Naturevol34_Full. - かごしまネイチャー

Nature of Kagoshima Vol.34 2008
目 次
Articles
北薩地域のタナゴ類の分布と二枚貝の利用について
稲留陽尉・山本智子
1
鹿児島県産のタヌキの生態と保全
船越公威・玉井賢治・山 ひろみ
5
九州南方の離島の火山
小林哲夫
11
鹿児島湾の自然の魅力を伝えるためには
櫻井 真・本村浩之
17
「万之瀬川河口干潟」保護への歩み
柳田一郎
2007 年に報告された鹿児島県の魚類に関する新知見
本村浩之・櫻井 真
Information
鹿児島昆虫同好会(熊谷信晴)
鹿児島植物同好会の活動(2007)(細山田三郎)
鹿児島の自然ガイドの本を刊行(向原祥隆)
「メダカの学校」活動について(池田博幸)
鹿児島大学総合研究博物館∼軌跡のとびらをひもとき,未来へとつなげます∼(福元しげ子)
重富干潟の生殖群泳の観察会報告「真夜中のランデブー観察会」
(浜本 麦)
Business Reports
鹿児島県自然愛護協会 2007 年度会記(本村浩之)
21
25
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41
43
【表紙写真】
桜島
桜島は世界に誇る活火山である.3 つの峰を持ち,南北に並んでいることから,北岳(御岳),中岳,南
岳と名付けられている.峰が南北に並ぶため,桜島の東に位置する鹿屋市輝北町と西に位置する鹿児島市
からはどっしりとした台形に見えるが,北の加治木や隼人からは峰が一つに見えて女性的だ.この写真は
その中間の形をしていることや,朝日が桜島の左(北)側に見えることから,桜島の北東に位置する吉野
台地の寺山付近から撮影されたものであろう.眼下に広がる湾奥部は,およそ 3 万年前の大噴火によって
大規模火砕流(シラス)を噴出して出現した姶良カルデラに海が進入した海域である.一日に七回色を変
えると言われている桜島は,四季を通じて美しい.
(文:大木公彦 鹿児島大学総合研究博物館)
【裏表紙写真】
屋久島のオグロトラギス
本誌 p. 31 を参照
ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
北薩地域のタナゴ類の分布と二枚貝の利用について
稲留陽尉・山本智子
〒 890–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学大学院水産学研究科
はじめに
タナゴ類とは,コイ科タナゴ亜科に属する魚
類で,国内に 3 属 17 種・亜種,世界では約 40 種
の生息が確認されている.鹿児島県の北薩地域は,
アブラボテ Tanakia limbata の国内分布の南限とさ
れ,その他にヤリタナゴ Tanakia lanceolata とタ
イリクバラタナゴ Rhodeus ocellatus ocellatus の生
息が確認されている(薩摩半島南部にある山川町
の鰻池にはニッポンバラタナゴが生息するとの情
報もある).
これらのタナゴ類は,二枚貝を産卵床として
利用することが最大の特徴であるが(図 1),利
用される貝類には,カワシンジュガイ科 2 種,イ
シガイ科 15 種が国内で知られている.このよう
な繁殖生態を持つタナゴ類では,在来種と移入種
の競合,移入種による在来種の駆逐,同一の二枚
貝に複数種のタナゴ類が産卵することによる種間
交雑等が古くから問題視されてきた.
これらの問題が従来の生態系へ影響を与える
ことが表面化してきたことで,平成 16 年には外
来生物法が施行された.これは,問題を引き起こ
す海外起源の外来生物を特定外来生物として指定
し,その飼育・栽培・保管・運搬・輸入といった
取り扱いを規制し,特定外来生物の防除等を行う
法律である.タナゴ類についても,元来日本での
生息が確認されていなかったタイリクバラタナゴ
やオオタナゴ Acheilognathus macropterus の生息が
確認されており,これらの種は,規制は受けない
が取扱いに注意を要するとされる要注意外来生物
に指定されている.また,アユやウナギの各地域
への放流に伴い,生息の確認されていない河川へ
のタナゴ類の分布も拡大しているが,このような
種は国内移入種と呼ばれ,同様の問題を引き起こ
す可能性を危惧されている.
北薩地域においても,
在来のアブラボテ以外に,ヤリタナゴ(国内移入
種)やタイリクバラタナゴ(国外移入種)の生息
が確認されているが(図 2),その詳細な分布調
査は行われていない.
図 1.アブラボテ及びイシガイ科貝類の生活史模式図.
タナゴ類は,イシガイ科貝類に産卵し,仔魚は貝の
中でおよそ 1 ヶ月過ごす.一方イシガイ科貝類の幼
生はクロキディウム幼生という特殊な形態のもので,
ヨシノボリ等の底生魚に一旦寄生しないと底生生活
に入れない.
Inadome, T. and T. Yamamoto. 2008. Distribution of bitterling
species and their utilization of unionid mussels in North
Satsuma region. Nature of Kagoshima 34: 1–4.
Graduate School of Fisheries Sciences, Kagoshima
University, 4–50–20 Shimoarata, Kagoshima 890–0056, Japan
(e-mail: TI, [email protected]; TY, yamamoto@fish.
kagoshima-u.ac.jp)
そこで本研究では,アブラボテの生息が確認
されている北薩地域を中心にタナゴ類の分布を詳
細に調べ,同時に各種の二枚貝の利用状況を明ら
かにすることを目的とした.
調査地
日本におけるアブラボテの分布は,鹿児島県
の北薩地域が南限となっていることから,出水市
米ノ津川から薩摩川内市高江地区の水路までの北
薩地域を中心とした海岸線に面した河川を調査対
1
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
ARTICLES
図 4.イシガイ科貝類 3 種の分布.
図 2.採集されたタナゴ類.a) アブラボテ b) タイリク
バラタナゴ c) ヤリタナゴ.
象地とした(調査地点については図 3, 4 参照).
調査方法
調査は,2007 年 4 月から開始し,現在も継続
中である.タナゴ類,イシガイ科貝類の確認方法
を以下に示す.
・タナゴ類―各河川においてモンドリを捕獲の道
具として用いた.誘引用の餌は,市販の釣り用コ
イの餌に水を加えて団子状にしたものを用いた.
設置場所は,タナゴ類の生息環境とされる流れの
緩やかな場所,隠れ場所となる水ぎわ植物の生育
する場所,水深の浅い場所,底質が礫や泥などの
条件を考え,陸域から近づくことのできる流れの
緩やかな場所に 1 河川単位 1–3 個設置した(図 5,
6).餌の集魚効果,消失時間を考え,設置時間は
約 30 分とした.河川の設置下限は,潮の影響の
及ばない地点,上限は河川の様相が上流域となる
地点とした.
・イシガイ科貝類―タナゴ類の確認された河川の
捕獲された付近で,目視もしくは鋤簾を用いて確
認を行った(図 7).
結果
14 河川で調査を行い,アブラボテ 4 河川(米
ノ津川,江内川,折口川,高松川),タイリクバ
ラタナゴ 5 河川(東干拓水路,江内川,網津川,
原田川,八間川)
,ヤリタナゴ 1 河川(八間川)
で確認された.また,このうちアブラボテについ
図 3.タナゴ類 3 種の分布.
2
ては,既知の分布河川(米ノ津川,江内川,高松
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Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
図 5.江内川(アブラボテとタイリクバラタナゴが生息).
川幅 10 m 程で両岸とも人工護岸.
図 6.高松川.アブラボテの生息が確認された場所は湧
水のある細流(川幅 1 m 程度).寄り州を挟んで本川
が流れる.
図 7.確認されたイシガイ科貝類.a) ドブガイ b) マツ
カサガイ c) ニセマツカサガイ.
川)以外に新たに折口川で確認された(図 3).
同一河川内に 2 種以上のタナゴ類の生息が確認さ
た(図 4).その他にタナゴ類の生息が確認された,
れた河川は,江内川(アブラボテとタイリクバラ
折口川,網津川,原田川では現在のところ確認さ
タナゴ)
,八間川(タイリクバラタナゴとヤリタ
れていない.
ナゴ)であった.イシガイ科貝類の生息が確認で
特定のタナゴ種が特定の二枚貝種を利用して
きた河川は,ドブガイ 3 河川(東干拓水路,江内
いるわけではなく、1 種の二枚貝を利用している
川,八間川),マツカサガイ 2 河川(米ノ津川,
河川と複数種利用している河川があった.タナゴ
高松川),ニセマツカサガイ 1 河川(八間川)であっ
類の確認された河川とイシガイ科貝類の組み合わ
せを表 1 に示す.
表 1.各河川におけるタナゴ類とイシガイ科貝類の組み合わせ.
河川名
米ノ津川
東干拓水路
江内川
高松川
折口川
網津川
原田川
八間川
タナゴ類
アブラボテ
タイリクバラタナゴ
アブラボテ・タイリクバラタナゴ
アブラボテ
アブラボテ
タイリクバラタナゴ
タイリクバラタナゴ
ヤリタナゴ・タイリクバラタナゴ
イシガイ科貝類
マツカサガイ
ドブガイ
ドブガイ
マツカサガイ
̶
̶
̶
ドブガイ・ニセマツカサガイ
3
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
考察
今回 3 種のタナゴ類が確認され,アブラボテ
については,既知の 3 河川(米ノ津川,江内川,
高松川)以外に新たに折口川でも生息が確認され
た.折口川は高松川の隣に位置し,直線距離で 5
km 程の距離である.近年の移入による分布の可
能性は否定できないが,既に生息の確認されてい
る河川との位置関係から考えて,以前から生息し
ていたものと思われる.
アブラボテの生息記録のあった 3 河川のうち,
江内川では同じタナゴ類であるタイリクバラタナ
ゴも確認採集された.本河川に生息するに至った
経緯は,飼育個体の放流もしくは最も近くで生息
の確認されている東干拓水路からの移入が考えら
れるが,いずれにしても人為によるものと考えら
れる.
両種の生息が確認された江内川では,産卵床
二枚貝としてはドブガイのみが確認採集されてお
り,在来のアブラボテと移入のタイリクバラタナ
ゴの間に,この二枚貝をめぐって競合が起きてい
る可能性が示唆された.タイリクバラタナゴは,
通常産卵期 4–9 月,孵化仔魚泳出までに約 20 日
とされるのに対し,アブラボテは産卵期 4–6 月,
孵化仔魚泳出まで約 1 ヶ月とされており,単純に
比較するとタイリクバラタナゴが繁殖上有利であ
4
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ると思われる.
現在までの結果では,江内川を除いてアブラ
ボテの生息する河川で他のタナゴ類が採集された
場所はなかった.しかし,外来タナゴ類は,調査
地域内の河川に広く分布しており,ペットショッ
プにおいて販売されている個体も考えると,いつ
各河川に移入されてもおかしくない状況である.
二枚貝については,各河川で確認できた個体
数は数個体と少なく,他県で実施されている調査
の捕獲個体数とはかなりかけ離れている.他県と
タナゴ類の分布している河川規模が異なることか
ら,生息密度の低下による捕獲効率の低下や局所
的に生息していることも考えられるが,生息数自
体少ないのではないかと考えられ,未だ生息の確
認できていない河川において,その確認を行うの
が課題である.
謝辞
本研究は,鹿児島県自然愛護協会の研究助成
を受けて行われた.心から御礼申し上げる.また,
研究をまとめるにあたって貴重な助言を頂いた鹿
児島大学水産学部付属海洋資源環境教育研究セン
ターの教員,学生の諸氏,調査にあたって御指導
頂いた鹿児島県環境技術協会の皆様にも感謝す
る.
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Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
鹿児島県産のタヌキの生態と保全
船越公威・玉井賢治・山
ひろみ
〒 891–0197 鹿児島市坂之上 8–34–1 鹿児島国際大学国際文化学部生物学研究室
はじめに
タヌキ Nyctereutes procyonoides は食肉目のイヌ
科に属する哺乳類で,ロシアや中国の東部,イン
ドシナ半島北部に広く分布し,日本では本州,四
国,九州のホンドタヌキ N. p. viverrinus と北海道
のエゾタヌキ N. p. albus の 2 亜種が生息している
(芝田,1996;米田,2005).
ホンドタヌキの体毛は白毛と黒い刺毛が混
じった灰黒色と茶褐色で,目の周りは黒い.頭胴
長 50–60 cm,尾長 15 cm 前後,体重 3–5 kg,イ
ヌ科の中では四肢が短くずんぐりした体型である
(米田,2005).交尾期は 2–3 月,初夏の 5–6 月に
3–5 頭 の 子 を 出 産 す る( 芝 田,1996; 鈴 木,
2003;米田,2005).一夫一妻制(ペア)で,夏
– 秋まで子供を伴う家族を形成する.
雑食性で,節足動物(昆虫,ムカデなど)
,小
型の脊椎動物(カエル,ヘビ,魚,鳥,ネズミな
ど),野生果実を摂食する(芝田,1996;米田,
2005).さらに,農作物の野菜や果実を食害する
こともある.主に里山に生息する身近な動物で,
調査や交通事故死(ロードキル)に関する資料,
鹿児島県の「鹿児島県林業統計」による捕獲状況
の資料を収集した.
調査地,材料および方法
主な調査地は,下福元町木屋宇都,同町慈眼寺,
平川町芝野,東市来町長里及び鹿児島国際大学構
内である(図 1).各地域の生息確認と活動状況
を知るために,自動撮影装置(Fieldnote 1, 麻里府
商事・アーパス社製)を設置して調査した.これ
は,フラッシュ付きカメラとセンサーを組み合わ
せたもので,動物の通り道や餌場に動物がやって
くると,動物の体温をセンサーが感知してカメラ
のシャッターを切る仕組みになっている.この装
置を使うと,昼夜を問わず,そこに接近する個体
の姿を写真でとらえることができる.巣穴のそば
やけもの道等において,20 m 前後の間隔でカメ
ラ1台を木の幹や枝に固定し,調査度に 5 台前後
のカメラを設置した.設置後 2 週間でカメラを回
収し,写った個体の日時を記録した.場所によっ
時には都市部にも出没している.タヌキは狩猟鳥
獣として捕獲されている. 鹿児島県産のタヌキについては,概略の生息
分 布 が 記 載 さ れ て い る( 森 田,1974; 大 塚,
1995; 鮫島,1997)だけで,本格的な生態学的研
究などはなされていない.
そこで今回は,主に自動撮影装置を利用して,
生息の有無や活動状況を調べた.また,聞き込み
Funakoshi, K., K. Tamai and H. Yamasaki. 2008. Ecology and
conservation of a raccoon dog, Nyctereutes procyonoides,
in Kagoshima Prefecture. Nature of Kagoshima 34: 5–10.
Biological Laboratory, Faculty of Intercultural Studies,
the International University of Kagoshima, 8–34–1 Sakanoue,
Kagoshima 891–0197, Japan (e-mail: KF, [email protected].
ac.jp)
図 1.調査地点.A, 下福元町慈眼寺; B, 下福元町木屋
宇都; C, 鹿児島国際大学構内; D, 平川町芝野; E, 東
市来町長里.
5
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
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加治木町で 2004 年 4 月 –2007 年 10 月分,曽於市
で 2004 年 4 月 –2007 年 12 月分である.
また,鹿児島県の「鹿児島県林業統計」の資
料収集に関しては,タヌキ,その他の動物の捕獲
状況を記載した 2001–2006 年分を利用した.
調査結果
1.タヌキの生息地確認
調査地では,どの地点でもタヌキの生息を確
認した(図 1).タヌキは後述するように,主に
日没前後から日の出前後にかけて行動していた
(図 2A).同じ撮影地点で,アナグマが時間を違
えて撮られており,タヌキと互いに出会わないよ
うに避けあっている傾向もみられた.また,タヌ
キは自分で巣穴を作らないようで,頻繁にアナグ
マが作った古い巣穴を利用していた.
2.生息状況と活動パターン
自動撮影装置による記録から,多くは単独で
写っていた.また,ペアで撮影された例が,木屋
図 2.下福元町木屋宇都で 2 月 13 日に撮影されたペア(A)
と谷山で 7 月 23 日に保護された幼獣雌(B).
宇都で 2 月中旬(図 2A),大学構内で 7 月下旬,
永里で 12 月中旬にみられた.
ペアの行動に関連して,鹿児島市上竜尾町で 4
ては,タヌキを誘引するためにから揚げなどをカ
月 8 日に一緒に交通事故に遭っていた.繁殖に関
メラ周辺の落葉中に置いた.また,タメ糞を採集
して,木屋宇都では 5 月下旬に巣穴付近で幼獣 2
して,糞分析を行った.調査期間は 2003 年 8 月
–2007 年 12 月である.
