動物の殺処分について‐殺処分を減らすには‐ 櫨木憂香 1.はじめに 人間にとって、ペットとは何か。犬や猫の多くは家族の一員として迎えられ、家族に愛 されながら一生を終える。しかし、実際には目を背けたくなる現実が広がっている。捨て 犬(猫)、野良犬(猫)、迷い犬(猫)。これらの犬や猫は人間に捕獲され、 「動物管理センター」 (自治体によって名称は異なる)では何の罪もない多くの犬や猫が殺処分されている。本稿 では、殺処分の現状と問題、日本と世界の取り組みを比較し、殺処分を減らすためにどう すればよいかについて述べる。 2.殺処分の現状と問題 殺処分の方法の多くは二酸化炭素による窒息死であり、安楽死ではない。犬たちはステ ンレスに囲まれたボックス(Dream box)で殺処分される。異変を感じて吠える犬、尻尾を振 って奥へ進む犬、震えながらあたりを見回す犬、反応はそれぞれ違う。すべての犬が収容 されると、スイッチが押され二酸化炭素が注入される。ボックスの中からは犬たちが必死 に抵抗しようともがき、その後苦しみながら死んでいくのである。 平成 23 年度の環境省自然環境局 HP によると年間殺処数は約 17 万頭に及ぶ。以前と比べ るとずいぶん殺処分の件数は減ったが、現在も多くの尊い命が奪われていることに変わり はない。(平成 16 年度 約 40 万頭) (地球生物会議 ALIVE より) そもそもなぜ殺処分が行われるのか。神奈川県動物愛護協会によると、現状として各自 治体に持ち込まれる動物をすべて譲渡することは非常に困難なことであり、人を咬んだ犬 や生まれて間もない猫などにおいては、担当職員が譲渡を行える状態まで飼育するのが非 1 常に難しいためとしている。また、急に引っ越すことになったり、去勢手術を行わなかっ たペットが出産したりして、生まれて間もない子猫を自分で新しい飼い主を探すことなく 保健所に持ってくる飼い主がいる。このように殺処分は人間の身勝手な行動によって行わ れていると言っても過言ではない。一方、行政は何もしていないわけではなく、新しい飼 い主への譲渡が少しでも多く行えるよう努力している。 3.日本での取り組み‐熊本県動物愛護センター‐ 日本の殺処分の現状を変えようといち早く行動したのが、熊本県動物愛護センター(旧熊 本県動物管理センター)である。この施設の取り組みをいくつか紹介する。 第一に、迷子になったペットの飼い主への返還率を上げるために保護動物の公開資料に 写真をつけたことである。公開資料に写真をつけることで、飼い主が迷子になったペット を探しやすいような環境を整えたのである。また、「写真で出ていた犬を引き取りたい」と いうような予想外の反響もあったそうだ。 第二に、殺処分希望の飼い主への対応はすべて獣医師が行うようにしたことである。専 門の知識があれば、説得するときに優位に立ちやすく、本当に困っている飼い主には飼い 続けるために必要な情報を提供できる。 最後に、譲渡前講習会の開催である。これは、里親探しイベントの参加者を対象に、飼 い主としての責任を自覚してもらうため、センターでの動物の生活や殺処分の映像の上映 を行うものである。本当のことがそのまま伝えられるため、講習会では涙が絶えない。し かしこの講習会は「かわいそうという気持ちだけで飼って欲しくない」というセンター職 員からの強いメッセージ性が込められているのである。 このようにセンター職員の努力の甲斐あって、犬や猫の生存数は 21%(2001 年)から 92% (2010 年)に大幅に上昇した。このような取り組みはその後全国へと広がり、現在では鹿児 島県でも殺処分をゼロにするための積極的な活動が行われている。 4.世界の取り組み‐ドイツ‐ 世界には動物の殺処分を行わない国が存在する。その代表的な国としてドイツが挙げら れる。ドイツでは動物の権利が憲法で保障されており、日本が殺処分を減らすために見習 うべき点が多くある。 第一に、ドイツには「動物の家」とよばれる施設が国内に 500 ヵ所以上存在する。殺処 分施設はなく、民間のボランティアの手で国民の寄付により運営されている。 第二に、ペット税(犬税)である。