割を持っていることを報告してきた。本研究は 自己複製制御を臨床応用する際に、ウイルス導入などによ る造血幹細胞への遺伝子操作は倫理的・技術的・安全性の 面からも大きな弊害がある。そのため我々は細胞膜透過ペ プチドとポリコームの融合蛋白を作成し、試験管内もしく は全身投与でマウス造血幹細胞への遺伝子操作することな く自己複製を調節することに挑戦した。具体的には細胞膜 透過ペプチドである TAT とポリコーム群の Bmi1 や Mel18 の融合蛋白を pET システムを用いて作成した。これら が骨髄細胞の核内に移行することを確認後、マウス骨髄細 胞に添加して培養もしくは静脈的全身投与を行い、造血前 駆/幹細胞の量的・機能的評価を解析した。 【研究成果】 TAT-Bmi1 蛋白は長期培養後のコロニー形成能を増幅 し、造血幹細胞に導入されると分化を抑制し自己複製に導 くことが判明した。一方で TAT-Mel-18 蛋白は造血幹細 胞を分化させ、自己複製を抑制した。TAT-Bmi1 と TATMel-18 の両方を作用させると、造血幹細胞の自己複製と 分化のバランスは TAT-Bmi1 単独と同様に造血幹細胞を 自己複製に導いた。 【今後の展望】 我々は TAT 融合ポリコーム蛋白で造血幹細胞の自己複 製を調節することに世界で初めて成功した。この技術は造 血幹細胞への遺伝子操作することがないため、造血幹細胞 移植へ応用できる可能性があると考えている。これまでの 研究では bmi1 が造血幹細胞を自己複製に、mel-18 が分化 に関与することが明らかとされているが、さらにポリコー ム上下流のシグナル伝達系機構解析でエビデンスを充実さ せる必要がある。 57 自由研究 発表論文 論文投稿中 F-8 重粒子線の骨代謝におよぼす影響 研究組織 代 表 者:澤尻 昌彦 (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・助教) 共同研究者:野村 雄二 (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・助教) 錦織 良 (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・助教) 原医研受入研究者:松浦 伸也 (放射線ゲノム疾患研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 本研究の目的は、骨代謝への重粒子線の影響を明らかに し、腫瘍の骨浸潤と放射線性骨壊死の予防策について検討 することである。現在、放射線医学総合研究所、重粒子が ん治療装置共同利用研究において各種細胞、実験動物に重 粒子線を照射してその応答を調査している。対照群として ガンマ線など低 LET 放射線による反応を調査するために ガンマ線照射装置による細胞照射を行い、がん放射線治療 における周囲正常骨組織およびがん骨転移、浸潤における 骨細胞の応答を調査してきた。悪性腫瘍の進行に伴って高 頻度で発症する高カルシウム血症は腫瘍の骨破壊によって 骨に存在するカルシウムの血中への流入が主要な原因と考 えられている。骨浸潤性腫瘍細胞に対して放射線を照射し、 腫瘍細胞の骨破壊能の変化を解析することで、腫瘍の骨浸 潤予防策について検討することを目的とした。 骨浸潤性の乳がん細胞に炭素線あるいはガンマ線を照 射して、照射後産生される主要な骨破壊因子とされる PTHrP の発現状態を計測した。さらに PTHrP など骨破 壊因子を含むと考えられる乳がん細胞を培養した培地を condition media として、骨芽細胞培養と骨芽細胞 / 骨髄 細胞共存培養に用いて、破骨細胞誘導能におよぼす影響を 調査した。 非照射乳がん細胞から採取した condition media を用い て培養された骨芽細胞では破骨細胞誘導因子の増加が認め られた。さらに骨髄細胞との共存培養では破骨細胞の誘導 が新鮮培地培養に比べて増強された。しかし、炭素線ある いはガンマ線照射によって RANKL など破骨細胞の誘導 因子産生と破骨細胞の分化 / 誘導は抑制された。また炭素 線はガンマ線に比較して破骨細胞の誘導因子の産生、およ び骨髄細胞との共存培養による破骨細胞の誘導が強力に抑 制された。 58 自由研究 炭素線照射が、がん細胞から骨芽細胞を経由して破骨細 胞の増殖と成熟を誘導する経路を阻害することで腫瘍の骨 浸潤、骨破壊の阻害に依るものである可能性が示唆された。 F-9 抗ウイルス薬投与による C 型肝炎ウイルス のアミノ酸変異の継時的検討 発表論文 研究組織 Irradiation Effect on Osteoclastogenesis Stimulated by 代 表 者:茶山 一彰 Breast Cancer Cell Sawajiri M, Nomura Y, Nishikiori R, (広島大学病院消化器・代謝内科・教授) Samir B, Sonoda Y, Tanimoto K, Health Phys. 2011 Sep ; 共同研究者:今村 道雄 101(3) : 259-64. (広島大学病院消化器・代謝内科・助教) 平賀 伸彦 (広島大学病院消化器・代謝内科・医員) 原医研受入研究者:松井 啓隆 (がん分子病態研究研究分野・准教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 C 型肝炎ウイルス HCV は、1感染個体内で1種類のウ イルスゲノムではなく、少しずつ塩基配列が異なるウイル スゲノムが混在した quasispecies の状態になっている。近 年、HCV の複製に関係する非構造蛋白を標的とした抗ウ イルス薬の開発および臨床試験が進行している。主要なも のはプロテアーゼ阻害剤、NS5A 阻害剤および RNA ポリ メラーゼ阻害剤である。これらの薬剤は強力な抗 HCV 効 果を有しているが、単剤投与では短期間に耐性ウイルスが 出現しやすいという問題点がある。 本研究は、次世代シークエンサーを用いることで抗ウ イルス薬を投与した C 型慢性肝炎患者や HCV 感染マウ スの血清から抽出された HCV の薬剤耐性変異について ultradeep sequence を行い耐性ウイルスの出現について検 討することを目的として行った。 C 型慢性肝炎患者において、抗ウイルス薬投与前の血清 には耐性変異を direct sequence 法では認めなかったが、 ultradeep sequence 法では 0.1%と僅かではあるが検出さ れた。さらに、薬剤投与中にも関わらずウイルス量が再上 昇した時点では耐性変異の割合は 52.2%と上昇しており、 耐性ウイルスの出現は selection による可能性が示された。 また、HCV 感染クローンを用いた HCV 感染マウスで の実験において、薬剤投与前には耐性変異の割合は0%で あったが、薬剤投与によって耐性変異を 41.8%認め、モノ クローナルな HCV からも耐性クローンが出現することが 示された。 