発達障害児の早期発見と 5歳児健診 国立成育医療センタークリニカルアドバイザー Rabbit Developmental Research 東京大学大学院医学系研究科 平岩 幹男 発達障害というあいまいな障害 診断自体の成熟度が低い 「発達 も「障害 ももともとある言葉だが 「発達」も「障害」ももともとある言葉だが 結びつけると意味が異なる もともとの発達障害は「知的障害」 それでも対応が必要な人たちがいて増えている 医学的対応だけでは社会的困難は解決できない いつから診断されるようになったか ADHDは →1970年代は微細脳損傷(MBD) →1980年代は多動症候群、注意喚起障害 →1990年代に入ってからADHDの診断基準 1990年代に入 てからADHDの診断基準 高機能自閉症は 機 →1970年代のAsperger症候群の再発見 →1980年代から知的障害のない自閉症 →1990年代後半から高機能自閉症 なぜ問題になってきたか 従来の学籍の区分けは →通常学級 特別支援学級 特別支援学校 →通常学級・特別支援学級・特別支援学校 従来の区分けは身体障害を除いて知的レベル を中心として分けられていた しかし知的障害がないにもかかわらず、学校で 「うまくゆかない」子どもたちがいる しかもその数は増加している 対処しないと学校経営・学級経営に影響する なぜ増加しているか 遺伝子だけでは解決できない 診断基準ができて診断されるようにな た 診断基準ができて診断されるようになった →社会不安障害のように コミュニケーション障害という考え方 大人も子どももキレル 言語的/非言語的なコミュニケーションの低下 良い子の社会基準が変化してきた 実のところは「わからない」 発達障害支援法 平成17年4月1日より施行 発達障害の定義 発達障害 定義 自閉症、Asperger症候群とその他の広汎性発 達障害 学習障害 注意欠陥・多動性障害 達障害、学習障害、注意欠陥 多動性障害、そ そ の他これに類する脳機能の障害であって、そ の症状が通常低年齢において発現するもの 発達障害支援法:続き 国および地方公共団体の責務 発達障害の症状の発現後に早期に発達支援 を行う(就学前、学校、就労) 市町村の責務 乳幼児健康診断、学校健診で早期発見に努め る 発見した場合には適切な支援を行う る。発見した場合には適切な支援を行う 教育 発達障害児が年齢 能力 障害の状態に応じ 発達障害児が年齢、能力、障害の状態に応じ て適切な教育支援、支援体制の整備を行う 発達障害 ASD(Autism spectrum disorder)自閉性障害 →自閉症およびその周辺 び →高機能自閉症(Asperger障害を含める) p g ADHD (Attention Deficit/Hyperactivity disorder) 注意欠陥・多動性障害 学習障害 子どもたちの4~6%を占めるという説も 発達障害 発達障害 歩けない 話せないではない! 歩けない、話せないではない! 発達の過程で明らかになる行動やコミュニ ケ シ など 障害 ケーションなどの障害で、根本的な治療は現 根本的な治療は現 在ではないが、適切な対応により社会生活上 の困難は軽減される障害 したがって発達そのものの障害ではない 発達障害 共通→自己肯定感(self-esteem)の障害 ADHD→自己コントロールの障害 高機能自閉症 →非言語的コミュニケーションの障害 学習障害→特定の高次脳機能の障害 その他の発達障害→特殊な形もある これらはしばしば合併する ば ば 高機能自閉症と Asperger症候群、障害 アメリカ精神医学協会 DSM-Ⅳ-TR 広汎性発達障害(PDD)の中のAsperger障害 →分類不能のPDDが多くなる 国際疾病分類 ICD-10 PDDの中のAsperger症候群 p g →非定型自閉症が多くなる 高機能自閉症 →自閉症スペクトラムという考え方から 高機能自閉症とADHDの間 ADHDと高機能自閉症における連続性 →両方の側面を持つ場合は少なくない →高機能自閉症+不注意型ADHDは かなり多い 学習障害(LD)の合併 学 障害 →高機能自閉症、ADHDに合併することも 少なくない 診断はあくまで入り口 発達障害では診断はあくまで入り口 →しかし「診断」で終わっていることがある 抱えている「社会生活上の困難」「将来目標」 のために何ができるか 医療だけではなく 家族 学校などとの連携も 医療だけではなく、家族、学校などとの連携も 重要・・そうしないと対策が立てられない だから非常に時間と手間がかかる 疑っても診断の出来るところは少ない 疑ったときにどうすれば良いのか 通常の巡回相談では対応 受診の指示のみ 通常の巡回相談では対応、受診の指示のみ →診断は出来ない 発達障害の診断が可能である医療機関はき わめて少ない わからないときに「様子を見ましょう」「この子 の特性」などといわれてしまう危険性がある フォローアップの出来るところはもっと フォロ アップの出来るところはもっと 少ない きちんとした診断も難しいが、それに基づく きちんとした対応の指示 相談 カウンセリン きちんとした対応の指示、相談、カウンセリン グ、トレーニングのできるところは少ない だからといって「目の前にいる問題を抱えた 子」を放置できない 薬剤を使わない治療には医療機関は消極的 継続しての支援は公的機関も消極的 民間の個別指導は高額 乳幼児健診は世界一 すべての子どもに対する確立された健康評 価を行なっている国 地域は少ない 価を行なっている国・地域は少ない (対策としての予防接種など健康支援はあ る) 乳幼児健診のニーズは社会的背景に影響 →疾患や障害の早期発見・早期対応 疾患や障害の早期発見 早期対応 →総合的子育て支援の一環(虐待も含めて) 子どもたちが安全に育っていけるように →社会体制の整備と個別支援の整備 発達障害と乳幼児健診 ADHD 自閉症 高機能群 学習障害 4か月児健診 - - - - 1歳 6か月健診 3歳児健診 歳児健診 - 可能 - - ? 発見 一部可能 部可能 - 遅い 大半可能 - 5歳児健診 多動 衝動型 4か月では発達が見えてくる 頚が坐ってくる 目を見合わせる じ と見 める 目を見合わせる、じっと見つめる 1日のリズムが出来てくる 理解できる表情が出てくる 理解できる要求が出てくる 自分の子が一番かわいいと思っている 4か月健診 問診→身体計測→内科診察→ブックスタート 1歳6か月では発達が質的変化 歩行の獲得 目の位置が高くなる 腹式呼吸から胸式呼吸へ 言葉を媒介としたコミュニケ ションの芽生え 言葉を媒介としたコミュニケーションの芽生え 非言語的なコミュニケーションの習得 微細運動が可能になる(積み木を積むなど) 道具を使う 乳臼歯が生えてくる 1歳8か月健診 歳 か月健診 問診→身体計測→内科診察→歯磨きチェック→歯 科診察 1歳6か月児の言葉 1歳6か月で単語5個以上 →女児では90%以上 →男児では85%程度 コミュニケーションは「言語」と「非言語」 →この年齢では非言語的部分が重要 →非言語部分は評価しにくい →したがって言語的な部分での評価が多い 3歳では発達が社会的変化 家族以外の人間とのつながりができる →子ども同士の関係や知らない人への対応 言語によってコミュニケーションを図る してはいけないこと、ほめられることがわかる 自我の意識が出てくる 社会的欲求(外出、新しいおもちゃなど)が出る 好き嫌いがはっきりし、主張するようになる 3歳児(3歳6か月)健診 検尿→問診→眼科→歯科→計測→内科→聴力→耳鼻科→説明 3歳児における扱いにくさ 指示を出したときに(コミュニケーションが取れない) →指示に従うことができない →指示を理解することが十分にできない 指示を理解する とが十分に きな →指示そのものが入らない 集団でいるときに →一人でとびだしてしまう → 人だけ別のことをしている →一人だけ別のことをしている →かたまってしまう 行動を起 す き 行動を起こすときに →順番が待てない →行動のスタートが切れない 5歳児健診 発達障害の早期発見のために5歳児健診が 提唱され、開始され始めた 鳥取を始めとして栃木や埼玉などでも行われ ている。