[01]【労務】「雇用法」による失業保険制度の改正①

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キャスト・ベトナム・ニュース
2014 年 3 月 13 日号
(weekly [2014] 01)
トピック
【労務】
「雇用法」による失業保険制度の改正①
弁護士法人キャスト
弁護士
松長隆太
ベトナム弁護士
DOAN THANH HA
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「雇用法」による失業保険制度の改正①
弁護士法人キャスト
同
弁護士
ベトナム弁護士
松長 隆太【1】
Doan Thanh Ha【2】
2013 年 5 月 1 日に新しい「労働法」
(10 号/2012/QH13。以下単に「労働法」といいます。
)
が施行され、約 10 ヶ月が経ちました。今回は、
「労働法」施行後の 2013 年 11 月 16 日に国会が
制定した法律である「雇用法」
(38 号/2013/QH13)について解説をします。
なお、「労働法」施行後に、法律で規定されていない細かな事項を定めるために、法律よりも
下位の法規範として、ベトナム政府から「Decree(議定)
」が複数発布されており、また、労働・
傷病兵・社会福祉省から「Circular(通達)
」も発布されています。これらの規定については、
次回以降のテーマとしてご紹介していきます。
1.はじめに
ベトナムにおける労働関係の決まりごとを定める最重要の法律は、労働基準、労使間の権利義
務・紛争解決、労働組合の組成・団体交渉、ストライキ及び社会保険等に至るまで網羅的に規定
する「労働法」になります。
また、
「労働法」に先駆けて、2013 年 1 月 1 日から施行されている新しい「労働組合法」
(12
号/2012/QH13。
)は、その名前のとおり、労働組合の役割・権利・責任、労働組合活動の保障、
労働組合を使用する企業の責任等を規定しています。
では、「雇用法」は、何を規定する法律でしょうか。
名前からはわかりにくいですが、主に、①雇用創出援助政策(第 10 条∼第 22 条)
、②労働市
場情報(第 23 条∼第 28 条)、③職業技能の国家証明書の評価及び発給(第 29 条∼第 35 条)、
④雇用サービスの組織及び活動(第 36 条∼第 40 条)
、⑤失業保険(第 41 条∼第 59 条)につい
て規定しています。
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本ニュースレターにおける日本の法律法規の解釈に関する部分及び日本語の原稿の起案を担当。
本ニュースレターにおけるベトナムの法律法規の解釈に関する部分を担当。
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本ニュースレターでは、この中で、日系の現地法人にとって特に重要で、かつ、関心が高いと
思われる⑤の失業保険についてご説明します。
【3】
2.失業保険に関する法令の制定∼変遷
失業保険については、
「社会保険法」
(71 号/2006/QH11。)において原則的規定が設けられて
います。「社会保険法」の施行日は 2007 年 1 月 1 日ですが、同法の失業保険に関する条項は 2
年遅れて 2009 年 1 月 1 日から施行されています。
そして、これに合わせる形で、失業保険に関する条項の具体化のために「Decree127 号」
(127
号/2008/ND-CP。
)が制定され、2009 年 1 月 1 日から施行されており(但し、一部の条項は 2013
年 1 月 15 日施行の「100 号/2012/ND-CP」によって修正されています。)
、また、労働・傷病兵・
社会福祉省による Circular も制定・施行されています。
このように、失業保険は制度化されてからまだ 4 年程度しか経っていませんが、その間に様々
な解決すべき問題が発生したと言われています。たとえば、失業手当受給のための手続が過度に
複雑で受給対象となる労働者が制度を活用できないこと、失業手当受給までに時間がかかり過ぎ
ること、使用者が保険料の支払いを免れるために不当な手段を取る例が見られたこと(たとえば、
労働契約の期間が 12 ヶ月に満たない場合には失業保険の対象とならないために、それよりも短
い期間の契約を締結する。)等が指摘されています。
このような状況下で以前から失業保険に関する制度改正の必要性が議論されていましたが、そ
の議論の結果が「雇用法」において反映されたことになります。
「雇用法」は 2015 年 1 月 1 日に施行されますが、同日以降は、
「社会保険法」の失業保険に
関連する条項は失効することになり、
「雇用法」に準拠することになりますので、ベトナム進出
企業においては、失業保険について何がどう変わるかについて押さえていただく必要があります。
なお、同日までの間に、
「社会保険法」の細則を定める「Decree127 号」に代わる新たな規定
及びその他の細則が制定されることが見込まれますが、本ニュースレター作成時点ではまだ制定