今後も C 型慢性肝炎患者や HCV 感染マウスの血清を用 いて抗ウイルス薬の耐性変異について既報の変異の解析の みならず新規耐性変異の発見を行う予定である。 59 自由研究 発表論文 Hiraga N, Imamura M, Abe H, Hayes CN, Kono T, Onishi M, Tsuge M, Takahashi S, Ochi H, Iwao E, Kamiya N, Yamada I, Tateno C, Yoshizato K, Matsui H, F-10 A キナーゼアンカータンパク変異体におけ る心筋内カルシウム動態の解明 Kanai A, Inaba T, Tanaka S, Chayama K. Rapid 研究組織 emergence of telaprevir resistant hepatitis C virus strain 代 表 者:中野 由紀子 from wildtype clone in vivo. Hepatology. 2011 Sep 2 ; (広島大学病院循環器内科・助教) 54(3) : 764-71. 共同研究者:利重 匡亮 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・技術員) 槇田 祐子 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・大学院生) 梶原 賢太 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・大学院生) 徳山 丈仁 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・大学院生) 原医研受入研究者:田代 聡 (細胞修復制御研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 致死的不整脈である心室細動を起こすブルガダ症候群 は、心筋ナトリウム(Na)チャネルからの Na 電流の低下 により起こり、Na チャネル遺伝子 αsubunit(SCN5A)に 変異症例が報告されているが、全症例の 20%以下である ことが明らかになっている。ブルガダ症候群症例は、副交 感神経が優位である時に心室細動発作を発症し、自律神経 の変化が発作の発症に関与していることも明らかになって いる。我々は、ブルガダ症候群症例において、L 型カルシ ウム(Ca2+)チャネルの補助蛋白である A キナーゼアン カータンパク(AKAP)15 に変異のある症例を新規に発 見し、この変異は AKAP15 が心筋 L 型 Ca2+ チャネルに 結合する部位である Leucin Zipper Motif に存在した。現 在、AKAP15 変異体における交感・副交感神経刺激時の 心筋内 Ca 動態を解明に取り組んでいる。 発表論文 60 自由研究 F-11 胆道系悪性腫瘍の分子生物学的解析 研究組織 発表論文 Statins induce apoptosis and inhibit proliferation in cholangiocarcinoma cells International Journal of Oncology, 39 : 561-568, 2011. 代 表 者:佐々木 民人 (広島大学病院消化器・代謝内科・講師) 共同研究者:神垣 充宏 (広島大学病院消化器・代謝内科・医科診療医) 石井 康隆 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・大学院生) 原医研受入研究者:宮本 達雄 (放射線ゲノム疾患研究分野・助教) 研究内容・研究成果・今後の展望等 【研究内容】 胆管癌は予後不良であり、有効な治療法の確立が急がれ る。HMG-CoA reductase 阻害剤(Statin)は潜在的に抗 癌効果を持つといわれるが、胆管癌では未だ報告がない。 本研究は、胆管癌に対する Statin の有用性を明らかにす ることを目的とした。 【研究成果】 WST-8 assay にて、Statin の曝露によるヒト胆管癌細 胞 株 HuCCT1・YSCCC の 増 殖 抑 制 を 認 め た。FACS で は G2M 分画の減少、sub G1 分画の増加を認め、Western Blotting では Cleaved caspase-3 の増加、p-ERK の減少を 認めた。また WST-8 assay にて、Statin の Gemcitabine、 Cisplatin、5Fu との併用による相加的増殖抑制効果を認め た。 Statin は胆管癌細胞株を古典的 MAPK 経路の抑制を介 して Apoptosis に導く事、既存の抗癌剤の効果を増強する 事が判明した。 【今後の展望】 この研究により、胆管癌に対するスタチン系薬剤の有用 性を、単剤での増殖抑制効果、抗癌剤との相加効果の2つ の点から、in vitro で評価できる。今後マウス、ラットな どを用いて、in vivo で同様の効果を確認できれば、最終 的には臨床検体を踏まえての評価や臨床試験へと発展させ られる可能性がある。スタチン系薬剤は、現在臨床で多く の症例に使用されている薬剤である。これが生体内の胆管 癌の増殖を抑制し、予後を改善する効果が証明されれば、 非常に重要な知見であり、この研究から及ぼされる効果は 非常に大きいと考えられる。 61 自由研究 F-12 F-13 家族性侵襲性歯周炎の疾患関連遺伝子究明 骨髄不全症候群における染色体 13q 欠損の 解析 研究組織 代 表 者:栗原 英見 研究組織 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・教授) 代 表 者:中尾 眞二 共同研究者:水野 智仁 (金沢大学血液内科・呼吸器内科・教授) (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・助教) 共同研究者:細川 晃平 原医研受入研究者:川上 秀史 (金沢大学血液内科・呼吸器内科・大学院生) (分子疫学研究分野・教授) 原医研受入研究者:松井 啓隆 (がん分子病態研究分野・准教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 常染色体優性遺伝の強く疑われる侵襲性歯周炎の関連遺 伝子を同定する目的で、患者およびその家族から血液を採 研究内容・研究成果・今後の展望等 【研究内容】 取し、DNA を抽出した後、エクソームシークエンスを行っ 再生不良性貧血(AA)や骨髄異形成症候群(MDS)な た。侵襲性歯周炎患者特異的に認められ、健常者では認め どの骨髄不全患者では 13 番染色体長腕の片アレル欠失 られない遺伝子変異をデータベースから抽出した。現在、 (13q 欠失)が 2%に認められる。