頭が撮影された.また,谷山インターチェンジ入
り口付近で,7 月中旬に交通事故でしばらく動け
交通事故による死亡の現状を把握するため,加
ない幼獣雌が保護された(図 2B).この個体の全
治木町の鹿児島県加治木土木事務所と曽於市の鹿
長は約 40 cm,尾長 12 cm,体重は 1250 g で成獣
児島県大隈土木事務所において,ロードパトロー
の 1/3 程度で小さく,生後 1–2 ヶ月と推定された.
ル日誌を見せていただき,記載されたタヌキ,そ
の他の動物の個体数を記録した.それらの資料は,
タヌキの一日の活動パターンを知るため,各
時間の撮影個体数を 2 期(3–6 月と 9–12 月)に
図 3.タヌキにおける撮影個体数の一日の変化.2 期(3–6 月と 9–12 月)に分けて集計.
6
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Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
図 4.タヌキの撮影個体数の頻度の月変化.
分けて集計し,図 3 に示した.両時期ともに日没
の 1 時間前後(18 時または 19 時)に撮影個体数
が最も多く,活動のピークがみられた.その後
21 時前後,0 時または 1 時前後,3 時前後,5 時
前後にも頻繁に活動していた.特に,3–6 月では
7–8 時,12–14 時,16–17 時の昼間にも活動がみ
られた.一方,9–12 月では昼間の活動がほとん
どみられず,夜間に集中する傾向がみられ,夜の
前半の高いピークと後半の低いピークをもつ二山
型のパターンを示していた(図 3).
また,各月の撮影個体数の頻度を比較すると,
最も多かったのは 10 月,次いで 11 月であった.
半減しているがやや高い値を示した月として,3
月,5–6 月,8 月を挙げることができる(図 4).
3.タメ糞と糞分析
タメ糞は,下福元町木屋宇都,東市来町永里
等の林内で発見された.サイズは何れも約 30×30
cm で,旧糞や新糞が混在していた.それらの一
部を採集して,糞分析した結果,6 月のサンプル
では動物質物質(破片)としてバッタ等の直翅目
やアオドウガネなどの鞘翅目昆虫,サワガニや鳥
の羽など,植物質物質としてはクマイチゴなどの
種子が含まれていた.一方,11 月のサンプルで
は動物質物質(破片)として昆虫の直翅目(バッ
タ科,キリギリス科,ケラ科)や鞘翅目(ゴミム
図 5.鹿児島市上竜尾町の路上で 2006 年 4 月 8 日に交
通事故に遭遇してしまったペアのタヌキ(A)と下福
元町の林内で 2005 年 5 月 27 日に撮影された 疥癬症
.
のタヌキ(B)
シ等),ムカデ類(唇脚綱),サワガニ(甲殻類の
エビ綱)
,植物質物質としてアケビ科(アケビや
たこと,食物に関して,キュウリやナス,残飯も
ムベ)
,カキノキ科(カキノキ)などの種子が含
あさって食べていたとのことであった.また,裏
まれていた. 山の埋もれた防空壕やアナグマの巣穴をタヌキが
4.聞き込み情報
利用していたとのことであった.
下福元町木屋宇都の民家の方から,タヌキに
5.交通事故死と疥癬症
関する情報を得ることができた.子育て時期に関
交通事故によるタヌキの死亡は後を絶たず,毎
して,4–6 月に子の騒ぐ声が聞かれ,7–8 月の離
年多くの個体が車に轢かれている(図 5A).曽於
乳期の頃には数匹のタヌキがスイカを摂食してい
市におけるロードキルの被害対象野生動物に関し
7
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
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図 6.曽於市(A)と加治木町(B)におけるタヌキの月別交通事故死亡個体数(2004–2007 年分).
て,総数のトップはタヌキで 2 位のイタチの 2–5
6.狩猟統計の資料
倍を占めていた.イタチよりも少ないウサギが 3
鹿児島県の鳥獣保護事業の統計(鹿児島県林
位,アナグマが 4 位と続いていた.タヌキの月別
務水産部,2002–2006 年)で,狩猟による捕獲頭
死亡数を見ると,秋季 10–11 月と春季 3–6 月に多
数は 2001 年度約 2000 頭であったが,その後減少
くみられ,夏季と冬季に減少する傾向がみられた
して 2004 年度には約 800 頭と半分以下にまでなっ
(図 6 A).
他方,加治木町のロードキルの被害対象野生
た(図 7).2005 年度には約 1300 頭に増えたが,
2006 年度には約 700 頭と再び減少に転じた.一方,
動物の総数は少なかったが,それらの死亡個体数
有害駆除数は 2001 年度では約 600 頭で狩猟捕獲
の順位をみると,タヌキが圧倒的に多かった.ま
数の 1/3 程度に止まっていたが,その後増加傾向
た,ウサギが 2 位,イタチが 3 位で曽於市とは逆
を 示 し,2004 年 に は 狩 猟 捕 獲 数 を 逆 転 し て 約
転しており,アナグマ 4 位と続き,テンやサルの
1000 頭 に 達 し,2005 年 に は 約 1100 頭,2006 年
死亡個体が数例みられた.タヌキの月別死亡数を
には 1300 頭と増加の一途をたどっていた(図 7).
見ると,ピークは秋季 10–11 月に集中し,春季
3–6 月には秋季より少なかった(図 6B).また,
夏季 7–8 月や冬季 12–2 月の死亡数は,曽於市と
同様に減少していた.
考察
1.分布と生息状況
今回の調査結果とこれまでの分布の記載(森
年間の総死亡数をみると,曽於市で 2004 年度
田,1974;大塚,1995;鮫島,1997)で,タヌキ
85 頭,2005 年 度 83 頭,2006 年 度 78 頭 で あ り,
は鹿児島県内全域に広く分布していることが推察
加治木町では各年度 49 頭,54 頭,53 頭であった
された.タヌキは主に人里近くの丘陵地帯に広が
(図 6A, B).
る落葉広葉樹林内に生息している(芝田,1996).
自動撮影による個体の中で,疥癬症(ヒゼン
ダニの寄生による皮膚疾患)による皮膚疾患で脱
毛した個体が散見された(図 5B).また,鹿児島
市錦江台の 20 号線の路上付近で 2007 年 7 月 7 日
に疥癬症を患って衰弱した授乳中と思われる幼獣
が発見された.
8
図 7.鹿児島県内におけるタヌキの捕獲頭数の年次変化
(2001–2006 年分).
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Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
鹿児島県においても,本種の糞分析結果からも知
断続的な活動がみられた(図 3).それは,この
られた食性の特徴(雑食性)から,行動域は林内,
時期が妊娠や子育て時期に当たっているため,頻
林縁,人家などを含む広い範囲であると考えられ
繁な摂食活動や巣穴と採食場所の往復を反映した
る.しかし,杉林などの人工林では生活痕として
ものと思われる.他方,9–12 月には,昼間の活
の巣穴やタメ糞場がほとんど発見されないことか
動がほとんどなく,前夜半の主要なピークと後夜
ら,こうした林はタヌキにとって不適な環境と思
半のピークを持つ二山型を示していた.また,
われる.
10–11 月の撮影個体数は著しく急増していた(図
ところで,鹿児島県下の個体数の推移に関し
4).これらの結果から,効率的な摂食によって摂
て,狩猟捕獲数の年次的な減少傾向(図 7)と
食量を高め,冬季を乗り切るための脂肪蓄積(体
2007 年の両地域における交通事故死亡数の減少
重増加)を図っているものと推察される.
(図 6A, B)から,個体数は減少に向かっている
3.交通事故の現状
と推察される.加えて,有害駆除数が増加の一途
タヌキにおける過去 4 年間のロードキルの現
にあること(図 7)や幼獣の疥癬症の多発傾向な
状をみると,その死亡個体数は他の野生動物に比
どから,個体数の減少を加速している可能性が考
べて圧倒的に多い.これは,個体数が比較的多い
えられる.1980 年代末から関東を中心に全国規
のに加えて,行動圏の広さや食性の幅の広さ,生
模でヒゼンダニによる疥癬症やジステンパーによ
息域の狭小化や孤立化によって,近年人の生活居
るタヌキの大量死がみられるようになり,その原
住地に頻繁に出現するようになったためと考えら
因の 1 つとして開発による生息域の孤立や都市へ
れる.
の侵入・高密度化によって病気が蔓延しやすい状
年間の死亡個体数の変化をみると,3–6 月と
況下に置かれていることが考えられている(芝田,
10–11 月に増加のピークが集中している(図 6A,
1996).今後,県内の個体数の変化を注視すると
B).前者のピークの主因として,妊娠・出産・
ともに,その要因を探る必要がある.
子育ての時期の巣穴と採餌場所との往復回数(餌
2.繁殖と活動パターン
探し)の増加で,交通事故に遭遇する機会が増え
鹿児島県における繁殖生態に関して,成獣雌
たためと考えられる.後者のピークの主因として,
雄のペアが冬季の 12 月や 2 月の交尾期にみられ,
冬季の食物欠乏に備えた多食のための広範囲な餌
また夏季 7 月の子育て時期にもみられたことか
探しや離乳・独り立ちの幼獣の放浪などが挙げら
ら,ほぼ周年を通じてペアが維持されていると考
れる.川崎市ではタヌキの交通事故死が死亡原因
えられる(芝田,1996 参照)
.出産時期は,幼獣
の 76% の高率を示している(岸本,2003).いず
の写真撮影や目撃例などから逆算して,5–6 月に
れにしても悲惨であり,道路の安全管理の上でも
集中していると考えられる.夏季の子育て時期を
対策を講じていく必要がある.
過ぎて秋に入ると,子は成獣大に達して冬までに
4.タヌキの保全について
独立するとされている(芝田,1996).
タヌキは本来自然環境の中(奥山 – 里山)で
ねぐら場所として,林内では木の根元や窪み
野生を保ちながら,その自然に見合った個体数を
を巣穴として利用している(三浦,2002).今回
変動・維持して存続していくものであろう.その
の調査ではアナグマの古い巣穴や防空壕跡を利用
観点からすれば,過度な狩猟圧やロードキルの現
していた.また,人慣れすると民家の床下,納屋,
状は異常である.特に,近年の有害駆除の増加は,
軒下,排水溝などもねぐらとして利用し,子育て
単にタヌキ側の問題だけではない.
することもある(池田,1991;三浦,2002;鈴木,
2003).
これまで述べてきた好適な生息域の狭小化や
孤立,餌付けによる人慣れ(岸本,2003)によっ
活動パターンについて,3–6 月は日没後頃と真
て,人の生活居住地への接近が助長され,農作物
夜中に活動のピークを示す一方,夜間や昼間にも
などへ被害が及んだと考えられる.こうした現状
9
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
ARTICLES
を踏まえて考えると,まず彼らの生息環境の改善
の便宜をはかっていただいた下福元町の農家の岩
ともなる里山の管理・育成に努め,人との干渉地
元徳蔵氏,パトロール日誌に記載された野生動物
帯を確保することがタヌキの保全に役立つと思わ
の交通事故死の資料収集に便宜をはかっていただ
れる.
いた鹿児島県大隈土木事務所道路維持管理課,鹿
また,畑や民家への侵入を未然に防ぎ被害を
児島県加治木土木事務所道路維持管理課の諸氏,
定着させないために,餌となる野菜屑,生ゴミの
狩猟統計の資料収集にご協力いただいた鹿児島県
処理や果樹園における落下果実の処理(三浦,
林務水産部森林保全課保護猟政係の小牧利明氏に
2002)を徹底することである.加えて,電気柵を
厚くお礼申し上げます.
侵入口側(山側)に設置すること(三浦,2002)で,
農業被害を軽減することが可能である.
一方,交通事故対策の 1 つとして,ロードキ
ルが頻発すら場所には,人工的な「けもの道」と
なるボックスカルバートやパイプカルバートを道
路下に設置するか,オーバーブリッジを道路上に
設置するなど工夫する必要がある.
こうした改善策は,タヌキばかりでなく他の
野生動物にも当てはまることである.野生動物と
如何に共存していくか? それは,人のちょっと
した「ゆずる気持ち」と「人慣れさせない」努力
に委ねられているかもしれない.
近年,屋久島では移入されたタヌキが大きな
問題となっている.1992 年頃に見かけられるよ
うになり,1996 年以降には個体数が急増して島
の全周を取り巻くまでに分布を広げてしまって
(東,2002),ロードキルの個体を見ることがある.
持ち込まれたタヌキは天敵がいないため生態系を
撹乱(特に在来種への影響)することが十分に予
想され,農作物への被害の拡大も懸念される.心
無い「持ち込み」という行為によって,奄美大島
のマングースと同様に,駆除の対象になってしま
うタヌキも悲劇としかいいようがない.野生動物
のあるべき姿を今一度皆で考えてほしい.
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.(阿部 永監修:
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ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
九州南方の離島の火山
小林哲夫
〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理学部地球環境科学科
Abstract. The volcanic arc off Kyushu, which stretches some
1000 km southwestward, is associated with an active back-arc
basin, the Okinawa trough. The volcanoes on these southern
islands are, from north to south, Kikai caldera (SatsumaIojima and Showa-Iojima formed during the 1934-1935
submarine eruption), Kuchinoerabujima, Kuchinoshima,
Nakanoshima, Suwanosejima, Akusekijima, Yokoatejima, IoTorishima, and a submarine volcano NNE of Iriomotejima.
The edifices and mode of eruptions of these volcanoes are
quite different from each other. There are two submerged
calderas; Kikai caldera and an unnamed caldera around
Yokoatejima. Kikai caldera is one of the youngest calderas in
Japan. Its latest caldera-forming eruption occurred
approximately 7300 years ago, destructive pyroclastic flows
reaching the southern parts of Kagoshima. It is widely
believed that the Jomon culture in southern Kagoshima
completely perished during this eruption. The associated
volcanic ash spread all over Japan, and has still been
preserved in the soil layers in many places. Although the
erupted rocks of these volcanoes consist predominantly of
pyroxene andesite, Kuchinoshima volcano erupted mainly
hornblende andesite. Kikai caldera only erupted magmas of
bimodal composition (basalt and rhyolite).
はじめに
九州南方の火山は,琉球海溝にそって,南北
1000 km にわたり点在している(図 1).その火山
列の背後の海底には沖縄トラフという地溝状の陥
没地形がつらなり,深海での噴気活動も確認され
ている.今回は離島の火山として,北から鬼界カ
ルデラ(薩摩硫黄岳と稲村岳,さらに 1934・35
年の海底噴火で出現した昭和硫黄島)
,口永良部
島,口之島,中之島,諏訪之瀬島,悪石島,横当
島,硫黄鳥島,さらに西表島の沖合の海底火山に
ついて記載する.これら火山の大半は過去 1 万年
以内に噴火した証拠が認められる火山,すなわち
活火山であるが,悪石島と横当島は活火山とは認
定されていない.
しかし両火山とも調査が進めば,
Kobayashi, T. 2008. Volcanic islands south of Kyushu, Japan.
Nature of Kagoshima 34: 11–16.
Faculty of Science, Kagoshima University, 1–21–35
Krimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: koba@sci.
kagoshima-u.ac.jp).
図 1.鹿児島以南の火山島の位置図(沖縄県西表島近海
の海底火山の位置については本文参照).
いずれは活火山に認定されるものと思われる.
火山地形,噴火様式等も互いに異なっている.
岩石の大半は輝石安山岩であるが,鬼界カルデラ
では流紋岩と玄武岩という両極の岩石が産出す
る.また口之島は角閃石安山岩が卓越する.大規
模なカルデラ火山としては鬼界カルデラと横当島
カルデラ(仮称)がある.今回はこれら火山の噴
火史について紹介する.なお上記した火山以外に
も,古い火山島が存在する.臥蛇島は火山地形を
11
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
ARTICLES
残しているが,小臥蛇島や平島などは原型をとど
る火山としては,
薩摩硫黄島に薩摩硫黄岳
(704 m)
めていない,しかしいずれも過去数 10 万年以内
と稲村岳(236 m)という 2 つの火山が存在する.
に噴火した火山と推定されている(松本・他,
図 2 は 東 方 か ら 見 た 薩 摩 硫 黄 岳 で あ る. 奥 野
2006).また黒島の最後の溶岩も約 100 万年前の
(1996)によると,硫黄岳が海面上に出現したの
噴出物である(Joshima et al., 1978).