されていません。
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①乃至④について簡単に説明すると以下のとおりです。
①は、雇用創出のための国家から企業及び個人等に対する資金の貸出、いなかで働く従業員の転職援助、公共
雇用政策(公共事業における労働者の雇用等)
、海外で働く労働者の援助及び若年労働者の雇用創出の援助とい
った内容になっています。
②は、雇用情勢、労働市場における労働の供給及び需要の情報、ベトナムで働く外国人労働者及び海外で働く
ベトナム人労働者の情報並びに給与及び賃金の情報等についての管理や公開について規定しています。
③は、職業技能の国家水準の設定、国家証明書の発給の要件、国家証明書の評価及び発給を受ける労働者の権
利及び義務等について規定しています。
④は、雇用サービス(コンサルタント及び職業紹介、使用者の要求に基づく労働者の供給及び採用並びに労働
市場情報の収集、供給及び通知から構成される。
)を提供する雇用サービスセンター及び雇用サービス企業の活
動や義務等について規定しています。
上記のとおり、いずれも、労働基準や労働関係の権利義務について定めるものではなく、政策的な側面が強い
規定となっており、かつ、その内容も原則的な規定を定めるのみとなっています。
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3.失業保険の種類
失業保険とは、「失業保険基金に拠出される保険料を基礎として、労働者が仕事を失ったとき
に労働者の収入の一部を補い、労働者が業務を学び、仕事を維持し、仕事を探すことを目指す制
度」を言います(「雇用法」第 3 条第 3 項)。具体的には、失業保険は、
(a)失業手当、(b)コ
ンサルティング及び職業紹介の形式の援助、
(c)職業訓練援助、
(d)労働者の仕事維持のための
職業技能水準の訓練、促進及び更新の援助、から構成されるとされています(「雇用法」第 42
条)
。
この点については、
「社会保険法」から大きく変わっていません。
4.失業保険の適用対象
上記 3(a)乃至(d)の個別の種類の失業保険の話の前に、全ての種類の失業保険に共通する
事項を説明します。
4.1 適用対象
失業保険の適用対象は、以下のとおりとなります(「雇用法」第 43 条第 1 項乃至第 3 項、第 3
条第 1 項)
。
・期間の定めのない労働契約、期間の定めのある労働契約、季節性の仕事又は 3 ヶ月から
12 ヶ月の間の期間の特殊業務の労働契約に基づいて仕事を行うベトナム人労働者。
【4】
・労働者が複数の労働契約を締結している場合、初めに労働契約を締結した労働者及び使
用者が失業保険の調整を行う。
・退職金を受給している労働者又は家事手伝いは失業保険に加入する必要はない。
「社会保険法」との対比で、ここで抑えておくべき重要なポイントは以下のとおりです。
社会保険法(2014 年 12 月 31 日まで)
雇用法(2015 年 1 月 1 日から)
10 名以上の労働者を雇用する使用者のみが 労働者の数に関係なく失業保険加入が義務
失業保険の適用対象であった。
付けられる。
季節性の仕事又は 3 ヶ月から 12 ヶ月の間の 季節性の仕事又は 3 ヶ月から 12 ヶ月の間の
期間の特殊業務の労働契約に基づいて仕事 期間の特殊業務の労働契約に基づいて仕事
を行う労働者は適用対象外であった。
を行う労働者も適用対象となる。
条文では、「hợp đồng lao động」
(労働契約)と、
「hợp đồng làm việc」
(雇用契約)という 2 つの用語が用い
られています。
「雇用法」の中では明確な定義規定はありませんが、一般的には、外国投資企業を含む一般の企
業の場合には前者の用語を用い、国家機関や非営利団体の場合には後者の用語を用います。よって、本稿では、
全て前者の用語を用いています。
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4.2 失業保険の加入
使用者は、労働契約の効力発生日から 30 日以内に労働者のために社会保険機構において失業
保険加入の調整を行う必要があります(「雇用法」第 44 条第 1 項)。
また、使用者は、毎月、自ら負担する失業保険料及び労働者の給与から徴収する失業保険料を
合わせて失業保険基金に支払わなければならないとされています(「雇用法」第 44 条第 2 項)
。
失業保険料として支払う金額は、使用者及び労働者ともに、毎月の労働者の給与の 1%となりま
す(
「雇用法」第 57 条第 1 項)
。
「毎月の給与」は、
「社会保険法」に従って強制的社会保険の保
険料を算定するときの基礎とされる毎月の給与と同じになりますが、毎月の給与が地域の最低賃
金の 20 ヶ月分のを越える場合には、最低賃金の 20 ヶ月分にするものとされています(
「雇用法」
第 58 条第 2 項)
。
(次回に続く。
)
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