13q 欠失を伴う症例は 3家系で調査し、家系ごとに 10 から 30 の遺伝子変異を抽 PNH 型血球の陽性率が高く、免疫抑制療法に対する反応 出している。今後、患者家族の情報を増やすことによって、 性が良好であることから、13q 欠失クローンの存在が、骨 この遺伝子変異を絞り込む予定である。また、常染色体優 髄不全における免疫病態と深く関連している事が示唆され 性遺伝の強く疑われる侵襲性歯周炎患者がみつかった場合 る。13q 欠失造血幹細胞は、正常造血幹細胞と比較して、 は、同様に遺伝子変異を抽出し、家系間で同一遺伝子の変 抑制系サイトカインに対する感受性が低下している可能性 異が認められるかを調べる予定である。 が高い。これまでの研究で、13q 欠失7例の末梢血 DNA を用いて SNP array を行いて共通欠失領域を同定した。 発表論文 ところが、13q 上の疾患責任遺伝子は特定されておらず、 なし 13q- 造血幹細胞の増殖優位性についての詳細なメカニズ ムは不明である。そこで我々は、13q 上の責任遺伝子が反 対アレルに変異や微小欠損などが加わることによって抑制 性サイトカインに対する感受性が低下し、13q- 造血幹細 胞が増殖優位性を獲得している可能性があると考え、13q 欠失症例で同領域の網羅的なシーケンスを行った。 【研究成果】 13q 欠失を伴う症例3症例の顆粒球 DNA を用いて全エ クソン・シーケンスを行ったところ、13q 領域には3症例 に共通の遺伝子変異は認められなかった。ただし NEK5 や RCBTB2 といった細胞周期やがん抑制遺伝子として知 られている分子に変異を認める例をそれぞれ1例ずつ認め た。そこで他の 13q 欠失例においてこれらの変異解析を 行ったが変異は認められず、13q 領域における責任遺伝子 の同定には至らなかった。 一方、13q 領域以外の領域では 40 個の分子で3症例に 共通した変異候補が同定された。その中から造血幹細胞の 制御に関わるものを検索したところ、SLIT1 が含まれて いた。96 例の再生不良性貧血患者の顆粒球 DNA を次世 62 自由研究 代シークエンスで解析したところ、96 例中 15 例で SLIT1 変異が検出され、そのうち3例はサンガー法で確認ができ た。ただし、そのうち2例は T 細胞でも確認された。 【今後の展望】 F-14 MLL 白血病の分子メカニズム 研究組織 現在造血幹細胞における SLIT1 と、その受容体である 代 表 者:横山 明彦(京都大学医学研究科・准教授) ROBO の発現、ならびに造血不全環境における SLIT1 変 共同研究者:奥田 博史(京都大学医学研究科・研究員) 異造血幹細胞の果たす意義について現在基礎的実験を行い 原医研受入研究者:松井 啓隆 検討中である。 (がん分子病態研究分野・准教授) 発表論文 研究内容・研究成果・今後の展望等 投稿準備中 本研究は白血病を引き起こす MLL 融合蛋白質の作用機 序を分子レベレで明らかにする事を目的としている。具 体的には MLL 融合蛋白質及びその関連タンパク質のゲ ノム上の局在を ChIP-seq にて解析する。MLL-AF6 を発 現する細胞株 ML-2 細胞にて ChIP-seq を行い、これまで に、MLL, polII, H3K36me3, nonmethyl-CpG, methyl-CpG の局在プロファイルを得た。その過程で、新規 MLL 標的 遺伝子を多数(150 遺伝子程度)同定した。今後も、様々 なタンパク質/エピジェネティックマークの局在を調べ、 MLL との位置的な関係性を明らかにしてゆく。 発表論文 なし 63 自由研究 F-15 F-16 骨、軟骨細胞における HIF-1 制御機構の解 明 細胞損傷マーカータンパク質と受容体との 相互作用解析を通した損傷シグナル伝達機 構の解明 研究組織 代 表 者:白倉 麻耶 研究組織 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科・助教) 代 表 者:楯 真一 (広島大学大学院理学研究科・教授) 原医研受入研究者:谷本 圭司 共同研究者:山田 梨紗都(広島大学大学院理学研究科・M2) (放射線医療開発研究分野・助教) 原医研受入研究者:田代 聡 (細胞修復制御研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 本研究では、変形性顎関節症の発症、進行における 研究内容・研究成果・今後の展望等 HIF-1 の関与とその詳細な機序を明らかにし、そのメカニ 本研究では、酸化 LDL 受容体タンパク質 LOX-1 の基質 ズムを検討することにより変形性顎関節症の発症機序の一 認識機構解明を目的とした。細胞表層上に存在する受容体 部を解明し、臨床応用に結びつけることを最終的な目的と タンパク質の状態を摸すために、自己組織化単層膜(self- する。具体的には、これまでに報告されている炎症性サイ assembling mono-layer; SAM)の上に受容体タンパク質 トカイン、機械刺激、および低酸素刺激のいずれが変形性 を担持した SPR センサーを作製し、相互作用解析を行っ 顎関節症における HIF-1 の発現に関与しているかを、そ た。解析対象としては、LOX-1 に結合する細胞損傷応答 の機序とともに明らかにすることを目標とした。昨年度は に関係する複数の分子用いた。 始めに機械刺激によるストレスの変形性顎関節症の発症・ LOX-1 の基質である酸化 LDL(実験では化学的に安定 進行への影響を検討するため、骨芽細胞様細胞 Saos-2 に なアセチル化 LDL をモデル基質として用いた)との相互 様々な荷重負荷を与え、ルシフェラーゼレポーターアッセ 作用解析では、市販のデキストランコートされた表面に受 イを用いて HIF-1 遺伝子発現を検討した。その結果、軽 容体タンパク質を担持したセンサーでは十分な結合を観測 度の負荷を与えながら1%、5%、10%、15%、常酸素分 することができなかったが、SAM 膜上で LOX-1 を担持す 圧下で細胞を培養し HIF-1 活性化を検討したところ、負 ることにより、細胞アッセイで示されていた強度で基質を 荷を与えない場合では1%酸素分圧下でのみ HIF-1 活性化 認識することが確認できた。SAM 上に担持する LOX-1 の が認められたのに対し、負荷を与えたものではコントロー 量を変化させると低い担持量の時には有意な結合が観測で ルと比較しいずれの分圧下でも有意に HIF-1 活性が上昇 きず、ある閾値以上の量を担持させると以後はほぼ担持し する傾向が認められた。さらに本年度はリアルタイム RT- た受容体タンパク質の量に応じて観測されるセンサーの反 PCR をもちいて HIF-1 関連遺伝子 DEC1, ADM, CA9 なら 応が増強されることが分かった。