は約 5000 年前であり,その後 3000 年前ころは稲
村岳が活動し,その後,再び硫黄岳に活動中心が
離島の火山の記載
1.鬼界カルデラの火山
移り,最後のマグマ噴火は約 500 年前と推定され
ている.その間,硫黄岳では流紋岩質マグマのみ
鬼界カルデラは,薩摩半島の端から 40 km 南
を噴出し,稲村岳は主に玄武岩質マグマを噴出し
方の海域に位置しており,カルデラ北側の縁をな
た.山頂火口周辺は著しい熱水変質作用を受けて
す竹島と薩摩硫黄島のみが海面上に出ている.地
おり,以前は珪石が採掘されていた.1988 年以降,
質については小野・他(1982)に詳しく紹介され
山頂火口の内部で噴気活動が活発化し,噴気に
ている.小林(1985,1989)には,薩摩硫黄島の
よって拡大したすり鉢状の小火口が出現した.
火山が写真つきで解説されている.それらもあわ
せて参照されたい.
最 後 の カ ル デ ラ 噴 火 は 約 7300 年 前( 奥 野,
なお硫黄島の東沖あいにある昭和硫黄島は,
1934・35 年の海底噴火で出現した流紋岩質の火
山島である.硫黄島の周辺では海水中で温泉が湧
2002)に発生したアカホヤ噴火である.この噴火
出しており,海水の変色域が広がっている.
で発生した火砕流は海をこえ,薩摩・大隅半島に
2.口永良部島
まで到達した.縄文早期の出来事であり,当時の
口永良部島は屋久島の西方 12 km に位置して
自然環境や人間の生活に破壊的な被害を与えたこ
おり,東西2つの島が結合したひょうたん型をし
とが推定されている(新東,1984;杉山,2002;
ている.新しい火山は全て島の東部に位置してお
桒畑,2002 等).また上空に舞い上がった細粒火
り,最も新しい火山地形は最高峰の古岳(657 m)
山灰(通称:アカホヤ火山灰)は関東地方にまで
と新岳(600 m)である(図 3).記録に残る噴火
分布しており,重要な鍵テフラとなっている(町
はすべて新岳で発生している.
田・新井,1978).この噴火の最中に,南九州を
名前が示すように新岳は最も新しい火山であ
中心に大地震が多発し,その震動により発生した
る.その山体は溶岩流が主体の火砕丘である.新
砕屑岩脈(噴礫脈および噴砂脈)が南九州一帯で
岳の西側山腹から山麓にかけて新鮮な溶岩が広く
見出されている(成尾・小林,2002).
分布しているが,噴出年代は 12 世紀(Matsumoto
鬼界カルデラ自体が活火山であるが,いわゆ
図 2.火山ガスを噴き上げる薩摩硫黄岳.海岸付近には
温泉が湧出しており,島の周囲は変色水域が広がっ
ている.
12
et al., 2007)と推定されている.新岳の火口の縁
図 3.口永良部島の古岳(手前)と隣接する新岳(左奥)
.
ARTICLES
図 4.口之島の前岳(左の高い峰)と燃岳(中央の丸み
をおびた溶岩ドーム).
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
図 5.中之島の御岳.
には,北々東∼南々西方向に連なる割れ目火口が
存在する.これは 1945 年と 1980 年の噴火で生じ
たものである.新岳の歴史時代の噴火はすべて水
蒸気噴火と考えられてきたが,森林火災等の被害
を生じた事例(1933,1966 年)ではマグマ噴火
であったことが判明した(下司・小林,2006).
最近でもしばしば地震が多発することがあり,噴
火に対して要注意の火山である.
一方,古岳は地形的な特徴から,新旧 2 つの
山体に区分できる.新期の古岳山頂からは,南方
に流下した明瞭な溶岩地形(平床溶岩)が認めら
れる.現在も火口内では噴気活動が活発であるが,
江戸時代に相当する 200 年前?という新しい時代
に火砕流噴火が発生している(小林・他,2002).
古岳といえども,老衰した古い火山ではない証拠
である.
本島の火山岩の大半は輝石安山岩であるが,一
部の溶岩はかんらん石の斑晶を多く含んでいる.
3.口之島
口之島は溶岩ドームの集合した火山島である.
島の中央部には数万年前から活動を始めた新しい
火山体が密集している.中央付近に最も高い前岳
(628 m) が聳えている.前岳の南東斜面は急な滑
落崖となっており,その前面には燃岳という溶岩
ドームがある(図 4).小林(1985)にもこの火
山が写真つきで解説されている.それらもあわせ
て参照されたい.燃岳の誕生は 12 ∼ 13 世紀ころ
(奥野・他,2004)と推定されており,その山頂
付近にはいくつかの爆裂火口が存在している.そ
図 6.諏訪之瀬島の御岳.勢いよく火山ガスを噴出する
御岳と,その前面に広がる明治溶岩流(1884 年).
れゆえ数百年前ころまで水蒸気爆発が発生してい
た可能性が高い.現在でも火口からは弱いながら
噴気が認められる.この島の岩石は主に角閃石安
山岩からなり,トカラ列島の他の火山の岩石とは
性質が異なっている.
4.中之島
中之島は南部の椎崎火山と北部の御岳火山と
が合体し北西−南東方向に伸びた楕円型の地形を
なしている.椎崎火山は原型を留めないほど解析
された古い火山体であるが,御岳 (979 m) は均整
のとれた成層火山である(図 5).山頂および山
腹の火口で活発な噴気が認められる.山頂火口か
ら東∼南東方向に,溶岩が流れ下っている.アカ
ホヤ火山灰よりも上位にあるが,具体的な噴出年
代は得られていない.歴史時代の噴火記録は,桜
島火山の 1914 年の噴火に連動するように発生し
た小規模な噴火の1回だけである.
岩石は主に輝石安山岩であるが,わずかに角
閃石デイサイトを産出する(松本・大四,1985).
13
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
5.諏訪之瀬島
諏訪之瀬島は 3 つの火山体が北北東−南南西
に連結したような形状であり,中央部を御岳火山
ARTICLES
顕著な噴火活動は認められないが,南山麓には高
温の温泉がある.
7.横当島
(799 m)が占め,北に富立岳(536 m),南に根
横当島は奄美大島の北西沖に位置する安山岩
上岳(409 m)を従えている.御岳火山の山頂部
の小島である.横当島は西峰火山と東峰火山が接
には,東側に開いた作地カルデラと呼ばれる崩壊
合しており,東峰火山(495 m)は明瞭な山頂火
地形がある.その最も奥側に現在活動中の御岳火
口をもつ成層火山であり,山頂部が海面上に聳え
砕丘 ( 新火口 ) が位置している(図 6).小林(1989)
立った形態をしている(図 8).横当島の北方に
は,諏訪之瀬島の火山を写真つきで解説している.
は上ノ根島があり,この 2 つの火山島を取り巻く
それらもあわせて参照されたい.
ように,直径 7 km ほどの水没したカルデラ地形
最古の噴火記録は 1813 年の大噴火(文化噴火)
が存在する(海上保安庁,1987).岩石は輝石安
であり,スコリア噴火に伴い,火砕流や溶岩(文
山岩である.噴火の年代を特定できるデータはな
化溶岩)を噴出した.山頂の南西側の斜面にある
いが,地形から判断して過去 1 万年以内に誕生し
火口(旧火口)は,この噴火の主要な火口であっ
た新しい火山と推定される.それゆえ近い将来,
た.当時の島民は他の島に避難し,その後 70 年
活火山に認定される火山の候補である.
間は無人島となった.入植が始まった 1884 年に
8.硫黄鳥島
再び規模の大きな噴火が発生し,新火口から明治
硫黄鳥島は徳之島の西方 63 km 沖の孤島であ
溶岩を噴出した.最近の数十年間はストロンボリ
るが,行政上は沖縄県に所属している.南北に 2
式∼ブルカノ式噴火を継続しており,2008 年現
在,日本で最も活動的な火山といえる.なおこの
島の岩石の大部分は輝石安山岩である.
6.悪石島
悪石島は北北西−南南東にのびた火山島で,北
西端にある御岳(584 m)が最も新しい火山体で
ある(図 7).山頂の北側山腹に火口が存在する.
北側山麓の比較的平坦な面は,最も新しい大峰溶
岩(Furuyama et al., 2002)のなす地形である.悪
石島の岩石は主に輝石安山岩からなるが,大峰溶
岩のみ角閃石デイサイトである.最近 1 万年間の
図 8.横当島の東峰.手前は西峰の一部.
図 7.悪石島の御岳.左側の平坦面は最も新しい溶岩面
である.
図 9.硫黄鳥島.溶岩ドーム状の硫黄岳(左)とタフリ
ングの形態を示すグスク火山(右).
14
ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
つの火山体が接合した地形をしている(図 9).
いる御岳の噴火様式は,ストロンボリ式噴火∼ブ
北側が硫黄岳(217 m)で,南西に開いた直径
ルカノ式噴火である.口永良部島・新岳の歴史時
500 m の火口があり,噴気活動が活発である.南
代の活動では 1933 年と 1966 年にブルカノ式噴火
側は偏平な地形をしており,グスク火山体(松本,
が発生したが,それ以外は水蒸気噴火であった.
1978)とよばれる.グスク火山の偏平な地形は,
中之島・御岳の 1914 年噴火や硫黄鳥島の噴火は
大きな火口をもつタフリングに特徴的な火山地形
すべて水蒸気噴火であった.なお薩摩硫黄島の近
であり,その中央火口を埋めるように溶岩が存在
海で 1934–1935 年に発生した噴火では,多量の軽
する.地形的にはグスクの方が新しいが,歴史時
石を噴出したが,海底噴火であったため大きな爆
代の噴火はすべて硫黄岳の火口で発生している
発は生じなかった.1924 年の西表島沖の海底噴
(小林,1985).2 つの火山とも,岩石は主に輝石
火も同様に多量の軽石を噴出した.
安山岩であるが,硫黄岳の岩石には石英斑晶を含
火山噴出物(岩石)は主に輝石安山岩 ( ∼デイ
むものがある(松本,1978).1664 年以来 10 回
サイト ) である.斑晶に角閃石を伴う岩石は,口
の活動が知られていが,すべて水蒸気爆発であっ
之島に特徴的に産出するが,他の火山では中之島
た.かつては硫黄を採掘していたが,1967 年以
と悪石島にわずかに産出するのみである.なお薩
降は無人島となっている.
摩硫黄島では,流紋岩と玄武岩という両端成分の
9.西表島北北東海底火山
マグマが主に噴出しており,非常に特異な産状で
最後に,火山島ではないが,西表島の北北東
ある.
約 20 km の沖合で 1924 年に海底噴火がおこり,
多量の軽石を湧出させた.この軽石は石垣港を埋
おわりに
め尽くし,また黒潮にのって西日本の各地の沿岸
噴火に付随して,興味深い地学現象が見出さ
に漂着した.この火山は西表島北北東海底火山と
れた.第 1 は,鬼界カルデラのアカホヤ噴火(7300
命名されているが,正確な噴火地点は特定されて
年前)に付随して発生した地学現象である(小林・
いない(加藤,1982).
他,2006).まず噴火の最中に大地震が少なくと
も 2 度発生した.その影響は薩摩・大隅半島およ
火山の多様性
び種子島・屋久島地方一帯に及び,たくさんの噴
南九州の火山島を概観したが,火山の地形と
砂脈や噴礫脈として痕跡を残している.そのため
岩石の種類は変化に富んでいる.まず火山地形で
噴火中から噴火後にかけて,大きな津波が何度か
みると,活火山の多くは成層火山であるが,薩摩
発生している.津波の発生時期,規模,影響範囲
硫黄島(新硫黄島),口之島の燃岳,硫黄鳥島の
等については,現在調査中である.またその当時,
硫黄岳等は溶岩ドームである.山体崩壊の地形と
霧島火山の高千穂峰の山頂火口ではブルカノ式噴
しては,口之島の前岳と諏訪之瀬島の作地カルデ
火が継続していたが,アカホヤ噴火の直前に完全
ラがある.また臥蛇島にも崩壊カルデラ地形が認
に活動を停止し,おそらく数年後に活動を再開さ
められる.特異な地形としては,硫黄鳥島のグス
せている(小林・他,投稿中).火山どうしの活
ク火山体が扁平なタフリング特有の地形をしてい
動が,互いに影響しあっているのかもしれない.
る,
また口永良部島・新岳の 1933 年噴火と,すぐ隣
噴火様式も多様である.最も大規模であった
の薩摩硫黄島での海底噴火(1934–35 年)が連動
のは,諏訪之瀬島の御岳で発生した 1813 年の噴
して発生したが,ともにマグマを蓄積した状態に
火であり,多量のスコリアを噴出したプリニー式
あり,前者の活動が後者の活動の引き金になった
噴火であった.この時には火砕流も発生した.
ことも十分に考えられる.
1884 年の噴火では多量の溶岩を流出したが,噴
出したテフラの量は少なかった.現在も継続して
このように火山が単独で活動するのではなく,
ある限られた時期に,地震が多発し,多くの火山
15
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
が次々に噴火する例が知られている.典型例とし
ては,9 世紀後半の伊豆諸島∼富士山周辺で多発
した地震・噴火活動(津久井・他,2006)があげ
られる.しかしこの変動は伊豆諸島周辺だけにと
どまらず,日本全域にわたる変動であることが古
くから注目されている.また桜島火山の大正噴火
(1914 年)に連動するように,薩摩硫黄岳,口永
良部島・新岳,中之島・御岳,諏訪之瀬島・御岳
等が活動したのも,その好例であろう(詳細につ
いては小林・奥野,2003 を参照).
鹿児島から沖縄に連なる火山列付近の海底に
は,多くの火山地形が認められる.またその背弧
側には沖縄トラフという陥没状の地帯が連なって
おり,その内部では現在でも激しい噴気活動が認
められる(千葉・他,1996).今後の研究の進展
により,海底の火山地形からも新たな活火山が認
識されるようになるかもしれない.
謝辞
硫黄鳥島の写真は国際航空写真株式会社から
提供していただいた.その他の写真の多くは,海
上保安庁の火山観測の飛行機に同乗させていただ
いた時に撮影したものである.この場をかりて感
謝いたします.
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ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
鹿児島湾の自然の魅力を伝えるためには
櫻井 真 1・本村浩之 2
1
2
〒 890–8525 鹿児島市唐湊 4–22–1 鹿児島純心女子短期大学
〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
鹿児島湾は火山性の深い水深,湾口から侵入
する黒潮分流,流入河川などの影響により生物多
様性豊富な貴重な水域である.鹿児島市のような
大都市の近隣に,豊かな自然環境が存在している
ことは世界的にも稀である.ここにスポットを当
て平成 19 年 10 月 15 日 –11 月 15 日まで,鹿児島
大学総合研究博物館では特別展「鹿児島湾の自然
史」を鹿児島大学郡元キャンパスで開催した(図
1).期間中には 2476 名の多くの方々に入場いた
だいた.
ところで,ウォーターフロント開発の一環と
して 2005 年に開業した鹿児島市の商業施設の名
称は,公募の結果ドルフィンポートと命名された.
自然環境としての鹿児島湾に対する関心は一般市
民の間でも高まってきているといえよう.
一方,共著者の櫻井は鹿児島純心女子短期大
学の担当科目「地域環境論」や「生命と環境」を
通じて鹿児島の自然環境,特に鹿児島湾の海洋生
物の多様性を中心に学生に伝えてきた.この際に
は,授業の感想文やレポートなどを通じて鹿児島
湾が豊かな自然環境であることを「初めて」知っ
たという声が毎年寄せられてきた.
そこで,鹿児島湾の自然の魅力を啓蒙する方
策を検討する調査の一環として,鹿児島湾の自然
史展開催期間中来場者にアンケートを依頼した.
また,平成 19 年度前期に開講した生命と環境の
授業においても同内容の調査を実施した.両調査
における回答数は少数であったが,これらに基づ
き市民の意識と今後の啓蒙活動について考察した
ので報告する.
調査方法
鹿児島湾の自然史展の開催期間中,展示会場
横に図 2 の文章をパネルで掲示して回答用紙を準
備し,一般来場者に任意で回答を依頼した.
平成 19 年度鹿児島純心女子短期大学の櫻井担
当科目「生命と環境」の受講学生 16 名に対して,
全授業の終了時に同様の趣旨の感想文を課して提
アイデア募集のお願い!
鹿児島湾は都市に面していながら,豊かな海洋生物相
図 1.鹿児島湾の自然史展の様子.
Sakurai, M. and H. Motomura. 2008. Results of resident surveys on publicizing the fascinating nature of Kagoshima
Bay. Nature of Kagoshima 34: 17–19.