犬を飼うことが多いドイツで、犬の数をコントロール することで、犬の数が爆発的に増えるのを防ぐことが目的である。徴収金は一匹 108 ユー ロ(約 12,700 円)、二匹目以降(約 20,500 円)となっている。 第三に、迷子対策のための動物登録である。これはいわゆる「迷子札」であり、動物保 護連盟にマイクロチップによる登録をしておくことによって、ペットが迷子になった際に 2 24 時間体制で捜索してもらえるものである。 他にも動物実験の規定や犬の法律など動物に関する規定が非常に厳しい国である。この ように、動物の権利が国で保障されているからこそ、殺処分ゼロという難しい問題をクリ アできているのではないだろうか。殺処分ゼロを可能にしている国があるならば、日本で も殺処分ゼロは不可能ではないはずである。 5.結論‐殺処分を減らすために‐ 以上殺処分の現状と問題、そして日本と世界の取り組みについて述べた。殺処分をゼロ にするのは簡単なことではない。しかし、殺処分ゼロを可能にしているドイツの例から、 殺処分をゼロにすることは不可能ではないことがわかった。日本において、殺処分が行わ れる理由として第一に挙げられるのは、やはり飼い主の意識の低さである。去勢手術を行 わない、しつけ不足によるトラブルなど、飼い主がペットを飼うことの責任を認識せずに 飼育し、不要になると保健所へ連れてこられる犬や猫がいる。ペットを飼う際は、「終生飼 育」、すなわちペットの一生を背負う覚悟で飼うべきである。そのために、ペットの妊娠を 望まない場合は去勢手術を必ず行うよう、法制化するべきだと考える。さらに、迷子犬や 迷子猫が保健所で保護され、殺処分される現状から、ドイツの「迷子札」の導入を有効活 用するべきだと考える。 「迷子札」の導入によって飼い主のもとへ帰れるペットは確実に増 えるだろう。そして、新しい飼い主を待っている保健所の犬や猫のために、里親探しのイ ベントを多く開催し、もっと多くの人に里親探しイベントに参加してもらうよう、働きか けるべきである。殺処分に安楽死など存在しない。殺処分をゼロにするために、私たちひ とりひとりの意識改革が必要である。 6.おわりに 動物の殺処分について深く調べていく中で、目を背けたくなる現状や問題を知り、ペッ トを飼うという責任の重さを改めて感じることができた。ペットを飼うならば、やはりこ のような悲惨な現状やペットを飼うことの責任を感じるべきである。これからも、殺処分 を減らすための取り組みについて調べていきたい。 参考文献 ・片野ゆか(2012) 『ゼロ!こぎゃんかわいか動物がなぜ死なねばならんと?』集英社 ・コトバンク(2012.11.20) http://kotobank.jp/word/%E6%AE%BA%E5%87%A6%E5%88%86 ・環境省自然環境局 HP(2013.11.13) http://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/index.html ・公益財団法人 神奈川県動物愛護協会(2013.11.13) http://www.kspca.jp/ 3 ・子犬のへや(2013.11.23) http://www.koinuno-heya.com/index.html ・鹿児島市HP(2013.11.23) http://www.city.kagoshima.lg.jp/ ・殺処分ゼロ 鹿児島(Facebook)(2013.11.23) https://www.facebook.com/zerokagoshima ・ボランティアグループ わんにゃんハート(2013.11.23) http://www.wannyanheart.com/ ・鹿児島動物愛護HP(2013.12.10) http://dogcat.pref.kagoshima.jp/ ・地球生物会議 ALIVE HP(2013.12.10) http://www.alive-net.net/index.html 4
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