このことから細胞表面 びに破骨細胞関連遺伝子 VEGF, BMP2, PDGF, OPN の発 上の LOX-1 受容体が基質結合能を持つには、表面におい 現を検討したところ、1%、5%のいずれの低酸素条件下 て特定の濃度以上で存在することが必要であることが分 でも機械刺激による遺伝子の発現増強が認められた。この かった。このことから、LOX-1 が基質結合能をもつには ことから、機械刺激により HIF-1 が活性化されそれに伴 表面でのクラスター構造が必要であることが考えられる。 う破骨細胞関連遺伝子の増強が骨吸収を引き起こしている SAM 上に担持した LOX-1 は、細胞表層上でのクラスター 可能性が示唆され、変形性顎関節症の発症機序に機械刺激 を摸した状態で存在しており、細胞上で生じる受容体-基 と HIF-1 遺伝子発現が関係している可能性が示された。 質相互作用を SPR で定量的に観測することを可能とする ことがわかった。 発表論文 SAM-LOX-1 センサーを用いて、異なる分子に対する相 互作用解析を行い以下の成果を得た。 1)DOPG を用いて作製した単層膜リポソームが、酸化 LDL の千倍程度の強さで LOX-1 に結合すること。また、 DOPG-SUV は細胞毒性を誘導しないために、LOX-1 を 解して細胞内に化合物を輸送するためのキャリアー分 64 自由研究 子になることも確認した。(特許出願中) 2)細胞損傷シグナル(alarmin)として機能する HSP70 を対象として、ペプチド結合ドメインである C 末端部 が LOX-1 に認識されることを明らかにした。 F-17 幹細胞のストレス応答機構の解明 研究組織 代 表 者:弓削 類 発表論文 (広島大学大学院保健学研究科・教授) Nakano,S., Sugihara,M., Yamada,R., Katayanagi,K., and 共同研究者:深澤 賢宏 Tate,S.“Structural implication for the impaired binding (広島大学大学院保健学研究科・大学院生) of LOX-1 to oxidized low density lipoprotein”,BBA, 1824, 松本 昌也 739-749 (2012). (広島大学大学院保健学研究科・大学院生) Elham Khalesi (広島大学大学院保健学研究科・大学院生) 河原 裕美 (広島大学大学院保健学研究科・研究員) 原医研受入研究者:谷本 圭司 (放射線医療開発研究分野・助教) 研究内容・研究成果・今後の展望等 本研究は、幹細胞の様々な環境ストレス応答分子機構を 解明し、再生医療へ応用展開することを目標とする。 微小重力環境下で、さらに低酸素ストレス環境下(低酸 素疑似試薬処理)で培養された細胞株より total RNA を 抽出し、real-time RT-PCR などで幹細胞関連遺伝子の発 現の変動を観察した。その結果、微小重力環境下では、幹 細胞関連遺伝子の発現が増加することが明らかとなった。 さらに、低酸素ストレス環境下でも幹細胞関連遺伝子の発 現が顕著に増加することが示された。しかしながら、微小 重力環境下で、さらに低酸素ストレス処理を行うと、重力 環境下に比べて明らかに幹細胞関連遺伝子の発現増加が抑 えられることが明らかとなった。 これらストレス応答シグナルと幹細胞分化制御シグナル のクロストーク機構を解明し、それらをマーカーや分子標 的薬とした幹細胞分化制御法の開発、再生医療への応用展 開が期待された。 発表論文 1. Kajiume T, Sera Y, Kawahara Y, Matsumoto M, F u k a z a w a T , I m u r a T , Y u g e L , K o b a y a s h i M : Regulation of hematopoietic stem cells using protein transduction domain-fused Polycomb. Exp Hematol, 40 : 751-760, 2012 2. Yuge L, Sasaki A, Kawahara Y, Wu SL, Matsumoto M, M a n a b e T , K a j i u m e T , T a k e d a M , M a g a k i T , Takahashi T, Kurisu K, Matsumoto M: Simulated 65 自由研究 microgravity maintains the undifferentiated state and enhances the neural repair potential of bone marrow stromal cells. Stem Cells Dev, 20 : 893-900, 2011 F-18 ポリコーム遺伝子群の一つ Scmh1 欠損マ ウスの解析 研究組織 代 表 者:大坪 素秋 (別府大学食物栄養科学部発酵食品学科・教授) 原医研受入研究者:瀧原 義宏 (幹細胞機能学研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 造血幹細胞の活性の維持に重要な Geminin の蛋白質安 定性制御には、ポリコーム(PcG)複合体1の E3 ユビ キチンリガーゼによるものと、PcG 複合体 1 が抑制する Hoxb4 と Hoxa9 遺伝子の転写を介した制御の2つが存在 することがこれまでの研究で分かった。そこでこの2つ の経路の分子基盤を明らかにするため、PcG 複合体1に よる Geminin の制御に重要な役割を担う Scmh1 の機能 ドメインの解析を各種変異型 Scmh1 のレトロウイルスベ クターによる Scmh1 欠損細胞への導入により調べた。メ チル化ヒストンとの相互作用を担う MBT ドメインの欠 失型 Scmh1 の導入により、Scmh1 欠損細胞での Hoxb4 と Hoxa9 遺伝子の転写抑制は回復できなかった。逆に、 Geminin 結合ドメイン欠失型 Scmh1 の導入により、転写 抑制は回復し Geminin の安定化が認められた。以上の結 果より、Geminin の制御に重要な Scmh1 の機能ドメイン の役割が判明し、造血幹細胞の活性支持に重要な2つの経 路の分子基盤を明らかにすることができた。今後の研究で Scmh1 の安定性制御を担う機能ドメインの解析について 推し進める。 発表論文 1.