東京都でもパイロットスタディ開始 しかし発達障害を適切に診断し、フォローにつ なげてゆくための方策は確立していない 専門の医師やトレーニングされた専門家も少 ないので ただ健診だけを行うことは問題 ないので、ただ健診だけを行うことは問題 5歳児健診の風景 5歳児健診:発達障害 460人が受診し 自閉性障害(ASD)の疑いが7名(1 5%) 自閉性障害(ASD)の疑いが7名(1.5%) ADHDの疑いが6名(1.3%、全員が男子) 軽度の精神遅滞疑いが3名(0 7%) 軽度の精神遅滞疑いが3名(0.7%) 表出性言語遅滞などが2名(0.4%)に見られた 社会生活上の困難が重大ではなかったり、 保護者の認識の問題から、介入は必ずしも 容易ではない 5歳児健診は拡大すべきか? 子どもたちに健診の機会が増えることは大切 ただし発達障害だけではない →肥満、低身長、6歳臼歯 発達障害の診断ができる社会資源が少ない →過剰診断、過小診断が少なくない 診断だけではなく、適切なフォローが必要 →実際に「難民」が発生している ただ行なうだけでは「有効な効果」は少ない 自閉症および そ 周辺 その周辺 乳幼児健診との関連も含めて しゃべらない 知的障害、自閉症、難聴、表出性言語遅滞 運動発達の遅れにも注意する 動発 す 理解も遅れている場合には要注意 非言語的 ミ ニケ シ ンの評価 非言語的コミュニケーションの評価 模倣動作の評価 言葉が出ない:チェックしよう 非言語的コミュニケーションの評価 →視線が合うか →表情の意味が理解できるか →感情を表現できるか、指差しができるか 感情を表現できるか 指差しができるか 理解の評価 →言語理解(指示)の評価 →動作理解の評価 →動作模倣の評価:クレーンも含めて 言葉が出ない:対応 知的障害 →通所施設での療育(生活習慣の獲得) 難聴 →補聴器、人工内耳、教育的支援 自閉症 →従来は知的障害と同様に扱われていた 表出性言語遅滞 →言語獲得のための療育 自閉症(Autism: autosから由来) 1943年 Leo Kanner →自閉的孤立 →同一性保持への欲求 1994年 アメリカ精神医学協会(DSM-Ⅳ) →社会的相互作用の質的な障害 →コミュニケーションの質的な障害 →限定された活動や興味 自閉症(Kanner) 多くは言葉のおくれがきっかけで発見される わが国では3歳児健診での疑いが 多いとされている・・それでは遅い? 従来は、難聴を除いて言葉のおくれは知的な 遅れによるものと考えられており 介入は積極 遅れによるものと考えられており、介入は積極 的ではなかった 自閉症での療育の可能性が出てきた →最近の10年間、特に5年 自閉症は増加している 30年前には自閉症の頻度は数千人に1人 →現在では100 150人に1人 →現在では100~150人に1人 知的障害のない群が約70% 従来の自閉症は300 400人に1人 従来の自閉症は300~400人に1人 なぜ増えているのか →診断ができるようになった →遺伝子の問題 →環境の問題(メディアを含む) →良い子の基準が変わってきた 自閉症スペクトラム障害 自閉症の3つ組み 社会性の障害 コミュニケーションの障害 想像力の障害 これらは知的能力を問わず、社会生活を送る れ 知的能力を問わず、社会 活を送る 上での困難をもたらしている 知的障害のない群を高機能ASDとする →知的障害のある群を低機能とは言わない 操作的診断の問題:自閉症 DSM-Ⅳ-TRでは2歳の自閉症は診断困難 →ほとんどは知的な遅れと診断される →操作的診断で可能なのは4歳? しかし慣れていれば2歳でも診断できる? →言葉の遅れ、常同行動、クレーン →視線が合わない、表情の変化が少ない →感覚過敏がある →協調運動に問題がある 続いている誤解 言葉が出ないのは難聴でなければ知的障害 →知的障害は治らない 自閉症も言葉が出なければ知的障害 →それらは治らない だから自閉症は治らない →療育は知的障害と一緒 自閉症療育は変化してきた →集団療育だけではなく個別療育も 広汎性発達障害から 自閉症スペクトラム障害へ アメリカ精神医学協会(DSM-Ⅳ)WHO(ICD-10) いずれもPervasive Developmental Disorder (PDD)として自閉症グループが扱われてきた 自閉症では症状や知能に連続性がある 自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum p Disorder: ASD)という概念の誕生 現在はPDDよりもASDという表現が多くなった 言語的なコミュニケーションが見られ 言語的なコミュニケ ションが見られ ないときの療育 TEACCH(Treatment and Education for Autistic and related Communication handicapped Children) ABA(Applied Behavior Analysis:応用行動分析) DTT(Discrete trial Training ) PECS (絵カード交換システム) (絵カ ド交換システム) VB (Verbal Behavior) HAC (Home program for Autistic Children) TEACCH(わが国は主に集団) 自閉症や関連する障害を抱える子どもに対す る対応と教育 簡単に言えば環境と対応の構 る対応と教育。簡単に言えば環境と対応の構 造化、わかりやすい道筋を提示して行動を導く、 わかりやすい環境にするなど 物理的構造化 スケジ スケジュールの視覚化 ルの視覚化 ワークシステム 視覚的構造化 構造化 物理的な環境を整える →他に目が行かないように囲う →なるべく分岐点を作らない 課題のスケジュールを作る →並行処理をしないですむように →あらかじめ予期できるように 視覚的に表示する →聴覚入力よりは視覚入力が得意 自閉症の個別療育 行政は集団療育を勧めている →個別療育の社会資源を持たない →個別療育そのものを知らない TEACCH →アメリカで始まり、世界に広がっている →わが国では主に「集団療育」で使用される ABA(DTT, VB) →アメリカで始まり、現在の個別療育の主流 アメリカで始まり 現在の個別療育の主流 個別療育 行政は集団療育を勧めている →個別療育の情報と社会資源を持たない TEACCH →アメリカで始まり 世界に広がっている →アメリカで始まり、世界に広がっている しかしわが国では集団への応用が中心 ABA →アメリカで始まり、現在の個別療育の主流 北米などでは公費負担も始ま ている 北米などでは公費負担も始まっている ABAという介入方法 ABAにはいくつかの方法がある →DTT PECS, →DTT, PECS VB もっとも一般的なのはDTT(Lovaas法) 行なう段階を細かく分けて、望ましい行動を 階 細 強化し、望ましくない行動を消去することで個 人の能力を伸ばす ば 最初は机上課題で指示の理解や模倣 自閉症でも時に思いがけないほど有効 ABA(DTT)の3要素 強化子による訓練 →強化子に最初食物を使うことがある プロンプトによる促進 般化による社会適応 スモールステップで、望ましい行動を増やし、望 ましくない行動を強化する 支援より理解を 発達障害は珍しい障害ではない わが国ではとかく「支援 が強調される わが国ではとかく「支援」が強調される 発達障害を抱える子 もたち 困難は決し 発達障害を抱える子どもたちの困難は決して 同じではない・・ひとりひとり異なる まずは何に困っているかを「理解」すること それに対して「何をするか」を考えること 行政に出来ることは決して「少なくはない」
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