MS: Kagoshima Immaculate Heart College, 4–22–1 Toso,
Kagoshima 890–8525, Japan (e-mail: sakurai@juntan.
k-junshin.ac.jp); HM: The Kagoshima University Museum,
1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail:
[email protected])
を有する貴重な環境です.特別展にお出でいただいた皆
様はきっと鹿児島湾の魅力をご存じで,本日も勉強され
ました.しかし,多くの一般市民にとっては「火山性の
深くて暗い生物の乏しい海」の認識がまだまだ広いよう
です.
さて,そこで皆様にチャレンジしていただきたいお願
いがございます.
鹿児島の住民を対象とした,鹿児島湾の魅力を伝える
ためのイベントを企画するとしたら,何をしたいですか?
皆様の自由なアイデアをお待ちしております.
鹿児島湾の生物を研究して,皆様に分かりやすく伝え
るための参考としたいと思います.ご協力をよろしくお
願いいたします.
図 2.アンケート依頼の文章.
17
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
出させた.
ARTICLES
(2)生命と環境
平成 19 年度入学 1 年生 16 名(18–19 歳)が受
寄せられた意見
(1)鹿児島湾の自然史展
残念ながら 9 通しか回答が得られなかったが,
興味深いご意見をいただいた.
①町のイベントと併用して展示・研究発表す
る機会を設けたらどうか.四季折々の各市町村で
講し,全員が感想文を提出した.鹿児島湾の自然
の素晴らしさが分かったという趣旨の内容を全員
が記述した.しかし,具体的なアイデアを提示し
たのは 10 名であった.多くが水族館を活用した
いという意見で重複していた.これらを要約して
記す.
①水族館
行われるイベント,例えば鹿児島市内ならば夏の
花火大会やお魚市場主催による催しに便乗したら
・水族館に鹿児島湾に生息する様々な生物を展示
と.船で鹿児島湾を一周するクルージングも面白
する.
いかと.広く一般に知らせることになるかも.<
・やっぱり,こういう魚がいるんだと説明されて
50 歳代女性>
も,いまいちピンと来ない人が多いと思うので,
②ヨットとかグラスボートとかで魚やイルカ,
水族館に鹿児島湾に住む稀少生物を展示するイベ
その他の動物の生息ポイントや発見ポイントを巡
ントを行う.
るツァーがあればいいなぁー.できれば,海鮮の
・実施にこういう魚が自分の周りの環境にいるん
昼食がついていたらなお良し!!有料でも良いの
だ,と思うだけでも考え方は違ってくると思うの
で.< 20 歳代女性>
で.展示するというのはとても良いことだと思う.
③四つのカルデラの特徴ある場所を訪ねる(筆
・月に 1 度,出羽さん*の様な人が鹿児島湾の魅
者注:加久藤カルデラ・姶良カルデラ・阿多カル
力について話す講演会を水族館で行う.
デラ・鬼界カルデラと考えられた).湾口部,湾
*
央部,湾奥部,知林ケ島など特徴ある動植物の分
写真家.授業中に出羽氏を特別講師に招いて,水
布するところがあれば踏査してみたい.< 60 歳
中写真を用いた鹿児島湾の海洋生物の紹介と環境
代男性>
保全に関する講演を一度実施した.
④錦江湾を鹿児島大学の練習船で一周する.ス
出羽慎一氏:ダイビングサービス海案内の水中
②ボート
キューバダイビングによる海の探索.< 60 歳代
グラスボートやカヌーに乗り,間近で魚を見ら
男性>
れるというイベントを開催したい.
⑤ 海 で バ ー ベ キ ュ ー!! も ち ろ ん 旬 の 海 鮮
で!!< 20 歳代女性>
⑥市内の公衆浴場で天然の温泉だと知らない
③海上クルージング
子供は船上で専門家を講師とした理科教室.母親
は魚介類の料理教室.父親は釣り教室.最後に皆
人が多い.別府みたいに湯煙が上がってないし,
で夜の花火見学.
温泉都市鹿児島と言ってもピンとこない人が多い
③ダイビングと海の映画館
ような気がする.温泉というと指宿,霧島のイメー
潜れる人はダイビングで海の生き物を実際に見
ジ.温泉都市鹿児島を知らせるイベントを企画し
たり触れたりする.潜れない人には映画の形で紹
てほしい.< 50 歳代女性>
介する.映画は出来ればプラネタリウムのような
⑦小学生男子・女子計 3 名の意見を要約して.
形で海の中にいるような感覚で.
クイズ大会.魚クイズラリー.魚名人にチャレン
④空,陸,海からの三元生中継
ジ.魚検定.鹿児島湾の魚の秘密の展示.鹿児島
ヘリコプターで上空から,海辺の陸から,水中か
の魚の代表の展示.問題に出す魚は実物を用意す
らの三元中継のTV番組を作る.子供がレポー
る.1 種類毎に説明する.実験.
ターとなる.
⑤その他の感想
18
ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
・鹿児島湾はとても素晴らしい自然環境であり,
イベントで共通していた.講義だけではなく,野
不思議な生態を有する生物が生息していること
外で体験して知識を身につけることへの志向が認
を,鹿児島の住民のほとんどが知らないと思いま
められた.鹿児島湾の自然史展来場者は鹿児島湾
す.
への関心が強く,すでに何らかの体験を経てきた
・まず,鹿児島の住民が思っている鹿児島湾は汚
者も多いと推測された.これに対して,鹿児島純
いというイメージを取り除くことが必要.
心女子短期大学の学生は一般的な市民に近いと考
・鹿児島の住民は,こんなに近くに住んでいるの
えられたが,水族館を活用した展示企画も多く提
に,鹿児島湾の魅力に全く気が付かなかったのが
案された.本調査を依頼した学生に,鹿児島湾の
私を含めて残念に思います.
自然に関して何らかの野外体験があるのか質問し
たところ体験者は少数であった.現実には,海岸
考察 ̶鹿児島湾の自然の魅力を伝えるためには̶
線が護岸工事されて親水的な海岸が少なく,海の
少数ながら多彩でユニークなアイデアが寄せら
豊かさを実感するのが困難な場合が多いと考えら
れた.鹿児島湾の自然史展来場者および鹿児島純
れた.水族館の展示物,船上からの観察や水産物
心女子短期大学学生の双方から,クルージングや
などからでないと海の豊かさを感じる機会が無
グラスボート,ダイビングの活用,および食と関
い,考え難いという鹿児島湾の実情があるのかも
連させたイベントが提案された.その他に,地域
知れない.
起こしイベントと結びつけたもの,時間をかけて
鹿児島湾の自然環境に対する理解を真に広めて
自然を体験するトレッキング,火山から温泉を連
ゆくためには,熱意と創意工夫を持って体験型イ
想した提案もみられた.小学生からはクイズや検
ベントや展示を実施,継続することが必要である.
定など知識を競う企画が寄せられた.
それと共に,市民が日常生活の中で鹿児島湾の自
これらの中には,練習船を利用した鹿児島湾の
然を実感できる身近な環境を整備すること,およ
体験クルーズなど鹿児島大学が一般向けの講座・
び,その環境を生かすソフトを同時に検討するこ
イベントとしてすでに実施しているもの,かごし
とも重要課題であると考えられた.そのためには
ま水族館で取り組まれているもの,鹿児島湾ク
専門家や有識者の先導が不可欠であるが,同時に
ルーズなど類似の企画が商業ベースで実施されて
一般市民の意識を推し量りその提案に耳を傾ける
いるものも含まれた.
ことも肝要であると考えられた.
一方,グラスボートによる海洋生物の観察,
TV 番組企画や映画とのコラボレーションなど楽
謝辞
しく夢があるが,実施には多くの検討を要する企
アンケート調査の実施に御理解と御協力を賜っ
画も提案された.
た,鹿児島大学総合研究博物館特別展「鹿児島湾
また,生命と環境の感想文では鹿児島湾の自然
の自然史」実行委員会の皆様に深謝いたします.
環境の豊かさに初めて気がついたという意見が今
また,アンケートに御回答下さった来場者の皆様,
回も挙げられた.
および,生命と環境の受講学生諸君に深謝いたし
提案された企画の多くは,現場における体験型
ます.
19
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
20
ARTICLES
ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
「万之瀬川河口干潟」保護への歩み
柳田一郎
〒 890–0034 鹿児島市田上 5–16–34 環境カウンセラー・鹿児島県職員
はじめに
平成 19 年 5 月 27 日,日本環境教育学会・鳥
取大会において,万之瀬川河口の天然記念物指定
の経過について発表しました.約 14 年にわたる
経過は,各地で活動している人々の関心を集め,
この 14 年を支えた力についての興味が高まりま
した.私は,なぜこのようなことができたのかと
いう質問に,「焦らず,騒がず,みんなが真剣に
力を合わせて,できることをしたから」と答えま
した.
水害防止のための河川改修ができなくなる,と
いう誤解もあったとも聞きました.しかし,大水
害を経験した土地に,防災工事は不可欠であると
思いました.私は,かつて土木事務所に勤務し,
日本の土木技術にできないことは無いと信じてい
ます.そして,現地には「親水」とは一味違う考
海に注ぐ一級河川「万之瀬川(まのせがわ)」の
河口(図 1)には,豊かな生物相をもつ広大な干
潟があります.
① 1 千株を超える海浜植物「ハマボウ」の大
群落.
②国内最大の生息地とされる「ハクセンシオ
マネキ」(図 2)の群棲地.
③冬の貴重な渡り鳥「クロツラヘラサギ」を
始め,カモ類など水鳥の越冬地.
④南限の二枚貝「ハマグリ」の自生地.
⑤「アカウミガメ」の産卵地.
保護へのさきがけ
①万之瀬川河口を取り囲む地域には,都市公
園である「県立吹上浜海浜公園」と自然体験学習
施設である「県立南薩少年自然の家」が立地.
え方で,人も生物も共に守る堤防ができました.
今年にはいると,吹上浜県立自然公園の公園計画
変更への動きも始まりました.これは,現地で暮
らし,現地に関わる人々が,人間生活の保護と生
物の保護を真剣に考え,柔軟な発想による懸命の
工夫を行った官民協働の成果であると思います.
私は,近い将来,「限界集落」を克服するため
の地域間の生存競争(サバイバル)において,地
域資源,中でも自然資源は,最後の切り札になる
と思っています.
図 1.万之瀬川河口干潟の全景.
万之瀬川河口干潟の生態系
鹿児島県薩摩半島中部の南さつま市,東シナ
Yanagita, I. 2008. Recent advances in the conservation of the
Manose River estuary, Kagoshima, Japan. Nature of
Kagoshima 34: 21–23.
5–16–34 Tagami, Kagoshima 890–0034, Japan (e-mail:
[email protected]; tel: 099–258–2710). URL: http://
www5.synapse.ne.jp/ecoiy/synapse-auto-page/
図 2.ハクセンシオマネキのオス(右)とメス(左).
写真提供:上野義光氏.
21
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
図 3.ハクセンシオマネキ生息地人入り風景.
②平成 5 年,河口にある「中之島」に,県立
吹上浜海浜公園のゴーカート場建設計画が浮上.
クロツラヘラサギなどの貴重な渡り鳥や水鳥達へ
の騒音や排気ガスによる影響が懸念.
ARTICLES
図 4.炎天下の過酷な調査風景と取材風景.
オマネキの生息地を調査・確認.
② 15 年,ハマグリの南限群棲地とも確認,干
潟を守っているハマボウの大群落も確認.
③同年,地元の関係者などによる調査報告書
③同年,日本野鳥の会鹿児島県支部は,当時
「万之瀬川の貴重な自然」が発行され,関係機関
の公園建設担当の県加世田土木事務所,地元金峰
に情報提供.※私自身,この冊子により,改めて
町・加世田市,県庁都市計画課や県庁環境政策課
現地の状況を認識することとなった.
などに事情確認,再考を要望.
④同年 3 月,先述のY氏が,県土木部河川課
④平成 6 年,県土木部が反応,担当職員達の
などへ詳細を熱心に報告し保護を要請.地元のU
理解と熱意もあって,野鳥観察の島に劇的な変更.
氏らは,市役所など地元関係者の間を回り,干潟
※同年秋,日本野鳥の会・県土木事務所・少年自
の自然の豊かさと保護を要請.
然の家の職員で現地調査中,マナヅルの親子 3 羽
⑤ 16 年 5 月,加世田市等主催の「04 吹上浜砂
が頭上に出現,思いがけない美しい姿に皆感動し
の祭典」で,ボランティアによる 2 日間の「ハク
「吉兆」と大喜びした.
⑤平成 8 年 8 月,野鳥観察舎と野鳥観察用壁,
センシオマネキと干潟の自然観察会」を開催,同
時に「万之瀬川の自然を守る会」結成.
水遊び池,そして散策路が完成.※ゴーカートの
⑥同 5 月,私は,多自然型河川改修技術者の
変わる遊具として,子供のためのアスレチック施
情報誌である財団法人リバーフロント整備セン
設が,松林を切り開き放置されていた土地を利用
ター「月刊・多自然研究第 104 号」に,「わが国
して作る配慮もされた.
最大の生息地か?万之瀬川河口のハクセンシオマ
⑥建設 9 年目の平成 17 年始め,野鳥観察舎の
ネキ」を発表,現状を報告.※発表後,国内の河
来館者は 10 万人を超え,クロツラヘラサギの観
川技術者の方々から,激励や具体的な保護策など
察ポイントとして,国内外の研究者や愛好家が評
の提案を受けた.
価.※現在では,南薩少年自然の家や,近隣の学
⑦同年 9 月 27 日,「万之瀬川の自然を守る会」
校,周辺集落の子ども会,日本野鳥の会鹿児島県
による生息調査が,地元テレビにより報道(図 3,
支部などの野鳥観察の場所として,定着している.
4).
⑧地元加世田市は,
「加世田市地域再生計画」
具体的な保護への歩み
①平成 14 年,熊本県在野の海洋生物研究家Y
に,地域の生態系保護を「要」と位置付け発表.
同市の都市計画も変更.
氏(天草自然研究会代表)と環境省・鹿児島自然
⑨ 17 年 3 月,私は,所属する当「鹿児島県自
保護官事務所K氏と「霧島屋久国立公園・指宿地
然愛護協会」から助成金を頂き,熊本県の生息地
域パークボランティアの会」有志が,ハクセンシ
な ど を 調 査, 現 状 と 提 言 を 機 関 誌「 自 然 愛 護
22
ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
ついて紹介.
⑭同 5 月,「07 吹上浜砂の祭典」でも,全期間
にわたる自然観察会を実施.
天然記念物への指定
①平成 18 年 11 月,国の文化審議会において
指定答申.
②平成 19 年 2 月 6 日,国天然記念物として,
「万
之瀬川河口域のハマボウ群落及び干潟生物群集」
指定告示.
「吹上浜県立自然公園」公園計画の変更
①平成 20 年 1 月,鹿児島県自然環境審議会自
然環境部会において,万之瀬川河口区域の県立自
然公園区域への編入等に関する公園計画等の変更
が答申.
②同年秋施行予定.※従来自然公園区域外で
図 5.保護啓発下敷表.
2005 年 3 月号」に発表.
⑩同 5 月の「05 吹上浜砂の祭典」では,2 日
あった万之瀬川河口区域について,
「第 2 種特別
地域」として新たに区域に編入.従来「普通地域」
であった中之島(野鳥観察舎等設置場所)につい
て,「第 2 種特別地域」に格上げの予定.
間の「ハクセンシオマネキと干潟の自然観察会」
を開催するとともに,祭典実行委員会による看板
の設置,メイン会場での展示や舞台発表も実施,
河川改修工事も,工事内容が変更され,生息地を
守る形で検討と改修を開始.
⑪同 9 月,万之瀬川の自然を守る会は,
「Takara
ハーモニストファンド」の助成により,啓発用写
真下敷「万之瀬川の自然」(図 5)とパンフレッ
ト「自然の宝庫です 万之瀬川」を作成.
⑫ 18 年 5 月,「06 吹上浜砂の祭典」では,自
然観察会を実行委員会の主催事業と位置付け,開
催全期間の 5 日間にわたる自然観察会を実施.
⑬ 19 年 3 月,環境省鹿児島自然保護官事務所
に勤務されていた T 氏が,著書「鹿児島の貴重
さいごに
国(文化財),県(県立自然公園,河川改修等),
南さつま市(都市計画,地域再生計画,文化財等)
など,行政による保護体制の整備が行われました.
心から喜び,関係行政機関に深い敬意と感謝をさ
さげます.また,この取り組みに対する当協会諸
兄の御協力に,この場をおかりして感謝申し上げ
ます.さらに,現地において,困難な状況下にも
かかわらず調査と啓発を続けられた方々にも,感
謝と慰労をお伝えしたいと思います.そして,こ
れからも,ややもすると行政任せになりがちな自
然保護の取り組みを,私たち自身の手で進めてい
かなければならないと改めて強く思います.