瀧原義宏、安永晋一郎、大野芳典、大坪素秋、医薬ジャー ナル社、血液フロンティア・がん幹細胞研究の新たな 展開・幹細胞における細胞周期制御 22(1), 2012, pp33-43 2.Bhattacharyya, J., Mihara, K., Ohtsubo, M., Yasunaga, S., Takei, Y., Yanagihara, K., Sakai, A., Hishi, M., Takihara, Y., Kimura, A. Overexpression of BMI-1 correlates with drug resistance in B-cell lymphoma cells through the stabilization of surviving expression. Cancer Science 103 (1) , 査読有 , 2012, pp34-41 3.Karakawa, S., Okada, S., Tsumura, M., Mizoguchi, Y., Ohno, N., Yasunaga, S., Ohtsubo, M., Kawai, T., N i s h i k o m o r i , R . , S a k a g u c h i , T . , T a k i h a r a , Y . , 66 自由研究 Kobayashi, M. Decreased expression in nuclear factorkB essential modulator due to a novel splice-site mutation causes X-linked ectodermal dysplasia with immunodeficiency. Journal of Clinical Immunology 31 (5) , 査読有 , 2011, pp762-772 F-20 ゼブラフィッシュを用いたゲノム DNA の メチル化或いはクロマチン構造変化機構の 解明 研究組織 代 表 者:菊池 裕(広島大学大学院理学研究科・教授) 共同研究者:穗積 俊矢 (広島大学大学院理学研究科・特任助教) 原医研受入研究者:松井 啓隆 (がん分子病態研究分野・准教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 私は、現在まで初期発生過程における内胚葉細胞の分化 機構及び内胚葉性器官形成機構を遺伝学的手法により解析 を行ってきた。変異体スクリーニングの結果、私は腸管上 皮形成の異常及び頭部の縮小を示す morendo(mor)変異 体の単離に成功し、原因遺伝子のクローニング・原因遺 伝子産物の機能解析を行った。その結果、mor 変異体の 原因遺伝子は DEAD(Asp-Glu-Ala-Asp)box polypeptide 46(Ddx46)であり、遺伝子特異的に pre-mRNA のスプ ライシングを制御することにより、消化器官・頭部の形成 に機能する事を報告した(発表論文1)。更に私は、詳細 な Ddx46 遺伝子発現解析を行った結果、造血幹細胞で発 現していることを見出したので、新たに造血過程における Ddx46 の機能に関して解析を開始した。Ddx46 変異体に おいて、様々な血球細胞マーカー遺伝子の発現を調べた結 果、⑴ Ddx46 変異体は二次造血が異常である、⑵造血幹 細胞のマーカー遺伝子の発現が維持されない、⑶造血幹細 胞の細胞死は観察されず、細胞増殖は正常である、⑷造血 幹細胞は白血球細胞へのみ分化出来る、ことを見出した。 以上の結果より、Ddx46 は造血幹細胞における多系列分 化能の維持に必要である事が明らかになった。 今後は、造血幹細胞を FACS で分離し、Ddx46 変異体 で発現が変化する遺伝子を次世代シークエンサーで網羅的 に探索することを計画している。Ddx46 の標的遺伝子が 明らかにされれば、ヒト先天性遺伝子疾患の解明の一助に なると予想される。 発表論文 1. Hozumi, S., Hirabayashi, R., Yoshizawa, A., Ogata, M., Ishitani, T., Tsutsumi, M., Kuroiwa, A., Itoh, M. and Kikuchi, Y. (2012). DEAD-box protein Ddx46 is required for the 67 自由研究 development of the digestive organs and brain in zebrafish. PLoS One 7: e33675. 2. Yoshizawa, A., Nakahara, Y., Izawa, T., Ishitani, T., F-23 細胞周期 G0 マーカーの解析 Tsutsumi, M., Kuroiwa, A., Itoh, M. and Kikuchi, Y. 研究組織 (2011). Zebrafish Dmrta2 regulates neurogenesis in the 代 表 者:北村 俊雄(東京大学医科学研究所・教授) telencephalon. Genes Cells 16: 1097-109. 共同研究者:沖 俊彦 (東京大学医科学研究所幹細胞・特任助教) 原医研受入研究者:松井 啓隆 (がん分子病態研究分野・准教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 当研究室では、開発した細胞周期 G0 マーカーを用い、 マウス線維芽細胞の NIH3T3 細胞を G0, G1 期の細胞に分 離しその違いを解析している。本共同研究では、この二つ の状態にある NIH3T3 細胞よりゲノミック DNA を抽出。 各遺伝子のプロモーター領域のメチル化の状態を比較し、 各段階でメチル化の高い領域の遺伝子群を同定した。現在 各段階でメチル化の高い領域について、他の解析より得ら れた発現データーとも比較し、G0 期の維持に重要な因子 の同定に努めている。 発表論文 68 自由研究 F-25 F-26 エナメル蛋白およびエナメル蛋白分解酵素 における分子間相互作用の解明 免疫学的加齢と細胞内活性酸素産生への放 射線影響の研究 研究組織 研究組織 代 表 者:谷本 幸太郎(広島大学病院矯正歯科・講師) 代 表 者:林 奉権 共同研究者:国松 亮 (広島大学病院矯正歯科・医員) (財 団法人放射線影響研究所放射線生物学 / 原医研受入研究者:松井 啓隆 (がん分子病態研究分野・准教授) 分子疫学部・副部長) 共同研究者:Georgijs Moisejevs (財 団法人放射線影響研究所放射線生物学 / 研究内容・研究成果・今後の展望等 分子疫学部・研修生) 本研究は、エナメル蛋白の一種であるアメロゲニンとそ 原医研受入研究者:飯塚 大輔 の分解酵素である MMP-20 および KLK4 との分子間相互 (放射線細胞応答研究分野・助教) 作用を検討することを目的とする。 現在、試料となる各蛋白質の精製を行っているところで ある。 研究内容・研究成果・今後の展望等 【研究の内容】 本研究は、免疫学的加齢と細胞内活性酸素産生への放射 発表論文 線影響を調べる目的で広島大学原爆医科学研究所の放射線 なし 照射装置を利用して共同研究を開始した。 今回、ヒトの白血病細胞由来の細胞株である MOLT-4 と Jurkat を用いて放射線照射および過酸化酸素水素水 (H2O2)処理後のアポトーシス誘導について比較を行い、 今後の活性酸素産生とアポトーシス誘導の関係を調べるた めの予備的実験を行った。結果としては、MOLT-4 はこ れまでの報告どおり Jurkat 細胞と比較して放射線感受性 であった。H2O2 処理では両細胞株ともに同等の感受性を 示した。 今後、放射線によるアポトーシス誘導および低線量放射 線照射後の放射線感受性細胞株におけるエピジェネティッ クな変化を含めた特異的な変化について研究を進めたい。 発表論文 関連する発表論文は特にない。 69 自由研究 F-27 蕁麻疹やアトピー性皮膚炎における I 型アレ ルギーの研究 研究組織 代 表 者:秀 道広 (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・教授) 共同研究者:柳瀬 雄輝 (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・助教) 川口 智子 (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・非常 勤講師) 石井 香 (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・研究員) 内田 一恵 (広島大学大学院医歯薬保健学研究院・非常 勤講師) 原医研受入研究者:田代 聡 (細胞修復制御研究分野・教授) 研究内容・研究成果・今後の展望等 健常人から採取した汗を精製し、アレルギー患者から精 製した IgE との結合解離を測定した。測定する汗抗原が、 完全に単一物質となるまで精製されていないことと、結合 する IgE がポリクローナルであるため、測定結果が多様 な結合、解離の総和となり、定数を求めるためにはさらな る抗原、抗体の精製が必要であることが明らかになった。 発表論文 Shindo H, Ishii K, Yanase Y, Suzuki H, Hide M. Histamine release-neutralization assay for sera of patients with atopic dermatitis and/or cholinergic urticaria is useful to screen type I hypersensitivity against sweat antigens. Arch Dermatol Res 2012; 304: 647-654. 70 《付 録》 平成 23 年度共同利用・共同研究課題募集要項 平成 22 年 10 月1日 関係各教育・研究機関の長 殿 広島大学原爆放射線医科学研究所長 神 谷 研 二〔公印省略〕 平成 23 年度 共同利用・共同研究の募集について 広島大学原爆放射線医科学研究所は、共同利用・共同研究拠点(放射線影響・医科学研究拠点)として、下記のとおり、 共同利用・共同研究を募集いたしますので、貴機関所属の研究者等に周知方よろしくお願いいたします。 記 1.研究課題種目 ⑴ 重点プロジェクト研究課題 ① ゲノム損傷修復の分子機構に関する研究 ② 低線量放射線の影響に関する研究 ③ 放射線発がん機構とがん治療開発に関する研究 ④ 放射線災害医療開発の基礎的研究 ⑤ 被ばく医療の改善に向けた再生医学的基礎研究 ⑥ 被ばく者の健康影響と放射線リスク評価研究 ⑵ 自由研究課題 2.申請資格:平成 23 年4月1日の時点で、大学・研究機関の研究者、大学院生又はこれらに相当する方(見 込みを含む。) 3.研究期間:平成 23 年4月1日から平成 24 年3月 31 日までの1年間 4.提出書類:円滑な研究活動が可能となるようあらかじめ所内の受入研究者と打ち合わせたうえで、次の書類 を作成し、研究所事務室へご提出ください。(受入研究者経由でご提出いただいても結構です。) 1)共同利用・共同研究申請書(様式1) 2)所属機関長の承諾書(様式2) ※ 学内者は提出不要 5.申請締切:平成 23 年2月1日(火)(必着のこと) (なお自由研究課題は随時受け付けます。) 6.採 否:当研究所運営委員会の議を経て所長が採否を決定し、平成 23 年3月末日までに申請者に連絡し ます。 ※ 採択後に利用を希望する設備等の使用については、設備等を管理する附属施設に利用申請を 行ってください。 ※ 設備等の利用に際し、各種申請、講習会の受講等の諸手続が必要な場合があります。 7.所要経費:重点プロジェクト研究課題として採択された共同研究のうち、審査により 100 万円を上限として 経費を負担します。 8.報 告 書:研究期間終了時に「成果報告書」を代表者から提出していただきます。報告書の記載要領などに ついては、後日連絡いたします。 71 平成 23 年度共同利用・共同研究課題募集要項 9.そ の 他: ・利用にあたっては、広島大学原爆放射線医科学研究所利用細則を遵守してください。 ・本研究所については、ホームページ(http://www.rbm.hiroshima-u.ac.jp/index-j.html)をご参照ください。 申請様式は同ホームページよりダウンロードできます。 送 付 先:〒 734-8553 広島市南区霞一丁目2番3号 広島大学原爆放射線医科学研究所事務室 (封筒に「共同利用・共同研究申請書在中」と記載のこと) 問合せ先:TEL 082-257-5802 FAX 082-255-8339 E-mail:[email protected] 72 採択状況 平成23年度 申請件数103件 北海道大学 1 東北大学 3 京都大学 5 京都府立医科大学 1 大阪大学 2 大阪府立大学 1 産業技術総合研究所 1 広島大学 42 放射線影響研究所 3 県立広島大学 1 庄原赤十字病院 1 広島国際大学 1 岡山理科大学 1 自治医科大学 1 茨城大学 1 筑波大学 1 独協医科大学 1 日本薬科大学 1 東海大学 1 放射線医学総合研究所 2 東京大学 11 東京医科歯科大学 2 九州歯科大学 1 長崎大学 1 熊本大学 1 別府大学 1 宮崎大学 1 慶応義塾大学 2 東京女子医科大学 2 金沢大学 1 山梨大学 1 松本歯科大学 1 微生物化学研究所 1 名古屋大学 2 がん研究会 1 理化学研究所 2 国立がん研究センター 1 重点プロジェクト研究課題 (1) ゲノム損傷修復の分子機構に関する研究 (2) 低線量放射線の影響に関する研究 (3) 放射線発がん機構とがん治療開発に関する研究 (4) 放射線災害医療開発の基礎的研究 (5) 被ばく医療の改善に向けた再生医学的基礎研究 (6) 被ばく者の健康影響と放射線リスク評価研究 重点1 自由 24 18 重点2 5 2 重点6 重点5 ■次世代シーケンサ 35課題 8 重点4 3 ■遺伝子改変マウス 29課題 【内訳】 本田 25 瀧原 2 川上 1 田代 1 重点3 43 73 共同利用・共同研究に供する施設 ・ 設備及び資料等の利用状況 施設・設備の利用状況 研究施設・設備名 ガンマセル 40 イグザクター 1 低線量率ガンマ 線照射装置 2 3 一般飼育室 (13 室) 74 性 能 稼 動 状 況 施設・設備の概要及び目的 使用者の所属機関 年間使用人数 共同利用者数 839 64 91 91 3 3 5 5 学内(法人内) 国立大学 公立大学 私立大学 大学共同利用機関法人 ガンマセル 40 イグザクターは 137Cs 独立行政法人等公的研究機関 線源(74TBq)を2個使用した高線量 民間機関 16 率高精度のガンマ線照射装置であり、 外国機関 ガンマ線による急性障害、遺伝子突然 その他 変異、遺伝的不安定性の誘導、実験動 計 954 物の免疫分子機構の解明等に用いてい 稼 働 率 る。 