な生き物たち」の中で,万之瀬川の豊かな自然に
23
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
24
ARTICLES
ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
2007 年に報告された鹿児島県の魚類に関する新知見
本村浩之 1・櫻井 真 2
1
〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
2
〒 890–8525 鹿児島市唐湊 4–22–1 鹿児島純心女子短期大学
はじめに
2008 年 3 月現在,日本周辺水域から 4028 種の
魚類が報告されている.過去記録された日本産魚
類全種を扱った最新の一般向け図鑑は 2002 年に
出版された(Nakabo, 2002).日本は水産国とい
われるだけあり,魚類の研究は大学や博物館,国
の研究所などの研究機関をはじめ,各自治体の試
験場や学校,水族館,さらには一般個人によって
の関心は高い.
本報告では,2007 年 1 月から 12 月に間に報
告された鹿児島県の魚類に関する新知見を一般向
けに分かりやすく紹介したい.今後はできるだけ
毎年本誌で鹿児島の魚類研究ハイライトを紹介し
たいと考えている.なお,以下に紹介する魚類の
掲載順番は Nelson (2006) に従った.
報告された魚類リスト
盛んに行われている.そのため,日本産魚類にお
ける新知見はかなりのスピードで蓄積されてい
る.例えば,Nakabo (2002) 以降,現在までの 6
年間で 165 種の魚類が新たに日本から発見され
た.これらの新知見は国内外の各種学術雑誌や各
研究機関の機関紙など様々な出版物によって報告
されているため,魚類学を専門としている研究者
でさえ新知見を完全にフォローすることは容易で
はない.
鹿児島県は県土が南北 600 km におよび,多
くの島嶼も有している.さらに,奄美大島と種子
島・屋久島の間に位置する有名な渡瀬線を始め,
鹿児島県には海産魚類に関して,2 つの動物地理
学的区分線がある.これら 2 区分線で分けられる
3 つの異なる魚類相を有する鹿児島県は,魚類の
種多様性が日本ではもっとも高い県といえる.そ
のため,ダイビングでフィッシュウォッチングを
するために県外から訪問する人も多く,ダイビン
グのガイドを含め,鹿児島県の一般市民の魚類へ
Motomura, H. and M. Sakurai. 2008. The fishes of Kagoshima
–2007 research highlights. Nature of Kagoshima 34:
25–34.
HM: The Kagoshima University Museum, 1–21–30
Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: motomura@
kaum.kagoshima-u.ac.jp); MS: Kagoshima Immaculate Heart
College, 4–22–1 Toso, Kagoshima 890–8525, Japan (e-mail:
[email protected])
図 1. ス ナ ヤ ツ メ 南 方 型.KAUM–I. 2557, 全 長 137.4
mm,鹿児島県出水地方(写真:鹿児島大学総合研究
博物館撮影・提供).
スナヤツメ南方型(図 1)
Lethenteron sp.
ヤツメウナギ目ヤツメウナギ科カワヤツメ属
小川(1937)は鹿児島県出水町産スナヤツメ南
方型の標本 15 個体(現在標本は紛失)を報告し
たが,その後鹿児島県からの本種の標本に基づく
記録はなかった.松沼ほか(2007)は,最後の報
告から 70 年ぶりに鹿児島県出水地方から得られ
たスナヤツメ南方型の標本(アンモシーテス幼生)
を報告し,現在でも同地域にスナヤツメ南方型が
生息していることを示した.本種は環境省の絶滅
危惧 II 類に指定されている.
アズキウツボ(図 2)
Enchelycore kamara Böhlke and Böhlke, 1980
ウナギ目ウツボ科コケウツボ属
奄美大島の水深 9 m から得られた 1 標本に基づ
き,日本初記録として報告された(Shibukawa et
al., 2007).ライン諸島,パラオ,奄美大島の水深
0.9–9.0 m に生息(Shibukawa et al., 2007).
25
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
ARTICLES
Kimura et al. (2007) によって両名義種は別種であ
ることが明らかになった.Atherinomorus pinguis
は有効種として再記載され(Kimura et al., 2007),
新標準和名ホソオビヤクシマイワシが提唱された
(Kimura et al., 2007; 木村ほか,2007).ホソオビ
ヤクシマイワシはヤクシマイワシより体側中央の
縦帯が細いこと,体側中央の鱗列数が少ないこと
など特徴づけられる.最大標準体長は 136 mm
(Kimura et al., 2007).ホソオビヤクシマイワシは
インド・西太平洋域に広く分布し,日本では分布
図 2.アズキウツボ.NSMT–P 75543,全長 201.8 mm,
奄美大島(写真:国立科学博物館提供).
域がヤクシマイワシと完全に重なる.Kimura et
al. (2007) はホソオビヤクシマイワシを鹿児島県
からは報告していないが,彼らは本種の標本を大
分・宮崎の両県と沖縄,台湾から報告しているこ
と,本種が表層遊泳性の生活様式をもっているこ
となどから,鹿児島県全域にごく普通に生息して
図 3.キビナゴ.KAUM–I. 1511,標準体長 98.0 mm,種
子島(写真:鹿児島大学総合研究博物館撮影・提供).
いると思われる.
キビナゴ(図 3)
Spratelloides gracilis (Temminck and Schlegel, 1846)
ニシン目ニシン科キビナゴ属
キビナゴはふつう雌雄異体であるが,2006 年 5
月 30 日に南さつま市沖で採集された 1 個体(標
準体長 83.8 mm)が雌雄同体であることが報告さ
れた(高橋ほか,2007).ニシン目魚類で雌雄同
体個体が確認されたのは初めてである.
図 5.ハオコゼ.KAUM–I. 5417,標準体長 47.9 mm,鹿
児島湾(写真:鹿児島大学総合研究博物館撮影・提供).
ハオコゼ(図 5)
Paracentropogon rubripinnis (Temminck and Schlegel, 1843)
カサゴ目ハオコゼ科ハオコゼ属
櫻井(2007)は,ハオコゼの野外における繁殖
習性と分布状況について鹿児島県出水郡東町で潜
図 4.ホソオビヤクシマイワシ.FRLM 28706,標準体
長 86 mm,タイ・リボン島(写真:木村清志氏撮影・
提供).
水観察を行い,水槽飼育による求愛行動の観察も
行った.野外ではトリプル産卵,水槽内ではペア
ホソオビヤクシマイワシ(図 4)
産卵が観察されたことなどから,本種は環境条件
Atherinomorus pinguis (Lacepède, 1803)
によって産卵形態が異なることが示唆された.
トウゴロウイワシ目トウゴロウイワシ科ヤクシマイワシ属
これまで Atherinomorus pinguis はヤクシマイワ
シ Atherinomorus lacunosus (Forster, 1801) のジュニ
アシノニム(新参同物異名)とされていたが,
コクテンアオハタ(図 6)
Epinephelus amblycephalus (Bleeker, 1857)
スズキ目ハタ科マハタ属
コクテンアオハタは,これまで日本には生息し
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ARTICLES
図 6. コ ク テ ン ア オ ハ タ.KAUM–I. 821, 標 準 体 長
280.2 mm,鹿児島県南さつま市笠沙(写真:鹿児島
大学総合研究博物館撮影・提供).
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
図 8.マテアジ.KAUM–I. 974,標準体長 179.7 mm,鹿
児島県南さつま市笠沙(写真:鹿児島大学総合研究
博物館撮影・提供).
マテアジ(図 8)
ないと考えられていたが,Motomura et al. (2007a)
Atule mate (Cuvier, 1833)
は過去の文献と標本を精査し,これまでに 8 個体
スズキ目アジ科マテアジ属
が日本沿岸から採集されていたことが分かった
マテアジはこれまで日本から 3 個体(三重県津
(最古の標本は 1957 年に高知県で採集).鹿児島
市,八重山諸島,鹿児島県南さつま市)のみが報
県からは 3 個体(山川・志布志・笠沙から 1 個体
告されており,日本ではきわめて稀な種であると
づつ)が記録されており,その内の後者 2 標本が
考えられていた.しかし,2006 年 10 月 14 日か
現存する.Motomura et al. (2007a) は本種の分布特
ら約 1 ヶ月の間に 14 個体のマテアジが笠沙沖で
性と生態,および過去の標本から,本種が日本周
採集された(伊東ほか,2007).これらの個体は
辺海域で再生産していないことを示唆した.
黒潮によって台湾から流されてきたものと考えら
れる.したがって,本種の鹿児島県における出現
は年毎に異なる黒潮の流路と流量に影響される可
能性が高い.伊東ほか(2007)は,本種の胸鰭の
長さと体側の横帯数の変異について若干の考察を
行い,マテアジに同定されるものには 2 種が含ま
れている可能性が高いことを示唆した.
図 7.カクシヤツトゲテンジクダイ.NSMT–P 75580,
標準体長 28.9 mm,奄美大島(写真:国立科学博物館
提供).
カクシヤツトゲテンジクダイ(図 7)
Neamia articycla Fraser and Allen, 2006
スズキ目テンジクダイ科ヤツトゲテンジクダイ属
本種は鹿児島(奄美大島)と沖縄から得られた
7 標本に基づき日本初記録として報告された(渋
川ほか,2007).奄美大島からオーストラリアの
西部太平洋に分布.標準体長 28.9 mm と 32.9 mm
図 9.イトウオニヒラアジ.KAUM–I. 1098,標準体長
233.0 mm,鹿児島県南さつま市笠沙(写真:鹿児島
大学総合研究博物館撮影・提供).
の 2 個体が奄美大島の水深 4–6 m から採集された
イトウオニヒラアジ(図 9)
(渋川ほか,2007).標準和名カクシヤツトゲテン
Caranx heberi (Bennett, 1830)
ジクダイは,本種の特徴である「皮下に埋没した
スズキ目アジ科ギンガメアジ属
痕跡的な第 1 背鰭第 8 棘」に由来する(渋川ほか,
Caranx heberi は,これまで西太平洋域におい
2007).
て南半球のみから報告されていたが,鹿児島県南
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Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
ARTICLES
さつま市笠沙町沖から 2 個体が採集された
(Motomura et al., 2007c).これら 2 標本は北半球
からの本種の初記録となった.本種はオニヒラア
ジと形態的に似ていること,および採集者の伊東
正英氏にもとづき,イトウオニヒラアジと名付け
られた(Motomura et al., 2007c).本種は成長する
と全長 85 cm に達するが(Smith-Vaniz, 1999),鹿
児島県で採集された個体は全長 30 cm 以下の若魚
であった.
図 11.セダカダイミョウサギ.MUFS 9584,標準体長
135 mm,宮崎県南郷町(写真:岩槻幸雄氏撮影・提供)
.
と比較して,体高がやや高いこと,有孔側線鱗数
がやや少ないこと,上顎後端の形などで異なるが,
野外での同定は難しい(標本が必要)
.セダカダ
イミョウサギは,鹿児島県内では標本に基づいて
種子島からのみ報告されたが,屋久島,鹿児島湾,
大隅半島東岸にも分布すると思われる.最大標準
体長は 169 mm(Iwatsuki et al., 2007b).沿岸性魚
類の生物地理パターンから判断すると,本種が黒
潮の横断するトカラ以南に生息する可能性はな
い.一方,ダイミョウサギは冬期に水温が 16 度
図 10.ヒシカイワリ.KAUM–I. 1120,標準体長 187.5
mm,鹿児島県南さつま市笠沙(写真:鹿児島大学総
合研究博物館撮影・提供).
以下になる海域に生息しており,九州での南限は
ヒシカイワリ(図 10)
られる.セダカダイミョウサギは神奈川県から鹿
Ulua mentalis (Cuvier, 1833)
児島県の太平洋側黒潮流域に分布する日本固有
スズキ目アジ科ヒシカイワリ属
種.
長崎と大分の両県である(Iwatsuki et al., 2007b).
ダイミョウサギは鹿児島県には分布しないと考え
Ulus mentalis は,これまで台湾以南の熱帯域か
らのみ報告されていた.Motomura et al. (2007c) は,
鹿児島県笠沙沖から採集された本種 9 個体を日本
か ら の 初 記 録 と し て 報 告 し た. 台 湾 産 の U.
mentalis に対してウルアアジとヒシカイワリの 2
つ の 和 名 が 提 唱 さ れ て い た が,Motomura et al.
(2007c) は後者を U. mentalis の標準和名と認め,
Ulua 属の和名をヒシカイワリ属とした.
セダカダイミョウサギ(図 11)
図 12.クロサギ.KAUM–I. 5508,標準体長 143.9 mm,
鹿児島市永田川河口(写真:鹿児島大学総合研究博
物館撮影・提供).
Gerres akazakii Iwatsuki et al., 2007
クロサギ(図 12)
スズキ目クロサギ科クロサギ属
Gerres equulus Temminck and Schlegel, 1844
本種はこれまでダイミョウサギ Gerres japonicus
スズキ目クロサギ科クロサギ属
Bleeker, 1854 と 同 定 さ れ て い た(Iwatsuki et al.,
Iqbal et al. (2007) は,八代海から採集されたク
2007b).セダカダイミョウサギはダイミョウサギ
ロサギ 1081 個体を用い,生殖腺の組織学的観察
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ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
により産卵期および成熟サイズの推定を行った.
aureofasciatus の成長に伴う劇的な色彩の変化が
その結果,本種の生殖腺指数の最大値は 7 月に認
明らかになった.Motomura and Harazaki (2007) は,
められ,生殖腺指数および卵巣の成熟段階の季節
本種に近縁なキツネウオの色彩変化も明らかに
的変動から産卵期は 6 月から 9 月の間であるとが
し,両種の比較を行った.本種は地域によって形
分かった.また,卵巣の成熟様式が非同期発達型
態 的・ 色 彩 的 変 異 が み ら れ る こ と か ら,P.
であったことから,クロサギは多回産卵魚である
aureofasciatus とされているものには複数種が混
とが明らかになった.
ざっている可能性が示唆された.屋久島周辺は本
種の最北端に位置する大規模な繁殖地である可能
性が高いことから,屋久島に因み標準和名ヤクシ
マキツネウオが提唱された.
図 13.シマクロサギ.MUFS 11287,標準体長 103 mm,
西表島(写真:岩槻幸雄氏撮影・提供).
シマクロサギ(図 13)
Gerres shima Iwatsuki et al., 2007
スズキ目クロサギ科クロサギ属
図 15.キビレアカレンコ.NSMT–P 57150,標準体長
269 mm,沖縄島(写真:岩槻幸雄氏撮影・提供).
シマクロサギは背鰭棘数が普通 9 本であること
キビレアカレンコ(図 15)
か ら,10 本 の 類 似 種 と は 容 易 に 識 別 さ れ る
Dentex abei Iwatsuki et al., 2007
(Iwatsuki et al., 2007b).標準和名シマクロサギは,
スズキ目タイ科キダイ属
本種の体側にうっすらとある横縞に由来する.最
キビレアカレンコは長い間,未記載種 Dentex
大標準体長は 151 mm(Iwatsuki et al., 2007b).琉
sp. と さ れ て き た が,2007 年 3 月 に 新 種 D. abei
球列島からインドネシアに分布.鹿児島県では,
として記載された(Iwatsuki et al., 2007a).本種
奄美大島から 11 個体が報告された(Iwatsuki et
は琉球列島,台湾,小笠原諸島,フィリピンに分
al., 2007b).種子島・屋久島以北には生息しない.
Iwatsuki et al. (2007a)
布する
(Iwatsuki et al., 2007a)
.
は,本種を鹿児島県からは報告していないが,奄
美大島以南には生息すると思われる.通常水深
50–150 m 付近の生息する(Iwatsuki et al., 2007a).
キダイ(図 16)
Dentex hypselosomus Bleeker, 1854
図 14.ヤクシマキツネウオ.KAUM–I. 285,標準体長
158.5 mm,屋久島(写真:鹿児島大学総合研究博物
館撮影・提供).
スズキ目タイ科キダイ属
キ ダ イ の 学 名 は こ れ ま で Dentex tumifrons
(Temminck and Schlegel, 1843) とされてきたが,D.
ヤクシマキツネウオ(図 14)
tumifrons のタイプ標本はチダイであったため,D.
Pentapodus aureofasciatus Russell, 2001
hypselosomus が 有 効 名 と な っ た(Iwatsuki et al.,
スズキ目イトヨリダイ科キツネウオ属
2007a).本種は東アジアの固有種で,南日本から
鹿児島県屋久島沖で水中観察された Pentapodus
韓国南部,中国,台湾に分布する.琉球列島と小
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Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
図 16.キダイ.KAUM–I. 6421,標準体長 197.5 mm,鹿
児島県市来串木野市(写真:鹿児島大学総合研究博
物館撮影・提供).