年間稼動可能時間⒜ 年間稼動時間⒝=⒞ + ⒟ + ⒠ 共同利用に供した時間⒞ 共同利用以外の研究に供した時間⒟ ⒞、⒟以外の利用に供した時間 学内(法人内) 204 国立大学 18 低線量率ガンマ線照射装置は3種類の 公立大学 放射能が異なる 137Cs 線源(1.11TBq、 私立大学 14 111GBq、11.1GBq)を保有し、用途に 大学共同利用機関法人 応じて幅広い範囲の線量率で照射する 独立行政法人等公的研究機関 ことができ、遺伝子突然変異や遺伝的 民間機関 38 不安定性の誘導等に用いている。 本装置は、 0.01μGy/min から 2mGy/min 外国機関 △ までの広範囲で 137Cs を照射すること その他 ができ、その下限の値は、国内で最も 計 274 低い極低線量率である点で、国内最高 稼 働 率 性能となっている。また、その値は、 年間稼動可能時間⒜ 国が定める小中学校の屋外活動制限値 で あ る 3.8μSv/h(=0.06μSv/min) の 年間稼動時間⒝=⒞ + ⒟ + ⒠ 共同利用に供した時間⒞ 影響を調べることが可能である。 共同利用以外の研究に供した時間⒟ ⒞、⒟以外の利用に供した時間 学内(法人内) 9655 国立大学 386 公立大学 368 私立大学 218 大学共同利用機関法人 独立行政法人等公的研究機関 3 民間機関 1097 コンベンショナルレベルの飼育室。 放 射 線 を 用 い た 科 学 研 究 の 中 で、in 外国機関 vivo 実験モデル動物を用いた研究を行 その他 うことを目的とする。 計 11727 稼 働 率 年間稼動可能時間⒜ 年間稼動時間⒝=⒞ + ⒟ + ⒠ 共同利用に供した時間⒞ 共同利用以外の研究に供した時間⒟ ⒞、⒟以外の利用に供した時間 16 179 1904 331 168 163 0 25 18 14 38 95 8736 5769 2019 3750 0 7670 386 368 218 3 1097 9742 113880 110688 64870 45818 0 共同利用・共同研究に供する施設 ・ 設備及び資料等の利用状況 研究施設・設備名 性 能 稼 動 状 況 施設・設備の概要及び目的 使用者の所属機関 年間使用人数 共同利用者数 1612 1460 4745 4745 730 730 1308 1308 学内(法人内) 国立大学 公立大学 私立大学 大学共同利用機関法人 独立行政法人等公的研究機関 730 民間機関 365 SPF レベルの飼育室。 特殊飼育室 放 射 線 を 用 い た 科 学 研 究 の 中 で、in 外国機関 4 (2室) vivo 実験モデル動物を用いた研究を行 その他 うことを目的とする。 計 9490 稼 働 率 年間稼動可能時間⒜ 年間稼動時間⒝=⒞ + ⒟ + ⒠ 共同利用に供した時間⒞ 共同利用以外の研究に供した時間⒟ ⒞、⒟以外の利用に供した時間 学内(法人内) 342 国立大学 2028 公立大学 48 私立大学 108 大学共同利用機関法人 独立行政法人等公的研究機関 48 民間機関 12 トランスジェニックマウスおよびノッ 外国機関 5 実験室・特殊実験室 クアウトマウスなど遺伝子改変マウス その他 を作製する。 計 2586 稼 働 率 年間稼動可能時間⒜ 年間稼動時間⒝=⒞ + ⒟ + ⒠ 共同利用に供した時間⒞ 共同利用以外の研究に供した時間⒟ ⒞、⒟以外の利用に供した時間 学内(法人内) 199 国立大学 55 公立大学 私立大学 細胞内タンパク質を蛍光標識し、目的 大学共同利用機関法人 タンパク質の正確な局在を検討する目 独立行政法人等公的研究機関 15 的で使用されている。また生細胞を用 民間機関 いた動的な観察も可能である。本研究 紫外線レーザーマ 所においては、放射線による DNA 損 外国機関 6 △ イクロ照射装置 傷時の修復タンパク質の振る舞いを観 その他 察する目的などに利用されている。 計 269 本装置は、正確にゲノム損傷を誘導で 稼 働 率 きるシステムとしては数少ない点で、 年間稼動可能時間⒜ 国内最高性能である。 年間稼動時間⒝=⒞ + ⒟ + ⒠ 共同利用に供した時間⒞ 共同利用以外の研究に供した時間⒟ ⒞、⒟以外の利用に供した時間 730 365 9338 26280 26280 22632 3648 0 192 2028 48 108 48 12 2436 8760 76 55 15 146 1904 1011 328 683 0 75 共同利用・共同研究に供する施設 ・ 設備及び資料等の利用状況 研究施設・設備名 次世代 7 シーケンサー システム 8 フローサイトメーター 全自動プロテ オーム解析装置 9 (MALDI-TOF/ TOF/MS) 76 性 能 稼 動 状 況 施設・設備の概要及び目的 使用者の所属機関 年間使用人数 共同利用者数 408 156 216 216 12 12 36 36 学内(法人内) 国立大学 公立大学 私立大学 大学共同利用機関法人 独立行政法人等公的研究機関 民間機関 DNA や RNA の 配 列 を 超 ハ イ スル ー 外国機関 プットに読み取る最先端の機器 その他 計 稼 働 率 年間稼動可能時間⒜ 年間稼動時間⒝=⒞ + ⒟ + ⒠ 共同利用に供した時間⒞ 共同利用以外の研究に供した時間⒟ ⒞、⒟以外の利用に供した時間 学内(法人内) 国立大学 公立大学 私立大学 機 械 内 訳:FACS Calibur HG(Becton 大学共同利用機関法人 Dickinson) 独立行政法人等公的研究機関 使用目的:細胞表面抗原および細胞内 民間機関 タンパク質を蛍光標識し、目的細胞の 外国機関 比率や細胞数を測定する機器である。 その他 本研究所においては、DNA 損傷に伴 計 う細胞周期の変化の観察や、白血病細 稼 働 率 胞の詳細な分類などに利用されてい る。 