ARTICLES
図 18.マダイ.KAUM–I. 4633,標準体長 213.1 mm,鹿
児島湾(写真:鹿児島大学総合研究博物館撮影・提供).
マダイ(図 18)
笠 原 諸 島 か ら の 記 録 は な い(Iwatsuki et al.,
Pagrus major (Temminck and Schlegel, 1843)
2007a).鹿児島県内では,県本土と種子島・屋久
スズキ目タイ科マダイ属
島には分布するが,奄美大島以南には生息しない
鹿児島湾におけるマダイの放流効果調査データ
と思われる.
に基づき,1989 年から 2004 年放流群の回収状況
が評価された.その結果,放流サイズの小型化や
海面生簀における中間育成の中止等の影響によっ
て,放流魚の回収率と混獲率は近年低下してきて
いると推定された(宍道・北田,2007).
図 17.チダイ.KAUM–I. 6859,標準体長 167.3 mm,鹿
児島湾(写真:鹿児島大学総合研究博物館撮影・提供).
チダイ(図 17)
図 19.ミナミコノシロ.KAUM–I. 956,標準体長 420.4
mm,鹿児島県南さつま市笠沙(写真:鹿児島大学総
合研究博物館撮影・提供).
Evynnis tumifrons (Temminck and Schlegel, 1843)
ミナミコノシロ(図 19)
スズキ目タイ科チダイ属
Eleutheronema rhadinum (Jordan and Evermann, 1902)
チ ダ イ の 学 名 は こ れ ま で Evynnis japonica
スズキ目ツバメコノシロ科ミナミコノシロ属
Tanaka, 1931 と さ れ て き た が,E. tumifrons が E.
ミナミコノシロはベトナム北部から台湾および
japonica のシニアシノニム(古参同物異名)であ
中国沿岸に生息する東アジアの固有種である.こ
ることが分かった(Iwatsuki et al., 2007a).本種
れまで日本からは青森県から 1 個体が報告されて
は北海道から東シナ海の日本各地と韓国南部から
いるにすぎなかったが,本種の日本から二番目の
中国,台湾に分布するが,琉球列島と小笠原諸島
個体が 2006 年 10 月 28 日に鹿児島県南さつま市
からの記録はない(Iwatsuki et al., 2007a).鹿児
笠沙町沖の水深 27 m に設置した定置網で漁獲さ
島県内では,県本土と種子島・屋久島には分布す
れた.Motomura et al. (2007b) は,この標本を詳
るが,奄美大島以南には生息しないと思われる.
細に記載し,本種の分布特性について考察した.
30
ARTICLES
図 20.オグロトラギス.屋久島(写真:原崎 森氏撮影・
提供).
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
図 22.ノコギリホシハゼ.NSMT–P. 73127,標準体長
23.3 mm,西表島(写真:鈴木寿之氏撮影・提供).
オグロトラギス(図 20)
ノコギリホシハゼ(図 22)
Parapercis pacifica Imamura and Yoshino, 2007
Asterropteryx senoui Shibukawa and Suzuki, 2007
スズキ目トラギス科トラギス属
スズキ目ハゼ科ホシハゼ属
オグロトラギスの学名はこれまで Parapercis
鈴木・渋川(2004)の「ホシハゼ属の 1 種 –2
polyphtalma (Cuvier, 1829) とされてきたが(例え
Asterropteryx sp. 2」が新種として記載され,新標
ば Shimada, 2002),P. polyphtalma はインド洋に分
準和名ノコギリホシハゼが提唱された.西表島か
布する P. hexophtalma (Cuvier, 1829) のジュニアシ
ら採集された個体のみに基づいて記載されたが,
ノニム(新参同物異名)であり,オグロトラギス
Shibukawa and Suzuki (2007) は,本種が石垣島と
は 2007 年 3 月に新種として記載された(Imamura
奄美大島にも生息すると付記している.種子島・
and Yoshino, 2007). 最 大 標 準 体 長 は 185.8 mm
屋久島以北に分布する可能性は低い.最大標準体
(Imamura and Yoshino, 2007).日本からインドネ
長は 24.9 mm(Shibukawa and Suzuki, 2007).水深
シアの西部太平洋に分布.日本国内では,四国か
15–50 m の 砂 泥 底 に 生 息 す る( 鈴 木・ 渋 川,
ら 琉 球 列 島 に 生 息 し(Imamura and Yoshino,
2004)
.
2007),鹿児島県内の沿岸域でも普通にみられる.
図 23.オオメチヒロハゼ.NSMT–P. 73002,標準体長
25.5 mm,奄美大島(写真:渋川浩一氏撮影・提供).
オオメチヒロハゼ(図 23)
図 21.マダラギンポ.鹿児島湾(写真:出羽慎一氏撮影・
提供).
Obliquogobius megalops Shibukawa and Aonuma, 2007
スズキ目ハゼ科チヒロハゼ属
マダラギンポ(図 21)
奄美大島沖の水深 290 m の海底から採集された
Laiphognathus longispinis Murase, 2007
1 標本(標準体長 25.5 mm)に基づいて新種記載
スズキ目イソギンポ科
された(Shibukawa and Aonuma, 2007).学名,標
マダラギンポの学名はこれまで Laiphognathus
準和名ともに本種の眼が大きいことに由来する.
multimaculatus (Smith, 1955) と さ れ て き た が,L.
multimaculatus は台湾以南の西太平洋とインド洋
に分布する種であり,日本産のマダラギンポは新
種 L. longispinis と し て 記 載 さ れ た(Murase,
2007).最大標準体長は 51.2 mm(Murase, 2007).
マダラギンポは東アジアの固有種.
鹿児島県では,
鹿児島湾から報告されている.
図 24.ヒメアオギハゼ.NSMT–P. 49335,標準体長 17
mm,石垣島(写真:松浦啓一氏撮影・提供).
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Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
ARTICLES
ヒメアオギハゼ(図 24)
オキナワベニハゼ(図 26)
Trimma flavatrum Hagiwara and Winterbottom, 2007
Trimma okinawae (Aoyagi, 1949)
スズキ目ハゼ科ベニハゼ属
スズキ目ハゼ科ベニハゼ属
鈴木・渋川(2004)の「ベニハゼ属の 1 種 –10
Manabe et al.(2007a, b)は鹿児島県南さつま市
Trimma sp. 10」が新種として記載され,新標準和
赤水の岩礁でオキナワベニハゼの繁殖生態を潜水
名ヒメアオギハゼが提唱された.学名 flavatrum
観察した.本種は一夫多妻の婚姻形態を有するが,
は本種の色彩に由来する(flavus= 黄色,atrum=
繁殖価を高めるために雌雄がグループ間を移動し
黒).本種は奄美大島以南の西部太平洋に広く分
て双方向の性転換を行い,グループ間を移動する
布する(Hagiwara and Winterbottom, 2007).タイ
雌は体サイズによる社会的順位を上げることで,
プ 産 地 は 奄 美 大 島. 最 大 標 準 体 長 は 23.0 mm
優位雄へと性転換する可能性を高めることが明ら
(Hagiwara and Winterbottom, 2007). 水 深 5–20 m
になった.
付近をホバリングしている(鈴木・渋川,2004).
図 25. エ リ ボ シ ベ ニ ハ ゼ.KPM–NI 5731, 標 準 体 長
18.5 mm,西表島(写真:瀬能 宏氏撮影・神奈川県
立生命の星・地球博物館提供).
図 27. オ ニ ベ ニ ハ ゼ.KPM–NI 3444, 標 準 体 長 33.0
mm,伊豆海洋公園(写真:瀬能 宏氏撮影・神奈川
県立生命の星・地球博物館提供).
オニベニハゼ(図 27)
エリホシベニハゼ(図 25)
Trimma yanagitai Suzuki and Senou, 2007
Trimma hayashii Hagiwara and Winterbottom, 2007
スズキ目ハゼ科ベニハゼ属
スズキ目ハゼ科ベニハゼ属
鈴木・渋川(2004)の「ベニハゼ属の 1 種 –11
鈴木・渋川(2004)の「ベニハゼ属の 1 種 –4
Trimma sp. 11」が新種として記載され,新標準和
Trimma sp. 4」が新種として記載され,新標準和
名オニベニハゼが提唱された.最大標準体長は
名エリホシベニハゼが提唱された.標準和名は,
36.8 mm で, ベ ニ ハ ゼ 属 で 最 大(Suzuki and
本種の鰓条骨膜上にある 1 対の黒斑に由来するも
Senou, 2007).本種は静岡県から琉球列島に分布
のと思われる.最大標準体長は 25.8 mm
(Hagiwara
する(Suzuki and Senou, 2007).鹿児島県内では,
and Winterbottom, 2007).本種は奄美大島以南の
鹿児島湾から標本に基づいて報告された.
西 部 太 平 洋 に 広 く 分 布 す る(Hagiwara and
Winterbottom, 2007).サンゴの下に生息し,窪み
の天井に逆さになって静止していることも多い.
補遺
以下の 10 種も 2007 年に報告されたが,本報告
と同様な(より詳しいが)記述が鹿児島大学総合
研究博物館 Newsletter No. 16(2007 年 3 月 20 日
発行)に掲載されているため,ここでは補遺とし
て簡単に紹介するにとどめる.なお,鹿児島大学
総合研究博物館 Newsletter は,次の URL からダ
ウ ン ロ ー ド が 可 能 で あ る(http://www.museum.
図 26.オキナワベニハゼ.KAUM–I. 7209,標準体長
24.0 mm,鹿児島県南さつま市坊津(写真:鹿児島大
学総合研究博物館撮影・提供).
32
kagoshima-u.ac.jp/publications/publications.html).
写真はすべて鹿児島大学総合研究博物館撮影・提
供.
ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
図 28.カタボシイワシ.KAUM–I. 888,標準体長 236.3
mm,南さつま市笠沙.■本種の世界最大個体.
図 34.ミナミギンガメアジ.KAUM–I. 1099,標準体長
184.8 mm,南さつま市笠沙.■鹿児島県初記録.
図 29. オ グ ロ イ ワ シ.KAUM–I. 1477, 標 準 体 長 75.4
mm,鹿児島県肝属町内之浦.■鹿児島県初記録.
図 35.イサキ.KAUM–I. 1263,標準体長 201.9 mm,南
さつま市笠沙.■色彩変異.
図 30. テ ン グ ノ オ ト シ ゴ.KAUM–I. 420, 標 準 体 長
60.3 mm,鹿児島県肝属町内之浦.■鹿児島県初記録.
図 31.タウナギ.KAUM–I. 1095,全長 423.1 mm,鹿児
島市神之川水系.■鹿児島県本土初記録.
図 36.ナミダフグ.KAUM–I. 162,標準体長 81.4 mm,
南さつま市笠沙.■鹿児島県初記録・北限記録.
図 32.クサウオ.KAUM–I. 1078,標準体長 404.9 mm,
鹿児島県獅子島沖.■鹿児島県初記録・九州南限記録.
図 37.クサビフグ.KAUM–I. 393,標準体長 274.0 mm,
南さつま市笠沙.■鹿児島県初記録.
謝辞
画像と文献を提供して下った,渋川浩一,岩槻
幸雄,瀬能 宏,木村清志,鈴木寿之,松浦啓一,
原崎 森,出羽慎一,大富 潤,真鍋尚也,中江
図 33. ス ミ ツ キ ア ト ヒ キ テ ン ジ ク ダ イ.KAUM–I.
1491,標準体長 49.7 mm,鹿児島県肝属町内之浦. ■鹿児島県初記録.
雅典に感謝する(敬称略).
引用文献
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INFORMATION
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
Nature of Kagoshima 34: 35–36
日々,北上をし,遂には,宮崎にまで達する様子
鹿児島昆虫同好会
が確認されました.南方の昆虫が飛来し,発生す
ること自体は,それ程珍しいことではありません
本会の活動概要について,報告します.
が,北上の様子がこれほど明らかに観察された事
2007 年は,真冬が意外なほど暖かく,1 月中
例はないようです.会員などによって,膨大なデー
に多くの昆虫が羽化した後,強い寒波がきて,そ
タが記録されており,2008 年発行される会誌に
の多くが死んでしまって,3 月,4 月に春型の虫
発表予定となっています.
たちの姿が少なかったことを除けば,台風の直撃
もなく,概ね平穏な年でした.
また,植物の葉を丸めてそこに卵を産み付け
ることで有名なオトシブミの寄生蜂の研究を本会
そのような 1 年でしたが,鹿児島の昆虫界の
会員の指導の下,高校生が行っています.この研
ビッグニュースとして,ゼフィルスの 1 種アカシ
究によって,普段,よく目にするこの昆虫が,精
ジミが本県で始めて採集されたことが,まず,挙
緻な自然の仕組みの中に生きていること示され,
げられます.この蝶は,北方系であり,過去,霧
感動さえ覚えました.その内容は,高校生のレベ
島の宮崎県側で,わずかな記録がありましたが,
ルを遥かに超え,修士論文に匹敵するのではない
最近は全く記録がありませんでした.そのような
かとの意見が出されていました.
ことから,迷蝶を除けば,鹿児島で新たな種類の
残念だったのが,例年行っている栗野岳のウ
追加はないと誰もが信じていましたが,梅雨の中,
スイロオナガシジミの調査が悪天候のため,中止
霧島で,本会の会員が採集しました(幸い国立公
になったことです.九州では,唯一の栗野岳のみ
園の昆虫採集禁止区域外です)
.フィールドでの
に産するウスイロオナガシジミが今後とも生息を
地道な調査の大切さを再認識させられました.
続けることを期待したいと思います.
また,従来,奄美大島まで分布していること
本会の大会(総会)ですが,2007 年 11 月 23
が知られていたイワカワシジミが屋久島で発見さ
日(金)に会員約 60 人の参加のもと,伊敷公民
れました.このことも,まだ,綿密に調査すれば
館で,盛大に開催され,1 年間の成果が披露され
追加種がでるのではないかと期待を抱かせる発見
ました.絶滅危惧種のタイワンツバメシジミの保
でした.
護,キンケビロードカミキリのまとめ,奄美大島
鹿児島発の全国ニュースとなったものとして,
のクマゼミの話など興味深い話の連続でした.ま
クロマダラソテツシジミ(図 1)の発生がありま
た,夜は楽しく懇親会が開かれました.以上,
す.本会の会員によって,南薩で本土において初
2007 年の活動概要でした.
めて採集され,次いで発生が確認され,更には,
2008 年も,以下のような活動を計画していま
す.
まず,調査会ですが,霧島の昆虫を調べるた
めの栗野岳調査会,ベッコウトンボで有名な藺牟
田池での夜間採集会などを計画しています.また,
会員専用の ML があり,会員間でホットな情報交
換を行っています.
次に,例会ですが,原則,2 月から 10 月まで,
第 1 土曜日,鹿児島市の伊敷公民館で開催します.
例外もありますので,詳細は担当までご連絡くだ
さい.会員外の参加も大歓迎ですので,虫に興味
図 1.クロマダラソテツシジミ ♀(低温期型).鹿児島
市山下町県民交流センター(庭園).熊谷信晴撮影.
のある方もしくはその関係者はふるってご参加く
ださい.また,例年どおり,11 月には,大会を
35
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
開催する予定です.
INFORMATION
ツジ,ヤマボウシ,ノリウツギ,ネジキ,リョウ
鹿児島の昆虫の現在を記録する会誌
ブ,コバノクロズル,クマヤマグミ,コツクバネ
「SATSUMA」を今年はクロマダラソテツシジミ
ウツギ,キハギ,オトコヨウゾメ,ツリバナ,コ
特集号を追加し,年 3 回発行し,会員の最新情報
バノガマズミ,ウラジロガシ,ツルニンジン,ツ
や会務連絡,書評などを掲載している連絡誌「ア
ルリンドウ,キダチニンドウ,白滝でサイゴクホ
ルボ」は年 4 回発行することとしています.
ングウシダ,ナチクジャク,ギンラン,ギンリョ
鹿児島昆虫同好会のプロフィール ウソウ,ヒュウガギボウシ,イワタバコ,タカク
昆虫との触れ合いを大切にしようとする者の
マホトトギス.
集まりである.
「身近な昆虫の記録を残す」と言
5 月:一勝地でシマバライチゴ,カノコソウ,
うモットーで 1952 年より活動している.会員数
シャク,ヒトツバイワヒトデ,ツクシカナワラビ,
約 250 名(うち県外会員 70 名弱を含む).小学生
ナンテンハギ,クマガワナンテンハギ,ツクシウ
からその家族,一般さらには大学の先生までと多
ツギ,トキワトラノオ,エビガラシダ,ヒメウラ
彩である.
ジロ,バイカウツギ,タチデンダ.
入会方法:申込書をお送りしますので,事務
局までご連絡下さい.
事務局:〒 890−0024 鹿児島市明和 4−5−32 福 田 晴 夫 方 E-mail: [email protected];
tel・fax: 099−281−1771
(熊谷信晴 〒 891−0103 鹿児島市皇徳寺台
5−32−2 E-mail: [email protected])
5 月:19–20 日第 38 回九州合同植物観察会福
岡大会(北九州:山田緑地・平尾台)に初島先生
と会員 16 名参加.
6 月:鷹ノ子岳でナンキンナナカマド,ネジキ,
リョウブ,マルバアオダモ,コツクバネウツギ,
ミサオノキ,サツマルミノキ,バクチノキ,コバ
ンモチ,ホルトノキ,カゴノキ,ヤマビワ,アオ
モジ,オオチドメ,オオバチドメ,ヤマアイ,イ
チヤクソウ,ギンリョウソウ,ハルザキヤツシロ
Nature of Kagoshima 34: 36–37
鹿児島植物同好会の活動(2007)
ラン.
7 月:鬼門平は台風 4 号で中止.
8 月:天草観察旅行は台風 5 号接近で中止.
鹿児島植物同好会は 1959 年(昭和 34 年)発
9 月:鬼門平でアオモジ,ヤマモガシ,アコウ,
足以来,昨年 12 月で毎月の観察例会が 509 回と
ギョクシンカ,ボロボロノキ,カカツガユ,クス
なった.さらに当会名誉会長初島住彦先生(鹿児
ドイゲ,オキナワシタキズル,イヌガンピ,セン
島大学名誉教授)は百一歳を元気で迎えられ,益々
ブリ,ナンバンギセル,オトギリソウ,ハエドク
お元気で植物分類の研究を継続されていた.とこ
ソウ,シロヤマシダ,コクモウクジャク.
ろが本年(2008 年)体調を崩され 1 月 22 日お亡
10 月:刀剣山でヒメムカゴシダ,コハシゴシダ,
くなりになった.謹んで哀悼の意を捧げる.会員
イブキシダ,スジヒトツバ,ヌリトラノオ,シロ
は先生のご意志を継いで鹿児島県植物目録の完成
ヤマゼンマイ,ハリガネワラビ,サイゴクホング
をめざして活動を行う計画である.
ウシダ,アマクサギ,ヤマモガシ,ギョクシンカ,
2007 年(平成 19 年)の活動は次の通りである.
カンザブロウノキ,バクチノキ,ノリウツギ,ウ
1 月:総会 1)平成 19 年の計画審議,2)スラ
ンゼンツツジ,ハリギリ,イイギリ,サカキカズ
イド発表(川邊,吉永).
ラ,ムクノキ,ウリハダカエデ,タカクマホトト
2 月:重富(白金坂入口).
ギス,ヒュウガギボウシ,イワタバコ,キリシマ
3 月:住吉池は共に雨天のため中止.
シャクジョウ,ヤッコソウ,モウセンゴケ,ナツ
4 月:鳴之尾牧場(高隈山系)では最初御岳の
エビネ,ナギラン.
中継所まで行きタカクマホトトギス,アケボノツ
36
11 月:加世田方面でタチヤナギ,ナシカズラ,
INFORMATION
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
ヤマイバラ,コクテンギ,ムクロジ,ヤマモガシ,
キイレツチトリモチ,ヌマゼリ,メハジキ,ヨモ
ギ 5 種類,ガマ,カンガレイ,ヤマカモジグサ.
12 月:桜島園山池でウラギク,チャボイ,イ
ソヤマテンツキ,ツルヨシ,ヤブハギ,ノササゲ,
サネカズラ,ベニシダ,ハチジョウシダ,海藻の
タケコケモドキ,湯之でタンキリマメ,テリハツ
ルウメモドキ,アオツヅラフジ,イズセンリョウ
等が主な観察植物であった.
当会に入会ご希望の方は下記の事務局まで問
い合わせ下さい.
(細山田三郎 〒 890–0052 鹿児島市上之園町
10–2 Tel: 099–254–1605)
魚,エビ・カニ,貝など水生生物のほか,植物,
昆虫,鳥,両生,爬虫,哺乳類,クモまで.上流
Nature of Kagoshima 34: 37–38
から河口域までの生物 835 種を網羅する総合図
鹿児島の自然ガイドの本を刊行
鑑.
◎『昆虫の図鑑 採集と標本の作り方』
出版社の看板を掲げた南方新社が鹿児島に誕
福田晴夫他著 定価 3675 円
生してから,14 年経ちました.出版活動の中で,
初心者から研究者まで一生使える昆虫図鑑.九
特に注力しているのが,鹿児島の生き物図鑑の刊
州 ・ 沖縄の身近な昆虫は,ほぼ網羅全 2097 種.
行です.
採集方法から標本の作り方まで,丁寧に説明.
生き物の図鑑は,東京の出版社からこれまで
◎『貝の図鑑 採集と標本の作り方』
もかなりの種類が出されています.それでも,あ
行田義三著 定価 2730 円
えて私たちは鹿児島発にこだわります.というの
本土から奄美群島に至る海,川,陸の貝,1049
は,東京発の図鑑は鹿児島で使えないものが多い
種を網羅.採集のしかた,標本の作り方のほか,
のです.東京の出版社は,市場を首都圏に設定し
よく似た貝の見分け方を丁寧に解説する.
ています.首都圏の生き物が中心になり,北海道,
◎『野の花めぐり 全4巻』
信州のものを加えて,という作り方です.
初島住彦監修 大工園 認著 各巻定価 2100 円
昆虫,植物,貝,魚 ……,全ての生き物の分
春編,夏編,夏・初秋編,秋・初冬編の全 4
布は,気候条件に左右されます.暖かい鹿児島で
巻シリーズ.庭先や路傍,畑の雑草から深山の希
は東京の図鑑に載っていない生き物が多く見ら
少種まで 1290 種を 1600 余枚の写真で紹介.
れ,東京の図鑑に載っている種は,鹿児島では見
◎『琉球弧・野山の花 from AMAMI』
られないということになります.
大野照好監修 片野田逸朗著 定価 3045 円
オール鹿児島の生き物図鑑.これによって初
亜熱帯気候の奄美は植物も本土とは大きく異
めて,鹿児島の生き物の名前が分かります.足元
なっている.島が好きな人にとっては宝物のよう
の多様な生き物達の存在をまず知って欲しい,心
なカラー植物図鑑が誕生.550 種類を紹介.
から願っています.これまで刊行した図鑑類を,
◎『奄美の絶滅危惧植物』
いくつか紹介します.
山下 弘著 定価 2000 円
◎『川の生きもの図鑑』
世界中で奄美の山中に数株しか発見されてい
鹿児島の自然を記録する会編 定価 3000 円
ないアマミアワゴケ他,貴重で希少な植物たちが
37
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
見せる,はかなくも可憐な姿.幻の花々全 150 種.
*そのほかの自然ガイド
◎『野草を食べる』
川原勝征著 定価 1890 円
◎『南九州・里の植物』
川原勝征著 定価 3045 円
◎『屋久島高地の植物』
川原勝征著 定価 1575 円
◎『新版屋久島の植物』
川原勝征著 定価 2730 円
◎『霧島の花』
川原勝征著 定価 1575 円
◎『日々を彩る一木一草』
寺田仁志著定価 2100 円
◎『九州・野山の花』
片野田逸朗著 定価 4095 円
*ご注文は南方新社まで.
INFORMATION
ろ言われていました.水質汚染,水路・川のコン
クリート化,特にU字溝の農業水路での使用,川
へのゴミの投げ捨てなどなど・・・.私たちは「自
分たちにやれることを何でもやってみよう!」と
アレコレ考えて本当に何でもやりました.
家庭排水を少しでもキレイにするために石け
ん洗剤を使う,調理で出た小さなゴミや食器につ
いた食べカス,食べ残し,ビールや焼酎の飲み残
しを流さない.新聞・雑誌・段ボール紙,アルミ
缶・アルミのプルタブを集めて廃品回収の益金を
活動に生かし,燃やしても有毒ガスの出ないゴミ
は家庭用焼却器で燃やし,生ゴミは可能なだけ庭
の土に埋め,もちろん川の清掃作業も・・・.地
上最大の悪性ゴミである放射能廃棄物と,スリー・
マイル島やチェルノブイリ原発事故以前から指摘
されていたその危険性ゆえに反原発運動に熱心な
会員もありました.でも,そのうち廃品回収はお
( 向 原 祥 隆 〒 892–0873 鹿 児 島 市 下 田 町
金にならなくなり,家庭焼却炉は使用禁止になり,
292–1 図 書 出 版 南 方 新 社 Tel: 099–248–5455;
生ゴミを庭土に埋めるのも限度があり・・・とす
fax: 099–248–5457; e-mail: [email protected])
べて没.生活排水への取り組みだけが続いてい
る・・・.
それらすべてが私たちが掲げる「自然を大切
Nature of Kagoshima 34: 38–40
「メダカの学校」活動について
に!」というスローガンのもとにメダカの視点か
らなされたのでした.
1993 年(平成 5 年)8 月 6 日の鹿児島市を襲っ
「甲突川にメダカがいなくなっている,どうし
てだろう?」から始まった私たち「メダカの学校」
の結成は,1990 年 5 月でした.18 年がたちました.
調べてみると,メダカは甲突川だけでなくて,
た大水害後の激特による甲突川の大改修工事.
1999 年(平成 11 年)の環境庁によるメダカの
「絶滅のおそれがある種」指定.
それらの大きな流れの中で私たちの活動で変
地方の「きっといるはずだ!」と思っていた田園
わることなく常に前向きに積極的に長期の展望を
の水路にもいなくなっていました.原因はいろい
もってなされている分校活動と休耕田利用のメダ
38
INFORMATION
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
にはホタルが見せてくれるようなロマンや美しい
光景はありません.でも,メダカたちにはメダカ
たちなりの美しい姿があり,たくましいいのちが,
そのちいさなからだの中にあります.メダカやド
ジョウなど水の中の生きものへの関心や取り組み
は,なかなかホタルへのそれのように多くの人々
の心を魅きつけにくいようです.でも,メダカや
もっとちいさなミジンコたちまで,みんなひとつ
ひとつ私にとって大切ないのちです.
私たちは今また,メダカの住む小川や池のま
わりの竹林,森林,田畑のことを考えた活動を始
めようとしています.まずは竹林がこれ以上拡
カ池,ビオ・トープづくり.志布志,加世田の久
がって行かないように,境界域の竹の伐採から始
木野小学校,喜入の一倉小学校,郡山の花尾地区
めようとしています.2, 3 年続ければ竹は拡がら
の分校それぞれに「自然を大切に!」と身近なふ
なくなるそうです.元の良い森林に戻すべく竹林
るさとの大切な自然を守る活動がなされてきてい
の整備のお手伝いから始めます.そして喜入,一
ます.メダカはその生息環境を整えてやるだけで
倉地区で始まった農業公園活動にも参加させてい
すぐに増えることがわかってきました.メダカを
ただこうとしています.
取り戻すことはまず身近なふるさとの自然を取り
いつまでたってもド素人集団のド素人的環境
戻すことにあります.メダカたちにとって住み良
保全活動で,チッポケな,取るに足らないもので
い自然環境は私たち人類にとっても住み良い自然
すが,
「メダカのコンサートや」「メダカの子ども」
環境なのです.
合唱団,そして毎年山形屋で 5 月に開催される写
メダカやドジョウ,タガメ,ゲンゴロウたち
真展なども,もっと内容を高めて一段と良い広報
39
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
INFORMATION
活動が出来るようにしていくつもりです.メダカ
喜造像などもあります.あわせてご覧ください.
と鹿児島の自然環境保全のために,またコツコツ
総合研究博物館は,暖温帯の照葉樹林帯南部
とやってみます.
「メダカの学校」
校長:松本清志 事務局長:池田博幸
(池田博幸 〒 890–0023 鹿児島市永吉 2–32–5
Tel & Fax: 099–257–8143)
に位置する南九州から,亜熱帯・暖帯「黒潮域」
である琉球列島周辺の陸海域を経て,熱帯の東南
アジアに至る太平洋西部の陸海域を研究の対象地
域としています.この地域における学術標本資料
の収集・保存とそれらの研究教育資料としての活
用を基本とする博物館を目指しています.
【主な収蔵品】
Nature of Kagoshima 34: 40–41
地学:鉱物岩石,地層コア,地層剥離標本,海
鹿児島大学総合研究博物館
底表層堆積物/化石:有孔虫,貝類,脊椎動物/
∼軌跡のとびらをひもとき,未来へとつなげます∼
動物:哺乳類,魚類,甲殻類,多毛類,昆虫,動
物剥製/植物:種子植物,シダ植物,コケ植物/
鹿児島大学総合研究博物館は,2001 年 4 月,
考古学:石器,土器ほか/人類学:歯列標本/民
省令に基づく 7 番目の国立大学博物館として発足
俗学:衣装ほか/建築学:奄美の高倉/鹿児島大
しました.総合研究博物館は学内共同教育研究施
学の教育研究史:実験機器,実験資料,卒論・レ
設として,本学の学術標本資料の収蔵,展示,公
ポートなど,映像,音響資料,地形図,地図など
開及び学術標本資料に関する教育研究の支援を行
【展示の概要】
うとともに,学内外の教育研究活動に寄与するこ
「古代からのおくりもの — 鹿大に眠る遺跡」
「機
とを目的とし,これらの整理・維持・管理,情報
器でたどる鹿大の教育研究史」
「地球のめぐみ」
「鹿
提供等を一元的に行うことを活動の重要な目標に
児島の海と生命の歴史」をテーマに展示公開を
掲げています.
行っています.また,特別展においては第 1 回「古
このような資料の数々を公開し,研究の成果
をわかりやすく伝えるため,常設展示室を 2004
年 5 月に開設しました.その特徴は,中身だけで
はなく,建物そのものも鹿児島大学の歴史を語る
大切な資料となっていることです.1928 年(昭
和 3)年に建設された鹿児島高等農学校時代の建
物を,できるだけ当時の雰囲気を残しながら改装
し,展示のためのスペースとしています(登録有
形文化財 平成 18 年 10 月 18 日登録).なお,常
設展示室のまわりには植物園,奄美の高倉,玉利
図 1.第 2 回特別展「地球からのめぐみ - 金」の展示風景.
40
図 2.第 7 回特別展「鹿児島湾の自然史」のポスター.
INFORMATION
代からのおくりもの — 鹿大に眠る遺跡」
(2001 年)
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
第 5 回学内コンサート「島唄の魅力」11 月 15
/第 2 回「地球からのめぐみ — 金」
(2002 年)
(図
日(土)15:45–16:45.唄者:内山五織(2007 年
1)/第 3 回「海と生命の歴史 — 化石は語る」
(2003
日本民謡ヤングフェスティバルグランプリ・徳之
年)/第 4 回「機器は語る — 教育と研究の百年史」
島郷土研究会会員)・佐田ますみ(2007 年日本民
(2004 年)/第 5 回「植物のビーズーおしゃれ!
謡ヤングフェスティバル決勝大会出場・平成 19
ジュズダマ」
(2005 年)/第 6 回「発掘!鹿児島
年度奄美民謡大賞特別賞).場所:郡元キャンパ
の古墳時代」(2006 年)/第 7 回「鹿児島湾の自
ス総合教育研究棟 1 階エントランスホール.入場
然史」(2007 年)(図 2)を開催しました.
無料
【2008 イベント紹介】
第 13 回研究交流会「小笠原諸島 — 海洋島の
生態系と植物」5 月 10 日(土)13:30–16:00.講師:
( 福 元 し げ 子 〒 890–0065 鹿 児 島 市 郡 元
1–21–30 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 Tel:
099–285–7257; fax: 099–285–7267)
加藤英寿(首都大学東京 助教)
・下園文雄(元東
京大学小石川植物園).場所:郡元キャンパス 総
合教育研究棟 203 号室.入場無料
第 14 回市民講座「人物はにわの考古学」7 月
5 日(土)13:30–16:00.講師:杉山晋作(国立歴
Nature of Kagoshima 34: 41–42
重富干潟の生殖群泳の観察会報告
「真夜中のランデブー観察会」
史民俗博物館 教授)
・橋本達也(総合研究博物館
准教授).場所:郡元キャンパス 総合教育研究棟
203 号室.入場無料
第 8 回公開講座「恐竜やほ乳類の化石をさわっ
て み よ う 」7 月 16 日( 土 )13:30–16:00. 講 師:
姶良町の重富海水浴場で 3 月 21 日∼ 23 日の 3
日間にわたり,ゴカイの生殖の様子を観察する観
察会を行なった.ゴカイの観察会は,全国でも類
を見ない珍しい取り組み.