年間稼動可能時間⒜ 年間稼動時間⒝=⒞ + ⒟ + ⒠ 共同利用に供した時間⒞ 共同利用以外の研究に供した時間⒟ ⒞、⒟以外の利用に供した時間 学内(法人内) 国立大学 機 械 内 訳:ULTRAFLEX/ 自 動 ゲ ル 公立大学 ス ポ ッ ト 切 り 出 し 機 ProteinnerSP (Bruker-Daltonics 社)/ データ解析用 私立大学 ワークステーション / 自動サンプル前 大学共同利用機関法人 処理装置 MultiPROBEII(パーキンエ 独立行政法人等公的研究機関 ルマー社) 民間機関 使用目的:ペプチド断片化した微量サ 外国機関 ンプルをレーザーによってイオン化 その他 し、真空中の飛行速度を検出すること 計 によって物質の質量測定を行う機器で 稼 働 率 ある。これにより、未知タンパク質の 特定を行うことが可能であり、本研究 年間稼動可能時間⒜ 所では放射線被ばくにともなう血中・ 年間稼動時間⒝=⒞ + ⒟ + ⒠ 尿中の被ばく線量依存的マーカーの探 共同利用に供した時間⒞ 索に用いられている。 共同利用以外の研究に供した時間⒟ ⒞、⒟以外の利用に供した時間 672 420 336 81 43 13 7416 7200 5592 1608 0 18 81 43 13 2 10 2 10 485 167 42 38 1904 834 54 780 0 33 38 4 4 84 75 1904 157 121 36 0 共同利用・共同研究に供する施設 ・ 設備及び資料等の利用状況 研究施設・設備名 10 組織標本作製システム 性 能 稼 動 状 況 施設・設備の概要及び目的 構 成 内 訳:Tissue-Tek( 三 共 )/ Vacuum Rotary VRX-23( サ ク ラ )/ ミ ク ロ ト ー ム LEICA SM 2000R( ラ イカ)/ パラフィン伸展器(サクラ)/ Incubator IC101(ヤマト) 使用目的:組織標本作成を行う一連の 機器群である。本研究所では、放射線 修復関連遺伝子などを改変したマウス を作製しており、マウスに発症した腫 瘍などから組織標本を作製し、解析に 用いている。 使用者の所属機関 年間使用人数 共同利用者数 150 81 学内(法人内) 国立大学 公立大学 私立大学 大学共同利用機関法人 独立行政法人等公的研究機関 民間機関 外国機関 その他 計 150 稼 働 率 年間稼動可能時間⒜ 年間稼動時間⒝=⒞ + ⒟ + ⒠ 共同利用に供した時間⒞ 共同利用以外の研究に供した時間⒟ ⒞、⒟以外の利用に供した時間 81 1536 1536 901 635 0 ※世界/国内最高性能をもつ施設・設備の場合は、「性能」欄に○(世界最高)、△(国内最高)を記入。 ※年間使用人数、共同利用者数については延べ人数で算出して下さい。 ※年間稼働可能時間とは、当該設備のメンテナンスに係る時間等を除き、電源投入の有無に関わらず、当該設備を利用に 供することが可能な状態にある時間。 ※年間稼動時間とは、利用者が当該設備を利用するために、電源が投入されている時間。 ※⒞⒟以外の利用に供する時間とは、法人として研究に使用しない時間のうち、民間等に貸し出す時間等。 学術資料の保有状況 資料名 資料の概要 保有数/利用・提供区分 米国陸軍病理学研究所 保有数 米国陸軍病理研究 (AFIP)から返還された広 1 所返還資料 島原爆被災に関する写真 写真資料 利用・提供区分 資料 2 刊行物 3 閲覧 利用申込みにより許可したも のについて、適切な方法によ り提供する。 7828 冊 原爆・被ばく・平和・放射 保有数 利用申込みにより許可したも (新聞資料は除く) 線に関する単行本、図書扱 のについて、適切な方法によ い文献、逐次刊行物、新聞 り提供する。 利用・提供区分 閲覧・貸出 資料 病理学関係資料 剖検資料、剖検記録、保有 (AFIP 資料を含む) 臓器標本、スライド標本等 4 物理資料 1205 枚 整備の状況、利用・提供方法 被曝岩石、被曝瓦、被曝金 属等 保有数 9186 例 利用・提供区分 閲覧 保有数 1200 件 利用・提供区分 閲覧 利用申込みにより許可したも のについて、適切な方法によ り提供する。 利用申込みにより許可したも のについて、適切な方法によ り提供する。 77 共同利用・共同研究に供する施設 ・ 設備及び資料等の利用状況 保有する学術資料のうち、極めて学術的価値が高いもの 資料名 資料の概要 保有数 鎌田メモリアル 1 被爆者白血病 細胞バンク 染色体所見が明らかとなっている白血病サンプルが数千例の規模で蒐集され ている世界でも有数のコレクションである。また、原爆被爆者から白血病を 発症した症例のサンプルが 100 例ほど含まれる点においても世界に例のない 貴重な資料であり学術的価値は極めて高い。 約 3000 例 2 山科 清 資料 原子爆弾による被爆死亡症例のうち最も病日の早い病理解剖症例の記録であ る。 (8/9 ~ /15 までの死亡例 12 例) 57 枚 米 国 陸 軍 病 理 研 究 キノコ雲や被爆当日の広島市内、原爆の効果に関する合同調査団による医学 3 所返還資料 的調査など、米国陸軍病理学研究所(AFIP)から返還された広島原爆被災 写真資料 に関する写真資料である。 1205 枚 病理学関係資料 ABCC(放影研)、広島大学病院、広島県立病院により集められた広島原爆被 (AFIP 資料を含む) 爆者に関する剖検資料、剖検記録、保有臓器標本、スライド標本等である。 9186 例 被爆建物から採取され、放射線量評価システムの策定や再評価、残留放射能 調査に用いられた、被曝岩石、被曝瓦、被曝金属等である。 1200 件 4 5 物理資料 データベースの利用状況 データベース名 1 蓄積情報の概要 公開方法 人口動態死亡票、ABSD 線量付与、広島組織登 原爆被爆者データ ホームペー 録データ、健康と生活 調査データ(人口動態、 ベースシステム ジで公開 組織登録、転出情報など)。一部利用申請が必要。 原爆・被ばく関連 原爆・被ばく関連の新聞記事、写真、書誌。(一 ホームペー 2 資料データベース 部利用申請が必要。) ジで公開 システム 蓄積量/利用・提供情況 蓄積量 293,470 名 利用件数 6,665 件 蓄積量 約 51,400 点 利用件数 133 件 ※利用(アクセス)件数は、上段に総利用(アクセス)件数、下段に共同利用・共同研究者の利用(アクセス)件数(内 数)を記入。 データベースのうち、世界/国内最高性能のもの データベース名 1 原爆被爆者データベースシステム データベースの概要 世界的に非常に貴重な、人口動態調査に基づいて改訂されている被 ばく線量情報を含む原爆被爆者についてのデータベースである。 2 原爆・被ばく関連資料データベースシステム 原爆被爆者関連の世界で最も大規模な医学・社会学的資料である。 78 平成23年度 共同利用・共同研究成果報告集 発 行 平成 25 年1月 編集発行 広島大学原爆放射線医科学研究所 〒734-8553 広島市南区霞一丁目2番3号 http://www.rbm.hiroshima-u.ac.jp/ 印 刷 株式会社ニシキプリント
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