仲谷英夫(鹿児島大学理学部 教授・博物館兼務
今回の観察会の主役は,汽水域で生活するヤ
教員).場所:郡元キャンパス 総合教育研究棟
マトカワゴカイである.この種は,春先(2 ∼ 4 月)
203 号室.入場無料
の大潮の夜の満潮時から約 1 時間後に,一斉に海
第 8 回自然体験ツアー「桜島の魅力 — 自然・
に泳ぎ出る「生殖群泳」という生殖方法をとる.
文化・歴史に触れる」8 月 2 日(土)13:30–16:00.
水中で放卵・放精を行い,自由受精させ,受精卵
講師:福島大輔(NPO 法人桜島ミュージアム 理
は引き潮に乗って海にでる.また,ヤマトカワゴ
事長)・東川隆太郎(NPO かごしま探検の会 代表
カイは「生殖群泳」のために,体のつくりを大き
理事)・本田道輝(鹿児島大学法文学部 准教授・
く変える.目が大きくなり,内臓は小さくなると
博物館兼務教員).場所:桜島一周.
ともに体内を卵・精子で満たしたりする.一度,
第 8 回特別展「鹿児島の活火山(仮)
」10 月
変態を行なうと二度と元には戻れないため,生殖
21 日 –11 月 21 日 10:00–17:00.場所:郡元キャン
群泳はゴカイの一生の中で最も大切な一度だけの
パス総合教育研究棟 2 階プレゼンテーションホー
イベントになる.今回の観察会では,その「生殖
ル.入場無料.鹿児島に多く存在する活火山にス
群泳」の様子を観察した.
ポットを当て,火山のしくみとめぐみについてわ
かりやすく展示します. 第 15 回市民講座「火山の不思議と魅力(仮)」
博物館の専門研究員が,ゴカイの生態や干潟
の環境維持に果たしている役割,生殖変態の話な
どを,ゴカイのことを全く知らない人にもわかる
11 月 15 日 13:30–16:00.講師:池辺伸一郎(阿蘇
ように,わかりやすく面白く解説した.初日は夜
火山博物館 館長)・成尾英仁(鹿児島県立武岡台
7 時半,2 日目は 8 時,3 日目は 8 時半より,潮
高等学校 教諭).場所:郡元キャンパス総合教育
の時間に合わせて開始した.30 分程の解説を聞
研究棟 203 号室.入場無料
いた後,実際に 1 時間近くかけて観察を行なった.
41
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
INFORMATION
次世代に子孫を残すために変態を行い,命をかけ
る.その神秘的な様子を参加者達は真剣に見つめ
ていた.
今回の参加者は,県内各地域や県外からも,毎
日ほぼ定員程度集まり総勢 50 名程度であった.
始めて見るゴカイの生殖活動の様子に,参加者は
興味津々.「最初は『気持ちが悪い』としか思え
なかったが,子どもを残すために命をかけるとい
う話を聞いて,実際にその様子を見ると,少しだ
けかわいく見えた」という主婦の方や「近くに住
んでいるけど,こんなことが行なわれているなん
て知らなかった.自然ってすごい」と話す中学生,
「釣りえさに使ってるゴカイがこんなにおもしろ
い生き物だなんてしらなかった.ぜひ周りの釣り
仲間にも教えたい」と興奮している方もいた.鹿
児島水族館の職員や海洋生物の研究を行なってい
る方々も参加してくださり,
「ゴカイが生殖群泳
を行なうことは知っていたが,このような住宅地
の真ん中で観察できるとは思っていなかった.こ
んなコアな生き物のことを,わかりやすく一般の
人々に伝えられる場所は,日本でもめずらしい.
いい体験になった.」という感想をいただけた.
観察会を主催した「重富干潟小さな博物館(環
境教育 NPO 法人くすの木自然館)」は,重富海水
浴場内の姶良町所有の海の家を手作りで改装して
作った博物館であり,くすの木自然館が町や企業
と共働で運営している.干潟の保全活動や地元住
民への環境教育の拠点として 2 年前から活動を続
けており,常設展やテーマに沿った特別展示によ
り,干潟の仕組みや浄化作用などの大切さを伝え
るための展示を行なっている.どのような方でも
42
理解できるように,様々なワークショップも取り
そろえ,小学校への出前授業や行政・一般企業の
研修会なども受け入れる.干潟を専門に研究して
いる専門研究員が常駐し,干潟の仕組みや生き物
について,丁寧に解説する.
2008 年 5 月には同施設内にカフェをオープン
する.錦江湾の美しさや生き物とのふれあい,地
域情報の発信拠点として位置づけ,美しい松林か
ら桜島や錦江湾を臨みながらゆっくりとコーヒー
を楽しんでいただける.
カフェを設置した日本で一番小さい手作りの
博物館は,環境教育や干潟の保全活動の地域の拠
点として,より多くの人々が関わるための施設を
目指している.地元の方の愛する白砂青松の海岸
がいつまでも残るような活動をこれからも続けて
行きたいと思う.
(浜本 麦 〒 899–5652 鹿児島県姶良郡姶良
町平松 7703 環境教育 NPO 法人くすの木自然館
所属 重富干潟小さな博物館 専門研究員 Tel・
fax: 0995–67–6042)
BUSINESS REPORTS
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
Nature of Kagoshima 34: 43–46
■会費の納入方法
鹿児島県自然愛護協会 2007 年度会記
同封の郵便振込用通信欄に必要事項を記入の
上,会費を納入して下さい.また,郵便局にて下
■新会誌「Nature of Kagoshima」
記の口座に直接入金されても結構です.
1962 年に発足した鹿児島県自然愛護協会は,
個人会員―会費 1,000 円.会誌冊子体 1 部と(ご
1975 年から年会誌「自然愛護」を発行してきま
希望の方は)PDF を受け取れます.また,会誌
した.2007 年 3 月に発行された「自然愛護 33」
に投稿することができます.
が最終巻となります.本誌は自然を愛護するだけ
団体会員 ― 会費 4,000 円.会誌冊子体 4 部と(ご
ではなく,生物や環境を含めた鹿児島の自然の基
希望の方は)PDF を受け取れます.また,会誌
礎データや魅力を伝える情報誌の役割がありま
に活動記録や宣伝を投稿することができます.
す.本巻から内容をより忠実に表現した「Nature
of Kagoshima(別名:カゴシマネイチャー)
」を
郵便振替口座:01790–0–89973
新会誌名とし,「自然愛護」を引き継ぐかたちで,
加入者名 :鹿児島県自然愛護協会
ここに「Nature of Kagoshima Vol. 34」を発行しま
す.なお,本巻から国際基準逐次刊行物番号(ISSN
当協会の運営は皆様の会費により成り立ってお
1882–7551)を取得しました.
ります.会費の納入をよろしくお願い致します.
「Nature of Kagoshima」は,「自然愛護」と同様
当該年以前の未納分がある個人・団体会員は,そ
に白黒印刷で冊子体が発行されます.しかし新会
の分を含めて納入をお願い致します.
誌ではフルカラーのオンラインバージョン(PDF)
も同時に発行します.一枚のきれいな写真が一
■入会案内
ページの文章より情報量が多いこともあります.
当協会に入会を希望する方は,以下の情報を記
本協会会員のみアクセスしダウンロードおよび閲
入したハガキ,ファックス,あるいは電子メール
覧できる HP を準備する予定です.本巻について,
を事務局にお送り下さい.後日振込用紙をお送り
オンラインバージョンを希望される会員は事務局
致します.
までメールでご連絡下さい.
事務局:[email protected]
①氏名(フリガナ)
②住所
■会誌バックナンバーの購入
③所属
会誌「自然愛護」のバックナンバーは,鹿児島
④電話番号
市都通り電停近くの「あづさ書店西駅店」にて販
⑤会員区分(個人か団体)
売しております.21 巻以前は品切れのため,複
⑥ファックス番号
写となります.これまでのタイトルは下記の「あ
⑦電子メールアドレス
づさ書店西駅店」HP に掲載されています.
⑧専門または関心のある分野(外部からの相談を
URL: http://www4.synapse.ne.jp/nishiekiten/
受けた際や原稿依頼に利用させて頂きます)
※①∼⑤は必修記入事項
■電子メールアドレス登録のお願い
事務局
当協会からの助成金や原稿募集,その他自然に
〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30
関する情報の案内は,通常電子メールで行います.
鹿児島大学総合研究博物館
会員のみなさまは電子メールアドレスの登録をお
鹿児島県自然愛護協会事務局 本村浩之
願いします.事務局に「氏名」を書いたメールを
Tel: 099–285–8111 Fax: 099–285–7267
送って下されば登録致します.
E-mail: [email protected]
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Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
BUSINESS REPORTS
■会員名簿(2008 年 3 月 31 日現在)
■鹿児島県自然愛護協会 2007 年度役員
個人会員(75 名)
会 長: 浦嶋幸世
青木 寛・市川敏弘・井村隆介・岩崎 保・上原
理事長: 大塚閏一
順子・上村美智雄・浦嶋幸世・大木公彦・大塚閏
理 事: 大野照好・税所俊郎・鮫島正道・ 一・大富 潤・大野照好・大野隼夫・大野正男・
田川日出夫・福田晴夫
大牟田一美・小倉 順・金井賢一・鎌宮武義・菊
監 査: 曽根晃一・船越公威
川浩行・久木田拡・櫛下町鉦敏・國崎敏廣・柊山
事務局長:本村浩之
卓也・倉重加代・桑原庸輔・上妻敏基・児島正憲・
幹 事: 藤枝 繁
小林哲夫・是枝哲郎・税所俊郎・坂元隼雄・櫻井
会 計: 日高正康
真・酒匂 猛・鮫島正道・重廣律男・四宮明彦・
志村正子・下竹原弘志・新村 健・新村則夫・鈴
■原稿募集のお知らせ
木英治・曽根晃一・高山真由美・田川日出夫・宅
「Nature of Kagoshima, vol. 35」の原稿を募集い
間友則・塚田公彦・塚原潤三・堂園嘉和・徳永修
たします.下記の投稿規定にしたがって原稿を作
治・富田克利・仲谷英夫・西井上剛資・根建心具・
成し,事務局にメールか CD でお送り下さい.締
野呂忠秀・畑田建治・八田明夫・原口百合子・東
切りは 2009 年 2 月 28 日(必着)です.裏表紙に
政能・日高正康・福田晴夫・福永敬大・藤枝 繁・
は,掲載された研究論文・総説に関わる写真が掲
二牟礼正博・船越公威・堀田 満・松井宏方・丸
載される予定です.論文を投稿される著者で,裏
野勝敏・水久保孝英・本村浩之・森田忠義・森永
表紙の候補となる写真をお持ちの方は,投稿時に
満郎・森脇 広・柳田一郎・山中有一・山本智子・
写真もお送り下さい.裏表紙用の写真が複数投稿
和田修作(五十音順)
された場合は,事務局の判断で掲載の可否を決定
致します.
団体会員(23 団体)
大隅の照葉樹林を世界遺産にする会・鹿児島県環
■表紙写真の募集
境技術協会・鹿児島県地学会・鹿児島県天文協会・
Nature of Kagoshima は,毎年会誌の表紙写真が
鹿児島県ホタルを育てる会・鹿児島昆虫同好会・
替わります.鹿児島の自然や生物の写真で,表紙
かごしま市民環境会議・鹿児島植物同好会・鹿児
を飾るにふさわしいカラー写真を募集致します.
島大学総合研究博物館・鹿児島渚を愛する会・環
JPEG か TIF 形式で保存した高解像度のデジタル
境教育 NPO 法人くすの木自然館・環境省屋久島
写真に,400 字程度の解説を付けて,2009 年 2 月
自然保護官事務所・クリーンアップかごしま事務
1 日までに事務局にお送り下さい.複数の応募が
局・クレインパークいずみ・斯文堂(株)・住友
あった場合,事務局で掲載の可否を決定致します.
金属㈱菱刈鉱山・川内砕石(ガイアテック)・ダ
イビングサービス海案内・南方新社・メダカの学
■投稿規定
校・屋久島自然案内「森と海」・(有)屋久島野外
本文や引用文献の体裁は自由ですが,Nature of
活動総合センター・屋久島ヤクタネゴヨウ調査隊
Kagoshima の最新巻を参考に,以下の点に留意し
(五十音順)
て原稿の作成・投稿を行って下さい.
①数字や英語はすべて半角で入力して下さい.
会員名簿へお名前の掲載を希望しない個人会員
②文章は MS Word あるいは一太郎で作成し,表
の方は,事務局へご連絡下さい.
は別ファイルで上記ソフトを使用して作製して下
さい.
③図や写真は高解像度の JPEG か TIF(最低でも
300 dpi,幅 10 cm 程度)で保存し,文章ファイル
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BUSINESS REPORTS
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
には組み込まずに,個別に送付して下さい.
紙に印刷された別刷り(白黒)は論文の頁数に関
④本文は原則日本語です.著者の氏名,住所・所
わらず,50 部単位で以下の金額で購入すること
属,論文タイトルは,日本語と英語の両方を記入
が可能です.購入希望者は,原稿の投稿時に事務
して下さい.英語のタイトルは,依頼により事務
局へご連絡下さい.なお,会誌出版後の別刷りの
局で作成します.
注文(追加注文を含む)はできません.
⑤原稿,図,表はすべてデジタルで投稿願います.
別刷りは,私費,公費のどちらでも購入が可能
スキャンする必要がある図については,事務局で
です.別刷りは,会誌出版後に斯文堂株式会社よ
デジタル化を代行しますので,ご連絡下さい.
り直接著者に郵送されます.支払い方法の案内(例
⑥個人投稿の場合,1 論文あたりの頁数に制限は
えば,公費で注文した場合は,見積り・請求・納
ありません.印刷で 4 頁までが無料で,5 頁目か
品書)が同封されていますので,案内にしたがっ
らは 1 頁ごとに 3000 円の超過頁掲載料が必要で
て,入金をお願い致します.
す.団体会員による投稿の場合は,1 頁が無料で
す.
印刷別刷り金額表
050 部 5000 円
■別刷り
100 部 6000 円
研究論文や総説を投稿した個人会員には,各論
150 部 7000 円
文の PDF 別刷り(カラー)を無料でお送りします.
200 部 8000 円
45
Nature of Kagoshima Vol. 34, Mar. 2008
BUSINESS REPORTS
編集後記
最近は専門家にとどまらず,一般国民のレベルで自然環境に対する関心が急速に高まっています.鹿児
島県自然愛護協会の会誌は,地域に根ざした自然環境情報誌として,今後ますます期待される存在になる
と思います.そんな中,人から自然環境へのやや一方的なニュアンスを含む旧会誌名の「愛護」には,個
人的に違和感を感じていました.新会誌は,より広く一般的に親しみ易い客観的な会誌名になったと思い
ますし,地域に根ざした雑誌として「鹿児島」という言葉を入れられたことをうれしく思います.長年続
いてきた「自然愛護」という会誌を「Nature of Kagoshima」に変更するのは難しい決断でしたが,役員内
でも反対意見はなく,比較的スムーズに新会誌を発行することができました.大きな変更には常に賛否両
論が付きまといますが,会員のみなさまには,今後改正すべき点などを遠慮なく私にご連絡いただければ
と思います.
会誌の発行はすべて会費によって賄われています.今年から会員へ連絡は原則電子メール,会誌の編集
作業(DTP)は事務局で行い,経費の削減に努めています.削減分の経費を会誌の充実(印刷頁数の増加)
にあてた結果,今回は 46 頁の会誌を発行することができました.内容が充実した 50 頁前後の会誌を毎年
発行するためには,会員の積極的な投稿に加え,会員数の飛躍的な増加が必要です.会員のみなさまには,
今後も会の運営にご協力よろしくお願い致します.
(事務局長 本村浩之)
Nature of Kagoshima Vol. 34
カゴシマネイチャー 34 巻
2008 年(平成 20 年)3 月 31 日 発行
編集者 本村浩之
〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30
鹿児島大学総合研究博物館内
鹿児島県自然愛護協会事務局
TEL: 099–285–8111 FAX: 099–285–7267
発行者 鹿児島県自然愛護協会
印刷所 斯文堂株式会社
〒 891–0122 鹿児島市南栄 2–12–6
TEL: 099–268–8211 FAX: 099–269–5198
© 鹿児島県自然愛護協会 2008 ISSN 1882–7551
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